(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023035435
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】有価金属の製造方法
(51)【国際特許分類】
C22B 5/02 20060101AFI20230306BHJP
C22B 1/02 20060101ALI20230306BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20230306BHJP
【FI】
C22B5/02
C22B1/02
C22B7/00 C
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021142281
(22)【出願日】2021-09-01
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】山下 雄
(72)【発明者】
【氏名】萩尾 友哉
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA07
4K001AA09
4K001AA19
4K001BA22
4K001CA15
4K001DA05
4K001HA01
4K001HA09
4K001KA06
(57)【要約】
【課題】有価金属を安価に製造できる方法を提供すること。
【解決手段】本発明に係る方法は、少なくとも、Li、Mn、Al、及び有価金属を含む原料を準備する準備工程と、原料に還元熔融処理を施して有価金属を含有する合金とスラグとを含む還元物を得る還元熔融工程と、還元物からスラグを分離して合金を回収するスラグ分離工程と、を含み、準備工程及び還元熔融工程のいずれか一方又は両方の工程において、カルシウム(Ca)を含有するフラックスを添加し、還元熔融処理により得られるスラグ中のAlに対するLiのモル比(Li/Al比)を0.25以上、スラグ中のAlに対するCaのモル比(Ca/Al比)を0.30以上とし、かつスラグ中のMn量を5.0質量%以上とし、還元熔融処理では、原料を熔融して得られる熔体中の酸素分圧を10
-14以上10
-11以下に制御する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有価金属の製造方法であって、以下の工程:
少なくとも、リチウム(Li)、マンガン(Mn)、アルミニウム(Al)、及び有価金属を含む原料を準備する準備工程と、
前記原料に還元熔融処理を施して、有価金属を含有する合金とスラグとを含む還元物を得る還元熔融工程と、
前記還元物からスラグを分離して合金を回収するスラグ分離工程と、を含み、
前記準備工程及び前記還元熔融工程のいずれか一方又は両方の工程において、前記原料及び/又は処理物に、カルシウム(Ca)を含有するフラックスを添加し、
前記還元熔融処理により得られる前記スラグ中のアルミニウム(Al)に対するリチウム(Li)のモル比(Li/Al比)を0.25以上、前記スラグ中のアルミニウム(Al)に対するカルシウム(Ca)のモル比(Ca/Al比)を0.30以上とし、かつ前記スラグ中のマンガン(Mn)量を5.0質量%以上とし、
前記還元熔融処理では、前記原料を熔融して得られる熔体中の酸素分圧を10-14以上10-11以下に制御する、
有価金属の製造方法。
【請求項2】
前記還元熔融処理では、前記原料を熔融して得られる熔体中の酸素分圧を10-14以上10-13以下に制御する、
請求項1に記載の有価金属の製造方法。
【請求項3】
前記原料を酸化焙焼して酸化焙焼物とする酸化焙焼工程をさらに含み、
前記酸化焙焼物に対して前記還元熔融処理を施す、
請求項1又は2に記載の有価金属の製造方法。
【請求項4】
前記還元熔融処理では、還元剤を導入する、
請求項1乃至3のいずれかに記載の有価金属の製造方法。
【請求項5】
前記還元熔融処理における加熱温度が、1300℃以上1550℃以下である、
請求項1乃至4のいずれかに記載の有価金属の製造方法。
【請求項6】
前記還元熔融処理における加熱温度が、1350℃以上1450℃以下である、
請求項1乃至5のいずれかに記載の有価金属の製造方法。
【請求項7】
前記原料は、廃リチウムイオン電池を含む、
請求項1乃至6のいずれかに記載の有価金属の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有価金属を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、軽量で大出力の電池としてリチウムイオン電池が普及している。よく知られているリチウムイオン電池は、外装缶内に負極材と正極材とセパレータと電解液とを封入した構造を有している。ここで、外装缶は、鉄(Fe)やアルミニウム(Al)等の金属からなる。負極材は、負極集電体(銅箔等)に固着させた負極活物質(黒鉛等)からなる。正極材は、正極集電体(アルミニウム箔等)に固着させた正極活物質(ニッケル酸リチウム、コバルト酸リチウム等)からなる。セパレータは、ポリプロピレンの多孔質樹脂フィルム等からなる。電解液は、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)等の電解質を含む。
【0003】
リチウムイオン電池の主要な用途の一つに、ハイブリッド自動車や電気自動車がある。そのため、自動車のライフサイクルにあわせて、搭載されたリチウムイオン電池が将来的に大量に廃棄される見込みである。また、製造中に不良品として廃棄されるリチウムイオン電池がある。このような使用済み電池や製造中に生じた不良品の電池(以下、「廃リチウムイオン電池」ともいう)を資源として再利用することが求められている。
【0004】
再利用の手法として、廃リチウムイオン電池を高温炉で全量熔解する乾式製錬プロセスが提案されている。乾式製錬プロセスは、破砕した廃リチウムイオン電池を熔融処理し、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、及び銅(Cu)に代表される回収対象である有価金属と、鉄(Fe)やアルミニウム(Al)に代表される付加価値の低い金属とを、それらの間の酸素親和力の差を利用して分離回収する手法である。この手法では、付加価値の低い金属はこれを極力酸化してスラグとする一方で、有価金属はその酸化を極力抑制して合金として回収する。
【0005】
例えば、特許文献1では、銅製錬炉でリチウムイオン電池からエンタルピー及び金属を回収するプロセスであって、製錬炉に有用な供給原料及びスラグ形成剤を供給する工程と、発熱剤及び還元剤を添加する工程と、を含み、その発熱剤及び/又は還元剤の少なくとも一部が、金属鉄、金属アルミニウム、及び炭素のうちの1つ以上を含むリチウムイオン電池に置き換えられることを特徴とする、プロセスを開示している(特許文献1の請求項1)。銅製錬炉を用いることができれば、銅製錬にあわせてリチウムイオン電池から銅やニッケル等の有価金属を効率的に回収することができる。コバルトは、銅製錬においてスラグに分配される。コバルトを回収するためには、例えば廃リチウムイオン電池を焙焼して合金とスラグとを分離し、得られた合金を湿式処理する手法が考えられる。
【0006】
また、特許文献2では、ニッケルとコバルトを含有するリチウムイオン電池の廃電池から、ニッケルとコバルトを含む有価金属を回収する有価金属の回収方法であって、廃電池を熔融して熔融物を得る熔融工程と、熔融工程時の熔融物に対して、又は、熔融工程前の廃電池に対して行われ廃電池を酸化処理する酸化工程と、熔融物からスラグを分離して有価金属を含む合金を回収するスラグ分離工程と、合金に含有されるリンを分離する脱リン工程と、を備え、脱リン工程において、合金に石灰含有物を添加し、次いで、合金を酸化する方法を開示している(特許文献2の請求項1)。この特許文献2の技術では、廃リチウムイオン電池を熔融する際に、二酸化珪素(SiO2)及び酸化カルシウム(CaO)を添加して、スラグの融点を下げることで有価金属を回収する方法を提案している(特許文献2の[0037]及び[0038])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2015/096945号
【特許文献2】特許第5853585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1や特許文献2で提案される方法でも課題が残されている。例えば、特許文献1に開示の方法では、高温処理が必要である。また、処理容器の酸化物がスラグによって浸食されてすぐに割れてしまう問題がある。このような浸食が起きてしまうと、設備費用が莫大になり有価金属を安価に回収することができない。また、特許文献2に開示の方法では、フラックス添加量が多いため、廃リチウムイオン電池処理量が少なくなってしまう。さらに、酸性酸化物である二酸化珪素(SiO2)をフラックスが多量に含むため、酸性酸化物となるリンをメタルから除去することが不十分になる恐れがある。これらのような問題点があるため、廃リチウムイオン電池から有価金属を安価に回収する技術の開発が望まれている。
【0009】
そこで、本発明者らは、このような実情に鑑みて鋭意検討を行った。その結果、スラグ中のアルミニウム(Al)に対するリチウム(Li)のモル比(Li/Al比)と、アルミニウム(Al)に対するカルシウム(Ca)のモル比(Ca/Al比)と、マンガン(Mn)量とに着目し、これらの比や量を所定範囲内に限定することで、スラグの熔融温度を1550℃以下に低温化でき、有価金属を安価に回収できるとの知見を得た。
【0010】
本発明は、このような知見に基づき完成されたものであり、有価金属を安価に製造できる方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、下記(1)~(7)の態様を包含する。なお、本明細書において、「~」なる表現は、その両端の数値を含む。すなわち、「X~Y」は「X以上Y以下」と同義である。
【0012】
(1)本発明の第1の発明は、有価金属の製造方法であって、以下の工程:少なくとも、リチウム(Li)、マンガン(Mn)、アルミニウム(Al)、及び有価金属を含む原料を準備する準備工程と、前記原料に還元熔融処理を施して、有価金属を含有する合金とスラグとを含む還元物を得る還元熔融工程と、前記還元物からスラグを分離して合金を回収するスラグ分離工程と、を含み、前記準備工程及び前記還元熔融工程のいずれか一方又は両方の工程において、前記原料及び/又は処理物に、カルシウム(Ca)を含有するフラックスを添加し、前記還元熔融処理により得られる前記スラグ中のアルミニウム(Al)に対するリチウム(Li)のモル比(Li/Al比)を0.25以上、前記スラグ中のアルミニウム(Al)に対するカルシウム(Ca)のモル比(Ca/Al比)を0.30以上とし、かつ前記スラグ中のマンガン(Mn)量を5.0質量%以上とし、前記還元熔融処理では、前記原料を熔融して得られる熔体中の酸素分圧を10-14以上10-11以下に制御する、有価金属の製造方法である。
【0013】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、前記還元熔融処理では、前記原料を熔融して得られる熔体中の酸素分圧を10-14以上10-13以下に制御する、有価金属の製造方法である。
【0014】
(3)本発明の第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記原料を酸化焙焼して酸化焙焼物とする酸化焙焼工程をさらに含み、前記酸化焙焼物に対して前記還元熔融処理を施す、有価金属の製造方法である。
【0015】
(4)本発明の第4の発明は、第1乃至第3のいずれかの発明において、前記還元熔融処理では、還元剤を導入する、有価金属の製造方法である。
【0016】
(5)本発明の第5の発明は、第1乃至第4のいずれかの発明において、前記還元熔融処理における加熱温度が、1300℃以上1550℃以下である、有価金属の製造方法である。
【0017】
(6)本発明の第6の発明は、第1乃至第5のいずれかの発明において、前記還元熔融処理における加熱温度が、1350℃以上1450℃以下である、有価金属の製造方法である。
【0018】
(7)本発明の第7の発明は、第1乃至第6のいずれかの発明において、前記原料は、廃リチウムイオン電池を含む、有価金属の製造方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、有価金属を安価に製造できる方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】有価金属の製造方法の流れの一例を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において種々の変更が可能である。
【0022】
≪1.有価金属の製造方法≫
本実施の形態に係る有価金属を製造する方法は、少なくも、リチウム(Li)、マンガン(Mn)、アルミニウム(Al)、及び有価金属を含む原料から有価金属を分離回収する方法である。したがって、この方法は、有価金属の回収方法とも言い換えることができる。本実施の形態に係る方法は、主として乾式製錬プロセスによる方法であるが、乾式製錬プロセスと湿式製錬プロセスとから構成されていてもよい。
【0023】
具体的に、本実施の形態に係る方法は、以下の工程:少なくとも、リチウム(Li)、マンガン(Mn)、アルミニウム(Al)、及び有価金属を含む原料を準備する準備工程と、原料に還元熔融処理を施して有価金属を含有する合金とスラグとを含む還元物を得る還元熔融工程と、還元物からスラグを分離して合金を回収するスラグ分離工程と、を含む。
【0024】
準備工程及び還元熔融工程のいずれか一方又は両方の工程では、原料及び/又はその処理物に、カルシウム(Ca)を含有するフラックスを添加する。
【0025】
そして、還元熔融処理により得られるスラグ中のアルミニウム(Al)に対するリチウム(Li)のモル比(Li/Al比)が0.25以上、スラグ中のアルミニウム(Al)に対するカルシウム(Ca)のモル比(Ca/Al比)が0.30以上とし、かつスラグ中のマンガン(Mn)量が5.0質量%以上となるように処理を施す。
【0026】
さらに、還元熔融処理では、原料を熔融して得られる熔体中の酸素分圧を10-14以上10-11以下に制御する。
【0027】
このような本実施の形態の方法によれば、スラグの熔融温度を低温化させることができ、スラグが低粘性化する。そのため、原料を還元熔融して得られるスラグと合金との分離を効率よく行うことができ、その結果、有価金属を効率よく安価に製造することできる。
【0028】
ここで、有価金属は、製造対象となるものであり、例えば、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、及びこれらの組み合わせからなる群から選ばれる少なくとも一種の金属又は合金である。
【0029】
[準備工程]
準備工程では、原料を準備する。原料は、有価金属を製造する処理対象となるものであり、少なくとも、リチウム(Li)、マンガン(Mn)、アルミニウム(Al)を含み、さらに有価金属を含む。なお、有価金属としては、上述したように、例えば、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、及びコバルト(Co)及びこれらの組み合わせからなる群から選ばれる少なくとも一種を含有する。原料は、これらの成分を金属の形態で含んでもよく、あるいは酸化物等の化合物の形態で含んでもよい。また、原料は、これらの成分以外の他の無機成分や有機成分を含んでもよい。
【0030】
原料としては、その対象は特に限定されず、例えば、廃リチウムイオン電池、誘電材料(コンデンサ)、磁性材料が挙げられる。また、後続する還元熔融工程での処理に適したものであれば、その形態は限定されない。また、準備工程において、原料に対して粉砕処理等を施して、適した形態にしてもよい。さらに、準備工程において、原料に対して、熱処理や分別処理等を施して、水分や有機物等の不要成分を除去してもよい。
【0031】
また、準備工程では、原料にカルシウム(Ca)を含有するフラックスを添加することができる。フラックスとしては、例えば、酸化カルシウム(CaO)や炭酸カルシウム(CaCO3)が挙げられる。なお、本実施の形態に係る方法では、準備工程及び還元熔融工程のいずれか一方又は両方の工程において、フラックスを添加する。
【0032】
[還元熔融工程]
還元熔融工程では、準備した原料を熔融炉内に装入して還元熔融処理を施す。具体的に、還元熔融処理では、原料を加熱して熔体とし、還元剤等による還元処理を施すことによって還元物を得る。得られる還元物は、合金とスラグとを分離して含む。そして、合金は、有価金属を含有する。このことから、有価金属を含む成分(合金)とその他の成分とを、還元物中で分離させることが可能である。
【0033】
より具体的に、還元熔融処理は、熔融炉内において、原料を加熱して還元熔融することにより還元物とする処理である。この処理の目的は、原料中に含まれる付加価値の低い金属(Al等)を酸化物とする一方で、有価金属(Cu、Ni、Co)を還元及び熔融して一体化した合金として回収することである。還元熔融処理後には、熔融した状態の合金が得られる。なお、還元熔融処理に先立ち、後述する酸化焙焼の処理を行う場合には、得られる酸化焙焼物を熔融炉に装入し、加熱して還元熔融する。これにより、酸化焙焼処理により酸化した付加価値の低い金属(Al等)を酸化物のままに維持する一方で、有価金属(Cu、Ni、Co)を還元及び熔融して一体化した合金として回収する。
【0034】
これは、付加価値の低い金属(Al等)は酸素親和力が高いのに対し、有価金属は酸素親和力が低いことによる。例えば、アルミニウム(Al)、リチウム(Li)、炭素(C)、マンガン(Mn)、リン(P)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、及び銅(Cu)は、一般的に、Al>Li>C>Mn>P>Fe>Co>Ni>Cuの順に酸化されていく。つまり、アルミニウム(Al)が最も酸化され易く、銅(Cu)が最も酸化されにくい。そのため、付加価値の低い金属(Al等)は容易に酸化されてスラグとなり、有価金属(例えばCu、Ni、Co)は還元されて金属(合金)となる。このようにして、付加価値の低い金属と有価金属とを、スラグと合金とに分離できる。
【0035】
還元熔融処理においては、還元剤を導入することが好ましい。還元剤としては、炭素及び/又は一酸化炭素を用いることが好ましい。炭素は、回収対象である有価金属(例えばCu、Ni、Co)を容易に還元する能力がある。例えば、1モルの炭素で2モルの有価金属酸化物(銅酸化物、ニッケル酸化物等)を還元することができる。また、炭素や一酸化炭素を用いる還元手法は、金属還元剤を用いる手法(例えば、アルミニウムを用いたテルミット反応法)に比べて安全性が極めて高い。炭素としては、人工黒鉛及び/又は天然黒鉛を使用することができ、また、不純物コンタミネーションの恐れが無ければ、石炭やコークスを使用することができる。
【0036】
還元熔融処理の加熱温度は、特に限定されないが、1300℃以上1550℃以下が好ましく、1350℃以上1450℃以下がより好ましい。加熱温度が1550℃を超えると、熱エネルギーが無駄に消費されるとともに、坩堝等の耐火物の消耗が激しくなり、生産性が低下する恐れがある。一方で、加熱温度が1300℃未満であると、スラグと合金の分離性が悪化して有価金属の回収率が低下する可能性がある。
【0037】
還元熔融処理は、公知の手法で行えばよい。例えば、熔融するための原料をアルミナ(Al2O3)製坩堝に装入し、抵抗加熱等により加熱する手法が挙げられる。また、還元熔融処理においては、粉塵や排ガス等の有害物質が発生することがあるが、公知の排ガス処理等の処理を施すことで、有害物質を無害化することができる。
【0038】
ここで、還元熔融処理に際しては、原料にカルシウム(Ca)を含有するフラックスを添加することができる。本実施の形態に係る方法では、準備工程及び還元熔融工程のいずれか一方又は両方の工程において、フラックスを添加する。フラックスは、カルシウム(Ca)を主成分とするものであり、例えば酸化カルシウム(CaO)や炭酸カルシウム(CaCO3)が挙げられる。ただし、処理対象の原料中にカルシウム成分が必要量含まれている場合には、フラックスは添加しなくてもよい。なお、フラックスは、珪素(Si)を含まないものが好ましい。
【0039】
本実施の形態に係る方法では、還元熔融処理により得られるスラグ中のアルミニウム(Al)に対するリチウム(Li)のモル比(Li/Al比)が0.25以上、アルミニウム(Al)に対するカルシウム(Ca)のモル比(Ca/Al比)が0.30以上となるように処理する。
【0040】
リチウム(Li)及びカルシウム(Ca)は、スラグの熔融温度の低下に寄与する。また、スラグ中のカルシウム(Ca)が多いと、原料にリンが含まれる場合に、そのリンを除去し易くなる。これは、リンが酸化されると酸性酸化物になるのに対し、カルシウム(Ca)は酸化されると塩基性酸化物になるからである。したがって、スラグ中のカルシウム(Ca)量が多いほど、スラグ組成が塩基性となり、その結果、リンをスラグに含有させて除去することが容易になる。
【0041】
スラグ熔融温度の観点から、Li/Al比やCa/Al比の上限は、特に限定されない。スラグは、アルミニウム(Al)を含まなくても熔融させることはできるからである。
例えば、酸化リチウム(Li2O)単独であっても、1430℃程度の温度で熔融可能である。
【0042】
ただし、Li/Al比が過度に高いと、リチウム(Li)が坩堝に含まれる酸化物と化合物を形成する可能性があるため、使用する坩堝の材質によっては坩堝の寿命が著しく低下することがある。また、Li/Al比及びCa/Al比の両方が過度に高い場合には、スラグが逆に熔融し難くなる恐れがある。これらのことから、スラグ中のLi/Al比は0.25以上10.00以下がより好ましく、0.25以上2.50以下がさらに好ましい。また、スラグ中のCa/Al比は、0.30以上3.00以下がより好ましく、0.30以上1.00以下がさらに好ましい。
【0043】
なお、スラグ成分(Al、Li、Ca)の量は、原料の組成やフラックスの添加量を調整することで容易に制御することができる。
【0044】
また、本実施の形態に係る方法では、スラグ中のマンガン(Mn)量(以下、「Mn品位」ともいう)が5.0質量%以上となるように処理する。マンガン(Mn)は、スラグの熔融温度の低下に寄与する。
【0045】
スラグ中のマンガン(Mn)量の上限は、特に限定されない。ただし、マンガン(Mn)量が過度に多いと、スラグが逆に熔融し難くなる恐れがある。このことから、スラグ中のマンガン(Mn)量は、5.0質量%以上10.0質量%以下が好ましく、5.0質量%以上7.5質量%以下がより好ましい。
【0046】
なお、スラグ中のマンガン(Mn)量は、原料の組成を調整することで容易に制御することができる。例えば、リチウムイオン電池のマンガン(Mn)を含む正極材を原料に加えることで、マンガン(Mn)量を制御することができる。
【0047】
そして、本実施の形態に係る方法では、還元熔融処理に際して、原料を熔融して得られる熔体中の酸素分圧が10-14以上10-11以下となるように還元度を制御する。このように熔体中の酸素分圧を特定の範囲に制御することで、スラグ中のマンガン量を制御することができる。つまり、得られるスラグ中のマンガン量を制御するための還元度の指標として、酸素分圧を使用する。
【0048】
還元度を高くし過ぎると、すなわち、熔体中の酸素分圧を10-14よりも下げると、マンガン(Mn)がメタルに分配され、スラグ中のマンガン(Mn)品位が下がってスラグが熔融しにくくなる。一方で、還元度を低くし過ぎると、すなわち、熔体中の酸素分圧を10-11よりも上げると、有価金属の回収率が下がる。このように、適切な還元度に制御することが重要である。
【0049】
より好ましくは、熔体中の酸素分圧が10-14以上10-13以下となるように制御する。好ましくはこのような範囲に還元度を制御することで、スラグを良好に熔融させながら、有価金属の回収率をより高めることができる。
【0050】
還元度の制御において、還元度を増加させる場合には還元剤を添加すればよく、還元度を減少させる場合には酸化剤を添加すればよい。使用する還元剤や酸化剤の種類、添加の方法等については、公知の方法で行うことができる。
【0051】
なお、還元熔融処理に先立って、後述する酸化焙焼処理(酸化焙焼工程)を行うようにした場合には、還元熔融処理において酸化処理を行う必要はない。ただし、酸化焙焼処理での酸化が不足している場合や、還元度のさらなる調整を目的とする場合には、還元熔融処理において、あるいは還元熔融処理の後に、追加の酸化処理を行ってもよい。追加の酸化処理を行うことで、より厳密な還元度の調整が可能となる。追加で酸化処理を行うときの手法としては、例えば、還元熔融処理で生成する熔融物に酸化剤を吹き込む手法が挙げられる。具体的には、還元熔融処理で生成する熔融物に金属製チューブ(ランス)を挿入し、バブリングにより酸化剤を吹き込むことによって酸化処理を行う。この場合、空気、純酸素、酸素冨化気体等の酸素を含む気体を酸化剤に用いることができる。
【0052】
[酸化焙焼工程]
本実施の形態に係る方法では、必要に応じて、還元熔融処理に先立って、原料を酸化焙焼して酸化焙焼物を得る工程(酸化焙焼工程)をさらに設けることができる。
【0053】
酸化焙焼処理は、原料を酸化焙焼(酸化処理)して酸化焙焼物とするものであり、原料が炭素を含む場合であってもこの炭素を酸化除去し、その結果、後続する還元熔融工程での有価金属の合金一体化を促進させることができる。具体的に、還元熔融処理においては、有価金属は還元されて局所的な熔融微粒子となるが、このとき、装入物に含まれる炭素は熔融微粒子(有価金属)が凝集する際の物理的な障害となり、熔融微粒子の凝集一体化及びそれによるメタル(合金)とスラグとの分離性を妨げ、有価金属の回収率を低下させることがある。この点、還元熔融処理に先立ち、酸化焙焼工程を設けて原料に対して酸化焙焼処理を施しておくことで、原料中の炭素を有効に除去でき、それにより、還元熔融処理にて生成する熔融微粒子(有価金属)の凝集一体化が進行して、有価金属の回収率をより一層高めることができる。
【0054】
またその上、酸化焙焼工程を設けることで、酸化のばらつきを抑えることが可能となる。酸化焙焼処理では、原料に含まれる付加価値の低い金属(Al等)を酸化することが可能な酸化度で処理(酸化焙焼)を行うのが望ましい。一方で、酸化焙焼処理の温度、時間及び/又は雰囲気を調整することで、酸化度は容易に制御される。そのため、酸化焙焼処理によって酸化度をより厳密に調整することができ、酸化ばらつきを抑制できる。
【0055】
酸化度の調整は、次のようにして行う。上述したように、アルミニウム(Al)、リチウム(Li)、炭素(C)、マンガン(Mn)、リン(P)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、及び銅(Cu)は、一般的に、Al>Li>C>Mn>P>Fe>Co>Ni>Cuの順に酸化されていく。酸化焙焼処理では、アルミニウム(Al)の全量が酸化されるまで酸化を進行させる。鉄(Fe)の一部が酸化されるまで酸化を促進させてもよいが、コバルト(Co)が酸化されてスラグとして回収されることがない程度に酸化度を留める。
【0056】
酸化焙焼処理によって酸化度を調整するにあたり、適量の酸化剤を導入することが好ましい。特に、原料として廃リチウムイオン電池を含む場合には、酸化剤の導入が好ましい。リチウムイオン電池は、外装材としてアルミニウムや鉄等の金属を含んでいる。また、正極材や負極材としてアルミニウム箔や炭素材を含んでいる。さらに、集合電池の場合には、外部パッケージとしてプラスチックが用いられている。これらはいずれも、還元剤として作用する材料である。酸化焙焼処理において酸化剤を導入することで、酸化度を適切な範囲内に調整することができる。
【0057】
酸化剤は、炭素や付加価値の低い金属(Al等)を酸化できるものである限り、特に限定されないが、取り扱いが容易な、空気、純酸素、酸素富化気体等の酸素を含む気体が好ましい。酸化剤の導入量は、酸化処理の対象となる各物質の酸化に必要な量(化学当量)の1.2倍程度(例えば1.15~1.25倍)が目安となる。
【0058】
酸化焙焼(酸化処理)の加熱温度は、700℃以上1100℃以下が好ましく、800℃以上1000℃以下がより好ましい。加熱温度を700℃以上とすることで、炭素の酸化効率をより一層に高めることができ、酸化時間を短縮することができる。また、加熱温度を1100℃以下とすることで、熱エネルギーコストを抑制することができ、酸化焙焼の効率を高めることができる。
【0059】
酸化焙焼処理は、公知の焙焼炉を用いて行うことができる。また、後続する還元熔融工程での処理(還元熔融処理)で使用する熔融炉とは異なる炉(予備炉)を用い、その予備炉内で行うことが好ましい。焙焼炉としては、原料を焙焼しながら酸化剤(酸素等)を供給してその内部で酸化処理を行うことが可能な炉である限り、あらゆる形式の炉を用いることができる。一例して、従来公知のロータリーキルン、トンネルキルン(ハースファーネス)が挙げられる。
【0060】
[スラグ分離工程]
スラグ分離工程では、還元熔融工程で得られた還元物からスラグを分離して、合金を回収する。スラグと合金は比重が異なる。そのため、合金に比べ比重の小さいスラグは合金の上部に集まるので、比重分離によって容易に分離回収することができる。
【0061】
スラグ分離工程の後に、得られた合金を硫化する硫化工程や、得られた硫化物と合金の混在物を粉砕する粉砕工程を設けてもよい。さらに、このような乾式製錬プロセスを経て得られた有価金属合金に対して湿式製錬プロセスを行ってもよい。湿式製錬プロセスにより、不純物成分を除去し、有価金属(例えばCu、Ni、Co)を分離精製し、それぞれを回収することができる。湿式製錬プロセスにおける処理としては、中和処理や溶媒抽出処理等の公知の手法が挙げられる。
【0062】
以上のような本実施の形態に係る方法によれば、スラグの熔融温度を低温化、具体的には例えば1550℃以下、好ましくは1450℃以下とすることができ、スラグが低粘性化する。そのため、還元熔融して得られるスラグと合金との分離を効率よく行うことができ、その結果、有価金属を効率よく安価に回収することが可能となる。
【0063】
≪2.廃リチウムイオン電池からの回収≫
上述したように、本実施の形態に係る方法に用いられる原料は、リチウム(Li)、マンガン(Mn)、アルミニウム(Al)、及び有価金属を含む限り、特に限定されない。その中でも、原料としては、廃リチウムイオン電池を含むものが好ましい。
【0064】
廃リチウムイオン電池は、リチウム(Li)、マンガン(Mn)、アルミニウム(Al)、及び有価金属(Cu、Ni、Co)を含むとともに、付加価値の低い金属(Fe等)や炭素成分を含んでいる。そのため、廃リチウムイオン電池を原料として用いることで、有価金属を効率的に分離回収することができる。なお、「廃リチウムイオン電池」とは、使用済みのリチウムイオン電池のみならず、電池を構成する正極材等の製造工程で生じた不良品、製造工程内部の残留物、発生屑等のリチウムイオン電池の製造工程内における廃材を含む概念である。そのため、廃リチウムイオン電池をリチウムイオン電池廃材と言うこともできる。
【0065】
図1は、廃リチウムイオン電池から有価金属を回収する方法の流れの一例を示す工程図である。
図1に示すように、この方法は、廃リチウムイオン電池の電解液及び外装缶を除去する廃電池前処理工程S1と、廃電池を粉砕して粉砕物とする粉砕工程S2と、粉砕物を酸化焙焼する酸化焙焼工程S3と、酸化焙焼物を還元熔融する還元熔融工程S4と、還元熔融処理して得られた還元物からスラグを分離して合金を回収するスラグ分離工程S5と、を有する。
【0066】
また、図示していないが、得られた合金を硫化する硫化工程や、得られた硫化物と合金との混在物を粉砕する粉砕工程を設けてもよい。
【0067】
(廃電池前処理工程)
廃電池前処理工程S1は、廃リチウムイオン電池の爆発防止及び無害化を目的に行われる。リチウムイオン電池は密閉系であるため、内部に電解液等を有している。そのため、そのままの状態で粉砕処理を行うと、爆発の恐れがあり危険である。何らかの方法で放電処理や電解液除去処理を施すことが好ましい。また外装缶は金属であるアルミニウム(Al)や鉄(Fe)から構成されることが多く、こうした金属製の外装缶はそのまま回収することが比較的に容易である。このように、廃電池前処理工程S1において、電解液を除去することで、安全性を高めるとともに、有価金属(Cu、Ni、Co)の回収率を高めることができる。
【0068】
廃電池前処理の具体的な方法は、特に限定されない。例えば、針状の刃先で廃電池を物理的に開孔し、電解液を除去する手法が挙げられる。また、廃電池を加熱して、電解液を燃焼して無害化する手法が挙げられる。
【0069】
(粉砕工程)
粉砕工程S2では、廃リチウムイオン電池の内容物を粉砕して粉砕物を得る。粉砕工程S2での粉砕処理は、乾式製錬プロセスでの反応効率を高めることを目的としている。反応効率を高めることで、有価金属(Cu、Ni、Co)の回収率を高めることができる。
【0070】
具体的な粉砕方法は、特に限定されるものではない。カッターミキサー等の従来公知の粉砕機を用いて粉砕することができる。
【0071】
なお、外装缶に含まれるアルミニウム(Al)や鉄(Fe)を回収する場合には、廃リチウムイオン電池を粉砕した後に、渦電流を利用したアルミ選別機、鉄を選別するための磁力選別機を経た後、粉砕物を篩振とう機を用いて篩分けしてもよい。アルミニウム(Al)は軽度の粉砕で容易に粉状になるため、これを効率的に回収することができる。また磁力選別によって、外装缶に含まれる鉄(Fe)を回収してもよい。
【0072】
廃電池前処理工程S1と粉砕工程S2とは、これらを併せて上述した「準備工程」に相当する。
【0073】
(酸化焙焼工程)
酸化焙焼工程S3では、粉砕工程S2で得られた粉砕物を酸化焙焼して酸化焙焼物を得る。この工程は、上述した「酸化焙焼工程」に相当する工程であり、詳細はそこで説明したとおりである。
【0074】
(還元熔融工程)
還元熔融工程S4では酸化焙焼工程S3で得られた酸化焙焼物に対して還元熔融処理を施して還元物を得る。この工程は、上述した「還元熔融工程」に相当する工程であり、詳細はそこで説明したとおりである。
【0075】
特に、本実施の形態に係る方法では、還元熔融処理により得られるスラグ中のアルミニウム(Al)に対するリチウム(Li)のモル比(Li/Al比)が0.25以上、スラグ中のアルミニウム(Al)に対するカルシウム(Ca)のモル比(Ca/Al比)が0.30以上とし、かつそのスラグ中のマンガン(Mn)量が5.0質量%以上となるように処理する。また、還元熔融処理では、原料を熔融して得られる熔体中の酸素分圧を10-14以上10-11以下に制御する。このような方法によれば、得られるスラグの熔融温度を有効に低温化することができ、スラグが低粘性化する。そのため、還元熔融して得られるスラグと合金との分離を効率よく行うことができ、その結果、有価金属を効率よく安価に回収することが可能となる。
【0076】
なお、準備工程及び還元熔融工程のいずれか一方又は両方の工程において、原料及び/又は処理物に、カルシウム(Ca)を含有するフラックスを添加する。
【0077】
(スラグ分離工程)
スラグ分離工程S5では、還元熔融工程S4で得られた還元物からスラグを分離して、合金を回収する。この工程は、上述した「スラグ分離工程」に相当し、詳細はそこで説明したとおりである。
【0078】
なお、スラグ分離工程後に、硫化工程や粉砕工程を設けてもよい。さらに、得られた有価金属合金に対して湿式製錬プロセスを行ってもよい。硫化工程、粉砕工程、及び湿式製錬プロセスの詳細は上述したとおりである。
【実施例0079】
以下に、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0080】
[実施例1について]
(1)有価金属の製造
廃リチウムイオン電池を原料に用いて、以下の工程に従って有価金属を製造した。
【0081】
(廃電池前処理工程及び粉砕工程(準備工程))
廃リチウムイオン電池として、18650型円筒型電池、車載用の使用済み角形電池、及び電池製造工程で回収した不良品を準備した。これらの廃電池を塩水中に浸漬して放電させた後、水分を除去し、大気中260℃で焙焼して電解液及び外装缶を分解除去して、電池内容物を得た。
【0082】
得られた電池内容物を、粉砕機(株式会社氏家製作所製,グッドカッター)を用いて粉砕し、装入物とした。
【0083】
(酸化焙焼工程)
得られた粉砕物(装入物)を酸化焙焼して酸化焙焼物を得た。酸化焙焼は、ロータリーキルンを用いて大気中900℃で180分間の条件で行った。
【0084】
(還元熔融工程)
得られた酸化焙焼物に対して、還元剤としての黒鉛を、有価金属(Cu、Ni、Co)の合計モル数の0.6倍のモル数、すなわち、有価金属の還元に必要なモル数の1.2倍を添加し、さらにフラックスとして酸化カルシウム(CaO)をCa/Al比が0.33になるように添加して混合し、得られた混合物をアルミナ(Al2O3)製坩堝に装入した。その後、坩堝に装入した混合物を加熱して還元熔融処理を施し、合金とスラグとを含む還元物を得た。還元熔融処理は、抵抗加熱により1450℃で60分間の条件で行った。また、還元熔融処理では、酸素プローブ(川惣電機工業株式会社製、OXT-O)を先端に備えた酸素分析計を用いて、熔体中の酸素分圧を測定した。また、酸素分圧の調整は、黒鉛の添加、あるいはランスを使用しての空気の吹込みにより行った。
【0085】
(スラグ分離工程)
得られた還元物からスラグを分離して合金を回収した。
【0086】
(2)評価
(スラグの成分分析)
還元物から分離したスラグの成分分析を、次のようにして行った。すなわち、得られたスラグを冷却後に粉砕し、蛍光X線により分析を行った。
【0087】
(有価金属の回収率)
有価金属(Co)の回収率を、次のようにして求めた。すなわち、(回収した合金中のCo重量)÷(回収した合金中のCo重量+スラグ中のCo重量)×100(質量%)として求めた。なお、回収した合金中の成分分析は蛍光X線にて行った。
【0088】
[実施例2~4、比較例1~4について]
廃電池前処理工程にて準備した18650型円筒型電池、使用済み角形電池、及び不良品の割合を変え、還元熔融処理にて得られるスラグ組成、熔融温度、酸素分圧を、表1に記載されるスラグ組成、熔融温度、酸素分圧となるようにしたこと以外は、実施例1と同様にして有価金属の製造を実施して評価した。
【0089】
[評価結果について]
下記表1に、実施例、比較例について得られた結果を示す。
【0090】
表1に示されるように、実施例1~4では、スラグとメタル(合金)の分離性が良好であった。また、コバルト(Co)回収率が95%以上と良好であった。特に、実施例4では、コバルト回収率が98%を超え、安価な操作によって、有価金属をより高い回収率で回収することができた。
【0091】
これに対して、比較例1~4では、実施例に比べてコバルト回収率が低かった。比較例1及び比較例2では、スラグが完全に熔融しきれなかったため、スラグの粘性が高くなったと推察された。すなわち、スラグの粘性が高かったことで、回収したスラグ中にメタル粒が数多く存在する状態になり、これがスラグとメタルの分離性の悪化、すなわちコバルト回収率の悪化につながったと考えられる。
【0092】
より具体的に、比較例1では、熔体中の酸素分圧が10-14よりも小さくなったため、マンガン(Mn)がスラグからメタルに移行し、スラグ中のMn品位が5.0質量%を下回り、スラグ融点が上昇したと考えられる。また、比較例2では、スラグのCa/Al比が0.3を下回ったため、スラグ融点が上昇したと考えられる。また、比較例3では、熔体中の酸素分圧が高く、コバルト(Co)が酸化されてスラグに分配する量が増えたためにコバルト回収率が悪化したと考えられる。また、比較例4では、スラグのLi/Al比が0.25を下回ったため、スラグ融点が上昇したと考えられる。
【0093】
なお、いずれの試験例においても、銅(Cu)及びニッケル(Ni)の回収率は、95%を超えていた。
【0094】