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特開2023-37728層状ベーカリー食品および層状ベーカリー食品生地
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023037728
(43)【公開日】2023-03-16
(54)【発明の名称】層状ベーカリー食品および層状ベーカリー食品生地
(51)【国際特許分類】
   A21D 2/14 20060101AFI20230309BHJP
   A21D 13/10 20170101ALI20230309BHJP
   A23D 7/00 20060101ALI20230309BHJP
【FI】
A21D2/14
A21D13/10
A23D7/00 506
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021144476
(22)【出願日】2021-09-06
(71)【出願人】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】▲羽▼染 芳宗
(72)【発明者】
【氏名】山本 麻衣
(72)【発明者】
【氏名】片岡 直人
【テーマコード(参考)】
4B026
4B032
【Fターム(参考)】
4B026DC03
4B026DC06
4B026DG02
4B026DG05
4B026DG20
4B026DH01
4B026DH02
4B026DH05
4B026DH10
4B026DX02
4B026DX03
4B032DB16
4B032DB17
4B032DE05
4B032DK18
4B032DL08
4B032DL20
4B032DP73
4B032DP74
(57)【要約】
【課題】冷凍解凍後の食感の劣化が抑制された層状ベーカリー食品を提供することである。
【解決手段】穀粉を含む層状ベーカリー食品生地であって、0.5~4.2質量%の中鎖脂肪酸トリグリセリドを含む、層状ベーカリー食品生地。100質量部の穀粉に対して、1.2~10質量部の中鎖脂肪酸トリグリセリドを含む、前記層状ベーカリー食品生地。10~35質量%の油脂を含む、前記層状ベーカリー食品生地。中鎖脂肪酸トリグリセリドの一部または全部が、折り込まれた状態で含まれる、前記層状ベーカリー食品生地。前記層状ベーカリー食品生地が焼成された、層状ベーカリー食品。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
穀粉を含む層状ベーカリー食品生地であって、
0.5~4.2質量%の中鎖脂肪酸トリグリセリドを含む、層状ベーカリー食品生地。
【請求項2】
100質量部の穀粉に対して、1.2~10質量部の中鎖脂肪酸トリグリセリドを含む、請求項1に記載の層状ベーカリー食品生地。
【請求項3】
10~35質量%の油脂を含む、請求項1または2に記載の層状ベーカリー食品生地。
【請求項4】
中鎖脂肪酸トリグリセリドの一部または全部が、折り込まれた状態で含まれる、請求項1~3の何れか1項に記載の層状ベーカリー食品生地。
【請求項5】
請求項1~4の何れか1項に記載の層状ベーカリー食品生地が焼成された、層状ベーカリー食品。
【請求項6】
9~23質量%の中鎖脂肪酸トリグリセリドを含有する、折り込み用可塑性油脂組成物。
【請求項7】
層状ベーカリー食品生地に0.5~4.2質量%の中鎖脂肪酸トリグリセリドを含ませることにより、焼成後の冷凍解凍による層状ベーカリー食品の食感劣化を抑制する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍解凍後の食感の劣化が抑制された層状ベーカリー食品、当該層状ベーカリー食品を得るための生地に関する。
【背景技術】
【0002】
家庭で食べきれなかったベーカリー食品や一度に多量に購入したベーカリー食品は、しばしば凍保存される。層状ベーカリー食品についても冷凍保存は行われる。冷凍保存は、フードロスを減らす観点からも有効である。しかし、冷凍解凍した層状ベーカリー食品の食感は、パサついて硬くなるなど、幾分劣化したものとならざるを得ない。また、焼成後の層状ベーカリー食品の食感の劣化を抑制する方法として、サクサクとした食感が強められた層状ベーカリー食品が提案されている(例えば、特許文献1)。しかし、サクサクとした食感が強められた層状ベーカリー食品は、冷凍解凍後にかえって歯切れが悪くなり、サクサクとした食感が損なわれることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-34089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、冷凍解凍後の食感の劣化が抑制された層状ベーカリー食品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、特定量の中鎖脂肪酸トリグリセリド含む層状ベーカリー食品生地を焼成して得られる層状ベーカリー食品は、冷凍解凍後の食感の劣化が抑制されることを見出した。これにより、本発明は完成されるに至った。
【0006】
[1]穀粉を含む層状ベーカリー食品生地であって、0.5~4.2質量%の中鎖脂肪酸トリグリセリドを含む、層状ベーカリー食品生地。
[2]100質量部の穀粉に対して、1.2~10質量部の中鎖脂肪酸トリグリセリドを含む、[1]の層状ベーカリー食品生地。
[3]10~35質量%の油脂を含む、[1]または[2]の層状ベーカリー食品生地。
[4]中鎖脂肪酸トリグリセリドの一部または全部が、折り込まれた状態で含まれる、[1]~[3]の層状ベーカリー食品生地。
[5][1]~[4]の層状ベーカリー食品生地が焼成された、層状ベーカリー食品。
[6]9~23質量%の中鎖脂肪酸トリグリセリドを含有する、折り込み用可塑性油脂組成物。
[7]層状ベーカリー食品生地に0.5~4.2質量%の中鎖脂肪酸トリグリセリドを含ませることにより、焼成後の冷凍解凍による層状ベーカリー食品の食感劣化を抑制する方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によると、冷凍解凍後の食感の劣化が抑制された層状ベーカリー食品、および、当該層状ベーカリー食品を得るための層状ベーカリー食品生地、を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に本発明について詳細に説明する。なお、本発明において、A(数値)~B(数値)は、A以上B以下を意味する。なお、以下で例示する好ましい態様やより好ましい態様などは、「好ましい」や「より好ましい」などの表現にかかわらず適宜相互に組み合わせて使用することができる。また、数値範囲の記載は例示であって、「好ましい」や「より好ましい」などの表現にかかわらず各範囲の上限と下限並びに実施例の数値とを適宜組み合わせた範囲も好ましく使用することができる。
【0009】
本発明の層状ベーカリー食品は、本発明の層状ベーカリー生地が焼成などにより加熱膨化された食品である。層状ベーカリー食品としては、例えば、パイ、クロワッサン、デニッシュなどが挙げられる。層状ベーカリー生地は、加熱膨化により層状ベーカリー食品を得るための生地であって、典型的には、マーガリンなどの可塑性油脂組成物が、穀粉を主とする生地(穀粉生地)の間に層状に折り込まれた生地である。生地に折り込まれる可塑性油脂組成物は、生地に練り込まれた(生地と完全に均質化した)状態でなければ、必ずしも連続した層状構造を有する必要はなく、断続的あるいは断片的であってもよい。
【0010】
本発明の層状ベーカリー食品生地は、穀粉を含有する。穀粉は、パイ、クロワッサン、デニッシュなどの層状ベーカリー食品に一般的に使用される穀粉でよい。具体例としては、小麦粉(強力粉、中力粉、薄力粉など)、大麦粉、米粉、とうもろこし粉、ライ麦粉、そば粉、大豆粉、などが挙げられる。穀粉は、1種あるいは2種以上を使用してもよい。また、穀粉は、コーンスターチなどの澱粉、架橋処理タピオカ澱粉などの加工澱粉、などの澱粉性原料を含み得る。また、穀粉は、ふすま粉、米糠粉、などの穀皮粉を含み得る。また、穀粉は、活性グルテン、セルロース粉末などの機能性粉末を含み得る。しかし、穀粉は、好ましくは小麦粉を含む。なお、層状ベーカリー食品生地は、層状ベーカリー食品の製造に使用する生地であって、穀粉を主成分とした焼成前の生地のことである。
【0011】
本発明の一態様によれば、層状ベーカリー食品生地に占める穀粉の含有量は、好ましくは30~56質量%であり、より好ましくは36~50質量%であり、さらに好ましくは40~47質量%である。また、本発明の一態様によれば、層状ベーカリー食品生地に含まれる穀粉に占める小麦粉の含有量は、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上であり、さらに好ましくは80~100質量%である。
【0012】
本発明の層状ベーカリー食品生地は、0.5~4.2質量%の中鎖脂肪酸トリグリセリド(以下、MCTとも表記する)を含む。中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)は、トリグリセリドを構成する3つの脂肪酸残基の全てが中鎖脂肪酸からなるトリグリセリドである。層状ベーカリー食品生地に含まれるMCTの含有量は、好ましくは1.5~4.0質量%であり、より好ましくは1.9~3.8質量%であり、さらに好ましくは2.2~3.7質量%である。層状ベーカリー食品生地に少量のMCTが含まれることにより、焼成後の層状ベーカリー食品は冷凍解凍による食感の劣化が抑制される。
【0013】
上記中鎖脂肪酸は、6~10の炭素数を有する脂肪酸であり、好ましくは直鎖の飽和脂肪酸である。中鎖脂肪酸としては、具体的には、カプロン酸(炭素数6)、カプリル酸(炭素数8)、カプリン酸(炭素数10)が挙げられる。MCTを構成する中鎖脂肪酸は、同じであってもよいし、互いに異なっていてもよい。また、MCTを構成する中鎖脂肪酸の全量に占める、カプリル酸およびカプリン酸の合計量の割合は、好ましくは80~100質量%であり、より好ましくは90~100質量%である。また、カプリル酸とカプリン酸の含量比(質量比)は、好ましくは60:40~90:10であり、より好ましくは70:30~80:20である。MCTを構成するカプリル酸とカプリン酸の含量比が上記範囲程度であると、少量のMCTが含まれることにより、層状ベーカリー食品は冷凍解凍による食感の劣化が抑制されやすい。また、層状ベーカリー食品に含まれるMCTが少量で済むので、人によっては感じることがあるMCT摂食時の違和感が大幅に緩和される。
【0014】
本発明の一態様によれば、層状ベーカリー食品生地に含まれるMCTと穀粉の量比は、100質量部の穀粉に対して、MCTが好ましくは1.2~10質量部である。100質量部の穀粉に対するMCTは、より好ましくは3.1~9.4質量部であり、さらに好ましくは4.1~8.9質量部であり、ことさらに好ましくは4.5~8.7質量部である。層状ベーカリー食品生地に含まれるMCTと穀粉の量比が上記範囲程度であると、焼成後の層状ベーカリー食品は冷凍解凍による食感の劣化が抑制されやすい。
【0015】
本発明の一態様によれば、層状ベーカリー食品生地に含まれる油脂の含有量は、好ましくは10~35質量%であり、より好ましくは20~31質量%であり、さらに好ましくは21~27質量%である。また別の態様によれば、より好ましくは12~18質量%であり、さらに好ましくは13~16質量%である。層状ベーカリー食品生地に含まれる油脂には、練り込み用ショートニングや折り込み用マーガリンに由来する油脂だけではなく、全卵などに含まれる油脂も含める。層状ベーカリー食品生地に含まれる油脂の含有量(油分)の測定は、ソックスレー抽出法など、従来公知の方法を適用できる。また、MCTの含有量は、配合から計算してもよいし、抽出した油脂をガスクロマトグラフィー法(例えば、AOCS Ce5-86準拠)などにより分析して求めてもよい。層状ベーカリー食品生地に含まれる油脂の含有量にかかわらず、層状ベーカリー食品には上記の量のMCTが含まれる。
【0016】
本発明の一態様によれば、層状ベーカリー食品生地に含まれるMCT以外の油脂は、食用に適する油脂であれば特に限定されない。食用油脂は、例えば、大豆油、ナタネ油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、オリーブ油、キャノーラ油、コーン油、綿実油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、カカオ脂、乳脂、牛脂、豚脂などの各種植物油脂および動物油脂、並びにこれらに混合、水素添加、分別およびエステル交換から選択される1または2以上の処理を施した加工油脂などが挙げられる。これらの油脂は、1種または2種以上が層状ベーカリー食品生地に使用されてもよい。
【0017】
本発明の一態様によれば、層状ベーカリー食品生地には、MCTを含有する練り込み用の油脂が練り込まれてもよい。また、層状ベーカリー食品生地には、MCTを含有する折り込み用マーガリンなどの可塑性油脂組成物が折り込まれてもよい。しかし、層状ベーカリー食品生地には、好ましくは、MCTを含有する折り込み用マーガリンなどの可塑性油脂組成物が折り込まれる。層状ベーカリー食品生地に折り込まれる可塑性油脂組成物は、好ましくは5~40質量%のMCTを含有する。折り込み用可塑性油脂組成物に含まれるMCTの含有量は、より好ましくは9~23質量%であり、さらに好ましくは11~20質量%であり、ことさらに好ましくは13~17質量%である。また別の態様によれば、より好ましくは24~35質量%であり、さらに好ましくは26~33質量%であり、ことさらに好ましくは27~32質量%である。
【0018】
上記のMCTを含有する折り込み用可塑性油脂組成物は、好ましくは、65質量%以上、75質量%以上、81質量%以上、83質量%以上、85質量%以上、86質量%以上、から選ばれる量の油脂を含有し得る。折り込み用可塑性油脂組成物に含まれる油脂の含有量の上限は特に限定されない。しかし、好ましくは、96質量%以下、95質量%以下、94質量%以下、93質量%以下、92質量%以下、91質量%以下、から選ばれる量であり得る。折り込み用可塑性油脂組成物に含まれる油脂の含有量の下限と上限は任意に組み合わせてもよい。折り込み用可塑性油脂組成物に含まれる油脂は、上記の層状ベーカリー食品生地に含まれる油脂と同様のものから1種あるいは2種以上を選択して使用できる。しかし、折り込み用可塑性油脂組成物に含まれる油脂は、45℃以上の融点を有するハードストックの含有量が好ましくは30質量%以下である。また、折り込み用可塑性油脂組成物に含まれる油脂は、融点が36℃以上45℃未満(好ましくは38℃~44℃)のハードストックを25~40質量%(好ましくは30~38質量%)含有する。折り込み用可塑性油脂組成物に含まれる油脂には、原材料に含まれる油脂(例えば、全脂粉乳に含まれる乳脂肪など)も含められる。
【0019】
上記のMCTを含有する折り込み用可塑性油脂組成物は、通常ベーカリー食品の製造に用いられる可塑性油脂組成物に配合される、油脂以外の成分、を配合できる。油脂以外の成分としては、例として、水、乳化剤、増粘安定剤、食塩および塩化カリウムなどの塩味剤、酢酸、乳酸およびグルコン酸などの酸味料、糖類、糖アルコール類、ステビアおよびアスパルテームなどの甘味料、β-カロテン、カラメルおよび紅麹色素などの着色料、トコフェロール、茶抽出物(カテキンなど)およびルチンなどの酸化防止剤、小麦蛋白および大豆蛋白などの植物蛋白、卵、卵加工品、全脂粉乳、脱脂粉乳および乳清蛋白などの乳製品、調味料、pH調整剤、食品保存料、フレーバー、果実、果汁、コーヒー、ナッツペースト、香辛料、カカオマス、ココアパウダー、穀類、豆類、野菜類、肉類および魚介類などの食品素材もしくは食品添加物が挙げられる。
【0020】
上記のMCTを含有する折り込み用可塑性油脂組成物の製造方法は、特に制限されない。公知の可塑性油脂組成物の製造条件および製造方法が適用できる。具体的には、可塑性油脂組成物は、配合する油溶成分を油脂に混合溶解した油相を、同様に調製した水相と混合乳化した後、冷却し、結晶化させる工程により製造できる。冷却、結晶化の工程では、混合乳化物は、好ましくは冷却可塑化される。冷却条件は、好ましくは-0.5℃/分以上、より好ましくは-5℃/分以上である。この際、冷却は、好ましくは徐冷却より急冷却である。また、混合乳化後、混合乳化物は、好ましくは殺菌処理される。殺菌方法としては、タンクでのバッチ式や、プレート型熱交換機、掻き取り式熱交換機を用いた連続式が挙げられる。冷却する機器としては、密閉型連続式チューブ冷却機、例えば、ボテーター、コンビネーター、パーフェクターなどのマーガリン製造機や、プレート型熱交換機などが挙げられる。また、冷却する機器としては、開放型のダイアクーラーとコンプレクターとの組み合わせも挙げられる。
【0021】
上記のMCTを含有する折り込み用可塑性油脂組成物は、好ましくは、可塑化され、成形される。可塑性油脂組成物は、その形状として、シート状、ブロック状、円柱状、直方体状など様々な形状をとり得る。その中でも、形状は好ましくはシート状である。可塑性油脂組成物をシート状とした場合の好ましい大きさは、その幅が50~1000mm、その長さが50~1000mm、その厚さが1~50mmである。
【0022】
本発明の一態様によれば、層状ベーカリー食品生地は、折り込み用可塑性油脂組成物が穀粉生地の間に層状に折り込まれた状態にある。層状ベーカリー食品生地としては、具体例としては、デニッシュ生地、クロワッサン生地、パイ生地などが挙げられる。層状ベーカリー食品生地は、穀粉生地に含まれる100質量部の穀粉に対して折り込み用可塑性油脂組成物が、好ましくは10~100質量部、より好ましくは40~90質量部、さらに好ましくは44~85質量部、ことさらに好ましくは47~60質量部、折り込まれる。また別の態様として、より好ましくは16~38質量部、さらに好ましくは20~32質量部、ことさらに好ましくは22~28質量部、折り込まれる。また、層状ベーカリー食品生地は、100質量部の穀粉生地に対して折り込み用可塑性油脂組成物が、好ましくは8~60質量部、より好ましくは18~52質量部、さらに好ましくは21~32質量部、ことさらに好ましくは23~30質量部、折り込まれる。また別の態様として、より好ましくは9~16質量部、さらに好ましくは10~15質量部、ことさらに好ましくは11~14質量部、折り込まれる。
【0023】
本発明の一態様によれば、層状ベーカリー食品生地には、折り込み用可塑性油脂組成物および穀粉以外の食品素材が使用できる。例えば、イースト、イーストフード、酵素、食塩、砂糖(グラニュー糖、上白糖)などの糖類・糖アルコール類、卵(全卵、液卵)、各種卵加工品、脱脂粉乳、牛乳などの乳製品、練り込み用油脂(ショートニング、バターなど)、水、豆乳などの水性成分、乳主原の呈味素材、フレーバーなどが使用できる。
【0024】
本発明の一態様によれば、層状ベーカリー食品生地は、パイ生地、クロワッサン生地、デニッシュ生地などの通常の層状ベーカリー食品生地と同様の製造条件および製造方法により製造できる。例えば、穀粉生地原料のミキシング、発酵(一次発酵)、リタード、折り込み、リタード、折り込み、リタード、成形、ホイロ(最終発酵)の工程を経て製造できる。折り込みは、シート状とした可塑性油脂組成物を穀粉生地で包み込んで折りたたみ、さらに薄く伸ばしたり折り畳んだりしながら幾多の層を形成する。折り込みは、練りパイのように、チップ状の可塑性油脂組成物を生地に練りこみ、薄く伸ばして折りたたんで層を形成してもよい。折り込み、リタードの回数は製品により適宜調整すればよく、パイ生地の場合、発酵工程は省略される。また、ホイロ前もしくホイロ後の生地は冷凍保管してもよい。また、生地以外の部分として、果実、ジャム、クリームなどを包餡、トッピングなどしてもよい。
【0025】
本発明の層状ベーカリー食品は、本発明の層状ベーカリー食品生地を加熱膨化させることにより得られる。本発明の一態様によれば、層状ベーカリー食品は、層状ベーカリー食品生地を加熱焼成する(焼き上げる)ことにより得られる。ここで加熱焼成(焼き上げる)は、オーブン加熱や直焼きが好ましい。しかし、マイクロウェーブによる加熱、揚げる、蒸す、などの加熱調理の態様全般を指す。オーブン加熱の場合、例えば、190~240℃で5~30分間、加熱焼成すればよい。
【0026】
本発明の一態様によれば、層状ベーカリー食品は、冷凍解凍後の食感の劣化が抑制されるので、冷凍保存に適しており、フードロスを減らす観点からも有効である。本発明の一態様によれば、層状ベーカリー食品に含まれるMCTの含有量が少ないので、MCTが苦手な人であっても、無理なく美味しく食べられる。
【実施例0027】
次に実施例により本発明を説明する。しかし、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【0028】
〔折り込み用可塑性油脂組成物の調製〕
表1の配合に従って、折り込み用可塑性油脂組成物に使用する油脂1~3を調整した。表2の配合に従って、油脂1~3のそれぞれ使用した折り込み用可塑性油脂組成物である、シートマーガリン1~3(SM1~3)を、常法に従って製造した。すなわち、油相と水相とをそれぞれ調製し、油相に水相を混合、乳化した。当該乳化物を、急冷混捏し、シート状(縦300mm×横200mm×高さ10mm)に押し出し成形して、SM1~3を製造した。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
〔クロワッサンの評価1〕
SM1とSM2のそれぞれについて、表3の配合に従って調整された1797質量部の穀粉(小麦粉)生地に対して、500質量部のシートマーガリンを載せ、穀粉生地でシートマーガリンを包み込んだ。リバースシーターを用いて、3×3×4(36層)の折り込み作業を、リタード、折り込み、リタード、折り込み、折り込み、リタードの順に行った。作業は、熟練したパン職人が、室温20℃の環境下で行った。折り込み後の生地を、60gに分割した。分割した生地は、32℃で60分間ホイロをとった後、215℃で15分間焼成して、クロワッサン1(参考例1)とクロワッサン2(実施例1)を得た。焼成翌日の食感と、焼成翌日から-15℃で12日間冷凍後、室温で自然解凍したクロワッサンの食感を評価した。評価は、10年以上のキャリアを持つパン職人3名により、総合的に判断された。結果を表4に示した。
【0032】
【表3】

【0033】
【表4】

【0034】
〔クロワッサンの評価2〕
SM1とSM3のそれぞれについて、表3の配合に従って調整された1797質量部の穀粉(小麦粉)生地に対して、250質量部のシートマーガリンを載せ、穀粉生地でシートマーガリンを包み込んだ。リバースシーターを用いて、3×3×4(36層)の折り込み作業を、リタード、折り込み、リタード、折り込み、折り込み、リタードの順に行った。作業は、熟練したパン職人が、室温20℃の環境下で行った。折り込み後の生地を、60gに分割した。分割した生地は、32℃で60分間ホイロをとった後、215℃で15分間焼成して、クロワッサン3(参考例2)とクロワッサン4(実施例2)を得た。焼成翌日の食感と、焼成翌日から-15℃で12日間冷凍後、室温で自然解凍したクロワッサンの食感を評価した。評価は、10年以上のキャリアを持つパン職人3名により、総合的に判断された。結果を表5に示した。
【0035】
【表5】