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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023038751
(43)【公開日】2023-03-17
(54)【発明の名称】光学部品及び光学部品搭載装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 7/00 20210101AFI20230310BHJP
   C09J 5/00 20060101ALI20230310BHJP
   C09J 201/00 20060101ALI20230310BHJP
   C09K 3/10 20060101ALI20230310BHJP
【FI】
G02B7/00 F
C09J5/00
C09J201/00
C09K3/10 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021145631
(22)【出願日】2021-09-07
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100186853
【弁理士】
【氏名又は名称】宗像 孝志
(72)【発明者】
【氏名】川上 翔
(72)【発明者】
【氏名】杉本 泰規
(72)【発明者】
【氏名】鴨井 澄男
【テーマコード(参考)】
2H043
4H017
4J040
【Fターム(参考)】
2H043AE02
4H017AA04
4H017AB15
4H017AC01
4H017AC03
4H017AC04
4H017AE05
4J040FA081
4J040JA01
4J040JB08
4J040NA17
(57)【要約】
【課題】低硬化収縮なUV硬化型接着剤を用いた光学レンズと金属筐体の接着構造を有し、使用環境(高温、高温高湿、温度サイクル)での経時位置ずれを抑制することで、高位置精度を可能とする光学部品を提供する。
【解決手段】光学レンズと金属筐体を金属酸化物からなるフィラーを50質量%以上含むUV硬化型接着剤と少なくとも1種以上の接着剤が隣接して接着固定する接着構造からなる接着部を有する光学部品において、接着部は、中心部に下記第一要件かつ第二要件を満たすUV硬化型接着剤を配置し、被接着部を含まないUV硬化型接着剤の表面の50%以上を、下記第三要件を満たす付加重合型シリコーンゴム接着剤で被覆することを特徴とする。
第一要件:85℃85%環境での吸水率0.5%以下
第二要件:Tg105℃以上
第三要件:105℃環境での加熱減量0.3%以下
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学レンズと金属筐体を金属酸化物からなるフィラーを50質量%以上含むUV硬化型接着剤と少なくとも1種以上の接着剤が隣接して接着固定する接着構造からなる接着部を有する光学部品であって、
前記接着部は、
中心部に下記第一要件かつ第二要件を満たすUV硬化型接着剤を配置し、
被接着部を含まない前記UV硬化型接着剤の表面の50%以上を、下記第三要件を満たす付加重合型シリコーンゴム接着剤で被覆することを特徴とする光学部品。
第一要件:85℃85%環境での吸水率0.5%以下
第二要件:Tg105℃以上
第三要件:105℃環境での加熱減量0.3%以下
【請求項2】
光学部品を搭載する光学部品搭載装置であって、
保管温度範囲が以下の第一条件、第二条件及び第三条件を満たす環境であり、
前記光学部品が請求項1に係る光学部品であることを特徴とする光学部品搭載装置。
第一条件:105℃以下
第二条件:光学部品搭載装置の保管温度範囲が-40℃~+105℃であり、当該保管温度範囲での温度サイクル環境に保管される。
第三条件:光学部品搭載装置の保管環境における温度が85℃以上、湿度が85%以上である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学部品及び光学部品搭載装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘッドアップディスプレイ等の光学部品搭載装置に適用可能な光学部品が知られている。光学部品(レンズ等)の位置を固定するには、低硬化収縮であり硬化時間も短く、生産性が良好なUV硬化型接着剤が用いられることが多く、特にアクリル系ラジカル重合接着剤、エポキシ系カチオン重合接着剤が使われていることが多い。
【0003】
光学部品の設置は、例えば、-40℃~+60℃などの保管温度範囲において数μm単位の微少変位も許容できない位置決め精度を要求されることがある。しかし、光学部品を保持部材に固定する接着剤は、空気中の水分や微細な塵埃の影響や、あるいは自体の経時劣化などによって、接着強度の低下や接着剤の内部応力に変化が生じてしまう。このため固定状態にも変化が生じ、固定された光学部品に微少な位置ずれを生じさせることがある。
【0004】
上記のような従来の課題を解決する技術としてUV硬化型接着剤の外部に対して露出している部分を被覆材(シリコン樹脂、エポキシ樹脂等)で被覆して、水分や微細な塵埃がUV硬化型接着剤に接触することを防ぐ技術が知られている(特許文献1を参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示の技術によれば、例えば、光学部品の保管温度範囲(-40℃~+60℃)において、UV硬化型接着剤の反応による経時位置ずれを防止することができる。しかし、車載機器に採用される光学部品に対して、特許文献1の技術を用いるには課題がある。
【0006】
例えば、アクリル系ラジカル重合接着剤やエポキシ系カチオン重合接着剤などのUV硬化型接着剤を用いた部品を車載機器に適用するケースを想定する。この場合、車載機器の保管温度範囲(-40℃~+105℃)での温度サイクル環境や高温高湿(85℃85%)環境での経時位置ずれを抑制できる。
【0007】
一般に、長期の105℃(保管温度範囲の最高温度)高温下では、酸素が活性化されて酸素ラジカルとなり、高分子材料を攻撃することがある。そしてUV硬化型接着剤は、活性化された酸素ラジカルに攻撃されやすい。したがって、長期の高温下ではUV硬化型接着剤の開始剤や添加剤の揮発や酸化分解によって加熱減量が発生する。そのため長期の105℃環境下では加熱減量でUV硬化型接着剤が収縮して、経時位置ずれが発生する。
【0008】
すなわち、長期の105℃環境下では、接着剤の物性(Tg、加熱減量)を制限する必要があるが、特許文献1を含む従来技術では、接着剤の物性に関して考慮されていない。したがって、従来技術を長期の105℃環境下に光学部品を適用するとき、経時位置ずれを確実に防止するには課題がある。
【0009】
また、光学部品搭載装置が車載機器であると仮定すると、車載機器が用いられる環境では高温高湿(85℃85%)になるので、光学部品には当該環境における耐久性が求められる。すなわち、特許文献1に開示されている技術が前提とする一般的な高湿高温下(45℃90%)よりも過酷な環境下での耐久性が求められる。
【0010】
加えて、特許文献1に例示されているような光ピックアップ部品よりも車載機器の方が長期の耐久性を求められる。この点、特許文献1に開示の技術において被覆材における防湿機能への考慮がないことから、水分が被覆材を浸透する。そのため、特許文献1に開示の技術では、UV硬化型接着剤への水分浸透を遅延させることができるが、車載機器の耐用年数には不十分である。したがって、特許文献1に開示の技術を車載機器に採用される光学部品に適用すると、UV硬化型接着剤に水分が浸透し、吸水膨潤で位置ずれが発生することがある。すなわち、特許文献1を含む従来技術において、長期の高温高湿下での接着剤の吸水率を制限する必要がある点で課題がある。
【0011】
以上のように、従来技術では、UV硬化型接着剤の物性に対する考慮が不明であるから、車載機器に採用される光学部品のように、長期に高温高湿下での運用においても、経時位置ずれを確実に防止することが求められる部品に用いるには課題がある。
【0012】
本発明は、低硬化収縮なUV硬化型接着剤を用いた光学レンズと金属筐体の接着構造を有し、使用環境(高温、高温高湿、温度サイクル)での経時位置ずれを抑制することで、高位置精度を可能とする光学部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記技術的課題を解決するため、本発明の一態様は、光学レンズと金属筐体を金属酸化物からなるフィラーを50質量%以上含むUV硬化型接着剤と少なくとも1種以上の接着剤が隣接して接着固定する接着構造からなる接着部を有する光学部品であって、前記接着部は、中心部に下記第一要件かつ第二要件を満たすUV硬化型接着剤を配置し、被接着部を含まない前記UV硬化型接着剤の表面の50%以上を、下記第三要件を満たす付加重合型シリコーンゴム接着剤で被覆することを特徴とする。
第一要件:85℃85%環境での吸水率0.5%以下
第二要件:Tg105℃以上
第三要件:105℃環境での加熱減量0.3%以下
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、低硬化収縮なUV硬化型接着剤を用いた光学レンズと金属筐体の接着構造を有し、使用環境(高温、高温高湿、温度サイクル)での経時位置ずれを抑制することで高位置精度を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係る光学部品の実施形態の構造例を示す図。
図2】上記光学部品に用いるUV硬化型接着剤の性状を説明するグラフ。
図3】上記光学部品に用いるUV硬化型接着剤の性状を説明するグラフ。
図4】上記光学部品に用いる接付加重合型シリコーンゴム接着剤の性状を説明するグラフ。
図5】上記光学部品に用いる接付加重合型シリコーンゴム接着剤の性状を説明するグラフ。
図6】上記光学部品の第一実施例を説明する図。
図7】上記第一実施例に係る光学部品における接着プロセスを説明する図。
図8】上記光学部品の第一実施例における膜圧方向を例示する図。
図9】上記実施形態に係る光学部品における複数の実施例及び比較例を用いて行われた各試験による位置ずれ評価結果を表記する表図。
図10】上記実施形態を備える光学部品搭載装置の実施形態を示す平面図。
図11】上記光学部品搭載装置の構成図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[接着構造]
図1は、本発明に係る光学部品の実施形態として光学レンズ構造物10の構造例を示す正面図(a)、及び側面図(b)である。図1に示すように、本実施形態に係る光学レンズ構造物10は、光学部品の一種である光学レンズ1と、光学部品を固定する被固定部材としての金属筐体2と、UV硬化型接着剤3と、付加重合型シリコーンゴム接着剤4と、を有する。
【0017】
金属筐体2は、光学レンズ1を所定の位置及び状態で固定して保持するための保持部材である。UV硬化型接着剤3は、光学レンズ1を金属筐体2に固定するための接着部材である。付加重合型シリコーンゴム接着剤4は、UV硬化型接着剤3の接着対象物(光学レンズ1と金属筐体2)との接着部分を含まないUV硬化型接着剤3の表面を被覆する被覆材である。
【0018】
[光学部品搭載装置]
ここで、本実施形態に係る光学レンズ構造物10を搭載して動作する光学部品搭載装置の一例として、車載装置としてのヘッドアップディスプレイ装置100の構成例を図10及び図11を用いて説明する。図10は、ヘッドアップディスプレイ装置100の平面図である。図11は、光学レンズ構造物10を備える表示装置101の構成の一例を示す図である。
【0019】
図10に示すように、ヘッドアップディスプレイ装置100は、光学レンズ構造物10の活用例としての表示装置101と、自由曲面ミラー103と、を備える。また、表示装置101は、光源装置11、光偏向装置13、スクリーン15を備える。
【0020】
光源装置11は、光源から射出されたレーザ光を、装置外部へ照射するデバイスである。光源装置11は、例えば、R、G、Bの3色のレーザ光を合成したレーザ光を照射してもよい。
【0021】
光偏向装置13は、光源装置11から照射される照射光を入射して、画像を形成する画像光を出射する画像形成部の一例であり、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)等を利用してレーザ光の進行方向を変化させるデバイスである。
【0022】
スクリーン15は、光偏向装置13から出射される画像光を結像して画像が形成される部材の一例であり、レーザ光を所定の発散角で発散させる機能を有する発散部材である。スクリーン15は、例えば、EPE(Exit Pupil Expander)の形態として、マイクロレンズアレイ(MLA:Micro Lens Array)または拡散板等の光拡散効果を持つ透過型の光学素子によって構成される。
【0023】
ここで、表示装置101の投射方式は、液晶パネル、DMDパネル(デジタルミラーデバイスパネル)または蛍光表示管(VFD)等イメージングデバイスで中間像を形成する「パネル方式」と、光源装置11から射出されたレーザ光を走査手段で走査して中間像を形成する「レーザ走査方式」がある。
【0024】
図11は、表示装置101の構成の一例を示す図である。表示装置101は、図10を用いて説明した光源装置11、光偏向装置13、スクリーン15以外に、光源装置11から出射されるレーザ光を光変調するフィルタ307と、フィルタ307で光変調された変調光を光偏向装置13に向けて集光する集光レンズ410と、光偏向装置13で偏向された偏向光を反射するミラー401と、ミラー401で反射された反射光をスクリーン15に向けて反射する第二ミラー402をさらに備える。
【0025】
光源装置11は、光源素子111R、111G、111B(以下、区別する必要のないときは、光源素子111とする。)、コリメータレンズ112R、112G、112B、アパーチャ113R、113G、113B、合成素子114、115、116、及びレンズ117を含む。
【0026】
3色(R、G、B)のレーザ光を射出する光源素子111R、111G、111Bは、例えば、それぞれ単数または複数の発光点を有するLD(Laser Diode)である。光源素子111R、111G、111Bは、互いに異なる波長λR、λG、λB(例えばλR=640nm、λG=530nm、λB=445nm)のレーザ光(光束)を放射する。
【0027】
放射された各レーザ光(光束)は、それぞれコリメータレンズ112R、112G、112Bによりカップリングされ、略平行光束とされる。カップリングされた各レーザ(光束)は、3つの合成素子114、115、116により合成される。合成素子114、115、116は、プレート状またはプリズム状のダイクロイックミラーであり、波長に応じてレーザ光(光束)を反射または透過し、1つの光束に合成する。合成された光束は、フィルタ307及び集光レンズ410を通り、光偏向装置13に導かれる。
【0028】
表示装置101は、ハウジング10Aと、ミラーユニット(ミラー保持部材)305と、スクリーンユニット300と、を組み立てることにより構成される。ハウジング10Aは、光源素子111R、111G、及び111B、コリメータレンズ112R、112G、112B、合成素子114、115、116、フィルタ307、集光レンズ410、及び光偏向装置13を保持し、収納する。ミラーユニット305は、ミラー401及び第二ミラー402を保持する。スクリーンユニット300は、スクリーン15を保持する保持部材の一例である。
【0029】
光源ユニット110は、ハウジング10Aから着脱可能であり、光源素子111R、111G、及び111Bを保持する。
【0030】
[車載環境に求められる位置精度について]
上記にて説明をしたヘッドアップディスプレイ装置100を車両に搭載するケースを想定する。ヘッドアップディスプレイ装置100の光学特性を確保するには、他の光学部品との位置を調整(アライメント)した後に、車両筐体等の被着体に固定する必要がある。そのため光学レンズ構造物10に含まれる光学レンズ1のアライメントを行った後に、即硬化が可能なUV硬化型接着剤3を使う場合が多い。したがって、UV硬化型接着剤3には低硬化収縮や以下の保管環境下での高位置精度が求められている。
【0031】
第一条件:高温下(105℃)
第二条件:所定温度範囲の温度サイクル(-40℃~+105℃)
第三条件:高温高湿下(85℃85%)
【0032】
また、光学部品としての光学レンズ1を固定する被着体としての金属筐体2に接着する構造(以下、「光学部品接着」と表記することもある。)では、光学部品としての光学レンズ1のアライメントにおいて、接着層厚が100μm~400μm程度変動する。接着層厚が変動しても各環境下での高位置精度を実現するために、各環境下の経時位置ずれを接着層厚の±1%以下に抑制する必要がある。例えば、200μmの場合、経時位置ずれを±200μm以下に抑制する必要がある。
【0033】
[接着剤について]
次に、本実施形態に係るUV硬化型接着剤3の性状について説明する。UV硬化型接着剤3としては、例えばシリカなど金属酸化物からなるフィラーを50質量%以上含む、エポキシ系、アクリル系等のUV硬化型の接着剤を適用可能である。一般的には、接着剤にシリカフィラーを充填することで、UV照射時の低硬化収縮が可能となる。
【0034】
加えて、UV硬化型接着剤3は、以下の第一要件かつ第二要件を満たすように構成されている。詳細について説明する。
【0035】
第一要件:85℃85%環境での吸水率0.5%以下
第二要件:Tg 105℃以上
【0036】
[85℃85%環境での吸水率0.5%以下について]
本実施形態に係るUV硬化型接着剤3に求められる第一要件に含まれる吸水率の測定は、以下の方法による。すなわち、作製したUV硬化型接着剤3の単体硬化物を用いて、試験前の重量と、85℃85%1000時間放置後の重量と、を測定する。測定した重量を用いる以下の式(1)により、吸水率を算出する。
【0037】
(式1)
吸水率[%]=100×(85℃85%1000時間後重量-試験前重量)/試験前重量
【0038】
ここで、図2のグラフを用いて、吸水率と経時位置ずれの関係を説明する。図2のグラフは、横軸をUV硬化型接着剤3の85℃85%環境での吸水率とし、縦軸をUV硬化型接着剤3の85℃85%環境での経時位置ずれとしている。そして、経時位置ずれが接着層厚の±1%以下の場合は「〇」でプロットし、接着層厚の±1%以上の場合は「×」でプロットしている。
【0039】
85℃85%環境下では、UV硬化型接着剤3が吸水膨潤する。したがって、85℃85%環境でUV硬化型接着剤3の吸水率が大きいほど、吸水膨潤の影響によって経時位置ずれが増加する。UV硬化型接着剤3の85℃85%環境下での吸水率が0.5%以下であれば、85℃85%環境下における経時位置ずれ±1%以下を確保することができる。
【0040】
[Tg 105℃以上について]
次に、本実施形態に係るUV硬化型接着剤3に求められる第二要件に含まれるTgの測定方法について説明する。本実施形態では、作製したUV硬化型接着剤3の接着剤単体硬化物を用いて、TMAでのガラス転移温度測定を実施する。そして、その測定結果に基づいて、ガラス転移温度由来の変曲点温度をTgと判定する。
【0041】
ここで、図3のグラフを用いて、所定温度範囲の温度サイクルにおける経時位置ずれと、Tgとの関係を説明する。図3のグラフは、横軸をTgとし、縦軸を温度サイクル(-40℃~+105℃)の経時位置ずれとしている。そして、経時位置ずれが接着層厚の±1%以下の場合は「〇」によってプロットし、接着層厚の±1%以上の場合は「×」によってプロットしている。
【0042】
Tgが保管温度範囲の最大温度105℃未満の場合、Tg以上の温度環境でUV硬化型接着剤3は急激に軟質化する。そのため、Tg以上の温度環境では、光学レンズ1等の自重による内部応力にUV硬化型接着剤3が耐えきれない状況になる(負ける)ことで、UV硬化型接着剤3の接着層が圧縮変形し、位置ずれが発生する。
【0043】
一方、UV硬化型接着剤3のTgが105℃以上の場合、保管温度範囲でTgを超えないため、UV硬化型接着剤3の急激な軟質化を防止でき、内部応力にUV硬化型接着剤3が負けないため、経時位置ずれ±1%以下を確保することができる。これらのことから、各環境(高温下、高温高湿下、温度サイクル下)での高位置精度を実現するには、UV硬化型接着剤3のTgを各環境の最大温度105℃以上に規定する必要がある。
【0044】
[UV硬化型接着剤3の長期105℃環境での経時位置ずれについて]
上記の第一要件、かつ、第二要件を満たすように構成されたUV硬化型接着剤3では、85℃85%環境、温度サイクル(-40℃~+105℃)環境の経時位置ずれを抑制することができる。温度サイクル(-40℃~+105℃)環境と比較して、UV硬化型接着剤3が晒される環境が105℃環境であり、かつ、長期の場合、酸素が活性化されて酸素ラジカルとなり、高分子材料を攻撃することがある。
【0045】
UV硬化型接着剤3は、活性化された酸素ラジカルに攻撃されやすいため、長期の105℃環境ではUV硬化型接着剤3の開始剤や添加剤の揮発や酸化分解によって加熱減量が発生する。そのため、長期の105℃環境では加熱減量でUV硬化型接着剤3が収縮し、経時位置ずれが発生する。
【0046】
そこで、本実施形態に係る光学レンズ構造物10では、接着対象物としての光学レンズ1と金属筐体2の接着部分(接着部)を含まないUV硬化型接着剤3の表面を、第三要件で構成される付加重合型シリコーンゴム接着剤4で被覆する。これによって、長期の105℃環境でのUV硬化型接着剤3の加熱減量を防止し、長期の105℃環境の経時位置ずれを抑制することができる。以下、付加重合型シリコーンゴム接着剤4の詳細について説明する。
【0047】
[付加重合型シリコーンゴム接着剤4について]
一般に、シリコーンゴム接着剤は、縮合重合型と付加重合型が知られている。縮合重合型シリコーンゴムは、反応中にアセトンやアルコール、オキシム等少量のアウトガスが発生するので、そのアウトガスが光学レンズ1に付着すると、光学特性を阻害する懸念がある。そのため、本実施形態では付加重合型のシリコーンゴム接着剤に限定している。付加重合型シリコーンゴム接着剤4には、熱硬化、常温硬化の付加重合型のシリコーンゴム接着剤を適用可能である。
【0048】
シリコーンゴムは105℃環境下で活性化された酸素ラジカルに攻撃されにくいため、接着対象物(光学レンズ1と金属筐体2)との接着部分を含まないUV硬化型接着剤3の表面を付加重合型シリコーンゴム接着剤4で被覆することで、105℃環境では以下の様に作用する。すなわち、活性化された酸素ラジカルが付加重合型シリコーンゴム接着剤4に吸着あるいは消費されるので、UV硬化型接着剤3には酸素ラジカルが到達しないようになる。
【0049】
そのため、長期の105℃環境下でもUV硬化型接着剤3に酸素が直接触れないため、UV硬化型接着剤3の開始剤や添加剤の揮発や酸化分解を防止でき、UV硬化型接着剤3の加熱減量による収縮を防止できる。
【0050】
一般的に、シリコーンゴム接着剤は耐湿性が高いため、付加重合型シリコーンゴム接着剤4は、UV硬化型接着剤3と同様の85℃85%環境の吸水率を規定していない。また、一般的にシリコーンゴム接着剤は、Tgが-40℃以下であり、保管環境下(-40℃~+105℃)では、常にシリコーンゴム接着剤のTg以上である。保管環境温度がTgを跨ぐ場合、Tgを超えると接着剤の急激な軟質化が発生する。保管環境下(-40℃~+105℃)が常にTg以上の場合、温度がTgを跨がず、接着剤の急激な軟質化は発生しないため、付加重合型シリコーンゴム接着剤4はUV硬化型接着剤3と同様のTgを規定していない。
【0051】
上記の性状を有する付加重合型シリコーンゴム接着剤4は、以下の第三要件で構成されている。以下、詳細に説明する。
【0052】
第三要件=105℃環境での加熱減量0.3%以下
【0053】
[105℃環境での加熱減量0.3%以下について]
付加重合型シリコーンゴム接着剤4の105℃環境の加熱減量の測定は、以下の方法による。すなわち、作製した付加重合型シリコーンゴム接着剤4の単体硬化物の試験前の重量と105℃1000時間放置後の重量と、を測定する。測定した重量を用いて以下の式(2)により、105℃環境での加熱減量を算出する。
【0054】
式(2)
加熱減量[%]=100×(試験前重量-105℃1000時間後重量)/試験前重量
【0055】
ここで、図4のグラフを用いて、付加重合型シリコーンゴム接着剤4の性状について説明する。図4のグラフは、横軸が105℃環境での加熱減量を示している。そして、縦軸が、接着対象物(光学レンズ1と金属筐体2)との接着部分を含まないUV硬化型接着剤3の表面を付加重合型シリコーンゴム接着剤4で完全被覆した接着構造の105℃環境の経時位置ずれを示している。
【0056】
経時位置ずれが接着層厚の±1%以下の場合は「〇」によってプロットし、接着層厚の±1%以上の場合は「×」によってプロットしている。
【0057】
長期の105℃環境では接着剤の開始剤や添加剤の揮発や酸化分解によって加熱減量が発生する。そのため、付加重合型シリコーンゴム接着剤4の加熱減量が大きいほど、接着剤の収縮が大きく、接着層圧縮方向への経時位置ずれが増加する。そこで、図4に示すように、付加重合型シリコーンゴム接着剤4は、105℃環境での加熱減量が0.3%以下であれば、105℃環境の経時位置ずれ±1%以下を確保することができる。
【0058】
接着対象物(光学レンズ1と金属筐体2)との接着部分を含まないUV硬化型接着剤3の表面の50%以上を前記付加重合型シリコーンゴム接着剤4で被覆すれば、105℃環境での高位置精度が可能である。以下、被覆率の詳細について説明する。
【0059】
[付加重合型シリコーンゴム接着剤4の被覆率について]
本実施形態に係る付加重合型シリコーンゴム接着剤4における被覆率は、以下の方法で測定することができる。すなわち、マイクロスコープを用いて、以下の表面積Aと表面積Bを測定し、以下の式(3)を用いて被覆率を算出する。
【0060】
表面積A:下記記載の接着プロセスの第六工程における光学部品・金属筐体固定解除後の接着対象物(光学レンズ1と金属筐体2)との接着部分を含まないUV硬化型接着剤3の表面積。
【0061】
表面積B:下記記載の接着プロセスの第八工程におけるシリコーンゴム接着剤熱硬化の接着対象物(光学レンズ1と金属筐体2)との接着部分を含まない付加重合型シリコーンゴム接着剤4の表面からUV硬化型接着剤3が露出している部分の表面積。
【0062】
式(3)
被覆率[%]=100×(表面積A―表面積B)/表面積A
【0063】
ここで、図5のグラフを用いて、上記の第三要件を満たした付加重合型シリコーンゴム接着剤4の被覆率と105℃環境の経時位置ずれの関係を示す。図5のグラフは、横軸が、付加重合型シリコーンゴム接着剤4の被覆率を示し、縦軸が105℃環境の経時位置ずれを示している。そして、経時位置ずれが接着層厚の±1%以下の場合は「〇」によってプロットし、接着層厚の±1%以上の場合は「×」によってプロットしている。
【0064】
付加重合型シリコーンゴム接着剤4の被覆率50%未満の場合、105℃環境下で活性化された酸素ラジカルが付加重合型シリコーンゴム接着剤4に吸着あるいは消費しきれない。そのため、図5に示すように、付加重合型シリコーンゴム接着剤4の被覆率50%未満では、UV硬化型接着剤3に酸素が接触することで、UV硬化型接着剤3の開始剤や添加剤の揮発や酸化分解によって加熱減量が発生する。その結果、UV硬化型接着剤3の収縮で、接着層の圧縮方向への経時位置ずれが発生する。
【0065】
また、付加重合型シリコーンゴム接着剤4の被覆率50%以上であれば、105℃環境で活性化された酸素ラジカルが付加重合型シリコーンゴム接着剤4に吸着あるいは消費でき、UV硬化型接着剤3の加熱減量を抑制できる。そのため、105℃環境の経時位置ずれ±1%以下を確保することができる。
【0066】
[接着プロセスについて]
次に、本実施形態に係るにおいて接着対象物(光学レンズ1と金属筐体2)を接着する工程(接着プロセス)について説明する。本実施形態に係る接着プロセスは、以下の第一工程から第八工程を有する。以下、各工程について説明する。
【0067】
[第一工程:表面処理]
第一工程は表面処理工程である。表面処理は被着体(光学レンズ1と金属筐体2)の濡れ性を向上させ、接着剤と被着体の結合力を向上させるために行う処理である。表面処理の方法としては大気圧プラズマ処理、減圧プラズマ処理、コロナ処理、プラズマ処理、UV処理等が挙げられる。
【0068】
[第二工程:光学部品・金属筐体固定]
第二工程は、「光学部品・金属筐体固定」工程である。表面処理した光学レンズ1と金属筐体2を所定の位置に固定する工程である。固定は光学部品接着装置の光学部品・金属筐体固定機能を用いて行う。光学レンズ1の固定方法としては、チャック、クランプ等が挙げられ、金属筐体2の固定方法としてはネジ締結、トグルクランプ等挙げられる。
【0069】
[第三工程:UV接着剤塗布]
第三工程は、UV接着剤塗布工程である。UV硬化型接着剤3の塗布は、光学部品接着装置の塗布機能を用いて行う。塗布の方法としては、ディスペンサ等が挙げられる。
【0070】
[第四工程:光学部品アライメント]
第四工程は、光学部品アライメント工程である
固定している光学レンズ1を所定位置にアライメントする。光学部品アライメントは、光学部品接着装置の位置調整機能を用いて行う。位置調整の方法としては、アクティブアライメント装置、精密卓上型三軸ロボット、XYZ軸リニアボール等が挙げられる。
【0071】
[第五工程:接着剤UV硬化]
第五工程は、接着剤UV硬化工程である。当該工程では、塗布したUV硬化型接着剤3に光学レンズ1の上部からUVを照射して硬化させる。接着剤のUV硬化は、光学部品接着装置のUV照射機能を用いて行う。UV照射の方法としては、紫外線ランプ、可視光ランプ、赤外ランプ等が挙げられる。紫外線ランプとしては、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、ハイパワーメタルハライドランプ、ガリウムランプ、キセノンランプ、キセノンフラッシュランプ、エキシマランプ、UV-LED、無電極ランプ等が挙げられる。UV照射は、接着剤を硬化できれば、1つでも2つ以上用いてもよい。
【0072】
[第六工程:光学部品・金属筐体固定解除]
第六工程は、光学部品・金属筐体固定解除工程である。当該工程では、UV硬化型接着剤3のUV硬化後、光学レンズ1と金属筐体2の固定を解除し、光学部品接着装置から取り外す。光学レンズ1と金属筐体2の固定解除は光学部品接着装置の光学部品・金属筐体固定機能を用いて行う。光学レンズ1の固定方法としては、チャック、クランプ等が挙げられ、金属筐体2の固定方法としてはネジ締結、トグルクランプ等挙げられる。
【0073】
[第七工程:シリコーンゴム接着剤塗布]
第七工程は、シリコーンゴム接着剤塗布工程である。付加重合型シリコーンゴム接着剤4の塗布は光学部品接着装置の塗布機能を用いて行う。塗布の方法としては、ディスペンサ等が挙げられる。
【0074】
[第八工程:シリコーンゴム接着剤熱硬化]
第八工程は、シリコーンゴム接着剤熱硬化工程である。当該工程では、付加重合型シリコーンゴム接着剤4の塗布後、加熱装置で熱硬化する。加熱装置としては、オーブン、ヒータープレート、近赤外ハロゲンランプ及び、遠赤外ヒーター等が挙げられる。
【0075】
[実施例1]
次に、上記の実施形態において説明した第一実施例として、光学レンズ1に「Al筐体へコリメータレンズ」を採用し、金属筐体2との接着層厚を「200μm」として、被着体を固定する例について説明する。
【0076】
(接着剤)
また、第一実施例として、UV硬化型の接着剤にはアクリル系のUV硬化型接着剤3を使用し、付加重合型シリコーンゴム接着剤4には、熱硬化の付加重合型シリコーンゴム接着剤4を使用した。UV硬化型接着剤3の85℃85%環境での吸水率とTg、熱硬化型の付加重合型シリコーンゴム接着剤4の105℃環境での加熱減量評価は下記の方法により測定した。
【0077】
(85℃85%環境での吸水率測定)
UV硬化型接着剤3の吸水率の測定は、電子天秤(GR-202(エー・アンド・デイ))を用い、作製したUV硬化型接着剤3の単体硬化物の試験前重量と、85℃85%1000時間放置後の重量とを測定し、以下の式(4)を用いて85℃85%環境での吸水率を算出した。
【0078】
式(4)
吸水率[%]=100×(85℃85%1000時間後重量-試験前重量)/試験前重量
【0079】
上記の条件下における測定結果により、85℃85%環境での吸水率は0.3%であった。
【0080】
(Tg測定)
UV硬化型接着剤3におけるTgの測定は、TMA4000SA型(ネッチ・ジャパン社製)を用いた。ガラス転移温度測定で作製したUV硬化型接着剤3の単体硬化物を、幅4mm、長さ20mm、荷重10gf、昇温速度10℃/min、空気雰囲気条件で測定し、ガラス転移温度由来の変曲点の温度をTgと判定した。測定結果よりTg=123℃であった。
【0081】
(105℃環境での加熱減量測定)
付加重合型シリコーンゴム接着剤4の105℃環境の加熱減量の測定は、電子天秤 GR-202(エー・アンド・デイ)を用いた。そして、作製した付加重合型シリコーンゴム接着剤4の単体硬化物の試験前の重量と、105℃1000時間放置後の重量を測定し、以下の式(5)を用いて、105℃環境での加熱減量求めた。
【0082】
式(5)
加熱減量[%]=100×(試験前重量-105℃1000時間後重量)/試験前重量
【0083】
上記の条件下における測定結果より、105℃環境での加熱減量は0.2%であった。
【0084】
(光学レンズ1)
光学レンズ1には、コリメータレンズを用いた。当該コリメータレンズの材質はL-BSL7であり、寸法はΦ5.1、厚さ2.35mmである。
【0085】
(金属筐体2)
金属筐体2には、Al筐体を用いた。Al筐体の材質は、ADC12である。そして、Al筐体の全体寸法は、13.5mm×51.8mm×t2.5mmである。
【0086】
第一実施例に係る光学レンズ構造物10は、図6に示すように、光学レンズ1として、光学面が円形であるコリメータレンズを用いている。そして、金属筐体2として、Al筐体を用いている。そして、図6に示す様に、Al筐体の表面(平面)の一箇所にコリメータレンズ側面を接着層厚200μmで固定させる。接着層厚200μmとは、Al筐体の表面からコリメータレンズ最下点Lpの距離が200μmであることを意味している。
【0087】
(接着装置)
第一実施例における接着プロセスについて、図7を用いて示す。この接着プロセスを実行可能とする光学部品接着装置200は、光学レンズ1を保持する保持具210と、接着剤塗布具220と、紫外線照射具230を備えている。光学部品接着装置200は光学部品・金属筐体固定機能、接着剤塗布機能、位置調整機能、UV照射機能を有する。
【0088】
保持具210は、例えば、片面に溝が形成されている第一チャック具211と、片面が平面に第二チャック具212とを一対で動作させる。また、光学部品接着装置200は、金属筐体2をネジ締結により固定する固定治具も有する。光学部品・金属筐体固定機能は、保持具210と固定治具により実現される
【0089】
接着剤塗布具220は、いわゆるディスペンサであって、第一実施例として武蔵エンジニアリング社製の「MS-1D」を利用する。接着剤塗布機能は、当該ディスペンサによって実現される。
【0090】
位置調整機能は、金属筐体2を光学レンズ1の相対的な位置関係を微調整し、光学部品のアライメントを実現するための、XYZ軸リニアボールマイクロメータヘッド(XYZGS80、ミスミ社製)を利用することで実現される。
【0091】
紫外線照射具230は、いわゆる紫外線照射用の高原を有し、第一実施例としてパナソニック社製の、UV-LED硬化装置(ANUJ3500(コントローラ))、ANUJ6186(スマートヘッド)、ANUJ6428(φ8スポットレンズ)を利用する。UV照射機能は、紫外線照射具230により実現される。
【0092】
(第一実施例に係る接着プロセス)
次に、本実施形態に係るにおいて接着対象物(光学レンズ1と金属筐体2)を接着する工程(接着プロセス)の第一実施例を説明する。なお、図2は、第二工程から第七工程までのプロセスイメージを示している。
【0093】
[第一工程:表面処理]
大気圧プラズマ処理装置(ピエゾブラッシュPZ2:アルス社製)を用いて、金属筐体2の表面処理を行う。表面処理時間はコリメータレンズ(光学レンズ1)、Al筐体(金属筐体2)の表面自由エネルギーが上昇し、変化が飽和する時間に設定した。それぞれ接着部に対して、コリメータレンズは標準ノズルを用いて10mmの距離(メーカー推奨距離)から、Al筐体はニアフィールドノズル(導電体用)を使用し、2mmの距離(メーカー推奨距離)から表面処理を行う。
【0094】
[第二工程:光学部品・金属筐体固定]
図7(a)に示すように、コリメータレンズ(光学レンズ1)を第一チャック具211と第二チャック具212に把持して固定し、Al筐体(金属筐体2)を、光学部品接着装置200が備えるネジで固定する。なお、図7においてネジの図示は省略している。
【0095】
[第三工程:UV接着剤塗布]
次に、図7(b)に示すように、Al筐体(金属筐体2)の表面にUV硬化型接着剤3を、塗布する。塗布は、接着剤塗布具220としてのディスペンサ(MS-1D、武蔵エンジニアリング社製)にて塗布する。ここでの塗布量は、接着層厚200μmでコリメータレンズの光学有効範囲に付着せず、接着可能な3mgで塗布した。
【0096】
[第四工程:光学部品アライメント]
続いて、図7(c)に示すように、光学部品接着装置200が備えるXYZ軸リニアボールマイクロメータヘッド(XYZGS80、ミスミ社製)によって、固定したコリメータレンズをAl筐体から200μm上部に離して載置するように調整する。本来は、光学特性が確保できる様にコリメータレンズの位置を調整する必要があるが、第一実施例では位置ずれ評価のため、膜厚は200μmに限定した。
【0097】
[第五工程:接着剤UV硬化]
続いて、図7(d)に示すように、塗布済みのUV硬化型接着剤3を光学部品接着装置200が備えるUV-LED硬化装置(ANUJ3500(コントローラ)、ANUJ6186(スマートヘッド)、ANUJ6428(φ8スポットレンズ)すべてパナソニック社製)により硬化させる。紫外線として365nmの波長の光をコリメータレンズの上部から2方向照射した。
【0098】
[第六工程:光学部品・金属筐体固定解除]
続いて、図7(e)に示すように、UV照射完了後に第一チャック具211と第二チャック具212を開放し、Al筐体(金属筐体2)のネジ締結を解除する。これによって、光学部品接着装置200から光学レンズ構造物10を取り出して、コリメータレンズ(光学レンズ1)をAl筐体(金属筐体2)にUV硬化させる作業が終了する。
【0099】
[第七工程:シリコーンゴム接着剤塗布]
続いて、図7(f)に示すように、Al筐体(金属筐体2)に付加重合型シリコーンゴム接着剤4をディスペンサ(MS-1D、武蔵エンジニアリング社製)にて塗布した。図7(f)にて図示のように、UV硬化型接着剤3の両端に塗布量3mgずつ塗布した。
【0100】
[第八工程:シリコーンゴム接着剤熱硬化]
最後に、105℃のオーブン(DX302、ヤマト科学社製)の中で、光学レンズ構造物10への加熱処理を1時間実施した。
【0101】
[第二実施例]
次に、上記にて説明した実施形態の第二実施例を説明する。第二実施例は、すでに説明をした第一実施例とは、第七工程(シリコーンゴム接着剤塗布)のみが異なる。
【0102】
第二実施例の第七工程では、UV硬化型接着剤3の両端に付加重合型シリコーンゴム接着剤4を塗布量2.0mgずつ塗布した。その他の工程は、第一実施例にて説明した内容を同様の工程を実施して、Al筐体へコリメータレンズを固定した。
【0103】
以下、第一実施例及び第二実施例の有効性を説明するための比較例について先に説明をし、各比較例と第一実施例及び第二実施例との対比を行う。
【0104】
[第一比較例]
第一比較例では、85℃85%環境での吸水率が1.5%、85℃85%環境でのTgが90℃のUV硬化型接着剤3を使用した。これ以外の使用材料は、第一実施例1と同様にして、第一実施例で説明した工程によって、Al筐体へコリメータレンズを固定した。
【0105】
[第二比較例]
第二比較例では、105℃環境での加熱減量が1.2%の付加重合型シリコーンゴム接着剤4を使用した。これ以外の使用材料は、第一実施例1と同様にして、第一実施例で説明した工程によって、Al筐体へコリメータレンズを固定した。
【0106】
[第三比較例]
第三比較例では、第一実施例における第七工程(シリコーンゴム接着剤塗布プロセス)において、UV硬化型接着剤3の両端に付加重合型シリコーンゴム接着剤4を塗布量1.5mgずつ塗布した。これ以外は、使用材料と工程は、第一実施例と同様にして、Al筐体へコリメータレンズを固定した。
【0107】
[第四比較例]
第四比較例では、第一実施例における第七工程(シリコーンゴム接着剤塗布プロセス)において、UV硬化型接着剤3の両端に付加重合型シリコーンゴム接着剤4を塗布量1.0mgずつ塗布した。これ以外は、使用材料と工程は、第一実施例と同様にして、Al筐体へコリメータレンズを固定した。
【0108】
[第五比較例]
第五比較例では、第一実施例における第七工程(シリコーンゴム接着剤塗布プロセス)と、第八工程(シリコーンゴム接着剤熱硬化プロセス)を実施しなかった。これ以外は、使用材料と工程は、第一実施例と同様にして、Al筐体へコリメータレンズを固定した。
【0109】
[付加重合型シリコーンゴム接着剤4の被覆率評価について]
次に、第一実施例及び第二実施例、また、第一比較例から第五比較例における付加重合型シリコーンゴム接着剤4の被覆率評価に用いる値の測定方法について説明する。
【0110】
すでに説明をした第六工程(光学部品・金属筐体固定解除プロセス)において、光学レンズ1(コリメータレンズ)の把持を解除した後に、マイクロスコープ(VHK5000(キーエンス社製))を用いて、まず、被接着部を含まないUV硬化型接着剤3の表面積を測定する。この測定結果を「第一表面積」とする。
【0111】
続いて、第八工程(シリコーンゴム接着剤熱硬化)の後に、被接着部を含まない付加重合型シリコーンゴム接着剤4の表面を観察し、UV硬化型接着剤3が露出している部分の表面積を測定する。この測定結果を「第二表面積」とする。
【0112】
続いて、以下の式(6)を用いて、付加重合型シリコーンゴム接着剤4の被覆率を算出した。算出した値は、図9に表に含まれている。
【0113】
式(6)
被覆率[%]=100×(第一表面積-第二表面積)/第一表面積
【0114】
[各試験条件]
第一実施例及び第二実施例、また、第一比較例から第五比較例にて作製した光学レンズ構造物10を用いて、各環境(105℃、85℃85%、温度サイクル(―40℃~+105℃))において、放置試験を実施した。ここで、各環境の試験方法について説明する。
【0115】
(105℃環境試験)
送風定温恒温器(DKN402 (ヤマト科学社製))の中に作製した光学レンズ構造物10を静置させ、105℃1000時間放置した。
【0116】
(85℃85%環境試験)
低湿度型(低温)恒温恒湿器(PDL-4J(エスペック社製))の中に、作製した光学レンズ構造物10を静置させ、85℃85%1000時間放置した。
【0117】
(温度サイクル環境試験)
冷熱衝撃試験機(TSA-72ES-A(エスペック社製))の中に、作製した光学レンズ構造物10を静置させ、「-40℃30分」から「+105℃30分」及び「+105℃30分」から「-40℃30分」の温度サイクルを1000サイクル実施した。
【0118】
(位置ずれ評価)
位置ずれ測定にはマイクロスコープ(VHX-5000、キーエンス、倍率200倍)を用いた。各試験前(高温、高温高湿、温度サイクル)にマイクロスコープで接着部の画像を取得する。そして、光学レンズ1(コリメータレンズ)にあらかじめ傷をつけて設定した特徴点と、金属部品(Al筐体)の特徴点を1点ずつ設定した。そして、コリメータレンズ特徴点とAl筐体特徴点を結んだ線分のコリメータレンズ接着面の法線方向を計測した。
【0119】
なお、コリメータレンズ特徴点とAl筐体特徴点を結んだ線分のコリメータレンズ接着面の法線方向とは、図8に示す「膜厚方向FL」をいう。なお、位置ずれ評価は、図8に示す膜厚方向FLの矢印の向きがプラス方向になる。
【0120】
続いて、各試験後(高温放置、高温高湿、温度サイクル)の接着部の画像を取得し、コリメータレンズ特徴点とAl筐体特徴点を結んだ線分のコリメータレンズ接着面の法線方向(膜厚方向FL)の値を計測し、各試験前(高温、高温高湿、温度サイクル)からの変化量を位置ずれ量と設定する。
【0121】
(位置ずれ評価結果)
上記にて説明をした各試験(高温、高温高湿、温度サイクル)における、試験後の位置ずれ評価結果を図9に示す。経時位置ずれが、接着層厚200μmの±1%以下、つまり±200μm以下であれば、判定欄に「〇」を記載し、それ以上であれば判定欄に「×」を記載している。
【0122】
図9において、「接着材種」のカラムに表記されている「A」は、第一要件と第二要件を同時に満たすアクリル系のUV硬化型接着剤3を意味している。また、同様に、「接着材種」のカラムに表記されている「B」は、第三要件を満たす熱硬化の付加重合型シリコーンゴム接着剤4を意味している。
【0123】
図9にて示すように、第一実施例及び第二実施例は、付加重合型シリコーンゴム接着剤4の被覆率がそれぞれ100%、50%である。被覆率50%以上の場合、活性化された酸素ラジカルが付加重合型シリコーンゴム接着剤4に吸着あるいは消費され、UV硬化型接着剤3には酸素ラジカルが到達しない。そのため、105℃環境でUV硬化型接着剤3に酸素が直接触れないため、UV硬化型接着剤3の開始剤や添加剤の揮発や酸化分解が防止でき、UV硬化型接着剤3の加熱減量による収縮が防止できる。よって、105℃環境の経時位置ずれを抑制できている。
【0124】
第一比較例では、UV硬化型接着剤3の吸水率が1.5%、Tgが90℃であり、第一要件かつ第二要件を満たしていない。吸水率が0.5%以上のため、85℃85%環境ではUV硬化型接着剤3の吸水膨潤により経時位置ずれが増加する。また、Tgが105℃以下のため、105℃環境、温度サイクル環境では、UV硬化型接着剤3の軟質化によって、UV硬化型接着剤3が内部応力に負けて圧縮変形し、経時位置ずれが発生する。
【0125】
第二比較例では、付加重合型シリコーンゴム接着剤4の加熱減量が1.2%であり、第三要件を満たしていない。105℃環境での加熱減量が0.5%以上のため、付加重合型シリコーンゴム接着剤4の加熱減量による収縮で接着層厚の圧縮方向に経時位置ずれが増加する。
【0126】
第三比較例乃至第五比較例では、付加重合型シリコーンゴム接着剤4の被覆率が50%未満である。被覆率50%未満の場合、105℃環境では活性化された酸素ラジカルが付加重合型シリコーンゴム接着剤4に吸着あるいは消費しきれず、酸素がUV硬化型接着剤3に直接触れる。そのため、105℃環境ではUV硬化型接着剤3の開始剤や添加剤の揮発や酸化分解が発生し、UV硬化型接着剤3の加熱減量で収縮し、経時位置ずれが発生する。被覆率50%未満では、付加重合型シリコーンゴム接着剤4の被覆率が小さいほど、UV硬化型接着剤3の加熱減量が大きくなり、接着層厚の圧縮方向に経時位置ずれが増加する。
【0127】
以上説明したとおり、本実施形態に係る光学レンズ構造物10によれば、光学部品を接着するときに接着剤を用いるが、その接着剤による接着部の中心部に、上記第一要件かつ第二要件を満たすUV硬化型接着剤3を配置する。そして、被接着部を含まないUV硬化型接着剤3の表面50%以上を、上記第三要件を満たす付加重合型シリコーンゴム接着剤4で被覆する。
【0128】
このような構造上の特徴を有することで、本実施形態に係る光学レンズ構造物10は、シリコーンゴムは活性化された酸素ラジカルに攻撃されにくくなる。そして、UV硬化型接着剤3を付加重合型シリコーンゴム接着剤4で50%以上被覆することで、活性化された酸素ラジカルが付加重合型シリコーンゴム接着剤4に吸着あるいは消費され、UV硬化型接着剤3には酸素ラジカルが到達しない。
【0129】
この作用により、長期の105℃環境下でもUV硬化型接着剤3に酸素が直接触れない。その結果として、UV硬化型接着剤3の開始剤や添加剤の揮発や酸化分解が防止でき、UV硬化型接着剤3の加熱減量による収縮を防止できる。以上のとおり、本実施形態に係る光学レンズ構造物10によれば、使用環境(高温、高温高湿、温度サイクル)の経時位置ずれを抑制することができる。
【0130】
なお、本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、その技術的要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であり、特許請求の範囲に記載された技術思想に含まれる技術的事項の全てが本発明の対象となる。上記実施形態は、好適な例を示したものであるが、当業者であれば、開示した内容から様々な変形例を実現することが可能である。そのような変形例も、特許請求の範囲に記載された技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0131】
1 :光学レンズ
2 :金属筐体
3 :UV硬化型接着剤
4 :付加重合型シリコーンゴム接着剤
10 :光学レンズ構造物
100 :ヘッドアップディスプレイ装置
200 :光学部品接着装置
210 :保持具
211 :第一チャック具
212 :第二チャック具
220 :接着剤塗布具
230 :紫外線照射具
【先行技術文献】
【特許文献】
【0132】
【特許文献1】特開平05-210851号公報
図1
図2
図3
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図5
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図8
図9
図10
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