(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023035461
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】水素吸蔵合金、水素吸蔵方法、水素放出方法及び発電システム
(51)【国際特許分類】
C22C 14/00 20060101AFI20230306BHJP
F17C 11/00 20060101ALI20230306BHJP
H01M 8/04 20160101ALI20230306BHJP
【FI】
C22C14/00 A
F17C11/00 C
H01M8/04 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021142329
(22)【出願日】2021-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】瀬川 裕太
(72)【発明者】
【氏名】下田 英介
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 成輝
(72)【発明者】
【氏名】前田 哲彦
(72)【発明者】
【氏名】五舛目 清剛
【テーマコード(参考)】
3E172
5H127
【Fターム(参考)】
3E172AA02
3E172AA09
3E172AB01
3E172BA01
3E172EB02
3E172FA01
5H127AC15
5H127BA02
5H127BA23
(57)【要約】
【課題】水素圧が0.2MPa(abs)以上1.1MPa(abs)未満の圧力範囲内にて、有効水素貯蔵量を高めることができる水素吸蔵合金並びにそれを用いた水素吸蔵方法、水素放出方法および発電システムを提供する。
【解決手段】一般式Ti
1Fe
xMn
yNb
z(0.804<x≦0.941、0.033≦y≦0.136、0<z≦0.081)で表される組成を有することを特徴とする水素吸蔵合金。水素圧1.1MPa(abs)未満で水素を吸蔵させ、水素圧0.2MPa(abs)以上1.1MPa(abs)未満で水素を放出させる。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式Ti1FexMnyNbz(0.804<x≦0.941、0.033≦y≦0.136、0<z≦0.081)で表される組成を有することを特徴とする水素吸蔵合金。
【請求項2】
一般式Ti1FexMnyNbz(0.822≦x≦0.941、0.033≦y≦0.136、0.024≦z≦0.081)で表される組成を有することを特徴とする水素吸蔵合金。
【請求項3】
前記一般式Ti1FexMnyNbzにおいて、0.8≦x+y+z≦1.2である、請求項1または2に記載の水素吸蔵合金。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の水素吸蔵合金に、水素圧1.1MPa(abs)未満で水素を吸蔵させることを特徴とする水素吸蔵方法。
【請求項5】
前記水素の吸蔵は、40℃以下で行われる、請求項4に記載の水素吸蔵方法。
【請求項6】
水素圧1.1MPa(abs)未満で水素を吸蔵した請求項1~3のいずれか一項に記載の水素吸蔵合金から、水素圧0.2MPa(abs)以上1.1MPa(abs)未満で水素を放出させることを特徴とする水素放出方法。
【請求項7】
前記水素の放出に伴い、水素圧が低下するのに応じて、前記水素吸蔵合金を加熱し、水素圧0.2MPa(abs)以上を保つ請求項6に記載の水素放出方法。
【請求項8】
前記水素の放出は、40℃以上で行われる、請求項7に記載の水素放出方法。
【請求項9】
水素を燃料として発電する燃料電池と、前記燃料電池に水素を供給する燃料タンクを備える発電システムであって、前記燃料タンクには、請求項1~3のいずれか一項に記載の水素吸蔵合金が充填されていることを特徴とする発電システム。
【請求項10】
前記燃料電池の出力が10kW以上である、請求項9に記載の発電システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素吸蔵合金並びにそれを用いた水素放出方法、水素吸蔵方法及び発電システムに関する。
【背景技術】
【0002】
水素は、二酸化炭素を放出しない環境に優しい燃料として注目されている。しかし、水素は常温で気体であり、高圧で減容して貯蔵するには安全性の問題がある。また、液化による減容には、極めて低い液化温度が障害となっている。
この水素を、液体水素以上の体積密度で、安全にかつ簡便に取り扱える貯蔵手段の1つとして、水素を取り込み、水素を貯めることが可能な水素吸蔵合金を利用する方法が挙げられる。
【0003】
水素吸蔵合金としては、例えば、チタン-鉄-バナジウム水素吸蔵三元合金が知られている(例えば、特許文献1参照)。
また、特許文献2および特許文献3には、示性式Ti1+kFe1-lMnlAm(但し、0≦k≦0.3、0<l≦0.3、0<m≦0.1、Aはニオブ、希土類元素の少なくとも1種からなる元素である。)で表されるチタン系水素吸蔵合金が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-43945号公報
【特許文献2】特開昭61-250136号公報
【特許文献3】特開昭62-27301号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
高圧ガス保安法における高圧ガスに指定されない圧力上限は1.1MPa(abs)であるため、水素吸蔵合金に水素を吸蔵させる際の水素の圧力(水素圧)は、1.1MPa未満とする必要がある。
一方、水素吸蔵合金から水素を放出するためには、0.1MPa(abs)の大気圧以上の水素圧が必要である。なお、absとは絶対圧のことである。
この、0.1MPa(abs)と1.1MPa(abs)との間で出し入れできる水素量が一般的な有効水素貯蔵量である。
【0006】
水素吸蔵合金の重要な用途として、水素を燃料として発電する燃料電池への水素供給源としての利用が挙げられる。
燃料電池に水素を供給する場合、特に高出力の燃料電池に水素を供給する場合は、配管での圧力損失等が無視できない。そのため、水素吸蔵合金から放出される水素の圧力(水素圧)は0.1MPa(abs)の大気圧を僅かに超える程度では不充分である。高出力の燃料電池に対して必要な水素流量を維持するためには、0.2MPa(abs)以上の水素圧が必要とされる。
すなわち、燃料電池に水素を供給する場合には、0.2MPa(abs)と1.1MPa(abs)との間で出し入れできる水素量が有効水素貯蔵量となる。
【0007】
しかし、従来の水素供給合金は、燃料電池に水素を供給する観点での検討が充分に成されておらず、燃料電池に水素を供給する際の有効水素貯蔵量が充分ではなかった。特に、水素貯蔵量が少なくなった場合に、必要な水素圧を維持することが困難であった。
有効水素貯蔵量を増やすためには、水素放出時の加熱温度を高めることが考えられるが、その場合、加熱のために大きなエネルギーを要する。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、水素圧が0.2MPa(abs)以上1.1MPa(abs)未満の圧力範囲内にて、有効水素貯蔵量を高めることができる水素吸蔵合金並びにそれを用いた水素吸蔵方法、水素放出方法および発電システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を達成するために、本発明は以下の構成を採用した。
[1] 一般式Ti1FexMnyNbz(0.804<x≦0.941、0.033≦y≦0.136、0<z≦0.081)で表される組成を有することを特徴とする水素吸蔵合金。
[2]一般式Ti1FexMnyNbz(0.822≦x≦0.941、0.033≦y≦0.136、0.024≦z≦0.081)で表される組成を有することを特徴とする水素吸蔵合金。
[3]前記一般式Ti1FexMnyNbzにおいて、0.8≦x+y+z≦1.2である、[1]または[2]に記載の水素吸蔵合金。
[4][1]~[3]のいずれか一項に記載の水素吸蔵合金に、水素圧1.1MPa(abs)未満で水素を吸蔵させることを特徴とする水素吸蔵方法。
[5]前記水素の吸蔵は、40℃以下で行われる、[4]に記載の水素吸蔵方法。
[6]水素圧1.1MPa(abs)未満で水素を吸蔵した[1]~[3]のいずれか一項に記載の水素吸蔵合金から、水素圧0.2MPa(abs)以上1.1MPa(abs)未満で水素を放出させることを特徴とする水素放出方法。
[7]前記水素の放出に伴い、水素圧が低下するのに応じて、前記水素吸蔵合金を加熱し、水素圧0.2MPa(abs)以上を保つ[6]に記載の水素放出方法。
[8]前記水素の放出は、40℃以上で行われる、[7]に記載の水素放出方法。
[9]水素を燃料として発電する燃料電池と、前記燃料電池に水素を供給する燃料タンクを備える発電システムであって、前記燃料タンクには、[1]~[3]のいずれか一項に記載の水素吸蔵合金が充填されていることを特徴とする発電システム。
[10]前記燃料電池の出力が10kW以上である、[9]に記載の発電システム。
【発明の効果】
【0010】
本発明の水素吸蔵合金、水素吸蔵方法、水素放出方法によれば、水素圧が0.2MPa(abs)以上1.1MPa(abs)以下の圧力範囲内にて、有効水素貯蔵量を高めることができる。また、本発明の発電システムによれば、高出力の燃料電池を用いても、配管圧力損失を気にせずに、わずかな加熱で運用できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る発電システムの概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態による水素吸蔵合金並びにそれを用いた水素吸蔵方法、水素放出方法及び発電システムについて説明する。
なお、本実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
本明細書及び特許請求の範囲において、数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0013】
[水素吸蔵合金]
本実施形態に係る水素吸蔵合金は、一般式TiFexMnyNbz(0.804<x≦0.941、0.033≦y≦0.136、0<z≦0.081)で表される組成を有する。すなわち、本実施形態に係る水素吸蔵合金は、チタン(Ti)-鉄(Fe)-マンガン(Mn)-ニオブ(Nb)からなる四元合金である。
【0014】
本実施形態に係る水素吸蔵合金は、チタン原子の数を1とした場合に、チタン原子の数に対する鉄原子の数の比率が0.804を超え0.941以下、マンガン原子の数の比率が0.033以上0.136以下、ニオブ原子の数の比率が0を超え0.081以下である。
【0015】
一般式TiFexMnyNbzにおいて、0.822≦x≦0.941、0.033≦y≦0.136、0.024≦z≦0.081であることが好ましい。
すなわち、本実施形態に係る水素吸蔵合金は、チタン原子の数を1とした場合に、チタン原子の数に対する鉄原子の数の比率が0.822以上0.941以下、マンガン原子の数の比率が0.033以上0.136以下、ニオブ原子の数の比率が0.024以上0.081以下であることが好ましい。
【0016】
一般式TiFexMnyNbzにおいて、0.8≦x+y+z≦1.2であることが好ましく、0.9≦x+y+z≦1.1であることがより好ましい。
すなわち、チタン原子の数を1とした場合に、チタン原子の数に対する鉄原子とマンガン原子とニオブ原子の合計数の比率が0.8以上1.2以下であることが好ましく、0.9以上1.1以下であることがより好ましい。
【0017】
本実施形態の水素吸蔵合金は、40℃以下、好ましくは30℃以下、より好ましくは20℃以下で水素を充分に吸蔵できる。
また、40℃~60℃程度の比較的低温の加熱により、水素貯蔵量が少ない場合でも0.2MPa以上の水素放出圧力を有し、高出力の燃料電池に対して水素を充分に供給することが可能である。
また、本実施形態に係る水素吸蔵合金は、希土類金属を含まないため、安価に生産が可能である。
【0018】
[水素吸蔵方法]
本実施形態の水素吸蔵方法は、上記実施形態の水素吸蔵合金に対して、1.1MPa(abs)未満の圧力で水素を吸蔵させる方法である。
1.1MPa(abs)未満の圧力であれば、高圧ガス保安法における高圧ガスに指定されないので、取り扱いが簡便である。
【0019】
本実施形態の水素吸蔵方法により水素の吸蔵を完了した後の水素圧は、1.1MPa(abs)未満であれば、特に限定はないが、水素貯蔵量を増すためには、水素圧が1.1MPa(abs)となる直前まで水素を吸蔵させることが好ましい。
【0020】
本実施形態の水素吸蔵方法は、水素吸蔵合金を40℃以下として水素を吸蔵させることが好ましい。温度40℃以下であれば、外気との熱交換により、通年で、水素吸蔵合金の温度を制御することができる。
さらに、水素の吸蔵は、30℃以下で行うことがより好ましく、20℃以下で行うことがさらに好ましい。水素を吸蔵させる際の温度が低いほど、水素圧を低下させることができるため、水素の貯蔵量を増すことができる。
【0021】
本実施形態の水素吸蔵方法により水素の吸蔵を完了した後は、吸蔵した水素を放出するまでの間、水素吸蔵合金の温度が上昇して、水素圧が1.1MPa(abs)以上とならないように温度を管理する必要がある。
特に、水素圧が1.1MPa(abs)となる直前まで水素を吸蔵させた場合、吸蔵した水素を放出するまでの間、水素吸蔵合金が吸蔵時の温度以上にならないように温度を管理する必要がある。
【0022】
[水素放出方法]
本実施形態の水素放出方法は、水素圧1.1MPa(abs)未満で水素を吸蔵した上記実施形態の水素吸蔵合金から、水素圧0.2MPa(abs)以上1.1MPa(abs)未満で水素を放出させる方法である。
水素圧1.1MPa(abs)未満で水素を吸蔵した上記実施形態の水素吸蔵合金は、上記実施形態の水素吸蔵方法で得られる。
0.2MPa(abs)以上の圧力であれば、高出力の燃料電池に対して水素を充分に供給することができる。
【0023】
本実施形態の水素放出方法による水素の放出は、水素圧が0.2MPa(abs)となる前に終了して次回の水素吸蔵方法を行ってもよいが、水素圧が0.2MPa(abs)となるまで、または、0.2MPa(abs)となる直前まで、水素を放出してから次回の水素吸蔵方法を行うことが好ましい。これにより、吸蔵した水素を有効に利用できる。
【0024】
本実施形態の水素放出方法では、水素の放出に伴い、水素圧が低下するのに応じて、前記水素吸蔵合金を加熱し、水素圧0.2MPa(abs)以上を保つことが好ましい。
水素放出開始時は、水素圧0.2MPa(abs)を充分に超える水素圧であるため、加熱をする必要はない。例えば、20℃で水素を吸蔵した場合は、そのまま、20℃で水素を放出すればよい。
【0025】
水素の放出が進むと水素圧が低下するので、水素圧0.2MPa(abs)を保てるように加熱する。
加熱の程度は、水素圧0.2MPa(abs)を保つことが可能に最低限の温度で行えばよい。これにより、加熱のためのエネルギーを節約できる。温度制御の誤差等を加味して、水素圧0.2MPa(abs)を保つことが可能な最低限の温度よりも、多少高めの温度に加熱温度を設定することも好ましい。
加熱のエネルギー源としては、燃料電池からの排熱、建物からの排熱、建物に設置されている蓄熱槽等を利用できる。
【0026】
[有効水素貯蔵率]
水素吸蔵合金の有効水素貯蔵量は、JIS H7201:2007「水素吸蔵合金の圧力-組成等温線(PCT線)の測定方法」に準拠して求めるPCT曲線(水素吸蔵および放出特性)から有効水素貯蔵率として求められる。
【0027】
後述の実施例で示すように、PCT曲線は、水素を吸蔵放出する際の水素貯蔵率(横軸)と水素圧(縦軸)の関係を示すもので、水素貯蔵率は金属原子数(Ti、Fe、Mn。Nbの合計数)1個当たりの水素の数「H/M」で示される。
PCT曲線は、各温度において、吸蔵圧と放出圧が異なるヒステリシスな性質を持っている。
【0028】
燃料電池に水素を供給する場合を想定した有効水素貯蔵量は、0.2MPa(abs)と1.1MPa(abs)との間で出し入れできる水素量である。燃料電池に水素を供給する場合を想定した有効水素貯蔵率は、吸蔵時の温度条件下、水素圧が1.1MPa(abs)における吸蔵曲線の水素貯蔵率と、放出時の最大温度条件下、水素圧が0.2MPa(abs)における放出曲線の水素貯蔵率との差として求められる。
【0029】
本実施形態の水素吸蔵合金によれば、優れた有効水素貯蔵量を得られる。有効水素貯蔵量を大きくする観点で、20℃以下で吸蔵し、40℃以上として放出することが好ましく、20℃以下で吸蔵し、50℃以上として放出することがより好ましい。
【0030】
[発電システム]
本発明の発電システムは、水素を燃料として発電する燃料電池と、前記燃料電池に水素を供給する燃料タンクを備える。本発明の発電システムは、燃料タンクに水素を供給する水素製造装置を更に備えることが好ましい。
【0031】
図1に本発明の発電システムの一実施形態を示す。
図1に示すように、本実施形態の発電システムは、水素製造装置2と、水素製造装置2から水素が供給される燃料タンク3と、燃料タンク3から放出される水素が供給される燃料電池4とを備えている。燃料電池4からは、電力需要者5に向けて電力が供給される。
燃料タンク3には、本実施形態の水素吸蔵合金が充填されている。燃料電池4の具体的な構成や仕様に特に限定はないが、出力10kW以上のものが、本発明を好適に適用できるので好ましい。
【0032】
水素製造装置2には、電力供給源1から電力が供給される。電力供給源1に特に限定はないが、太陽電池等、再生可能エネルギーを利用した発電設備が、環境に優しい点で好ましい。
本実施形態の発電システムは、燃料タンク3に本実施形態の水素吸蔵合金が充填されているので、高出力の燃料電池を用いても、配管圧力損失を気にせずに、わずかな加熱で運用できる。
【実施例0033】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
以下の例において、例1、2は比較例であり、例3~7は実施例である。
【0034】
[元素組成]
各例における元素組成は、波長分散型蛍光エックス線分析装置(商品名:ZSX PrimusII、株式会社リガク社製)を用いて求めた。なお、例2、例5、例6の元素組成は未測定である。
表1に、各例の原料処方時に意図した元素比率と波長分散型蛍光エックス線分析装置による元素分析結果(原子%)、及び元素分析結果(原子%)から算出した元素分析結果(原子比率)を示す。
【0035】
[有効水素貯蔵率]
各例の水素吸蔵合金について、JIS H7201:2007「水素吸蔵合金の圧力-組成等温線(PCT線)の測定方法」に準拠してPCT曲線を求めた。
20℃の吸蔵曲線における水素圧が1.1MPa(abs)の水素貯蔵率[X20]と、40℃の放出曲線における水素圧が0.2MPa(abs)の水素貯蔵率[X40]と、50℃の放出曲線における水素圧が0.2MPa(abs)の水素貯蔵率[X50]とを各々求めた。
【0036】
そして、以下の式に基づき、放出時の最大温度40℃の場合の有効水素貯蔵率[A40]と、放出時の最大温度50℃の場合の有効水素貯蔵率[A50]を、各々求めた。
[A40]=[X20]-[X40]
[A50]=[X20]-[X50]
また、例2~7の有効水素貯蔵率[A40]と有効水素貯蔵率[A50]について、例1との差を、各々、[ΔA40]、[ΔA50]として求めた。各例の結果を表2に示す。
【0037】
[例1]
原子比でTiFe
0.80Mn
0.20Nb
0.00の組成になるように、原料となる金属を高周波溶解法により溶解し、合金インゴットを得た。具体的には、原料となる金属を、アルゴン雰囲気下、温度1000℃以上1200℃にて24時間以上96時間以下熱処理して、合金インゴットを得た。
次いで、合金インゴットを粗粉砕し、さらに微粉砕して、平均粒子径0.5mmの例1の水素吸蔵合金を得た。
例1のPCT曲線を
図2に示し、
図2のPCT曲線から求めた有効水素貯蔵率を表2に示す。
【0038】
[例2]
原子比でTiFe
0.80Mn
0.16Nb
0.04の組成になるように、原料となる金属を高周波溶解法により溶解した他は、例1と同様にして例2の水素吸蔵合金を得た。
例2のPCT曲線を
図3に示し、
図3のPCT曲線から求めた有効水素貯蔵率を表2に示す。
【0039】
[例3]
原子比でTiFe
0.82Mn
0.10Nb
0.08の組成になるように、原料となる金属を高周波溶解法により溶解した他は、例1と同様にして例3の水素吸蔵合金を得た。
例3のPCT曲線を
図4に示し、
図4のPCT曲線から求めた有効水素貯蔵率を表2に示す。
【0040】
[例4]
原子比でTiFe
0.85Mn
0.13Nb
0.02の組成になるように、原料となる金属を高周波溶解法により溶解した他は、例1と同様にして例4の水素吸蔵合金を得た。
例4のPCT曲線を
図5に示し、
図5のPCT曲線から求めた有効水素貯蔵率を表2に示す。
【0041】
[例5]
原子比でTiFe
0.90Mn
0.06Nb
0.04の組成になるように、原料となる金属を高周波溶解法により溶解した他は、例1と同様にして例5の水素吸蔵合金を得た。
例5のPCT曲線を
図6に示し、
図6のPCT曲線から求めた有効水素貯蔵率を表2に示す。
【0042】
[例6]
原子比でTiFe
0.90Mn
0.08Nb
0.02の組成になるように、原料となる金属を高周波溶解法により溶解した他は、例1と同様にして例6の水素吸蔵合金を得た。
例6のPCT曲線を
図7に示し、
図7のPCT曲線から求めた有効水素貯蔵率を表2に示す。
【0043】
[例7]
原子比でTiFe
0.95Mn
0.03Nb
0.02の組成になるように、原料となる金属を高周波溶解法により溶解した他は、例1と同様にして例7の水素吸蔵合金を得た。
例7のPCT曲線を
図8に示し、
図8のPCT曲線から求めた有効水素貯蔵率を表2に示す。
【0044】
【0045】
【0046】
表2に示すように、例3~7は、放出時の最大温度50℃の場合の有効水素貯蔵率[A50]が高かった。また、例4、例6、例7については、放出時の最大温度40℃の場合の有効水素貯蔵率[A40]も高い値を示した。