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  • 特開-酸化銀電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023035258
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】酸化銀電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/197 20210101AFI20230306BHJP
   H01M 50/109 20210101ALI20230306BHJP
   H01M 50/184 20210101ALI20230306BHJP
   H01M 50/198 20210101ALI20230306BHJP
   H01M 50/193 20210101ALI20230306BHJP
   H01M 6/12 20060101ALI20230306BHJP
   H01M 50/153 20210101ALI20230306BHJP
   H01M 50/159 20210101ALI20230306BHJP
   H01M 50/188 20210101ALI20230306BHJP
【FI】
H01M50/197
H01M50/109
H01M50/184 E
H01M50/198
H01M50/193
H01M6/12 A
H01M50/153
H01M50/159
H01M50/188
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021141954
(22)【出願日】2021-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100217135
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 誠
(72)【発明者】
【氏名】前田 耕一郎
(72)【発明者】
【氏名】井上 雄介
(72)【発明者】
【氏名】弘瀬 敬久
(72)【発明者】
【氏名】橋本 しおり
【テーマコード(参考)】
5H011
5H024
【Fターム(参考)】
5H011AA17
5H011BB03
5H011CC06
5H011FF03
5H011GG02
5H011GG05
5H011HH02
5H011HH03
5H011HH04
5H011HH13
5H011KK04
5H024AA04
5H024DD04
5H024HH11
(57)【要約】
【課題】長寿命の酸化銀電池を提供する。
【解決手段】電池容器内に正極、負極、セパレータおよび電解液を収容してなる酸化銀電池であって、前記電池容器は、正極缶と負極缶とを、樹脂製ガスケットおよび前記樹脂製ガスケットの負極缶側に設けられたシール剤層を介して接合してなり、前記シール剤層は、前記負極缶側に位置するゴム系シール剤の層と、前記樹脂製ガスケット側に位置するアスファルト系シール剤の層とを備える酸化銀電池である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池容器内に正極、負極、セパレータおよび電解液を収容してなる酸化銀電池であって、
前記電池容器は、正極缶と負極缶とを、樹脂製ガスケットおよび前記樹脂製ガスケットの負極缶側に設けられたシール剤層を介して接合してなり、
前記シール剤層は、前記負極缶側に位置するゴム系シール剤の層と、前記樹脂製ガスケット側に位置するアスファルト系シール剤の層とを備える、酸化銀電池。
【請求項2】
前記ゴム系シール剤が、ガラス転移温度が0℃以下であるゴム系重合体を含む、請求項1に記載の酸化銀電池。
【請求項3】
前記アスファルト系シール剤がブローンアスファルトを含む、請求項1または2に記載の酸化銀電池。
【請求項4】
前記樹脂製ガスケットがナイロン66からなる、請求項1~3のいずれか一項に記載の酸化銀電池。
【請求項5】
前記負極缶の、前記シール剤層と接触する面が銅からなる、請求項1~4のいずれか一項に記載の酸化銀電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化銀電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、腕時計などの小型電子機器の電源として酸化銀電池が用いられている。
【0003】
酸化銀電池は、通常、開口部を有する正極缶、負極缶(負極端子板、封口板)、および樹脂製ガスケットにより画定される空間内に、酸化銀を活物質とする正極、亜鉛などを活物質とする負極、セパレータ、および電解液などの発電要素が収容されてなる電池である(特許文献1を参照)。そして、正極缶の開口部は、通常、正極缶と負極缶とを樹脂製ガスケットを介して嵌合し、カシメ加工などの接合技術を用いて接合することにより封口されている。
【0004】
ここで、酸化銀電池においては、嵌合部の密閉性を高めるために、通常、負極缶と樹脂製ガスケットとが当接する部分にシール剤が付与される。例えば、特許文献2には、陰極封口板(負極缶)の周縁と絶縁パッキング(樹脂製ガスケット)の内周縁との間にアスファルトピッチ(シール剤)が付与された酸化銀電池が開示されている。また近年、このようなアスファルト系シール剤に代えて、ブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴムなどのゴム系シール剤を使用することが提案されている(例えば、特許文献3および4を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-120549号公報
【特許文献2】特開昭58-019853号公報
【特許文献3】特開平11-40118号公報
【特許文献4】国際公開第2019/049833号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、近年、酸化銀電池の長寿命化に対する要求が高まっている。しかしながら、従来の酸化銀電池は、使用条件によっては、負極缶と樹脂製ガスケットとの間から電解液が漏液することがあり、電池の寿命が短くなるという問題があった。
したがって、従来の酸化銀電池には、電解液の漏液を抑制して電池の長寿命化を実現するという点において改善の余地があった。
【0007】
そこで、本発明は、長寿命の酸化銀電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討の結果、異なる種類の所定のシール剤を負極缶側および樹脂製ガスケット側にそれぞれ付与して正極缶の開口部を封口すれば、電解液の漏液を良好に抑制することができ、それにより酸化銀電池の長寿命化を実現し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の酸化銀電池は、電池容器内に正極、負極、セパレータおよび電解液を収容してなる酸化銀電池であって、前記電池容器は、正極缶と負極缶とを、樹脂製ガスケットおよび前記樹脂製ガスケットの負極缶側に設けられたシール剤層を介して接合してなり、前記シール剤層は、前記負極缶側に位置するゴム系シール剤の層と、前記樹脂製ガスケット側に位置するアスファルト系シール剤の層とを備えることを特徴とする。このように、負極缶側に位置するゴム系シール剤の層と樹脂製ガスケット側に位置するアスファルト系シール剤の層とを備えるシール剤層を用いれば、負極缶と樹脂製ガスケットとの間からの電解液の漏液を良好に抑制することができる。そのため、酸化銀電池を長寿命化することができる。
【0010】
また、本発明の酸化銀電池において、前記ゴム系シール剤が、ガラス転移温度が0℃以下であるゴム系重合体を含むことが好ましい。このように、ガラス転移温度が0℃以下であるゴム系重合体を含むゴム系シール剤を用いれば、ゴム系シール剤層の負極缶に対する密着力と柔軟性が向上して、電解液の漏液を一層抑制することができ、酸化銀電池を一層長寿命化することができる。
なお、本発明において、ゴム系重合体のガラス転移温度は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0011】
また、本発明の酸化銀電池において、前記アスファルト系シール剤がブローンアスファルトを含むことが好ましい。このように、ブローンアスファルトを含むアスファルト系シール剤を用いれば、アスファルト系シール剤層の樹脂製ガスケットに対する密着力が向上して、電解液の漏液を一層抑制することができ、酸化銀電池を一層長寿命化することができる。
【0012】
また、本発明の酸化銀電池において、前記樹脂製ガスケットがナイロン66からなることが好ましい。上述したシール剤層を用いれば、樹脂製ガスケットがナイロン66からなる場合であっても、電解液の漏液を抑制することができ、酸化銀電池を長寿命化することができる。
【0013】
また、本発明の酸化銀電池において、前記負極缶の、前記シール剤層と接触する面が銅からなることが好ましい。上述したシール剤層を用いれば、負極缶の、シール剤層と当接する面が銅からなる場合であっても、電解液の漏液を抑制することができ、酸化銀電池を長寿命化することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、長寿命の酸化銀電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態による酸化銀電池の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0017】
(酸化銀電池)
本発明の酸化銀電池は、電池容器内に正極、負極、セパレータおよび電解液を収容してなる。そして、電池容器は、正極缶と負極缶とを、樹脂製ガスケットおよび前記樹脂製ガスケットの負極缶側に設けられたシール剤層を介して接合してなり、シール剤層は、負極缶側に位置するゴム系シール剤の層と、樹脂製ガスケット側に位置するアスファルト系シール剤の層とを備える。かかる構成により、本発明の酸化銀電池では、負極缶と樹脂製ガスケットとの間からの電解液の漏液が良好に抑制され、電池の長寿命化を実現することができる。
本発明の酸化銀電池は、負極缶、樹脂製ガスケット、およびシール剤層により正極缶の開口部を封口して電解液の漏液を抑制できれば、その他の構成および構造については特に制限はなく、従来から知られている酸化銀電池で採用されている構成および構造を適用することができる。例えば、本発明の酸化銀電池の形状は、扁平形(コイン形、ボタン形など)であってもよいし、筒形(円筒形、角筒形状など)であってもよい。
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態の酸化銀電池を説明する。
図1は、本発明の一実施形態による酸化銀電池の断面図である。図1に示される酸化銀電池10は、本発明の酸化銀電池を扁平形とした例であり、正極缶1と、正極2と、セパレータ3と、樹脂製ガスケット4と、ゴム系シール剤層5aおよびアスファルト系シール剤層5bからなるシール剤層5と、負極6と、負極缶7と、電解液(不図示)とを備える。正極缶1の開口部において、樹脂製ガスケット4が配置されると共に、負極缶7が樹脂製ガスケット4およびシール剤層5を介して正極缶1と接合している。これにより、正極缶1の開口が封口され、電池内部が密閉されている。すなわち、図1に示す酸化銀電池10では、正極缶1、樹脂製ガスケット4、シール剤層5、および負極缶7からなる電池容器の空間(密閉空間)内に、正極2、セパレータ3、負極6、および電解液が収容されている。なお、正極缶1と樹脂製ガスケット4との間に追加のシール剤層が設けられていてもよい。
【0019】
<正極缶>
正極缶1は、例えば、有底円筒体の開口縁にフランジを設けた形状を有し、正極端子を兼ねる部材である。正極缶1としては、例えば、鉄にニッケルメッキを施したものなどを用いることができる。
【0020】
<正極>
正極2は、正極缶1の円筒体部分の内面に接するように正極缶1内に配置される。正極2は、正極活物質としての酸化銀と、後述する電解液とを含み、任意で、黒鉛、ケッチェンブラック、アセチレンブラックなどの導電助剤を含む正極合剤を加圧成形することにより得られる正極合剤成形体により構成することができる。
【0021】
<セパレータ>
セパレータ3は、正極缶1内において、正極2および負極6の間に配置される部材である。セパレータ3としては、特に限定されず、ビニロンやレーヨンを主体とする不織布、ビニロン・レーヨン不織布(ビニロン・レーヨン混抄紙)、ポリアミド不織布、ポリオレフィン・レーヨン不織布、ビニロン紙、ビニロン・リンターパルプ紙、ビニロン・マーセル化パルプ紙などを用いることができる。また、親水処理された微孔性ポリオレフィンフィルム(微孔性ポリエチレンフィルムや微孔性ポリプロピレンフィルムなど)とセロファンフィルムとビニロン・レーヨン混抄紙のような吸液層(電解液保持層)とを積み重ねたものをセパレータとしてもよい。
【0022】
<樹脂製ガスケット>
樹脂製ガスケット4は、正極缶1のフランジ部分に配置されて、シール剤層5および負極缶7と共に正極缶1の開口部を封口する部材である。樹脂製ガスケット4は、通常、平面視で環状な形状を有し、厚さ方向の断面は略L字形状を有する。
樹脂製ガスケット4を構成する樹脂としては、限定されず、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂;ナイロン6、ナイロン66などのポリアミド樹脂;フッ素樹脂;シリコーン樹脂などを用いることができる。これらの樹脂は一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
樹脂製ガスケット4と負極缶7との間からの電解液の漏液を一層抑制する観点からは、樹脂製ガスケット4は、少なくとも、アスファルト系シール剤層5bに接する部分がナイロン66からなることが好ましく、樹脂製ガスケット4は全体がナイロン66からなることがより好ましい。
【0023】
<シール剤層>
シール剤層5は、樹脂製ガスケット4と負極缶7とが当接する部分に配置される。具体的には、シール剤層5は、樹脂製ガスケット4の、正極缶1側とは反対側の表面と負極缶7の端縁との間に配置され、樹脂製ガスケット4および負極缶7と密着している。
シール剤層5は、図示例ではゴム系シール剤層5aおよびアスファルト系シール剤層5bの2層構造からなり、ゴム系シール剤層5aおよびアスファルト系シール剤層5bは互いに密着している。また、ゴム系シール剤層5aは負極缶7側に位置し、負極缶7と密着している。そして、アスファルト系シール剤層5bは樹脂製ガスケット4側に位置し、樹脂製ガスケット4と密着している。かかる構成により、負極缶7と樹脂製ガスケット4との間からの電解液の漏液が良好に抑制され、酸化銀電池10の長寿命化を図ることができる。このような構成により負極缶7と樹脂製ガスケット4との間からの電解液の漏液を良好に抑制できる理由は必ずしも定かではないが、以下のとおりであると推察される。すなわち、金属缶との密着が良好なゴム系シール剤は、樹脂製ガスケットへの密着が不十分であり、樹脂製ガスケットとの密着が良好なアスファルト系シール剤は金属缶との密着が不十分である。一方、本発明者らは、ゴム系シール剤とアスファルト系シール剤との密着が良好であることを見出した。そのため、ゴム系シール剤およびアスファルト系シール剤それぞれ単独での漏液防止性能よりも、上述した構成にすることで高い漏液防止性能が得られるものと推察される。
【0024】
シール剤層5の厚さは、酸化銀電池10の大きさなどに応じて任意に選択すればよく、通常1μm以上100μm以下である。シール剤層5の厚さが上記範囲の上限値以下であることにより、シール剤層5を容易に形成することができる。また、シール剤層の厚さが上記範囲の下限値以上であることにより、正極缶1の開口部が良好に密閉される。そのため、電解液の漏液を一層抑制することができ、酸化銀電池を一層長寿命化することができる。
【0025】
<<ゴム系シール剤層>>
ゴム系シール剤層5aは、ゴム系シール剤からなる層である。ゴム系シール剤層5aはアスファルト系シール剤層5bと共にシール剤層5を構成する。ゴム系シール剤層5aは、負極缶7と当接する部分に設けられる。具体的には、ゴム系シール剤層5aは、負極缶7と樹脂製ガスケット4とが当接する部分の負極缶7側に設けられる。
ゴム系シール剤層5aの厚さは、電解液の漏液を抑制できる限り制限されないが、電解液の漏液を一層抑制する観点からは、0.5μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましく、また、10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましい。
【0026】
ゴム系シール剤は、ゴム系重合体を主成分として含み、任意で、無機フィラーおよび/または添加剤を含み得る。
なお、本発明において、「ゴム系重合体を主成分として含む」とは、ゴム系シール剤を100質量%として、ゴム系重合体の含有割合が50質量%以上であることを意味する。ゴム系シール剤におけるゴム系重合体の含有割合は、60質量%以上であることが好ましく、65質量%以上であることがより好ましい。また、ゴム系重合体の含有割合は、95質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましい。
なお、ゴム系シール剤は、ゴム系重合体からなっていてもよい。
【0027】
[ゴム系重合体]
ゴム系重合体としては、限定されないが、ジエン系非ブロック重合体、イソブテン系重合体、およびエチレン-プロピレン系共重合体が挙げられる。
ゴム系重合体は、例えば、ジエン系非ブロック重合体、イソブテン系重合体およびエチレン-プロピレン系重合体から選択される少なくとも1種を含む。なお、本発明において、各重合体の割合は、液体クロマトグラフィー/質量分析法を用いて測定することができる。
ゴム系重合体は、ジエン系非ブロック重合体、イソブテン系重合体、およびエチレン‐プロピレン系重合体からなる群から選択される少なくとも1種からなることが好ましく、ジエン系非ブロック重合体、またはエチレン-プロピレン系重合体からなることがより好ましい。
【0028】
‐ジエン系非ブロック重合体‐
ジエン系非ブロック重合体としては、例えば、1種類のジエン系単量体の単独重合体、2種類以上のジエン系単量体のランダム共重合体、ならびに、ジエン系単量体および当該ジエン系単量体と共重合可能な共単量体のランダム共重合体が挙げられる。これらの重合体は、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの中でも、ジエン系非ブロック重合体は、1種類のジエン系単量体の単独重合体であることが好ましく、ポリブタジエンであることがより好ましい。ポリブタジエンを使用すれば、柔軟性に優れ、電解液の漏液を一層抑制し、酸化銀電池を一層長寿命化し得るゴム系シール剤を得ることができる。ここで、ジエン系非ブロック重合体は、酸性基などの極性基を含まないことが好ましい。
【0029】
ジエン系非ブロック重合体を形成し得るジエン系単量体としては、特に限定されることなく、例えば、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、2-メチル-1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、4,5-ジメチル-1,3-オクタジエンなどの共役ジエン単量体が挙げられる。中でも、ジエン系単量体としては、1,3-ブタジエンが好ましい。
なお、これらのジエン系単量体は、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
また、共単量体としては、特に限定されることなく、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、о-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、t-ブチルスチレン、ジビニルベンゼン、N,N-ジメチル-p-アミノエチルスチレン、N,N-ジエチル-p-アミノエチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、ブトキシスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセンなどの芳香族ビニル単量体が挙げられる。中でも、共単量体としては、酸性基などの極性基を有さない単量体が好ましく、スチレンがより好ましい。
なお、これらの共単量体は、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
ゴム系重合体が複数種からなる場合、ジエン系非ブロック重合体の含有割合は、ゴム系重合体の合計含有割合を100質量%として、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、また、99質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましい。
【0031】
‐イソブテン系重合体‐
イソブテン系重合体としては、例えば、イソブテンの単独重合体(ポリイソブテン)、および、イソブテンおよび該イソブテンと共重合可能な共単量体のランダム共重合体が挙げられる。これらの重合体は、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
ゴム系重合体が複数種からなる場合、イソブテン系重合体の含有割合は、ゴム系重合体の合計含有割合を100質量%として、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、また、99質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましい。
【0032】
‐エチレン-プロピレン系共重合体‐
エチレン-プロピレン系共重合体は、少なくともエチレン単量体およびプロピレン単量体を共重合させて得られる共重合体であれば特に限定されず、例えば、エチレンプロピレン共重合体(EPM)、およびエチレンプロピレンジエン共重合体(EPDM)が挙げられる。ここで、エチレン-プロピレン系共重合体は、酸性基などの極性基を含まないことが好ましい。
ゴム系重合体が複数種からなる場合、エチレン-プロピレン系共重合体の含有割合は、ゴム系重合体の合計含有割合を100質量%として、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、また、99質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましい。
【0033】
‐ガラス転移温度‐
ゴム系シール剤層5aの負極缶7に対する密着力と柔軟性を向上させ、電解液の漏液を一層抑制して酸化銀電池を一層長寿命化する観点からは、上述したゴム系重合体のガラス転移温度は0℃以下であることが好ましく、-10℃以下であることがより好ましく、また、シール剤塗布後の部品が互着しないために、-80℃以上であることが好ましく、-60℃以上であることがより好ましい。
ゴム系重合体のガラス転移温度は、例えば、重合反応に用いる単量体の種類および/または量を変更して、ゴム系重合体中の単量体単位の種類および/または存在割合を変更することにより適宜調節することができる。
【0034】
‐ムーニー粘度‐
電解液の漏液を一層抑制して酸化銀電池を一層長寿命化する観点からは、上述したゴム系重合体のムーニー粘度(ML1+4、100℃)は35以上であることが好ましく、40以上であることがより好ましく、また、80以下であることが好ましく、75以下であることがより好ましい。
ゴム系重合体のムーニー粘度は、例えば、重合条件を調整することにより適宜調節することができる。
なお、ゴム系重合体のムーニー粘度(ML1+4、100℃)は実施例に記載の方法により求めることができる。
【0035】
‐重合‐
上記ゴム系重合体は、重合開始剤の存在下で、単量体を従来公知の方法で重合することにより得ることができる。重合反応形態は、溶液重合、スラリー重合などのいずれでも構わないが、溶液重合を用いると、反応熱の除去が容易である。
【0036】
[無機フィラー]
ゴム系シール剤には着色のために無機フィラーを含有がさせることができる。任意に含み得る無機フィラーとしては、特に限定されることなく、例えば、黒色にする場合カーボンブラック、グラファイト等を用いることができる。ここで、カーボンブラックの具体例としては、ファーネスブラック;チャンネルブラック等が挙げられる。また、グラファイトの具体例としては、鱗片状の天然黒鉛、人造黒鉛等が挙げられる。
これらの無機フィラーは、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
ゴム系シール剤を負極缶7の端縁に塗布する場合、シール剤層の塗りムラを視認しやすくする観点から、ゴム系シール剤は、上述した全重合体成分の固形分100質量部に対して、無機フィラーを0.1質量部以上10質量部以下含むことが好ましい。
【0038】
[添加剤]
本発明のゴム系シール剤が任意に含み得る添加剤としては、特に限定されることなく、例えば、高分子添加剤や、樹脂工業分野で通常使用される安定剤、紫外線吸収剤などの各種添加剤が挙げられる。
【0039】
高分子添加剤としては、芳香族ビニル-共役ジエンブロック重合体が挙げられる。
芳香族ビニル-共役ジエンブロック重合体としては、例えば、スチレン-イソプレンブロック共重合体、スチレン-ブタジエンブロック共重合体などが挙げられる。また、芳香族ビニル-共役ジエンブロック重合体としては、2元ブロック共重合体、3元ブロック共重合体、それらの混合物のいずれも好ましく用いることができる。3元ブロック共重合体としては、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)およびスチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)などが挙げられる。
【0040】
高分子添加剤である芳香族ビニル-共役ジエンブロック重合体の含有割合は、ゴム系シール剤100質量%として、50質量%以下であることが好ましく、45質量%以下であることがより好ましい。
【0041】
ここで、芳香族ビニル-共役ジエンブロック重合体は水素添加物とされていてもよい。すなわち、ゴム系シール剤には、ゴム系重合体として芳香族ビニル-共役ジエンブロック重合体の水素添加物が含まれていてもよい。芳香族ビニル-共役ジエンブロック重合体の水素添加物は、上述した芳香族ビニル-共役ジエンブロック重合体の水素化反応により得ることができる。水素化は、水素化触媒を用いて従来公知の方法により行うことができる。
芳香族ビニル-共役ジエンブロック重合体の水素添加物の主鎖および側鎖の炭素-炭素不飽和結合の水素化率は、H-NMRによる測定において、90%以上であることが好ましく、93%以上であることがより好ましく、95%以上であることが好ましい。水素化率は、水素化触媒の種類、水素化反応の温度および/または水素圧力を変更することにより調節することができる。
なお、水素化率は、水素化反応前後にH-NMRスペクトルを測定し、水素化反応前後での主鎖および側鎖部分の炭素-炭素不飽和結合に対応するシグナルの積分値の減少量を求めることにより、算出することができる。
【0042】
芳香族ビニル-共役ジエンブロック重合体の水素添加物の具体例としては、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)の水素添加物、すなわち、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS);スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)の水素添加物、すなわち、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)などが挙げられる。これらの中でも、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)が好ましい。
なお、芳香族ビニル-共役ジエンブロック重合体の水素添加物は市販されており、その具体例としては、旭化成ケミカルズ株式会社製タフテック(登録商標)H1052などが挙げられる。
【0043】
芳香族ビニル-共役ジエンブロック重合体の水素添加物の含有割合は、ゴム系シール剤100質量%として、50質量%以下であることが好ましく、45質量%以下であることがより好ましい。
【0044】
安定剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤等が挙げられる。これらの中でも、フェノール系酸化防止剤が好ましく、アルキル置換フェノール系酸化防止剤がより好ましい。
これらの安定剤は、1種単独で、または、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0045】
紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾエート系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、アクリレート系紫外線吸収剤、金属錯体系紫外線吸収剤、サリチル酸エステルなどの有機物、または微粒子状の酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化チタンなどの無機物を用いることができる。
【0046】
なお、安定剤および紫外線吸収剤の配合量は、特に限定されず、使用目的に応じて適宜選択すればよいが、ゴム系シール剤100質量%として、一般的には5質量%以下とすることが好ましい。
【0047】
<<アスファルト系シール剤層>>
アスファルト系シール剤層5bは、アスファルト系シール剤からなる層である。アスファルト系シール剤層5bは、ゴム系シール剤層5aと共にシール剤層5を構成する。アスファルト系シール剤層5bは、負極缶7と樹脂製ガスケット4とが当接する部分に少なくとも設けられる。具体的には、アスファルト系シール剤層5bは、樹脂製ガスケット4と負極缶7とが当接する部分の樹脂製ガスケット4側に少なくとも設けられる。アスファルト系シール剤層5bは樹脂製ガスケット4の全面を覆うように設けられていてもよい。
樹脂製ガスケット4と当接する部分におけるアスファルト系シール剤層5bの厚さは、電解液の漏液を抑制できる限り制限されないが、電解液の漏液を一層抑制する観点からは、0.5μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましく、また、10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましい。
【0048】
アスファルト系シール剤に含まれるアスファルトは、特に限定されないが、樹脂製ガスケットに対する密着力の向上および生産時の取り扱いの観点から、ブローンアスファルトであることが好ましい。アスファルト系シール剤に含まれ得るブローンアスファルト以外のアスファルトとしては、特に限定されず、シール剤に使用されている従来公知のアスファルトを用いることができる。
アスファルトの性状としては、軟化点が50℃以上であることが好ましく、60℃以上であることがより好ましい。また、アスファルトの軟化点は、100℃以下であることが好ましく、90℃以下であることがより好ましい。
また、アスファルトの針入度は、60以下であることが好ましく、40以下であることがより好ましい。
なお、本発明において、アスファルトの軟化点および針入度は、実施例に記載された方法により測定することができる。
アスファルト系シール剤は、アスファルトからなっていてもよいし、添加剤として、合成樹脂が数質量%程度含まれていてもよい。アスファルト系シール剤に含まれ得る合成樹脂としては、特に限定されず、アスファルト系シール剤に使用されている従来公知の合成樹脂を用いることができる。
【0049】
<負極>
負極6は負極缶7内に配置される。負極6は、通常、負極活物質としての亜鉛または亜鉛合金と、後述する電解液とを含み、任意で、ゲル化剤などを更に含み得る。亜鉛合金は、例えば、インジウムまたはビスマスを含む。但し、環境汚染を抑制する観点から、亜鉛合金は合金成分として水銀を含まないことが好ましい。
ゲル化剤としては、例えば、ポリアクリル酸ソーダおよびカルボキシメチルセルロースを用いることができる。
【0050】
<負極缶>
負極缶7は、その端縁がシール剤5を介して樹脂製ガスケット4と接するように樹脂製ガスケット4と嵌合される部材であり、負極端子を兼ねる。そして、上述したとおり、負極缶7の樹脂製ガスケット4と当接する部分にはゴム系シール剤層5aが設けられている。
ここで、負極缶7は、少なくともシール剤層5と接触する面(部分)、好ましくは内面全体が、銅または銅合金からなることが好ましく、銅からなることがより好ましい。負極缶7の少なくともシール剤層5と接触する面または負極缶7の内面全体が銅または銅合金からなれば、例えば、負極の活物質として亜鉛または亜鉛合金などを使用した場合に、該活物質の腐食(酸化)に起因する水素ガスの発生が抑制される。そのため、電解液の漏液を一層抑制することができ、酸化銀電池を一層長寿命化することができる。銅合金は、例えば、黄銅である。
負極缶7としては、負極6と接触する内側部分が銅または銅合金から構成され、本体部分(中央)部分がステンレス鋼で構成され、外側部分(すなわち、負極6と接する内側とは反対側の部分)がニッケルで構成されてなる3層構造のクラッド部材を好適に用いることができる。
【0051】
<電解液>
電解液としては、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、または水酸化リチウムなどのアルカリ金属水酸化物を水に溶解してなるアルカリ水溶液を用いることができる。また、電解液は、本発明の効果を損なわない範囲で、公知の各種添加剤を含んでいてもよい。例えば、負極6の活物質として亜鉛または亜鉛合金などを使用する場合、該活物質の腐食(酸化)を防止するために、電解液は酸化亜鉛を含んでいてもよい。
【0052】
(酸化銀電池の製造方法)
酸化銀電池10は、正極2、セパレータ3、および電解液を収容した正極缶2と、負極6を収容した負極缶7との間にシール剤層5および樹脂製ガスケット4を介在させた状態で、正極缶1の端縁(フランジ)および負極缶7の端縁をカシメ加工などの既知の加工方法で接合することにより製造できる。
【0053】
ここで、正極缶1と負極缶7との間へのシール剤層5の設置は、
(1)正極缶1の上に配設した樹脂製ガスケット4の上にシール剤層5を配置し、負極缶7と嵌合させて接合する方法;
(2)負極缶7の上にシール剤層5を配置し、樹脂製ガスケット4および正極缶1と嵌合させて接合する方法;または
(3)正極缶1の上に配設した樹脂製ガスケット4の上にアスファルト系シール剤層5bを配置し、負極缶7の上にゴム系シール剤層5aを配置し、両者を嵌合して接合する方法、
により行うことができる。中でも、製造効率の観点から(3)の方法が好ましい。
【0054】
そして、シール剤層5の配置は、シール剤溶液の塗布および乾燥により行うことができる。具体的には、ゴム系シール剤を含むシール剤溶液(ゴム系シール剤溶液)、および、アスファルト系シール剤を含むシール剤溶液(アスファルト系シール剤溶液)を塗布および乾燥することにより、ゴム系シール剤層5aおよびアスファルト系シール剤層5bをそれぞれ配置することができる。
【0055】
ここで、シール剤溶液は、例えば、シール剤(ゴム系シール剤またはアスファルト系シール剤)を溶媒に溶解することにより調製することができる。
シール剤溶液に用いられる溶媒は、常温または加温下でシール剤中の重合体成分やアスファルト成分を溶解し得る溶媒であり、特定の溶媒に限定されない。溶媒の具体例としては、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素化合物;n-ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ノナン、デカン、デカリン、テトラリン、ドデカンなどの飽和脂肪族及び脂環式炭化水素化合物;ガソリン、工業用ガソリンなどの炭化水素混合物;などの有機溶媒が挙げられる。中でも、キシレンおよびトルエンが好ましく、キシレンがより好ましい。
シール剤溶液を任意の固形分濃度に調製することで、各シール剤層の厚みや均一性を適切に制御することができる。例えば、溶媒をトルエンとした際のアスファルト系シール剤におけるアスファルトの固形分濃度は、0.5%質量%以上であることが好ましく、1.0質量%以上であることがより好ましい。また、アスファルトの固形分濃度は、40質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。また、溶媒をトルエンとした際のゴム系シール剤における固形分濃度は、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましい。また、固形分濃度は、40質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。
【0056】
シール剤溶液の塗布は、例えば、エアー駆動の定量ディスペンサー、ローラーポンプ、ギアポンプなどの定量ポンプを用いて供給することにより行うことができる。少量であれば、刷毛を用いて人手で塗布を行ってもよい。
【0057】
ゴム系シール剤溶液は、例えば、負極缶7の、樹脂製ガスケット4と当接する部分に塗布される。
アスファルト系シール剤溶液は、例えば、樹脂製ガスケット4の、負極缶7と当接する部分に少なくとも塗布される。アスファルト系シール剤溶液を樹脂製ガスケット4の全面に塗布する場合、塗布は、樹脂製ガスケット4をアスファルト系シール剤溶液中に浸漬し、次いでアスファルト系シール剤溶液から引き上げることにより行ってもよい。また、塗布は、樹脂製ガスケット4と所定量のアスファルト系シール剤溶液を円柱状の容器に封入し、一定時間ボールミル架台に載せて前記容器を回転させることより行ってもよい。
【0058】
塗布したシール剤溶液の乾燥方法は、限定されないが、例えば、自然乾燥または加熱装置を用いた強制乾燥により行うことができる。加熱装置を用いた強制乾燥とすれば、短時間での乾燥が可能となり工業的により適した乾燥工程とすることができる。
【0059】
加熱装置を用いる場合には、通常、50℃程度で10分間程度乾燥して溶媒を除去する。シール剤層5中の溶媒の残留濃度は、上記溶媒の乾燥除去により、5質量%以下とすることが好ましく、1質量%以下とすることがより好ましく、0.1質量%以下とすることが更に好ましく、0.05質量%以下とすることが特に好ましい。溶媒の乾燥温度が溶媒の沸点以上、又は沸点近傍であると、発泡が起こり、表面に凹凸が生じ得るので、乾燥温度は溶媒の特性に応じて決定することが好ましい。乾燥温度を溶媒の沸点より好ましくは10℃以上、より好ましくは30℃以上低い温度を目安として決定し、通常、シール剤溶液を50~90℃の範囲で沸点を考慮して乾燥する。
【実施例0060】
以下に、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、本実施例における部及び%は、特記しない限り質量基準である。実施例および比較例における各種の測定および評価については、以下の方法に従って行なった。
【0061】
(ガラス転移温度の測定)
ゴム系重合体のガラス転移温度を、示差熱天秤(TG-DTA)を用いて測定した。
【0062】
(ムーニー粘度の測定)
ゴム系重合体のムーニー粘度(ML1+4 100℃)を、JIS K 6300-1に準拠して、ムーニー粘度計を用いて測定した。
【0063】
(耐漏液性の評価)
実施例および比較例で製造した各酸化銀電池を、温度80℃、湿度80%の恒温恒湿槽に入れた。5日ごとに常温に戻し、酸化銀電池をイオン交換水に投入した。そして、フェノールフタレインを指示薬としてイオン交換水に滴下した。目視でイオン交換水の変色が観察された場合に、酸化銀電池から電解液が漏液したと判断した。
イオン交換水の変色が観察されるまでの日数が長いほど、耐漏液性に優れていることを示している。30日後も変色が観察されなかった場合、「漏液なし」と判断した。
【0064】
(製造例1)
<ゴム系シール剤1の製造>
<<ポリブタジエンの合成>>
10リットルの攪拌機付きオートクレーブにトルエン5000g、ブタジエン810gを加え、十分攪拌した後、ジエチルアルミニウムクロライド0.27mol、塩化クロム・ピリジン錯体0.6mmolを加え、60℃で3時間攪拌しながら重合した。その後、メタノール100mlを加えて重合を停止した。重合停止後、室温まで冷却した後、重合液を取り出した。得られた重合液を水蒸気凝固した後、60℃で48時間真空乾燥して固体状のポリブタジエン780gを得た。
【0065】
合成したポリブタジエンのガラス転移温度およびムーニー粘度を測定した。結果を表1に示す。
【0066】
高分子添加剤としてのスチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(以下、単に「SEBS」という)として、旭化成ケミカルズ株式会社製タフテック(登録商標)H1052を準備した。
【0067】
そして、合成したポリブタジエンとSEBSとを、ゴム系シール剤100質量%として、ポリブタジエンが75質量%、SEBSが25質量%となるように混合し、ゴム系シール剤1を製造した。
【0068】
<ゴム系シール剤溶液1の調製>
上記のようにして得られたゴム系シール剤1を、固形分濃度が8質量%になるようにキシレンに添加して、ゴム系シール剤溶液1を調製した。
【0069】
(製造例2)
<ゴム系シール剤2の製造>
<<エチレン-プロピレン系共重合体>>
エチレン-プロピレン系共重合体として、エチレンプロピレンジエン共重合体(以下、単に「EPDM」という)(三井化学製EPT3080M)を準備した。
EPDMのガラス転移温度、およびムーニー粘度を測定した。結果を表1に示す。
【0070】
そして、EPDMとSEBS(旭化成ケミカルズ株式会社製「タフテック(登録商標)H1052」)とを、ゴム系シール剤100質量%として、EPDMが60質量%、SEBSが40質量%となるように混合し、ゴム系シール剤2を製造した。
【0071】
<ゴム系シール剤溶液2の調製>
上記のようにして得られたゴム系シール剤2を、固形分濃度が10質量%になるようにキシレンに添加して、ゴム系シール剤溶液2を調製した。
【0072】
(製造例3)
<アスファルト系シール剤の準備>
合成樹脂を3質量%含んだ市販のブローンアスファルトをアスファルト系シール剤として用いた。ブローンアスファルトの軟化点、および針入度(25℃)をJIS K-2207に準拠して測定し、それぞれ85℃、35であることを確認した。
【0073】
<アスファルト系シール剤溶液の調製>
そして、上記のアスファルト系シール剤を、固形分濃度が8質量%になるようにキシレンに添加して、アスファルト系シール剤溶液を調製した。
【0074】
(実施例1)
<酸化銀電池の製造>
正極活物質である平均粒径150μm、かさ密度2.4g/cmの顆粒状にした酸化第一銀:95質量部と、導電助剤である黒鉛:5質量部とを混合して混合物を作製し、この混合物を金型に充填し、充填密度5.5g/cmで、直径10.9mm、高さ1.9mmの円板状に加圧成形することによって、正極合剤成形体を作製し、これに下記のアルカリ電解液の一部を含浸させた。
負極には、平均粒径が120μmの、水銀を含有しない亜鉛粒子0.2gを用いた。アルカリ電解液には、酸化亜鉛を4質量%溶解した36質量%水酸化カリウム水溶液を用いた。また、正極缶は、SUS430を用いて作製した。
セパレータには、厚みが20μmのセロハンフィルムと、厚みが30μmのグラフトフィルムとが積層された、株式会社ユアサメンブレンシステムの「YG2152」と、電解液保持層となる厚みが400μmのビニロン-レーヨン混抄紙とを用い、それぞれ直径11.3mmの円形に打ち抜いた後、重ねることによりセパレータを構成した。
なお、前記グラフトフィルムは、ポリエチレン主鎖にアクリル酸をグラフト共重合させた構造を有するグラフト共重合体で構成されている。
ガスケットは、表面にアスファルト系シール剤層を2μmの厚みで形成したナイロン66製の環状ガスケットを用いた。アスファルト系シール剤層の形成は、以下の手順で行った。円柱状のポリ容器に、ナイロン66製の環状ガスケットと前記アスファルト系シール剤溶液とを封入し、これをボールミル架台により40rpmの回転数で30分間回転させた後、ガスケットを取り出して乾燥させ、表面にアスファルト系シール剤層を形成した。
なお、アスファルト系シール剤溶液の分量は、ガスケット100g当たり15mLとした。
また、負極缶には、銅-ステンレス鋼(SUS304)-ニッケルクラッド板を用いた。なお、負極缶の端縁で前記ガスケットが当接する部分には、前記製造例1で調製したゴム系シール剤溶液1を、刷毛を用いて塗布し、乾燥させることにより、3μmの厚みでゴム系シール剤層を形成した。
前記の正極(正極合剤成形体)、負極、アルカリ電解液、外装缶、負極缶、セパレータおよびガスケットを用いて、図1に示す構造を有する、直径11.5mm、厚さ5.4mmの扁平形酸化銀電池を作製した。
そして、上記のようにして組み立てた酸化銀電池の耐漏液性試験を行った。結果を表2に示す。
【0075】
(実施例2)
実施例1において、製造例1で調製したゴム系シール剤溶液1に代えて、製造例2で調製したゴム系シール剤溶液2を使用して負極缶上にゴム系シール剤層を形成した以外は実施例1と同様にして、酸化銀電池を製造し、耐漏液性を評価した。結果を表2に示す。
【0076】
(比較例1)
実施例1において、負極缶の端縁にゴム系シール剤層を形成しなかった以外は実施例1と同様にして、酸化銀電池を製造し、耐漏液性を評価した。結果を表2に示す。
【0077】
(比較例2)
実施例1において、製造例1で製造したゴム系シール剤溶液1に代えて、製造例3で製造したアスファルト系シール剤溶液を使用して負極缶の端縁に2μmの厚みでアスファルト系シール剤層を形成した以外は実施例1と同様にして、酸化銀電池を製造し、耐漏液性を評価した。結果を表2に示す。
【0078】
(比較例3)
実施例1において、製造例3で製造したアスファルト系シール剤溶液に代えて、製造例1で調製したゴム系シール剤溶液1を使用して樹脂製ガスケット上に3μmの厚みでゴム系シール剤層を形成した以外は実施例1と同様にして、酸化銀電池を製造し、耐漏液性を評価した。結果を表2に示す。
【0079】
(比較例4)
比較例3において、負極缶の端縁にゴム系シール剤層を設けなかった以外は比較例3と同様にして、酸化銀電池を製造し、耐漏液性を評価した。結果を表2に示す。
【0080】
(比較例5)
比較例2において、製造例3で製造したアスファルト系シール剤溶液に代えて、製造例1で調製したゴム系シール剤溶液1を使用して樹脂製ガスケット上に3μmの厚みでゴム系シール剤層を形成した以外は比較例2と同様にして、酸化銀電池を製造し、耐漏液性を評価した。結果を表2に示す。
【0081】
【表1】
【表2】
【0082】
表2の結果から、シール剤層がゴム系シール剤の層およびアスファルト系シール剤の層の2層構造からなり、かつ、ゴム系シール剤の層が負極缶側に位置し、アスファルト系シール剤の層が樹脂製ガスケット側に位置している実施例1~2の酸化銀電池は、耐漏液性に優れ、電池を長寿命化し得ることがわかる。
一方、表2の結果から、シール剤層がアスファルト系シール剤層またはゴム系シール剤層の1層構造である比較例1および4の酸化銀電池、シール剤層が2層構造であっても、各層が同一である比較例2および3の酸化銀電池、ならびに、シール剤層が2層構造であっても、負極缶側および樹脂製ガスケット側にゴム系シール剤層およびアスファルト系シール剤層がそれぞれ位置していない比較例5の酸化銀電池は、実施例1~2の酸化銀電池よりも耐漏液性に劣り、電池の長寿命化を図れないことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明によれば、長寿命の酸化銀電池を提供することができる。
【符号の説明】
【0084】
1 正極缶
10 酸化銀電池
2 正極
3 セパレータ
4 樹脂製ガスケット
5 シール剤層
5a ゴム系シール剤層
5b アスファルト系シール剤層
6 負極
7 負極缶
図1