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特開2023-38928金属有機構造体を含有する複合材料及びそれを用いたガス分離材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023038928
(43)【公開日】2023-03-17
(54)【発明の名称】金属有機構造体を含有する複合材料及びそれを用いたガス分離材
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/26 20060101AFI20230310BHJP
【FI】
B01J20/26 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022140713
(22)【出願日】2022-09-05
(31)【優先権主張番号】P 2021145257
(32)【優先日】2021-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)錯体化学会第71回討論会講演要旨集(公開日:令和3年9月7日、https://jsccc71.com/top/program.htmlのリンク先のDropbox共有サイトにおいて公開) (2)錯体化学会第71回討論会、錯体化学会主催、令和3年9月17日、WEB開催
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野呂 真一郎
(72)【発明者】
【氏名】鄭 キン
【テーマコード(参考)】
4G066
【Fターム(参考)】
4G066AB24B
4G066AC11B
4G066AC31B
4G066AC33B
4G066BA31
4G066BA36
4G066BA38
4G066CA28
4G066CA35
4G066DA01
(57)【要約】
【課題】金属有機構造体を含有し、耐水性、耐酸性及びガス吸着の選択性に優れた複合材料を提供すること。
【解決手段】金属有機構造体と、前記金属有機構造体に付着した[Cu(bib)2.5]・2NTf〔bibは1,4-ビスイミダゾールブタン配位子、NTfはビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド配位子を表わす〕等の非多孔性アモルファス配位高分子とを含有することを特徴とする複合材料。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属有機構造体と前記金属有機構造体に付着した非多孔性アモルファス配位高分子とを含有することを特徴とする複合材料。
【請求項2】
前記非多孔性アモルファス配位高分子が、
[Cu(bib)2.5]・2NTf、Fe(bba)[FeCl]、Co(bba)[CoCl]、Co(hmba)[Co(NCS)]、Co(hmba)[CoBr]、Mn(hmba)[MnCl]、Zn(HPO(Htr)、Ag(mL1)(CFSO)、[Co(NCS)(pza)]・pza、及び(emim)[MnN(CN)
〔前記式中、bibは1,4-ビスイミダゾールブタン配位子を表し、NTfはビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド配位子を表し、bbaはN,N’-ブチレンビス(アセトアミド)配位子を表し、hmbaはN,N’-ヘキサメチレンビス(アセトアミド)配位子を表し、Htrは1,2,4-トリアゾール配位子を表し、mL1は1,3,5-トリス(3-シアノフェニルエチニル)ベンゼン配位子を表し、pzaはピラジンアミド配位子を表し、eminは1-エチル-3-メチルイミダゾリウム配位子を表す〕
からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の複合材料。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の複合材料からなることを特徴とするガス分離材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属有機構造体を含有する複合材料及びそれを用いたガス分離材に関する。
【背景技術】
【0002】
金属有機構造体(metal-organic framework、MOF)は、構造の内部に多数の細孔を有する配位高分子であり、多孔性配位高分子(porous coordination polymer、PCP)とも言われるものである。このような構造の内部に多数の細孔を有する金属有機構造体は、一般に、ガス吸着特性に優れており、ガス吸着材としての利用が検討されている。
【0003】
例えば、特開2020-196668号公報(特許文献1)には、第一の金属イオンと、前記第一の金属イオンを架橋する配位子と、第2族元素の金属イオンである第二の金属イオンとを含み、前記配位子と前記第二の金属イオンとが特定の構造のキレートを形成している多孔性配位高分子が記載されており、この多孔性配位高分子がガス吸着材(特に、水素吸着材)として利用できることも記載されている。また、特開2019-177308号公報(特許文献2)及び特開2019-178072号公報(特許文献3)には、下記式:[CuY]〔式中、Xは、第一配位子である、テレフタル酸のオキシリチウム誘導体又はヒドロキシ誘導体を示す。Yは、第二配位子である、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンを示す。〕で表され、かつ、銅イオンCu2+と前記第一配位子とにより構成された二次元ネットワーク構造が、前記第二配位子により架橋されて層状に配置されている三次元ネットワーク構造を有する多孔性配位高分子が記載されており、この多孔性配位高分子がガス吸着材(特に、水素吸着材)として利用できることも記載されている。さらに、特開2016-190191号公報(特許文献4)及び特開2016-193957号公報(特許文献5)には、マグネシウムイオン及び2,5-ジヒドロキシテレフタル酸を含有し、MOF-74結晶構造を有し、かつ、細孔内にアルキルアミン、或いは骨格外にカルシウムを含有する多孔性配位高分子が記載されており、この多孔性配位高分子が二酸化炭素吸着材として利用できることも記載されている。
【0004】
一方、特開2019-64942号公報(特許文献6)には、金属イオン等の金属成分とビフェニルジカルボン酸構造を有する多座配位子とを含む多孔性配位高分子が記載されており、この多孔性配位高分子がガス分離装置やガス貯蔵装置におけるガス吸着材として利用できることも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-196668号公報
【特許文献2】特開2019-177308号公報
【特許文献3】特開2019-178072号公報
【特許文献4】特開2016-190191号公報
【特許文献5】特開2016-193957号公報
【特許文献6】特開2019-64942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の金属有機構造体(多孔性配位高分子)は、水中や酸性溶液中で分解しやすく、耐水性や耐酸性に劣るという問題があった。また、従来の金属有機構造体は、ガス吸着の選択性(例えば、COとCとの混合ガスに対するCO吸着の選択性やNOとCとの混合ガスに対するNO吸着の選択性、COとNOとの混合ガスに対するNO吸着の選択性)が低く、混合ガスに対するガス分離特性に劣るため、混合ガスから特定のガス成分(例えば、COやNO等の地球温暖化ガス(特に、COに比べて温暖化係数が高いNO))を十分に分離除去や分離回収することができないという問題もあった。
【0007】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、金属有機構造体を含有し、耐水性、耐酸性及びガス吸着の選択性に優れた複合材料、及び混合ガスに対するガス分離特性に優れたガス分離材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、従来の金属有機構造体に非多孔性アモルファス配位高分子(アモルファスNCP(NCP=nonporous coordination polymer))を付着させることによって、耐水性、耐酸性及びガス吸着の選択性に優れた複合材料が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の態様を提供する。
【0010】
[1]金属有機構造体と前記金属有機構造体に付着した非多孔性アモルファス配位高分子とを含有する、複合材料。
【0011】
[2]前記非多孔性アモルファス配位高分子が、
[Cu(bib)2.5]・2NTf、Fe(bba)[FeCl]、Co(bba)[CoCl]、Co(hmba)[Co(NCS)]、Co(hmba)[CoBr]、Mn(hmba)[MnCl]、Zn(HPO(Htr)、Ag(mL1)(CFSO)、[Co(NCS)(pza)]・pza、及び(emim)[MnN(CN)
〔前記式中、bibは1,4-ビスイミダゾールブタン配位子を表し、NTfはビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド配位子を表し、bbaはN,N’-ブチレンビス(アセトアミド)配位子を表し、hmbaはN,N’-ヘキサメチレンビス(アセトアミド)配位子を表し、Htrは1,2,4-トリアゾール配位子を表し、mL1は1,3,5-トリス(3-シアノフェニルエチニル)ベンゼン配位子を表し、pzaはピラジンアミド配位子を表し、eminは1-エチル-3-メチルイミダゾリウム配位子を表す〕
からなる群から選択される少なくとも1種である、複合材料。
【0012】
[3][1]又は[2]に記載の複合材料からなる、ガス分離材。
【0013】
なお、本発明の複合材料が、ガス吸着の選択性に優れている理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、従来の金属有機構造体においては、多数の細孔が存在しており、この細孔内にガス分子が拡散することによって、ガス吸着が進行すると推察される。このようなガス吸着において細孔内へのガスの拡散性が支配的な従来の金属有機構造体においては、ガスの種類によるガスの細孔内拡散性の差が小さいため、ガス吸着の選択性が低くなると推察される。
【0014】
一方、本発明の複合材料においては、金属有機構造体に、高い構造緻密性を有する非多孔性アモルファス配位高分子が付着しているため、表面に細孔が存在せず、上記のようなガスの細孔内拡散性が支配的なガス吸着は起こりにくく、非多孔性アモルファス配位高分子にガスが溶解拡散することによって、ガス吸着が進行すると推察される。このようなガス吸着において非多孔性アモルファス配位高分子へのガスの溶解拡散性が支配的な本発明の複合材料においては、ガスの種類によって非多孔性アモルファス配位高分子へのガスの溶解拡散性(例えば、溶解量や溶解拡散速度等、特に、溶解拡散速度)が異なるため、ガス吸着において高い選択性が発現すると推察される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、金属有機構造体を含有し、耐水性、耐酸性及びガス吸着の選択性に優れた複合材料、及び混合ガスに対するガス分離特性に優れたガス分離材を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例1で得られた複合材料の元素マッピングを示す走査型電子顕微鏡写真である。
図2】実施例1で調製した非多孔性配位高分子結晶と金属有機構造体との物理混合物の元素マッピングを示す走査型電子顕微鏡写真である。
図3】実施例1で得られた複合材料、比較例1で得られた金属有機構造体、並びに実施例1で調製した非多孔性配位高分子結晶と金属有機構造体との物理混合物の粉末X線回折(PXRD)パターンを示すグラフである。
図4】実施例1で得られた複合材料及び比較例1で得られた金属有機構造体の酸処理前後の粉末X線回折(PXRD)パターンを示すグラフである。
図5】実施例1で得られた複合材料及び比較例1で得られた金属有機構造体のC、CO及びNOの吸着等温線を示すグラフである。
図6】実施例1で得られた複合材料及び比較例1で得られた金属有機構造体のAr、H、N、Oの吸着等温線を示すグラフである。
図7】実施例1で得られた複合材料及び比較例1で得られた金属有機構造体のCに対するCOの吸着量の比を示すグラフである。
図8】実施例1で得られた複合材料及び比較例1で得られた金属有機構造体のCに対するNOの吸着量の比を示すグラフである。
図9】実施例1で得られた複合材料及び比較例1で得られた金属有機構造体のNに対するOの吸着量の比を示すグラフである。
図10】実施例1で得られた複合材料及び比較例1で得られた金属有機構造体のArに対するOの吸着量の比を示すグラフである。
図11】実施例1で得られた複合材料及び比較例1で得られた金属有機構造体のNに対するHの吸着量の比を示すグラフである。
図12】実施例1で得られた複合材料及び比較例1で得られた金属有機構造体のArに対するHの吸着量の比を示すグラフである。
図13】実施例1で得られた複合材料及び比較例1で得られた金属有機構造体のC、CO及びNOの吸着量の経時変化を示すグラフである。
図14】実施例1で得られた複合材料及び比較例1で得られた金属有機構造体のCに対するNO、Cに対するCO、COに対するNOの吸着速度定数の比を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0018】
本発明の複合材料は、金属有機構造体と前記金属有機構造体に付着した非多孔性アモルファス配位高分子とを含有するものである。このような本発明の複合材料は、耐水性及び耐酸性に優れており、好ましくは耐アルカリ性にも優れているため、低pH~高pHまでの広いpH域で使用することが可能である。また、本発明の複合材料は、ガス吸着の選択性にも優れているため、混合ガス(例えば、COとCとの混合ガス、NOとCとの混合ガス、COとNOとの混合ガス、OとNとの混合ガス、OとArとの混合ガス、HとNとの混合ガス、HとArとの混合ガス等)のガス分離材として有用である。
【0019】
本発明に用いられる非多孔性アモルファス配位高分子は、高い構造緻密性を有するものであり、例えば、非多孔性配位高分子結晶に加熱処理を施して前記非多孔性配位高分子結晶をアモルファス化することによって形成することができる。
【0020】
本発明の複合材料においては、このような高い構造緻密性を有する非多孔性アモルファス配位高分子が金属有機構造体に付着することによって、金属有機構造体の表面が緻密な殻で覆われた構造となり、優れた耐水性、耐酸性及び耐アルカリ性が発現する。また、金属有機構造体の表面が緻密な殻で覆われることによって、ガス吸着が、細孔内へのガスの拡散性ではなく、前記非多孔性アモルファス配位高分子へのガスの溶解拡散性が支配的となって進行する。ガスの溶解拡散性(例えば、溶解量や溶解拡散速度等、特に、溶解拡散速度)はガスの種類によって夫々異なるため、本発明の複合材料においては、ガスの種類によってガスの吸着特性(特に、吸着速度)に差が生じ、それによりガス吸着の選択性が発現する。
【0021】
本発明において、非多孔性アモルファス配位高分子とは、金属イオンが有機配位子によって架橋された構造を有する、非多孔性の非晶質材料である。
【0022】
このような非多孔性アモルファス配位高分子としては、例えば、
Zheng,X.ら、Cryst.Growth Des.、2020年、第20巻、3596~3600頁に記載された、[Cu(bib)2.5]・2NTf
〔前記式中、bibは下記式(1)で表される1,4-ビスイミダゾールブタン配位子を表し、NTfはビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド配位子を表す〕;
【0023】
【化1】
【0024】
Mengtan L.ら、J.Am.Chem.Soc.、2021年、第143巻、第7巻、2801~2811頁に記載された、Fe(bba)[FeCl]、Co(bba)[CoCl]、Co(hmba)[Co(NCS)]、Co(hmba)[CoBr]、Mn(hmba)[MnCl
〔前記式中、bbaは下記式(2)で表されるN,N’-ブチレンビス(アセトアミド)配位子を表し、下記式(3)で表されるhmbaはN,N’-ヘキサメチレンビス(アセトアミド)配位子を表す〕;
【0025】
【化2】
【0026】
D.Umeyamaら、Chem.Commun.、2015年、第51巻、12728~12731頁に記載された、Zn(HPO(Htr)
〔前記式中、Htrは下記式(4)で表される1,2,4-トリアゾール配位子を表す〕;
【0027】
【化3】
【0028】
Chinmoy D.ら、Chem.Commun.、2020年、第56巻、8980~8983頁に記載された、Ag(mL1)(CFSO
〔前記式中、mL1は下記式(5)で表される1,3,5-トリス(3-シアノフェニルエチニル)ベンゼン配位子を表す〕;
【0029】
【化4】
【0030】
Alice M.Bumsteadら、Faraday Discuss.、2021年、第225巻、210~225頁に記載された、[Co(NCS)(pza)]・pza
〔前記式中、pzaは下記式(6)で表されるピラジンアミド配位子を表す〕;
【0031】
【化5】
【0032】
T.Hiraokaら、Chem.Eur.J.、2019年、第25巻、7521~7525頁に記載された、(emim)[MnN(CN)
〔前記式中、emimは下記式(7)で表される1-エチル-3-メチルイミダゾリウム配位子を表す〕;
【0033】
【化6】
【0034】
等が挙げられる。
【0035】
これらの非多孔性アモルファス配位高分子は、上記文献に記載された方法によって合成した非多孔性配位高分子結晶に加熱処理を施して前記非多孔性配位高分子結晶をアモルファス化することによって調製することができる。
【0036】
例えば、前記非多孔性配位高分子結晶に加熱処理を施して非多孔性アモルファス配位高分子を調製する場合、その調製条件としては、前記非多孔性配位高分子結晶がアモルファス化する条件、例えば、前記非多孔性配位高分子結晶が加熱により融解し、その後冷却することによってアモルファス化する条件であれば特に制限はなく、原料の非多孔性配位高分子結晶によって適宜設定することができるが、前記非多孔性配位高分子結晶を十分にアモルファス化するという観点から、加熱温度としては、前記非多孔性配位高分子結晶の融点+5℃以上、前記非多孔性配位高分子結晶の分解温度-5℃以下、かつ、前記金属有機構造体が分解しない温度が好ましい。また、このような加熱処理(アニール処理)は、真空下で実施することが好ましい。
【0037】
また、本発明に用いられる金属有機構造体は、多孔性配位高分子とも呼ばれるものである。このような金属有機構造体としては特に制限はなく、例えば、
CPL-1:Cu(pzdc)(pyz)
〔前記式中、pzdcは2,3-ピラジンジカルボン酸配位子を表し、pyzはピラジン配位子を表す〕、
MOF-5:ZnO(bdc)
〔前記式中、bdcは1,4-テレフタル酸配位子を表す〕、
HKUST-1:Cu(btc)
〔前記式中、btcは1,3,5-ベンゼントリカルボン酸配位子を表す〕、
UiO-66:Zr(OH)(bdc)
〔前記式中、bdcは1,4-テレフタル酸配位子を表す〕、
MOF-74:M(dobdc)
〔前記式中、MはMg、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、又はCdを表し、dobdcは2,5-ジヒドロキシテレフタル酸配位子を表す〕、
等の公知の金属有機構造体が挙げられる。
【0038】
本発明の複合材料は、前記金属有機構造体と前記非多孔性アモルファス配位高分子とを含有するものであり、前記金属有機構造体に前記非多孔性アモルファス配位高分子が付着した構造を有している。
【0039】
本発明の複合材料において、前記金属有機構造体と前記非多孔性アモルファス配位高分子との含有比としては特に制限はないが、前記金属有機構造体に前記非多孔性アモルファス配位高分子を十分に付着させて、本発明の複合材料に優れた耐水性、耐酸性及び耐アルカリ性、並びにガス吸着の高い選択性を発現させつつ、高吸着量を保持するという観点から、金属有機構造体と非多孔性アモルファス配位高分子とのモル比(金属有機構造体:非多孔性アモルファス配位高分子)で、10:1~1:1が好ましく、10:1~4:1がより好ましく、10:1~8:1が特に好ましい。なお、前記範囲においてガス吸着量が向上するのは、非多孔性アモルファス配位高分子の割合が小さくなるにつれてガスの吸着速度が向上することにより、複合材料のガス吸着量が増大するためであると考えられる。
【0040】
本発明の複合材料の製造方法としては特に制限はなく、例えば、前記金属有機構造体と、予め前記非多孔性配位高分子結晶から調製した前記非多孔性アモルファス配位高分子とを所定の含有比となるように物理的に混合する方法でもよいが、前記金属有機構造体と前記非多孔性アモルファス配位高分子とを強固に付着させるという観点から、得られる複合材料において前記金属有機構造体と前記非多孔性アモルファス配位高分子とが所定の含有比となるように、前記金属有機構造体と前記非多孔性配位高分子結晶とを物理的に混合した後、得られた物理混合物に加熱処理を施して前記非多孔性配位高分子結晶をアモルファス化する方法が好ましい。
【0041】
前記金属有機構造体と前記非多孔性配位高分子結晶との混合方法としては、前記金属有機構造体に前記非多孔性配位高分子結晶を付着させることが可能な方法であれば特に制限はなく、例えば、乳鉢やボールミル、ミキサーミル等を用いた混合方法が挙げられる。
【0042】
本発明の複合材料は、このようにして得られる、前記金属有機構造体と前記非多孔性配位高分子結晶との物理混合物に、前記非多孔性配位高分子結晶がアモルファス化する条件で、加熱処理を施すことによって得ることができる。
【0043】
本発明のガス分離材は、このような本発明の複合材料からなるものである。このような本発明のガス分離材においては、前記本発明の複合材料がガス吸着の選択性に優れていることから、混合ガスから特定のガス成分を十分に分離(例えば、COとCとのガス分離、NOとCとのガス分離、COとNOとのガス分離、OとNとのガス分離、OとArとのガス分離、HとNとのガス分離、HとArとのガス分離等)することが可能となる。
【0044】
本発明のガス分離材の形態として特に制限はなく、例えば、粉体状、膜状、ビーズ状等の公知の形態が挙げられる。前記ガス分離材を粉体状で使用する場合には、粉体状の前記ガス分離材をそのまま使用してもよいし、粒子状基材の表面に前記ガス分離材を付着させて使用してもよい。また、前記ガス分離材を膜状で使用する場合には、前記ガス分離材を膜状に成形して使用してもよいし、膜状の基材の表面に前記ガス分離材を付着させて使用してもよい。前記膜状の基材としては、多孔質のものであっても、非多孔質のものであってもよい。さらに、前記ガス分離材をビーズ状で使用する場合には、前記ガス分離材をビーズ状に成形して使用してもよいし、ビーズ状の基材の表面に前記ガス分離材を付着させて使用してもよい。
【実施例0045】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0046】
(実施例1)
先ず、Zheng,X.ら、Cryst.Growth Des.、2020年、第20巻、3596~3600頁に記載の方法に従って、下記式:
[Cu(bib)2.5]・2NTf
〔前記式中、bibは1,4-ビスイミダゾールブタン配位子を表し、NTfはビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド配位子を表す〕
で表される非多孔性配位高分子結晶を合成した。
【0047】
また、Kishida,K.ら、Eur.J.Inorg.Chem.、2014年2747~2752頁に記載の方法に従って、下記式:
Cu(pzdc)(pyz)
〔前記式中、pzdcは2,3-ピラジンジカルボン酸配位子を表し、pyzはピラジン配位子を表す〕
で表される金属有機構造体CPL-1を合成した。
【0048】
前記非多孔性配位高分子結晶(0.1mmol)と前記金属有機構造体CPL-1(0.4mmol)とを、大気雰囲気下、乳鉢を用いて15分間物理混合した。得られた物理混合物に、真空下、温度473Kで2時間アニール処理を施して、下記式:
[Cu(bib)2.5]・2NTf
〔前記式中、bibは1,4-ビスイミダゾールブタン配位子を表し、NTfはビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド配位子を表す〕
で表される成分が前記金属有機構造体に付着した複合材料を得た。
【0049】
(比較例1)
Kishida,K.ら、Eur.J.Inorg.Chem.、2014年、2747~2752頁に記載の方法に従って、下記式:
Cu(pzdc)(pyz)
〔前記式中、pzdcは2,3-ピラジンジカルボン酸配位子を表し、pyzはピラジン配位子を表す〕
で表される金属有機構造体CPL-1を合成した。
【0050】
<エネルギー分散型X線分光分析(SEM-EDX分析)>
実施例1で得られた複合材料及び実施例1で調製した前記非多孔性配位高分子結晶と前記金属有機構造体CPL-1との物理混合物(アニール処理前)の元素分析を、エネルギー分散型X線分光(EDX)分析装置(日本電子株式会社製「JED-2300」)を備える走査型電子顕微鏡(SEM、日本電子株式会社製「JSM-6510LA」)を用い、加速電圧10kVで行った。図1には、実施例1で得られた複合材料の元素マッピングを、図2には、実施例1で調製したアニール処理前の前記物理混合物の元素マッピングを示す。
【0051】
図2に示した元素マッピングから明らかなように、アニール処理前の前記物理混合物においては、前記金属有機構造体CPL-1と[Cu(bib)2.5]・2NTfで表される成分が分離していることが確認された。また、図1に示した元素マッピングから明らかなように、実施例1で得られた複合材料においては、前記金属有機構造体CPL-1に[Cu(bib)2.5]・2NTfで表される成分が付着していること(図1中のCPL-1+[Cu(bib)2.5]・2NTf)が確認された。
【0052】
<粉末X線回折測定>
実施例1で得られた複合材料、比較例1で得られた金属有機構造体CPL-1、並びに実施例1で調製した前記非多孔性配位高分子結晶と前記金属有機構造体CPL-1との物理混合物(アニール処理前)の粉末X線回折(PXRD)パターンを、X線回折装置(株式会社リガク製「RINT-Ultima III」)を用い、CuKα(λ=1.5418Å)をX線源として測定した。その結果を図3に示す。図3中、(a)はシミュレーションにより求めた金属有機構造体CPL-1のPXRDパターンであり、(b)は実測した金属有機構造体CPL-1(比較例1)のPXRDパターンであり、(c)は実測したアニール処理前の前記物理混合物のPXRDパターンであり、(d)は実測した前記複合材料(実施例1)のPXRDパターンであり、(e)はシミュレーションにより求めた前記非多孔性配位高分子結晶のPXRDパターンである。
【0053】
図3に示した結果から明らかなように、アニール処理前の前記物理混合物のPXRDパターン(c)においては、2θ=10~15°の間に、前記非多孔性配位高分子結晶に由来するピーク(PXRDパターン(e)参照)が観測されるのに対して、実施例1で得られた複合材料のPXRDパターン(d)においては、2θ=10~15°の間の前記非多孔性配位高分子結晶に由来するピークが消失していることがわかった。
【0054】
この結果と前記SEM-EDX分析結果から、実施例1においては、前記非多孔性配位高分子結晶と前記金属有機構造体CPL-1との物理混合物にアニール処理を施すことによって、前記非多孔性配位高分子結晶が446Kで融解し、その後の冷却によってアモルファスに変化し、前記非多孔性アモルファス配位高分子が前記前記金属有機構造体CPL-1に付着した構造を有する複合材料が得られたことが確認された。
【0055】
<耐酸性>
実施例1で得られた複合材料及び比較例1で得られた金属有機構造体CPL-1をそれぞれ0.1Mの塩酸に室温で2時間浸漬し、酸処理を行った。酸処理前後の前記複合材料及び金属有機構造体CPL-1の粉末X線回折(PXRD)パターンを、X線回折装置(株式会社リガク製「RINT-Ultima III」)を用い、CuKα(λ=1.5418Å)をX線源として測定した。その結果を図4に示す。図4中、(a)は比較例1で得られた金属有機構造体CPL-1の酸処理前のPXRDパターンであり、(b)は比較例1で得られた金属有機構造体CPL-1の酸処理後のPXRDパターンであり、(c)は実施例1で得られた複合材料の酸処理前のPXRDパターンであり、(d)は実施例1で得られた複合材料の酸処理後のPXRDパターンである。
【0056】
図4に示した結果から明らかなように、比較例1で得られた金属有機構造体CPL-1においては、酸処理の前後でPXRDパターンが異なり、構造が変化していることが確認されたのに対して、実施例1で得られた複合材料においては、酸処理の前後でPXRDパターンは変化せず、構造が維持されていた。この結果から、実施例1で得られた複合材料は、金属有機構造体CPL-1に比べて、耐水性(特に、耐酸性)に優れていることがわかった。
【0057】
<ガス吸着特性>
実施例1で得られた複合材料及び比較例1で得られた金属有機構造体CPL-1における、C、CO、NO、Ar、H、N、Oのガス吸着特性を、比表面積・細孔分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製「BELSORP-max」又は「BELSORP-mini」)を用い、温度195K(CO、C)又は77K(Ar、H、N、O)で測定した。なお、前記複合材料及び前記金属有機構造体CPL-1は、測定前に、真空下、温度373Kで20時間加熱処理を施した。
【0058】
図5には、C、CO及びNOの吸着等温線を、図6には、Ar、H、N、Oの吸着等温線を示す。図6に示したように、比較例1で得られた金属有機構造体CPL-1においては、窒素が吸着したのに対して、実施例1で得られた複合材料においては、窒素は吸着しなかった。この結果から、実施例1で得られた複合材料においては、前記金属有機構造体CPL-1の表面全体に、高い構造緻密性を有する前記非多孔性アモルファス配位高分子が付着しており、表面に細孔が存在しないことが確認された。
【0059】
また、図5及び図6に示した結果に基づいて、実施例1で得られた複合材料及び比較例1で得られた金属有機構造体CPL-1のそれぞれについて、P=100kPa(N、Oは90kPa)における、Cに対するCOの吸着量の比、Cに対するNOの吸着量の比、Nに対するOの吸着量の比、Arに対するOの吸着量の比、Nに対するHの吸着量の比、Arに対するHの吸着量の比を求めた。その結果を図7図12に示す。
【0060】
図7図12に示したように、ガス吸着量の比が、比較例1で得られた金属有機構造体CPL-1では約1であるのに対して、実施例1で得られた複合材料では1よりも非常に大きくなっており、実施例1で得られた複合材料は、比較例1で得られた金属有機構造体CPL-1に比べて、Cに対するCOの吸着選択性、Cに対するNOの吸着選択性、Nに対するOの吸着選択性、Arに対するOの吸着選択性、Nに対するHの吸着選択性、Arに対するHの吸着選択性に優れていることが確認された。
【0061】
また、前記ガス吸着特性の測定時に得られたガス圧力の経時変化の結果に基づいて、実施例1で得られた複合材料及び比較例1で得られた金属有機構造体CPL-1のそれぞれについて、初期圧P=約20kPaにおける、初期圧Pと平衡圧Pとの差(P-P)に対する初期圧Pと時間tにおけるガス圧力Pとの差(P-P)の比〔(P-P)/(P-P)〕(吸着平衡時のガス吸着量に対する時間tにおけるガス吸着量の比に相当)の経時変化を求めた。図13には、C、CO及びNOの前記比(P-P)/(P-P)の経時変化を示す。
【0062】
図13に示した結果に対して、実施例1で得られた複合材料については拡張指数関数型の吸着速度モデルを適用し、比較例1で得られた金属有機構造体CPL-1については擬一次吸着速度モデルを適用して、C、CO及びNOの吸着速度定数kを求めた。その結果を表1に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
また、表1に示した結果に基づいて、Cに対するNOの吸着速度定数の比、Cに対するCOの吸着速度定数の比、COに対するNOの吸着速度定数の比を求めた。その結果を図14に示す。
【0065】
図14に示したように、吸着速度定数の比が、比較例1で得られた金属有機構造体CPL-1では約1であるのに対して、実施例1で得られた複合材料では1よりも非常に大きくなっており、実施例1で得られた複合材料は、比較例1で得られた金属有機構造体CPL-1に比べて、吸着速度の差を利用した混合ガス(特に、NOを含有する混合ガス)の分離に有効であることが確認された。特に、NOとCOとを含有する混合ガスについては、図5に示したように、平衡時のNOとCOとの吸着量の差が小さく、吸着平衡状態においては、実施例1で得られた複合材料を用いてもNOとCOとを分離することは困難であったが、吸着速度の差が利用できる条件下(例えば、吸着平衡に達する前)において、実施例1で得られた複合材料を用いることによってNOとCOとを分離できることがわかった。
【0066】
以上の結果から、金属有機構造体に非多孔性アモルファス配位高分子を付着させることによって、耐水性、耐酸性及びガス吸着選択性に優れた複合材料が得られることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0067】
以上説明したように、本発明によれば、金属有機構造体を含有し、耐水性、耐酸性及びガス吸着の選択性に優れた複合材料を得ることが可能となる。したがって、本発明の複合材料は、低pH~高pHまでの広いpH域で使用することが可能な金属有機構造体を含む材料として有用である。また、本発明のガス分離材は、このようなガス吸着の選択性に優れた複合材料からなるものであることから、混合ガスから特定のガス成分を分離除去したり、分離回収したりするためのガス分離材等として有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
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図12
図13
図14