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  • 特開-浮選装置及び浮選処理方法 図1
  • 特開-浮選装置及び浮選処理方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023003615
(43)【公開日】2023-01-17
(54)【発明の名称】浮選装置及び浮選処理方法
(51)【国際特許分類】
   B03D 1/14 20060101AFI20230110BHJP
   C22B 1/00 20060101ALI20230110BHJP
【FI】
B03D1/14 100
C22B1/00 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021104789
(22)【出願日】2021-06-24
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】亀谷 美哲
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001BA01
4K001CA03
(57)【要約】
【課題】多段式の浮選装置を用いた浮選処理において、前段側で行った浮選操作の処理条件の調整の影響を排除した状態で、後段側の浮選操作における処理条件の調整が行うことができるようにして、これにより、多段式の浮選装置を用いた浮選処理の処理効率を向上させること。
【解決手段】被処理鉱物粒子を含む処理対象液を、順次、複数の浮選機に通過させて個々の前記浮選機において浮選操作を繰り返す多段式の浮選装置を、一の浮選機と、これに連接される他の浮選機との間に、撹拌機を備える中間タンクが設置されている、浮選装置とする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理鉱物粒子を含む処理対象液を、順次、複数の浮選機に通過させて個々の前記浮選機において浮選操作を繰り返す多段式の浮選装置であって、
一の浮選機と、これに連接される他の浮選機との間に、撹拌機を備える中間タンクが設置されている、
浮選装置。
【請求項2】
前記中間タンクは、排出口の高さを変更可能なオーバーフロー排出口を備える、
請求項1に記載の浮選装置。
【請求項3】
前記中間タンクは、底面側に沈殿物排出口を有する、
請求項1又は2に記載の浮選装置。
【請求項4】
請求項1から3の何れかに記載の浮選装置を用いて、前段側の浮選操作で得た浮遊回収物を、逐次、後段側の前記浮選機に装入して、連続式の処理による浮選操作を行う、浮選処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浮選装置及び浮選処理方法に関する。本発明は、詳しくは、複数の浮選機を多段に組み合わせてなる浮選装置、及び、それを用いて、各浮選機における浮選操作を連続して行う浮選処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、鉱山から採掘された鉱石中に含まれる鉱物は、有用鉱物(目的金属を多く含む鉱物)と脈石鉱物(目的金属をほとんど含まない鉱物)に大別される。又、鉱石から目的金属を回収する最初の処理として選鉱処理があり、鉱物表面の疎水性、親水性の差を利用した浮選操作が広く行われている。
【0003】
このような浮選操作を行うには、例えば、図3に示すように、複数の浮選機を多段に組み合わせた浮選装置(本明細書において、「多段式の浮選装置」と言う)を用いた浮選処理が広く行われている。
【0004】
「多段式の浮選装置」の一例として、特許文献1には、亜鉛の湿式製錬をする際に、2つの浮選槽を備えたバルク浮選機が開示されている。又、同じく、特許文献2には、シュレッダーダスト乾留物を処理する多段の浮遊選鉱機が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-52016号公報
【特許文献2】特開2000-107736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
「多段式の浮選装置」を用いた浮選操作によって浮選処理を実施する場合、通常、各段の操作毎に個別の目的が設定される。このような浮選処理の実施態様の一例として、第1段の浮選操作によって、浮遊性(浮遊するか沈降するかの性質)が大きく相違する混合物のグループをおおまかに分離回収し、第2段の浮選操作では、浮遊性の類似する混合物に浮遊性の差を拡大する効果のある添加剤を添加して分離回収する浮選処理の実施態様を挙げることができる。添加剤の量や種類、pH等の浮選条件を、それぞれ個別に最適化することにより、「多段式の浮選装置」を用いて行う浮選処理の処理効率を高めることができる。
【0007】
ここで、「多段式の浮選装置」を用いる実操業においては、前段側の浮選操作で得た浮遊回収物を、逐次、後段側の浮選機に装入して、浮選操作が連続的に行われることが一般的である。このような多段階に亘る作業が連続的に行われる浮選操作においては、後段側の浮選操作における処理条件の調整に際して、前段側で行った浮選操作の処理条件の影響を排除することは難しく、前段側の処理条件の影響が残った状況で、後段側の浮選操作における処理条件の調整が行われることとなる。そして、このことが「多段式の浮選装置」を用いて行う浮選処理の処理効率の向上を妨げる一因となっていた。
【0008】
本発明は、上記問題に鑑み、多段式の浮選装置を用いた浮選処理において、前段側で行った浮選操作の処理条件の調整の影響を排除した状態で、後段側の浮選操作における処理条件の調整が行うことができるようにして、これにより、「多段式の浮選装置」を用いた浮選処理の処理効率を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、多段式の浮選装置を、当該装置を構成する個々の浮選機の間に、中間タンクを設置する構成とすることによって、上記課題を解決することできることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
(1) 被処理鉱物粒子を含む処理対象液を、順次、複数の浮選機に通過させて個々の前記浮選機において浮選操作を繰り返す多段式の浮選装置であって、一の浮選機と、これに連接される他の浮選機との間に、撹拌機を備える中間タンクが設置されている、浮選装置。
【0011】
(1)の浮選装置によれば、段式の浮選装置を用いた浮選処理において、前段側で行った浮選操作の処理条件の調整の影響を排除した状態で、後段側の浮選操作における処理条件の調整が行うことができるようにして、これにより、「多段式の浮選装置」を用いた浮選処理の処理効率を向上させることができる。尚、被処理鉱物粒子の性状や、スラリーの固形分比率、及び、各浮選機に個別に設定される浮選操作の目的によって浮選操作の処理条件が変動する場合には、当該装置の前段側に設置される中間タンクが備える撹拌機の撹拌強度を調整することによって対応することもできる。
【0012】
(2) 前記中間タンクは、排出口の高さを変更可能なオーバーフロー排出口を備える、(1)に記載の浮選装置。
【0013】
(2)の浮選装置によれば、各浮選機の最適な処理条件が変動した場合にも、オーバーフローの液面高さを調整して中間タンクの実質的な容量を柔軟に調整することができるので、これにより経時的に発生する処理条件の変動等にも迅速に対応することができる。
【0014】
(3) 前記中間タンクは、底面側に沈殿物排出口を有する、(1)又は(2)に記載の浮選装置。
【0015】
(3)の浮選装置によれば、定期的な点検整備等、全体の液抜きが必要となる際に、処理対象液を速やかに排出しやすく、保守容易性において有利な装置とすることができる。
【0016】
(4) (1)から(3)の何れかに記載の浮選装置を用いて、前段側の浮選操作で得た浮遊回収物を、逐次、後段側の前記浮選機に装入して、連続式の処理による浮選操作を行う、浮選処理方法。
【0017】
(4)の浮選処理方法によれば、バッチ式の操業ではなく、前段側で添加された添加剤の影響等を排除することが困難な連続式の操業を行う場合においても、前段側で行った浮選操作の処理条件の調整の影響を排除した状態で、後段側の浮選操作における処理条件の調整が行うことができるようにして、これにより、「多段式の浮選装置」を用いた浮選処理の処理効率を向上させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、多段式の浮選装置を用いた浮選処理において、前段側で行った浮選操作の処理条件の調整の影響を排除した状態で、後段側の浮選操作における処理条件の調整が行うことができるようになる。これにより、「多段式の浮選装置」を用いた浮選処理の処理効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の浮選装置を用いて行うことができる浮選処理方法の流れを示す図である。
図2】本発明の浮選装置の備える中間タンクの構成を模式的に示す断面図である。
図3】従来の浮選処理方法の流れを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明する。尚、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。又、本発明の浮選装置及び浮選処理方法は、多段式の浮選装置、及びそれを用いた浮選処理方法に広く適用可能な技術であるが、特には、鉱石を粉指してなる有用鉱物及び脈石鉱物を含む混合物粉粒体から、有用鉱物を分離回収することを目的とする浮遊選鉱処理に用いる装置・方法として、特に好ましく用いることができる。以下においては、主には、本発明を浮遊選鉱処理に用いる場合の実施形態を中心に本発明の詳細を説明する。
【0021】
<浮選装置>
本発明の浮選装置は、被処理鉱物粒子を含む鉱物スラリー等の処理対象液を、順次、複数の浮選機に通過させながら、個々の浮選機において浮選操作を繰り返す、多段式の浮選装置である。図1は、本発明の浮選装置を用いて行うことができる浮選処理方法の流れを示す図である。一方で、図3は、従来の浮選装置を用いて行うことができる浮選処理方法の流れを示す図である。両図の対比から分かる通り、本発明の浮選装置は、多段式の浮選装置において、個々の浮選機間に中間タンクを設置した構成とした点を主たる特徴とする浮選装置である。
【0022】
(スラリー調整槽)
複数の浮選機と中間タンクによって構成される本発明の浮選装置の最上流側には、通常、更に、スラリー調整槽が設置される(図1参照)。スラリー調整槽は、処理対象の鉱物粒子に水を添加し、撹拌機により撹拌して、所定の固形分比率をもつ鉱物スラリーを得る処理槽である。必要に応じて撹拌強度を調整し、シアアジテーション操作(凝集粒子を解砕可能な程度に撹拌する操作)を行うこともできる。連続式の操業の場合は、鉱物スラリーを得る上記操作は連続的に行われ、適切な鉱物スラリーが得られるように添加速度や撹拌強度が適宜調整される。
【0023】
(浮選機)
浮選機は、上述のスラリー調整槽で得た鉱物スラリーに気泡を導入し、有用鉱物の粒子と脈石鉱物の粒子との表面性状(濡れ性)の差を利用して、疎水性の表面をもつ有用鉱物に気泡に付着させてその有用鉱物を「浮鉱」として回収し、その一方で、脈石鉱物を「沈鉱」として分離する処理槽である。本発明の浮選装置は、複数の浮選機が中間タンクを間に介して連接される構成からなるものであるが、個々の浮選機については、スラリーを貯留する槽本体と撹拌機、及び、適切な粒径の気泡を導入することができる気体供給機構を備える従来周知の浮選機によって構成することができる。
【0024】
尚、本発明の浮選装置機においては、必要に応じて任意の複数台数の浮選機を、中間タンクを介して連接することができる。3台以上の浮選機を連接する場合も、全ての浮選機間に中間タンクを設置することが好ましいが、必要に応じて、一部の浮選機間にのみ中間タンクを設置してもよい。尚、本明細書において「浮選機を連接する」とは、前段側に設置されている浮選機において浮選操作によって回収された有用物を含む処理対象液(スラリー)が、後段側に設置されている浮選機に投入されて、更なる浮選操作に付される態様で、複数の浮選機を併設することを意味する。これらの浮選機の間には中間タンク或いは、それ以外の機能を備える機器が介在していても、「浮選操作」が、段階的に各浮選機で行われる構成である限り、本発明を構成し得る「連接された浮選機」である。
【0025】
(中間タンク)
中間タンクは、複数の浮選機によって構成される多段式の浮選装置において、一の浮選機と、これに連接される他の浮選機との間に設置されている。図2に示す通りこの中間タンク1は、処理対象液、即ち、上述のスラリーを貯留可能なタンク本体11に、当該スラリーを攪拌可能な撹拌機12が設置されているものであればよい。又、オーバーフロー排出口13及び沈殿物排出口14がそれぞれ上面側と底面側に設けられているものであることが好ましい。
【0026】
中間タンク1には、その前段側に連接されている浮選機(浮選機1)において分離回収された処理対象液(浮鉱1)が投入される。そして、この中間タンク1内で後段の浮選機(浮選機2)における浮選操作に必要な「条件付け」(添加剤の添加等)が施されたフロス(鉱物粒子等が付着してスラリー表面に浮遊した泡のことを言う)が、オーバーフローfとして、オーバーフロー排出口13から抜き出されて、後段側に連接されている浮選機(浮選機2)に投入される。尚、本明細書においては、例えば、スラリー中の各鉱物粒子等の表面性質やスラリーの液相部分の性質を、浮選剤等の各種添加剤の添加によって、各段階の浮選操作に適した所望の性質に改質する操作のことを、「条件付け」と称する。
【0027】
本発明は、多段式の浮選装置を用いた浮選処理において、連続式の処理を行う場合においても、この中間タンク内で、後段側の浮選機の浮選条件を調整するための「条件付け」を行うことにより、後段側の浮選機(浮選機2)における浮選操作に、前段側の浮選機(浮選機1)における操作のための「条件付け」の影響が不要に及ぶことを防ぐことができる。
【0028】
撹拌機12は、「条件付け」のために必要な攪拌能力を有するものであればよい。又、オーバーフロー排出口13は、「条件付け」済みのフロスをオーバーフローfとして抜き出すことができる位置、形状及び構造であれば特に限定はないが、排出口の高さを変更可能な設置構造とすることがより好ましい。又、オーバーフロー排出口13は、オーバーフローfを後段の浮選機(浮選機2)に流し込みやすい高さに設置することが好ましいが、ポンプを使用してフロスを抜き出して後段の浮選機(浮選機2)に装入する構成としてもよい。
【0029】
<浮選処理方法>
本発明の浮選処理方法は、上述した本発明の多段式の浮選装置において、前段側の浮選操作で得た浮遊回収物を、逐次、後段側の浮選機に装入して連続式の処理による浮選操作を行う、浮選処理方法である。
【0030】
(第1段の浮選操作)
浮選処理方法においては、図1に示す通り、先ず、最も前段側に設置される第1段の浮選機(浮選機1)において、第1段の浮選操作が行われる。この第1段の浮選操作においては、上述のスラリー調整槽で予め「条件付け」が行われた鉱物スラリーが第1段の浮選機に装入される。第1段の浮選操作のための「条件付け」は、鉱物スラリーを浮遊機に装入した状態において気泡を導入する前に第1段の浮選機の中で行うこともできる。
【0031】
そして、第1段の浮選操作においては、条件付けされた鉱物スラリーを撹拌しながら浮選機の下方から気泡を導入することにより、沈降物と浮遊物を得る。浮遊物は気泡に付着したフロスの状態で回収される。沈降物(尾鉱1)は系外に排出され、浮遊物(浮鉱1)は回収されて、中間タンク(中間タンク1)に装入される。
【0032】
(中間処理)
浮選処理方法においては、第1段の浮選操作に引続き、中間タンクにおいて行われる中間処理が行われる。中間処理は、前段側の浮選機(浮選機1)から回収された浮遊物(浮鉱1)を中間タンク(中間タンク1)に装入して、中間タンク内で、後段側の浮選機(浮選機2)において行う第2段の浮選操作のための「条件付け」を行う処理である。
【0033】
第2段の浮選操作のための、「条件付け」は、一例として、有用金属成分を含む粒子を浮遊させ、不要金属成分を含む粒子を沈降させるための添加剤を添加し、粒子間の浮遊性の差を拡大させる処理である。「条件付け」が行われた浮遊物(浮鉱1)はオーバーフロー排出口13から抜き出されて、第2段の浮選機に装入される。
【0034】
(第2段の浮選操作)
第2段の浮選操作においては、中間処理によって「条件付け」が行われた浮遊物(浮鉱1)を含むスラリーを撹拌しながら浮選機の下方から気泡を導入することにより、第1段の浮選操作と同様にして沈降物と浮遊物を得る。沈降物(尾鉱2)は前段側の浮選機(浮選機1)に戻し入れられる。浮遊物(浮鉱2)は回収され、第1段の浮選操作と同様に、中間タンク(中間タンク2)に装入される。
【0035】
(中間処理(2回目))
(中間処理(2回目))においても、上述の中間処理と同様の中間処理(2回目)が、行われる。この中間処理(2回目)は、前段側の浮選機(浮選機2)から回収された浮遊物(浮鉱2)を中間タンク(中間タンク2)に装入して、この中間タンク内で、後段側の浮選機(浮選機3)において行う第3段の浮選操作のための「条件付け」を行う処理である。
【0036】
(第3段の浮選操作)
第3段の浮選操作においては、中間処理(2回目)によって「条件付け」が行われた浮遊物(浮鉱2)を含むスラリーを撹拌しながら浮選機の下方から気泡を導入することにより、第1段及び第2段の浮選操作と同様にして沈降物と浮遊物を得る。沈降物(尾鉱3)はと前段側の浮選機(浮選機2)に戻し入れられる。浮遊物は、精鉱として回収され、次工程に移送される。
【0037】
以上説明した、本発明の浮選装置及び浮選処理方法は、実操業に適用する他、ラボ試験を含むパイロットプラント以下の規模での実施にも好適である。ラボ試験やパイロット試験において、より正確に最適条件を確認することができるので、実操業での条件設定の指標とすることが可能となり、実操業で中間タンクの設備の必要性が抑制されるからである。
【符号の説明】
【0038】
1 中間タンク
11 タンク本体
12 撹拌機
13 オーバーフロー排出口
14 沈殿物排出口
図1
図2
図3