(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023036669
(43)【公開日】2023-03-14
(54)【発明の名称】皮下投与される抗IL-6受容体抗体
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20230307BHJP
A61K 38/47 20060101ALI20230307BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20230307BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20230307BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20230307BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20230307BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20230307BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20230307BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20230307BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20230307BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20230307BHJP
【FI】
A61K39/395 U ZNA
A61K38/47
A61K9/08
A61K47/18
A61K47/22
A61K47/26
A61P37/06
A61P29/00 101
A61P19/02
C07K16/28
C12N15/13
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022197016
(22)【出願日】2022-12-09
(62)【分割の表示】P 2020199558の分割
【原出願日】2011-11-07
(31)【優先権主張番号】61/542,615
(32)【優先日】2011-10-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】61/411,015
(32)【優先日】2010-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】509012625
【氏名又は名称】ジェネンテック, インコーポレイテッド
(71)【出願人】
【識別番号】514099673
【氏名又は名称】エフ・ホフマン-ラ・ロシュ・アクチェンゲゼルシャフト
(71)【出願人】
【識別番号】000003311
【氏名又は名称】中外製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】バオ, ミン
(72)【発明者】
【氏名】ハラーリ, オリヴィエ アルフレッド
(72)【発明者】
【氏名】ヤーライス, アンゲーリカ エム.
(72)【発明者】
【氏名】シュミット, ヨハネス エフ.
(72)【発明者】
【氏名】チャン, シャオピン
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 公男
(57)【要約】 (修正有)
【課題】インターロイキン6受容体(抗IL-6R抗体)を結合する皮下投与される抗体で、関節リウマチ(RA)、若年性突発性関節炎(JIA)、全身型JIA(sJIA)、多関節型JIA(pcJIA)、全身性硬化症又は巨細胞性動脈炎(GCA)などのIL-6媒介疾患を治療する方法を提供する。
【解決手段】一態様では、患者のIL-6媒介疾患を治療する方法であって、該患者に抗IL-6受容体抗体を皮下投与することを含み、抗IL-6R抗体は1用量あたり162mgの固定用量として投与される(例えば、毎週又は2週ごとに投与される)方法とする。抗IL-6R抗体の皮下投与に有用な製剤及びデバイスも開示される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者のIL-6媒介疾患を治療する方法であって、該患者に抗IL-6受容体(IL-6R)抗体を皮下投与することを含み、抗IL-6R抗体は1用量あたり162mgの固定用量として投与される方法。
【請求項2】
固定用量が毎週又は2週ごとに投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
IL-6媒介疾患が関節リウマチ(RA)、若年性突発性関節炎(JIA)、乾癬性関節炎及びキャッスルマン病からなる群より選ばれる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
IL-6媒介疾患が関節リウマチ(RA)である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
RA患者が不十分なDMARDレスポンダーである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
RA患者が不十分なTNF阻害剤レスポンダーである、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
RA患者がメトトレキサート(MTX)未使用であるか又はMTXを中断している、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
IL-6媒介疾患を治療する1または複数の追加の薬物を患者にさらに投与することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
追加の薬物が免疫抑制剤、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARD)、メトトレキサート(MTX)、抗B細胞表面マーカー抗体、抗CD20抗体、リツキシマブ、TNF阻害剤、コルチコステロイド及び共刺激修飾因子からなる群より選ばれる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
追加の薬物が非生物学的DMARD、NSAID及びコルチコステロイドからなる群より選ばれる、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
抗IL-6R抗体がトシリズマブである、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
患者の関節リウマチを治療する方法であって、該患者にトシリズマブを皮下投与することを含み、トシリズマブは毎週又は2週ごとに1用量あたり162mgの固定用量として投与される方法。
【請求項13】
関節リウマチを治療する1または複数の追加の薬物を投与することをさらに含み、該追加の薬物は非生物学的DMARD、NSAID及びコルチコステロイドからなる群より選ばれる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
皮下投与デバイスを備える製造品であって、患者に固定用量の抗IL-6受容体(IL-6R)抗体を送達し、固定用量は162mg、324mgおよび648mgの抗IL-6R抗体からなる群より選ばれる製造品。
【請求項15】
抗IL-6R抗体がトシリズマブである、請求項14に記載の製造品。
【請求項16】
デバイス内の抗体濃度が約150から200mg/mLである、請求項14に記載の製造品。
【請求項17】
関節リウマチ患者の構造的関節破壊の進行を抑制する方法であって、該患者に固定用量162mgの抗IL-6R抗体を2週ごとに皮下投与することを含み、第24週及び第48週に構造的関節破壊が抑制されていることが判明する方法。
【請求項18】
抗IL-6R抗体を約100mg/mLから約300mg/mLの量で、及びヒアルロニダーゼ酵素を約1,400から約1,600U/mLの量で含む薬学的組成物。
【請求項19】
バッファーをさらに含み、該バッファーはpH5.5から6.5のヒスチジンである、請求項18に記載の薬学的組成物。
【請求項20】
1または複数の安定剤をさらに含む、請求項18に記載の薬学的組成物。
【請求項21】
1または複数の安定剤がメチオニン、アルギニン及びポリソルベートを含む、請求項20に記載の薬学的組成物。
【請求項22】
抗IL-6R抗体の濃度が180mg/mLであり、ヒアルロニダーゼ酵素の濃度が1,500U/mLである、請求項18に記載の薬学的組成物。
【請求項23】
患者のIL-6媒介疾患を治療する方法であって、請求項18の薬学的組成物を該患者に皮下投与することを含み、抗IL-6R抗体は1用量あたり324mgまたは1用量あたり648mgの固定用量として投与される方法。
【請求項24】
固定用量が4週ごと又は1か月に一回投与される、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
患者のIL-6媒介疾患を治療する方法であって、抗IL-6R抗体とヒアルロニダーゼ酵素を該患者に皮下投与することを含み、抗IL-6R抗体は1用量あたり324mgまたは1用量あたり648mgの固定用量として投与される方法。
【請求項26】
ヒアルロニダーゼが組換えヒトPH20(rHuPH20)である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
rHuPH20が約2,700U又は約5,400UのrHuPH20の用量で投与される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
抗IL-6R抗体とヒアルロニダーゼ酵素の両方を含む製剤が患者に投与される、請求項25に記載の方法。
【請求項29】
患者の若年性突発性関節炎(JIA)を治療する方法であって、該JIAを治療するのに有効な量で抗IL-6受容体(IL-6R)抗体を該患者に皮下投与することを含む方法。
【請求項30】
JIAが全身型JIA(sJIA)である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
患者の体重≧30キログラムの場合は有効な量が毎週162mgである、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
患者の体重<30キログラムの場合は有効な量が10日ごと162mgである、請求項30に記載の方法。
【請求項33】
JIAが多関節型若年性突発性関節炎(pcJIA)である、請求項29に記載の方法。
【請求項34】
有効量が2週ごと162mgである、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
抗IL-6R抗体がトシリズマブである、請求項29に記載の方法。
【請求項36】
患者の線維性疾患を治療する方法であって、該線維性疾患を治療するのに有効な量で抗IL-6受容体(IL-6R)抗体を該患者に皮下投与することを含む方法。
【請求項37】
線維性疾患が全身性硬化症である、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
有効な量がプラセボと比べて皮膚硬化症を改善し、身体機能を改善し、及び/又は臓器破壊を遅滞させる、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
皮膚硬化症の改善が修正Rodnanスキンスコア(mRSS)により評価される、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
身体機能の改善が強皮症の健康評価質問票を用いた機能障害指数(HAQ-DI)により評価される、請求項38に記載の方法。
【請求項41】
抗体が1用量あたり162mgの固定用量として投与される、請求項36に記載の方法。
【請求項42】
固定用量が毎週又は2週ごとに投与される、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
抗IL-6R抗体がトシリズマブである、請求項36に記載の方法。
【請求項44】
患者の巨細胞性動脈炎(GCA)を治療する方法であって、該GCAを治療するのに有効な量で抗IL-6受容体(IL-6R)抗体を該患者に皮下投与することを含む方法。
【請求項45】
抗体が1用量あたり162mgの固定用量として投与される、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
固定用量が毎週投与される、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
固定用量が2週ごと投与される、請求項45に記載の方法。
【請求項48】
抗IL-6R抗体がトシリズマブである、請求項44に記載の方法。
【請求項49】
コルチコステロイドの初回コースを患者に投与することをさらに含む、請求項44に記載の方法。
【請求項50】
有効な量が、患者において、GCAの兆候及び症状を低減し、臨床的寛解を維持し、及び/又はコルチコステロイド使用を減量または中止する、請求項44に記載の方法。
【請求項51】
GCAが新規発症GCAである、請求項44に記載の方法。
【請求項52】
GCAが難治性GCAである、請求項44に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本出願は、2010年11月8日に出願された米国特許仮出願第61/411,015号及び2011年10月3日に出願された米国特許仮出願第61/542,615号の利益を主張するものであり、その全体が参照として組み入れられる。
【0002】
(発明の分野)
本出願は、インターロイキン6受容体(抗IL-6R抗体)を結合する皮下投与される抗体で、関節リウマチ(RA)、若年性突発性関節炎(JIA)、全身型JIA(sJIA)、多関節型JIA(pcJIA)、全身性硬化症又は巨細胞性動脈炎(GCA)などのIL-6媒介疾患を治療する方法に関する。本出願は特に、IL-6媒介疾患患者に皮下投与しても安全かつ有効な抗IL-6R抗体、例えばトシリズマブの固定用量の決定に関する。加えて、抗IL-6R抗体の皮下投与に有用な製剤及びデバイスが開示される。
【背景技術】
【0003】
関節リウマチは、可動関節を破壊する滑膜炎を特徴とし、疲労、貧血及び骨減少症を伴う進行性の全身型自己免疫疾患である。関節リウマチの罹患率は0.5%から1.0%であり(Maddison PJ, Isenberg DA, Woo P, Glass DN編. Oxford Textbook of Rheumatology: Oxford University Press: 499-513 (1993)内Silman, A.J. “Epidemiology and the rheumatic diseases.”)、ピーク発症率は40歳と60歳の間で、主として女性が発症する。RAの原因は不明であるが、ある種の組織適合抗原が転帰不良と関連づけられている。非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)は症状緩和をもたらすのみである。疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARD)はRAの全ステージにおける治療の基礎であり(Maddisonら, 前掲)、身体機能を維持又は改善し、X線による関節破壊を遅延させる(Brooks, P.M. “Clinical Management of rheumatoid arthritis.” Lancet 341: 286-290 (1993))。最近では、腫瘍壊死因子アルファ(TNF-α)、B細胞又はT細胞を標的とする生体化合物がRA治療に成功裏に使用されているが、患者の約30%から40%はこれらの治療に応答しない(Bathonら New Eng. J. Med. 343: 1586 - 1592 (2000); Mainiら Arthritis & Rheumatism 41: 1552 - 1563 (1998))。
【0004】
インターロイキン6(IL-6)は、様々な細胞型により産生される炎症誘発性の多機能サイトカインである。IL-6は、T細胞活性化、B細胞の分化、急性期タンパク質の誘導、造血前駆細胞の成長及び分化の刺激、前駆細胞からの破骨細胞の分化促進、幹細胞・皮膚細胞・神経細胞の増殖、骨代謝及び脂質代謝など多様なプロセスに関与している(Hirano T. Chem Immunol. 51:153-180 (1992); Kellerら Frontiers Biosci. 1: 340-357 (1996); Metzgerら Am J Physiol Endocrinol Metab. 281: E597-E965 (2001); Tamuraら Proc Natl Acad Sci USA. 90:11924-11928 (1993); Taub R. J Clin Invest 112: 978-980 (2003))。IL-6は、自己免疫疾患、骨粗鬆症、新生物及び老化を含む様々な疾患の発病と関係がある(Hirano, T. (1992), 前掲;及びKellerら, 前掲)。IL-6は、可溶型及び膜発現型の両方で存在するリガンド特異性受容体(IL-6R)を介し影響を及ぼす。
【0005】
RA患者の血清及び滑液中高濃度のIL-6が報告されており、このことはIL-6が滑膜により産生されることを示している(Iranoら Eur J Immunol. 18:1797-1801 (1988);及びHoussiauら Arthritis Rheum. 1988; 31:784-788 (1988))。IL-6濃度はRAの疾患活性と相関し(Hiranoら (1988), 前掲)、臨床効果は血清中のIL-6濃度の低下を伴う(Madhokら Arthritis Rheum. 33:S154. Abstract (1990))。
【0006】
トシリズマブ(TCZ)は、ヒトIL-6Rに結合する免疫グロブリンIgG1のサブクラスの組換えヒト化モノクローナル抗体である。ロシュ及び中外製薬により、成人発症RA、全身型若年性突発性関節炎及び多関節型若年性突発性関節炎を含む様々な疾患域において静脈内(IV)TCZの臨床効果及び安全性試験が終了し、又は実施されている。
【0007】
TCZ8mg/kg IVは、日本や欧州を含む70以上の国でRAへの使用が承認されている。米国では、TCZ IV(4mg/kg及び8mg/kg)は、抗TNF剤への応答が不十分なRA患者への使用が承認されている。加えて、インドと日本ではキャッスルマン病へのTCZの使用が承認された。
【0008】
2011年4月15日、米国食品医薬局は、活動性全身型若年性突発性関節炎(sJIA)の治療用に、単独又はメトトレキサートとの併用でTCZを承認した(TCZ ACTEMRA(登録商標)の米国添付文書(USPI)、2011年4月)。2011年8月1日、TCZはEUにおいても、NSAIDと全身コルチコステロイド(CS)での過去の治療への応答が不十分な活動性sJIAの治療に承認され、TCZは単剤療法(MTXへの不耐性やMTX治療が不適当な場合)で、又はMTXとの併用で、2歳以上の患者に投与されうる(RoACTEMRAの製品特性概要(SmPC)、Roche Registration Limited, 6 ファルコンウェイシャイアパーク, ウェルウィンガーデンシティ, AL7 1TW, 英国, 2010年6月4日)。sJIA患者用に承認されたTCZ用量は、体重<30kgに対し12mg/kg TCZ、体重≧30kgの患者には2週ごと8mg/kg IV輸液である。
【0009】
TCZは、日本では、日本人患者を対象に実施した第3相試験MRA318JPに基づき、多関節型若年性突発性関節炎(pcJIA)の治療に承認されている。WA19977は、現在実施中のピボタル第3相試験で、2歳から17歳の小児のpcJIA患者におけるTCZの有効性、安全性、PK及びPDを検証している。
【0010】
TCZは、びまん性皮膚全身性硬化症(SSc)の日本人患者2名(Shimaら Rheumatology 49:2408-12 (2010), doi:10.1093/rheumatology/keq275)、及び5名のSSc患者(Meunierら Ann. Rheum. Dis. 70(Suppl 3):660 (2011))に静脈内投与されている。SSc患者、特に初期の患者における循環IL-6の高濃度が報告されている。IL-6は、SSc患者の病変皮膚の内皮細胞や線維芽細胞に過剰発現する(Kochら Pathobiology 61:239-46 (1993))。高濃度のIL-6はSSc患者の気管支肺胞上皮の洗浄で検出されている。SSc患者の皮膚線維芽細胞は、健常群と比較して構成的に高濃度のIL-6を発現することが報告されている(Kadonoら J. Rheumatol. 25:296-301 (1998))。加えて、血清中IL-6濃度は皮膚硬化症及び急性期タンパク質と正の相関がある(Ong and Denton, Curr. Opin. Rheumatol. 22:264-72 (2010))。
【0011】
IL-6は、当初、ヒト形質細胞を発生させる潜在的な成長及び成熟因子として記述されている。IL-6はB細胞の増殖、抗体分泌及び形質芽細胞の生存を誘導する。活性B細胞は、IL-6及び他のサイトカインを産生する。SSc患者では、ポリクローナルB細胞の活性化、高特異性自己抗体の存在及び患者の皮膚疾患部のBリンパ球の浸潤などが認められている。しかし、SSc患者のB細胞枯渇抗体の非盲検試験の結果は今日まで不確定である(Boselloら Arthritis Res. Therapy 12:R54 (2010); Layfatis ら Arthritis Rheum. 60;578-83 (2009); Daoussisら Rheumatology 49:271-80 (2010))。Boselloら(2010)は、血清中IL-6濃度の低下と関連づけられる、SSc患者のB細胞枯渇の有益な効果を報告した。B細胞の機能に及ぼす影響に加えて、IL-6は、T細胞にも特異的な効果を及ぼす。IL-6はT細胞の生存とTh17リンパ球の分化を促進し、調節性T細胞の発生を阻害する。Th17細胞はIL-17を産生し、自己免疫疾患の発症と関連づけられている。自己分泌ループにおいて、IL-17は、ヒト線維芽細胞でIL-6合成を誘導しうる(Fossiezら J. Exp. Med. 813:2593-2603 (1996))。循環Th17細胞の増加は最近SSc患者でも報告されているが(Radstakeら PLoS ONE 4(6):e5903. doi:10.1371/journal.pone.0005903. Atamas SP Life Sci 72:631-43 (2009))、血清及び気管支上皮肺胞洗浄液中のIL-17濃度がSSc及びILD患者において増加していることが発見されている(Kurasawaら Arthritis Rheum 43: 2455-63 (2000))。
【0012】
SScの炎症期は徐々に線維症に変わってゆく。インビトロのヒト皮膚線維芽細胞培養実験では、IL-6がI型コラーゲン、グリコサミノグリカン、ヒアルロン酸及びコンドロイチン硫酸の産生を増加させたことが示された(Duncan and Berman J. Invest. Dermatol.. 97:686-92 (1991))。
【0013】
巨細胞性動脈炎(GCA)は、大径又は中径の動脈の原発性血管炎であり、典型的には側頭動脈生検により診断される。GCAの兆候と症状には、高い赤血球沈降速度(ESR)又は新規の頭痛が含まれる。有害な続発症として、不可逆的失明(両側網膜虚血又は視神経虚血)、脳、下肢、上肢又は大動脈瘤の梗塞が挙げられる。GCAは未だ満たされていない医療ニーズである。高用量のコルチコステロイド(CS)が現在の標準的治療であるが、より耐久性のある寛解が必要とされており(患者の50%が再発)、ステロイド関連の合併症の観点からステロイド節約療法のオプションが必要とされている。巨細胞性動脈炎におけるTCZ使用を報告した症例研究には、Seitzら Swiss Med Wkly 141:w13156 pgs. E1-E4 (2011); Salvaraniら Arth. and Rheum. (April 2011); 及びBeyerら Ann. Rheum. Dis. pgs. 1-2 (2011), doi:10.1136/ard.2010.149351がある。いずれの研究でもTCAは静脈内投与された。
【0014】
抗IL-6抗体関連の特許及び特許公報は、以下のものを包含する:米国特許第5,171,840号 (Kishimoto), 米国特許第5,480,796号 (Kishimoto), 米国特許第5,670,373号 (Kishimoto), 米国特許第5,851,793号 (Kishimoto), 米国特許第5,990,282号 (Kishimoto), 米国特許第6,410,691号 (Kishimoto), 米国特許第6,428,979号 (Kishimoto), 米国特許第5,795,965号 (Tsuchiyaら), 米国特許第5,817,790号 (Tsuchiyaら), 米国特許第7,479,543号 (Tsuchiyaら), 米国特許公開第2005/0142635号 (Tsuchiyaら), 米国特許第5,888,510号 (Kishimotoら), 米国特許公開第2001/0001663号 (Kishimotoら), 米国特許公開第2007/0036785号 (Kishimotoら), 米国特許第6,086,874号 (Yoshidaら), 米国特許第6,261,560号 (Tsujinakaら), 米国特許第6,692,742号 (Nakamuraら), 米国特許第7,566,453号 (Nakamuraら), 米国特許第7,771,723号 (Nakamuraら), 米国特許公開第2002/0131967号 (Nakamuraら), 米国特許公開第2004/0247621号 (Nakamuraら), 米国特許公開第2002/0187150号 (Miharaら), 米国特許公開第2005/0238644号 (Miharaら), 米国特許公開第2009/0022719号 (Miharaら), 米国特許公開第2006/0134113号 (Mihara), 米国特許第6,723,319号 (Itoら), 米国特許第7,824,674号 (Itoら), 米国特許公開第2004/0071706号 (Itoら), 米国特許第6,537,782号 (Shibuyaら), 米国特許第6,962,812号 (Shibuyaら), 国際公開第00/10607号 (Akihiroら), 米国特許公開第2003/0190316号 (Kakutaら), 米国特許公開第2003/0096372号 (Shibuyaら), 米国特許第7,320,792号 (Itoら), 米国特許公開第2008/0124325号 (Itoら), 米国特許公開第2004/0028681号 (Itoら), 米国特許公開第2008/0124325号 (Itoら), 米国特許公開第2006/0292147号 (Yoshizakiら), 米国特許公開第2007/0243189号 (Yoshizakiら), 米国特許公開第2004/0115197号 (Yoshizakiら), 米国特許公開第2007/0148169号 (Yoshizakiら), 米国特許第7,332,289号 (Takedaら), 米国特許第7,927,815号 (Takedaら), 米国特許第7,955,598号 (Yoshizakiら), 米国特許公開第2004/0138424号 (Takedaら), 米国特許公開第2008/0255342号 (Takedaら),米国特許公開第2005/0118163号 (Mizushimaら), 米国特許公開第2005/0214278号 (Kakutaら), 米国特許公開第2008/0306247号 (Mizushimaら), 米国特許公開第2009/0131639号 (Kakutaら), 米国特許公開第2006/0142549号 (Takedaら), 米国特許第7,521,052号 (Okudaら), 米国特許公開第2009/0181029号 (Okudaら), 米国特許公開第2006/0251653号 (Okudaら), 米国特許公開第2009/0181029号 (Okudaら), 米国特許公開第2007/0134242号 (Nishimotoら), 米国特許公開第2008/0274106号 (Nishimotoら), 米国特許公開第2007/0098714号 (Nishimotoら), 米国特許公開第2010/0247523号 (Kanoら), 米国特許公開第2006/0165696号 (Okanoら), 米国特許公開第2008/0124761号 (Gotoら), 米国特許公開第2009/0220499号 (Yasunami), 米国特許公開第2009/0220500号 (Kobara), 米国特許公開第2009/0263384号 (Okadaら), 米国特許公開第2009/0291076号 (Morichikaら), 米国特許公開第2009/0269335号 (Nakashimaら), 米国特許公開第2010/0034811号 (Ishida), 米国特許公開第2010/0008907号 (Nishimotoら), 米国特許公開第2010/0061986号 (Takahashiら), 米国特許公開第2010/0129355号 (Ohguroら), 米国特許公開第2010/0255007号 (Miharaら), 米国特許公開第2010/0304400号 (Stubenrachら), 米国特許公開第2010/0285011号 (Imaedaら), 米国特許公開第2011/0150869号 (Mitsunagaら), 国際公開第2011/013786号 (Maeda) 及び米国特許公開第2011/0117087号 (Franzeら)。
【発明の概要】
【0015】
第1の態様では、本発明は、患者のIL-6媒介疾患を治療する方法であって、該患者に抗IL-6受容体(IL-6R)抗体を皮下投与することを含み、抗IL-6R抗体は1用量あたり162mgの固定用量として投与される(例えば、毎週又は2週ごとに投与される)方法に関する。疾患の態様として、関節リウマチ(RA)、若年性突発性関節炎(JIA)、乾癬性関節炎及びキャッスルマン病が挙げられる。好ましくは、抗IL-6R抗体はトシリズマブである。
【0016】
本発明はまた、患者の関節リウマチを治療する方法であって、該患者にトシリズマブを皮下投与することを含み、トシリズマブは1用量あたり162mgの固定用量として毎週又は2週ごとに投与される方法に関する。
【0017】
別の実施態様では、本発明は皮下投与デバイスを備えた製造品を提供し、このデバイスは固定用量の抗IL-6受容体(IL-6R)抗体を患者に送達し、固定用量は162mg、324mg及び648mgの抗IL-6R抗体からなる群より選ばれる。
【0018】
本発明は、別の態様では、関節リウマチ患者の関節の構造的破壊の進行を抑制する方法であって、固定用量の抗IL-6受容体(IL-6R)抗体162mgを2週ごとに該患者に皮下投与することを含み、関節の構造的破壊が抑制されたことが第24週又は第48週に判明する方法に関する。
【0019】
加えて、本発明は、抗IL-6R抗体を約100mg/mLから約300mg/mLの量で、及びヒアルロニダーゼ酵素を約1,400から約1,600U/mLの量で含む薬学的組成物を提供する。
【0020】
別の態様では、患者のIL-6媒介疾患を治療する方法が提供され、この方法はこのような薬学的組成物を該患者に皮下投与することを含み、抗IL-6R抗体は1用量あたり324mg又は648mgの固定用量で投与され、例えば固定用量は4週ごと又は1月に一度投与される。
【0021】
本発明はまた、患者のIL-6媒介疾患を治療する方法であって、抗IL-6R抗体とヒアルロニダーゼ酵素を該患者に皮下投与することを含み、抗IL-6R抗体は1用量あたり324mg又は648mgの固定用量として投与される(例えば4週ごと又は1月に一度)方法に関する。
【0022】
本発明はまた、IL-6媒介疾患患者に抗IL-6R抗体(例えばトシリズマブ)を皮下投与することに関する。このような疾患には、自己免疫疾患、骨粗鬆症、新生物、老化、関節リウマチ(RA)、若年性突発性関節炎(JIA)、全身性JIA(sJIA)、多関節型JIA(pcJIA)、乾癬性関節炎、キャッスルマン病、クローン病、多発性骨髄腫、リウマチ性多発筋痛症、糸球体腎炎、形質細胞種又は形質細胞増加症、(多発性骨髄腫を含む)骨髄腫、高グロブリン血症、貧血、(メサンギウム増殖性腎炎などの)腎炎、(がん性悪液質を含む)悪液質、腫瘍、T細胞媒介疾患(例えばブドウ膜炎、慢性甲状腺炎、遅延型過敏症、接触性皮膚炎又はアトピー性皮膚炎)、(ループス腎炎及び全身性紅斑性狼瘡を含む)ループス、(クローン病及び潰瘍性大腸炎を含む)炎症性腸疾患、膵炎、乾癬、変形性関節症、成人スチルス症、中皮症、血管炎、島移植(例えば膵島移植)、心筋梗塞(心不全、虚血誘発性重症不整脈)、心移植、前立腺がん、脈絡膜新生血管(例えば加齢性黄斑新生症、突発性脈絡膜新生血管、近視性脈絡膜新生血管、突発性脈絡膜新生血管)、筋萎縮症、慢性拒絶症、眼球炎症性疾患(例えば汎ブドウ膜炎、前部ブドウ膜炎、中間部ブドウ膜炎、強膜炎、角膜炎、眼球の炎症、視神経炎、ドライアイ、糖尿病性網膜症、増殖性硝子体網膜症、術後の炎症)、移植片対宿主病(GVHD)、(全身性硬化症などの)線維性疾患、巨細胞性動脈炎(GCA)、高安動脈炎(TA)、結節性動脈炎、強直性脊椎炎などが含まれる。
【0023】
疾患は、関節リウマチ、若年性突発性関節炎(JIA)、全身性JIA(sJIA)、多関節型JIA(pcJIA)、巨細胞性動脈炎(GCA)又は全身性硬化症でありうる。
【0024】
一実施態様では、抗IL-6R抗体は、1用量あたり162mgの固定量としてIL-6媒介疾患患者に皮下投与され、固定量は毎週、2週ごと又は10日ごとに皮下投与される。
【0025】
別の態様では、本発明は、患者の若年性突発性関節炎(JIA)を治療する方法であって、抗IL-6受容体(IL-6R)抗体を該JIAを治療するのに有効な量で該患者に皮下投与することを含む方法に関する。
【0026】
加えて、患者の線維性疾患(例えば全身性硬化症)を治療する方法であって、抗IL-6受容体(IL-6R)抗体を該線維性疾患を治療するのに有効な量で該患者に皮下投与することを含む方法が提供される。
【0027】
さらに、本発明は、患者の巨細胞性動脈炎(GCA)を治療する方法であって、抗IL-6受容体(IL-6R)抗体を該GCAを治療するのに有効な量で該患者に皮下投与することを含む方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】TCZ4&8mg IV Q4W(WA17823)と比較した日本人(MRA227)と白人(NP22623)のRA患者におけるTCZ162mg SC QW/Q2W投与後の平均sIL-6R濃度-時間プロフィールを表す。キー:日本人RA患者MRA227試験:162mg QW群はN=12、162mg Q2W群はN=12、81mg QW/Q2W群はN=6から8で3週間の単回投与パートを有した。81mg群はレジメンを第9週でQ2WからQWに切り替えた;NP22623試験の白人RA患者:162mg Q2W群はN=13、QW群はN=14。WA17823試験:4mg/kg IV Q4WはN=146、MTXとの併用で8mg/kg IVはN=532。エラーバーは標準偏差を示す。
【
図2】4&8mg/kg IV Q4W(WA17822)のプロフィールと比較した日本人(MRA227)と白人(NP22623)のRA患者のTCZ162mg QW/Q2W SC投与後の平均CRP-時間プロフィールを示す。キー:MRA227試験の日本人RA患者:162mg QW群N=12、162mg Q2W群N=12、81mg Q2W/QW群は3週間の単回投与パートを含む11週までN=8、その後はN=7。81mg群はレジメンを第9週でQ2WからQWに切り替えた;NP22623試験の白人RA患者:162mg Q2W群はN=13、QW群はN=14。WA17822試験:4mg/kg IV Q4WはN=152から211、MTXとの併用で8mg/kg IVはN=167から206。ULN-正常範囲上限。
【
図3】SC試験(MRA227及びNP22623)とIV試験(WA17822)におけるTCZ投与後のベースラインからのDAS28-ESRの変化を示す。キー:日本人RA患者のSC試験(MRA227):162mg QW群はN=12、162mg Q2W群はN=12、81mg Q2W/QW群は3週間の単回投与パートを含む11週までN=8、その後はN=7。81mg群はレジメンを第9週でQ2WからQWに切り替えた;白人RA患者のSC試験(NP22623):162mg Q2W+MTX QW群はN=11、162mg QW+MTX QW群はN=12。コンパレーター試験WA17822:4mg/kg Q4W+MTX QW群はN=152から211、8mg/kg Q4W+MTX QW群はN=167から206。
【
図4】MRA227試験における162mg SC QW及びQ2WとLRO301試験における4&8mg/kg IV Q4Wの投与後の血清中TCZ濃度平均±標準偏差を示す。キー:第1群(11週まではN=8、その後はN=7):患者らは第1週に81mg SC単回投与を受け、第3週でQ2W服用を開始し、第9週でQ2W服用に切り替えた;第2群(162mg Q2W、N=12):患者らは第1週に162mg SC単回投与を受け、第3週でQ2W服用を開始した;第3群(162mg QW、N=12):患者らはデータ中断まで15週間162mg QW投与を受けた。白人RA患者SC試験(NP22623):162mg Q2W群+メトトレキサート(MTX) QWはN=13、162mg QW+MTX QW群はN=14。第2相用量設定LRO301試験のRA患者の4週ごとの4及び8mg/kg IV輸液のPKプロフィールを比較のために図示する。LRO301が比較のために選択されたのは、第2相と第3相のPKが類似であり、第3相のPKサンプリングが低頻度だったためである(観察平均PKプロフィールを適切に構築できなかった)。
【
図5】実施例2記載のWA22762試験デザインを示す。
【
図6】実施例3記載のNA25220B試験デザインを示す。
【
図7A-B】トシリズマブの軽鎖(
図7A;配列番号1)と重鎖(
図7B;配列番号2)のアミノ酸配列を示す。
【
図8A-B】実施例5の試験のコホートによる平均(±SD)トシリズマブ濃度-時間プロフィールを示す。
図8Aは線形スケールである;
図8Bは対数-線形スケールである。TCZ=トシリズマブ;TCZ/PH20=トシリズマブとrHuPH20の共製剤。
【
図9A-B】トシリズマブ/rHuPH20 AUC
0-inf(
図9A)とC
max(
図9B)の用量比例性を示す。
【
図10】コホートによる平均(±SD)CRP濃度-時間プロットを示す。TCZ=トシリズマブ;TCZ/PH20=トシリズマブとrHuPH20の共製剤。
【
図11】コホートによる平均(±SD)IL-6濃度-時間プロットを示す。TCZ=トシリズマブ;TCZ/PH20=トシリズマブとrHuPH20の共製剤。
【
図12】コホートによる平均(±SD)sIL-6R濃度-時間プロットを示す。TCZ=トシリズマブ;TCZ/PH20=トシリズマブとrHuPH20の共製剤。
【
図13】4週ごとの4及び8mg/kg後のIV PKプロフィールと324mgのTCZ/rHuPH20及び648mgのTCZ/rHuPH20投与後のSC PKプロフィールの比較を示す(4及び8mg/kgのIVデータはLR0320試験のデータである)。TCZ=トシリズマブ;TCZ/PH20=トシリズマブとrHuPH20の共製剤。
【
図14A】静脈内(IV)投与後のPKプロフィール(WA18221のシミュレート)を示す。
【
図14B】皮下(SC)投与後のPKプロフィール(WA18221の患者のシミュレート)を示す。
【
図15】WA18221試験のCminの予測モデル(体重(BW)<30kgに対し12mg/kg、BW≧30kgに対し8mg/kg)。
【
図16】sJIA患者のTCZ Cminのシミュレーションモデル(BW<30kgに対し162mg Q2W、BW≧30kgに対し162mg QW)。
【
図17】sJIA患者のTCZ Cminのシミュレーションモデル(BW<30kgに対し162mg QW、BW>30kgに対し162mg QW)。
【
図18】sJIA患者のTCZ Cminのシミュレーションモデル(BW<30kgに対し162mg Q10D、BW≧30kgに対し162 QW)。
【
図19A-B】MRA318JP試験(TCZ8mg/kg)の異なる体重カテゴリーのpcJIA50スコア達成確率(
図19A)及びpcJIA70スコア達成確率(
図19B)を示す。点線上の数値はpcJIA50スコア又はpcJIA70スコアの達成確率を示す。
【
図20A-B】日本人小児科pcJIA患者(MRA318JP)の6か月後をシミュレートした曲線下面積(AUC)対体重(BW)を示す。両体重カテゴリー(n=19)における4週ごとのTCZ8mg/kg(
図20A);体重<30kgと≧30kg(n=19)の小児における4週ごとの10mg/kg又は8mg/kg(
図20B)。実線は、全データの平滑化スプラインを示す。点線(
図20B)は、体重30kg未満の小児のmg/kg用量に何ら変化のないデータの基準傾向を示す平滑化スプラインである。
【
図21A】4週ごとのIV投与後のPKプロフィール(WA19977のシミュレート)を示す。
【
図21B】2週ごとの162mg SC投与のPKプロフィール(WA19977の患者のシミュレート、
図21B)を示す。
【
図22】巨細胞性動脈炎(GCA)に皮下投与された抗IL-6R抗体(TCZ)の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
I.定義
ここで使用される略語の一部:有害事象(AE)、自動注射器(AI)、曲線下面積(AUC)、体重(BW)、コルチコステロイド(CS)、C反応性タンパク質(CRP)、10日ごと(Q10D)、毎週(QW)、2週ごと(Q2W)、4週ごと(Q4W)、巨細胞性動脈炎(GCA)、インターロイキン6(IL-6)、インターロイキン6受容体(IL-6R)、静脈内(IV)、若年性突発性関節炎(JIA)、メトトレキサート(MTX)、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、薬力学(PD)、薬物動態(PK)、多関節型若年性突発性関節炎(pcJIA)、プレフィルドシリンジ(PFS)、関節リウマチ(RA)、リウマチ因子(RF)、重篤な有害事象(SAE)、可溶性インターロイキン6受容体(sIL-6R)、皮下(SC)、全身型若年性突発性関節炎(sJIA)、トシリズマブ(TCZ)及び注射用水(WFI)。
【0030】
本明細書では、「ヒトインターロイキン6」(「IL-6」と略される)は、B細胞刺激因子2(BSF-2)又はインターフェロンベータ2(IFNB2)、ハイブリドーマ成長因子及びCTL分化因子としても知られるサイトカインである。IL-6はB細胞の活性化に貢献する分化因子として発見され(Hiranoら, Nature 324: 73-76 (1986))、後に多様な細胞型の機能に影響を及ぼす多機能型サイトカインであることが見いだされた(Akiraら, Adv. in Immunology 54: 1-78 (1993))。天然のヒトIL-6バリアントが知られており、この定義に含まれる。ヒトIL-6のアミノ酸配列情報が開示されており、例えばwww.uniprot.org/uniprot/P05231を参照されたい。
【0031】
本明細書の目的では、「ヒトインターロイキン6受容体」(「IL-6R」と略される)はIL-6に結合する受容体を指し、膜結合型IL-6R(mIL-6R)と可溶性IL-6R(sIL-6R)の両方を含む。IL-6Rはインターロイキン6のシグナル伝達性糖タンパク質130と結合して活性受容体複合体を形成しうる。あるいは、IL-6の明白なアイソフォームをコードするスプライス後の転写物バリアントが報告されており、この定義に含まれる。ヒトIL-6Rのアミノ酸配列構造とその細胞外ドメインが、例えばYamasakiら, Science, 241: 825 (1988)に記載されている。
【0032】
本明細書の「中和」抗IL-6R抗体は、IL-6Rに結合し、IL-6がIL-6Rと結合する及び/又はこれを活性化する能力を測定可能な程度阻害することができる。トシリズマブは中和抗IL-6R抗体の一例である。
【0033】
「トシリズマブ」又は「TCZ」は、ヒトインターロイキン6受容体(IL-6R)に結合する組換えヒト化モノクローナル抗体である。これは、2つの抗原結合部位を形成する2本の重鎖と軽鎖を有するIgG1κ(ガンマ1、カッパ)抗体である。好ましい実施態様では、トシリズマブの軽鎖と重鎖のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号1と2を備える(
図7A-B参照)。
【0034】
「天然配列」のタンパク質は、本明細書では自然界に見られるタンパク質のアミノ酸配列を有するタンパク質を指し、そのタンパク質の自然に生じるバリアントも包含する。本明細書では、該用語は、その天然源から単離されたか、又は組換えで産生されたタンパク質を包含する。
【0035】
「抗体」という用語は本明細書で最も広義に使用され、特に、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、少なくとも2つのインタクトな抗体から形成された多特異性抗体(例えば二特異性抗体)及び所望の生物活性を示す限り抗体断片を包含する。
【0036】
本明細書の「抗体断片」は、抗原結合能を保持するインタクトな抗体の一部を含む。抗体断片の例として、Fab、Fab’、F(ab’)2及びFv断片;二特異性抗体;直鎖状抗体;単鎖抗体分子;及び抗体断片で形成された多特異性抗体が挙げられる。
【0037】
「モノクローナル抗体」という用語は、本明細書では実質的に均一な抗体集団から得られた抗体を指し、すなわち、場合によってはモノクローナル抗体の産生中に生じうる通常は少量で存在するバリアントを除き、該集団を構成する各抗体は同一であり、及び/又は同じエピトープに結合する。異なる決定基(エピトープ)に対する様々な抗体を典型的に含むポリクローナル抗体の調製物と違って、各モノクローナル抗体は抗原の単一の決定基に対する。その特異性に加えて、モノクローナル抗体は、他の免疫グロブリンに汚染されないという利点がある。「モノクローナル」という修飾語は、実質的に均一な抗体集団から得られる抗体の特徴を示し、抗体が何らかの特定の方法で生産されることを要すると解釈されるものではない。例えば、本発明に従って使用されるモノクローナル抗体は、Kohlerら, Nature, 256:495 (1975)に初めて記載されたハイブリドーマ法で作製してもよく、又は組換えDNA法で作製してもよい(例えば米国特許第4,816,567号を参照)。「モノクローナル抗体」はまた、例えばClacksonら, Nature, 352:624-628 (1991)及びMarksら, J. Mol. Biol., 222:581-597 (1991) に記載の技法を使用してファージ抗体ライブラリーから単離してよい。本明細書のモノクローナル抗体の特定の例として、キメラ抗体、ヒト化抗体及びヒト抗体、並びにこれらの抗原結合性断片が挙げられる。
【0038】
本明細書では、モノクローナル抗体は、その重鎖及び/又は軽鎖の一部分が特定の種由来か特定の抗体クラス又はサブクラスに属する抗体の対応配列と同一であるか又は相同性があるが、鎖の残りの部分は別の種由来か別の抗体クラス又はサブクラスに属する抗体の対応配列と同一であるか又は相同性がある「キメラ」抗体(免疫グロブリン)、並びに所望の生物活性を示す限りそのような抗体の断片を特に含む(米国特許第4,816,567号; Morrisonら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81:6851-6855 (1984))。ここで対象となるキメラ抗体は、非ヒト霊長類(例えばヒヒ、アカゲザル又はカニクイザルなどの旧世界ザル)由来の可変ドメイン抗原結合配列及びヒト定常領域配列を含む「霊長類化」抗体を包含する(米国特許第5,693,780号)。
【0039】
「ヒト化」形の非ヒト(例えばマウス)抗体は、非ヒト免疫グロブリン由来の最小配列を含有するキメラ抗体である。ヒト化抗体の大部分は、ヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)であり、レシピエントの超可変領域の残基が、所望の特異性、親和性及び能力を有するマウス、ラット、ウサギ又は非ヒト霊長類などの非ヒト種(ドナー抗体)の残基で置換されている。場合によっては、ヒト免疫グロブリンのフレームワーク領域(FR)残基は、対応する非ヒト残基で置換される。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体にもドナー抗体にも見られない残基を含んでよい。これらの修飾は、抗体の能力をさらに洗練するために行われる。一般に、ヒト化抗体は少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインのすべてを実質的に含み、ここですべて又は実質的にすべての超可変領域が非ヒト免疫グロブリンのものに対応し、上述のFR置換を除くすべて又は実質的にすべてのFRがヒト免疫グロブリン配列のものである。ヒト化抗体はまた、免疫グロブリンの、典型的にはヒト免疫グロブリンの定常領域の少なくとも一部分を含みうる。さらなる詳細は、Jonesら, Nature 321:522-525 (1986); Riechmannら, Nature 332:323-329 (1988); およびPresta, Curr. Op. Struct. Biol. 2:593-596 (1992) を参照されたい。本明細書のヒト化抗体は、参照により本明細書に明白に組み込まれる米国特許第5,795,965号に記載の「再形成された」IL-6R抗体を特に含む。
【0040】
本明細書では、「ヒト抗体」は、ヒトB細胞から得られうる抗体のアミノ酸配列構造に対応するアミノ酸配列構造を含むものであり、ヒト抗体の抗原結合断片を含む。このような抗体は、限定ではないが、以下の技法を含む様々な技法により同定又は作製されうる:免疫化後、内在性免疫グロブリン産生の非存在下でヒト抗体を産生する能力のある遺伝子導入動物(例えばマウス)による産生(例えばJakobovitsら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:2551 (1993); Jakobovitsら, Nature, 362:255-258 (1993); Bruggermannら, Year in Immuno., 7:33 (1993) 及び米国特許第5,591,669号, 同第5,589,369号及び同第5,545,807号を参照);ヒト抗体又はヒト抗体断片を発現しているファージディスプレイライブラリーからの選択(例えばMcCaffertyら, Nature 348:552-553 (1990); Johnsonら, Current Opinion in Structural Biology 3:564-571 (1993); Clacksonら, Nature, 352:624-628 (1991); Marksら, J. Mol. Biol. 222:581-597 (1991); Griffithら, EMBO J. 12:725-734 (1993); 米国特許第5,565,332号及び同第5,573,905号を参照);インビトロの活性B細胞を通じて生成(例えば米国特許第5,567,610号及び同第5,229,275号を参照);及びヒト抗体産生ハイブリドーマからの単離。
【0041】
本明細書では、「多特異性抗体」は、少なくとも2つの異なるエピトープに対する結合特異性を有する抗体である。例示的な多特異性抗体は、IL-6Rの2つの異なるエピトープに結合しうる。あるいは、抗IL-6R結合アームは、細胞防御機構を受容体に集中させるように、T細胞受容体分子(例えばCD2又はCD3)又はFcγRI(CD64)、FcγRII(CD32)及びFcγRIII(CD16)などのIgG(FcγR)に対するFc受容体などの白血球のトリガー分子に結合するアームと結合しうる。多特異性抗体は、全長抗体として又は抗体断片(例えばF(ab’)2二特異性抗体)として調製できる。3又はそれ以上(好ましくは4)の機能的抗原結合部位を有する操作された抗体も考えられる(例えば、米国特許公開第2002/0004587 A1号, Millerらを参照)。
【0042】
本明細書では、抗体は、変更された抗原結合又は生物活性を有する「アミノ酸配列バリアント」を含む。このようなアミノ酸変更の例として、抗原に対する親和性の改善(例えば「親和性成熟」抗体)、変更されたFc領域を有する抗体、存在するならば、例えば変更(増加又は減少)された抗体依存性細胞傷害性(ADCC)及び/又は補体依存性細胞傷害性(CDC)を有する抗体(例えば、国際公開第00/42072号, Presta, L.及び国際公開第99/51642号, Iduosogieらを参照);及び/又は血清半減期が延長又は短縮された抗体(例えば、国際公開第00/42072号, Presta, L.を参照)が挙げられる。
【0043】
「親和性成熟バリアント」は、親抗体(例えば親キメラ、ヒト化又はヒト抗体)の超可変領域に1又は複数の置換された残基を有する。一般に、さらなる開発用に選択された、得られたバリアントは、それ(ら)を産生した親抗体と比べて抗原結合親和性が改善されている。このような置換バリアントを産生する便利な方法に、ファージディスプレイを使用した「親和性成熟」がある。簡単に説明すると、複数の超可変領域部位(例えば6~7部位)が変異されて各部位にすべての可能なアミノ置換を生じる。こうして産生された抗体バリアントは、粒子に内包されるM13産物geneIIIとの融合物として、一価の様式で各線維性ファージ粒子から提示される。ファージ提示バリアントは次いでその生物活性(例えば結合親和性)をスクリーニングされる。修飾用の超可変領域部位候補を同定するために、アラニン走査変異導入法(alanine scanning mutagenesis)を行って、抗原結合に実質的に貢献する超可変領域残基を同定できる。あるいは、又は加えて、抗原-抗体複合体の結晶構造を分析し抗体とヒトIL-2Rの接触点を同定するのも有用でありうる。このような接触残基及び隣接残基は本明細書で詳述する技法による置換の候補である。このようなバリアントが産生されると、バリアントのパネルはスクリーニングにかけられ、親和性が改善された抗体がさらなる開発用に選択されうる。
【0044】
本明細書の抗体は、例えば抗体の半減期延長、安定又は他の改善のため「異種分子」とコンジュゲートされうる。例えば、抗体は、例えばポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール、ポリオキシアルキレン又はポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールのコポリマーなどの様々な非タンパク性ポリマーの1つに連結されうる。1又は複数のPEG分子に連結されたFab’などの抗体断片は、本発明の例示的実施態様である。
【0045】
本明細書の抗体は、Fc領域に付着する任意の炭水化物が存在する場合は変更されるように、「糖鎖付加バリアント」であってよい。例えば、フコースが欠如した成熟炭水化物構造が抗体Fc領域に付着した抗体が米国特許公開第2003/0157108号(Presta, L.)に記載されている。米国特許公開第2004/0093621号(協和発酵工業株式会社)も参照されたい。抗体Fc領域に付着した炭水化物にバイセクトN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)を有する抗体が、国際公開第2003/011878号, Jean-Mairetら及び米国特許第6,602,684号, Umanaらに参照される。抗体Fc領域に付着したオリゴ糖に少なくとも1つのガラクトース残基を有する抗体が国際公開第1997/30087号, Patelらに報告されている。そのFc領域に変更された炭水化物が付着した抗体に関しては国際公開第1998/58964号(Raju, S.)及び国際公開第1999/22764号(Raju, S.)も参照されたい。修飾された糖鎖付加を有する抗体を記述した米国特許公開第2005/0123546号 (Umanaら) も参照されたい。
【0046】
本明細書で使用される「超可変領域」という用語は、抗原結合を担う抗体のアミノ酸残基を指す。超可変領域は、「相補性決定領域」又は「CDR」(例えば、軽鎖可変ドメインの残基24-34 (L1), 50-56 (L2)及び89-97 (L3)並びに重鎖可変ドメインの残基31-35 (H1), 50-65 (H2)及び95-102 (H3); Kabatら, Sequences of Proteins of Immunological Interest, 第5版 米国国立衛生研究所公衆衛生局, メリーランド州ベセスダ (1991))及び/又は「超可変ループ」の残基(例えば軽鎖可変ドメインの残基26-32 (L1), 50-52 (L2) 及び 91-96 (L3) 及び重鎖可変ドメインの残基 26-32 (H1), 53-55 (H2) 及び 96-101 (H3); Chothia及びLesk J. Mol. Biol. 196:901-917 (1987))のアミノ酸を含む。「フレームワーク」又は「FR」残基は、本明細書に定義の超可変領域残基の他の可変ドメイン残基である。トシリズマブの超可変領域は、以下を含む:
L1-Arg Ala Ser Gln Asp Ile Ser Ser Tyr Leu Asn(配列番号3);
L2-Tyr Thr Ser Arg Leu His Ser(配列番号4);
L3-Gln Gln Gly Asn Thr Leu Pro Tyr Thr(配列番号5);
H1-Ser Asp His Ala Trp Ser(配列番号6);
H2-Tyr Ile Ser Tyr Ser Gly Ile Thr Thr Tyr Asn Pro Ser Leu Lys Ser(配列番号7);及び
H3-Ser Leu Ala Arg Thr Thr Ala Met Asp Tyr(配列番号8)
【0047】
本明細書の一実施態様では、IL-6R抗体はトシリズマブの超可変領域を含む。
【0048】
「全長抗体」は、抗原結合可変領域並びに軽鎖定常ドメイン(CL)と重鎖定常ドメインCH1、CH2及びCH3を含む抗体である。定常ドメインは、天然配列の定常ドメイン(例えば、ヒト天然配列定常ドメイン)又はそのアミノ酸配列バリアントでよい。好ましくは、全長抗体は、1又は複数のエフェクター機能を有する。トシリズマブは全長抗体の一例である。
【0049】
「裸抗体」は、細胞傷害性部分、ポリマー又は放射標識などの異種分子にコンジュゲートされない(本明細書に定義される)抗体である。
【0050】
抗体の「エフェクター機能」は、抗体のFc領域(天然配列Fc領域又はアミノ酸配列バリアントFc領域)に起因する生物活性を指す。抗体エフェクター機能の例として、C1q結合、補体依存性細胞傷害性(CDC)、Fc受容体結合、抗体依存性細胞傷害性(ADCC)などが挙げられる。
【0051】
重鎖定常ドメインのアミノ酸配列によって、全長抗体は異なる「クラス」に割り当てられる。全長抗体の5つの主要クラスはIgA、IgD、IgE、IgG及びIgMであり、このうちいくつかはさらに、例えばIgGl、IgG2、IgG3、IgG4、IgA及びIgA2などの「サブクラス」(アイソタイプ)に分けることができる。抗体の異なるクラスに対応する重鎖定常ドメインは、それぞれアルファ、デルタ、イプシロン、ガンマ、ミューと呼ばれる。免疫グロブリンの異なるクラスのサブユニット構造と3次元構造は周知である。
【0052】
本明細書で使用される「組換え抗体」という用語は、その抗体をコードする核酸を含む組換え宿主細胞により発現された抗体(例えばキメラ、ヒト化又はヒト抗体又はその抗原結合断片)を指す。組換え抗体を産生する「宿主細胞」の例として、(1)例えばチャイニーズハムスター卵巣(CHO)、COS、(Y0及びNS0細胞を含む)ミエローマ細胞、ベビーハムスター腎臓(BHK)、Hela及びVero細胞などの哺乳動物細胞;(2)例えばsf9、sf21及びTn5などの昆虫細胞;(3)例えばタバコ属に属する植物細胞(例えばタバコ);(4)例えばサッカロミセス属に属する(例えば出芽酵母)又はコウジカビ属に属する(例えばクロコウジカビ)酵母細胞;(5)例えば大腸菌細胞又は枯草菌細胞などの細菌細胞などが挙げられる。
【0053】
本明細書で使用される「特異的結合」又は「に特異的に結合する」は、選択的又は優先的にIL-6R抗原に結合する抗体を指す。好ましくは、抗原に対する親和性は、Kd値10-9mol/lかそれより低く(例えば10-10mol/l)、好ましくはKd値10-10mol/lかそれより低い(例えば10-12mol/l)。結合親和性は、表面プラズモン共鳴法(BIACORE(登録商標))などの標準的な結合アッセイで決定される。
【0054】
本明細書の目的では、「IL-6媒介疾患」という用語は、IL-6RがIL-6に活性化されることがその疾患の原因になる、及び/又は抗IL-6R抗体療法がその疾患又は疾病の治療法として使用可能な疾患又は疾病を指す。このような疾患の例として、自己免疫疾患、骨粗鬆症、新生物、加齢、関節リウマチ(RA)、(全身性JIA及び多関節型JIAを含む)若年性突発性関節炎(JIA)、乾癬性関節炎、キャッスルマン病、クローン病、多発性骨髄腫、リウマチ性多発筋痛症、糸球体腎炎、形質細胞種又は形質細胞増加症、(多発性骨髄腫を含む)骨髄腫、高グロブリン血症、貧血、(メサンギウム増殖性腎炎などの)腎炎、(がん性悪液質を含む)悪液質、腫瘍、T細胞媒介疾患(例えばブドウ膜炎、慢性甲状腺炎、遅延型過敏症、接触性皮膚炎又はアトピー性皮膚炎)、(ループス腎炎及び全身性紅斑性狼瘡を含む)ループス、(クローン病及び潰瘍性大腸炎を含む)炎症性腸疾患、膵炎、乾癬、変形性関節症、成人スチルス症、中皮症、血管炎、島移植(例えば膵島移植)、心筋梗塞(心不全、虚血誘発性重症不整脈)、心移植、前立腺がん、脈絡膜新生血管(例えば加齢性黄斑新生症、突発性脈絡膜新生血管、近視性脈絡膜新生血管、突発性脈絡膜新生血管)、筋萎縮症、慢性拒絶症、眼球炎症性疾患(例えば汎ブドウ膜炎、前部ブドウ膜炎、中間部ブドウ膜炎、強膜炎、角膜炎、眼球の炎症、視神経炎、ドライアイ、糖尿病性網膜症、増殖性硝子体網膜症、術後の炎症)、移植片対宿主病(GVHD)、(全身性硬化症などの)線維性疾患、巨細胞性動脈炎(GCA)、高安動脈炎(TA)、結節性動脈炎、強直性脊椎炎などが挙げられる。
【0055】
一実施態様では、IL-6媒介疾患は関節リウマチである。
【0056】
一実施態様では、IL-6媒介疾患は若年性突発性関節炎(JIA)である。
【0057】
一実施態様では、IL-6媒介疾患は全身性JIA(sJIA)である。
【0058】
一実施態様では、IL-6媒介疾患は多関節型JIA(pcJIA)である。
【0059】
一実施態様では、IL-6媒介疾患は全身性硬化症である。
【0060】
一実施態様では、IL-6媒介疾患は巨細胞性動脈炎(GCA)である。
【0061】
一実施態様では、IL-6媒介疾患は乾癬性関節炎である。
【0062】
一実施態様では、IL-6媒介疾患はブドウ膜炎である。
【0063】
本明細書で使用される「関節リウマチ」(「RA」と略される)は、多くの組織や器官に影響を及ぼしうるが主として滑膜性の関節を攻撃する慢性的な全身型炎症性疾患を指す。RAは、1987年又は2000年に改訂されたアメリカリウマチ学会(ACR、旧アメリカリウマチ協会)の関節リウマチの分類基準に従って、又は任意同様の基準に従って診断されなければならない。RAの生理学的指標には、関節リウマチに不変的というわけではないが、左右対称性の関節膨張が含まれる。手の近位指節間(PIP)関節の紡錘型の膨張並びに中手指節(MCP)、手首、肘、膝、踵及び中足指節(MTP)の関節に一般的に発症し、膨張は容易に認められる。関節炎症の最も感受性の高い検査は他動痛であり、炎症と構造的変形がしばしば発症関節の可動域を制限する。典型的な目視可能な変化には、MCP関節で指が尺骨側に変形、MCP及びPIP関節の過伸展又は過屈曲、肘の屈曲拘縮及び手根骨と足指の亜脱臼が含まれる。
【0064】
「活動性関節リウマチ」患者とは、活動性であって潜在的ではない関節リウマチの症状のある患者を意味する。一実施態様では、このような患者は、ベースラインの来院時で≧6か月の中等度から重度の活動性RA疾患期間を有する。一実施態様では、このような患者は(1)膨張関節数(SJC)≧4(66関節数)、(2)圧痛関節数(TJC)≧4(68関節数)及び/又はC反応性タンパク質(CRP)≧スクリーニング来院時の正常上限(ULN)を有するであろう。
【0065】
「疾患修飾性抗リウマチ薬」又は「DMARD」の例としては、ヒドロキシクロロキン、スルファサラジン、メトトレキサート、レフルノミド、アザチオプリン、D-ペニシラミン、金塩(経口)、金塩(筋肉内)、ミノサイクリン、シクロスポリンA及び局所シクロスポリンを含むシクロスポリン、ブドウ球菌プロテインA及びTNF阻害剤(以下参照)及びそれらの塩、バリアント及び誘導体などが挙げられる。本明細書における例示的なDMARDは非生物DMARDであり、特にアザチオプリン、クロロキン、ヒドロキシクロロキン、レフルノミド、メトトレキサート及びスフラサラジンを含み、メトトレキサートは本発明の一実施態様によるDMARDである。
【0066】
本明細書の目的では、「腫瘍壊死因子」(「TNF」と略される)は、Pennicaら, Nature, 312:721 (1984)又はAggarwalら, JBC, 260:2345 (1985)に記載のアミノ酸配列を含むヒトTNF-アルファ分子を指す。
【0067】
本明細書では、「TNF阻害剤」は、一般にTNF-アルファと結合しその活性を中和することにより、ある程度までTNF-アルファの生物学的機能を阻害する薬剤である。本明細書で特に熟考されるTNF阻害剤の例は、エタネルセプト(ENBREL(登録商標))、インフリキシマブ(レミケード(登録商標))及びアダリムマブ(HUMIRA(登録商標))、セルトリズマブペゴル(CIMZIA(登録商標))及びゴリムマブ(SIMPONI(登録商標))である。
【0068】
「不十分なDMARDレスポンダー」の被験者とは、毒性又は有効性不十分のため、(1又は複数のTNF阻害剤を含む)1又は複数のDMARDを用いた過去又は現在の治療に不十分な応答を経験している個人である。
【0069】
「不十分なTNF阻害剤レスポンダー」の被験者とは、毒性又は有効性不十分のため、1又は複数のTNF阻害剤を用いた過去又は現在の治療に不十分な応答を経験している。一実施態様では、このような患者は、例えば、エタネルセプトを≧3か月、週2回25mgの治療を受けたことがあるか、又はインフリキシマブの輸液を≧3mg/kgで少なくとも4回受けたことがあるが、それに対する応答が不十分であった。
【0070】
「不十分なメトトレキサートレスポンダー」とは、毒性又は有効性不十分のため、メトトレキサートを用いた過去又は現在の治療に不十分な応答を経験している患者である。一実施態様では、患者はメトトレキサート(10~25mg/週)治療を少なくとも12週間受けているが、なお活動性の疾患を有する。
【0071】
本明細書の「固定用量」は、患者の体重又は体表面積(BSA)に関わらず投与される、すなわちmg/kgやmg/m2用量で投与されない抗IL-6R抗体などの薬物の用量を指す。
【0072】
対象の「治療」は、本明細書では、治療的処置と予防又は防止対策の両方を指す。
【0073】
「有効な量」という表現は、IL-6疾患の治療に有効な抗体の量を指す。疾患がRAの場合、このような有効な量は、任意1又は複数のRAの兆候又は症状の減少(例えばACR20、ACR50又はACR70応答を第24週及び/又は第48週で達成)、疾患活動性の低減(例えば疾患活動性スコア、DAS20)、ACRハイブリッド、構造的関節破壊の進行遅延、身体機能の改善などをもたらしうる。一実施態様では、このような臨床的応答は、静脈内投与された抗IL-6R抗体で得られた応答に匹敵する。
【0074】
RA患者の「構造的関節破壊の進行を抑制」という表現は、例えば浸食関節数及び/又は関節破壊スコアに基づいて、RAによる構造的関節破壊を防止又は遅延させることを指す。構造的関節破壊の進行の測定法は当業者には既知であり、限定ではなくGenant修正総シャープスコア(TSS)、浸食スコア(ES)及び/又は関節裂隙狭小化(JSN)スコアが含まれる。
【0075】
本明細書で補助治療に使用される「免疫抑制剤」という用語は、ここで治療されている哺乳動物の免疫系を抑制又はマスクする作用をもつ物質を指す。これにはサイトカイン産生を抑制する、自己抗原の発現を下方調整又は抑制する、又はMHC抗原をマスクする物質が含まれうる。このような薬剤の例としては、2-アミノ-6-アリール-5-置換ピリミジン(米国特許第4,665,077号参照);非ステロイド性抗炎症薬(NSAID);ガンシクロビル、タクロリムス、コルチゾール又はアルドステロンなどのグルココルチコイド、シクロオキシゲナーゼ阻害薬などの抗炎症剤、5-リポキシゲナーゼ阻害薬又はロイコトリエン受容体アンタゴニスト;アザチオプリン又はミコフェノール酸モフェチル(MMF)などのプリン受容体アンタゴニスト;シクロホスファミドなどのアルキル化剤;ブロモクリプチン;ダナゾール;ダプソン;(米国特許第4,120,649号に記述のとおり、MHC抗原をマスクする)グルタルアルデヒド;MHC抗原及びMHC断片に対する抗イディオタイプ抗体;シクロスポリンA;コルチコステロイド又はグルココルチコステロイド又はグルココルチコイドのアナログ、例えばプレドニゾン、SOLU-MEDROL(登録商標)コハク酸メチルプレドニゾロンナトリウムを含むメチルプレドニゾロン及びデキサメタゾンなどのステロイド;メトトレキサート(経口又は皮下)などのジヒドロ葉酸還元酵素阻害剤;クロロキニーネ及びヒドロキシクロロキニーネなどの抗マラリア薬;スルファサラジン;レフルノミド;抗インターフェロン-アルファ、-ベータ又は-ガンマ抗体、抗腫瘍壊死因子(TNF)-アルファ抗体(インフリキシマブ(レミケード(登録商標))又はアダリムマブ)、抗TNF-アルファイムノアドヘシン(エタネルセプト)、抗TNF-ベータ抗体、抗インターロイキン-2(IL-2)抗体及び抗IL-2受容体抗体及び抗インターロイキン-6(IL-6)受容体抗体及びアンタゴニストを含む、サイトカイン抗体又はサイトカイン受容体抗体などのサイトカインアンタゴニスト;抗CD11a及び抗CD18抗体を含む抗LFA-1抗体;抗L3T4抗体;異種抗リンパ球グロブリン:パンT抗体、好ましくは抗CD3又は抗CD4/CD4a抗体;LFA-3結合ドメインを含む可溶性ペプチド(国際公開第90/08187号 1990年7月26日公開);ストレプトキナーゼ;形質転換増殖因子-ベータ(TGF-ベータ);ストレプトドルナーゼ;宿主のRNA又はDNA;FK506;RS-61443;クロラムブシル;デオキシスパガリン;ラパマイシン;T細胞受容体(Cohenら, 米国特許第5,114,721号);T細胞受容体断片(Offnerら, Science, 251: 430-432 (1991); 国際公開第90/11294号; Ianeway, Nature, 341: 482 (1989);及び国際公開第91/01133号);BAFF抗体及びBR3抗体及びzTNF4抗体などのBAFFアンタゴニスト(レビューはMackay及びMackay, Trends Immunol., 23:113-5 (2002)を参照);CD40-CD40リガンドに対する遮断抗体(例えばDurieら, Science, 261: 1328-30 (1993); Mohanら, J. Immunol., 154: 1470-80 (1995))及びCTLA4-Ig(Finckら, Science, 265: 1225-7 (1994))を含む抗CD40受容体又は抗CD40リガンド(CD154)などのT細胞ヘルパーシグナルを阻害する生物学的製剤;及びT10B9などのT細胞受容体抗体(EP340、109)が含まれる。本明細書の一部の免疫抑制剤はまた、メトトレキサートなどのDMARDである。本明細書の免疫抑制剤の例として、シクロホスファミド、クロラムブシル、アザチオプリン、レフルノミド、MMF又はメトトレキサートが挙げられる。
【0076】
「CD20」抗原又は「CD20」は、末梢血又はリンパ器官のB細胞の90%超の表面に見られる約35kDaの、非グリコシル化リン酸タンパク質である。CD20は正常なB細胞上と悪性B細胞上の両方に提示されるが、幹細胞上には提示されない。文献中のCD20の別名として「Bリンパ球制限抗原」及び「Bp35」が挙げられる。CD20抗原は、例えばClarkら, Proc. Natl. Acad. Sci. (USA) 82:1766 (1985) に記述されている。
【0077】
CD20抗体の例として以下が挙げられる:現在「リツキシマブ」と呼ばれる「C2B8」(「リツキサン(登録商標)/マブセラ(登録商標)」)(米国特許第5,736,137号);Biogen Idec社から市販されている「Y2B8」又は「イブリツモマブチウキセタン」(ゼバリン(登録商標))と称されるイットリウム-[90]標識2B8マウス抗体(例えば米国特許第5,736,137号;1993年6月22日に受託番号HB11388でATCCに寄託された2B8);マウスIgG2a「B1」、別名「トシツモマブ」、任意で131Iで標識されて「131I-B1」又は「ヨウ素I131トシツモマブ」抗体(BEXXARTM)としてCorixaより市販(例えば米国特許第5,595,721号も参照);マウスモノクローナル抗体「1F5」(例えばPressら Blood 69(2):584-591 (1987) 及び「フレームワークパッチされた」又はヒト化1F5を含むそのバリアント(例えば国際公開第2003/002607号, Leung, S.; ATCC寄託HB-96450);マウス2H7及びキメラ2H7抗体(例えば米国特許第5,677,180号);ヒト化2H7(例えば国際公開第2004/056312号(Lowmanら)及び以下に記載のとおり);B細胞の細胞膜のCD20分子を標的とするHUMAX-CD20TM完全ヒト、高親和性抗体(Genmab, デンマーク;例えばGlennie及びvan de Winkel, Drug Discovery Today 8: 503-510 (2003)及びCraggら, Blood 101: 1045-1052 (2003)を参照));国際公開第2004/035607号及び国際公開第2005/103081号記載のヒトモノクローナル抗体(Teelingら, GenMab/Medarex);米国特許公開第2004/0093621号(Shitaraら)に記載のN-グリコシド結合複合型糖鎖Fc領域を有する抗体;HB20-3、HB20-4、HB20-25及びMB20-11などのCD20に結合するモノクローナル抗体及び抗原結合断片(例えば国際公開第2005/000901号, Tedderら);CD20に結合する単鎖タンパク質(例えば米国特許公開第2005/0186216号 (Ledbetter及びHayden-Ledbetter); 米国特許公開第2005/0202534号 (Hayden-Ledbetter及びLedbetter); 米国特許公開第2005/0202028号 (Hayden-Ledbette及びLedbetter); 米国特許公開第2005/0202023号 (Hayden-Ledbetter及びLedbetter, Trubion Pharm Inc.);例えば国際公開第2004/103404号及び米国特許公開第2005/0025764号(Watkinsら, Applied Molecular Evolution, Inc.)に記載の例えばAME-33TM抗体などのAMEシリーズ抗体及び例えば国際公開第2005/070963号(Allanら, Applied Molecular Evolution, Inc.)に記載のFc変異体を有するCD20抗体などのCD20結合分子;国際公開第2005/016969号及び米国特許公開第2005/0069545号(Carrら)に記載のものなどのCD20結合分子;例えば国際公開第2005/014618号(Changら)に記載の二特異性抗体;例えば米国特許公開第2005/0106108号(Leung及びHansen; Immunomedics)に記載のヒト化LL2モノクローナル抗体;例えば国際公開第2005/044859号及び米国特許公開第2005/0123546号(Umanaら; GlycArt Biotechnology AG)に記載のCD20に対するキメラ又はヒト化B-Ly1抗体;キメラ又はヒト化A20抗体(それぞれcA20、hA20)などのA20抗体又はそのバリアント及びIMMUN-106(例えば米国特許公開第2003/0219433号, Immunomedics);及び国際白血球タイピングワークショップ(例えばLeukocyte Typing III (McMichael版., p. 440, Oxford University Press (1987)のValentineら)から入手可能なモノクローナル抗体L27、G28-2、93-1B3、B-C1又はNU-B2。本明細書における好ましいCD20抗体は、キメラ、ヒト化又はヒトCD20抗体であり、より好ましくはリツキシマブ、ヒト化2H7、キメラ又はヒト化A20抗体(Immunomedics)、HUMAX-CD20TMヒトCD20抗体(Genmab)及びCD20に結合する免疫グロブリン/タンパク質(Trubion Pharm Inc.)である。
【0078】
本明細書における「リツキシマブ」又は「リツキサン(登録商標)」という用語は一般に、CD20抗原に対する、米国特許第7,381,560号(Andersonら)において「C2B8」と称される遺伝子操作されたキメラマウス/ヒトモノクローナル抗体を指し、CD20に対する結合能を保持するその断片を含む。
【0079】
「非ステロイド性抗炎症薬」又は「NSAID」の例としては、アスピリン、アセチルサリチル酸、イブプロフェン、フルビプロフェン、ナプロキセン、インドメタシン、スリンダク、トルメチン、フェニルブタゾン、ジフロフェナク、ケトプロフェン、ベノリラート、メフェナム酸、メトトレキサート、フェンブフェン、アザプロパゾン;セレコキシブ(CELEBREX(登録商標)などのCOX-2阻害剤;4-(5-(4-メチルフェニル)-3-(トリフルオロメチル)-1H-ピラゾール-1-イル)ベンゼンスルホンアミド、バルデコキシブ(ベクストラ(登録商標))、メロキシカム(MOBIC(登録商標))、GR253035(Glaxo Wellcome);及びMK966(Merck Sharp & Dohme)が挙げられ、これらの塩及び誘導体なども含まれる。好ましくは、これらはアスピリン、ナプロキセン、イブプロフェン、インドメタシン又はトルメチンである。
【0080】
「コルチコステロイド」は、ステロイドの一般的な化学構造を有し、天然のコルチコステロイドの効果を模倣又は増大する複数の合成又は天然物質の任意のものを指す。合成コルチコステロイドの例として、プレドニゾン、プレドニゾロン(SOLU-MEDROL(登録商標)コハク酸メチルプレドニゾロンナトリウムなどのメチルプレドニゾロンを含む)、デキサメタゾン又はデキサメタゾントリアムシノロン、ヒドロコルチゾン及びベタメサゾンが含まれる。本明細書における好ましいコルチコステロイドは、プレドニゾン、メチルプレドニゾロン、ヒドロコルチゾン又はデキサメタゾンである。
【0081】
「医薬」は、関節の破壊又はその症状又は副作用を治療する活性剤である。
【0082】
「薬学的製剤」という用語は、1又は複数の活性成分の生物学的活性が有効になるような形態の、その製剤を投与する患者にとって許容不能な毒性を有する追加成分を含有しない調製物を指す。このような製剤は無菌性である。
【0083】
「無菌的」製剤は、無菌すなわち一切の微生物とその胞子を含まない。
【0084】
「安定」製剤は、例えば2~8℃の所期の保存温度で、その製剤に含まれるすべてのタンパク質の物理的安定及び/又は化学的安定及び/又は生物学的活性が基本的に維持されるものを指す。好ましくは、製剤の物理的及び化学的安定並びにその生物学的活性は保存に際し基本的に維持される。保存期間は一般に製剤の所期の有効期間に基づき選択される。さらに、製剤は好ましくは冷凍(例えば-20℃まで)と解凍後、例えば1又は複数サイクルの冷凍解凍後も安定である。タンパク質の安定性を測定する様々な分析法が当分野で利用可能であり、例えばPeptide and Protein Drug Delivery, 247-301, Vincent Lee版, Marcel Dekker, Inc., New York, New York, Pubs. (1991)及びJones, A. Adv. Drug Delivery Rev. 10: 29-90 (1993)などに検討されている。安定性は、選択した期間の間、選択した温度で測定可能である。安定性は、多種多様な方法で質的及び/又は量的に評価可能であり、凝集形成評価(例えばサイズ排除クロマトグラフィーを使用して濁度を測定、及び/又は目視による);カチオン交換クロマトグラフィー又はキャピラリーゾーン電気泳動を使用して電荷不均一性を評価;SDS-PAGE分析による減少抗体とインタクト抗体の比較;抗体の生物学的活性又は抗原結合機能の評価などが含まれる。
【0085】
「安定剤」は、本明細書では薬学的製剤を安定化させる賦形剤又は2種類以上の賦形剤の混合物を指す。例えば安定剤は、冷凍-解凍又は他の熱誘導による製剤の不安定化を回避できる。本明細書における例示的な安定剤として、界面活性剤及びアルギニン又はメチオニンなどのアミノ酸(及びその誘導体)が含まれる。
【0086】
本明細書で使用される「界面活性剤」という用語は薬学的に許容可能な表面活性剤を示す。本発明の製剤では、界面活性剤の量は、重量/容積で表される百分率で記述される。最も一般的に使用される重量/容積の単位は、mg/mLである。薬学的に許容可能な界面活性剤の適切な例として、ポリオキシエチレン-ソルビタン脂肪酸エステル、ポリエチレン-ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレン-ステアリン酸、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(例えばポリオキシエチレンモノラウリルエーテル、アルキルフェニルポリオキシ-エチレンエーテル(トリトン-X)、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体(ポロクサマー、プルロニック)及びドデシル硫酸ナトリウム(SDS)が挙げられる。最も適切なポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルは、ポリソルベート20(TWEEN20(登録商標)というトレードマークで販売)及びポリソルベート80(TWEEN80(登録商標)というトレードマークで販売)である。最も適切なポリエチレン-ポリプロピレン共重合体は、プルロニック(登録商標)F68又はポロクサマー188(登録商標)という名称で販売されている。好ましいポリオキシエチレン-ステアリン酸は、MYRJTMというトレードマークで販売されているものである。最も適切なポリオキシ-エチレンアルキルエステルは、BRIJTMというトレードマークで販売されているものである。最も適切なアルキルフェノールポリ-オキシエチレンエーテルは、トリトン-X(登録商標)という商品名で販売されている。
【0087】
本明細書で使用される「バッファー」という用語は、その酸/塩基共役成分の作用によりpHの変化に抗する、薬学的に許容可能なバッファーを示す。製剤のpHは、5から7の範囲、例えば5.5から6.5でよく、最も好ましくはpH約6であり、使用されるバッファーは製剤のこのような所望のpHを達成する。本発明の薬学的に許容可能な適切なバッファーは、限定ではなく、ヒスチジン-バッファー、クエン酸-バッファー、グルコン酸-バッファー、コハク酸-バッファー、酢酸-バッファー、グリシルグリシン及び他の有機酸バッファー及びリン酸-バッファーを含む。好ましいバッファーは、L-ヒスチジン又はL-ヒスチジンとL-ヒスチジン塩酸塩の混合物を含み、当業者に既知の等張剤と酸又は塩基を用いた潜在的なpH調節を用いる。最も好ましいのはヒスチジンである(例えばL-ヒスチジン)。
【0088】
「等張の」とは、対象となる製剤がヒトの血液と基本的に同じ浸透圧を有することを意味する。等張製剤は、一般に約250から350mOsmの浸透圧を有する。等張性は、例えば蒸気圧型又は氷凍型浸透圧計を使用して計測できる。
【0089】
本発明の「液体製剤」又は「水性製剤」は、少なくとも約2から約8℃の温度で液体である製剤を示す。
【0090】
「凍結乾燥製剤」という用語は、製剤を凍結乾燥後、例えば市販のフリーズドライ装置などの当分野で既知の任意のフリーズドライ法を使用して凍結物から氷を昇華させた製剤を示す。このような製剤は、水、注射用無菌水、生理食塩水などの適切な希釈液中に再溶解でき、対象に投与するのに適切な再溶解液体製剤を作ることができる。
【0091】
「ヒアルロナン」(略称「HA」、「ヒアルロン酸」又は「ヒアルロネート」とも呼ばれる)は、陰イオン性の非硫酸化グリコサミノグリカンであり、結合、上皮及び神経組織に広く分布する。
【0092】
「ヒアルロニダーゼ」は、ヒアルロン酸を分解する酵素である。ヒトでは、HYALPI(偽遺伝子)、HYAL1、HYAL2、HYAL3、HYAL4及びPH20/SPAM1を含む6種類の関連遺伝子がある。本明細書ではヒアルロニダーゼという用語は(HYAL1などの)「酸活性」酵素及び(PH20などの)「中性活性」酵素を包含する。また、グリコシルホスファチジルイノシトールアンカーの有無にかかわらず酵素を含み;好ましくは、ヒアルロニダーゼは可溶性であるか又はアンカーをもたない。ヒアルロニダーゼは、治療薬の皮下投与を円滑にし、間質の粘性を低下させ、SC投与量の増加を可能にし、及び/又は別の注射薬の吸収及び分散を増大させるために薬学的製剤に含有されうる。本明細書における薬学的製剤中のヒアルロニダーゼ酵素は、製剤中の抗IL-6R抗体の分子結合性に対する有害作用がないのが特徴であり、抗IL-6R抗体の全身の血行路への送達を改変するが、全身的に吸収される抗IL-6R抗体の治療効果を提供しうる又はこれに寄与しうるいかなる特性ももたない。本発明のヒアルロニダーゼに関しては、国際公開第2004/078140号、国際公開第2006/091871号及び米国特許第7,767,429号も参照されたい。EU国で承認されているヒアルロニダーゼ製品にはHYALASE(登録商標)が含まれる。米国で承認されている動物由来のヒアルロニダーゼ製品としてVITRASETM、HYDRASETM及びAMPHADASETMが挙げられる。本明細書における好ましいヒアルロニダーゼは、組換えヒトPH20である。
【0093】
「組換えヒトPH20」(略称「rHuPH20」)は、切断されたヒトPH20アミノ酸配列を有する可溶性の中性pH活性酵素を指す。これは、分泌のプロセス中にN末端から除去される35アミノ酸シグナルペプチドを用いて、一部のウシヒアルロニダーゼ調製物に見られるN末端アミノ酸配列が得られるように合成されうる。好ましくは、本明細書のrHuPH20は、CAS登録番号757971-58-7で入手可能な、又は参照により本明細書に明白に組み入れられる米国特許第7,767,429号に記載のアミノ酸配列を有し、分子量は約61kDaである。また、Frost, G.I., “Recombinant human hyaluronidase (rHuPH20): an enabling platform for subcutaneous drug and fluid administration”, Expert Opinion on Drug Delivery 4: 427-440 (2007))も参照されたい。本明細書では、この用語はHalozyme Therapeutics Inc.より市販されているrHuPH20(HYLENEX(登録商標))を包含する。
【0094】
「皮下投与デバイス」は、シリンジ、注射器、輸液ポンプ、注射ペン、無針器具、パッチ送達システムなどのデバイスを指し、皮下経路で薬物又は薬学的製剤を投与するようにされているか設計されている。一実施態様では、デバイスは約0.9mL、1.8mL又は3.6mLの薬学的製剤を投与する。
【0095】
「添付文書」は、治療薬の市販用パッケージに通例として同封される使用説明書を指すのに用いられ、適応、用途、用法、用量、禁忌、その製品と併用される他の治療薬に関する情報及び/又はこのような治療薬の使用に関する警告などが記載される。
【0096】
本明細書では、「線維性疾患」は器官及び/又は組織に過剰な線維性結合組織が形成される疾患を指す。本明細書における線維性疾患の例として、全身性硬化症(強皮症)、ケロイド、肥厚性瘢痕、熱傷瘢痕、肝線維症、肝硬変、肺高血圧症、(突発性肺線維症、IPFを含む)肺線維症、心臓性線維症、腎線維症、肝線維症などが挙げられる。一実施態様では、線維性疾患は全身性硬化症である。
【0097】
「全身性硬化症」(SSc)又は「強皮症」は、複雑かつ不均一な疾患であり、皮膚及び組織の線維症、血管変性及び自己抗体対様々な細胞性抗原といった主要な特徴を伴う。全身性硬化症の臨床的症状は、皮膚の限定的病変から重篤な内臓の機能不全にまで渡りうる。内臓病態はこの疾患の罹患率の主要因であり、最も頻繁に関与する臓器に腎臓、食道、心臓及び肺がある。一般的に認められているSSc分類のサブグループには、限局性皮膚SSc(lcSSc)及び広汎性皮膚SSc(dcSSc)の2種類がある。GabrielliらMechanisms of disease. Scleroderma. N Engl J Med 360:1989-2003 (2009)。
【0098】
一実施態様では、全身性硬化症の患者は、アメリカリウマチ学会(ACR、旧アメリカリウマチ協会)の全身性強皮症分類基準に従い以下に基づいて分類される:
主要指標:近位の広汎な(躯幹の)硬化症(皮膚の硬化、厚化及び非圧痕性硬化);及び
副次指標:(1)強指症(手及び/又は足の指のみ)、(2)指尖陥凹性瘢痕又は手指の腹部の欠損(髄(pulp)欠損)及び(3)両側下肺野線維症などであり、全身性硬化症患者は主要指標又は3つの副次指標のうち2つを満たす必要がある。アメリカリウマチ協会診断及び治療基準委員会、強皮症基準小委員会の全身性硬化症(強皮症)予備分類基準 Arthritis Rheum 23:581-90 (1980) を参照されたい。
【0099】
II.抗IL-6R抗体の産生
本発明の方法及び製造品は、ヒトIL-6Rに結合する抗体を使用するか、又は組み込む。抗体の産生又はスクリーニングに使用されるIL-6R抗原は、例えば所望のエピトープを含む可溶性のIL-6R又はその一部分(例えば細胞外ドメイン)でありうる。あるいは、又は加えて、細胞表面にIL-6Rを発現している細胞を使用して抗体を産生又はスクリーニングしてもよい。抗体産生に有用なIL-6Rの他の形態は、当業者には明らかであろう。
【0100】
一実施態様では、抗体は抗体断片であり、このような様々な断片は上述されている。
【0101】
別の実施態様では、抗体はインタクト又は全長抗体である。重鎖の定常ドメインのアミノ酸配列により、インタクトな抗体を異なるクラスに割り当てることができる。インタクト抗体の5つの主要クラスはIgA、IgD、IgE、IgG及びIgMであり、このうちいくつかはさらに、例えばIgGl、IgG2、IgG3、IgG4、IgA及びIgA2などの「サブクラス」(アイソタイプ)に分けることができる。抗体の異なるクラスに対応する重鎖定常ドメインは、それぞれα、δ、ε、γ、μと呼ばれる。免疫グロブリンの異なるクラスのサブユニット構造と3次元構造は周知である。好ましい実施態様では、抗IL-6R抗体はIgG1又はIgM抗体である。
【0102】
抗体産生法は既知であり、その例は本明細書の定義のセクションで述べた。好ましい実施態様では、抗体はキメラ、ヒト化又はヒト抗体又はその抗原結合断片である。好ましくは抗体はヒト化全長抗体である。
【0103】
抗体とIL-6Rの結合を決定する様々な技法が利用可能である。あるアッセイは、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)であり、ヒトIL-6Rとの結合能を評価する。例えば米国特許第5,795,965号を参照されたい。このアッセイにより、IL-6R(例えば組換えsIL-6R)でコーティングしたプレートを抗IL-6R抗体を含むサンプルと共にインキュベートし、抗体のsIL-6Rとの結合を決定する。
【0104】
好ましくは、抗IL-6R抗体は、例えばIL-6とIL-6Rの結合を阻害することにより、IL-6活性を中和する。このような阻害を評価する例示的方法は、例えば米国特許第5,670,373号及び同第5,795,965に開示されている。この方法によると、抗体がIL-6RをIL-6と奪い合う能力が評価される。例えば、プレートをIL-6R(例えば組換えsIL-6R)でコーティングし、標識されたIL-6と抗IL-6R抗体を含むサンプルを加え、抗体が標識されたIL-6とIL-6Rの結合を阻害する能力を測定する。米国特許第5,795,965号を参照されたい。あるいは、又は加えて、Tagaら J. Exp. Med., 166: 967 (1987)の方法に従って、IL-6と膜結合型IL-6Rの結合を識別する。IL-6依存性ヒトT細胞白血病KT3株を使用して中和活性を確認するアッセイも利用可能であり、米国特許第5,670,373号及びShimizuら Blood 72: 1826 (1988) を参照されたい。
【0105】
本明細書における抗IL-6R抗体の非限定的な例として、PM-1抗体(Hirataら, J. Immunol. 143:2900-2906 (1989)、AUK12-20、AUK64-7及びAUK146-15抗体(米国特許第5,795,965号)並びにそのヒト化バリアント、例えばトシリズマブが挙げられる。米国特許第5,795,965号を参照されたい。本発明で使用される再形成されたヒト抗体の好ましい例として、ヒト化又は再形成された抗インターロイキン(IL-6)受容体抗体(hPM-1又はMRA)が挙げられる(米国特許第5,795,965号参照)。
【0106】
本発明の抗体は、好ましくは、その重鎖と軽鎖をコードする核酸配列で形質転換された宿主細胞内で組換え産生される(例えば宿主細胞は1又は複数のベクター内の核酸で形質転換されている)。好ましい宿主細胞は、哺乳動物細胞であり、最も好ましくはチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞である。
【0107】
III.薬学的製剤
本発明に従って使用される抗体の治療製剤は、所望の純度の抗体を任意の薬学的に許容可能な担体、賦形剤又は安定剤と混合して調製し、凍結乾燥製剤又は水溶液として保存される(Remington's Pharmaceutical Sciences 16版, Osol, A. Ed. (1980))。許容可能な担体、賦形剤又は安定剤は、利用される用量及び濃度でレシピエントに無害であり、以下が挙げられる:リン酸、クエン酸及び他の有機酸などのバッファー;アスコルビン酸やメチオニンなどの酸化防止剤;(オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチル又はベンジルアルコール;メチル又はプロピルパラベンなどのアルキルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;及びm-クレゾールなどの)保存料;低分子量(約10残基未満の)ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン又は免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン又はリジンなどのアミノ酸;グルコース、マンノース又はデキストリンを含む単糖、二糖及び他の炭水化物;EDTAなどのキレート剤;スクロース、マンニトール、トレハロース又はソルビトールなどの糖;ナトリウムなどの塩形成対イオン;金属錯体(例えばZn-タンパク質錯体);及び/又はTWEENTM、プルロニックTM又はポリエチレングリコール(PEG)などの非イオン性界面活性剤。
【0108】
本明細書の製剤はまた、必要に応じて1より多い活性化合物、好ましくは互いに有害作用を及ぼさない相補的活性を有する化合物を含有しうる。このような医薬の種類及び有効量は、例えば、製剤中に存在する抗体の量及び対象の臨床パラメーターによる。例示的なこのような医薬が以下に記載される。
【0109】
活性成分はまた、例えばコアセルベーション法又は界面重合法などにより調製されるマイクロカプセル、例えばそれぞれヒドロキシメチルセルロース又はゼラチン-マイクロカプセル及びポリ-(メチルメタクリレート)マイクロカプセル中に、コロイド状薬剤送達システム(例えばリポソーム、アルブミン微粒子、マイクロエマルジョン、ナノ粒子及びナノカプセル)又はマクロエマルジョンで捕捉されうる。このような技法はRemington's Pharmaceutical Sciences 16版, Osol, A. Ed. (1980) に開示されている。
【0110】
徐放調整剤が調製されうる。徐放調整剤の適切な例として、抗体を含む固体疎水性ポリマーの反透過性マトリックスが挙げられ、このマトリックスは例えばフィルム又はマイクロカプセルなどの成形品の形態をとる。徐放マトリックスの例として、ポリエステル、ヒドロゲル(例えばポリ(2-ヒドロキシエチル-メタクリレート)又はポリ(ビニルアルコール))、ポリ乳酸(米国特許第3,773,919号)、L-グルタミン酸とγエチル-L-グルタミン酸共重合体、非分解性エチレン-ビニルアセテート、LUPRON DEPOTTM(酪酸-グリコール酸共重合体及びリュープロリド酢酸塩で構成される注射用微粒子)などの分解性酪酸-グリコール酸共重合体及びポリ-D-(-)-3-ヒドロキシ酪酸が含まれる。
【0111】
インビボで使用される製剤は無菌でなければならない。これは滅菌濾過膜で濾過することにより容易に達成できる。
【0112】
一実施態様では、本発明の抗IL-6R抗体含有液体製剤は、高濃度の抗IL-6R抗体、好ましくは50から300mg/mL、より好ましくは100から300mg/mL、さらに好ましくは120から250mg/mL、さらに好ましくは150から200mg/mL、例えば約180mg/mLの抗IL-6R抗体を含有する。
【0113】
一実施態様では、高濃度の抗IL-6R抗体製剤は、アルギニン及び/又はメチオニンを安定剤又は賦形剤としてその製剤中に含有する。
【0114】
本発明ではアルギニンが使用されるので、アルギニン化合物自体、その誘導体及びその塩のいずれかが使用されうる。L-アルギニン及びその塩が好ましい。本発明ではメチオニンが使用されるので、メチオニン化合物自体、その誘導体及びその塩のいずれかが使用されうる。L-メチオニン及びその塩が好ましい。本発明の抗体含有液体製剤がアルギニンを含有するがメチオニンを含有しない場合、アルギニンの濃度は好ましくは50から1500mM、より好ましくは100から1000mM、さらに好ましくは200から700mMである。本発明の抗体含有液体製剤がアルギニンとメチオニンを含有する場合、アルギニンとメチオニンの総濃度は、例えば好ましくは50から1200mM、好ましくは、アルギニン濃度は40から1000mMでありメチオニン濃度は10から200mM;さらに好ましくは、アルギニン濃度は50から700mMでありメチオニン濃度は10から100mM;さらに好ましくは、アルギニン濃度は100から300mMでありメチオニン濃度は10から50mMである。
【0115】
バッファー溶液は、溶液のpHを維持する物質である緩衝剤を使用して調製される。バッファー溶液は、溶液のpHを維持する物質である緩衝剤を使用して調製される。本発明の高濃度の抗体含有液体製剤の製剤pHは、好ましくは5から7、より好ましくは5.5から6.5、最も好ましくはpH6である。本発明で使用されうるバッファー剤は、この範囲でpH調節が可能かつ薬学的に許容可能なものである。このようなバッファー剤は当業者には既知であり、その例として、リン酸塩(ナトリウム又はカリウム)及び炭酸水素ナトリウムなどの無機塩;クエン酸塩(ナトリウム又はカリウム)、酢酸ナトリウム及びコハク酸ナトリウムなどの有機塩;およびリン酸、カルボン酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸及びグルコン酸などの酸が挙げられる。さらに、トリスバッファー、MES、MOPS及びHEPESなどのGood’sバッファー、ヒスチジン(例えばヒスチジン塩酸塩)及びグリシンも使用可能である。バッファーは、好ましくはヒスチジンバッファーまたはグリシンバッファーであり、ヒスチジンバッファーが特に好ましい。バッファー溶液の濃度は、通常は1から500mM、好ましくは5から100mM、さらに好ましくは10から20mMである。ヒスチジンバッファーを使用する場合、バッファー溶液は、好ましくは5から25mM、さらに好ましくは10から20mMの濃度のヒスチジンを含有する。
【0116】
本発明の製剤はさらに、界面活性剤を含有しうる。界面活性剤の典型例には非イオン性界面活性剤が含まれ、例えばソルビタンモノカプリレート、ソルビタンモノラウレート及びソルビタンモノパルミテートなどのソルビタン脂肪酸エステル;グリセロールモノカプリレート、グリセロールモノミリステート及びグリセロールモノステアレートなどのグリセリン脂肪酸エステル;デカグリセリルモノステアレート、デカグリセリル時ステアレート及びデカグリセリルモノリノレアートなどのポリグリセロール脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート及びポリオキシエチレンソルビタントリステアレートなどのポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビトールテトラステアレート及びポリオキシエチレンソルビトールテトラオレエートなどのポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル;ポリオキシエチレングリセリルモノステアレートなどのポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル;ポリエチレングリコールジステアレートなどのポリエチレングリコール脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンラウリルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンプロピルエーテル及びポリオキシエチレンポリオキシプロピレンセチルエーテルなどのポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル;ポリオキシエチレンヒマシ油及びポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油)などのポリオキシエチレン硬化ヒマシ油;ポリオキシエチレンソルビトール蜜蝋などのポリオキシエチレン蜜蝋誘導体;ポリオキシエチレンラノリンなどのポリオキシエチレンラノリン誘導体;ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、例えばポリオキシエチレンオクタデカンアミドなどのHLB6から18の界面活性剤;陰イオン界面活性剤、例えばセチル硫酸ナトリウム及びオレイル硫酸ナトリウムなどの炭素数10~18のアルキル基を有するアルキル硫酸塩;ポリオキシエチレンラウリ
ル硫酸ナトリウムなどの、付加エチレンオキシドユニットの平均モル数は2から4でありアルキル基の炭素原子の数は10から18のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩;スルホサクシネートラウリルナトリウムなどの炭素数8~18のアルキル基を有するアルキルスルホサクシネート塩;レシチン及びグリセロリン脂質などの天然の界面活性剤;スフィンゴミエリンなどのスフィンゴリン脂質;および炭素数12~18のショ糖エステルがある。これらの界面活性剤は、本発明の製剤に単独で、または2より多いこれらの界面活性剤を組み合わせて添加されうる。
【0117】
好ましい界面活性剤は、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル及びポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテルであり、特に好ましくはポリソルベート20、21、40、60、65、80、81及び85並びにプルロニックタイプの界面活性剤であり、最も好ましくはポリソルベート20及び80並びにプルロニックF-68(ポロクサマー188)である。
【0118】
本発明の抗体製剤に添加される界面活性剤の量は、通常0.0001から10%(w/v)、好ましくは0.001から5%、より好ましくは0.005から3%である。
【0119】
一実施態様では、本発明の製剤は、(a)抗IL-6受容体抗体;(b)バッファー剤(例えばヒスチジンバッファー)(c)安定剤として1または複数のアミノ酸(例えばアルギニン及び/又はメチオニン);および(d)1または複数の界面活性剤を含む。
【0120】
一実施態様では、製剤はさらに、1または複数のヒアルロニダーゼ(例えばrHuPH20)を、製剤の投与量を増加すること及び/又は皮下投与された抗IL-6R抗体がその製剤で治療される患者の全身の血行路に吸収されるのを増進することを可能にする量で含む。
【0121】
本発明のこの実施態様によると、約100mg/mLから約300mg/mL(例えば180mg/mL)の量の抗IL-6R抗体(例えばトシリズマブ)および約1,400から約1,600U/mL(例えば約1,500U/mL)の量のヒアルロニダーゼ酵素を含有する薬学的組成物が提供される。好ましくは、組成物はさらに、バッファー(例えばバッファーはヒスチジンであり、pH5.5から6.5)及び/又は1または複数の安定剤(例えばメチオニン、アルギニン及びポリソルベート)を含む。
【0122】
製剤中のヒアルロニダーゼ酵素の濃度は、同時投与される抗IL-6R抗体の分散と吸収が増進されるように適切な量とされる。ヒアルロニダーゼ酵素の有効量は、好ましくは約1,000から16,000U/mlであり、推定比活性100,000U/mgに基づき約0.01mgから0.15mgのタンパク質に対応する。製剤中のヒアルロニダーゼ酵素の好ましい濃度は約1,400U/mLから1,600U/mL、より好ましくは約1,500U/mLの濃度である。
【0123】
ヒアルロニダーゼ酵素は、動物又はヒト試料由来でよく、又は組換えDNA技術に基づき作製されうる。最も好ましくは組換えヒトPH20(rhPH20)である。
好ましくは製剤は等張性である。
【0124】
IV.抗IL-6R抗体の治療用途
一実施態様では、本発明は患者のIL-6媒介疾患を治療する方法であって、抗IL-6受容体(IL-6R)を該患者に皮下投与することを含み、抗IL-6R抗体は1用量当たり162mgの固定用量として(例えば毎週、2週ごと又は10日ごと)投与される方法を提供する。
【0125】
ここで治療されるIL-6媒介疾患の例として、以下の疾患が挙げられる:自己免疫疾患、骨粗鬆症、新生物、老化、関節リウマチ(RA)、(全身性JIA(sJIA)及び多関節型JIA(pcJIA)を含む)若年性突発性関節炎(JIA)、乾癬性関節炎、キャッスルマン病、クローン病、多発性骨髄腫、リウマチ性多発筋痛症、糸球体腎炎、形質細胞種又は形質細胞増加症、(多発性骨髄腫を含む)骨髄腫、高グロブリン血症、貧血、(メサンギウム増殖性腎炎などの)腎炎、(がん性悪液質を含む)悪液質、腫瘍、T細胞媒介疾患(例えばブドウ膜炎、慢性甲状腺炎、遅延型過敏症、接触性皮膚炎又はアトピー性皮膚炎)、(ループス腎炎及び全身性紅斑性狼瘡を含む)ループス、(クローン病及び潰瘍性大腸炎を含む)炎症性腸疾患、膵炎、乾癬、変形性関節症、成人スチルス症、中皮症、血管炎、島移植(例えば膵島移植)、心筋梗塞(心不全、虚血誘発性重症不整脈)、心移植、前立腺がん、脈絡膜新生血管(例えば加齢性黄斑新生症、突発性脈絡膜新生血管、近視性脈絡膜新生血管、突発性脈絡膜新生血管)、筋萎縮症、慢性拒絶症、眼球炎症性疾患(例えば汎ブドウ膜炎、前部ブドウ膜炎、中間部ブドウ膜炎、強膜炎、角膜炎、眼球の炎症、視神経炎、ドライアイ、糖尿病性網膜症、増殖性硝子体網膜症、術後の炎症)、移植片対宿主病(GVHD)、(全身性硬化症などの)線維性疾患、巨細胞性動脈炎(GCA)、強直性脊椎炎及び高安動脈炎(TA)、結節性動脈炎。
【0126】
一実施態様では、IL-6媒介疾患は、関節リウマチである。
【0127】
一実施態様では、IL-6媒介疾患は、若年性突発性関節炎(JIA)である。
【0128】
一実施態様では、IL-6媒介疾患は、全身性JIA(sJIA)である。
【0129】
一実施態様では、IL-6媒介疾患は、多関節型JIA(pcJIA)である。
【0130】
一実施態様では、IL-6媒介疾患は、全身性硬化症である。
【0131】
一実施態様では、IL-6媒介疾患は、巨細胞性動脈炎(GCA)である。
【0132】
一実施態様では、IL-6媒介疾患は、乾癬性関節炎である。
【0133】
一実施態様では、IL-6媒介疾患は、ブドウ膜炎である。
【0134】
一実施態様では、治療される患者は関節リウマチを有し、このような患者には不十分なDMARDレスポンダー、不十分なTNF阻害剤レスポンダー、メトトレキサート(MTX)を未使用または中断した患者、活動性疾患を有する患者、中等度から重度のRA患者などが含まれる。
【0135】
一実施態様では、方法は、トシリズマブを患者に皮下投与することにより患者の関節リウマチを治療することを含み、トシリズマブは1用量当たり162mgの固定用量として毎週または2週ごとに投与される。患者は、メトトレキサートなどの1または複数の非生物学的疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARD)を追加して治療されうる。
【0136】
本発明はまた、抗IL-6R抗体162mgの固定用量を2週ごとに患者に皮下投与することにより関節リウマチ(RA)患者の構造的関節破壊の進行を抑制する方法に関する。この方法によると、構造的関節破壊は第24週(又は6か月)及び/又は第48週(又は1年)で評価し、(例えば抗IL-6R抗体で治療されていない患者と比較して)進行が抑制されていることが判明する。
【0137】
本発明はさらに、患者のIL-6媒介疾患(RAなど)を治療する方法であって、抗IL-6R抗体(例えばトシリズマブ)及びヒアルロニダーゼ酵素(例えばrhPH20)を患者に皮下投与することを含み、抗IL-6R抗体は1用量当たり324mg又は648mgの固定用量で投与される方法を提供する。好ましくは、固定用量は、4週ごと又は1月に1度投与される。抗IL-6R抗体とヒアルロニダーゼ酵素を共調製又は組み合わせて単一の薬学的組成物とし、患者に皮下投与してよい。
【0138】
本発明によると、抗IL-6R抗体はHuPH20などのヒアルロニダーゼ酵素と共に投与されうる。HuPH20の最終用量は投与される製剤量による。投与されるヒアルロニダーゼの例示的用量の範囲は1,000から10,000Uであり、例えば約1,350U、約2,700Uまたは約5,400Uである。例えば、1,350UのHuPH20は0.9mLで、2,700UのHuPH20は1.8mLで、又は5,400UのHuPH20は3.6mLで投与される。抗IL-6R抗体とヒアルロニダーゼ酵素は、同時または順次、同じ又は別の製剤で投与されうる。好ましくは抗体と酵素は共調製され、例えば単一のSC投与デバイスを介し同時に投与される。
【0139】
一実施態様では、抗IL-6R抗体(例えばトシリズマブ)は、若年性突発性関節炎(JIA)患者にJIA治療に有効な量で皮下投与される。
【0140】
一実施態様では、患者は全身性JIA(sJIA)を有する。このようなsJIA患者は、患者体重≧30キログラムの場合は毎週162mgの抗体(例えばトシリズマブ)で、患者体重<30キログラムの場合は10日ごと(±1日)に162mgの抗体(例えばトシリズマブ)で治療されうる。代替の実施態様では、体重<30キログラムのsJIA患者は、毎週または2週ごとに162mgの抗体(例えばトシリズマブ)で治療される。さらに別の実施態様では、体重<30キログラムのsJIA患者は、毎週108mgの抗体(例えばトシリズマブ)で治療される。
【0141】
別の実施態様では、患者は多関節型(pcJIA)を有する。このような患者は2週ごとに162mgの抗体(例えばトシリズマブ)で治療されうる。
【0142】
別の実施態様では、抗IL-6R抗体は、(全身性硬化症などの)線維性疾患患者に線維性疾患治療に有効な量で皮下投与される。疾患が全身性硬化症の場合、プラセボと比較して、皮膚硬化の改善(例えば修正Rodnan皮膚スコア(modified Rodnan skin score)(mRSS)で評価される)、身体機能の改善(例えば強皮症の健康評価質問票を用いた機能障害指数(HAQ-DI)で評価される)及び/又は臓器破壊の進行の遅滞などがもたらされうる。全身性硬化症などの線維性疾患の治療では、抗体(例えばトシリズマブ)は、1用量当たり162mgの固定用量として、例えば毎週又は2週ごとに投与されうる。
【0143】
別の実施態様では、抗IL-6R抗体は、巨細胞性動脈炎(GCA)を治療するためCGA治療に有効な量で皮下投与される。抗体は、1用量当たり162mgの固定用量として(例えば毎週又は2週ごとに)GCA患者に投与されうる。GCA患者はさらに、初回(短)コースをコルチコステロイドで治療されうる。GCAのこのような治療は、GCAの兆候及び症状を低減、臨床的寛解を維持、及び/又はGCA患者のコルチコステロイド使用を低減又は中止しうる。本明細書のGCAは、任意で成人患者の新規発症GCA及び難治性GCAを包含する。
【0144】
本明細書の全方法の一実施態様では、抗IL-6R抗体(任意でヒアルロニダーゼ酵素と共調製される)以外のいかなる医薬もIL-6媒介疾患の治療対象に投与されない。
【0145】
本明細書のいずれかの方法の別の実施態様では、疾患を治療する追加の1または複数の有効な量の薬物を抗IL-6R抗体と共に投与してよい。追加の薬物は、1または複数の医薬であってよく、例として、免疫抑制剤、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARD)、メトトレキサート(MTX)、抗B細胞表面マーカー抗体、抗CD20抗体、リツキシマブ、TNF阻害剤、コルチコステロイド及び共刺激修飾因子、又はこれらの任意の組合せが挙げられる。
【0146】
このような追加の薬物の例として以下のものが挙げられる:(ミトキサントロン(ノバントロン(登録商標))などの)免疫抑制剤、メトトレキサート、シクロホスファミド、クロラムブシル、レフルノミド及びアザチオプリン)、静脈内免疫グロブリン(ガンマグロブリン)、リンパ球枯渇療法(例えばミトキサントロン、シクロホスファミド、CAMPATHTM抗体、抗CD4、クラドリビン、自己反応性B細胞のIg受容体に特異的に識別される脱免疫された自己反応性抗原またはその断片を有する少なくとも2つのドメインを有するポリペプチドコンストラクト(国際公開第2003/68822号)、全身照射法、骨髄移植)、インテグリンアンタゴニスト又は抗体(例えばGenentechから市販されているエファリズマブ/ラプティバ(登録商標)などのLFA-1抗体又はBiogenから市販されているナタリズマブ/アンテグレン(登録商標)などのアルファ4インテグリン抗体、又は上述のものなど)、コルチコステロイドなどのステロイド(例えばプレドニゾロン、注射用SOLU-MEDROL(登録商標)コハク酸メチルプレドニゾロンナトリウムなどのメチルプレドニゾロン、低用量プレドニゾンなどのプレドニゾン、デキサメタゾン又はグルココルチコイドの、例えば関節注射による、全身コルチコステロイド治療を含む)、非リンパ球枯渇免疫抑制治療(例えばMMF又はシクロスポリン)、「スタチン」クラスのコレステロール降下薬(セリバスタチン((バイコールTM)、フルバスタチン(レスコールTM)、アトルバスタチン(リピトールTM)、ロバスタチン(メバコールTM)、プラバスタチン(プラバコールTM)およびシンバスタチン(ゾコールTM)を含む)、エストラジオール、テストステロン(任意増量で;Stuveら Neurology 8:290-301 (2002))、アンドロゲン、ホルモン補充療法、TNF-アルファに対する抗体などのTNF阻害剤、DMARD、NSAID、プラズマフェレーシス又は血漿交換療法、トリメトプリム・スルファメトキサゾール合剤(バクトリムTM、セプトラTM)、ミコフェノール酸モフェチル、H2ブロッカー又はプロトンポンプ阻害剤(潜在的に潰瘍発生性の免疫抑制療法の使用中)、レボチロキシン、シクロスポリンA(例えばサンディミュン(登録商標))、ソマタスタチンアナログ、DMARD又はNSAID、抗体などのサイトカインアンタゴニスト、抗代謝産物、免疫抑制剤、リハビリテーション手術、放射性ヨウ素、甲状腺摘除術、BAFF又はBR3抗体またはイムノアドヘシンなどのBAFFアンタゴニスト、抗CD40受容体又は抗CD40リガンド(CD154)、リツキシマブ又はオファツムマブなどの抗CD20抗体を含むB細胞アンタゴニスト又は抗体;rHUIL-1Ra(Anakira, Amgen-Synergen)およびチアプロフェン酸I-1B阻害剤(Hoechst)などのIL-1ブロッカー;およびCTLA-4-Ig融合タンパク質オレンシア(登録商標)(アバタセプト)(Bristol-Myers Squibb)などの共刺激修飾因子;エンリロマブ(抗ICAM-1モノクローナル抗体);CDO-855(クラスII MHC複合体の一領域に特異的に結合するヒト化抗体、Celltech);CH-3298(Chiroscience);アセメタシン(Merck);GW353430(抗CD23モノクローナル抗体、Glaxo Wellcome);GR252025(COX02阻害剤、Glaxo Wellcome);4162W94(抗CD4ヒト化抗体;Glaxo Wellcome);アザチオプリン(DMARD、Glaxo Welcome);ペニシラミン及びフェノプロフェン(Eli Lilly);他。
【0147】
第2または追加の薬物が、非生物学的DMARD、NSAID及びコルチコステロイドからなる群より選ばれうる。
【0148】
本発明に記載のこれらの追加の薬物は、通常は上記で使用の用量及び投与経路にて使用されるか、又はこれまで使用された用量の約1から99%の用量で使用される。このような追加の薬物を使用する場合は、好ましくは、特に第1の医薬を含む初回投与後の投与において、第1の医薬が不存在の場合よりも低用量で使用し、その使用による副作用をなくすか又は低減する。
【0149】
追加の薬物の併用投与は、別の製剤または単一の医薬製剤を使用しての共投与(同時投与)及び順を問わず連続投与することを含み、好ましくは、両方(又はすべて)の活性剤(医薬)がその生物学的活性を同時に発揮する時間がある。
【0150】
一実施態様では、SC用量の投与前又は後、患者はIV投与の抗IL-6R抗体で治療されうる。
【0151】
V.製造品
本発明の別の実施態様では、上述のIL-6媒介疾患の治療に有用な材料を含む製造品が提供される。本発明は特に、固定用量の抗IL-6受容体(IL-6R)抗体を患者に送達する皮下投与デバイスを備える製造品を提供し、ここで固定用量は162mg、324mgおよび648mgの抗IL-6R抗体からなる群より選ばれる。好ましくは抗IL-6R抗体はトシリズマブである。好ましくは、デバイス内の抗体濃度は150から200mg/mL、例えば180mg/mLである。シリンジ内の抗体は、好ましくはバッファー(例えばヒスチジン、pH6)と他の賦形剤(メチオニン、アルギニン及びポリソルベート)中で処方し、シリンジ内で安定した薬学的製剤となるようにする。rHuPH20などのヒアルロニダーゼを例えば約1,400U/mLから約1,600U/mL(例えば約1,500U/mL)の量で製剤中に含有してよい。デバイスは、0.9mL、1.8mLまたは3.6mLの製剤を対象に送達しうる。
【0152】
SC送達に適切なデバイスとして、(プレフィルドシリンジを含む)シリンジ;注射器(例えばINJECT-EASETM及びGENJECTTMなどのデバイス);輸液ポンプ(例えばAccu-ChekTM);注射ペン(GENPENTMなど);無針デバイス(例えばMEDDECTORTM及びBIOJECTORTM);自動注射器、皮下パッチ送達システムなどが挙げられる。
【0153】
製造品はさらに、対象のIL-6媒介疾患(例えばRA)を治療するための使用説明を記載した添付文書を含んでよく、使用説明は、本明細書に記載の抗体を使用する治療がIL-6媒介疾患を治療することと、(例えばRA患者の)構造的関節破壊の進行を抑制しうることを表す。
【0154】
本発明のさらなる詳細は、以下の非限定的な実施例に例示される。本明細書のすべての引用の開示は、参照により本明細書に明白に組み入れられる。
【実施例0155】
実施例1
抗IL-6R抗体の皮下(SC)投与固定用量を決定する臨床試験
毎週皮下投与される(SC QW)162mgの抗IL-6R抗体(トシリズマブ、TCZ)は、健常人の第1相2試験(WP18097およびBP22065)、日本人RA患者の第1/2相1試験(MRA227)および白人RA患者の第1b相1試験(NP22623)を含む第1/2相4試験の結果に基づき選択した。これらSC試験および比較データを得た4試験のさらなる詳細を表1に示す。
【表1】
【0156】
これらの試験では、180mg/mLのTCZを含むがヒアルロニダーゼは含まないTCZ製剤を使用した(実施例4の表2参照)。
【0157】
日本人RA試験MRA227では、全患者(32)を3試験アームのいずれかに無作為に割り付けた:81mg SC Q2W/QW、162mg SC Q2Wおよび162mg SC QW。白人RA試験NP22623では、全29人の患者を2治療アームのいずれかに無作為に割り付けた:162mg SC Q2W(N=15)および162mg SC QW(N=14)。
【0158】
RA患者の2試験の観察データを基に用量根拠を構築した。
【0159】
この162mg QW用量レジメンの選択は、3つの主要素から導かれた:
sIL-6R結合TCZ複合体(TCZの作用機構のPDバイオマーカー;Nishimotoら, Blood 112(10):3959-3964 (2008))は、他の試験SC用量レジメンと比べて162mg QWでより高速かつ大幅に増加する(
図1)。
CRPは、他の試験SC用量レジメンと比べて162mg QWでより高速かつ一貫して減少する(
図2)。
SC治療アームの安全性プロフィールは、互いに、又は8mg/kg IV Q4Wとの差異はないと考えられる。
一般に、試験SC用量レジメンは、MRA227およびNP22623試験で忍容性が良好である。
特筆すべきは、SC治療アームにおいて死亡はなく、SAEは1件のみ(腎盂腎炎)であった。
どのSC用量レジメンよりも8mg/kg IV Q4Wの平均曝露(AUC、C
max)が一般に高いので、162mg QWの安全性プロフィールは8mg/kg IVのものと同等であると考えられる(
図4)。
【0160】
sIL-6R
図1は、SCおよびIVレジメン後のsIL-6Rプロフィールを示す。162mg QWを受けるRA患者のsIL-6Rプロフィールは、上昇の速度及び大きさにおいて、8mg/kg IV Q4Wで観察されたものと酷似している。他の試験用量レジメン(81mg Q2W/QWまたは162mg Q2W)は、8mg/kg IV Q4Wに匹敵するレベルに到達しなかった。
【0161】
CRP
図2は、RA患者の162mg SC QWおよび8mg/kg IV Q4W用量レジメン後のCRPプロフィールを示す。162mg QWは、試験SC用量レジメンのなかで最も高速かつ持続性のCRP濃度の減少を見せた。
【0162】
DAS28-ESR
疾患活動性(DAS28-ESRで測定)は、他の試験SC用量レジメンと比べて162mg SC QWがより高速かつ大幅にベースラインから減少すると考えられる(
図3)。
【0163】
安全性:観察データ
TCZ SCの4試験では死亡はなく、1件のSAE(81mg用量群の腎盂腎炎)が報告されたのみである。健常人またはRA患者の単回または反復SC投与後に観察されたAEは、概ね第3相RA IV試験で観察されたAEの種類および重症度と一致した。NP22623のデータは、162mgのQW用量群とQ2W用量群の間で異なるAEプロフィールを示さなかった。SC TCZを受ける日本人RA患者及び白人RA患者の検査測定値の平均変化は、IVプログラムのRA患者のものと類似していた。162mg QWを受けた日本人RA患者1人に好中球減少が認められ、用量を162mg Q2Wに減少した。81mg Q2Wを受けた患者1人に好中球減少が認められ、第11週の81mg QWへの切替時、その後の投与を行わなかった。SC注射は一般に忍容性が良好であった。SC注射は皮下プラセボ注射より痛みが大きいとは認識されなかった。
【0164】
MRA227試験では、162mg QW群の患者はいずれも抗TCZ抗体陽性ではなかった。低用量群の患者4人は抗TCZ抗体陽性(81mg QW/Q2W用量群の全員、TCZ投与前に1人);5人が抗TCZ IgE抗体陽性(81mg Q2W/QW用量群の患者3人及び162mg Q2W用量群の患者2人)であった。抗体試験で陽性だった患者のうち、ベースラインで陽性であった患者1人にグレード1の湿疹が認められたが無関係(食物アレルギー)と考えられ、患者1人にグレード1の蕁麻疹が認められ、別の患者に注射部位のあざが認められた。抗TCZ抗体検査で陽性だった患者の「皮膚及び皮下組織」及び「全身障害及び投与局所態様」クラスのAEは他には報告されなかった。
【0165】
PK-安全性関係
MRA227試験及びLRO301試験のSCレジメンとIVレジメン間の定常状態のPKプロフィールをそれぞれ目視検証すると、一般に、162mg QW SCレジメンと比べて8mg/kg IVレジメンの方が高曝露であると考えられる(平均AUC、C
max)(
図4)。例外は平均C
troughであり、162mg QWレジメンのほうが8mg/kg IVよりも高濃度である(第15週の26±15μg/mL及び第16週の16±11μg/mL)。他の低用量群は定常状態で8mg/kg IVと同等の濃度に達成しなかった。162mg SCレジメンのC
troughの被験者間のばらつきは大きかった(58%)。どのSC用量レジメンよりも8mg/kg IV Q4W用量レジメンが概ね高曝露なので、162mg SC QWの安全性プロフィールは8mg/kg IV Q4Wのものと同様となることが予想される。
【0166】
体重に関わらず全RA患者に単回固定用量(162mg QW用量)が投与される。このアプローチは、固定用量に対する全域体重に起因しうる曝露差を差し引いても、観察された162mg QW用量レジメンの3カテゴリー(Cmax、Ctrough及びAUC)すべての最高曝露がIVプログラムの記述範囲内にある、という事実に裏付けられる。
【0167】
加えて、このアプローチはIVプログラムの安全性データ分析(SAE、AE、臨床検査)に裏付けられる。TCZ曝露とクラス別有害事象、特に「感染症及び寄生虫症」及び「皮膚及び皮下組織」クラスの最も頻発する有害事象の発生との間に明白な関係はない。TCZの曝露と重篤な有害事象の間に明白な関係はない。曝露の増加に伴い、好中球減少以外には検査結果異常の頻度に明白な増加は見られなかった。TCZ高曝露カテゴリー患者にわずかに高い割合でグレード3以上の好中球減少の事象が認められた。加えて、TCZ高曝露カテゴリーに1件のグレード3の血小板減少の事象が認められた。トリグリセリド、総コレステロール及びLDLコレステロール濃度に関し、TCZ高曝露カテゴリー患者にわずかに高い割合で濃度上昇が認められた。まとめると、これらのデータは固定用量レジメンの使用が許容可能であることを示唆している。
【0168】
まとめると、162mg SC QW用量レジメンは、以下に基づいて選択された:1)162mg SC QWのsIL-6R結合TCZ複合体が、162mg SC QWでより高速かつ大幅に増加し、試験用量レジメンの8mg/kg IV Q4Wと最も類似していた;2)CRPは162mg SC QWの方が他の試験SC用量レジメンよりも速く一貫して減少した:3)SC治療アームの安全性プロフィールは、互いに、又は8mg/kg IV Q4Wとの差異はないと考えられる;および4)8mg/kg IV Q4Wの総曝露がどの試験SC用量レジメンよりも概ね高いことから、162mg SC QWの安全性プロフィールは8mg/kg IV Q4Wと同様のはずである。
【0169】
実施例2
SC抗IL-6受容体抗体のRA臨床試験
これは、1または複数の抗TNF生物学的製剤を含みうるDMARDの安定用量に現在応答不十分である中等度から重度の活動性RA患者に対する、第3相、2アーム、2年、無作為化、二重盲検、ダブルダミー、実薬対照並行群間多施設協同試験である。一次評価項目は、第24週で評価される。この実施例の全体的デザインを
図5に示す。製剤は実施例1のとおりである。
【0170】
スクリーニング来院は、ベースラインの無作為化の来院の前21日まで(または21日を上回る無治療期間を要する場合は56日まで)発生しうる。患者の適格性はスクリーニングとベースラインの来院時に決定し、このとき患者を無作為化する。過去の抗TNF治療が失敗した患者数は、母集団全体の約20%に制限されるであろう。
【0171】
試験参加基準
1.年齢≧18歳
2.関節リウマチの期間≧6ヶ月、1987年改訂アメリカリウマチ学会(ACR、旧アメリカリウマチ協会)の分類基準に従い診断する。
3.スクリーニングとベースライン時の膨張関節数(SJC)≧4(66関節数)および圧痛関節数(TJC)≧4(68関節数)。
4.無作為化前に、エタネルセプトを≧2週間、インフリキシマブ、セルトリズマブ、ゴリムマブ、アバタセプト又はアダリムマブを≧8週間、アナキンラを≧1週間、中断している。
5.ベースライン前に、許容された安定用量のDMARDを少なくとも8週間受けている。
6.スクリーニング時、CRP≧1mg/dL(10mg/L)又はESR≧28mm/hrである。
7.ベースライン前に≧4週間の安定用量レジメンにある場合、経口コルチコステロイド(≦10mg/日 プレドニゾンまたは同等)及びNSAID(最高推奨量まで)が許容される。
【0172】
二重盲検期間中、ベースライン来院時、患者は1:1の比率でTCZ162mg SC毎週とプラセボIV Q4W(A群)、又はTCZ8mg/kg IV Q4WとプラセボSC QW(B群)のいずれかに無作為化され、24週間の治療を受ける。一次分析は患者全員が第24週に達したときに行う。
【0173】
第24週で全患者は非盲検期間用に以下のとおり再度無作為化される:
A群:患者は11:1の比率で再度無作為化され、TCZ162mg SC毎週(A1群)又は8mg/kg IV 4週ごと(A2群)を受ける。
B群:患者は2:1の比率で再度無作為化され、8mg/kgをIVで4週ごと(B1群)またはTCZ162mgをSCで毎週(B2群)受ける。
【0174】
二重盲検試験の初回薬物投与に先立ち(ベースライン来院)、患者によるアウトカムおよび有効性評価を24時間以内に行わなければならない(必要に応じて72時間まで許可される)。第24週と第25週の間に1週間の休薬期間を挟み、第25週に非盲検期間の初回治療を行う。
【0175】
有効性パラメーターはベースライン、第2週、第4週、その後第24週までは4週ごとに、その後第37、49、73、97週、または早期脱落(WD)来院時に評価する。
【0176】
各治療群は、TCZ投与前に投与を開始された非生物学的DMARD、コルチコステロイド及び/又はNSAIDを使用する背景治療を許可される。NSAID、コルチコステロイド及び/又は非生物学的DMARDの用量は、コア試験期間(第24週まで)一定でなければならない。しかし、安全性の理由上必要な場合はこれらの治療において減量してよい。
【0177】
有効性評価
ACR20
アメリカリウマチ学会(ACR)の結果基準コアセット及び改善の定義は、SJCとTJCの両方、並びに付加的な5つのパラメーター(医師による疾患活動性の全般的評価、患者による疾患活動性の全般的評価、患者による疼痛評価、HAQおよび急性期応答(CRPまたはESR))のうち3つが、ベースラインよりも≧20%改善していることを包含する。
【0178】
ACR50の獲得は、同じパラメーターで≧50%の改善、ACR70は≧70%の改善を必要とする。
【0179】
疾患活動性スコア28(DAS28)-ESR
DAS28は、RA疾患活動性を測定する複合型指標である。この指標には、膨張及び圧痛関節数、急性期応答(ESRまたはCRP)及び一般的な健康状態が含まれる。本試験ではESRを使用してDAS28スコアを計算する。指標は以下の式を使用して計算する: DAS28=0.56×√(TJC28)+0.28×√(SJC28)+0.36×ln(ESR+1)+0.014×GH+0.96
ここでTJC28は28関節の圧痛関節数、SJC28は28関節の膨張関節数、lnは自然対数、ESRは赤血球沈降速度(mm/hr)及びGHは一般的健康状態、すなわち患者による疾患活動性の全般的評価(100-mm VAS)である。DAS28スケールの範囲は0から10であり、高スコアは疾患活動性が高いことを示す。
【0180】
ACR-ハイブリッド
ACR-ハイブリッドは、ACRコアパラメーターの改善パーセントとACR20、ACR50またはACR70の状態を組み合わせた測定値である。
【0181】
この実施例に開示の毎週皮下投与(SC)されるTCZ162mgの治療は、上記の任意1または複数の有効性基準に基づき、4週ごとに静脈内投与(IV)されるTCZ8mg/kgに匹敵する安全性及び有効性を有すると予想される。
【0182】
実施例3
関節破壊の進行を抑制する抗IL-6R抗体SC
これは、1または複数の抗TNF-α剤を含みうるDMARDに現在応答不十分である中等度から重度の活動性RA患者に対する、第3相、2アーム、2年、無作為化、二重盲検、プラセボ対照並行群間多施設協同試験である。主要評価項目は、第24週で評価される。
【0183】
全体的デザインを
図6に示す。スクリーニング来院は、ベースラインの無作為化の来院の前21日まで(または21日を上回る無治療期間を要する場合は56日まで)発生しうる。患者の適格性はスクリーニングとベースラインの来院時に決定する。ベースラインで患者を無作為化する。前回の抗TNF-α治療が失敗した患者数は、母集団全体の約20%に制限されるであろう。製剤は実施例1のとおりである。製剤は、プレフィルドシリンジ(PFS)又は自動注射器(AI)を使用して投与する。
【0184】
TCZ Q2W投与
この試験では、TCZ162mgを毎週(QW)ではなく2週ごと(Q2W)に投与する。162mg SC QWでの応答と比べ、162mg SC Q2Wの方は、以下に記載のように、sIL-6R結合TCZ複合体を増加させ、CRP正常化を獲得し、結果としてベースラインからDAS-ESRが低下する低用量のSCオプションであると考えられる。さらに、162mg SC Q2WレジメンのPD応答と予備有効性測定値は、他の試験低用量レジメン(81mg Q2W/QW)よりも優れている。
TCZ作用機構のPDバイオマーカーであるsIL-6R複合体は、162mg SC Q2Wでは162mg SC QWよりも増加が少ないが、他の低用量SCレジメン(81mg Q2W/QW)と比べて大幅に増加する(
図1)。
CRP正常化が162mg SC Q2Wで獲得される;低用量SCレジメンはCRP正常化が得られなかった(
図2)。
疾患活動性スコアDAS28-ECRは、他の試験SC用量レジメン(81mg SC Q2W/QW)と比べ、162mg SC QWおよび162mg SC Q2Wでベースラインから大幅に減少すると考えられる(
図3)。
【0185】
安全性:
入手可能な安全性観察データに基づき、SC治療アームの安全性プロフィールは、互いに、又はIVプログラムとの差異はないと考えられる。
162mg SC QW及びQ2Wは、MRA227及びNP22623試験での忍容性が良好であった。
いずれのSC治療アームにも死亡はなかった。81mg SC用量群にSAEとして腎盂腎炎が1件発生した。
平均曝露(AUC、C
max、C
trough)は8mg/kg IV用量の方が162mg SC Q2Wよりも一般に高いことから、162mg SC Q2Wの安全性プロフィールはIVプログラムと同等であると考えられる(
図4)。
【0186】
sIL-6R複合体
sIL-6R結合TCZ複合体は、TCZの作用機構のPDバイオマーカーである。
図1は、SC及びIVレジメン後のsIL-6Rプロフィールを示す。162mg SC QWを受けるRA患者のsIL-6Rプロフィールは、上昇の速度及び幅の両方が8mg/kg IV q4wでの観察と酷似している。他の試験用量レジメン(81mg Q2W/QW及び162mg Q2W)は、8mg/kg IV q4wに匹敵する濃度に達しなかった。隔週(Q2W)の162mg用量は、162mg QWと8mg/kg IVに観察されるよりも低い応答性を示した。sIL-6R複合体は、162mg SC Q2Wで他の試験低用量SCレジメン及び4mg/kg IVよりも大幅に増加する。
【0187】
CRP
図2は、RA患者のSCおよびIV用量レジメン後のCRPプロフィールを示す。162mg SC QWは、試験SC用量レジメンのなかでCRP濃度がもっとも速く持続的に低下した。低用量SCレジメンのうち、162mg SC Q2Wが正常化に達した(尚、MRA227の患者は第0週に単回用量(SD)を投与され、次いで第3週から反復投与が開始され、用量は81mg Q2WからQWに第9週で切り替えられた。
図2参照)。これより低用量のSCレジメン(81mg QW/Q2W)はCRP正常化が得られないと考えられた。従って、162mg SC Q2WはCRP正常化を得られる低用量SCオプションであると考えられる。
【0188】
DAS28-ESR
図3は、RA患者のSC及びIV用量レジメン後のDAS28-ESRの変化を示す。SCレジメンのDAS28-ESRデータは限られているが、疾患活性度は162mg SC QWおよび162mg SC Q2Wにおいて、他の試験SC用量レジメン(81mg SC Q2W/QW)よりも速く大幅にベースラインから減少していると考えられる(
図3)。162mg SC QWで観察された応答と比べ、162mg SC Q2Wは、ベースラインからのDAS-ESRの低下を獲得する低用量SC用量オプションであると考えられる。
【0189】
PK&PK-安全性関係
RA患者へのTCZ反復投与(MRA227)後の平均曝露(AUC、C
max、C
trough)は、162mg SC Q2Wで観察されたC
troughよりも低い4mg/kg IV q4wのC
trough濃度を除き、一般に4&8mg/kg IV q4w用量の方が162mg SC Q2Wより高い(
図4)。IVプログラムの安全性プロフィールは広く試験されている。これらのまとめ、及び162mg SC QWとの比較から、162mg SC Q2W用量は、薬物曝露に基づき許容可能な安全性プロフィールを有する低用量SC用量オプションであると考えられる。
【0190】
平均曝露(AUC、C
max、C
trough)は、162mg SC Q2Wで観察されたC
troughよりも低い4mg/kg IV q4wのC
trough濃度を除き、一般に4&8mg/kg IV q4w用量の方が162mg SC Q2Wより高い(
図4)。IVプログラムの安全性プロフィールは広く試験されている。これらのまとめ、及び162mg SC QWとの比較から、162mg SC Q2W用量は、薬物曝露に基づき許容可能な安全性プロフィールを有する低用量SC用量オプションであると考えられる。
【0191】
単回固定用量(エスケープ治療の162mg SC Q2W及び162mg SC QW)が体重にかかわらず全RA患者に投与される。このアプローチは、固定用量に対する体重の全範囲に起因しうる曝露差を差し引いても、観察された162mg SC QW及びQ2W用量レジメンの3パラメーター(Cmax、Ctrough及びAUC)で定義される最高曝露が、IVプログラムの記載範囲内にある、という事実に裏付けられる。加えて、このアプローチはIVプログラムの安全性データ分析(SAE、AE、研究室)に裏付けられる。TCZ曝露とクラス別有害事象、特に「感染症及び寄生虫症」及び「皮膚及び皮下組織」クラスの最も頻発する有害事象の発生との間に明白な関係はない。TCZの曝露と重篤な有害事象の間に明白な関係はない。好中球減少以外には曝露の増加に伴う検査結果異常の頻度に明白な増加は見られなかった。TCZ高曝露カテゴリー患者にわずかに高い割合でグレード3以上の好中球減少の事象が認められた。加えて、TCZ高曝露カテゴリーに単一のグレード3の血小板減少の事象が認められた。トリグリセリド、総コレステロール及びLDLコレステロール濃度に関し、TCZ高曝露カテゴリー患者にわずかに高い割合で濃度上昇が認められた。まとめると、これらのデータは固定用量レジメンの使用が許容可能であることを示唆している。体重がPKに及ぼす影響について、この試験でさらに評価される。
【0192】
RA患者SC試験で観察された安全性データ(MRA227及びNP22623)
全(32)患者がMRA227試験に参加し、29人の患者がNP22623試験に参加し、81mg QW/Q2W(MRA227のみ)、162mg Q2W及び162mg QWを含むTCZ SC治療を受けた。RA患者の皮下投与忍容性は、MRA227試験では33週まで、NP22623試験では12週まで良好であった。RA患者に対するSC用量投与後観察されたAEは、TCZ IVの第3相試験で観察されたものの種類と重症度と概ね一致した。
【0193】
SC TCZの4試験で死亡は報告されなかった。81mg用量群で1件の腎盂腎炎のSAEが報告された。NP22623の限られたデータは、162mg SC QWとQ2Wの用量群間で異なるAEプロフィールを示さなかった。SC TCZを受けた日本人RA患者と白人RA患者の測定値の平均変化の大きさは、いずれもIVプログラムのRA患者のものと似ていた。162mg SC QW日本人RA用量を162mg SC Q2Wに減らした。81mg SC Q2Wを受けた患者1人に好中球減少が認められ、第11週でそれ以降の投与を行わなかった。SC TCZ注射は概ね忍容性が良好であり、皮下プラセボ注射より痛みが大きいとは認識されなかった。
【0194】
MRA227試験では、162mg QW群に抗TCZ抗体陽性患者はいなかった。低用量群の患者4人が抗TCZ抗体陽性(81mg QW/Q2W用量群の患者全員、TCZ投与前に1人)であり;患者5人が抗TCZ IgE抗体陽性(81mg Q2W/QW用量群の患者3人と162mg Q2W用量群の患者2人)であった。抗体検査で陽性だった患者のうち、ベースラインで陽性だった患者1人にグレード1の湿疹が認められたが無関係(食物アレルギー)と考えられ、患者1人にグレード1の蕁麻疹が認められ、別の患者に注射部位のあざが認められた。抗TCZ抗体検査で陽性だった患者の「皮膚及び皮下組織」及び「全身障害及び投与局所態様」クラスのAEは他には報告されなかった。NP22623では、スクリーニングアッセイで患者3人が抗TCZ抗体陽性であったが、確認アッセイでは陽性患者はいなかった。
【0195】
サマリー
先に、TCZ162mg SC毎週(QW)をTCZ8mg/kg IV q4wのコンパレーター用量レジメンとして選択した。残りの試験SC用量のRA患者のPK、PD、有効性及び安全性の観察データは、162mg SC隔週(Q2W)がこのNA25220B試験の適切な低用量SC用量オプションであることを示す。
【0196】
ベースライン来院時、患者は2:1の比率でTCZ162mg SC Q2(A群)、又はプラセボSC QW(B群)のいずれかに無作為化され、24週間治療を受ける。すべての患者が第24週に達したとき一次分析を行う。
【0197】
第24週からすべての患者はTCZ162mg SC Q2Wの非盲検治療を受け、どの患者にもプラセボ注射は行わない。
【0198】
加えて、第24週の来院時、患者は非盲検期間用に以下のとおり再度無作為化される:
A群:患者は1:1の比率で再度無作為化され、TCZ162mg SC隔週を、自動注射器(AI)を使用して(A1群)、又はプレフィルドシリンジ(PFS)を使用して(A2群)受ける。
B群:患者は1:1の比率で再度無作為化され、TCZ162mg SC隔週を、AIを使用して(B1群)、又はPFSを使用して(B2群)受ける。
【0199】
二重盲検試験の初回薬物投与に先立ち(ベースライン来院)、患者によるアウトカムおよび有効性評価を24時間以内に行わねばならない(必要に応じて72時間まで許可される)。
【0200】
有効性パラメーターはベースライン、第2週、第4週、その後第40週までは4週ごとに、その後第48、60、72、84、96週、または早期脱落(WD)来院時に評価する。
【0201】
第24週と第48週のスクリーニング時に手と足それぞれのX線写真を撮る。
【0202】
治療群
個々の治療群:
A群:~400人(患者数)、TCZ162mg SC Q2W、24週の二重盲検期間中PFS使用、その後以下に再度無作為化:
A1群:~200人(患者数)、TCZ162mg SC q2w、非盲検期間中AI使用
A2群:~200人(患者数)、TCZ162mg SC q2w、非盲検期間中PFS使用
B群:~200人(患者数)、プラセボSC Q2W、24週の二重盲検期間中PFS使用、その後以下に再度無作為化:
B1群:~100人(患者数)、TCZ162mg SC q2w、非盲検期間中AI使用
B2群:~100人(患者数)、TCZ162mg SC q2w、非盲検期間中PFS使用
【0203】
患者、施設職員及びスポンサーは、全患者が第24週で二重盲検治療期間を終了し、この時点までの全患者の全データが収集・施錠され報告されるまで、二重盲検期間中TCZ及びプラセボのいずれが投与されたか知らない。
【0204】
各治療群は、TCZの初回投与の8週前に一定量で投与を開始した非生物学的DMARDの背景治療を受けるよう要請される。非生物学的DMARDとコルチコステロイドの用量は、コア試験期間中一定でなければならない(第248週まで)。NSAIDの用量は、第24週まで一定でなければならない。しかし、安全上の理由により、これらの治療における減量が許可される。患者はまた、関節内ステロイド及び/又は経口コルチコステロイド用量の増量(最高用量はトータルで10mg用量/日)を受けうる。
【0205】
一次・二次試験評価項目
主要評価項目
主要評価項目は、第24週でのACR20応答患者の割合である。
副次評価項目
ベースラインから第48週までのvan der Heijde修正シャープX線スコア(van der Heijde modified Sharp radiographic score)の変化を除き、すべての副次評価項目は正式に試験される。アルファレベルを5%に維持するため、副次評価項目は、あらかじめ特定した固定順法を用いて試験される。この方法はDAPに詳述される。
1.ベースラインから*第24週までのvan der Heijde修正シャープX線スコア。
2.ベースラインから*第48週までのvan der Heijde修正シャープX線スコア。
3.第24週でACR50応答を有する患者の割合。
4.第24週でACR70応答を有する患者の割合。
5.ACRコアセットの個々のパラメーターにおけるベースラインから第24週の平均変化。
6.第48週での主な臨床的応答(ACR70応答が治療24週を超えて維持される)。
7.第24週でのベースラインからの疾患活性度スコア(DAS28)の変化。
8.第24週でのベースラインからのHAQ-DIの変化。
9.第24週で明白にDAS28応答がある(EULAR応答)と分類される患者の割合。
10.第24週でDAS28低疾患活動性(DAS≦3.2)を獲得した患者の割合。
11.第24週でベースラインからのHAQの変化が≧0.3である患者の割合。
12.第24週でDAS28スコア<2.6(DAS寛解)である患者の割合。
13.第24週でのSF-36サブスケールとサマリースコアの変化。
14.治療群のACR20、50、70の開始時。
15.第24週でのベースラインからのヘモグロビン濃度の変化。
*試験薬物の初回投与前に受けた評価をベースラインとみなす。
【0206】
X線評価
第24週及び第48週のスクリーニング時、手(後方-前方、PA)と足(前方-後方、AP)それぞれのX線写真を別々に撮影する。X線写真は、シャープによるvan der Heijde修正法(van der Heijde, D. "How to read radiographs according to the Sharp/van der Heijde method." J Rheumatol 27: 261- 263 (2000))を使用して評価する。
【0207】
非エスケープ患者は全員第24週からTCZ SC Q2Wを受ける。第48週のX線分析で、ベースラインでプラセボに無作為化された患者とTCZ SC Q2Wに無作為化された患者を比較するが、いずれの群も第24週から実薬を受けている。構造的破壊の進行速度が両期間の間で異なるか検証する。これは特に、ベースラインでプラセボに無作為化された群に関連がある。
【0208】
この実施例で開示されるSC抗IL-6R抗体(TCZ)とDMARDとの併用治療は、(第24週ACR20データに基づき)有効かつ(AEと検査所見に関し)安全であると予測される。さらに、SC抗IL-6R抗体(TCZ)治療により、第24週及び第48週で構造的関節疾患の進行を抑制でき、RA患者の身体機能を改善しうる。
【0209】
実施例4
ヒアルロニダーゼ酵素含有抗IL-6R抗体組成物
この実施例は、抗IL-6R抗体(トシリズマブ)とヒアルロニダーゼ酵素(組換えヒトPH20、rHuPH20)を含有する安定な薬学的製剤の開発について記載する。
【0210】
原体
抗IL-6R抗体トシリズマブ(例えば米国特許第5,795,965号参照)は、製剤中の活性成分で、RAまたは他のIL-6媒介疾患の治療に使用される。
【0211】
組換えヒトPH20(rHuPH20)(例えば米国特許第7,767,429号参照)は、SC注射したTCZの分散域を増大させるために含まれ、2mLより多い量のSC注射を可能にし、かつヒアルロニダーゼを含まないSC製剤と比べて潜在的にバイオアベイラビリティを増加させる(実施例5参照)。
【0212】
pH/バッファーの選択
トシリズマブSCバイアル162mgを安定化させるpHは、およそpH6.0であることが発見された。従って、pH6.0±0.5をこの製剤に選択した。L-ヒスチジン/L-ヒスチジン一塩酸塩を20mMの濃度でバッファーとして製剤に加えるが、この濃度は非経口的バッファーの通常の濃度10~100mMの範囲内である。およそ6.0のpHは、所定の比率のバッファー塩及び塩基を使用して得られるが、任意で水酸化ナトリウム又は塩酸を使用してpHを調節してよい。
【0213】
安定剤
ポリソルベート80を0.2mg/mLの濃度で安定剤として添加し、機械的ストレス(撹拌)による、及び潜在的な冷凍・解凍よるタンパク質の不安定化を防止する。
【0214】
L-アルギニン塩酸塩とL-メチオニンを100mMと30mMの濃度で安定剤として添加し、タンパク質の熱ストレスによる不安定化を防止する。
【0215】
製剤開発
目的は、トシリズマブの皮下注射用の安定な無菌の液体溶液の開発であった。
【0216】
SC製剤は、使用するトシリズマブの濃度がIV製剤の20mg/mLに対し180mg/mLと高いので、標準シリンジでの放出力と粘度に対するタンパク質濃度の効果に配慮して開発した。皮下注射の量は理想的には1mL以下で、製剤は高濃度のタンパク質を必要とする。一方で、高濃度のタンパク質による高粘度は注射力を増加させる。タンパク質濃度と粘度の相関から、目標のトシリズマブ濃度は180mg/mLであった。
【0217】
表2は、例示的なトシリズマブSC製剤とトシリズマブIV製剤の比較である。114.3mg/mLのTCZを含有する凍結乾燥したSC製剤が、20人の健常人を使用してフランスで実施された先のヒト薬物動態臨床試験で使用された。その試験の目的は、皮下投与経路の絶対的バイオアベイラビリティと忍容性の検証であった。
【表2】
【0218】
過量
製剤中、濃度過量は使用しない。
【0219】
ヒアルロニダーゼ酵素含有製剤
以下の表は、抗IL-6R抗体(TCZ)とヒアルロニダーゼ(rHuPH20)を両方含有する例示的な製剤における成分とその濃度の要約である:
【表3】
【0220】
物理化学的・生物学的特性
この製剤は、遮光して2~8℃の推奨保存条件で良好な安定性を示した。
【0221】
PK試験
2件の非臨床PK試験が、ヒアルロニダーゼ含有TCZ SC製剤を使用し、1件はミニブタ、もう1件はカニクイザルで実施されている(表4):
【表4】
【0222】
ミニブタがrHuPH20用量選択に選ばれた理由は、その皮膚及びSC組織の肌理がヒトのものと似ていると考えられているからである。ミニブタの試験では、様々な濃度のrHuPH20を含有するTCZ製剤の2つのSC用量レベル並びにTCZ単独のIV投与アーム(表4)を使用して絶対的バイオアベイラビリティ/吸収率の評価を行った。試験の結果、SC投与されたTCZはrHuPH20含有製剤からより速く吸収されていた。従って、TCZの最高血漿濃度までの時間の中央値は、rHuPH20非含有製剤の48時間からすべてのrHuPH20含有製剤の24時間まで短縮された。SC投与されたTCZの吸収率は全用量群において約80%と推定された。
【0223】
カニクイザルの試験で、同種におけるTCZ SC製剤の反復用量の毒性に関する情報を得た(表4)。50mg/kg用量のTCZ SC製剤単回投与後のTCZ血漿濃度を評価した。SC投与後、TCZ最高血清濃度(平均±SD:822±230μg/mL)に48時間後(中央値)に達していることが結果からわかる。この試験の結果は、現在無治療回復期にある動物のもの以外は入手可能である。カニクイザルに13週間100mg/kgで毎週皮下投与した組換えヒアルロニダーゼ(rHuPH20)含有製剤中のトシリズマブは、全身的及び局所的に忍容性は良好であり、テスト項目誘発の所見はなかった。無毒性量(NOAEL)は、用量レベル100mg/kgと考えられた。
【0224】
実施例5
抗IL-6R抗体及びヒアルロニダーゼ酵素含有SC製剤の臨床試験
トシリズマブ(TCZ)は、組換えヒト化IgG1モノクローナル抗体であり、可溶性及び膜結合型インターロイキン6受容体(IL-6R)に対する。ヒアルロニダーゼ酵素(rHuPH20)は、注射部位でSC間質マトリックスのSCヒアルロン鎖を切断することにより皮下(SC)製剤注射を円滑にするために用いられる。試験の目的は、TCZとrHuPH20の単回漸増投与後の薬物動態(PK)、薬力学(PD)及び安全性の評価であった。
【0225】
材料及び方法
これは健常者の第1相漸増用量(TCZ162mg単独、162mg、324mgおよび648mgのTCZ+rHuPH20)試験である。この試験では実施例4、表3の製剤を使用した。
【0226】
試験の目的は以下のとおりである:
一次目的:
1.TCZの様々なSC用量の曝露へのrHuPH20の効果を調査すること。
二次目的:
1.健常人におけるrHuPH20を含有するSC TCZ単回用量の安全性及び忍容性を調査すること。
2.健常人にSC投与後のTCZ(rHuPH20有り又は無し)のPK/薬力学(PD)関係を、IL-6、sIL-6R及びC反応性タンパク質(CRP)を測定することにより、調査すること。
【0227】
全体的な試験デザイン
これは第1相、単回投与、非盲検、コホート1及び2の並行群間及び残りのコホートについては逐次の、単一施設試験であり、18歳から65歳までの妊娠の可能性のない男女を対象とした。表5は試験デザインの概要である。
【表5】
【0228】
適格な被験者を表6に挙げた1から4のコホートに割り付けた。この試験で使用したrHuPH20濃度は、TCZが2,000または6,000U/mL(ノミナル濃度)のいずれかの濃度のrHuPH20の存在下および不存在下でSC投与された上述の実施例4のミニブタの試験データから導かれた。その結果、SC投与されたTCZはrHuPH20含有TCZ製剤からより速く吸収されていた。TCZの吸収速度に及ぼされるこの影響は、rHuPH20の両濃度間で同等であった。投与溶液の分析的定量化により、rHuPH20の(ノミナル濃度2,000U/mLの代わりに)実濃度1,356U/mLが判明した。従って、rHuPH20濃度1,500U/mLが臨床試験案として選択された。
【表6】
【0229】
この試験は、スクリーニング期間(第28日から第2日)、第1日に試験薬の単回量投与を伴う入院期間(第1日夜から第2日朝)及びフォローアップ期間(第40日から第43日の間)からなる。
【0230】
適格な被験者は第1日に臨床試験ユニットに入院し、服用前評価及び処置を受けた。最低4時間の絶食後、血液及び尿サンプルを採取した。第1日朝の標準化した軽い朝食後、被験者は右又は左の前側大腿部(前方腸骨稜と膝骨頭側縁の中間)にTCZ SC注射を受けた。SC注射の開始時間と終了時間をそれぞれ記録し、個々の注射部位を注射の前後に写真撮影した。
【0231】
被験者は、注射デバイスを留置した後、試験薬物の注射前に、100mmの水平視覚的アナログスケール(VAS)及びカテゴリー別6ポイント痛み自己評価により痛みを評価した。
【0232】
被験者は、24時間のPK評価が終了するまでユニットにとどまり、PK及び安全性評価を受けるため指示に従い再来院した。血清中TCZ濃度を分析するため、血液サンプルを投与前と、投与後2、8、12、24及び36時間で採取した。追加の血液サンプルを第3、4、5、8、11、15、18、22、29、36日目及びフォローアップ時に採取した。IL-6、sIL-6R及びCRP評価用の血液サンプルをPK分析用サンプル採取時に採取した。
【0233】
被験者は、身体検査、3シリアル12誘導ECG、バイタルサイン及び臨床検査などのフォローアップ処置を受けるために第40日から第43日の間に再来院した。
【0234】
安全性(臨床検査及びバイタルサイン)とPK/PDの評価は試験の間中定期的に行った。自然発生的な有害事象を試験の間中記録した。被験者は、24時間のPK評価が終了するまでユニットにとどまった。その後、被験者はPK及び安全性評価を受けるため指定の日に再来院した。
【0235】
PK及びPDサンプルを徹底して収集した。PK及びPDパラメーターはノンコンパートメント法で予測した。一元配置分散分析法を用いてrHuPH20のTCZ曝露への影響を評価した。安全性と忍容性は試験の間中監視した。
【0236】
【0237】
薬力学の結果:
CRP:全コホートに対するSC TCZ投与後、平均CRP値は急速に低下し、コホート1と2ではノミナル時間168時間と240時間で、コホート3と4では336時間で最下点に達したが、おそらくノミナル時間168時間で全コホートにおいて最下点は概ね達成された。その後、平均CRP値は、コホート1と2ではノミナル時間504時間で、コホート4ではノミナル時間672時間でベースライン値に向けて上昇した。平均CRP値はコホート3では672時間時点まで抑制されていたが、不定期のフォローアップサンプルではベースラインに向けて平均値が戻った。コホート1と2の平均CRP値はベースラインから同様の変化を示したが、コホート4のCRP値はベースラインに戻るまで時間的に遅れがあった。コホート3のベースライン値からの平均変化はベースラインよりも下のままであった。平均CRPノンコンパートメントパラメーターに対する用量依存性効果が、コホート全体のCRPの平均AUC
0-D29の用量依存性の低下で観察された。CRPのT
minの用量依存性効果も、用量増加に伴い平均T
minの遅れが観察されるところで認められた。
図10を参照されたい。
IL-6:rHuPH20を含む又は含まないSC TCZの投与後、平均IL-6血清濃度は4コホートすべてで急速に上昇し、次いで時間とともに徐々に減少した。コホート1と2では、平均IL-6濃度はノミナルサンプル時間504時間でおよそのベースラインレベルに達したが、コホート4では平均IL-6血清濃度は、フォローアップサンプルで第40~43日目におよそのベースライン値に達した。コホート3では、平均IL-6値はノミナル時間672時間で上昇したが、濃度は不定期のフォローアップサンプルでおよそのベースライン値に戻った。
図11を参照されたい。
sIL-6R:rHuPH20を含む又は含まないSC TCZの投与後、平均sIL-6R血清濃度は全コホートで急速に上昇した。コホート1と2でノミナルサンプル時間240時間で最高濃度に達した後、平均sIL-6R濃度はノミナル時間672時間でおよそベースラインレベルに降下した。コホート4では、平均sIL-6R血清濃度はノミナル時間408時間での最高濃度後、フォローアップサンプルで第40日~43日にベースライン値に向けて減少した。コホート3では、平均sIL-6R血清濃度はTCZ投与後急速に上昇し、全サンプリングポイントを通じて上昇を続け、サンプル時間672時間で観察上最高濃度に達した。
図12を参照されたい。
【0238】
IL-6及びsIL-6Rのノンコンパートメントパラメーターについては、平均AUC0-D29はコホート全体で用量増加に伴い増加した。平均Cmaxは同様の用量依存性の増加を示した。観察された最高血中濃度到達時間(Tmax)は用量の増加に伴い長くなった。
【0239】
rHuPH20がPD応答に及ぼす影響をコホート1(TCZ162mg)とコホート2(TCZ 162mg/rHuPH20 1350U)で比較すると、濃度-時間プロフィールは3つのPDパラメーター(CRP、IL-6及びsIL-6R)すべてにおいて類似していた。平均PD(CRP、IL-6及びsIL-6R)AUC0-D29パラメーターは、コホート1と2の間で類似しており、AUC0-D29比率はCRP、IL-6及びsIL-6Rがそれぞれ99.6%、100%および97.4%であった。
【0240】
薬物動態の結果:
コホート1と2(TCZ162mg PH20有り又は無し)の結果は、rHuPH20の存在下でTmaxがより早く、曝露率がわずかに高い傾向があり(CmaxとAUC0-infのGMR[90%信頼区間]は、それぞれ1.45[1.24-1.70]と1.20[1.00-1.44])、排出相のTCZ血清濃度は2製剤で重ねることができた。rHuPH20を加えたコホート2では、TCZのPKパラメーターに明白な変動減少傾向(CV%)が認められた(rHuPH20のそれぞれ有る/無しで、Cmaxは17.4対32.4、AUC0-infは16.4対42.0)。
【0241】
648mgのTCZ/PH20投与後のコホート3では、TCZの平均Cmax及びAUC0-infは、コホート1(TCZ162mg)よりも約6.95倍及び約12.55倍高かったが、投与総量は4倍高いだけであり、TCZのPKの非用量比例性が示された。コホート3の被験者の不定期のフォローアップサンプル(実際の時間の平均1909±66.1時間)により、TCZ血清濃度は全被験者が定量化の限界よりも低いことが明らかになり、TCZ SCの単回用量が完全に排除されたことが示された。
【0242】
コホート4では、324mgのTCZ/PH20投与後、TCZの平均Cmax及びAUC0-infは、コホート1(TCZ162mg)よりも約3.85倍及び約4.44倍高かったが、投与総量は2倍高いだけであった。
【0243】
血漿rHuPH20濃度は、全被験者の測定点が定量化の限界よりも低く、酵素を同時投与剤用の局所浸透促進剤として使用しても定量化可能な全身性曝露はもたらされないことが示された。
【0244】
薬物動態/薬力学の関係:
sIL-6RとTCZ:sIL-6R濃度は、TCZが4コホートすべてでCmaxに達した後Cmaxに達したが、TCZ濃度が上昇し反時計回りのヒステリシス関係を生じたのでsIL-6R濃度の上昇に遅滞があった。TCZ Cmaxは、全コホートでTCZ投与後36~96時間内に達せられたが、sIL-6Rは、コホート1と2ではノミナル時間240時間で、コホート3ではノミナル時間672時間で、コホート4ではノミナル時間408時間でCmaxに達した。
C反応性タンパク質とTCZ:sIL-6Rと同様に、TCZ投与の結果CRP減少に遅れが生じた(すなわちTCZのCmax後CRP最下点に達した)。CRP最下点は、コホート1と2ではノミナル時間168時間及び240時間、コホート3と4では336時間で達したが、TCZ Cmaxは、全コホートでTCZ投与後36~96時間内に認められ、反時計回りのヒステリシス関係が生じた。
【0245】
安全性の結果:
報告のあった68件の有害事象のうち61件が、試験責任医師により試験薬の治療と関係ありうるかほとんど関係ない(remotely related)とされた。ほとんどが注射部位の有害事象であり、これはTCZとrHuPH20を受けた被験者のみ報告された。死亡、重篤な有害事象はなく、有害事象により試験から脱落した被験者もいなかった。有害事象の報告があった患者数、rHuPH20の有無、TCZ用量の間に関連はないと考えれらた。
【0246】
平均白血球数と好中球数を除いて、血液学的パラメーターの平均は、平均総ビリルビン、ALAT及びASAT濃度同様、試験の間中正常範囲にとどまった。平均白血球数と好中球数は試験終了時に標準範囲内に戻った。低好中球数はまた、試験の間報告された最も一般的で特徴的な臨床検査値異常であり、全治療群を通じて全員で30人の被験者の報告があった。著しく好中球数が少ない被験者8人では感染症も報告されたが、続発症はなかった。ほとんどの被験者のECG測定値とバイタルサインは試験の間中正常であった。血清IgE、IgG、IgM及びIgA濃度に臨床的変化は認められなかった。中和抗TCZ抗体が648mg TCZ/rHuPH20を受けている被験者2人に確認された。中和抗rHuPH20抗体を生じた被験者はいなかった。視覚的アナログスケール及び患者のカテゴリー別自己評価の結果、全コホートでSC注射の忍容性が示された。
【0247】
結論
薬物動態及び薬力学的結論
TCZをrHuPH20と共に投与した結果、曝露が僅かに増加し、コホート2(162mg TCZ/rHuPH20)のコホート1(162mg TCZ)に対する幾何学平均比(90%信頼区間)はAUC0-infとCmaxがそれぞれ1.20(1.00-1.44)と1.45(1.24-1.70)であり、rHuPH20が局所浸透促進剤として作用するという仮説が支持された。
rHuPH20の存在下でPK変動性が低い傾向が明白に観察された。
コホート3の4倍増のTCZ用量(648mg TCZ/PH20)の結果、コホート1の162mg TCZと比べて648mg TCZ/PH20ではAUC0-infは12.55倍、Cmaxは6.96倍であった。
コホート4の2倍増のTCZ用量(324mg TCZ/PH20)の結果、コホート1の162mg TCZと比べて324mg TCZ/PH20ではAUC0-infは4.44倍、Cmaxは3.85倍であった。
コホート4で評価したSC TCZ単回用量(324mg)は、平均AUC0-inf10800±3220μg・hr/mL、CD291.6±2.4μg/mL、Cmax43.8±12.4μg/mLであった。
コホート3で評価したSC TCZ単回用量(648mg)は、平均AUC0-inf29900±5280μg・hr/mL、CD2912.6±5.0μg/mL、Cmax77.8±14.5μg/mLであった。
PDマーカーとしてのsIL-6R、IL-6及びCRPへの影響は、TCZ162mgを含有するSC製剤はrHuPH20の有無にかかわらず同等であった。PDマーカーの用量依存性変化は、TCZ/rHuPH20の162mgから648mgへの増量で観察された。
【0248】
安全性の結論
rHuPH20の有無にかかわらずTCZのSC用量の重篤な有害事象は報告されなかった。
トシリズマブ治療は、治療の2日から5日以内の好中球の減少と関連があった。平均好中球数は、15日目からフォローアップにかけて用量依存的にベースラインまで戻った。
他の臨床パラメーターECG、免疫グロブリン濃度及びバイタルサインの記録はほとんどが試験の間中正常範囲内にとどまった。
2人の被験者で中和抗TCZ抗体が生じた。
中和抗rHuPH20抗体を生じた被験者はいなかった。
視覚的アナログスケール及び患者のカテゴリー別自己評価の結果、全コホートでSC注射の忍容性が示された。
【0249】
実施例6
sJIAにSQ投与される抗IL-6R抗体
この実施例は、全身型若年性突発性関節炎(sJIA)の治療のため皮下投与される抗IL-6R抗体(TCZ)の使用について記載する。TCZ180mg/mLを含有するがヒアルロニダーゼは含有しないTCZ製剤(実施例4の表2参照)がこの実施例で皮下投与される。
【0250】
これは第1b相の非盲検多施設協同試験であり、活動性sJIA患者に皮下投与した後のトシリズマブの薬物動態、薬力学、有効性及び安全性を検証する。この試験で治療される患者は、2歳から17歳までのの小児であり、sJIAの活動性が6か月以上持続しており、毒性または有効性の欠如によりNSAIDやコルチコステロイド(CS)に対する臨床的応答が不十分であった患者である。
【0251】
WA18221試験では、BW<30kgの患者には12mg/kg、BW≧30kgの患者には8mg/kgのTCZを2週ごとに12週間投与した。PK曝露は2つの体重群で同等であった(
図23A)。両BW群で同等のsIL-6Rプロフィール(
図23B)、CRP正常化パターン(
図23C)及びESRプロフィール(
図23D)が得られた。WA18221試験の同等のPK-PDプロフィールは、有効性と安全性が全体重範囲に渡り許容可能であるという結果をもたらした。TCZの治療を受けた患者全員の85.3%が第12週でJIA ACR30応答の一次評価項目と発熱なしを満たし、プラセボ患者の24.3%と比較して統計学的に有意差があった(p<0.0001)。第12週でJIA ACR30、50、70、90応答はそれぞれ90.7%、85.3%、70.7%、37.7%であったが、プラセボ群ではそれぞれ24.3%、10.8%、8.1%、5.4%であった。
【0252】
WA18221試験の用量が適切であったかをさらに検証するために、PK曝露-有効性の関係をPK曝露四分位により分析した。第12週でAUC
2週は第1四分位(849±147μg・日/ml)から第4四分位(1,925±187μg・日/ml)までに2.3倍増加した(表7)。第52週で、第4四分位(108±12μg/ml)のCminは第1四分位(30±16μg/ml)の3.6倍であった(表7)。この試験は各四分位の有効性を比較するほど強化されなかったが、JIA ACR30/50/70/90応答を獲得した患者の割合は4つの四分位を通して同等であると考えられ(表7)、各曝露は曝露-応答曲線のプラトーにあったことが示唆される。各四分位の限られたデータからは、第1四分位から第4四分位の高TCZ曝露(AUC
2週、C
maxまたはC
min)に伴うAEの多発や重篤なAEの明白な傾向は示されなかった(表8)。
【表7】
【表8】
【0253】
WA18221試験では、TCZ12mg/kgを<30kgの患者に、8mg/kgを≧30kgの患者にIV輸液で2週ごとに投与した。体重10.0~112.7kgの定常状態のC
min散布図(第12週)から、TCZ曝露は体重と無関係であることが示された(
図15)。平均PKモデルで予測したCminを表9にまとめた。
【表9】
【0254】
入手可能な皮下製剤は、1回の注射当たり0.9mLのTCZ162mgを送達する1mLのプレフィルドシリンジに入っている。従って、この試験のSC用量は、BW広範囲に渡るフラット用量レジメンである。この試験の初回用量は、モデリングとシミュレーションに基づき選択され、以下に説明される。
【0255】
WA18221試験では、IV投与後の薬物動態プロフィールは、中央コンパートメントからの飽和型(Michaelis-Menten排出)と非飽和型の両方の一次排出経路を有する2-コンパートメントモデルにより記述された。PK排出(dispositon)パラメーターは明白に特徴づけられた(総クリアランス(CL;L/d)、中央コンパートメントの分布量(Vc;L)、末梢コンパートメントの分布量(Vp;L)、コンパートメント間クリアランス(Q;L/d)、Michaelis-Menten定数(Km;mg/L)及び飽和可能な排出プロセスの最高速度(Vmax;mg/d))。NP22623試験ではTCZ162mgを全29人の成人RA患者に毎週(QW)又は隔週(Q2W)で12週間投与した。NP22623のPKデータの実験的モデリングにより、RA患者の皮下吸収PKパラメーターが提供された(吸収率定数Ka及びバイオアベイラビリティF)。これらの吸収PKパラメーターが小児sJIA患者の吸収PKパラメーターと同様であり、WA18221試験の排出PKパラメーターが投与経路とは無関係であるという前提で、定常状態までの反復投与後の<30kgおよび≧30kgのsJIA患者のPK曝露をシミュレートした。シミュレートしたIVおよびSC投与のPKプロフィールを
図14に示す。C
min値対体重をシミュレートしたPKモデルを
図15から18に示す。シミュレートしたPKプロフィールに基づいて計算したPKパラメーターを表9にまとめる。
【0256】
予想どおり、IV投与レジメンでは投与間隔の間ピーク濃度とトラフ濃度間で変動が大きかったが、SC投与ではピークとトラフ間の変動ははるかに小さい(
図14A及び14B)。
【0257】
PKシミュレーションに基づき、体重≧30kg 162mg QWのsJIA患者で得られた平均±SD C
min(58±20)はWA18221試験の58±23と同等である(表9)。個別のCminデータもまたWA18221試験の90%信頼限界内である(
図16から18)。
【0258】
PKシミュレーションに基づき、体重<30kg 162mg Q2W又は162mg QWの患者の平均±SD CminはWA18221試験の平均Cmin(58±23)よりそれぞれ低かった(29±13)又は高かった(100±35)。162mg Q2W投与については、全データがWA18221の最低-最高範囲内であるが、26%(38中10)のCmin値はWA18221試験の90%信頼下限より低い(
図16)。162mg QW投与については、21%(38中8)のCminデータがWA18221試験の90%信頼上限より高い(
図17)。
【0259】
PKモデルシミュレーションに基づき、体重<30kgの患者では、10日ごと(Q10D)の162mg SC注射は、WA18221試験のデータ(58±23)に匹敵する平均±SD Cmin(58±22)が得られると予測される(表9)。90%信頼境界の外は38中2(5%)のC
min値のみである(
図18)。
【0260】
従って、以下の治療プロトコールが使用される:
1群:体重(BW)≧30kgの患者はTCZ162mgの皮下(SC)注射を毎週(QW)14週間(13用量)受ける。N=12
2群:BW<30kgの患者はTCZ162mgのSC注射を10日ごとに(Q10D)14週間(9用量)受ける。N=12
【0261】
治療は14週間継続する。治療期間中、安定なNSAIDとMTXは試験の14週間の間変更なく続けられる。経口ステロイドの用量はベースラインでのTCZ初回投与から6週間まで一定している。ステロイドの減量は試験責任医師の判断により第6週以降許可される。CS減量については、週当たり20%を超える減量は推奨されない。試験責任医師は、安全上の理由による標準治療に従って、MTX、CS及び/又はNSAIDの同時治療をいつでも調節または中断しうる。フォローアップ来院は最後のSC投与後2、4及び8週目に行う。
【0262】
薬物動態パラメーターには、定常状態のCmax、Cmin、Tmax、T1/2及びAUCtが含まれる。
【0263】
薬力学パラメーターには、sIL-6R、CRP及び/又はESR濃度が含まれる。
【0264】
有効性は以下により評価される:
第14週で熱の有無にかかわらずJIA ACR30/50/70/90応答のある患者の割合;及び他の適切な有効性パラメーター。
【0265】
抗IL-6R抗体(TCZ)は、体重≧30kgのsJIA患者に毎週固定用量162mgで、例えば14週までSQ投与すると有効であると考えられる。
【0266】
さらに、抗IL-6R抗体(TCZ)は、体重<30kgのsJIA患者に10日±1日ごと(Q10D)に固定用量162mgで、例えば14週までSQ投与すると有効であると考えられる。代替投与レジメンには、162mg毎週(QW)または2週ごと(Q2W)を含む。
【0267】
実施例7
pcJIAにSQ投与される抗IL-6R抗体
抗IL-6R抗体(TCZ)を多関節型若年性突発性関節炎(pcJIA)患者に皮下投与する。実施例4の表2に開示のヒアルロニダーゼを含まないTCZ180mg/mLの製剤がここで投与される。
【0268】
これは第Ib相非盲検多施設協同試験であり、活動性pcJIA患者に皮下投与後のトシリズマブの薬物動態、薬力学、有効性及び安全性を検証する。この試験で治療される患者は、2歳から17歳の小児で、少なくとも5関節に活動性関節炎のある(少なくとも3関節の動きが制限された)少なくとも6か月の活動性pcJIA(リウマチ因子(RF)陽性若しくはRF陰性の多発関節炎サブセット又は伸長(extended)少数関節型JIAサブセットを含む)患者であり、有効性の欠如または毒性によりメトトレキサート(MTX)への応答が不十分であり、NSAID、低用量コルチコステロイド又は併用MTXを含むか又は含まない標準治療を受けている。
【0269】
この試験に参加した患者の30%までが、生物学的疾患修飾性抗リウマチ薬(生物学的DMARD)治療を以前受けていた可能性がある。
【0270】
日本人患者で実施されたMRA318JP第3相試験に基づき、日本ではTCZがpcJIA治療に承認されている。この試験の目的は、4週ごとに12週間のTCZ8mg/kgの輸液(3回の輸液)後のTCZの有効性、安全性、PK及びPDを決定することであった。pcJIA50又はpcJIA70スコアに達する確率で表された臨床的応答は、体重が重い患者よりも体重が軽い小児のほうが低いことが観察された。4週ごと12週間のTCZ8mg/kgの治療後:体重<30kgの患者の88%対体重≧30kgの患者の100%がpcJIA50スコアに達した(
図19A);体重<30kgの患者の38%対体重≧30kgの患者の80%がpcJIA70スコアに達した(
図19B)。
【0271】
JIA ACR応答率のこの顕著な差異は、体重が軽い患者、特に約30kg未満の患者では、TCZに対する全身的曝露(AUC
4週)が低いという目視での傾向と関連している。これに対し、体重が30kgを上回る患者では、曝露は多かれ少なかれ体重とは無関係と考えられた(
図20A)。
【0272】
MRA318 TCZのTCZのPKは、パラレル一次(線形CL)とMichaelis-Menten排出(非線形又は濃度依存性CL)動態を有する2-コンパートメント排出モデルで記述された。4週ごとに投与された用量8mg/kgについては、非線形CLのAUCに対する貢献度は小さく、Cmaxに対する関連の影響はなかった。TCZのPKに対する最も顕著な濃度依存性CLコンポーネントの影響は、Cminに観察された。Cmin値は、非線形CLコンポーネントの平均KM値に近かった。従って、Cmin値は、血清TCZ濃度の小さい変化が非線形CLの比較的大きい変化をもたらす濃度範囲にあった。
【0273】
図24A-Dは、12週間の治療中の経時PK、sIL-6R、CRP及びESRプロフィールを示す。sIL-6R濃度は経時的に増加し、第12週で安定状態に達した(
図24B)。CRP濃度は、次回投与までの間変動し、次回投与前に上昇した(
図24C)。ESRは第4週までに減少し、第8週以後は低レベルを維持した(
図24D)。PK-PD関係の分析で血清TCZ濃度が(1μg/mL)かそれよりも高いとき、CRP及びESRは低く、sIL-6R飽和度は高いことが示された。
【0274】
MRA318JP試験において、pcJIA患者へのTCZ8mg/kg IV Q4W投与後、第4、8、12週での次回輸液の前に、約35から39%の患者のTCZ Cminは<1μg/mLであった(表10)。MRA318JPの小児のほとんどが第12週でACR30の評価項目に達したが、CminのTCZ濃度が測定不能の小児は測定可能な小児と比べてJIA ACR70達成率がはるかに低いと考えられた(25%対73%)。CminのTCZが測定不能であり、最良の奏功性が得られない小児の大多数は、体重が軽かった(<30kg)。
【表10】
【0275】
集団PK解析はMRA318JPのデータ及びWA19977(患者数117人)の暫定PKデータに基づき行った。NP22623試験では、162mgのTCZを全29人の成人RA患者にQW又はQ2Wで12週間投与した。NP22623のPKデータの実験的モデリングにより、RA患者の皮下吸収PKパラメーター(吸収速度定数Ka及びバイオアベイラビリティF)を得た。これらの吸収PKパラメーターが小児pcJIA患者の吸収PKパラメーターと同様であり、WA19977試験の排出PKパラメーターは投与経路とは無関係であるという前提の下で、定常状態までの反復投与後のpcJIA患者<30kgと≧30kgのPK曝露をシミュレートした。シミュレートしたIVとSC投与のPKプロフィールをそれぞれ
図21Aと21Bに示す。定常状態での4週間の投与間隔の間のIVとSC投与後のTCZ濃度は、およそ同等であると考えられた。TCZ曝露パラメーター(AUC
4週、C
min及びC
max)をシミュレートしたモデルを表11に示す。BW<30kgとBW≧30kgの両方の患者のSC用量162mg Q2Wは、WA19977試験に匹敵するAUC
4週の産生に適切であると考えられた(表11)。従って、第1群の全患者に計画されるSC用量は、162mg Q2Wである。
【表11】
【0276】
従って、TCZ162mgをpcJIA患者(N=24)に2週ごとに(Q2W)皮下投与する。治療期間は14週間である。治療期間中、安定なNSAIDとMTXを14週間の試験の間中変更なしで継続する。安全上の理由以外でコルチコステロイド、NSAID又はメトトレキサートを減量できない。PK、PD、有効性のパラメーターを予定した時点で評価する。フォローアップ来院を最後のSC投与後4週間と8週間で実施する。
【0277】
抗IL-6R抗体(TCZ)は、162mg用量で2週ごとに(Q2W)SQ投与で、例えば14週まで、pcJIA患者に投与したとき有効であると予測された。
【0278】
実施例8
全身性硬化症にSQ投与される抗IL-6R抗体
これは、全身性硬化症(SSc)患者の第2/3相、多施設協同、無作為化、二重盲検、プラセボ対照、2アーム、並行群間試験である。ヒアルロニダーゼを含まずTCZ180mg/mLを含むTCZ製剤(実施例4の表2参照)をこの試験のSSc患者に皮下投与する。一次評価項目の修正Rodnanスキンスコア(mRSS)における第24週でのベースラインからの変化を第24週で評価する。48週間の盲検期間に続いて48週間の非盲検期間がある。
【0279】
患者は1:1の比率で無作為化され、162mgのSC TCZを毎週(QW)(A群)またはSCプラセボをQW(B群)のいずれかを48週間受ける。全患者が第24週に達すると一次分析を行う。
【0280】
第48週から、全患者はTCZ162mg皮下QWの非盲検治療を受け、プラセボ注射を受ける患者はいない。
【0281】
有効性パラメーターは、ベースラインから第96週まで、評価スケジュールに記載のとおりに評価される。
【0282】
標的集団
以下の条件を満たす患者を登録する:
試験プロトコールの要件を遵守し、インフォームドコンセントを文書で提出する能力及び意思がある
アメリカリウマチ学会診断基準(1980)に従いSScと診断されている
疾患期間≦60か月(最初の非リウマチ性現象の出現時からの時間として定義される)
ベースライン時の年齢≧18歳
スクリーニング来院時、≧15かつ≦40のmRSSユニット
以下の場所のうち1の非病変皮膚:
大腿部前側の中央部位
臍から直接2インチの範囲を除く臍より下の下腹部
上腕外側部分(介護者が患者に注射する場合)
基準Aと基準Bのそれぞれ少なくとも1に定義される活動性疾患:
スクリーニング時の基準A
過去1~6か月以内の前回来院時と比べスクリーニング時のmRSSユニットの増加が≧3
過去1~6か月以内の前回来院時と比べスクリーニング時に≧2のmRSSユニットを有する1新規身体領域の病変
過去1~6か月以内の前回来院時と比べスクリーニング時に≧1のmRSSユニットを有する2新規身体領域の病変
mRSSを用いた上記基準に記載の皮膚硬化の進行と一致する、過去1~6か月以内の前回来院時と比べスクリーニング時の皮膚硬化悪化の別の記述
スクリーニング時の1または複数のTFRの存在
スクリーニング時の基準B
高感受性C反応性タンパク質≧1mg/dL
赤血球沈降速度≧28mm/hr
血小板数(≧330×103/μL)
経口コルチコステロイド(≦10mg/日のプレドニゾンまたは等価物)の治療は、患者がベースライン時を含む≧2週間前から安定用量レジメンにある場合は許可される。
非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)の治療は、患者がベースライン時を含む≧2週間前から安定用量レジメンにある場合は許可される。
アンジオテンシン変換酵素阻害剤、カルシウムチャネルブロッカー、タンパク質ポンプ阻害剤及び/又は血管拡張剤は、患者がベースライン時を含む≧4週間前から安定用量にある場合は許可される。
妊娠の可能性のある女性患者の場合は、スクリーニング時及びベースライン来院時に妊娠検査が陰性でなければならない。
【0283】
有効性の結果測定
一次有効性評価項目は、ベースラインから第24週までの修正Rodnanスキンスコア(mRSS)の変化である。皮膚硬化は触診で評価され、17箇所でゼロ(正常)から3(重篤な皮膚硬化)までスコア付けされる。スコア総数は、個人の0~51ユニットの17身体領域(例えば顔、手、指、腕の近位部及び遠位部、胸部、腹部;脚の近位領域及び遠位領域、足)の合計皮膚スコアである。この手法はSSc患者に対し妥当とされている。
【0284】
この試験の二次有効性評価項目は、以下のとおりである:
強皮症の健康評価質問票を用いた機能障害指数(SHAQ-DI)スコアのベースラインから第24週と第48週の変化
ベースラインで関節に病変のある患者の、ベースラインから第24週と第48週の28圧痛関節数(TJC)の変化
医師による全般的評価のベースラインから第24週と第48週の変化
慢性疾患療法の機能評価-疲労(FACIT)-疲労スコアのベースラインから第24週と第48週の変化
掻痒5次元痒みスケール(Pruritus 5-D Itch Scale)のベースラインから第24週と第48週の変化
mRSSのベースラインから第48週の変化
mRSSのベースラインから第48週の変化が第24週の変化と同じかそれを上回る患者の割合
【0285】
本明細書に開示の皮下投与されるTCZは、開示のとおり、プラセボ療法の患者と比べて皮膚硬化症を改善し、身体機能を改善し、及び/又は治療を受けたSSc患者の臓器破壊の進行を遅滞させると予測される。例えば、TCZは一次有効性評価項目(第24週でmRSSの変化)及び/又は任意1または複数の二次評価項目を達成しよう。
【0286】
実施例9
巨細胞性動脈炎にSQ投与される抗IL-6R抗体
この実施例は、巨細胞性動脈炎(GCA)治療のために皮下投与される抗IL-6R抗体(TCZ)の使用について記載する。実施例4の表2に記載のヒアルロニダーゼを含まずTCZ180mg/mLを含むTCZ製剤を使用してGCA患者(新規発症又は難治性GCA)を治療する。
【0287】
GCA患者の治療プロトコールを
図22に示す。計画された試験は、GCAと診断された患者の多施設協同、無作為化、二重盲検、プラセボ対照試験である。患者は、新規発症または難治性(すなわち、過去のコルチコステロイド(CS)治療への応答が不十分だったGFCA患者)のいずれかでありうる。一次評価項目は、9か月目でCSフリーの寛解が維持されていることになる。寛解は兆候や症状のない、急性期応答の正常化と定義される。維持されるとは、寛解誘発後の再燃なしと定義される。9か月目で一次評価項目を達成する患者は、3か月以内の寛解を得、少なくとも6か月間は寛解を維持しており、CSの減量が可能であろう。9か月目の二次評価項目として、臨床的寛解からGCA疾患再燃までの時間、累積CS用量、クオリティオブライフ及び急性期反応物とヘモグロビンの変化が挙げられる。
【0288】
2用量の皮下投与TCZを使用する:
毎週(qw)162mg;及び
隔週(q2w)162mg。
【0289】
患者は2:1:1の比率(100:50:50)で無作為化され、162mgのSC TCZ qw、162mgのSC TCZ q2w又はSCプラセボのいずれかを二重盲検法で9か月間受ける。加えて、全患者は背景CS治療を受け、6か月に渡りCS減量レジメンに従う(表12参照)。難治性被験者は、その疾患を過去にコントロールした用量よりも10mg多い用量で試験に参加し、試験参加時のプレドニゾンの用量から定められるグルココルチコイド減量の試みを継続する。再燃がなければ、このスケジュールの結果グルココルチコイド用量は4か月後に5mgを下回り、6か月後にはグルココルチコイドは使用されないであろう。
【表12】
【0290】
9か月目、全患者は試験パート2(非盲検の延長)に参加しうる。一次評価項目を満たす患者は皮下注射の中止を要請され、応答の維持についてフォローされる。一次評価項目を満たさない患者は、試験責任医師指導の非盲検TCZを含みうる治療へのエスケープの選択肢がある。非盲検延長の目的は、GCAにおけるTCZの経過の長期的安全性及び有効性を記述し、TCZの長期的ステロイド節約効果及びCS関連有害事象の観点から続発症を記述し、9か月を超えてTCZ治療を維持するのに必要と思われる要件を記述することである。
【0291】
この試験の標的集団は、GCA成人患者である。新規発症及び再発/難治性GCA患者が適格であろう。
【0292】
GCAの診断は以下の基準に従う:
ウェスターグリーン赤血球沈降速度(ESR)>40mm/時間
GCAの明白な頭蓋の症状(新規発症の局所性頭痛、頭皮又は側頭部動脈の圧痛、虚血関連の失明又は他の理由では説明できない咀嚼に伴う口または顎の痛み)
以下のうち少なくとも1つ:
GCAの特徴を示す側頭部動脈の生検
朝の炎症性のこわばりに関連する肩帯及び又は腰帯の痛みとして定義されるリウマチ性多発筋痛症(PMR)の症状
磁気共鳴血管造影法(MRA)、コンピューター断層血管造影法(CTA)又は陽電子放出断層撮影-コンピューター断層血管造影法(PET-CTA)などの血管造影又は断面撮像研究による大血管の血管炎の証拠
【0293】
新規発症又は難治性GCAは以下の基準に従い分類される。
新規発症:ベースライン来院から4週間以内の活動性GCA診断(臨床的兆候又は症状及びESR>40mm/hr)(ベースライン来院時のCS開始(CS initiated)又は活動性疾患の活性に関わらず)
難治性:ベースライン来院の>4週間に診断され、CS治療に関わらずベースライン4週以内の活動性GCA(臨床的兆候又は症状及びESR>40mm/hr)
【0294】
本明細書に開示の皮下投与TCZは、例えばGCAの兆候及び症状の低減、臨床的寛解の維持及び/又はGCA患者に使用するコルチコステロイドの低減または中止など、効果的にGCAを治療することが予測される。