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  • 特開-廃石膏ボードからの石膏の回収方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023036207
(43)【公開日】2023-03-14
(54)【発明の名称】廃石膏ボードからの石膏の回収方法
(51)【国際特許分類】
   B09B 5/00 20060101AFI20230307BHJP
   B07B 1/00 20060101ALI20230307BHJP
   B07B 1/28 20060101ALI20230307BHJP
   B03B 5/00 20060101ALI20230307BHJP
   C02F 11/121 20190101ALI20230307BHJP
   B09B 3/40 20220101ALI20230307BHJP
【FI】
B09B5/00 Z
B07B1/00 B ZAB
B07B1/28 Z
B03B5/00 Z
C02F11/121
B09B3/00 303
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021143116
(22)【出願日】2021-09-02
(71)【出願人】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】100086830
【弁理士】
【氏名又は名称】塩入 明
(74)【代理人】
【識別番号】100096046
【弁理士】
【氏名又は名称】塩入 みか
(72)【発明者】
【氏名】平中 晋吾
【テーマコード(参考)】
4D004
4D021
4D059
4D071
【Fターム(参考)】
4D004AA31
4D004BA02
4D004CA04
4D004CA13
4D004CA30
4D004CB13
4D004CB31
4D021AA01
4D021CA03
4D021DA01
4D021DA13
4D021EA10
4D021EB01
4D059AA30
4D059BE10
4D059BE15
4D059BE16
4D059BF17
4D059BK11
4D059BK12
4D071AA05
4D071AB03
4D071AB14
4D071CA05
4D071DA01
4D071DA15
4D071DA20
(57)【要約】

【課題】 廃石膏ボード由来の無機不純物による、ろ過装置のろ布の目詰まりを抑制する。
【構成】 廃石膏ボードを破砕及びか焼することにより半水石膏及び/又は無水III型石膏とし、半水石膏及び/又は無水III型石膏を石膏スラリーと混合する。石膏スラリーをろ過装置により、石膏粒子と、ろ過装置のろ布を通過したろ液とに固液分離する。またろ液を石膏スラリー中へ還流させる。ろ布を通過した石膏粒子及び廃石膏ボード由来の無機不純物からなる、ろ液中の浮遊固形分濃度が1000~8000質量ppmとなるように固液分離する。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃石膏ボードを破砕及びか焼することにより半水石膏及び/又は無水III型石膏とし、前記半水石膏及び/又は無水III型石膏を石膏スラリーと混合し、石膏スラリーをろ過装置により、石膏粒子と、ろ過装置のろ布を通過したろ液とに固液分離し、かつ、ろ液を石膏スラリー中へ還流させる、廃石膏ボードからの石膏の回収方法において、
前記ろ布を通過した石膏粒子及び廃石膏ボード由来の無機不純物からなる、前記ろ液中の浮遊固形分濃度が1000~8000質量ppmとなるように、前記固液分離を行うことを特徴とする、廃石膏ボードからの石膏の回収方法。
【請求項2】
固液分離した石膏粒子から成るケーキを搬送するベルトコンベヤを設けると共に、前記ベルトコンベヤの出口側先端部で、フッ素樹脂製あるいはウレタン樹脂製のスクレーパにより、ベルトから前記ケーキを剥離させることを特徴とする、請求項1の廃石膏ボードからの石膏の回収方法。
【請求項3】
前記石膏スラリーを1段目と2段目の少なくとも2段の振動篩により篩い分けし、
1段目の振動篩の入口に石膏スラリーと2段目の振動篩の篩下成分とを供給し、1段目の振動篩の篩下成分を前記ろ過装置に供給し、
1段目の振動篩の篩上成分と洗浄水とを2段目の振動篩の入口に供給し、2段目の振動篩の篩下成分を1段目の振動篩の入口に還流すると共に、2段目の振動篩の篩上成分から紙粉を回収する、ことを特徴とする、請求項1または2の廃石膏ボードからの石膏の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は廃石膏ボードからの石膏の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明者らは廃石膏ボードからの石膏の回収を提案した(特許文献1:WO2012/176688)。廃石膏ボードを破砕し、石膏粒体と紙片等に分離する。次いで石膏粒体をか焼し、半水及び/又は無水III型石膏に変化させる。か焼後の石膏を水性媒体と混合して石膏スラリーとし、石膏粒子を析出させる。そしてろ過装置により石膏スラリーから石膏粉体をろ過し、ろ液は石膏スラリー側へ還流する。得られた石膏粉体は、石膏ボード原料、セメント原料などに使用できる。また石膏ボード中の紙片も回収する価値がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO2012/176688
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明者は、ろ過装置のろ布がしばしば目詰まりすることを経験した。しかも目詰まりしたろ布を水洗してもなかなか再生できなかった。極端に多量の水を用いるとろ布を再生できるが、洗浄水を石膏の回収システムから外部へ排出することになるので、排水処理が必要になる。
【0005】
廃石膏ボードからの石膏の回収で、ろ過装置のろ液を観察すると、ろ液は多量の浮遊固形分を含み、その主成分はろ布を通過した微細な石膏粒体と、炭酸カルシウムの微粉末、雲母、及び砂利等の細骨材中の微粒子であった。石膏ボードに塩化ビニル系の壁紙が貼り付けられると、壁紙がフィラーとして含む炭酸カルシウムが石膏スラリーに混入する。廃石膏ボードに意匠用のモルタルが塗られることがあるが、このようなモルタルは雲母や各種の細骨材を含んでいる。これらの無機不純物がろ布で捕捉され、ろ布を目詰まりさせていた。
【0006】
微細な石膏粒子と、廃石膏ボード由来の無機不純物は、ろ布を目詰まりさせる。これらの内で石膏粒子は水溶性なので、ろ布を水洗すると除去できる。しかし炭酸カルシウム、雲母、細骨材中の微粒子などは一般に水に不溶性で、水洗してもろ布を再生することは難しい。
【0007】
この発明の課題は、廃石膏ボード由来の無機不純物による、ろ過装置のろ布の目詰まりを抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の廃石膏ボードからの石膏の回収方法は、廃石膏ボードを破砕及びか焼することにより半水石膏及び/又は無水III型石膏とし、前記半水石膏及び/又は無水III型石膏を石膏スラリーと混合し、石膏スラリーをろ過装置により、石膏粒子と、ろ過装置のろ布を通過したろ液とに固液分離し、かつ、ろ液を石膏スラリー中へ還流させる、廃石膏ボードからの石膏の回収方法において、
前記ろ布を通過した石膏粒子及び廃石膏ボード由来の無機不純物からなる、ろ液中の浮遊固形分濃度が1000~8000質量ppmとなるように、前記固液分離を行うことを特徴とする。
【0009】
発明者は、ろ液中の浮遊固形分濃度が1000~8000質量ppmとなるように、ろ布の種類等のろ過条件を選ぶと、ろ布の目詰まりが少なく、かつ石膏粒子のろ過効率も実用的な範囲に保つことができることを確認した。ろ過装置としてはフィルタープレス、ベルトフィルター、ドラムフィルターなどを用いる。ろ液中の浮遊固形分濃度を1000~8000質量ppmとするための、ろ布の通気度はろ過装置の種類により変わるので、ろ布の通気度ではなく、ろ液中の浮遊固形分濃度を規定する。ろ液の浮遊固形分濃度は1000~8000質量ppmと高いが、ろ液は石膏スラリーへ還流させるので、環境汚染は生じない。なおこの明細書で、「A~B」のように範囲を指定した場合、上限と下限を含んでいる。
【0010】
好ましくは、固液分離した石膏粒子から成るケーキを搬送するベルトコンベヤを設けると共に、ベルトコンベヤの出口側先端部で、フッ素樹脂製あるいはウレタン樹脂製のスクレーパにより、ベルトから前記ケーキを剥離させる。固液分離した石膏粒子は湿潤で、ベルトコンベヤのベルトに付着したままコンベヤの出口で落下しないことがある。そこでスクレーパにより石膏粒子をベルトから剥離させる。ここで発明者は、スクレーパをフッ素樹脂製あるいはウレタン樹脂製とすると、ベルトの摩耗が少ないことを確認した。
【0011】
また好ましくは、石膏スラリーを1段目と2段目の少なくとも2段の振動篩により篩い分けし、
1段目の振動篩の入口に石膏スラリーと2段目の振動篩の篩下成分とを供給し、1段目の振動篩の篩下成分をろ過装置に供給し、
1段目の振動篩の篩上成分と洗浄水とを2段目の振動篩の入口に供給し、2段目の振動篩の篩下成分を1段目の振動篩の入口に還流すると共に、2段目の振動篩の篩上成分から紙粉を回収する。
【0012】
石膏スラリーには紙粉が含まれているので、ろ過前に篩に掛ける。石膏スラリーは篩を通過するのが遅く、篩上に滞留しやすい。そこで縦振動が強く石膏スラリーが滞留しにくい振動篩を用いる。振動篩の篩上成分として得られる紙粉には石膏粉体が付着しているが、紙粉を洗浄水で洗浄すると排水が生じる。そこで2段目の振動篩の入口に、1段目の振動篩で得られた紙粉と洗浄水を加え、紙粉を洗浄する。2段目の振動篩の篩下成分となる、使用した洗浄水は、1段目の振動篩の入口に戻す。すると1段目の振動篩で石膏スラリーの濃度を低下させ、石膏付着量の少ない紙粉を得ることができる。1段目の振動篩の篩下成分はろ過装置に供給し、石膏粉体を分離する。これらのため、洗浄水は最終的に晶析槽等へ戻されるが、石膏粉体の結晶水及び付着水の範囲内であれば、洗浄水を用いても外部への排水は生じない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】廃石膏ボードからの石膏の回収方法の概要を示す図
図2】実施例のろ過装置の模式的側面図
図3】実施例で用いる振動篩を示す図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明を実施するための実施例を示す。この発明の範囲は、特許請求の範囲の記載に基づき、明細書の記載とこの分野での周知技術とを参酌し、当業者の理解に従って定められるべきである。この発明の範囲は実施例により限定されるものではない。
【実施例0015】
図1図3に実施例を示す。図1は廃石膏ボードの破砕から石膏粉体の回収までを示し、前処理工程2で廃石膏ボードを破砕し、サイロ40に石膏粒体をストックする。か焼工程4で石膏粒体をか焼し、半水及び/又は無水III型石膏へ変化させる。晶析工程6では、か焼した石膏粒体を水性媒体と混合器61で混合し石膏スラリーとする。そして例えば4段の晶析槽62~65により二水石膏、半水石膏等の石膏粒子を析出させる。ろ過工程8では、晶析槽65等からの石膏スラリーを振動篩80に掛けて紙粉を分離し、石膏スラリーをろ過装置82に供給し、石膏粉体をろ過する。また振動篩80に洗浄水を供給し、回収する紙粉への石膏付着量を小さくする。なおろ過工程8以外の工程は、この発明の対象ではない。
【0016】
図2にろ過装置82を示す。固液分離装置84では、スラリー入口85から石膏スラリーを供給し、ろ液出口86からろ液を排出する。固液分離した石膏粉体を例えばベルトコンベヤ88上に落下させて搬送する。89,90はプーリ、91はベルトで、出口側のプーリ89の前方で、ベルト91にフッ素樹脂製あるいはウレタン樹脂製のスクレーパ92を接触させ、石膏のケーキ94をベルト91からはぎ取る。フッ素樹脂製あるいはウレタン樹脂製のスクレーパ92はベルト91をほとんど摩耗させない。なおベルトコンベヤを多段に接続する場合、各ベルトコンベヤの出口側にスクレーパ92を設けることが好ましい。
【0017】
フィルタープレス、ベルトフィルター、ドラムフィルターなどは、石膏スラリーを加圧し、ろ布により固液分離する。ここでろ過作用はろ布のみで行われるのではなく、ろ過された石膏粉体のケーキもろ材として作用する。ろ液中の浮遊固形分濃度を1000~8000質量ppmとするためには、ろ布の通気度は以下の範囲が好ましい。なおろ布の通気度は、12.7mmAq相当の圧力下で、1秒当たりに1cmのろ布を通過する空気の体積(cm単位)で表す。固液分離装置の種類毎に、好ましいろ布の通気度を示す。
フィルタープレス: 1~20
ベルトフィルター: 4~30
ドラムフィルター:10~80
【0018】
ろ布の織り方は任意で、材質は石膏スラリーのpHに影響しなければ任意である。ろ布に用いる繊維はモノフィラメント繊維が好ましく、マルチフィラメント繊維はフィラメントの間に浮遊固形物が入り込むため好ましくない。また目詰まりしたろ布は水洗により再生できるが、目詰まりを起こすまでの期間を長くすることが重要である。
【0019】
ろ液中の浮遊固形分濃度は、例えば所定量のスラリーを孔径1μm程度のガラス繊維ろ紙でろ過し、ろ紙を105℃~110℃で乾燥した際の重量増から測定する。
【0020】
浮遊固形分濃度が1000質量ppm未満となるろ布でろ過した場合、ろ布に捕捉される無機不純物にはサブミクロンの粒径のものが含まれる。これらの微小粒子は、一旦ろ布を目詰まりさせると、除去が困難である。浮遊固形分濃度は、通気度が低いろ布を用いることにより小さくなる。一般的に通気度が低いろ布は多重構造で厚みが増し、柔軟性が下がり、目詰まりしやすくなる。この条件のろ布を24時間連続運転の工場で使用した場合、1~3ヶ月程度で目詰まりが悪化し、ろ布の交換が必要になる。一方、浮遊固形分濃度が8000質量ppmより大きくなるろ布でろ過した場合、ろ布で捕捉できない無機不純物量が多くなり、晶析工程とろ過工程を循環する無機不純物が増え続けることになる。すると、ろ布の寿命は長くなるが、工程を定常状態に維持できないため不適である。浮遊固形分濃度が1000~8000質量ppmの範囲であれば、無機不純物濃度を、多少経時的に変化するものの、一定の定常範囲に保持することが可能である。浮遊固形分濃度が上記の範囲になるろ布を使用した場合、12~24ヶ月程度、ろ布を使用し続けることが可能である。
【0021】
図3に、2段の振動篩80を示す。100は1段目の振動篩、102は2段目の振動篩で、104,106は振動篩100,102の入口、108,110は篩上成分の出口、112,114は篩下成分の出口である。
【0022】
篩100の入口104から石膏スラリーと、2段目の振動篩102の篩下成分の出口からの使用済み洗浄液を供給する。そして篩100の出口108からの紙粉を、洗浄水と共に、2段目の篩102に供給する。2段目の篩102では、紙粉が洗浄水により洗浄され、出口110からの紙粉への石膏付着量を少なくできる。これによって回収した紙粉の工業的価値が増す。
【0023】
2段目の篩102で使用した洗浄水を出口114から回収し、1段目の篩100に加える。このため篩100では石膏スラリーの濃度が低下し、出口108からの紙粉への石膏付着量が小さくなる。1段目の篩100の出口112からは、紙粉を除去されかつ洗浄水で希釈された石膏スラリーが得られる。この石膏スラリーをろ過装置でろ過する。
【0024】
洗浄水は、混合器61あるいは晶析槽62~65に還流させる。またろ布の洗浄に用いた水も、好ましくは晶析工程6へ還流させる。ろ過工程8では、石膏粉体が持ち去る結晶水及び付着水の分だけ、水が石膏の回収システムから持ち去られる。ろ布と振動篩102での洗浄水をこの範囲に制限すると、外部へ排出する排水は生じない。
【符号の説明】
【0025】
2 前処理工程
4 か焼工程
6 晶析工程
8 ろ過工程
10 破砕機
11 投入口
16 篩
18 選別コンベヤ
20 定量搬送コンベヤ
25 磁選装置
30 細破砕機
32 磁選パイプ
40 サイロ
50 か焼機
61 混合器
62~65 晶析槽
80 篩
82 ろ過装置
84 固液分離装置
85 スラリー入口
86 ろ液出口
88 ベルトコンベヤ
89,90 プーリ
91 ベルト
92 スクレーパ
94 ケーキ
100,102 振動篩
104,106 入口
108,110 篩上成分の出口
112,114 篩下成分の出口
図1
図2
図3