(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023035388
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】シリコンウェーハの洗浄方法および製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20230306BHJP
H01L 21/306 20060101ALI20230306BHJP
【FI】
H01L21/304 647Z
H01L21/304 648F
H01L21/304 621D
H01L21/304 622C
H01L21/306 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021142210
(22)【出願日】2021-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】藤井 康太
(72)【発明者】
【氏名】阿部 達夫
【テーマコード(参考)】
5F043
5F057
5F157
【Fターム(参考)】
5F043AA31
5F043BB22
5F043BB27
5F057AA03
5F057AA35
5F057BA12
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5F057GB19
5F157AA15
5F157AA17
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5F157BE22
5F157BE33
5F157CB32
5F157DB03
5F157DB14
(57)【要約】
【課題】シリコンウェーハの表裏面又は裏面を粗化できる洗浄方法、片方の面のみが粗化されたシリコンウェーハを得ることができるシリコンウェーハの製造方法を提供することにある。
【解決手段】シリコンウェーハを粗化する洗浄方法であって、前記シリコンウェーハとして、自然酸化膜がないベア面が露出したシリコンウェーハを用意する工程と、該用意したシリコンウェーハを水酸化アンモニウムと過酸化水素水とを含む水溶液で洗浄することで前記シリコンウェーハの表裏面又は裏面を粗化する洗浄工程を含み、前記洗浄工程で用いる水溶液として、SiO
2に対するSiのエッチング選択比が95以上、1100以下であるものを用いるシリコンウェーハの洗浄方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンウェーハを粗化する洗浄方法であって、
前記シリコンウェーハとして、自然酸化膜がないベア面が露出したシリコンウェーハを用意する工程と、
該用意したシリコンウェーハを水酸化アンモニウムと過酸化水素水とを含む水溶液で洗浄することで前記シリコンウェーハの表裏面又は裏面を粗化する洗浄工程を含み、
前記洗浄工程で用いる水溶液として、SiO2に対するSiのエッチング選択比が95以上、1100以下であるものを用いることを特徴とするシリコンウェーハの洗浄方法。
【請求項2】
前記洗浄工程で用いる前記水溶液の前記SiO2に対するSiのエッチング選択比を、(Siのエッチング量/SiO2のエッチング量)から求め、
前記Siのエッチング量の算出用ウェーハとして、自然酸化膜がないベア面が露出したシリコンウェーハ、エピタキシャルウェーハ、又はSOIウェーハのいずれかを用い、
前記SiO2のエッチング量の算出用ウェーハとして、膜厚が3nm以上のシリコン酸化膜付ウェーハを用いることを特徴とする請求項1に記載のシリコンウェーハの洗浄方法。
【請求項3】
前記洗浄工程後のシリコンウェーハ表面に、前記洗浄工程中に形成された自然酸化膜を残すことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のシリコンウェーハの洗浄方法。
【請求項4】
予め、前記SiO2に対するSiのエッチング選択比及び洗浄時間と、表面粗さとの関係を求め、
求められた関係に基づき、前記SiO2に対するSiのエッチング選択比、洗浄時間を選定して、前記洗浄工程を行うことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のシリコンウェーハの洗浄方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のシリコンウェーハの洗浄方法により洗浄され、表裏面が粗化されたシリコンウェーハの片方の面に対し、CMP加工を行い、前記片方の面とは反対側の面のみが選択的に粗化されているシリコンウェーハを得ることを特徴とするシリコンウェーハの製造方法。
【請求項6】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のシリコンウェーハの洗浄方法により、枚葉方式で裏面のみが洗浄されて粗化されているシリコンウェーハを得ることを特徴とするシリコンウェーハの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンウェーハの表裏面又は裏面を粗化することができるシリコンウェーハの洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス用のシリコンウェーハの製造工程は、チョクラルスキー(CZ)法等を使用して単結晶インゴットを育成する単結晶製造工程と、この単結晶インゴットをスライスし、鏡面状に加工するウェーハ加工工程とから構成され、さらに付加価値をつけるために、熱処理をするアニール工程やエピタキシャル層を形成するエピタキシャル成長工程を含む場合がある。
【0003】
この鏡面状に加工する工程には、DSP(両面研磨)工程とその後のCMP(片面研磨)工程がある。より具体的には、パーティクル品質や搬送の観点からDSP加工されたウェーハは乾燥させず、必要に応じて洗浄した後、水中保管でCMP工程へ搬送される。したがってCMP工程では水中保管されたウェーハをロボット等でチャックしCMP装置へ搬送する必要がある。また、CMP加工後も同様に研磨剤や純水などで濡れたウェーハをチャックし、必要に応じて洗浄工程へ搬送する必要がある。
【0004】
このようにウェーハの加工工程では、ドライではなくウェットな環境下でウェーハを搬送することが必須であるが、特にこのようなウェット環境下では、チャックで吸着されたウェーハを脱離させる際に、チャックを解除しても脱離されず、搬送不良を引き起こすことがあった。この原因としてはチャックされるウェーハ面の粗さが影響していると考えられ、チャックされるウェーハ面粗さが良好過ぎると、チャックとの接触面積が増え、チャックを解除してもウェーハが脱離しにくくなると考えられ、対してウェーハの面粗さが悪いと接触面積が減り、ウェーハが脱離しやすくなると考えられる。一般的にチャックされた面は少なからずチャック痕が形成されやすく、品質が低下することからチャック面はシリコンウェーハの裏面であることが多い。したがって、搬送不良低減の観点からは特にシリコンウェーハ裏面のみ粗い方が良く、そのようなウェーハの製造方法が求められている。
【0005】
一般的なシリコンウェーハの洗浄方法として、RCA洗浄と呼ばれる方法がある。このRCA洗浄とはSC1(Standard Cleaning 1)洗浄、SC2(Standard Cleaning 2)洗浄、DHF(Diluted Hydrofluoric Acid)洗浄を、目的に応じて組み合わせて行う洗浄方法である。
このSC1洗浄とは、アンモニア水と過酸化水素水を任意の割合で混合し、アルカリ性の洗浄液によるシリコンウェーハ表面のエッチングによって付着パーティクルをリフトオフさせ、さらにシリコンウェーハとパーティクルの静電気的な反発を利用して、シリコンウェーハへの再付着を抑えながらパーティクルを除去する洗浄方法である。また、SC2洗浄とは、塩酸と過酸化水素水を任意の割合で混合した洗浄液で、シリコンウェーハ表面の金属不純物を溶解除去する洗浄方法である。また、DHF洗浄とは、希フッ酸によってシリコンウェーハ表面のケミカル酸化膜を除去する洗浄方法である。さらに、強い酸化力を有するオゾン水洗浄も使用される場合があり、シリコンウェーハ表面に付着している有機物の除去やDHF洗浄後のシリコンウェーハ表面のケミカル酸化膜形成を行っている。シリコンウェーハの洗浄は、目的に応じてこれらの洗浄を組み合わせて行われている。
この中でSC1洗浄はエッチングを伴う洗浄であるため、SC1洗浄後はウェーハの面粗さが増加することが一般的に知られている。
【0006】
また、ウェーハの面粗さを評価する手法としては、AFM(原子間力顕微鏡:Atomic Force Microscopy)により得られるSa(3次元算出平均高さ)値やパーティクルカウンターにより得られるHaze値を指標とすることができる。Hazeとはいわゆる曇りとして表現されるものであり、シリコン表面の粗さの指標として広く用いられており、このHazeレベルが高いとはウェーハの面が粗いことを示す。パーティクルカウンターによるHaze検査はスループットが非常に高く、ウェーハ全面を検査することができる。
【0007】
特許文献1には水酸化アンモニウムと過酸化水素と水の組成が1:1:5~1:1:2000の範囲の希釈水溶液でシリコンウェーハを洗浄し、異なる厚さの自然酸化膜を形成させる方法が記載されている。
特許文献2にはSC1洗浄において、水酸化アンモニウムから電離されたOH-の濃度が高いとSiの直接エッチングが優先的に起こり、ウェーハ表面粗さが増加することが記載されている。
また、特許文献3~6にも、シリコンウェーハなどの半導体基板の洗浄に関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7-66195号公報
【特許文献2】特開2011-82372号公報
【特許文献3】特開平7-240394号公報
【特許文献4】特開平10-242107号公報
【特許文献5】特開平11-121419号公報
【特許文献6】特表2012-523706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述したように、加工工程中の搬送不良低減のためにチャックされる裏面が粗いシリコンウェーハが必要とされている。本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、シリコンウェーハの表裏面又は裏面を粗化できる洗浄方法、片方の面のみが選択的に粗化されたシリコンウェーハを得ることができるシリコンウェーハの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は、シリコンウェーハを粗化する洗浄方法であって、
前記シリコンウェーハとして、自然酸化膜がないベア面が露出したシリコンウェーハを用意する工程と、
該用意したシリコンウェーハを水酸化アンモニウムと過酸化水素水とを含む水溶液で洗浄することで前記シリコンウェーハの表裏面又は裏面を粗化する洗浄工程を含み、
前記洗浄工程で用いる水溶液として、SiO2に対するSiのエッチング選択比が95以上、1100以下であるものを用いることを特徴とするシリコンウェーハの洗浄方法を提供する。
【0011】
このようなシリコンウェーハの洗浄方法であれば、過酸化水素水の酸化作用により自然酸化膜が形成され、エッチング時に粗化が生じ、表裏面又は裏面が粗化されたウェーハの製造が可能となる。
【0012】
このとき、前記洗浄工程で用いる前記水溶液の前記SiO2に対するSiのエッチング選択比を、(Siのエッチング量/SiO2のエッチング量)から求め、
前記Siのエッチング量の算出用ウェーハとして、自然酸化膜がないベア面が露出したシリコンウェーハ、エピタキシャルウェーハ、又はSOIウェーハのいずれかを用い、
前記SiO2のエッチング量の算出用ウェーハとして、膜厚が3nm以上のシリコン酸化膜付ウェーハを用いることができる。
【0013】
このような方法であれば、SiO2とSiに対するエッチング挙動を精度良く評価できる。
【0014】
また、前記洗浄工程後のシリコンウェーハ表面に、前記洗浄工程中に形成された自然酸化膜を残すことができる。
【0015】
洗浄後に自然酸化膜が残っていると、パーティクル付着を抑制することができる。
また、本発明の粗化は、上記のように過酸化水素の酸化作用で形成された自然酸化膜をエッチングすることで生じる。上記エッチング選択比の範囲の水溶液を用いつつ、洗浄後の面状態がベア面ではなく自然酸化膜が存在する場合は、洗浄中において、酸化作用が十分で、またSiのエッチングのみが優勢に進行したわけでもなく、そのため、粗化度合いを一層十分なものとすることができる。
【0016】
また、予め、前記SiO2に対するSiのエッチング選択比及び洗浄時間と、表面粗さとの関係を求め、
求められた関係に基づき、前記SiO2に対するSiのエッチング選択比、洗浄時間を選定して、前記洗浄工程を行うことができる。
【0017】
本発明の洗浄方法で形成される粗化度合いは、前記洗浄工程におけるSiO2に対するSiのエッチング選択比及び洗浄時間に依って変化するため、予めこれらの条件と粗化度合いとの関係を求めておくことが有効である。
【0018】
また、本発明は、本発明のシリコンウェーハの洗浄方法により洗浄され、表裏面が粗化されたシリコンウェーハの片方の面に対し、CMP加工を行い、前記片方の面とは反対側の面のみが選択的に粗化されているシリコンウェーハを得ることを特徴とするシリコンウェーハの製造方法を提供する。
【0019】
このように、表裏面を粗化した後、片方の面のみ研磨することで、片方の面は良好な面状態で、該片方の面とは反対側の面のみ粗化されたウェーハを作製することができる。
【0020】
また、本発明は、本発明のシリコンウェーハの洗浄方法により、枚葉方式で裏面のみが洗浄されて粗化されているシリコンウェーハを得ることを特徴とするシリコンウェーハの製造方法を提供する。
【0021】
このように、裏面のみ洗浄して粗化されたウェーハを作製することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明のシリコンウェーハの洗浄方法であれば、シリコンウェーハの表裏面又は裏面を粗化することができる。
また、本発明のシリコンウェーハの製造方法であれば、片方の面は良好な面状態で、該片方の面とは反対側の面のみが選択的に粗化されたウェーハを作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明のシリコンウェーハの洗浄方法の一例を示すフローチャートである。
【
図2】ベア面のシリコンウェーハに対し、様々な液組成で洗浄した後のHaze増加量、LLS数、面状態を示した関係図、及び水準5と水準9のSEM像を示した図である。
【
図3】組成NH
4OH:H
2O
2:H
2O=1:0.4:1000における、Haze増加量の洗浄時間依存性を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
前述したように、加工工程中の搬送不良低減のためにチャックされる裏面が粗いシリコンウェーハが必要とされている。
本発明者らは上記課題を達成するために、水酸化アンモニウム、過酸化水素水、水からなる洗浄液を用いた酸化及びエッチング挙動について鋭意検討した。その結果、特に自然酸化膜がないベア面が露出したシリコンウェーハに対し、SiO2に対するSiのエッチング選択比が高い洗浄液で洗浄すると、過酸化水素水の酸化作用で形成された酸化膜が水酸化アンモニウムによりエッチングされ、Siが局所的に露出した箇所で急激にエッチングが進行し、粗化されること、及びこの粗化挙動について前記選択比を95以上、1100以下の範囲に制御することで調整できることを見出し、本発明を完成させた。
【0025】
以下、本発明について、実施態様の一例として、図を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
図1は本発明のシリコンウェーハの洗浄方法の一例を示すフローチャートである。
(工程S1:シリコンウェーハの用意工程)
図1のS1のように、表裏面(又は裏面)を粗化したいシリコンウェーハを用意する。ウェーハの導電型や直径に制限はないが、ウェーハの面状態は自然酸化膜がないベア面が露出している必要がある。例えばDSP後ウェーハのような研磨後のウェーハは、自然酸化膜が存在しないベア面が露出しており、そのまま後述するS2の洗浄を行うことができる。自然酸化膜が存在する場合は、例えばHF洗浄などで自然酸化膜を剥離することで、ベア面を露出させることができる。尚、HF洗浄条件に制限はなく、自然酸化膜が剥離できれば、薬液濃度、洗浄時間、洗浄温度などに制限はない。
【0026】
(工程S2:洗浄工程)
次にS2のようにベア面が露出したシリコンウェーハを、SiO2に対するSiのエッチング選択比(Si/SiO2エッチング選択比)が95以上、1100以下である、水酸化アンモニウムと過酸化水素水とを含む水溶液で洗浄する。
【0027】
ここでは、本発明の粗化現象について、Si及びSiO
2のエッチング挙動の観点から詳細に述べる。尚、Si及びSiO
2のエッチング量の算出方法の詳細は後述する。
図2には、ベア面が露出したDSP後ウェーハをSC1組成(液組成NH
4OH:H
2O
2:H
2O)、洗浄温度及び洗浄時間を変えて洗浄し(水準1から水準12と表記)、パーティクルカウンターにて粗さ指標であるHaze値を取得し、予め洗浄前に取得しておいたHaze値との差分(以下、Haze増加量と定義する)を示した。この値が高いほど面があれていることを示す。併せて、粗化処理なしのRefと水準5,9のSEM(走査型電子顕微鏡:Scanning Electronic Microscopy)の表面観察結果も示した。
【0028】
用いた薬液は28質量%のアンモニア水(NH
4OH)、30質量%の過酸化水素水(H
2O
2)で、それぞれ質量(wt)%でも表記した。尚、質量%とは洗浄溶液とそれに含まれる溶質(水酸化アンモニウム、過酸化水素)の質量比を百分率で表した濃度で、wt%とも表記する。また、
図2には、後述する算出方法で求めたSiO
2に対するSiのエッチング選択比も表記した。
【0029】
水準5,6,8,9,12において顕著にHazeが増加していることがわかる。さらにSEM画像を見ると、水準5と水準9は凹凸形状が観察され、Refではこのような凹凸形状は観察されていない。以上より、これらの水準では面が大きくあれており、粗化されていることがわかる。
一方、水準3,4,11では0.8~0.9ppm程度増加しているが、その増加量、即ち粗化度合いが小さく、粗化されているとは言えない。さらにLLS(局所光散乱欠陥:Localized Light Scatter)数も非常に多く、欠陥品質が大きく悪化していた。洗浄後の面状態が撥水面であることから、洗浄中にベア面が露出し、Siのエッチングが顕著に進行し、エッチピットが形成されたためと考えられる。残りの水準では面状態は親水面であったが、Haze増加量も僅かであった。
【0030】
水準5,6,8,9,12のSiO2に対するSiのエッチング選択比に着目すると、各々、1098、95.5、280、121、834であり、約95以上1100以下の範囲であることから、この範囲内の選択比であればLLS数を悪化させずに粗化することができることが分かる。
この理由について詳しく述べる。SC1洗浄では過酸化水素は酸化剤として機能しSiは酸化されSiO2(自然酸化膜。以下、単に酸化膜とも言う。)が形成される。水酸化アンモニウムは電離反応によりOH-を放出し、このOH-によりウェーハ表面のSiO2がエッチングされる。一般的な薬液組成(例えばNH4OH:H2O2:H2O=1:1:10)では洗浄中は常にウェーハには酸化膜が存在しており、ベア面(Si)が露出することなく、形成される酸化膜厚さは洗浄時間に依存せず常に約1nm程度である。これは酸化速度とエッチング速度のバランスに起因することが知られている。つまり、H2O2が所定濃度以上である薬液ではH2O2によるSiの酸化速度の方がOH-によるSiO2のエッチング速度よりも速いために、Siが露出することなく常にウェーハには酸化膜が存在していると解釈できる。言い換えれば、H2O2が所定濃度未満になるとOH-によるエッチング速度の方がH2O2によるSiの酸化速度よりも速くなるため、酸化が追い付かず、OH-によるSiのエッチング反応が進行する。このような場合は洗浄後にSiが露出しているため、撥水面となる。
【0031】
ここで粗化された水準の薬液組成は、例えば水準5のNH4OH:H2O2:H2O=1:0.4:1000のようにH2O2比率がNH4OHよりも低いことが分かる。したがって、このような薬液でベア面のシリコンウェーハを洗浄すると、洗浄後の面状態が親水面であることから、初めに酸化反応が進行し酸化膜が形成されるが、酸化速度が遅いため、SiO2のエッチングが相対的に優勢となり、SiO2がエッチングされ局所的にSiが露出された箇所でSiのエッチングが進行し、粗化が進行すると考えられる。この選択比の下限値としては水準6の95.5で粗化されているが、水準7の20.5では粗化されていないことから、95以上であることが必要となる。
逆に、この選択比が95未満では、酸化速度が十分に速くなり、エッチング作用が働いても、Siが露出されることがないため、粗化現象は進行しないと考えられる。
【0032】
次に選択比の上限値について考える。上述のように本発明の粗化は、形成された酸化膜をエッチングし、露出したSiをエッチングすることで進行する。即ち、H2O2による酸化作用がない場合や酸化速度が顕著に遅い場合は酸化反応が追い付かず、Siのエッチングのみが進行してしまう。このような場合は本発明の粗化を達成することは出来ず、LLS数も悪化してしまう。水準3,4,11はこれに該当し、これらのエッチング選択比は粗化が進行した水準(水準5,6,8,9,12)よりも高い。水準5の選択比1098で粗化が進行し、水準4の1286では粗化が進行しないことから、選択比の上限は1100であることがわかる。即ち、エッチング選択比が95以上、1100以下の範囲内(さらには、95.5以上、1098以下の範囲内)の洗浄液でベア面が露出したウェーハを洗浄することで粗化を達成することができる。
【0033】
このようなエッチング選択比の洗浄液を用い、特には、S2の洗浄工程後のウェーハ表面に、洗浄工程中に形成された自然酸化膜を残すようにする。すなわち、SiO2がエッチングされて局所的なSiの露出箇所でのSiのエッチングが進行した面状態であると、より確実に粗化されて粗化度合いが一層十分なものを得ることができる。
また、水準5の1:0.4:1000や水準12の1:0.02:10で粗化されていることから、薬液組成に制限はなく、前述の選択比を指標とすればよい。
【0034】
続いて、本発明において指標となるSi/SiO2エッチング選択比の算出方法について詳細に述べる。S2で用いる水溶液のSiO2に対するSiのエッチング選択比は、(Siのエッチング量/SiO2のエッチング量)から求めることができる。
Siのエッチング量は、自然酸化膜が存在しない、すなわち自然酸化膜がないベア面が露出したシリコンウェーハ、エピタキシャルウェーハ、又はSOI(Silicon on Insulator)ウェーハのいずれかを用意し、該用意したウェーハを任意の液組成の水溶液(Si/SiO2エッチング選択比を算出しようとする水溶液)で洗浄した後、洗浄前後のウェーハ厚み差、エピ層厚み差、又はSOIウェーハのSi層厚み差を測定し、これをエッチング量とすることができる。
例えば自然酸化膜の除去にはHF洗浄等が挙げられる。尚、HF洗浄条件に制限はなく、自然酸化膜が剥離できれば、薬液濃度、洗浄時間、洗浄温度などに制限はない。ウェーハに自然酸化膜が存在していると、自然酸化膜がエッチングされるまでSiのエッチングが進行せず、Siのエッチング量を精度良く評価できない。また、自然酸化膜が存在することで粗化現象が進行し、ウェーハ表面が粗化されることで、測定値に影響を与える可能性があるため、Siのエッチング量の算出用ウェーハは、自然酸化膜が存在しないウェーハである必要がある。
【0035】
用いるウェーハの選定はエッチング量から適宜に選定すればよい。一般的に直径300mmのシリコンウェーハの厚さは約775μmであることから、少なくともエッチング量が1μm以上であればその厚み変化量を捉えることができる。例えば一般的な平坦度測定機などで測定されるウェーハ厚みを指標とし、洗浄前後のウェーハ厚みをエッチング量とすることができる。尚、測定機はウェーハの厚みが測定できれば特に限定されない。例えばエッチング量が数十nmでは厚みの変化量が非常に少なくその変化量を捉えることは難しくウェーハ厚みを指標とすることは好ましくない。
エッチング量が数十nmから数百nmの場合はエピ厚みが数μmのエピタキシャルウェーハもしくはSi/SiO2/Si構造の表面側のSi層厚みが数十nmから数百nmであるSOIウェーハを用いればよく、適宜必要なエッチング量に合わせて選定すればよい。膜厚測定に関しては、例えば、エピタキシャルウェーハの場合はエピ層とサブ層で抵抗率が異なることを利用し、拡がり抵抗測定で洗浄後のエピ厚さを測定することで、膜厚差を算出することができる。SOIウェーハの膜厚測定では、例えば、分光エリプソメトリーを用いることができ、例えばエッチング量が数nmの場合にSi層が100nm以下のSOIウェーハを用いれば、精度よく評価することができる。尚、エピタキシャルウェーハ、SOIウェーハともにエピ層、Si層厚さが評価できれば特に評価方法は限定されない。
【0036】
続いて、SiO2のエッチング量の算出用ウェーハとしては、3nm以上のシリコン酸化膜が存在するウェーハを用意することが望ましい。
一般的に自然酸化膜が存在するシリコンウェーハに対し、酸化膜のエッチングとシリコンの酸化反応が競合するSC1洗浄を行うと、シリコン酸化膜がエッチングされ薄くなると、酸化種がシリコン酸化膜を拡散しやすくなりシリコンの酸化反応が進行するため、洗浄時間に依らず自然酸化膜厚さは一定の値となる。この場合、洗浄前後の膜厚差を算出してもシリコンの酸化反応により形成されたシリコン酸化膜が存在することでSiO2のエッチング量を正確に求めることはできない。さらに通常の自然酸化膜厚さは約1nmであり、この1nmの変化を精度良く測定することも困難である。
【0037】
そこで、例えば熱酸化で3nm以上のシリコン酸化膜を用意し、洗浄前後の酸化膜厚さを測定することで、精度よくSiO2のエッチング量を算出することができる。3nm以上の膜厚があれば、酸化種が酸化膜中を拡散できず、シリコンの酸化も生じない。したがって、SiO2のエッチングのみが進行するため、精度よくSiO2のエッチング量を算出することができる。さらにシリコン酸化膜の膜厚も精度よく測定できる。
【0038】
シリコン酸化膜の膜厚はエッチング量から適宜選定すればよく、用意したシリコン酸化膜付ウェーハを、Si/SiO2エッチング選択比を算出しようとする水溶液で洗浄し、洗浄前後の膜厚差を算出すればよく、例えば測定手法としては分光エリプソメトリーなどが挙げられる。
【0039】
このようにして、同じ液組成、洗浄温度でSiのエッチング量とSiO2のエッチング量とを求めた後、(Siのエッチング量/SiO2のエッチング量)からSiO2に対するSiのエッチング選択比を算出すればよい。尚、単位時間当たりのエッチングレートを算出し、(Siのエッチングレート/SiO2のエッチングレート)からSiO2に対するSiのエッチング選択比を算出しても構わない。
【0040】
この指標が95以上、1100以下だと、酸化反応が進行しながらもエッチング反応が優勢となり、SiO2がエッチングされSiが露出した箇所でSiのみを優先的にエッチングするため、粗化が進行する。
尚、SiとSiO2のエッチング挙動は洗浄温度に依存し変化することから、組成、洗浄温度別にSi/SiO2選択比を求めておくことで、様々な条件で確実に粗化を進行させることができる。
【0041】
また、粗化度合いは洗浄時間に依っても変化する。このため、SiO
2に対するSiのエッチング選択比及び洗浄時間と、表面粗さ(例えばHaze増加量)との関係を求める予備試験を行っておくことができる。そして、該関係に基づいて、洗浄後に所望の粗化度合いが得られるように、エッチング選択比、洗浄時間を選定して、S2の洗浄工程を行うことができる。より確実に所望の粗化度合いを得ることが可能であり、有効な手法である。
例えば、
図3には、液組成NH
4OH:H
2O
2:H
2O=1:0.4:1000、洗浄温度80℃(エッチング選択比1098)とし、洗浄時間を30,60,180,360secで洗浄した際のHaze増加量を示した。洗浄時間が長いほど、Haze増加量が増加し、正の相関が見られ洗浄時間を調整することで粗化度合いを調整することもできる。
液組成もしくは洗浄温度によりエッチング選択比を調整し粗化度合いを制御しても良く、洗浄時間を調整し粗化度合いを制御しても良く、適宜必要に応じて使い分ければよい。
【0042】
続いて、本発明の洗浄を実施する際の洗浄方式について述べる。現在、ウェーハの洗浄方式は大半が薬液や純水などの液体を使用するものでウェット洗浄と呼ばれる。その中で主な方式としては一度に多くのウェーハをまとめて洗浄するバッチ方式とウェーハを1枚ずつ処理する枚葉方式に分かれる。バッチ方式は装置構成上ウェーハの表面及び裏面の両方が薬液に浸漬するため、本発明の洗浄を行うと表裏面が粗化される。対して、枚葉方式はウェーハを回転させながら、薬液をスプレーするため、ウェーハの片面のみを洗浄することができる。本発明者らが調査したところ、本発明では、Si/SiO2エッチング選択比が95以上、1100以下の水溶液を用いて洗浄工程を行えば、バッチ方式及び枚葉方式どちらの方式でも粗化することができる。ウェーハの製造工程を考慮し、適宜方式を選定することができる。
【0043】
上述のように裏面のみが粗いウェーハを作製するには、枚葉方式の場合は裏面のみを洗浄すればよく、バッチ方式の場合は表裏面両方ともが粗化されてしまう。そこで本発明のシリコンウェーハの製造方法のように、本発明の洗浄方法により洗浄した後、研磨工程により、特には表面側の品質を良好にすることが望ましい。
例えば、本発明のシリコンウェーハの洗浄方法をバッチ式の洗浄機で行ってシリコンウェーハの表裏面共に粗化し、その後CMP加工のような片面研磨を片方の面(すなわち表面)に対して行うことで、該片方の面とは反対側の面(すなわち裏面)のみが選択的に粗化されたウェーハを製造することができる。
このようなウェーハであれば、ウェット環境下でもチャック不良を引き起こさず、安定した製造が可能となる。
【実施例0044】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は
これらに限定されるものではない。
(実施例1~8)
DSP加工後のベア面のシリコンウェーハを用意し、KLA社製パーティクルカウンター SP3にてHaze評価を行った。
次に、バッチ式洗浄機にて下記表1に示したように液組成、洗浄温度、洗浄時間を8つの水準に振った水溶液での洗浄条件にて洗浄を行った(実施例1~8)。水溶液を用意する際の薬液は28質量%のアンモニア水(NH4OH)、30質量%の過酸化水素水(H2O2)を用いた。
【0045】
また、同時に、用いた8つの水準の水溶液について、先に説明した方法で洗浄前後の膜厚差からSiのエッチング量とSiO2のエッチング量とを算出し、Si/SiO2エッチング選択比を算出した。
尚、Siのエッチング量の算出は、実施例1~8のうち、取り代の少ない実施例5以外は全てHF洗浄後の自然酸化膜がないベア面が露出したシリコンウェーハで行い、平坦度測定機でウェーハ洗浄前後のウェーハ厚みからSiのエッチング量を求めた。実施例5はSi層が80nmのSOIウェーハを用い、J.A.Woollam社製 分光エリプソメトリー M-2000Vで洗浄前後のSi層厚みからSiエッチング量を求めた。SiO2のエッチング量の算出は熱酸化で形成した5nm酸化膜付ウェーハで行い、分光エリプソメトリーで洗浄前後の酸化膜厚さからSiO2のエッチング量を求めた。
また、実施例1,2,3,4は同じ液組成、洗浄温度で洗浄時間が異なる水準であり、SiとSiO2のエッチング量は洗浄時間に依存し変化するが、エッチング選択比は同等であることから、実施例3の水準でエッチング量を評価し、求めたエッチング選択比を実施例1,2,4の水準に適用した。
表1に示すように、実施例1~8におけるエッチング選択比は、本発明におけるエッチング選択比の範囲内(95以上、1100以下)であった。
【0046】
そして、洗浄後のウェーハをSP3で評価し、HazeとLLS数を評価した。洗浄前後のHazeの差分を増加量(Haze悪化量とも言う)とした。
【0047】
【0048】
表1に示すように、実施例1~8の水準は全てHaze増加量が2ppm以上で、後述する比較例1~12のHaze増加量より大きく、全水準で十分に粗化されていると判断した。さらに全水準とも親水面であり、LLS数についての評価も0~4pcsと少なく良好であった。
また実施例3の水準で得られた洗浄後のウェーハの片方の面(表面)に対し、取り代500nmのCMP加工を行った。CMP加工後の各ウェーハのKLA社製パーティクルカウンター SP5/19nmUpにてLLS数を評価したところ、12pcsと良好であった。
その後、水中保管したウェーハの裏面側をチャックし研磨機のステージにウェーハをアンチャックさせる搬送するテストを繰り返し200回行ったところ、200回とも不良なく搬送することができた。
さらには他の実施例1-2、4-8の洗浄後のウェーハについても実施例3と同様のチャックテストを行ったところ、同様に、200回とも不良なく搬送することができた。
【0049】
(比較例1~12)
DSP加工後のベア面のシリコンウェーハを用意し、SP3にてHaze評価を行った。
次に、バッチ式洗浄機にて下記表2に示したように液組成、洗浄温度、洗浄時間を12の水準に振った水溶液での洗浄条件にて洗浄を行った(比較例1~12)。水溶液を用意する際の薬液は28質量%のアンモニア水(NH4OH)、30質量%の過酸化水素水(H2O2)を用いた。
【0050】
また、同時に、用いた12の水準の水溶液について、先に説明した方法で洗浄前後の膜厚差からSiのエッチング量とSiO2のエッチング量とを算出し、Si/SiO2エッチング選択比を算出した。比較例1,2は全てHF洗浄後の自然酸化膜がないベア面が露出したシリコンウェーハで行い、平坦度測定機でウェーハ洗浄前後のウェーハ厚みからSiのエッチング量を求めた。比較例3~12はSi層が80nmのSOIウェーハを用い、J.A.Woollam社製 分光エリプソメトリー M-2000Vで洗浄前後のSi層厚みからSiエッチング量を求めた。SiO2のエッチング量の算出は熱酸化で形成した5nm酸化膜付ウェーハで行い、分光エリプソメトリーで洗浄前後の酸化膜厚さからSiO2のエッチング量を求めた。
表2に示すように、比較例1~12におけるエッチング選択比は、本発明におけるエッチング選択比の範囲外であった。
【0051】
そして、洗浄後のウェーハをSP3で評価し、HazeとLLS数を評価した。洗浄前後のHazeの差分を増加量(Haze悪化量とも言う)とした。
【0052】
【0053】
エッチング選択比が1100より大きい比較例1,2の水準ではHaze増加量が1ppm以下と小さく、粗化されていないと判断した。さらに面状態が撥水面となり、LLS数も大きく悪化していた。エッチング選択比が95より小さい比較例3~12ではHaze増加量が非常に小さく、粗化されていないと判断した。
また比較例3の水準で得られた洗浄後のウェーハの片方の面(表面)に対し、取り代500nmのCMP加工を行った後、CMP加工機にて実施例3と同様のチャックテストを200回行った。200回中4回でウェーハがチャックから脱離しない不良が発生した。
さらには他の比較例1-2、4-12の洗浄後のウェーハについても実施例3と同様のチャックテストを行ったところ、200回中数回でウェーハがチャックから脱離しない不良が発生した。
【0054】
以上の結果から、本発明の実施例1~8では、SiO2に対するSiのエッチング選択比が95以上1100以下である洗浄液を用いることにより、シリコンウェーハの表裏面(特に裏面)を、チャックによる吸着に適した粗さを示すのに十分に粗化することができたことが分かる。
【0055】
一方、比較例1~12では、SiO2に対するSiのエッチング選択比が95未満、1100より大であったため、シリコンウェーハの表裏面(特に裏面)を、チャックによる吸着に適した粗さを示すのに十分に粗化することができなかった。
【0056】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。