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特開2023-35176重合体、低誘電基板用組成物、硬化物、及びそれを用いた電子機器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023035176
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】重合体、低誘電基板用組成物、硬化物、及びそれを用いた電子機器
(51)【国際特許分類】
   C08F 20/20 20060101AFI20230306BHJP
   C08F 2/38 20060101ALI20230306BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20230306BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20230306BHJP
   H01B 3/30 20060101ALI20230306BHJP
【FI】
C08F20/20
C08F2/38
C08K3/013
C08L101/00
H01B3/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】24
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021141814
(22)【出願日】2021-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】311002067
【氏名又は名称】JNC株式会社
(72)【発明者】
【氏名】藤田 幸宏
(72)【発明者】
【氏名】藤原 武
(72)【発明者】
【氏名】佐郷 弘毅
【テーマコード(参考)】
4J002
4J011
4J100
5G305
【Fターム(参考)】
4J002BG021
4J002BG071
4J002DE076
4J002DE106
4J002DE136
4J002DE146
4J002DF016
4J002DJ016
4J002DK006
4J002FD016
4J002GQ00
4J002GQ01
4J011NA25
4J011NB02
4J011NB05
4J100AL66P
4J100BA02P
4J100BC04P
4J100BC43P
4J100BC44P
4J100CA01
4J100CA23
4J100DA00
4J100DA01
4J100DA04
4J100DA57
4J100JA43
4J100JA44
5G305AA06
5G305AB10
5G305AB36
5G305BA13
5G305BA18
5G305CA13
5G305CA31
5G305CA35
5G305CA38
5G305CA51
5G305CB02
5G305CB04
5G305CB07
5G305CB15
5G305CB22
5G305CC02
5G305CC03
5G305CC04
5G305CD01
(57)【要約】
【課題】 高周波数化が進む次世代通信機器や、レーダー等に好適に用いることが可能な、低誘電性と良好な基板成型性とを有する低誘電基板用組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】 共役や極性基が少なく、分子の直線性や対称性が高い重合性基を有する液晶化合物からなる低誘電基板用重合体をプレポリマーとして用い、該プレポリマーを含む組成物を硬化させることにより、従来の低誘電基板用樹脂以上の低誘電性と良好な基板成型性を示す重合体を実現できる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表される、末端に重合性基を有する液晶化合物を重合されてなる重合体。

1a-Z-A-Z-A-(Z-Am1-Z-R1b (1)

式(1)中、
、A、およびAは独立して、1,4-シクロヘキシレン、1,4-シクロヘキセニレン、1,4-フェニレン、ビシクロ[2.2.2]オクト-1,4-ジイル、ビシクロ[3.1.0]ヘキス-3,6-ジイル、またはフルオレン-2,7-ジイルであり、これらの環において、少なくとも1つの-CH-は-O-で置き換えられてもよく、少なくとも1つの-CH=は-N=で置き換えられてもよく、少なくとも1つの水素は、ハロゲン、または少なくとも1つの水素がハロゲンで置き換えられてもよい炭素数1~10のアルキルであり、このアルキルにおいて、少なくとも1つの-CH-は、-O-、-CO-、-COO-、-OCO-、または-C=C-で置き換えられてもよく;
、Z、Z、およびZは独立して、単結合または炭素数1~22のアルキレンであり、このアルキレンにおいて、少なくとも1つの-CH-は、-O-、-S-、-CO-、-COO-、-OCO-、-SO-、-CH=CH-、-CF=CF-、-CH=N-、-N=CH-、または-N=N-で置き換えられてもよく、少なくとも1つの水素はハロゲンで置き換えられてもよく;
m1は、0、1、または2であり、
式中に、ZまたはAが複数ある場合は、それらが同一であっても異なっていてもよく、
1aおよびR1bは独立して、式(PG-1)~(PG-6)で表される重合性基から選択される基であり、

式(PG-1)~(PG-6)中、Rは、水素、ハロゲン、-CF、または炭素数1~5のアルキルであり、qは0または1であり、式中にRが複数ある場合は、それらが同一であっても異なっていてもよい。
【請求項2】
式(1-1)、式(1-2)、及び式(1-3)からなる群から選ばれる少なくとも一つで表される末端に重合性基を有する液晶化合物を重合されてなる請求項1に記載の重合体。

1a-Z-A-Z-A-Z-R1b (1-1)

1a-Z-A-Z-A-Z-A-Z-R1b (1-2)

1a-Z-A-Z-A-Z-A-Z-A-Z-R1b (1-3)

式(1-1)~(1-3)中、
、A、およびAは独立して、1,4-シクロヘキシレン、少なくとも1つの水素がハロゲンまたは炭素数1~10のアルキレンで置き換えられてもよい1,4-フェニレン、ビシクロ[2.2.2]オクト-1,4-ジイル、ビシクロ[3.1.0]ヘキス-3,6-ジイル、少なくとも1つの水素がハロゲンまたは炭素数1~10のアルキレンで置き換えられてもよいフルオレン-2,7-ジイルであり、
、Z、Z、およびZは独立して、単結合、-(CH-、-O(CH-、-(CHO-、-O(CHO-、-COO-、-OCO-、-CH=CH-COO-、-OCO-CH=CH-、-(CH-COO-、-OCO-(CH-、-CH=CH-、-SO-、-OCF-、または-CFO-であり、ここで、aは1~20の整数であり、
式中に、ZまたはAが複数ある場合は、それらが同一であっても異なっていてもよく、
1aおよびR1bは独立して、式(PG-1)、(PG-5)、または(PG-6)で表される重合性基であり、

式(PG-1)、(PG-5)、および(PG-6)中、Rは、水素、ハロゲン、-CF、または炭素数1~5のアルキルであり、qは0または1であり、式中にRが複数ある場合は、それらが同一であっても異なっていてもよい。
【請求項3】
式(1-1-1)、式(1-1-2)、及び式(1-1-3)からなる群から選ばれる少なくとも一つで表される、末端に重合性基を有する液晶化合物を重合されてなる請求項1または2に記載の重合体。


式(1-1-1)~(1-1-3)中、
、ZおよびZは独立して、単結合、-(CH-、-O(CH-、-(CHO-、-O(CHO-、-COO-、-OCO-、-CH=CH-COO-、-OCO-CH=CH-、-(CH-COO-、-OCO-(CH-、-CH=CH-、-SO-、-OCF-、または-CFO-であり、ここで、aは1~20の整数であり、
Xは、フッ素またはメチルであり、
nは、0~4の整数であり、
nが2以上であるときを含み、式中のXが複数ある場合は、それらが同一であっても異なっていてもよく、
1aおよびR1bは独立して、式(PG-1)、(PG-5)、または(PG-6)で表される重合性基であり、

式(PG-1)、(PG-5)、および(PG-6)中、Rは、水素、ハロゲン、-CFまたは炭素数1~5のアルキルであり、qは0または1であり、式中にRが複数ある場合は、それらが同一であっても異なっていてもよい。
【請求項4】
式(1-2-1)~(1-2-6)からなる群から選ばれる少なくとも一つで表される、末端に重合性基を有する液晶化合物を重合されてなる請求項1または2に記載の重合体。


式(1-2-1)~(1-2-6)中、
、Z、ZおよびZは独立して、単結合、-(CH-、-O(CH-、-(CHO-、-O(CHO-、-COO-、-OCO-、-CH=CH-COO-、-OCO-CH=CH-、-CHCH-COO-、-OCO-CHCH-、-CH=CH-、-SO-、-OCF-、または-CFO-であり、ここで、aは1~20の整数であり、
Xは、フッ素またはメチルであり、
nは、0~4の整数であり、
nが2以上であるときを含み、式中にXが複数ある場合は、それらが同一であっても異なっていてもよく、
1aおよびR1bは独立して、式(PG-1)、(PG-5)、または(PG-6)で表される重合性基であり、

式(PG-1)、(PG-5)、および(PG-6)中、Rは、水素、ハロゲン、-CF3または炭素数1~5のアルキルであり、qは0または1であり、式中にRが複数ある場合は、それらが同一であっても異なっていてもよい。
【請求項5】
式(1-3-1)~(1-3-9)からなる群から選ばれる少なくとも一つで表される、末端に重合性基を有する液晶化合物を重合されてなる請求項1または2に記載の重合体。


式(1-3-1)~(1-3-9)中、
、Z、ZおよびZは独立して、単結合、-(CH-、-O(CH-、-(CHO-、-O(CHO-、-COO-、-OCO-、-CH=CH-COO-、-OCO-CH=CH-、-(CH-COO-、-OCO-(CH-、-CH=CH-、-SO-、-OCF-、または-CFO-であり、ここで、aは1~20の整数であり、
式中のZは、それらが同一であっても異なっていてもよく、
Xは、フッ素またはメチルであり、
nは、0~4の整数であり、
nが2以上であるときを含み、式中にXが複数ある場合は、それらが同一であっても異なっていてもよく、
1aおよびR1bは独立して、式(PG-1)、(PG-5)、および(PG-6)で表される重合性基であり、

式(PG-1)、(PG-5)および(PG-6)中、Rは、水素、ハロゲン、-CF3、または炭素数1~5のアルキルであり、qは0または1であり、式中にRが複数ある場合は、それらが同一であっても異なっていてもよい。
【請求項6】
1aおよびR1bが、式(PG-1)で表される重合性基である、請求項1~5のいずれか1項に記載の重合体。
式(PG-1)中、Rは、水素、ハロゲン、-CF、または炭素数1~5のアルキルであり、式中にRが複数ある場合は、それらが同一であっても異なっていてもよい。
【請求項7】
式(1-1-1a)または(1-2-1a)で表される、末端に重合性基を有する液晶化合物を重合されてなる、請求項1~6のいずれか1項に記載の重合体。

式(1-1-1a)および(1-2-1a)中、
は、水素、ハロゲン、-CF、または炭素数1~5のアルキルであり、
およびZは独立して、単結合、-(CH-、-O(CH-、-(CHO-、-O(CHO-、-COO-、-OCO-、-CH=CH-COO-、-OCO-CH=CH-、-(CH-COO-、-OCO-(CH-、-CH=CH-、-SO-、-OCF-、または-CFO-であり、ここで、aは1~20の整数であり、
mは、0~20の整数であり、
Mは、単結合または酸素であり、
Xは、フッ素またはメチルであり、
nは、0~4の整数であり、
nが2以上であるときを含み、式中のXが複数ある場合は、それらが同一であっても異なっていてもよく、
式中に、R、m、またはMが、複数ある場合は、それらが同一であっても異なっていてもよい。
【請求項8】
式(1-1-2a)、(1-1-3a)、(1-2-5a)、及び(1-2-6a)からなる群から選ばれる少なくとも一つで表される、末端に重合性基を有する液晶化合物を重合されてなる、請求項1~6のいずれか1項に記載の重合体。


式(1-1-2a)、(1-1-3a)、(1-2-5a)、および(1-2-6a)中、
は、水素、ハロゲン、-CF3、または炭素数1~5のアルキルであり、
およびZは独立して、単結合、-(CH-、-O(CH-、-(CHO-、-O(CHO-、-COO-、-OCO-、-CH=CH-COO-、-OCO-CH=CH-、-(CH-COO-、-OCO-(CH-、-CH=CH-、-SO-、-OCF-、または-CFO-であり、ここで、aは1~20の整数であり、
mは、0~20の整数であり、
Mは、単結合または酸素であり、
Xは、フッ素またはメチルであり、
nは、0~4の整数であり、
nが2以上であるときを含み、式中のXが複数ある場合は、それらが同一であっても異なっていてもよく、
式中に、R、m、またはMが、複数ある場合は、それらが同一であっても異なっていてもよい。
【請求項9】
は、水素、フッ素、-CF、またはメチルであり、
およびZは独立して、単結合、-(CH-、-O(CH-、-(CHO-、-O(CHO-、-COO-、または-OCO-であり、ここで、aは1~12の整数であり、mは、0~12の整数である、請求項7または8に記載の重合体。
【請求項10】
メルカプタン系連鎖移動剤の存在下での重合生成物である、請求項1~9のいずれか1項に記載の重合体。
【請求項11】
分子内にカルボキシを有するメルカプタン系連鎖移動剤の存在下での重合生成物である、請求項10に記載の重合体。
【請求項12】
重量平均分子量300,000以下である、請求項1~11のいずれか1項に記載の重合体。
【請求項13】
重量平均分子量50,000以下である、請求項1~11のいずれか1項に記載の重合体。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか1項に記載の重合体を含有する低誘電基板用組成物。
【請求項15】
非重合性の液晶化合物をさらに含有する、請求項14に記載の低誘電基板用組成物。
【請求項16】
無機フィラーをさらに含有する、請求項14または15に記載の低誘電基板用組成物。
【請求項17】
無機フィラーが、球状シリカ、粉砕シリカ、中空シリカ、ヒュームドシリカ、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、及び水酸化アルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項16に記載の低誘電基板用組成物。
【請求項18】
請求項14~17のいずれか1項に記載の低誘電基板用組成物を硬化して得られる硬化物。
【請求項19】
10GHzにおける比誘電率が3.0未満である請求項18に記載の硬化物。
【請求項20】
熱伝導率が1W/m・K以上である請求項18または19に記載の硬化物。
【請求項21】
請求項19または20に記載の硬化物を用いる絶縁膜。
【請求項22】
請求項19または20に記載の硬化物を用いるフィルム。
【請求項23】
請求項19または20に記載の硬化物を用いるシート。
【請求項24】
請求項19または20に記載の硬化物、請求項21に記載の絶縁膜、請求項22に記載のフィルム、または請求項23に記載のシートを用いた電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶化合物からなる低誘電基板用の重合体、前記重合体を用いた低誘電基板用組成物、及びそれを用いた硬化物に関する。特に、高周波基板用材料及びその周辺材料と、それを用いた硬化物、電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、通信機器の5G化さらにはbeyond5Gや6G化に伴い、電子基板上での電気信号の高周波化や、アンテナが送受信する電波も高周波化しており、信号処理回路基板やアンテナ基板による信号の損失が問題になっている。そのため、基板に用いられる樹脂材料の低誘電率化、低誘電正接が求められており、従来のポリイミドやエポキシ樹脂に代わり、液晶ポリマー(LCP)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、シクロオレフィンポリマー(COP)、フッ素樹脂(PTFE)などの樹脂が使用され始めている。
低誘電基板においては、3.0以下の比誘電率、高熱伝導フィラーを含むものでは3.5以下の比誘電率を有する材料がラインアップされており、さらにこれらの比誘電率よりも低い材料の開発が求められている。
【0003】
現在の高周波基板用材料は、熱可塑性樹脂であり、高温で成型や接着を行う必要があったり、樹脂同士や電極となる銅箔と接着性がよくなかったりなど、使いにくい面も多い。特許文献1には、液晶ポリマーの分子構造に着目し、液晶ポリマーをより低誘電率化させるための検討がなされている。ただし、液晶ポリマーは融点が高く350℃以上の加工温度が必要で熱ラミネートや熱接着などが難しい。
特許文献2には、PPEの分子構造に着目し、溶媒への溶解性を高くすることによりワニス化するための検討がなされている。ワニス化によりPPEを塗布法で製膜でき、絶縁ワニス被覆用に使用できるようになるが、溶解力の高い溶媒を使用する必要があり、多層に積層する場合に溶媒への再溶解の可能性があるなど、硬化の点で問題も多い。そのため、非特許文献1にあるように、絶縁被覆用ワニスのように塗布し、簡便に硬化できる低誘電基板用組成物の開発が望まれている。
【0004】
熱硬化性樹脂、かつ、液晶ポリマーと同等か、それ以上の性能を示す可能性を持つ樹脂原料に、重合性液晶化合物がある。液晶ポリマーにて、良好な基板成型性を得るには、溶融粘度を下げる、または溶媒に溶かしやすくする必要がある。そのために、液晶ポリマーが有する折角の結晶性を下げる必要がある。一方、重合性液晶化合物は、結晶性を保ったまま硬化させることにより、液晶ポリマーの低誘電性などの特徴と、熱硬化性樹脂の易成形性とを併せ持つ材料設計が可能である。
たとえば、特許文献3には、直線性の高い重合性液晶化合物を配向させ硬化させると、通常の熱硬化樹脂よりも配向方向に高熱伝導になることが開示されている。
また、特許文献4には、重合性液晶化合物と放熱フィラーとを複合化することにより、更に高熱伝導な熱硬化性樹脂材料が形成可能であることが開示されている。ただし、これらの例では、高熱伝導化に主眼が置かれており、低誘電性は検討されていない。
【0005】
低誘電基板は、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂とガラスクロスとを複合化したリジッド基板と、ポリイミドなどの樹脂フィルムを用いたフレキシブル基板とに分類できる。重合性液晶化合物をこれらの基板に応用する場合、前者では、重合性液晶化合物は、分子量が小さく溶融粘度が低いためガラスクロスに含侵させても硬化前に流れ出てしまう可能性があることが問題として挙げられる。また、後者では、重合性液晶化合物の樹脂フィルムは、結晶性が高く分子量が小さい場合に脆く割れやすくなることが問題として挙げられる。
重合性液晶化合物と放熱フィラーとを複合する場合、本硬化前に本硬化しない温度で予備的に混錬することにより予備重合が可能であるが(特許文献4)、ガラスクロスを用いる場合は、ガラスクロスの形状を維持するために、予備混錬ができないという問題がある。また、塗布法により重合性液晶化合物をフィルム化する場合にも、粘度が低いと薄い膜しか得られず、基板に用いることは難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-189734号公報
【特許文献2】特開2009-67894号公報
【特許文献3】特開2006-265527号公報
【特許文献4】再公表2015/170744号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】RFワールドNo.40、p.p.97-111、2017
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のとおり、本発明は、高周波数化が進む次世代通信機器や、レーダー等に好適に用いることが可能な、低誘電性と良好な基板成型性とを有する低誘電基板用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、それらの問題を解決すべく誠意検討した。その結果、誘電率が低く熱伝導率が高い構造の重合性液晶化合物を予め重合させ、プレポリマー化し、該プレポリマーを含む組成物を硬化させることにより、従来の低誘電率樹脂以上の低誘電性と良好な基板成型性を示す重合体を実現できることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
本発明の第1の態様に係る重合体は、式(1)で表される、末端に重合性基を有する液晶化合物を重合されてなる。

1a-Z-A-Z-A-(Z-Am1-Z-R1b (1)

式(1)中、
、A、およびAは独立して、1,4-シクロヘキシレン、1,4-シクロヘキセニレン、1,4-フェニレン、ビシクロ[2.2.2]オクト-1,4-ジイル、ビシクロ[3.1.0]ヘキス-3,6-ジイル、またはフルオレン-2,7-ジイルであり、これらの環において、少なくとも1つの-CH-は-O-で置き換えられてもよく、少なくとも1つの-CH=は-N=で置き換えられてもよく、少なくとも1つの水素は、ハロゲン、または少なくとも1つの水素がハロゲンで置き換えられてもよい炭素数1~10のアルキルであり、このアルキルにおいて、少なくとも1つの-CH-は、-O-、-CO-、-COO-、-OCO-、または-C=C-で置き換えられてもよく;
、Z、Z、およびZは独立して、単結合または炭素数1~22のアルキレンであり、このアルキレンにおいて、少なくとも1つの-CH-は、-O-、-S-、-CO-、-COO-、-OCO-、-SO-、-CH=CH-、-CF=CF-、-CH=N-、-N=CH-、または-N=N-で置き換えられてもよく、少なくとも1つの水素はハロゲンで置き換えられてもよく;
m1は、0、1、または2であり、
式中に、ZまたはAが複数ある場合は、それらが同一であっても異なっていてもよく、
1aおよびR1bは独立して、式(PG-1)~(PG-6)で表される重合性基から選択される基であり、

式(PG-1)~(PG-6)中、Rは、水素、ハロゲン、-CF、または炭素数1~5のアルキルであり、qは0または1であり、式中にRが複数ある場合は、それらが同一であっても異なっていてもよい。
このように構成すると、重合体は共役や極性基が少なく、分子の直線性と対称性が高い構造単位を有することから、これをプレポリマーとして含有する組成物を硬化させると、良好な低誘電性、基板成型性を示す。
【0011】
本発明の第2の態様に係る重合体は、上記本発明の第1の態様に係る重合体において、式(1-1)、式(1-2)、及び式(1-3)からなる群から選ばれる少なくとも一つで表される末端に重合性基を有する液晶化合物を重合されてなる。

1a-Z-A-Z-A-Z-R1b (1-1)

1a-Z-A-Z-A-Z-A-Z-R1b (1-2)

1a-Z-A-Z-A-Z-A-Z-A-Z-R1b (1-3)

式(1-1)~(1-3)中、
、A、およびAは独立して、1,4-シクロヘキシレン、少なくとも1つの水素がハロゲンまたは炭素数1~10のアルキレンで置き換えられてもよい1,4-フェニレン、ビシクロ[2.2.2]オクト-1,4-ジイル、ビシクロ[3.1.0]ヘキス-3,6-ジイル、少なくとも1つの水素がハロゲンまたは炭素数1~10のアルキレンで置き換えられてもよいフルオレン-2,7-ジイルであり、
、Z、Z、およびZは独立して、単結合、-(CH-、-O(CH-、-(CHO-、-O(CHO-、-COO-、-OCO-、-CH=CH-COO-、-OCO-CH=CH-、-(CH-COO-、-OCO-(CH-、-CH=CH-、-SO-、-OCF-、または-CFO-であり、ここで、aは1~20の整数であり、
式中に、ZまたはAが複数ある場合は、それらが同一であっても異なっていてもよく、
1aおよびR1bは独立して、式(PG-1)、(PG-5)、または(PG-6)で表される重合性基であり、

式(PG-1)、(PG-5)、および(PG-6)中、Rは、水素、ハロゲン、-CF、または炭素数1~5のアルキルであり、qは0または1であり、式中にRが複数ある場合は、それらが同一であっても異なっていてもよい。
このように構成すると、重合体は、熱、光硬化性に優れ、これをプレポリマーとして含有する組成物を硬化して得られる基板は良好な基板成型性、寸法安定性を有する。
【0012】
本発明の第3の態様に係る重合体は、上記本発明の第1の態様または第2の態様に係る重合体において、式(1-1-1)、式(1-1-2)、及び式(1-1-3)からなる群から選ばれる少なくとも一つで表される、末端に重合性基を有する液晶化合物を重合されてなる。


式(1-1-1)~(1-1-3)中、
、ZおよびZは独立して、単結合、-(CH-、-O(CH-、-(CHO-、-O(CHO-、-COO-、-OCO-、-CH=CH-COO-、-OCO-CH=CH-、-(CH-COO-、-OCO-(CH-、-CH=CH-、-SO-、-OCF-、または-CFO-であり、ここで、aは1~20の整数であり、
Xは、フッ素またはメチルであり、
nは、0~4の整数であり、
nが2以上であるときを含み、式中のXが複数ある場合は、それらが同一であっても異なっていてもよく、
1aおよびR1bは独立して、式(PG-1)、(PG-5)、または(PG-6)で表される重合性基であり、

式(PG-1)、(PG-5)、および(PG-6)中、Rは、水素、ハロゲン、-CFまたは炭素数1~5のアルキルであり、qは0または1であり、式中にRが複数ある場合は、それらが同一であっても異なっていてもよい。
このように構成すると、重合体は製造が簡便であり、これをプレポリマーとして含有する組成物を硬化して得られる基板は、低誘電性を有する。
【0013】
本発明の第4の態様に係る重合体は、上記本発明の第1の態様または第2の態様に係る重合体において、式(1-2-1)~(1-2-6)からなる群から選ばれる少なくとも一つで表される、末端に重合性基を有する液晶化合物を重合されてなる。


式(1-2-1)~(1-2-6)中、
、Z、ZおよびZは独立して、単結合、-(CH-、-O(CH-、-(CHO-、-O(CHO-、-COO-、-OCO-、-CH=CH-COO-、-OCO-CH=CH-、-CHCH-COO-、-OCO-CHCH-、-CH=CH-、-SO-、-OCF-、または-CFO-であり、ここで、aは1~20の整数であり、
Xは、フッ素またはメチルであり、
nは、0~4の整数であり、
nが2以上であるときを含み、式中にXが複数ある場合は、それらが同一であっても異なっていてもよく、
1aおよびR1bは独立して、式(PG-1)、(PG-5)、または(PG-6)で表される重合性基であり、

式(PG-1)、(PG-5)、および(PG-6)中、Rは、水素、ハロゲン、-CF3または炭素数1~5のアルキルであり、qは0または1であり、式中にRが複数ある場合は、それらが同一であっても異なっていてもよい。
このように構成すると、重合体は溶融粘度が大きく、これをプレポリマーとして含有する組成物の基板成型性を向上させることができる。
【0014】
本発明の第5の態様に係る重合体は、上記本発明の第1の態様または第2の態様に係る重合体において、式(1-3-1)~(1-3-9)からなる群から選ばれる少なくとも一つで表される、末端に重合性基を有する液晶化合物を重合されてなる。


式(1-3-1)~(1-3-9)中、
、Z、ZおよびZは独立して、単結合、-(CH-、-O(CH-、-(CHO-、-O(CHO-、-COO-、-OCO-、-CH=CH-COO-、-OCO-CH=CH-、-(CH-COO-、-OCO-(CH-、-CH=CH-、-SO-、-OCF-、または-CFO-であり、ここで、aは1~20の整数であり、
式中のZは、それらが同一であっても異なっていてもよく、
Xは、フッ素またはメチルであり、
nは、0~4の整数であり、
nが2以上であるときを含み、式中にXが複数ある場合は、それらが同一であっても異なっていてもよく、
1aおよびR1bは独立して、式(PG-1)、(PG-5)、および(PG-6)で表される重合性基であり、

式(PG-1)、(PG-5)および(PG-6)中、Rは、水素、ハロゲン、-CF3、または炭素数1~5のアルキルであり、qは0または1であり、式中にRが複数ある場合は、それらが同一であっても異なっていてもよい。
このように構成すると、重合体は溶融粘度が大きく、これをプレポリマーとして含有する組成物の基板成型性を向上させることができる。
【0015】
本発明の第6の態様に係る重合体は、上記本発明の第1~第5のいずれかに記載の態様に係る重合体において、R1aおよびR1bが、式(PG-1)で表される重合性基である。
式(PG-1)中、Rは、水素、ハロゲン、-CF、または炭素数1~5のアルキルであり、式中にRが複数ある場合は、それらが同一であっても異なっていてもよい。
このように構成すると、重合体は、特に好ましい重合基を有する液晶化合物からの重合生成物であり、これをプレポリマーとして含有する組成物は、硬化性、溶媒への溶解性、取り扱いのしやすさに優れる。
【0016】
本発明の第7の態様に係る重合体は、上記本発明の第1~第6に記載の態様に係る重合体において、式(1-1-1a)または(1-2-1a)で表される、末端に重合性基を有する液晶化合物を重合されてなる。

式(1-1-1a)および(1-2-1a)中、
は、水素、ハロゲン、-CF、または炭素数1~5のアルキルであり、
およびZは独立して、単結合、-(CH-、-O(CH-、-(CHO-、-O(CHO-、-COO-、-OCO-、-CH=CH-COO-、-OCO-CH=CH-、-(CH-COO-、-OCO-(CH-、-CH=CH-、-SO-、-OCF-、または-CFO-であり、ここで、aは1~20の整数であり、
mは、0~20の整数であり、
Mは、単結合または酸素であり、
Xは、フッ素またはメチルであり、
nは、0~4の整数であり、
nが2以上であるときを含み、式中のXが複数ある場合は、それらが同一であっても異なっていてもよく、
式中に、R、m、またはMが、複数ある場合は、それらが同一であっても異なっていてもよい。
このように構成すると、重合体は、好適な液晶化合物からの重合生成物であり、これをプレポリマーとして含有する組成物から得られた基板は、良好な基板成型性を有する。
【0017】
本発明の第8の態様に係る重合体は、上記本発明の第1~第6に記載の態様に係る重合体において、式(1-1-2a)、(1-1-3a)、(1-2-5a)、及び(1-2-6a)からなる群から選ばれる少なくとも一つで表される、末端に重合性基を有する液晶化合物を重合されてなる。

式(1-1-2a)、(1-1-3a)、(1-2-5a)、および(1-2-6a)中、
は、水素、ハロゲン、-CF3、または炭素数1~5のアルキルであり、
およびZは独立して、単結合、-(CH-、-O(CH-、-(CHO-、-O(CHO-、-COO-、-OCO-、-CH=CH-COO-、-OCO-CH=CH-、-(CH-COO-、-OCO-(CH-、-CH=CH-、-SO-、-OCF-、または-CFO-であり、ここで、aは1~20の整数であり、
mは、0~20の整数であり、
Mは、単結合または酸素であり、
Xは、フッ素またはメチルであり、
nは、0~4の整数であり、
nが2以上であるときを含み、式中のXが複数ある場合は、それらが同一であっても異なっていてもよく、
式中に、R、m、またはMが、複数ある場合は、それらが同一であっても異なっていてもよい。
このように構成すると、重合体は、好適な液晶化合物からの重合生成物であり、これをプレポリマーとして含有する組成物から得られた基板は、低誘電特性に優れる。
【0018】
本発明の第9の態様に係る重合体は、上記本発明の第7に記載の態様または第8に記載の態様に係る重合体において、Rは、水素、フッ素、-CF、またはメチルであり、
およびZは独立して、単結合、-(CH-、-O(CH-、-(CHO-、-O(CHO-、-COO-、または-OCO-であり、ここで、aは1~12の整数であり、mは、0~12の整数である。
このように構成すると、重合体は、特に好適な液晶化合物からの重合生成物であり、これをプレポリマーとして含有する組成物から得られた基板は低誘電特性に優れ、特に良好な基板成型性を有する。
【0019】
本発明の第10の態様に係る重合体は、上記本発明の第1~第9のいずれかに記載の態様に係る重合体において、メルカプタン系連鎖移動剤の存在下での重合生成物である。
このように構成すると、好ましい重量平均分子量の重合体を得ることができる。該重合体をプレポリマーとして含有する組成物から製造した基板は、銅箔等への密着性に優れる。
【0020】
本発明の第11の態様に係る重合体は、上記本発明の第10に記載の態様に係る重合体において、分子内にカルボキシを有するメルカプタン系連鎖移動剤の存在下での重合生成物である。
このように構成すると、好ましい重量平均分子量の重合体を得ることができる。該重合体をプレポリマーとして含有する組成物から製造した基板は、銅箔等への密着性に非常に優れる。
【0021】
本発明の第12の態様に係る重合体は、上記本発明の第1~第11のいずれかに記載の態様に係る重合体において、重量平均分子量300,000以下である。
このように構成すると、重合体は良好な溶融粘度、良好な溶媒への溶解性を有し、該重合体をプレポリマーとして含有する組成物は良好な基板成型性を有する。
【0022】
本発明の第13の態様に係る重合体は、上記本発明の第1~第11のいずれかに記載の態様に係る重合体において、重量平均分子量50,000以下である。
このように構成すると、重合体は適切な溶融粘度、適切な溶媒への溶解性を有し、該重合体をプレポリマーとして含有する組成物は特に優れた基板成型性を有する。
【0023】
本発明の第14の態様に係る低誘電基板用組成物は、上記本発明の第1~第13のいずれかに記載の態様に係る重合体を含有する。
このように構成すると、製造性に優れ、尚且つ、基板成型性、低誘電性が良好な低誘電基板用組成物を得ることができる。
【0024】
本発明の第15の態様に係る低誘電基板用組成物は、上記本発明の第14に記載の態様に係る低誘電基板用組成物において、非重合性の液晶化合物をさらに含有する。
このように構成すると、低誘電基板用組成物は、低誘電基板材料として好適な液晶性を有する。
【0025】
本発明の第16の態様に係る低誘電基板用組成物は、上記本発明の第14または第15に記載の態様に係る低誘電基板用組成物において、無機フィラーをさらに含有する。
このように構成すると、低誘電基板用組成物は、放熱性、加工性を向上することができる。
【0026】
本発明の第17の態様に係る低誘電基板用組成物は、上記本発明の第16に記載の態様に係る低誘電基板用組成物において、無機フィラーが、球状シリカ、粉砕シリカ、中空シリカ、ヒュームドシリカ、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、及び水酸化アルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種である。
このように構成すると、低誘電基板用組成物は、ケイ素化合物の場合には高強度および低誘電正接が、金属酸化物、金属水酸化物または金属窒化物の場合には、高熱伝導および低誘電損失な硬化物が得られる。
【0027】
本発明の第18の態様に係る硬化物は、上記本発明の第14~第17のいずれかに記載の態様に係る低誘電基板用組成物において、低誘電基板用組成物を硬化して得られる硬化物である。
このように構成すると、硬化物は、放熱性、低誘電性、加工性、強度を向上させることができる。
【0028】
本発明の第19の態様に係る硬化物は、上記本発明の第18に記載の態様に係る硬化物において、10GHzにおける比誘電率が3.0未満である。
このように構成すると、硬化物は、低比誘電率が求められる次世代高速・高周波通信機器用途の材料として好適である。
【0029】
本発明の第20の態様に係る硬化物は、上記本発明の第18または第19に記載の態様に係る硬化物において、熱伝導率が1W/m・K以上である。
このように構成すると、硬化物は、放熱性を要する電子基板用途に好適の材料となる。
【0030】
本発明の第21の態様に係る絶縁膜は、上記本発明の第19または第20に記載の態様に係る硬化物を用いる。
このように構成すると、絶縁膜は、低誘電性に優れるため高周波領域での伝送損失が低くなることから、次世代高速・高周波通信機器用途の材料として好適である。
【0031】
本発明の第22の態様に係るフィルムは、上記本発明の第19または第20に記載の態様に係る硬化物を用いる。
このように構成すると、フィルムは、低誘電性に優れるため高周波領域での伝送損失が低くなることから、次世代高速・高周波通信機器用途の材料として好適である。
【0032】
本発明の第23の態様に係るシートは、上記本発明の第19または第20に記載の態様に係る硬化物を用いる。
このように構成すると、シートは、低誘電性に優れるため高周波領域での伝送損失が低くなることから、次世代高速・高周波通信機器用途の材料として好適である。
【0033】
本発明の第24の態様に係る電子機器は、上記本発明の第19または第20に記載の態様に係る硬化物、上記本発明の第21に記載の態様に係る絶縁膜、上記本発明の第22に記載のフィルム、または上記本発明の第23に記載のシートを用いる。
このように構成すると、電子機器は、たとえば、高速通信、大容量通信、低消費電力化などが可能となる。
【発明の効果】
【0034】
本発明の重合体をプレポリマーとして含有する低誘電基板用組成物は、良好な基板成型性を有し、なおかつ、硬化物が低誘電性を有することから、たとえば、低誘電回路基板、低誘電アンテナ用基板、低誘電塗膜、低誘電接着剤などに適している。本発明の低誘電基板用組成物を含む低誘電回路基板等を用いた電子機器は、高速・大容量通信、低消費電力、低遅延、多数接続等に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明の重合体、低誘電基板用組成物、硬化物、絶縁膜、フィルム、シートの製造方法について詳細に説明する。なお、本明細書における用語の使い方は以下のとおりである。
「液晶化合物」は、ネマチック相やスメクチック相などの液晶相を有する化合物、および、液晶相を有しないが誘電率異方性、屈折率異方性、磁化率異方性などのような液晶に特有の物性を有し、液晶組成物の成分として有用な化合物の総称である。
また、「(メタ)アクリロイルオキシ」は、アクリロイルオキシまたはメタクリロイルオキシを意味し、「(メタ)アクリレート」は、アクリレートまたはメタクリレートを意味し、「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸またはメタクリル酸を意味する。
【0036】
「アルキルにおける少なくとも1つの-CH-は、-O-、-CO-などで置き換えられてもよい」等の句の意味を一例で示す。たとえば、C-における少なくとも1つの-CH-が、-O-または-CH=CH-で置き換えられた基としては、C3O-、CH-O-(CH-、CH-O-CH-O-、HC=CH-(CH-、CH-CH=CH-(CH-、CH-CH=CH-CH-O-などである。このように「少なくとも1つの」という語は、「区別なく選択された少なくとも1つの」を意味する。なお、化合物の安定性を考慮して、酸素と酸素とが隣接したCH-O-O-CH-よりも、酸素と酸素とが隣接しないCH-O-CH-O-の方が好ましい。
【0037】
本発明の重合体は、式(1)で表される、末端に重合性基を有する液晶化合物を重合されてなる。

1a-Z-A-Z-A-(Z-Am1-Z-R1b (1)

式(1)中、A、A、およびAは独立して、1,4-シクロヘキシレン、1,4-シクロヘキセニレン、1,4-フェニレン、ビシクロ[2.2.2]オクト-1,4-ジイル、ビシクロ[3.1.0]ヘキス-3,6-ジイル、またはフルオレン-2,7-ジイルであり、これらの環において、少なくとも1つの-CH-は-O-で置き換えられてもよく、少なくとも1つの-CH=は-N=で置き換えられてもよく、少なくとも1つの水素は、ハロゲン、または少なくとも1つの水素がハロゲンで置き換えられてもよい炭素数1~10のアルキルであり、このアルキルにおいて、少なくとも1つの-CH-は、-O-、-CO-、-COO-、-OCO-、または-C=C-で置き換えられてもよく;Z、Z、Z、およびZは独立して、単結合または炭素数1~22のアルキレンであり、このアルキレンにおいて、少なくとも1つの-CH-は、-O-、-S-、-CO-、-COO-、-OCO-、-SO-、-CH=CH-、-CF=CF-、-CH=N-、-N=CH-、または-N=N-で置き換えられてもよく、少なくとも1つの水素はハロゲンで置き換えられてもよく;m1は、0、1、または2であり、式中に、ZまたはAが複数ある場合は、それらが同一であっても異なっていてもよく、R1aおよびR1bは独立して、式(PG-1)~(PG-6)で表される重合性基から選択される基であり、式(PG-1)~(PG-6)中、Rは、水素、ハロゲン、-CF、または炭素数1~5のアルキルであり、qは0または1であり、式中にRが複数ある場合は、それらが同一であっても異なっていてもよい。

【0038】
「化合物(1)」は、上式(1)で表わされる液晶化合物を意味し、また、式(1)で表わされる化合物の少なくとも1種を意味することもある。なお、「化合物(1-1)」についても同様であり、化合物(1-1)から化合物(1-3)を総称して「化合物(1)」と表す。
「低誘電基板用組成物(1)」は、前記化合物(1)の重合体を含有することを意味する。「重合体(1)」は前記低誘電基板用組成物(1)を重合させることによって得られることを意味する。1つの化合物(1)が複数のAを有するとき、任意の2つのAは同一でも異なっていてもよい。複数の化合物(1)がAを有するとき、任意の2つのAは同一でも異なっていてもよい。この規則は、Zや、R、およびXなど他の記号、基などにも適用される。
【0039】
〔液晶化合物〕
本発明で用いられる化合物(1)は、液晶骨格(棒状のメソゲン骨格)と重合性基を有し、高い重合反応性、広い液晶相温度範囲、良好な混和性などを有する。この化合物(1)は他の液晶化合物や重合性化合物などと混合するとき、容易に均一になりやすい。
【0040】
化合物(1)の末端基R1aまたはR1b、環構造A、AまたはAおよび結合基Z、Z、ZまたはZを適宜選択することによって、液晶相発現領域などの物性を任意に調整することができる。末端基、環構造および結合基の種類が、化合物(1)の物性に与える効果、ならびにこれらの好ましい例を以下に説明する。
【0041】
<末端基R :R1aおよびR1b
化合物(1)の末端基Rは、式(PG-1)~(PG-6)のいずれかで表される重合性基である。

式(PG-1)~(PG-6)中、Rは、水素、ハロゲン、-CFまたは炭素数1~5のアルキルであり、qは0または1である。
またRが複数ある場合は、それらが同一であっても異なっていてもよい。
【0042】
好ましい例は、式(PG-1a)~(PG-1d)、(PG-2a)、(PG-3a)、(PG-4a)、(PG-5a)~(PG-5d)、および(PG-6a)~(PG-6c)で表される重合性基が挙げられる。
【0043】
これらの好ましい重合性基において、(PG-1a)~(PG-1d)、(PG-2a)、および(PG-4a)は、α,β-不飽和ケトンの構造を有しているので、様々な手段により重合し、より大きな分子量を有する高分子へと変化させることができる。(PG-3a)は、電子供与性基に隣接したビニル基を有しているので、様々な手段により重合し、より大きな分子量を有する高分子へと変化させることができる。(PG-5a)~(PG-6c)は、ひずみを有する環状エーテルを有しているので、様々な手段により重合し、より大きな分子量を有する高分子へと変化させることができる。これらの重合性基のうち、式(PG-1a)~(PG-1d)、(PG-2a)、(PG-3a)、および(PG-4a)がさらに好ましく、式(PG-1a)、および(PG-1b)が特に好ましい 。
【0044】
式(PG-1)~(PG-6)で表される重合性基は、フィルムの製造条件により、適切なものを選ぶことができる。たとえば、通常用いられる光硬化でフィルムを作製する場合、高い硬化性、溶媒への溶解性、および取扱いのしやすさなどの点から、式(PG-1)で表される基が好ましく、アクリル基やメタクリル基がさらに好ましい。
【0045】
<環構造A :A、AおよびA
化合物(1)の環構造Aの好ましい例は、1,4-シクロへキシレン、1,3-ジオキサン-2,5-ジイル、1,4-フェニレン、2-フルオロ-1,4-フェニレン、2,3-ジフルオロ-1,4-フェニレン、2,5-ジフルオロ-1,4-フェニレン、2,6-ジフルオロ-1,4-フェニレン、ピリジン-2,5-ジイル、3-フルオロピリジン-2,5-ジイル、ピリミジン-2,5-ジイル、ピリダジン-3,6-ジイル、ナフタレン-2,6-ジイル、テトラヒドロナフタレン-2,6-ジイル、フルオレン-2,7-ジイル、9-メチルフルオレン-2,7-ジイル、9,9-ジメチルフルオレン-2,7-ジイル、9-エチルフルオレン-2,7-ジイル、9-フルオロフルオレン-2,7-ジイル、9,9-ジフルオロフルオレン-2,7-ジイルなどである。
さらに好ましい例は、1,4-シクロへキシレン、1,4-フェニレン、2-フルオロ-1,4-フェニレン、2-メチル-1,4-フェニレンなどである。特に好ましい例は、1,4-シクロへキシレンまたは1,4-フェニレンである。
【0046】
1,4-シクロヘキシレン、1,3-ジオキサン-2,5-ジイル、またはテトラヒドロナフタレン-2,6-ジイルの立体配置は、シスよりもトランスが好ましい。2-フルオロ-1,4-フェニレンおよび3-フルオロ-1,4-フェニレンは構造的に同一であるので、後者は例示していない。この規則は、2,5-ジフルオロ-1,4-フェニレンと3,6-ジフルオロ-1,4-フェニレンとの関係などにも適用される。
【0047】
環構造Aにおける少なくとも1つの環が1,4-フェニレンの場合、配向秩序パラメーター(orientational order parameter)および磁化異方性が大きい。また、少なくとも2つの環が1,4-フェニレンの場合、液晶相の温度範囲が広く、透明点が高い。
1,4-フェニレン環上の少なくとも1つの水素が置き換えられていてもよい好ましい例としてはフッ素、炭素数1~5のアルキル、-CF3または-OCFになどであり、融点が低下し、溶解性が高い。また分子分極率が小さくなるため比誘電率が低い。さらに分子運動が抑制されるため誘電損失が低い。
【0048】
少なくとも1つの環が1,4-シクロヘキシレンである場合、透明点が高く、比誘電率が非常に低く、誘電損失が低く、かつ粘度が小さい。また少なくとも2つの環が1,4-シクロヘキシレンである場合、透明点が高く、比誘電率が非常に低く、誘電損失が低く、かつ粘度が小さい。
少なくとも1つの環がナフタレン環、デカヒドロナフタレン環、およびフルオレン環などの縮合環である場合は分子体積が大きく、比誘電率は低い。
【0049】
<結合基Z :Z、Z、ZおよびZ
化合物(1)の結合基Zの好ましい例は、単結合、-(CH-、-O(CH-、-(CHO-、-O(CHO-、-COO-、-OCO-、-CH=CH-COO-、-OCO-CH=CH-、-(CH-COO-、-OCO-(CH-、-CH=CH-、-SO-、-OCF-、または-CFO-であり、ここでaは1~20の整数である。
さらに好ましい例は、単結合、-(CH-、-(CHO-、-O(CH-、-O(CHO-、-COO-、または-OCO-などがある。
特に好ましい例は、単結合、-(CH-、-(CHO-、-O(CH-、または-O(CHO-であり、ここでaは1~22の整数である。
【0050】
結合基Zが、単結合、-(CH-、-(CHO-、-O(CH-、-O(CHO-、-CF2O-、または-OCF2-である場合、粘度が小さくなる。また、結合基Zが-(CH-、-(CHO-、-O(CH-、または-O(CHO-であり、aが2~12程度である場合は融点が低下し、かつ有機溶媒への溶解性が高く、分子長が長くなるため液晶相の温度範囲が広くなり、誘電正接が小さい。
【0051】
化合物(1)が2つの環を有するときは粘度が低く、3つ以上の環を有するときは透明点が高い。なお、本明細書においては、基本的に6員環および6員環を含む縮合環等を環とみなし、たとえば3員環や4員環、5員環単独のものは環とみなさない。また、ナフタレン環、デカヒドロナフタレン環、およびフルオレン環などの縮合環は1つの環とみなす。
【0052】
以上のように、末端基R、環構造A、および結合基Zの種類、環の数などを適宜選択することにより、目的の物性を有する化合物を得ることができる。好ましい化合物(1)の例としては、式(1-1-1)~(1-1-3)、(1-2-1)~(1-2-6)、および(1-3-1)~(1-3-6)で表される化合物が挙げられる。



【0053】
式(1-1-1)~(1-1-3)、(1-2-1)~(1-2-6)、および(1-3-1)~(1-3-6)中、
、Z、ZおよびZは独立して、単結合、-(CH-、-O(CH-、-(CHO-、-O(CHO-、-COO-、-OCO-、-CH=CH-COO-、-OCO-CH=CH-、-(CH-COO-、-OCO-(CH-、-CH=CH-、-SO-、-OCF-、または-CFO-であり、ここで、aは1~20の整数であり、
式中のZは、それらが同一であっても異なっていてもよく、
Xは、フッ素またはメチルであり、
nは、0~4の整数であり、
nが2以上であるときを含み、式中にXが複数ある場合は、それらが同一であっても異なっていてもよく、
1aおよびR1bは独立して、式(PG-1)、(PG-5)、または(PG-6)で表される重合性基であり、

式(PG-1)、(PG-5)および(PG-6)中、Rは、水素、ハロゲン、-CF、または炭素数1~5のアルキルであり、qは0または1であり、式中にRが複数ある場合は、それらが同一であっても異なっていてもよい。
【0054】
化合物(1)のより好ましい具体例を以下に示す。


式(1-1-1a)、(1-2-1a)、(1-1-2a)、(1-1-3a)、(1-2-5a)、および(1-2-6a)中、
は、水素、フッ素、-CF3、または炭素数1~5のアルキルであり、ZおよびZは独立して、単結合、-(CH-、-O(CH-、-(CHO-、-O(CHO-、-COO-、-OCO-、-CH=CH-COO-、-OCO-CH=CH-、-(CH-COO-、-OCO-(CH-、-CH=CH-、-SO-、-OCF-、または-CFO-であり、ここで、aは1~20の整数であり、
mは、0~20の整数であり、
Mは、単結合または酸素であり、
Xは、フッ素またはメチルであり、
nは、0~4の整数であり、
nが2以上であるときを含み、式中のXが複数ある場合は、それらが同一であっても異なっていてもよく、
式中に、R、m、またはMが複数ある場合は、それらが同一であっても異なっていてもよい。
【0055】
本発明における「化合物(1)を重合されてなる重合体」とは、少なくとも1つの化合物(1)を含む単量体を重合させることによって得られる重合体を意味し、その重合体中に少なくとも1種の化合物(1)に由来する単量体ユニットが含有されていればよく、2種以上の単量体ユニットを含有されていてもよい。すなわち、化合物(1)を重合されてなる重合体は、2種以上の化合物(1)を共重合させることによって得られる重合体であってもよく、また、少なくとも1種の化合物(1)と、化合物(1)以外の少なくとも1種の単量体との共重合であってもよい。このような化合物(1)以外の単量体(以下「その他の重合性化合物」ともいう)としては、特に限定されない。
【0056】
<その他の重合性化合物>
化合物(1)を重合されてなる重合体は、その他の重合性化合物との共重合であってもよい。このような重合性化合物としては、膜形成性および機械的強度を低下させない重合性化合物が好ましい。この重合性化合物は、液晶性を有しない化合物と液晶性を有する化合物とに分類される。液晶性を有しない重合性化合物としては、ビニル誘導体、スチレン誘導体、(メタ)アクリル酸誘導体、ソルビン酸誘導体、フマル酸誘導体、イタコン酸誘導体などが挙げられる。これらの誘導体の好ましい例を以下に示す。
【0057】
好ましいビニル誘導体としては、たとえば、塩化ビニル、フッ化ビニル、酢酸ビニル、ピバリン酸ビニル、2,2-ジメチルブタン酸ビニル、2,2-ジメチルペンタン酸ビニル、2-メチル-2-ブタン酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、2-エチル-2-メチルブタン酸ビニル、N-ビニルアセトアミド、p-t-ブチル安息香酸ビニル、N,N-ジメチルアミノ安息香酸ビニル、安息香酸ビニル、エチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルモノビニルエーテル、t-アミルビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールメチルビニルエーテル、α、β-ビニルナフタレン、メチルビニルケトン、イソブチルビニルケトンなどが挙げられる。
【0058】
好ましいスチレン誘導体としては、たとえば、スチレン、o-クロロスチレン、m-クロロスチレン、p-クロロスチレン、o-クロロメチルスチレン、m-クロロメチルスチレン、p-クロロメチルスチレン、α-メチルスチレンなどが挙げられる。
【0059】
好ましい(メタ)アクリル酸誘導体としては、たとえば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,9-ノナンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールEO付加トリアクリレート、ペンタエリストールトリアクリレート、トリスアクリロイルオキシエチルフォスフェート、ビスフェノールA EO付加ジアクリレート、ビスフェノールA グリジジルジアクリレート(商品名:大阪有機化学株式会社製「ビスコート700」)、ポリエチレングリコールジアクリレートジメチルイタコネートなどが挙げられる。
【0060】
好ましいソルビン酸誘導体としては、たとえば、ソルビン酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、ソルビン酸リチウム、ソルビン酸1-ナフチルメチルアンモニウム、ソルビン酸ベンジルアンモニウム、ソルビン酸ドデシルアンモニウム、ソルビン酸オクタデシルアンモニウム、ソルビン酸メチル、ソルビン酸エチル、ソルビン酸プロピル、ソルビン酸イソプロピル、ソルビン酸ブチル、ソルビン酸t-ブチル、ソルビン酸ヘキシル、ソルビン酸オクチル、ソルビン酸オクタデシル、ソルビン酸シクロペンチル、ソルビン酸シクロヘキシル、ソルビン酸ビニル、ソルビン酸アリル、ソルビン酸プロパギルなどが挙げられる。
【0061】
好ましいフマル酸誘導体としては、たとえば、フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジイソプロピル、フマル酸ジブチル、フマル酸ジシクロペンチル、フマル酸ジシクロヘキシルなどが挙げられる。
【0062】
好ましいイタコン酸誘導体としては、たとえば、ジエチルイタコネート、ジブチルイタコネート、ジイソプロピルイタコネートなどが挙げられる。
これらの他にも、ブタジエン、イソプレン、マレイミドなど、多くの重合性化合物を用いることができる。
【0063】
<その他の重合性液晶化合物>
低誘電基板用組成物(1)は、化合物(1)からなる重合体以外の重合性液晶化合物を重合されてなる重合体を含んでいてもよい。化合物(1)および有機溶媒などとの相溶性の観点から、式(M1)、(M2)、または(M3)で表される化合物が該重合性液晶化合物として好ましい。
【0064】
【0065】
式(M1)、(M2)、および(M3)中、
は独立して、1,4-フェニレン、1,4-シクロへキシレン、1,4-シクロへキセニレン、ピリジン-2,5-ジイル、1,3-ジオキサン-2,5-ジイル、ナフタレン-2,6-ジイル、またはフルオレン-2,7-ジイルから選ばれるいずれかの二価基であり、該二価基において、少なくとも一つの水素はフッ素、塩素、シアノ、ヒドロキシ、ホルミル、トリフルオロアセチル、ジフルオロメチル、トリフルオロメチル、炭素数1~5のアルキル、炭素数1~5のアルコキシ、炭素数1~5のアルコキシカルボニル、または炭素数1~5のアルカノイルで置き換えられてもよく、
は独立して、単結合、-OCH-、-CHO-、-COO-、-OCO-、-COS-、-SCO-、-OCOO-、-CONH-、-NHCO-、-CFO-、-OCF-、-CHCH-、-CFCF-、-CH=CHCOO-、-OCOCH=CH-、-CHCHCOO-、-OCOCHCH-、-COOCHCH-、-CHCHOCO-、-CH=CH-、-N=CH-、-CH=N-、-N=C(CH)-、-C(CH)=N-、-N=N-、-C≡C-、-CH=N-N=CH-、または-C(CH)=N-N=C(CH)-であり、
は水素、フッ素、塩素、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、シアノ、炭素数1~20のアルキル、炭素数1~20のアルケニル、炭素数1~20のアルコキシ、または炭素数1~20のアルコキシカルボニルであり、
は独立して、単結合、-O-、-COO-、-OCO-、または-OCOO-であり、
は、単結合、-O-、-COO-、または-OCO-であり、
qは1~6の整数であり、
cおよびdは独立して、0~3の整数であり、かつ1≦c+d≦6の関係であり、aは0~20の整数であり、
は水素またはメチルである。
【0066】
化合物(1)を重合されてなる重合体は、低誘電基板のプレポリマーとして使用することができる。プレポリマーとは、モノマーの重合反応を途中段階で止めた中間生成物であり、ポリマーとなる前段階である。このプレポリマーを加熱することなどにより、容易に重合や架橋反応などを起こすことができる。
【0067】
化合物(1)を重合されてなる重合体の数平均分子量(Mn)は、特に制限はないが、好ましくは300,000以下であり、より好ましくは150,000以下であり、さらに好ましくは50,000以下であり、さらに好ましくは30,000以下であり、さらに好ましくは10,000以下であり、特に好ましくは6,000以下である。該重合体を低誘電基板のプレポリマーとして用いる場合、数平均分子量(Mn)が、好ましくは300,000以下のとき、適度な溶融粘度を有することから成型性に優れる。該重合体をプレポリマーとして用いるとき、残留モノマーが存在していてもよく、組成物にモノマーが共存していてもよい。
【0068】
化合物(1)を重合されてなる重合体の分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)「Nexera GPC システム」((株)島津製作所の試験装置)を使用し、キャリアーをテトラヒドロフランまたはジメチルスルホキシド(添加剤として臭化リチウム含有)など、分子量スタンダードとしてポリスチレンまたはプルランなどを用い測定した。
【0069】
本発明の化合物(1)を重合されてなる重合体は、モノマーである化合物(1)をラジカル重合、アニオン重合及びカチオン重合等の常法により重合させることにより製造することができる。例えば、第4版実験化学講座28巻高分子合成(日本化学会編)に記載されている方法等で製造することができる。本発明の重合体の製造方法では、重合性基が(PG-1)、(PG-2)、および(PG-4)の場合は、適切な重量平均分子量のコントロールが可能なラジカル重合が好ましく、重合性基が(PG-3)の場合は、カチオン重合、または他のラジカル重合性モノマーとの共重合によるラジカル重合が好ましく、重合性基が(PG-5)、および(PG-6)の場合は、反応性良好なカチオン重合が望ましい。また、重合性基が(PG-5)、および(PG-6)の場合は、アミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤、フェノール系硬化剤との重付加反応により重合体を製造することもできる。
【0070】
ラジカル重合反応の溶媒としては、例えば、エーテル、エステル、ケトン、アミド、スルホキシド、アルコール及び炭化水素が挙げられる。より具体的には、エーテルは、ジエチルエーテル等の鎖状エーテル、テトラヒドロフラン及びジオキサン等の環状エーテル等である。エステルは、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル及び乳酸エチル等である。ケトンは、アセトン、メチルエチルケトン及びメチルイソブチルケトン等である。アミドは、N , N - ジメチルアセトアミド及びN , N- ジメチルホルムアミド等である。スルホキシドは、ジメチルスルホキシド等である。アルコールは、メタノール、エタノール及びプロパノール等である。炭化水素は、ベンゼン、トルエン及びキシレン等の芳香族炭化水素、ヘキサン等の脂肪族炭化水素並びにシクロヘキサン等の脂環式炭化水素等である。
【0071】
ラジカル重合反応の溶媒として、上記の重合反応の溶媒を混合した混合溶媒を用いてもよい。重合開始剤としては、公知の重合開始剤を使用できる。重合反応の温度は、例えば30~150℃程度の範囲で適宜選択すればよい。
【0072】
本発明の化合物(1)を重合されてなる重合体のラジカル重合による製造方法では、好ましく使用される重合開始剤として、2,2´-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2´-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2´-アゾビスイソブチロニトリル、2,2´-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、ジメチル2,2´-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、2,2´-アゾビス[N-(2-プロピル)-2-メチルプロピオンアミド]、2,2-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]などの有機アゾ系重合開始剤、過酸化ベンゾイル、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシベンゾエート等の有機過酸化物などが例示できる。これらの重合開始剤は、単独で使用しても、2種類以上の混合物で使用してもよい。
【0073】
本発明の化合物(1)を重合されてなる重合体のラジカル重合による製造方法では、好ましくは、2,2´-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2´-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2´-アゾビスイソブチロニトリル、2,2´-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)などの有機アゾ系重合開始剤が使用できる。有機アゾ系重合開始剤を使用することで、重合体製造時の安全性が確保され、制御された重量平均分子量の重合体が製造される傾向が見られる。
【0074】
本発明の化合物(1)を重合されてなる重合体のラジカル重合による製造方法では、適切な重量平均分子量のコントロールのために、モノマー100重量部に対し、重合開始剤を0.5~100重量部使用し、好ましくは、2~50重量部、より好ましくは、5~30重量部使用するのが望ましい。
【0075】
本発明の化合物(1)を重合されてなる重合体のラジカル重合による製造方法では、必要に応じて連鎖移動剤を使用することができる。連鎖移動剤としては特に制限されないが、重合体の重量平均分子量のコントロール、および、樹脂の銅箔等への密着性向上のため、メルカプタン化合物を好適に使用することができる。メルカプタン化合物としては、n-ブチル、イソブチル、n-オクチル、n-ドデシル、sec-ブチル、sec-ドデシル、tert-ブチルメルカプタン等のアルキル基又は置換アルキル基を有する第1級、第2級、第3級メルカプタン;フェニルメルカプタン、チオクレゾール、4-tert-ブチル-o-チオクレゾール等の芳香族メルカプタン;メルカプト酢酸、2-メルカプトプロピオン酸、3-メルカプトプロピオン酸、メルカプトこはく酸などのカルボキシ基を含有するメルカプタン化合物;メルカプト酢酸エチル、3-メルカプトプロピオン酸シクロヘキシル、3-メルカプトプロピオン酸トリデシルなどのエステル基を含有するメルカプタン化合物;2-メルカプトエタノール3-メルカプト-1,2-プロパンジオールなどの水酸基を含有するメルカプタン化合物が挙げられる。これらは単独で又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。これらのメルカプタン化合物のなかでも、樹脂の銅箔等への密着性向上のため、メルカプト酢酸、2-メルカプトプロピオン酸、3-メルカプトプロピオン酸、メルカプトこはく酸などのカルボキシ基を含有するメルカプタン化合物がより好ましい。また上記モノマー100重量部に対して、連鎖移動剤を0.5~200重量部使用し、好ましくは、5~100重量部、より好ましくは、30~100重量部使用するのが望ましい。
【0076】
[化合物(1)の合成方法]
化合物(1)は、有機合成化学における公知の手法を組み合わせることにより合成できる。出発物質に目的の末端基、環構造および結合基を導入する方法は、たとえば、ホーベン-ワイル(Houben-Wyle, Methods of Organic Chemistry, Georg Thieme Verlag, Stuttgart)、オーガニック・シンセシーズ(Organic Syntheses, John Wily & Sons, Inc.)、オーガニック・リアクションズ(Organic Reactions, John Wily & Sons Inc.)、コンプリヘンシブ・オーガニック・シンセシス(Comprehensive Organic Synthesis, Pergamon Press)、新実験化学講座(丸善)などの成書に記載されている。
【0077】
結合基Zの導入方法について、下記スキーム1~9で説明する。これらのスキームにおいて、MSGおよびMSGは、少なくとも一つの環を有する1価の有機基を示し、Halはハロゲンを示す。下記スキームで用いた複数のMSG(またはMSG)は、同一でも異なっていてもよい。下記スキームにおける化合物(1A)~(1M)は上記化合物(1)に相当する。これらの方法は、光学活性な化合物(1)および光学的に不活性な化合物(1)の合成に適用できる。
【0078】
(スキーム1)Zが単結合の化合物
下記に示すように、アリールホウ酸(S1)と公知の方法で合成される化合物(S2)とを、炭酸塩水溶液およびテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムのような触媒の存在下で反応させることにより、MSGとMSGとの間に単結合が導入された化合物(1A)を合成することができる。この化合物(1A)は、公知の方法で合成される化合物(S3)に、n-ブチルリチウム、次いで塩化亜鉛を反応させた後、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウムのような触媒の存在下で化合物(S2)をさらに反応させることによっても合成することができる。
【0079】
【0080】
(スキーム2)Zが-CH=CH-の化合物
下記に示すように、公知の方法で合成されるホスホニウム塩(S5)にカリウムt-ブトキシドなどの塩基を作用させて発生させたリンイリドと、アルデヒド(S4)とを反応させることにより、MSGとMSGとの間に-CH=CH-が導入された化合物(1B)を合成することができる。反応条件および基質によってはシス体が生成するので、必要に応じて公知の方法によりシス体をトランス体に異性化する。
【0081】
【0082】
(スキーム3)Zが-(CH-の化合物
下記に示すように、上記のようにして得られた化合物(1B)をパラジウム炭素などの触媒の存在下で水素化することにより、MSGとMSGとの間に-(CH2-を有する化合物(1C)を合成することができる。
【0083】
【0084】
(スキーム4)Zが-(CF-の化合物
下記に示すように、J. Am. Chem. Soc., 2001, 123, 5414 に記載されている方法に従い、フッ化水素触媒の存在下、ジケトン(S6)を四フッ化硫黄でフッ素化することにより、MSGとMSGとの間に-(CF-を有する化合物(1D)を合成することができる。
【0085】
【0086】
(スキーム5)Zが-(CH4-の化合物
下記に示すように、スキーム2の方法に従って、ホスホニウム塩(S5)の代わりにホスホニウム塩(S7)を用いて-(CH2-CH=CH-を有する化合物を合成し、これを上記スキーム3と同様にして接触水素化することにより、MSGとMSGとの間に-(CH4-が導入された化合物(1E)を合成することができる。
【0087】
【0088】
(スキーム6)Zが-CHO-または-OCH-の化合物
下記に示すように、化合物(S4)を水素化ホウ素ナトリウムなどの還元剤で還元して化合物(S8)を得る。これを臭化水素酸などでハロゲン化して化合物(S9)を得る。この化合物(S9)と化合物(S10)とを、炭酸カリウムなどの存在下で反応させることにより、MSGとMSGとの間に-OCH-(または-CHO-)が導入された化合物(1F)を合成することができる。
【0089】
【0090】
(スキーム7)Zが-COO-または-OCO-の化合物
下記に示すように、化合物(S3)に、n-ブチルリチウム、続いて二酸化炭素を反応させてカルボン酸(S11)を得る。この化合物(S11)とフェノール(S10)とを、DCC(1,3-ジシクロヘキシルカルボジイミド)およびDMAP(4-ジメチルアミノピリジン)の存在下で脱水反応させることにより、MSGとMSGとの間に-COO-(または-OCO-)が導入された化合物(1G)を合成することができる。
【0091】
【0092】
(スキーム8)Zが-CF=CF-の化合物
下記に示すように、化合物(S3)をn-ブチルリチウムで処理した後、テトラフルオロエチレンと反応させて化合物(S12)を得る。次いで、化合物(S2)をn-ブチルリチウムで処理した後、化合物(S12)と反応させることにより、MSGとMSGとの間に-CF=CF-が導入された化合物(1H)を合成することができる。合成条件を選択することで、シス体の化合物を製造することも可能である。
【0093】
【0094】
(スキーム9)Zが-CFO-または-OCF-の化合物
下記に示すように、上記スキーム7などの方法によって得られた化合物(1G)を、ローソン試薬のような硫黄化剤で処理して化合物(S16)を得る。この化合物(S16)を、フッ化水素ピリジン錯体およびN-ブロモスクシンイミド(NBS)でフッ素化することにより、MSGとMSGとの間に-CFO-(または-OCF-)を有する化合物(1M)を合成することができる。また、化合物(1M)は化合物(S16)を(ジエチルアミノ)サルファートリフルオリド(DAST)でフッ素化しても合成することができる。また、P. Kirsch et al., Angew. Chem. Int. Ed. 2001, 40, 1480.に記載の方法によってこれらの結合基を生成させることも可能である。
【0095】

【0096】
〔液晶組成物〕
本発明における低誘電基板用組成物(1)は、化合物(1)を重合されてなる重合体を少なくとも1種が含有されていればよく、2種以上の化合物を重合されてなる重合体が含有されていてもよい。すなわち、低誘電基板用組成物(1)は、2種以上の化合物(1)からなる重合体で構成されていてもよく、また、少なくとも1種の化合物(1)からなる重合体と、化合物(1)以外の少なくとも1種の化合物との組み合わせで構成されていてもよい。このような化合物(1)以外の構成要素としては、特に限定されないが、たとえば、化合物(1)以外の重合性化合物(以下「その他の重合性化合物」ともいう)、非重合性の液晶化合物、光学活性化合物、重合開始剤、溶媒および充填材などが挙げられる。
【0097】
<その他の重合性化合物>
低誘電基板用組成物(1)は、その他の重合性化合物を構成要素としてもよい。このような重合性化合物としては、膜形成性および機械的強度を低下させない化合物が好ましい。この重合性化合物は、液晶性を有しない化合物と液晶性を有する化合物とに分類される。液晶性を有しない重合性化合物としては、ビニル誘導体、スチレン誘導体、(メタ)アクリル酸誘導体、ソルビン酸誘導体、フマル酸誘導体、イタコン酸誘導体などが挙げられる。これらの誘導体の好ましい例は、前述の化合物(1)を重合されてなる重合体の説明と同様の化合物である。
【0098】
<その他の重合性液晶化合物>
低誘電基板用組成物(1)は、化合物(1)からなる重合体以外の重合性液晶化合物を重合されてなる重合体を含んでいてもよい。重合性液晶組成物の液晶相の発現ならびに化合物(1)および有機溶媒などとの相溶性の観点から、前述の式(M1)、(M2)、または(M3)で表される化合物が該重合性液晶化合物として好ましい。
【0099】
<非重合性の液晶化合物>
低誘電基板用組成物(1)は、重合性基を有しない液晶化合物を構成要素としてもよい。このような非重合性の液晶化合物の例は、液晶化合物のデータベースであるリクリスト(LiqCryst,LCI Publisher GmbH,Hamburg,Germany)などに記載されている。非重合性の液晶化合物を含有する低誘電基板用組成物(1)を重合させることによって、化合物(1)の重合体と液晶化合物との複合材料(composite materials)を得ることができる。このような複合材料では、たとえば、高分子分散型液晶のような高分子網目中に非重合性の液晶化合物が存在している。
【0100】
<重合開始剤>
低誘電基板用組成物(1)は重合開始剤を構成要素としてもよい。重合開始剤は、低誘電基板用組成物(1)の重合方法に応じて、たとえば光ラジカル重合開始剤、光カチオン重合開始剤、熱ラジカル重合用開始剤などを用いればよい。
【0101】
光ラジカル重合開始剤としては、特に限定されず、公知のものを使用することができ、
たとえば、4-メトキシフェニル-2,4-ビス(トリクロロメチル)トリアジン、2-(4-ブトキシスチリル)-5-トリクロロメチル-1,3,4-オキサジアゾール、9-フェニルアクリジン、9,10-ベンズフェナジン、ベンゾフェノン/ミヒラーズケトン混合物、ヘキサアリールビイミダゾール/メルカプトベンズイミダゾール混合物、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、ベンジルジメチルケタール、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパン-1-オン、2,4-ジエチルキサントン/p-ジメチルアミノ安息香酸メチル混合物、ベンゾフェノン/メチルトリエタノールアミン混合物などが挙げられる。市販のものとしては、たとえば、チバ・スペシャリティー(株)製「ダロキュアーシリーズ1173、4265」、「イルガキュアーシリーズ184、369、500、651、784、819、907、1300、1700、1800、1850、2959」などが挙げられる。
【0102】
光カチオン重合開始剤としては、特に限定されず、公知のものを使用することができ、たとえば、UCC(株)製「サイラキューアーUVI-6990、6974」、旭電化(株)製「アデカオプトマーSP-150、152、170、172」、ローディア(株)製「Photoinitiator 2074」、チバ・スペシャリティー(株)製「イルガキュアー250」、みどり化学(株)製「DTS-102」などが挙げられる。
【0103】
熱ラジカル重合用の好ましい開始剤としては、たとえば、過酸化ベンゾイル、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシピバレート、ジ-t-ブチルパーオキシド(DTBPO)、t-ブチルパーオキシジイソブチレート、過酸化ラウロイル、2,2’-アゾビスイソ酪酸ジメチル(MAIB)、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル(ACN)などが挙げられる。
【0104】
アニオン重合、配位重合およびリビング重合用の好ましい開始剤としては、たとえば、n-C49Li、t-C49Li-R3Alなどのアルカリ金属アルキル化合物、アルミニウム化合物、遷移金属化合物などが挙げられる。
【0105】
<硬化剤>
低誘電基板用組成物(1)が、環状エーテル基を有する化合物を構成要素とする場合、硬化剤を構成要素として含有してもよい。好ましい硬化剤の例を以下に示す。
【0106】
アミン系硬化剤として、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、o-キシレンジアミン、m-キシレンジアミン、p-キシレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、イソホロンジアミン、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン、ビス(4-アミノ-3-メチルシクロヘキシル)メタン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、ノルボルネンジアミン、1,2-ジアミノシクロヘキサン、3,9-ジプロパンアミン-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノ-1,2-ジフェニルエタン、o-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、ポリオキシプロピレンジアミン、ポリオキシプロピレントリアミン、ポリシクロヘキシルポリアミン、N-アミノエチルピペラジンなどが挙げられる。
【0107】
酸無水物系硬化剤として、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルナジック酸無水物、水素化メチルナジック酸無水物、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルシクロヘキセンテトラカルボン酸二無水物、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、エチレングリコールビスアンヒドロトリメチレート、グリセリンビス(アンヒドロトリメリテート)モノアセテート、デデセニル無水コハク酸、クロレンド酸無水物などが挙げられる。
【0108】
フェノール系硬化剤として、フェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、2,3-キシレノール、2,5-キシレノール、2,6-キシレノール、3,4-キシレノール、3,5-キシレノール、m-エチルフェノール、p-エチルフェノール、2,3,5-トリメチルフェノール、2,3,6-トリメチルフェノール、o-イソプロピルフェノール、p-tert-ブチルフェノール、o-sec-ブチルフェノール、p-オクチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、レゾルシノール、1-ナフトール、2-ナフトール、ビスフェノールA、フェノールノボラック、キシリレンノボラック、ビスフェノールAノボラックなどが挙げられる。
上記以外にも特開2004-256687号公報、特開2002-226550号公報などに記載されている硬化剤も使用することができる。
【0109】
<充填材としての無機フィラー>
低誘電基板用組成物(1)には、機械強度向上、誘電損失低下、熱伝導率向上、粘度調整などのために、充填材(無機フィラー)を加えることができる。たとえば、シリカ粉、特に中空シリカ粉を加えることにより低誘電正接の硬化物が得られる。さらに、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化珪素などの金属窒化物、ダイアモンド、黒鉛、炭化珪素などの炭化物、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化錫、酸化ホルミニウム、酸化カルシウムなどの金属酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、などの金属水酸化物、およびコーディエライト、またはムライトなどのケイ酸塩化合物、金、銀、銅、白金、鉄、錫、鉛、ニッケル、アルミニウム、マグネシウム、タングステン、モリブデン、ステンレスなどの金属充填材を加えると高熱伝導化が可能である。好ましくは、誘電率が低い、中空シリカ、窒化ホウ素が好ましい。
熱伝導率等は無機フィラーが多いほど高くなるが、一般に無機フィラーは樹脂成分と比べ、比誘電率が大きく誘電正接が小さいので、充填量を増やすと誘電率が大きくなる。したがって、充填量は目的とする誘電率を超えない範囲で必要量を充填することが好ましい。
【0110】
充填材の形状としては、球状、無定形、繊維状、棒状、筒状、板状などが挙げられる。充填材の形状は、重合性液晶化合物が液晶相を発現した際の配向を妨げない形状のものが好ましい。充填材の種類、形状、大きさ、添加量などは、目的に応じて適宜選択できる。得られる低誘電率成形体が絶縁性を必要とする場合、所望の絶縁性および誘電率、誘電損失が保たれれば導電性を有する充填材であっても構わない。好ましくは、中空シリカを用いると、低誘電であり、かつ低誘電正接の硬化物が得られ、板状結晶の窒化ホウ素は誘電率が低いので、高熱伝導率と低誘電特性が両立できる。重合性液晶化合物と微粒径の球状の酸化ケイ素を用いると溶融物や溶液の粘度を上げることができ、ケイ酸塩化合物を用いると成型体の熱膨張率を小さくできるので好ましい。
【0111】
球状または不定形状の充填材の平均粒径は、0.1~200μmであることが好ましい。より好ましくは、1~100μmである。0.1μm以上であると熱伝導率がよく、200μm以下であると充填率を上げることができる。繊維状の充填材に関しては、繊維長が長いほど引張強度は向上するが、混錬や分散はできなくなるので、用途によって選択することが好ましい。分散させる場合は、ウイスカー状の短繊維を用いると、均一に分散させやすく低誘電率成型体の強度を向上させやすいので好ましい。なお、本明細書において平均粒径とは、レーザー回折・散乱法による粒度分布測定に基づく。すなわち、フランホーファー回折理論およびミーの散乱理論による解析を利用して、湿式法により、粉体をある粒子径から2つに分けたとき、大きい側と小さい側が等量(体積基準)となる径をメジアン径とした。
充填材の量は、硬化後の低誘電率成形体中に20~95重量%の充填材を含有するようにすることが好ましい。より好ましくは、50~95重量%である。20重量%以上であると熱伝導率が高くなり好ましい。95重量%以下であると低誘電率成形体が脆くならず好ましい。
充填材としては、分散処理、防水処理などの表面処理された市販品をそのまま用いてもよく、該市販品から表面処理剤を除去したものを用いてもよい。また、処理されていない充填材を、シランカップリング剤、親和剤、表面張力調整剤、沈降防止剤、凝集防止剤などにより処理して用いてもよい。
【0112】
<ガラスクロス>
低誘電基板用組成物(1)は、優れた機械強度、誘電特性、熱伝導率などを得るために、ガラスクロスと複合化し、硬化させてもよい。ガラスクロスとしては市販のものが使用でき、低誘電ガラスクロスを用いると高周波で用いられるプリント基板に好適な機械強度と誘電特性を実現できるため好ましい。低誘電基板用組成物(1)との親和性を高めるために表面処理を施させたガラスクロスも使用することができる。ガラスクロスは、繊維の太さ及び密度は目的とする基板に必要な物性のものを使用することが好ましい。クロスに重合体を溶媒に溶かした液を含侵させ、溶媒を蒸発させたのちに加圧しながら加熱することで、プリント基板に好適な平滑さ及び機械強度をもつ基板が実現できる。
【0113】
<溶媒>
低誘電基板用組成物(1)は、溶媒を含有してもよい。低誘電基板用組成物(1)の重合は溶媒中で行っても、無溶媒で行ってもよい。溶媒を含有する低誘電基板用組成物(1)を基板上に、たとえばスピンコート法などにより塗布した後、溶媒を除去してから光重合させてもよい。また、光硬化後適当な温度に加温して熱硬化により後処理を行ってもよい。
【0114】
好ましい溶媒としては、たとえば、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、テトラヒドロフラン、γ-ブチロラクトン、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、PGMEAなどが挙げられる。上記溶媒は1種単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
なお、重合時の溶媒の使用割合を限定することにはあまり意味がなく、重合効率、溶媒コスト、エネルギーコストなどを考慮して、個々のケースごとに決定すればよい。
【0115】
<その他の添加剤>
化合物(1)、化合物(1)を重合されてなる重合体、および化合物(1)を重合させて得られる重合体(1)を含む低誘電基板用組成物(1)は、重合性を有するので、取扱いを容易にするために、安定剤を添加してもよい。なお、重合体(1)は、重合性基を残存して有しているため、プレポリマーとして用いられる。そのための安定剤として公知のものを制限なく使用でき、たとえば、ハイドロキノン、4-エトキシフェノールおよび3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシトルエン(BHT)などが挙げられる。
低誘電正接(低tanδ)、高ガラス転移温度が求められる用途では、架橋剤を添加することが好ましい。架橋剤は本発明の末端に重合性基を有する液晶化合物の重合性基と化学結合し、3次元架橋を形成するものが好ましい。
【0116】
[低誘電率樹脂]
本発明の別の実施形態である低誘電率樹脂は、上述の低誘電基板用組成物の硬化物であり、シート状、フィルム状、板状、繊維状、三次元形状の部品(コネクターの絶縁部分)などに用いられるほか、そのままコート剤、接着剤や充填剤として使用することもできる。該低誘電率樹脂は、上述の組成物の硬化物であるために低い誘電率を有するとともに、ポリマーとして重合性液晶化合物を用いているため、熱伝導率、耐熱性、剛性、弾性、成形流動性、耐薬品性、及び寸法安定性等にも優れる。
【0117】
低誘電率樹脂が液晶性を示す場合、硬化前の配向処理により分子配向を制御できる。比誘電率と熱伝導率は分子の配向方向により異方性が発現する。例えば電子基板の誘電率設計や熱設計の際に、発熱するICの真下は厚み方向に熱伝導率が高く、ICの真下以外は横方向に配向させて熱を広範囲に広げるようにデザインするなど、より進んだ材料設計が可能になる。配向方法は下記方法により制御できる。
【0118】
低誘電基板用組成物の組成物中の液晶分子のメソゲン部位を配向制御する方法としては、フィラー表面を配向能を持つシランカップリング剤や配向剤等で処理する方法、該組成物自体が有する自己配向規制力により配向させる方法等が挙げられる。これらの方法は、1種単独で行っても、2種以上を組み合わせて行ってもよい。このような配向制御方法により制御する配向状態としては、例えば、ホモジニアス、ツイスト、ホメオトロピック、ハイブリッド、ベンドおよびスプレー配向などが挙げられ、用途や配向制御方法に応じて適宜決定することができる。また、製膜時や成型時において、硬化前に液晶状態で、ずり応力を加え物理的に配向させることもできる。
【0119】
配向温度は、室温~250℃、好ましくは室温~200℃、より好ましくは室温~180℃の範囲である。上記熱処理時間は、5秒~2時間、好ましくは10秒~60分、より好ましくは20秒~30分の範囲である。熱処理時間が上記範囲よりも短いと、低誘電基板用組成物(1)からなる層の温度を所定の温度まで上昇できないことがあり、上記範囲よりも長いと、生産性が低下することがある。なお、上記熱処理条件は、低誘電基板用組成物(1)に用いられる化合物の種類および組成比、重合開始剤の有無および含有量などによって変化するため、あくまでおおよその範囲を示したものである。特に、重合開始温度より高くなってしまうと、配向する前に硬化してしまうので、分子鎖が一定方向に配向した低誘電率樹脂は得られない。
【0120】
低誘電基板用組成物(1)の重合方法としては、たとえば、ラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合、配位重合などが挙げられるが、分子配列を固定化したり、らせん構造を固定化したりするには、電子線、紫外線、可視光線または赤外線(熱線)などの光線や熱を利用した熱重合や光重合が適している。熱重合はラジカル重合開始剤の存在下で行うことが好ましく、光重合は光ラジカル重合開始剤の存在下で行うのが好ましい。たとえば、光ラジカル重合開始剤の存在下、紫外線または電子線などを照射する重合法によって、液晶分子の配列が固定化された重合体が得られる。得られる重合体(1)は、単独重合体、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体のいずれであってもよく、用途などに応じて適宜選択すればよい。
【0121】
低誘電基板用組成物(1)の配向を光重合により固定する際には、通常、紫外線または可視光線が用いられる。光照射に用いられる光の波長は、150~500nm、好ましくは250~450nm、より好ましくは300~400nmの範囲である。光照射の光源としては、たとえば、低圧水銀ランプ(殺菌ランプ、蛍光ケミカルランプ、ブラックライト)、高圧放電ランプ(高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ)およびショートアーク放電ランプ(超高圧水銀ランプ、キセノンランプ、水銀キセノンランプ)、紫外線発光ダイオードなどが挙げられる。これらの中では、メタルハライドランプ、キセノンランプ、紫外線発光ダイオードおよび高圧水銀ランプが好ましい。
【0122】
上記光源と低誘電基板用組成物(1)との間にフィルターなどを設置して特定の波長領域のみを通すことにより、照射光源の波長領域を選択してもよい。光源から照射する光量は、2~5000mJ/cm2、好ましくは10~3000mJ/cm2、より好ましくは100~2000mJ/cm2の範囲である。光照射時の温度条件は、上述した熱処理温度と同様に設定されることが好ましい。
【0123】
熱重合により低誘電基板用組成物(1)の配向を固定化する条件としては、熱硬化温度が、室温~350℃、好ましくは室温~250℃、より好ましくは50℃~200℃の範囲であり、硬化時間は、5秒~10時間、好ましくは1分~5時間、より好ましくは5分~1時間の範囲である。重合後は、応力ひずみなど抑制するために徐冷することが好ましい。また、再加熱処理を行い、ひずみなどを緩和させてもよい。
【0124】
上記のようにして配向制御した重合体もしくは重合過程の重合体を延伸などの機械的操作により、さらに任意の方向に配向制御してもよい。
単離した重合体(1)は、溶媒に溶かして配向処理基板上で配向させフィルムなどに加工してもよく、2つの重合体を混合して加工してもよく、複数の重合体を積層させてもよい。前記溶媒としては、たとえば、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミドジメチルアセタール、テトラヒドロフラン、クロロホルム、1,4-ジオキサン、ビス(メトキシエチル)エーテル、γ-ブチロラクトン、テトラメチル尿素、トリフルオロ酢酸、トリフルオロ酢酸エチル、ヘキサフルオロ-2-プロパノール、2-メトキシエチルアセテート、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどが好ましい。これらは、アセトン、ベンゼン、トルエン、ヘプタン、塩化メチレンなど一般的な有機溶媒と混合して用いてもよい。
【0125】
直線性の高い低誘電基板用組成物が液晶性を示さないか、液晶相を示す範囲が非常に狭い場合でも、結晶性が高い場合には一定方向に軸が揃ったドメインを形成するので、ビスフェノールA構造などの重合性化合物と比べ熱伝導率が高くなる。また、配向方向が揃った高分子シートの表面や結晶性の樹脂フィラーなどを結晶成長のコアとして存在させた状態で、等方相液体の状態からゆっくり硬化させることによっても、配向や結晶性が制御できる。ただし、結晶性を高くし過ぎるとフレキシブル性が低くなる傾向があるので、適切な結晶性の重合性組成物を使用する必要がある。
【0126】
本発明の低誘電率成形体は、上記低誘電基板用組成物(1)からなり、シート、フィルム、薄膜、繊維、成形体などの形状で使用する。好ましい形状はフィルムおよび薄膜である。フィルムおよび薄膜は、低誘電基板用組成物(1)を基板や離型フィルムに塗布した状態、または基板や金型などの平板で挟んだ状態で重合させることによって得られる。また、溶媒を含有する低誘電基板用組成物(1)を、配向処理した基板に塗布し、溶媒を除去することによっても得られる。さらに、フィルムについては、重合体をプレス成形することによっても得られる。なお、本明細書におけるシートの膜厚は1mm以上であり、フィルムの膜厚は5μm以上、好ましくは10~500μm、より好ましくは20~300μmであり、薄膜の膜厚は5μm未満である。
【0127】
以下、溶媒を含有する低誘電基板用組成物(1)を用いて、低誘電率成形体であるフィルムを製造する方法について具体的に説明する。
まず、離型処理した基板上に低誘電基板用組成物(1)を塗布し、溶媒を乾燥除去して膜厚の均一な塗膜層を形成する。塗布方法としては、たとえば、スピンコート、ロールコート、カテンコート、フローコート、プリント、マイクログラビアコート、グラビアコート、ワイヤーバーコード、デップコート、スプレーコート、メニスカスコート法などが挙げられる。
【0128】
溶媒の乾燥除去は、たとえば、室温での風乾、ホットプレートでの乾燥、乾燥炉での乾燥、温風や熱風の吹き付けなどにより行うことができる。溶媒除去の条件は特に限定されず、溶媒がおおむね除去され、塗膜層の流動性がなくなるまで乾燥すればよい。なお、低誘電基板用組成物(1)に用いる化合物の種類と組成比によっては、塗膜層を乾燥する過程で、塗膜層中の液晶分子の分子配向が完了していることがある。このような場合、乾燥工程を経た塗膜層は、前述した熱処理工程を経由することなく、重合工程に供することができる。しかしながら、塗膜層中の液晶分子の配向をより均一化させるためには、乾燥工程を経た塗膜層を液晶相発現温度まで加熱し液晶状態で配向させ、その後に光重合または熱重合処理して配向を固定化することが好ましい。
【0129】
また、低誘電基板用組成物(1)を硬化させて低誘電率絶縁膜として使用する場合には、低誘電基板用組成物(1)の基板上への塗布前に基板表面を配向処理することも好ましい。分子量が大きいプレポリマーは配向剤では配向しにくいが、未反応のモノマーを残したり、後からモノマーを添加したりした場合には、それらのモノマーを前記配向処理によって、配向させることができる。配向処理方法としては、たとえば、基板上に配向膜を形成するだけでもよいし、基板上に配向膜を形成させた後、レーヨン布などでラビング処理する方法、基板を直接レーヨン布などでラビング処理する方法、さらには酸化ケイ素を斜方蒸着する方法、延伸フィルム、光配向膜またはイオンビームなどを用いるラビングフリー配向などの方法が挙げられる。また、基板表面の処理を行わなくても、所望の配向状態を形成することができる場合もある。たとえば、ホメオトロピック配向を形成する場合はラビング処理等の表面処理を行わない場合が多いが、より高い配向性を実現する点でラビング処理を行ってもよい。
【0130】
上記配向膜としては、低誘電基板用組成物(1)の配向を制御できるものであれば特に限定されず、公知の配向膜を用いることができ、たとえば、ポリイミド、ポリアミド、ポリビニルアルコール、アルキルシラン、アルキルアミンもしくはレシチン系配向膜が好適である。垂直配向させる場合にはシランカップリング剤も好適である。
【0131】
上記ラビング処理には任意の方法を採用することができ、通常は、レーヨン、綿およびポリアミドなどの素材からなるラビング布を金属ロールなどに捲き付け、基板または配向膜に接した状態でロールを回転させながら移動させる方法や、ロールを固定したまま基板側を移動させる方法などが採用される。
【0132】
また、より均一な配向を得るために配向制御添加剤を低誘電基板用組成物(1)中に含有させてもよい。このような配向制御添加剤としては、たとえば、イミダゾリン、4級アンモニウム塩、アルキルアミンオキサイド、ポリアミン誘導体、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン縮合物、ポリエチレングリコールおよびそのエステル、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ラウリル硫酸アミン類、アルキル置換芳香族スルホン酸塩、アルキルリン酸塩、脂肪族もしくは芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物、ラウリルアミドプロピルベタイン、ラウリルアミノ酢酸ベタイン、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンアルキルアミン、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物、パーフルオロアルキルトリメチルアンモニウム塩、パーフルオロアルキル基と親水性基とを有するオリゴマー、パーフルオロアルキル基と親油性基とを有するオリゴマー、パーフルオロアルキル基を有するウレタン、および、1級アミノ基を有する有機ケイ素化合物(例えば、アルコキシシラン型、直鎖状のシロキサン型、および、3次元縮合型のシルセスキオキサン型の有機ケイ素化合物)などが挙げられる。
【0133】
上記基板としては、たとえばポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリケトンサルファイド、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンオキサイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリアリレート、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、セルロース、トリアセチルセルロースもしくはその部分鹸化物、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ノルボルネン樹脂などのプラスティックフィルム基板、およびガラス強化樹脂基板のほか、アルカリガラス、ホウ珪酸ガラス、フリントガラスなどのガラス基板;アルミニウム、鉄、銅などの金属基板;シリコンなどの無機基板;などが挙げられる。
【0134】
上記フィルム基板は、一軸延伸フィルムでも、二軸延伸フィルムであってもよい。上記フィルム基板は、事前に鹸化処理、コロナ処理、プラズマ処理などの表面処理を施してもよい。なお、これらのフィルム基板上には、上記低誘電基板用組成物(1)に含まれる溶媒に侵されないような保護層を形成してもよい。保護層として用いられる材料としては、たとえばポリビニルアルコールが挙げられる。さらに、保護層と基板の密着性を高めるためにアンカーコート層を形成させてもよい。このようなアンカーコート層は保護層と基板の密着性を高めるものであれば、無機系および有機系のいずれの材料であってもよい。
本発明の低誘電基板用組成物は、低誘電基板、低誘電シート、低誘電コーティング、低誘電接着剤、低誘電成形品などに有用である。
【0135】
<製造方法>
以下、低誘電基板用組成物を製造する方法、および該組成物から低誘電率高耐熱基板および、低誘電率高耐熱絶縁層を製造する方法について具体的に説明する。
【0136】
本発明の、低誘電基板用組成物は、そのまま液晶相や等方相を発現する温度領域で液状の樹脂原料として用いるほかに、溶媒に溶解させて使用することもできる。溶液の調製は、重合性液晶組成物、必要な溶媒、フィラー、添加剤を加え、撹拌機を用いて組成ムラが無くなる程度まで撹拌・脱泡する。例えば、自転公転ミキサーを用い、回転数2000rpmで10分間撹拌後、回転数2200rpmで10分間脱泡する。自転公転ミキサーの他には、攪拌モーター、らいかい機、三本ロール、ボールミル、自転・公転ミル、遊星ミル、ビーズミル、ジェットミル等を用いて分散させることができる。
【0137】
塗布方法には、低誘電基板用組成物を均一にコーティングするために、ウェットコーティング法を用いることが好ましい。ウェットコーティング法のうち、少量を作成する場合には簡便で均質な製膜が可能であるスピンコート法が好ましい。生産性を重視する場合には、グラビアコート法、ダイコート法、バーコート法、リバースコート法、ロールコート法、スリットコート法、ディッピング法、スプレーコート法、キスコート法、リバースキスコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、インクジェット法、フレキソ印刷法、スクリーン印刷法、ロッドコート法などが好ましい。ウェットコーティング法は、これらの方法から必要とする膜厚、粘度や硬化条件等に応じて適宜選択することができる。
【0138】
シートを製造する場合には、離型処理した基材上に低誘電基板用組成物を前記方法などでコーティングし剥離するキャスト法、構造物を製造する場合には金型を用い、プレス成型法、インジェクション法、各種3Dプリンター成型法(吐出積層法)などの樹脂成型法を用いることができる。成型後、金型を外して本硬化することも、金型に入れたまま本硬化することも可能である。さらに、ガラスクロスとの複合シートを製造する場合には、溶媒に溶かした原料をガラスクロスに含侵させ、溶媒を乾燥させたのちに、加圧し、加熱することにより硬化することが可能である。
【実施例0139】
実施例(化合物、組成物、重合体、樹脂などの作製例を含む)により、本発明をさらに詳しく説明する。本発明はこれらの実施例によって制限されない。
【0140】
[化合物(1)の合成例]
化合物(1)は、合成例1など実施例に示す手順により合成した。特に記載のないかぎり、反応は窒素雰囲気下で行った。合成した化合物は、NMR分析などの方法により同定した。化合物(1)、組成物、重合体、樹脂などの素子特性は、下記の方法により測定した。
【0141】
<NMR分析>
測定には、JEOL社製のJNM-ECZRを用いた。H-NMRの測定では、試料をCDClなどの重水素化溶媒に溶解させ、測定は、室温で、500MHz、積算回数16回の条件で行った。テトラメチルシランを内部標準として用いた。19F-NMRの測定では、CFClを内部標準として用い、積算回数32回で行った。核磁気共鳴スペクトルの説明において、sはシングレット、dはダブレット、tはトリプレット、qはカルテット、quinはクインテット、sexはセクステット、mはマルチプレット、brはブロードであることを意味する。
【0142】
<ガスクロマト分析>
測定には、島津製作所製のGC-2014型ガスクロマトグラフを用いた。カラムは、Agilent Technologies Inc.製のキャピラリカラムDB-1(長さ30mまたは15m、内径0.25mm、膜厚0.25μm)を用いた。キャリアーガスとしては窒素(1ml/分)を用いた。試料気化室の温度を300℃、検出器(FID)部分の温度を300℃に設定した。試料はアセトンなどの適切な溶媒に溶解して、1重量%の溶液となるように調製し、得られた溶液1μlを試料気化室に注入した。記録計には島津製作所製のGCSolutionシステムなどを用いた。
【0143】
<HPLC分析>
測定には、島津製作所製のProminence(LC-20AD;SPD-20A)を用いた。カラムはワイエムシー製のYMC-Pack ODS-A(長さ150mm、内径4.6mm、粒子径5μm)を用いた。溶出液はアセトニトリルと水を適宜混合して用いた。検出器としてはUV検出器、RI検出器、CORONA検出器などを適宜用いた。UV検出器を用いた場合、検出波長は254nmとした。試料はアセトニトリルに溶解して、0.1重量%の溶液となるように調製し、この溶液1μLを試料室に導入した。記録計としては島津製作所製のC-R7Aplusを用いた。
【0144】
<紫外可視分光分析>
測定には、島津製作所製のPharmaSpec UV-1700用いた。検出波長は190nmから700nmとした。試料はアセトニトリルに溶解して、0.01mmol/Lの溶液となるように調製し、石英セル(光路長1cm)に入れて測定した。
【0145】
<測定試料>
相構造および転移温度(透明点、融点、重合開始温度など)を測定するときには、化合物そのものを試料として用いた。
(1)相構造
偏光顕微鏡を備えた融点測定装置のホットプレート(メトラー社FP-52型ホットステージ)に試料を置いた。この試料を、3℃/分の速度で加熱しながら相状態とその変化を偏光顕微鏡で観察し、相の種類を特定した。
【0146】
(2)転移温度(℃)
測定には、エスエスアイ・ナノテクノロジー社製の高感度示差走査熱量計、X-DSC7000を用いた。試料は、3~5℃/分の速度で昇降温し、試料の相変化に伴う吸熱ピークまたは発熱ピークの開始点を外挿により求め、転移温度を決定した。化合物の融点、重合開始温度もこの装置を使って測定した。化合物が固体からスメクチック相、ネマチック相などの液晶相に転移する温度を「液晶相の下限温度」と略すことがある。化合物が液晶相から液体に転移する温度を「透明点」と略すことがある。
【0147】
結晶はCと表した。結晶の種類の区別がつく場合は、それぞれをC、Cのように表した。スメクチック相はS、ネマチック相はNと表した。スメクチック相の中で、スメクチックA相、スメクチックB相、スメクチックC相、またはスメクチックF相の区別がつく場合は、それぞれS、S、S、またはSと表した。液体(アイソトロピック)はIと表した。転移温度は、例えば、「C 50.0 N 100.0 I」のように表記した。これは、結晶からネマチック相への転移温度が50.0℃であり、ネマチック相から液体への転移温度が100.0℃であることを示す。
【0148】
[合成例1]
化合物(S01 :化合物(1-1-1a)でRがともにCH、n=0、m=0、MおよびZが単結合である化合物)の合成

4,4’-ビフェニルジオール(S01-a)は、例えば富士フイルム和光純薬(株)などで市販されている。
【0149】
窒素雰囲気下で、4,4’-ビフェニルジオール(S01-a)(10.0g、53.70mmol)、N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)(24.4g、118.2mmol)、4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)(3.94g、32.22mmol)のジクロロメタン(100mL)溶液を-10℃まで冷却して攪拌した。得られた溶液にメタクリル酸(9.71g、112.8mmol)を滴下し、徐々に常温まで温度を上げてそのまま6時間攪拌した。反応液にジクロロメタン(100mL)を追加して濾過し、水で3回洗浄した後に有機層を40℃で減圧濃縮した。得られた残査をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶媒:トルエン/酢酸エチル=5/1(容積比))で生成物を単離し、40℃で減圧濃縮した。その後に再結晶ろ過(ヘプタン/酢酸エチル=3/3v)により精製し、さらに減圧乾燥して化合物(S01)(11.8g、36.52mmol)を得た。この化合物(S01)の転移点はC 150.9 I(℃)であった。また重合開始温度は171.9℃であった。
【0150】
また、化合物のH-NMRシグナルは以下の通りであった。
δ(ppm;CDCl):7.58-7.56(d,4H)、7.19-7.18(d,4H)、6.37(qd,2H)、6.21(qd,2H)、2.07(dd,6H)
【0151】
[合成例2]
化合物(S02 :化合物(1-1-3a)でRはともにCH、n=0、m=0、MおよびZが単結合である化合物)の合成

4,4’-ビシクロヘキシルジオール(S02-a)は、例えば富士フイルム和光純薬(株)などで市販されている。この原料を一般的な再結晶ろ過などの手法を用いて精製し、トランス体を単離した。
【0152】
4,4’-ビフェニルジオール(S01-a)の替わりに4,4’-ビシクロヘキシルジオール(S02-a)を使用して、実施例1の合成例1に記載されたものと同様の方法によって化合物(S02)(3.60g、10.76mmol)を得た。
この化合物(S01)の転移点はC 113.0 I(℃)であった。また重合開始温度は118.8℃であった。
【0153】
また、化合物のH-NMRシグナルは以下の通りであった。
δ(ppm;CDCl):6.06(qd,2H)、5.52-5.51(qd,2H)、4.71-4.65(tt,2H)、2.05-2.00(m、4H)、1.92-1.91(dd,6H)、1.80-1.77(m,4H)、1.38-1.36(m,4H)、1.15-1.08(m,6H)
【0154】
[合成例3]
化合物(S03 :化合物(1-1-1a)でRはともにCH、n=0、m=6、Mが酸素、Zが単結合である化合物)の合成


4,4’-ビフェニルジオール(S03-a)は、例えば富士フイルム和光純薬(株)などで市販されている。

【0155】
(第1段)
窒素雰囲気下で、4,4’-ビフェニルジオール(S01-a)(10.0g、53.70mmol)、水酸化ナトリウム(4.51g、112.8mmol)、6-ブロモ-1-ヘキサノール(20.4g、112.8mmol)のN,N-ジメチルホルムアミド(100mL)溶液を60℃で6時間加熱攪拌した。反応液をそのまま濾過し、結晶をエタノールで3回洗浄した後に減圧乾燥して化合物(S03-b)(14.0g、36.22mmol)を得た。
【0156】
(第2段)
4,4’-ビフェニルジオール(S01-a)の替わりに前段で得た化合物(S03-b)および4,4’-ビシクロヘキシルジオール(S02-a)を使用して、実施例1の合成例1に記載されたものと同様の方法によって化合物(S03)(2.90g、5.55mmol)を得た。この化合物(S03)の転移点はC 61.9 I(℃)であった。また重合開始温度は163.3℃であった。
【0157】
また、化合物のH-NMRシグナルは以下の通りであった。
δ(ppm;CDCl):7.45-7.43(d,4H)、6.94-6.91(d,4H)、6.09(qd,2H)、5.54-5.53(qd,2H)、4.17-4.14(t,4H)、3.99-3.97(t,4H)、1.93(dd,6H)、1.84-1.78(tt,4H)、1.74-1.68(tt,4H)、1.55-1.42(m,8H)
【0158】
[合成例4]
化合物(S04 :化合物(1-1-3a)で、RがともにCH、n=0、m=6、Mが単結合、Zが単結合である化合物)の合成

4,4’-ビシクロヘキサノン(S04-a)は、例えば東京化成工業(株)などで市販されている。
【0159】
【0160】
(第1段)
1-ブロモ-7-メトキシヘプタンは一般的な有機合成法を用いて容易に準備できる。窒素雰囲気下で、マグネシウムとTHFの混合液に1-ブロモ-7-メトキシヘプタンを加えてGrignard試薬を調製する。調製されたGrignard試薬に30℃で4,4’-ビシクロヘキサノン(S04-a)のTHF溶液を加え、そのまま1時間攪拌する。反応液を1N-HCl溶液にゆっくりと加えてトルエンにて抽出し、有機層を水で3回洗浄する。得られた有機層を減圧濃縮して化合物(S04-b)を得る。
【0161】
(第2段)
窒素雰囲気下で、前段で得られた化合物(S04-b)、p-トルエンスルホン酸一水和物のトルエン溶液をデーンスタックトラップを使用して生成した水を除去しながら110℃で1時間加熱攪拌する。反応液にトルエンを加え、水で3回洗浄して有機層を40℃で減圧濃縮する。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶媒:トルエン)、および再結晶ろ過(ヘプタン/エタノール)により精製し、化合物(S04-c)を得る。
【0162】
(第3段)
前段で得られた化合物(S04-c)およびパラジウム/カーボンをトルエン/iso-プロピルアルコール(IPA)混合溶液に常温でHを加え、H雰囲気下で6時間攪拌する。反応液を濾過して40℃で減圧濃縮し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶媒:トルエン)および再結晶ろ過(溶媒:ヘプタン/エタノール)により精製し、化合物(S04-d)を得る。
【0163】
(第4段)
前段で得られた化合物(S04-d)のアセトン溶液に、常温にて3N-HCl水溶液を加え、そのまま2時間攪拌する。反応液をトルエンにて抽出し、水で3回洗浄した後に40で減圧濃縮する。得られた残渣をエタノールで洗浄して減圧乾燥することにより化合物(S04-e)を得る。
【0164】
(第5段)
4,4’-ビフェニルジオール(S01-a)の替わりに化合物(S04-e)を使用して、実施例1の合成例1に記載されたものと同様の方法によって化合物(S04)を得る。
【0165】
[化合物(1)を重合されてなる重合体の合成例]
化合物(1)を重合されてなる重合体は、合成例5~10に示す手順によって合成した。特に記載のないかぎり、反応は窒素雰囲気下で行った。重合体の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)の測定は、下記の方法により行った。
【0166】
<ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)分析>
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)分析により、重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)を決定した。測定装置として、「Nexera GPC システム」((株)島津製作所製)を使用し、GPCカラムはPLgel5μmMIXED-D(アジレント社製)、GPC KF-804(昭和電工(株)製)、GPC KF-805(昭和電工(株)製)、および、TSKgel α-3000(東ソー社製)などを用い、キャリアーをテトラヒドロフラン、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドまたはジメチルスルホキシド(添加剤として臭化リチウム含有)などを用い、分子量スタンダードとしてポリスチレンまたはプルランなどを用い測定した。重合体の多分散度(Mw/Mn)は、MwおよびMnの測定結果より算出した。
【0167】
[合成例5]
重合体(S02-1)の合成
300mL容3口丸底フラスコに化合物(S02)(3.00g、100重量部)およびトルエン(70g)を添加し、60℃で30分間撹拌した。次いで、フラスコに2,2´-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)(0.60g、20重量部)を添加し、60℃で2時間撹拌した。反応混合物を室温に冷却後、減圧濃縮によって有機溶媒を留去し、重合体の粗生成物(S02-1c)(3.38g)を得た。重合体の粗生成物をトルエン(20mL)に希釈し、ヘプタン(350mL)に添加し、生じた沈殿を濾別し、減圧乾燥することで精製を行い、白色粉末として0.34gの重合体(S02-1)を得た。重合体をGPC分析したところ、重合体の粗生成物(S02-1c)ではMnが283、Mwが2,816、Mw/Mnが9.94であり、精製後の重合体(S02-1)はMnが1,147、Mwが5,075、Mw/Mnが4.43であった。
【0168】
[合成例6]
重合体(S02-2)の合成
300mL容3口丸底フラスコに化合物(S02)(3.00g、100重量部)およびトルエン(70g)を添加し、60℃で30分間撹拌した。次いで、フラスコに2,2´-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)(0.45g、15重量部)を添加し、60℃で2時間撹拌した。反応混合物を室温に冷却後、減圧濃縮によって有機溶媒を留去し、重合体の粗生成物(S02-2c)(3.31g)を得た。重合体の粗生成物をトルエン(20mL)に希釈し、ヘプタン(350mL)に添加し、生じた沈殿を濾別し、減圧乾燥することで精製を行い、白色粉末として0.32gの重合体(S02-2)を得た。重合体をGPC分析したところ、重合体の粗生成物(S02-2c)ではMnが271、Mwが5,307、Mw/Mnが19.94であり、精製後の重合体(S02-2)はMnが1,183、Mwが12,506、Mw/Mnが10.57であった。
【0169】
[合成例7]
重合体(S02-3)の合成
還流管を備えた300mL容3口丸底フラスコに化合物(S02)(3.00g、100重量部)およびトルエン(70g)を添加し、100℃で30分間撹拌した。次いで、フラスコに2,2´-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(0.90g、30重量部)を添加し、100℃で2時間撹拌した。反応混合物を室温に冷却後、減圧濃縮によって有機溶媒を留去し、重合体の粗生成物(S02-3c)(3.22g)を得た。重合体の粗生成物をトルエン(20mL)に希釈し、ヘプタン(350mL)に添加し、生じた沈殿を濾別し、減圧乾燥することで精製を行い、白色粉末として1.62gの重合体(S02-3)を得た。重合体をGPC分析したところ、重合体の粗生成物(S02-3c)ではMnが447、Mwが22,467、Mw/Mnが50.24であり、精製後の重合体(S02-3)はMnが4,317、Mwが27,784、Mw/Mnが6.49であった。
【0170】
[合成例8]
重合体(S02-4)の合成
還流管を備えた300mL容3口丸底フラスコに化合物(S02)(3.00g、100重量部)およびトルエン(70g)を添加し、100℃で30分間撹拌した。次いで、フラスコに2,2´-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(0.30g、10重量部)を添加し、100℃で2時間撹拌した。反応混合物を室温に冷却後、減圧濃縮によって有機溶媒を留去し、重合体の粗生成物(S02-4c)(3.01g)を得た。重合体の粗生成物をトルエン(20mL)に希釈し、ヘプタン(350mL)に添加し、生じた沈殿を濾別し、減圧乾燥することで精製を行い、白色粉末として1.64gの重合体(S02-4)を得た。重合体をGPC分析したところ、重合体の粗生成物(S02-4c)ではMnが477、Mwが18,729、Mw/Mnが39.27であり、精製後の重合体(S02-4)はMnが3,050、Mwが21,245、Mw/Mnが3.73であった。
【0171】
[合成例9]
重合体(S02-5)の合成
100mL容3口丸底フラスコに化合物(S02)(3.00g、100重量部)、トルエン(15g)およびチオグリコール酸(3.00g、100重量部)を添加し、80℃で30分間撹拌した。次いで、フラスコに2,2´-アゾビスイソブチロニトリル(0.165g、5.5重量部)を添加し、80℃で2時間撹拌した。反応混合物を室温に冷却後、酢酸エチルで希釈した。有機層を純水で洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧濃縮によって有機溶媒を留去することで、重合体(S02-5)(2.96g)を得た。重合体(S02-5)をGPC分析したところ、Mnが1,168、Mwが3,415、Mw/Mnが2.92であった。
【0172】
[実施例1~5;化合物(1)を重合されてなる重合体の物性評価]
重合体(S02-1)、(S02-2c)、(S02-2)、(S02-3c)、および(S02-4)の物性評価を、以下の手順によって実施した。
【0173】
<ガラスクロスからの滲出試験>
合成した重合体0.2gを1-メチル-2-ピロリドン(富士フイルム和光純薬(株)製、97%)(NMP)を少しずつ加えながら溶解させ、この溶液を3cm角に切り出したガラスクロス(日東紡績(株)NEガラス2116)に染み込ませた。このサンプルを120℃にセットしたホットプレート上で乾燥させた。乾燥後の重量を測定後、160℃に温度を上げたホットプレートに再び載せ1時間熱処理した。熱処理後の重量-熱処理前の重量=滲出量とし、滲出量が少ない方が基板用樹脂として優れているといえる。
【0174】
<比誘電率測定用サンプルの作成>
滲出試験と同様に準備した重合体の溶液を、ポリイミドフィルム(パナック(株)製、カプトン200H)に厚みが約60μmになるように塗布し、同様に2層のサンプルを得た。製膜後のサンプルから、50mm×50mmの比誘電率評価用サンプルを切り出し評価した。
【0175】
<比誘電率の評価方法>
50mm角に切り出したサンプルを、ベクトルネットワークアナライザー(アンリツ社製MS46522B-043型)に接続した、株式会社AET製の空洞共振器(TEモード10GHz用、28GHz用)を用いて、共振周波数のシフト量と減衰量を測定し、同社製ソフトウエアを用いて比誘電率を計算した。また、測定値はポリイミドフィルムと硬化膜の2層構造の測定結果であるので、ポリイミドフィルムのみを測定した値を用いて、同社の計算シートで硬化膜のみの誘電率を求めた。データの比較時に短冊中の水分量の影響を少なくするために、短冊の整形は測定前日におこない、比誘電率の評価は温度20℃、湿度48%の実験室で、サンプルを60分以上静置したあとで開始した。
【0176】
[比較例1]
化合物(S02;重合体の原料に使用した化合物)を用いて実施例1~5と同様に評価用サンプルを作製し、熱処理前後の重量変化を求めた。比誘電率作製用のサンプルも試みたが、フィルムが脆く、また硬化時に反ってしまったため、クラックがなく測定機に入れることができる5cm角のサンプルを得ることはできなかった。
【0177】
[比較例2]
ビスフェノールF型エポキシ(三菱化学(株)製、807)を6.92g、4,4’-メチレンジアニリン(富士フイルム和光純薬(株)製、98%)、NMP2.0gを混ぜ、透明の液体になったのちに、実施例1~5と同様の方法で比較サンプルを作製し、実施例1~5と同様に重量変化を評価した。誘電率も同様にポリイミドフィルム状に硬化膜を作製し測定した。
【0178】
実施例1~5、および比較例1,2で得られた熱処理前後の重量変化と比誘電率を表1に示す。
【0179】
<表1>
【0180】
表1より、本発明の重合体をプレポリマーとして使用した場合、該重合体の原料に使用した化合物を使用した場合と比べ、ガラスクロスからの滲出が少ないことから、基板成型性が改善されていることがわかる。また、本発明の重合体は、汎用エポキシ樹脂と比較して比誘電率が低いため、高速通信機器や、高速データサーバーなどの高周波機器用低誘電基板の原料に好適であることがわかる。