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特開2023-36061miR-33b阻害物質による動脈瘤の予防または治療
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  • 特開-miR-33b阻害物質による動脈瘤の予防または治療 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023036061
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】miR-33b阻害物質による動脈瘤の予防または治療
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/711 20060101AFI20230306BHJP
   A61K 31/712 20060101ALI20230306BHJP
   A61K 31/7115 20060101ALI20230306BHJP
   A61K 31/7125 20060101ALI20230306BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20230306BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20230306BHJP
   C12N 15/113 20100101ALN20230306BHJP
【FI】
A61K31/711 ZNA
A61K31/712
A61K31/7115
A61K31/7125
A61K48/00
A61P9/00
C12N15/113 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022139070
(22)【出願日】2022-09-01
(31)【優先権主張番号】P 2021142050
(32)【優先日】2021-09-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000002956
【氏名又は名称】田辺三菱製薬株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(71)【出願人】
【識別番号】505314022
【氏名又は名称】国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小寺 淳
(72)【発明者】
【氏名】尾野 亘
(72)【発明者】
【氏名】堀江 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 智弘
(72)【発明者】
【氏名】小山 智史
(72)【発明者】
【氏名】小比賀 聡
(72)【発明者】
【氏名】笠原 勇矢
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA13
4C084NA14
4C084ZA36
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA36
(57)【要約】
【課題】動脈瘤の予防および治療に有効な医薬組成物の提供。
【解決手段】AACAGCAATGCA(配列番号5)
に記載される配列からなる核酸塩基配列を有する、miR-33bに対するアンチセンス
オリゴヌクレオチドまたはその医薬的に許容可能な塩、および薬学的に許容可能な担体を
含む医薬組成物。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
AACAGCAATGCA(配列番号5)
に記載される配列からなる核酸塩基配列を有する、miR-33bに対するアンチセンス
オリゴヌクレオチドまたはその医薬的に許容可能な塩、および薬学的に許容可能な担体を
含む医薬組成物。
【請求項2】
アンチセンスオリゴヌクレオチドが修飾オリゴヌクレオチドである、請求項1に記載の医
薬組成物。
【請求項3】
修飾オリゴヌクレオチドを構成する少なくとも1つのヌクレオシドが修飾糖を含む、請求
項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
修飾糖が、AmNAの糖部分から選択される、請求項3に記載の医薬組成物。
【化1】


AmNA

[式中、Rは核酸塩基であり、R1、R2はそれぞれ独立して置換されてもよいリン酸基
を示す。]
【請求項5】
修飾オリゴヌクレオチドを構成する少なくとも1つのヌクレオシドが修飾核酸塩基を含む
、請求項2~4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
修飾核酸塩基が5-メチルシトシンである、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
修飾オリゴヌクレオチドの修飾ヌクレオシド間結合がホスホロチオエートヌクレオシド間
結合である、請求項2~4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
修飾オリゴヌクレオチドが、
下式:
Aas Ads Mas Ads Gas Cds Aas Ads Tas Gds
Mas Ad;
で示される修飾オリゴヌクレオチドであって、
式中、
各核酸塩基が下記記号:
A=アデニン、T=チミン、G=グアニン、C=シトシン、M=5-メチルシトシン、
に従って示され;
各糖部分が下記記号:
a=上記のAmNAの糖部分、d=2’-デオキシリボース、
に従って示され;
各ヌクレオシド間結合が下記記号:
s=ホスホロチオエートに従って示される、請求項2~4のいずれか一項に記載の医薬組
成物。
【請求項9】
修飾オリゴヌクレオチドが、
下式:
【化2】


で示される、請求項8に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、miR-33b阻害物質を有効成分として含有する動脈瘤の予防または治療
のための医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
大動脈瘤の有病率は長寿命とライフスタイルの変化のために増加している。例えば、腹
部大動脈瘤は心血管死亡の3番目に多い原因であり、65歳以上の男性集団における全死
亡の1%から3%を占める。コンピュータ断層撮影スキャンによる早期診断は臨床で可能で
あるが、大動脈瘤の促進を予防する薬剤はこれまでには存在しない。大動脈瘤は無症候性
に進行し、致死的な破裂をもたらす可能性があるため、大動脈瘤の進行を抑制するための
薬物療法を開発することが緊急のアンメットニーズである。現在、プロテアーゼの活性化
による細胞外マトリックス分解の亢進、大血管平滑筋細胞の細胞死および内皮機能障害等
が動脈壁の炎症の重要なステップであり、それらに伴う炎症が、中膜の破壊と大動脈壁の
脆弱性を引き起こし、大動脈瘤の形成および進展に関わっていると考えられている(非特
許文献1)。
【0003】
これまでの薬剤開発では、大動脈壁脆弱性を引き起こすと考えられる細胞外マトリック
ス分解を阻害することに焦点が当てられてきたが、大動脈瘤の病因におけるプロテアーゼ
の主要グループの一つであるマトリックスメタロプロテアーゼの阻害剤ドキシサイクリン
は、動脈瘤の進展に対して明らかな臨床効果を示さなかった(非特許文献1)。
【0004】
miRNA(マイクロRNA)はゲノム上にコードされ、多段階的な生成過程を経て最
終的に19-25塩基長となる微小な1本鎖RNAであり、標的とする複数のメッセンジ
ャーRNA(mRNA)の3’-非翻訳領域に結合して、その翻訳を抑制、もしくは分解
を促進することにより、標的遺伝子の発現を負に制御する。現在、ヒトにおいて2000
種以上のmiRNAが同定されており、ヒト遺伝子産物の60%以上がmiRNAによっ
て何らかの制御を受けているといわれている。また、miRNAは様々な生体現象や病態
の発症、進行に関わることから、バイオマーカーや新規治療標的として注目を集めている
【0005】
miR-33(マイクロRNA-33)は、ATP結合カセットトランスポーターA1
(ABCA1)を標的としてコレステロール代謝を調節し、高密度リポ蛋白質コレステロ
ール(HDL-C)レベルを低下させるmiRNAとして見出された。ヒトにおいては、
miR-33aおよびmiR-33bが存在するのに対し、マウスにおいては、miR-
33(ヒトのmiR-33aに相当)のみが存在することが報告されている(非特許文献
2)。
【0006】
動脈瘤とmiR-33との関連性については、miR-33(ヒトmiR-33aに相
当)のノックアウトマウスを動脈瘤モデルで評価し、動脈瘤形成が抑制されたことや、マ
クロファージの蓄積ならびにmonocyte chemotactic protei
n-1の発現が抑制されたことが報告されている(非特許文献3)。
また、ヒトにおいては、脳動脈瘤の患者の血液サンプルにおける網羅的遺伝子発現解析
データを利用し、miR-33bの標的遺伝子であるIRS2の発現レベルが上昇したこ
とが報告されている(非特許文献4)。IRS2の発現は、miR-33bにより直接的
な制御(発現抑制)を受けるため(非特許文献5)、この事象からは、ヒト動脈瘤形成を
抑制するにはmiR-33bの阻害ではなく補充が有効であることが示唆される。
また、ヒト腹部大動脈瘤の患者の腹部大動脈においてmiR-33-5pの発現が上昇
することや、ヒト単球由来のマクロファージ細胞株において、miR-33-5pの阻害
剤によりMMP-2、MMP-9、TNF-αの遺伝子発現が抑制され、コレステロール
排出を促進することにより泡沫化マクロファージ中のコレステロールを減少させることが
報告されている(非特許文献6)。ここで、miR-33-5pの配列としてはmiR-
33bの配列が記載されているが、発現解析ではmiR-33aとmiR-33bの区別
はされておらず、また、miR-33-5pの阻害剤の標的分子がヒトmiR-33aで
あるのかmiR-33bであるのかについては述べられていない。そして、この文献では
腹部大動脈瘤の治療効果まで示されていない。
また、ヒトmiR-33aまたはヒトmiR-33bをそれぞれ発現するマウスを作成
し、miR-33bを発現するマウスにおいて動脈硬化がより悪化したことが報告されて
おり、このことは高コレステロール食負荷により、肝臓細胞においてmiR-33bの発
現が上昇するとともにHDLコレステロールの産生が低下することにより、miR-33
bが動脈硬化の悪化に関与すると考えられた(非特許文献2)。動脈瘤にはマクロファー
ジが関連するとの報告があるが(非特許文献1)、マクロファージにおけるmiR-33
aとmiR-33bの発現レベルの変化に差はなく、機能的な違いもないと報告されてい
る(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】日内会誌99.、p237-244(2010)
【非特許文献2】J Am Heart Assoc.、8(13)、e012609(2019)
【非特許文献3】Arterioscler Thromb Vasc Biol.、37(11)、p2161-2170(2017)
【非特許文献4】Med Sci Monit.、23、p4518-4525(2017)
【非特許文献5】Proc Natl Acad Sci U S A,108(22)、 9232-7(2011)
【非特許文献6】Perfusion.、doi:10.1177/0267659119850685(2019)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、動脈瘤の予防および治療に有効な薬剤を用いた、動脈瘤の予防および/また
は治療を目的とする。より詳細には、本発明は、発生した動脈瘤に対する治療全般に関わ
り、瘤の発生または拡大を阻止することのできる、あるいは瘤の退縮により破裂を阻止す
ることができる、動脈瘤予防用および/または治療用薬剤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは大動脈瘤におけるmiR-33aとmiR-33bの寄与を解析するため
にこれらの阻害剤を用いて検討を行った結果、miR-33b阻害物質が、動脈瘤の治療
、予防、又は軽減に有用であることを見出し、本発明に至った。
【0010】
本開示は、以下の項[1]~[9]に記載の非限定な番号付けされた実施態様に関する
ものであるが、これらに限定されない。
[1]AACAGCAATGCA(配列番号5)
に記載される配列からなる核酸塩基配列を有する、miR-33bに対するアンチセンス
オリゴヌクレオチドを含む医薬組成物。
[2]アンチセンスオリゴヌクレオチドが修飾オリゴヌクレオチドである、[1]に記載
の医薬組成物。
[3]前記修飾オリゴヌクレオチドを構成する少なくとも1つのヌクレオシドが修飾糖を
含む、[2]に記載の医薬組成物。
[4]前記修飾糖が、AmNAの糖部分から選択される、[3]に記載の医薬組成物。
【化1】


AmNA

[式中、Rは核酸塩基であり、R1、R2はそれぞれ独立して置換されてもよいリン酸基
を示す。]
[5]前記修飾オリゴヌクレオチドを構成する少なくとも1つのヌクレオシドが修飾核酸
塩基を含む、[2]から[4]のいずれかに記載の医薬組成物。
[6]前記修飾核酸塩基が5-メチルシトシンである、[5]に記載の医薬組成物。
[7]前記修飾オリゴヌクレオチドの修飾ヌクレオシド間結合がホスホロチオエートヌク
レオシド間結合である、[2]~[6]のいずれかに記載の医薬組成物。
[8]前記修飾オリゴヌクレオチドが、
下式:
Aas Ads Mas Ads Gas Cds Aas Ads Tas Gds
Mas Ad;
で示される修飾オリゴヌクレオチドであって、
式中、
各核酸塩基が下記記号:
A=アデニン、T=チミン、G=グアニン、C=シトシン、M=5-メチルシトシン、
に従って示され;
各糖部分が下記記号:
a=上記のAmNAの糖部分、d=2’-デオキシリボース、
に従って示され;
各ヌクレオシド間結合が下記記号:
s=ホスホロチオエートに従って示される、[2]~[7]のいずれかに記載の医薬組成
物。
[9]前記修飾オリゴヌクレオチドが、
下式:
【化2】


で示される、[8]に記載の医薬組成物。
【発明の効果】
【0011】
miR-33b阻害物質は、動脈瘤の発生または拡大を抑制するため、動脈瘤の予防及
び/又は治療薬として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、マウス大動脈におけるmiR-33a(A)およびmiR-33b(B)の発現レベルに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドの効果を評価したIn vivo投与試験の結果を示すグラフである。
図2図2は、マウス大動脈におけるMCP-1タンパク質の発現レベル(A)、リン酸化JNK1タンパク質の発現レベル(B)およびJNK1タンパク質の発現レベル(C)に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドの効果を評価したIn vivo投与試験の結果を示すグラフである。
図3図3は、マウス大動脈におけるMMP-9活性レベルに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドの効果を評価したIn vivo投与試験の結果を示すグラフである。
図4図4は、マウス大動脈瘤モデル1週における動脈瘤の径拡大(A)および伸展(B)に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドの効果を評価したIn vivo投与試験の結果を示すグラフである。
図5図5は、マウス大動脈瘤モデル6週における動脈瘤の径拡大(A、C)および伸展(B、C)に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドの効果を評価したIn vivo投与試験の結果を示すグラフである。
図6図6は、大動脈瘤モデルのマウスにおけるAST(A)、ALT(B)、T-Bil(C)およびCRE(D)のレベルに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドの効果を評価したIn vivo投与試験の結果を示すグラフである。
図7図7は、ヒトTHP-1細胞におけるmiR-33a(A)、miR-33b(B)およびABCA1 mRNA(C)の発現レベルに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドの効果を評価したIn vitro投与試験の結果を示すグラフである。
図8図8は、ヒトTHP-1細胞におけるSREBF1の発現レベルに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドの効果を評価したIn vitro投与試験の結果を示すグラフである。
図9図9は、ヒトTHP-1細胞におけるMMP-9mRNAの発現レベル(A)、MCP-1mRNAの発現レベル(B)およびJNK1mRNAの発現レベル(C)に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドの効果を評価したIn vitro投与試験の結果を示すグラフである。
図10図10は、ヒトTHP-1細胞におけるpro型MMP-9タンパク質の酵素活性レベル(A)、切断型MMP-9タンパク質の酵素活性レベル(B)、リン酸化JNK1タンパク質の発現レベル(C)、JNK1タンパク質の発現レベル(D)および総JNK1タンパク質量に対するリン酸化JNK1タンパク質の発現レベル(E)に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドの効果を評価したIn vitro投与試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(定義)
「核酸」は、ヌクレオチド単位で構成される分子を指す。核酸の例としては、天然核酸
(リボ核酸(RNA)、デオキシリボ核酸(DNA))、非天然核酸があり、核酸の形態
には一本鎖の核酸、二本鎖の核酸があり、また機能的な核酸として、低分子干渉リボ核酸
(siRNA)、マイクロRNA(miRNA)などが挙げられるが、これらに限定され
ない。核酸は、これらの要素の組み合わせを単一分子中に含むこともできる。
【0014】
「核酸塩基」は、別の核酸の塩基と対形成することができる複素環部分を意味する。核
酸塩基には、「修飾核酸塩基」と「非修飾核酸塩基」がある。
【0015】
「ヌクレオシド」は、糖に連結した核酸塩基を意味する。ある種の実施態様では、ヌク
レオシドはリン酸基に連結している。
【0016】
「ヌクレオチド」は、ヌクレオシドの糖部分と共有結合したリン酸基などを有するヌク
レオシドを意味する。天然に存在するヌクレオチドは糖部分がリボースまたはデオキシリ
ボースであり、リン酸基とホスホジエステル結合により共有結合し、オリゴヌクレオチド
、ポリヌクレオチドを形成している。
【0017】
「修飾ヌクレオチド」は、独立に、修飾糖部分、修飾ヌクレオシド間結合または修飾核
酸塩基を有するヌクレオチドを意味する。「修飾ヌクレオシド」は、独立に、修飾糖部分
または修飾核酸塩基を有するヌクレオシドを意味する。
【0018】
「非修飾ヌクレオチド」は、天然に存在する核酸塩基、糖部分及びヌクレオシド間結合
から成るヌクレオチドを意味する。ある種の実施態様では、非修飾ヌクレオチドはRNA
ヌクレオチド(すなわちβ-D-リボヌクレオシドを有するヌクレオチド)またはDNA
ヌクレオチド(すなわちβ-D-デオキシリボヌクレオシドを有するヌクレオチド)であ
るが、これらに限定されない。
【0019】
「ヌクレオシド間結合」は、ヌクレオシド間の化学結合を指す。
【0020】
「修飾ヌクレオシド間結合」は、天然に存在するヌクレオシド間結合(すなわち、ホス
ホジエステルヌクレオシド間結合)からの置換または任意の変化を指す。例えば、ホスホ
ロチオエートヌクレオシド間結合があるが、これに限定されない。
【0021】
「ホスホロチオエートヌクレオシド間結合」は、非架橋酸素原子の1つを硫黄原子で置
き換えることによってホスホジエステル結合が修飾される、ヌクレオシド間の結合を意味
する。ホスホロチオエート結合は、当該修飾ヌクレオシド間結合の1例である。
【0022】
「修飾核酸塩基」は、アデニン、シトシン、グアニン、チミジンまたはウラシル以外の
任意の核酸塩基を指す。例えば、5-メチルシトシンがあるが、これに限定されない。「
非修飾核酸塩基」は、プリン塩基のアデニン(A)及びグアニン(G)、並びにピリミジ
ン塩基のチミン(T)、シトシン(C)及びウラシル(U)を意味する。
【0023】
「miRNA」は、酵素Dicerによるpre-miRの切断産物であり、長さ18
~25核酸塩基の内在性非コードRNAを意味する。miRNAの例は、miRBase
と呼ばれるmiRNAデータベースで確認される(http://microrna.s
anger.ac.uk/)。ある種の実施態様では、miRNAは、「miR」または
「マイクロRNA」と略記される。
【0024】
「pre-miR」は、Droshaと呼ばれる二本鎖RNA特異的リボヌクレアーゼ
によるpri-miRの切断産物であり、ヘアピン構造を有する非コードRNAを意味す
る。
【0025】
「ステムループ配列」は、ヘアピン構造を有し、かつ成熟型miRNA配列を含むRN
Aを意味する。ある実施態様では、ステムループ配列はpre-miRである。ステムル
ープ配列の例は、miRBaseと呼ばれるmiRNAデータベースで確認される(ht
tp://www.mirbase.org/)。
【0026】
「pri-miR」は、二本鎖RNA特異的リボヌクレアーゼDroshaの基質であ
り、ヘアピン構造を有する非コードRNAを意味する。
【0027】
「miRNA前駆体」は、ゲノムDNAに由来し、かつ、1つまたは複数のmiRNA
配列を含む非コードstructured RNAを含む転写物を意味する。例えば、あ
る種の実施態様では、miRNA前駆体はpre-RNAである。ある種の実施態様では
、miRNA前駆体はpri-miRである。ある種の実施態様では、miRNA前駆体
はステムループ配列である。
【0028】
「miRNAの標的mRNA」は、miRNAの直接的な標的mRNAを意味する。m
iRNAは標的mRNAと完全にまたはほぼ完全に相補的であり、しばしばシード配列(
miRNAの5’末端側より2番目~8番目までの7塩基の配列をいう)と相補的に結合
し、標的mRNAの不安定化または翻訳阻害をもたらす。
【0029】
「miRNAの標的タンパク質」はmiRNAの標的mRNAが翻訳されることによっ
て生じるタンパク質を意味する。
【0030】
「miR-33bステムループ配列」は、核酸塩基配列GCGGGCGGCCCCGC
GGUGCAUUGCUGUUGCAUUGCACGUGUGUGAGGCGGGUGC
AGUGCCUCGGCAGUGCAGCCCGGAGCCGGCCCCUGGCACC
AC(配列番号4)を有するmiRNA-33bのpre-miRを意味する。
【0031】
「miR-33a」は、核酸塩基配列GUGCAUUGUAGUUGCAUUGCA(
配列番号2)を有するmiRNAを意味する。(なお、本明細書においては、塩基配列は
5’から3’の順で記載される。)
【0032】
「miR-33b」は、核酸塩基配列GUGCAUUGCUGUUGCAUUGC(配
列番号1)を有するmiRNAを意味する。
【0033】
「miR-33」は、核酸塩基配列GUGCAUUGUAGUUGCAUUGCA(配
列番号3)を有するmiRNAを意味する。
【0034】
ヒトにおいては、miR-33aならびにmiR-33bが存在する。マウスにおいて
は、miR-33が存在する。ヒトのmiR-33aとマウスのmiR-33は共通の配
列である。従って、マウスにおいては、ヒトのmiR-33aに相当するmiRNAのみ
が存在し、ヒトのmiR-33bに相当するmiRは存在しない。
【0035】
「miR-33bシード配列(シード領域ともいう)」は、miR-33b核酸塩基配
列のうち、UGCAUUGを指す。配列番号1や2にはシード配列が2つ含まれる。
【0036】
「miR-33aレベル」、「miR-33bレベル」、「miR-33レベル」とは
、それぞれ、細胞内でマイクロRNAとして機能するmiR-33a、miR-33b、
miR-33の存在(レベル)、言い換えれば発現レベルを意味する。
【0037】
「アンチセンスオリゴヌクレオチド」は、標的核酸にハイブリダイズすることのできる
アンチセンス核酸(RNAもしくはDNA)である。本願においてアンチセンスオリゴヌ
クレオチドとは、miRNAに結合して、miRNAの活性または機能を阻害する分子を
意味する。本願におけるアンチセンスオリゴヌクレオチドは天然の核酸分子以外に人工的
な核酸分子を含んでもよい。
【0038】
「siRNA(small interfering RNA)」は15-30塩基対
から成る低分子二本鎖RNAである。siRNAはRNA干渉と呼ばれる現象に関与して
おり、標的核酸の破壊によって配列特異的に核酸の発現を抑制する。本願においてsiR
NAとは、miR-33aやmiR-33bを破壊してmiR-33aやmiR-33b
の発現を抑制するアンタゴニストとして機能する分子を意味する。本願におけるsiRN
Aは天然の核酸分子以外に人工的な核酸分子を含んでもよい。
【0039】
「shRNA(short hairpin RNA)」は、ヘアピン構造を有しプロ
セシングを受けてmiRNAやsiRNA(short interference R
NA)が生じる。ある種の実施形態では、shRNAは細胞内において、shRNA発現
ベクターから転写される。
【0040】
「相補的」は、第一の核酸と第二の核酸の核酸塩基間の対形成に対する能力を意味する
。具体的には、例えば、アデニンはチミジンまたはウラシルと相補的であり、シトシンは
グアニンと相補的であり、5-メチルシトシンはグアニンと相補的であるが、これらに限
定されない。
【0041】
「完全に相補的(相補性ともいう)」または「100%相補的(相補性ともいう)」は
、第一の核酸の核酸塩基配列の各核酸塩基のすべてが、第二の核酸の第二の核酸塩基配列
中に相補的核酸塩基を有することを意味する。ある種の実施態様では、第一の核酸は修飾
オリゴヌクレオチドであり、標的核酸が第二の核酸である。
【0042】
「ハイブリダイゼーション」は、相補的核酸分子のアニーリングを意味する。
【0043】
「ミスマッチ」または「非相補的核酸塩基」は、第一の核酸の核酸塩基が、第二の核酸
または標的核酸の対応する核酸塩基と対形成できない場合を指す。
【0044】
「予防」は、数分から無期限の期間にわたって、疾患、障害もしくは好ましくない健康
状態、または当該疾患、障害もしくは好ましくない健康状態に関連する1つ以上の症状、
の発症または発生を遅延させるかまたは未然に防ぐことを意味する。予防するは、疾患、
障害または好ましくない健康状態を発生する危険性を低減させることも意味する。
【0045】
「治療」は、疾患、障害もしくは好ましくない健康状態、または当該疾患、障害もしく
は好ましくない健康状態に関連する1つ以上の症状、を軽減するか、もしくは排除するか
、または、当該疾患、障害、もしくは好ましくない健康状態自体の1つもしくはそれ以上
の原因を部分的に解消するかまたは根絶することを意味する。
【0046】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の本実施形
態に制限されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0047】
(miR-33b阻害物質)
本発明は、miR-33b阻害物質(以下、「本発明化合物」と称することがある)を
含む、動脈瘤の治療又は予防剤である。miR-33b阻害物質としては、miR-33
bの発現または機能を阻害し、その結果、動脈瘤に関与する細胞、例えば単球やマクロフ
ァージ細胞(以下、これを「細胞」と称することがある)、におけるMMP-9の活性レ
ベル、MCP-1の発現レベル及び/またはリン酸化JNK1の発現レベルを抑制するも
のであることが好ましい。
miR-33b阻害物質はmiR-33bの発現または機能を阻害し、その結果、mi
R-33bの標的mRNA、および/またはmiR-33bの標的タンパク質の細胞内で
の存在レベルを増加させるものが好ましい。miR-33bの標的としては、例えばAT
P結合カセットトランスポーターA1(ABCA1)が挙げられる。すなわち、ABCA
1などのmiR-33bの標的分子は、通常、miR-33bによって発現阻害を受ける
ところ、miR-33b阻害物質によりmiR-33bが阻害されることにより、細胞内
での存在レベルが増加する。
【0048】
また、miR-33b阻害物質としては、具体的には、例えば、細胞内におけるmiR
-33bとして機能する分子のレベルを低減させる物質(以下これを「miR-33bレ
ベル低減物質」と称することがある)が挙げられる。miR-33bレベルの低減とは、
miR-33bの標的mRNAに細胞内で作用して、mRNAの不安定化や翻訳阻害を介
し、当該細胞内における標的mRNAおよび/またはタンパク質レベルを低減させる機能
を有するmiR-33bレベルを低減させることを意味する。
本発明においてmiR-33bの標的mRNAは、miR-33bが直接結合してその
発現レベルを低下させるものであればいずれのものでもよいが、具体的には、例えば、A
TP結合カセットトランスポーターA1(ABCA1)、カルニチンパルミトイルトラン
スフェラーゼ1(CPT1)等があげられる。これらの標的mRNAは、いずれか一つ以
上、複数でもよい。
【0049】
また、miR-33bレベル低減物質としては、少なくともmiR-33bの細胞内に
おけるレベルを低減させるものであればよく、たとえば、さらにmiR-33aの当該細
胞内におけるレベルを低減させる作用を有していてもよい。しかし、この場合、好ましく
はmiR-33bの細胞内におけるレベルを低減させる作用がmiR-33aの細胞内で
のレベルを低減させる作用よりも強い物質であることが好ましく、後述するTHP-1細
胞におけるmiR-33bレベルを測定する系において、miR-33bレベル低減率が
miR-33aレベル低減率より高いmiR-33bレベル低減物質が好ましく用いられ
る。miR-33bレベル低減率とは、例えば、100*(miR-33bレベル低減物
質非添加時のmiR-33bのレベル-miR-33bレベル低減物質添加時のmiR-
33bレベル)/miR-33bレベル低減物質非添加時のmiR-33bレベル、によ
り算出することができる。また、miR-33aレベル低減率とは、例えば、100*(
miR-33bレベル低減物質非添加時のmiR-33aレベル-miR-33bレベル
低減物質添加時のmiR-33aレベル)/miR-33bレベル低減物質非添加時のm
iR-33aレベル、により算出することができる。
miR-33bレベル低減率がmiR-33aレベル低減率より高いmiR-33bレベ
ル低減物質として、具体的には、例えば、miR-33aレベル低減率/miR-33b
レベル低減率を算出した時の値が0.8以下、0.7以下、0.6以下、0.5以下、0
.4以下、0.3以下、0.2以下または0.1以下があげられ、好ましくは0.6以下
、より好ましくは0.3以下、さらに好ましくは0.1以下があげられる。
【0050】
本発明のmiR-33bレベル低減物質による細胞内のmiR-33bレベルの低減と
は、例えば、miR-33bレベル低減物質と細胞を接触させることにより、非接触時ま
たは陰性対照物質接触時と比較して細胞内におけるmiR-33bレベルが低下すること
をいう。ここで、当該細胞内におけるmiR-33bレベルの低下の程度は、細胞内にお
けるmiR-33bレベルが低下し、その結果として後述するmiR-33bの標的mR
NA、および/またはmiR-33bの標的タンパク質の当該細胞内におけるレベルを増
加させる程度、または細胞内におけるmiR-33bレベルが低下し、その結果としてm
iR-33b発現細胞の表現型が、疾患関連物質が疾患の改善の方向へ調整される程度で
あればいずれの程度でもよいが、具体的には、例えば、本発明のmiR-33レベル低減
物質と細胞を接触させた後、miR-33bの細胞内におけるレベルが、非接触時または
陰性対照物質接触時と比較して、少なくとも50%以下、好ましくは30%以下さらに好
ましくは10%以下となる程度が好ましい。
【0051】
一方、miR-33bレベル低減物質によるmiR-33bの標的mRNA発現レベル
の増加の程度は、その標的mRNAがコードするタンパク質が調整する疾患関連物質が疾
患の改善の方向へ調整される程度であればいずれのものでもよいが、例えば、miR-3
3bレベル低減物質と細胞を接触させた後、非接触時または陰性対照物質接触時と比較し
て、標的mRNA発現レベルが少なくとも1.2倍以上、好ましくは1.5倍以上、さら
に好ましくは2倍以上上昇する程度が例示される。
miR-33bの標的mRNAがコードするタンパク質が調整する疾患関連物質が疾患
の改善の方向へ調整されるとは、具体的には、例えば、細胞の炎症状態の抑制であり、例
えば、MMP-9、MCP-1及び/またはJNK1のmRNA発現レベルまたはそれら
がコードするタンパク質の発現レベルが抑制されること、MMP-9活性が抑制されるこ
と、及び/またはJNK1のリン酸化が抑制されることである。miR-33bレベル低
減物質による、MMP-9、MCP-1及び/またはJNK1のmRNA発現レベルまた
はそれらがコードするタンパク質の発現レベルの抑制の程度は、miR-33bレベル低
減物質と細胞(マクロファージ細胞など)を接触させた後、非接触時または陰性対照物質
接触時と比較して、MMP-9、MCP-1及び/またはJNK1のmRNA発現レベル
またはそれらがコードするタンパク質の発現レベルが0.8倍以下、0.7倍以下、0.
6倍以下、0.5倍以下、0.4倍以下、0.3倍以下、0.2倍以下または0.1倍以
下があげられ、好ましくは0.6倍以下、より好ましくは0.3倍以下、さらに好ましく
は0.1倍以下があげられる。また、miR-33bレベル低減物質による、MMP-9
活性の抑制、及びJNK1のリン酸化の抑制の程度は、miR-33bレベル低減物質と
細胞(マクロファージ細胞など)を接触させた後、非接触時または陰性対照物質接触時と
比較して、MMP-9活性及び/またはJNK1のリン酸化レベルが0.8倍以下、0.
7倍以下、0.6倍以下、0.5倍以下、0.4倍以下、0.3倍以下、0.2倍以下ま
たは0.1倍以下があげられ、好ましくは0.6倍以下、より好ましくは0.3倍以下、
さらに好ましくは0.1倍以下があげられる。
【0052】
また、本発明化合物による標的mRNAがコードするタンパク質発現レベルの増加につ
いても、標的タンパク質が調整する疾患関連物質が疾患の改善の方向へ調整される程度で
あればいずれのものでもよいが、本発明化合物と細胞を接触させた後、非接触時または陰
性コントロール物質接触時と比較して、標的タンパク質発現レベルが少なくとも1.2倍
以上、好ましくは1.5倍以上、さらに好ましくは2倍以上上昇する程度が例示される。
【0053】
miR-33b阻害物質としては、miR-33bの機能を阻害するものであってもよ
い。本発明化合物によるmiR-33bの機能を阻害するとは、miR-33bの標的m
RNA、および/または標的タンパク質の発現レベルを増加させ、あるいはmiR-33
bの標的核酸へ作用し、その結果としてmiR-33b特異的なシグナル伝達経路を抑制
することで、疾患関連物質が疾患の改善の方向へ調整されることをいう。疾患関連物質が
疾患の改善の方向へ調整されるとは、具体的には、例えば、細胞の炎症状態の抑制であり
、例えば、MMP-9、MCP-1及び/またはJNK1のmRNAまたはタンパク質の
発現レベルが抑制されること、MMP-9活性が抑制されること、及び/またはJNK1
のリン酸化が抑制されることである。したがって、本発明化合物は、MMP-9、MCP
-1及び/またはJNK1のmRNAの発現レベルを抑制させるために使用されうる。ま
た、本発明化合物は、MMP-9、MCP-1及び/またはJNK1のタンパク質の発現
レベルを抑制させるために使用されうる。
【0054】
miR-33bレベル低減物質としては、具体的には、例えば、miR-33bに対す
るアンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、shRNAまたはこれらを発現するベ
クターが挙げられるが、miR-33bに対するアンチセンスオリゴヌクレオチド(以下
「本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチド」と称することがある)が好ましく用いられ
る。また、miR-33b阻害物質としてmiR-33bの機能を阻害する化合物を用い
てもよい。
【0055】
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、miR-33bの細胞内におけるレベル
を低減させる、1)7~20残基からなり、2)配列番号4に記載のmiR-33bステ
ムループ配列、好ましくは配列番号1に記載のmiR-33b(hsa-miR-33b
-5pともいう)の核酸塩基配列の等長部分に90%以上相補的であるアンチセンスオリ
ゴヌクレオチドである。等長部分とは、特定の塩基配列において、アンチセンスオリゴヌ
クレオチドの各核酸塩基配列と、miR-33bの核酸塩基配列とで相補性を有する部分
を意味する。つまり、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドの核酸塩基配列は、mi
R-33bの核酸塩基配列の等長部分に対して完全相補的であることが望ましいが、1つ
または複数のミスマッチ核酸塩基を有していてもよく、85%以上、90%以上、好まし
くは95%以上の相補性を有するものが用いられる。このようなミスマッチを有する本発
明化合物の核酸塩基配列とは、miR-33bとハイブリダイズでき、miR-33bの
細胞内におけるレベルを低減させるものであればいずれのものでもよいが、miR-33
aへの結合を低下させるため、配列番号1に記載のmiR-33bの核酸塩基配列の5´
末端から数えて9番目かつ10番目の核酸塩基とはミスマッチを有さないことが好ましい
【0056】
上記ミスマッチ核酸塩基は、クラスター化されていてもよいし、相補的核酸塩基が挟ま
れていてもよく、互いにまたは相補的核酸塩基と連続的である必要はない。miR-33
bとの本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドの相補性パーセントは、例えば、当技術
分野で既知のBLASTプログラム(basic local alignment se
archtools)及びPowerBLASTプログラム(Altschul et a
l.,J.Mol.Biol.,1990,215,403 410;Zhang and
Madden,Genome Res.,1997,7,649 656)を使用して、
慣例的に決定することができる。相同性パーセント、配列同一性または相補性は、例えば
、ギャッププログラム(Wisconsin Sequence Analysis Pa
ckage,Version 8 for Unix,Genetics Computer
Group,University Research Park,Madison Wi
s.)によって、Smith and Waterman(Adv.Appl.Math.
,1981,2,482 489)のアルゴリズムを使用するデフォルト設定を使用して
決定することができる。
【0057】
配列番号1に記載のmiR-33bの核酸塩基配列は、miR-33bステムループ配
列内に含まれており、本発明化合物が標的とするmiR-33b核酸塩基配列には、mi
R-33bステムループ配列全長も含まれる。
【0058】
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドの核酸塩基配列は、配列番号4に記載のmi
R-33bステムループ配列の塩基配列の相補鎖、好ましくは配列番号1のmiR-33
b塩基配列の相補鎖の等長部分としていずれのものでもよく、配列長はいずれのものであ
ってもよいが、例えば、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17
、18、19または20残基が挙げられ、好ましくは、配列番号1に記載のmiR-33
bの核酸塩基配列において、5´末端から数えて9~10番目に相補的な配列を含み、配
列長は、12~19残基が好ましく、12~16残基がより好ましい。
具体的には例えば、AACAGCAATGCA(配列番号5)または
TGCAACAGCAATGCAC(配列番号6)等が挙げられ、
AACAGCAATGCA(配列番号5)
が好ましく用いられる。
ある種の実施態様では配列番号5または6の配列のシトシン塩基の一部または全部が5
-メチルシトシンであるアンチセンスオリゴヌクレオチドである。一部のシトシン塩基が
5-メチルシトシンである修飾オリゴヌクレオチドとしては、例えば、配列番号8、10
が挙げられる。
【0059】
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、修飾オリゴヌクレオチドでありうる。修
飾オリゴヌクレオチドとしては上記の5-メチルシトシンのような修飾塩基を含むもので
もよいし、オリゴヌクレオチドを構成する少なくとも1つのヌクレオシドが修飾糖を含む
ものでもよい。
本発明において修飾糖とは、糖部分が修飾されたものをいい、当該修飾糖を1つ以上含
む修飾オリゴヌクレオチドは、ヌクレアーゼ安定性の増強、結合親和性の増大等の有利な
特徴を有する。修飾糖のうち少なくとも一つは、二環式糖または置換糖部分を有すること
が好ましい。
【0060】
修飾糖を有するヌクレオシドの例としては、5’-ビニル、5’-メチル(RまたはS
)、4’-S、2’-F、2’-OCH、2’-OCHCH、2’-OCHCH
F及び2’-O(CHOCH置換基を含むヌクレオシドが挙げられる。2’位
の置換基は、アリル、アミノ、アジド、チオ、O-アリル、O-C~C10アルキル、
OCF、OCHF、O(CHSCH、O(CH-O-N(R)(R
)、O-CH-C(=O)-N(R)(R)及びO-CH-C(=O)-N(
)-(CH-N(R)(R)(式中、各R、R及びRは独立に、H
または置換もしくは無置換のC~C10アルキルである)から選択することもできる。
【0061】
二環式糖を有するヌクレオシドの例としては、4’と2’のリボシル環原子の間の架橋
を含むヌクレオシドが挙げられる。ある種の実施態様では、本明細書で提供されるオリゴ
ヌクレオチドは、架橋が以下の式の1つを含む、1つまたは複数の二環式糖を有するヌク
レオシドを含む:4’-(CH)-O-2’(LNA);4’-(CH)-S-2’
;4’-(CH-O-2’(ENA);4’-CH(CH)-O-2’及び4’
-CH(CHOCH)-O-2’(及びそれらの類似物。米国特許7,399,84
5号を参照されたい);4’-C(CH)(CH)-O-2’(及びそれらの類似物
。WO2009/006478号を参照されたい);4’-CH-N(OCH)-2
’(及びそれらの類似物。WO2008/150729号を参照されたい);4’-CH
-O-N(CH)-2’(US2004-0171570号を参照されたい);4’
-CH-N(R)-O-2’(式中、Rは、H、C1~C12アルキルまたは保護基で
ある)(米国特許7,427,672号を参照されたい);4’-CH-C(H)(C
)-2’(Chattopadhyaya et al.,J.Org.Chem.,
2009,74,118-134を参照されたい);並びに4’-CH-C(=CH
)-2’(及びそれらの類似物。WO2008/154401号を参照されたい)。
【0062】
ある種の実施態様(AmNA)では、二環式糖を有するヌクレオシドは以下の式:
【化3】


AmNA

[式中、Rは核酸塩基であり、R1、R2はそれぞれ独立して置換されてもよいリン酸基
を示す。]
で表されるヌクレオシドを挙げることができる。修飾糖の調製方法はWO11/0524
36等により当業者に周知である。
【0063】
ある種の実施態様では、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、少なくとも1つ
の核酸塩基がシトシンである核酸塩基配列を有する。ある種の実施態様では、少なくとも
1つのシトシンは修飾核酸塩基の5-メチルシトシンである。ある種の実施態様では、す
べてのシトシンは5-メチルシトシンである。
【0064】
RNA及びDNAの天然に存在するヌクレオシド間結合は、3’-5’ホスホジエステ
ル結合である。1つまたは複数の修飾された、すなわち天然に存在しない、ヌクレオシド
間結合を有するオリゴヌクレオチドは、例えば、細胞取り込みの増強、標的核酸に対する
親和性の増強及びヌクレアーゼの存在下での安定性の増大などの特性が理由で、天然に存
在するヌクレオシド間結合を有するオリゴヌクレオチドよりも好ましいことが多い。
【0065】
修飾ヌクレオシド間結合を有するオリゴヌクレオチドは、リン原子を保持するヌクレオ
シド間結合及びリン原子を有さないヌクレオシド間結合を含む。代表的なリン含有ヌクレ
オシド間結合としては、これらに限定されないが、ホスホジエステル、ホスホトリエステ
ル、メチルホスホネート、ホスホルアミデート及びホスホロチオエートの1つ以上が挙げ
られる。リン含有及び非リン含有結合の調製方法は周知である。
【0066】
ある種の実施態様では、本発明修飾オリゴヌクレオチドのヌクレオシド間結合は、全て
ホスホロチオエートヌクレオシド間結合である。
【0067】
本明細書中、ヌクレオチドを表す「Gas」等の記号において、左側位置に示す略号は
核酸塩基部分を意味し、中央位置に示す略号は糖部分を意味し、そして、右側位置に示す
略号はヌクレオシド間結合の様式を意味する。
【0068】
ある種の実施態様では、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、
下式:
Tas Gds Mas Ads Aas Cds Aas Gds Mas Ads
Aas Tds Gas Cds Aas Cd;
で示される修飾オリゴヌクレオチドであって、
式中、
各核酸塩基が下記記号:
A=アデニン、T=チミン、G=グアニン、C=シトシン、M=5-メチルシトシンに従
って示され;
各糖部分が下記記号:
a=AmNAの糖部分、d=2’-デオキシリボース、
に従って示され;
各ヌクレオシド間結合が下記記号:
s=ホスホロチオエートに従って示される、アンチセンスオリゴヌクレオチドである。
【0069】
ある種の実施態様では、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、
下式:
Aas Ads Mas Ads Gas Cds Aas Ads Tas Gds
Mas Ad;
で示される修飾オリゴヌクレオチドであって、
式中、
各核酸塩基が下記記号:
A=アデニン、T=チミン、G=グアニン、C=シトシン、
に従って示され;
各糖部分が下記記号:
a=AmNAの糖部分、d=2’-デオキシリボース、
に従って示され;
各ヌクレオシド間結合が下記記号:
s=ホスホロチオエートに従って示される、アンチセンスオリゴヌクレオチドである。
【0070】
(miR-33b阻害物質の選抜方法)
本発明化合物の選抜方法としては、本発明化合物がmiR-33bの細胞内におけるレ
ベルの低減あるいは機能の阻害を検証できる方法であればいかなるものでもよいが、本発
明化合物ではmiR-33bレベル低減率がmiR-33aレベル低減率より高いmiR
-33bレベル低減物質が好ましく用いられるため、miR-33bおよびmiR-33
aの細胞内におけるレベルの低減を検証できる方法が好ましく用いられる。具体的には、
例えば、以下に示すin vitro、及びin vivoの検証方法が用いられる。
【0071】
本発明化合物のmiR-33bの細胞内におけるレベルの低減に対するin vitr
o検証は、miR-33bが発現している細胞系、好ましくはmiR-33bおよびmi
rR-33aが発現している細胞系(以下、「miR-33b発現細胞系」と称すること
がある)であればいずれのものも用いることができるが、例えば、THP-1細胞(ヒト
マクロファージ細胞、例えば、ATCC TIB-202)が挙げられる。また、ヒトのmiR-33
b、好ましくはmiR-33bおよびmiR-33aを導入した細胞系を選択することも
できる。miR-33bまたはmiR-33bおよびmiR-33aの導入に用いる細胞
系は、動物由来で通常用いられる細胞であれば特に制限はない。これらの細胞系は商業的
供給業者から入手可能であり、一般的に用いられる市販の試薬を使用して、供給業者の説
明書に従って培養される。これらの細胞系へのmiR-33bまたはmiR-33bおよ
びmiR-33aの導入方法としては、一般的には、例えば、miR-33bまたはmi
R-33bおよびmiR-33aの発現用のベクターをトランスフェクションする方法等
が挙げられるがこれに限られない。
【0072】
本発明化合物をmiR-33b発現細胞系に接触させる方法も特に制限はないが、一般
的に核酸を細胞内へ導入するために用いられる方法が挙げられる。具体的には、例えば、
リポフェクション法やエレクトロポレーション法、Gymnosis法等である。
【0073】
miR-33bまたはmiR-33aの細胞内におけるレベルは、当技術分野で既知の
様々な方法でアッセイすることができる。具体的には、ノーザンブロット解析、競合的ポ
リメラーゼ連鎖反応(PCR)または定量的リアルタイムPCR等が挙げられる。miR
NAを単離する際には、当技術分野で周知の方法を使用して、例えば、製造業者の推奨プ
ロトコールに従ってTriPure Isolation Reagent (Roche)、Maxwell RSC m
iRNA Tissue Kit試薬(Promega)等を使用することができる。こ
のようにしてmiR-33bまたはmiR-33bおよびmiR-33aの発現レベルを
解析することができる。
【0074】
本発明化合物が、miR-33bの細胞内におけるレベルを低減させること、またはm
iR-33b発現細胞の表現型を変化させる能力を評価するために、in vivoで試
験を行うことができる。本発明化合物のmiR-33bの当該細胞内におけるレベルの低
減に対する検証は、例えば、miR-33b、好ましくはmiR-33bおよびmiR-
33aを発現する動物に対して、本発明化合物を投与し、当該細胞において上述のmiR
-33bまたはmiR-33bおよびmiR-33a発現レベルの解析を行う方法が挙げ
られる。また、本発明化合物によるmiR-33b発現細胞の表現型を変化させる能力の
評価は、実験用の疾患モデル、例えば動脈瘤のモデル、例えば、塩化カルシウム塗布モデ
ルを用いて実施することができる。
【0075】
本発明化合物のmiR-33bのレベル低減またはmiR-33bの機能阻害に対する
in vitroまたはin vivo検証は、miR-33b発現細胞系またはmiR
-33b、好ましくはmiR-33bおよびmiR-33aを発現する動物に対して、本
発明化合物を投与し、MMP-9、MCP-1及び/またはJNK1のmRNAもしくは
タンパク質の発現レベルを測定することで行うことができる。
【0076】
(本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドの製造方法)
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドは常法によって合成することができ、例えば
、市販の核酸合成装置によって容易に合成することができる。また、アンチセンスオリゴ
ヌクレオチドに含まれてもよい、ヌクレオシドの糖修飾のAmNAは、WO11/052
436に開示されている方法で合成することができる。
【0077】
本発明のsiRNAおよびshRNAは、人工的に化学合成することができる。また、
siRNAおよびshRNAは、例えば、T7RNAポリメラーゼおよびT7プロモータ
ーを用いて、鋳型DNAからアンチセンスおよびセンスのRNAをインビトロで合成する
ことができる。
【0078】
本発明のmiR-33bを阻害する活性を有する化合物は、例えば、Proc. Na
tl. Acad. Sci. USA. 113(21):5898-903(201
6)、Mol. Pharm.16(2):914-920(2019)、J. Am.
Chem. Soc.139(9):3446-3455(2017)等に開示されて
いる方法で合成することができる。
【0079】
(本発明化合物による動脈瘤治療)
本発明におけるmiR-33b阻害物質によって、動脈瘤を治療又は予防することがで
きる。
動脈瘤は、炎症メディエーター亢進等による慢性炎症と細胞外基質代謝異常がその主要
な病態である。これらが相互に関連しながら病態を増幅・遷延し大動脈瘤を進展させる。
炎症性メディエーターとしては、例えば、chemoattractant prot
ein (MCP-1)、tumor necrosis factor(TNF)、i
nterleukin(IL)-6、IL-1等の炎症性サイトカインや、プロスタグラ
ンディンやロイコトリエン等の脂質メディエーター、ガスメディエーターの一酸化窒素あ
るいは種々の酸化ストレスが知られている。炎症メディエーターは各種炎症細胞を誘導し
、浸潤した炎症細胞はさらなる炎症メディエーターを分泌して炎症の病態過程を増幅およ
び遷延すると考えられている。
また、炎症メディエーターは、細胞内シグナル伝達分子を活性化する.細胞内シグナル
伝達分子としては、例えば、Janus kinase(JAK)、mitogen a
ctivated protein(MAP)キナーゼ、nuclear factor
(NF)-κB、signal transducer and activator
of transcription(STAT)、transforming gro
wth factor(TGF)、SMADなどが挙げられる。
シグナル伝達分子の活性化は、細胞外基質分解酵素の分泌を促進する.その結果、大動
脈壁の主要な構成成分であるエラスチンやコラーゲン等の分解が亢進し、大動脈壁の脆弱
化を引き起こす。細胞外基質分解酵素としては、例えば、マトリックスメタロプロテアー
ゼ(MMP)-9あるいはMMP-2が挙げられる。さらに、シグナル伝達分子の活性化
は、細胞外基質合成酵素の産生を抑制や平滑筋細胞死の誘導を引き起こす。
このようにして、細胞外基質代謝バランスが分解亢進に傾くとともに平滑筋細胞が減少
し、壁が脆弱化し、動脈瘤の形成および進展に至る。このような炎症メディエーター産生
やシグナル伝達分子の活性化は、動脈瘤に関与する細胞、例えば、マクロファージ、単球
、血管内皮細胞または平滑筋細胞で生じており、例えば、マクロファージの活性化を抑制
することが、動脈瘤の形成および進展を防ぐには重要である。
【0080】
本発明者らが検討した結果、後述する実施例2に示すように、本発明におけるmiR-
33b阻害物質は、miR-33bの細胞内におけるレベルを低減させ、動脈瘤の形成お
よび進展を抑制した。miR-33b阻害物質による動脈瘤の形成および進展の抑制メカ
ニズムとしては、例えば、後述する実施例2に示すように、炎症性メディエーターのMC
P-1の発現抑制、細胞内シグナル伝達分子のJAKの活性化抑制および/または細胞外
基質分解酵素のMMP-9の活性抑制が挙げられるが、miR-33bの下流標的は多数
存在し、下流には複数のシグナル伝達経路が存在することから、これらに限られない。一
方、miR-33aに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドは、後述する実施例2に示
すように、miR-33bの発現を上昇させ、動脈瘤の形成および進展を引き起こした。
このように、本発明では、動脈瘤形成におけるmiR-33bの役割を初めて明らかに
し、miR-33bを選択的に阻害する阻害物質を用いることで動脈瘤を予防または治療
できることを見出したのである。
以上のように、miR-33b阻害物質は、動脈瘤の発生または拡大を抑制することが
でき、動脈瘤を退縮させることができるため、動脈瘤の治療、予防、または軽減をするこ
とができる。
【0081】
miR-33b阻害物質は、血管壁の脆弱化を防ぐことにより動脈瘤の発生を阻止し、
動脈瘤のそれ以上の拡大を阻止し、あるいは動脈瘤を退縮または消失させ、これらを通し
て動脈瘤の破裂を阻止することができる。
【0082】
本発明において、動脈瘤は、通常、動脈瘤といわれる病態を全て含むものである。動脈
瘤はその発生部位、その原因、またはその形状により様々に分類され、発生部位による分
類としては、例えば、胸部大動脈瘤や腹部大動脈瘤を含む大動脈瘤、脳動脈瘤や腎動脈瘤
などの内臓動脈瘤または末梢動脈に発生する瘤等が挙げられ、本発明において好ましくは
大動脈瘤、脳動脈瘤または腎動脈瘤、より好ましくは大動脈瘤または脳動脈瘤、特に好ま
しくは大動脈瘤が挙げられる。壁構造によっては、例えば、真性動脈瘤、解離性動脈瘤、
仮性動脈瘤等のように分類することができる。原因による分類としては、例えば、動脈硬
化性動脈瘤、炎症性動脈瘤、先天性動脈瘤、外傷性動脈瘤または細菌性動脈瘤、真菌性動
脈瘤、梅毒性動脈瘤に代表される感染性動脈瘤等のように分類することができる。形状に
よる分類としては、例えば、嚢状動脈瘤と紡錘状動脈瘤等のように分類することができる
。本発明はこれらの分類に特に限定されない。
【0083】
動脈瘤は、例えば、マルファン症候群、孔脳症、ロイス・ディーツ症候群、常染色体優
性脳動脈症、エーラス・ダンロス症候群、家族性大動脈瘤・解離、遺伝性脳小血管病、川
崎病、ベーチェット病または高安動脈炎に伴う動脈瘤であってもよく、これらの疾患に伴
う、胸部大動脈瘤、腹部大動脈瘤、脳動脈瘤、腎動脈瘤などであってもよいが、これらに
限定されない。
【0084】
本発明におけるmiR-33b阻害物質は、動脈瘤に関与する細胞、例えばマクロファ
ージ、単球、血管内皮細胞、平滑筋細胞におけるMMP-9、MCP-1及び/またはJ
NK1のmRNAもしくはタンパク質の発現レベルを抑制させ、MMP-9活性を抑制さ
せ、及び/またはJNK1のリン酸化を抑制させる。従って、これらの因子のうち少なく
とも1つの発現又は活性が上昇している血管障害疾患の予防および治療に用いることがで
きる。
【0085】
上述のとおりmiR-33b阻害物質は動脈瘤を治療又は予防するために使用すること
ができ、したがって、本発明は、動脈瘤の治療に使用するためのmiR-33b阻害物質
;動脈瘤の治療に使用するための医薬組成物;動脈瘤を治療するためのmiR-33b阻
害物質の使用;動脈瘤の治療用医薬の製造におけるmiR-33b阻害物質の使用;動脈
瘤の治療用医薬の製造に使用するためのmiR-33b阻害物質;有効量のmiR-33
b阻害物質を、その必要のある対象に投与することを含む、動脈瘤の治療または予防方法
;を提供する。
【0086】
本発明化合物、またはその医薬的に許容可能な塩、および薬学的に許容可能な担体を含
む本発明組成物は、医薬組成物として用いることができる。医薬組成物の調製のために、
アンチセンスオリゴヌクレオチドを1つ以上の医薬的に許容可能な活性または不活性な物
質と混合することができる。医薬組成物の製剤化のための組成物及び方法は、投与経路、
疾患の程度または投与される用量を含めたいくつかの判断基準によって選択することがで
きる。
例えば、非経口投与のための組成物としては、例えば、注射剤が用いられ、注射剤は静
脈注射剤、皮下注射剤、皮内注射剤、筋肉注射剤、点滴注射剤、関節内注射剤などの剤形
を包含する。かかる注射剤は、自体公知の方法に従って、例えば、上記アンチセンスオリ
ゴヌクレオチドを通常注射剤に用いられる無菌の水性もしくは油性液に溶解、懸濁または
乳化することによって調製する。注射用の水性液としては、例えば、リン酸緩衝食塩水、
生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液などが用いられ、適当な溶解補助剤
、例えば、アルコール(例、エタノール)、ポリアルコール(例、プロピレングリコール、
ポリエチレングリコール)、非イオン界面活性剤〔例、ポリソルべート80、HCO-50(polyox
yethylene(50mo1)adduct of hydrogenated castor oil)〕などと併用してもよい。また、
緩衝剤、pH調整剤、等張化剤、無痛化剤、保存剤、安定化剤などを含むことができる。
【0087】
経口投与のための組成物としては、固体または液体の剤形、具体的には錠剤(糖衣錠、
フイルムコーティング錠を含む)、丸剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤(ソフトカプセル剤を
含む)、シロツプ剤、乳剤、懸濁剤などがあげられる。かかる組成物は自体公知の方法に
よって製造され、製剤分野において通常用いられる担体、希釈剤もしくは賦形剤を含有す
るものである。例えば、錠剤用の担体、賦形剤としては、乳糖、でんぶん、蔗糖、ステア
リン酸マグネシウムなどが用いられる。
【0088】
また、本発明の医薬組成物には、核酸導入用試薬を含むことができる。該核酸導入用試
薬としては、リポソーム、リポフェクチン、リポフェクタミン、DOGS(トランスフェ
クタム)、DOPE、DOTAP、DDAB、DHDEAB、HDEAB、ポリブレン、
あるいはポリ(エチレンイミン)(PEI)等の陽イオン性脂質等を用いることができる
【0089】
また、本発明の医薬組成物に含まれるアンチセンスオリゴヌクレオチドは、1つまたは
複数の場所で、コレステロール、糖質、リン脂質、ビオチン、フェナジン、ビタミン、ペ
プチド、葉酸塩、フェナントリジン、アントラキノン、アクリジン、フルオレセイン、ロ
ーダミン、クマリン及び色素等のコンジュゲート基とコンジュゲートしたものが好ましく
用いられる。上記コンジュゲートしたアンチセンスオリゴヌクレオチドは、その活性、動
脈瘤部位を標的とする組織または細胞への取り込みを増強するものを選択することができ
る。上記コンジュゲート基は、コレステロールまたは脂質が好ましい。
【0090】
上記コンジュゲート基はアンチセンスオリゴヌクレオチドに直接結合しているものか、
あるいはコンジュゲート基は、アミノ、ヒドロキシル、カルボン酸、チオール、不飽和部
分(例えば、二重または三重結合)、8-アミノ-3,6-ジオキサオクタン酸(ADO
)、スクシニミジル4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレー
ト(SMCC)、6-アミノヘキサン酸(AHEXまたはAHA)、置換C1~C10ア
ルキル、置換若しくは非置換C2~C10アルケニル、及び置換若しくは非置換C2~C
10アルキニルから選択される連結部分によりアンチセンスオリゴヌクレオチドに結合し
ている。ここで、置換基は、アミノ、アルコキシ、カルボキシ、ベンジル、フェニル、ニ
トロ、チオール、チオアルコキシ、ハロゲン、アルキル、アリール、アルケニル及びアル
キニルから選択される。
【0091】
本発明の医薬組成物は、副作用の少ないものを選択することができる。副作用としては
、注射部位反応、肝機能検査の異常、腎機能異常、肝毒性、腎毒性、中枢神経系異常、ミ
オパシー及び倦怠等が挙げられる。例えば、血液中のALT、ASTまたはγ-GTPレ
ベルの上昇は、肝毒性または肝機能異常を示し得る。例えば、ビリルビンの上昇は、肝毒
性または肝機能異常を示し得る。また、尿たんぱくの上昇、血液中のクレアチニン、もし
くはBUNの上昇は、腎毒性または腎機能異常を示し得る。
【0092】
本発明の医薬組成物は、これを対象個体に適当な方法で投与することにより、動脈瘤の
治療、予防、または軽減をすることができる。すなわち、本発明は、miR-33b阻害
物質、好ましくはmiR-33bに対するアンチセンスオリゴヌクレオチド、もしくはそ
れを含む医薬組成物の有効量を、それを必要とする対象個体に適当な方法で投与すること
により、動脈瘤の治療、予防、または軽減をする方法を提供する。
【0093】
本発明の医薬組成物の投与形態としては、通常の静脈内、動脈内などの全身投与であっ
てもよいし、局所注射又は経口投与などの局所投与であってもよい。本発明の医薬組成物
の投与量は、使用目的、疾患の重篤度、患者の年齢、体重、性別等により適宜変更し得る
が、通常、アンチセンスオリゴヌクレオチド量として、0.1ng~100mg/kg/日、好ましくは
、1ng~10mg/kg/日の範囲から選ぶことができる。
【実施例0094】
非限定開示及び参照による組み込み
本明細書に記載のある種の化合物、組成物及び方法は、ある種の実施態様に従って特異
的に記載されているが、以下の実施例は、本明細書に記載の化合物を例示する役割を果た
すにすぎず、これを限定することを意図しない。本出願に記載される参考文献のそれぞれ
は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0095】
実施例1
アンチセンスオリゴヌクレオチドの合成および精製
AmNAアミダイトは、株式会社大阪合成有機化学研究所より入手し、AmNA含有ア
ンチセンスオリゴヌクレオチドは、味の素バイオファーマサービス・株式会社ジーンデザ
インにおいて合成し精製された。
合成したアンチセンスオリゴヌクレオチドを以下の表1に示す。33b-2-AmNA
および33b-1-AmNAは、miR-33bに対するオリゴヌクレオチドを、33a
-2-AmNAおよび33a-1-AmNAは、miR-33aに対するオリゴヌクレオ
チドを示し、NEG-AmNAはコントロールアンチセンスオリゴヌクレオチドを示す。
アンチセンスオリゴヌクレオチドの表記は、各ヌクレオチドが3文字で表される。但し3
’末端のヌクレオチドはヌクレオシド間結合がないため2文字で表される。
1)第1文字は大文字で表され、下記核酸塩基を示す:
A=アデニン、T=チミン、G=グアニン、C=シトシン、M=5-メチルシトシン、
2)第2文字は下記各糖部分を示す:
a=AmNAの糖部分、d=2’-デオキシリボース、
3)第3文字は下記ヌクレオシド間結合を示す:
s=ホスホロチオエート。
【0096】
【表1】
【0097】
実施例2
miR-33bノックインマウスを用いた塩化カルシウム誘発大動脈瘤モデルにおける3
3a-2-AmNA(12)、33b-2-AmNA(12)の薬理効果の測定
C57BL/6をバックグラウンドとした、miR-33bノックインマウスを用いた
。MiR-33bノックインマウスは SCIENTIFIC REPORTS 4:5
312 DOI:10.1038/srep05312で報告されているものを使用した
。8週齢のmiR-33bノックインオスマウスを用いて塩化カルシウムを塗布した腹部
大動脈瘤モデル(Atherosclerosis 2013; 226:29-39.
報告の方法に準ずる)を作成した。マウスへの麻酔方法は3種混合麻酔(メデトミジン
0.3 mg/kg、ミダゾラム 4.0 mg/kg、ブトルファノール 1.0 m
g/kg)を腹腔内投与とした。腹部大動脈瘤モデルは、腎動脈下から総腸骨動脈分岐部
まで分離し、その外表面へガーゼに浸み込ませた0.5 mol/Lの塩化カルシウムを
塗布し、20分後に塩化カルシウム塗布ガーゼを取り除き、生理食塩水を浸み込ませたガ
ーゼにて腹部大動脈周囲を洗浄の上、離開創を縫合とした。腹部大動脈瘤作成後1週間後
あるいは6週間後に、腹部大動脈瘤の最大径並びに長軸方向伸展距離測定、解析を行った
。この際、上記三種混合麻酔薬の通常の5倍量を用いて安楽死とし、左心室よりPBSを
生理的な圧で還流とした。腹部大動脈瘤の最大径並びに長軸方向伸展距離計測は、対外で
の血管構造の虚脱を防ぐため、大動脈を体内から取り出す前にメジャーを用いて計測、写
真撮影の後に解析とした。
【0098】
1週間後に解析を行った群ではアンチセンスオリゴヌクレオチド投与(33a-2-A
mNA(12)、33b-2-AmNA(12))は、外科的処置前日、外科的処置翌日
、外科的処置4日後にそれぞれ10 mg/kgの量を皮下注射とした。6週後に解析を
行った群では、外科的処置前日、外科的処置翌日、外科的処置1週間後から6週間後まで
週1回それぞれ10mg/kgの量を皮下注射とした。最終投与後7日後に採材し各種測
定をおこなった.
【0099】
全てのマウスは京都大学医学部附属動物実験施設にて飼育とし、その施設はSPF(s
pecific pathogen free)の状態が維持されており、この研究は京
都大学医の倫理委員会の認可を得て行ったものである。
【0100】
アンチセンスオリゴヌクレオチド(NEG-AmNA(12)、33a-2-AmNA
(12)、33b-2-AmNA(12))投与によるmiR-33aおよびmiR-
33bの発現レベル測定を行った(以下、図において、NEG-AmNA(12)を「c
ontrol」、33a-2-AmNA(12)を「Anti-miR-33a」、33
b-2-AmNA (12)を「Anti-miR-33b」と称することがある)。m
iRNA測定は、RNAはTriPure Isolation Reagent(Ro
che)を用いて分離、純化とし、TaqMan MicroRNA assay pr
otocols(Applied Biosystems)を用いて測定とした。生成物
はサーマルサイクラー(ABI Prism 7900HT sequence det
ection system)を用いて解析し、発現はU6 snRNAを用いて標準化
とした。
【0101】
図1に示すように、6週間後に解析を行った群では、大動脈において、33a-2-A
mNA (12)投与群ではmiR-33aレベルの強い抑制が、また、33b-2-A
mNA (12)投与群ではmiR-33bレベルの強い抑制が観察された。一方、33
a-2-AmNA (12)投与群ではmiR-33bレベルの増加が観察された。mi
R-33aレベル低減率/miR-33bレベル低減率の値は、0.23であった。
【0102】
miR-33bノックインマウスを用いた塩化カルシウム誘発大動脈瘤モデルにおいて
、誘発1週間後の、33a-2-AmNA(12)33b-2-AmNA(12)投与に
よるMMP-9、MCP-1およびJNK1タンパク質の発現レベルまたはリン酸化レベ
ルを以下の方法で測定した。十分量の麻酔を施したマウスへ左室から生理的な圧でPBS
を用いて還流とし、標本を採取とした。ウエスタンブロッティングは、標準的な方法を用
いて行った。Complete mini protease inhibitor(R
oche)、ALLN(25 mg/mL)、0.5 mM NaF、10 mM Na
3VO4とともに、100 mmol/L Tris-HCl、75 mmol/L N
aCl、1% Triton X-100で作成したlysis bufferを用いた
。タンパク濃度はbicinchoninic acid protein assay
kit (Bio-Rad)を用いて測定し、NuPAGE 4%-12% Bis-
Tris (Invitrogen)ゲルを用いて泳動の後、Protran nitr
ocellulose transfer membrane (Whatman)へ転
写とした。メンブレンは1~5%の無脂肪乳を用いてブロッキングとし、一次抗体として
Anti-phospho-SAPK/JNK (1:500、 Cell Signa
ling 4668S)、anti-SAPK/JNK (1:500、 Cell S
ignaling 9252S)、Anti-GAPDH(1:3000、Cell S
ignaling 2118S)を用いて4℃で一晩撹拌とした。PBS-0.05%
Tween 20 (0.05% T-PBS)を用いて洗浄の後、2次抗体(anti
-rabbit、anti-mouse IgG-linked; 1:2000)を用
いて4℃で1時間撹拌し、PBS-0.05% Tween 20 (0.05% T-
PBS)を用いて洗浄の後にECL Western Blotting Detect
ion Reagent (GE Healthcare)を加えて撮像とした。
【0103】
ゼラチンザイモグラフィ法は、上記と同様に、lysis bufferを用いてタン
パクを抽出し、10 μgのタンパクを測定に使用した。Gelatin-Zymogr
aphy Kit(コスモバイオ)を用いて添付文書通りにMMP-9の活性を測定した
【0104】
MCP-1タンパク質の発現レベルは、腹部大動脈瘤モデルを作成後に採取した血清50
μLをサンプルとし、enzyme-linked immunosorbent assay (ELISA) kit (R&D Systems)を
用いてMCP-1濃度測定を添付文書通りに行った。
【0105】
図2に示すように、33a-2-AmNA(12)投与群では、MCP-1およびJN
K1のタンパク質発現レベルの上昇、ならびにJNK1のリン酸化レベルの上昇が認めら
れた。一方、33b-2-AmNA(12)投与群では、MCP-1およびJNK1のタ
ンパク質発現レベルの減少、ならびにJNK1のリン酸化レベルの減少が認められた。
【0106】
図3に示すように、33a-2-AmNA(12)投与群ではMMP-9活性の上昇が
、33b-2-AmNA(12)投与群ではMMP-9活性の減少が認められた。
【0107】
次に、miR-33bノックインマウスを用いた塩化カルシウム誘発大動脈瘤モデルを
用いて、33a-2-AmNA(12)または33b-2-AmNA(12)による、動
脈瘤形成への影響を調べた。その結果、1週間後の解析では、図4に示すように、33b
-2-AmNA(12)では、コントロール群(NEG-AmNA(12))で認められ
る動脈直径拡大および動脈長の伸展が認められなかった。6週後の解析でも、図5に示す
ように、33b-2-AmNA(12)では、コントロール群(NEG-AmNA(12
))で認められる動脈直径拡大および動脈長の伸展が認められなかった。すなわち動脈溜
の形成抑制効果が認められた。一方、33a-2-AmNA(12)では、コントロール
群よりもさらに動脈直径の拡大および動脈長の伸展が認められ、動脈瘤形成が促進された
【0108】
血清生化学解析については、麻酔を行ったマウスの下大静脈から血液を採取し4℃で血
清を遠心分離とし、-80℃で保存とした。生化学解析は日立7180自動分析装置(長
浜ライフサイエンス)を用いて行った。その結果、図6に示すように、肝機能パラメータ
であるAST、ALT、T-BiIや、腎機能パラメータであるCREにおいては、毒性
的に重篤な所見は認めらなかった。
【0109】
実施例3
ヒトマクロファージTHP-1細胞を用いた33a-2-AmNA(12)、33b-2
-AmNA (12)の薬理効果の測定
THP-1細胞はAmerican Type Cell Collectionより
購入とし、10%FBSを加えたRPMI 1640を用いて培養とし、100 nM
PMA(ナカライテスク)を用いてTHP-1マクロファージへ分化させた。AmNAを
THP-1マクロファージへtransfectionする際、Lipofectami
ne RNAiMAX Transfection Reagent (Thermo
Fisher SCIENTIFIC) を用いて添付文書通りに実験を行った。AmN
A含有アンチセンスオリゴ(NEG-AmNA(12)、33a-2-AmNA(12)
、33b-2-AmNA(12))は、50 nMで導入し、導入4日後に細胞を回収し
、以下のようにRNAの抽出と各種RNA測定をおこなった。
RNA抽出とリアルタイムPCRは、以下の手順で実施した。RNAはTriPure
Isolation Reagent (Roche)を用いて分離、純化とし、添付
文書通りにTranscriptor First Strand cDNA Synt
hesis Kit (Roche)を用いてcDNAを合成の後、SYBRTM Gr
een PCR Master Mix (Applied Biosystems)を
用いて特異遺伝子を40サイクル増幅とした。発現はハウスキーピング遺伝子としてβ-
actinあるいはU6を用いて標準化した。用いたプライマーの配列は以下の通りであ
る。
SREBF1 Forward、 AACAGTCCCACTGGTCGTAGAT(配
列番号12)
SREBF1 Reverse、 TGTTGCAGAAAGCGAATGTAGT(配
列番号13)
ACTB Forward、 AGGCACTCTTCCAGCCTTCC(配列番号1
4)
ACTB Reverse、 GCACTGTGTTGGCGTACAGG(配列番号1
5)
MMP-9 Forward、 TTGACAGCGACAAGAAGTGG(配列番号
16)
MMP-9 Reverse、 GCCATTCACGTCGTCCTTAT(配列番号
17)
MCP-1 Forward、 CCCCAGTCACCTGCTGTTAT(配列番号
18)
MCP-1 Reverse、 TGGAATCCTGAACCCACTTC(配列番号
19)
JNK1 Forward、 TGCCTGACTCACACTCAAGG(配列番号2
0)
JNK1 Reverse、 GGCTTCTCAGCAACTGAACC(配列番号2
1)
ABCA1 Forward、AACAGTTTGTGGCCCTTTTG(配列番号2
2)
ABCA1 Reverse、AGTTCCAGGCTGGGGTACTT(配列番号2
3)
【0110】
図7に示すように、33a-2-AmNA(12)導入群ではmiR-33aの発現レ
ベルが、33b-2-AmNA(12)導入群ではmiR33bの発現レベルに関し、そ
れぞれ強い抑制が観察された。一方、33a-2-AmNA(12)導入群では、miR
-33bの発現レベルの誘導が観察された。miR-33aレベル低減率/miR-33
bレベル低減率の値は、0.52であった。miR-33aおよびmiR-33bの標的
遺伝子であるABCA1の mRNA発現レベルについては、いずれのオリゴヌクレオチ
ドも顕著な増加を示し、それぞれmiR-33aまたはbを抑制していることが確認でき
た.
【0111】
図8に示すように、33a-2-AmNA(12)導入群ではSREBF1mRNA発
現レベルの誘導が認められた。miR-33bはSREBP1遺伝子のイントロンに存在
することから、SREBF1遺伝子の発現上昇が、33a-2-AmNA(12)導入群
つまりmiR-33aアンチセンスオリゴヌクレオチドを処理した際にmiR-33bの
発現が誘導される要因と考えられる。
【0112】
MMP-9mRNA、MCP-1mRNAおよびJNK1mRNA発現レベルの変動に
関し、TNFα非刺激時(vehicle)またはTNFα刺激時に、上述の方法でmR
NA発現レベルを測定をした。その結果、図9に示すように、33b-2-AmNA(1
2)投与群では、いずれのmRNAのレベルも抑制されたのに対し、33a-2-AmN
A(12)投与群ではいずれのmRNAのレベルも増加した。
【0113】
MMP-9タンパク質およびリン酸化JNKタンパク質レベルの変動に関し、上述の方
法で、ウエスタンブロットおよびゼラチンザイモグラフィー法により測定をした。その結
果、図10に示すように、33b-2-AmNA(12)投与群では、MMP-9の活性
およびリン酸化JNKタンパク質の発現レベルが抑制され、マクロファージ活性化抑制作
用を示すのに対し、33a-2-AmNA(12)投与群ではMMP-9の活性およびリ
ン酸化JNKタンパク質の発現レベルが増強し、マクロファージ活性化増強作用を示した

以上のように、マウス動脈瘤モデルでの33b-2-AmNA(12)の病態形成作用
メカニズムの一部であるマクロファージの活性化抑制作用について、ヒト細胞においても
同様の作用を示すことが明らかになり、miR-33b阻害物質はヒト動脈溜の治療にお
いて有用であることを示した。
【0114】
本明細書では、別段の記載がない限り、単数形の使用は複数形を含む。本明細書では、
別段の記載がない限り、「または」の使用は「及び/または」を意味する。さらに、用語
「含むこと(including)」並びに他の形態、例えば「含む(includes
)」及び「含まれる(included)」の使用は、限定的なものではない。さらに、
別段の記載がない限り、「要素」などの用語は、1つのユニットを含む要素と1つを超え
るサブユニットを含む要素を包含する。
【0115】
本明細書で使用されるセクションの見出しは、構成上の目的のためだけであり、記載さ
れる主題を制限するものとして解釈されるべきでない。これらに限定されないが、特許、
特許出願、記事、書籍及び論文を含めた、本出願で引用されるすべての文書または文書の
一部分は、本明細書で論じる文書の一部分に関して、及びその全体が、参照により本明細
書に明確に組み込まれる。
【0116】
具体的な定義が与えられない限り、本明細書に記載の分析化学、有機合成化学、並びに
医化学及び薬化学に関連して利用される命名法、及びそれらの手順及び技法は、当技術分
野で周知であり、一般に使用されるものである。標準的な技法を、本明細書中で使用する
化学合成及び化学分析に使用することができる。許容される場合、本明細書の開示の全体
を通して言及される、すべての特許、出願、公開出願及び他の刊行物、国立バイオテクノ
ロジー情報センター(NCBI)などのデータベースを通して入手可能なGenBank
受託番号及び関連する配列情報並びに他のデータは、本明細書に論じる文書の一部分に関
して、及びその全体が、参照により組み込まれる。
また、本明細書は、電子フォーマットの配列表と共に出願するが、当該電子フォーマッ
ト中に記載する配列表の情報は、参照によりその全体が本明細書中に組み込まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
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