(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023037498
(43)【公開日】2023-03-15
(54)【発明の名称】グラビア印刷用導電性ペースト、電子部品、及び積層セラミックコンデンサ
(51)【国際特許分類】
H01B 1/22 20060101AFI20230308BHJP
H01G 4/30 20060101ALI20230308BHJP
【FI】
H01B1/22 A
H01G4/30 201D
H01G4/30 311D
H01G4/30 517
H01G4/30 516
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021144294
(22)【出願日】2021-09-03
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100185018
【弁理士】
【氏名又は名称】宇佐美 亜矢
(74)【代理人】
【識別番号】100134441
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 由利
(72)【発明者】
【氏名】福田 健二
(72)【発明者】
【氏名】吉田 尚史
(72)【発明者】
【氏名】山田 純平
(72)【発明者】
【氏名】高野 清
(72)【発明者】
【氏名】安藤 徹
(72)【発明者】
【氏名】河村 卓哉
【テーマコード(参考)】
5E001
5E082
5G301
【Fターム(参考)】
5E001AB03
5E001AC09
5E001AE02
5E001AE03
5E001AF06
5E001AJ01
5E082AA01
5E082AB03
5E082EE04
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5E082FF05
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5E082GG10
5E082GG11
5G301DA03
5G301DA05
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5G301DA33
5G301DA42
5G301DD01
5G301DD02
5G301DD03
5G301DE01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】導電性粉末とセラミック粉末との分離を抑制し、経時的な粘度安定性が良好なグラビア印刷用導電性ペースト、電子部品及び積層セラミックコンデンサを提供する。
【解決手段】導電性粉末、セラミック粉末、分散剤、バインダー樹脂及び有機溶剤を含むグラビア印刷用導電性ペーストであって、分散剤は、重量平均分子量が5000以上であるカルボン酸系高分子分散剤を含み、カルボン酸系高分子分散剤を、導電性ペースト全体に対して0.01質量%以上2.0質量%未満含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性粉末、セラミック粉末、分散剤、バインダー樹脂及び有機溶剤を含むグラビア印刷用導電性ペーストであって、
前記分散剤は、重量平均分子量が5000以上であるカルボン酸系高分子分散剤を含み、
前記カルボン酸系高分子分散剤を、導電性ペースト全体に対して0.01質量%以上2.0質量%未満含む、グラビア印刷用導電性ペースト。
【請求項2】
前記カルボン酸系高分子分散剤の酸価が50mgKOH/g以上250mgKOH/g以下である、請求項1に記載のグラビア印刷用導電性ペースト。
【請求項3】
前記カルボン酸系高分子分散剤がくし型構造及び/又はブロックポリマー構造を有する高分子系分散剤を含む、請求項1~2のいずれか一項に記載のグラビア印刷用導電性ペースト。
【請求項4】
前記くし型構造を有する高分子系分散剤がアルキレンオキシド重合体を含有する構成のグラフト鎖を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載のグラビア印刷用導電性ペースト。
【請求項5】
前記有機溶剤がジヒドロターピネオール(DHT)、ジヒドロターピニルアセテート(DHTA)、ターピネオール(TPO)、プロピレングリコールモノブチルエーテル(PNB)、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(BCA)、およびジイソブチルケトン(DIBK)からなる群より選ばれる1種類以上を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のグラビア印刷用導電性ペースト。
【請求項6】
前記カルボン酸系高分子分散剤の含有量が、分散剤全量に対して60質量%以上である請求項1~5に記載のグラビア印刷用導電性ペースト。
【請求項7】
前記分散剤は、分子量が5000未満であるカルボン酸系分散剤を、分散剤全量に対して、0質量%以上60質量%以下含む、請求項1~6に記載のグラビア印刷用導電性ペースト。
【請求項8】
前記導電性粉末は、Ni、Pd、Pt、Au、Ag、Cu及びこれらの合金から選ばれる1種以上の金属粉末を含む請求項1~7のいずれか一項に記載のグラビア印刷用導電性ペースト。
【請求項9】
前記導電性粉末は、平均粒径が0.05μm以上1.0μm以下である請求項1~8のいずれか一項に記載のグラビア印刷用導電性ペースト。
【請求項10】
前記セラミック粉末は、チタン酸バリウムを含む請求項1~9のいずれか一項に記載のグラビア印刷用導電性ペースト。
【請求項11】
前記セラミック粉末は、平均粒径が0.01μm以上0.5μm以下である請求項1~10のいずれか一項に記載のグラビア印刷用導電性ペースト。
【請求項12】
前記セラミック粉末は、導電性ペースト全体に対して1質量%以上20質量%以下含まれる請求項1~11のいずれか一項に記載のグラビア印刷用導電性ペースト。
【請求項13】
前記バインダー樹脂が、セルロース系樹脂を含む請求項1~12のいずれか一項に記載のグラビア印刷用導電性ペースト。
【請求項14】
積層セラミック部品の内部電極用である請求項1~13のいずれか一項に記載のグラビア印刷用導電性ペースト。
【請求項15】
ずり速度100sec-1での粘度が1.2Pa・S以下である、請求項1~14のいずれか一項に記載のグラビア印刷用導電性ペースト。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか一項に記載のグラビア印刷用導電性ペーストを用いて形成された電子部品。
【請求項17】
誘電体層と内部電極層とを積層した積層体を少なくとも有し、
前記内部電極層は、請求項1~15のいずれか一項に記載のグラビア印刷用導電性ペーストを用いて形成される積層セラミックコンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラビア印刷用導電性ペースト、電子部品、及び積層セラミックコンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話やデジタル機器などの電子機器の小型化および高性能化に伴い、積層セラミックコンデンサなどを含む電子部品についても小型化および高容量化が望まれている。積層セラミックコンデンサは、複数の誘電体層と複数の内部電極層とが交互に積層した構造を有し、これらの誘電体層及び内部電極層を薄膜化することにより、小型化及び高容量化を図ることができる。
【0003】
積層セラミックコンデンサは、例えば、次のように製造される。まず、チタン酸バリウム(BaTiO3)などの誘電体粉末及びバインダー樹脂を含有する誘電体グリーンシートの表面上に、導電性粉末、バインダー樹脂、及び、有機溶剤などを含む内部電極用ペースト(導電性ペースト)を、所定の電極パターンで印刷したものを、多層に積み重ねることにより、内部電極と誘電体グリーンシートとを多層に積み重ねた積層体を得る。次に、この積層体を加熱圧着して一体化し、圧着体を形成する。この圧着体を切断し、酸化性雰囲気または不活性雰囲気中にて脱有機バインダー処理を行った後、焼成を行い、焼成チップを得る。次いで、焼成チップの両端部に外部電極用ペーストを塗布し、焼成後、外部電極表面にニッケルメッキなどを施して、積層セラミックコンデンサが得られる。
【0004】
導電性ペーストを誘電体グリーンシートに印刷する際に用いられる印刷法としては、従来、スクリーン印刷法が一般的に用いられてきたが、電子デバイスの小型化、薄膜化や生産性向上の要求から、より微細な電極パターンを生産性高く印刷することが求められている。
【0005】
導電性ペーストの印刷法の一つとして、製版に設けられた凹部に導電性ペーストを充填し、これを被印刷面に押し当てることでその製版から導電性ペーストを転写する連続印刷法であるグラビア印刷法が提案されている。グラビア印刷法は印刷速度が速く、生産性に優れる。グラビア印刷法を用いる場合、導電性ペースト中のバインダー樹脂、分散剤、溶剤等を適宜選択して、粘度等の特性をグラビア印刷に適した範囲に調整する必要がある。
【0006】
例えば、特許文献1では、複数のセラミック層および前記セラミック層間の特定の界面に沿って延びる内部導体膜を備える積層セラミック電子部品における前記内部導体膜をグラビア印刷によって形成するために用いられる導電性ペーストであって、金属粉末を含む30~70重量%の固形成分と、1~10重量%のエトキシ基含有率が49.6%以上のエチルセルロース樹脂成分と、0.05~5重量%の分散剤と、残部としての溶剤成分とを含み、ずり速度0.1(s-1)での粘度η0.1が1Pa・s以上であり、かつずり速度0.02(s-1)での粘度η0.02が特定の式で表わされる条件を満たす、チキソトロピー流体である、導電性ペーストが記載されている。
【0007】
また、特許文献2では、上記特許文献1と同様にグラビア印刷によって形成するために用いられる導電性ペーストであって、金属粉末を含む30~70重量%の固形成分と、1~10重量%の樹脂成分と、0.05~5重量%の分散剤と、残部としての溶剤成分とを含み、ずり速度0.1(s-1)での粘度が1Pa・s以上のチキソトロピー流体であって、ずり速度0.1(s-1)での粘度を基準としたときに、ずり速度10(s-1)での粘度変化率が50%以上である、導電性ペーストが記載されている。
【0008】
上記特許文献1、2によれば、これらの導電性ペーストは、ずり速度0.1(s-1)での粘度が1Pa・s以上であるチキソトロピー流体であり、グラビア印刷において高速での安定した連続印刷性が得られ、良好な生産効率をもって、積層セラミックコンデンサのような積層セラミック電子部品を製造することができるとされている。
【0009】
また、特許文献3には、導電性粉末(A)、有機樹脂(B)、及び有機溶剤(C)、添加剤(D)、及び誘電体粉末(E)を含む積層セラミックコンデンサ内部電極用導電性ペーストであって、有機樹脂(B)は、重合度が10000以上50000以下のポリビニルブチラールと、重量平均分子量が10000以上100000以下のエチルセルロースからなり、有機溶剤(C)は、プロピレングリコールモノブチルエーテル、もしくはプロピレングリコールモノブチルエーテルとプロピレングリコールメチルエーテルアセテートの混合溶剤、又はプロピレングリコールモノブチルエーテルとミネラルスピリットの混合溶剤のいずれかからなり、添加剤(D)は、分離抑制剤と分散剤からなるグラビア印刷用導電性ペーストが記載されている。特許文献3によれば、この導電性ペーストは、グラビア印刷に適した粘度を有し、かつ、乾燥性がよいとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003-187638号公報
【特許文献2】特開2003-242835号公報
【特許文献3】特開2012-174797号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
グラビア印刷用の導電性ペーストでは、低粘度であることが要求される。しかしながら、低粘度の導電性ペーストでは、スクリーン印刷用などの高粘度の導電性ペーストと比較して、チタン酸バリウムなどのセラミック粉末とNiなどの導電性粉末とを添加した際に、これらの粉末の比重差による沈降速度差がより顕著に影響して、導電性粉末とセラミック粉末とが分離しやすい。
【0012】
例えば、グラビア印刷用の導電性ペーストでは、導電性ペーストを作製した際にセラミック粉末を含む白い分離層が上部に発生する「白浮き」と称する現象(二層分離)が生じることがある。
【0013】
また、本発明者らが検討した結果、スクリーン印刷用などの導電性ペーストと比較してグラビア印刷用の導電性ペーストは粘度が低いために、製造直後の粘度に対する長期保管後の粘度の比率として計算される経時増粘比が高くなりやすいことが分かった。スクリーン印刷と比較してグラビア印刷時の適切な粘度範囲は狭く、適用するペーストには粘度の精確な制御が求められるが、経時増粘比が高いペーストはグラビア印刷時に都度粘度調整が必要になるなど印刷工程が複雑化してしまうという問題があった。
【0014】
本発明は、このような状況に鑑み、グラビア印刷に適した低いペースト粘度を長期にわたり安定して有し、かつ、導電性粉末とセラミック粉末との分離を抑制することができる、導電性ペーストを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の第1の態様では、導電性粉末、セラミック粉末、分散剤、バインダー樹脂及び有機溶剤を含むグラビア印刷用導電性ペーストであって、分散剤は、重量平均分子量が5000以上であるカルボン酸系高分子分散剤を含み、カルボン酸系高分子分散剤を、導電性ペースト全体に対して0.01質量%以上2.0質量%未満含む、グラビア印刷用導電性ペーストが提供される。
【0016】
また、カルボン酸系高分子分散剤の酸価が50mgKOH/g以上250mgKOH/g以下であることが好ましい。また、カルボン酸系高分子分散剤がくし型構造及び/又はブロックポリマー構造を有する高分子系分散剤を含むことが好ましい。また、くし型構造を有する高分子系分散剤がアルキレンオキシド重合体を含有する構成のグラフト鎖を有することが好ましい。
【0017】
また、有機溶剤がジヒドロターピネオール(DHT)、ジヒドロターピニルアセテート(DHTA)、ターピネオール(TPO)、プロピレングリコールモノブチルエーテル(PNB)、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(BCA)、およびジイソブチルケトン(DIBK)からなる群より選ばれる1種類以上を含むことが好ましい。
【0018】
また、カルボン酸系高分子分散剤の含有量が、分散剤全量に対して60質量%以上であってもよい。また、分散剤は、分子量が5000未満であるカルボン酸系分散剤を、分散剤全量に対して、0質量%以上60質量%以下含んでもよい。
【0019】
また、導電性粉末は、Ni、Pd、Pt、Au、Ag、Cu及びこれらの合金から選ばれる1種以上の金属粉末を含むことが好ましい。また、導電性粉末は、平均粒径が0.05μm以上1.0μm以下であることが好ましい。また、セラミック粉末は、チタン酸バリウムを含むことが好ましい。また、セラミック粉末は、平均粒径が0.01μm以上0.5μm以下であることが好ましい。また、セラミック粉末は、導電性ペースト全体に対して1質量%以上20質量%以下含まれることが好ましい。また、バインダー樹脂が、セルロース系樹脂を含むことが好ましい。
【0020】
また、グラビア印刷用導電性ペーストは、積層セラミック部品の内部電極用であることが好ましい。また、グラビア印刷用導電性ペーストは、ずり速度100sec-1での粘度が1.2Pa・S以下であることが好ましい。
【0021】
本発明の第2の態様では、上記のグラビア印刷用導電性ペーストを用いて形成された電子部品が提供される。
【0022】
本発明の第3の態様では、誘電体層と内部電極層とを積層した積層体を少なくとも有し、内部電極層は、上記のグラビア印刷用導電性ペーストを用いて形成された積層セラミックコンデンサが提供される。
【発明の効果】
【0023】
本発明の導電性ペーストは、グラビア印刷に適した特性を有し、低粘度のペースト中においても、導電性粉末とセラミック粉末との分離を抑制することができ、長期にわたる粘度安定性が良好であるため印刷時の粘度調整が不要となり印刷工程の簡略化に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【発明を実施するための形態】
【0025】
[導電性ペースト]
本実施形態の導電性ペーストは、導電性粉末、セラミック粉末、分散剤、バインダー樹脂及び有機溶剤を含む。以下、各成分について詳細に説明する。
【0026】
(導電性粉末)
導電性粉末としては、特に限定されず、金属粉末を用いることができ、例えば、Ni、Pd、Pt、Au、Ag、Cu、およびこれらの合金から選ばれる1種以上の粉末を用いることができる。これらの中でも、導電性、耐食性及びコストの観点から、Ni、またはその合金(Ni合金)の粉末が好ましい。Ni合金としては、例えば、Mn、Cr、Co、Al、Fe、Cu、Zn、Ag、Au、PtおよびPdからなる群より選択される少なくとも1種以上の元素とNiとの合金が用いることができる。Ni合金におけるNiの含有量は、例えば、50質量%以上、好ましくは80質量%以上である。また、Ni粉末は、脱バインダー処理の際、バインダー樹脂の部分的な熱分解による急激なガス発生を抑制するために、数百ppm程度の元素Sを含んでもよい。
【0027】
導電性粉末の平均粒径は、好ましくは0.05μm以上1.0μm以下であり、より好ましくは0.1μm以上0.5μm以下である。導電性粉末の平均粒径が上記範囲である場合、薄膜化した積層セラミックコンデンサ(積層セラミック部品)の内部電極用ペーストとして好適に用いることができ、例えば、乾燥膜の平滑性及び乾燥膜密度が向上する。平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察から求められる値であり、SEMで倍率10,000倍にて観察した画像から、複数の粒子一つ一つの粒径を測定して、得られる平均値(SEM平均粒径)である。
【0028】
導電性粉末の含有量は、導電性ペースト全体に対して、好ましくは30質量%以上70質量%未満であり、より好ましくは40質量%以上60質量%以下である。導電性粉末の含有量が上記範囲である場合、導電性及び分散性に優れる。
【0029】
(セラミック粉末)
セラミック粉末としては、特に限定されず、例えば、積層セラミックコンデンサの内部電極用ペーストである場合、適用する積層セラミックコンデンサの種類により適宜、公知のセラミック粉末が選択される。セラミック粉末としては、例えば、Ba及びTiを含むペロブスカイト型酸化物を用いることができ、好ましくはチタン酸バリウム(BaTiO3)を含む。
【0030】
セラミック粉末としては、チタン酸バリウムを主成分とし、酸化物を副成分として含むセラミック粉末を用いてもよい。酸化物としては、Mn、Cr、Si、Ca、Ba、Mg、V、W、Ta、Nbおよび希土類元素から選ばれる1種以上の酸化物が挙げられる。このようなセラミック粉末としては、例えば、チタン酸バリウム(BaTiO3)のBa原子やTi原子を他の原子、例えば、Sn、Pb、Zrなどで置換したペロブスカイト型酸化物強誘電体のセラミック粉末が挙げられる。
【0031】
内部電極用の導電性ペーストに用いるセラミック粉末は、積層セラミックコンデンサ(電子部品)のグリーンシートを構成する誘電体セラミック粉末と同一組成の粉末を用いてもよい。これにより、焼結工程における誘電体層と内部電極層との界面での収縮のミスマッチによるクラック発生が抑制される。このようなセラミック粉末としては、上記Ba及びTiを含むペロブスカイト型酸化物以外に、例えば、ZnO、フェライト、PZT、BaO、Al2O3、Bi2O3、R(希土類元素)2O3、TiO2、Nd2O3などの酸化物が挙げられる。なお、セラミック粉末は、1種類を用いてもよく、2種類以上を用いてもよい。
【0032】
セラミック粉末の平均粒径は、例えば、0.01μm以上0.5μm以下であり、好ましくは0.01μm以上0.3μm以下の範囲である。セラミック粉末の平均粒径が上記範囲であることにより、内部電極用ペーストとして用いた場合、十分に細く薄い均一な内部電極を形成することができる。平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察から求められる値であり、SEMで倍率50,000倍にて観察した映像から、複数の粒子一つ一つの粒径を測定して、得られる平均値(SEM平均粒径)である。
【0033】
セラミック粉末の含有量は、導電性ペースト全体に対して、好ましくは1質量%以上20質量%以下であり、より好ましくは3質量%以上15質量%以下である。セラミック粉末の含有量が上記範囲である場合、分散性および焼結性に優れる。
【0034】
また、セラミック粉末の含有量は、導電性粉末100質量部に対して、好ましくは1質量部以上30質量部以下であり、より好ましくは3質量部以上30質量部以下である。
【0035】
(バインダー樹脂)
バインダー樹脂としては、特に限定されず、公知の樹脂を用いることができる。バインダー樹脂としては、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、ニトロセルロースなどのセルロース系樹脂、アクリル系樹脂、ポリビニルブチラールなどのブチラール系樹脂を含むアセタール系樹脂などが挙げられる。中でも、溶剤への溶解性、燃焼分解性の観点などから、セルロース系樹脂を含むことが好ましく、エチルセルロースを含むことがより好ましい。また、内部電極用ペーストとして用いる場合、グリーンシートとの接着強度を向上させる観点から、ブチラール系樹脂を含む、又は、ブチラール系樹脂単独で使用してもよい。バインダー樹脂がアセタール系樹脂を含む場合、グラビア印刷に適した粘度に容易に調整することができ、かつ、グリーンシートとの接着強度をより向上させることができる。バインダー樹脂は、例えば、バインダー樹脂全体に対して、アセタール系樹脂を20質量%以上含んでもよく、30質量%以上含んでもよい。また、バインダー樹脂は、バインダー樹脂全体に対して、アセタール系樹脂を50質量%以下含んでもよい。
【0036】
バインダー樹脂の重合度や重量平均分子量は、要求される導電性ペーストの粘度に応じて、上記範囲内で適宜調整することができる。
【0037】
バインダー樹脂の含有量は、導電性ペースト全体に対して、好ましくは0.5質量%以上10質量%以下であり、より好ましくは1質量%以上7質量%以下である。バインダー樹脂の含有量が上記範囲である場合、導電性及び分散性に優れる。
【0038】
バインダー樹脂の含有量は、導電性粉末100質量部に対して、好ましくは1質量部以上20質量部以下であり、より好ましくは1質量部以上14質量部以下である。
【0039】
(有機溶剤)
有機溶剤としては、特に限定されず、上記バインダー樹脂を溶解することができる公知の有機溶剤を用いることができる。有機溶剤としては、例えば、テルペン系溶剤、グリコールエーテル系溶剤、アセテート系溶剤、酢酸エステル系溶剤、ケトン系溶剤、炭化水素溶剤などが挙げられる。なお、有機溶剤は、1種類を用いてもよく、2種類以上を用いてもよい。
【0040】
テルペン系溶剤としては、ターピネオール(TPO)、ジヒドロターピネオール(DHT)、ジヒドロターピニルアセテート(DHTA)などが挙げられ、中でも、ジヒドロターピネオール(DHT)が好ましい。
【0041】
グリコールエーテル系溶剤としては、例えば、ジエチレングリコールモノ-2-エチルヘキシルエーテル、エチレングリコールモノ-2-エチルヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテルなどの(ジ)エチレングリコールエーテル類、及び、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル(PNB)などのプロピレングリコールモノアルキルエーテル類などが挙げられる。中でも、プロピレングリコールモノアルキルエーテル類が好ましく、プロピレングリコールモノブチルエーテル(PNB)がより好ましい。有機溶剤がグリコールエーテル系溶剤を含む場合、上述したバインダー樹脂との相溶性に優れ、かつ、乾燥性に優れる。
【0042】
アセテート系溶剤としては、例えば、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(ブチルカルビトールアセテート:BCA)、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、3-メトキシー3-メチルブチルアセテート、1-メトキシプロピル-2-アセテートなどのグリコールエーテルアセテート類、及び、イソボルニルアセテート、イソボルニルプロピネート、イソボルニルブチレート、イソボルニルイソブチレートなどが挙げられる。
【0043】
酢酸エステル系溶剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソブチル、酢酸ブチルなどが挙げられる。ケトン系溶剤としては、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン(DIBK)などが挙げられる。
【0044】
炭化水素溶剤としては、トリデカン、ノナン、シクロヘキサン、ナフテン系溶剤、ミネラルスピリット(MA)などの脂肪族系炭化水素溶剤、及びトルエン、キシレンなどの芳香族系炭化水素溶剤などが挙げられ、中でも、脂肪族系炭化水素溶剤が好ましく、ミネラルスピリット(MA)がより好ましい。また、ミネラルスピリット(MA)は、鎖式飽和炭化水素を主成分として含んでもよく、鎖式飽和炭化水素をミネラルスピリット全体に対して、20質量%以上含んでもよい。
【0045】
また、有機溶剤は、ジヒドロターピネオール(DHT)、ジヒドロターピニルアセテート(DHTA)、ターピネオール(TPO)、プロピレングリコールモノブチルエーテル(PNB)、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(BCA)、およびジイソブチルケトン(DIBK)からなる群より選ばれる1種類以上を含むことが好ましい。これらの溶剤を用いることで、適切な粘度と乾燥速度を両立することができる。
【0046】
例えば、有機溶剤は、ジヒドロターピネオール(DHT)、ジヒドロターピニルアセテート(DHTA)、ターピネオール(TPO)からなる群より選ばれる1種類以上のテルペン系溶剤(a)と、プロピレングリコールモノブチルエーテル(PNB)、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(BCA)からなる群より選ばれる1種類以上の溶剤(b)と、炭化水素溶剤とを含んでもよい。
【0047】
また、例えば、有機溶剤は、ジヒドロターピネオール(DHT)、ジヒドロターピニルアセテート(DHTA)、ターピネオール(TPO)からなる群より選ばれる1種類以上のテルペン系溶剤(a)と、プロピレングリコールモノブチルエーテル(PNB)、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(BCA)からなる群より選ばれる1種類以上の溶剤(b)と、炭化水素溶剤と、ジイソブチルケトン(DIBK)とを含んでもよい。
【0048】
有機溶剤の含有量は、導電性ペースト全量に対して、20質量%以上50質量%以下が好ましく、25質量%以上45質量%以下がより好ましい。有機溶剤の含有量が上記範囲である場合、導電性及び分散性に優れる。
【0049】
有機溶剤の含有量は、導電性粉末100質量部に対して、好ましくは50質量部以上130質量部以下であり、より好ましくは60質量部以上90質量部以下である。有機溶剤の含有量が上記範囲である場合、導電性及び分散性に優れる。
【0050】
導電性ペーストがテルペン系溶剤(a)を含む場合、テルペン系溶剤は、導電性ペースト全量に対して、5質量%以上40質量%以下であってもよく、10質量%以上30質量%以下であってもよく、12質量%以上25質量%以下であってもよい。
【0051】
導電性ペーストがプロピレングリコールモノブチルエーテル(PNB)などの溶剤(b)を含む場合、溶剤(b)の含有量は、導電性ペースト全量に対して、3質量%20質量%以下であってもよく、5質量%以上20質量%以下であってもよい。
【0052】
導電性ペーストが炭化水素系溶剤を含む場合、炭化水素系溶剤は、導電性ペースト全量に対して、1質量%以上20質量%以下であってもよく、3質量%以上15質量%以下であってもよく、5質量%以上10質量%以下であってもよい。
【0053】
また、導電性ペーストが、ジイソブチルケトン(DIBK)を含む場合、ジイソブチルケトン(DIBK)の含有量は、導電性ペースト全量に対して、1質量%以上20質量%以下が好ましく、3質量%以上15質量%以下であってもよく、3質量%以上10質量%以下であってもよい。
【0054】
(分散剤)
本実施形態に係る導電性ペーストは、分子量が5000以上であるカルボン酸系高分子分散剤を含む。本発明者は、グラビア印刷用の導電性ペーストにおいて、分子量が5000以上であるカルボン酸系高分子分散剤を特定量で含むことにより、グラビア印刷に適した粘度を安定的に有し、かつ、導電性粉末とセラミック粉末との分離を抑制することができることを見出した。
【0055】
カルボン酸系高分子分散剤は、吸着基としてカルボン酸基を有する高分子系の分散剤(界面活性剤)である。カルボン酸系高分子分散剤は、例えば、カルボン酸含有モノマーおよび疎水性モノマーを含む2種類以上のモノマーを重合して生成される重合体(コポリマー)であってもよい。また、この重合体は、ランダム重合、ブロック重合、グラフト重合などの方法で合成されてもよい。
【0056】
カルボン酸系高分子分散剤の例としては、カルボン酸含有モノマーと疎水性モノマー等がランダムに配列されたランダムポリマー、カルボン酸基含有モノマーと疎水性モノマー等がブロックに分かれて配列されたブロックポリマー構造、くし型構造などを有する高分子系分散剤が挙げられる。くし型構造を有する高分子系分散剤は、例えば、カルボン酸含有モノマー、マクロモノマー、疎水性モノマー等を重合して得られ、グラフト鎖を有してもよい。
【0057】
カルボン酸系高分子分散剤は、くし型構造及び/又はブロックポリマー構造を有するカルボン酸系高分子分散剤を含むことが好ましく、くし型構造を有するカルボン酸系高分子分散剤を含むことがより好ましい。また、くし型構造を有する高分子系分散剤は、グラフト鎖を有することが好ましく、グラフト鎖がアルキレンオキシド重合体を含有する構成であることが好ましい。グラフト鎖に含まれるアルキレンオキシド重合体としては、例えば、エチレンオキシド重合体、プロピレンオキシド重合体、ブチレンオキシド重合体などが挙げられ、エチレンオキシド重合体を含んでもよい。
【0058】
また、カルボン酸系高分子分散剤の平均分子量は5000以上であり、10000以上であってもよく、20000以上であってもよく、40000以上であってもよい。カルボン酸系高分子分散剤の平均分子量は、ペーストの初期粘度及び経時増粘などに影響を及ぼす。平均分子量が5000以上である場合、安定した分散効果を発揮することができ、経時増粘を十分に抑制することができる。なお、経時増粘を抑制する観点では平均分子量の上限は特に限定されないが、平均分子量が大きすぎる場合にはペーストの初期粘度自体が高くなりグラビア印刷に適さなくなることがあるため、平均分子量は10万以下であってもよい。なお、平均分子量は、重量平均分子量であり、例えば、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定することができる。
【0059】
また、カルボン酸系高分子分散剤の酸価は、50mgKOH/g以上250mgKOH/g以下であることが好ましく、50mgKOH/g以上200mgKOH/g以下であってもよい。酸価がこの範囲であることにより、十分な分散効果が得られる。なお、酸価(mgKOH/g)は、例えば、JIS K0070に準拠して電位差滴定法により求めることができる。
【0060】
また、上記カルボン酸系高分子分散剤は、導電性ペースト全体に対して0.01質量%以上2.0質量%未満含まれ、好ましくは0.01質量%以上1.0質量%以下、より好ましくは0.03質量%以上0.5質量%以下含まれる。カルボン酸系高分子分散剤を上記範囲で含む場合、グラビア印刷に適した粘度を長期間安定的に有することができ、かつ、導電性粉末とセラミック粉末との分離を抑制することができる。
【0061】
また、分散剤は、カルボン酸系高分子分散剤のみから構成されてもよいが、後述するようにカルボン酸系高分子分散剤以外の分散剤を含んでもよい。カルボン酸系高分子分散剤以外の分散剤を含む場合、カルボン酸系高分子分散剤の含有量は、例えば、分散剤全量に対して40質量%以上であってもよく、好ましくは60質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上である。カルボン酸系高分子分散剤の分散剤全量に対する含有量が多いほど、導電性粉末とセラミック粉末との分離抑制の効果が向上する。
【0062】
また、本実施形態の導電性ペーストは、上記カルボン酸系高分子分散剤以外の酸系分散剤(酸性の吸着基を有する分散剤)をさらに含んでもよい。酸系分散剤(上記カルボン酸系高分子分散剤を除く)としては、例えば、平均分子量が5000未満のカルボン酸系分散剤、リン酸系分散剤、その他の酸系高分子界面活性剤などが挙げられる。なお、これらの酸系分散剤は、1種または2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0063】
平均分子量が5000未満のカルボン酸系分散剤としては、例えば、高級脂肪酸、ジカルボン酸、ポリカルボン酸系分散剤、アルキルモノアミン塩型などのカルボン酸系分散剤が挙げられる。導電性ペーストは、上記カルボン酸系高分子分散剤とともに平均分子量が5000未満のカルボン酸系分散剤を含む場合、チタン酸バリウムなどのセラミック粉末の分散性がより向上することがある。なお、平均分子量が5000未満のカルボン酸系分散剤の平均分子量は、2000以下であってもよく、1000以下であってもよい。
【0064】
高級脂肪酸としては、不飽和カルボン酸でも飽和カルボン酸でもよく、特に限定されるものではないが、ステアリン酸、オレイン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、リノール酸、ラウリン酸、リノレン酸など炭素数11以上のものが挙げられる。中でも、高級脂肪酸としては、オレイン酸、またはステアリン酸が好ましい。
【0065】
アルキルモノアミン塩型としては、例えば、グリシンとオレイン酸の化合物であるオレオイルザルコシンや、オレイン酸の代わりにステアリン酸あるいはラウリン酸などの高級脂肪酸を用いたアミド化合物であるステアリン酸アミド、ラウリロイルザルコシンが好ましい。
【0066】
なお、平均分子量が5000未満のカルボン酸系分散剤の含有量が多すぎる場合、上記カルボン酸系高分子分散剤の金属粉末材料(フィラー)への吸着を阻害するなどの悪影響を及ぼす懸念があるため、併用する際はその含有量を適宜調整することが好ましい。
【0067】
例えば、平均分子量が5000未満であるカルボン酸系分散剤の含有量は、分散剤全量に対して60質量%以下であってもよく、好ましくは40質量%以下であり、より好ましくは20質量%以下である。また、平均分子量が5000未満であるカルボン酸系分散剤の含有量の下限は0質量%である。
【0068】
また、分散剤は、酸系分散剤以外の分散剤を含んでもよい。酸系分散以外の分散剤としては、塩基系分散剤、非イオン系分散剤、両性分散剤などが挙げられる。これらの分散剤は、1種または2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0069】
塩基系分散剤としては、例えば、ラウリルアミン、ロジンアミン、セチルアミン、ミリスチルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミンなどの脂肪族アミンなどが挙げられる。
【0070】
また、分散剤(全体)の含有量としては、導電性ペースト全体に対して3.0質量%未満であることが好ましい。上記カルボン酸系高分子分散剤、又は、分散剤全体の含有量が多すぎる場合、印刷、乾燥工程で、乾燥が不十分となり、内部電極層が柔らかい状態となるため、その後の積層工程で積層ズレを生じることがある。また、焼成時に残留した分散剤が気化し、気化したガス成分によって内部応力が発生したり、積層体の構造破壊が生じたりすることがある。
【0071】
(添加剤)
本実施形態の導電性ペーストは、必要に応じて、上記の分散剤以外のその他の添加剤を含んでもよい。その他の添加剤としては、例えば、消泡剤、可塑剤、界面活性剤、増粘剤などの従来公知の添加物を用いることができる。
【0072】
なお、例えば、特許文献3では、導電性粉末と誘電体粉末の分離を抑制する分離抑制剤として、ポリカルボン酸ポリマーおよびポリカルボン酸の塩が記載されているが、本明細書では、このような分離抑制剤も広義には無機粉末の分散性を向上させるものとして酸系分散剤に含める。
【0073】
(導電性ペースト)
本実施形態に係る導電性ペーストの製造方法は、特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。導電性ペーストは、例えば、上記の各成分を、3本ロールミル、ボールミル、ミキサーなどで攪拌・混練することにより製造することができる。なお、ジカルボン酸(分離抑制剤)については、他の材料と同様に、ミキサーなどで撹拌・混錬装置する際に秤量して、添加することが好ましいが、撹拌・混錬(分散)終了後の材料に、分離抑制剤として添加しても同様の効果を得ることができる。
【0074】
導電性ペーストは、ずり速度100sec-1の粘度が、好ましくは1.2Pa・S以下である。ずり速度100sec-1の粘度が上記範囲である場合、グラビア印刷用の導電性ペーストとして好適に用いることができる。上記範囲を超えると粘度が高すぎてグラビア印刷用として適さない場合がある。ずり速度100sec-1の粘度の下限は、特に限定されないが、例えば、0.2Pa・S以上である。
【0075】
また、導電性ペーストは、作製直後から1週間経過後に観察される白浮きの層の厚みが、導電性ペースト全体の厚みに対して、8%未満であることが好ましく、5%以下であってもよく、2%以下であってもよい。白浮きの層の厚みが少ないほど、導電性粉末とセラミック粉末の分離抑制効果に優れる。なお、白浮きの層の厚みは、後述する実施例に記載の方法で測定することができる。
【0076】
また、本実施形態の導電性ペーストは、積層セラミックコンデンサなどの電子部品に好適に用いることができる。積層セラミックコンデンサは、誘電体グリーンシートを用いて形成される誘電体層及び内部電極層を有し、本実施形態の導電性ペーストは、内部電極層の形成に好適用いることができる。
【0077】
[電子部品]
以下、本実施形態に係る電子部品等の一例について、図面を参照しながら説明する。図面においては、適宜、模式的に表現することや、縮尺を変更して表現することがある。また、部材の位置や方向などを、適宜、
図1A及び
図1Bに示すXYZ直交座標系を参照して説明する。このXYZ直交座標系において、X方向およびY方向は水平方向であり、Z方向は鉛直方向(上下方向)である。
【0078】
図1A及びBは、電子部品の一例である、積層セラミックコンデンサ1を示す図である。積層セラミックコンデンサ1は、誘電体層12及び内部電極層11を交互に積層した積層体10と外部電極20とを備える。
【0079】
以下、上記導電性ペーストを使用した積層セラミックコンデンサの製造方法の一例について説明する。まず、セラミックグリーンシート(誘電体グリーンシート)上に、導電性ペーストをグラビア印刷し、乾燥して、乾燥膜を形成する。この乾燥膜を上面に有する複数のセラミックグリーンシートを、圧着により積層させて積層体を得た後、積層体を焼成して一体化することにより、内部電極層11と誘電体層12とが交互に積層したセラミック積層体10を作製する。その後、セラミック積層体10の両端部に一対の外部電極20を形成することにより積層セラミックコンデンサ1が製造される。以下に、より詳細に説明する。
【0080】
まず、未焼成のセラミックシートであるセラミックグリーンシートを用意する。このセラミックグリーンシートとしては、例えば、チタン酸バリウム等の所定のセラミックの原料粉末に、ポリビニルブチラール等の有機バインダーとターピネオール等の溶剤とを加えて得た誘電体層用ペーストを、PETフィルム等の支持フィルム上にシート状に塗布し、乾燥させて溶剤を除去したもの等が挙げられる。なお、セラミックグリーンシートの厚みは、特に限定されないが、積層セラミックコンデンサの小型化の要請の観点から、0.05μm以上3μm以下が好ましい。
【0081】
次いで、このセラミックグリーンシートの片面に、グラビア印刷法を用いて、上述の導電性ペーストを印刷により塗布し、乾燥して、乾燥膜を形成したものを複数枚、用意する。なお、乾燥膜の厚みは、内部電極層11の薄層化の要請の観点から、乾燥後1μm以下とすることが好ましい。
【0082】
次いで、支持フィルムから、セラミックグリーンシートを剥離するとともに、セラミックグリーンシートとその片面に形成された乾燥膜とが交互に配置されるように積層した後、加熱・加圧処理により積層体を得る。なお、積層体の両面に、導電性ペーストを塗布していない保護用のセラミックグリーンシートを更に配置する構成としても良い。
【0083】
次いで、積層体を所定サイズに切断してグリーンチップを形成した後、当該グリーンチップに対して脱バインダー処理を施し、還元雰囲気下において焼成することにより、積層セラミック焼成体(セラミック積層体10)を製造する。なお、脱バインダー処理における雰囲気は、大気またはN2ガス雰囲気にすることが好ましい。脱バインダー処理を行う際の温度は、例えば200℃以上400℃以下である。また、脱バインダー処理を行う際の、上記温度の保持時間を0.5時間以上24時間以下とすることが好ましい。また、焼成は、内部電極層に用いる金属の酸化を抑制するために還元雰囲気で行われ、また、積層体の焼成を行う際の温度は、例えば、1000℃以上1350℃以下であり、焼成を行う際の、温度の保持時間は、例えば、0.5時間以上8時間以下である。
【0084】
グリーンチップの焼成を行うことにより、グリーンシート中の有機バインダーが完全に除去されるとともに、セラミックの原料粉末が焼成されて、セラミック製の誘電体層12が形成される。また内部電極層11中の有機ビヒクルが除去されるとともに、ニッケル粉末またはニッケルを主成分とする合金粉末が焼結もしくは溶融、一体化されて、内部電極が形成され、誘電体層12と内部電極層11とが複数枚、交互に積層された積層セラミック焼成体が形成される。なお、酸素を誘電体層の内部に取り込んで信頼性を高めるとともに、内部電極の再酸化を抑制するとの観点から、焼成後の積層セラミック焼成体に対して、アニール処理を施してもよい。
【0085】
そして、作製した積層セラミック焼成体に対して、一対の外部電極20を設けることにより、積層セラミックコンデンサ1が製造される。例えば、外部電極20は、外部電極層21及びメッキ層22を備える。外部電極層21は、内部電極層11と電気的に接続する。なお、外部電極20の材料としては、例えば、銅やニッケル、またはこれらの合金が好適に使用できる。なお、電子部品は、積層セラミックコンデンサ以外の電子部品を用いることもできる。
【実施例0086】
以下、本発明を実施例と比較例に基づき詳細に説明するが、本発明は実施例によって何ら限定されるものではない。
【0087】
[評価方法]
(導電性ペーストの粘度)
導電性ペーストの粘度を、レオメーター(株式会社アントンパール・ジャパン製:レオメーターMCR302)を用いて測定した。粘度は、コーン角度1°、直径25mmのコーンプレートを用いて、ずり速度(せん断速度)100sec-1の条件で測定した場合の値を用いた。
【0088】
また、導電性ペーストの粘度は、製造後1日時点及び1週間時点で測定され、1日時点の測定値を初期粘度とし、この初期粘度に対する1週間時点の測定値の比(1週間時点の測定値/1日時点の測定値)を経時増粘比として評価した。初期粘度は、0.2Pa・s以上1.2Pa・s未満を「〇」、1.2Pa・s以上を「×」と評価した。経時増粘比は、1.3未満を「〇」(粘度安定性が十分)と評価し、1.3以上を「×」(粘度安定性が不十分)とした。
【0089】
(白浮き)
作製直後の導電性ペースト20gをガラス瓶(直径φ30×高さ65mm)中に室温にて静置し、1週間経過した後、導電性ペーストの外観を目視により観察し、白浮きが観察される割合を測定した。白浮きの割合(%)は、(白浮きの層の厚み/ペースト全体の量の厚み)*100で算出される。白浮きの割合(%)は、5%未満を「〇」(分離抑制効果が良好)、5%以上8%未満を「△」(分離抑制効果がある)、8%以上を「×」(分離抑制効果が不十分)と評価した。
【0090】
[使用材料]
(導電性粉末)
導電性粉末としては、Ni粉末(SEM平均粒径0.3μm)を使用した。
【0091】
(セラミック粉末)
セラミック粉末としては、チタン酸バリウム(BaTiO3;SEM平均粒径0.10μm)を使用した。
【0092】
(バインダー樹脂)
バインダー樹脂としては、ポリビニルブチラール、エチルセルロース使用した。
【0093】
(分散剤)
分子量が5000以上のカルボン酸系高分子分散剤1~4、カルボン酸系低分子分散剤1~2、及びアミン系高分子分散剤1を用いた。各分散剤の詳細を表1にまとめる。なお、カルボン酸系高分子分散剤4は、直鎖状のブロックポリマー構造を有する(くし型構造は有さない)。
【0094】
【0095】
(有機溶剤)
有機溶剤としては、プロピレングリコールモノブチルエーテル(PNB)、ブチルカルビトール(BCA)、ミネラルスピリット(MA)、ターピネオール(TPO)、ジヒドロターピネオール(DHT)、及び、ジヒドロターピネオールアセテート(DHTA)、ジイソブチルケトン(DIBK)を使用した。
【0096】
[実施例1]
導電性粉末50質量%、セラミック粉末12.5質量%、分散剤0.05質量%(分散剤種:カルボン酸系高分子分散剤1)、バインダー樹脂2.5質量%(ポリビニルブチラール樹脂1.7質量%、エチルセルロース0.8質量%)、及び、残部として有機溶剤(溶剤1:残部、溶剤2:9.5質量%、溶剤3:7質量%)を添加して、全体として100質量%となるよう配合した材料を準備した。これらの材料を混合分散処理して導電性ペーストを作製した。ここで、溶剤1はDHT、溶剤2はPNB、溶剤3はMAである。添加剤の詳細を含めた試験条件及び評価結果を表1に示す。
【0097】
[実施例2~10、比較例1~3]
分散剤種及び添加量、溶剤1~3を表1、2に示す通りに変更した以外は、実施例1と同様に導電性ペーストを作製して、評価した。なお、分散剤の添加量の違いによる配合割合は、溶剤1の添加量を調整することにより、導電性ペースト全体が100質量%となるように調整した。分散剤の詳細を表1に、試験条件及び評価結果を表2に示す。
[実施例11]
有機溶剤の構成を4種含有に変更し、それぞれの含有量を(溶剤1:残部、溶剤2:5.3質量%、溶剤3:7質量%、溶剤4:4.2質量%)とした。溶剤1としてDHT、溶剤2としてBCA、溶剤3としてMSA、溶剤4としてDIBKを用いた以外は、実施例2と同様に導電性ペーストを作製して、評価した。分散剤の詳細を表1に、試験条件及び評価結果を表2に示す。
【0098】
【0099】
(評価結果)
実施例の導電性ペーストは、分子量5000以上のカルボン酸系高分子分散剤を含まない比較例1~3の導電性ペーストと比較して、経時的な粘度安定性が向上し、さらに保管により発生する白浮きの割合が十分小さく、分離抑制効果が向上することが分かる。
【0100】
比較例1の導電性ペーストでは、くし型構造のカルボン酸系分散剤を用いているが、分子量が約800と小さいため、微粒子の分散効果が不十分で、時間の経過にともない、グラビア印刷用の導電性ペーストとして、許容できないほどの粘度の増加が生じてしまっている。比較例2の導電性ペーストでは、低分子量のカルボン酸系分散剤を用いているが、粘度は十分に安定しているものの、白浮きの割合が許容量を超えてしまっている。比較例3の導電性ペーストでは、くし形構造を有する高分子系分散剤を用いているが吸着基がアミンであるため、初期粘度が高くグラビア印刷に適していない。
【0101】
実施例2は、実施例1で用いたくし型のカルボン酸系高分子分散剤1の含有量を増やした試料であり、初期粘度、経時増粘比、白浮き量がより良好な結果が得られている。
【0102】
実施例3、4は、実施例2で用いたくし型カルボン酸(Mw:5万)よりも平均分子量が小さいくし型カルボン酸(Mw:1~3万)を用いた試料である。実施例3,4の導電性ペーストでは、実施例2の導電性ペーストと比較して、白浮き量が若干増え、実施例4の導電性ペーストでは経時増粘比もより増えている。
【0103】
また、実施例5の導電性ペーストはブロック重合型のカルボン酸系高分子分散剤を用いており、くし型構造のカルボン酸系高分子分散剤を用いた他の実施例よりもより多量添加することによって、他の実施例の場合と同程度の効果を発現できる。
【0104】
実施例6および実施例7の導電性ペーストは、カルボン酸系くし型高分子分散剤と低分子量のカルボン酸系分散剤を組み合わせている。実施例6、7の導電性ペーストは、同種のくし型のカルボン酸系高分子分散剤を用いている実施例2の導電性ペーストと比較して、経時増粘比は同程度に低いが、若干、白浮き量が増加する。また、実施例2のくし型のカルボン酸系高分子分散剤よりも平均分子量が小さい分散剤を用いた他の実施例(例:実施例4、5)の導電性ペーストと比較して、経時増粘比は低くなっているが、許容範囲内で白浮き量が増加傾向にある。
【0105】
実施例8、9、10および実施例11は、実施例2の導電性ペーストにおける溶剤種を変更した試料である。同じ溶剤の含有量であっても、溶剤の組み合わせを変えることで粘度や経時増粘比、白浮き量が多少変化しているが、大きく変わることはない。そのため、使用状況に合わせて、溶剤種の選定により粘度を微調整することが可能である。
【0106】
なお、本発明の技術範囲は、上述の実施形態などで説明した態様に限定されるものではない。上述の実施形態などで説明した要件の1つ以上は、省略されることがある。また、上述の実施形態などで説明した要件は、適宜組み合わせることができる。また、法令で許容される限りにおいて、上述の実施形態などで引用した全ての文献の開示を援用して本文の記載の一部とする。
本発明の導電性ペーストは、グラビア印刷に適した粘度を長期間にわたり安定的に有し、かつ、導電性粉末とセラミック粉末との分離が十分に小さい。よって、本発明の導電性ペーストは、特に携帯電話やデジタル機器などの小型化が進む電子機器のチップ部品である積層セラミックコンデンサの内部電極用の原料として好適に用いることができ、グラビア印刷用の導電性ペーストとして好適に用いることができる。