(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023035655
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】成膜装置、成膜方法及び電子デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/24 20060101AFI20230306BHJP
H10K 50/00 20230101ALI20230306BHJP
H05B 33/10 20060101ALI20230306BHJP
【FI】
C23C14/24 C
H05B33/14 A
H05B33/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021142671
(22)【出願日】2021-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】591065413
【氏名又は名称】キヤノントッキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菅原 由季
【テーマコード(参考)】
3K107
4K029
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107BB01
3K107CC45
3K107GG04
3K107GG34
4K029AA09
4K029AA24
4K029BA62
4K029BB03
4K029BD01
4K029CA01
4K029DA12
4K029DB06
4K029DB14
4K029DB18
4K029DB23
4K029HA01
4K029JA01
4K029JA06
(57)【要約】
【課題】複数の蒸発源を用いた効率的な成膜処理を行うこと
【解決手段】成膜装置は、蒸着物質を放出する第1の放出部を有する第1の蒸発源及び蒸着物質を放出する第2の放出部を有する第2の蒸発源を含み、移動しながら基板に成膜する蒸発源ユニットを備える。第1の放出部と第2の放出部とは、蒸発源ユニットの移動方向における位置が異なる。蒸発源ユニットが移動方向に移動しながら第1の蒸発源により基板に成膜する第1の成膜処理と、蒸発源ユニットが移動方向に移動しながら第2の蒸発源により基板に成膜する第2の成膜処理と、で蒸発源ユニットの移動範囲が異なる。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸着物質を放出する第1の放出部を有する第1の蒸発源及び蒸着物質を放出する第2の放出部を有する第2の蒸発源を含み、移動しながら基板に成膜する蒸発源ユニットを備え、
前記第1の放出部と前記第2の放出部とは、前記蒸発源ユニットの移動方向における位置が異なり、
前記蒸発源ユニットが前記移動方向に移動しながら前記第1の蒸発源により基板に成膜する第1の成膜処理と、前記蒸発源ユニットが前記移動方向に移動しながら前記第2の蒸発源により基板に成膜する第2の成膜処理と、で前記蒸発源ユニットの移動範囲が異なる、
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
請求項1に記載の成膜装置であって、
前記第1の成膜処理及び前記第2の成膜処理における前記移動範囲は、前記第1の蒸発源及び前記第2の蒸発源の、基板の成膜面の高さにおける成膜範囲に応じてそれぞれ設定される、
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項3】
請求項1から2までのいずれか1項に記載の成膜装置であって、
前記第1の放出部は、前記第2の放出部よりも前記移動方向における一方の側に配置され、
前記第1の成膜処理における前記蒸発源ユニットの前記移動範囲は、前記第2の成膜処理における前記蒸発源ユニットの前記移動範囲よりも、前記一方の側に狭い、
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか1項に記載の成膜装置であって、
前記第1の放出部から放出された蒸着物質の基板への飛散を許容する一方で前記第2の放出部から放出された蒸着物質の基板への飛散を遮断する第1の状態、及び、前記第2の放出部から放出された蒸着物質の基板への飛散を許容する一方で前記第1の放出部から放出された蒸着物質の基板への飛散を遮断する第2の状態をとる遮断手段をさらに備える、
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれか1項に記載の成膜装置であって、
前記第1の放出部は、前記第2の放出部よりも前記移動方向における一方の側に配置され、
前記第1の蒸発源の、基板の成膜面の高さにおける成膜範囲の前記移動方向における他方の側の端が、基板の成膜領域の前記一方の側の端以上に前記一方の側に位置するように、前記第1の成膜処理における前記蒸発源ユニットの前記移動範囲の一方の側の端が設定される、
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項6】
請求項1から4までのいずれか1項に記載の成膜装置であって、
前記第1の放出部は、前記第2の放出部よりも前記移動方向における一方の側に配置され、
前記第1の蒸発源の、基板の成膜面の高さにおける成膜範囲の前記移動方向における他方の側の端が、基板の成膜領域の前記一方の側の端よりも100mm以上前記一方の側に位置するように、前記第1の成膜処理における前記蒸発源ユニットの前記移動範囲の一方の側の端が設定される、
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項7】
請求項5から6までのいずれか1項に記載の成膜装置であって、
前記第2の蒸発源の、基板の成膜面の高さにおける成膜範囲の前記移動方向における他方の側の端が、基板の成膜領域の前記一方の側の端よりも前記他方の側に位置するように、前記第1の成膜処理における前記蒸発源ユニットの前記移動範囲の一方の側の端が設定される、
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項8】
請求項1から7までのいずれか1項に記載の成膜装置であって、
前記成膜装置は、同じ基板に対して前記第1の成膜処理を行った後に前記第2の成膜処理を行い、
前記第1の成膜処理の開始時及び前記第2の成膜処理の終了時の前記蒸発源ユニットの前記移動方向における位置が一致する、
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項9】
請求項8に記載の成膜装置であって、
前記移動方向と交差する交差方向に離間して複数枚の成膜対象の基板を配置可能であり、
前記蒸発源ユニットは、前記交差方向にも移動する、
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項10】
請求項1から9までのいずれか1項に記載の成膜装置であって、
前記第1の蒸発源及び前記第2の蒸発源の、基板の成膜面の高さにおける成膜範囲をそれぞれ画定する第1の画定部及び第2の画定部をさらに備える、
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項11】
蒸着物質を放出する第1の放出部を有する第1の蒸発源及び蒸着物質を放出する第2の放出部を有する第2の蒸発源を含み、移動しながら基板に成膜する蒸発源ユニットを備え、
前記第1の放出部と前記第2の放出部とは、前記蒸発源ユニットの移動方向における位置が異なり、
前記蒸発源ユニットは、前記移動方向に移動しながら前記第1の蒸発源により基板に成膜する第1の成膜処理と、前記移動方向に移動しながら前記第2の蒸発源により基板に成膜する第2の成膜処理と、を行い、
前記蒸発源ユニットは、前記第1の成膜処理及び前記第2の成膜処理において、前記移動方向に移動する中で複数回の折り返しを行い、
前記第1の成膜処理における最初の折り返しから最後の折り返しまでの前記蒸発源ユニットの移動範囲と、前記第2の成膜処理における最初の折り返しから最後の折り返しまでの前記蒸発源ユニットの移動範囲とが異なる、
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項12】
蒸着物質を放出する第1の放出部を有する第1の蒸発源及び蒸着物質を放出する第2の放出部を有する第2の蒸発源を含み、移動しながら基板に成膜する蒸発源ユニットを備えた成膜装置の成膜方法であって、
前記蒸発源ユニットが移動方向に移動しながら前記第1の蒸発源により基板に成膜する第1の成膜工程と、
前記蒸発源ユニットが前記移動方向に移動しながら前記第2の蒸発源により基板に成膜する第2の成膜工程と、を含み、
前記第1の放出部と前記第2の放出部とは、前記移動方向における位置が異なり、
前記第1の成膜工程と前記第2の成膜工程とでは前記蒸発源ユニットの移動範囲が異なる、
ことを特徴とする成膜方法。
【請求項13】
請求項12に記載の成膜方法により基板に成膜を行う成膜工程を含むことを特徴とする電子デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置、成膜方法及び電子デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機ELディスプレイ等の製造においては、蒸発源から放出された蒸着物質が基板に付着することで基板に薄膜が形成される。特許文献1には、回転する基板に対して複数の蒸発源を用いて成膜を行うことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
複数の蒸発源を用いた成膜装置としては、上記従来技術の他にも、複数の蒸発源を有する蒸発源ユニットが基板に対して所定の方向に移動しながら成膜するもの等が挙げられる。例えば、このような成膜装置では、複数の蒸発源のうちの一部の蒸発源による成膜処理を順次行うことにより、基板に対して複数層の薄膜を形成することができる。一方で、一部の蒸発源による成膜処理が行われている間にも、残りの蒸発源に収容されている蒸着物質が消費されることがあり、蒸着物質の消費量低減等の観点から、効率的な成膜処理が望まれる。
【0005】
本発明は、複数の蒸発源を用いた効率的な成膜処理を行う技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面によれば、蒸着物質を放出する第1の放出部を有する第1の蒸発源及び蒸着物質を放出する第2の放出部を有する第2の蒸発源を含み、移動しながら基板に成膜する蒸発源ユニットを備え、前記第1の放出部と前記第2の放出部とは、前記蒸発源ユニットの移動方向における位置が異なり、前記蒸発源ユニットが前記移動方向に移動しながら前記第1の蒸発源により基板に成膜する第1の成膜処理と、前記蒸発源ユニットが前記移動方向に移動しながら前記第2の蒸発源により基板に成膜する第2の成膜処理と、で前記蒸発源ユニットの移動範囲が異なる、
ことを特徴とする成膜装置が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、複数の蒸発源を用いた効率的な成膜処理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】一実施形態に係る成膜装置の構成を模式的に示す平面図。
【
図2】
図1の成膜装置の構成を模式的に示す正面図。
【
図3】蒸発源ユニットの構成を模式的に示す斜視図。
【
図5】(A)及び(B)は、蒸発源ユニット及び遮断部の構成及び動作の説明図。
【
図6】蒸発源の基板に対する成膜範囲を説明する図。
【
図9】成膜処理における蒸発源ユニットのX方向の移動範囲の説明図。
【
図10】成膜処理における蒸発源ユニットの移動の軌跡を例示する図。
【
図11】(A)及び(B)は、蒸発源ユニット及び遮断部の構成及び動作の説明図。
【
図12】成膜処理における蒸発源ユニットのX方向の移動範囲の説明図。
【
図13】(A)は有機EL表示装置の全体図、(B)は1画素の断面構造を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0010】
<成膜装置の概要>
図1は、一実施形態に係る成膜装置1の構成を模式的に示す平面図である。
図2は、
図1の成膜装置1の構成を模式的に示す正面図である。なお、各図において矢印X及びYは互いに直交する水平方向を示し、矢印Zは垂直方向(鉛直方向)を示す。
【0011】
成膜装置1は、基板に対して蒸発源を移動させながら蒸着を行う成膜装置である。成膜装置1は、例えばスマートフォン用の有機EL表示装置の表示パネルの製造に用いられ、複数台並んで配置されてその製造ラインを構成する。成膜装置1で蒸着が行われる基板の材質としては、ガラス、樹脂、金属等を適宜選択可能であり、ガラス上にポリイミド等の樹脂層が形成されたものが好適に用いられる。蒸着物質としては、有機材料、無機材料(金属、金属酸化物など)などが用いられる。成膜装置1は、例えば表示装置(フラットパネルディスプレイなど)や薄膜太陽電池、有機光電変換素子(有機薄膜撮像素子)等の電子デバイスや、光学部材等を製造する製造装置に適用可能であり、特に、有機ELパネルを製造する製造装置に適用可能である。また、成膜装置1が成膜を行う基板のサイズとしては例えばG8Hサイズの基板(1100mm×2500mm、1250mm×2200mm)が挙げられるが、成膜装置1が成膜を行う基板のサイズは適宜設定可能である。
【0012】
成膜装置1は、蒸発源ユニット10と、移動ユニット20と、複数の支持ユニット30A及び30B(以下、これらを総称する場合は支持ユニット30と表し、これらの構成要素等についても同様とする)と、を備える。蒸発源ユニット10、移動ユニット20及び支持ユニット30は、使用時に真空に維持されるチャンバ45の内部に配置される。本実施形態では、複数の支持ユニット30A及び30Bがチャンバ45内の上部にY方向に離間して設けられており、その下方に蒸発源ユニット10及び移動ユニット20が設けられている。また、チャンバ45には、基板100の搬入、搬出を行うための複数の基板搬入口44A及び44Bが設けられている。なお、本実施形態において「真空」とは、大気圧より低い圧力の気体で満たされた状態、換言すれば減圧状態をいう。
【0013】
また、成膜装置1は、蒸発源ユニット10に電力を供給する電源41と、蒸発源ユニット10及び電源41を電気的に接続する電気接続部42を含む。電気接続部42は水平方向に可動のアームの内部を電気配線が通って構成されており、後述するようにXY方向に移動する蒸発源ユニット10に対して電源41からの電力が供給可能となっている。
【0014】
また、成膜装置1は、各構成要素の動作を制御する制御部43を含む。例えば、制御部43は、CPUに代表されるプロセッサ、RAM、ROM等のメモリ及び各種インタフェースを含んで構成され得る。例えば、制御部43は、ROMに記憶されたプログラムをRAMに読み出して実行することで、成膜装置1による各種の処理を実現する。
【0015】
<支持ユニット>
支持ユニット30は、基板100及びマスク101を支持するとともに、これらの位置調整を行う。支持ユニット30は、基板支持部32と、位置調整部34と、マスク支持部36とを含む。
【0016】
基板支持部32は、基板100を支持する。本実施形態では、基板支持部32は、基板100の長手方向がX方向、基板100の短手方向がY方向となるように基板100を下から支持する。しかしながら、基板支持部32は、基板100の縁を複数箇所で挟持すること等によって基板100を支持してもよいし、静電チャック又は粘着チャック等によって基板100を吸着することで基板100を支持してもよい。また、基板支持部32は、基板100を直接的に支持するものに限らず、基板100を載置した基板キャリアを支持するもの等、基板100を間接的に支持するものであってもよい。
【0017】
位置調整部34は、基板100とマスク101との位置関係を調整する。本実施形態では、位置調整部34は、基板100を支持した状態の基板支持部32を移動させることにより、基板100とマスク101との位置関係を調整する。しかしながら、マスク101を移動させることで基板100とマスク101の位置関係を調整してもよい。位置調整部34は、チャンバ45に固定された固定部341と、基板支持部32を支持し、固定部341に対して移動する可動部342とを含む。可動部342は、固定部341に対してX方向に移動することで、基板支持部32に支持された基板100をX方向に移動させ、基板100とマスク101のX方向の大まかな位置関係を調整する。さらに、可動部342は、基板100とマスク101の精密な位置調整(アライメント)を行うために、支持している基板支持部32をXY方向に移動させる機構を含む。アライメントの具体的な方法については公知の技術を採用可能なため詳細な説明は省略する。また、可動部342は、基板支持部32をZ方向に移動させ、基板100とマスク101のZ方向の位置関係を調整する。可動部342には、ラック・アンド・ピニオン機構やボールねじ機構等、公知の技術を適宜適用可能である。
【0018】
マスク支持部36は、マスク101を支持する。本実施形態では、マスク支持部36は、チャンバ45内においてマスク101がX方向の中央に位置するように、マスク101を支持する。例えば、マスク支持部36は、マスク101の縁を複数箇所で挟持すること等の他の態様によってマスク101を支持してもよい。
【0019】
本実施形態の成膜装置1は、複数の支持ユニット30A及び30Bにより、複数の基板100A及び100BをY方向(交差方向)に離間して支持可能であるとともに、支持された各基板に対して成膜が可能ないわゆるデュアルステージの成膜装置である。例えば、支持ユニット30Aに支持された基板100Aに対して蒸着が行われている間に、支持ユニット30Bに支持された基板100及びマスク101のアライメントを行うことができ、成膜処理を効率的に実行することができる。以下、支持ユニット30A側のステージをステージA、支持ユニット30B側のステージをステージBと表記することがある。
【0020】
<移動ユニット>
移動ユニット20は、蒸発源ユニット10をX方向に移動させるX方向移動部22と、蒸発源ユニット10をY方向に移動させるY方向移動部24とを含む。
【0021】
X方向移動部22は、蒸発源ユニット10に設けられる構成要素として、モータ221と、モータ221により回転する軸部材に取り付けられたピニオン222と、ガイド部材223とを含む。また、X方向移動部22は、蒸発源ユニット10を支持する枠部材224と、枠部材224の上面に形成され、ピニオン222と噛み合うラック225と、ガイド部材223が摺動するガイドレール226とを含む。蒸発源ユニット10は、モータ221の駆動により回転するピニオン222がラック225と噛み合うことで、ガイドレール226に沿ってX方向に移動する。
【0022】
Y方向移動部24は、Y方向に延び、X方向に離間する2つの支持部材241A及び241Bを含む。2つの支持部材241A及び241Bは、X方向移動部22の枠部材224の短辺を支持している。Y方向移動部24は、不図示のモータ及びラック・アンド・ピニオン機構等の駆動機構を含み、2つの支持部材241A及び241Bに対して枠部材224をY方向に移動させることにより、蒸発源ユニット10をY方向に移動させる。Y方向移動部24は、蒸発源ユニット10を、支持ユニット30Aに支持された基板100Aの下方の位置と、支持ユニット30Bに支持された基板100Bの下方の位置との間でY方向に移動させる。
【0023】
<蒸発源ユニット>
図3は、蒸発源ユニット10の構成を模式的に示す斜視図である。蒸発源ユニット10は、複数の蒸発源として、Y方向に並んだ3つの蒸発源12aと、3つの蒸発源12aからX方向に離間した位置にY方向に並んだ3つの蒸発源12bと、を含む。以下、蒸発源12a、12bを総称する場合は蒸発源12と表記し、これらの構成要素等についても同様とする。
【0024】
また、本実施形態では、3つの蒸発源12aで1つのユニット10aを構成し、3つの蒸発源12bでもう1つのユニット10bを構成する。詳細には後述するが、本実施形態では、蒸発源ユニット10は、これらのユニットごとに基板100への成膜を行う。
【0025】
図4を併せて参照する。
図4は、蒸発源12の構成を模式的に示す断面図である。蒸発源12は、蒸着物質を蒸発させて放出する。それぞれの蒸発源12は、材料容器121(るつぼ)と、加熱部122とを含む。
【0026】
材料容器121は、内部に蒸着物質を収容する。材料容器121の上部には、蒸発した蒸着物質が放出される放出部1211が形成されている。本実施形態では、放出部1211は、材料容器121の上面に形成された開口部だが、筒状の部材等であってもよい。また或いは、材料容器121に対して複数の放出部1211が設けられてもよい。また、本実施形態では、蒸発源12aの放出部1211aと、蒸発源12bの放出部1211bとは、蒸発源ユニット10の成膜時の移動方向であるX方向の位置が異なっている(
図5参照)。さらに言えば、放出部1211aは、放出部1211bよりもX方向(移動方向)における+X側(一方の側)に配置されている。
【0027】
加熱部122は、材料容器121に収容された蒸着物質を加熱する。加熱部122は、材料容器121を覆うように設けられる。本実施形態では加熱部122として電熱線を用いたシーズヒータが使用されており、
図4にはシーズヒータの電熱線が材料容器121の周囲に巻き付けられたときの断面が示されている。
【0028】
加熱部122による蒸着物質の加熱は、制御部43によって制御される。本実施形態では、複数の蒸発源12は、それぞれ独立に材料容器121及び加熱部122を有している。よって、制御部43は、複数の蒸発源12による蒸着物質の蒸発をそれぞれ独立に制御することができる。
【0029】
<シャッタ>
図5(A)及び
図5(B)は、蒸発源ユニット10及び遮断部18の構成及び動作の説明図である。成膜装置1は、蒸発源12から放出された蒸着物質の基板100への飛散を遮断する遮断部18を含む。遮断部18は、蒸発源12aから放出された蒸着物質の基板100への飛散を遮断するシャッタ18aと、蒸発源12bから放出された蒸着物質の基板100への飛散を遮断するシャッタ18bを含む。なお、
図5(A)及び
図5(B)に示す遮断部18は、所謂回転式シャッタ機構として図示されているが、遮蔽部18の構成はそれに限定されるものではなく、例えばシャッタが所定の方向にスライドする所謂スライド式シャッタ機構であってもよい。
【0030】
シャッタ18aは、図示の方向で見て蒸発源12aの側方に位置し蒸発源12aの放出部1121aから基板100への蒸着物質の飛散を許容する許容位置(
図5(A))と、蒸発源12aの上方を覆い放出部1121aから基板100への蒸着物質の飛散を遮断する遮断位置(
図5(B))との間で変位する。また、シャッタ18bは、図示の方向で蒸発源12bの側方に位置し蒸発源12bの放出部1121bから基板100への蒸着物質の飛散を許容する許容位置(
図5(B))と、蒸発源12bの上方を覆い放出部1121bから基板100への蒸着物質の飛散を遮断する遮断位置(
図5(A))との間で変位する。
【0031】
つまり、遮断部18は、放出部1121aから放出された蒸着物質の基板100への飛散を許容する一方で放出部1121bから放出100された蒸着物質の飛散を遮断する状態をとることができる(
図5(A))。また、遮断部18は、放出部1121bから放出された蒸着物質の基板100への飛散を許容する一方で放出部1121aから放出100された蒸着物質の飛散を遮断する状態をとることができる(
図5(B))。後述する成膜処理では、成膜装置1は、遮断部18が
図5(A)で示す状態をとることによりユニット10aによる成膜を行い、遮断部18が
図5(B)で示す状態を取ることによりユニット10bによる成膜を行う。
【0032】
シャッタ18a及び18bは、例えば、不図示の回動機構により、Y方向を軸方向として回動可能に設けられる。また、遮断部18は、シャッタ18a及び18bをいずれも許容位置に位置させた状態や、シャッタ18a及び18bをいずれも遮断位置に位置させた状態もとってもよい。
【0033】
<蒸発源の成膜範囲>
図6は、蒸発源12の基板100に対する成膜範囲を説明する図である。詳細には、
図6は、蒸発源12の基板100、基板100の成膜面1000の高さにおける、X方向の成膜範囲1200を示している。本実施形態では、蒸発源ユニット10は、蒸発源12の成膜範囲1200を画定する画定部19を含む。本実施形態では、画定部19の形状並びに基板100の成膜面1000及び放出部1211の位置関係により、蒸発源12の成膜範囲1200が決まる。
【0034】
画定部19は、Z方向で蒸発源12と成膜面1000との間に設けられる。画定部19は、XY方向に延び、蒸着物質の通過を規制する2つの板状部材191を含み、これらの間に蒸着物質が通過する通過領域192が形成される。そして、放出部1211の-X側の端部、及び、通過領域192の+X側に設けられる板状部材191の-X側の端部を通過する仮想直線VL1の、成膜面1000の高さにおける位置が、蒸発源12の成膜範囲1200の+X側の端となっている。また、放出部1211の+X側の端部、及び、通過領域192の-X側に設けられる板状部材191の+X側の端部を通過する仮想直線VL2の、成膜面1000の高さにおける位置が、蒸発源12の成膜範囲1200の-X側の端となっている。このようにして蒸発源12の成膜範囲1200が画定される。なお、このように幾何学的に画定される成膜範囲外に飛散する蒸着物質も存在し得るが、ここでは幾何学的に画定された範囲を成膜範囲1200とする。
【0035】
また、本実施形態では、蒸発源12のX方向の成膜範囲1200が蒸発源12の上方の画定部19により画定されるが、他の態様も採用可能である。例えば、蒸発源12の放出部1211をノズル状にして放出部1211から放出される蒸着物質の指向性を高めることで、蒸発源12の成膜範囲1200を画定してもよい。
【0036】
<成膜処理>
図7及び
図8は、成膜装置1の成膜処理における動作説明図である。ここでは、蒸発源ユニット10が、ステージAの基板100Aに対して成膜した後に、ステージBの基板100Bに対して成膜する場合の動作が示されている。また、
図7及び
図8の各状態おいて、ユニット10a及び10bは、対応するシャッタ18a及び18bが許容位置にあり成膜可能な場合は白塗りで示され、対応するシャッタ18a及び18bが遮断位置にあり成膜可能でない場合はハッチングで示されている。また、蒸発源ユニット10の位置を示すx1等の各座標は、各方向における蒸発源ユニット10の中心位置を示す座標であるものとする。以下、ユニット10aによる成膜処理を成膜処理aと表記し、ユニット10bによる成膜処理を成膜処理bと表記することがある。
【0037】
状態ST1は、初期状態として、基板100A及び基板100Bが成膜装置1のチャンバ45内に搬入され、それぞれマスク101A及びマスク101Bとのアライメントが行われた状態を示している。このとき、蒸発源ユニット10は、ステージA側であって、基板100Aとマスク101Aとが重ね合わされた領域である成膜領域よりもX方向で-X側の位置(x1,y1)にある。なお、この状態では基板100Bは未搬入であってもよく、基板100Aに対する成膜処理が行われている間に基板100Bが搬入されて基板100B及びマスク101Bのアライメントが行われてもよい。また、基板100Bは成膜処理済み基板の搬出準備もしくは搬出中でもよい。
【0038】
状態ST2は、蒸発源ユニット10が+X側に移動しながら基板100Aに対してユニット10aによる成膜を行った後の状態を示している。蒸発源ユニット10は、ステージA側において、位置(x1,y1)から、ユニット10aが基板100Aの成膜領域よりも+X側となる位置(x2,y1)に移動する(
図7の矢印(1))。このときのX方向の位置x2は、蒸発源12aの成膜範囲に応じた位置である。詳しくは後述する。
【0039】
その後、蒸発源ユニット10は、-X側に移動しながら基板100Aに対してユニット10aによる成膜を行う(
図7の矢印(2))。これにより、状態ST1に戻る。このように、蒸発源ユニット10は、基板100Aに対してX方向(移動方向)に往復しながらユニット10aによる成膜を行う(成膜処理a)。なお、成膜処理aが実行されている間、ユニット10bの蒸発源12bは、予備加熱状態であってもよい。これにより、成膜処理aの終了後に速やかに成膜処理bを開始することができる。
【0040】
状態ST3は、成膜を行うユニットがユニット10aからユニット10bに切り替えられた状態を示している。具体的には、成膜装置1は、シャッタ18aを許容位置から遮断位置に変位させ、シャッタ18bを遮断位置から許容位置に変位させる(
図7の矢印(3))。
【0041】
状態ST4は、蒸発源ユニット10が+X側に移動しながら基板100Aに対してユニット10bによる成膜を行った後の状態を示している。蒸発源ユニット10は、ステージA側において、位置(x1,y1)から、ユニット10bが基板100Aの成膜領域よりも+X側となる位置(x3,y1)に移動する(
図7の矢印(4))。その後、蒸発源ユニット10は、-X側に移動しながら基板100Aに対してユニット10bによる成膜を行う(
図7の矢印(5))。これにより、状態ST3に戻る。このように、蒸発源ユニット10は、基板100Aに対してX方向(移動方向)に往復しながらユニット10bによる成膜を行う(成膜処理b)。なお、成膜処理bが実行されている間、ユニット10aの蒸発源12aは、予備加熱状態であってもよい。これにより、成膜処理bの終了後に速やかに成膜処理aを開始することができる。
【0042】
状態ST5は、蒸発源ユニット10がステージAからステージBに移動した状態を示している。ここでは、蒸発源ユニット10は、位置(x1,y1)から+Y側の位置(x1,y2)に移動する。また、状態ST5では、ステージ移動に伴い、成膜を行うユニットがユニット10bからユニット10aに切り替えられている。
【0043】
その後の動作はステージAにおける動作と同様のため簡潔に説明すると、まず、蒸発源ユニット10は、基板100Bに対してX方向(移動方向)に往復しながらユニット10aによる成膜を行う(成膜処理a)(
図8の矢印(5)(6))。その後、成膜装置1は、成膜を行うユニットをユニット10aからユニット10bに切り替える(
図8の矢印(8))。そして、蒸発源ユニット10は、基板100Bに対してX方向(移動方向)に往復しながらユニット10bによる成膜を行う(成膜処理b)(
図8の矢印(9)(10))。以上により、ステージA及びBにおける成膜処理が終了する。
【0044】
なお、ステージBで基板100Bに対する成膜処理が行われている間に、成膜済みの基板100Aがチャンバ45から搬出され、次の成膜対象の基板100Aがチャンバ45に搬入されてマスク101Aとアライメントされてもよい。
【0045】
<成膜ユニットの移動範囲>
図9は、成膜処理における蒸発源ユニット10のX方向の移動範囲の説明図である。
【0046】
ユニット10aによる成膜処理aを1往復分行う場合(例えば、
図7の矢印(1)(2))、蒸発源ユニット10は、位置x1から+X側に位置x2まで移動して、そこから折り返して-X側に位置x1まで戻る。よって、このときの蒸発源ユニット10の移動範囲a1は、位置x1と位置x2の間の範囲となる。この移動範囲a1は、詳しくは後述するが、蒸発源12aの成膜範囲1200aに応じて設定される。
【0047】
一方、ユニット10bによる成膜処理bを1往復分行う場合(例えば、
図7の矢印(4)(5))、蒸発源ユニット10は、位置x1から+X側に位置x3まで移動して、そこから折り返して-X側に位置x1まで戻る。よって、このときの蒸発源ユニット10の移動範囲b1は、位置x1と位置x3の間の範囲となる。この移動範囲b1は、詳しくは後述するが、蒸発源12bの成膜範囲1200bに応じて設定される。
【0048】
ここで、移動範囲a1と移動範囲b1とを共通の範囲に設定した場合、蒸発源ユニット10の無駄な移動が発生し得る。例えば移動範囲a1及びb1をいずれも位置x1と位置x3との間の範囲とした場合、成膜処理aにおいて蒸発源ユニット10が位置x2~位置x3の間の移動では、成膜範囲1200aと成膜領域1001が重ならない。よって、この移動は基板100への成膜が行えていない無駄な移動である。これに対し、本実施形態では、移動範囲a1と移動範囲b1とが異なっており、移動範囲a1が蒸発源12aの成膜範囲1200aに応じて設定され、移動範囲b1が蒸発源12bの成膜範囲1200bに応じて設定される。これにより、蒸発源ユニット10の無駄な移動が低減でき、蒸発源12a及び12bを用いた効率的な成膜処理を行うことができる。また、前述の例においては、成膜範囲1200aと成膜領域1001が重ならない、蒸発源ユニット10の位置x2~位置x3の間の移動の間は、蒸着物質が無駄に消費されることとなる。本実施形態でこのような蒸着物質の無駄な消費も抑制でき、蒸着物質の利用効率を向上することができる。
【0049】
また、本実施形態の場合、移動範囲a1が、移動範囲b2よりも+X側(一方の側)に狭くなっている。したがって、成膜処理aにおける蒸発源ユニット10の移動量が低減されるので、成膜処理aの時間を短縮することができる。
【0050】
なお、成膜処理aにおける蒸発源ユニット10の移動量が低減された分、成膜処理a又は成膜処理bにおける蒸発源ユニット10の移動速度を下げてもよい。蒸発源ユニット10の移動速度が低いほど、基板100に形成される薄膜の膜厚が厚くなる。そのため、移動量が低減された分移動速度を下げることで、処理時間を増やさずに基板100に形成される薄膜の膜厚を厚くすることができる。
【0051】
また、本実施形態の場合、移動範囲a1の+X側の端は、蒸発源12aの成膜範囲1200a(
図6参照)に応じて設定される。具体的には、成膜範囲1200aの-X側(他方の側)の端が、基板100の成膜領域1001の+X側(一方の側)の端以上に+X側に位置するように設定されている。これにより、蒸発源ユニット10の移動量を低減しつつも、基板に対してX方向に均質に成膜を行うことができる。詳細には、蒸発源ユニット10が移動範囲a1の端に位置している場合に成膜範囲1200aと成膜領域1001がX方向に一部で重なっていると、成膜領域1001の端部の領域に対する成膜時間が相対的に短くなってしまう場合がある。結果として、端部の領域の膜厚が他の領域と比べて薄くなってしまう場合がある。これに対し、本実施形態では、上記構成により成膜領域1001の端部と他の領域との間で膜厚に差が生じることを抑制することができる。
【0052】
なお、成膜範囲1200aの-X側の端が、基板100の成膜領域1001の+X側の端に対してどの程度+X側に位置するかは適宜設定可能である。例えば、成膜範囲1200aの-X側の端が、基板100の成膜領域1001の+X側の端よりも0mm以上、10mm以上、50mm以上、100mm以上、200mm以上又は300mm以上、+X側に位置してもよい。なお、蒸発源12bの移動範囲b1の+X側の端についても、同様の考え方に基づき、X方向における膜厚の差が生じることを抑制するように設定され得る。
【0053】
また、本実施形態の場合、移動範囲a1の+X側の端は、蒸発源12bの成膜範囲1200bの-X側の端が基板100の成膜領域1001の+X側の端よりも-X側に位置するように設定される。すなわち、シャッタ18bが許容位置にあると仮定した場合に、成膜範囲1200bと基板100の成膜領域1001がX方向に一部で重なる位置に移動範囲a1が設定される。前述したように、膜厚の均質性を考慮すると、成膜範囲b1は、-X側の端が、成膜領域1001の+X側の端よりも+X側に位置するように設定される。よって、移動範囲a1をこのように設定することで、移動範囲a1を移動範囲b1よりも+X側に狭く設定することができる。したがって、成膜処理aにおける蒸発源ユニット10の移動量を低減することができる。
【0054】
なお、本実施形態では、移動範囲b1の-X側の端は、移動範囲a1と同じく位置x1に設定されている。ここで、成膜範囲1200bの+X側の端が基板100の成膜領域1001の-X側の端以上に-X側となる位置x4等に移動範囲b1の-X側の端が設定されれば、蒸発源ユニット10の移動量を低減しつつ基板100への成膜を均質に行うことができる。一方で、複数の基板100に対して順次成膜を行う場合には、ある基板100に対して成膜処理bを行った後に、次の基板100に対して成膜処理aを行うことがある。そこで、本実施形態では、成膜処理bの終了位置に対応する成膜範囲b1の-X側の端を、成膜処理aの開始位置に対応する成膜範囲a1の-X側の端と同じ位置x1としている。これにより、成膜処理bの後に速やかに成膜処理aを行うことができる。
【0055】
図10は、成膜処理における蒸発源ユニット10の移動の軌跡を例示する図である。
図10では、成膜処理a及び成膜処理bにおいて蒸発源ユニット10がX方向にそれぞれ2往復する場合(パターンPT1)と、それぞれ1.5往復する場合(パターンPT2)が示されている。また、
図10では、成膜処理aを実行している間の蒸発源ユニット10の移動軌跡を実線で、成膜処理bを実行している間の蒸発源ユニットの移動軌跡を破線で示している。
【0056】
パターンPT1のように、蒸発源ユニット10がX方向にそれぞれ2往復する場合は、前述したそれぞれ1往復する場合と同様に、成膜処理aにおける移動範囲a1と成膜処理bにおける移動範囲b1が異なっている。特に成膜処理aにおける移動範囲a1が狭くなっているため、移動範囲a1及びb1が同じ範囲(位置x1~位置x3)の場合と比べて蒸発源ユニット10の移動量を低減できており、成膜処理の効率が向上しているといえる。
【0057】
一方、成膜処理bにおいても、開始から終了までの移動範囲b1は移動範囲a1よりも広くなっているが、1往復目の復路から2往復目の往路への折返し位置は、位置x4となっているため、一部の区間における移動範囲が狭くなっている。詳細には、成膜処理bにおける最初の折り返しから最後の折り返しまでの区間sb1の蒸発源ユニット10の移動範囲b11が、成膜処理bにおける開始から終了までの移動範囲b1よりも狭くなっている。これは、折り返し後もユニット10bによる成膜が継続する場合は位置x1まで移動する必要がないためであり(
図9参照)、このような場合は、位置x1よりも手前で折り返すことができ、蒸発源ユニット10の移動量を低減することができる。
【0058】
また、各成膜処理が3往復以上の場合や、一方の成膜処理が1往復、他方が2往復以上の場合等でも同様に蒸発源ユニット10の移動量を低減することができる。
【0059】
次に、パターンPT2について説明する。各成膜処理が1.5往復ずつの場合、開始位置と終了位置が基板100を挟んで反対側となる。よって、成膜処理aは、成膜処理bにおける蒸発源12bの成膜範囲1200bを考慮して、位置x3で終了する。したがって、成膜処理aの開始から終了までの移動範囲a2は、前述した移動範囲a1と比べて広くなる。一方で、成膜処理aにおける最初の折り返しから最後の折り返しまでの区間sa2の蒸発源ユニット10の移動範囲a21は、前述した移動範囲a1と同様であるため、この区間については蒸発源ユニット10の移動量を低減することができる。
【0060】
成膜処理bにおいては、開始から終了までの移動範囲b2は移動範囲b1と同じであるが、成膜処理bにおける最初の折り返しから最後の折り返しまでの区間sb2の蒸発源ユニット10の移動範囲b21が移動範囲b2よりも狭くなっている。よって、この区間については蒸発源ユニット10の移動量を低減することができる。また、本例では、成膜処理a及び成膜処理bにおいて、開始から最初の折り返しまでの区間についても移動範囲a2及びb2よりもそれぞれ狭くなっている。すなわち、本例のように、各成膜処理がn.5往復ずつの場合(nは自然数)、この区間においても蒸発源ユニット10の移動量を低減することができる。
【0061】
以上説明したように、本実施形態によれば、複数の蒸発源を用いた効率的な成膜処理を行うことができる。
【0062】
<他の実施形態>
次に、他の実施形態に係る成膜装置9について説明する。成膜装置9は、第1実施形態に係る成膜装置1と蒸発源ユニットの構成が異なる。以下、第1実施形態と同様の構成については同様の符号を付して説明を省略することがある。
【0063】
図11(A)及び
図11(B)は、一実施形態に係る、蒸発源ユニット90及び遮断部98の構成及び動作の説明図である。前述した実施形態では、蒸発源ユニット10は、Y方向に並ぶ3つの蒸発源12aと、3つの蒸発源12aからX方向に離間してY方向に並ぶ3つの蒸発源12bを有していた。本実施形態では、蒸発源ユニット90は、Y方向に並ぶ複数の蒸発源92cと、複数の蒸発源92cからX方向に離間してY方向に並ぶ複数の蒸発源92dと、複数の蒸発源92c及び複数の蒸発源92dからX方向に離間してY方向に並ぶ複数の蒸発源92eを有する。すなわち、Y方向に並ぶ複数の蒸着源92が3列分設けられている。また、本実施形態では、複数の蒸発源92cで1つのユニット90aを構成し、複数の蒸発源92d及び複数の蒸発源92eでもう1つのユニット90bを構成する。ユニット90bは、蒸発源92d及び蒸発源92eが異なる蒸着物質を蒸発することで共蒸着を行うことができる。
【0064】
また、本実施形態では遮断部98は、蒸発源92cから放出された蒸着物質の基板100への飛散を遮断するシャッタ98aと、蒸発源92d及び92eから放出された蒸着物質の基板100への飛散を遮断するシャッタ98bを含む。
【0065】
シャッタ98aは、図示の方向で蒸発源92cの側方に位置し蒸発源92cから基板100への蒸着物質の飛散を許容する許容位置(
図11(A))と、蒸発源92cの上方を覆い蒸発源92cから基板100への蒸着物質の飛散を遮断する遮断位置(
図11(B))との間で変位する。また、シャッタ98bは、図示の方向で蒸発源92d及び92eの側方に位置し蒸発源92d及び92eから基板100への蒸着物質の飛散を許容する許容位置(
図11(B))と、蒸発源92d及び92eの上方を覆い蒸発源92d及び92eから基板100への蒸着物質の飛散を遮断する遮断位置(
図11(A))との間で変位する。よって、シャッタ98aを許容位置、シャッタ98bを遮断位置とすることでユニット90aによる成膜が可能となり、シャッタ98aを遮断位置、シャッタ98bを許容位置とすることでユニット90bによる成膜が可能となる。
【0066】
図12は、成膜処理における蒸発源ユニット90のX方向の移動範囲の説明図である。
【0067】
ユニット90aによる成膜処理における移動範囲a9は、前述した実施形態のユニット10aによる成膜処理における成膜範囲a1と同様の考え方で設定され得る。すなわち、移動範囲a9の+X側の端、換言すれば折り返し位置は、蒸発源92cの成膜範囲9200cに応じて設定される。具体的には、成膜範囲9200cの-X側の端が、基板100の成膜領域1001の+X側の端以上に+X側に位置するように設定されている。
【0068】
また、ユニット90bによる成膜処理における移動範囲b9は、その+X側の端が、蒸発源92eの成膜範囲9200eに応じて設定される。具体的には、成膜範囲9200eの-X側の端が、基板100の成膜領域1001の+X側の端以上に+X側に位置するように設定されている。ユニット90bでは、X方向に均質な成膜を行うためには、蒸発源92d及び92eの成膜範囲9200d及び9200eの両方が成膜領域1001の+X側の端以上に+X側に位置する必要がある。したがって、移動方向b9の+X側の端は、蒸発源92d及び92eのうち-X側に設けられている蒸発源92eの成膜範囲9200eに応じて設定される。なお、
図12では、移動範囲b9の-X側の端は、成膜処理bから成膜処理aへの移行のため移動範囲a9に合わせて設定されている。しかし、例えばユニット90bによる成膜処理が1.5往復以上行われ、成膜処理中に基板100の-X側で折り返しが行われる場合には、その折り返し位置は、蒸発源92dの成膜範囲9200に応じて設定されてもよい。つまり、ユニット90bでは、移動範囲9bの両端は、移動範囲b9の内側に対応する蒸発源92の成膜範囲9200に応じて設定されてもよい。
【0069】
以上説明したように、本実施形態によれば、Y方向に並ぶ蒸着源92が3列(以上)設けられる場合でも、各蒸発源92の成膜範囲9200に応じた蒸発源ユニット90の移動範囲が設定される。これにより、効率的な成膜処理を行うことができる。
【0070】
<電子デバイスの製造方法>
次に、電子デバイスの製造方法の一例を説明する。以下、電子デバイスの例として有機EL表示装置の構成及び製造方法を例示する。この例の場合、
図1に例示した成膜装置1が製造ライン上に複数設けられる。
【0071】
まず、製造する有機EL表示装置について説明する。
図13(A)は有機EL表示装置50の全体図、
図13(B)は1画素の断面構造を示す図である。
【0072】
図13(A)に示すように、有機EL表示装置50の表示領域51には、発光素子を複数備える画素52がマトリクス状に複数配置されている。詳細は後で説明するが、発光素子のそれぞれは、一対の電極に挟まれた有機層を備えた構造を有している。
【0073】
なお、ここでいう画素とは、表示領域51において所望の色の表示を可能とする最小単位を指している。カラー有機EL表示装置の場合、互いに異なる発光を示す第1発光素子52R、第2発光素子52G、第3発光素子52Bの複数の副画素の組み合わせにより画素52が構成されている。画素52は、赤色(R)発光素子と緑色(G)発光素子と青色(B)発光素子の3種類の副画素の組み合わせで構成されることが多いが、これに限定はされない。画素52は少なくとも1種類の副画素を含めばよく、2種類以上の副画素を含むことが好ましく、3種類以上の副画素を含むことがより好ましい。画素52を構成する副画素としては、例えば、赤色(R)発光素子と緑色(G)発光素子と青色(B)発光素子と黄色(Y)発光素子の4種類の副画素の組み合わせでもよい。
【0074】
図13(B)は、
図13(A)のA-B線における部分断面模式図である。画素52は、基板53上に、第1の電極(陽極)54と、正孔輸送層55と、赤色層56R・緑色層56G・青色層56Bのいずれかと、電子輸送層57と、第2の電極(陰極)58と、を備える有機EL素子で構成される複数の副画素を有している。これらのうち、正孔輸送層55、赤色層56R、緑色層56G、青色層56B、電子輸送層57が有機層に当たる。赤色層56R、緑色層56G、青色層56Bは、それぞれ赤色、緑色、青色を発する発光素子(有機EL素子と記述する場合もある)に対応するパターンに形成されている。
【0075】
また、第1の電極54は、発光素子ごとに分離して形成されている。正孔輸送層55と電子輸送層57と第2の電極58は、複数の発光素子52R、52G、52Bにわたって共通で形成されていてもよいし、発光素子ごとに形成されていてもよい。すなわち、
図13(B)に示すように正孔輸送層55が複数の副画素領域にわたって共通の層として形成された上に赤色層56R、緑色層56G、青色層56Bが副画素領域ごとに分離して形成され、さらにその上に電子輸送層57と第2の電極58が複数の副画素領域にわたって共通の層として形成されていてもよい。
【0076】
なお、近接した第1の電極54の間でのショートを防ぐために、第1の電極54間に絶縁層59が設けられている。さらに、有機EL層は水分や酸素によって劣化するため、水分や酸素から有機EL素子を保護するための保護層60が設けられている。
【0077】
図13(B)では正孔輸送層55や電子輸送層57が一つの層で示されているが、有機EL表示素子の構造によって、正孔ブロック層や電子ブロック層を有する複数の層で形成されてもよい。また、第1の電極54と正孔輸送層55との間には第1の電極54から正孔輸送層55への正孔の注入が円滑に行われるようにすることのできるエネルギーバンド構造を有する正孔注入層を形成してもよい。同様に、第2の電極58と電子輸送層57の間にも電子注入層を形成してもよい。
【0078】
赤色層56R、緑色層56G、青色層56Bのそれぞれは、単一の発光層で形成されていてもよいし、複数の層を積層することで形成されていてもよい。例えば、赤色層56Rを2層で構成し、上側の層を赤色の発光層で形成し、下側の層を正孔輸送層又は電子ブロック層で形成してもよい。あるいは、下側の層を赤色の発光層で形成し、上側の層を電子輸送層又は正孔ブロック層で形成してもよい。このように発光層の下側又は上側に層を設けることで、発光層における発光位置を調整し、光路長を調整することによって、発光素子の色純度を向上させる効果がある。
【0079】
なお、ここでは赤色層56Rの例を示したが、緑色層56Gや青色層56Bでも同様の構造を採用してもよい。また、積層数は2層以上としてもよい。さらに、発光層と電子ブロック層のように異なる材料の層が積層されてもよいし、例えば発光層を2層以上積層するなど、同じ材料の層が積層されてもよい。
【0080】
次に、有機EL表示装置の製造方法の例について具体的に説明する。ここでは、赤色層56Rが下側層56R1と上側層56R2の2層からなり、緑色層56Gと青色層56Bは単一の発光層からなる場合を想定する。
【0081】
まず、有機EL表示装置を駆動するための回路(不図示)及び第1の電極54が形成された基板53を準備する。なお、基板53の材質は特に限定はされず、ガラス、プラスチック、金属などで構成することができる。本実施形態においては、基板53として、ガラス基板上にポリイミドのフィルムが積層された基板を用いる。
【0082】
第1の電極54が形成された基板53の上にアクリル又はポリイミド等の樹脂層をバーコートやスピンコートでコートし、樹脂層をリソグラフィ法により、第1の電極54が形成された部分に開口が形成されるようにパターニングし絶縁層59を形成する。この開口部が、発光素子が実際に発光する発光領域に相当する。なお、本実施形態では、絶縁層59の形成までは大型基板に対して処理が行われ、絶縁層59の形成後に、基板53を分割する分割工程が実行される。
【0083】
絶縁層59がパターニングされた基板53を第1の成膜装置1に搬入し、正孔輸送層55を、表示領域の第1の電極54の上に共通する層として成膜する。正孔輸送層55は、最終的に1つ1つの有機EL表示装置のパネル部分となる表示領域51ごとに開口が形成されたマスクを用いて成膜される。
【0084】
次に、正孔輸送層55までが形成された基板53を第2の成膜装置1に搬入する。基板53とマスクとのアライメントを行い、基板をマスクの上に載置し、正孔輸送層55の上の、基板53の赤色を発する素子を配置する部分(赤色の副画素を形成する領域)に、赤色層56Rを成膜する。ここで、第2の成膜室で用いるマスクは、有機EL表示装置の副画素となる基板53上における複数の領域のうち、赤色の副画素となる複数の領域にのみ開口が形成された高精細マスクである。これにより、赤色発光層を含む赤色層56Rは、基板53上の複数の副画素となる領域のうちの赤色の副画素となる領域のみに成膜される。換言すれば、赤色層56Rは、基板53上の複数の副画素となる領域のうちの青色の副画素となる領域や緑色の副画素となる領域には成膜されずに、赤色の副画素となる領域に選択的に成膜される。
【0085】
赤色層56Rの成膜と同様に、第3の成膜装置1において緑色層56Gを成膜し、さらに第4の成膜装置1において青色層56Bを成膜する。赤色層56R、緑色層56G、青色層56Bの成膜が完了した後、第5の成膜装置1において表示領域51の全体に電子輸送層57を成膜する。電子輸送層57は、3色の層56R、56G、56Bに共通の層として形成される。
【0086】
電子輸送層57までが形成された基板を第6の成膜装置1に移動し、第2の電極58を成膜する。本実施形態では、第1の成膜装置1~第6の成膜装置1では真空蒸着によって各層の成膜を行う。しかし、本発明はこれに限定はされず、例えば第6の成膜装置1における第2の電極58の成膜はスパッタによって成膜するようにしてもよい。その後、第2の電極58までが形成された基板を封止装置に移動してプラズマCVDによって保護層60を成膜して(封止工程)、有機EL表示装置50が完成する。なお、ここでは保護層60をCVD法によって形成するものとしたが、これに限定はされず、ALD法やインクジェット法によって形成してもよい。
【符号の説明】
【0087】
1:成膜装置、10:蒸発源ユニット、12:蒸発源、100:基板、101:マスク