(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023035964
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】合金の処理方法
(51)【国際特許分類】
C22B 23/00 20060101AFI20230306BHJP
C22B 1/00 20060101ALI20230306BHJP
C22B 3/06 20060101ALI20230306BHJP
C22B 3/44 20060101ALI20230306BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20230306BHJP
H01M 10/54 20060101ALI20230306BHJP
【FI】
C22B23/00 102
C22B1/00 601
C22B3/06
C22B3/44 101A
C22B7/00 C
C22B3/44
H01M10/54
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022135139
(22)【出願日】2022-08-26
(31)【優先権主張番号】P 2021140928
(32)【優先日】2021-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021143769
(32)【優先日】2021-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021147811
(32)【優先日】2021-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】庄司 浩史
(72)【発明者】
【氏名】竹之内 宏
(72)【発明者】
【氏名】松岡 いつみ
(72)【発明者】
【氏名】三條 翔太
(72)【発明者】
【氏名】松木 匠
(72)【発明者】
【氏名】平郡 伸一
(72)【発明者】
【氏名】浅野 聡
【テーマコード(参考)】
4K001
5H031
【Fターム(参考)】
4K001AA07
4K001AA09
4K001AA19
4K001BA22
4K001CA07
4K001DB02
4K001DB03
4K001DB04
4K001DB05
4K001DB06
4K001DB17
4K001DB23
4K001DB24
4K001HA02
4K001HA12
4K001JA01
4K001JA03
5H031EE01
5H031EE04
5H031RR02
(57)【要約】
【課題】廃リチウムイオン電池等のニッケル及び/又はコバルトと銅とを含む合金から、効率的に、ニッケル及び/又はコバルト含む溶液を得る方法を提供する。
【解決手段】本発明は、ニッケル及び/又はコバルトと銅とを含む合金から、ニッケル及び/又はコバルトを含む溶液を得る合金の処理方法であって、合金を含むスラリーに対して、硫化剤が共存する状態で、酸溶液による浸出処理を施し、浸出液と浸出残渣とを得る浸出工程を含む。浸出工程では、合金を含むスラリーの初期濃度を100g/L以上250g/L以下に調整して浸出処理を施す。また、浸出工程では、好ましくは、酸化還元電位(参照電極を銀/塩化銀電極とする)を200mV以下に制御しながら浸出処理を施す。また、浸出工程では、好ましくは、硫化剤を、合金に含まれる銅の量に対して1.05~1.25当量(S-mol/Cu-mol)の範囲の量で共存させて浸出処理を施す。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル及び/又はコバルトと銅とを含む合金から、ニッケル及び/又はコバルトを含む溶液を得る合金の処理方法であって、
前記合金を含むスラリーに対して、硫化剤が共存する状態で、酸溶液による浸出処理を施し、浸出液と浸出残渣とを得る浸出工程を含み、
前記浸出工程では、前記合金を含むスラリーの初期濃度を100g/L以上250g/L以下に調整して浸出処理を施す、
合金の処理方法。
【請求項2】
前記浸出工程では、酸化還元電位(参照電極を銀/塩化銀電極とする)を200mV以下に制御しながら浸出処理を施す、
請求項1に記載の合金の処理方法。
【請求項3】
前記浸出工程では、前記硫化剤を、前記合金に含まれる銅の量に対して1.05~1.25当量(S-mol/Cu-mol)の範囲の量で共存させて浸出処理を施す、
請求項1又は2に記載の合金の処理方法。
【請求項4】
前記浸出工程を経て得られた前記浸出液に対して還元剤を添加して還元処理を施し、還元後液と還元残渣とを得る還元工程を、さらに含む、
請求項1に記載の合金の処理方法。
【請求項5】
前記還元工程を経て得られた前記還元液に対して中和剤と酸化剤とを添加して酸化中和処理を施し、酸化中和後液と酸化中和残渣とを得る酸化中和工程を、さらに含む、
請求項1に記載の合金の処理方法。
【請求項6】
前記合金は、リチウムイオン電池の廃電池を熔解して得られた合金を含む、
請求項1に記載の合金の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル及び/又はコバルトと銅とを含む合金からニッケル及び/又はコバルトを含む溶液を得る合金の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車やハイブリット自動車等の車両、及び携帯電話やスマートフォン、パソコン等の電子機器には、軽量で大出力であるという特徴を有するリチウムイオン電池(以下「LIB」とも称する)が搭載されている。
【0003】
LIBは、アルミニウムや鉄等の金属製あるいは塩化ビニル等のプラスチック製の外装缶の内部に、銅箔を負極集電体に用いて表面に黒鉛等の負極活物質を固着させた負極材と、アルミニウム箔からなる正極集電体にニッケル酸リチウムやコバルト酸リチウム等の正極活物質を固着させた正極材を、ポリプロピレンの多孔質樹脂フィルム等からなるセパレータと共に装入し、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)等の電解質を含んだ有機溶媒を電解液として含浸させた構造を有する。
【0004】
LIBは、上記のような車両や電子機器等の中に組み込まれて使用されると、やがて自動車や電子機器等の劣化、あるいはLIB自身の寿命等によって使用できなくなり、廃リチウムイオン電池(廃LIB)となる。なお、「廃LIB」には、製造工程内で不良品として発生したものも含まれる。
【0005】
これらの廃LIBには、ニッケルやコバルト、銅などの有価成分が含まれており、資源の有効活用のためにも、それら有価成分を回収して再利用することが望まれる。
【0006】
一般に、金属で作製された装置や部材、材料から有価成分を効率よく回収しようとする場合、炉等に投入して高温で熔解し、有価物を含むメタルとそれ以外のスラグとに分離する乾式製錬の原理を利用した乾式処理が従来から広く行われている。例えば、特許文献1には、乾式処理を用いて有価金属の回収を行う方法が開示されている。特許文献1に開示の方法を廃LIBからの有価金属の回収に適用することで、ニッケル、コバルトを含む銅合金を得ることができる。
【0007】
このような乾式処理(以下、「乾式法」とも称する)は、炉を用いて高温に加熱するためにエネルギーを要するという短所があるが、様々な不純物を一括して分離できる利点がある。しかも、乾式処理で得られるスラグは、化学的に安定な性状であり、環境に影響する懸念が少なく、処分しやすい利点もある。
【0008】
しかしながら、乾式処理で廃LIBを処理した場合、一部の有価成分、特にコバルトのほとんどがスラグに分配され、コバルトの回収ロスとなることが避けられないという問題があった。また、乾式処理で得られたメタルは、有価成分が共存した合金であり、再利用するためには、この合金から成分ごとに分離し、不純物を除去する精製が必要となる。
【0009】
乾式処理で一般的に用いられてきた元素分離の方法として、高温の熔解状態から徐冷することで、例えば、銅と鉛とを分離したり、鉛と亜鉛とを分離するといった方法が知られている。ところが、廃LIBのように銅とニッケルが主な成分である場合、銅とニッケルは全組成範囲で均一熔融する性質を持つため、徐冷しても銅とニッケルが層状に混合固化するのみで分離はできない。
【0010】
さらに、一酸化炭素(CO)ガスを用いてニッケルを不均化反応させ銅やコバルトから揮発させて分離する精製方法もあるが、有毒性のCOガスを用いるため、安全性の確保が難しいといった問題もある。
【0011】
また、工業的に行われてきた銅とニッケルを分離する方法として、混合マット(硫化物)を粗分離する方法がある。この方法では、製錬工程で銅とニッケルを含むマットを生成させ、これを上述の場合と同様に徐冷することで、銅を多く含む硫化物とニッケルを多く含む硫化物とに分離するものである。ところが、この分離方法でも、銅とニッケルの分離は粗分離程度に留まり、純度の高いニッケルや銅を得るためには、別途、電解精製等の処理が必要となる。
【0012】
その他にも、塩化物を経て蒸気圧差を利用する方法も検討されてきた。しかしながら、有毒な塩素を大量に取り扱うプロセスとなるため、装置の腐食対策や安全対策等を大掛かりに要し、工業的に適した方法とは言い難い。
【0013】
このように、乾式処理での各元素分離精製は、粗分離レベルに留まるか、あるいは高コストになるという欠点を有している。
【0014】
一方で、酸処理や中和処理、溶媒抽出処理等を用いる湿式製錬の方法を用いた湿式処理(以下、「湿式法」とも称する)は、消費するエネルギーが少なく、混在する有価成分を個々に分離して高純度な品位で回収できる利点がある。
【0015】
しかしながら、湿式処理を用いて廃LIBを処理する場合、廃LIBに含有される電解液成分の六フッ化リン酸アニオン等は、高温、高濃度の硫酸でも完全に分解させることができない難処理物であり、有価成分を浸出した酸溶液に混入することになる。六フッ化リン酸アニオンは、水溶性の炭酸エステルであることから、有価物を回収した後の水溶液からリンやフッ素を回収することも困難となり、公共海域等への放出を抑制するために種々の対策を講じることが必要になる等、環境面の制約が大きい。
【0016】
さらに、酸だけで廃LIBから有価成分を効率的に浸出して精製に供することができる溶液を得ることは容易でない。特に、廃LIB本体は、酸等では浸出され難く、完全に有価成分を浸出させることは容易でない。また、酸化力の強い酸を用いる等して強引に浸出すると、有価成分と共に工業的には回収対象でないアルミニウムや鉄、マンガン等の不純物成分までもが浸出されてしまい、不純物を中和等で処理するための中和剤のコストが増加し、発生する排水量や澱物量が増加する問題が生じる。またさらに、廃LIBには電荷が残留していることがあり、そのまま処理しようとすると、発熱や爆発等を引き起こす恐れがあるため、残留電荷を放電するための処理等の手間がかかる。
【0017】
このように湿式処理だけを用いて廃LIBを処理することも、必ずしも有利な方法とは言えなかった。
【0018】
そこで、上述した乾式処理や湿式処理の単独処理では困難な廃LIBを、乾式処理と湿式処理を組み合わせた方法、つまり廃LIBを焙焼する等の乾式処理によって不純物をできるだけ除去して均一な廃LIB処理物とし、得られた処理物を湿式処理によって有価成分とそれ以外の成分とに分離しようとする試みが行われてきた。
【0019】
このような乾式処理と湿式処理を組み合わせた方法では、電解液のフッ素やリンは乾式処理で揮発して除去され、廃LIBの構造部品であるプラスチックやセパレータ等の有機物による部材も熱で分解される。また、乾式処理を経て廃LIB処理物は、均一な性状で得られるため、湿式処理の際にも均一な原料として取り扱いしやすい。
【0020】
しかしながら、単なる乾式処理と湿式処理との組み合わせだけでは、廃LIBに含まれるコバルトがスラグに分配されるという回収ロスの問題は依然として残る。
【0021】
例えば、乾式処理での処理条件を調整することで、コバルトをスラグでなくメタルに効率的に分配させ、スラグへの分配を減じるように還元熔融する方法も考えられる。ところが、そのような方法で得られたメタルは、銅をベースとしてニッケル及びコバルトを含有する難溶性の耐蝕合金となってしまう。この耐蝕合金から、湿式処理によって有価成分を分離して回収しようとしても、酸溶解が難しく効果的に回収できなくなる。
【0022】
耐蝕合金を浸出するために、例えば塩素ガスを用いた場合、得られた溶解液(浸出液)には、高濃度の銅と比較的低濃度のニッケルやコバルトが含有するようになる。その中で、ニッケルとコバルトは溶媒抽出等の公知の方法を用いて容易に分離できるものの、特に銅をニッケルやコバルトと容易にかつ低コストに分離することは困難となる。
【0023】
廃LIBからの有価金属の回収は、都市鉱山の有効活用として注目されており、近年では活発な開発が行われてきている。ところが、上述したように、既存の湿式処理方法では、廃LIB等に由来する合金から得られるニッケル及び/又はコバルトを含む溶液におけるニッケル及びコバルトの濃度は低く、得られた溶液の濃縮や精製にコストが掛かるという問題を有している。
【0024】
なお、上述した問題は、廃LIB以外の廃電池からニッケル及び/又はコバルトと銅とを分離する場合においても同様に存在し、さらに、廃電池以外に由来する合金からニッケル及び/又はコバルトと銅とを分離する場合においても、同様に存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0025】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、廃リチウムイオン電池等のニッケル及び/又はコバルトと銅とを含む合金から、効率的に、ニッケル及び/又はコバルト含む溶液を得る方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明者らによる鋭意検討の結果、ニッケル及び/又はコバルトと銅とを含む合金を含むスラリーの初期濃度を特定の範囲に調整して浸出処理を行うことで、ニッケル及び/又はコバルトを高い濃度で含む溶液を得ることができることを見出した。また、好ましくは、酸化還元電位(参照電極:銀/塩化銀電極)を特定の範囲に制御しながら浸出処理を施し、また好ましくは、硫化剤を、合金に含まれる銅の量に対して特定の範囲の量で共存させて浸出処理を施すことで、より効率的にかつ効果的にニッケル及び/又はコバルトを浸出させることができることを見出した。具体的に、本発明は以下のものを提供する。
【0028】
(1)本発明の第1の発明は、ニッケル及び/又はコバルトと銅とを含む合金から、ニッケル及び/又はコバルトを含む溶液を得る合金の処理方法であって、前記合金を含むスラリーに対して、硫化剤が共存する状態で酸溶液による浸出処理を施し、浸出液と浸出残渣とを得る浸出工程を含み、前記浸出工程では、前記合金を含むスラリーの初期濃度を100g/L以上250g/L以下に調整して浸出処理を施す、合金の処理方法である。
【0029】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、前記浸出工程では、酸化還元電位(参照電極を銀/塩化銀電極とする)を200mV以下に制御しながら浸出処理を施す、合金の処理方法である。
【0030】
(3)本発明の第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記浸出工程では、前記硫化剤を、前記合金に含まれる銅の量に対して1.05~1.25当量(S-mol/Cu-mol)の範囲の量で共存させて浸出処理を施す、合金の処理方法である。
【0031】
(4)本発明の第4の発明は、第1乃至第3のいずれかの発明において、前記浸出工程を経て得られた前記浸出液に対して還元剤を添加して還元処理を施し、還元後液と還元残渣とを得る還元工程を、さらに含む、合金の処理方法である。
【0032】
(5)本発明の第5の発明は、第1乃至第3のいずれかの発明において、前記還元工程を経て得られた前記還元液に対して中和剤と酸化剤とを添加して酸化中和処理を施し、酸化中和後液と酸化中和残渣とを得る酸化中和工程を、さらに含む、合金の処理方法である。
【0033】
(6)本発明の第6の発明は、第1乃至第5のいずれかの発明において、前記合金は、リチウムイオン電池の廃電池を熔解して得られた合金を含む、合金の処理方法である。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、廃リチウムイオン電池等のニッケル及び/又はコバルトと銅とを含む合金から、効率的にかつ選択的にニッケル及び/又はコバルトを浸出することができ、ニッケル及び/又はコバルトを高い濃度で含む溶液を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】合金の処理方法の流れの一例を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、本明細書において、「X~Y」(X、Yは任意の数値)との表記は、「X以上Y以下」の意味である。
【0037】
本実施の形態に係る合金の処理方法は、ニッケル及び/又はコバルトと、銅と、を含む合金から、ニッケル及び/又はコバルトを含む溶液を得る方法である。
【0038】
処理対象である、ニッケル及び/又はコバルトと、銅と、を含む合金としては、例えば、自動車や電子機器等の劣化による廃棄物、リチウムイオン電池の寿命に伴い発生したリチウムイオン電池のスクラップ、又は電池製造工程内の不良品等の廃電池等を用いることができる。また、そのような廃電池等を乾式処理に付して加熱熔融(熔解)することによって還元して得られる合金を用いることができる。
【0039】
以下では、リチウムイオン電池の廃電池(以下、「廃リチウムイオン電池」ともいう)を熔解して得られる合金(ニッケル及び/又はコバルトと、銅と、を含む合金)を処理対象とする場合を例として合金の処理方法をより詳細に説明する。
【0040】
図1は、本実施の形態に係る合金の処理方法の流れの一例を示す工程図である。この方法は、ニッケル及び/又はコバルトと銅とを含む合金に対して、硫化剤が共存する状態で酸溶液による浸出処理を施し、浸出液と浸出残渣とを得る浸出工程S1と、得られた浸出液に対して還元剤を添加して還元処理を施し、還元後液と還元残渣とを得る還元工程S2と、得られた還元液に対して中和剤と酸化剤とを添加して酸化中和処理を施し、酸化中和後液と酸化中和残渣とを得る酸化中和工程S3と、を有する。
【0041】
特に、本実施の形態に係る方法では、浸出工程S1において、合金を含むスラリーの初期濃度を特定の範囲、具体的には100g/L以上250g/L以下の範囲に調整して浸出処理を施すことを特徴としている。これにより、効率的にニッケル及び/又はコバルトを浸出させることができ、そのニッケル及び/コバルトを高い濃度で含む溶液を得ることができる。
【0042】
また、好ましくは、浸出工程S1において、酸化還元電位(ORP)を、銀/塩化銀電極を参照電極とする値で200mV以下に制御しながら浸出処理を施す。これにより、合金表面における酸化被膜(不働態化膜)の形成を抑制して、ニッケル及び/又はコバルトをより選択的に浸出させることができる。
【0043】
また、好ましくは、浸出工程S1において、硫化剤の共存量を特定の範囲、すなわち、合金に含まれる銅の量に対して1.05~1.25当量(S-mol/Cu-mol)の範囲の量を添加し共存させて浸出処理を施す。これにより、より効率的に、短時間の操作で簡易に、ニッケル及び/又はコバルトを浸出させることができ、そのニッケル及び/コバルトを高い濃度で含む溶液を得ることができる。
【0044】
(1)浸出工程
[浸出処理について]
浸出工程S1では、ニッケル及び/又はコバルトと銅とを含む合金(以下、単に「合金」ともいう)に対して酸による浸出処理を施す。このとき、合金を酸に接触させる前、あるいは合金に酸を接触させるのと同時に、硫化剤を添加して、その硫化剤が共存する条件下で浸出処理を施す。このような浸出処理により、ニッケル及び/又はコバルトを溶解した浸出液と、主として硫化銅を含む浸出残渣とを得る。
【0045】
浸出工程S1における浸出処理で生じる反応を下記反応式[1]~[5]に示す。下記式では、硫化剤として固体硫黄(S)を用い、酸として硫酸を用いた場合を示す。
・Cu+S → CuS ・・・[1]
・Ni+H2SO4+1/2O2 → NiSO4+H2O ・・・[2]
・Co+H2SO4+1/2O2 → CoSO4+H2O ・・・[3]
・H2S+1/2O2 → S+H2O ・・・[4]
・CuS+2O2 → CuSO4 ・・・[5]
【0046】
酸と硫化剤が共存した状態で合金に対して浸出処理を施すことで、その合金から浸出された銅が硫化剤と反応し硫化銅の形態として析出させることができる(反応式[1])。析出した硫化銅は、浸出残渣として回収される。一方で、酸を用いた浸出処理により、合金を構成するニッケル及び/又はコバルトを溶液中に浸出させ、ニッケル、コバルトがイオンとして存在する浸出液を得ることができる(反応式[2]、[3])。このようにして、合金から、銅と、ニッケル及び/又はコバルトとを分離することができる。
【0047】
なお、浸出したニッケル及び/又はコバルトが硫化剤と反応して硫化物となった場合でも、酸溶液が存在するために、その硫化物は分解され、ニッケルやコバルトはイオンとして浸出液中に存在することになる。また、浸出液には、硫化剤と反応しなかった一部の銅が残存することがあるが、浸出液中に残存した銅は、後述する還元工程S2にて効果的にかつ効率的に分離除去することができる。
【0048】
[処理対象の合金について]
処理対象である合金、すなわち廃リチウムイオン電池を熔解して得られる合金としては、板状に鋳造した合金、線状に引き抜き適宜切断して棒材とした合金、粉状の合金(以下、粉状の合金を「合金粉」とも称する)等が挙げられ、その形状は特に限定はされない。その中でも、粉状の合金粉を処理対象とすることで、より効果的にかつ効率的に浸出処理を施すことができ、好ましい。
【0049】
また、合金粉を用いる場合、その粒径が概ね300μm以下であることで、より効果的に浸出処理をすることができる。一方で、合金粉の粒径が細かすぎるとコストが掛かる上に発塵又は発火の原因にもなるため、その粒径は概ね10μm以上が好ましい。
【0050】
浸出処理においては、処理対象である合金に対して予め薄い酸で予備洗浄することが好ましい。これにより、合金の表面に活性処理を施すことができ、浸出反応を促進できる。
【0051】
また、浸出処理においては、処理対象の合金に純水等を加えてスラリー化し、その合金を含むスラリーに対して酸溶液を添加して処理を施す。なお、硫化剤は、合金を含むスラリーに添加して共存させる。
【0052】
[酸溶液について]
浸出処理に用いる酸溶液としては、特に限定されず、硫酸、塩酸、硝酸等の鉱酸を用いることができる。また、これらの鉱酸の混合溶液を用いてもよい。さらに、例えば硫酸中に塩化物を含有させた酸溶液を用いてもよい。その中でも、処理対象の合金が、廃リチウムイオン電池に由来するものである場合、その廃リチウムイオン電池をリサイクルして再びリチウムイオン電池原料に供する理想的な循環方法である所謂「バッテリー トゥ バッテリー」を実現するにあたっては、硫酸を含む酸を使用することが好ましい。硫酸を用いることで、リチウムイオン電池の正極材に利用しやすい硫酸塩の形態で浸出液を得ることができる。
【0053】
また、添加する酸溶液は、合金に含まれるニッケル及び/又はコバルトを浸出してニッケルやコバルトの塩類を生成するが、浸出反応を迅速に進めるためのドライビングフォースに使われる余裕(余分)の遊離酸(例えば、硫酸溶液を用いた場合には「遊離硫酸」)も必要となるため、1当量を超え1.2当量以下となる量が必要となる。
【0054】
浸出処理においては、酸溶液と合金とをシックナーのような混合部を複数段連結させた装置に供給し、酸と合金とを向流で段階的に接触させるようにしてもよい。例えば、合金をこの装置の最上段の混合部に供給し、酸を装置の最下段の混合部に供給して、酸と合金とを向流で段階的に接触させる。
【0055】
[硫化剤について]
酸と共に添加する硫化剤としては、水硫化ナトリウムや単体硫黄を用いることができる。単体硫黄を用いる場合、反応が進みやすいように適度に粉砕することが好ましい。
【0056】
ここで、本実施の形態に係る方法では、好ましくは、その硫化剤を、合金に含まれる銅の量に対して1.05~1.25当量(S-mol/Cu-mol)の範囲の量となるように添加し、合金に対して共存させて浸出処理を施す。これにより、ニッケル及び/又はコバルトの浸出率をより一層に向上させることができる。
【0057】
硫化剤は、合金に含まれる銅を全て硫化銅として固定し、ニッケルやコバルトを効率よくかつ選択的に浸出させるために用いられるものであることから、その合金に含まれる銅量に対して1当量(S-mol/Cu-mol)以上が必要となる。また、その硫化剤によって効率よく硫化反応を進めるには、硫化剤量を多くする方が優位であるため、1.05当量以上とすることが好ましくなる。一方で、過剰に硫化剤を添加すると、硫化水素ガスが発生する可能性があるため避けることが望ましく、また残渣量が増大して取り扱いの手間が増える可能性がある。これらの観点から、硫化剤量の上限値としては、1.25当量以下とする。
【0058】
また、硫化剤の添加量は、合金に含まれる銅の量に対して1.15~1.25当量(S-mol/Cu-mol)の範囲とすることがより好ましい。より好ましくこのような量の硫化剤を添加し共存させて浸出処理を施すことで、ニッケル及び/又はコバルトの浸出率をより一層に向上させることができる。
【0059】
[浸出処理の条件について]
(スラリー濃度)
本実施の形態に係る方法では、ニッケル及び/コバルトを含む合金を含むスラリーの初期濃度を特定の範囲に調整し、そのスラリーに酸溶液を添加して浸出処理を施すことを特徴としている。具体的には、合金を含むスラリーの初期濃度を、100g/L以上、好ましくは150g/L以上、より好ましくは200g/L以上に調整して浸出処理を施す。
【0060】
本発明者らによる検討の結果、浸出処理を行うにあたり、合金を含むスラリーの初期濃度は、例えば反応設備の撹拌動力や酸溶液の添加速度、浸出時間等に影響を及ぼす重要な要素であることがわかった。本実施の形態に係る方法では、そのスラリーの初期濃度を100g/L以上の特定の範囲に調整して浸出処理を行うことで、効率的にニッケル及び/又はコバルトを浸出させることができるようになり、短時間で簡易に、ニッケル及び/コバルトを高い濃度で含む溶液を得ることができる。
【0061】
スラリーの初期濃度の上限値については、特に限定されないが、250g/L以下であることが好ましい。スラリー濃度が250g/Lを超えると、浸出に要する時間が長くなり、浸出時間の短縮のために撹拌能力を強化することや酸溶液の添加量を増加させる等の必要性が生じる。なお、酸濃度を上げ過ぎると、その酸が局部的に激しく反応し、水素ガスや硫化水素ガスが発生する可能性もある。また、スラリー濃度が高過ぎると、合金の含有量が多くなり過ぎてしまい、浸出反応において有効に撹拌することができなくなり、浸出率が低下する可能性がある。また、反応に伴って撹拌装置や反応容器等に摩耗が生じ易くなり、処理コストの増加につながる。
【0062】
処理対象であるニッケル及び/コバルトを含む合金のスラリー化の方法や濃度の調整方法は、特に限定されず、例えば、その合金に純水等を加え、その添加量を調整することで行うことができる。
【0063】
(pH)
また、浸出処理では、得られる浸出液のpHを測定し、測定したpHを監視して制御することが好ましい。浸出処理によってニッケルやコバルトのメタルが酸に溶解するのに伴い、酸が消耗されるに従ってpHが上昇していく。そのため、pH条件として、有価金属の浸出反応が促進される範囲に適切に制御しながら処理を行うことが好ましい。
【0064】
具体的に、pH条件については、得られる浸出液のpHが0.8以上1.6以下の範囲となるように制御して処理することが好ましい。これらのような範囲で浸出処理を施すことで、浸出が促進されるとともに、析出した硫化銅が過剰に酸化されて再溶解する事態をより効果的に抑制することができる。
【0065】
pHの制御は、酸の添加量を調整することで行うことができる。反応終点までの酸の添加量の目安としては、合金に含まれるニッケル及び/又はコバルトの合計量に対して1.2当量程度であることが好ましい。
【0066】
(酸化還元電位)
また、浸出処理では、得られる浸出液の酸化還元電位(ORP)を測定し、測定したORPを監視して制御することが好ましい。
【0067】
具体的に、本実施の形態に係る方法では、好ましくは、そのORPを、銀/塩化銀電極を参照電極とする値で200mV以下に制御しながら浸出処理を施す。
【0068】
ここで、処理対象である合金は、酸を用いた浸出のように酸化剤や溶存酸素が存在する溶液中では、酸化被膜を形成し易い。合金に酸化被膜が形成されると、回収対象であるニッケル及び/又はコバルトがその合金中に残存した状態でも浸出が十分に進まず、浸出液のORP値だけが上昇してしまう、いわゆる不働態化を呈する場合がある。そして、ORPが上昇することで、銅の浸出も促進され、無視できなくなる。
【0069】
そこで、本実施の形態に係る方法では、ORPを特定の範囲に制御しながら、具体的には、そのORPを、銀/塩化銀電極を参照電極とする値で200mV以下に制御しながら浸出処理を施すようにすることが好ましい。例えば、酸化剤の供給量を抑える等して、ORP値を200mV以下に低く維持することで、処理対象の合金において酸化被膜(不働態化膜)が形成されることを効果的に抑制することができる。
【0070】
このように、好ましくはORPを従来よりも低く維持して浸出処理を施すようにすることで、合金表面への不働態化膜の生成を抑制し、より効率的にかつ効果的にニッケル及び/又はコバルトの浸出を進行させることができる。またそれと共に、銅と硫化剤との反応がより円滑に進行するようになり、銅を硫化物として効率的に固定化でき、銅の浸出を抑えてニッケル及び/又はコバルトをより選択的に浸出することが可能となる。
【0071】
なお、ORPの下限値については、特に限定されないが、50mV以上であることが好ましく、100mV以上であることがより好ましい。ORPが過度に低すぎると、ニッケル及び/又はコバルトの浸出反応の速度が低下する可能性がある。また、ニッケル及び/又はコバルトの硫化物が生成し始め、回収ロスとなる可能性がある。
【0072】
ORPを制御する具体的な手段としては、酸化剤を添加する方法等が挙げられる。本実施の形態に係る方法では、好ましくはORPを200mV以下に制御することから、浸出液のORPが上昇しすぎた場合には、酸化剤の供給量を減らし又は停止することにより、ORPを低下させることができる。
【0073】
酸化剤としては、酸素、エアー、過酸化水素、オゾンガス等の従来公知のものを使用することができる。例えば、酸化剤として気体状(ガス状)のものを用いる場合、溶液内にバブリングし、その供給量(送気量)を調整することで、浸出液のORPを制御することができる。
【0074】
なお、ORPは、pHや温度により変動するため、浸出処理に際しては、ORP、pH、及び液温を同時測定しながら、それぞれの適正範囲を同時に維持できるように制御することが好ましい。
【0075】
(その他の条件)
また、浸出処理における温度や時間等の条件については、予備試験を行って適切な範囲を定めることが好ましい。また、浸出処理では、均一な反応が進行するように、エアー等で浸出液をバブリングしてもよい。さらに、浸出処理では、2価の銅イオンを添加してもよく、これにより2価の銅イオンが触媒となって浸出反応を促進させることができる。
【0076】
[還元工程]
還元工程S2では、浸出工程S1での浸出処理で得られた浸出液に対して、還元剤を添加して還元処理を施し、ニッケル及び/又はコバルトを含む還元液(還元後液)と還元残渣とを得る。
【0077】
浸出処理では、ニッケル及び/又はコバルトと共に、合金を構成する銅が酸により浸出して溶液中に溶解し、硫化剤と反応せずにその一部が溶液中に残存することがある。そのため、還元工程S2において、得られた浸出液中に残存する微量の銅を還元することによって銅を含む沈澱物を生成させることができ、生成した沈澱物を含む還元残渣を固液分離により分離することで、銅を分離したニッケル及び/又はコバルトを含む還元液を得ることができる。これにより、ニッケル及び/又はコバルトの浸出率を高く維持した状態で、銅を選択的に分離することができる。
【0078】
還元剤としては、特に限定されないが、例えば、銅よりも卑な金属を用いることができる。その中でも、ニッケル及び/又はコバルトを含むメタルを用い、浸出液とそのメタルとを接触させて銅を還元することが好ましい。より具体的に、ニッケル及び/又はコバルトを含むメタルとしては、本実施の形態に係る方法の処理対象、すなわち浸出工程S1での浸出処理の対象となる、ニッケル及び/又はコバルトと銅とを含む合金を用いることができる。なお、還元剤として、1種類の成分からなるものに限られず、複数の成分からなる混合物であってもよい。
【0079】
本実施の形態に係る方法では、ニッケル及び/又はコバルトを含む溶液を得るものであることから、その回収対象であるニッケル及び/又はコバルトを含んだメタルを還元剤として用いることで、後段の工程で還元剤を別途回収する必要がなく、工業的に有利である。また当然に、還元剤として用いたニッケル及び/又はコバルトを含んだメタルは、自らは酸化されてその還元後液中に溶解することから、ニッケル及び/又はコバルトの回収量を増加させることができる。
【0080】
還元剤として、上述したメタルの他にも、硫化物を用いることもできる。硫化物は、固体、液体、あるいは気体(ガス状)のいずれの形態であってもよい。また、上述した浸出処理の処理対象である合金の粉状物と硫黄との混合物であってもよい。還元剤として硫黄を用いる場合には、処理液や合金の粉状物に含まれる銅に対して当量となる量を添加すればよい。
【0081】
また、還元剤として、処理対象の合金の溶湯を急冷して粉状化したアトマイズ粉を用いてもよい。なお、浸出処理の処理対象である合金の粉状物自体を還元剤として用いる場合、浸出液中の銅を還元するのに必要な当量以上となる量のニッケルやコバルトを含んだ粉状物を用いればよい。
【0082】
還元処理の条件に関して、得られる還元後液のpHについて、1.6以下となるように制御することが好ましい。また、その液温については、浸出処理と同等の50℃以上とすることが好ましい。なお、銅が除去された終点(反応終点)の目安としては、ORPが0mV以下となる時点とすることができる。
【0083】
[酸化中和工程]
本実施の形態に係る方法では、酸化中和工程S3を設けることができる。酸化中和工程S3では、還元工程S2を経て得られた還元液に対して中和剤と酸化剤とを添加して酸化中和処理を施し、酸化中和後液と酸化中和残渣とを得る。
【0084】
このように、酸化中和処理を行うことで、還元液に含まれる鉄やリン等の不純物の沈澱物を生成させて分離し、精製された、高濃度のニッケル及び/又はコバルトを含む溶液を得ることができる。
【0085】
酸化剤としては、過酸化水素や次亜塩素酸等の酸化剤を用いることが好ましい。酸化剤の添加は、溶液の酸化還元電位(ORP)を監視して所定の範囲に制御することが好ましい。具体的には、酸化剤を溶液に添加して、例えば、ORP(銀/塩化銀を参照電極とする)が380mV以上430mV以下の範囲となるように制御する。
【0086】
また、酸化剤を添加して酸化反応を生じさせた後、中和剤を添加して、溶液のpHを好ましくは3.8以上4.5以下の範囲に制御する。このような範囲でpHを制御して中和処理を施すことで、少なくとも鉄及び/又はリンのような不純物を効果的に沈澱物化させることができる。
【0087】
中和剤としては、特に限定されないが、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等のアルカリを用いることが好ましい。
【0088】
酸化中和処理においては、還元液に中和剤を添加した後に酸化剤を添加してもよいが、還元液に酸化剤と中和剤とを同時に添加してもよく、特に、還元液に酸化剤を添加した後に中和剤を添加することが好ましい。例えば、中和剤の添加によりpHが高い状態となった還元液に対して酸化剤を添加すると、不純物として鉄が含まれている場合には鉄が十分に酸化されず、Fe(OH)3の沈澱物(鉄澱物)が生成されなくなり、不純物の分離が不十分となることがある。
【0089】
なお、酸化中和処理によっても除去できなかった微量不純物については、酸化中和工程S3の後に、溶媒抽出法やイオン交換法等の公知の技術で除去する工程を設けて除去するようにしてもよい。
【実施例0090】
以下に、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0091】
[実施例1]
(浸出工程)
廃リチウムイオン電池(廃LIB)を酸化雰囲気下で加熱する酸化焙焼を行い、その後、得られた酸化焙焼物に還元剤を添加して加熱熔融して還元する乾式処理を行った。還元熔融して得られた熔融状態の合金を凝固させ、粒径300μm未満の粉状の合金粉を得た。得られた合金粉を、処理対象の合金(ニッケル及びコバルトと銅とを含む合金)として用いた。下記表1に、ICP分析装置を用いて分析した合金粉の組成を示す。
【0092】
【0093】
次に、上記表1に組成を示す合金粉を用い、下記表2に示す条件で硫酸溶液による浸出を行った。
【0094】
具体的には、500mLの邪魔板付きセパラブルフラスコに純水と、合金粉とを装入して、合金を含むスラリーを調製した。このとき、そのスラリーの濃度(初期濃度)が200g/Lとなるようにした。
【0095】
その合金のスラリーに、合金粉に含まれる銅量に対して1.25当量(S-mol/Cu-mol)となるように単体硫黄を硫化剤として添加し、1000rpmの回転速度で撹拌を行いながら、ウォーターバスにて設定温度である60℃まで加温して維持した。
【0096】
そして、70%硫酸溶液を14mL/hrの速度で添加し、pH1.6を維持するように制御しながら、合金の浸出処理を行った。
【0097】
酸化還元電位(ORP)の値(参照電極:銀/塩化銀電極)の調整は、0.5L/minの流速のエアーバブリングにて行った。また、反応終点は、ORP値が250mVに到達した点とした。
【0098】
浸出後のスラリーを回収し、真空ポンプを用いたろ過にて固液分離を行って、浸出後の濾液(浸出液)と浸出残渣の品位をICP分析装置にて分析した。
【0099】
[実施例2]
実施例2では、スラリーの濃度(初期濃度)が100g/Lとなるようにしたこと以外は、実施例1と同様にして処理した。
【0100】
[条件及び結果]
下記表2に、実施例1と実施例2における浸出条件をまとめて示す。また、下記表3に、実施例1と実施例2についての浸出液と浸出残渣の分析結果を示す。
【0101】
【0102】
【0103】
表3の結果に示されように、実施例1、実施例2のいずれにおいても高い浸出率でニッケル及びコバルトを浸出させることができた。また、実施例1と比べた実施例2の結果から、浸出処理に供するスラリーの濃度を上げることによって、得られる浸出液のニッケル及びコバルトの濃度を上げることができることがわかった。
【0104】
[実施例3]
(浸出工程)
廃リチウムイオン電池(廃LIB)を酸化雰囲気下で加熱する酸化焙焼を行い、その後、得られた酸化焙焼物に還元剤を添加して加熱熔融して還元する乾式処理を行った。還元熔融して得られた熔融状態の合金を凝固させ、粒径300μm未満の粉状の合金粉を得た。得られた合金粉を、処理対象の合金(ニッケル及びコバルトと銅とを含む合金)として用いた。下記表4に、ICP分析装置を用いて分析した合金粉の組成を示す。
【0105】
【0106】
次に、上記表4に組成を示す合金粉を用い、下記表5に示す条件で硫酸溶液による浸出を行った。
【0107】
具体的には、500mLの邪魔板付きセパラブルフラスコに純水と、合金粉とを装入して、合金を含むスラリーを調製した。このとき、そのスラリーの濃度(初期濃度)が200g/Lとなるようにした。
【0108】
その合金のスラリーに、合金粉に含まれる銅量に対して1.25当量(S-mol/Cu-mol)となるように単体硫黄を硫化剤として添加し、1000rpmの回転速度で撹拌を行いながら、ウォーターバスにて設定温度である60℃まで加温して維持した。
【0109】
酸化還元電位(ORP)の値(参照電極:銀/塩化銀電極)の調整は、円筒型ガス噴出管を用いて、0.5L/minの流速のエアーバブリングにて行った。また、合金粉の浸出及びpH調整は、70%硫酸溶液を14mL/minの速度で添加し、pH1.0を維持するように制御した。
【0110】
実施例3では、エアー流量を調整することによって、ORP値が200mV以下を保持するように制御しながら浸出反応を進めた。そして、所定の反応が終了したとみてエアーを停止してもORP値は若干上昇したが、250mVに到達した時点で終了した。
【0111】
浸出後のスラリーを回収し、真空ポンプを用いたろ過にて固液分離を行って、浸出後の濾液(浸出液)と浸出残渣の品位をICP分析装置にて分析した。
【0112】
[比較例1]
比較例1では、実施例3と同様にエアーを供給したがORP値について具体的な制御を行わず成り行きとした。なお、エアー供給停止後もおよそORP値は250mVを保持していた。このこと以外は、実施例3と同様とした。
【0113】
[条件及び結果]
下記表5に、実施例3と比較例1での浸出処理の条件をまとめる。また、下記表6に、浸出液と浸出残渣の分析結果を示す。
【0114】
【0115】
【0116】
表6の結果に示されように、ORP値が200mV以下を維持するように制御しながら浸出処理を行った実施例3では、銅の浸出が抑制され、ニッケルとコバルトの浸出を選択的に促進させることができた。これに対して、比較例1では、浸出液中の銅濃度が16g/Lと高くなり、選択的にニッケルとコバルトを浸出できなかった。
【0117】
このように、ORPを200mV以下となるように制御して浸出することで、ニッケル及びコバルトの浸出を促進させることができることがわかった。このことは、ORPを制御することで、処理対象の合金表面の酸化皮膜(不働態化膜)形成を抑制できたことによると考えられる。
【0118】
[実施例4]
(浸出工程)
廃リチウムイオン電池(廃LIB)を酸化雰囲気下で加熱する酸化焙焼を行い、その後、得られた酸化焙焼物に還元剤を添加して加熱熔融して還元する乾式処理を行った。還元熔融して得られた熔融状態の合金を凝固させ、粒径300μm未満の粉状の合金粉を得た。得られた合金粉を、処理対象の合金(ニッケル及びコバルトと銅とを含む合金)として用いた。下記表7に、ICP分析装置を用いて分析した合金粉の組成を示す。
【0119】
【0120】
次に、上記表7に組成を示す合金粉を用い、下記表8に示す条件で硫酸溶液による浸出を行った。
【0121】
具体的には、500mLの邪魔板付きセパラブルフラスコに純水と、合金粉とを装入して、合金を含むスラリーを調製した。このとき、そのスラリーの濃度(初期濃度)が200g/Lとなるようにした。
【0122】
その合金のスラリーに、合金粉に含まれる銅量に対して1.05当量(S-mol/Cu-mol)となるように硫化剤として数ミリ径の単体硫黄を添加し、1000rpmの回転速度で撹拌を行いながら、ウォーターバスにて設定温度である約60℃まで加温して維持した。
【0123】
また、酸化還元電位(ORP)の値(参照電極:銀/塩化銀電極)の調整は、0.5L/minの流速のエアーバブリングにて行い、70%硫酸溶液を14mL/hの速度で添加して、pH1.2を維持するように制御しながら、合金の浸出処理を行った。
【0124】
なお、反応終点は、ORP値が250mVに到達した点とした。
【0125】
浸出後のスラリーを回収し、真空ポンプを用いたろ過にて固液分離を行って、浸出後の濾液(浸出液)と浸出残渣の品位をICP分析装置にて分析した。
【0126】
[実施例5]
実施例5では、単体硫黄の添加量を、合金粉に含まれる銅量に対して1.15当量(S-mol/Cu-mol)となるようにしたこと以外は、実施例4と同様に処理した。
【0127】
[実施例6]
実施例6では、単体硫黄の添加量を、合金粉に含まれる銅量に対して1.25当量(S-mol/Cu-mol)となるようにしたこと以外は、実施例4と同様に処理した。
【0128】
[条件及び結果]
下記表8に、実施例4~6における浸出処理条件をまとめて示す。また、表9に、実施例4~6のそれぞれについての浸出液と浸出残渣の分析結果を示す。
【0129】
【0130】
【0131】
表9の結果に示されように、硫化剤の添加量を合金粉に含まれる銅量に対して1.05~1.25当量とすることで、効率的に、ニッケル及びコバルトを高い浸出率で浸出することができた。その中でも、硫化剤の添加量を1.15当量以上とした実施例5、6では、合金に含まれる銅の固定(硫化)に十分な量が供給されたため、ニッケル及びコバルトの浸出が99%まで進行したと推測される。
【0132】
なお、硫化剤の添加量を1.15当量以上とした実施例5、6では、実施例4(硫化剤添加量が1.05当量)と比べて、浸出液のORPが250mVに到達する時間が短縮され、より効率的に処理できることが確認された。