(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023038107
(43)【公開日】2023-03-16
(54)【発明の名称】脂質合成抑制剤及びこれを含む飲食品、脂質合成抑制用加工食品並びに発現抑制剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/05 20060101AFI20230309BHJP
A61K 36/899 20060101ALI20230309BHJP
A61K 36/22 20060101ALI20230309BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230309BHJP
A61P 3/06 20060101ALI20230309BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20230309BHJP
【FI】
A61K31/05
A61K36/899 ZNA
A61K36/22
A61P43/00 111
A61P3/06
A23L33/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021145031
(22)【出願日】2021-09-06
(71)【出願人】
【識別番号】000226998
【氏名又は名称】株式会社日清製粉グループ本社
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野間 聡
(72)【発明者】
【氏名】菊池 洋介
(72)【発明者】
【氏名】立花 宏文
【テーマコード(参考)】
4B018
4C088
4C206
【Fターム(参考)】
4B018LB01
4B018LB07
4B018LB08
4B018LB09
4B018LB10
4B018MD08
4B018MD49
4B018ME04
4B018ME14
4B018MF01
4B018MF06
4C088AB21
4C088AB73
4C088AC04
4C088BA10
4C088ZC33
4C088ZC41
4C206CA19
4C206KA01
4C206MA01
4C206MA04
4C206NA14
4C206ZC33
4C206ZC41
(57)【要約】
【課題】脂質合成抑制剤及びこれを含む飲食品、脂質合成抑制用加工食品を提供すること。
【解決手段】本発明の脂質合成抑制剤及びこれを含む飲食品、並びに脂質合成抑制用加工食品は、下記式(I)で表されるレゾルシノールを有効成分として含有する。前記レゾルシノールとして、小麦ふすまから抽出した抽出物を含有することが好適である。
【化1】
(式中、R
1は炭素原子数15~25のアルキル基又は炭素原子数15~25のアルケニル基を表し、R
2は水素原子又はメチル基を表す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表されるレゾルシノールを有効成分として含有する脂質合成抑制剤。
【化1】
(式中、R
1は炭素原子数15~25のアルキル基又は炭素原子数15~25のアルケニル基を表し、R
2は水素原子又はメチル基を表す。)
【請求項2】
前記レゾルシノールとして、イネ科植物又はウルシ科植物から抽出した抽出物を含有する、請求項1に記載の脂質合成抑制剤。
【請求項3】
前記レゾルシノールとして、小麦ふすまから抽出した抽出物を含有する、請求項1に記載の脂質合成抑制剤。
【請求項4】
式(I)で表されるレゾルシノールの総含有質量中、
1,3-ジヒドロキシ-5-n-ペンタデシルベンゼンが0.1質量%~10.0質量%、
1,3-ジヒドロキシ-5-n-ヘプタデシルベンゼンが1.0質量%~20.0質量%、
1,3-ジヒドロキシ-5-n-ノナデシルベンゼンが25.0質量%~40.0質量%、
1,3-ジヒドロキシ-5-n-ヘンイコシルベンゼンが40.0質量%~55.0質量%、
1,3-ジヒドロキシ-5-n-トリコシルベンゼンが1.0質量%~15.0質量%、
1,3-ジヒドロキシ-5-n-ペンタコシルベンゼンが0質量%~5.0質量%であり、肝臓におけるトリグリセリドの生合成を抑制するために用いられる、請求項1~3の何れか1項に記載の脂質合成抑制剤。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の脂質合成抑制剤を含有する飲食品。
【請求項6】
下記式(I)で表されるレゾルシノールを有効成分として含有する、脂質合成抑制用加工食品。
【化2】
(式中、R
1は炭素原子数15~25のアルキル基又は炭素原子数15~25のアルケニル基を表し、R
2は水素原子又はメチル基を表す。)
【請求項7】
下記式(I)で表されるレゾルシノールを有効成分として含有する、Fatty acid synthase、Acetyl-CoA carboxylaseA、Elongation of long chain fatty acids 6及びSterol Regulatory Element Binding Transcription Factor 1から選ばれる少なくとも1種の発現抑制剤。
【化3】
(式中、R
1は炭素原子数15~25のアルキル基又は炭素原子数15~25のアルケニル基を表し、R
2は水素原子又はメチル基を表す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂質合成抑制剤及びこれを含む飲食品、脂質合成抑制用加工食品、並びに脂肪酸合成に係る蛋白質の遺伝子発現抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
過剰な食物の摂取、運動不足、ストレスなどが原因で生じる様々な疾患は動脈硬化症、ひいては、心筋梗塞や脳卒中などの心血管性疾患のリスクまでも高める。動脈硬化症や虚血性心疾患のリスクファクターとして、血液中のトリグリセリド等の脂質が増加する高脂血症が知られている。血液中のトリグリセリドの合成過程は次のようなものである。生体内では主として肝臓において、糖などを原料に生成されたアセチルCoenzyme A(CoA)を出発物質として、アセチルCoAカルボキシラーゼ(Acetyl-CoA carboxylase:以下「ACC」とも記載する。)、脂肪酸合成酵素Fatty acid synthase(以下「FAS」とも記載する。)、Elongation of long chain fatty acids 6(以下「ELOVL6」とも記載する。)などの関与により脂肪酸が生合成される。ACC、FAS、ELOVL6は、いずれも、Sterol Regulatory Element Binding Transcription Factor 1(以下、「SREBF1」とも記載する。)により正に制御される。(非特許文献1及び2)。合成された脂肪酸はトリグリセリドとなり、リポ蛋白として肝臓から血中に分泌される。
【0003】
従って、トリグリセリドの生合成を抑制し、長期間摂取しても、安全で、且つ、十分な効果が得られる新規の脂質合成抑制剤の開発が望まれている。
【0004】
更に、近年、FASは各種組織の上皮癌で過剰発現すること、FASやACCを阻害することで腫瘍細胞の選択的死を誘発できる可能性が知られている(非特許文献3)。従って抗癌の観点からも、FASやACCといった脂肪酸合成酵素遺伝子の発現を効果的に抑制する抑制剤が望まれている。
【0005】
本出願人は先に、イネ科植物種子のアルコール抽出物の分配クロマトグラフィーのピーク成分を有効成分として含有する抗肥満剤(特許文献1参照)、及び該有効成分の作用効果を最大限に高め得る食品の摂取方法を提案した(特許文献2参照)。また特定のレゾルシノールの脂質分解促進剤を提案した(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013-40108号公報
【特許文献2】特開2016-132641号公報
【特許文献3】特開2021-016363号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】基礎老化研究 37(3); 2013年、p29-31
【非特許文献2】生化学 第80巻 第8号、2008年8月、p762-767
【非特許文献3】Mashima, T., Seimiya, H., and Tsuruo, T. (2009). De novo fatty-acid synthesis and related pathways as molecular targets for cancer therapy. Br. J. Cancer 100, 1369-1372.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1~3では、トリグリセリド等の脂質の生合成を抑制する作用やFAS、ACC等といった脂肪酸合成に係る蛋白質の発現抑制作用に関して特段検討されていない。
【0009】
したがって、本発明の課題は、脂質合成抑制剤及びこれを含む飲食品、脂質合成抑制用加工食品並びに脂肪酸合成に係る蛋白質の遺伝子発現抑制剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、肝細胞等での脂質の合成抑制作用の観点から鋭意検討した結果、特定のレゾルシノールの摂取によって、肝細胞等でのトリグリセリドの生合成を抑制できることを新たに見出した。本発明は、これらの知見に基づき完成させるに至ったものである。
【0011】
すなわち本発明は、下記式(I)で表されるレゾルシノールを有効成分として含有する脂質合成抑制剤を提供するものである。
【化1】
(式中、R
1は炭素原子数15~25のアルキル基又は炭素原子数15~25のアルケニル基を表し、R
2は水素原子又はメチル基を表す。)
【0012】
また本発明は、前記脂質合成抑制剤を含有する飲食品を提供するものである。
【0013】
更に本発明は、下記式(I)で表されるレゾルシノールを有効成分として含有する、脂質合成抑制用加工食品を提供するものである。
【化2】
(式中、R
1は炭素原子数15~25のアルキル基又は炭素原子数15~25のアルケニル基を表し、R
2は水素原子又はメチル基を表す。)
【0014】
更に、本発明は、上記式(I)で表されるレゾルシノールを含有するACC発現抑制剤、上記式(I)で表されるレゾルシノールを含有するFAS発現抑制剤、上記式(I)で表されるレゾルシノールを含有するELOVL6発現抑制剤、及び、上記式(I)で表されるレゾルシノールを含有するSREBF1発現抑制剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、脂質合成抑制剤及びこれを含む飲食品、脂質合成抑制用加工食品並びに脂肪酸合成に係る蛋白質の遺伝子発現抑制剤を投与又は摂取することで、肝細胞等でのトリグリセリドの生合成を効果的に抑制することができる。また、本発明によれば、FAS、ACC、ELOVL6、SREBF1といった脂肪酸合成に係る蛋白質の遺伝子発現を効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1(a)は、実施例及び比較例のHepG2細胞での脂質蓄積量を示す棒グラフである。
【
図2】
図2(a)は、実施例及び比較例のSREBF1遺伝子発現量を示す棒グラフであり、
図2(b)は、実施例及び比較例のACC遺伝子発現量を示すグラフである。
【
図3】
図3(a)は、実施例及び比較例のFAS遺伝子発現量を示す棒グラフであり、
図3(b)は、実施例及び比較例のELOVL6遺伝子発現量のサンプル分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づいて説明する。本実施形態の脂質合成抑制剤は、下記式(I)で表されるレゾルシノールを有効成分として含有する。このレゾルシノールは、アセチルCoAカルボキシラーゼ(ACC)、脂肪酸合成酵素Fatty acid synthase(FAS)、Elongation of long chain fatty acids 6(ELOVL6)、Sterol Regulatory Element Binding Transcription Factor 1(SREBF1)といった脂肪酸合成に係る蛋白質の遺伝子発現を抑制し、肝細胞等におけるトリグリセリド等の脂質の合成を抑制する作用を有する。以下の説明では、「X~Y」(X及びYは任意の数字)と記載した場合、特に断らない限り「X以上Y以下」を意味する。
なお以下の脂質合成抑制剤に関する説明は、全て本発明のACC発現抑制剤、FAS発現抑制剤、ELOVL6発現抑制剤、SREBF1発現抑制剤にも当てはまる。
【0018】
【化3】
(式中、R
1は炭素原子数15~25のアルキル基又は炭素原子数15~25のアルケニル基を表し、R
2は水素原子又はメチル基を表す。)
【0019】
前記式(I)におけるR1で表される炭素原子数が15~25のアルキル基若しくはアルケニル基としては直鎖、分枝鎖若しくは環状のものや、置換若しくは無置換の物が挙げられる。R1は、R2に対して、メタ位又はパラ位に結合している。このような官能基及び置換位置を有するレゾルシノールは単独で用いてもよく、又は複数種組み合わせた混合物として用いてもよいが、SREBF1、FAS、ACC、ELOVL6の遺伝子発現を抑制してトリグリセリドの生合成を抑制する点から好ましくは、複数種組み合わせた混合物として用いる。
【0020】
前記式(I)に示すレゾルシノールの好ましい例として、以下の(a1)ないし(f1)に示すレゾルシノールを少なくとも一種含有するものが挙げられる。以下の説明では、以下の(a1)ないし(f1)に示すレゾルシノールを総称して「AR類」ともいう。
【0021】
(a1)R1が炭素原子数15のアルキル基であるレゾルシノール(以下、これを「AR15」ともいう。)。
(b1)R1が炭素原子数17のアルキル基であるレゾルシノール(以下、これを「AR17」ともいう。)。
(c1)R1が炭素原子数19のアルキル基であるレゾルシノール(以下、これを「AR19」ともいう。)。
(d1)R1が炭素原子数21のアルキル基であるレゾルシノール(以下、これを「AR21」ともいう。)。
(e1)R1が炭素原子数23のアルキル基であるレゾルシノール(以下、これを「AR23」ともいう。)。
(f1)R1が炭素原子数25のアルキル基であるレゾルシノール(以下、これを「AR25」ともいう。)。
【0022】
これらのうち、R1で表されるアルキル基は、好ましくは直鎖状又は無置換であり、より好ましくは直鎖であり、更に好ましくは直鎖且つ無置換である。直鎖且つ無置換のアルキル基としては、例えばn-ペンタデシル、n-ヘプタデシル、n-ノナデシル、n-ヘンイコシル、n-トリコシル、n-ペンタコシル等が挙げられる。
【0023】
前記式(I)におけるR2は、水素原子であることが好ましく、また、R1はR2に対してパラ位に結合していることが好ましい。
【0024】
脂質合成抑制作用を効果的に発現させる観点から、R1及びR2の組み合わせとして、R1が直鎖且つ無置換のアルキル基であり、R2が水素原子であり、且つR1がR2に対してパラ位に結合していることが一層好ましい。このようなレゾルシノールの具体例としては、以下の(a2)ないし(f2)に示す化合物が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、又は複数種組み合わせた混合物として用いてもよいが、SREBF1、FAS、ACC、ELOVL6の遺伝子発現を抑制してトリグリセリドの生合成を抑制する点から、複数種組み合わせた混合物とすることが好ましい。(a2)ないし(f2)は、上述した(a1)ないし(f1)にそれぞれ対応する。
【0025】
(a2)AR15として、1,3-ジヒドロキシ-5-n-ペンタデシルベンゼン(C15:0)
(b2)AR17として、1,3-ジヒドロキシ-5-n-ヘプタデシルベンゼン(C17:0)
(c2)AR19として、1,3-ジヒドロキシ-5-n-ノナデシルベンゼン (C19:0)
(d2)AR21として、1,3-ジヒドロキシ-5-n-ヘンイコシルベンゼン(C21:0)
(e2)AR23として、1,3-ジヒドロキシ-5-n-トリコシルベンゼン (C23:0)
(f2)AR25として、1,3-ジヒドロキシ-5-n-ペンタコシルベンゼン(C25:0)
【0026】
SREBF1、FAS、ACC、ELOVL6の遺伝子発現を抑制してトリグリセリドの生合成を一層効果的に抑制する点から、式(I)で表されるレゾルシノールを混合物として用いる場合、AR類の各含有量は以下の範囲にあることが好ましい。AR類の含有量は、例えば後述するHPLC法によって測定することができる。
【0027】
AR15の含有量は、式(I)で表される全レゾルシノールの総含有質量中、好ましくは0.1質量%~10.0質量%、更に好ましくは0.1質量%~5.0質量%、特に好ましくは0.5質量%~1.5質量%である。
AR17の含有量は、式(I)で表される全レゾルシノールの総含有質量中、好ましくは1.0質量%~20.0質量%、更に好ましくは5.0質量%~15.0質量%、特に好ましくは8.0質量%~12.0質量%である。
AR19の含有量は、式(I)で表される全レゾルシノールの総含有質量中、好ましくは25.0質量%~40.0質量%、更に好ましくは27.5質量%~37.5質量%、特に好ましくは30.0質量%~35.0質量%である。
AR21の含有量は、式(I)で表される全レゾルシノールの総含有質量中、好ましくは40.0質量%~55.0質量%、更に好ましくは42.5質量%~52.5質量%、特に好ましくは45.0質量%~50.0質量%である。
AR23の含有量は、式(I)で表される全レゾルシノールの総含有質量中、好ましくは1.0質量%~15.0質量%、更に好ましくは2.5質量%~12.5質量%、特に好ましくは5.0質量%~10.0質量%である。
AR25の含有量は、式(I)で表される全レゾルシノールの総含有質量中、好ましくは0質量%~5.0質量%、更に好ましくは0質量%~2.0質量%、特に好ましくは0質量%~1.5質量%である。つまり、AR25は実質的に非含有であってもよい。
【0028】
上述した式(I)で表されるレゾルシノールの混合物は、AR類以外の他のレゾルシノールを一種以上含有していてもよい。他のレゾルシノールとしては、例えば、前記式(I)におけるR1が炭素原子数27のアルキル基であるレゾルシノールが挙げられ、特に好ましくは、R1が直鎖且つ無置換のアルキル基であり、R2が水素原子であり、且つR1がR2に対してパラ位に結合している化合物である。このような化合物の例としては、1,3-ジヒドロキシ-5-n-ヘプタコシルベンゼン(C27:0)が挙げられる。
【0029】
式(I)で表されるレゾルシノールは、常法により合成することができ、また市販品として入手することもできる。また、植物から常法により抽出した抽出物を用いることもできる。植物からの抽出物を用いる場合、式(I)で表されるレゾルシノールを含有する植物としては、ウルシ科、イチョウ科、ヤマモガシ科、ヤブコウジ科、サクラソウ科、ニクズク科、アヤメ科、サトイモ科、キク科のヨモギ、マメ科、イネ科などが挙げられる。これらのうち、可食性であり、且つ式(I)で表されるレゾルシノールの含量が高く抽出効率に優れる観点から、給源として、イネ科植物又はウルシ科植物であることが好ましい。すなわち、脂質合成抑制剤は、式(I)で表されるレゾルシノールとして、イネ科植物又はウルシ科植物から抽出した式(I)で表されるレゾルシノール含有抽出物を含むことが好ましい。植物からの抽出物を用いる場合、上述したAR類を含む混合物としてより簡便に得られる点で特に有利である。
【0030】
式(I)で表されるレゾルシノールの給源として利用可能なイネ科植物としては、例えば、小麦、デュラム小麦、ライ麦、ライ小麦、大麦、オーツ麦、はと麦、トウモロコシ、イネ、ヒエ、アワ、キビ等が挙げられ、これらを単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。抽出に用いられるイネ科植物は、種子や、該種子を切断、粉砕、乾燥等の処理を経た粉砕物、粉末又は乾燥物を用いてもよく、外皮のみを用いてもよく、これらの組み合わせてあってもよい。外皮を含む具体例としては、ふすま、末粉、籾殻、ぬか等が挙げられる。
【0031】
式(I)で表されるレゾルシノールの給源として利用可能なウルシ科植物としては、特に制限されないが、例えばカシューナッツなどのナッツ類等が挙げられる。抽出に用いられるウルシ科植物は、上述した任意の形態であればよく、例えば、植物又は種子をそのまま用いてもよく、あるいはこれらを切断、粉砕、乾燥等の処理を経た粉砕物、粉末又は乾燥物を用いてもよく、これらの組み合わせてあってもよい。
【0032】
これらの中でも、高い脂質合成抑制活性を有する抽出物を効率良く得る観点から、イネ科植物として小麦、デュラム小麦等のコムギ属、又はライ麦等のライムギ属の植物から抽出して得られる抽出物であることが好ましく、小麦から抽出された抽出物であることが更に好ましい。また同様の観点から、ウルシ科植物としてカシューナッツから抽出して得られる抽出物であることが好ましい。
とりわけ、SREBF1、FAS、ACC、ELOVL6の遺伝子発現を抑制してトリグリセリドの生合成を抑制する点から、小麦ふすまから抽出された抽出物であることが好ましい。
【0033】
式(I)で表されるレゾルシノールを含む抽出物を植物から得る場合、その抽出方法は特に限定されないが、抽出率の向上及び簡便性の観点から、アルコール抽出によって得られるものであることが好ましい。アルコールによる抽出方法は、例えば、前記の各種形態のイネ科植物又はウルシ科植物の種子をアルコール中に浸漬、攪拌又は還流する方法の他、超臨界流体抽出法等が挙げられる。前者の方法の場合、抽出温度は2℃~100℃が好ましく、抽出時間は30分~72時間が好ましく、アルコール使用量は、イネ科植物又はウルシ科植物の種子100質量部に対し50質量部~2000質量部が好ましい。
【0034】
抽出に用いられるアルコールとしては、室温(25℃)で液体であるアルコールが挙げられ、具体的には、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール等の低級一価アルコールや、1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール等の好ましくは炭素原子数1~4のものである。これらのアルコールの中でも、操作性及び環境性の観点から、エタノールを用いることが好ましい。なお、抽出に用いられるアルコールとして、アルコール以外の水性成分(水、純水、蒸留水、水道水、酸性水、アルカリ水、中性水等)が含まれている含水エタノールを用いることもできる。含水アルコール中のアルコール含有量は、通常70体積%以上、好ましくは80体積%以上、より好ましくは90体積%以上である。
【0035】
式(I)で表されるレゾルシノールを含む抽出物は、これをそのままで用いてもよく、該抽出物を更に精製してもよい。式(I)で表されるレゾルシノールの脂質合成抑制作用を効果的に発現させる観点から、前記抽出物を精製した精製物を用いることが好ましい。精製方法としては、本発明の脂質合成抑制剤の有効成分(式(I)で表されるレゾルシノール又はこれらの混合物)が得られる方法であれば特に制限はないが、分配クロマトグラフィー法を用いることが簡便性の点から好ましい。分配クロマトグラフィー法の具体例としては、移動相として非水系溶媒を用いる順相クロマトグラフィー法が好ましく挙げられ、オープンカラム法、中圧カラム法、高速液体クロマトグラフィー等の公知の方法を適宜選択することができる。
【0036】
分配クロマトグラフィーにおける移動相としては、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール等の炭素原子数1~4の低級一価アルコール、及び1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の炭素原子数1~4の多価アルコール等の室温(25℃)で液体であるアルコール;ジエチルエーテル、プロピルエーテル等のエーテル;酢酸ブチル、酢酸エチル等のエステル;アセトン、エチルメチルケトン等のケトン;ヘキサン;塩化メチレン;アセトニトリル;並びにクロロホルム等が挙げられ、これら溶媒の1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。複数の溶媒を組み合わせて移動相とする場合、分配クロマトグラフィーの実施中において、複数の溶媒の混合比を一定にするイソクラクティックモードでも良く、あるいは該混合比を変化させるグラジエントモードでも良い。
【0037】
分配クロマトグラフィーにおける担体としては、目的とする有効成分を担持及び放出できる担体であればいずれも用いることができるが、一般的にはシリカゲル、ポリアクリルアミドゲル、デキストランゲル等を挙げることができる。
【0038】
分配クロマトグラフィーにおける検出波長は、170~320nmであれば良く、好ましくは200~300nmである。
【0039】
イネ科植物種子又はウルシ科植物種子のアルコール抽出物の精製に好適な分配クロマトグラフィーの例として、後述する実施例に記載の分配クロマトグラフィー法が挙げられる。この方法を用いることによって、脂質合成抑制作用を有する式(I)で表されるレゾルシノールを含む精製物を効率良く得ることができる。得られる精製物は、単一の化合物からなるレゾルシノールであるか、レゾルシノールの混合物であり得る。
【0040】
脂質合成抑制剤の全質量に対する式(I)で表されるレゾルシノールの含有量は、式(I)で表されるレゾルシノールの総含有質量として、好ましくは70質量%以上、更に好ましくは75質量%以上、特に好ましくは100質量%であり、脂質合成抑制剤は式(I)で表されるレゾルシノールのみから構成されていても良い。
【0041】
脂質合成抑制剤は、式(I)で表されるレゾルシノールを含む抽出物、混合物あるいは精製物に加えて、必要に応じて、薬学的に許容される種々の担体、賦形剤、その他の添加剤、及びその他の成分を一種以上含有した組成物とすることができる。脂質合成抑制剤は、常法により製剤化することができ、その剤形としては、好ましくは錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤等の経口剤、あるいは注射剤又は経皮剤とすることができる。また、その他の成分としては、薬効作用を有する成分が挙げられ、例えば抗炎症薬、各種ビタミン類、生薬、ミネラル類等が挙げられる。
【0042】
脂質合成抑制剤は、非医療目的で、ヒト又は動物に直接投与又は摂取させてもよく、あるいは該脂質合成抑制剤を飲食品又は動物用飼料に含有させて摂取させてもよい。動物としては、イヌ、ネコ、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ウシ、ウマ、サル等が含まれる。すなわち、脂質合成抑制剤は、ヒトのみならず、ペット(愛玩動物)、家畜等に対しても適用可能であり、哺乳動物全般に対して非医療目的で実施し得る。
【0043】
脂質合成抑制剤中の式(I)で表されるレゾルシノールの含有量は、脂質合成抑制剤の剤形、又は投与若しくは摂取する者の症状や年齢性別等によって適宜変更することができる。従来、ヒトを対象とする場合、レゾルシノールの含有量として、成人一人(60kg換算)且つ一日当たり、0.01g~10g等の投与量が知られており、本用途においても同様の量を採用できる。この量は、式(I)で表されるレゾルシノールの総含有量とすることができる。投与又は摂取の方法は、一回又は複数回に分けて行うことができ、またボーラス投与で行ってもよく、持続的に行ってもよい。
【0044】
脂質合成抑制剤は、これを飲食品に含有させる等といった経口的に投与又は摂取可能な態様とすることによって、投与又は摂取の簡便性が高まる点で有利である。脂質合成抑制剤を含む飲食品とする場合、例えばパン類、麺類などの主食類、ゼリー状食品や各種スナック類、焼き菓子、ケーキ類、チョコレート、ガム、飴、タブレット等の菓子類、カプセル、ソース類、スープ類、乳製品、冷凍食品、インスタント食品、サプリメント等の加工食品類等の食品、飲料用水、茶飲料、コーヒー飲料、乳飲料、果汁飲料、炭酸飲料、アルコール飲料、清涼飲料、栄養ドリンク等の飲料等、あるいは飲食可能な調味料等が挙げられるが、これらに限られない。飲食品における脂質合成抑制剤の含有態様についても特に限定されず、飲食品又は加工食品の製造時に添加して含有させてもよく、飲食品に別途添加、混合、被覆等させて、加工食品として含有させてもよい。すなわち、本発明の飲食品及び加工食品は、前記式(I)で表されるレゾルシノールを含有するものであり、好ましくは脂質合成抑制の用途で用いられる。この場合、式(I)で表されるレゾルシノールの含有量は、上述の範囲となるように含有させることが好ましい。
【0045】
また、脂質合成抑制剤の動物用飼料への配合態様についても特に限定されず、飼料の製造時に添加して飼料に含有させてもよく、製造後の飼料に別途添加、混合、被覆等させて含有させてもよく、あるいは動物用飲料水に混合又は分散させてもよい。すなわち、動物用飼料は、前記式(I)で表されるレゾルシノールを含有するものであり、好ましくは脂質合成抑制の用途で用いられる。
【0046】
式(I)で表されるレゾルシノールを動物に投与又は摂取させる場合いずれの動物であっても、投与又は摂取方法は、一回又は複数回に分けて行うことができ、またボーラス投与で行ってもよく、持続的に行ってもよい。
従来レゾルシノールについて下記の投与量が知られており、本用途でも同様の量を採用できる。式(I)で表されるレゾルシノールの総含有量として、以下の分量で投与又は摂取させることが好ましい。
・イヌの場合(体重10kg換算):1日当たり200μg~500mg
・ネコの場合(体重3kg換算):1日当たり200μg~500mg
・マウスの場合(体重30g換算):1日当たり120μg~200mg
・ハムスターの場合(体重30g換算):1日当たり120μg~200mg
・ウサギの場合(体重2kg換算):1日当たり200μg~500mg
【0047】
上述した脂質合成抑制剤、飲食品、加工食品、或いは動物用飼料の摂取期間は特に制限されないが、一定期間連続的に摂取することが好ましく、脂質合成抑制作用を十分に発現させる観点から、2週間以上、好ましくは3週間以上、特に7週間以上連続して摂取することが好ましい。
【0048】
本発明には、上述した式(I)で表されるレゾルシノール又はこれらの混合物を投与又は摂取して肝細胞(肝臓)等でのトリグリセリド等の脂質の生合成を抑制する方法が包含される。後述する実施例に示す通り、本発明で用いるレゾルシノールは、肝細胞等におけるACC、FAS、ELOVL6といった脂肪酸の合成を触媒する酵素の発現を抑制し、また、ACC、FAS、ELOVL6等の脂肪酸合成を触媒する酵素の発現を亢進するSREBF1の発現を抑制する。従って、本発明で用いるレゾルシノールは効果的に肝細胞等でのトリグリセリドの生合成を抑制でき、高トリグリセリド血症等の高脂血症や脂肪肝、高脂血症等に伴う動脈硬化や急性膵炎等の改善などが可能である。本発明は脂肪細胞における脂肪蓄積の抑制以外の経路・作用機序により、高脂血症などの改善を図る可能性を見出したものである。なお、本明細書において、単にSREBF1という場合、転写変異体であるSREBP1a及びSREBP1cの両方を含む。
【0049】
更に、本発明のFAS、ACC等の遺伝子発現抑制剤は、FAS、ACC等の遺伝子発現の抑制を通じて、肝上皮癌等の肝癌のほか、その他各種の癌の予防又は改善に寄与する可能性がある。
【0050】
脂質合成抑制方法は、例えばヒト及び動物を対象として、上述した用法及び用量を投与又は摂取すればよい。睡眠から覚醒した後4時間以内に上述した用量を摂取してもよく、4時間以内に摂取しなくてもよい。なお本発明でいう「睡眠」は、周囲の刺激に対する反応の低下を伴い、意識はないが容易に覚醒できる自然な状態であり、該状態が1日24時間の中に複数存在する場合は、それらのうちで該状態が最も長い持間継続したもののみが「睡眠」に該当する。即ち、睡眠は、1日24時間の中で1回だけであり、また例えば、人が通常夜間にとる数時間に亘る睡眠(就寝)とは別に、昼間などにとる比較短時間に亘るいわゆる昼寝は、本明細書における睡眠ではない。また、式(I)で表されるレゾルシノール又はこれらの混合物を投与又は摂取して脂質合成抑制を促進する方法において、睡眠時間は特に制限されないが、好ましくは3時間以上、さらに好ましくは4~10時間である。
【0051】
また本発明には、上述した脂質合成抑制剤、飲食品、加工食品、或いは動物用飼料などの製品と、説明書を含む商業用パッケージとが包含される。この説明書には、式(I)で表されるレゾルシノールが含有されている旨、脂肪などの脂質の合成を抑制する旨、或いはFAS、ACC、EVOL6又はSREBF1の遺伝子発現を抑制する旨、或いは脂肪酸合成を抑制する旨、並びに用法及び用量の少なくとも一種が記載されているか、或いはこれらの少なくとも一種の表示が付されている。この商業用パッケージの形態は特に制限されず、例えば、前記製品を収容する包装容器に説明書が貼付されている形態、包装容器中に該製品と共に説明書が同封されている形態、包装容器自体に説明書の記載内容が印刷されている形態(包装容器が説明書である形態)等が挙げられる。
【実施例0052】
以下、実施例を挙げて、本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0053】
〔製造例1〕
以下の<抽出精製法1>を行って、イネ科植物の種子として小麦ふすまからレゾルシノール含有抽出物を得て、該抽出物を精製して、得られた精製物を脂質合成抑制剤とした。脂質合成抑制剤に有効成分として含まれる式(I)で表されるレゾルシノールは以下の組成からなるAR類の混合物であった。
・1,3-ジヒドロキシ-5-n-ペンタデシルベンゼン(C15:0):1.2質量%。
・1,3-ジヒドロキシ-5-n-ヘプタデシルベンゼン(C17:0):10.9質量%。
・1,3-ジヒドロキシ-5-n-ノナデシルベンゼン(C19:0):33.9質量%。
・1,3-ジヒドロキシ-5-n-ヘンイコシルベンゼン(C21:0):46.4質量%。
・1,3-ジヒドロキシ-5-n-トリコシルベンゼン(C23:0):7.5質量%。
・1,3-ジヒドロキシ-5-n-ペンタコシルベンゼン(C25:0):0.1質量%。
【0054】
<抽出精製法1>
小麦ふすまに質量で5倍量のエタノールを添加して、600rpm、室温の条件で、16時間撹拌抽出した。この抽出分散液を濾過して不要物を除きエタノール抽出液を回収した後、該抽出液からエタノールを留去し、小麦ふすまのエタノール抽出物を得た。次いで、このエタノール抽出物に1.5倍量(体積換算)のヘキサンを添加して分散させ、この分散液を中圧クロマトグラフィーによって精製した。中圧クロマトグラフィー条件は下記の通りである。溶出開始後31分~36分に出現するピーク成分を回収して、溶媒留去し、目的とするレゾルシノール混合物を得た。
【0055】
(中圧クロマトグラフィーの条件)
・カラム:シリカゲル(インジェクトカラム3L、ハイフラッシュカラム5L、60Å、40μm、山善株式会社製)
・移動相:グラジエントモードにて、ヘキサン/酢酸エチル混合溶媒(体積比)=90/10にて9分、80/20にて15分、60/40にて16分
・検出波長:280nm
【0056】
<レゾルシノールの定量法>
上述した<抽出精製法1>で得たレゾルシノール混合物を、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法で定量する方法である。詳細を以下に示す。
<抽出精製法1>で得たレゾルシノール混合物に対して200μg/mLの濃度となるようにメタノールを添加して、メタノール添加液を調製した。このメタノール添加液を、孔径0.45μmのフィルターを通過させ、その通過分を、下記条件で高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析に供した。
【0057】
(HPLCの条件)
・カラム:シリカゲル(ODS-80A、5μm、4.6×250mm、ジーエルサイエンス株式会社製)
・ガードカラム:ODS-80A、5μm、4.6×50mm、
・カラム温度:30℃
・移動相:メタノール100%
・検出波長:280nm
【0058】
〔実施例及び比較例〕
ヒト肝癌由来細胞株HepG2(1×10
5cells/mL)を10質量%FBS-DMEM培地にて12ウェルプレートに播種し、水蒸気飽和した5体積%CO
2雰囲気下で37℃にて24時間培養後、レゾルシノール無添加(比較例1)及び終濃度10μMの式(I)で表されるレゾルシノール(実施例1)を含むFBS-DMEM培地に交換した。水蒸気飽和した5体積%CO
2雰囲気下で37℃にて24時間培養後、比較例1及び実施例1における細胞内の脂質蓄積量を測定した。細胞内の脂質蓄積量はOil red O染色法で評価した。さらに、同様の処理を行った細胞からRNAを抽出し、遺伝子発現解析に供した。比較例1及び実施例1はともにn=3で実施し、脂質蓄積量の測定結果は平均値±標準誤差(Mean±S.E.、n=3)として
図1に示した。有意差検定にはStudent’sのt検定を用い、p<0.05を有意とした。
【0059】
<Oil red O染色法>
培地を除き、PBSで洗浄後、10質量%ホルムアルデヒド500μL/ウェルを添加し細胞を固定した。PBSで洗浄後、Oil red O染色液500μL/ウェルを添加し30分静置した。染色液を除き、PBSで洗浄後、イソプロパノール1mL/ウェルを添加し10分静置した。懸濁したイソプロパノール添加液を採取し、吸光度プレートにてOD510nmにおける吸光度を測定した。
【0060】
(遺伝子発現解析)
実施例1及び比較例1の遺伝子発現解析は、以下の手順で行った。
<RNA抽出>
回収した細胞を用い、TRI REAGENT(コスモバイオ社製)を使用して、RNAを抽出した。
【0061】
<逆転写反応>
抽出したRNAを用い、Prime Script RT reagent kit(Takara社製)を使用して、cDNAを合成した。cDNAの合成は以下の表1に示す条件にて、サーマルサイクラーを用いて行った。
【0062】
【0063】
【0064】
<遺伝子発現解析>
得られたcDNAを用い、CFX96TM Real-Time System(BIO RAD社製)を使用して、SYBR Green法により遺伝子発現解析を行った。試薬はSsoAdvance SYBR Green Supermix(BIO-RAD社製)を使用した。解析条件及び使用したプライマーの配列を以下の表3~表5に示した。標的遺伝子はSterol regulatory element-binding transcription factor 1(SREBF1c)、Acetyl-CoA carboxylase(ACC)、Fatty acid synthase(FAS)、Elongation of long chain fatty acids 6(ELOVL6)とした。また、ハウスキーピング遺伝子として、β-actin(ACBT)を使用した。
【0065】
解析は、段階希釈を行ったサンプルのSQ値をもとに検量線を作成し行った。ACBTと各標的遺伝子のSQ値に基づいて以下の式(1)からサンプルの遺伝子発現量をそれぞれ算出し、比較例1での発現量の平均値を1としたときの発現量の相対比を算出した。結果を平均値±標準誤差(Mean±S.E.、n=4)として
図2(a)及び(b)並びに
図3(a)及び(b)に示した。比較例1と実施例1との間においてStudent’sのt検定を行い、p<0.05を有意とした。
式(1):各サンプルの遺伝子発現量=([標的遺伝子のSQ値]/[ACBTのSQ値])
【0066】
【0067】
【0068】
【0069】
(結果)
図1に示すように、式(I)で表されるレゾルシノールを添加した実施例1は、無添加の比較例1に比べ脂質蓄積量が有意に低くなった。この結果から、式(I)で表されるレゾルシノールによって脂質の蓄積量が低下することが確認された。
実施例1における細胞内の脂質蓄積量の低下機構を詳細に検討するために、遺伝子発現量を評価したところ、
図2(a)及び(b)並びに
図3(a)及び(b)に示すように、製造例1の式(I)で表されるレゾルシノールを添加した実施例1は、無添加の比較例1に比べて、SREBF1(SREBF1c)、ACC、FAS、ELOVL6の各遺伝子発現量が有意に低くなった。上記の通り、これら4種の遺伝子は脂質の合成に関与することが報告されていることから、製造例1の式(I)で表されるレゾルシノールによる脂質蓄積量の低下は、脂質の合成に関与する遺伝子の発現低下によるものであることが確認された。
以上の通り、本発明の脂質合成抑制剤及びこれを含む飲食品、脂質合成抑制用加工食品、並びに脂肪酸合成に係る蛋白質の遺伝子発現抑制剤によれば、これらを摂取することによって、肝細胞等におけるトリグリセリド等の脂質の生合成を効果的に抑制できる。