(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023036172
(43)【公開日】2023-03-14
(54)【発明の名称】エチレン検出剤
(51)【国際特許分類】
G01N 31/00 20060101AFI20230307BHJP
C09K 11/06 20060101ALI20230307BHJP
C09K 9/02 20060101ALI20230307BHJP
C07F 1/10 20060101ALN20230307BHJP
C07D 213/80 20060101ALN20230307BHJP
【FI】
G01N31/00 V
C09K11/06
C09K9/02 Z
C07F1/10 CSP
C07D213/80
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021143055
(22)【出願日】2021-09-02
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】513099603
【氏名又は名称】兵庫県公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】弁理士法人市澤・川田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】駒場 澄香
(72)【発明者】
【氏名】阿部 正明
(72)【発明者】
【氏名】小澤 芳樹
【テーマコード(参考)】
2G042
4C055
4H048
【Fターム(参考)】
2G042BD01
2G042CA10
2G042CB01
2G042DA08
2G042FA06
2G042FB04
4C055AA01
4C055BA02
4C055BA47
4C055CA02
4C055CA06
4C055CA57
4C055DA01
4C055GA02
4H048AA01
4H048AA03
4H048AB90
4H048VA32
4H048VA40
4H048VA57
4H048VB10
(57)【要約】
【課題】エチレンに対して応答性を示す新たなエチレン検出剤を提案する。
【解決手段】ピリジンチオール構造を有する配位子を含むアニオン性多核銀錯体塩を含有するエチレン検出剤である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピリジンチオール構造を有する配位子を含むアニオン性多核銀錯体塩を含有する、エチレン検出剤。
【請求項2】
前記アニオン性多核銀錯体塩が、M+
6[Ag6(mna)6]・nH2O(なお、M+は1価のカチオンであり、mnaは2-メルカプトニコチン酸イオン又は6-メルカプトニコチン酸イオンであり、nは15以上の整数である。)で表されるアニオン性六核銀(I)錯体塩である、請求項1に記載のエチレン検出剤。
【請求項3】
前記M+がNa+である、請求項2に記載のエチレン検出剤。
【請求項4】
前記mnaが2-メルカプトニコチン酸イオンである、請求項2又は3に記載のエチレン検出剤。
【請求項5】
前記エチレン検出が発光によるものである、請求項1~4のいずれか1項に記載のエチレン検出剤。
【請求項6】
M+
6[Ag6(mna)6]・nH2O(なお、M+は1価のカチオンであり、mnaは2-メルカプトニコチン酸又は6-メルカプトニコチン酸であり、nは15以上の整数である。)で表されるアニオン性六核銀(I)錯体。
【請求項7】
前記M+がNa+である、請求項6に記載のアニオン性六核銀(I)錯体。
【請求項8】
前記mnaが2-メルカプトニコチン酸である、請求項6又は7に記載のアニオン性六核銀(I)錯体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン検出剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、外部環境に応じてさまざまな機能性を発現する、いわゆる「環境応答型」の材料が注目を集めている。中でも、様々な外部刺激に応じて物質の色や発光色が可逆的に変化する“クロミック現象”は、物質の状態を目に見える「色」として認識できることから、メモリーやスイッチング、センサ材料等への応用が盛んに研究されてきている。
クロミック現象の例としては、温度計として利用可能なサーモクロミズムや、光メモリー材料として有望なフォトクロミズム、蒸気にさらされることで物質の色が可逆的に変化する“ベイポクロミズム”等が挙げられる。
【0003】
ベイポクロミズムは、蒸気の吸脱着により化合物の構造変化が起こり、可視光領域における電子遷移エネルギーが変動することによって色が変化する特性である。この「蒸気の吸脱着現象」を利用することによって、有害な蒸気を検知する化学センサや、吸着状態に応じて色が変化するガス吸蔵材料、色によって正常に稼働しているかどうか判断できるガスセパレーターなど、幅広い分野への応用が期待されている。
【0004】
特定の有機溶媒や水蒸気、ガスなどに対する応答性を示す化合物はこれまでにいくつか報告されている。
例えば特許文献1には、アセトニトリルやエタノールに対する応答性を示す複核白金(II)錯体が開示されている。当該複核白金(II)錯体は、アセトニトリルやエタノールの蒸気を可逆的に吸着、脱離して、暗赤色-橙赤色等の変化をすると同時に、発光の近赤外赤色変化を起こす旨が報告されている。
【0005】
また、特許文献2には、エチレンを高感度に検知することができる呈色材料として、特定の部分構造を含むパラジウム錯体が開示されている。
【0006】
非特許文献1には、水蒸気に対する応答性を示す銅錯体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003-64091号公報
【特許文献2】特開2018-40598号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Cryst.Growth Des.2014,14,4531-4544.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
エチレンは、果物・野菜から放出される植物ホルモンで、成熟促進及び腐敗進行に寄与する。そのため、エチレンを検出できれば、食品の鮮度や成熟度を直接検知するバイオセンサとしての応用が期待できる。そのため、エチレンに対する応答性を示す化合物が得られれば、特殊な装置等は必要なく、その化合物の色変化を確認するという簡便な方法で、食品の鮮度や成熟度を直接検知することができる。
【0010】
本発明は、新たなエチレン検出剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明が見出したエチレン検出剤は、ピリジンチオール構造を有する配位子を含むアニオン性多核銀錯体塩を含有する。
【0012】
前記アニオン性多核銀錯体塩は、式(1)M+
6[Ag6(mna)6]・nH2O(なお、M+は1価のカチオンであり、mnaは2-メルカプトニコチン酸イオン又は6-メルカプトニコチン酸イオンであり、nは15以上の整数である。)で表されるアニオン性六核銀(I)錯体塩であるのが好ましい。
前記アニオン性六核銀(I)錯体塩は、上記式(1)における「M+」がNa+であるアニオン性六核銀(I)錯体であるのが好ましい。
前記アニオン性六核銀(I)錯体塩はまた、上記式(1)における「mna」が2-メルカプトニコチン酸イオンであるアニオン性六核銀(I)錯体であるのが好ましい。
【0013】
かかるエチレン検出剤において、前記エチレン検出は発光によるものを例示することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明が見出したエチレン検出剤に含まれる、ピリジンチオール構造を有する配位子を含むアニオン性多核銀錯体塩は、エチレンに対して優れた応答性を示し、色変化を示すことができる。よって、当該錯体を利用することにより、特殊な装置等は必要なく、その化合物の色変化を確認するという簡便な方法で、食品の鮮度や成熟度を直接検知することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明の実施の形態の一例について詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々に変形して実施することができる。
【0016】
<本エチレン検出剤>
本発明の実施形態の一例に係るエチレン検出剤(「本エチレン検出剤」と称する)は、ピリジンチオール構造を有する配位子を含むアニオン性多核銀錯体塩を含有する。
当該アニオン性多核銀錯体塩は、エチレン分子が錯体の銀イオンに配位することで、錯体の構造が変化し、発光色が変化すると考えられる。また、当該アニオン性多核銀錯体塩は、抗菌性を有する銀を錯体に含むため、青果物に対する抗菌作用も期待できる。
【0017】
<本六核銀錯体>
本発明の実施形態の一例に係る新規化合物は、上記アニオン性多核銀錯体塩の好ましい一例であり、1価のカチオンと、メルカプトニコチン酸水車型六核銀(I)アニオンと、水和物とからなるアニオン性六核銀(I)錯体塩(「本六核銀錯体」と称する)である。
本六核銀錯体は水和物であり、錯体中に有機溶媒を含まないため、食品の鮮度や成熟度の検知に好適に使用できる。
【0018】
本六核銀錯体は、下記式(1)で表すことができる。
式(1)M+
6[Ag6(mna)6]・nH2O
【0019】
式(1)において、M+は1価のカチオンであればよい。中でも、エチレンに応答し、色変化する観点から、Li+、Na+、K+、Rb+、Ce+、Fr+などの1価のアルカリ金属を好ましく例示することができる。中でもNa+が好ましい。
【0020】
式(1)において、mnaは、2-メルカプトニコチン酸イオン又は6-メルカプトニコチン酸イオンであるのが好ましい。中でも、錯体の形成しやすさの観点から、2-メルカプトニコチン酸イオンが好ましい。
下記構造式は、mnaが2-メルカプトニコチン酸イオンである場合のメルカプトニコチン酸水車型六核銀(I)アニオンの構造を示す図である。
【0021】
【0022】
式(1)において、nは15以上の整数であるのが好ましい。
nが15以上であると、溶媒分子が錯体分子の周りを緩やかに囲む構造となり、エチレン分子が錯体の銀イオンに近づきやすくなるため、好ましいエチレン応答性を得ることができる。
かかる観点から、nは15以上の整数であるのが好ましく、中でも16以上、その中でも18以上の整数であるのが好ましい。
なお、nの上限は、錯体の形成しやすさの観点から、20であると推定される。
【0023】
式(1)で表される化合物であるかどうか、すなわち、本六核銀錯体の同定は、例えば1H-NMR、有機元素分析(CHN)などの手段で行うことができる。但し、これらの手段に限定されるものではない。
【0024】
本六核銀錯体は、エチレン応答性に優れる観点から、比表面積が1.5m2/g以上であるのが好ましく、中でも1.8m2/g以上、その中でも2.0m2/g以上であるのがさらに好ましい。一方、上限値は特に限定されないが、100m2/g以下であるのが好ましい。
【0025】
本六核銀錯体は、保存安定性の観点から、メディアン径(D50)が0.1μm以上であるのが好ましく、中でも1μm以上、その中でも5μm以上であるのがさらに好ましい。
他方、エチレン応答性や、本六核銀錯体をバインダー樹脂等と混合する場合の分散性の観点から、メディアン径(D50)が200μm以下であるのが好ましく、中でも150μm以下、その中でも100μm以下であるのがさらに好ましい。
【0026】
(本六核銀錯体の製造方法)
本六核銀錯体の製造方法の一例について説明する。但し、この製造方法に限定されるものではない。
【0027】
不活性雰囲気下で酸化銀(Ag2O)を水に加えてAg2O懸濁液を得、このAg2O懸濁液に、2-メルカプトニコチン酸(H2mna)懸濁液に1M水酸化ナトリウム水溶液を添加して調製した水溶液を加えて、室温で16~24時間撹拌して反応液を得る。この反応液をろ過し、得られた濾液に有機溶媒、例えばエタノール:ジエチルエーテル=1:2の混合液を加えてオイル状液体を得る。この液体を洗浄し、一度水に溶解したのち濾過することで濾液を得、この濾液を有機溶媒、例えばエタノールに滴下し、得られた沈殿物を分離回収し、洗浄および乾燥することで、粉体状のNa6(Ag6(mna)6)を得ることができる。そして、このNa6(Ag6(mna)6)を、水分を含ませた脱脂綿などとともに、密閉容器内に入れて密封し、数時間室温で保存することで、粉末状のNa6(Ag6(mna)6)・nH2O(mnaは2-メルカプトニコチン酸イオンであり、nは15以上の整数である。)を得ることができる。
なお、前記水酸化ナトリウム水溶液の代わりに、1価のカチオンの水酸化物水溶液を使用すれば、Na6(Ag6(mna)6)・nH2OにおけるNaの代わりに1価のアルカリ金属を置き換えることができる。また、2-メルカプトニコチン酸懸濁液の代わりに6-メルカプトニコチン酸懸濁液を使用すれば、Na6(Ag6(mna)6)・nH2Oのmnaを6-メルカプトニコチン酸イオンとすることができる。
【0028】
(本六核銀錯体の用途)
本六核銀錯体は、エチレン応答性を有し、エチレンと反応して発光乃至色変化する性質を備えているから、エチレンを高感度で検知することができる。
よって、本六核銀錯体又はこれを含有する組成物を、エチレン検出剤として利用することができる。例えば、本六核銀錯体に必要に応じて添加剤を加えて、粉体として、或いは、粉体を固めたペレットとして、エチレン検出剤として使用することができる。
【0029】
また、本六核銀錯体は、水、極性又は非極性の溶剤、有機系溶剤又は無機系溶剤に溶解して、基板上に塗布するなどして、エチレン検出体として使用することができる。
【0030】
また、本六核銀錯体をバインダー樹脂などと混合して、本六核銀錯体を含有する組成物を調製し、これをフィルム化して、エチレン検出用に使用することもできる。
そのほか、本六核銀錯体を用いて、エチレンを検知する検出剤、検出体、又はセンサなどを製造することができ、その製造プロセスが簡便になり、生産性の向上及び利便性の向上が期待できる。
エチレンの検知は、例えば青果物の成熟・腐敗の検知などに活用することができる。
【0031】
<語句の説明>
本明細書において「X~Y」(X,Yは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」或いは「好ましくはYより小さい」の意も包含する。
また、「X以上」(Xは任意の数字)或いは「Y以下」(Yは任意の数字)と表現した場合、「Xより大きいことが好ましい」或いは「Y未満であることが好ましい」旨の意図も包含する。
【実施例0032】
本発明は、以下の実施例により更に説明される。実施例はいかなる方法でも本発明を限定することを意図するものではない。
【0033】
<Na6(Ag6(mna)6)・nH2Oの合成>
J.Chem.Soc.,Dalton Trans.2000,2091-2097.に記載の方法に準じて調製した。
先ず、不活性雰囲気下で酸化銀(Ag2O)を水に加えて黒い懸濁液を得た。このAg2O懸濁液に対して、2-メルカプトニコチン酸(H2mna)懸濁液に1M水酸化ナトリウム水溶液を加えて調製した黄色の透明な水溶液を加えて、室温(23℃)で22時間撹拌し、オリーブ色の反応液(溶液)を得た。この反応液をろ過し、得られた黄緑色の透明な濾液にエタノール:ジエチルエーテル=1:2の混合液を加え、白色のオイル状液体を得た。この液体を、エタノール:ジエチルエーテル=1:2で洗浄し、一度水に溶解したのち濾過することで、黄色の透明な濾液を得た。この濾液をエタノールに滴下し、得られた黄白色の沈殿物を吸引ろ過法で分離し、ジエチルエーテル、エタノール、アセトンで洗浄した後、真空乾燥することで黄白色の粉体状であるNa6(Ag6(mna)6)・nH2Oを得た。
【0034】
Na6(Ag6(mna)6)・nH2Oの組成分析を次のように行った。
得られたNa6(Ag6(mna)6)・nH2Oをさらに120℃真空中で乾燥し、得られた試料の有機元素分析(CHN)を、CHN同時定量有機元素分析装置を用いて燃焼分解法により行った。その結果、次の組成であることが同定された。Na6[Ag6(mna)6]・6H2O:計算値(C36H36Ag6N6Na6O18S6)C23.78,H2.00,N4.62%;実測値C24.14,H1.99,N4.70%であることが確認された。
【0035】
実施例1では、上記で得たNa6(Ag6(mna)6)・nH2Oを、最小量の水に溶かして溶液とし、該溶液を開放形容器で自然蒸発させ、ほぼ無色(白色)のNa6(Ag6(mna)6)・18.5H2Oの粉末(サンプル)を得た。
実施例2では、上記で得たNa6(Ag6(mna)6)・nH2Oと、水分を含ませた脱脂綿とをサンプル瓶に入れて密閉し、1時間室温で保存してほぼ無色(白色)のNa6(Ag6(mna)6)・15.5H2Oの粉末(サンプル)を得た。
実施例3では、上記で得たNa6(Ag6(mna)6)・nH2Oを、室温大気中で1ヶ月以上保存し、大気中の水分を吸収させ、ほぼ無色(白色)のNa6(Ag6(mna)6)・15H2Oの粉末(サンプル)を得た。
なお、上記Na6(Ag6(mna)6)・nH2Oの水和数(n)は、熱重量分析(TG-DTA)において重量減少率から算出した。
【0036】
<Ag6(Hmna)6の合成>
先ず、不活性雰囲気下で酸化銀(Ag2O)を水に加えて黒い懸濁液を得た。このAg2O懸濁液に2-メルカプトニコチン酸(H2mna)懸濁液を加えて、室温(23℃)で22時間撹拌し、オリーブ色の反応液(溶液)を得た。この反応液をろ過し、得られた黄緑色の透明な濾液にエタノール:ジエチルエーテル=1:2の混合液を加え、白色のオイル状液体を得た。この液体を、エタノール:ジエチルエーテル=1:2で洗浄し、一度水に溶解したのち濾過することで、黄色の透明な濾液を得た。この濾液にエタノールを滴下することで、得られた黄白色の沈殿物を吸引ろ過法で分離し、ジエチルエーテル、エタノール、アセトンで洗浄した後、真空乾燥することで黄白色の粉体状であるAg6(Hmna)6・nH2Oを得た。
【0037】
比較例1では、上記で得たAg6(Hmna)6・nH2Oをジメチルスルホキシドに溶解したのち濾過し、濾液にジエチルエーテルを加えて沈殿させ、さらに、H2Oを含まない粉末を80℃で1時間以上真空乾燥することで、Ag6(Hmna)6の粉末(サンプル)を得た。
比較例2では、上記で得たAg6(Hmna)6・nH2Oを室温(23℃)で2時間真空乾燥することで、Ag6(Hmna)6・2H2Oの粉末(サンプル)を得た。
なお、上記Ag6(Hmna)6・nH2Oの水和数(n)は、熱重量分析(TG-DTA)において重量減少率から算出した。
【0038】
<BET比表面積の測定>
実施例・比較例で得た粉末(サンプル)のBET比表面積は、JIS Z8830:2013に準じて、全自動表面積測定装置Macsorb Model-1208SP(マウンテック製)を用い、室温下で一晩窒素通気による乾燥後、更に装置内で30℃5min窒素通気後、相対圧を約0.3に精密に調整した窒素混合ガスを用い、ガス流動法による窒素吸着BET1点法によって測定した。
【0039】
<メディアン径(D50)の測定>
実施例・比較例で得た粉末(サンプル)の体積基準のメディアン径(D50)は、JIS Z8825:2013に準じて、サンプルにエタノールを添加し、超音波照射を1分行ったあと、レーザー回折・散乱式粒度分布計LA-700(堀場製作所社製)を用いて測定した。
【0040】
<エチレン応答性の確認>
実施例・比較例で得た粉末(サンプル)について、UV-LED照射装置UJ30(パナソニック社製)で365nmの紫外光を照射し、試料からの発光を可視光分光器PMA-11(浜松ホトニクス社製)を用いて発光スペクトルを測定し、エチレンフロー前の発光スペクトルを測定し、そのピーク値を求めた。
次に、サンプル瓶に各サンプルを入れ、ラバーセプタムで蓋をしたのち、チューブと注射針を用いて、10分間エチレンガスをフローした。ラバーセプタムを外して、直ちに上記と同じ装置にて発光スペクトルを測定し、発光スペクトルのピーク値を求め、フロー前後のスペクトル変化を評価した。
【0041】
フロー前のピーク値に比べて、フロー後のピーク値が10nm以上変化した場合を「Y(応答性有)」と評価し、変化が10nm未満の場合を「N(応答性無)」と評価し、評価結果を下記表に示した。
なお、フロー後のピーク値が10nm以上変化した場合、UV照射したときの発光色の変化が目視でわかる程度である。
【0042】
【0043】
実施例1~3の銀錯体は、ピリジンチオール構造を有する配位子を含むアニオン性多核銀錯体塩であり、エチレン感応性を示すことが確認できた。
一方、アニオン性でない多核銀錯体の比較例1及び2は、エチレン感応性を示さなかった。
実施例1~3の銀錯体は、エチレン分子が錯体の銀イオンに配位することで、錯体の構造が変化し、発光色が変化していると考えられる。エチレン分子が錯体から離れれば錯体の構造及び発光色は元に戻るので、一度エチレンを検出した後も、再利用することができる。
一方、前述した特許文献2のパラジウム錯体は、エチレンとの反応によりパラジウムの還元が起こることで呈色するものであるため、検出剤として再利用するためにはパラジウムを再酸化する必要がある。
【0044】
上記実施例及び本発明者がこれまで行ってきた試験結果によれば、式(1)M+
6[Ag6(mna)6]・nH2O(式中、M+は1価のカチオンであり、mnaは2-メルカプトニコチン酸イオン又は6-メルカプトニコチン酸イオンであり、nは15以上の整数である。)で表されるアニオン性六核銀(I)錯体塩は、エチレンに対して優れた応答性を示し、色変化を示すことが分かった。
【0045】
なお、上記実施例では、式(1)M+
6[Ag6(mna)6]・nH2Oにおいて、「M」としてNaの場合の実施例しか示していないが、同じアルカリ金属の一価のカチオンであれば、Naと同様の性質を有しているから、同様の効果を得られるものと推定される。
また、「mna」として、2-メルカプトニコチン酸イオンの場合の実施例しか示していないが、6-メルカプトニコチン酸イオンであっても、錯体全体の構造は同様であるから、同様の効果を得られるものと推定される。