(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023035538
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】化学反応方法および反応装置
(51)【国際特許分類】
B01J 19/18 20060101AFI20230306BHJP
B01F 27/90 20220101ALI20230306BHJP
B01F 27/80 20220101ALI20230306BHJP
B01F 27/91 20220101ALI20230306BHJP
C07C 211/00 20060101ALN20230306BHJP
C07C 209/32 20060101ALN20230306BHJP
【FI】
B01J19/18
B01F7/18 B
B01F7/16 G
B01F7/22
C07C211/00
C07C209/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021142461
(22)【出願日】2021-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】大西 勝士
【テーマコード(参考)】
4G075
4G078
4H006
【Fターム(参考)】
4G075AA03
4G075AA13
4G075AA61
4G075AA62
4G075AA63
4G075BA10
4G075BD13
4G075CA54
4G075CA62
4G075DA02
4G075EA06
4G075EB01
4G075EC11
4G075ED02
4G075ED08
4G075FB02
4G078AA03
4G078AA22
4G078AB11
4G078BA05
4G078BA07
4G078BA09
4G078DA01
4G078DA19
4G078DA21
4G078EA03
4G078EA10
4H006AA02
4H006AC52
4H006BA25
4H006BA55
4H006BB31
4H006BB61
4H006BD81
4H006BE20
(57)【要約】
【課題】気体原料の吸収効率を向上させる。
【解決手段】本発明の化学反応方法は、液体原料と気体原料とを接触させる化学反応のための方法であって、不活性ガスと、前記液体原料と、触媒とを仕込んだ反応容器(20)内に、前記気体原料を供給する工程と、反応容器(20)内の気相を攪拌する工程と、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体原料と気体原料とを接触させる化学反応のための方法であって、
不活性ガスと、前記液体原料と、触媒とを仕込んだ反応容器内に、前記気体原料を供給する工程と、
前記反応容器内の気相を攪拌する工程と、を含む方法。
【請求項2】
前記気体原料は水素を含み、前記化学反応は水添反応である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記気体原料は、前記反応容器内の気相に供給される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記気体原料は、前記反応容器内の液相に供給される、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
液体原料と気体原料とを接触させる化学反応のための反応装置であって、
反応容器と、
前記反応容器内の液相を攪拌する少なくとも1つの第1攪拌翼と、
前記反応容器内の気相を攪拌する攪拌要素と、を備える反応装置。
【請求項6】
前記攪拌要素は、前記第1攪拌翼と回転軸を共有する、少なくとも1つの第2攪拌翼を含む、請求項5に記載の反応装置。
【請求項7】
前記攪拌要素は、前記第1攪拌翼と異なる回転軸を有する、少なくとも1つの第3攪拌翼を含む、請求項5または6に記載の反応装置。
【請求項8】
前記反応容器は、前記反応容器内の気相に気体原料を供給するガス供給口を有する、請求項5から7のいずれか1項に記載の反応装置。
【請求項9】
前記反応容器は、前記反応容器内の液相に気体原料を供給するガス供給経路を有する、請求項5から8のいずれか1項に記載の反応装置。
【請求項10】
液体原料と気体原料とを接触させる化学反応のための反応装置において、反応容器内の気相を攪拌する攪拌要素。
【請求項11】
前記攪拌要素は、前記反応容器内の液相を攪拌する少なくとも1つの第1攪拌翼と回転軸を共有する、少なくとも1つの第2攪拌翼を含む、請求項10に記載の攪拌要素。
【請求項12】
前記攪拌要素は、前記反応容器内の液相を攪拌する少なくとも1つの第1攪拌翼と異なる回転軸を有する、請求項10または11に記載の攪拌要素。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器内において、不活性ガスの存在下、液体原料と気体原料とを接触させる化学反応方法および反応装置に関する。
【背景技術】
【0002】
反応容器内に仕込まれた液体に気体を導入して、液体と気体とを反応させる装置として、例えば、特許文献1に記載のような攪拌反応装置が知られている。特許文献1に記載の攪拌反応装置は、縦型円筒状の反応容器内に設けられた攪拌羽根により液相を攪拌しながら気体を導入することにより、導入された気体と液体との反応を進行させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のような攪拌反応装置を用いて、不活性ガスの存在下で気液反応を行う場合、液面付近において不活性ガスの濃度が上昇することにより、気液界面における原料ガス(気体原料)の吸収効率が低下するという問題があった。
【0005】
本発明の一態様は、気体原料の吸収効率を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る方法は、液体原料と気体原料とを接触させる化学反応のための方法であって、不活性ガスと、前記液体原料と、触媒とを仕込んだ反応容器内に、前記気体原料を供給する工程と、前記反応容器内の気相を攪拌する工程と、を含む。
【0007】
また、本発明の一態様に係る反応装置は、液体原料と気体原料とを接触させる化学反応のための反応装置であって、反応容器と、前記反応容器内の液相を攪拌する少なくとも1つの第1攪拌翼と、前記反応容器内の気相を攪拌する攪拌要素と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、気体原料の吸収効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態1に係る化学反応方法の一例を示すフローチャートである。
【
図2】本発明の実施形態1に係る反応装置の構成を模式的に示す系統図である。
【
図3】本発明の実施形態2に係る反応装置の構成を模式的に示す系統図である。
【
図4】本発明の実施形態3に係る反応装置の構成を模式的に示す系統図である。
【
図5】本発明の実施形態4に係る反応装置の構成を模式的に示す系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔実施形態1〕
以下、本発明の一実施形態である化学反応方法について、これに用いる反応装置と併せて、図面を用いて詳細に説明する。なお、添付の図面は本発明を説明するために用いるものであり、実際の寸法とは異なる場合がある。本明細書において、「A~B」とは、A以上B以下であることを示している。
【0011】
本開示に係る化学反応方法は、触媒の存在下で液体原料と、気体原料とを接触させることにより、化学反応を進行させる方法である。当該化学反応方法は、例えば、水素ガスを還元剤とし、化合物(基質)に対して水素原子を付加する水添反応(水素化反応)であってよい。水添反応により、ニトロ基のアミノ化、脱ハロゲン化などを行うことができる。あるいは、当該化学反応は、化合物に塩素原子を導入する塩素化反応、または化合物とホスゲンとを反応させるホスゲン化反応であってもよい。
【0012】
図1は本実施形態に係る化学反応方法の一例を示すフローチャートである。
図1に示すように、本実施形態の化学反応方法は、ガス置換工程S1と、液体原料仕込工程S2と、触媒仕込工程S3と、攪拌開始工程S4と、温度調節開始工程S5と、反応工程S6と、生成物取り出し工程S7と、を含む。各工程については、以下に詳述する。
【0013】
本実施形態では、一例として
図1に示すフローチャートおよび当該フローチャートに示される反応フローを実現する反応装置(
図2:反応装置10A)について説明する。しかしながら、本明細書および図面に記載されているフローチャートおよび装置は典型的な例を示すにすぎず、本発明の範囲を何ら限定するものではない。このことは、以下の他の実施形態においても同様である。
【0014】
<反応装置10A>
まず、反応装置10Aの構成の一例について、
図2を用いて説明する。
図2は本実施形態に係る反応装置10Aの構成を模式的に示す系統図である。
【0015】
本実施形態の反応装置10Aは、触媒の存在下で液体原料と気体原料とを接触させることにより反応を進行させる装置である。反応装置10Aは、反応容器20と、液相を攪拌する第1攪拌翼41と、気相を攪拌する第2攪拌翼42(攪拌要素40)と、を備えている。反応装置10Aはまた、液体原料供給装置50と、気体原料供給装置60と、不活性ガス供給装置70と、配管80と、を備えている。
【0016】
反応容器20は、その内部において、液体原料と気体原料とを接触させ、触媒の存在下にて反応させる容器ある。つまり、反応容器20において、後述する反応工程S6が実施され得る。反応容器20は、例えばステンレス製であり、円筒形状を有していてもよい。また、反応容器20は、反応容器20の外表面の少なくとも一部を覆い、通液可能なジャケット21と、熱交換媒体供給装置22とを備える構成であってもよい。ジャケット21は、熱交換媒体供給装置22と、配管によって形成される経路によって接続されている。熱交換媒体供給装置22は、熱交換媒体として熱媒(例えば温水)および/または冷媒(例えば冷水)を供給し得る。熱交換媒体は、熱交換媒体供給装置22からポンプ(不図示)によって経路を介してジャケット21に供給され、ジャケット21内を循環した後、別の経路を介して熱交換媒体供給装置22に戻る。熱交換媒体供給装置22からの熱交換媒体の供給は、制御装置90によって制御され得る。当該構成により、反応容器20内の反応場の温度を反応に適切な温度に調節することができる。なお、反応場の温度は、反応容器20内に設置される熱交換プレートなどによって調節されてもよい。
【0017】
第1攪拌翼41は、反応容器20内の液相を攪拌するものである。第1攪拌翼41は、液相を攪拌し得るものであれば特に限定されないが、例えば、ディスクタービン、プロペラ、傾斜パドル、直パドルまたはファウドラーなどであってよい。第1攪拌翼41は、複数の羽根を備えていてもよく、羽根の枚数は特に限定されない。4枚羽根または6枚羽根のディスクタービンは、流動特性が当業者に周知であるため、第1攪拌翼41として好適である。
【0018】
第2攪拌翼42は、反応容器20内の気相を攪拌するものである。すなわち、第2攪拌翼42は、反応容器20内の気相を攪拌する攪拌要素40の一例である。第2攪拌翼42は、気相を攪拌し得るものであれば特に限定されず、例えば、ディスクタービン、プロペラ、傾斜パドル、または直パドルを用いることができる。
【0019】
反応装置10Aにおいて、第1攪拌翼41および第2攪拌翼42は、攪拌軸45に接続されている。換言すると、第1攪拌翼41と第2攪拌翼42は、回転軸を共有している。なお、
図1では、反応装置10Aが第1攪拌翼41を2つ、第2攪拌翼42を1つ備えている例を示しているが、各攪拌翼の数は特に限定されず、それぞれ1つ以上であればよい。電動モータ46を用いて攪拌軸45を回転させることにより、第1攪拌翼41および第2攪拌翼42を回転させることができる。電動モータ46は、制御装置90に接続され得る。制御装置90は、電動モータ46のオンオフおよび回転数などを制御することができる。
【0020】
攪拌軸45の長手方向において、第1攪拌翼41および第2攪拌翼42の位置は、第1攪拌翼41および第2攪拌翼42の大きさ、数などに応じて任意に設計され得る。例えば、反応装置10Aにおいて、反応装置10A内に存在する攪拌軸45の上端を0(ゼロ)、下端を1とする目盛を仮定する。この場合、第2攪拌翼42の中央部(高さの中心)は、目盛0.3~0.5、好ましくは目盛0.4に位置していてもよい。2つの第1攪拌翼41のうち一方の中央部は、目盛0.65~0.75、好ましくは目盛0.7に位置していてもよい。2つの第1攪拌翼41のうち他方の中央部は、目盛0.85~0.95、好ましくは目盛0.9に位置していてもよい。
【0021】
つまり、反応装置10Aにおいて、攪拌要素40は、第1攪拌翼41と回転軸を共有する、少なくとも1つの第2攪拌翼42を含んでいてもよい。当該構成により、1つの電動モータを用いて1つの攪拌軸を回転させることにより、液相および気相の両方を攪拌することができ、装置の構成を単純化することができる。
【0022】
液体原料供給装置50は、液体原料を反応容器20内に供給する装置である。つまり、後述する液体原料仕込工程S2を実施し得る装置である。液体原料供給装置50は、反応容器20と接続され反応容器20内まで延びる配管によって形成される、経路51を介して、液体原料を反応容器20に供給することができる。液体原料供給装置50は、制御装置90と接続され得る。制御装置90は、液体原料供給装置50を制御し、液体原料の供給量または供給速度を制御し得る。
【0023】
気体原料供給装置60は、気体原料を反応容器20内に供給する装置である。つまり、後述する気体原料供給工程S61を実施し得る装置である。気体原料供給装置60は、反応容器20と接続され反応容器20内まで延びる配管によって形成される、経路61を介して、気体原料を反応容器20に供給することができる。反応装置10Aにおいて、経路61の端部に相当するガス供給口は、液体原料と気体原料との反応を実施している反応装置10A内の気相に位置している。換言すると、反応容器20は、反応容器20内の気相に気体原料を供給するガス供給口を有している。これにより、気体原料を気相に供給することができる。気体原料を液相部に供給する場合、液はねにより、液体原料、生成物および/または触媒が反応容器20の内壁に付着し、異常反応が発生する場合がある。気体原料を気相に供給することにより、このような異常反応が発生する可能性を低減することができる。気体原料供給装置60は、制御装置90と接続され得る。制御装置90は、気体原料供給装置60を制御し、気体原料の供給量または供給速度を制御し得る。
【0024】
不活性ガス供給装置55は、不活性ガスを反応容器20内に供給する装置である。つまり、後述するガス置換工程S1を実施し得る装置である。不活性ガス供給装置70は、反応容器20と接続され反応容器20内まで延びる配管によって形成される、経路71を介して、不活性ガスを反応容器20に供給することができる。不活性ガス供給装置70は、制御装置90と接続され得る。制御装置90は、不活性ガス供給装置70を制御し、不活性ガスの供給量または供給速度を制御し得る。
【0025】
配管80は、反応生成物を含む液体を反応容器20内から取り出すための配管である。つまり、後述する生成物取り出し工程S7を実施するために用いるものである。配管80は、例えば弁を備えており、生成物の取り出しが不要な場合には弁が閉じられている。生成物を取り出す場合には、弁を開放し、反応容器20内を例えば不活性ガスによって加圧することにより、配管80を介して生成物を反応容器20から排出することができる。
【0026】
<化学反応方法>
実施形態1に係る化学反応方法は、例えば
図1に示すフローチャートに従って実行される。なお、
図1に示すフローチャートは一例であり、これに限定されない。以下に実施形態1に係る化学反応方法における各工程について詳細に説明する。
【0027】
(ガス置換工程S1)
ガス置換工程S1は、不活性ガスを供給することによる加圧と、脱圧を繰り返すことにより、反応容器20内のガスを置換する工程である。不活性ガスの供給による加圧は、不活性ガス供給装置70によって実施され、脱圧は、例えば、反応容器20が備える開放弁(不図示)を開放することにより実施され得る。ガス置換工程S1において用いられる不活性ガスは、例えば窒素またはアルゴンであってよい。可熱性混合気体の形成を回避するため、ガス置換工程S1によって、反応容器20内の酸素濃度を、5.0vol.%以下にすることが好ましい。また、ガス置換工程S1後、反応容器20内の不活性ガス分圧は、80~101.3kPaに調節され得る。
【0028】
(液体原料仕込工程S2)
液体原料仕込工程S2は、ガス置換工程S1を経た反応容器20に、液体原料を供給する(仕込む)工程である。液体原料は、気体原料と反応し得る基質と、溶媒とを含んでいてもよい。液体原料供給装置50から経路51を介して液体原料が供給されることにより、第1攪拌翼41は、液相内に浸漬される。なお、液体原料を供給する際に減圧が生じた場合、不活性ガスを供給することにより復圧してもよい。
【0029】
(触媒仕込工程S3)
触媒仕込工程S3は、反応容器20に、触媒を投入する(仕込む)工程である。触媒は、例えば反応容器20上部に設けられるハッチ(不図示)を開放し、当該ハッチから投入してもよい。触媒を投入する際に減圧が生じた場合、不活性ガスを供給することにより復圧してもよい。触媒の種類、量、大きさなどは反応系に応じ、適宜決定され得る。
【0030】
(攪拌開始工程S4)
攪拌開始工程S4は、反応容器20内の液相および気相の攪拌を開始する工程である。攪拌開始工程S4において開始される攪拌は、少なくとも反応工程S6が完了するまで継続され得る。反応装置10Aでは、第1攪拌翼41および第2攪拌翼42は、攪拌軸45に接続されているため、電動モータ46を用いて攪拌軸45を回転させることにより、反応容器20内の気相および液相を攪拌することができる。攪拌開始工程S4により反応容器20内の液相が攪拌されることにより、触媒を液体原料中に分散させることができる。また、続く温度調節開始工程S5において開始される温度調節が効率よく実施され得る。
【0031】
(温度調節開始工程S5)
温度調節開始工程S5は、反応容器20内の温度の調節を開始する工程である。反応中、反応容器20内の温度は、各反応に適した温度に維持されることが好ましい。反応容器20内の温度の調節(維持)は、例えば、熱交換媒体供給装置22を用いて実施され得る。具体的には、熱交換媒体として熱媒(例えば温水)をジャケット21に供給することにより、反応容器20内の温度を昇温することができる。また、熱交換媒体として冷媒(例えば冷水)をジャケット21に供給することにより、反応容器20内の温度を低下させることができる。
【0032】
(反応工程S6)
反応工程S6は、液体原料と、気体原料とを触媒の存在下において接触させ、化学反応を進行させる工程である。反応工程S6は、気体原料供給工程S61、気相調圧工程S62および気相攪拌工程S63を含む。各工程については下記に詳述する。なお、これらの3つの工程は、並行して実施され得る工程である。
【0033】
(気体原料供給工程S61)
気体原料供給工程S61は、反応容器20内に気体原料を供給する工程である。気体原料の供給は、連続供給であってもよいし、間欠供給であってもよい。反応容器20内に気体原料が供給されることにより、反応容器20内の気相には、不活性ガスおよび気体原料が混在することになる。本実施形態において、気体原料は、反応容器20内の気相に供給される。これにより、液はねにより、反応容器20の内壁において異常反応が発生する可能性を低減することができる。
【0034】
(気相調圧工程S62)
気相調圧工程S62は、反応容器20内の圧力を調節する工程である。気相調圧工程S62では、例えば気体原料を反応容器20内に供給することにより、気相の圧力を反応に適切な圧力に調節することができる。反応容器20内の圧力として適切な圧力は、反応の種類などにより適宜設定され得るが、反応を良好に進行させるために100kPa以上であることが好ましい。
【0035】
(気相攪拌工程S63)
気相攪拌工程S63は、容器内の気相を攪拌する工程である。反応工程S6において気相の攪拌が行われていることを明示するために気相攪拌工程S63を反応工程S6内に含む態様で記載している。しかしながら、気相の攪拌は反応工程S6において開始されるものでなくてもよい。例えば、本実施形態では、気相攪拌工程S63は、第2攪拌翼42が回転することにより実施され得るが、第2攪拌翼42は、攪拌開始工程S4において既に攪拌を開始している。気相攪拌工程S63が他の攪拌要素40によって実施される場合には、本気相攪拌工程S63において気相の攪拌を開始してもよい。他の攪拌要素40の態様は下記の他の実施形態において説明する。
【0036】
本開示に係る化学反応では、化学反応に伴って気体原料が液体原料に吸収される。気体原料の液への吸収速度が、気相内の気体原料の拡散速度よりも大きい場合、液面付近において不活性ガスが濃縮し、気体原料の分圧が低下すると考えられる。これにより、反応速度が低下する可能性がある。また、不活性ガスの比重が気体原料の比重よりも大きい場合、液面付近における気体原料の分圧はより低下しやすいと考えられる。気相攪拌工程S63によって気相を攪拌することにより、液面付近のガスが混合され、気体原料と液体原料の反応速度の低下を低減することができる。
【0037】
(生成物取り出しS7)
生成物取り出し工程S7は、反応工程S6において得られた生成物を含む液体を取り出す工程である。
【0038】
(まとめ)
実施形態1に係る化学反応方法は、液体原料と気体原料とを接触させる化学反応のための方法である。当該方法は、不活性ガスと、前記液体原料と、触媒とを仕込んだ反応容器20内に、前記気体原料を供給する工程(液体原料仕込工程S2)と、前記反応容器20内の気相を攪拌する工程(気相攪拌工程S63)と、を含む。
【0039】
上記構成により、反応容器20内において液面付近の気相を攪拌することができ、不活性ガスが液面付近において濃縮することに起因する吸収効率の低下を低減することができる。すなわち、気体原料の吸収効率を向上させることができる。
【0040】
また、実施形態1に係る反応装置10Aは、液体原料と気体原料とを接触させる化学反応のための反応装置である。反応装置10Aは、反応容器20と、反応容器20内の液相を攪拌する少なくとも1つの第1攪拌翼41と、反応容器20内の気相を攪拌する第2攪拌翼42(攪拌要素40)と、を備えている。
【0041】
上記構成により、気体原料の吸収効率を向上させることができる。
【0042】
〔実施形態2〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。以下の他の実施形態についても同様である。
【0043】
実施形態2に係る化学反応方法は、実施形態1と同様、
図1に示すフローチャートに従って実施され得る。
図3は、実施形態2に係る反応装置10Bの構成を模式的に示す系統図である。反応装置10Bは、第3攪拌翼43(攪拌要素40)を有している点が実施形態1の反応装置10Aと異なっている。他の構成については、実施形態1の反応装置10Aと同様である。なお、反応装置10Bは、第2攪拌翼42の代わりに第3攪拌翼43を備えている例を示しているが、攪拌要素40として、第2攪拌翼42および第3攪拌翼43の両方を備えていてもよい。
【0044】
第3攪拌翼43は、反応容器20内の気相を攪拌するものである。すなわち、第3攪拌翼43は、反応容器20内の気相を攪拌する攪拌要素40の一例である。第3攪拌翼43もまた、気相を攪拌し得るものであれば特に限定されず、例えば、ディスクタービン、プロペラ、傾斜パドル、または直パドルを用いることができる。
【0045】
反応装置10Bにおいて、第3攪拌翼43は、第1攪拌翼41の攪拌軸45とは異なる攪拌軸45Aに接続されている。攪拌軸45Aは、電動モータ46Aと接続されており、電動モータ46Aは、制御装置90に接続され得る。制御装置90は、電動モータ46Aのオンオフおよび回転数などを制御することができる。なお、反応装置10Bは、反応容器20内に第3攪拌翼43を複数備えていてもよい。第3攪拌翼43を複数備える場合、複数の第3攪拌翼43の回転軸は共有されていてもよいし、別々であってもよい。
【0046】
第3攪拌翼43による気相の攪拌は、気相攪拌工程S63において実施されていればよく、
図1のフローチャートにおける攪拌開始工程S4において開始されてもよいし、気相攪拌工程S63において開始されてもよい。
【0047】
つまり、反応装置10Bは、第1攪拌翼41と異なる回転軸を有する、少なくとも1つの第3攪拌翼43を含んでいる。当該構成により、第1攪拌翼41と、第3攪拌翼43を別々に制御することができ、液相および気相それぞれに適切な攪拌制御を行うことができる。
【0048】
〔実施形態3〕
実施形態3に係る化学反応方法は、実施形態1と同様、
図1に示すフローチャートに従って実施され得る。
図4は、実施形態3に係る反応装置10Cの構成を模式的に示す系統図である。反応装置10Cは、第2攪拌翼42を備えていない点が実施形態1の反応装置10Aと異なっている。他の構成については、実施形態1の反応装置10Aと同様である。
【0049】
実施形態3に係る化学反応方法において、気相攪拌工程S63は、気体原料供給装置60から気体原料を供給することによって実施される。すなわち、気体原料供給装置60から供給される気体原料の流れによって気相を攪拌する。反応装置10Cにおいて、経路61の端部に相当するガス供給口62は、液体原料と気体原料との反応を実施している反応装置10C内の気相に位置している。ガス供給口62の位置およびガスを噴出する開口部の向きなどは、反応容器20内の液面高さ、反応装置10Cの規模などにより適宜変更され得る。例えば、液はねを低減するために、気体原料を噴出する向きが液面に略平行な向きになるよう、経路61の形状を設計してもよい。また、経路61を分枝させることにより、反応装置10C内に複数のガス供給口62を設けてもよい。当該構成により、気体原料を気相に供給し、気相を攪拌することができる。すなわち、実施形態3において、反応容器20内の気相を攪拌する攪拌要素40は、気体原料供給装置60およびガス供給口62を含んでいる。
【0050】
つまり、実施形態3に係る反応装置10Cは、液体原料と気体原料とを接触させる化学反応のための反応装置である。反応装置10Cは、反応容器20と、反応容器20内の液相を攪拌する少なくとも1つの第1攪拌翼41と、反応容器20内の気相を攪拌するために、攪拌要素40として気体原料供給装置60およびガス供給口62を備えている。上記構成により、気体原料の吸収効率を向上させることができる。
【0051】
〔実施形態4〕
実施形態4に係る化学反応方法は、実施形態1と同様、
図1に示すフローチャートに従って実施され得る。
図5は、実施形態4に係る反応装置10Dの構成を模式的に示す系統図である。反応装置10Dは、気体原料供給装置60に接続されている経路61が、液相内まで延びている点が実施形態1の反応装置10Aと異なっている。他の構成については、実施形態1の反応装置10Aと同様である。
【0052】
経路61は、供給管63と接続されている。供給管63は、反応容器20の内部、好ましくは反応容器20の底部に配される。供給管63は、複数の孔を有しており、気体原料供給装置60から供給される気体原料を、気泡形状にて液相内に供給することができる。すなわち反応装置10Dは、バブリングによって気体原料を供給することができる。なお、気体原料の供給は、液相のみに限定されなくてもよい。例えば、経路61を分枝させ、気相および液相の両方に気体原料を供給してもよい。
【0053】
つまり、実施形態4に係る反応装置10Dは、反応容器20内の液相に気体原料を供給するガス供給経路を有している。当該構成により、気体原料と液体原料との接触効率を向上させることができ、反応効率を向上させることができる。
【0054】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0055】
(実証試験)
以下では、本発明の化学反応方法の効果を実証する実証試験について説明する。本実証試験の実施例においては、本願発明の範囲内である反応装置10Aを用い、本発明の化学反応方法に従って水添反応を実施した。比較例においては、本願発明の範囲外である反応装置を用いて実施例と同様の水添反応を実施した。比較例に用いた反応装置は、反応装置10Aとは異なり、気相を攪拌する第2攪拌翼42を有していない(攪拌要素40を備えていない)。すなわち、比較例に係る化学反応方法は気相攪拌工程を含まず、本願発明の範囲外である。
【0056】
本実証試験において実施した水添反応は、以下に示す各原料を用いた、ニトロ基のアミノ化反応である。
【0057】
・液体原料-ニトロ基を含む化合物(基質)と、水(溶媒)との混合物:基質濃度74%
・気体原料-水素を99.9%以上含むガス
・不活性ガス-窒素ガス
・触媒-平均粒径22μmのPd担持活性炭(Pd/C)
実施例および比較例について行った操作については、下記のとおりである。
【0058】
(1)ガス置換:窒素ガスの供給による加圧および脱圧を繰り返し、反応容器内の酸素ガスの濃度が5.0vol%となるまで、反応容器内のガスを置換した。
【0059】
(2)液体原料の仕込み:反応容器内を減圧し、液相攪拌用の攪拌翼が浸漬するまで、液体原料を仕込んだ。その後、窒素ガスを供給し、大気圧まで復圧した。
【0060】
(3)触媒の仕込み:Pd/C触媒を、液相における触媒量(触媒濃度)が0.01%となるように投入した。
【0061】
(4)温度調節:反応容器のジャケットに温水を通水し、反応容器内の液温が40~50℃となるよう、昇温した。また、反応中は、冷媒を通液し、反応容器内の液温を40~50℃に維持した。
【0062】
(5)気体原料の供給:反応容器を閉鎖した状態で、反応容器内の気相に気体原料を供給し、全圧を400kPaAとした。このとき、H2の分圧は、300kPaであった。本実証試験における反応は、バッチ式で実施した。
【0063】
(6)気相の攪拌:実施例では気相の攪拌を実施し、比較例では気相の攪拌を実施しなかった。
【0064】
(7)脱圧/窒素置換:反応終了後、反応容器内の水素ガス濃度が爆発下限濃度以下(4.0vol%以下)となるまで、脱圧と、窒素による容器内のガス置換を実施した。
【0065】
(8)サンプリング:反応容器内を窒素ガスにより微加圧とし、配管80を介して生成物を含む液体をサンプリングした。
【0066】
(9)上記液体における基質濃度を分析し、得られた基質濃度から、反応速度を算出した。
【0067】
表1は、実施例および比較例の実験条件および実験結果をまとめたものである。表1における、H2の吸収速度は実施例の吸収速度を1とした場合の相対値である。
【0068】
【表1】
本実証試験において、気体原料は水素を含み、化学反応は水添反応である。表1に示すように、本発明に従う化学反応方法および反応装置を用いることにより、H
2ガスの吸収効率が向上することが実証された。すなわち、本発明に従う実施例は、比較例よりも気体原料(原料ガス)の吸収速度が高いことが実証された。