(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023037384
(43)【公開日】2023-03-15
(54)【発明の名称】セメントクリンカの製造方法、及びセメントクリンカの製造システム
(51)【国際特許分類】
C04B 7/44 20060101AFI20230308BHJP
C02F 11/00 20060101ALI20230308BHJP
C04B 7/24 20060101ALI20230308BHJP
C04B 7/38 20060101ALI20230308BHJP
B09B 3/40 20220101ALI20230308BHJP
【FI】
C04B7/44
C02F11/00 M ZAB
C02F11/00 N
C04B7/24
C04B7/38
B09B3/00 303M
B09B3/00 303Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021144090
(22)【出願日】2021-09-03
(71)【出願人】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼須賀 祐介
(72)【発明者】
【氏名】松井 洋高
(72)【発明者】
【氏名】中河 久典
(72)【発明者】
【氏名】上野 修
【テーマコード(参考)】
4D004
4D059
4G112
【Fターム(参考)】
4D004AA02
4D004AA50
4D004AC05
4D004BA02
4D004CA30
4D004CB09
4D004CB34
4D004CB37
4D004DA01
4D004DA02
4D004DA06
4D004DA11
4D059AA01
4D059AA03
4D059AA07
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4D059AA09
4D059BB02
4D059BB14
4D059CC04
4D059DA70
4D059EA09
4D059EA11
4D059EA20
4G112KA00
(57)【要約】
【課題】肉骨粉及び汚泥の処理量を増やしても、安定的にセメントクリンカを製造することが可能なセメントクリンカの製造システムを提供すること。
【解決手段】肉骨粉及び汚泥を含み、これらの少なくとも一方を主成分とする第1セメント原料を貯蔵する貯蔵タンク10と、第1セメント原料と、第1セメント原料よりも肉骨粉及び汚泥の含有量が低い第2セメント原料と、を焼成してセメントクリンカを得るセメントクリンカ焼成装置100と、を備えるセメントクリンカの製造システム200であって、第1セメント原料の色、臭気、及び第1セメント原料から生じるガス成分、から選ばれる少なくとも一つを検知する検知装置20と、検知装置20における検知結果に基づいて、セメントクリンカ焼成装置100の運転条件を調節する調節装置40と、を備える、セメントクリンカの製造システム200を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
肉骨粉及び汚泥を含み、これらの少なくとも一方を主成分とする第1セメント原料と、前記第1セメント原料よりも前記肉骨粉及び前記汚泥の合計含有量が低い第2セメント原料と、を用いるセメントクリンカの製造方法であって、
前記第1セメント原料の色、臭気、及び前記第1セメント原料から生じるガス成分、から選ばれる少なくとも一つを検知する検知工程と、
前記検知工程における検知結果に基づいて、セメントクリンカ焼成装置の運転条件を調節する調節工程と、を有する、セメントクリンカの製造方法。
【請求項2】
前記第1セメント原料を貯蔵するタンクに、前記肉骨粉と前記汚泥とを異なるタイミングで受け入れて前記第1セメント原料を得る原料受入工程を有する、請求項1に記載のセメントクリンカの製造方法。
【請求項3】
前記検知工程では、半導体式センサ、水晶振動子式センサ、赤外線吸収式センサ及びカラーセンサから選ばれる少なくとも一つを用いて前記検知結果を得る、請求項1又は2に記載のセメントクリンカの製造方法。
【請求項4】
前記調節工程では、前記第1セメント原料、前記第2セメント原料及び燃料から選ばれる少なくとも一つの前記セメントクリンカ焼成装置への供給量を調節する、請求項1~3のいずれか一項に記載のセメントクリンカの製造方法。
【請求項5】
肉骨粉及び汚泥を含み、これらの少なくとも一方を主成分とする第1セメント原料を貯蔵する貯蔵タンクと、
前記第1セメント原料と、前記第1セメント原料よりも前記肉骨粉及び前記汚泥の合計含有量が低い第2セメント原料と、を焼成してセメントクリンカを得るセメントクリンカ焼成装置と、を備えるセメントクリンカの製造システムであって、
前記第1セメント原料の色、臭気、及び前記第1セメント原料から生じるガス成分、から選ばれる少なくとも一つを検知する検知装置と、
前記検知装置における検知結果に基づいて、前記セメントクリンカ焼成装置の運転条件を調節する調節装置と、を備える、セメントクリンカの製造システム。
【請求項6】
前記検知装置は、半導体式センサ、水晶振動子式センサ、赤外線吸収式センサ及びカラーセンサから選ばれる少なくとも一つを有する、請求項5に記載のセメントクリンカの製造システム。
【請求項7】
前記調節装置は、前記第1セメント原料、前記第2セメント原料及び燃料から選ばれる少なくとも一つの前記セメントクリンカ焼成装置への供給量を調節する供給量調節部を有する、請求項5又は6に記載のセメントクリンカの製造システム。
【請求項8】
前記検知装置による前記検知結果が入力されるとともに、前記調節装置に前記検知結果に対応する制御信号を出力する制御装置を備える、請求項5~7のいずれか一項に記載のセメントクリンカの製造システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、セメントクリンカの製造方法、及びセメントクリンカの製造システムに関する。
【背景技術】
【0002】
セメントクリンカの製造システムでは、原料として、焼却灰、石炭灰、石灰石、鉄源、及びスラグ等の他に、種々の廃棄物が用いられている。セメントクリンカの製造システムで処理される廃棄物の種類は極めて広範囲に及んでおり、例えば、廃プラスチック、汚泥、及び、食品加工残渣等が挙げられる。このような廃棄物は種類によって性状が異なることから、次のような検討がなされている。
【0003】
特許文献1では、肉骨粉と有機汚泥とを混合する混合工程を有するセメントクリンカの製造方法が提案されている。この製造方法によれば、肉骨粉が有機汚泥に付着することによって、配管の内壁に付着する肉骨粉の油分の量が低下して、配管の閉塞を抑制することができる。特許文献2では、トナー、小麦粉、ポリマー粉、プラスチック粉、おが屑及び金属粉からなる群より選ばれる少なくとも一種である第1の粉体と、プラスチック粉及び木粉の少なくとも一方である第2の粉体と、汚泥とを混錬して、発熱量を安定化させる技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-168045号公報
【特許文献2】特開2018-167234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
セメントクリンカ焼成装置では、廃棄物の処理量が今後益々増加することが予想される。廃棄物の処理量が増えると、廃棄物の性状の変化が、セメントクリンカ焼成装置の運転変動及びセメントクリンカの性状変動の要因となることが懸念される。
【0006】
例えば、廃棄物の一種である肉骨粉は比較的高い発熱量を有するものの、CaO,SiO2,Al2O3,Fe2O3等の化学成分の含有量は少ない傾向にある。これに対し、廃棄物の一種である汚泥は、CaO又はAl2O3等の化学成分を多く含む場合があるものの、発熱量は総じて低い傾向にある。このため、各種廃棄物の配合割合が変わると、セメント原料の発熱量及び組成は大きく変動することとなる。このようなセメント原料の発熱量及び組成の変動は、セメントクリンカ焼成装置の運転状態及びセメントクリンカの性状に影響を及ぼすことが懸念される。そこで、本開示は、肉骨粉及び汚泥の処理量を増やしても、安定的にセメントクリンカを製造することが可能なセメントクリンカの製造方法及びセメントクリンカの製造システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、肉骨粉及び汚泥を含み、これらの少なくとも一方を主成分とする第1セメント原料と、第1セメント原料よりも肉骨粉及び汚泥の合計含有量が低い第2セメント原料と、を用いるセメントクリンカの製造方法であって、第1セメント原料の色、臭気、及び、第1セメント原料から生じるガス成分、から選ばれる少なくとも一つを検知する検知工程と、検知工程における検知結果に基づいて、セメントクリンカ焼成装置の運転条件を調節する調節工程と、を有する、セメントクリンカの製造方法を提供する。
【0008】
上記セメントクリンカの製造方法では、発熱量及び組成が互いに大きく異なる肉骨粉及び汚泥を含む第1セメント原料の色、臭気、及び、第1セメント原料から生じるガス成分、から選ばれる少なくとも一つを検知する検知工程を有している。肉骨粉の色は赤茶色であるのに対し、汚泥は灰色ないしは黒色である。このように両者は色が互いに大きく異なる。また、肉骨粉と汚泥の臭気も互いに大きく異なっており、これはそれぞれから生じるガス成分の違いに起因している。このように、肉骨粉と汚泥では外観、臭気及び生じるガス成分が大きく異なるところに着目し、検知工程における検知対象を、第1セメント原料の色、臭気及びガス成分から選ばれる少なくとも一つとしている。これによって、肉骨粉と汚泥の配合割合を精度よく反映した検知結果を得ることができる。このような検知結果に基づいて、セメントクリンカ焼成装置の運転条件を調節する調節工程を有することによって、肉骨粉及び汚泥の処理量を増やしても、安定的にセメントクリンカを製造することができる。
【0009】
上記セメントクリンカの製造方法は、第1セメント原料を貯蔵するタンクに、肉骨粉と汚泥とを異なるタイミングで受け入れて第1セメント原料を得る原料受入工程を有することが好ましい。肉骨粉と汚泥は、ともにタイプの異なる強い臭気を有することから、受け入れ設備には、密閉装置等の臭気対策を施す必要がある。原料受入工程を有する製造方法によれば、肉骨粉と汚泥の受け入れ設備を共用することによって、設備コスト及び稼働コストを低減することができる。なお、上記製造方法では、肉骨粉と汚泥の配合割合を精度よく反映する検知結果に基づいてセメントクリンカ焼成装置の運転条件を調節する調節工程を有している。このため、原料受入工程を有することによって肉骨粉と汚泥の配合割合が大きく変化しても、それに応じてセメントクリンカ焼成装置の運転条件を調節することによって、肉骨粉及び汚泥を安定的に処理し且つ安定的にセメントクリンカを製造することができる。
【0010】
上記検知工程では、半導体式センサ、水晶振動子式センサ、赤外線吸収式センサ及びカラーセンサから選ばれる少なくとも一つを用いて検知結果を得ることが好ましい。これによって、第1セメント原料において肉骨粉と汚泥の配合割合が変化したときに、その変化を速やかに検知してセメントクリンカ焼成装置の運転を調節することが可能となり、セメントクリンカの性状の変動を十分に抑制することができる。
【0011】
上記調節工程では、第1セメント原料、第2セメント原料及び燃料から選ばれる少なくとも一つのセメントクリンカ焼成装置への供給量を調節することが好ましい。これによって、検知工程における検知結果に基づいて、セメントクリンカ焼成装置の運転状態を速やかに調節することができる。
【0012】
本開示は、肉骨粉及び汚泥を含み、これらの少なくとも一方を主成分とする第1セメント原料を貯蔵する貯蔵タンクと、第1セメント原料と、第1セメント原料よりも肉骨粉及び汚泥の合計含有量が低い第2セメント原料と、を焼成してセメントクリンカを得るセメントクリンカ焼成装置と、を備えるセメントクリンカの製造システムであって、第1セメント原料の色、臭気、及び第1セメント原料から生じるガス成分、から選ばれる少なくとも一つを検知する検知装置と、検知装置における検知結果に基づいて、セメントクリンカ焼成装置の運転条件を調節する調節装置と、を備える、セメントクリンカの製造システムを提供する。
【0013】
上記セメントクリンカの製造システムでは、発熱量及び組成が互いに異なる肉骨粉及び汚泥を含む第1セメント原料の色、臭気、及び、第1セメント原料から生じるガス成分、から選ばれる少なくとも一つを検知する検知装置を備えている。肉骨粉の色は赤茶色であるのに対し、汚泥は灰色ないしは黒色である。このように両者は色が互いに大きく異なる。また、肉骨粉と汚泥の臭気も互いに大きく異なっており、これはそれぞれから生じるガス成分の違いに起因している。このように、肉骨粉と汚泥では外観、臭気及び生じるガス成分が大きく異なるところに着目し、検知装置における検知対象を、第1セメント原料の色、臭気及びガス成分から選ばれる少なくとも一つとしている。これによって、検知装置では肉骨粉と汚泥の配合割合を精度よく反映した検知結果を得ることができる。上記セメントクリンカの製造システムは、上記検知装置とその検知結果に基づいてセメントクリンカ焼成装置の運転条件を調節する調節装置を備えることから、肉骨粉及び汚泥の処理量を増やしても、安定的にセメントクリンカを製造することができる。
【0014】
上記検知装置は、半導体式センサ、水晶振動子式センサ、赤外線吸収式センサ及びカラーセンサから選ばれる少なくとも一つを有することが好ましい。これによって、第1セメント原料において肉骨粉と汚泥の配合割合が変化したときに、その変化を速やかに検知してセメントクリンカ焼成装置の運転を調節することが可能となり、セメントクリンカの性状の変動を十分に抑制することができる。
【0015】
上記調節装置は、第1セメント原料、第2セメント原料及び燃料から選ばれる少なくとも一つのセメントクリンカ焼成装置への供給量を調節する供給量調節部を有することが好ましい。これによって、検知装置における検知結果に基づいて、セメントクリンカ焼成装置の運転状態を速やかに調節することができる。
【0016】
上記セメントクリンカの製造システムは、検知装置による検知結果が入力されるとともに、調節装置に検知結果に対応する制御信号を出力する制御装置を備えることが好ましい。このような制御装置を備えることによって、検知装置の検知結果に基づいて、セメントクリンカ焼成装置の運転条件の調節を自動で速やかに行うことができる。
【発明の効果】
【0017】
本開示によれば、肉骨粉及び汚泥の処理量を増やしても、安定的にセメントクリンカを製造することが可能なセメントクリンカの製造方法及びセメントクリンカの製造システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】セメントクリンカの製造システムの一実施形態を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、場合により図面を参照して、本開示の一実施形態について説明する。ただし、以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。
【0020】
図1は、セメントクリンカの製造システムの一実施形態を模式的に示す図である。セメントクリンカの製造システム200は、肉骨粉及び汚泥を含み、これらの少なくとも一方を主成分とする第1セメント原料を貯蔵する貯蔵タンク10と、第1セメント原料と、第1セメント原料よりも肉骨粉及び汚泥の合計含有量が低い第2セメント原料を焼成してセメントクリンカを得るセメントクリンカ焼成装置100と、第1セメント原料の色、臭気、及び第1セメント原料から生じるガス成分、から選ばれる少なくとも一つを検知する検知装置20と、検知装置20における検知結果に基づいて、セメントクリンカ焼成装置100の運転条件を調節する調節装置40と、を備える。
【0021】
本明細書では、セメントクリンカ焼成装置100の導入されるセメント原料のうち、第1セメント原料以外のセメント原料を、纏めて第2セメント原料と称する。第2セメント原料における肉骨粉と汚泥の合計含有量は、セメントクリンカ焼成装置100の運転状態を十分に安定化させる観点から、好ましくは20質量%以下であり、より好ましくは10質量%以下であってよく、さらに好ましくは5質量%以下である。同様の観点から、第2セメント原料は、肉骨粉と汚泥を含まなくてもよい。第2セメント原料は、複数箇所から供給されてもよい。複数箇所から供給される第2セメント原料は、同一の原料であってもよいし、互いに異なっていてもよい。
【0022】
セメントクリンカ焼成装置100は、第2セメント原料の一部が導入される導入口101と、導入口101から導入された第2セメント原料を予熱する4つのサイクロンC1,C2,C3,C4(プレヒータ)と、第1セメント原料が導入されるとともに、第1セメント原料及び第2セメント原料を仮焼する仮焼炉130と、予熱及び仮焼された第1セメント原料及び第2セメント原料を焼成してセメントクリンカを生成するロータリーキルン140と、ロータリーキルン140で生成したセメントクリンカを冷却し、冷却されたセメントクリンカを導出するクリンカクーラ150とを備える。
【0023】
導入口101は、サイクロンC1とサイクロンC2との接続部に設けられている。導入口101から導入される第2セメント原料は、例えば、焼却灰、石炭灰、石灰石、鉄源、スラグ及び廃棄物からなる群より選ばれる少なくとも一種を含んでもよい。導入口101から導入された第2セメント原料は、サイクロンC1、サイクロンC2、サイクロンC3、ライジングダクト134、仮焼炉130、サイクロンC4を流通しながら加熱され、ロータリーキルン140の窯尻142に導入される。
【0024】
ロータリーキルン140の窯尻142と仮焼炉130はライジングダクト134で接続されている。ライジングダクト134には、ライジングダクト134内のキルン排ガスを抽気するプローブ136が接続されている。プローブ136の下流には、クーラー及びバグフィルタ等を有する塩素バイパス設備(不図示)が設置されており、プローブ136で抽気された抽気ガス(キルン排ガス)に含まれるダストが回収されるようになっている。このような塩素バイパス設備を有することによって、セメントクリンカ焼成装置100内から、塩素系化合物及びアルカリ等の揮発分を低減することができる。なお、変形例では、プローブ136は窯尻142に接続されていてもよいし、ライジングダクト134と窯尻142の境界部分に接続されていてもよい。
【0025】
仮焼炉130内の温度は、例えば850~890℃である。第1セメント原料は、肉骨粉及び汚泥の少なくとも一方を主成分としており、貯蔵タンク10に貯蔵される。この第1セメント原料は、貯蔵タンク10から、搬送路15、検知装置20及び搬送路25を経由して仮焼炉130に導入される。第1セメント原料における「主成分」とは、第1セメント原料に含まれる成分のうち、最も多い成分をいう。第1セメント原料の肉骨粉及び汚泥の合計含有量は、第2セメント原料の肉骨粉及び汚泥の合計含有量よりも高い。第1セメント原料における、肉骨粉及び汚泥の合計含有量は、70質量%以上であってよく、85質量%以上であってもよい。第1セメント原料は、肉骨粉及び汚泥以外に、例えば、廃棄物由来の固形物(RDF、RPF等)、プラスチック廃棄物(SR,ASR,CFRP)、木質系廃棄物、及び都市ゴミ等を含んでいてもよいし、肉骨粉及び汚泥のみを含んでいてもよい。
【0026】
肉骨粉は、例えば、牛の肉、内臓、脂肪及び骨を、粉砕して加熱及び圧搾し、油脂を抽出して得られる残渣を粉砕して得ることができる。通常は、赤茶色を有しており、発熱量は例えば16~18MJ/kgである。この発熱量は、汚泥よりも高い傾向にある。このため、エネルギー源として有用である一方で、肉骨粉に含まれる、セメントクリンカの製造に有用な化学成分(CaO,SiO2,Al2O3,Fe2O3等)の含有量は、汚泥よりも低い傾向にある。また、特有の臭気(獣臭)を有しており、臭気の要因としては、肉骨粉から生じるガス成分に、アンモニア、硫化水素、メチルメルカプタン等のメルカプタン類、硫化メチル、二硫化メチル、トリメチルアミン、及び酢酸等が含まれることが考えられる。ただし、ガス成分がこれらの成分の全てを含有しなくてもよいし、他の成分を含んでいてもよい。
【0027】
汚泥は、熱量の観点から有機汚泥を含有することが好ましい。有機汚泥としては、下水汚泥、し尿系汚泥、工場排水汚泥、アオコ、底泥及び食品加工残渣(肉骨粉は除く)等が挙げられる。汚泥は、水を含有していてもよい。汚泥の含水量は、例えば10~40質量%であってよい、汚泥は、窒素分、リン酸等のリン化合物、CaO及びAl2O3等の無機物の他に、炭水化物、タンパク質、脂質等の種々の有機物を含み得る。下水の臭気成分としては、イソドール、スカトール、メーテルピネオール、ジメチルベソジルアルコール、及びクレゾール等が挙げられる。
【0028】
汚泥は、臭気成分として上記以外にも種々の成分を含有し得るが、その種類によらず、概ねトイレ臭、下水臭又はドブ臭のような臭気を有しており、肉骨粉の臭気(獣臭)とは明らかに異なっている。このように肉骨粉と汚泥の臭気が互いに異なるのは、それぞれから生じるガス成分の種類又は濃度が異なることに起因している。
【0029】
第1セメント原料を貯蔵する貯蔵タンク10は、例えば車両によって搬送される肉骨粉及び汚泥をそれぞれ受け入れる。汚泥及び肉骨粉は、通常別の車両によって搬送されるため、貯蔵タンク10は肉骨粉及び汚泥を、互いに異なるタイミングで受け入れてもよい。臭気対策のため、車両から貯蔵タンク10に肉骨粉又は汚泥を受け入れる際、当該車両と貯蔵タンク10は、建屋等の密閉空間内に収容されるようになっていてもよい。貯蔵タンク10に、汚泥及び肉骨粉の両方を受け入れることによって、このような臭気対策に要する設備コスト及び運転コストを低減することができる。なお、貯蔵タンク10は、肉骨粉及び汚泥以外のセメント原料を受け入れてもよい。
【0030】
貯蔵タンク10に収容された第1セメント原料は、例えば密閉構造を有するフライトコンベア等で構成される搬送路15によって検知装置20に搬送される。搬送路15は、第1セメント原料の流通量を調節するための調節部、ホッパー、及び、検知装置20に第1セメント原料を定量供給するためのフィーダ等を有していてよい。
【0031】
検知装置20では、色、臭気、又は第1セメント原料から生じるガス成分が検知される。汚泥及び肉骨粉は互いに異なる色を有するため、色を検知すれば、汚泥と肉骨粉の配合割合を高い精度で求めることができる。色を検知する場合、検知装置20は、色を検知することが可能なセンサを有する。センサとしては、例えば、R(赤)、G(緑)及びB(青)のフォトダイオードを備えるカラーセンサが挙げられる。カラーセンサで第1セメント原料を直接観察して色を検知してもよいし、カメラ等で第1セメント原料の画像を撮影し、必要に応じて画像処理を行って色を検知してもよい。
【0032】
汚泥及び肉骨粉は互いに異なる臭気を有するため、臭気を検知することによっても、汚泥と肉骨粉の配合割合を高い精度で求めることができる。臭気を検知する場合、検知装置20は、臭気(におい)を検知することが可能なセンサを有する。そのようなセンサとしては、例えば、におい分子を検知する半導体式においセンサ、及び、水晶振動子式においセンサ等が挙げられる。半導体式においセンサでは、抵抗値の変化に基づいて、臭気の変化を検知することができる。水晶振動子式においセンサでは、共振周波数の変化に基づいて、臭気の変化を検知することができる。
【0033】
臭気は、ガス成分の種類及び濃度に起因するため、ガス成分を検知することによっても、汚泥と肉骨粉の配合割合を高い精度で求めることができる。検知するガス成分の種類は、貯蔵タンク10で受け入れる汚泥及び肉骨粉の臭気又は性状に応じて変えてもよい。ガス成分を検知する場合、検知装置20は、ガス成分を検知することが可能なセンサを有する。迅速且つ高精度に検知可能とする観点から、物理現象を利用したもの、又は、物理現象と化学反応の両方を利用したものを用いることが好ましい。具体的には、接触燃焼式センサ、半導体式センサ、水晶振動子式センサ、熱伝導度式センサ、赤外線吸収式センサ、及び紫外線吸収式センサ等が挙げられる。
【0034】
検知装置20は、色、臭気、及びガス成分のうちの一つを検知するものに限られず、例えば、複数のセンサを組み合わせて、色、臭気、及びガス成分から選ばれる二つ、又は三つの全てを検知するように構成されてもよいし、さらに別の検知手段を組み合わせてもよい。このようにして、検知精度を向上することができる。検知装置20は、検知対象物である第1セメント原料の色、臭気、又はガス成分が検知可能な構成であればよい。例えば、コンベア上を流通する第1セメント原料の周囲に色、臭気、又はガス成分を検知するセンサを配置してもよい。また、第1セメント原料を搬送する密閉構造の搬送路にのぞき窓を設けて、のぞき窓から色を検知するようにしてもよいし、搬送路にセンサを挿入して、色、臭気、又はガス成分を検知するようにしてもよい。
【0035】
第1セメント原料は、検知装置20で色、臭気、及びガス成分から選ばれる少なくとも一つが検知された後、例えば密閉構造を有するフライトコンベアで構成される搬送路25を流通してセメントクリンカ焼成装置100の仮焼炉130に導入される。搬送路25は、第1セメント原料の流通量を調節するための調節部、ホッパー、及び、フィーダ等を有していてよい。
【0036】
検知装置20で、色、臭気、及びガス成分から選ばれる少なくとも一つを検知して得られる検知結果は、セメントクリンカ焼成装置100の運転条件の調節に用いられる。具体的には、検知結果は制御装置30に入力される。制御装置30は、検知結果に関わる信号に基づいて、セメントクリンカ焼成装置100の運転条件を調節する調節装置40を調節するための制御信号を出力するものである。制御装置30は、例えば、信号を入出力するための入出力インターフェース、CPU(Central Processing Unit)、及び記憶部等を有していてよい。記憶部には、検知装置20の検知結果の入力信号に応じて、調節装置40を調節するための制御信号を算出する関数又はテーブルデータが記憶されていてよい。
【0037】
セメントクリンカの製造システムは、調節装置40として、4つの供給量調節部41,42,43,44を有する。第1供給量調節部41は、仮焼炉130に導入される第2セメント原料の供給量を調節する。ここで供給量が調節される第2セメント原料は、肉骨粉及び汚泥以外の廃棄物を含んでいてよい。そのような廃棄物としては、焼却灰等の燃え殻、ダスト類、バイオマス、プラスチック廃棄物(SR,ASR,CFRP)、木質系廃棄物、及び都市ゴミ等が挙げられる。第1供給量調節部41は、制御装置30から出力される検知結果に対応する制御信号に基づいて、第2セメント原料の供給量を調節する。これによって、セメントクリンカ焼成装置100の運転条件が調節される。第2セメント原料は、
廃棄物由来の固形物(RDF、RPF等)を含んでいてもよい。
【0038】
第2供給量調節部42は、仮焼炉130に導入される燃料の供給量を調節する。燃料としては、重油、微粉炭等の石炭、及び石油コークス等が挙げられる。第2供給量調節部42は、制御装置30からの制御信号に基づいて、第2供給量調節部42の下流に設けられるバーナへの燃料供給量を調節する。これによって、セメントクリンカ焼成装置100の運転条件が調節される。
【0039】
例えば、第1セメント原料において、肉骨粉に対する汚泥の割合が高くなると、第1セメント原料によってセメントクリンカ焼成装置100に持ち込まれるエネルギーが減少する。この場合には、第1供給量調節部41からの第2セメント原料の供給量、及び/又は、第2供給量調節部42からの燃料の供給量を増やすことによって、減少したエネルギーを補填し、仮焼炉130及びロータリーキルン140の温度低下を抑制することができる。
【0040】
第3供給量調節部43は、仮焼炉130に導入される第1セメント原料の供給量を調節する。例えば、第1セメント原料において、肉骨粉に対する汚泥の割合が上限を超えた場合に、第1セメント原料の供給量を調節することによって、仮焼炉130及びロータリーキルン140の温度低下等を回避することができる。第3供給量調節部43を備えることによって、セメントクリンカ焼成装置100の運転条件に応じて、肉骨粉及び汚泥の供給量を十分に増やすことができる。これによって、肉骨粉及び汚泥を最大限活用して、資源の有効活用を図ることができる。
【0041】
第4供給量調節部44は、ロータリーキルン140を加熱するバーナ144への燃料の供給量を調節する。燃料としては、重油、微粉炭等の石炭及び石油コークス等の化石燃料が挙げられる。例えば、第1セメント原料において、肉骨粉に対する汚泥の割合が上限を超えた場合に、第4供給量調節部44によって燃料の供給量を調節することによって、仮焼炉130及びロータリーキルン140の温度低下等を回避することができる。
【0042】
セメントクリンカの製造システム200は、4つの供給量調節部41,42,43,44を有するが、これに限定されない。例えば、4つの供給量調節部41,42,43,44の少なくとも一つを有していてもよく、これらに代えて又はこれらに加えて、別の供給量調節部を設けてもよい。そのような供給量調節部として、例えば、導入口101から導入される第2セメント原料の供給量を調節する供給量調節部を設けてもよい。供給量調節部を複数有する場合、制御装置30では、予め設定された優先順位に基づいて一つの供給量調節部を選択して調節を行ってよい。そして、最も優先順位が高い供給量調節部が上限又は下限に到達して、それ以上又はそれ以下の調節ができない場合に、次の優先順位に設定された供給量調節部で調節を行ってよい。
【0043】
上述のような供給量調節部を備えるため、ロータリーキルン140では、第1セメント原料及び第2セメント原料を安定的に加熱することができる。ロータリーキルン140では、予熱及び仮焼された第1セメント原料及び第2セメント原料が、ロータリーキルン140の一端に設けられたバーナ144の燃焼によって例えば1300~1450℃に加熱されてセメントクリンカとなる。ロータリーキルン140で生成したセメントクリンカは、クリンカクーラ150で、塩素バイパス設備から導出される脱塵排ガス及び外気等の冷却風によって冷却されてよい。セメントクリンカは、クリンカクーラ150で冷却された後、セメントクリンカ焼成装置100から導出される。このようにして得られるセメントクリンカは十分に安定した品質を有する。
【0044】
セメントクリンカの製造システム200は、検知装置20において、第1セメント原料の色、臭気及びガス成分から選ばれる少なくとも一つを検知する。第1セメント原料に含まれる肉骨粉と汚泥では、外観、臭気及び生じるガス成分が大きく異なることから、検知装置20では、肉骨粉と汚泥の配合割合を精度よく反映した検知結果を得ることができる。調節装置40は、このような高精度の検知結果に基づいて、セメントクリンカ焼成装置の運転条件を調節する。このため、第1セメント原料における肉骨粉と汚泥との配合比が大きく変化しても、安定的にセメントクリンカの製造システム200の運転を継続することができる。したがって、肉骨粉と汚泥の処理量を増やしても、安定的にセメントクリンカを製造することができる。
【0045】
一実施形態に係るセメントクリンカの製造方法は、セメントクリンカの製造システム200を用いる。すなわち、本実施形態の製造方法では、第1セメント原料と第2セメント原料とを用いるセメントクリンカの製造方法であって、検知装置20において第1セメント原料の色、臭気、及び第1セメント原料から生じるガス成分から選ばれる少なくとも一つを検知する検知工程と、検知工程における検知結果に基づいて、調節装置40によってセメントクリンカ焼成装置の運転条件を調節する調節工程と、を有する。
【0046】
各工程は、上述のセメントクリンカの製造システム200の説明内容に基づいて行うことができる。したがって、セメントクリンカの製造システム200の説明内容は、本実施形態のセメントクリンカの製造方法にも適用される。例えば、調節工程では、検知結果が入力される制御装置30から出力される制御信号によって、供給量調節部41,42,43,44の少なくとも一つを調節して、第1セメント原料、第2セメント原料及び燃料から選ばれる少なくとも一つのセメントクリンカ焼成装置100への供給量を調節してもよい。
【0047】
貯蔵タンク10に、肉骨粉と汚泥とを異なるタイミングで受け入れて第1セメント原料を得る原料受入工程を有していてもよい。この場合、貯蔵タンク10には、組成の偏りが生じることとなるが、検知工程の検知結果に基づいて、調節工程でセメントクリンカ焼成装置100の運転条件を調節することによって、肉骨粉及び汚泥の処理量を増やしても、安定的にセメントクリンカを製造することができる。
【0048】
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に何ら限定されるものではない。例えば、セメントクリンカの製造方法は、セメントクリンカの製造システム200とは異なるセメントクリンカの製造システムを用いて行ってもよい。第1セメント原料の全量を仮焼炉に供給することは必須ではなく、例えば、第1セメント原料の一部又は全量を、導入口101又は別の導入口から供給してもよい。別の導入口は、例えばプレヒータ部に設けてもよい。また、セメントクリンカの製造方法の説明内容は、セメントクリンカの製造システム200及びその変形例にも適用される。また、上記実施形態のセメントクリンカの製造システム200におけるセメントクリンカ焼成装置100は、4つのサイクロンを備えているがこれに限定されない。すなわち、サイクロンの数は、3基以下であってもよいし、5基以上であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本開示によれば、肉骨粉及び汚泥の処理量を増やしても、安定的にセメントクリンカを製造することが可能なセメントクリンカの製造方法及びセメントクリンカの製造システムを提供することができる。
【符号の説明】
【0050】
10…貯蔵タンク、15,25…搬送路、20…検知装置、30…制御装置、40…調節装置、41…供給量調節部(第1供給量調節部)、42…供給量調節部(第2供給量調節部)、43…供給量調節部(第3供給量調節部)、44…供給量調節部(第4供給量調節部)、100…セメントクリンカ焼成装置、101…導入口、130…仮焼炉、134…ライジングダクト、136…プローブ、140…ロータリーキルン、142…窯尻、144…バーナ、150…クリンカクーラ、200…製造システム、C1,C2,C3,C4…サイクロン。