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特開2023-37369流体軸受モータ及び回転多面鏡及び画像形成装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023037369
(43)【公開日】2023-03-15
(54)【発明の名称】流体軸受モータ及び回転多面鏡及び画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   H02K 7/08 20060101AFI20230308BHJP
   G02B 26/12 20060101ALI20230308BHJP
   F16C 17/03 20060101ALI20230308BHJP
【FI】
H02K7/08 A
G02B26/12
F16C17/03
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021144071
(22)【出願日】2021-09-03
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100127111
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 修一
(72)【発明者】
【氏名】門脇 紀之
【テーマコード(参考)】
2H045
3J011
5H607
【Fターム(参考)】
2H045AA03
2H045AA06
2H045AA13
2H045AA14
2H045AA15
2H045AA23
2H045AA25
2H045AA33
2H045AA46
2H045BA02
2H045CA63
3J011AA20
3J011BA04
3J011CA02
3J011JA02
3J011KA02
5H607BB01
5H607BB07
5H607BB09
5H607BB14
5H607BB17
5H607CC01
5H607DD03
5H607GG01
5H607GG02
5H607GG12
5H607GG14
(57)【要約】
【課題】簡単な構成で回転体の浮上を有効に抑制でき、風切り音による騒音も有効に軽減可能な流体軸受モータ及びこれを用いた回転多面鏡及び画像形成装置を提供する。
【解決手段】軸40と軸40に一体的に固定された大径部45bと小径部45aとを有するフランジ45とを有する回転体33と、外形が大径部45bよりも大きく、中央部に小径部45aよりも大径の円形状の貫通穴48aを有する回転体収容部材48とを密閉空間47に設け、回転体33は、その外周面と貫通穴48aとの間に第1の隙間49が形成されるように小径部45aを貫通穴48aに遊嵌させると共に、大径部45bの下面と回転体収容部材48の上面との間に第2の隙間50が形成される態様で密閉空間47内に回転可能に配置され、回転体33の回転時に、密閉空間47内の空気が回転体33の下部から第1の隙間49及び第2の隙間50を経由して大径部45bの外周部側へと周方向に流れる気流53が形成される流体軸受モータ32。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉空間内で回転体を回転させる流体軸受モータにおいて、
前記回転体は、軸と、前記軸に一体的に固定された、大径部と小径部とを有するフランジとを有し、
外形が前記大径部よりも大きく、中央部に前記小径部よりも大径の円形状の貫通穴を有する回転体収容部材を前記密閉空間に設け、
前記回転体は、その外周面と前記貫通穴との間に第1の隙間が形成されるように前記小径部を前記貫通穴に遊嵌させると共に、前記大径部の下面と前記回転体収容部材の上面との間に第2の隙間が形成される態様で前記密閉空間内に回転可能に配置され、
前記回転体の回転時に、前記密閉空間内の空気が前記回転体の下部から前記第1の隙間及び前記第2の隙間を経由して前記大径部の外周部側へと周方向に流れる気流が形成される流体軸受モータ。
【請求項2】
請求項1記載の流体軸受モータにおいて、
前記回転体が封入されるステータとケースとを有し、
前記回転体が前記軸または前記フランジに一体化されたマグネットを有し、
前記ステータは、前記マグネットに駆動磁界を作用させる駆動コイルと、前記軸を支持する軸受部材と、前記軸及び前記軸受部材を保持するベース基板及びこれらが搭載されるハウジングとを有し、
前記ケースは、前記ステータと協働して前記密閉空間を形成することを特徴とする流体軸受モータ。
【請求項3】
請求項1または2記載の流体軸受モータにおいて、
前記軸は前記軸受部材が有する焼結含油軸受により回転自在に支持されていることを特徴とする流体軸受モータ。
【請求項4】
請求項1ないし3の何れか一つに記載の流体軸受モータにおいて、
前記軸はマルテンサイト系ステンレス鋼、前記フランジはアルミニウム合金からそれぞれ形成され、前記軸が前記フランジに焼き嵌めまたは圧入により固定されていることを特徴とする流体軸受モータ。
【請求項5】
請求項1ないし4の何れか一つに記載の流体軸受モータを用いた回転多面鏡であって、
前記大径部の外周面には複数の偏向反射面が形成され、前記密閉空間には光ビームが出入りする窓が形成され、前記窓はガラス板で覆われていることを特徴とする回転多面鏡。
【請求項6】
請求項5記載の回転多面鏡において、
前記密閉空間は請求項2記載のステータとケースとにより形成されていることを特徴とする回転多面鏡。
【請求項7】
請求項6記載の回転多面鏡において、
前記窓は前記ケースに形成されていることを特徴とする回転多面鏡。
【請求項8】
請求項6または7記載の回転多面鏡において、
前記ステータ及び前記ケース及び前記回転体によりユニット化されていることを特徴とする回転多面鏡。
【請求項9】
請求項1ないし4の何れか一つに記載の流体軸受モータを有することを特徴とする画像形成装置。
【請求項10】
請求項5ないし8の何れか一つに記載の回転多面鏡を有することを特徴とする画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体軸受モータ及び回転多面鏡及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタル複写機やレーザプリンタ等に用いられる光走査装置において、光ビームを高速で偏向させるため一般的に用いられる回転多面鏡は、高速で回転すると共に数千時間以上に及ぶ耐久性を要求される。このため、通常の転がり軸受を用いたモータによる駆動は困難であり、主に流体軸受モータによって駆動されている。
【0003】
流体軸受モータには、従来知られているように、回転体を高速で回転させたときに回転体の浮上が発生し易いという問題点がある。すなわち、駆動エネルギをできるだけ小さくして回転体の回転数を高めるためには回転体の回転能率を小さくする必要があり、このために回転体は可能な限り軽量に作製される。
このような回転体を密閉空間内で高速回転させると、回転体に接する空気も回転体と共に回転するため、空気に作用する遠心力により空気が回転体の外周部へと移動し、回転体の外周部側の気圧が高くなって回転体の軸上部に負圧を形成する。回転体が軽量であると、この負圧の作用で回転体の浮上が発生するのである。
【0004】
上述の回転多面鏡では、回転体の外周面が偏向反射面として形成されるが、回転体が浮上すると高速偏向される光ビームによる光スポットが副走査方向へ変動し易く、光走査におけるジター特性や振動特性の低下等といった悪影響を及ぼす。このような流体軸受モータにおける回転体の浮上を抑制する技術としては、「特許文献1」に記載された技術が知られている。
「特許文献1」に開示された流体軸受モータでは、上ケース上部下面に貫通穴を有する平板部材を取り付けて空気の循環通路を形成している。そして、軸上部から平板部材の貫通穴を通り、フランジ上面と平板部材との間をフランジ外周部側へ向かった後、フランジ外周部側から平板部材と上記面部分(密閉空間におけるフランジ上面に対向する面部分)との間を通って軸上部の空間へ環流する気流(密閉空間内に封入された空気等の気体の気流)が形成される。この構成により、軸上部近傍の負圧が有効に解消され、回転体の浮上が有効に抑制される。
【0005】
また、「特許文献2」には、軸受により支持され、モータにより回転駆動される回転体に多面鏡が固定された光偏向器において、前記モータは、周方向6極に着磁をされて回転体に固定されたリング状の永久磁石と、前記永久磁石の回転位置を検出する回転位置検出手段と、ステータコアに9つのコイルが固定されたステータ組立体とを備えた光偏向器が開示されている。
「特許文献2」記載の光偏向器によれば、コイルのリアクタンス(インダクタンス)による電圧降下を低減し、高速回転でのモータ効率を高め、消費電力を低減した光偏向器を提供できるとある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし昨今では、回転多面鏡として回転数40000rpmを超える高回転数が要求されており、このような高速回転を行った場合、上述した平板部材により形成された循環通路や空気流抑制手段では、高速気流の影響により平板部材が異音や振動を発生し易いという問題点がある。すなわち、循環通路や空気流抑制手段の効果によって回転体の浮上は抑えられるものの、回転体が高速回転して騒音が発生すると考えられる。このような場合には、高周波の騒音と共に主として10kHz以下のオーバオール騒音も大きくなり易いと考えられる。
本発明は、上述した問題点を解決し、簡単な構成で回転体の浮上を有効に抑制でき、風切り音による騒音も有効に軽減可能な流体軸受モータ及びこれを用いた回転多面鏡及び画像形成装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明は、密閉空間内で回転体を回転させる流体軸受モータにおいて、前記回転体は、軸と、前記軸に一体的に固定された、大径部と小径部とを有するフランジとを有し、外形が前記大径部よりも大きく、中央部に前記小径部よりも大径の円形状の貫通穴を有する回転体収容部材を前記密閉空間に設け、前記回転体は、その外周面と前記貫通穴との間に第1の隙間が形成されるように前記小径部を前記貫通穴に遊嵌させると共に、前記大径部の下面と前記回転体収容部材の上面との間に第2の隙間が形成される態様で前記密閉空間内に回転可能に配置され、前記回転体の回転時に、前記密閉空間内の空気が前記回転体の下部から前記第1の隙間及び前記第2の隙間を経由して前記大径部の外周部側へと周方向に流れる気流が形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、軸上部近傍の負圧が有効に解消され、回転体の浮上を防止でき、回転体が軸方向に上下揺動することなく安定した回転を実現できる。また、回転体収容部材は回転体側に風切り音の原因となる溝や凸部を有していないため、風切り音の発生を有効に抑制できる。これにより、回転多面鏡の浮上に伴うジター特性や振動特性の劣化がなく、風切り音が少ない静かな光ビーム偏向を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態を適用可能な画像形成装置の概略正面図である。
図2】本発明の一実施形態を適用可能な光走査装置の概略斜視図である。
図3】本発明の一実施形態に係る流体軸受モータとしての回転多面鏡を説明する概略断面図である。
図4図3に示した回転多面鏡のケース35の上部を除去してシャフト40及びフランジ45を含むロータ33と回転体収容部材48とを示す概略平面図である。
図5】本発明の一実施形態の構成及び平板部材を有する従来の構成におけるロータの回転数を15000~55000rpmの範囲で変化させてロータの浮上量(mm)を調べた結果を示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、本発明の一実施形態を適用可能な画像形成装置を示している。同図においてモノクロ画像を形成する画像形成装置1は、潜像担持体であるドラム状の感光体2と、感光体2上に形成された静電潜像にトナーを供給してトナー像を形成する現像手段である現像部3と、被記録媒体である用紙Pを供給する給紙部4とを有している。
【0011】
画像形成装置1は、外部に接続された上位装置5からの画像情報に基づいて、感光体2の表面に静電潜像を形成する露光手段としての光走査装置6を有している。
さらに画像形成装置1は、用紙Pを搬送して感光体2上に形成されたトナー像を感光体2と転写ローラ7とのニップ部である転写位置で用紙Pに転写する、転写手段である転写搬送部8を有している。
さらに画像形成装置1は、転写後の感光体2から残留トナーを除去するクリーニング装置9を有している。
【0012】
画像形成装置1は、給紙部4から給送された用紙Pを所定のタイミングで転写位置に給送するレジストローラ対10と、転写位置にてトナー像を転写された用紙Pのトナー像を定着する定着ユニット11とを有している。
さらに画像形成装置1は、定着ユニット11を通過してトナー像が定着された用紙Pを機外に排出する排紙部12と、CPU並びに不揮発性メモリ及び揮発性メモリを搭載した、上述した各部の動作を制御する制御手段としての制御部13とを有している。
【0013】
感光体2は円柱状の回転体であり、表面には光走査装置6から射出される各走査光の被走査面である感光層2aを有している。感光体2は装置本体14に回転自在に支持されており、図示しない駆動手段によって図1に矢印aで示す方向に回転駆動される。
給紙部4は、用紙Pを供給する手差し給紙部15と、手差し給紙部15に配置された用紙Pをレジストローラ対10に向けて給送する給紙ローラ16とを有している。
【0014】
光走査装置6は、射出した走査光によって感光層2aに静電潜像を形成する。なお、本実施形態では画像形成装置1がモノクロ画像を形成する画像形成装置であるため、装置本体14に光走査装置6が1個だけ設けられている。
画像形成装置としてカラー画像を形成可能なものが用いられる場合には、画像形成装置は、光走査装置としてイエロ、シアン、マゼンタ、ブラック各色のトナーに対応する静電潜像を形成する、それぞれ独立した複数の光走査装置を備えることとなる。
【0015】
現像部3は、現像剤担持体である現像ローラ17を有しており、現像ローラ17を用いて内部に収納されたトナーを感光層2a上に形成された静電潜像に付着させ、静電潜像を可視化させてトナー像を形成する。
転写ローラ7は、転写位置において感光体2に対向して配置され、感光層2a上に形成されたトナー像を用紙P上に転写させる。
【0016】
定着ユニット11は、熱源を内部に有する加熱ローラ18と、加熱ローラ18と圧接して定着位置である定着ニップを形成する加圧ローラ19とを有している。
定着ユニット11は、トナー像が転写された用紙Pを定着ニップに通すことで、熱と圧力との作用により転写されたトナー像を用紙Pの表面に定着させる。
加熱ローラ18は、アルミニウム製の円筒ローラと、円筒外周に形成されたシリコーンゴム層と、円筒内部に設けられた発熱器であるハロゲンヒータとを有している。
排紙部12は、対向して配置された一対の排紙ローラ対20と、排紙ローラ対20によって排出された用紙Pを保持する排紙トレイ21とを有している。
【0017】
制御部13は、CPU(Central Processing Unit)、メインメモリ(MEM-P)、ノースブリッジ(NB)、サウスブリッジ(SB)を有している。
さらに制御部13は、AGP(Accelerated Graphics Port)バス、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、ローカルメモリ(MEM-C)を有している。
さらに制御部13は、HD(Hard Disk)、HDD(Hard Disk Drive)、PCIバス、ネットワークI/Fを有している。
【0018】
CPUは、メインメモリに記憶されたプログラムに従ってデータを加工及び演算したり、上述した各部の動作を制御したりするものである。メインメモリは制御部13の記憶領域として働き、制御部13の各機能を実現させるプログラムやデータを記憶する。
ローカルメモリ(MEM-C)はコピー用画像バッファ及び符号バッファとして用いる。HDは、画像データの蓄積、印刷時に用いるフォントデータの蓄積、フォームの蓄積を行うためのストレージである。HDDはCPUの制御に従ってHDに対するデータの読み出しまたは書き込みを制御する。ネットワークI/Fは、通信ネットワークを介して情報処理装置等の外部機器に対して情報を送受信する。
制御部13は、通信ネットワーク等を介した例えばパソコン等の上位装置5との双方向通信を制御するための通信制御手段として機能する。さらに制御部13は、上位装置5から送られる画像データを光走査装置6に送る画像データ処理手段としても機能する。
【0019】
光走査装置6は、図2に示すように、走査光である光束Lからなるレーザ光の光源である面発光レーザアレイからなる光源ユニット22と、光源ユニット22から入射した光束Lをほぼ平行にするカップリングレンズ23とを有している。さらに光走査装置6は、カップリングレンズ23よりも光束Lの進行方向下流側に配置された開口板24と、シリンドリカルレンズ25とを有している。
また光走査装置6は、回転によって入射した光束Lを偏向する偏向器である回転多面鏡としてのポリゴンミラー26と、偏向された走査光の主走査方向への等角度運動を等速直線運動へと替える走査レンズとしてのfθレンズ27とを有している。
光走査装置6は、fθレンズ27を通過した光束Lの光路上に配置されたトロイダルレンズ28と、光束Lを反射によって所定の位置へ誘導するための2個のミラー29,30とを有している。さらに光走査装置6は、走査光の一部を同期用走査光として受光して画像の書き始め位置を決定するための同期検知手段31を有している。
【0020】
開口板24は開口部を有しており、カップリングレンズ23を透過した平行な光束Lのビーム径を規定する。シリンドリカルレンズ25は、開口板24の開口部を通過した光束Lを、ミラー29を介してポリゴンミラー26の偏向反射面近傍に集光する。
ポリゴンミラー26は、高さの低い正六角柱形状の部材からなり、側面には6面の偏向反射面が形成されている。ポリゴンミラー26は、図示しない駆動手段によって、矢印bで示す方向に一定の角速度で回転駆動される。
【0021】
次に、本発明の一実施形態に用いられる流体軸受モータについて説明する。図3は、本発明の流体軸受モータを回転多面鏡として実施した一実施形態を説明する図であり、回転多面鏡の中心断面図を示している。
図3において、流体軸受モータである回転多面鏡32は、回転体としてのロータ33と、ステータ34と、ケース35とを有し、外気に対して機密状態のアウタ回転型ブラシレスモータとして構成されている。
【0022】
ステータ34は、例えばアルミニウムで形成されたハウジング36にベース基板37を基板固定用の図示しないねじで固定し、ベース基板37に対して軸受部材38をカシメ固定して構成されている。軸受部材38の上部は中空円筒状に形成されており、その底部にスラスト板39が配置されてロータ33の軸であるシャフト40の下端部を回転自在に支持している。
シャフト40は、軸受部材38の中空円筒状部分の内部に設けられた焼結含油軸受41によって回転自在に支持されている。軸受部材38の中空円筒状部分の上端にはシール部材42が固定されており、軸受部材38内部からの潤滑油の飛散が防止されるように構成されている。軸受部材38の中空円筒状部分の外周部には、駆動コイル44を巻かれたコア43が接着固定されている。
なお、焼結含油軸受41による支持に代えて、空気動圧軸受、磁気軸受、流体油軸受等による軸受方式を採用してもよい。
【0023】
ロータ33は、シャフト40にフランジ45を固定し、フランジ45の下部に形成された小径部45a内の円筒状空間の内周下部に、多極磁着されたマグネット46を接着固定して構成されている。すなわち回転体であるロータ33は、軸であるシャフト40と、シャフト40に一体的に固定されたフランジ45とを有しており、シャフト40またはフランジ45に一体化されたマグネット46を有している。シャフト40はマルテンサイト系ステンレス鋼で、フランジ45はアルミニウム合金でそれぞれ形成されており、シャフト40はフランジ45の上部に焼き嵌めあるいは圧入されてフランジ45に対して固定されている。ステータ34は、マグネット46に駆動磁界を作用させる駆動コイル44と、シャフト40を支持する軸受部材38と、シャフト40及び軸受部材38を保持するベース基板37及びこれらが搭載されるハウジング36とを有している。
【0024】
マルテンサイト系ステンレス鋼(例えばSUS420J2)は焼き入れが可能であり表面硬度を高められるので、耐摩耗性が要求されるシャフト40の材料として好適である。シャフト40は、焼結材料からなる焼結含油軸受41の円筒内に嵌合されてラジアル方向を支持される。そしてシャフト40は、含浸された油の循環を効率よく行うという作用効果を得ると共に好適な軸受剛性を得るため、軸受隙間を直径で15μm以下(半径で7.5μm以下)に設定すると共に、図示しない動圧発生溝が設けられている。
動圧発生溝としては、公知である適宜の形態のものをシャフト40の外周面または焼結含油軸受41の円筒内周面に設けることができるが、加工性が良好な焼結含油軸受41側に設けることがより好適である。シャフト40の下端40aは球面加工が施されており、耐摩耗性樹脂で形成されたスラスト板39に接触してピボット軸受として機能する。
【0025】
フランジ45は回転多面鏡(ポリゴンミラー)のミラー部を形成しており、その大径部45bの外周面には6面の偏向反射面45cが形成されている。ロータ33は、ケース35及びステータ34を構成するハウジング36によって形成される密閉空間47内に配置され、外気と遮断される。密閉空間47内には流体が封入されており、この流体としては例えば気体が挙げられ、気体としては空気、窒素、ヘリウム、アルゴン等の気体が挙げられる。なお、流体としてはこれ等の気体には限定されない。
フランジ45の上部には突出部45dが形成されており、ケース35の突出部45dと対向する部位にはシャフト40及び突出部45dとの干渉を回避するための凹部35aが円形状に形成されている。
【0026】
密閉空間47内の、フランジ45の小径部45aの外方に位置する部位には、回転体収容部材48が配置されている。回転体収容部材48は、ステンレス鋼、その他の鋼材、アルミニウム合金、プラスチック類等の材質によって形成されており、その中央部に円形状の貫通穴48aを有している。回転体収容部材48は、その外形がケース35の内周面に嵌入可能に形成されており、貫通穴48aの直径は小径部45aの直径よりも若干大きくなるように形成されている。回転体収容部材48は、小径部45aを貫通穴48aに遊嵌させると共に大径部45bの下面とその上面との間に隙間が生じる態様で、ハウジング36に接着固定されて密閉空間47内に固定配置されている。
【0027】
すなわち回転体収容部材48は、回転体であるロータ33を構成するフランジ45を遊嵌させ、大径部45bの下面と、この下面に対向するその上面との間に間隙を介して近接させた状態で、密閉空間47内に固定して設けられている。
なお、貫通穴48aの形状は円形には限定されず、円形に近い多角形状であってもよい。この円形に近い多角形状は、例えばN≧6であるような正N角形が挙げられる。
【0028】
回転体収容部材48は、密閉空間47内に生じる気流によって振動しない程度に密閉空間47内に強固に固定されていればよく、上述した接着固定の他、円周カシメや溶接等の方式によって固定してもよい。ロータ33及び回転体収容部材48が密閉空間47内の所定位置に配置されたとき、小径部45aの外周面と貫通穴48aとの間に第1の隙間49が、また大径部45bの下面と回転収容部材48の上面との間に第2の隙間50がそれぞれ形成される。
密閉空間47を構成するケース35の側壁部には、偏向される光ビームの出入り、すなわち光源側から射出された光ビームを受け入れ、偏向反射面45cで偏向された光ビームを射出させるための窓51が形成され、窓51の外側のケース35の側壁部にはガラス板52が接着固定されている。
このように回転多面鏡32は、ステータ34及びケース35及びロータ33によってユニット化されている。この構成により、メンテナンス時や交換時における作業性を向上できる。
【0029】
小径部45aの内周面下部にマグネット46を固定する方法としては接着や圧入等が挙げられるが、ロータ33の高速回転時に生じる遠心力や温度変化によるバランス変化を抑制するためには圧入による固定が好適である。
コア43は、マグネット46の内面に対して適宜の隙間を介して対向配置されており、コア43の各磁極に巻成された駆動コイル44への通電を図示しない制御回路によって切り替えることにより、ロータ33を回転駆動する。
ロータ33を駆動して高速回転させると、光源側からの光ビームであるレーザビームは窓25を介して密閉空間47内に入射し、偏向反射面45cにより反射されて偏向しつつ窓25から射出される。
【0030】
図4は、図3に示した回転多面鏡32においてケース35の上部を除去し、シャフト40及びフランジ45を含むロータ33と回転体収容部材48とを示した平面図である。
ロータ33が高速で回転すると、図3に示すように、第2の隙間(大きさ0.3~3mm)の気体は遠心力によりフランジ45の外周部に向かって流れ、偏向反射面45cの近傍及びロータ33の上部が正圧となる。また、大径部45bの下面と回転収容部材48の上面との間の空間は負圧となる。この圧力関係により、密閉空間47内に気流53が生じる。
【0031】
すなわち気流53は、フランジ45の下面とステータ34とで囲われた密閉空間47内内の空気が、フランジ45の下部から第1の隙間49及び第2の隙間50を経由して大径部45bの外周部側へと周方向に流れることにより形成される。換言すると、回転多面鏡32は、ロータ33の回転時に、フランジ45の小径部45aの下部及び周面部から、大径部45bの下面と回転体収容部材48の上面との間を経由して、大径部45bの外周部側へと周方向に、流体が排出される気流53が形成されるように構成されている。この気流53の流れが密閉空間47内における圧力の偏りを解消する作用をなし、この作用によりシャフト40上部近傍の負圧が有効に解消され、ロータ33の浮上を防止でき、ロータ33が軸方向に上下揺動することなく安定した回転を実現できることが確認された。
また、回転体収容部材48はロータ33側に風切り音の原因となる溝や凸部を有していないため、風切り音の発生を有効に抑制できる。これにより、回転多面鏡の浮上に伴うジター特性や振動特性の劣化がなく、風切り音が少ない静かな光ビーム偏向を実現できる。
【0032】
ここで、第2の隙間50の大きさは上述したように0.3~3mm程度が好適である。第2の隙間50がこの範囲を超えて大きくなった場合及び小さくなった場合には、大径部45bの外周部側へ周方向に流れる気流53を有効に形成できない。また、第2の隙間50が3mmを超えて大きくなると、ロータ33を密閉する密閉空間47の高さが増大し、回転多面鏡32が大型化し易い。
また騒音は、10kHz以下のオーバオール値騒音も高周波騒音(本実施形態では6面体の回転多面鏡であるので回転成分の6倍の高周波になる)も共にその大きさが十分に小さいことが確認された。
【実施例0033】
ここで、図3及び図4に示した本発明の一実施形態の具体例について説明する。
フランジ45は、上述したように6面の偏向反射面45cを有するアルミニウム合金で形成し、マルテンサイト系ステンレス鋼により形成された直径3mmの円柱状のシャフト40に焼き嵌めした。ロータ33の重量は19gである。
シャフト40を支持する焼結含油軸受41の内周面には動圧発生溝を形成し、軸受隙間を直径で10μmに設定した。
【0034】
ポリゴンミラーとして機能するフランジ45は、各偏向反射面45cの内接円半径が36mmである。ケース35はアルミニウム製であり、その厚さは3~5mmである。ケース35とハウジング36とにより形成される密閉空間47は円柱状であり、直径60mm、高さ30mmである。凹部35aは直径16mm、深さ3mmである。
回転体収容部材48はアルミニウムや樹脂材料により形成され、厚さ10.3mm、直径60mm、貫通穴48aの直径は29mmである。
大径部45bの下面と回転収容部材48の上面との間の隙間、すなわち第2の隙間50の間隔は0.3mmであり、ガラス板52の厚さは2mmである。突出部45dの直径は12mmであり、突出部45dと凹部35aとの間隙は半径にして2mmである。
【0035】
上述した実施例の装置において、ロータ33の回転数を15000~55000rpmの範囲で変化させてロータ33の浮上量(mm)を調べたところ、図5に示す結果となった。図5に示すように、回転体収容部材48を設けたことにより、回転数15000~55000rpmの範囲でロータ33の浮上を実質的に防止できた。比較のため、回転体収容部材48に代えて「特許文献1」(特許第4758076号公報)に開示された平板部材を設けた場合の浮上量を調べた。この結果、図5に示すように、特に回転数45000rpmを超えると、回転体収容部材48を設けた場合よりも大きな浮上現象が生じることが判明した。
【0036】
上述した実施例の装置に対して、ガラス板52から500mm離れた位置に音響センサを設置し、10kHz以下のオーバオール騒音と6倍波(4596.4Hz)の騒音を調べたところ、オーバオール騒音は37.9dB、6倍波騒音は24.2dBであった。
上記比較例である平板部材を用いた回転多面鏡の場合には、オーバオール騒音は39.9dB、6倍波騒音は27.5dBであった。
このことから、回転体収容部材48の使用が、ロータ33の浮上を防止するだけでなく騒音低減の効果をも有することが判明した。
【0037】
上述した実施形態及び実施例で示した回転多面鏡は、密閉空間47内で回転体33を回転させる流体軸受モータ32であって、回転体33は、軸40と、軸40に一体的に固定された大径部45bと小径部45aとを有するフランジ45とを有し、外形が大径部45bよりも大きく、中央部に小径部45aよりも大径の円形状の貫通穴48aを有する回転体収容部材48を密閉空間47に設け、回転体33は、その外周面と貫通穴48aとの間に第1の隙間49が形成されるように小径部45aを貫通穴48aに遊嵌させると共に、大径部45bの下面と回転体収容部材48の上面との間に第2の隙間50が形成される態様で密閉空間47内に回転可能に配置され、回転体33の回転時に、密閉空間47内の空気が回転体33の下部から第1の隙間49及び第2の隙間50を経由して大径部45bの外周部側へと周方向に流れる気流53が形成される流体軸受モータ32である(請求項1)。
【0038】
また、回転体33が封入されるステータ34とケース35とを有し、回転体33が軸40またはフランジ45に一体化されたマグネット46を有し、ステータ34は、マグネット46に駆動磁界を作用させる駆動コイル44と、軸40を支持する軸受部材38と、軸40及び軸受部材38を保持するベース基板37及びこれらが搭載されるハウジング36とを有し、ケース35は、ステータ34と協働して密閉空間47を形成する流体軸受モータ32である(請求項2)。
また、軸40は軸受部材38が有する焼結含油軸受41により回転自在に支持されている流体軸受モータ32である(請求項3)。
また、軸40はマルテンサイト系ステンレス鋼、フランジ45はアルミニウム合金からそれぞれ形成され、軸40がフランジ45に焼き嵌めまたは圧入により固定されている流体軸受モータ32である(請求項4)。
【0039】
また、大径部45bの外周面には複数の偏向反射面45cが形成され、密閉空間47には光ビームが出入りする窓51が形成され、窓51はガラス板52で覆われている回転多面鏡32である(請求項5)。
また、密閉空間47は請求項2記載のステータ34とケース35とにより形成されている回転多面鏡32である(請求項6)。
また、窓51はケース35に形成されている回転多面鏡32である(請求項7)。
また、ステータ34及びケース35及び回転体33によりユニット化されている回転多面鏡32である(請求項8)。
【0040】
また、流体軸受モータを有することを特徴とする画像形成装置1である(請求項9)。
また、回転多面鏡を有することを特徴とする画像形成装置1である(請求項10)。
上述した実施形態に示した流体軸受モータである回転多面鏡32は、図1に示した画像形成装置1及び図2に示した光走査装置6において、回転多面鏡としてのポリゴンミラー26として適用可能である。
なお、上記実施形態で示したステータ34を構成するハウジング36は、図1に示した画像形成装置1において、光走査装置6を構成し内部にポリゴンミラー26と各種レンズからなる光学系とを収納する、光走査装置6の装置本体であってもよい。
【0041】
以上、本発明の好ましい実施の形態について説明したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、上述の説明で特に限定しない限り、特許請求の範囲に記載された本発明の趣旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
本発明の実施の形態に記載された効果は、本発明から生じる最も好適な効果を例示したに過ぎず、本発明による効果は、本発明の実施の形態に記載されたものに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0042】
1 画像形成装置
32 流体軸受モータ(回転多面鏡)
33 回転体(ロータ)
34 ステータ
35 ケース
36 ハウジング
37 ベース基板
38 軸受部材
40 軸(シャフト)
41 焼結含油軸受
44 駆動コイル
45 フランジ
45a 小径部
45b 大径部
45c 偏向反射面
46 マグネット
47 密閉空間
48 回転体収容部材
48a 貫通穴
49 第1の隙間
50 第2の隙間
51 窓
52 ガラス板
53 気流
【先行技術文献】
【特許文献】
【0043】
【特許文献1】特許第4758076号公報
【特許文献2】特開2006-259446号公報
図1
図2
図3
図4
図5