(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023037890
(43)【公開日】2023-03-16
(54)【発明の名称】フィリングベース
(51)【国際特許分類】
A23D 7/00 20060101AFI20230309BHJP
A23G 3/00 20060101ALI20230309BHJP
A21D 13/31 20170101ALI20230309BHJP
【FI】
A23D7/00 504
A23G3/00
A21D13/31
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021144714
(22)【出願日】2021-09-06
(71)【出願人】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊沢 紘介
(72)【発明者】
【氏名】小中 隆太
(72)【発明者】
【氏名】室田 健来
【テーマコード(参考)】
4B014
4B026
4B032
【Fターム(参考)】
4B014GG10
4B014GG11
4B014GG12
4B014GG14
4B014GG17
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4B032DK67
4B032DP08
4B032DP25
4B032DP33
4B032DP40
(57)【要約】
【課題】以下の(1)及び(2)を達成することのできる、フィリングベースを提供する。
(1)焼き込みや再加熱による油水分離や固液分離の発生が抑制されたフィリングを得ることができる。
(2)なめらかな食感であり、良好な口溶けのフィリングを得ることができる。
【解決手段】水分含量が50~75質量%、油脂分含量が15~35質量%、炭水化物含量が2~16質量%、pHが4.0~5.6であり、且つ澱粉類を含有する水中油型乳化物からなる、フィリングベース。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分含量が50~75質量%、油脂分含量が15~35質量%、炭水化物含量が2~16質量%、pHが4.0~5.6であり、且つ澱粉類を含有する水中油型乳化物からなる、フィリングベース。
【請求項2】
含有される油脂の、25℃における固体脂含量が10%以下である、請求項1に記載のフィリングベース。
【請求項3】
次の条件(A)、(B)のいずれか一つ以上を満たす、請求項1又は2に記載のフィリングベース。
条件(A):含有される炭水化物に占める澱粉類の割合が20~70質量%である。
条件(B):含有される澱粉類に占める膨潤抑制澱粉の割合が30~70質量%である。
【請求項4】
ペクチン、スクシノグリカン、ローカストビーンガム、ゼラチン及びカラギーナンから選ばれる1種以上の増粘安定剤を含有する、請求項1~3のいずれか一項に記載のフィリングベース。
【請求項5】
乳化剤を0.5質量%以下の範囲で含有する、請求項1~4のいずれか一項に記載のフィリングベース。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のフィリングベースを含有するフィリング。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか一項に記載のフィリングベースを10~60質量%、固形分15~60質量%の発酵乳を10~70質量%含有する、請求項6に記載のフィリング。
【請求項8】
焼き込み用、リベイク用又はレンジアップ用のいずれか一つ以上である、請求項6又は7に記載のフィリング。
【請求項9】
請求項6~8のいずれか一項に記載のフィリングを用いてなる、複合ベーカリー食品。
【請求項10】
リベイク又はレンジアップからなる処理の一つ以上を施して喫食される、請求項9に記載の複合ベーカリー食品。
【請求項11】
55℃以下の温度で、全原料を混合撹拌して予備乳化液を得る工程と、該予備乳化液のpHを4.0~5.6に調整する工程と、該予備乳化液を均質化する工程とを含むことを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載のフィリングベースの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィリングベースに関する。詳細には、本発明は、焼き込み耐性、再加熱耐性を有するフィリングを製造するためのフィリングベースに関する。
【背景技術】
【0002】
パン等のベーカリー食品は、製造・流通・販売の過程の中で、焼成直後から品温が下がり、販売される際には常温(25℃)程度の品温となっている。このため、ベーカリー食品は常温で喫食されることが多いが、作りたてのような温かな状態で喫食するために、オーブンや電子レンジによる再度の加熱が行われることも多い。以下、例えばオーブンのように空気や過熱水蒸気を熱媒体として行う加熱により再度加熱することを単に「リベイク」ともいい、電子レンジのようにマイクロ波を照射することにより再度加熱することを「レンジアップ」ともいい、リベイクとレンジアップを総称して単に「再加熱」ともいう。
【0003】
この再加熱は、ベーカリー食品の種類を問わず行われるところ、フィリングと組み合わせたベーカリー食品(以下、「複合ベーカリー食品」ともいう。)においては、該再加熱に伴ってフィリングの油水分離や固液分離が起こりやすく、フィリングの外観が不良なものとなったり、フィリングの風味や食感が損なわれたりすることが知られていた。
【0004】
ベーカリー食品の分野において、加熱耐性を有するフィリングとして、従来、澱粉や増粘剤等を基本骨格とするフィリング及び該フィリングの製造方法が提案されてきた。例えば、特許文献1では、焼き込み用フラワーペーストであって、フラワーペースト全体中、(A)ワキシーコーンスターチ、タピオカ澱粉、うるち米澱粉及びさつまいも澱粉からなる群より選ばれる少なくとも一種と、(B)もち粉澱粉とを合計で1.0~4.5質量%含み、且つ(A)と(B)の配合比(A)/(B)が質量比で20/80~70/30であり、寒天0.05~0.5質量%、油脂15~30質量%、水分35~50質量%、糖類19~34質量%(乾燥質量)を含有し、加工澱粉、増粘剤、保存料、日持ち向上剤及びpH調整剤の内、指定添加物又は既存添加物に該当するものを含まないことを特徴とする焼き込み用フラワーペーストが提案されている。また、特許文献2では、加工澱粉30~70%、未加工澱粉5~35%、乳清タンパク質10~40%、及び増粘剤0.5~10%を含有する、フラワーペースト調製用粉体組成物が提案されている。
【0005】
また、特許文献3においては、メチルセルロース又はヒドロキシプロピルメチルセルロースと界面活性剤とを添加した後、加熱することを特徴とする食品の加熱調理方法が開示されており、その実施例には加熱によるフィリングの液状化の防止効果が得られることが記載されている(特許文献3の段落0030参照)。
【0006】
ところで、ベーカリー食品を消費者に提供する生産者は、様々な風味のフィリングを用いて、消費者の多様な嗜好に対応しているが、個々の製品に応じてフィリングを多数準備することは難しいことから、簡便に、バラエティに富んだフィリングを製造する手法が求められている。この場合においても、上記のように再加熱に対する耐性を有するフィリングが望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2016-158613号公報
【特許文献2】国際公開第2016/059669号
【特許文献3】特開2014-96991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来知られた手法により得られるフィリングでは、ベーカリー生地と共に加熱(以下、単に「焼き込み」ともいう。)される際の耐熱性は有しているものの、フィリングを焼き込みして得られた複合ベーカリー食品が常温になった後、再加熱する際における加熱耐性が十分ではなかった。詳細には、再加熱を施すと油水分離や固液分離が起こりやすく、フィリングの外観が不良なものとなったり、フィリングの風味や食感が損なわれたりすることが確認されていた。
【0009】
また、従来知られた手法により得られるフィリングは、それ単独で一定の耐熱性を有するものではあるが、様々な風味のフィリングを製造する場合に、各種副原料を含有させると、耐熱性が低下しやすかった。さらに、その多くが澱粉や増粘剤等を多く含有させることにより焼き込みに対する耐熱性等を付与するものであったため、糊様のべたついた食感になりやすかった。
【0010】
このため、焼き込みに対する耐熱性(以下、「焼き込み耐性」ともいう。)に加えて、リベイク、レンジアップ等の再加熱に対する耐熱性(以下、「再加熱耐性」ともいう。)と、多様な風味を有するフィリングを容易に製造する技術が求められている。
【0011】
したがって、本発明の課題は、以下の(1)及び(2)を達成することのできる、フィリングベースを提供することにある。
(1)焼き込みや再加熱による油水分離や固液分離の発生が抑制されたフィリングを得ることができる。
(2)なめらかな食感であり、良好な口溶けのフィリングを得ることができる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らの検討により、特定の組成を有するフィリングベース、及び該フィリングベースを使用して製造されたフィリングによれば、上記課題を解決し得ることが知見された。
【0013】
本発明は、上記知見に基づくものであり、具体的には下記構成を有する。
[1] 水分含量が50~75質量%、油脂分含量が15~35質量%、炭水化物含量が2~16質量%、pHが4.0~5.6であり、且つ澱粉類を含有する水中油型乳化物からなる、フィリングベース。
[2] 含有される油脂の、25℃における固体脂含量が10%以下である、[1]に記載のフィリングベース。
[3] 次の条件(A)、(B)のいずれか一つ以上を満たす、[1]又は[2]に記載のフィリングベース。
条件(A):含有される炭水化物に占める澱粉類の割合が20~70質量%である。
条件(B):含有される澱粉類に占める膨潤抑制澱粉の割合が30~70質量%である。
[4] ペクチン、スクシノグリカン、ローカストビーンガム、ゼラチン及びカラギーナンから選ばれる1種以上の増粘安定剤を含有する、[1]~[3]のいずれかに記載のフィリングベース。
[5] 乳化剤を0.5質量%以下の範囲で含有する、[1]~[4]のいずれかに記載のフィリングベース。
[6] [1]~[5]のいずれかに記載のフィリングベースを含有するフィリング。
[7] [1]~[5]のいずれかに記載のフィリングベースを10~60質量%、固形分15~60質量%の発酵乳を10~70質量%含有する、[6]に記載のフィリング。
[8] 焼き込み用、リベイク用又はレンジアップ用のいずれか一つ以上である、[6]又は[7]に記載のフィリング。
[9] [6]~[8]のいずれかに記載のフィリングを用いてなる、複合ベーカリー食品。
[10] リベイク又はレンジアップからなる処理の一つ以上を施して喫食される、[9]に記載の複合ベーカリー食品。
[11] 55℃以下の温度で、全原料を混合撹拌して予備乳化液を得る工程と、該予備乳化液のpHを4.0~5.6に調整する工程と、該予備乳化液を均質化する工程とを含むことを特徴とする、[1]~[5]のいずれかに記載のフィリングベースの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、以下の(1)及び(2)を達成することのできる、フィリングベースを提供することができる。
(1)焼き込みや再加熱による油水分離や固液分離の発生が抑制されたフィリングを得ることができる。
(2)なめらかな食感であり、良好な口溶けのフィリングを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。本発明は以下の記述によって限定されるものではなく、各構成要素は本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
【0016】
[フィリングベース]
本発明のフィリングベースは、水分含量が50~75質量%、油脂分含量が15~35質量%、炭水化物含量が2~16質量%、pHが4.0~5.6であり、且つ澱粉類を含有する水中油型乳化物からなることを特徴とする。
【0017】
ここで、本発明において「フィリングベース」とは、フィリングを製造するために用いられる主たる原料となるものをいい、特に焼き込みや、リベイク、レンジアップを行うベーカリー食品に用いられるフィリングの製造に好適に用いられるものであり、該フィリングベースのみでフィリングとして用いたり、喫食されたりするものではない。
【0018】
以下、本発明のフィリングベースを用いて製造されたフィリングを単に「本発明のフィリング」ともいう。
【0019】
<水分含量>
本発明のフィリングベースの水分含量は50~75質量%であり、その下限は、好ましくは52質量%以上、より好ましくは54質量%以上、さらに好ましくは56質量%以上、58質量%以上又は60質量%以上であり、その上限は、好ましくは74質量%以下又は72質量%以下、より好ましくは70質量%以下、さらに好ましくは68質量%以下、66質量%以下又は65質量%以下である。したがって一実施形態において、本発明のフィリングベースの水分含量は、50~75質量%の範囲にあり、好適には52~72質量%の範囲、より好適には54~70質量%の範囲、さらに好適には56~68質量%の範囲にある。
【0020】
本発明のフィリングベースの水分含量が上記範囲内にあることで、コシのあるしなやかな物性となり、該フィリングベースを使用したフィリングの製造の際に混合しやすくなるため、フィリングの製造が容易になる。
【0021】
また、フィリングベースの水分含量が上記範囲内にあることで焼き込み耐性や再加熱耐性を十分に得ることができるようになり、上記範囲を好ましく満たすことにより、とりわけ食品中に含まれる水分をマイクロ波で振動させることで加熱するレンジアップを行う場合において、適切に加熱されながらも油水分離や固液分離が生じにくいフィリングを得られやすくなる。
【0022】
上記範囲よりも水分含量が少ない場合は、フィリングベースの物性が硬くなったり、焼き込みや再加熱に伴って、油分離を引き起こす可能性がある。また、上記範囲よりも水分含量が多いと、物性が液状に近くなる上、焼き込み耐性や再加熱耐性が低下し、焼き込みや再加熱に伴って、離水を引き起こす可能性がある。
【0023】
なお、本発明のフィリングベースに水分を含有する原料を使用した場合は、上記水分含量には、それらの原料に含まれる水分も含めるものとする。
【0024】
<油脂分含量について>
本発明のフィリングベースの油脂分含量は15~35質量%であり、その下限は、好ましくは17質量%以上、より好ましくは19質量%以上、さらに好ましくは21質量%以上、23質量%以上又は24質量%以上であり、その上限は、好ましくは33質量%以下、より好ましくは32質量%以下又は30質量%以下、さらに好ましくは28質量%以下である。したがって一実施形態において、本発明のフィリングベースの油脂分含量は、15~35質量%の範囲であり、好適には17~33質量%の範囲、より好適には19~30質量%の範囲、さらに好適には21~28質量%の範囲である。
【0025】
本発明のフィリングベースの油脂分含量が上記範囲内にあることで、焼き込みや再加熱の有無を問わず、なめらかな食感を有するフィリングが得られるようになる他、焼き込みや再加熱を行った場合においても、油水分離や固液分離の発生を抑制することができる。
【0026】
上記範囲よりも油脂分含量が少ない場合は、フィリングベースの物性が硬くなったり、該フィリングベースを用いて得られるフィリングの食感がぼそぼそとざらついたものとなる他、該フィリングの焼き込みや再加熱に伴って、水分の分離を引き起こす可能性がある。
【0027】
また、上記範囲よりも油脂分含量が多いと、該フィリングベースを用いて得られるフィリングの食感がべたついたものとなる他、焼き込み耐性や再加熱耐性が低下し、焼き込みや再加熱に伴って、油脂分の分離を引き起こす可能性がある。
【0028】
なお、本発明のフィリングベースに、油脂を含有する原料を使用した場合は、上記油脂分含量には、それらの原料に含まれる油脂分も含めるものとする。
【0029】
-油脂の種類-
本発明のフィリングベースに使用することができる油脂としては、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、綿実油、大豆油、ナタネ油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、オリーブ油、キャノーラ油、牛脂、乳脂、豚脂、カカオ脂、魚油、鯨油等の各種植物油脂及び動物油脂、並びにこれらに水素添加、分別及びエステル交換から選択される1又は2以上の処理を施した加工油脂等が挙げられる。これらの油脂は、1種単独で用いることもでき、又は2種以上を組み合わせて用いることもできるが、これらの油脂を1種単独又は2種以上組み合わせて用いて、後述のとおり25℃における固体脂含量が10%以下となるように調整することが好ましい。
【0030】
良好な口溶けを有するフィリングを得る観点、特にレンジアップの際における再加熱耐性を有するフィリングを得る観点から、本発明のフィリングベースに含有される油脂の25℃における固体脂含量(SFC:Solid Fat Contents)は、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下、さらに好ましくは3%以下である。上記の油脂分含量を満たすと共に、含有される油脂の25℃におけるSFCが上記範囲内にあることで、本発明のフィリングベースを用いて製造されたフィリングを焼き込んだり、リベイクしたり、レンジアップしたりした後においても固い食感となるのを防ぎ、且つなめらかな食感を有するフィリングが得られやすくなる。
【0031】
本発明において、SFCは、油脂の熱膨張による比容の変化を利用して求める手法や、核磁気共鳴(NMR)を利用して求める手法など、任意の手法を用いて測定してよい。例えば、本発明のフィリングベース又はその油相のみを、アステック株式会社製の固体脂含量測定装置「SFC-2000R」を用いて、日本油化学会制定 基準油脂分析試験法2.2.9(2013)に記載の手法で測定することができる。油相のみを測定した場合は、得られた測定値をそのまま固体脂含量として用いることができ、フィリングベースを測定した場合は、得られた測定値を油相量で換算することで、その換算値を固体脂含量として用いることができる。
【0032】
<炭水化物含量>
本発明のフィリングベースの炭水化物含量は2~16質量%であり、その下限は、好ましくは4質量%以上、より好ましくは6質量%以下、さらに好ましくは8質量%以上であり、その上限は、好ましくは15質量%以下、より好ましくは14質量%以下、さらに好ましくは13質量%以下である。したがって一実施形態において、本発明のフィリングベースの炭水化物含量は、2~16質量%の範囲であり、好適には4~16質量%の範囲、より好適には6~15質量%の範囲、さらに好適には8~14質量%の範囲である。
【0033】
本発明のフィリングベースの炭水化物含量が上記範囲内にあることで、焼き込みや再加熱の有無を問わず、なめらかな食感を有するフィリングが得られるようになる他、焼き込みや再加熱を行った場合においても、油水分離や固液分離の発生を抑制することができる。
【0034】
なお、本発明のフィリングベースに、炭水化物を含有する原料を使用した場合は、上記炭水化物含量には、それらの原料に含まれる炭水化物分も含めるものとする。
【0035】
本発明における炭水化物は単糖あるいはそれを最小構成単位とする重合体を指し、重合度による分類によれば、糖類(重合度1又は2)や、少糖類(重合度3~9)、多糖類(重合度10以上)に分類される。糖類としては例えばぶどう糖、果糖、ガラクトース等の単糖類や、ショ糖、乳糖、麦芽糖等の二糖類を挙げることができ、少糖類としては例えばマルトオリゴ糖とぶどう糖以外の単糖類を含むオリゴ糖とを挙げることができ、多糖類としては例えば澱粉や非澱粉性多糖類を挙げることができる。
【0036】
本発明のフィリングベースに含有される炭水化物については、様々な風味のフィリングが製造できる汎用性を向上させる観点から、甘味度が0.80以下である炭水化物を1又は2以上選択して使用することが好ましい。この場合、炭水化物の甘味度は、より好ましくは0.70以下、さらに好ましくは0.60以下、さらにより好ましくは0.50以下である。なお、甘味度とは、砂糖の主成分であるショ糖の甘さを1としたときの甘さの相対値を表す。
【0037】
<澱粉類>
本発明のフィリングベースは、上記の炭水化物を任意の比率で組み合わせて含有することができるが、なめらかな食感を有するフィリングを得る観点や、焼き込みや再加熱を行った場合においても、油水分離や固液分離の発生を抑制する観点から、炭水化物のうちでも特に澱粉類を含有することが必要である。
【0038】
本発明のフィリングベースに含有させることができる澱粉類としては、例えば、強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、デュラム粉、全粒粉等の小麦粉類、ライ麦粉、大麦粉、米粉等のその他の穀粉類、アーモンド粉、へーゼルナッツ粉、カシューナッツ粉、オーナッツ粉、松実粉等の堅果粉、コーンスターチ、タピオカ澱粉、小麦澱粉、甘藷澱粉、サゴ澱粉、米澱粉等の澱粉、並びにこれらの澱粉をアミラーゼ等の酵素で処理したものや、α化処理、分解処理、エーテル化処理、エステル化処理、架橋処理、グラフト化処理等の中から選ばれた1種又は2種以上の処理を施した加工澱粉等を挙げることができる。澱粉類は、この中から1種を単独で又は2種以上を組み合わせて含有することができる。
【0039】
本発明のフィリングベースは、次の条件(A)、(B)のいずれか一つ以上を満たすように澱粉類を含有することが好ましく、両方を満たすように澱粉類を含有することがより好ましい。
条件(A):含有される炭水化物に占める澱粉類の割合が20~70質量%である。
条件(B):含有される澱粉類に占める膨潤抑制澱粉の割合が30~70質量%である。
【0040】
-条件(A)-
条件(A)は、炭水化物に占める澱粉類の割合に関する。
【0041】
本発明のフィリングベースにおいては、なめらかな食感を有するフィリングを得る観点や、焼き込みや再加熱を行った場合においても、油水分離や固液分離の発生を抑制する観点から、含有される炭水化物に占める澱粉類の割合が20~70質量%であることが好ましい。
【0042】
条件(A)において、含有される炭水化物に占める澱粉類の割合は、好ましくは20~70質量%の範囲にあり、その下限は、より好ましくは25質量%以上又は27質量%以上、さらに好ましくは28質量%以上、30質量%以上、32質量%以上、34質量%以上又は35質量%以上であり、その上限は、より好ましくは65質量%以下又は63質量%以下、さらに好ましくは60質量%以下、58質量%以下、56質量%以下又は55質量%以下である。したがって一実施形態において、条件(A)において、炭水化物に占める澱粉類の割合は、好適には20~70質量%の範囲であり、より好適には27~63質量%の範囲、さらに好適には35~55質量%の範囲である。
【0043】
-条件(B)-
条件(B)は、澱粉類に占める膨潤抑制澱粉の割合に関する。
【0044】
本発明のフィリングベースでは、特に焼き込みや再加熱を行った場合において、いっそう好ましく油水分離や固液分離の発生を抑制する観点から、澱粉類の中でも特に膨潤抑制澱粉を含有させることが好ましい。
【0045】
該膨潤抑制澱粉としては、アミロース含量が好ましくは30質量%以上、より好ましくは50質量%以上であるハイアミロース澱粉や、リン酸架橋処理、乳化剤処理、湿熱処理等によって、澱粉ミセルを強化した加工澱粉等が挙げられる。なお、上記ハイアミロース澱粉の澱粉種については、米やコーンが一般的であるが、特に限定されない。
【0046】
また、上記加工澱粉の原料澱粉としては、例えば、小麦澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、ハイアミロースコーンスターチ、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉等の市販の澱粉質材料等を用いることができる。また、これらの澱粉質材料をあらかじめ、エーテル処理、酸化処理又はエステル化処理したものも、上記原料澱粉として使用することができる。本発明では、上記膨潤抑制澱粉として、馬鈴薯澱粉又はタピオカ澱粉からなる群から選択される1又は2以上を原料澱粉としたリン酸架橋澱粉を使用すると、焼き込みや再加熱を行った場合においても、よりなめらかな食感を有していながら、油水分離や固液分離が抑制されたフィリングをもたらすフィリングベースを得ることができるため好適である。
【0047】
なめらかな食感を有するフィリングを得る観点や、焼き込みや再加熱を行った場合においても、油水分離や固液分離の発生を抑制する観点から、フィリングベース中に含有される澱粉類に占める膨潤抑制澱粉の割合は、好ましくは30~70質量%であり、その下限は、より好ましくは35質量%以上、36質量%以上又は38質量%以上、さらに好ましくは40質量%以上、42質量%以上、44質量%以上又は45質量%以上であり、その上限は、より好ましくは65質量%以下、さらに好ましくは60質量%以下である。したがって一実施形態において、条件(B)において、澱粉類に占める膨潤抑制澱粉の割合は、好適には30~70質量%の範囲であり、より好適には38~65質量%の範囲、さらに好適には45~60質量%の範囲である。
【0048】
<蛋白質>
本発明のフィリングベースは、上記の水分含量、油脂分含量、炭水化物含量を満たすことに加えて、さらに蛋白質含量を一定の範囲とすることで、いっそう好ましく焼き込み耐性や再加熱耐性を有するフィリングを得ることができる。また、なめらかな食感を有するフィリングを得ることができる。
【0049】
本発明のフィリングベースにおける蛋白質含量は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは1.5質量%以上、さらに好ましくは2質量%以上であり、その上限は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは7.5質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下、4.5質量%以下又は4質量%以下である。したがって一実施形態において、本発明のフィリングベースにおける蛋白質含量は、好ましくは1~10質量%、より好ましくは1.5~7.5質量%、さらに好ましくは2.0~4.5質量%である。
【0050】
なお、本発明のフィリングベースに、蛋白質を含有する原料を使用した場合は、上記蛋白質含量には、それらの原料に含まれる蛋白質分も含めるものとする。
【0051】
上記蛋白質としては、特に限定されず、各種の動物性蛋白質、微生物性蛋白質及び植物性蛋白質等を使用することができる。動物性蛋白質としては、例えば、ホエイ蛋白質及びカゼイン蛋白質等の乳蛋白質;並びに低密度リポ蛋白質、高密度リポ蛋白質、ホスビチン、リベチン、リン糖蛋白質、オボアルブミン、コンアルブミン及びオボムコイド等の卵蛋白質等が挙げられる。植物性蛋白質としては、グリアジン、グルテニン、プロラミン及びグルテリン等の小麦蛋白質;大豆蛋白質、エンドウ豆蛋白質、そら豆蛋白質、緑豆蛋白質、ひよこ豆蛋白質及びレンズ豆蛋白質等の豆類蛋白質、並びに米蛋白質等のその他穀類蛋白質が挙げられる。これらの蛋白質は、目的に応じて、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
本発明のフィリングベースにおいては、風味が良好なフィリングが得られることから、上記蛋白質のうち、乳蛋白質を使用することが好ましい。
【0053】
また、上記乳蛋白質として、乳蛋白質を含有する乳原料、例えば、生乳、牛乳、加糖練乳、加糖脱脂練乳、無糖練乳、無糖脱脂練乳、脱脂乳、濃縮乳、脱脂濃縮乳、バターゼラム、乳脂肪球被膜画分、バターミルク、バターミルクパウダー、トータルミルクプロテイン(TMP)、脱脂粉乳、全粉乳、ミルクプロテインコンセントレート(MPC)、乳清蛋白質、ホエイ、ホエイパウダー、脱乳糖ホエイ、脱乳糖ホエイパウダー、ホエイ蛋白濃縮物(WPC)、ホエイ蛋白単離物(WPI)、カゼインナトリウム、カゼインカリウム、酸カゼイン、クリーム、クリームチーズ、ナチュラルチーズ、プロセスチーズ等を使用することができる。
【0054】
<pH>
次に、本発明のフィリングベースのpHについて述べる。
【0055】
本発明のフィリングベースのpHは4.0~5.6であることが必要である。フィリングベースのpHが4.0以上であると、酸味により本発明のフィリングの風味が低下することが抑制され、乳化が安定する他、焼き込み耐性や再加熱耐性が得られる。また、pHが5.6以下であると本発明のフィリングベース及び本発明のフィリングの日持ちが向上する。なお、本発明において、フィリングベースのpHは、25℃におけるpHである。
【0056】
本発明のフィリングベースのpHは、風味と乳化安定性等の物性の観点から、その下限は、好ましくは4.2以上、より好ましくは4.3以上、さらに好ましくは4.4以上であり、その上限は、好ましくは5.4以下、より好ましくは5.2以下、さらに好ましくは5.0以下である。したがって一実施形態において、本発明のフィリングベースのpHは、好ましくは4.2~5.4、より好ましくは4.3~5.2、さらに好ましくは4.4~5.0となるように調整される。
【0057】
本発明のフィリングベースのpHを上記の範囲とするためには、有機酸や有機酸を含有する食品素材を用いることができるが、様々な風味のフィリングを製造する上で、よりフィリングベースの汎用性を向上させる観点から、有機酸を含有させることが好ましい。本発明のフィリングベースに好ましく用いられる有機酸としては、例えば、アジピン酸、クエン酸、グルコン酸、コハク酸、酢酸、酒石酸、乳酸、フマル酸、リンゴ酸、リン酸、フィチン酸等が挙げられる。
【0058】
これらの有機酸や有機酸を含有する食品素材は、1種単独でも用いることができ、または2種以上を組み合わせて用いることもでき、上記pH範囲を満たすように配合してよい。
【0059】
<卵白>
本発明のフィリングベースは卵白を含有することが好ましい。卵白を含有することにより、得られる本発明のフィリングの焼き込み耐性や再加熱耐性の向上を図ることが可能となる。
【0060】
卵白としては、例えば、乾燥卵白、濃縮卵白などを使用することができ、また、生卵白や冷凍卵白も使用することができる。
【0061】
ここで、本発明のフィリングベースにおける卵白の含有量は、焼き込み耐性や再加熱耐性がいっそう良好なフィリングを得る観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上又は0.3質量%以上である。また、該卵白の含有量の上限は、糊感の強い食感を抑えていっそう良好な食感を呈するフィリングを得る観点や、異味を抑えていっそう良好な食味を呈するフィリングを得る観点から、好ましくは8質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下、2質量%以下又は1質量%以下である。したがって一実施形態において、本発明のフィリングベースにおける卵白の含有量は、好ましくは0.1~8質量%、より好ましくは0.2~5質量%、さらに好ましくは0.2~3質量%である。なお、上記卵白の含有量については固形分に換算した数値を用いることとする。
【0062】
<増粘安定剤>
本発明のフィリングベースは、増粘安定剤を含有することが好ましい。増粘安定剤を含有することにより、フィリングベースの製造時における油水分離や固液分離を防ぐ効果や、保水性を向上させることによる離水防止効果、得られる本発明のフィリングの食感向上効果、および本発明のフィリングの焼き込み耐性や再加熱耐性の向上を図ることが可能となる。
【0063】
上記増粘安定剤としては、例えば、グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、アラビアガム、アルギン酸類、ペクチン、キサンタンガム、プルラン、スクシノグリカン、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、寒天、グルコマンナン、ゼラチン等が挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0064】
本発明においては、本発明のフィリングの焼き込み耐性や再加熱耐性を向上させる観点から、とりわけ、ペクチン、スクシノグリカン、ローカストビーンガム、ゼラチン、カラギーナンから選ばれる1種以上を含有させることが好ましい。
【0065】
本発明のフィリングベースにおける増粘安定剤の含有量は、好ましくは0.01~5質量%、より好ましくは0.05~3質量%、さらに好ましくは0.1~1.5質量%である。
【0066】
<乳化剤>
本発明のフィリングベースは、乳化剤を含有してもよく、含有しなくてもよい。フィリングベースにおける乳化剤の含有量は、好ましくは0.5質量%以下の範囲、より好ましくは0.3質量%以下の範囲、さらに好ましくは0.15質量%以下の範囲であることが好適であり、乳化剤を含有しないことが特に好ましい。
【0067】
また、本発明のフィリングベースは、合成乳化剤を含有しないことが好ましい。
【0068】
上記の合成乳化剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリン酒石酸脂肪酸エステル、グリセリンクエン酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタンモノグリセリド等が挙げられる。
【0069】
本発明のフィリングベースには、上記合成乳化剤ではない乳化剤を好ましく用いることができる。該乳化剤としては、例えば、大豆レシチン、卵黄レシチン、大豆リゾレシチン、卵黄リゾレシチン、酵素処理卵黄、乳脂肪球皮膜蛋白質が挙げられ、これらの中から選ばれた1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0070】
<その他原料>
上記の各原料の他、水分含量や油脂分含量等の上記の成分組成を満たせば、本発明の効果を損なわない範囲で、本発明のフィリングベースには、その他の原料を使用することが可能である。該その他の原料としては、例えば、水、食塩や塩化カリウム等の塩味剤、β-カロチン・カラメル・紅麹色素等の着色料、トコフェロール・茶抽出物等の酸化防止剤、卵白以外の卵成分、香料、pH調整剤、食品保存料、日持ち向上剤、果実、果汁、コーヒー、茶、ナッツペースト、香辛料、香辛料抽出物、カカオマス、ココアパウダー、穀類、豆類、野菜類、肉類、魚介類等の食品素材や食品添加物が挙げられる。
【0071】
なお、本発明のフィリングベースは、その汎用性を向上させる観点から、塩味剤や酸味料、果実、果汁、コーヒー、茶、ナッツペースト、香辛料、香辛料抽出物、カカオマス、ココアパウダー、穀類、豆類、野菜類、肉類、魚介類等の呈味素材は含有しないことが好ましい。
【0072】
<フィリングベースの乳化型>
本発明のフィリングベースは、連続相が水相である水中油型の乳化型であることを特徴とする。水中油型であることで、フィリング製造時の混合性が向上する上、焼き込みや再加熱を行った場合における油脂分の分離が抑制され、さらに焼き込み耐性や再加熱耐性が向上する。
【0073】
なお、上記水中油型には、水中油中水型など、内相の油相にさらに水性物や乳化物を含む多重乳化型をも含むものとする。
【0074】
[フィリングベースの製造方法]
本発明のフィリングベースの製造方法は特に制限されるものではない。以下、本発明のフィリングベースの製造方法の好適な一例を示す。
【0075】
一実施形態において、本発明のフィリングベースの製造方法は、
原料を混合攪拌して予備乳化液を得る工程(以下、「予備乳化工程」ともいう。)と、
予備乳化液のpHを4.0~5.6に調整する工程(以下、「pH調整工程」ともいう。)と、
予備乳化液を均質化する工程(以下、「均質化工程」ともいう。)と
を含む。
【0076】
-予備乳化工程-
予備乳化工程において、全原料を混合攪拌して予備乳化液を得る。
【0077】
具体的には、先ず、油脂及び必要によりその他の原料を含有させた油相と、水及び必要によりその他の原料を含有させた水相とをそれぞれ個別に調製し、次いで、該油相と該水相とを混合することで全原料を混合撹拌して予備乳化液を得る。予備乳化工程では、水中油型に乳化し、水中油型の予備乳化物を得る。
【0078】
予備乳化工程において、澱粉類、好ましく含有される卵白、増粘安定剤は、油相に添加しても水相に添加してもよいが、凝集の発生を抑制するため、油相に添加するのが好ましい。
【0079】
予備乳化工程は、含有する澱粉類の糊化を抑制し、焼き込み耐性や再加熱耐性を高める観点から、該予備乳化液を得る際の液温を55℃以下とすることが好ましい。したがって、好適な一実施形態において、本発明のフィリングベースの製造方法は、予備乳化工程として、55℃以下の温度で、全原料を混合攪拌して予備乳化液を得る工程を含む。
【0080】
-pH調整工程-
pH調整工程において、該予備乳化液のpHを4.0~5.6に調整する。
【0081】
pH調整工程は、予備乳化工程の前後のどの段階で行ってもよいが、調整が容易であるという点から、予備乳化工程の後に、有機酸を添加して、上記のpH範囲となるように調整することが好ましい。有機酸に関しては、先述のとおりである。
【0082】
-均質化工程-
均質化工程において、pH調整された予備乳化液を均質化する。
【0083】
均質化工程は、バルブ式ホモジナイザー、ホモミキサー、コロイドミル等の均質化装置を使用して実施することができる。均質化は好ましくは圧力0~800kg/cm2の範囲で行う。均質化した後、加熱する際は、インジェクション式、インフージョン式等の直接加熱方式、あるいはプレート式、チューブラー式、掻き取り式等の間接加熱方式を用いたUHT、HTST、バッチ式、レトルト、マイクロ波加熱等の加熱滅菌若しくは加熱殺菌処理、あるいは直火等を用いた加熱調理により行なうことができる。中でも、澱粉類の糊化度を適度に抑制することが可能な点で、100~140℃でのUHT、HTST等の加熱滅菌若しくは加熱殺菌処理を使用することが好ましい。加熱時間は0.05~30分が好ましい。
【0084】
また、加熱後には、必要により、再度均質化してもよい。また、加熱後には、必要により、急速冷却、徐冷却等の冷却操作を施したり、エージングを行ったりしてもよい。
【0085】
上記のようにして得られた本発明のフィリングベースは、その性状にもよるが、シート状、ブロック状、円柱状、ダイス状等の任意の形状に成形することもできる。各々の形状についての好ましいサイズは、シート状:縦50~1000mm、横50~1000mm、厚さ1~50mm、ブロック状:縦50~1000mm、横50~1000mm、厚さ50~500mm、円柱状:直径1~25mm、長さ5~100mm、ダイス状:縦5~50mm、横5~50mm、厚さ5~50mmである。
【0086】
[フィリング]
本発明のフィリングベースを用いてフィリングを製造することができる。本発明は、斯かるフィリングも提供する。
【0087】
本発明のフィリングは、本発明のフィリングベースを含有することを特徴とする。本発明のフィリングは、好ましくは、撹拌等により該フィリング中に上記のフィリングベースが均一に分散されたものである。
【0088】
本発明のフィリング中の上記フィリングベースの含量は、求める物性や食感に加えて、フィリングベース以外の呈味原料等をどの程度含有させるか等によっても異なり、任意に設定することが可能であるが、好ましく焼き込み耐性や再加熱耐性を有するフィリングを得ることと、風味が良好なフィリングを得ることを両立する観点から、本発明のフィリング中の上記フィリングベースの含量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは14質量%以上、さらに好ましくは18質量%以上又は20質量%以上であり、その上限は、好ましくは75質量%以下、より好ましくは70質量%以下、さらに好ましくは65質量%以下、さらにより好ましくは60質量%以下である。したがって一実施形態において、本発明のフィリングは、フィリングベースを好ましくは10~75質量%の範囲で、より好ましくは14~70質量%の範囲で、さらに好ましくは18~65質量%の範囲で、さらにより好ましくは18~60質量%の範囲で含有する。
【0089】
よりいっそう良好な焼き込み耐性や再加熱耐性を実現する観点、得られるフィリングの風味のバラエティ化を図りやすい観点から、本発明のフィリングは、好ましくは、上記フィリングベースを10~60質量%、固形分15~60質量%の発酵乳を10~70質量%含有する。
【0090】
本発明のフィリングベースと共に固形分が15~60質量%の発酵乳をフィリングの製造に用いることで、よりいっそう良好な焼き込み耐性や再加熱耐性を有するフィリングが得られるほか、焼き込み後又は再加熱後においても、フィリングの食感をなめらかな状態としたり風味をコクのあるものとしたりすることが容易になるため好ましい。
【0091】
本発明のフィリングに好ましく用いられる発酵乳について述べる。本発明のフィリングに用いられる発酵乳は、特に、好ましく焼き込み耐性や再加熱耐性を有するフィリングを得る観点や、濃厚かつ爽やかな風味を有するフィリングを得る観点から、その固形分が15~60質量%であることが好ましい。該固形分の含量の下限は、好ましくは16質量%以上、より好ましくは18質量%以上又は20質量%以上であり、その上限は、好ましくは57質量%以下、より好ましくは54質量%以下、さらに好ましくは50質量%以下である。したがって一実施形態において、本発明のフィリングは、固形分が15~60質量%の発酵乳を含有することが好ましく、固形分が18~57質量%の発酵乳を含有することがより好ましく、固形分が18~54質量%の発酵乳を含有することがさらに好ましく、固形分が18~50質量%の発酵乳を含有することがさらにより好ましい。
【0092】
本発明のフィリングに用いられる発酵乳とは、牛乳等の動物乳、動物乳成分または動物乳成分を含む組成物である原料乳に対して、乳酸発酵を施して得られるものであり、例えばヨーグルトやチーズを挙げることができる。
【0093】
ヨーグルトを選択して使用する場合には、原料乳の時点で固形分を調整した発酵乳を用いてもよく、あるいは、固形分が15質量%未満のヨーグルトの水分の含量を低減させ固形分を15質量%以上とした、いわゆる水切りヨーグルト(以下、単に「高固形分ヨーグルト」ともいう。)を用いてもよいが、より簡易に多様な本発明のフィリングを得る観点からは後者が選択される。
【0094】
ヨーグルトの水分含量を低減させる手法としては、従前知られた方法をとることができるが、例えば、固形分が15質量%未満のヨーグルトを適当な濾布にとって、30分~24時間程度静置して、含有される固形分を濾別することにより水分含量を低減させる手法や、遠心分離により固相と水相とを分離する手法等を挙げることができる。
【0095】
チーズを選択して使用する場合には、発酵乳由来の風味が際立つことで、得られるフィリングの汎用性が低くなることを避ける観点から、細菌熟成やカビ熟成を施していない、非熟成タイプのチーズ(フレッシュチーズ)の内から上記条件を満たすものが好ましく選択される。
【0096】
上記の固形分に係る条件を満たすような非熟成タイプのチーズとしては、例えば、クリームチーズやマスカルポーネチーズ、カッテージチーズ等を挙げることができる。
【0097】
発酵乳の固形分100質量%中に占める、蛋白質と脂質の和の割合が、好ましくは60質量%以上、より好ましくは63質量%以上、さらに好ましくは66質量%以上、さらにより好ましくは70質量%以上であることが好適である。該割合の上限は特に限定されず、100質量%であってよい。発酵乳の固形分に占める蛋白質と脂質の割合が一定程度に高いことで、該発酵乳を用いて製造されたフィリングの焼き込み耐性や再加熱耐性が向上しやすくなる。
【0098】
本発明のフィリングにおける、上記の発酵乳の含量は、フィリングに対して求める物性(例えば再加熱後に流動性を有する状態とするか、一定程度原型を留めるような状態とするか)や食感によっても異なるが、焼き込み耐性や再加熱耐性を有するフィリングを得る観点からは、好ましくは10~70質量%、より好ましくは16~65質量%、さらに好ましくは22~60質量%、さらにより好ましくは28~55質量%である。
【0099】
本発明のフィリングにおいて、本発明のフィリングベースと上記の発酵乳の質量比は、フィリングに対して求める物性や食感によっても異なるが、フィリングベース100質量部に対して、上記の発酵乳を30~300質量部用いることが好ましく、42~285質量部用いることがより好ましく、54~270質量部用いることがさらに好ましく、65~265質量部用いることがさらにより好ましい。
【0100】
本発明のフィリングにおいて、本発明のフィリングベースと固形分が15~60質量%の発酵乳とを併せて用いることで、良好な焼き込み耐性や再加熱耐性を有するフィリングが得られる機序は現段階で不明であるが、本発明者らは以下のとおり推察する。すなわち、発酵乳はその製造の過程でpHが4.0~5.6まで低下する(牛乳が凡そpH7.5)ことが知られているところ、同程度のpHを有する本発明のフィリングベースと組み合わせて用いることで、好ましい風味を有するフィリングを得ることができると共に、得られるフィリングの乳化安定性が高められるため、その日持ちも高めることが可能となる。
【0101】
本発明のフィリングは、フィリングベースに加えて好ましくは上記の発酵乳を含有し、このままでも美味しく喫食することが可能ではあるが、必要に応じて呈味素材をさらに含有してよい。
【0102】
本発明のフィリングの製造に用いることのできる呈味素材としては、例えば、ジャム、ゼリー等のゲル化食品、カスタードクリーム、アーモンドクリーム、マロンペースト、あん、チョコペースト、ヌガー、マヨネーズ等のペースト状食品、牛乳、練乳、果汁、コーヒー、紅茶、緑茶、ウーロン茶、プアール茶、日向夏茶、柚子茶などの液状素材や、チョコレート、バターなどの加熱溶解して添加する素材、カカオマス、ココアパウダー、紅茶パウダー、抹茶、コーヒー粉末などの粉末状の呈味素材などが挙げられる。
【0103】
本発明のフィリングにおいては、本発明のフィリングベースに呈味成分を含有させず、呈味素材をフィリング製造時に別途添加することで、簡単にバラエティのある風味のフィリングを迅速に製造することが可能である。
【0104】
呈味素材の配合量は、その呈味の強さや性状により適宜決定してよいが、本発明のフィリング中、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下とすることが好適である。
【0105】
なお、本発明のフィリングは、上記フィリングベースや、発酵乳、呈味素材以外に、一般のフィリングの製造に使用されるその他の成分を含有してもよい。斯かるその他の成分としては、例えば、薄力粉や強力粉などの小麦粉類、米でんぷん、コーンスターチなどの澱粉類、水、食塩や塩化カリウム等の塩味剤、酢酸・乳酸・グルコン酸等の酸味料、上白糖、グラニュー糖、粉糖、蔗糖、乳糖、酵素糖化水飴、還元澱粉糖化物、異性化液糖、蔗糖結合水飴、還元乳糖、ソルビトール、トレハロース、キシロース、キシリトール、フラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、ラフィノース、ラクチュロース、ステビア、アスパルテーム、はちみつ等の甘味料、β-カロチン・カラメル・紅麹色素等の着色料、トコフェロール・茶抽出物等の酸化防止剤、全卵、卵黄等の卵成分、マーガリン、ショートニング、着香料、調味料、pH調整剤、食品保存料、日持ち向上剤、香辛料、香辛料抽出物、豆類、野菜類、肉類、魚介類等の食品素材や食品添加物が挙げられる。
【0106】
本発明のフィリングにおける上記その他の成分の含有量は、好ましくは30質量%以下である。
【0107】
<フィリングの用途>
本発明のフィリングは、従来のフィリングと同様に、例えば、練り込み、折り込み、包餡、サンド、トッピング等の複合手法により、該フィリングとベーカリー食品を複合させた、複合ベーカリー生地の製造や、該生地を加熱することにより得られる複合ベーカリー食品の製造に広く用いることができる。
【0108】
該ベーカリー食品としては、例えば、クッキー、パイ、シュー、サブレ、スポンジケーキ、バターケーキ、ケーキドーナツ等の菓子類、食パン、フランスパン、デニッシュ、スイートロール、イーストドーナツ等のパン類等のベーカリー食品を挙げることができる。
【0109】
また、本発明のフィリングは、加熱、あるいは加熱した後にリベイクやレンジアップしても、油水分離や固液分離が抑制されるという特徴を有しているため、本発明のフィリングをベーカリー生地と上記手法により複合させたのちに焼成等により加熱する焼き込み用途にも用いることができ、焼き込みを行って得られた複合ベーカリー食品をリベイクやレンジアップにより再度加熱する再加熱用途にも用いることができる。したがって一実施形態において、本発明のフィリングは、焼き込み用又は再加熱用のいずれか一つ以上の用途、より好適には焼き込み用、リベイク用又はレンジアップ用のいずれか一つ以上の用途に適用される。
【0110】
<複合ベーカリー食品>
本発明のフィリングを用いて複合ベーカリー食品を製造することができる。本発明は、斯かる複合ベーカリー食品も提供する。
【0111】
本発明の複合ベーカリー食品は、本発明のフィリングを用いてなることを特徴とする。具体的には、本発明の複合ベーカリー食品は、ベーカリー生地に、本発明のフィリングを練り込んだり、折り込んだり、包餡したり、サンドしたり、トッピングする等の方法で複合させた複合ベーカリー生地を、必要に応じ圧延、成形、ホイロ(二次発酵)、ラックタイムをとった後、焼成やフライ等の加熱処理をして得られたものであってもよく、加熱処理により得られたベーカリー食品に対して、フィリングとして本発明のフィリングを注入やトッピング等して得られたものであってもよい。
【0112】
上記のベーカリー生地としては、例えば、クッキー生地、パイ生地、シュー生地、サブレ生地、スポンジケーキ生地、バターケーキ生地、ケーキドーナツ生地、食パン生地、フランスパン生地、デニッシュ生地、スイートロール生地、イーストドーナツ生地等の菓子生地やパン生地が挙げられる。
【0113】
上記の複合ベーカリー生地としては、例えば、ベーカリー生地にペースト状のフィリングを包餡した包餡生地、ベーカリー生地にペースト状のフィリングをトッピング又はサンドした積層生地等が挙げられる。
【0114】
なお、本発明の複合ベーカリー食品は、使用される本発明のフィリングが良好な焼き込み耐性を有していることから、練り込みや折り込み、包餡、サンド、トッピング等の手法により得た複合ベーカリー生地を加熱して得られたものであることが好ましく、中でも、フィリングの風味や食感を活かす観点から、包餡、サンド、トッピングの手法により得られた複合ベーカリー生地を加熱して得られたものであることがより好ましい。
【0115】
本発明の複合ベーカリー食品の製造に使用される本発明のフィリングの量は、特に限定されないが、複合ベーカリー生地を製造する際に用いられるベーカリー生地100質量部に対し、好ましくは10~200質量部、より好ましくは25~175質量部、さらに好ましくは40~150質量部である。
【0116】
上記焼成において、ホイロは、イーストを含まないベーカリー生地を使用する場合は必要なく、イーストを配合したベーカリー生地を使用する場合のみ必要である。ホイロは、好ましくは25~40℃、相対湿度50~80%で20~90分、さらに好ましくは32~38℃、相対湿度50~80%で30~60分で行われる。
【0117】
上記焼成は、通常のベーカリー食品と同様、160~250℃、特に170~220℃で行なうことが好ましい。160℃未満であると、火通りが悪くなりやすく、また焼成時間が長時間になりやすいため、本発明のフィリングを用いた場合であっても、複合ベーカリー食品に使用したフィリングの油水分離や固液分離を生じ、複合ベーカリー食品の食感が低下するおそれがある。また、250℃を超えると、複合ベーカリー食品に使用したフィリングの水分が過度に消失し、複合ベーカリー食品全体として食味が悪くなりやすい。
【0118】
フライ操作は、通常のドーナツ等と同様、160~250℃、特に170~220℃で行なうのが好ましい。160℃未満であると吸油が多く、良好な食感が得られにくい。250℃を超えると、焦げを生じて食味が悪くなりやすい。
【0119】
なお、上記焼成とフライとを併用する場合は、フライした後に焼成してもよく、焼成した後にフライしてもよい。
【0120】
上記のようにして得られた複合ベーカリー食品は、そのまま喫食することができるが、加熱することによりいっそうおいしく喫食できるため、リベイクやレンジアップすることにより再加熱して喫食することができる。
【0121】
本発明におけるリベイクやレンジアップの条件は特に制限されないが、上記のようにして得られた複合ベーカリー食品の大きさや種類、喫食者の嗜好に合わせて、リベイクする際には、電気オーブンやガスオーブン等を用いて、150~250℃で1~20分程度の加熱が行われ、レンジアップする際は600W設定の電子レンジで1~10分程度の加熱が行われる。
【0122】
本発明の複合ベーカリー食品は、リベイク又はレンジアップからなる処理の一つ以上を施して喫食される。ここで、リベイク及びレンジアップの双方を複合ベーカリー食品に施してもよいが、複合ベーカリー食品におけるベーカリー食品部分の食感が低下しやすい為、リベイク又はレンジアップのいずれか一方を施すことが好ましい。
【実施例0123】
以下、本発明について、実施例を示して具体的に説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に限定されるものではない。
【0124】
<フィリングベースの製造>
[実施例1]
表1に記載の配合Aに基づいて、フィリングベースを製造した。具体的には、菜種液状油に、トウモロコシ由来のリン酸架橋澱粉、タピオカ由来の澱粉、乾燥卵白、ペクチン及びローカストビーンガムを添加し分散させて油相とした。また、水に乳糖、ホエイ蛋白質濃縮物、ホエイパウダーを混合して水相とした。それぞれ十分に加熱溶解された油相と水相とを混合して、50℃に調温しながら乳化し、予備乳化液を得た。
【0125】
次いで、この予備乳化液に対して、乳酸(配合A外)を、予備乳化液のpHが4.5になるように添加したのち、該pH調整後の予備乳化液を均質化した。
【0126】
さらに、110℃で3秒間加熱殺菌し、厚さ0.2mmポリエチレン製の包材にピロー充填後、22℃まで冷却し、実施例1のフィリングベース(以下、単に「Ex-1」ともいう。その他の実施例においても同様)を得た。
【0127】
[実施例2]
予備乳化液のpHを4.1に調整した他は、実施例1と同様にして、Ex-2を得た。
【0128】
[実施例3]
予備乳化液のpHを5.3に調整した他は、実施例1と同様にして、Ex-3を得た。
【0129】
[実施例4~13]
表1に記載の配合B~Kに基づいてフィリングベースを製造した他は、実施例1と同様にして、Ex-4~Ex-13を得た。
【0130】
[比較例1]
表1に記載の配合Lに基づいてフィリングベースを製造した他は、実施例1と同様にして、比較例1のフィリングベース(以下、単に「CEx-1」ともいう。その他の比較例においても同様)を得た。
【0131】
[比較例2、3]
表1に記載の配合M、Nに基づいてフィリングベースを製造した他は、実施例1と同様にして、CEx-2、CEx-3を得た。
【0132】
なお、実施例及び比較例でフィリングベースを製造する際に用いた油脂のSFC(25℃)は以下のとおりであった。
菜種液状油:0.2%
パームスーパーオレイン:0.4%
パーム油:1.2%
【0133】
【0134】
<フィリングの製造>
次に、得られたEx-1~13、CEx-1~3を用いて、以下の手順に従ってフィリングを製造した。
【0135】
事前に濾布を用いて水分を切って準備された、高固形分ヨーグルト(固形分量20質量%、該ヨーグルト中の蛋白質含量は10.2質量%、脂質含量は4.3質量%であり、固形分に占める蛋白質と脂質の和の割合は72.5質量%)50質量部、卵黄10質量部、はちみつ5質量部、粉糖5質量部を均一に混ぜ合わせた後、そこに上記Ex-1~13、CEx-1~3のいずれか一つを30質量部加えて、さらに混錬して、フィリングEx-1~13、CEx-1~3を得た。なお、得られたフィリングの附番とフィリングの製造に用いたフィリングベースの附番とは対応するものである。
【0136】
<<検討1>>
得られたフィリングにつき、次の評価方法で、焼き込み耐性に係る予備的な評価を行った。
【0137】
(焼き込み耐性に係る予備的評価)
星型の金口を装着した絞り袋で、クッキングペーパー上にフィリングを搾り出し、200℃で5分間焼成した。焼成後、縁の保形性を目視して、以下の基準に従って評価した。なお、本評価では「±」以上の評価を得たものを合格点とした。結果を表2に示す。
【0138】
焼き込み耐性に係る予備的評価の基準:
++: 縁が残っており、型崩れしていない。
+: 縁がやや丸くなっている箇所もあるが、型崩れしていない。
±: 全体的に丸みをおびているが、型崩れはみられず、許容範囲内である。
-: 縁が丸みをおびて、部分的に型崩れしている箇所がみられる。
--: 完全に型崩れしている。
【0139】
【0140】
Ex-1とEx-4、5、CEx-1を比較すると、含有される油脂の量によっては焼き込み耐性の程度に差が生じることが示唆された。
また、Ex-6、7を比較すると、含有される油脂のSFCによっても、焼き込み耐性の程度に差が生じることも示唆された。
フィリング中に含有される炭水化物に着目し、Ex-1、8、9、10、CEx-2、3を比較すると、澱粉類の有無だけでなく、炭水化物中に占める澱粉類の割合や、澱粉類に占める加工澱粉の割合についても、フィリングの焼き込み耐性の程度に差が生じることが窺われた。
【0141】
これらの結果から、評点が「++」又は「+」であり、とくに評価が良好であったEx-1、2、3、6、10、12について、実際にこれらのフィリングを用いて複合ベーカリー食品を製造し、その焼き込み耐性、及び再加熱耐性について評価を行った。
【0142】
<<検討2>>
得られたフィリングEx-1、2、3、6、10、12を包餡した複合ベーカリー食品Ex-1、2、3、6、10、12を以下の手順で製造した。なお、製造した複合ベーカリー食品の附番と、複合ベーカリー食品の製造に用いたフィリングの附番とは対応するものである。
【0143】
<複合ベーカリー食品の製造>
表3の中種生地配合の全原料を、縦型ミキサーにて低速で3分、中速で3分ミキシングし、中種生地(捏ね上げ温度26℃)を得た。得られた中種生地は、28℃、相対湿度80%にて2時間の中種発酵に付した。
【0144】
発酵後の中種生地と、表3の本捏生地配合の強力粉、上白糖、食塩、脱脂粉乳、全卵、水を、縦型ミキサーにて低速で3分、中速で3分ミキシングした後、本捏生地配合のマーガリンを含有させ、更に低速で3分、中速で5分ミキシングし、本捏生地(捏ね上げ温度27℃)を得た。
【0145】
得られた本捏生地は、25分フロアタイムをとり、生地を40gごとに分割した後、30分ベンチタイムをとった。ベンチタイム後、薄く延ばし丸型のシリコン型に詰めて、これを天板に乗せ、38℃、相対湿度80%、50分のホイロ(二次発酵)を行った。
【0146】
ホイロ後、生地玉の中央部を軽くつぶして凹みを作り、この凹みの内部にフィリングEx-1、2、3、6、10、12のいずれか一つを35gずつ絞りトッピングした後、上火195℃、下火205℃のオーブンで15分焼成して、複合ベーカリー食品Ex-1、2、3、6、10、12を得た。なお、得られた複合ベーカリー食品Ex-1、2、3、6、10、12は型に入れたまま室温まで放冷した。
【0147】
【0148】
得られた複合ベーカリー食品Ex-1、2、3、6、10、12につき、以下の評価基準に基づいて焼き込み耐性、食感、再加熱耐性の評価を行った。さらに、一般的なフィリングに対する要求特性である、充填適性についても評価を行った。
【0149】
(焼き込み耐性)
得られた複合ベーカリー食品Ex-1、2、3、6、10、12を包丁で切断し、内部のフィリングの様子を目視で観察した。観察した結果を、以下の評価基準にしたがい、評価した。
++:油水分離や固液分離がみられず、保形性が非常に良好である。
+:油水分離や固液分離がみられず、保形性が良好である。
±:わずかに油水分離や固液分離がみられるが、型崩れは起きておらず許容範囲内である。
-:油水分離や固液分離が生じており、焼成後にややダレが生じ、部分的に型崩れが起きている。
--:油水分離や固液分離によって、完全に型崩れしている。
【0150】
(食感)
得られた複合ベーカリー食品Ex-1、2、3、6、10、12の食感は、以下の評価基準にしたがい、評価した。
++:なめらかな食感であり、口溶けが良い。
+:口溶けが良い。
±:わずかにべたつきが感じられるが、口溶けが良く、許容範囲内である。
-:べたつきが感じられ、口溶けがやや不良である。
--:べったりとした糊状の食感であり、口溶けが不良である。
【0151】
(再加熱耐性)
得られた複合ベーカリー食品Ex-1、2、3、6、10、12を、600w設定の電子レンジで60秒加熱した後、包丁で切断し、内部のフィリングの様子を目視で観察した。観察した結果を、以下の評価基準にしたがい、評価した。
++:油水分離や固液分離がみられず、保形性が非常に良好である。
+:油水分離や固液分離がみられず、保形性が良好である。
±:わずかに油水分離や固液分離がみられるが、型崩れは起きておらず許容範囲内である。
-:油水分離や固液分離が生じており、焼成後にややダレが生じ、部分的に型崩れが起きている。
--:油水分離や固液分離によって、完全に型崩れしている。
【0152】
(充填適性)
各フィリングを生地に絞る際の充填適性について、以下の評価基準に基づいて評価を行った。
++:キレがよく、充填適性が良い。
+:充填適性が良い。
±:やや糸引きがあるが、充填可能である。
-:糸引きが強く、あるいは緩い物性であり、充填適性が悪い。
--:物性が固く、あるいは過度に緩く、充填することが困難である。
【0153】
【0154】
<<検討3>>
本発明のフィリングの組成を変更した場合における、該フィリングの焼き込み耐性等について評価を行った。
【0155】
具体的には、以下の2種類のフィリングを調製し評価を行った。
【0156】
検討1で用いたものと同じ高固形分ヨーグルト20質量部、卵黄10質量部、はちみつ5質量部、粉糖5質量部を均一に混ぜ合わせた後、そこに上記Ex-1、2、3、6、10、12のいずれか一つを60質量部加えて、さらに混錬して、フィリングEx-1-2、2-2、3-2、6-2、10-2、12-2を得た。
【0157】
また、別個に、高固形分ヨーグルトではない、通常のヨーグルト(固形分12質量%、ヨーグルト中の蛋白質3.4質量%、脂質3.0質量%、固形分に占める蛋白質と脂質の含量の和の割合は53.3質量%)50質量部、卵黄10質量部、はちみつ5質量部、粉糖5質量部を均一に混ぜ合わせた後、そこに上記Ex-1、2、3、6、10、12のいずれか一つを30質量部加えて、さらに混錬して、フィリングEx-1-3、2-3、3-3、6-3、10-3、12-3を得た。
【0158】
なお、得られたフィリングの附番とフィリングの製造に用いたフィリングベースの附番とは対応するものである。
【0159】
このようにして得られたフィリングについて、検討1および検討2と同様にして評価を実施した。結果を表5に示す。
【0160】