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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023037487
(43)【公開日】2023-03-15
(54)【発明の名称】アップコンバージョン構造体
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/35 20060101AFI20230308BHJP
   F21V 9/30 20180101ALI20230308BHJP
【FI】
G02F1/35
F21V9/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021144270
(22)【出願日】2021-09-03
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2019年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発発機構「NEDO先導研究プログラム/エネルギー・環境新技術先導研究プログラム/太陽光の超広帯域利用のための有機・無機複合波長変換シートの開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(74)【代理人】
【識別番号】100176337
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】篠崎 健二
(72)【発明者】
【氏名】三原 敏行
(72)【発明者】
【氏名】金高 健二
【テーマコード(参考)】
2K102
【Fターム(参考)】
2K102BA18
2K102BB02
2K102BC01
2K102DA17
2K102DC09
2K102DD07
2K102DD09
2K102EB10
2K102EB20
(57)【要約】
【課題】低いエネルギー密度の光を好適にアップコンバージョン発光できるアップコンバージョン構造体を提供する。
【解決手段】アップコンバージョン構造体は、アレイ状に配置される複数のアップコンバージョンユニットを含み、前記複数のアップコンバージョンユニットは、集光レンズと、前記集光レンズを透過した光をアップコンバージョン発光させる微小球と、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アレイ状に配置される複数のアップコンバージョンユニットを含み、
前記複数のアップコンバージョンユニットは、集光レンズと、前記集光レンズを透過した光をアップコンバージョン発光させる微小球と、を有する
アップコンバージョン構造体。
【請求項2】
前記複数のアップコンバージョンユニットを支持する基板をさらに備え、
前記基板は、前記微小球を収容する複数の凹部を有する
請求項1に記載のアップコンバージョン構造体。
【請求項3】
平面視における前記凹部の開口の形状は、正六角形、正方形、または、長方形である
請求項2に記載のアップコンバージョン構造体。
【請求項4】
前記基板は、前記微小球によってアップコンバージョン発光された光を反射する材料によって構成される
請求項2または3に記載のアップコンバージョン構造体。
【請求項5】
前記基板は、前記微小球によってアップコンバージョン発光された光を透過する材料によって構成される
請求項2または3に記載のアップコンバージョン構造体。
【請求項6】
前記微小球は、700nm~1500nmの波長の光を吸収するように構成される
請求項1~5のいずれか一項に記載のアップコンバージョン構造体。
【請求項7】
前記微小球は、希土類イオン、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、および、フッ素イオンを含む結晶を含有する
請求項1~5のいずれか一項に記載のアップコンバージョン構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アップコンバージョン構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、光源から照射される光をアップコンバージョン発光するアップコンバージョン構造体を開示している。特許文献1のアップコンバージョン構造体は、励起光源から出力されるレーザを集光する集光レンズと、集光レンズを透過した光をアップコンバージョン発光させる微小球結晶と、を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2908681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記アップコンバージョン構造体では、比較的高いエネルギー密度であるレーザに含まれる長い波長の光をアップコンバージョン発光させている。しかし、例えば、太陽光、赤外線等の比較的低いエネルギー密度の光に含まれる長い波長の光をアップコンバージョン発光する点については、検討されていない。
【0005】
本発明は、低いエネルギー密度の光を好適にアップコンバージョン発光できるアップコンバージョン構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1観点に係るアップコンバージョン構造体は、アレイ状に配置される複数のアップコンバージョンユニットを含み、前記複数のアップコンバージョンユニットは、集光レンズと、前記集光レンズを透過した光をアップコンバージョン発光させる微小球と、を有する。
【0007】
本発明の第2観点に係るアップコンバージョン構造体は、第1観点に係るアップコンバージョン構造体であって、前記複数のアップコンバージョンユニットを支持する基板をさらに備え、前記基板は、前記微小球を収容する複数の凹部を有する。
【0008】
本発明の第3観点に係るアップコンバージョン構造体は、第2観点に係るアップコンバージョン構造体であって、平面視における前記凹部の開口の形状は、正六角形、正方形、または、長方形である。
【0009】
本発明の第4観点に係るアップコンバージョン構造体は、第2観点または第3観点に係るアップコンバージョン構造体であって、前記基板は、前記微小球によってアップコンバージョン発光された光を反射する材料によって構成される。
【0010】
本発明の第5観点に係るアップコンバージョン構造体は、第2観点または第3観点に係るアップコンバージョン構造体であって、前記基板は、前記微小球によってアップコンバージョン発光された光を透過する材料によって構成される。
【0011】
本発明の第6観点に係るアップコンバージョン構造体は、第1観点から第5観点のいずれか1つに係るアップコンバージョン構造体であって、前記微小球は、700nm~1500nmの波長の光を吸収するように構成される。
【0012】
本発明の第7観点に係るアップコンバージョン構造体は、第1観点から第6観点のいずれか1つに係るアップコンバージョン構造体であって、前記微小球は、希土類イオン、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、および、フッ素イオンを含む結晶を含有する。
【発明の効果】
【0013】
本発明に関するアップコンバージョン構造体によれば、低いエネルギー密度の光を好適にアップコンバージョン発光できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態のアップコンバージョン構造体の平面図。
図2図1のD2-D2線に沿う断面図。
図3】試験用のアップコンバージョン構造体の斜視図。
図4図3の試験用のアップコンバージョン構造体に光を照射する光源の底面図。
図5A図1の微小球の製造装置の模式図。
図5B図1の微小球の球断面を透過電子顕微鏡で観察した明視野像。
図5C図1の微小球の電子線回折パターン。
図6】微小球の特性を計測する計測装置の模式図。
図7】微小球によってアップコンバージョン発光された光の波長と発光強度との関係を示すグラフ。
図8】微小球によるアップコンバージョン発光に関する光の励起エネルギーと放出エネルギーとの関係を示すグラフ。
図9】微小球によってアップコンバージョン発光された光の波長と発光強度との関係を示すグラフ。
図10】バルク結晶によってアップコンバージョン発光された光の波長と発光強度との関係を示すグラフ。
図11】微小球を用いた場合の励起光強度と発光強度との関係を示すグラフ。
図12】バルク結晶を用いた場合の励起光強度と発光強度との関係を示すグラフ。
図13図11図12のグラフを一元化したグラフ。
図14】変形例のアップコンバージョン構造体の平面図。
図15】別の変形例のアップコンバージョン構造体の配置状態を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ、本発明の一実施形態に係るアップコンバージョン構造体について説明する。
【0016】
<1.アップコンバージョン構造体の全体構成>
図1は、本実施形態に係るアップコンバージョン構造体10の平面図である。図2は、図1のD2-D2線に沿う断面図である。アップコンバージョン構造体10は、例えば、太陽光、赤外線等の比較的、エネルギー密度が低い光に含まれる長い波長の光をアップコンバージョン発光できるように構成される。本実施形態のアップコンバージョン構造体10は、例えば、非集光型の太陽電池モジュール60(図2参照)に対して設置される。太陽電池モジュール60は、バンドキャップエネルギー以上の波長の光を吸収する。太陽電池モジュール60は、表面61、および、表面61と反対側の面である裏面62を有する。表面61は、太陽光が入射する面である。裏面62は、例えば、アップコンバージョン構造体10を介して建築物の屋根(図示略)と面する面である。本実施形態では、アップコンバージョン構造体10は、太陽電池モジュール60の裏面62と面するように配置される、換言すれば、アップコンバージョン構造体10は、太陽電池モジュール60と屋根との間に配置される。アップコンバージョン構造体10は、1つの太陽電池モジュール60に対して1つまたは複数配置されてもよく、アレイ状に配置される複数の太陽電池モジュール60に対して1つまたは複数配置されてもよい。なお、アップコンバージョン構造体10は、例えば、赤外線のセンシング、または、赤外線のイメージング等にも適用可能である。
【0017】
図1に示されるように、アップコンバージョン構造体10は、アレイ状に配置される複数のアップコンバージョンユニット20と、複数のアップコンバージョンユニット20を支持する基板50と、を含む。
【0018】
1つのアップコンバージョン構造体10に含まれるアップコンバージョンユニット20の数は、2以上であれば任意に選択可能である。本実施形態では、1つのアップコンバージョンユニット20は、20個のアップコンバージョンユニット20を含む。1つのアップコンバージョン構造体10は、2~19個、または、21個以上のアップコンバージョンユニット20を含んでいてもよい。
【0019】
アップコンバージョンユニット20は、集光レンズ30および微小球40を含む。集光レンズ30は、太陽光のうちの太陽電池モジュール60によって吸収されなかった波長の光、すなわち、太陽光のうちのバンドキャップエネルギー未満の波長の光(以下では、「透過光」という)を微小球40に集光する。集光レンズ30の種類は、透過光を微小球40に集光できる種類であれば、任意に選択可能である。本実施形態では、集光レンズ30は、屈折型の球レンズである。集光レンズは、半球レンズ、過半球レンズ、凸レンズ、または、フレネルレンズであってもよい。集光レンズ30の直径Lは、任意に選択可能である。本実施形態では、集光レンズ30の直径Lは、2mmである。太陽電池モジュール60は、太陽光のうちの例えば、700nm未満の波長の光を吸収する。このため、透過光は、700nm以上の波長の光を含む。なお、集光レンズ30は、屈折型のレンズに限定されない。例えば、本実施形態のように、太陽電池モジュール60の裏面62と面するようにアップコンバージョン構造体10が設置される場合には、集光レンズ30として、反射レンズを用いてもよい。
【0020】
微小球40は、透過光のうちの例えば、700nm~1500nmの波長の光を吸収してアップコンバージョン発光することによって、透過光を短い波長の光に変換する。微小球40によるアップコンバージョン発光の形態は、エネルギー移動型または自己吸収型である。本実施形態では、微小球40によるアップコンバージョン発光の形態は、エネルギー移動型である。微小球40の直径は、任意に選択可能である。透過光のアップコンバージョン発光を好適に実行する観点から、微小球40の直径は、100μm以下であることが好ましい。微小球40を構成する材料は、透過光のアップコンバージョン発光をできる材料であれば、任意に選択可能である。透過光のアップコンバージョン発光を好適に実行する観点から、微小球40を構成する材料は、ガラス中に微結晶を含有する透明結晶化ガラスであることが好ましい。ガラス中に含まれる微結晶は、ハロゲン化物であることがより好ましい。ガラス中に含まれる微結晶は、希土類イオン、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、および、フッ素イオンを含むことがさらに好ましい。ガラス中に含まれる微結晶は、例えば、Na(Y,Er)F4結晶である。微結晶のサイズの上限は、好ましくは50nm以下、さらに好ましくは20nm以下である。微結晶のサイズの下限は、好ましくは1nm以上、さらに好ましくは4nm以上である。
【0021】
基板50は、表面51および裏面52を有する板状である。表面51は、太陽電池モジュール60の裏面62と対向する。基板50は、表面51から裏面52に向けて凹む複数の凹部53を有する。複数の凹部53は、基板50を貫通しない穴であり、複数のアップコンバージョンユニット20をそれぞれ支持する。平面視における凹部53の開口の形状は、任意に選択可能である。本実施形態では、平面視における凹部53の開口の形状は、正六角形である。このため、基板50により多くの凹部53を周期的に形成できる。
【0022】
凹部53は、表面51から裏面52に向けて先細りとなる形状である。より詳細には、凹部53は、平面視において表面51に形成される正六角形の開口を底面とする正六角錐の形状である。凹部53の底53Aは、基板50の厚さ方向において、概ね中央に位置する。微小球40は、凹部53の底53A、換言すれば、正六角錐の頂点の近傍に配置される。このため、微小球40は、全体が凹部53に収容される。集光レンズ30は、凹部53の内面と接するように、かつ、一部が凹部53から露出するように配置される。
【0023】
基板50を構成する材料は、任意に選択可能である。本実施形態のように、アップコンバージョン構造体10が太陽電池モジュール60の裏面62と面するように配置される場合、基板50は、微小球40がアップコンバージョン発光した光を太陽電池モジュール60に向けて反射できる材料(以下では、「反射材料」という)によって構成されることが好ましい。反射材料は、例えば、金属または半導体である。金属は、例えば、ステンレス、銀、またはアルミである。半導体は、例えば、シリコンである。基板50は、例えば、樹脂を薄膜状に形成することによって構成してもよい。
【0024】
<2.アップコンバージョン構造体の作用>
太陽光のうちの太陽電池モジュール60によって吸収されなかった透過光は、集光レンズ30によって、微小球40に集光される。微小球40は、透過光をアップコンバージョン発光することによって、短い波長の光に変換する。アップコンバージョン発光によって変換された短い波長の光は、微小球の全方位に発光され、大部分は、基板50によって太陽電池モジュール60に向けて反射される。太陽電池モジュール60は、アップコンバージョン発光によって変換された短い波長の光を吸収する。また、微小球40中の励起光のエネルギー密度は、同じエネルギー量であれば狭領域であるほど高エネルギー密度になる。このため、アップコンバージョンユニット20を大きな集光レンズ30と小さな微小球40との組み合せにすることで、エネルギー密度が向上する。
【0025】
<3.集光レンズの集光効果>
図3は、集光レンズ30の集光効果に関する試験用のアップコンバージョン構造体100である。図4は、光源200の底面図である。本願発明者は、試験用のアップコンバージョン構造体100を用いて、光源200から照射される光に対する微小球140に入射される光の割合をシミュレーションによって解析する試験を実施した。シミュレーションにはソフトウェアLightTools(米国Synopsys社製)を用いた。試験用のアップコンバージョン構造体100は、集光レンズ130、微小球140、および、基板150を含む。集光レンズ130は、球レンズであり、半径は、0.5mmである。微小球140は、実施形態の微小球140と同様の構成である。基板150は、立方体である。基板150の1辺の長さは、4mmである。平面視における基板150の凹部153の開口の形状は、1辺の長さが2.41mmの正方形である。このため、平面視における凹部153の開口の面積は、5.83mm2である。光源200は、レーザダイオードである。光源200の照射口210は、1辺が1mmの正方形である。
【0026】
本試験の結果、光源200から照射された光のうち、91.5%が微小球140に入射することが判明した。このため、実施形態のように、複数の集光レンズ30をアレイ状に配置し、その焦点位置に微小球40を配置することによって、多くの透過光をアップコンバージョン発光できると考えられる。
【0027】
<4.透過光のうちの微小球に入射される光の割合>
図1に示される平面視における集光レンズ30の面積SAは、集光レンズ30の直径Lを用いて、以下の式(1)によって算出される。
SA=π・(0.5L)2・・・(1)
【0028】
また、基板50の凹部53の開口が正六角形である場合、集光レンズ30の直径Lを用いて、凹部53の開口の面積SBは、正六角形の外接円の公式によって、以下の式で算出される。
SB=√3/2・L2・・・(2)
【0029】
このため、基板50の凹部53に照射される透過光のうちの集光レンズ30に入射される光の割合RAは、以下の式(3)によって算出される。
RA=π・(0.5L)2/√3/2・L2・100・・・(3)
すなわち、割合RAは、90.7%となる。上述した集光レンズの集光効果に関する試験の結果より、集光レンズ30に照射される透過光のうちの91.5%が微小球に入射すると考えられる。このため、基板50の凹部53に照射される透過光のうちの微小球40に入射する透過光の割合RBは、(0.907×0.915)×100、すなわち、割合RBは、83.0%であることが把握できる。
【0030】
<5.微小球の製造方法>
図5Aを参照して、微小球40の製造方法の一例について説明する。
微小球40は、製造装置300によって製造される。製造装置300は、レーザダイオード310、反射ミラー320、および、レンズ330を含む。レーザダイオード310は、例えば、980nmのレーザを反射ミラー320に向けて照射する。反射ミラー320は、レーザダイオード310が照射したレーザをレンズ330に向けて反射する。レンズ330は、反射ミラー320によって反射されたレーザを絞り、微小球40を構成する材料によって構成されるガラスファイバー400の先端に照射する。ガラスファイバー400の先端が溶融することによって、ガラスファイバー400の先端に微小球40が形成される。
【0031】
より詳細には、5.8mol%ErF3、5.8mol%YF3、11.6mol%NaF、30mol%ZnO、56.8mol%B23となるように、5.8mol%ErF3(高純度化学、99.9%)、5.8mol%YF3(高純度化学、99.9%)、11.6mol%NaF(高純度化学、99.9%)、30mol%ZnO(高純度化学、99.9%)、56.8mol%B23(高純度化学、99.9%)を混合し、白金るつぼに入れ、これを950℃で電気炉(モトヤマ、スーパーバーン)にて溶融した。この融液に石英製ガラス棒を入れ、引き上げることで直径60μmのガラスファイバー400を作製した。このガラスファイバー400の先端に製造装置300を用いて980nmのレーザーを5Wの出力で照射することで球体化させることによって、微小球40を製造した。図5Bは、微小球40の球断面を透過電子顕微鏡(JEOL社製、JEM-2100F)で観察した明視野像である。図5Cは、微小球40の電子線回折パターンである。図5Bに示されるように、明視野像での暗いコントラストは結晶を示しており、粒径20nm以下の微結晶が析出していることが把握できる。図5Cに示されるように、電子線回折パターンから、立方晶NaYF4ナノ結晶の回折に帰属されることが確認された。
【0032】
<6.微小球の特性>
図6は、微小球40の特性を計測する計測装置500である。本願発明者は、計測装置500を用いて、実施形態の微小球40のアップコンバージョン発光に関する特性、および、比較対象としての板状のバルク結晶のアップコンバージョン発光に関する特性を計測する試験を実施した。
【0033】
計測装置500は、レーザダイオード510、第1反射ミラー521、第2反射ミラー522、第3反射ミラー523、光学レンズ530、計測部540、および、バックライト550を含む。レーザダイオード510は、例えば、1540nmのレーザを第1反射ミラー521に向けて照射する。第1反射ミラー521は、レーザダイオード510が照射したレーザを第2反射ミラー522に向けて反射する。第2反射ミラー522は、第1反射ミラー521によって反射されたレーザを第3反射ミラー523に向けて反射する。第3反射ミラー523は、第2反射ミラー522によって反射されたレーザを光学レンズ530に向けて反射する。光学レンズ530は、計測部540に向けてレーザを集光する。計測部540は、ステージ541、フィルタ542、および、光パワーメータ543を含む。ステージ541は、微小球40またはバルク結晶が載せられる。ステージ541は、微小球40またはバルク結晶がアップコンバージョン発光した光を透過する。フィルタ542は、ステージ541の下面に取り付けられ、1050nm以上の波長の光を吸収する。光パワーメータ543は、フィルタ542の下方に配置され、アップコンバージョン発光した光のうちのステージ541を透過した光の発光強度等を計測する。バックライト550は、白色LEDである。
【0034】
図7は、ガラスファイバー400(図5A参照)の先端に作製した直径80μmの微小球40のアップコンバージョン発光によって変換された光の波長と発光強度との関係を示すグラフである。レーザダイオード510の強度は、0.9mW、2.3mW、3.5mW、4.4mW、5.0mW、5.7mW、および、6.4mWである。図7に示されるように、微小球40がアップコンバージョン発光することによって、レーザダイオード510が照射した光が、400nm~700nm程度の短い波長、かつ、高い発光強度の光に変換されることが確認された。
【0035】
図8は、励起エネルギーとアップコンバージョン発光の放出エネルギーとの関係を示すグラフである。本試験では、微小球40によってアップコンバージョン発光された光のうちの微小球40の上方に発光した光については、計測していないものの、励起エネルギーのうちの概ね45%程度が、アップコンバージョン発光として放出されていることが確認された。
【0036】
図9は、図7と同様に、微小球40のアップコンバージョン発光によって変換された光の波長と発光強度との関係を示すグラフである。レーザダイオード510の強度は、13.1mW、25.1mW、36.9mW、53.2mW、63.5mW、82.2mW、および、90.6mWである。図9に示されるように、微小球40がアップコンバージョン発光することによって、レーザダイオード510が照射した光が、400nm~700nm程度の短い波長、かつ、高い発光強度の光に変換されることが確認された。
【0037】
図10は、バルク結晶のアップコンバージョン発光によって変換された光の波長と発光強度との関係を示すグラフである。レーザダイオード510の強度は、13.1mW、25.1mW、36.9mW、53.2mW、63.5mW、82.2mW、および、90.6mWである。図10に示されるように、バルク結晶がアップコンバージョン発光することによって、レーザダイオード510が照射した光が、400nm~700nm程度の短い波長に変換されたが、微小球40の場合と比較して、変換された光の発光強度が低いことが確認された。
【0038】
図11は、レーザダイオード510が照射する励起するレーザ強度と、微小球40のアップコンバージョン発光によって変換された光の発光強度との関係を示すグラフである。励起光には1540nmの半導体レーザーを用いた。
【0039】
図12は、レーザダイオード510が照射する励起するレーザ強度と、バルク結晶のアップコンバージョン発光によって変換された光の発光強度との関係を示すグラフである。励起光には1540nmの半導体レーザーを用いた。
【0040】
図13は、図11および図12の結果を1つのグラフにまとめたものである。微小球40の場合、励起するレーザ強度が10mw付近の低い場合であっても、励起するレーザ強度の増加に対する発光強度の増加の割合が、バルク結晶の場合よりも高いことが確認された。また、微小球40の場合、励起するレーザ強度が100mw付近において、励起するレーザ強度の増加に対する発光強度の増加の割合が概ね「1」となること、すなわち、励起状態が飽和していることが確認された。このため、例えば、太陽光を光源とする場合でも、本実施形態の微小球40であれば、光エネルギーを10mW程度まで微小球40に集光することによって、高効率のアップコンバージョンが実現できる。このため、微小球40と集光レンズ30と組み合わせ、基板50にアレイ上に配置することによって、高効率のアップコンバージョンが実現できる。一方、バルク結晶の場合、励起するレーザ強度が100mw以上の場合であっても、励起するレーザ強度の増加に対する発光強度の増加の割合が「1」以上であること、すなわち、励起状態が飽和していないことが確認された。
【0041】
<7.変形例>
上記実施形態は本発明に関するアップコンバージョン構造体が取り得る形態の例示であり、その形態を制限することを意図していない。本発明に関するアップコンバージョン構造体は、実施形態に例示された形態とは異なる形態を取り得る。その一例は、実施形態の構成の一部を置換、変更、もしくは、省略した形態、または、実施形態に新たな構成を付加した形態である。以下に実施形態の変形例の幾つかの例を示す。
【0042】
<7-1>
上記実施形態では、基板50の凹部53の開口の形状は、六角形であったが、基板50の凹部53の開口の形状は、これに限定されない。図14は、変形例のアップコンバージョン構造体10Xの平面図である。変形例のアップコンバージョン構造体10Xは、基板50Xを含む。基板50Xの凹部53Xの開口の形状は、正方形である。すなわち、凹部53Xは、正四角錐である。この他、凹部53Xの開口の形状は、三角形、長方形、五角形、七角形以上の多角形、円、または、楕円であってもよい。
【0043】
また、基板50の凹部53の開口が正方形である場合、集光レンズ30の直径Lを用いて、凹部53の開口の面積SCは、L2である。このため、基板50Xの凹部53Xに照射される透過光のうちの集光レンズ30に入射される光の割合RCは、以下の式(4)によって算出できる。
RC=π・(0.5L)2/L2・100・・・(4)
【0044】
すなわち、割合RCは、78.5%となる。上述した集光レンズの集光効果に関する試験の結果より、集光レンズ30に照射される透過光のうちの91.5%が微小球に入射すると考えられる。このため、基板50Xの凹部53Xに照射される透過光のうちの微小球40に入射する透過光の割合RDは、(0.785×0.915)×100、すなわち、割合RDは、71.8%であることが把握できる。
【0045】
<7-2>
上記実施形態では、アップコンバージョン構造体10は、太陽電池モジュール60の裏面62と面するように配置されたが、アップコンバージョン構造体10の配置態様は、これに限定されない。図15に示されるように、アップコンバージョン構造体10は、基板50の裏面52が、太陽電池モジュール60の表面61と面するように配置されてもよい。この変形例では、基板50は、微小球40がアップコンバージョン発光した光を透過する材料によって構成されることが好ましい。アップコンバージョン発光した光を透過する材料は、例えば、樹脂またはガラスである。この変形例では、アップコンバージョン構造体10に入射する太陽光のうちの一部は、集光レンズ30によって微小球40に集光される。微小球40は、例えば、700nm~1500nmの波長の光を吸収してアップコンバージョン発光することによって、太陽光を短い波長の光に変換する。アップコンバージョン発光によって変換された短い波長の光は、微小球の全方位に発光され、その一部は、基板50を透過して太陽電池モジュール60に入射する。太陽電池モジュール60は、アップコンバージョン発光によって変換された短い波長の光を吸収する。また、アップコンバージョン構造体10に入射する太陽光のうちの別の一部は、基板50を直接的に透過して太陽電池モジュール60に入射する。太陽電池モジュール60は、太陽光のうちの例えば、700nm未満の波長の光を吸収する。
【0046】
<7-3>
上記実施形態では、1つの基板50に複数の凹部53が形成されたが、基板50を凹部53を有する領域毎に分割して、それらをアレイ状に配置してもよい。
【符号の説明】
【0047】
10、10X:アップコンバージョン構造体
20:アップコンバージョンユニット
30:集光レンズ
40:微小球
50:基板
53:凹部
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図6
図7
図8
図9
図10
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図13
図14
図15