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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023038080
(43)【公開日】2023-03-16
(54)【発明の名称】プラズマ溶射装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 4/134 20160101AFI20230309BHJP
   B05B 7/22 20060101ALI20230309BHJP
   H05H 1/42 20060101ALI20230309BHJP
【FI】
C23C4/134
B05B7/22
H05H1/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021144988
(22)【出願日】2021-09-06
(71)【出願人】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】酒井 譲
(72)【発明者】
【氏名】西田 辰夫
【テーマコード(参考)】
2G084
4F033
4K031
【Fターム(参考)】
2G084AA06
2G084BB27
2G084CC02
2G084CC23
2G084CC34
2G084DD01
2G084DD17
2G084DD68
2G084FF02
2G084FF13
2G084FF14
2G084FF33
2G084GG02
2G084GG07
2G084GG12
2G084GG14
2G084GG26
2G084GG29
4F033QA01
4F033QB02Y
4F033QB05
4F033QB13Y
4F033QB19
4F033QD02
4F033QD08
4F033QD15
4F033QG02
4F033QG07
4F033QG14
4F033QG19
4K031DA04
4K031EA07
4K031EA12
(57)【要約】
【課題】粉末がノズルに付着することを抑制して、生産性を高めることができる技術を提供する。
【解決手段】プラズマ溶射装置は、ガスおよび粉末を流通可能な直線状に延在する通路を有するノズル本体と、ノズル本体の先端に着脱可能に設けられ、通路に連通してガスおよび粉末を噴出可能な噴出口を有し、ノズル本体の中心軸と共有する軸を有する第1電極と、を備える。また、プラズマ溶射装置は、第1電極の外側に設けられノズル本体の中心軸と共有する軸を有する第2電極を備える。このプラズマ溶射装置は、第1電極と第2電極との間においてガスのプラズマを生成し、噴出口から噴射された粉末をプラズマにより溶融させ、溶融された粉末を基材に吹き付けることで溶射膜を形成する。また、噴出口の内径は通路の内径よりも大きい。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマ溶射装置であって、
筒状のノズル本体と、
前記ノズル本体の先端に着脱可能に設けられ、前記ノズル本体の中心軸と共通する軸を有する筒状の第1電極と、
前記第1電極の外側に設けられ、前記ノズル本体の中心軸と共通する軸を有する第2電極と、を備え、
前記ノズル本体および前記第1電極は、ガスおよび粉末を流通可能な連続する通路を有し、前記第1電極は、前記通路に連通して前記ガスおよび前記粉末を噴出可能な噴出口を有し、
前記噴出口の内径が前記通路の内径よりも大きく、
前記第1電極と前記第2電極との間において前記ガスのプラズマを生成し、前記噴出口から噴射された前記粉末を前記プラズマにより溶融させるように構成される、
プラズマ溶射装置。
【請求項2】
前記第1電極は、当該第1電極の軸方向と平行に延在する第1の内周面と、前記第1の内周面の前記噴出口側の端から前記噴出口に向かって内径が径方向外側に増加する第2の内周面と、を有する、
請求項1記載のプラズマ溶射装置。
【請求項3】
前記第2の内周面は、前記第1の内周面の前記噴出口側の端から前記噴出口に向かって内径が径方向外側に漸増するテーパ形状を有する、
請求項2に記載のプラズマ溶射装置。
【請求項4】
前記第1の内周面の延在方向に対する前記第2の内周面の傾斜角は、1°~45°の範囲に設定される、
請求項3記載のプラズマ溶射装置。
【請求項5】
前記第2の内周面の軸方向長さは、前記第1電極の軸方向長さの1/2以下である、
請求項2乃至4のいずれか1項に記載のプラズマ溶射装置。
【請求項6】
前記第1の内周面により形成される前記通路の内径は、前記ノズル本体の前記通路を構成する内周面の内径よりも小さい、
請求項2乃至5のいずれか1項に記載のプラズマ溶射装置。
【請求項7】
前記噴出口の内径は、前記第1の内周面により形成される前記通路の内径に対して1.1倍~2倍の範囲に設定されている、
請求項2乃至6のいずれか1項に記載のプラズマ溶射装置。
【請求項8】
前記第1電極は、カソード電極であり、
前記第2電極は、アノード電極である、
請求項1乃至7のいずれか1項に記載のプラズマ溶射装置。
【請求項9】
前記第1電極は、前記噴出口に向かって外径が径方向内側に減少する外周面を有する、
請求項1乃至8のいずれか1項に記載のプラズマ溶射装置。
【請求項10】
前記外周面は、前記噴出口に向かって外径が径方向内側に漸減するテーパ形状を有する、
請求項9に記載のプラズマ溶射装置。
【請求項11】
前記第2電極は、前記噴出口から噴出した前記粉末が通過する空間を有し、
前記第1電極の前記噴出口と前記第2電極とは、相互にオーバラップしている、
請求項1乃至10のいずれか1項に記載のプラズマ溶射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、プラズマ溶射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、高速のガスおよび粉末をノズルの噴出口から噴出しつつ、当該噴出した粉末をプラズマの熱により溶融して、溶融した粉末の被膜を基材の表面に形成するプラズマ溶射装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-78054号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、粉末がノズルに付着することを抑制して、生産性を高めることができる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様によれば、プラズマ溶射装置であって、筒状のノズル本体と、前記ノズル本体の先端に着脱可能に設けられ、前記ノズル本体の中心軸と共通する軸を有する筒状の第1電極と、前記第1電極の外側に設けられ、前記ノズル本体の中心軸と共通する軸を有する第2電極と、を備え、前記ノズル本体および前記第1電極は、ガスおよび粉末を流通可能な連続する通路を有し、前記第1電極は、前記通路に連通して前記ガスおよび前記粉末を噴出可能な噴出口を有し、前記噴出口の内径が前記通路の内径よりも大きく、前記第1電極と前記第2電極との間において前記ガスのプラズマを生成し、前記噴出口から噴射された前記粉末を前記プラズマにより溶融させるように構成される、プラズマ溶射装置が提供される。
【発明の効果】
【0006】
一態様によれば、粉末がノズルに付着することを抑制して、生産性を高めることができることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施形態に係るプラズマ溶射装置の全体構成例を示す図である。
図2図1の電極構造を拡大して示す側面断面図である。
図3図1のノズル周辺を示す説明図である。
図4】プラズマ溶射の評価実験を行った際のノズルを例示する説明図である。
図5】プラズマ溶射の評価実験におけるフィーダ圧力の推移を示すグラフである。
図6図6(a)は、第1変形例に係る噴出用筒体の縦断面図であり、図6(b)は、第2変形例に係る噴出用筒体の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して本開示を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0009】
図1は、実施形態に係るプラズマ溶射装置1の全体構成例を示す図である。図1に示すように、プラズマ溶射装置1は、溶射材料の粉末(以下「溶射用粉末R1」という)を、プラズマにより溶融しながら基材Wの表面に向かって噴出し、基材Wの表面に溶射膜F1を形成する装置である。
【0010】
プラズマ溶射装置1は、溶射用粉末R1を噴出する噴出部10と、噴出部10にガスを供給するガス供給部40と、噴出部10を冷却する冷却部60と、各構成の動作を制御する制御部70と、を含む。
【0011】
噴出部10は、円筒状のノズル11と、溶射用粉末R1をノズル11内に供給するフィーダ20と、を備える。また、噴出部10の先端側は、プラズマ溶射装置1の筐体部30内に設置されている。
【0012】
噴出部10が噴出する溶射用粉末R1の粒径は、例えば1μm~10μmである。溶射用粉末R1としては、例えば銅(Cu)、リチウム(Li)、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)等の金属の微粉末があげられる。また、溶射用粉末R1は、ポリエステル等の樹脂の微粉末であってもよい。また、溶射用粉末R1は、酸化アルミニウム、酸化イットリウム、フッ化イットリウム、酸化ジルコニウム、ムライト(Al13Si)、スピネル(MgAl)等のセラミックスまたはこれらのセラミックスの複合材料の微粉末であってもよい。
【0013】
ノズル11は、直線状に延在するノズル本体12と、ノズル本体12の先端に設置される噴出用筒体15と、を有する。噴出用筒体15の軸方向に沿った長さは、ノズル本体12の軸方向に沿った長さよりも短い。ノズル11は、ノズル本体12と噴出用筒体15とを別部材とすることで、装置のメンテナンス等において噴出用筒体15だけを交換可能としている。
【0014】
ノズル11は、溶射用粉末が流通する通路11aを内側に備える。通路11aは、ノズル11の軸方向と直交する断面視で正円形状に形成され、ノズル本体12の基端から噴出用筒体15の先端まで延在している。つまり、ノズル本体12は、通路11aを構成する本体孔部12aを軸心に有する一方で、噴出用筒体15は、通路11aを構成する噴出用孔部15aを軸心に有する。
【0015】
ノズル本体12は、導電性または非導電性を有する金属材料により円筒状に形成されている。ノズル本体12は、中心軸に沿って本体孔部12aを有する。本体孔部12aは、ノズル本体12の軸方向に沿って一定の内径(直径)で直線状に延在している。ノズル本体12の先端(噴出用筒体15側の端部)には、本体孔部12aに連通するとともに、噴出用孔部15aに連通可能な接続連通口12bが形成されている。
【0016】
噴出用筒体15は、導電性を有する金属材料により形成され、ノズル本体12よりも若干細い円筒状を呈している。噴出用孔部15aは、この噴出用筒体15の軸心を直線状に貫通している。このため、噴出用筒体15は、先端において噴出用孔部15aに連通する噴出口15bと、基端において噴出用孔部15aに連通する基端開口15c(図2参照)と、を有する。また、噴出用筒体15は、基端側の外周面にフランジ16を備える。フランジ16は、筐体部30内に設けられた内側凸部31に対して離脱可能に係合する。
【0017】
筐体部30は、非導電性の樹脂材料により形成されている。筐体部30は、ノズル本体12の中心軸と噴出用筒体15の中心軸とが互いに共通する軸を有するように、噴出用筒体15を固定する。筐体部30にノズル11が固定されることで、通路11aの軸は、プラズマ溶射装置1の鉛直方向(上下方向)に沿って直線状に延在した状態となっている。なお、噴出用筒体15の固定は、フランジ16と内側凸部31との係合に限定されず、適宜の係合手段(螺合、溶着、接着等)により、筐体部30またはノズル本体12に固定されればよい。
【0018】
筐体部30は、ノズル11の固定状態で、ノズル本体12の軸方向中間位置から先端側までの外周面に密着しており、また噴出用筒体15の基端側の外周面に密着している。筐体部30は、噴出用筒体15の先端側(下端側)周辺に、プラズマジェットPを生成するための生成空間30aを有する。さらに、筐体部30の上面からは、ノズル本体12の基端側(上端側)が突出している。
【0019】
フィーダ20は、ノズル11(ノズル本体12)の基端に接続され、ノズル11に溶射用粉末R1を供給する。フィーダ20は、溶射用粉末R1を収容する容器21と、容器21に設けられたアクチュエータ22と、を含む。容器21は、例えば、ボウル形状に形成され、アクチュエータ22から回転方向の振動が加わることで、容器21から通路11aに溶射用粉末R1を投入する。アクチュエータ22は、モータ、および当該モータの回転駆動を伝達する伝達機構等が適用される(共に不図示)。
【0020】
プラズマ溶射装置1のガス供給部40は、第1ガスとしてプラズマ生成ガスをノズル11に供給する。プラズマ生成ガスは、プラズマを生成するためのガスであり、ノズル11の通路11aにおいて溶射用粉末R1を運ぶキャリアガスとしても機能する。プラズマ生成ガスとしては、例えば、アルゴン(Ar)ガス、窒素(N)ガス、ヘリウム(He)ガスやこれらの混合ガスを利用することができる。以下では、プラズマ生成ガスとしてArガスを利用する場合を例にあげて説明する。
【0021】
ガス供給部40は、Arガス(プラズマ生成ガス)を供給するための供給配管41を有する。また、ガス供給部40は、供給配管41のガスの流通方向上流から下流に向かって順に、ガス供給源42、バルブ43およびマスフローコントローラ(MFC)44を備える。ガス供給部40は、バルブ43の開放に基づきガス供給源42からArガスを供給するとともに、マスフローコントローラ44により流量制御することで、所定の流量のArガスをノズル11の通路11aに供給する。
【0022】
さらに、ガス供給部40は、筐体部30の生成空間30aに、第2ガスとして旋回流用のガスであるArガスを供給する。ガス供給部40は、供給配管41から分岐する分岐配管45を有するとともに、マスフローコントローラ(MFC)46を分岐配管45に備える。つまり、ガス供給部40は、バルブ43の開放に基づきガス供給源42からArガスを供給した際に、マスフローコントローラ46により流量制御することで、所定流量のArガスを分岐配管45に流通させる。
【0023】
分岐配管45は、筐体部30内に設けられたガス流路32に接続されている。ガス流路32は、筐体部30の上部から下部に向かって縦方向に延在し、途中位置で横方向に曲がることで、生成空間30aに連通している。ガス供給部40により供給されたArガスは、横方向から生成空間30aに流出することで、生成空間30a内にて噴出用筒体15の周りに旋回流を形成する。
【0024】
なお、図1では、生成空間30aに横方向から導入されるArガスの供給流路を1つだけ図示しているが、筐体部30には、ガス流路32に連通する開口が生成空間30aの周方向に沿って複数設けられてもよい。
【0025】
プラズマ溶射装置1は、筐体部30の外部に直流電源51を有し、筐体部30に設置したカソード電極52(第1電極)およびアノード電極53(第2電極)に直流電力を供給することで、生成空間30a内にプラズマを生成する。本実施形態に係るプラズマ溶射装置1は、このカソード電極52として、金属により形成されているノズル11(噴出用筒体15)を適用している。また、筐体部30は、アノード電極53として機能する金属ブロック35を生成空間30aの内周面に有する。
【0026】
具体的には、筐体部30は、生成空間30aの内周面を構成する部位として、凹み部33と、張出部34とを有する。凹み部33には、上記したガス流路32の開口が設けられている。
【0027】
張出部34は、金属ブロック35により形成され、凹み部33よりも径方向内側に突出している。金属ブロック35は、導電性を有する金属材料により形成されている。金属ブロック35は、リング状に形成され、その外周側が筐体部30に接合されている。金属ブロック35により囲われた部分は、生成されたプラズマジェットPが通過するジェット用通路35aとなっている。第2電極である金属ブロック35(ジェット用通路35a)の中心軸は、ノズル本体12(ノズル11)の中心軸と共通する軸を有している。また、金属ブロック35は、断面視で、外周側が開放した凹状に形成され、水等の冷媒を凹空間35bに流通させることが可能である。
【0028】
以上の構成を有するプラズマ溶射装置1は、直流電源51からノズル11(カソード電極52)と、金属ブロック35(アノード電極53)とに直流電力を供給する。これにより、カソード電極52とアノード電極53の間に放電が生じてArガスの電離を促し、生成空間30aにプラズマを生成することができる。
【0029】
冷却部60は、チラーユニット61と、チラーユニット61から冷媒を流出させる冷媒流出管62と、チラーユニット61に冷媒を戻す冷媒流入管63と、含む。また、冷却部60は、冷媒流出管62にバルブ64およびフローメータ(FM)65を備えるとともに、冷媒流入管63にバルブ66を備える。
【0030】
冷媒流出管62および冷媒流入管63は、筐体部30内に形成された冷媒流路67に接続されている。冷媒流路67は、ノズル本体12の外側を周回するノズル冷却空間67aと、金属ブロック35の凹空間35bとに連通している。チラーユニット61から冷媒流出管62に供給された冷媒は、筐体部30の冷媒流路67に流入し、筐体部30内でのノズル冷却空間67aおよび凹空間35bを通過して、冷媒流入管63に流出することで、チラーユニット61に戻る。これにより、冷却部60は、プラズマの生成時に、筐体部30の温度を調整することが可能となる。
【0031】
また、プラズマ溶射装置1は、生成空間30aに磁場を発生させる磁場発生部(不図示)を備えてもよい。磁場発生部は、例えば、リング状の永久磁石または電磁石を、金属ブロック35と同じ高さ位置に配置して構成することができる。
【0032】
プラズマ溶射装置1の制御部70は、1以上のプロセッサ、メモリ、入出力インタフェースおよび電子回路を有する制御用コンピュータである。1以上のプロセッサは、CPU、ASIC、FPGA、複数のディスクリート半導体からなる回路等のうち1つまたは複数を組み合わせたものである。メモリは、揮発性メモリ、不揮発性メモリ(コンピュータ記憶媒体、フレキシブルディスク、コンパクトディスク、ハードディスク、光磁気ディスク、メモリーカード等の記憶媒体)を含み、不揮発性メモリにプログラムを記憶している。
【0033】
制御部70は、メモリのプログラムをプロセッサが実行処理することで、プラズマ溶射装置1の各構成を制御してプラズマ溶射を行い、筐体部30から離間した位置でジェット用通路35aに対向配置された基材Wの表面に溶射膜F1を形成する。なお、プラズマ溶射装置1は、基材Wを移動させながら溶射を行ってもよく、ノズル11を移動させながら溶射を行ってもよい。基材Wを移動させながら溶射を行う場合は、例えば、基材Wが載置されたステージ(不図示)を水平方向に移動させながら溶射を行う。ノズル11を移動させながら溶射を行う場合は、例えば、水平方向に移動可能なアームに筐体部30を固定し、アームにより筐体部30を水平方向に移動させながら溶射を行う。
【0034】
そして、本実施形態に係るプラズマ溶射装置1は、カソード電極52であるノズル11(噴出用筒体15)と、アノード電極53である金属ブロック35とからなる電極構造80において、プラズマ溶射時に、溶融した溶射用粉末R1の噴出用筒体15の内壁への付着を抑制可能としている。以下、この電極構造80の構成について説明していく。
【0035】
図2は、図1の電極構造80を拡大して示す側面断面図である。図2に示すように、電極構造80の一方である噴出用筒体15は、筐体部30内に軸方向基端側が嵌め込まれる一方で、軸方向中間から先端が生成空間30aに露出された状態となっている。
【0036】
噴出用筒体15の軸方向長さL(全長)の寸法は、例えば、7mm~15mmの範囲に設定されるとよく、本実施形態では10mmとしている。また、噴出用筒体15において生成空間30aに露出している部分(筐体部30の端面から噴出用筒体15の先端までの領域)の軸方向長さは、例えば、噴出用筒体15の軸方向長さLに対して1/2~4/5の割合に設定されるとよい。
【0037】
噴出用筒体15の外周面17は、基端において上記したフランジ16を有する。また、外周面17は、フランジ16よりも先端側(下部側)でフランジ16よりも小径の外径(直径)を有する胴部外周面171と、胴部外周面171の先端に連なり先端方向に向かって外径が漸減する先端外周面172と、を含む。
【0038】
胴部外周面171は、噴出用筒体15の軸方向に沿って一定の外径で(断面視で軸方向と平行かつ直線状に)延在している。胴部外周面171の外径の寸法は、噴出用筒体15の大きさにもよるが、例えば、4mm~8mmの範囲に設定されるとよく、本実施形態では6mmとしている。
【0039】
この胴部外周面171は、噴出用筒体15の外周面17の大部分を構成している。胴部外周面171の軸方向長さは、例えば、噴出用筒体15の軸方向長さLに対して2/3~9/10の割合に設定されるとよい。
【0040】
先端外周面172は、先端方向に向かって小径となるテーパ形状を呈していることで、噴出用筒体15の先端を先細り形状としている。この先端外周面172により、噴出用筒体15の先端の外径は、胴部外周面171の外径よりも小さくなる。例えば、噴出用筒体15の先端の外径は、胴部外周面171の外径に対して1/2~5/6の割合に設定されるとよい。噴出用筒体15の先端の外径の寸法としては、3mm~5mmの範囲であるとよく、本実施形態では4mmとしている。
【0041】
なお、先端外周面172の形状(寸法を含む)は、生成空間30aに形成されるArガスの旋回流のスムーズな流れと、プラズマ放電の安定性に基づき、適切に設計されればよい。外周面17は、テーパ形状の先端外周面172を備えなくてもよく、例えば、噴出用筒体15の先端との間に丸角を有する構成でもよい。
【0042】
一方、噴出用筒体15の基端開口15cの口径(内径φia)は、ノズル本体12の接続連通口12bの口径(本体孔部12aの内径)と同一に設定されている。噴出用筒体15は、この基端開口15cと接続連通口12bとが一致するように、筐体部30に装着される。
【0043】
噴出用筒体15は、噴出用孔部15aを構成する内周面18を内側に有する。内周面18は、基端開口15cから先端方向に向かって内径が漸減する基端内周面181と、基端内周面181に連なり軸方向に一定の内径を有する胴部内周面182(第1の内周面)と、胴部内周面182に連なり先端方向に向かって内径が増加(漸増)する先端内周面183(第2の内周面)と、を含む。すなわち、ノズル11内に設けられる通路11aは、当該通路11aを構成する内周面が鉛直方向に沿って拡径するまたは縮径する構成でもよい。この場合でも、通路11aは、軸心が直線状に延在していることになる。
【0044】
基端内周面181は、基端において基端開口15cを形成している。基端内周面181は、先端方向に向かって小径となるテーパ形状を呈していることで、噴出用孔部15aを徐々に細くしている。基端内周面181の軸方向長さは、フランジ16の軸方向長さ(厚み)よりも長い。
【0045】
胴部内周面182は、基端内周面181の先端に連なる基端を有し、この基端から軸方向に沿って一定の内径φib(直径)で延在している。この胴部内周面182の内径φibは、ノズル本体12の本体孔部12aの内径(=基端開口15cの内径φia)よりも小さい。この胴部内周面182の内径φibは、直線状に延在する通路11aにおいて最小径の部位を形成している。すなわち、噴出用筒体15は、基端内周面181および胴部内周面182により、溶射用粉末R1およびArガスの流速を速くすることができる。例えば、胴部内周面182の内径φibは、本体孔部12aの内径の2/3~9/10の割合に設定されるとよい。胴部内周面182の内径φibの寸法としては、例えば、2mm~4mmの範囲であるとよく、本実施形態では3mmとしている。
【0046】
胴部内周面182の軸方向長さは、基端内周面181の軸方向長さや先端内周面183の軸方向長さよりも長い。胴部内周面182の軸方向長さは、例えば、噴出用筒体15の軸方向長さLに対して1/2~4/5の割合に設定されるとよい。胴部内周面182の基端の軸方向位置と、胴部外周面171の基端(フランジ16との境界)の軸方向位置とは、一致していなくてもよく、一致していてもよい。
【0047】
先端内周面183は、胴部内周面182の先端(噴出口15b側の端)に連なる基端を有し、この基端から先端方向に向かって大径となるテーパ形状を呈していることで、噴出用孔部15aを広げている。そして、先端内周面183は、噴出用筒体15の最先端の縁によって噴出口15bを形成している(以下、噴出口15bを形成している縁を噴出口形成縁183fという)。すなわち、ノズル11は、噴出用筒体15の最先端に噴出口15bを有し、通路11a(本体孔部12a、噴出用孔部15a)がこの噴出口15bに連通している。
【0048】
噴出口形成縁183f(噴出口15b)の内径φicは、通路11aの一部を構成している胴部内周面182の内径φibよりも大きい。したがって、噴出口15bの奥側かつ近傍の胴部内周面182に対して、ノズル11の噴出口15bが拡大している。これにより噴出口形成縁183f付近の肉厚が薄くなる。例えば、噴出口15bの内径icは、内径φibに対して1.1~1.5倍に設定されるとよい。また、噴出口15bの内径φicは、ノズル本体12の本体孔部12aの内径φia以上に設定される。噴出口15bの内径φicの寸法としては、例えば、2.2mm~5mmの範囲であるとよく、本実施形態では3.6mmとしている。上記したように、噴出用筒体15の先端の外径が4mmであるため、噴出用筒体15の先端は、0.2mm幅のリング状の端面を有するようになる。
【0049】
先端内周面183の軸方向長さは、特に限定されず、例えば、噴出用筒体15の軸方向長さLに対して1/10~1/2の割合に設定される。すなわち、先端内周面183の基端位置は、噴出用筒体15の軸方向中間位置から先端までの範囲とすることで、先端内周面183を長くしすぎることによる、Arガスの流れの変化を抑制することができる。また、先端内周面183の基端位置は、噴出口15bから噴出用筒体15の軸方向長さLの1/10以上離れることで、噴出用筒体15の先端側肉部19aが薄肉になる範囲を確保できる。なお、先端内周面183の基端の軸方向位置と、先端外周面172の基端の軸方向位置とは、一致していなくてもよく、一致していてもよい。
【0050】
胴部内周面182の延在方向に対する先端内周面183の傾斜角θ(テーパ角)は、先端内周面183の軸方向長さや噴出口15bの内径φicにもよるが、例えば、1°~45°の範囲に設定される。
【0051】
噴出用筒体15の先端は、内径φibより大きな内径φicの噴出口15bを有することで、噴出用孔部15aを径方向外側に広げ、先端内周面183への溶射用粉末R1の付着を抑制する。また大きな内径φicの噴出口15bにより、先端外周面172と先端内周面183との間における噴出用筒体15の先端側肉部19aの肉厚が、胴部外周面171と胴部内周面182との間における胴部側肉厚19bの肉厚に対して大幅に薄くなる。このため、噴出用筒体15の先端は、プラズマの熱により温度が上昇し易くなる。
【0052】
また、電極構造80の一方である金属ブロック35は、径方向外側の外周部が筐体部30に固定されることで、上記したように、ジェット用通路35aを生成空間30aに配置している。金属ブロック35のジェット用通路35aを構成する通路内周面36の基端側は、先端方向(プラズマジェットPの噴出方向)に沿って減少(漸減)するテーパ面361に形成されている。また、テーパ面361の基端は、丸角362に形成され、金属ブロック35の基端面37に連なっている。
【0053】
電極構造80は、噴出用筒体15と、金属ブロック35とを互いに近接配置していることで、その間の間隙80aに放電を生じさせる。具体的には、噴出用筒体15の先端(噴出口15b)は、金属ブロック35の基端面37よりも先端に位置していることで、金属ブロック35の内側のジェット用通路35aに入り込んでいる。換言すれば、電極構造80の軸方向に沿った断面視で、カソード電極52の噴出口15bとアノード電極53とは、相互にオーバラップしている(重なり合っている)。特に、本実施形態に係る噴出用筒体15は、先端外周面172および先端内周面183の全体が金属ブロック35の基端面37よりも先端に位置している。これにより、噴出用筒体15の先端と金属ブロック35の基端との間の放電によりArガスのプラズマを生じさせることができる。なお、電極構造80は、金属ブロック35の基端面37よりも基端側に、噴出用筒体15の先端を配置してもよい(アノード電極53に対してカソード電極52をオーバラップさせない構造でもよい)。
【0054】
噴出用筒体15と金属ブロック35との間隙80aは、電極構造80においてプラズマを発生させる空間となる。間隙80aの間隔D(先端外周面172と通路内周面36間の最小距離)は、電極構造80の形状にもよるが、例えば、1.0mm~3.0mmの範囲に設定されるとよく、本実施形態では、1.02mmとしている。間隔Dが1.0mm未満であると、金属ブロック35が削れる等してプラズマが安定しない場合があり、また間隔Dが3.0mmを超えると、プラズマの放電位置が不安定となる場合がある。
【0055】
本実施形態に係るプラズマ溶射装置1は、基本的には以上のように構成され、以下その作用効果について説明する。
【0056】
図3は、ノズル11の周辺示す説明図である。図3に示すように、プラズマ溶射装置1は、制御部70の制御下に、ノズル11内の通路11aに対して、フィーダ20により溶射用粉末R1を供給しつつ、ガス供給部40によりArガス(プラズマ生成ガス)を供給する。また、プラズマ溶射装置1は、ガス供給部40からガス流路32を介して生成空間30aにArガスを流出させることで、Arガスの旋回流を生成空間30aに形成する。
【0057】
さらに、プラズマ溶射装置1の制御部70は、直流電源51から噴出用筒体15(カソード電極52)および金属ブロック35(アノード電極53)に直流電力を印加する。その結果、噴出用筒体15と金属ブロック35の間の間隙80aに、プラズマが生成される。この際、Arガスの旋回流が流れることで、生成されたプラズマを基材Wに向かって垂直方向に噴射させることができる。制御部70は、冷却部60により筐体部30の冷媒流路67に冷媒を供給する。これにより、プラズマ溶射により昇温したノズル本体12および金属ブロック35が冷却される。その一方で、噴出用筒体15は、冷媒流路67から離れた位置にあるため、高い温度状態が維持される。
【0058】
ノズル11の通路11a内において、溶射用粉末R1は、Arガスの移動により運ばれて、ノズル本体12、噴出用筒体15の順に直線状に流通していく。噴出用筒体15の胴部内周面182では、噴出用孔部15aが狭まっていることにより、溶射用粉末R1およびArガスの流速が速くなる。これに対し、噴出用筒体15の先端内周面183では、噴出用孔部15aが噴出口15bに向かって広がっている。このテーパ形状の先端内周面183は、溶射用粉末R1が滞留する場所(例えば、角部)をなくして、噴出用筒体15から溶射用粉末R1を安定的に噴出させることができる。
【0059】
したがって、噴出用筒体15は、先端内周面183に対する溶射用粉末R1の付着を抑制して、溶射用粉末R1を円滑に噴出することができる。仮に溶射用粉末R1が噴出口形成縁183fに付着したとしても、噴出口15bの内径を広げた噴出口形成縁183fは、噴出用孔部15aの閉塞を回避できる。
【0060】
また、噴出用筒体15の先端側肉部19aは、先端外周面172および先端内周面183により薄肉となっていることで、プラズマにより容易に昇温し、例えば3000℃程度の高温となる。これにより、溶射用粉末R1が噴出用筒体15の先端に一層付着し難くなる。特に、先端内周面183により噴出用孔部15aの先端側が広がっていることで、通路11a側のArガスの流速が低下し、プラズマが噴出用孔部15aに入り込み易くなる。このため、噴出用筒体15の先端側肉部19aの温度が一層容易に上昇して、溶射用粉末R1の溶融が促進される効果が得られる。
【0061】
噴出用筒体15を流通した溶射用粉末R1は、噴出口15bから噴出されつつ、プラズマの熱により溶融される。これにより、溶射用粉末R1は、プラズマジェットPとして金属ブロック35のジェット用通路35aを通過し、ジェット用通路35aの先端から基材Wの表面に向かって噴出されることで、基材Wの表面に溶射膜F1を形成する。プラズマジェットPには、溶射用粉末R1の付着に伴う塊が存在しないため、プラズマ溶射装置1は、溶射膜F1を精度よく形成することができる。
【0062】
図4は、プラズマ溶射の評価実験を行った際のノズルを例示する説明図であり、(a)は本実施形態に係る噴出用筒体15を適用した場合、(b)は、参考例に係る噴出用筒体90を適用した場合を示す。なお、参考例に係る噴出用筒体90は、図4(b)に示すように、噴出用筒体15のフランジ16および外周面17と同じフランジ91および外周面92を有する。したがって、噴出用筒体90と金属ブロック35との間隙80aの間隔Dは同一である。
【0063】
その一方で、噴出用孔部90aを形成している噴出用筒体90の内周面93は、噴出用筒体15の基端内周面181、胴部内周面182と同径の基端内周面931、胴部内周面932を有するが、胴部内周面932が噴出口90bまで延在している。換言すれば、噴出用筒体90は、噴出口90bの内径が胴部内周面932から一定のままとなっている。したがって、噴出用筒体90の先端側肉部94aは、噴出用筒体15の先端側肉部19aに比べて厚肉に形成されている。
【0064】
評価実験では、噴出用筒体15および噴出用筒体90の各々について、同じ評価機を用いると共に、同じプロセス条件でプラズマ溶射を行っている。プロセス条件では、プラズマ溶射装置1を収容した処理容器内の圧力を20[kPa]とし、直流電源51が供給する電流を400[A]とし、ガス供給部40によるArガスの流量を8/18[sLm]としている。また、評価実験で使用する溶射用粉末R1は、フッ化イットリウム(YF)と酸化イットリウム(Y)の混合粉を適用し、溶射用粉末R1の目標供給量を0.3[g/min]に設定している。評価実験におけるプラズマ溶射の実施期間は、60分である。
【0065】
図4(b)に示す参考例に係る噴出用筒体90は、プラズマ溶射後に、噴出用筒体90の重量が0.0318g増加していた。つまり、噴出用筒体90に対して溶射用粉末R1が付着していると言える。
【0066】
これに対し、図4(a)に示す本実施形態に係る噴出用筒体15は、プラズマ溶射後に、噴出用筒体15の重量が0.0054g減少していた。つまり、噴出用筒体15に溶射用粉末R1が殆ど付着していないと言える。噴出用筒体15に生じている重量の減少は、プラズマによる噴出用筒体15の削れと推定される。なお、噴出用筒体15を適用した場合と噴出用筒体90を適用した場合とで、プラズマ溶射の成膜レートおよび供給レートについては、略同一の結果であった。したがって、本実施形態に係る噴出用筒体15でも、参考例に係る噴出用筒体90と同じ速度で成膜を実施できることが確認できた。
【0067】
図5は、プラズマ溶射の評価実験におけるフィーダ圧力の推移を示すグラフであり、横軸は時間、縦軸はフィーダ圧力である。フィーダ圧力は、ノズル11の通路11aからフィーダ20にかかる圧力(陰圧)である。なお、図5のグラフにおける時点taは、フィーダ20に溶射用粉末R1を補給したタイミングとなっている。
【0068】
図5に示すように、参考例に係る噴出用筒体90のフィーダ圧力(図5の二点鎖線参照)は、プラズマ溶射の開始から20分が経過した頃からフィーダ圧力が上昇している。すなわち、噴出用筒体90の噴出用孔部90aの閉塞が生じている。また噴出用筒体90のフィーダ圧力は、30分経過以降に特に上昇し続けており、噴出用孔部90aの閉塞が進行していることが分かる。
【0069】
これに対し、本実施形態に係る噴出用筒体15のフィーダ圧力(図5の実線参照)は、時間経過しても殆ど上昇することがない。したがって、プラズマ溶射を継続しても、噴出用筒体15の噴出用孔部15aに閉塞が生じないことが分かる。
【0070】
なお、本開示に係るプラズマ溶射装置1のノズル11(噴出用筒体15)は、種々の変形例をとり得る。以下、図6(a)、図6(b)を参照して、噴出用筒体15の変形例について説明する。
【0071】
図6(a)に示す第1変形例に係る噴出用筒体15Aの内周面18Aは、胴部内周面182に対して先端内周面183Aが径方向外側に広がっているが、この先端内周面183Aは、一定の内径φicで噴出口15bまで延在した(非テーパ)形状となっている。つまり、先端内周面183Aは、段差端面184を介して胴部内周面182に連なっている。このような先端内周面183Aを有する構成でも、噴出用筒体15Aは、噴出用孔部15aの先端の内径φicを広げて、先端側肉部19aを薄肉とすることが可能となる。よって、噴出用筒体15Aは、上記の噴出用筒体15と同様の効果を得ることできる。
【0072】
図6(b)に示す第2変形例に係る噴出用筒体15Bの内周面18Bは、軸方向に沿った断面視で、径方向外側に円弧状に広がる形状の先端内周面183Bを有する。このような先端内周面183Bを有する構成でも、噴出用筒体15Bは、先端側肉部19aを薄肉として、上記の噴出用筒体15と同様の効果を得ることできる。
【0073】
以上の実施形態で説明した本開示の技術的思想および効果について以下に記載する。
【0074】
本開示の一態様は、プラズマ溶射装置1であって、筒状のノズル本体12と、ノズル本体12の先端に着脱可能に設けられ、ノズル本体12の中心軸と共通する軸を有する第1電極(噴出用筒体15、15A、15B)と、第1電極の外側に設けられ、ノズル本体12の中心軸と共通する軸を有する第2電極(金属ブロック35)と、を備え、ノズル本体12および第1電極は、ガスおよび粉末を流通可能な連続する通路11aを有し、第1電極は、通路11aに連通してガスおよび粉末を噴出可能な噴出口15bを有し、噴出口15bの内径φicが通路11aの内径φibよりも大きく、第1電極と第2電極との間においてガスのプラズマを生成し、噴出口15bから噴射された粉末をプラズマにより溶融させるように構成される。
【0075】
上記によれば、プラズマ溶射装置1は、噴出口15bの内径φicが通路11aの内径φibよりも大きいことで、先端内周面183に対して溶射用粉末R1が溜まり難くなり、噴出口15bから溶射用粉末R1を安定的に噴出できる。特に、噴出口15bの内径φicが大きいことで、第1電極(噴出用筒体15、15A、15B)の先端が薄肉となって昇温し易くなるため、溶射用粉末R1の付着を一層抑制できる。その結果、プラズマ溶射装置1は、第1電極のメンテナンスや交換の機会を低減することが可能となり、結果的に生産性を高めることができる。
【0076】
また、第1電極(噴出用筒体15、15A、15B)は、当該第1電極の軸方向と平行に延在する第1の内周面(胴部内周面182)と、第1の内周面の噴出口15b側の端から噴出口15bに向かって内径が径方向外側に増加する第2の内周面(先端内周面183)と、を有する。これにより、プラズマ溶射装置1は、溶射用粉末R1およびガスに乱流が生じることを抑えつつ、先端内周面183に対する溶射用粉末R1の付着を抑制できる。
【0077】
また、第2の内周面(先端内周面183)は、第1の内周面(胴部内周面182)の噴出口15b側の端から噴出口15bに向かって内径が径方向外側に漸増するテーパ形状を有する。これにより、プラズマ溶射装置1は、溶射用粉末R1を一層スムーズに噴射できる。
【0078】
また、第1の内周面(胴部内周面182)に対する第2の内周面(先端内周面183)の傾斜角θは、1°~45°の範囲に設定される。これにより、プラズマ溶射装置1は、先端内周面183の形成範囲を充分に確保して、プラズマにより第1電極(ノズル11)の先端を安定的に昇温させることができる。
【0079】
また、第2の内周面(先端内周面183)の軸方向長さは、第1電極(噴出用筒体15、15A、15B)の軸方向長さの1/2以下である。これにより、プラズマ溶射装置1は、噴出用筒体15に対する溶射用粉末R1の付着を充分に抑制できる。
【0080】
また、第1の内周面(胴部内周面182)により形成される通路11aの内径φibは、ノズル本体12の通路11aを構成する内周面の内径φiaよりも小さい。これにより、プラズマ溶射装置1は、第1の内周面において溶射用粉末R1およびガスの流速を上げることができる。
【0081】
また、噴出口15bの内径φicは、第1の内周面(胴部内周面182)により形成される通路11aの内径φibに対して1.1倍~2倍の範囲に設定されている。これにより、第1電極(噴出用筒体15、15A、15B)の噴出口15bが充分に広がって、プラズマ溶射によって溶融した溶射用粉末R1が噴出口15bを閉塞することを回避できる。
【0082】
また、第1電極(噴出用筒体15、15A、15B)は、カソード電極52であり、第2電極(金属ブロック35)は、アノード電極53である。これにより、プラズマ溶射装置1は、第1電極と第2電極との間にプラズマを発生させることができる。
【0083】
また、第1電極(噴出用筒体15、15A、15B)は、噴出口15bに向かって外径が径方向内側に減少する外周面(先端外周面172)を有する。これにより、プラズマ溶射装置1は、第1電極の先端を一層薄肉にすることが可能となり、昇温を促進できる。
【0084】
また、外周面(先端外周面172)は、噴出口15bに向かって外径が径方向内側に漸減するテーパ形状を有する。これにより、第1電極と第2電極の間に生じたプラズマが、第1電極の噴出口15b側にスムーズに移動できる。
【0085】
また、第2電極(金属ブロック35)は、噴出口15bから噴出した粉末が通過する空間(ジェット用通路35a)を有し、第1電極(ノズル11)の噴出口15bと第2電極とは、相互にオーバラップしている。これにより、プラズマ溶射装置1は、第1電極と第2電極を一層近づけることができ、プラズマの発生位置を適切にコントロールすることが可能となる。
【0086】
今回開示された実施形態に係るプラズマ溶射装置は、すべての点において例示であって制限的なものではない。実施形態は、添付の請求の範囲およびその主旨を逸脱することなく、様々な形態で変形および改良が可能である。上記複数の実施形態に記載された事項は、矛盾しない範囲で他の構成も取り得ることができ、また、矛盾しない範囲で組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0087】
1 プラズマ溶射装置
11 ノズル
11a 通路
12 ノズル本体
15、15A、15B 噴出用筒体
15b 噴出口
172 先端外周面
182 胴部内周面
183、183A、183B 先端内周面
19a 先端側肉部
35 金属ブロック
35a ジェット用通路
52 カソード電極
53 アノード電極
80 電極構造
R1 溶射用粉末
図1
図2
図3
図4
図5
図6