(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023035474
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】銅粉の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 9/20 20060101AFI20230306BHJP
【FI】
B22F9/20 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021142355
(22)【出願日】2021-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134441
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 由利
(74)【代理人】
【識別番号】100185018
【弁理士】
【氏名又は名称】宇佐美 亜矢
(72)【発明者】
【氏名】山岡 尚樹
(72)【発明者】
【氏名】石田 栄治
【テーマコード(参考)】
4K017
【Fターム(参考)】
4K017AA03
4K017BA05
4K017CA08
4K017DA01
4K017DA08
4K017EH18
4K017FB03
4K017FB07
(57)【要約】
【課題】銅化合物粉末をポリオール溶媒中で還元して銅粉を得るポリオール法において、微細かつ単分散であり、耐酸化性に優れ、低温焼結性を有する銅粉を簡便かつ効率的に得ることができる。
【解決手段】銅粉の製造方法は、銅化合物粉末をポリオール溶媒中に懸濁させ、前記ポリオール溶媒の沸点以下に還元して銅粉を得る銅粉の製造方法であって、前記銅化合物粉末の平均粒径が1.0μm以下であり、前記ポリオールは2個以上6個以下のOH基を持ち、かつ、平均分子量が160以上であることを含む。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅化合物粉末をポリオール溶媒中に懸濁させ、前記ポリオール溶媒の沸点以下に還元して銅粉を得る銅粉の製造方法であって、
前記銅化合物粉末の平均粒径が1.0μm以下であり、
前記ポリオールは2個以上6個以下のOH基を持ち、かつ、平均分子量が160以上であることを特徴とする銅粉の製造方法。
【請求項2】
前記銅化合物粉末は、酸化銅及び亜酸化銅からなる群より選択される1種以上である、請求項1に記載の銅粉の製造方法。
【請求項3】
前記銅化合物粉末に含有される水分量は10質量%以下である、請求項1または請求項2に記載の銅粉の製造方法。
【請求項4】
前記銅粉は、平均粒径が1.0μm以下である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の銅粉の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオール中で銅化合物粉末を還元して得る銅粉の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅粉は、電子部品である積層セラミックコンデンサ(MLCC:multilayer ceramic capacitor)の内部電極・外部電極や多層セラミック基板の電極などを形成するための導電ペーストの材料としても利用されている。近年、積層セラミックコンデンサでは小型化・大容量化に伴い、内部電極の薄層化が進んでいるため、この用途では、上記導電ペースト(内部電極ペースト)に用いられる銅粉も微細であることが求められる。さらに、銅粉には、連結粒子が少ない単分散(単分散粒子)であることや、耐酸化性に優れていることが望まれている。
【0003】
さらに、近年高出力モーター電源制御用インバータモジュール等の普及が進む中、炭化ケイ素や窒化ガリウムにより構成された、200℃以上の高温環境で動作するパワー半導体素子の利用拡大が見込まれている。パワー半導体素子の発熱分を基板へ逃がす放熱材料として、従来までは鉛フリーはんだ粉を金属フィラーとしたダイアタッチペーストが用いられてきたものの、鉛フリーはんだ粉の融点が200℃程度で耐熱性が不十分であるため、高温動作への対応は困難である。
【0004】
代替材料として、ナノ銀粉を金属フィラーとしたダイアタッチペーストが用いられている。ナノ銀粉は250℃以下の低温で焼結が可能であり、高温での動作信頼性が高いという特徴があるが、高価な点とイオンマイグレーションの問題があることから、これらの問題に対応して、微細で単分散かつ耐酸化性に優れることに加え、低温焼結が可能な銅粉の開発が望まれている。
【0005】
銅粉の製造方法としては、いわゆる電解法が最も一般的である。しかし、この方法で得られる銅粉は粗大な凝集体となり易い。微細な銅粉を得る方法として、例えば特許文献1では、酸化銅をカップリング剤の存在下で湿式還元する方法や、特許文献2では銅塩化物を気相還元する方法が開示され、そして不均化反応を利用した方法が提案されている。しかし、これらの方法で得られる銅粉は、何れも表面活性が高く、ペーストとして使用する際に樹脂硬化のための加熱によって酸化されたり、有機物の揮散を目的とする焼成時に雰囲気中にわずかに存在する酸素による酸化が進行したりすることがあり、微細化、単分散性、耐酸化性を全て満たすことはできなかった。
【0006】
そこで、上記問題を解決するものとして、特許文献3や特許文献4に、銅化合物粉末をポリオール溶媒中で加熱して還元する方法(ポリオール法)が開示されている。この方法で得られる銅粉(ポリオール銅粉)は、単分散性と耐酸化性に優れており、上述した導電体ペーストに好適である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平2-34708号公報
【特許文献2】特開昭62-63604号公報
【特許文献3】特開昭59-173206号公報
【特許文献4】特開平5-222413号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献3、4に記載の方法で得られる銅粉(ポリオール銅粉)は、銅粉表面に形成されている有機被膜が250℃以下で容易に分解せず、銅粉どうしの焼結の進行を阻害するため、ダイアタッチ用途に適した低温焼結性を有していない。
【0009】
本発明は、上記知見に基づき完成されたものであり、微細で単分散性と耐酸化性に優れ、なおかつ低温焼結性を有する銅粉の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、このような従来の問題点に鑑みて鋭意検討を行った。その結果、ポリオール銅粉を製造するにあたり、特定の平均粒径をもつ銅化合物粉末を、特定の平均分子量をもつ溶媒(ポリオール)中で加熱することで、微細で単分散性と耐酸化性に優れ、なおかつ低温焼結性を有する銅粉を得ることができるとの知見を得た。
【0011】
本発明の態様によれば、銅化合物粉末をポリオール溶媒中に懸濁させ、前記ポリオール溶媒の沸点以下に還元して銅粉を得る銅粉の製造方法であって、前記銅化合物粉末の平均粒径が1.0μm以下であり、前記ポリオールは2個以上6個以下のOH基を持ち、かつ、平均分子量が160以上であることを含む、銅粉の製造方法が提供される。
【0012】
また、上記銅粉の製造方法において、銅化合物粉末は、酸化銅及び亜酸化銅からなる群より選択される1種以上であるのが好ましい。また、銅化合物粉末に含有される水分量は10質量%以下であるのが好ましい。また、銅粉は平均粒径が1.0μm以下であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本実施形態に係る銅粉の製造方法によれば、銅化合物粉末をポリオール溶媒中で還元して銅粉を得るポリオール法において、単分散性と耐酸化性に優れ、なおかつ低温焼結性を有する銅粉を簡便かつ効率的に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態の銅紛の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る銅粉の製造方法の具体的な実施形態(以下、「本実施形態」という)について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。また、本明細書にて、「X~Y」(X、Yは任意の数値)との表記は、「X以上Y以下」の意味である。
【0016】
ポリオール法では、銅化合物粉末をポリオール溶媒中に懸濁させて加熱すると、ポリオール溶媒が還元剤として作用し、銅までの還元が進行する。銅化合物として酸化銅(CuO)を用いた場合は、酸化銅(CuO)から亜酸化銅(Cu2O)を経由して銅(Cu)への還元が生じ、銅化合物として亜酸化銅(Cu2O)を用いた場合は、亜酸化銅(Cu2O)が銅(Cu)に還元され、いずれの場合も最終的に銅粉(以下「ポリオール銅粉」と称す場合もある)が得られる。得られた銅粉は、純水等により洗浄してろ過後、必要に応じて再度洗浄して乾燥する処理が行われる。具体的には、洗浄の一例として、還元により得られたポリオール銅粉を沈降させデカンテーションをした後、純水等を供給して撹拌洗浄する方法等が用いられる。ろ過の一例として、遠心分離により脱水する方法等が用いられる。
【0017】
銅紛の原料となる市販の安価な銅化合物粉末は、製造方法により粒径は様々で、例えば塩化銅から製造される酸化銅粉末の粒径は、3μm~50μm程度になる。このような粒径の銅化合物粉末にポリオール法を用いると反応速度が非常に遅く実質的に還元できないか、還元できても得られるポリオール銅粉の粒径は導電ペースト用途としては不適である凝集粉となってしまう。
【0018】
本実施形態に係る銅粉の製造方法は、銅化合物粉末をポリオール溶媒中に懸濁させ、前記ポリオール溶媒の沸点以下に還元して銅粉を得る銅粉の製造方法であって、前記銅化合物粉末の平均粒径が1.0μm以下であり、前記ポリオールは2個以上6個以下のOH基を持ち、かつ、平均分子量が160以上であることを含む。本実施形態に係る銅粉の製造方法では、銅化合物粉末を還元反応に供する前に、その平均粒径が1.0μm以下まで粉砕することで、ポリオール法により得られる銅粉(ポリオール銅粉)が微細かつ単分散化される。本実施形態に係る銅粉の製造方法では、特に従来上述のように原料として不適であった平均粒径が3.0μm以上の銅化合物粉末を所定の粒径以下に粉砕することにより、ポリオール法の原料として利用することができる。
【0019】
本実施形態に係る銅紛の製造方法について詳細に説明する。
図1は、本実施形態の銅紛の製造方法を示すフローチャートである。本実施形態の銅紛の製造方法は、粉砕工程S1と、還元工程S2と、を含む。
【0020】
(粉砕工程S1)
粉砕工程S1は、原料を粉砕し、平均粒径1.0μm以下に粉砕された銅化合物粉末を得る工程である。なお、本明細書において、銅化合物粉末の平均粒径は、レーザー回折散乱式粒子径測定装置を用いて体積基準で相対粒子が50%となる粒子径とする。また、本明細書において、得られた銅粉(ポリオール銅粉)の平均粒径は走査型電子顕微鏡(SEM)等の観察像で、全様が確認できる一次粒子の粒径を測長した個数平均値とする。
【0021】
本実施形態に係る銅粉の製造方法は、平均粒径として3.0μm以上の銅化合物粉末を原料として用いる場合に、特に有効である。導電ペーストの導電フィラー材料として用いられる銅粉は、平均粒径が1.0μm以下であり、単分散であることが好適とされている。また低温焼結用途の銅粉は、粒径が微細なほど低温焼成性が向上するため、平均粒径が0.3μm以下であり、単分散であることが好適とされている。銅化合物の粉砕を行わずに、平均粒径が1.0μm以上の銅化合物粉末を原料として用いると、銅粉(ポリオール銅粉)の平均粒径がこの好適な範囲を超えるか、凝集して単分散とならないことがある。もちろん、本実施形態の銅粉の製造方法では、より微細もしくはより単分散な銅粉(ポリオール銅粉)を得るために、平均粒径が3.0μm未満の銅化合物粉末を粉砕してもよい。
【0022】
原料となる銅化合物粉末は、酸化銅(CuO)及び亜酸化銅(Cu2O)のいずれか、もしくはこれらの混合物が好ましい。すなわち、原料となる銅化合物粉末は、酸化銅及び亜酸化銅から選ばれる1種以上であるのが好ましい。
【0023】
粉砕の方法は、機械的に粉砕する方法(機械的粉砕)を用いることができる。粉砕の方法としては、特に制限されず公知の方法を用いることができ、乾式粉砕法として、乳鉢粉砕、スパイラルジェットミル、カウンタージェットミル、粉砕メディアを用いる湿式粉砕法として、例えばボールミル、ビーズミル、粉砕メディアを用いない湿式粉砕法として、例えば高圧衝突法、高圧乳化法から選ばれる1種以上が好ましい。これらの粉砕の方法を用いる場合、容易に平均粒径が1.0μm以下の銅化合物粉末を得ることができる。また、湿式粉砕法を用いる場合は、複数の溶媒を用いることによる不純物の混入を防止するために、ポリオール溶媒に銅化合物粉末を懸濁させてから処理を行うことが好ましい。なお、上記1種以上とは、例えば粗粉砕と微粉砕に分けるように、複数の方法を組み合わせて粉砕することを含むことを意味している。
【0024】
平均粒径が1.0μm以下とされた銅化合物粉末を還元した場合に、還元後に得られる銅粉(ポリオール銅粉)が微細化するメカニズムについては、ポリオール溶媒中の還元反応過程において、銅化合物とポリオール溶液との接触面積が銅化合物の微細化に伴い増大し、銅イオンの溶出速度が増加して核発生を促進したためと考えられる。さらに、銅化合物の微細化には銅イオン供給源が溶媒中に均一に分散することによって、核発生の局在化を回避し、ポリオール銅粉の分散性が保たれるとも考えられる。
【0025】
本実施形態に係る銅粉の製造方法では、還元工程S2に供する銅化合物粉末の平均粒径は、1.0μm以下とするのが好ましく、0.8μm以下がより好ましい。上記還元工程S2に供する銅化合物粉末の平均粒径を1.0μm以下とすると、得られる銅粉(ポリオール銅粉)の平均粒径は、導電ペースト用の導電フィラー用途として好適な1.0μm以下に微細化され、特に、上記粉砕された銅化合物粉末の平均粒径を0.8μm以下とすると、ポリオール法によって得られる銅粉(ポリオール銅粉)の平均粒径は、低温焼結用途としてより好適な0.3μm以下に微細化される。還元工程S2に供する銅化合物粉末の平均粒径の下限は特に限定されることはないが、上記説明した粉砕方法を用いると通常0.05μm程度が下限となる。
【0026】
(還元工程S2)
還元工程S2は、ポリオール法により、平均粒径1.0μm以下の銅化合物粉末を、ポリオール溶媒の液温をポリオール溶媒の沸点-50℃以上、ポリオール溶媒の沸点±0℃以下の温度に加熱して銅粉(ポリオール銅粉)を得る工程である。ポリオール溶媒の沸点-50℃以上、ポリオール溶媒の沸点±0℃以下の温度とは、例えば、ポリオール溶媒の沸点が300℃である場合、250℃(沸点-50℃)以上、300℃(沸点±0℃)以下を意味する。
【0027】
還元工程S2に供する銅化合物粉末は、例えば上記粉砕工程S1において得られた粉砕後の銅化合物粉末である。なお、還元工程S2に供する銅化合物粉末は、平均粒径1.0μm以下に粉砕された銅化合物粉末であれば、市販品等でもよい。還元工程S2に供する銅化合物粉末として市販品等を用いる等の場合は、本実施形態の製造方法は、粉砕工程S1を備えなくてもよい。なお、還元工程S2に供する銅化合物粉末は、平均粒径が1.0μm以下であればよく、すなわち、粉砕されたものに限定されない。還元工程S2に供する銅化合物粉末は、例えば予め平均粒径が平均粒径1.0μm以下として製造された粒子を用いてもよく、この場合、本実施形態に係る銅粉の製造方法は、上記の粉砕工程S1を含まなくてもよい。
【0028】
原料又は粉砕された銅化合物粉末に含有される水分量は10質量%以下であるのが好ましく、粉砕された銅化合物粉末含有される水分量は10質量%以下であるのがより好ましい。ポリオール法において系内に水が存在すると、ポリオール溶媒の酸化が進行し、生成したアルデヒド化合物により、酸化銅(CuO)の全量が亜酸化銅(Cu2O)となる前にポリオール銅粉の生成が開始される。銅化合物粉末中の水分量が10質量%を超えると、この作用が顕著となり、均質な銅粉(ポリオール銅粉)が得られないことがある。
【0029】
なお、上記粉砕は、水等のポリオール以外の溶媒を用いて行ってもよい。例えば、水系の溶媒を用いて粉砕を行う場合、粉砕後の銅化合物粉末に含有される水分量が10質量%以下となるように、実施例1に示すような加熱による水分除去あるいは乾燥を施すことが好ましい。
【0030】
本実施形態に係る銅粉の製造方法では、溶媒として用いられるポリオール(ポリオール溶媒)は、銅化合物粉末に対して還元作用を有する多価アルコールであり、2~6個のOH基を有し、かつ平均分子量が160以上であることが好ましい。具体的には、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、ヘキサエチレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール(平均分子量が160以上のもの)、及びフェニルジグリコールから選ばれる1種以上が好ましく、中でも、テトラエチレングリコール及びポリエチレングリコール(平均分子量が160以上のもの)から選ばれる1種以上とするのが特に好ましい。なお、ポリエチレングリコールは平均分子量が160以上のものを用いることができるが、銅化合物粉末を懸濁させた時に撹拌可能であればよく、例えば分子量が10,000程度のものまで用いることができる。また、ポリオール法に用いる溶媒には、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、他の成分を含有させてもよい。
【0031】
銅化合物粉末を懸濁させたポリオール溶媒を加熱する温度(加熱温度)は、その液温をポリオールの沸点-50℃以上、ポリオールの沸点±0℃以下とするのが好ましく、ポリオール溶媒の沸点に対してポリオールの沸点-40℃以上、ポリオールの沸点-5℃以下とするのがさらに好ましい。上記加熱温度をポリオール溶媒の沸点に対して-50℃よりも低い温度とした場合、還元反応が十分に進まずに亜酸化銅(Cu2O)が残留することによって得られる銅粉(ポリオール銅粉)中の酸素含有量が高くなることもあり、かつ反応時間が大幅に延びて生産性も悪化する。また、上記加熱温度をポリオールの沸点よりも高くすると、ポリオールの揮発による減少(消費)が著しくなり、十分に還元できなくなるおそれがある。
【0032】
上記の還元工程S2により、ポリオール銅紛を得ることができる。本実施形態の銅紛の製造方法では、還元工程S2により得られるポリオール銅紛の平均粒径を、1.0μm以下、0.5μm以下、0.3μm以下とすることができ、微細化した粒子を製造することができる。なお、還元工程S2により得られるポリオール銅粉の平均粒径は、上述のように、還元工程S2に供する銅化合物粉末の平均粒径を変更することにより制御することができる。
【0033】
また、本実施形態の銅紛の製造方法では、還元工程S2により得られるポリオール銅紛について、単分散の粒子とすることができ、例えば後の実施例に記載する条件を満たす単分散の粒子を製造することができる。
【0034】
また、本実施形態の銅紛の製造方法では、還元工程S2により得られるポリオール銅紛について、後の実施例に記載する条件にてTMA測定(熱機械分析)をしたときにおける収縮量が1%となる温度を250℃以下、240℃以下、230℃以下とすることができ、低温焼成性を有する銅粉を製造することができる。
【0035】
また、本実施形態の銅紛の製造方法では、還元工程S2により得られるポリオール銅紛について、後の実施例に記載する酸素濃度上昇値を0.5質量%以下、0.4質量%以下とすることができ、耐酸化性に優れた銅粉を製造することができる。
【0036】
以上のように、本実施形態の銅紛の製造方法は、銅化合物粉末をポリオール溶媒中に懸濁させ、前記ポリオール溶媒の沸点以下に還元して銅粉を得る銅粉の製造方法であって、前記銅化合物粉末の平均粒径が1.0μm以下であり、前記ポリオールは2個以上6個以下のOH基を持ち、かつ、平均分子量が160以上であることを含む。なお、本実施形態に係る銅粉の製造方法において、上記以外の構成は任意の構成である。上記本実施形態に係る銅粉の製造方法によれば、銅化合物粉末をポリオール溶媒中で還元して銅粉を得るポリオール法において、上記銅化合物粉末の粒径及びポリオールについて、所定のものを用いることで実施することができ、単分散、微細化し、かつ耐酸化性に優れ低温焼結性を有する銅粉を簡便かつ効率的に得ることができる。
【実施例0037】
以下、本発明の実施例を比較例と共に示してさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。なお、粉砕前後の銅化合物粉末の平均粒径の測定方法は、レーザー回折散乱式粒子径測定装置(LA950V2、株式会社堀場製作所製)を用いて体積基準で相対粒子が50%となる粒子径とした。
【0038】
(実施例1)
銅化合物粉末として酸化銅(CuO)粉末(古河ケミカルズ株式会社製、品番:FCO-M6、平均粒径32.3μm)10kgをスパイラルジェット装置(PJM-100SP、日本ニューマチック工業株式会社製)を用いて粉砕圧力0.6MPaで1パス粉砕し、粉砕された酸化銅(銅化合物)粉末を得た。得られた粉砕後酸化銅粉末の平均粒径は0.68μmであった。
【0039】
粉砕された酸化銅粉末のうち30gと、ポリオール溶媒としてテトラエチレングリコール(東京化成工業株式会社製、略称:TeEG、平均分子量:194)100gとを均一に混合した後に、液温180℃で20分間撹拌しながら溶媒中に残存した水分を除去した。水分を除去した後に、ポリオール溶媒を液温290℃で60分間撹拌しながら還元反応を行った。還元反応終了後、反応液を冷却し、ろ過洗浄および固液分離処理を施し、ケーキ状のポリオール銅粉を回収した。回収したケーキ状のポリオール銅粉を真空乾燥し、ポリオール銅粉を得た。得られたポリオール銅粉は、平均粒径0.20μmの単分散粒子であった。ポリオール銅粉の製造条件を表1にまとめて示す。
【0040】
(実施例2)
銅化合物として実施例1で粉砕した酸化銅粉末30gと、ポリオール溶媒としてポリエチレングリコール200(富士フイルム和光純薬株式会社製、略称:PEG200、平均分子量:180~220)とを均一に混合した後に、液温180℃で20分間撹拌しながら溶媒中に残存した水分を除去した。水分を除去した後に、ポリオール溶媒を液温270℃で60分間撹拌しながら還元反応を行った。還元反応終了後、反応液を冷却し、ろ過洗浄および固液分離処理を施し、ケーキ状のポリオール銅粉を回収した。回収したケーキ状のポリオール銅粉を真空乾燥し、ポリオール銅粉を得た。得られたポリオール銅粉は、平均粒径0.24μmの単分散粒子であった。ポリオール銅粉の製造条件を表1に示す。
【0041】
(実施例3)
銅化合物として実施例1で粉砕した酸化銅粉末30gと、ポリオール溶媒としてポリエチレングリコール300(富士フイルム和光純薬株式会社製、略称:PEG300、平均分子量:260~340)とを均一に混合した後に、液温180℃で20分間撹拌しながら溶媒中に残存した水分を除去した。水分を除去した後に、ポリオール溶媒を液温300℃で60分間撹拌しながら還元反応を行った。還元反応終了後、反応液を冷却し、ろ過洗浄および固液分離処理を施し、ケーキ状のポリオール銅粉を回収した。回収したケーキ状のポリオール銅粉を真空乾燥し、ポリオール銅粉を得た。得られたポリオール銅粉は、平均粒径0.22μmの単分散粒子であった。ポリオール銅粉の製造条件を表1に示す。
【0042】
(実施例4)
銅化合物として実施例1で粉砕した酸化銅粉末30gと、ポリオール溶媒としてポリエチレングリコール400(富士フイルム和光純薬株式会社製、略称:PEG400、平均分子量:360~440)とを均一に混合した後に、液温180℃で20分間撹拌しながら溶媒中に残存した水分を除去した。水分を除去した後に、ポリオール溶媒を液温300℃で60分間撹拌しながら還元反応を行った。還元反応終了後、反応液を冷却し、ろ過洗浄および固液分離処理を施し、ケーキ状のポリオール銅粉を回収した。回収したケーキ状のポリオール銅粉を真空乾燥し、ポリオール銅粉を得た。得られたポリオール銅粉は、平均粒径0.20μmの単分散粒子であった。ポリオール銅粉の製造条件を表1に示す。
【0043】
(実施例5)
銅化合物として実施例1で粉砕した酸化銅粉末30gと、ポリオール溶媒としてポリエチレングリコール600(富士フイルム和光純薬株式会社製、略称:PEG600、平均分子量:560~640)とを均一に混合した後に、液温180℃で20分間撹拌しながら溶媒中に残存した水分を除去した。水分を除去した後に、ポリオール溶媒を液温300℃で60分間撹拌しながら還元反応を行った。還元反応終了後、反応液を冷却し、ろ過洗浄および固液分離処理を施し、ケーキ状のポリオール銅粉を回収した。回収したケーキ状のポリオール銅粉を真空乾燥し、ポリオール銅粉を得た。得られたポリオール銅粉は、平均粒径0.22μmの単分散粒子であった。ポリオール銅粉の製造条件を表1に示す。
【0044】
(比較例1)
銅化合物としてスパイラルジェット装置での粉砕を行う前の酸化銅粉末(平均粒径32.3μm)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、還元反応を行い、ポリオール銅粉を作製した。得られたポリオール銅粉をSEM観察したところ、粒子同士が連結し、単分散粒子でないことがわかった。ポリオール銅粉の製造条件を表1に示す。
【0045】
(比較例2)
ポリオール溶媒としてトリエチレングリコール(富士フイルム和光純薬株式会社製、略称:TEG、平均分子量:150)を用い、水分除去後の加熱温度を260℃にした以外は、実施例1と同様にして、ポリオール銅粉を得た。得られたポリオール銅粉をSEM観察したところ、平均粒径0.42μmの単分散粒子であった。ポリオール銅粉の製造条件を表1に示す。
【0046】
(比較例3)
銅化合物としてスパイラルジェット装置での粉砕を行う前の酸化銅粉末(平均粒径32.3μm)を用い、ポリオール溶媒としてトリエチレングリコールを用い、水分除去後の加熱を260℃にした以外は、実施例1と同様にして、ポリオール銅粉を得た。得られたポリオール銅粉をSEM観察したところ、粒子同士が連結し、単分散粒子でないことがわかった。
【0047】
【0048】
(ポリオール銅粉の評価)
実施例1~5および比較例1~3で得られたポリオール銅粉につき、各種粉体特性の評価を以下の通り行った。
【0049】
(1)平均粒径
走査型電子顕微鏡(JSM-7100F、日本電子株式会社製)を用いて観察(SEM観察)した画像より、全様が一様に観察できる粒子300個以上の一次粒子の粒径を測長することによって、その個数平均値を求め平均粒径(SEM径)とした。
【0050】
(2)単分散性
走査型電子顕微鏡(JSM-7100F、日本電子株式会社製)を用いて観察(SEM観察)した画像より、全様が一様に観察できる粒子300個以上の一次粒子の粒径を対象として、粒子の面積Sと粒子の周囲長Lを、画像解析ソフトウェア(Mac-View Version.5 株式会社マウンテック製)によって測定し、4πS/L2で表される円形度が0.85を超える粒子を単分散粒子としてカウントし、0.85以下の粒子を凝集粒子としてカウントした。カウントした粒子の中で、凝集粒子の割合が1割以下である場合を単分散とし(表2中「〇」で示す)、1割を超える場合を凝集とした(表2中「×」で示す)。
【0051】
(3)耐酸化性
ポリオール銅粉の酸素濃度(質量%)を作製直後と、25℃で1000時間大気雰囲気下に放置した後に、酸素窒素分析装置(ON836、LECO社製)でそれぞれ測定した。酸素濃度上昇値は、後者と前者の酸素濃度の差分であり、酸素濃度上昇値が0.5質量%以下のものを耐酸化性が良好(表2中「〇」で示す)、酸素濃度上昇値が0.5質量%を超えるものを耐酸化性が悪い(表2中「×」で示す)とした。また、凝集したポリオール銅粉については、耐酸化性評価を行わなかった。
【0052】
(4)焼結性
約0.3gのポリオール銅粉を100MPaで加圧して直径5mmの円柱状に圧縮成形し、銅粉ペレットを得た。得られた銅粉ペレットを、TMA測定装置(TMA4000SA、BRUKER AXS社製)を用いて、還元性ガス(2%水素と98%窒素の混合ガス)中で10℃/min.の昇温速度で収縮量(%)を測定した。ある温度における収縮量は、ある温度におけるペレット収縮長さ(μm)/ペレット作製時のペレット高さ(μm)×100で表される百分率(%)として求められる。測定の結果において、250℃における収縮量が1%以上のものを低温焼成性あり(表2中「〇」で示す)とし、1%未満のものを低温焼成性なし(表2中「×」で示す)とした。
【0053】
(評価結果)
実施例1~5および比較例1~3について得られた評価結果を表2にまとめて示す。実施例1~5と比較例1は、いずれも平均分子量が160以上のポリオール溶媒を用いてポリオール銅粉を作製した例である。粉砕処理により平均粒径が1μm以下になった酸化銅粉末を用いた実施例1~5で得られたポリオール銅粉は単分散かつ平均粒径が1μm以下と微細なものになった。また全ての実施例で耐酸化性は良好であり、低温焼成性を有していた。一方で、粉砕前の酸化銅粉末を用いた比較例1では、得られたポリオール銅粉は凝集しており、凝集粉が混在しているため平均粒径が0.36μmと実施例1と比べて大きくなった。また、比較例1では、凝集のためポリオール銅粉の表面自由エネルギーが低下し、低温焼成性を有さなかった。
【0054】
比較例2は、粉砕処理をした酸化銅粉末を用いているが、用いたポリオール溶媒(トリエチレングリコール)の平均分子量は150であり、160よりも小さい。そのため反応温度が、溶媒が持つ沸点の制限を受け、低くなったことにより、得られたポリオール銅粉の平均粒径が0.42μmと、実施例1~5に比べて大きかった。比較例2における耐酸化性は、粒径の増大により比表面積が減少したため、実施例1~5と同様に良好であった。一方、比較例2の焼結性は実施例1~5に比べて劣っており、これは比較例2のポリオール銅粉は単分散ではあるものの、平均粒径が大きいことから、ポリオール銅粉の表面自由エネルギーが実施例1~5に比べて小さいためであると考えられる。
【0055】
比較例3は、用いたポリオール溶媒(トリエチレングリコール)の平均分子量は150であり、粉砕前の酸化銅粉末を用いている。得られたポリオール銅粉は凝集しており、凝集粉が混在しているため平均粒径が0.47μmと実施例1と比べて大きくなった。また、凝集のためポリオール銅粉の表面自由エネルギーが低下し、低温焼成性を有さなかった。
【0056】
実施例及び比較例から、本実施形態に係る銅粉の製造方法は、銅化合物粉末をポリオール溶媒中で還元して銅粉を得るポリオール法において、微細かつ単分散であり、耐酸化性に優れ、低温焼結性を有する銅粉を簡便かつ効率的に得ることができることが確認される。
【0057】
【0058】
なお、本発明の技術範囲は、上述の実施形態等で説明した態様に限定されない。上述の実施形態等で説明した要件の1つ以上は、省略されることがある。また、上述の実施形態等で説明した要件は、適宜組み合わせることができる。また、法令で許容される限りにおいて、上述の実施形態等で引用した全ての文献の開示を援用して本文の記載の一部とする。