IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人九州大学の特許一覧 ▶ 日産化学工業株式会社の特許一覧

特開2023-36217共重合体、表面改質剤、組成物、医療用デバイス、シリコーン基材、及び細胞培養容器
<>
  • 特開-共重合体、表面改質剤、組成物、医療用デバイス、シリコーン基材、及び細胞培養容器 図1
  • 特開-共重合体、表面改質剤、組成物、医療用デバイス、シリコーン基材、及び細胞培養容器 図2
  • 特開-共重合体、表面改質剤、組成物、医療用デバイス、シリコーン基材、及び細胞培養容器 図3
  • 特開-共重合体、表面改質剤、組成物、医療用デバイス、シリコーン基材、及び細胞培養容器 図4
  • 特開-共重合体、表面改質剤、組成物、医療用デバイス、シリコーン基材、及び細胞培養容器 図5
  • 特開-共重合体、表面改質剤、組成物、医療用デバイス、シリコーン基材、及び細胞培養容器 図6
  • 特開-共重合体、表面改質剤、組成物、医療用デバイス、シリコーン基材、及び細胞培養容器 図7
  • 特開-共重合体、表面改質剤、組成物、医療用デバイス、シリコーン基材、及び細胞培養容器 図8
  • 特開-共重合体、表面改質剤、組成物、医療用デバイス、シリコーン基材、及び細胞培養容器 図9
  • 特開-共重合体、表面改質剤、組成物、医療用デバイス、シリコーン基材、及び細胞培養容器 図10
  • 特開-共重合体、表面改質剤、組成物、医療用デバイス、シリコーン基材、及び細胞培養容器 図11
  • 特開-共重合体、表面改質剤、組成物、医療用デバイス、シリコーン基材、及び細胞培養容器 図12
  • 特開-共重合体、表面改質剤、組成物、医療用デバイス、シリコーン基材、及び細胞培養容器 図13
  • 特開-共重合体、表面改質剤、組成物、医療用デバイス、シリコーン基材、及び細胞培養容器 図14
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023036217
(43)【公開日】2023-03-14
(54)【発明の名称】共重合体、表面改質剤、組成物、医療用デバイス、シリコーン基材、及び細胞培養容器
(51)【国際特許分類】
   C08L 33/00 20060101AFI20230307BHJP
   C08F 20/26 20060101ALI20230307BHJP
   C08F 20/58 20060101ALI20230307BHJP
   C08F 20/38 20060101ALI20230307BHJP
   C08F 20/60 20060101ALI20230307BHJP
   C08F 20/36 20060101ALI20230307BHJP
   C08L 33/26 20060101ALI20230307BHJP
   C08L 33/14 20060101ALI20230307BHJP
   C12M 3/00 20060101ALI20230307BHJP
   A61L 17/14 20060101ALN20230307BHJP
   A61L 27/34 20060101ALN20230307BHJP
   A61L 29/08 20060101ALN20230307BHJP
   A61L 31/10 20060101ALN20230307BHJP
【FI】
C08L33/00
C08F20/26
C08F20/58
C08F20/38
C08F20/60
C08F20/36
C08L33/26
C08L33/14
C12M3/00 A
C12M3/00 Z
A61L17/14 100
A61L27/34
A61L29/08 100
A61L31/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021143134
(22)【出願日】2021-09-02
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.EVAL
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(71)【出願人】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100163038
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 武志
(74)【代理人】
【識別番号】100193725
【弁理士】
【氏名又は名称】小森 幸子
(74)【代理人】
【識別番号】100207240
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 喜弘
(72)【発明者】
【氏名】田中 敬二
(72)【発明者】
【氏名】松野 寿生
(72)【発明者】
【氏名】戸谷 匡康
(72)【発明者】
【氏名】小澤 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】片山 淳子
【テーマコード(参考)】
4B029
4C081
4J002
4J100
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029AA08
4B029BB11
4B029CC01
4B029CC02
4B029CC08
4B029GA01
4B029GA02
4B029GA03
4B029GB09
4C081AB03
4C081AB05
4C081AB12
4C081AB32
4C081AB34
4C081AB35
4C081AC06
4C081AC07
4C081AC08
4C081AC12
4C081AC13
4C081AC15
4C081BB02
4C081CA082
4C081CA272
4C081CC02
4C081DC03
4J002AB012
4J002AB022
4J002AB052
4J002BB032
4J002BB122
4J002BC032
4J002BD042
4J002BD142
4J002BD152
4J002BE022
4J002BE032
4J002BG022
4J002BG031
4J002BG062
4J002BG071
4J002BG102
4J002BG121
4J002BN152
4J002CF062
4J002CG002
4J002CK022
4J002CN032
4J002CP032
4J002GB01
4J002GE00
4J002GH00
4J002HA03
4J100AL01P
4J100AL01Q
4J100AM14P
4J100BA08P
4J100BA17P
4J100BA32P
4J100BA56P
4J100BA65P
4J100BA72Q
4J100BA75Q
4J100CA04
4J100DA01
4J100DA04
4J100FA03
4J100FA08
4J100FA19
4J100FA34
4J100JA01
4J100JA21
4J100JA51
(57)【要約】
【課題】汎用性高分子材料表面に優れた生体物質の付着抑制能を付与し得る表面改質剤などを提供する。
【解決手段】 側鎖に、オキシエチレン構造及びベタイン構造の少なくともいずれかである第1構造と、
側鎖に、ジメチルシロキサン構造である第2構造と、
を有する共重合体を含有する、表面改質剤。
【選択図】図6

【特許請求の範囲】
【請求項1】
側鎖に、オキシエチレン構造及びベタイン構造の少なくともいずれかである第1構造と、
側鎖に、ジメチルシロキサン構造である第2構造と、
を有する共重合体を含有する、表面改質剤。
【請求項2】
前記共重合体が、前記第1構造を有する繰り返し単位(a1)及び前記第2構造を有する繰り返し単位(a2)を有し、
前記繰り返し単位(a1)が、下記式(a1-1)で表される繰り返し単位~(a1-4)で表される繰り返し単位の少なくともいずれかを有し、
前記繰り返し単位(a2)が、下記式(a2-1)で表される繰り返し単位及び(a2-2)で表される繰り返し単位の少なくともいずれかを有する、
請求項1に記載の表面改質剤。
【化1】
(式(a1-1)中、Rは、水素原子又は炭素原子数1~5のアルキル基を表し、Rは、水素原子又は炭素原子数1~5のアルキル基を表し、Xは、-O-又は-NR-(Rは、水素原子又は炭素原子数1~4のアルキル基を表す。)を表し、mは、1~100を表す。*は結合手を表す。
式(a1-2)中、R11は、水素原子又は炭素原子数1~5のアルキル基を表し、R12は、炭素原子数1~6のアルキレン基を表し、R13及びR14は、それぞれ独立して、炭素原子数1~4のアルキル基を表し、R15は、炭素原子数1~6のアルキレン基を表し、Xは、-O-又は-NR-(Rは、水素原子又は炭素原子数1~4のアルキル基を表す。)を表す。*は結合手を表す。
式(a1-3)中、R21は、水素原子又は炭素原子数1~5のアルキル基を表し、R22は、炭素原子数1~6のアルキレン基を表し、R23及びR24は、それぞれ独立して、炭素原子数1~4のアルキル基を表し、R25は、炭素原子数1~6のアルキレン基を表し、Xは、-O-又は-NR-(Rは、水素原子又は炭素原子数1~4のアルキル基を表す。)を表す。*は結合手を表す。
式(a1-4)中、R31は、水素原子又は炭素原子数1~5のアルキル基を表し、R32は、炭素原子数1~6のアルキレン基を表し、R33は、炭素原子数1~6のアルキレン基を表し、R34~R36は、それぞれ独立して、炭素原子数1~4のアルキル基を表し、Xは、-O-又は-NR-(Rは、水素原子又は炭素原子数1~4のアルキル基を表す。)を表す。*は結合手を表す。)
【化2】
(式(a2-1)中、R41は、水素原子又は炭素原子数1~5のアルキル基を表し、R42は、炭素原子数1~6のアルキレン基を表し、R43は、1価の有機基を表し、mは1~100を表す。*は結合手を表す。
式(a2-2)中、R51は、水素原子又は炭素原子数1~5のアルキル基を表し、R52は、炭素原子数1~6のアルキレン基を表す。*は結合手を表す。)
【請求項3】
前記共重合体における、前記繰り返し単位(a1)と前記繰り返し単位(a2)とのモル比(a1:a2)が、99:1~10:90である、請求項2に記載の表面改質剤。
【請求項4】
前記共重合体が、ブロック共重合体である、請求項1~3のいずれかに記載の表面改質剤。
【請求項5】
生体物質の付着抑制に用いられる、請求項1~4のいずれかに記載の表面改質剤。
【請求項6】
前記共重合体の数平均分子量(Mn)が、1,000~100,000である、請求項1~5のいずれかに記載の表面改質剤。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の表面改質剤を含有する、組成物。
【請求項8】
生体物質の付着抑制に用いられる、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
更に樹脂を含有する、請求項7又は8に記載の組成物。
【請求項10】
請求項7~9のいずれかに記載の組成物から形成される膜を有する、医療用デバイス。
【請求項11】
請求項7~9のいずれかに記載の組成物から形成される膜を有する、シリコーン基材。
【請求項12】
請求項7~9のいずれかに記載の組成物から形成される膜を有する、細胞培養容器。
【請求項13】
繰り返し単位(a1)及び繰り返し単位(a2)を有し、
前記繰り返し単位(a1)が、下記式(a1-1)で表される繰り返し単位~(a1-4)で表される繰り返し単位の少なくともいずれかを有し、
前記繰り返し単位(a2)が、下記式(a2-1)で表される繰り返し単位及び(a2-2)で表される繰り返し単位の少なくともいずれかを有する、
共重合体。
【化3】
(式(a1-1)中、Rは、水素原子又は炭素原子数1~5のアルキル基を表し、Rは、水素原子又は炭素原子数1~5のアルキル基を表し、Xは、-O-又は-NR-(Rは、水素原子又は炭素原子数1~4のアルキル基を表す。)を表し、mは、1~100を表す。*は結合手を表す。
式(a1-2)中、R11は、水素原子又は炭素原子数1~5のアルキル基を表し、R12は、炭素原子数1~6のアルキレン基を表し、R13及びR14は、それぞれ独立して、炭素原子数1~4のアルキル基を表し、R15は、炭素原子数1~6のアルキレン基を表し、Xは、-O-又は-NR-(Rは、水素原子又は炭素原子数1~4のアルキル基を表す。)を表す。*は結合手を表す。
式(a1-3)中、R21は、水素原子又は炭素原子数1~5のアルキル基を表し、R22は、炭素原子数1~6のアルキレン基を表し、R23及びR24は、それぞれ独立して、炭素原子数1~4のアルキル基を表し、R25は、炭素原子数1~6のアルキレン基を表し、Xは、-O-又は-NR-(Rは、水素原子又は炭素原子数1~4のアルキル基を表す。)を表す。*は結合手を表す。
式(a1-4)中、R31は、水素原子又は炭素原子数1~5のアルキル基を表し、R32は、炭素原子数1~6のアルキレン基を表し、R33は、炭素原子数1~6のアルキレン基を表し、R34~R36は、それぞれ独立して、炭素原子数1~4のアルキル基を表し、Xは、-O-又は-NR-(Rは、水素原子又は炭素原子数1~4のアルキル基を表す。)を表す。*は結合手を表す。)
【化4】
(式(a2-1)中、R41は、水素原子又は炭素原子数1~5のアルキル基を表し、R42は、炭素原子数1~6のアルキレン基を表し、R43は、1価の有機基を表し、mは1~100を表す。*は結合手を表す。
式(a2-2)中、R51は、水素原子又は炭素原子数1~5のアルキル基を表し、R52は、炭素原子数1~6のアルキレン基を表す。*は結合手を表す。)
【請求項14】
ブロック共重合体である、請求項13に記載の共重合体。
【請求項15】
生体物質の付着抑制に用いられる、請求項13又は14に記載の共重合体。
【請求項16】
数平均分子量(Mn)が、1,000~100,000である、請求項13~15のいずれかに記載の共重合体。
【請求項17】
前記繰り返し単位(a1)と前記繰り返し単位(a2)とのモル比(a1:a2)が、99:1~10:90である、請求項13~16のいずれかに記載の共重合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共重合体、表面改質剤、組成物、医療用デバイス、シリコーン基材、及び細胞培養容器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、MEMS(Microelectromechanical Systems)技術などの微細加工技術を利用して、基板(チップ)上にμmオーダーの所定の形状の回路や穴を作製した種々のマイクロデバイスが開発され、小型の人体模倣診断デバイスや生物化学工学において微量の実験や、単離・精製・分析等に用いられている。
これらマイクロ流路の市場は2020年代には100億から200億ドル規模に成長することが予想されている。
【0003】
生体試料を用いるデバイスでは、デバイスの表面に生体試料由来の細胞やタンパク質による接着が生じ、目詰まりや分析の精度の低下を招くという問題があった。そのような問題を解消するため、デバイスの回路や基板材料(例えば、ガラス、金属含有化合物もしくは半金属含有化合物、又は樹脂など)に対し、簡便な操作で表面にコーティングでき、且つ優れた生体物質の付着抑制能を付与できるコーティング剤として、特定のアニオン構造と、特定のカチオン構造とを含む共重合体の利用が報告されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
マイクロデバイスは、通常、ガラスや樹脂製の基板に、ポリジメチルシロキサン(以下をPDMSと称す)PDMSやガラスを加工した回路を接着剤で貼り合わせて作製されるため、形成される接着剤(又はその硬化物)層もまた、回路や基板の表面と同様に生体試料と接触しうる。したがって、生体試料を用いるデバイスに使用される接着剤(又はその硬化物)もまた、高い親水性や生体適合性を有することが望ましい。
【0005】
PDMS製のマイクロ流路を形成する際に表面改質剤としてDBE-712(Gelest社製)を添加することでタンパク質の吸着抑制が認められたことが報告されている。この研究では表面改質剤を添加したPDMS膜表面に対しタンパク質吸着抑制は示しているが、細胞接着抑制は達成されていない(例えば、非特許文献1参照)。
【0006】
ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレンに表面改質剤としてポリスチレン/オリゴエチレンオキシドメタクリレート共重合体を添加することでタンパク質吸着抑制、細胞接着抑制が認められたことが報告されている。この研究では表面改質剤を高濃度の20質量%に成るよう添加することで生体適合性発現を達成している(例えば、非特許文献文2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2021-008618号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】A.Asatekin,et al. Sci.Rep.,2019,9,1-14.
【非特許文献2】H.Yokoyama,et al. Adv.Mater.2005,17,2329-2332.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、汎用性高分子材料表面に優れた生体物質の付着抑制能を付与し得る表面改質剤及び汎用性高分子材料表面に優れた生体物質の付着抑制能を付与し得る組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、特定の構造を有する共重合体が、汎用性高分子材料表面に優れた生体物質の付着抑制能を付与し得ることを見出し、本発明を完成させた。
本発明は以下のとおりである。
【0011】
[1] 側鎖に、オキシエチレン構造及びベタイン構造の少なくともいずれかである第1構造と、
側鎖に、ジメチルシロキサン構造である第2構造と、
を有する共重合体を含有する、表面改質剤。
[2] 前記共重合体が、前記第1構造を有する繰り返し単位(a1)及び前記第2構造を有する繰り返し単位(a2)を有し、
前記繰り返し単位(a1)が、下記式(a1-1)で表される繰り返し単位~(a1-4)で表される繰り返し単位の少なくともいずれかを有し、
前記繰り返し単位(a2)が、下記式(a2-1)で表される繰り返し単位及び(a2-2)で表される繰り返し単位の少なくともいずれかを有する、
[1]に記載の表面改質剤。
【化1】
(式(a1-1)中、Rは、水素原子又は炭素原子数1~5のアルキル基を表し、Rは、水素原子又は炭素原子数1~5のアルキル基を表し、Xは、-O-又は-NR-(Rは、水素原子又は炭素原子数1~4のアルキル基を表す。)を表し、mは、1~100を表す。*は結合手を表す。
式(a1-2)中、R11は、水素原子又は炭素原子数1~5のアルキル基を表し、R12は、炭素原子数1~6のアルキレン基を表し、R13及びR14は、それぞれ独立して、炭素原子数1~4のアルキル基を表し、R15は、炭素原子数1~6のアルキレン基を表し、Xは、-O-又は-NR-(Rは、水素原子又は炭素原子数1~4のアルキル基を表す。)を表す。*は結合手を表す。
式(a1-3)中、R21は、水素原子又は炭素原子数1~5のアルキル基を表し、R22は、炭素原子数1~6のアルキレン基を表し、R23及びR24は、それぞれ独立して、炭素原子数1~4のアルキル基を表し、R25は、炭素原子数1~6のアルキレン基を表し、Xは、-O-又は-NR-(Rは、水素原子又は炭素原子数1~4のアルキル基を表す。)を表す。*は結合手を表す。
式(a1-4)中、R31は、水素原子又は炭素原子数1~5のアルキル基を表し、R32は、炭素原子数1~6のアルキレン基を表し、R33は、炭素原子数1~6のアルキレン基を表し、R34~R36は、それぞれ独立して、炭素原子数1~4のアルキル基を表し、Xは、-O-又は-NR-(Rは、水素原子又は炭素原子数1~4のアルキル基を表す。)を表す。*は結合手を表す。)
【化2】
(式(a2-1)中、R41は、水素原子又は炭素原子数1~5のアルキル基を表し、R42は、炭素原子数1~6のアルキレン基を表し、R43は、1価の有機基を表し、mは1~100を表す。*は結合手を表す。
式(a2-2)中、R51は、水素原子又は炭素原子数1~5のアルキル基を表し、R52は、炭素原子数1~6のアルキレン基を表す。*は結合手を表す。)
[3] 前記共重合体における、前記繰り返し単位(a1)と前記繰り返し単位(a2)とのモル比(a1:a2)が、99:1~10:90である、[2]に記載の表面改質剤。
[4] 前記共重合体が、ブロック共重合体である、[1]~[3]のいずれかに記載の表面改質剤。
[5] 生体物質の付着抑制に用いられる、[1]~[4]のいずれかに記載の表面改質剤。
[6] 前記共重合体の数平均分子量(Mn)が、1,000~100,000である、[1]~[5]のいずれかに記載の表面改質剤。
[7] [1]~[6]のいずれかに記載の表面改質剤を含有する、組成物。
[8] 生体物質の付着抑制に用いられる、[7]に記載の組成物。
[9] 更に樹脂を含有する、[7]又は[8]に記載の組成物。
[10] [7]~[9]のいずれかに記載の組成物から形成される膜を有する、医療用デバイス。
[11] [7]~[9]のいずれかに記載の組成物から形成される膜を有する、シリコーン基材。
[12] [7]~[9]のいずれかに記載の組成物から形成される膜を有する、細胞培養容器。
[13] 繰り返し単位(a1)及び繰り返し単位(a2)を有し、
前記繰り返し単位(a1)が、下記式(a1-1)で表される繰り返し単位~(a1-4)で表される繰り返し単位の少なくともいずれかを有し、
前記繰り返し単位(a2)が、下記式(a2-1)で表される繰り返し単位及び(a2-2)で表される繰り返し単位の少なくともいずれかを有する、
共重合体。
【化3】
(式(a1-1)中、Rは、水素原子又は炭素原子数1~5のアルキル基を表し、Rは、水素原子又は炭素原子数1~5のアルキル基を表し、Xは、-O-又は-NR-(Rは、水素原子又は炭素原子数1~4のアルキル基を表す。)を表し、mは、1~100を表す。*は結合手を表す。
式(a1-2)中、R11は、水素原子又は炭素原子数1~5のアルキル基を表し、R12は、炭素原子数1~6のアルキレン基を表し、R13及びR14は、それぞれ独立して、炭素原子数1~4のアルキル基を表し、R15は、炭素原子数1~6のアルキレン基を表し、Xは、-O-又は-NR-(Rは、水素原子又は炭素原子数1~4のアルキル基を表す。)を表す。*は結合手を表す。
式(a1-3)中、R21は、水素原子又は炭素原子数1~5のアルキル基を表し、R22は、炭素原子数1~6のアルキレン基を表し、R23及びR24は、それぞれ独立して、炭素原子数1~4のアルキル基を表し、R25は、炭素原子数1~6のアルキレン基を表し、Xは、-O-又は-NR-(Rは、水素原子又は炭素原子数1~4のアルキル基を表す。)を表す。*は結合手を表す。
式(a1-4)中、R31は、水素原子又は炭素原子数1~5のアルキル基を表し、R32は、炭素原子数1~6のアルキレン基を表し、R33は、炭素原子数1~6のアルキレン基を表し、R34~R36は、それぞれ独立して、炭素原子数1~4のアルキル基を表し、Xは、-O-又は-NR-(Rは、水素原子又は炭素原子数1~4のアルキル基を表す。)を表す。*は結合手を表す。)
【化4】
(式(a2-1)中、R41は、水素原子又は炭素原子数1~5のアルキル基を表し、R42は、炭素原子数1~6のアルキレン基を表し、R43は、1価の有機基を表し、mは1~100を表す。*は結合手を表す。
式(a2-2)中、R51は、水素原子又は炭素原子数1~5のアルキル基を表し、R52は、炭素原子数1~6のアルキレン基を表す。*は結合手を表す。)
[14] ブロック共重合体である、[13]に記載の共重合体。
[15] 生体物質の付着抑制に用いられる、[13]又は[14]に記載の共重合体。
[16] 数平均分子量(Mn)が、1,000~100,000である、[13]~[15]のいずれかに記載の共重合体。
[17] 前記繰り返し単位(a1)と前記繰り返し単位(a2)とのモル比(a1:a2)が、99:1~10:90である、[13]~[16]のいずれかに記載の共重合体。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、汎用性高分子材料表面に優れた生体物質の付着抑制能を付与し得る表面改質剤、及び汎用性高分子材料表面に優れた生体物質の付着抑制能を付与し得る組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1の各EbS31含有樹脂組成物1-1~1-4から得られるEbS31含有樹脂膜の原子間力顕微鏡(AFM)画像(高さ像及び位相差像)
図2】EbS31含有PMMA膜及びEbS31非含有PMMA膜の表面のX線光電子分光(XPS)測定の結果
図3】EbS31含有PS膜及びEbS31非含有PS膜の表面のX線光電子分光(XPS)測定の結果
図4】EbS31含有PDMS膜及びEbS31非含有PDMS膜の表面のX線光電子分光(XPS)測定の結果
図5】EbS31含有PP膜及びEbS31非含有PP膜の表面のX線光電子分光(XPS)測定の結果
図6】EbS31含有PMMA膜、EbS31含有PS膜、EbS31非含有PMMA膜、及びEbS31非含有PS膜の細胞付着実験結果
図7】EbS31含有PDMS膜、EbS31含有PP膜、EbS31非含有PDMS膜、及びEbS31非含有PP膜の細胞付着実験結果
図8】EbS31の含有量が異なるPMMA膜のAFM画像(高さ像(a)~(d)及び位相差像(e)~(h))
図9】EbS31の含有量が異なるPS膜のAFM画像(高さ像(a)~(d)及び位相差像(e)~(h))
図10】EbS31の含有量が異なるPMMA膜の表面のX線光電子分光(XPS)測定の結果
図11】EbS31の含有量が異なるPS膜の表面のX線光電子分光(XPS)測定の結果
図12】EbS31の含有量が異なるPMMA膜の細胞付着実験結果
図13】PEOMA含有PMMA膜、EbS31含有PMMA膜、PSiOMA含有PMMA膜、DBE-712含有PMMA膜、及びPMMA膜の細胞付着実験結果
図14】EbS31含有PMMA膜、EbS80含有PMMA膜、ErS31含有PMMA膜、PMMA膜、及びPS膜の細胞付着実験結果
【発明を実施するための形態】
【0014】
(表面改質剤)
本発明の表面改質剤は、共重合体を含有し、更に必要に応じてその他の成分を含有する。
表面改質剤は、例えば、生体物質の付着抑制に用いられる。
なお、共重合体も本発明の対象である。
表面改質剤は、共重合体自体であってもよい。
【0015】
<共重合体>
共重合体は、側鎖に、第1構造と第2構造とを有する。
第1構造は、オキシエチレン構造及びベタイン構造の少なくともいずれかである。
第2構造は、ジメチルシロキサン構造である。
オキシエチレン構造及びベタイン構造は、その構造を有するポリマーが防汚ポリマーとして機能する点で、共通する性質を有する(例えば、Polymer Journal (2014) 46, 436-443参照)。
【0016】
共重合体は、例えば、付加重合体である。付加重合体としては、例えば、重合性不飽和基を有するモノマーの重合体が挙げられる。
【0017】
オキシエチレン構造とは、-OCHCH-構造を指す。
ジメチルシロキサン構造とは、-Si(CH)(CH)-O-構造を指す。
【0018】
ベタイン構造とは、正電荷と負電荷とを同一分子内に持ち、電荷が中和されている構造を指す。ベタイン構造は、正電荷と負電荷とを、好ましくは隣り合わない位置に持ち、そして、好ましくは1つ以上の原子を介する位置に持つ。
ベタイン構造としては、例えば、スルホベタイン構造、カルボキシベタイン構造、ホスホベタイン構造などが挙げられる。
スルホベタイン構造とは、ベタイン構造の負電荷が解離したスルホ基によるものである。
カルボキシベタイン構造とは、ベタイン構造の負電荷が解離したカルボキシ基によるものである。
ホスホベタイン構造とは、ベタイン構造の負電荷が解離したリン酸基によるものである。
【0019】
共重合体は、好ましくは、第1構造を有する繰り返し単位(a1)及び第2構造を有する繰り返し単位(a2)を有する。
繰り返し単位(a1)は、下記式(a1-1)で表される繰り返し単位~(a1-4)で表される繰り返し単位の少なくともいずれかを有する。
繰り返し単位(a2)は、下記式(a2-1)で表される繰り返し単位及び(a2-2)で表される繰り返し単位の少なくともいずれかを有する。
共重合体は、他の繰り返し単位を有していてもよい。
【0020】
【化5】
(式(a1-1)中、Rは、水素原子又は炭素原子数1~5のアルキル基を表し、Rは、水素原子又は炭素原子数1~5のアルキル基を表し、Xは、-O-又は-NR-(Rは、水素原子又は炭素原子数1~4のアルキル基を表す。)を表し、mは、1~100を表す。*は結合手を表す。
式(a1-2)中、R11は、水素原子又は炭素原子数1~5のアルキル基を表し、R12は、炭素原子数1~6のアルキレン基を表し、R13及びR14は、それぞれ独立して、炭素原子数1~4のアルキル基を表し、R15は、炭素原子数1~6のアルキレン基を表し、Xは、-O-又は-NR-(Rは、水素原子又は炭素原子数1~4のアルキル基を表す。)を表す。*は結合手を表す。
式(a1-3)中、R21は、水素原子又は炭素原子数1~5のアルキル基を表し、R22は、炭素原子数1~6のアルキレン基を表し、R23及びR24は、それぞれ独立して、炭素原子数1~4のアルキル基を表し、R25は、炭素原子数1~6のアルキレン基を表し、Xは、-O-又は-NR-(Rは、水素原子又は炭素原子数1~4のアルキル基を表す。)を表す。*は結合手を表す。
式(a1-4)中、R31は、水素原子又は炭素原子数1~5のアルキル基を表し、R32は、炭素原子数1~6のアルキレン基を表し、R33は、炭素原子数1~6のアルキレン基を表し、R34~R36は、それぞれ独立して、炭素原子数1~4のアルキル基を表し、Xは、-O-又は-NR-(Rは、水素原子又は炭素原子数1~4のアルキル基を表す。)を表す。*は結合手を表す。)
【0021】
【化6】
(式(a2-1)中、R41は、水素原子又は炭素原子数1~5のアルキル基を表し、R42は、炭素原子数1~6のアルキレン基を表し、R43は、1価の有機基を表し、mは1~100を表す。*は結合手を表す。
式(a2-2)中、R51は、水素原子又は炭素原子数1~5のアルキル基を表し、R52は、炭素原子数1~6のアルキレン基を表す。*は結合手を表す。)
【0022】
、R、R11、R21、R31、R41、及びR51における炭素原子数1~5のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、3-メチルブチル基、1,1-ジメチルプロピル基、1,2-ジメチルプロピル基、2,2-ジメチルプロピル基、1-エチルプロピル基などが挙げられる。
、R11、R21、R31、R41、及びR51は、水素原子、メチル基、又はエチル基が好ましく、水素原子、又はメチル基がより好ましい。
は、水素原子、又はメチル基が好ましい。
【0023】
12、R15、R22、R25、R32、R33、R42、及びR52における炭素原子数1~6のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、1-メチルプロピレン基、2-メチルプロピレン基、ジメチルエチレン基、エチルエチレン基、ペンタメチレン基、1-メチル-テトラメチレン基、2-メチル-テトラメチレン基、1,1-ジメチル-トリメチレン基、1,2-ジメチル-トリメチレン基、2,2-ジメチル-トリメチレン基、1-エチル-トリメチレン基、ヘキサメチレン基などが挙げられる。
炭素原子数1~6のアルキレン基は、直鎖状アルキレン基であってもよいし、分岐状アルキレン基であってもよい。
これらの中でも、炭素原子数1~6のアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、トリエチレン基、又はテトラメチレン基が好ましい。
【0024】
13、R14、R23、R24、及びR34~R36における炭素原子数1~4のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基などが挙げられる。
これらの中でも、炭素原子数1~4のアルキル基としては、メチル基、又はエチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0025】
43の1価の有機基としては、直鎖状であってもよいし、分岐状であってもよいし、環状であってもよい。
1価の有機基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基などが挙げられるが、アルキル基が好ましい。
43がアルキル基を表す場合のアルキル基としては、炭素原子数1~12のアルキル基が好ましく、炭素原子数1~6のアルキル基がより好ましく、炭素原子数1~4のアルキル基が特に好ましい。炭素原子数1~4のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基が挙げられる。これらの中でも、メチル基が好ましい。
43がアルケニル基を表す場合のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、2-プロペニル基などが挙げられるが、ビニル基が好ましい。
43がアルキニル基を表す場合のアルキニル基としては、例えば、エチニル基、プロパルギル基、プロパ-2-イン-1-イル基などが挙げられるが、エチニル基が好ましい。
43がアリール基を表す場合のアリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基、ピリジル基などが挙げられるが、フェニル基が好ましい。
【0026】
式(a1-1)~(a1-4)のXが-NR-である場合のRは、水素原子又は炭素原子数1~4のアルキル基を表す。
Rにおける炭素原子数1~4のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基などが挙げられる。
Rとしては、水素原子が好ましい。
【0027】
式(a1-1)で表される繰り返し単位を誘導し得るモノマーとしては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エチレンオキシド(メタ)アクリレート、エチレングリコール(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
なお、本明細書において「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート又はメタクリレートを意味する。
【0028】
式(a1-2)で表される繰り返し単位を誘導し得るモノマーとしては、例えば、以下のモノマーが挙げられる。
【化7】
【0029】
式(a1-2)で表される繰り返し単位を誘導し得るモノマーの市販品としては、例えば、東京化成工業製のM1971、M3295、A3367、B6130、U0119、M3296、A3361などが挙げられる。
【0030】
式(a1-3)で表される繰り返し単位を誘導し得るモノマーとしては、例えば、以下のモノマーが挙げられる。
【化8】
【0031】
式(a1-3)で表される繰り返し単位を誘導し得るモノマーの市販品としては、例えば、東京化成工業製のM3185、M2359、A3279などが挙げられる。
【0032】
式(a1-4)で表される繰り返し単位を誘導し得るモノマーとしては、例えば、以下のモノマーが挙げられる。
【化9】
【0033】
式(a1-4)で表される繰り返し単位を誘導し得るモノマーの市販品としては、例えば、東京化成工業製のM2005などが挙げられる。
【0034】
式(a2-1)で表される繰り返し単位を誘導し得るモノマーの市販品としては、例えば、信越化学工業社製のX-22-2404、X-22-174ASX、X-22-174BX、KF-2012、X-22-2426;JNC社製のサイラプレーンFM-711、FM-0721などが挙げられる。
【0035】
式(a2-2)で表される繰り返し単位を誘導し得るモノマーの市販品としては、例えば、JNC社製のサイラプレーンTM-0701Tなどが挙げられる。
【0036】
共重合体の全繰り返し単位に対する繰り返し単位(a1)のモル%としては、本発明の効果を奏するものであれば、特に制限されないが、10~99モル%が好ましく、20~95モル%がより好ましく、30~90モル%が特に好ましい。
【0037】
共重合体の全繰り返し単位に対する繰り返し単位(a2)のモル%としては、本発明の効果を奏するものであれば、特に制限されないが、1~90モル%が好ましく、5~80モル%がより好ましく、10~70モル%が特に好ましい。
【0038】
共重合体における繰り返し単位(a1)と繰り返し単位(a2)とのモル比(a1:a2)としては、本発明の効果を奏するものであれば、特に制限されないが、99:1~10:90が好ましく、95:5~80:20がより好ましく、90:10~30:70が特に好ましい。
【0039】
共重合体が繰り返し単位(a1)及び繰り返し単位(a2)を有する場合、共重合体は、繰り返し単位(a1)及び繰り返し単位(a2)以外の繰り返し単位を有していてもよい。
共重合体が繰り返し単位(a1)及び繰り返し単位(a2)を有する場合、共重合体の全繰り返し単位に対する繰り返し単位(a1)及び繰り返し単位(a2)の合計のモル%としては、本発明の効果を奏するものであれば、特に制限されないが、50モル%以上が好ましく、70モル%以上がより好ましく、90モル%以上が更により好ましく、99モル%以上が特に好ましい。
【0040】
共重合体は、ランダム共重合体であってもよいし、ブロック共重合体であってもよいが、本発明の効果がより優れる点から、ブロック共重合体が好ましい。
ブロック共重合体は、ジブロック共重合体であってもよいし、トリブロック共重合体であってもよいし、4以上のブロックを有する共重合体であってもよい。
共重合体がブロック共重合体の場合、繰り返し単位(a1)を有するブロック(A1)と、繰り返し単位(a2)を有するブロック(A2)とを有する。
ブロック(A1)中の全繰り返し単位に対する繰り返し単位(a1)のモル比%としては、本発明の効果を奏するものであれば、特に制限されないが、50モル%以上が好ましく、70モル%以上がより好ましく、90モル%以上が更により好ましく、99モル%以上が特に好ましい。
ブロック(A2)中の全繰り返し単位に対する繰り返し単位(a2)のモル比%としては、本発明の効果を奏するものであれば、特に制限されないが、50モル%以上が好ましく、70モル%以上がより好ましく、90モル%以上が更により好ましく、99モル%以上が特に好ましい。
【0041】
共重合体の分子量としては、本発明の効果を奏するものであれば、特に制限されないが、数平均分子量(Mn)は、1,000~100,000が好ましく、5,000~50,000がより好ましく、10,000~30,000が特に好ましい。
共重合体の多分散度〔重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)〕としては、本発明の効果を奏するものであれば、特に制限されないが、2.00以下が好ましく、1.50以下がより好ましい。
共重合体の分子量は、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)により求めることができる。
【0042】
<<共重合体の製造方法>>
共重合体の製造方法としては、特に制限されない。
共重合体は、例えば、第1構造を有するモノマーと、第2構造を有するモノマーとを用いた重合により製造できる。
モノマーが、(メタ)アクリレートモノマーである場合、一般的なアクリルポリマー又はメタクリルポリマー等の合成方法であるラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合等の方法に付すことにより、共重合体を製造できる。重合形態は、溶液重合、懸濁重合、乳化重合、塊状重合等、種々の方法が可能である。中でも、リビングラジカル重合法により合成することが好ましいが、この方法に制限されない。
【0043】
リビングラジカル重合法は、金属錯体あるいは非金属性の有機触媒を用いる触媒反応である。金属錯体を用いる場合は、通常、金属錯体が有機ハロゲン化化合物のような重合開始剤と反応してラジカル種を生成し、モノマーとの重合を開始する。ここで金属錯体を形成する金属塩の例としては、塩化銅(I)、(II)、臭化銅(I)、(II)、塩化鉄(II)、(III)、臭化鉄(II)、(III)、塩化コバルト(II)、臭化コバルト(II)、塩化チタン(IV)、ルテニウム錯体化合物等が挙げられ、金属錯体を形成する配位子の例としては、トリス[2-(ジメチルアミノ)エチル]アミン、トリス(2-ピリジルメチル)アミン(TPMA)、1,1,4,7,10,10-ヘキサメチルトリエチレンテトラミン、N,N,N’,N’’,N’’-ペンタメチルジエチレントリアミン(PMDETA)、n―ブチルアミン等の窒素含有配位子が挙げられる。また重合開始剤の例としては、2-ブロモイソ酪酸無水物、2-ブロモイソ酪酸メチル、2-ブロモイソ酪酸エチル、2-ブロモイソ酪酸プロパルギル等の有機ハロゲン化合物が挙げられる。これらを用いて常法に従い、リビングラジカル重合を行うことにより、所定の分子量と狭い分子量分布を有する共重合体が得られる。そのような方法の具体例の一つは、後述の実施例に記載されている。
【0044】
<生体物質>
本発明において、生体物質としては、タンパク質、糖、ウイルス、核酸、細胞、それらの2種以上の組み合わせが挙げられる。
【0045】
タンパク質としては、例えば、フィブリノゲン、牛血清アルブミン(BSA)、ヒトアルブミン、各種グロブリン、β-リポ蛋白質、各種抗体(IgG、IgA、IgM)、ペルオキシダーゼ、各種補体、各種レクチン、フィブロネクチン、リゾチーム、フォン・ヴィレブランド因子(vWF)、血清γ-グロブリン、ペプシン、卵白アルブミン、インシュリン、ヒストン、リボヌクレアーゼ、コラーゲン、シトクロームcが挙げられる。
【0046】
糖としては、例えば、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、ヘパリン、ヒアルロン酸が挙げられる。
【0047】
核酸としては、例えば、デオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)が挙げられる。
【0048】
細胞としては、例えば、線維芽細胞、骨髄細胞、Bリンパ球、Tリンパ球、好中球、赤血球、血小板、マクロファージ、単球、骨細胞、周皮細胞、樹枝状細胞、ケラチノサイト、脂肪細胞、間葉細胞、上皮細胞、表皮細胞、内皮細胞、血管内皮細胞、肝実質細胞、軟骨細胞、卵丘細胞、神経系細胞、グリア細胞、ニューロン、オリゴデンドロサイト、マイクログリア、星状膠細胞、心臓細胞、食道細胞、筋肉細胞(例えば、平滑筋細胞又は骨格筋細胞)、膵臓ベータ細胞、メラニン細胞、造血前駆細胞、単核細胞、胚性幹細胞(ES細胞)、胚性腫瘍細胞、胚性生殖幹細胞、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、肝幹細胞、膵幹細胞、筋幹細胞、生殖幹細胞、腸幹細胞、癌幹細胞、毛包幹細胞、及び各種細胞株(例えば、HCT116、Huh7、HEK293(ヒト胎児腎細胞)、HeLa(ヒト子宮頸癌細胞株)、HepG2(ヒト肝癌細胞株)、UT7/TPO(ヒト白血病細胞株)、CHO(チャイニーズハムスター卵巣細胞株)、MDCK、MDBK、BHK、C-33A、HT-29、AE-1、3D9、Ns0/1、Jurkat、NIH3T3、PC12、S2、Sf9、Sf21、High Five、Vero)等が挙げられる。
【0049】
本発明の表面改質剤は、共重合体自体であってもよいし、共重合体以外の成分を含有していてもよい。
【0050】
表面改質剤の使用方法としては、特に制限されないが、例えば、共重合体自体を表面改質剤として用い、成型加工時にプライマーとして型枠に事前に表面改質剤を塗布しておき、射出形成等により樹脂を流し込むことで成形した樹脂表面に表面改質剤を転写させる方法が挙げられる。
また、表面改質剤の使用方法としては、例えば、以下の組成物に含有させて用いる方法が挙げられる。
【0051】
(組成物)
本発明の組成物は、表面改質剤を含有し、更に必要に応じて、樹脂(ただし、上記共重合体を除く。)、溶媒などのその他の成分を含有してもよい。
【0052】
以下、本発明の組成物の使用方法としては、例えば、以下の2通りの使用方法が挙げられる。
(1)樹脂と表面改質剤とを含有する本発明の組成物を塗布し、共重合体が表面に偏析した樹脂膜を形成する方法。
(2)表面改質剤を含有する本発明の組成物を樹脂の表面に塗布して、当該樹脂の表面に共重合体の薄膜を形成する方法。
【0053】
上記(1)の使用方法は、例えば、生体物質が接するデバイスの作製に用いられる。
上記(2)の使用方法は、例えば、細胞培養容器の作製に用いられる。
なお、生体物質が接するデバイスの作製に上記(2)の使用方法を用いてもよいし、細胞培養容器の作製に上記(1)の使用方法を用いてもよい。
【0054】
組成物が樹脂を含有しない場合の組成物における共重合体の含有量としては、特に制限されないが、0.1~20質量%が好ましく、0.5~10質量%がより好ましく、1~5質量%が特に好ましい。
【0055】
<樹脂>
組成物に含有される樹脂としては、特に制限されず、合成樹脂であってもよいし、天然樹脂であってもよいし、天然樹脂の誘導体であってもよい。
合成樹脂としては、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリスチレン(PS)、ポリプロピレン(PP)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリエステル系ポリマーアロイ(PEPA)、ポリスルホン(PSF)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリウレタン(PU)、エチレンビニルアルコール(EVAL)、ポリエチレン(PE)、ポリエステル、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリカーボネート(PC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、超高分子量ポリエチレン(UHPE)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂(ABS)、テフロン(登録商標)などが挙げられる。
天然樹脂又はその誘導体としては、例えば、セルロース、三酢酸セルロース(CTA)、ニトロセルロース(NC)、デキストラン硫酸を固定化したセルロースなどが挙げられる。
【0056】
組成物における樹脂の含有量としては、特に制限されないが、0.1~20質量%が好ましく、0.5~15質量%がより好ましく、1~10質量%が特に好ましい。
【0057】
組成物における共重合体と樹脂との質量割合としては、特に制限されないが、共重合体の含有量は、樹脂100質量部に対して、0.1~20質量部が好ましく、0.2~10質量部がより好ましく、0.5~5質量部が特に好ましい。
【0058】
<溶媒>
組成物に含有される場合の溶媒としては、例えば、水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、アルコール、グリコールエーテル、ケトン、芳香族化合物、スルホキシド類、アミド類などが挙げられる。
【0059】
組成物が樹脂を含有し、組成物が、生体物質が接するデバイスの作製に用いられる場合、溶媒としては、アルコール、ケトン、芳香族化合物、スルホキシド、スルホキシドが好ましい。
組成物が、細胞培養容器の作製に用いられる場合、溶媒としては、水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、アルコール、グリコールエーテルが好ましい。
【0060】
アルコールとしては、炭素原子数1~6のアルコールが挙げられる。
アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブタノール、t-ブタノール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、1-ヘプタノール、2-ヘプタノール、2,2-ジメチル-1-プロパノール(ネオペンチルアルコール)、2-メチル-1-プロパノール、2-メチル-1-ブタノール、2-メチル-2-ブタノール(t-アミルアルコール)、3-メチル-1-ブタノール、3-メチル-3-ペンタノール、シクロペンタノール、1-ヘキサノール、2-ヘキサノール、3-ヘキサノール、2,3-ジメチル-2-ブタノール、3,3-ジメチル-1-ブタノール、3,3-ジメチル-2-ブタノール、2-エチル-1-ブタノール、2-メチル-1-ペンタノール、2-メチル-2-ペンタノール、2-メチル-3-ペンタノール、3-メチル-1-ペンタノール、3-メチル-2-ペンタノール、3-メチル-3-ペンタノール、4-メチル-1-ペンタノール、4-メチル-2-ペンタノール、4-メチル-3-ペンタノール及びシクロヘキサノールが挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
組成物が細胞培養容器の作製に用いられる場合のアルコールとしては、炭素原子数2~6のアルコールが好ましい。
【0061】
グリコールエーテルとしては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールプロピルエーテルアセテートが挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0062】
組成物が細胞培養容器の作製に用いられる場合、組成物には、溶媒として、水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、アルコール又は水溶性有機溶媒を単独で用いてもよい。また、組成物には、溶媒として、水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、アルコール及び水溶性有機溶媒の2種以上を組み合わせて用いてもよい。
組成物が細胞培養容器の作製に用いられる場合、溶媒の組み合わせとしては、以下の組み合わせが好ましい。
・水及びアルコール
・水、アルコール及び水溶性有機溶媒
・アルコール及び水溶性有機溶媒
溶媒の組み合わせとしては、以下の組み合わせがより好ましい。
・水及びエタノール
・水、エタノール及びプロピレングリコールモノメチルエーテル
・エタノール及びプロピレングリコールモノメチルエーテル
【0063】
ケトンとしては、例えば、アセトン、メチルエチルケトンなどが挙げられる。
芳香族化合物としては、例えば、トルエン、キシレンなどが挙げられる。
スルホキシド類としては、例えば、ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。
アミド類としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミドなどが挙げられる。
【0064】
組成物における溶媒の含有量としては、特に制限されないが、0.1~50質量%が好ましく、0.5~20質量%がより好ましく、1~20質量%が特に好ましい。
【0065】
<その他の成分>
その他の成分としては、pH調整剤、防腐剤、界面活性剤、防カビ剤、糖類、無機充填剤、強化材、着色剤、安定剤、増量剤、粘度調節剤、粘着付与剤、難燃剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、変色防止剤、抗菌剤、老化防止剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、平滑化剤、発泡剤、離型剤などが挙げられる。
【0066】
組成物が樹脂を含有し、組成物が、生体物質が接するデバイスの作製に用いられる場合、その他の成分としては、上記その他の成分のうち、例えば、無機充填剤、強化材、着色剤、安定剤、増量剤、粘度調節剤、粘着付与剤、難燃剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、変色防止剤、抗菌剤、防黴剤、老化防止剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、平滑化剤、発泡剤、離型剤、防カビ剤などが挙げられる。
組成物が、細胞培養容器の作製に用いられる場合、その他の成分としては、上記その他の成分のうち、例えば、pH調整剤、防腐剤、界面活性剤、防カビ剤、糖類などが挙げられる。
【0067】
<組成物を用いた膜の製造方法>
本発明の組成物から、生体物質の付着抑制能を有する膜が得られる。
組成物を用いた膜の製造方法は、例えば、供給工程と、乾燥工程とを少なくとも含み、更に必要に応じて洗浄工程、滅菌工程などのその他の工程を含む。
なお、膜は、供給工程が行われた後、乾燥工程が行われずに製造されてもよい。
【0068】
組成物が、樹脂を含有する場合、得られた膜は、例えば、共重合体が表面に偏析した樹脂膜である。
組成物が、樹脂を含有しない場合、得られた膜は、例えば、基材上に形成された共重合体の膜である。
このように、本発明の一実施形態では、共重合体と樹脂とを含有する組成物から樹脂膜を形成した際に、共重合体が樹脂膜の表面に偏析することにより、共重合体による生体物質の付着抑制能が発現される。
また、本発明の他の一実施形態では、基材の上に、共重合体を含有しかつ樹脂を含有しない組成物から共重合体の膜を形成した際に、得られた共重合体の膜自体によって、基材の表面に生体物質の付着抑制能が発現される。
【0069】
<<供給工程>>
供給工程としては、本発明の組成物が基材上に供給される工程であれば、特に制限されない。
【0070】
<<<基材>>>
基材の材質、大きさ、形状、構造としては、特に制限されない。
【0071】
基材の材質としては、例えば、ガラス、金属、金属含有化合物若しくは半金属含有化合物、活性炭又は樹脂を挙げることができる。
金属としては、典型金属:(アルカリ金属:Li、Na、K、Rb、Cs;アルカリ土類金属:Ca、Sr、Ba、Ra)、マグネシウム族元素:Be、Mg、Zn、Cd、Hg;アルミニウム族元素:Al、Ga、In;希土類元素:Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu;スズ族元素:Ti、Zr、Sn、Hf、Pb、Th;鉄族元素:Fe、Co、Ni;土酸元素:V、Nb、Ta、クロム族元素:Cr、Mo、W、U;マンガン族元素:Mn、Re;貴金属:Cu、Ag、Au;白金族元素:Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt等が挙げられる。
金属含有化合物若しくは半金属含有化合物としては、例えば基本成分が金属酸化物で、高温での熱処理によって焼き固めた焼結体であるセラミックス、シリコンのような半導体、金属酸化物若しくは半金属酸化物(シリコン酸化物、アルミナ等)、金属炭化物若しくは半金属炭化物、金属窒化物若しくは半金属窒化物(シリコン窒化物等)、金属ホウ化物若しくは半金属ホウ化物等の無機化合物の成形体等の無機固体材料、アルミニウム、ニッケルチタン、ステンレス(SUS304、SUS316、SUS316L等)が挙げられる。
樹脂としては、天然樹脂若しくはその誘導体、又は合成樹脂いずれでもよく、天然樹脂若しくはその誘導体としては、セルロース、三酢酸セルロース(CTA)、ニトロセルロース(NC)、デキストラン硫酸を固定化したセルロース等、合成樹脂としてはポリアクリロニトリル(PAN)、ポリエステル系ポリマーアロイ(PEPA)、ポリスチレン(PS)、ポリスルホン(PSF)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリウレタン(PU)、エチレンビニルアルコール(EVAL)、ポリエチレン(PE)、ポリエステル、ポリプロピレン(PP)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリカーボネート(PC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、超高分子量ポリエチレン(UHPE)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂(ABS)又はテフロン(登録商標)が好ましく用いられる。
基材の材質は1種類であっても2種類以上の組み合わせであってもよい。
【0072】
これらの材質の中において、ガラス、シリコン、シリコン酸化物、ポリスチレン(PS)、ポリプロピレン(PP)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、テフロン(登録商標)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)若しくはステンレス(SUS304、SUS316、SUS316L等)単独、又はこれらから選ばれる組み合わせであることが好ましく、ガラス、ポリスチレン(PS)、ポリプロピレン(PP)、ステンレス(SUS304、SUS316、SUS316L等)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)であることが特に好ましい。
【0073】
基材の形状としては、特に制限されず、基材は、平面を有する平板であってもよいし、ウェル、ディッシュ等の窪みを有する構造をした容器形状のもの(いわゆる細胞培養容器)であってもよい。
【0074】
基材としては、例えば、細胞の培養に一般的に用いられるペトリデッシュ、組織培養用ディッシュ、マルチディッシュなどのディッシュ(シャーレ)、細胞培養フラスコ、スピナーフラスコなどのフラスコ、プラスチックバッグ、テフロン(登録商標)バッグ、培養バッグなどのバッグ、マイクロプレート、マイクロウェルプレート、マルチプレート、マルチウェルプレートなどのプレート、チャンバースライド、チューブ、トレイ、ローラーボトルなどのボトル等が挙げられる。好ましくは、ディッシュ、プレート、トレイが挙げられる。
【0075】
<<<供給方法>>>
本発明の組成物を基材上に供給する方法としては、特に制限されず、例えば、一般的な塗布方法が挙げられる。
塗布方法としては、例えば、スピンコート法、インクジェット法、スクリーン印刷法、スリットコート法、ロール・トゥー・ロール法、ディップコート法、溶媒キャスト法等が挙げられる。好ましくはインクジェット法又はスクリーン印刷等の印刷技術である。
塗布方法としては、より具体的には、例えば、基材を本発明の組成物に浸漬する方法、本発明の組成物を基材に添加し、所定の時間静置する方法等の方法が挙げられる。
基材が容器の場合、供給方法は、例えば、本発明の組成物を容器に添加し、所定の時間静置する方法によって行うことができる。添加は、例えば、容器の全容積の0.5~1倍量の本発明の組成物を、シリンジ等を用いて添加することによって行うことができる。
【0076】
<<乾燥工程>>
乾燥工程としては、基材上に供給された本発明の組成物が乾燥される工程であれば、特に制限されない。
【0077】
乾燥は、例えば、大気下又は真空下にて、温度-200℃~200℃の範囲内で行うことができる。
膜は、例えば室温(10℃~35℃、例えば25℃)での乾燥でも形成することができるが、より迅速に膜を形成させるために、例えば40℃~100℃にて乾燥させてもよい。
好ましい乾燥温度は10℃~180℃であり、より好ましい乾燥温度は20℃~150℃である。
乾燥時間としては、特に制限されないが、例えば、1分間~24時間である。
【0078】
<<洗浄工程>>
洗浄工程としては、乾燥工程により得られた膜が洗浄される工程であれば、特に制限されない。洗浄工程は、例えば、膜に残存する不純物、未反応モノマー等を膜から除去するために行われる。
【0079】
洗浄は、公知の方法で行うことができるが、流水洗浄、超音波洗浄が好ましい。
洗浄に用いる溶媒としては、水、電解質を含む水溶液などが挙げられる。溶媒は通常室温(例えば10~35℃)で用いられるが、例えば40℃~95℃の範囲に加温されたものでもよい。電解質を含む水溶液は、PBS、生理食塩水(塩化ナトリウムのみを含むもの)、ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水、トリス緩衝生理食塩水、HEPES緩衝生理食塩水及びベロナール緩衝生理食塩水が好ましく、PBSが特に好ましい。
【0080】
また、得られた膜が細胞培養に用いられる場合には、細胞培養に用いられる試料の媒質(例えば、水、緩衝液、培地等)を用いて洗浄を行ってもよい。好ましい媒質は、培地であり、より好ましい媒質は、BME培地(イーグル基礎培地)、DMEM培地(ダルベッコ改変イーグル培地)である。
【0081】
<<滅菌工程>>
得られた膜が細胞培養に用いられる場合は、得られた膜は、放射線照射による滅菌工程を経ることが必要である。
滅菌工程は、通常、周囲温度(例えば、約0℃~約40℃、好ましくは約10℃~約30℃、より好ましくは約25℃)で実施される。照射される放射線としては、滅菌を行うことができれば制限されないが、γ線、X線又は電子線が好ましい。より好ましくはγ線又はX線、さらに好ましくはγ線である。γ線の照射線量は、例えば、通常の滅菌工程で採用されている線量でよく、例えば、5~40kGy程度の照射で十分であり、好ましくは、10~25kGyがよい。
【0082】
(医療用デバイス)
本発明の医療用デバイスは、本発明の組成物から形成される膜を有する。
医療用デバイスは、例えば、生体物質が接するデバイスである。医療用デバイスにおいて、本発明の組成物から形成される膜は、例えば、生体物質が接する箇所の少なくとも一部に配される。
【0083】
本発明の医療用デバイスとしては、医療用器材であれば特に制限されず、例えば、血液バッグ、採尿バッグ、輸血セット、縫合糸、ドレーンチューブ、各種カテーテル、ブラッドアクセス、血液回路、人工血管、人工腎臓、人工心肺、人工弁、血漿交換膜、各種吸着体、CAPD、IABP、ペースメーカー、人工関節、人工骨頭、歯科材料、各種シャント等が挙げられる。
【0084】
医療用デバイスとは、生体内で使用される医療用の構造体のことをいい、このような構造体は、体内へ埋め込んで使用するものと、体内で(埋め込まずに)使用するものとに大別される。なお、医療用デバイスの大きさや長さは特に制限されるものではなく、微細な回路を有するものや、微量の試料を検出するものも包含される。
体内へ埋め込んで使用する構造体としては、例えば、心臓ペースメーカー等の疾患が生じている生体の機能を補うための機能補助装置;埋入型バイオチップ等の生体の異常を検出するための装置;インプラント、骨固定材、縫合糸、人工血管等の医療用器具が挙げられる。
また、体内で(埋め込まずに)使用する構造体としては、カテーテル、胃カメラ等が挙げられる。
【0085】
(シリコーン基材)
本発明のシリコーン基材は、本発明の組成物から形成される膜を有する。
シリコーン基材は、例えば、生体物質が接するシリコーン基材である。シリコーン基材において、本発明の組成物から形成される膜は、例えば、生体物質が接する箇所の少なくとも一部に配される。
【0086】
シリコーン基材としては、シリコーン系樹脂を含む基材であれば特に制限されない。このようなシリコーン基材としては、具体的には、例えば、シリコーン含有医療用デバイス、マイクロ流路を有するシリコーン基材、好ましくはシリコーン含有マイクロ流路デバイスが挙げられる。
【0087】
マイクロ流路デバイスとしては、例えば、微小反応デバイス(具体的にはマイクロリアクターやマイクロプラント等)、集積型核酸分析デバイス、微小電気泳動デバイス、微小クロマトグラフィーデバイス等の微小分析デバイス;質量スペクトルや液体クロマトグラフィー等の分析試料調製用微小デバイス;抽出、膜分離、透析などに用いる物理化学的処理デバイス;環境分析チップ、臨床分析チップ、遺伝子分析チップ(DNAチップ)、タンパク質分析チップ(プロテオームチップ)、糖鎖チップ、クロマトグラフチップ、細胞解析チップ、製薬スクリーニングチップ等のマイクロ流路チップが挙げられる。これらの中でも、マイクロ流路チップが好ましい。
【0088】
なお、マイクロ流路は、微量の試料(好ましくは液体試料)が流れる部位であり、その流路幅及び深さは特に制限されないが、いずれも、通常、0.1μm~1mm程度であり、好ましくは10μm~800μmである。
なお、マイクロ流路の流路幅や深さは、流路全長にわたって同じであってもよく、部分的に異なる大きさや形状であってもよい。
【0089】
(細胞培養容器)
本発明の細胞培養容器は、本発明の組成物から形成される膜を有する。
細胞培養容器は、例えば、細胞凝集塊の製造に用いることができる。
【0090】
細胞培養容器は、本発明の組成物から形成される膜上に、細胞接着性を有する細胞培養下地膜を有していてもよい。
細胞培養下地膜としては、例えば、国際公開第2020/040247号公報に記載の下地膜が挙げられる。なお、国際公開第2020/040247号公報の内容は、全てが明示されたと同程度に本明細書に組み込まれるものである。
国際公開第2020/040247号公報に記載の下地膜の一例は、下記式(I)で表されるモノマーから誘導される繰り返し単位を少なくとも含むポリマーを含む下地膜である。ポリマーは、下記式(II)で表されるモノマーから誘導される繰り返し単位を含んでいてもよい。
【化10】
(式(I)中、Ua1及びUa2は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~5のアルキル基を表し、Ra1は、水素原子又は炭素原子数1~5のアルキル基を表し、Ra2は、炭素原子数1~5のアルキレン基を表す。)
【化11】
(式(II)中、Rは、水素原子又は炭素原子数1~5のアルキル基を表す。)
炭素原子数1~5のアルキレン基の具体例としては、式(a1-2)のR12等の説明で挙げたアルキレン基の具体例が挙げられる。
【0091】
細胞培養下地膜は、例えば、本発明の組成物から形成される膜上に一様に配されるのではなく、パターン状に配される。
パターンとしては、例えば、ドットパターンが挙げられる。
言い換えれば、細胞培養容器の一例は、細胞付着抑制が可能な、本発明の組成物から形成される膜と、当該膜上にドットパターン状で配された、細胞接着性を有する細胞培養下地膜とを有する細胞播種面を有する。
【0092】
細胞培養下地膜の厚みとしては、例えば、1~1,000nmであり、好ましくは5~500nm、好ましくは5~300nm、好ましくは5~200nm、好ましくは5~150nm、好ましくは10~150nm、好ましくは20~150nmである。
【実施例0093】
以下、合成例、実施例、試験例等に基づいて、本発明をさらに詳細に説明するが本発明はこれらに限定されない。
【0094】
なお、実施例において、試料の調製及び物性の分析に用いた装置及び条件は、以下の通りである。
(1)サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)
装置1:東ソー(株)製 高速液体クロマトグラフ(HLC-8120GPC)
SECカラム:TSKgel guardcolumn Super AW-H (4.6mmID×3.5cm)×1本、TSKgel Super AW5000 (6.0mmID×15cm)×1本、Super AW2500 (6.0mmID×15cm)×1本を連結。
流速:0.5mL/min
溶離液:N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)(10質量%臭化リチウム含有)
カラム温度:40℃
検出:示差屈折率検出器(RI)
注入濃度:ポリマー固形分0.5質量%
注入量:100μL
検量線:三次近似曲線
標準試料:PMMA(シグマアルドリッチ社製)×6種
【0095】
(2)H NMRスペクトル
装置:日本電子(株)製JNM-ECP400
溶媒:重クロロホルム(CDCl)、重ジメチルスルホキシド((CDC(=O))
基準:CHCl(7.26ppm)
テトラメチルシラン(0.00ppm)
(CHC(=O)(2.10ppm)
【0096】
(3)スピンコーター
装置:ミカサ(株)製 1H-D7
(4)X線光電子分光測定(XPS)
装置:アルバック・ファイ(株)製 PHI5000 VersaProbe III
測定条件:14.0kV、14mA
(5)接触角
装置:協和界面科学(株)製 DropMaster 500
(6)光学顕微鏡
装置:(株)キーエンス製 オールインワン蛍光顕微鏡(Biozero BZ-8100)
(7)原子間力顕微鏡(AFM)
装置:オックスフォード・インストゥルメンツ(株)製(Asylum Research Cypher ES)
【0097】
〔NMR(核磁気共鳴法)による置換基組成比の測定〕
下記合成例に示す置換基導入率は、NMRによる測定結果である。合成例1~3はすべてJNM-ECP400(日本電子(株)製)を用いて測定した。
【0098】
〔分子量及び分子量分布〕
下記合成例に示す数平均分子量及び分子量分散度は、SECによる測定結果である。
【0099】
〔合成例1〕
EbSのマクロ開始剤(以下、マクロイニシエーターと称す)として下記にポリ[オリゴ(エチレンオキシドメタクリレート)](PEOMAと称す)を合成した。
PEOMAは参考文献1(H. Matsuno, K. Tanaka. J.Mater.Chem.B, 2019, 7, 1045)を参考に合成した。
マクロモノマーとして、オリゴ(エチレンオキシドメタクリレート)(EOMAと称す)(シグマアルドリッチ社製)30gをアニソール(富士フイルム和光純薬(株)製)50.1mLに溶解させた。さらに、臭化銅(I)(キシダ化学(株)製)172.1mgと、臭化銅(II)(キシダ化学(株)製)67mgと、N,N,N’,N’’',N’’-ペンタメチルジエチレントリアミン(PMDETA)(シグマアルドリッチ社製)0.627mLと、2-エチル-2-ブロモイソブチレート(EBiB)(東京化成(株)製)0.44mLとを加えた。アルゴンガス(日本エアー・リキッド(株)製)を2分間バブリングすることで溶存酸素を除去した。その後、45℃下のオイルバスに浸し、反応を重合開始した。反応開始から2時間後に、反応溶液を氷水で冷却し重合反応を停止した。
H NMR測定の結果から、PEOMAに由来するピークが確認でき、上述した重合方法によりPEOMAが得られたことが示唆された。SEC測定から、数平均分子量が7,200、分子量分散度1.40であった。
以上の結果から、PEOMAのポリマーが得られたことが明らかとなった。
【0100】
【化12】
【0101】
〔合成例2〕
ポリ[オリゴ(エチレンオキシドメタクリレート)-block-オリゴ(ジメチルシロキシメタクリレート)]を合成した。ここで得られたポリマーは組成比がPEOMAが31モル%、PSiOMAが69モル%になるよう条件を設定している。以下、得られたポリマーをEbS31と称す。
PEOMA[合成例1で得られた化合物]1.48gとオリゴ(ジメチルシロキシメタクリレート)(信越化学社製、X-22-2404)2.94gをN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)(富士フィルム和光純薬(株)製)5.01mLに溶解させた。さらに、臭化銅(I)(キシダ化学(株)製)11.5mgと、臭化銅(II)(キシダ化学(株)製)4.47mgと、N,N,N’,N’’,N’’-ペンタメチルジエチレントリアミン(PMDETA)(シグマアルドリッチ社製)のDMF溶液0.4mLとを加えた。アルゴンガス(日本エアー・リキッド(株)製)を2分間バブリングすることで溶存酸素を除去した。その後、45℃下のオイルバスに浸し、反応を重合開始した。反応開始から3時間後に、反応溶液を氷水で冷却し重合反応を停止した。
H NMR測定の結果から、EbSに由来するピークが確認でき、上述した重合方法によりPEOMA-block-PSiOMA(EbS31)が得られたことが示唆された。SEC測定から、数平均分子量が12,600、分子量分散度1.25であった。
以上の結果から、EbS31のポリマーが得られたことが明らかとなった。
【0102】
【化13】
【0103】
〔合成例3〕
ポリ[オリゴ(エチレンオキシドメタクリレート)-block-オリゴ(ジメチルシロキシメタクリレート)]を合成した。ここで得られたポリマーの組成比はPEOMAが80モル%、PSiOMAが20モル%であった。よって、EbS80と称す。
PEOMA[合成例1で得られた化合物]2.22gとオリゴ(ジメチルシロキシメタクリレート)(信越化学社製、X-22-2404)2.21gをN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)(富士フィルム和光純薬(株)製)4.62mLに溶解させた。さらに、臭化銅(I)(キシダ化学(株)製)17.2mgと、臭化銅(II)(キシダ化学(株)製)6.7mgと、N,N,N’,N’’,N’’-ペンタメチルジエチレントリアミン(PMDETA)(シグマアルドリッチ社製)のDMF溶液0.6mLとを加えた。アルゴンガス(日本エアー・リキッド(株)製)を2分間バブリングすることで溶存酸素を除去した。その後、45℃下のオイルバスに浸し、反応を重合開始した。反応開始から3時間後に、反応溶液を氷水で冷却し重合反応を停止した。
H NMRスペクトラムの結果から、EbSに由来するピークが確認でき、上述した重合方法によりEbS80が得られたことが示唆された。SEC測定から、数平均分子量が8,500、分子量分散度1.07であった。
以上の結果から、EbS80のポリマーが得られたことが明らかとなった。
【0104】
【化14】
【0105】
〔合成例4〕
ポリ[オリゴ(ジメチルシロキシメタクリレート)](PSiOMAと称す)を合成した。
オリゴ(ジメチルシロキシメタクリレート)(信越化学社製、X-22-2404)8.84gをアニソール(富士フィルム和光純薬(株)製)2.73mLに溶解させた。さらに、臭化銅(I)(キシダ化学(株)製)40.2mgと、臭化銅(II)(キシダ化学(株)製)15.6mgと、N,N,N’,N’’,N’’-ペンタメチルジエチレントリアミン(PMDETA)(シグマアルドリッチ社製)のDMF溶液1.4mLと、2-エチル-2-ブロモイソブチレート(EBiB)(東京化成(株)製)のDMF溶液1.4mLとを加えた。アルゴンガス(日本エアー・リキッド(株)製)を2分間バブリングすることで溶存酸素を除去した。その後、70℃下のオイルバスに浸し、反応を重合開始した。反応開始から1時間後に、反応溶液を氷水で冷却し重合反応を停止した。
H NMRスペクトラムの結果から、PSiOMAに由来するピークが確認でき、上述した重合方法によりPSiOMAが得られたことが示唆された。SEC測定から、数平均分子量が9,100、分子量分散度1.18であった。
以上の結果から、PSiOMAのポリマーが得られたことが明らかとなった。
【0106】
【化15】
【0107】
〔合成例5〕
ポリ[オリゴ(ジメチルシロキシメタクリレート)-random-オリゴ(ジメチルシロキシメタクリレート)](ErS31と称す)を合成した。
オリゴ(エチレンオキシドメタクリレート)(EOMA)(シグマアルドリッチ社製)3.33g、及びオリゴ(ジメチルシロキシメタクリレート)(信越化学社製、X-22-2404)5.89gをアニソール(富士フィルム和光純薬(株)製)6.87mLに溶解させた。臭化銅(I)(キシダ化学(株)製)80.4mgと、臭化銅(II)(キシダ化学(株)製)31.2mgと、N,N,N’,N’’,N’’-ペンタメチルジエチレントリアミン(PMDETA)(シグマアルドリッチ社製)のアニソール溶液3.08mLと、2-エチル-2-ブロモイソブチレート(EBiB)(東京化成(株)製)のアニソール溶液0.76mLとを加えた。アルゴンガス(日本エアー・リキッド(株)製)を2分間バブリングすることで溶存酸素を除去した。その後、70℃下のオイルバスに浸し、反応を重合開始した。反応開始から1.6時間後に、反応溶液を氷水で冷却し重合反応を停止した。
H NMRスペクトラムの結果から、PSiOMAに由来するピークが確認でき、上述した重合方法によりErS31が得られたことが示唆された。SEC測定から、数平均分子量が13,600、分子量分散度1.28であった。
以上の結果から、ErS31のポリマーが得られたことが明らかとなった。
【0108】
【化16】
【0109】
合成例1~合成例5の結果を表1にまとめた。
【0110】
【表1】
【0111】
<実施例1>
合成例2で得られたEbS31をポリエチレンメタクリレート(PMMAと称す)に対して5質量%に成るようPMMAの3質量%トルエン溶液と混合し、EbS31を含有したPMMA塗工液(EbS31含有樹脂組成物1-1)とした。その塗工液をガラス基板またはシリコン基板に滴下し、スピンコーター(2000rpm,60秒)を用いて被覆し、EbS31含有PMMA膜を得た。
合成例2で得られたEbS31をポリスチレン(PSと称す)に対して5質量%に成るようPSの3質量%トルエン溶液と混合し、EbS31を含有したPS塗工液(EbS31含有樹脂組成物1-2)とした。その塗工液をガラス基板またはシリコン基板に滴下し、スピンコーター(2000rpm,60秒)を用いて被覆し、EbS31含有PS膜を得た。
合成例2で得られたEbS31をポリジメチルシロキサン(水素化末端ポリジメチルシロキサン(Gelest社製)およびビニル末端含有ポリジメチルシロキサン(Gelest社製)を9対1の割合比で混合)(以下をPDMSと称す)に対して5質量%に成るようPDMSの3質量%テトラヒドロフラン溶液と混合し、EbS31を含有したPDMS塗工液(EbS31含有樹脂組成物1-3)とした。その塗工液をガラス基板またはシリコン基板に滴下し、スピンコーター(2000rpm,60秒)を用いて被覆し、EbS31含有PDMS膜を得た。
合成例2で得られたEbS31をポリプロピレン(以下をPPと称す)に対して5質量%に成るようPPの0.75質量%p-キシレン溶液と混合し、EbS31を含有したPP塗工液(EbS31含有樹脂組成物1-4)とした。その塗工液をガラス基板またはシリコン基板に滴下し、スピンコーター(2000rpm,60秒,85℃下)を用いて被覆し、EbS31含有PP膜を得た。
【0112】
<比較例1>
PMMAの3質量%トルエン溶液を調製し、PMMA塗工液とした。その塗工液をガラス基板またはシリコン基板に滴下し、スピンコーター(2000rpm,60秒)を用いて被覆し、PMMA膜を得た。
PSの3質量%トルエン溶液を調製し、PS塗工液とした。その塗工液をガラス基板またはシリコン基板に滴下し、スピンコーター(2000rpm,60秒)を用いて被覆し、PS膜を得た。
PDMSの3質量%テトラヒドロフラン溶液を調製し、PDMS塗工液とした。その塗工液をガラス基板またはシリコン基板に滴下し、スピンコーター(2000rpm,60秒)を用いて被覆し、PDMS膜を得た。
PPの0.75質量%p-キシレン溶液を調製し、PP塗工液とした。その塗工液をガラス基板またはシリコン基板に滴下し、スピンコーター(2000rpm,60秒,85℃下)を用いて被覆し、PP膜を得た。
【0113】
以下の試験例で用いた基板は以下のとおりである。
(ガラス基板)
顕微鏡観察用の市販のスライドガラス(松浪硝子工業(株)製)を1cm×1cmにカットして使用した。
(シリコン基板)
シリコンウェハー((株)SUMCO製)を1.0cm×1.0cmにカットして使用した。
【0114】
<試験例1-1>
[原子間力顕微鏡によるコート表面観察]
実施例1で得られた各EbS31含有樹脂組成物1-1~1-4又は比較例1で得られた塗工液をシリコン基板にスピンコーティングを行い、その後減圧加熱乾燥を行い、サンプルとした。得られた膜表面の表面観察を原子間力顕微鏡(AFM)(オックスフォード・インストゥルメンツ(株)製))を用いて、調製されたサンプル表面の構造を大気中にて観察した。カンチレバー(ナノワールド社製)は、長さ160μm、共振周波数285kHz、バネ定数42N/mのものを使用した。観察条件は、スキャン範囲10μm×10μm、スキャン速度0.5Hzとし、コンタクトモードで測定し、デジタル画像としてtifファイルにて保存した。これを装置内臓のデータ処理ソフトウェアでの画像解析に供した。
図1に、AFMから得られた以下の高さ像及び位相差像を示す。
高さ像
・(a)EbS31/PMMA (RMS:1.56nm)
・(b)PMMA (RMS:0.23nm)
・(c)EbS31/PS (RMS:4.66nm)
・(d)PS (RMS:0.26nm)
・(i)EbS31/PDMS (RMS:3.28nm)
・(j)PDMS (RMS:0.86nm)
・(k)EbS31/PP (RMS:5.93nm)
・(l)PP (RMS:4.73nm)
位相差像
・(e)EbS31/PMMA
・(f)PMMA
・(g)EbS31/PS
・(h)PS
・(m)EbS31/PDMS
・(n)PDMS
・(o)EbS31/PP
・(p)PP
EbS31含有PMMA膜、EbS31含有PS膜、及びEbS31含有PDMS膜は、表面に凹凸を有することが分かり、表面二乗平均粗さ(RMS)1.56~5.93nm程度であった。
一方で、EbS31非含有PMMA膜、EbS31非含有PS膜、及びEbS31非含有PDMS膜は、表面に凹凸が無く、表面二乗平均粗さ0.23~0.86nm程度であり、EbS31含有膜の表面に比べ平滑であった。
同様に位相差像もEbS31含有PMMA膜、EbS31含有PS膜、及びEbS31含有PDMS膜上では表面に高さ像を反映した位相の違いが認められた。
EbS31含有PP膜及びEbS31非含有PP膜は、AFMの解析結果で違いは認められなかった。
【0115】
<試験例1-2>
実施例1及び比較例1で調製した膜の化学組成は、X線光電子分光(XPS)測定に基づき評価した。XPS測定にはX線光電子分光装置(PHI5000 VersaProbe III,ULVACPHI,PHI.,INC)を用いた。X線源は単色のAl Kα線、印加電圧は15.0kV、25Wであり、室温で測定を行った。また、光電子取り出し角度を15°とした。平均自由行程から算出した炭素の1s電子の分析深さは3nm程度である。測定中、試料表面がチャージアップし、結合エネルギーが時間の経過に伴いシフトしたため、炭素の1sのピーク(285eV)を基準にして、中和銃を用いることで補正した。
結果を図2図5に示す。
【0116】
図2にEbS31含有PMMA膜とEbS31非含有PMMA膜のXPS測定の測定結果を示す。図2(a)は炭素原子のスペクトル、図2(b)は酸素原子のスペクトル、図2(c)はケイ素原子のスペクトルである。
図2(a)のC1sの結果よりEbS31含有PMMA膜の表面上ではPEOMA鎖のエーテル結合(-C-O-)に由来するピーク(289.5eV)のピーク強度が増加していた。
また、図2(b)のO1sの結果より、EbS31含有PMMA膜の表面上では、EbS31のPEOMA鎖のエーテル結合(-C-O-)に由来するピーク(532.5eV)の増加が認められた。
さらに、図2(c)のSi2pの結果より、EbS31含有PMMA膜の表面上では、PSiOMAのシロキサン(-Si-O-)に由来するピーク(102eV)が確認された。
【0117】
図3にEbS31含有PS膜とEbS31非含有PS膜のXPS測定の測定結果を示す。図3(a)は炭素原子のスペクトル、図3(b)は酸素原子のスペクトル、図3(c)はケイ素原子のスペクトルである。
図3(a)のC1sの結果よりEbS31含有PS膜の表面上ではPEOMA鎖のエーテル結合(-C-O-)に由来するピーク(289.5eV)とエステル(-C(=O)O-)に由来するピーク(289eV)の強度が増加していた。
また、図3(b)のO1sの結果より、EbS31含有PS膜の表面上では、EbS31のPEOMA鎖のエーテル結合(-C-O-)に由来するピーク(532.5eV)とエステル(-C(=O)O-)に由来するピーク(534eV)の増加が認められた。
さらに、図3(c)のSi2pの結果より、EbS31含有PS膜の表面上では、PSiOMAのシロキサン(-Si-O-)に由来するピーク(102eV)が確認された。
【0118】
図4にEbS31含有PS膜とEbS31非含有PDMS膜のXPS測定の測定結果を示す。図4(a)は炭素原子のスペクトル、図4(b)は酸素原子のスペクトル、図4(c)はケイ素原子のスペクトルである。
図4(a)、(b)、(c)では上述したO1s、O1s、Si2pのスペクトルを示すが、ここではEbS31とPDMS単体のピークが重なるため、ピークを分離することは困難であった。
【0119】
図5にEbS31含有PP膜とEbS31非含有PP膜のXPS測定の測定結果を示す。図5(a)は炭素原子のスペクトル、図5(b)は酸素原子のスペクトル、図5(c)はケイ素原子のスペクトルである。
図5(a)のC1sの結果よりEbS31含有PP膜の表面上ではPEOMA鎖のエーテル結合(-C-O-)に由来するピークを確認することは困難であった。
一方で、図5(b)のO1sの結果より、EbS31含有PP膜の表面上では、EbS31のPEOMA鎖のエーテル結合(-C-O-)に由来するピーク(532.5eV)の増加が認められた。
さらに、図5(c)のSi2pの結果より、EbS31含有PMMA膜の表面上では、PSiOMAのシロキサン(-Si-O-)に由来するピーク(102eV)が確認された。
【0120】
<試験例1-3>
[静的接触角の評価]
実施例1で得られた各EbS31含有樹脂組成物1-1~1-4をシリコン基板にスピンコーティングを行い、その後減圧加熱乾燥を行い、サンプルとした。得られた膜表面の接触角を全自動接触角(協和界面化学(株)製、DM-500)により評価した。すべてのサンプルにおいて、水接触角では水滴着滴後60秒後の値を対水接触角とした。気泡接接触角では気泡が接触してから1秒後の値を気泡接触角とした。
また、比較例1で調製した各膜の静的接触角を測定した。
なお静的接触角は大気中での水滴の接触角測定により得られる水接触角に加え、各種基板を水中で逆さに設置して気泡の接触角測定により得られる気泡接触角の両方で評価を行った。
シリコン基板上のEbS31含有PMMA膜表面の水接触角は、68±1.9°であることが示された。気泡接触角は、115±1.8°を示した。比較例1のEbS31非含有PMMA膜は水接触角が97±0.9°、気泡接触角が111±0.2°であることから、実施例1のEbS31含有PMMA膜表面はEbS31非含有PMMA膜表面より水中ではより親水性であることが示された。
同様に、シリコン基板上のEbS31含有PS膜表面の水接触角は、91±0.3°程度であることが示された。気泡接触角は、109±6.8°程度を示した。比較例1のEbS31非含有PS膜は水接触角が89±2.0°、気泡接触角が68±1.9°であることから、実施例1のEbS31含有PS膜表面はEbS31非含有PS膜表面より水中においてより親水性であることが示された。
同様に、シリコン基板上のEbS31含有PDMS膜表面の水接触角は、114±0.5°程度であることが示された。気泡接触角は、133±0.9°程度を示した。比較例1のEbS31非含有PDMS膜は水接触角が68±1.9°、気泡接触角が119±1.1°であることから、実施例1のEbS31含有PDMS膜表面はEbS31非含有PDMS膜表面より親水性であることが示された。
同様に、シリコン基板上のEbS31含有PP膜表面の水接触角は、100±0.5°程度であることが示された。気泡接触角は、98±1.3°程度を示した。比較例1のEbS31非含有PP膜は水接触角が103±0.2°、気泡接触角が93±2.6°であることから、実施例1のEbS31含有PP膜表面はEbS31非含有PP膜表面より親水性であることが示された。
【0121】
表2及び表3に試験例1-3の結果のまとめを示す。以上のことから、EbS31含有樹脂膜は、水中に浸漬させることで親水性への改質効果がより顕著に示すことが明らかとなった。
【0122】
【表2】
【0123】
【表3】
【0124】
試験例1-1、1-2、及び1-3の結果から、EbS31を含有するPMMA膜、PS膜、及びPDMS膜表面では、表面に凝集構造が形成されていることが明らかとなった。XPSスペクトルから、この凝集構造には、EbS31に由来するピークが確認された。一方で、PP樹脂に関しては、EbS31を含有するPP膜とEbS31を含有しないPP膜で表面の形態に違いはなかったものの、XPSの結果ではEbS31含有PP膜の表面にEbS31由来のピークが確認された。水中による空気接触角では、実施例のEbS31含有樹脂膜は、比較例のEbS31非含有樹脂膜に比べ親水性が改質されていることが明確となった。以上の結果から、EbS31をPMMA、PS、PDMS、又はPPに添加して塗布した際、EbS31が表面濃縮することが明らかとなった。
【0125】
<試験例1-4>
[細胞接着実験]
実施例1にてEbS31含有樹脂膜を形成したガラス基板(以下コート基板と称する)を使用して、下記の実験法より細胞の接着実験を行った。
コート基板を24ウェルの細胞培養プレートの底に静置した。各EbS31含有樹脂膜を滅菌水で3回洗浄した後に室温環境下のPBS中に3時間浸漬させた。マウス線維芽細胞(NIH3T3)を5%CO、37℃環境下で10%ウシ血清(FBS)を含有するダルベッコ改変イーグル培地(FBS含有DMEM)中で培養した。培養したNIH3T3細胞を滅菌PBSで一回洗浄し、3mLの0.25%トリプシン/0.02%エチレンジアミン四酢酸(EDTA)混合液を加え細胞培養プレートから剥がした。その細胞懸濁液を遠心してNIH3T3細胞を回収した後、FCS含有DMEMで再懸濁し7×10個/mLの溶液を得た。
細胞懸濁液は、コート基板を固定した細胞培養プレートの各ウェルに対して5×10個/cmとなるように培地で調製し、コート基板上に播種した。5%CO、37℃環境下で12時間培養した後、コート基板をPBSで3回洗浄し、2%グルタールアルデヒドPBS溶液を用いてEbS31含有樹脂膜上に接着した細胞を固定化した。超純水で3回洗浄した後、風乾した。0.01質量%濃度のクリスタルバイオレット-PBS染色液で接着した細胞を染色し、光学顕微鏡を用いて観察を行い接着した細胞を観察した。
図6に、実施例1で作製したEbS31含有PMMA膜及びEbS31含有PS膜、並びに比較例1で作製したEbS31非含有PMMA膜及びEbS31非含有PS膜の表面に対する細胞接着実験の結果(光学顕微鏡画像)を示す。
なお、図6(a)~(d)は洗浄及び染色前の膜の光学顕微鏡画像である。図6(e)~(l)は洗浄及び染色後の膜の光学顕微鏡画像である。
EbS31含有PMMA膜上(図6(a))及びEbS31含有PS膜上(図6(c))では、播種した細胞は培養12時間後においても膜に接着すること無く浮遊し、さらに凝集していた。EbS31非含有PMMA膜上では播種した細胞が接着していた。EbS31非含有PS膜上では接着細胞の伸展の抑制は認められたが、多数の細胞が接着していた(図6(b)、(d))。すべてのコート基板は、PBSで洗浄を行い、染色を行った。EbS31含有PMMA膜上及びEbS31含有PS膜上では洗浄工程により殆どの細胞が除去された(図6(e)、(g))。染色工程後に僅かに接着した細胞が確認できたものの細胞の伸展は抑制されていることが明らかとなった(図6(i)、(k))。EbS31非含有PMMA膜とEbS31非含有PS膜は、洗浄および染色後に多数の接着細胞が残存し伸展していることが明らかとなった。
また、同様の細胞接着試験を実施例1で作製したEbS31含有PDMS膜、及びEbS31含有PP膜において実施した。比較例としてEbS31非含有PDMS膜、及びEbS31非含有PP膜を用いた。
なお、図7(a)~(d)は洗浄及び染色前の膜の光学顕微鏡画像である。図7(e)~(l)は洗浄及び染色後の膜の光学顕微鏡画像である。
図7に、実施例1で作製したEbS31含有PDMS膜及びEbS31含有PP膜、並びに比較例1で作製したEbS31非含有PDMS膜及びEbS31非含有PP膜の表面に対する細胞接着実験の結果(光学顕微鏡画像)を示す。EbS31含有PDMS膜上(図7(a))及びEbS31含有PP膜上(図7(c))では、播種した細胞は12時間後においても膜に接着すること無く浮遊し、さらに凝集していた。EbS31非含有PDMS膜上及びEbS31非含有PP膜上では播種した細胞の一部が接着し伸展していた(図7(b)、(d))。すべてのコート基板は、PBSで洗浄を行い、染色を行った。EbS31含有PDMS膜及びEbS31含有PP膜上では洗浄工程により殆どの細胞が除去された(図7(e)、(g))。染色工程後に僅かに接着した細胞が確認できたものの細胞の伸展は抑制されていることが明らかとなった(図7(i)、(k))。EbS31非含有PDMS膜とEbS31非含有PP膜は、洗浄および染色後に接着細胞が残存し伸展していることが明らかとなった。
以上の結果から、実施例1のEbS31含有樹脂膜においてはEbS31がSiOMA組成を有することで表面濃縮し、さらに表面が水と接することでPEOMA鎖が露出することにより親水性に改質し、その界面は高い細胞接着抑制能を有していることが示された。
【0126】
<実施例2>
EbS31の含有量による効果を検討するため、実施例2の実験を行った。
合成例2で得られたEbS31をPMMAに対して2質量%、1質量%、又は0.5質量%に成るようPMMAの4.5質量%トルエン溶液と混合し、EbS31含有のPMMA塗工液(EbS31含有樹脂組成物2-1~2-3)とした。その塗工液をガラス基板またはシリコン基板に滴下し、スピンコーター(2000rpm,60秒)を用いて被覆した。
同様に、合成例2で得られたEbS31をPSに対して2質量%、1質量%、又は0.5質量%に成るようPSの3.0質量%トルエン溶液と混合し、EbS31を含有したPS塗工液(EbS31含有樹脂組成物2-4~2-6)とした。その塗工液をガラス基板またはシリコン基板に滴下し、スピンコーター(2000rpm,60秒)を用いて被覆した。
【0127】
<試験例2-1>
[原子間力顕微鏡によるコート表面観察]
実施例2で得られた各EbS31含有樹脂組成物をガラス基板にスピンコーティングを行い、その後減圧加熱乾燥を行い、サンプルとした。得られた膜表面の表面観察を原子間力顕微鏡(AFM)(オックスフォード・インストゥルメンツ(株)製))を用いて、調製されたサンプル表面の構造を大気中にて観察した。カンチレバー(ナノワールド社製)は、長さ160μm、共振周波数285kHz、バネ定数42N/mのものを使用した。観察条件は、スキャン範囲10μm×10μm、スキャン速度0.5Hzとし、コンタクトモードで測定し、デジタル画像としてtifファイルにて保存した。これを装置内臓のデータ処理ソフトウェアでの画像解析に供した。
図8に、EbS31の含有量が異なるPMMA膜のAFMから得られた高さ像と位相差像を示す。EbS31を2質量%含有するPMMA膜(図8(a))、EbS31を1質量%含有するPMMA膜(図8(b))、EbS31を0.5質量%含有するPMMA膜(図8(c))、及びEbS31非含有PMMA膜(図8(d))は、表面二乗平均粗さ(PMS)がそれぞれ0.46nm以下であり平滑な膜が形成されていた。また、位相差像からも均一な膜表面であることが明らかとなった。
同様に、図9に、EbS31の含有量が異なるPS膜のAFMから得られた高さ像と位相差像を示す。EbS31を2質量%含有するPS膜(図9(a))、EbS31を1質量%含有するPS膜(図9(b))、EbS31を0.5質量%含有するPS膜(図9(c))、及びEbS31非含有PS膜(図9(d))は、表面二乗平均粗さ(PMS)がそれぞれ0.59nm以下であり平滑な膜が形成されていた。また、位相差像からも均一な膜表面であることが明らかとなった。
以上の結果から、EbS31は含有量が2質量%以下になると、表面二乗平均粗さ(PMS)がそれぞれ0.59nm以下の平滑な樹脂膜が形成されていることが明らかとなった。
【0128】
<試験例2-2>
実施例2で調製したEbS31が異なる含有量のPMMA膜及びPS膜の化学組成を、X線光電子分光(XPS)測定に基づき評価した。XPS測定にはX線光電子分光装置(PHI5000 VersaProbe III,ULVACPHI,PHI.,INC)を用いた。X線源は単色のAl Kα線、印加電圧は15.0kV、25Wであり、室温で測定を行った。また、光電子取り出し角度を15°とした。平均自由行程から算出した炭素の1s電子の分析深さは3nm程度である。測定中、試料表面がチャージアップし、結合エネルギーが時間の経過に伴いシフトしたため、炭素の1sのピーク(285eV)を基準にして、中和銃を用いることで補正した。
図10に、2質量%から0.5質量%のEbS31を含有するPMMS膜のXPSスペクトルを示す。図10(a)は炭素原子のスペクトル、図10(b)は酸素原子のスペクトル、図10(c)はケイ素原子のスペクトルである。
図10(a)のC1sスペクトルでは、EbS31の含有量が増加するに従い炭素-炭素結合(C-C-C、285eV)ピークの割合が増加した。図10(b)のO1sスペクトルでは、EbS31の含有量が増加するに従いシロキサン結合(Si-O-Si、532.5eV)ピークの割合が増加した。図10(c)のSi2pスペクトルでは、EbS31含有PMMA膜上でシロキサン結合(Si-O-Si、102eV)ピークが得られた。
同様に、図11に、2質量%から0.5質量%のEbS31を含有するPS膜のXPSスペクトルを示す。図11(a)は炭素原子のスペクトル、図11(b)は酸素原子のスペクトル、図11(c)はケイ素原子のスペクトルである。
図11(a)のC1sスペクトルでは、EbS31の含有量が増加するに従い炭素-炭素結合(C-C-C、285eV)とエーテル結合(C-O、286.5eV)およびエステル結合(C(C=O)O、288.2eV)ピークが増加した。図11(b)のO1sスペクトルでは、EbS31の含有量が増加するに従いシロキサン結合(Si-O-Si、532.5eV)ピークとエステル結合(C(=O)O、534eV)の割合が増加した。図11(c)のSi2pスペクトルでは、EbS31含有PS膜上でシロキサン結合(Si-O-Si、102eV)ピークが得られた。
以上の結果から、EbS31を含有するPMMA膜およびPS膜上では、EbS31の疎水性ユニットであるシリコーン部位の化学結合が確認された。これはEbS31が低濃度の含有量においても樹脂表面に濃縮することが可能であることを示唆している。また、5質量%のEbS31を含有するPMMA膜およびPS膜上では凝集構造が認められたがそのような凝集構造が無いサンプル表面でもEbS31の表面濃縮が認められた。
【0129】
<試験例2-3>
[細胞接着実験]
実施例2にてEbS31含有樹脂膜を形成したガラス基板(以下コート基板と称する)を使用して、下記の実験法より細胞の接着実験を行った。
コート基板を24ウェルの細胞培養プレートの底に静置した。各EbS31含有樹脂膜を滅菌水で3回洗浄した後に室温環境下のPBS中に3時間浸漬させた。マウス線維芽細胞(NIH3T3)を5%CO2、37℃環境下で10%ウシ血清(FBS)を含有するダルベッコ改変イーグル培地(FBS含有DMEM)中で培養した。培養したNIH3T3細胞を滅菌PBSで一回洗浄し、3mLの0.25%トリプシン/0.02%エチレンジアミン四酢酸(EDTA)混合液を加え細胞培養プレートから剥がした。その細胞懸濁液を遠心してNIH3T3細胞を回収した後、FCS含有DMEMで再懸濁し7×10個/mLの溶液を得た。
細胞懸濁液は、コート基板を固定した細胞培養プレートの各ウェルに対して5×10個/cmとなるように培地で調製し、コート基板上に播種した。5%CO、37℃環境下で12時間培養した後、コート基板をPBSで3回洗浄し、2%グルタールアルデヒドPBS溶液を用いてEbS31含有樹脂膜上に接着した細胞を固定化した。超純水で3回洗浄した後、風乾した。0.01質量%濃度のクリスタルバイオレット-PBS染色液で接着した細胞を染色し、光学顕微鏡を用いて5視野任意に観察を行い接着した細胞の数を数えた。
図12(a)、(b)、(c)に、実施例2で作製したEbS31含有PMMA膜の表面に対する細胞接着実験の結果(光学顕微鏡画像)を示す。なお、図12(a)~(d)は洗浄及び染色後の膜の光学顕微鏡画像である。
図12(a)に示す2質量%EbS31含有PMMA膜上では、5質量%EbS31含有PMMA膜と同様に高い細胞接着抑制を示した。図12(b)に示す1質量%EbS31含有PMMA膜上では細胞塊が接着していることが分かった。図12(c)に示す0.5質量%EbS31含有PMMA膜上では細胞が明らかに接着および伸展しており、細胞接着抑制能の低下が認められた。
同様に、図12(d)、(e)、(f)に、実施例2で作製したEbS31含有量PS膜の表面に対する細胞接着実験の結果(光学顕微鏡画像)を示す。なお、図12(d)~(f)は洗浄及び染色後の膜の光学顕微鏡画像である。
図12(d)に示す2質量%EbS31含有PS膜上では、5質量%EbS31含有PS膜と同様に高い細胞接着抑制を示した。図12(e)に示す1質量%EbS31含有PS膜上では細胞塊が接着していることが分かった。図12(f)に示す0.5質量%EbS31含有PS膜上では細胞が明らかに接着および伸展しており、細胞接着抑制能の低下が認められた。
以上の結果から、EbS31の含有量が5質量%又は2質量%のPMMA膜およびPS膜表面では高い接着抑制効果を示し、1質量%以下では細胞接着が認められた。2質量%のEbS31を含有する樹脂上では、5質量%のEbS31を含有する樹脂上のような凝集構造は認められなかったが、細胞接着抑制能は低下しないことが明らかとなった。
なお、EbS31の含有量が1質量%、又は0.5質量%の場合でも、EbS31非含有の場合と比べると、細胞接着抑制能を有している。
【0130】
<実施例3>
合成例1、合成例2、及び合成例4で得られたPEOMA、EbS31、及びPSiOMAをそれぞれPMMAに対して2質量%に成るようPMMAの4.5質量%トルエン溶液と混合し、表面改質剤含有のPMMA塗工液とした。その塗工液をガラス基板またはシリコン基板に滴下し、スピンコーター(2000rpm,60秒)を用いて被覆し、PEOMA含有PMMA膜、EbS31含有PMMA膜、及びPSiOMA含有PMMA膜(試験例3-1では、これらを総称して「表面改質剤含有PMMA膜」という)を得た。
【0131】
<比較例3-1>
PMMAの4.5質量%トルエン溶液を調製し、PMMA塗工液とした。その塗工液をガラス基板またはシリコン基板に滴下し、スピンコーター(2000rpm,60秒)を用いて被覆した。
【0132】
<比較例3-2>
本発明の表面改質剤組成物と比較を行うため市販品であるオリゴエチレンオキシドとオリゴジメチルシロキサンの組成を有するDBE-712(Gelest社製)をPMMAに対して10質量%又は2質量%に成るようPMMAの4.5質量%トルエン溶液と混合し、DBE-712含有のPMMA塗工液とした。その塗工液をガラス基板またはシリコン基板に滴下し、スピンコーター(2000rpm,60秒)を用いて被覆し、DBE-712含有PMMA膜を得た。
【0133】
<試験例3-1>
[細胞接着実験]
実施例3にて表面改質剤含有PMMA膜を形成したガラス基板(以下コート基板と称する)を使用して、下記の実験法より細胞の接着実験を行った。
コート基板を24ウェルの細胞培養プレートの底に静置した。表面改質剤含有PMMA膜を滅菌水で3回洗浄した後に室温環境下のPBS中に3時間浸漬させた。マウス線維芽細胞(NIH3T3)を5%CO、37℃環境下で10%ウシ血清(FBS)を含有するダルベッコ改変イーグル培地(FBS含有DMEM)中で培養した。培養したNIH3T3細胞を滅菌PBSで一回洗浄し、3mLの0.25%トリプシン/0.02% エチレンジアミン四酢酸(EDTA)混合液を加え細胞培養プレートから剥がした。その細胞懸濁液を遠心してNIH3T3細胞を回収した後、FCS含有DMEMで再懸濁し7×10個/mLの溶液を得た。
細胞懸濁液は、コート基板を固定した細胞培養プレートの各ウェルに対して5×10個/cmとなるように培地で調製し、コート基板上に播種した。5%CO、37℃環境下で12時間培養した後、コート基板をPBSで3回洗浄し、2%グルタールアルデヒドPBS溶液を用いて表面改質剤含有樹脂上に接着した細胞を固定化した。超純水で3回洗浄した後、ロータリー真空ポンプにて減圧乾燥した。0.01質量%濃度のクリスタルバイオレット-PBS染色液で接着した細胞を染色し、光学顕微鏡を用いて5視野任意に観察を行い接着した細胞の数を数えた。
図13(a)、(b)、(c)に、実施例3で作製した表面改質剤含有PMMA膜の表面に対する細胞接着実験の結果(光学顕微鏡画像)を示す。なお、図13(a)~(d)、(i)及び(j)は洗浄及び染色前の膜の光学顕微鏡画像である。図13(e)~(h)、(k)及び(l)は洗浄及び染色後の膜の光学顕微鏡画像である。
図13(a)、及び(e)に示す2質量%PEOMA含有PMMA膜上では、細胞接着抑制の傾向を示したが、僅かに細胞が接着する傾向が認められた。図13(b)、及び(f)に示す2質量%EbS31含有PMMA膜はこれまでと同様に高い細胞接着抑制を示した。図13(c)、及び(g)に示す2質量%PSiOMA含有PMMAは細胞接着抑制を示さなかった。
同様に、図13(d)、及び(h)に、比較例3-1で調製したPMMA膜に対する細胞接着試験の結果を示す。
同様に、図13(i)、(j)、(k)、及び(l)に、比較例3-2で調製した、DBE-712含有PMMA膜に対する細胞接着試験の結果を示す。培養12時間後では、10質量%又は2質量%含有するPMMA膜上には細胞がよく接着していることが確認された(図13(i)および(j))。また、DBE-712(Gelest社製)をPMMA膜に対して10質量%又は2質量%含有するPMMA膜上に接着した細胞を染色した結果、細胞は分散した状態でよく伸展していることが明らかとなった。これらの結果から、DBE-712を含有する膜上では細胞の接着抑制が認められなかった。
【0134】
<実施例4>
合成例2、合成例3、及び合成例5で得られたEbS31、EbS80、及びErS31をPMMAに対して2質量%に成るようPMMAの4.5質量%トルエン溶液と混合し、表面改質剤含有のPMMA塗工液とした。その塗工液をガラス基板またはシリコン基板に滴下し、スピンコーター(2000rpm,60秒)を用いて被覆し、EbS31含有PMMA膜、EbS80含有PMMA膜、及びErS31含有PMMA膜(試験例4-1では、これらを総称して「表面改質剤含有PMMA膜」という)を得た。
【0135】
<比較例4>
細胞培養用24穴プレート(Thermo ScientificTM NuncTM 細胞培養用マルチディッシュ、cat# 142475)を比較サンプルのTCPS基板として使用した。
【0136】
<試験例4-1>
[細胞接着実験]
実施例4にて表面改質剤含有PMMA膜を形成したガラス基板(以下コート基板と称する)を使用して、下記の実験法より細胞の接着実験を行った。
コート基板を24ウェルの細胞培養プレートの底に静置した。コート基板を滅菌水で3回洗浄した後に室温環境下のPBS中に3時間浸漬させた。マウス線維芽細胞(NIH3T3)を5%CO、37℃環境下で10%ウシ血清(FBS)を含有するダルベッコ改変イーグル培地(FBS含有DMEM)中で培養した。培養したNIH3T3細胞を滅菌PBSで一回洗浄し、1mLの0.02% エチレンジアミン四酢酸(EDTA)溶液と1mLの0.25%トリプシン溶液を加え細胞培養プレートから剥がした。その細胞懸濁液を遠心してNIH3T3細胞を回収した後、FCS含有DMEMで再懸濁し7×10個/mLの溶液を得た。
細胞懸濁液は、コート基板を固定した細胞培養プレートの各ウェルに対して5×10個/cmとなるように培地で調製し、コート基板上に播種した。5%CO、37℃環境下で12時、24間、48時間、又は72時間培養し観察を行った。72時間後にコート基板をPBSで3回洗浄し、2%グルタールアルデヒドPBS溶液を用いて表面改質剤含有PMMA膜上に接着した細胞を固定化した。超純水で3回洗浄し、0.01質量%濃度のクリスタルバイオレット-PBS染色液で接着した細胞を染色し風乾した。光学顕微鏡を用いて接着した細胞の観察を行った。
図14に、実施例4で作製した表面改質剤含有PMMA膜の表面に対する細胞接着実験の結果(光学顕微鏡画像)を示す。なお、図14(a)~(o)は洗浄及び染色前の膜の光学顕微鏡画像である。図14(p)~(y)は洗浄及び染色後の膜の光学顕微鏡画像である。
EbS31又はEbS80を含有するPMMA膜上では12時間から72時間にかけて細胞は凝集し、球状な凝集塊を形成していた(図14(a)、(b)、(f)、(g)、(k)および(l))。72時間後では細胞の凝集塊がわずかに大きくなっていることからスフェロイド形成をしていることが示唆された(図14(k)および(l))。
図14(p)、(q)、(u)および(v)に、EbS31又はEbS80を含有するPMMA膜上で72時間培養を行った後、膜表面を上述した洗浄および固定染色した再度顕微鏡観察を行った結果を示す。ほとんどの細胞凝集塊は膜表面の洗浄により表面から除去された。僅かな細胞凝集塊の接着が残存していたが、細胞の伸展は抑制されていることが明らかとなった。
図14(c)、(h)および(m)に、実施例4で作製したErS31含有PMMA膜上で12時間から72時間にかけて細胞を培養した顕微鏡写真を示す(写真は、24時間、48時間、又は72時間後の写真である)。ErS31を含有するPMMA膜上も72時間培養後では細胞の凝集塊の形成が認められた。しかしながら、その中で細胞の伸展が進行しない状態も観察された。72時間後の洗浄および固定染色後のErS31含有PMMA膜上では、細胞の凝集塊はあまり除去されずに強く接着していることが明らかとなった。
同様に、図14(d)、(i)、(n)、(s)、及び(x)に、比較例3-1で調製したPMMA膜に対する細胞接着試験の結果を示す。
同様に、図14(e)、(j)、(o)、(t)、及び(y)に、比較例4で調製したTCPS基板に対する細胞接着試験の結果を示す。
比較例に用いた表面改質剤非含有のPMMA膜、又はTCPS基板上では、よく細胞が接着し、また72時間後では増殖していることもわかった(図14;PMMA膜表面:(d)、(i)、(n)、(s)、及び(x)、並びにTCPS基板表面:(e)、(j)、(o)、(t)、及び(y))。
結果として、EbS31はEOMAとSiOMAの組成比が異なっていても細胞の接着抑制能は高かった。一方で、ランダム共重合体からなるErS31は組成比がEbS31と同じであるにも関わらず、EbS31の方がより細胞接着抑制能が高かった。表面改質剤を含有していないPMMA膜およびTCPS基板上では細胞接着抑制の効果が認められないことから、EbS(PEOMA-block-PSiOMA)を含有する樹脂表面が示す細胞接着抑制能は、EbSが樹脂表面に濃縮しPEOMA鎖が水界面に露出することによって得られる効果であることが示唆された。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14