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特開2023-3773スラッジ水の処理方法及びスラッジ処理水の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023003773
(43)【公開日】2023-01-17
(54)【発明の名称】スラッジ水の処理方法及びスラッジ処理水の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/70 20230101AFI20230110BHJP
   C02F 11/00 20060101ALI20230110BHJP
   B28C 7/16 20060101ALI20230110BHJP
【FI】
C02F1/70 B ZAB
C02F11/00 H
B28C7/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021105048
(22)【出願日】2021-06-24
(71)【出願人】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】板谷 裕輝
(72)【発明者】
【氏名】小西 正芳
(72)【発明者】
【氏名】國西 健史
【テーマコード(参考)】
4D050
4D059
4G056
【Fターム(参考)】
4D050AA13
4D050AB54
4D050BA04
4D050BA05
4D050BA06
4D050BA07
4D050BA08
4D050BA10
4D050BA12
4D050BA20
4D050CA13
4D059AA13
4D059BF11
4D059DA01
4D059DA03
4D059DA23
4D059DA34
4D059DA35
4D059DA37
4D059DA60
4D059DA70
4D059DB01
4D059DB08
4D059EB05
4D059EB11
4G056AA06
4G056CD47
(57)【要約】
【課題】スラッジ水に含まれる六価クロムの濃度を低減させることが可能なスラッジ水の処理方法及びスラッジ処理水の製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明に係るスラッジ水の処理方法は、スラッジ固形分を含むスラッジ水を処理する方法であって、前記スラッジ水に二酸化炭素を含むガスを吹き込むことにより、前記二酸化炭素と前記スラッジ固形分を構成する水和生成物とを反応処理して炭酸カルシウムを生成させる吹込工程と、前記吹込工程後、前記スラッジ水に還元剤を添加する添加工程と、を含み、前記添加工程において、前記還元剤の添加量が5mg/kg以上である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スラッジ固形分を含むスラッジ水を処理する方法であって、
前記スラッジ水に二酸化炭素を含むガスを吹き込むことにより、前記二酸化炭素と前記スラッジ固形分を構成する水和生成物とを反応処理して炭酸カルシウムを生成させる吹込工程と、
前記吹込工程後、前記スラッジ水に還元剤を添加する添加工程と、を含み、
前記添加工程において、前記還元剤の添加量が5mg/kg以上である、スラッジ水の処理方法。
【請求項2】
前記吹込工程後、前記添加工程前に、前記炭酸カルシウムを分離して回収する分離回収工程を含む、請求項1に記載のスラッジ水の処理方法。
【請求項3】
前記吹込工程において、前記スラッジ水に二酸化炭素を含むガスを吹き込むことにより、該スラッジ水のpHを12以下に調整する、請求項1又は2に記載のスラッジ水の処理方法。
【請求項4】
前記吹込工程において、前記二酸化炭素を含むガスが、セメントクリンカーの焼成時に生成する二酸化炭素を含むガスである、請求項1~3のいずれか一つに記載のスラッジ水の処理方法。
【請求項5】
前記吹込工程において、前記水和生成物が水酸化カルシウム及びカルシウムシリケート水和物から選択される少なくとも一種を含む、請求項1~4のいずれか一つに記載のスラッジ水の処理方法。
【請求項6】
前記添加工程において、前記還元剤の添加量が5mg/kg以上1000mg/kg以下である、請求項1~5のいずれか一つに記載のスラッジ水の処理方法。
【請求項7】
前記添加工程において、前記還元剤が硫酸第一鉄一水和物及び高炉スラグ粉末から選択される少なくとも一種である、請求項1~6のいずれか一つに記載のスラッジ水の処理方法。
【請求項8】
スラッジ固形分を含むスラッジ水を処理してスラッジ処理水を製造する方法であって、
前記スラッジ水に二酸化炭素を含むガスを吹き込むことにより、前記二酸化炭素と前記スラッジ固形分を構成する水和生成物とを反応処理して炭酸カルシウムを生成させる吹込工程と、
前記吹込工程後、前記スラッジ水に還元剤を添加する添加工程と、を含み、
前記添加工程において、前記還元剤の添加量が5mg/kg以上である、スラッジ処理水の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラッジ水の処理方法及びスラッジ処理水の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レディーミクストコンクリート工場の運搬車、ミキサ等の洗浄に用いた洗浄排水から骨材を除いた水は、回収水と呼ばれる。回収水は、セメントから溶出する水酸化カルシウム、カルシウムシリケート水和物等の水和生成物を含む上澄水と、大部分が前記水和生成物から構成されるスラッジ固形分を含むスラッジ水と、に分けられる。
【0003】
レディーミクストコンクリート工場で回収水を練混ぜ水として使用する場合、日本コンクリート工学協会の回収水利用委員会によれば、上澄水は、練混ぜ水として上水と同様に使用することができる。一方、スラッジ水については、JIS A 5308;2019で規定される品質基準に基づき、スラッジ固形分率が3%を超えてはならないため、スラッジ水や回収水を処理して練混ぜ水として再利用する種々の方法が提案されている(例えば、特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-072947号公報
【特許文献2】特開2003-190998号公報
【特許文献3】特開2003-071466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、セメントの原料や燃料の大半は地殻に存在する天然資源であることから、セメントには、主構成元素のほかに微量元素が含まれる。微量元素の中でも、クロムは、多くが三価クロムとして存在するものの、一部の三価クロムがセメントクリンカー製造時に酸化され、六価クロムに変化する。この六価クロムは、スラッジ水において、スラッジ固形分を構成する水和生成物に固定された状態で含まれているが、スラッジ水の液相中に溶出して環境への悪影響を及ぼす虞があるため、濃度を低減させることが望まれている。
【0006】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、スラッジ水に含まれる六価クロムの濃度を低減させることが可能なスラッジ水の処理方法、及び、スラッジ処理水の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るスラッジ水の処理方法は、スラッジ固形分を含むスラッジ水を処理する方法であって、前記スラッジ水に二酸化炭素を含むガスを吹き込むことにより、前記二酸化炭素と前記スラッジ固形分を構成する水和生成物とを反応処理して炭酸カルシウムを生成させる吹込工程と、前記吹込工程後、前記スラッジ水に還元剤を添加する添加工程と、を含み、前記添加工程において、前記還元剤の添加量が5mg/kg以上である。
【0008】
前記スラッジ水の処理方法では、前記吹込工程において、二酸化炭素とスラッジ固形分を構成する水和生成物とを反応処理することにより、スラッジ固形分を構成する水和生成物に固定された六価クロムを、効率的に液相中に溶出させることができる。そして、前記添加工程において、スラッジ水に還元剤を添加することにより、液相中の六価クロムを三価クロムに還元し、その結果、スラッジ水に含まれる六価クロムの濃度を低減させることができる。
【0009】
本発明に係るスラッジ水の処理方法は、前記吹込工程後、前記添加工程前に、前記炭酸カルシウムを分離して回収する分離回収工程を含んでいてもよい。
【0010】
前記スラッジ水の処理方法は、斯かる構成により、二酸化炭素を炭酸カルシウムとして効率的に固定化する事ができる。その結果、大気中への二酸化炭素放出量を抑制し、温室効果ガスの低減に寄与することができる。
【0011】
本発明に係るスラッジ水の処理方法は、前記吹込工程において、前記スラッジ水に二酸化炭素を含むガスを吹き込むことにより、該スラッジ水のpHを12以下に調整してもよい。
【0012】
前記スラッジ水の処理方法は、斯かる構成により、スラッジ固形分を構成する水和生成物に固定された六価クロムを、より効率的に液相中に溶出させることができる。その結果、スラッジ水に含まれる六価クロムの濃度をより低減させることができる。
【0013】
本発明に係るスラッジ水の処理方法は、前記吹込工程において、前記二酸化炭素を含むガスが、セメントクリンカーの焼成時に生成する二酸化炭素を含むガスであってもよい。
【0014】
前記スラッジ水の処理方法は、斯かる構成により、セメントクリンカーの焼成時に生成する二酸化炭素を有効活用するとともに、大気中への二酸化炭素放出量を抑制し、温室効果ガスの低減に寄与することができる。
【0015】
本発明に係るスラッジ水の処理方法は、前記吹込工程において、前記水和生成物が水酸化カルシウム及びカルシウムシリケート水和物から選択される少なくとも一種を含んでいてもよい。
【0016】
前記スラッジ水の処理方法は、斯かる構成により、前記スラッジ水のpHを12以下に調整しやすくなる。
【0017】
本発明に係るスラッジ水の処理方法は、前記添加工程において、前記還元剤の添加量が5mg/kg以上1000mg/kg以下であってもよい。
【0018】
前記スラッジ水の処理方法は、斯かる構成により、液相中の六価クロムを十分かつ効率的に三価クロムに還元することができ、その結果、スラッジ水に含まれる六価クロムの濃度をより低減させることができる。
【0019】
本発明に係るスラッジ水の処理方法は、前記添加工程において、前記還元剤が硫酸第一鉄一水和物及び高炉スラグ粉末から選択される少なくとも一種であってもよい。
【0020】
前記スラッジ水の処理方法は、斯かる構成により、液相中の六価クロムを効率的に三価クロムに還元することができ、その結果、スラッジ水に含まれる六価クロムの濃度をより低減させることができる。
【0021】
本発明に係るスラッジ処理水の製造方法は、スラッジ固形分を含むスラッジ水を処理してスラッジ処理水を製造する方法であって、前記スラッジ水に二酸化炭素を含むガスを吹き込むことにより、前記二酸化炭素と前記スラッジ固形分を構成する水和生成物とを反応処理して炭酸カルシウムを生成させる吹込工程と、前記吹込工程後、前記スラッジ水に還元剤を添加する添加工程と、を含み、前記添加工程において、前記還元剤の添加量が5mg/kg以上である。
【0022】
前記スラッジ処理水の製造方法は、斯かる構成により、六価クロムの濃度を低減させたスラッジ処理水を得ることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、スラッジ水に含まれる六価クロムの濃度を低減させることが可能なスラッジ水の処理方法及びスラッジ処理水の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本実施形態に係るスラッジ水の処理方法及びスラッジ処理水の製造方法について説明する。
【0025】
<スラッジ水の処理方法>
本実施形態に係るスラッジ水の処理方法は、スラッジ固形分を含むスラッジ水を処理する方法である。
【0026】
スラッジ水とは、レディーミクストコンクリート工場の運搬車、ミキサ等の洗浄に用いた洗浄排水から骨材を除いた水(すなわち、回収水)のうち、スラッジ固形分を含む水である。スラッジ水には、例えば、1質量%以上50質量%以下のスラッジ固形分が含まれる。
【0027】
スラッジ固形分は、大部分が水和生成物から構成され、さらに、骨材微粒子等を含む。前記水和生成物には、例えば、セメントから溶出する水酸化カルシウム、カルシウムシリケート水和物、モノサルフェート、エトリンガイト等が含まれる。これらの中でも、前記水和生成物は、スラッジ水のpHを12以下に調整しやすくする観点から、水酸化カルシウム及びカルシウムシリケート水和物から選択される少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0028】
本実施形態に係るスラッジ水の処理方法は、前記スラッジ水に二酸化炭素を含むガスを吹き込むことにより、前記二酸化炭素と前記スラッジ固形分を構成する水和生成物とを反応処理して炭酸カルシウムを生成させる吹込工程と、前記吹込工程後、前記スラッジ水に還元剤を添加する添加工程と、を含む。
【0029】
前記吹込工程において、前記スラッジ水に吹き込む二酸化炭素を含むガスとしては、工業品としての二酸化炭素、空気、セメントクリンカーの焼成時に生成する二酸化炭素や窒素酸化物を含む排ガス等が挙げられる。これらの中でも、前記二酸化炭素を含むガスは、セメントクリンカーの焼成時に生成する二酸化炭素を有効活用するとともに、大気中への二酸化炭素放出量を抑制する観点から、セメントクリンカーの焼成時に生成する二酸化炭素を含むガスであることが好ましい。
【0030】
前記二酸化炭素を含むガスを吹き込む方法としては、単にバブリングする方法、撹拌しながらバブリングする方法、超音波を照射しながらバブリングする方法等が挙げられる。これらの中でも、前記二酸化炭素を含むガスを吹き込む方法は、反応効率を向上させるとともに、経済性を良好にする観点から、撹拌しながらバブリングする方法であることが好ましい。なお、二酸化炭素を含むガスの濃度は、10%以上100%以下であることが好ましい。また、二酸化炭素を含むガスの吹き込み条件は、例えば、スラッジ固形分1gに対する吹き込み速度を1mL/min以上1000mL/min以下、総吹き込み量を50L以上1000L以下とすることができる。
【0031】
レディーミクストコンクリート工場の運搬車、ミキサ等の洗浄に用いた洗浄排水は、骨材を除いた後、スラッジ水槽に送られる。前記二酸化炭素を含むガスは、該スラッジ水槽内におけるスラッジ水に吹き込んでもよいし、例えば、スラッジ水槽へ送られる前のスラッジ水や、スラッジ水槽から回収した後のスラッジ水に吹き込んでもよい。
【0032】
前記吹込工程では、スラッジ固形分を構成する水和生成物に固定された六価クロムを、より効率的に液相中に溶出させる観点から、スラッジ水に二酸化炭素を含むガスを吹き込むことにより、該スラッジ水のpHを12以下に調整することが好ましく、10以下に調整することがより好ましい。
【0033】
前記添加工程において、前記還元剤の添加量は、スラッジ水に含まれる六価クロムの濃度を低減させる観点から、5mg/kg以上であり、5mg/kg以上1000mg/kg以下であることが好ましい。なお、前記還元剤の添加量は、スラッジ水1kgに対する添加量である。
【0034】
前記還元剤としては、例えば、亜硫酸アンモニウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸カルシウム、亜硫酸ナトリウム等の亜硫酸塩;亜硫酸水素カリウム、亜硫酸水素ナトリウム等の亜硫酸水素塩;チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸カリウム等のチオ硫酸塩;硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化カルシウム等の硫化物;水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化カルシウム等の水硫化物;多硫化ナトリウム、多硫化カリウム、多硫化カルシウム等の多硫化物;チオ酸塩、二酸化硫黄、硫黄等の硫黄化合物;硫酸第一鉄、硝酸第一鉄、塩化第一鉄等の第一鉄塩や3価チタン塩等の金属塩及びその水和物;アルデヒド類、糖類、ギ酸、シュウ酸、アスコルビン酸等の有機化合物;高炉スラグ粉末、泥炭、亜炭、ヨウ素、鉄粉等が挙げられる。これらの中でも、前記還元剤は、液相中の六価クロムを効率的に三価クロムに還元する観点から、硫酸第一鉄一水和物及び高炉スラグ粉末から選択される少なくとも一種であることが好ましい。なお、還元剤は、固体であってもよいし、液体であってもよい。
【0035】
前記添加工程では、液相中の六価クロムを効率的に三価クロムに還元する観点から、スラッジ水に還元剤を添加後、0.5時間以上6時間以下攪拌することが好ましい。
【0036】
本実施形態に係るスラッジ水の処理方法では、前記吹込工程後、前記添加工程前に、前記炭酸カルシウムを分離して回収する分離回収工程を含むことが好ましい。
【0037】
本実施形態に係るスラッジ水の処理方法は、前記吹込工程において、前記スラッジ水に二酸化炭素を含むガスを吹き込み、該二酸化炭素とスラッジ固形分を構成する水和生成物とを反応処理することにより、スラッジ固形分を構成する水和生成物に固定された六価クロムを、効率的に液相中に溶出させることができる。そして、前記添加工程において、スラッジ水に5mg/kg以上の還元剤を添加することにより、液相中の六価クロムを三価クロムに還元し、その結果、スラッジ水に含まれる六価クロムの濃度を低減させることができる。
【0038】
本実施形態に係るスラッジ水の処理方法は、前記吹込工程後、前記添加工程前に、前記炭酸カルシウムを分離して回収する分離回収工程を含んでいてもよい。斯かる構成により、二酸化炭素を炭酸カルシウムとして効率的に固定化する事ができる。その結果、大気中への二酸化炭素放出量を抑制し、温室効果ガスの低減に寄与することができる。
【0039】
本実施形態に係るスラッジ水の処理方法は、前記吹込工程において、前記スラッジ水に二酸化炭素を含むガスを吹き込むことにより、該スラッジ水のpHを12以下に調整してもよい。斯かる構成により、スラッジ固形分を構成する水和生成物に固定された六価クロムを、より効率的に液相中に溶出させることができる。その結果、スラッジ水に含まれる六価クロムの濃度をより低減させることができる。
【0040】
本実施形態に係るスラッジ水の処理方法は、前記吹込工程において、前記二酸化炭素を含むガスが、セメントクリンカーの焼成時に生成する二酸化炭素を含むガスであってもよい。斯かる構成により、セメントクリンカーの焼成時に生成する二酸化炭素を有効活用するとともに、大気中への二酸化炭素放出量を抑制し、温室効果ガスの低減に寄与することができる。
【0041】
本実施形態に係るスラッジ水の処理方法は、前記吹込工程において、前記水和生成物が水酸化カルシウム及びカルシウムシリケート水和物から選択される少なくとも一種を含んでいてもよい。斯かる構成により、前記スラッジ水のpHを12以下に調整しやすくなる。
【0042】
本実施形態に係るスラッジ水の処理方法は、前記添加工程において、前記還元剤の添加量が5mg/kg以上1000mg/kg以下であってもよい。斯かる構成により、液相中の六価クロムを十分かつ効率的に三価クロムに還元することができ、その結果、スラッジ水に含まれる六価クロムの濃度をより低減させることができる。
【0043】
本実施形態に係るスラッジ水の処理方法は、前記添加工程において、前記還元剤が硫酸第一鉄一水和物及び高炉スラグ粉末から選択される少なくとも一種であってもよい。斯かる構成により、液相中の六価クロムを効率的に三価クロムに還元することができ、その結果、スラッジ水に含まれる六価クロムの濃度をより低減させることができる。
【0044】
<スラッジ処理水の製造方法>
本実施形態に係るスラッジ処理水の製造方法は、スラッジ固形分を含むスラッジ水を処理してスラッジ処理水を製造する方法である。スラッジ固形分及びスラッジ水は、上述のスラッジ水の処理方法と同様のものを用いることができる。特に、スラッジ固形分は、大部分が水和生成物から構成され、該水和生成物は、スラッジ水のpHを12以下に調整しやすくする観点から、水酸化カルシウム及びカルシウムシリケート水和物から選択される少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0045】
本実施形態に係るスラッジ処理水の製造方法は、前記スラッジ水に二酸化炭素を含むガスを吹き込むことにより、前記二酸化炭素と前記スラッジ固形分を構成する水和生成物とを反応処理して炭酸カルシウムを生成させる吹込工程と、前記吹込工程後、前記スラッジ水に還元剤を添加する添加工程と、を含む。
【0046】
前記吹込工程及び前記添加工程は、上述のスラッジ水の処理方法と同様に行うことができる。
【0047】
特に、前記吹込工程において、前記スラッジ水に吹き込む二酸化炭素を含むガスは、セメントクリンカーの焼成時に生成する二酸化炭素を有効活用するとともに、大気中への二酸化炭素放出量を抑制する観点から、セメントクリンカーの焼成時に生成する二酸化炭素を含むガスであることが好ましい。
【0048】
また、前記吹込工程では、スラッジ固形分を構成する水和生成物に固定された六価クロムを、より効率的に液相中に溶出させる観点から、スラッジ水に二酸化炭素を含むガスを吹き込むことにより、該スラッジ水のpHを12以下に調整することが好ましく、10以下に調整することがより好ましい。
【0049】

さらに、前記添加工程において、前記還元剤の添加量は、スラッジ処理水に含まれる六価クロムの濃度を低減させる観点から、5mg/kg以上であり、5mg/kg以上1000mg/kg以下であることが好ましい。前記還元剤は、液相中の六価クロムを効率的に三価クロムに還元する観点から、硫酸第一鉄一水和物及び高炉スラグ粉末から選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【0050】
また、本実施形態に係るスラッジ処理水の製造方法は、前記吹込工程後、前記添加工程前に、前記炭酸カルシウムを分離して回収する分離回収工程を含むことが好ましい。
【0051】
本実施形態に係るスラッジ処理水の製造方法は、前記吹込工程において、前記スラッジ水に二酸化炭素を含むガスを吹き込み、該二酸化炭素とスラッジ固形分を構成する水和生成物とを反応処理することにより、スラッジ固形分を構成する水和生成物に固定された六価クロムを、効率的に液相中に溶出させることができる。そして、前記添加工程において、スラッジ水に5mg/kg以上の還元剤を添加することにより、液相中の六価クロムを三価クロムに還元し、その結果、六価クロムの濃度を低減させたスラッジ処理水を得ることができる。
【実施例0052】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0053】
(スラッジ水)
スラッジ固形分として粗骨材、細骨材、及び、水和生成物を含むとともに、水和生成物として水酸化カルシウム、カルシウムシリケート水和物、モノサルフェート、エトリンガイト等を含むスラッジ水を用いた。前記スラッジ固形分の含有量は、スラッジ水に対して、10質量%であった。なお、スラッジ固形分のクロム含有量は、100mg/gであった。クロム含有量は、蛍光X線分析装(PANalytical Epsilon 3)を用いて測定した。
【0054】
(スラッジ水の処理)
スラッジ水槽内におけるスラッジ水に濃度20%の二酸化炭素を100mL/minで24h吹き込んだ後、還元剤として、表1に示す添加量で硫酸第一鉄一水和物又は高炉スラグ粉末を添加し、1時間攪拌することにより、スラッジ水の処理を行い、スラッジ処理水を得た。なお、表1中の「ブランク」では、還元剤の添加を行わなかった。
【0055】
スラッジ処理水における六価クロムの濃度は、JIS K 0102 65.2.1「ジフェニルカルバジド吸光光度法」に準拠して測定した。六価クロム濃度の測定結果を表1に示す。
【0056】
スラッジ処理水のpH及び酸化-還元電位(ORP)を、(株)堀場製作所製の卓上型pHメーター:F-73(pH電極:9615S-10D、ORP電極:9300-10D)にて測定した。pH及び酸化-還元電位(ORP)の測定結果を表1に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
表1の結果から分かるように、本発明の構成要件をすべて満たす各実施例のスラッジ処理水は、六価クロムの濃度が検出下限値である0.005mg/L未満であったことから、六価クロムの濃度を低減させることができたと言える。各実施例のpH及び酸化還元電位の測定結果から、M.POURBAIX,ATLAS OF ELECTROCHEMICAL EQUILIBRIA in AQUEOUS SOLUTIONS,NACE,HOUSTON(1966)に記載されたクロムのpH-酸化還元電位図を参照すると、各実施例のスラッジ処理水では、六価クロムが三価クロムに還元され、その結果、六価クロムの濃度が低減できたと考えられる。すなわち、本発明に係るスラッジ水の処理方法により、六価クロムの濃度を低減させることができたことが分かる。
【0059】
一方、硫酸第一鉄一水和物の添加量が1mg/kgである比較例1、及び、高炉スラグ粉末の添加量が2mg/kgである比較例2のスラッジ処理水は、還元剤の添加量が少ないため、六価クロムの濃度を低減させることができなかった。