(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023038962
(43)【公開日】2023-03-20
(54)【発明の名称】放射線治療システム
(51)【国際特許分類】
A61N 5/10 20060101AFI20230313BHJP
【FI】
A61N5/10 P
A61N5/10 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021145846
(22)【出願日】2021-09-08
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「医療機器等における先進的研究開発・開発体制強靱化事業 先進的医療機器・システム等開発プロジェクト」「超低侵襲リアルタイムアダプティブ(RA)放射線治療の実現」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】山田 貴啓
(72)【発明者】
【氏名】藤井 祐介
(72)【発明者】
【氏名】藤本 林太郎
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 康一
(72)【発明者】
【氏名】松浦 妙子
(72)【発明者】
【氏名】宮本 直樹
【テーマコード(参考)】
4C082
【Fターム(参考)】
4C082AC02
4C082AC05
4C082AE03
4C082AJ08
4C082AJ14
4C082AN02
4C082AN05
(57)【要約】
【課題】アダプティブ治療の再計画に要する時間を従来に比べて短くすることが可能な放射線治療システムを提供する。
【解決手段】放射線を照射する放射線治療システム1であって、治療計画時の画像と、治療計画時の画像より新しい別画像と、に基づき新たな画像を作成する第一の計算を実施し、治療計画時の画像と、線量分布と、治療計画時の画像より新しい別画像と、に基づき目標とする線量分布を作成する第二の計算を実施し、目標線量分布を目標として照射パラメータを最適化する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線を照射する放射線治療システムであって、
治療計画時の画像と、前記治療計画時の画像より新しい別画像と、に基づき新たな画像を作成する第一の計算を実施し、
前記治療計画時の画像と、線量分布と、前記治療計画時の画像より新しい別画像と、に基づき目標とする目標線量分布を作成する第二の計算を実施し、
前記目標線量分布を目標として照射パラメータを最適化する
ことを特徴とする放射線治療システム。
【請求項2】
請求項1に記載の放射線治療システムにおいて、
前記第一の計算、および前記第二の計算は、非剛体レジストレーションを含む
ことを特徴とする放射線治療システム。
【請求項3】
請求項2に記載の放射線治療システムにおいて、
前記第二の計算は、前記治療計画時の画像及び前記別画像の標的の輪郭データと輪郭を拡大して作成した輪郭データを用いた非剛体レジストレーションを含む
ことを特徴とする放射線治療システム。
【請求項4】
請求項3に記載の放射線治療システムにおいて、
前記放射線の照射方向から見た水等価通過長に応じて前記輪郭を拡大することで前記輪郭データを作成する
ことを特徴とする放射線治療システム。
【請求項5】
請求項3に記載の放射線治療システムにおいて、
前記輪郭データに画像フィルタを適用して修正された輪郭データを作成し、前記修正された輪郭データを用いる
ことを特徴とする放射線治療システム。
【請求項6】
請求項3に記載の放射線治療システムにおいて、
前記目標線量分布に画像フィルタを適用して修正された目標線量分布を作成し、用いる
ことを特徴とする放射線治療システム。
【請求項7】
請求項2に記載の放射線治療システムにおいて、
前記第二の計算は、非剛体レジストレーションの目的関数に、変形後の線量勾配に対するペナルティ項、および放射線の照射方向から見た深さ方向の線量分布の凹みに対するペナルティ項を含む
ことを特徴とする放射線治療システム。
【請求項8】
請求項2に記載の放射線治療システムにおいて、
前記第一の計算の前記非剛体レジストレーションと、前記第二の計算の前記非剛体レジストレーションとでは、異なる計算条件、あるいはアルゴリズムが用いられる
ことを特徴とする放射線治療システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子線等の放射線を腫瘍等の患部に照射して治療する放射線治療システムに関する。
【背景技術】
【0002】
がんなどの患者に粒子線やX線などの放射線を照射する方法が知られている。粒子線には陽子線や炭素線などがある。照射に用いる放射線治療システムは、カウチと呼ばれる患者用ベッドの上に固定された患者の体内で腫瘍などの標的の形状に適した線量分布を形成する。
【0003】
標的の形状の変化や、腸管のガスポケットの変化など、患者の体内の状況は日々変化している。照射精度の向上の為に、治療日の患者の体内状況に応じて治療計画を再作成するアダプティブ治療が普及し始めている。特に、治療日に、患者をカウチに固定した状態で治療計画を再計画する治療をオンラインアダプティブ治療と呼ぶ。
【0004】
治療日の患者の体内状況に応じてその場で治療計画を再作成するオンラインアダプティブ治療において、照射量を決定する手法が非特許文献1に開示されている。アダプティブ治療では、最初に計画した元治療計画と効果が等価になるように治療計画を再作成することが重要である。非特許文献1では、線量分布を治療日の画像に合わせて変形し、その線量分布を目標として再現するように照射量を決定する手法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Phys. Med. Biol. 63 (2018) 085018
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1の手法では、元の治療計画の線量分布を治療日の画像に合わせて変形し、変形された線量分布を実現するように照射パラメータを最適化することで、線量に基づく指標、例えば標的及び標的周辺の正常臓器への最大線量、最小線量を、元治療計画と同等になるように再計画することができる。
【0007】
一方、変形により目標とする線量分布が決定されるため、変形結果によっては望ましい線量分布が得られない場合があることが明らかとなった。
【0008】
具体的には、位置ずれに対するロバスト性を確保する標的外近傍の高線量領域が狭い線量分布や、照射パラメータの最適化では実現が困難な急峻な線量勾配をもつ線量分布が得られる場合がある。望ましい目標線量分布が得られない場合、最適化の繰り返し回数が増え、再計画に要する時間が増大する可能性があり、患者への負担をより軽減するためにも更なる改良が望まれる。
【0009】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたもので、アダプティブ治療の再計画に要する時間を従来に比べて短くすることが可能な放射線治療システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、放射線を照射する放射線治療システムであって、治療計画時の画像と、前記治療計画時の画像より新しい別画像と、に基づき新たな画像を作成する第一の計算を実施し、前記治療計画時の画像と、線量分布と、前記治療計画時の画像より新しい別画像と、に基づき目標とする目標線量分布を作成する第二の計算を実施し、前記目標線量分布を目標として照射パラメータを最適化することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、アダプティブ治療を従来に比べて短くすることができる。上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施例の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例1に係る放射線治療システムの全体構成図である。
【
図2】実施例1に係る放射線治療システムの再計画システムで使用されるソフトウェアの概略図である。
【
図3】実施例1に係る放射線治療システムでの再計画時のフローチャートである。
【
図4】
図3のステップS101からステップS104までのデータフローを示す図である。
【
図5】一般的な放射線治療システムにおける再計画時のデータフローを示す図である。
【
図6】実施例に係る放射線治療システムでの治療計画画像の体軸方向の断面画像の例である。
【
図7】実施例に係る放射線治療システムでの治療計画の線量分布の例である。
【
図8】実施例に係る放射線治療システムでの治療計画画像の体軸方向の断面画像の例である。
【
図9】実施例に係る放射線治療システムでの治療日画像の体軸方向の断面画像の例である。
【
図10】実施例に係る放射線治療システムでの治療日画像の体軸方向の断面画像の例である。
【
図11】実施例に係る放射線治療システムでのワークフローマネージャ10の設定画面の例である。
【
図12】一般的な放射線治療システムにおける目標線量分布を作成した結果の例である。
【
図13】実施例に係る放射線治療システムでの目標線量分布を作成した結果の例である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明の放射線治療システムの実施例を、図面を用いて説明する。なお、以下の記載および図面は、本発明を説明するための例示であって、説明の明確化のため、適宜、省略および簡略化がなされている。本発明は、他の種々の形態でも実施する事が可能である。特に限定しない限り、各構成要素は単数でも複数でも構わない。
【0014】
なお、実施形態を説明する図において、同一の機能を有する箇所には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0015】
図面において示す各構成要素の位置、大きさ、形状、範囲などは、発明の理解を容易にするため、実際の位置、大きさ、形状、範囲などを表していない場合がある。このため、本発明は、必ずしも、図面に開示された位置、大きさ、形状、範囲などに限定されない。
【0016】
同一あるいは同様な機能を有する構成要素が複数ある場合には、同一の符号に異なる添字を付して説明する場合がある。ただし、これらの複数の構成要素を区別する必要がない場合には、添字を省略して説明する場合がある。
【0017】
<実施例1>
本発明の放射線治療システムの実施例1について
図1乃至
図13を用いて説明する。
【0018】
最初に、放射線治療システムの全体構成について
図1を用いて説明する。
図1は、実施例1に係る放射線治療システムの全体構成図である。
【0019】
実施例1に係る放射線治療システム1は、
図1に示すように、ワークフローマネージャ10、患者位置決めシステム11、再計画システム12、患者QA(Quality Assurance)システム13、撮像装置20、撮像制御装置21、照射装置30、照射制御装置31、回転ガントリー40、ガントリー制御装置41、カウチ50、カウチ制御装置51を備える。
【0020】
患者60を載せるベッドをカウチ50と呼ぶ。カウチ50はカウチ制御装置51からの指示に基づき、直交する3軸の方向へ移動することができ、さらにそれぞれの軸を中心として回転することができる。これらの移動と回転により、標的61の位置を所望の位置に移動することができる。
【0021】
撮像装置20は撮像制御装置21の指示に基づき、カウチ50に固定された患者60および標的61の3次元画像を計測する。3次元画像とは、CT画像やコーンビームCT画像、MRI画像であり、以下では治療日画像と記す。
【0022】
照射装置30は照射制御装置31の指示に基づき治療に用いる放射線を生成する。具体的には、放射線のエネルギー、照射位置および照射量を制御することで、標的61に対して所望の線量分布を形成する。照射装置30の一部は回転ガントリー40に設置されており、回転ガントリー40と共に回転することができる。回転ガントリー40は、ガントリー制御装置41の指示に基づき所望の角度に移動させられる。回転ガントリー40の角度を変更することで、所望の角度から放射線を照射することができる。
【0023】
患者位置決めシステム11は、治療計画時のCT画像(以下、治療計画画像)と撮像装置20で取得された治療日画像とに基づき、照射装置30に対する患者60の位置補正量を計算する。オペレータ70は計算結果を確認し、位置補正量を決定する。決定された位置補正量に基づき、カウチ50の設置位置を計算し、カウチ制御装置51に設定する。
【0024】
再計画システム12は、治療計画画像と治療日画像とに基づき、再計画に用いる合成CT画像を生成する。更に、合成CT画像上で標的および正常組織の領域を特定し、それらの輪郭データを作成する。また、合成CT画像と輪郭データに基づき、放射線の照射パラメータを最適化して当日プランを作成する。更に、当日プランの線量分布を求め、ワークフローマネージャ10の表示装置102に表示する。オペレータ70は表示装置102に表示された画面を確認することで当日プランをその日の治療に用いるか否かを判断する。
【0025】
患者QAシステム13は、当日プランを検証し、オペレータは検証結果を確認して承認する。
【0026】
ワークフローマネージャ10は、撮像制御装置21、照射制御装置31、ガントリー制御装置41、カウチ制御装置51、患者位置決めシステム11、再計画システム12および患者QAシステム13に接続され、治療のワークフローの進行状況を監視および管理する。
【0027】
ワークフローマネージャ10は、各種パラメータ等を入力するための入力装置101、表示装置102、メモリ(記憶媒体)103、データベース(記憶媒体)104、ワークフローの進行状況監視、管理を実施する演算処理装置105(演算素子である制御装置)、通信装置106を有する。
【0028】
ワークフローマネージャ10は、各種情報処理が可能な装置、一例としてコンピュータ等の情報処理装置から構成される。
【0029】
演算素子は、例えばCPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphic Processing Unit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等である。記憶媒体は、例えばHDD(Hard Disk Drive)などの磁気記憶媒体、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、SSD(Solid State Drive)などの半導体記憶媒体等を有する。また、DVD(Digital Versatile Disk)等の光ディスク及び光ディスクドライブの組み合わせも記憶媒体として用いられる。その他、磁気テープメディアなどの公知の記憶媒体も記憶媒体として用いられる。
【0030】
記憶媒体には、ファームウェアなどのプログラムが格納されている。ワークフローマネージャ10の動作開始時(例えば電源投入時)にファームウェア等のプログラムをこの記憶媒体から読み出して実行し、ワークフローマネージャ10の全体制御を行う。また、記憶媒体には、プログラム以外にも、ワークフローマネージャ10の各処理に必要なデータ等が格納されている。
【0031】
あるいは、ワークフローマネージャ10を構成する構成要素の一部がLAN(Local Area Network)を介して相互に接続されていてもよいし、インターネット等のWAN(Wide Area Network)を介して相互に接続されていてもよい。
【0032】
また、図示は省略するが、患者位置決めシステム11等、放射線治療システム1を構成する各種装置、システムもコンピュータ等の情報処理装置から構成される。
【0033】
図2は、実施例に係る再計画システム12で使用されるソフトウェアの概略図である。再計画システム12は、
図2に示すように、輪郭作成モジュール121、計画用画像作成モジュール122、目標線量分布作成モジュール123、照射パラメータ最適化モジュール124を有する。
【0034】
図3は再計画時のフローチャートである。再計画システム12は再計画が実行される前に、予め作成された治療計画データおよび治療日画像をワークフローマネージャ10のデータベース104から入力され保持している。ここで、治療計画データとは、治療計画画像、治療計画時の輪郭データ、照射パラメータ、治療計画の線量分布データを含む。
【0035】
まず、
図3に示すように、輪郭作成モジュール121により、治療計画時の治療計画画像より新しい治療日画像に基づき、標的および正常組織の領域を特定し、それらの輪郭データを作成する(ステップS101)。また、治療計画画像および治療日画像について、目標線量分布作成用の輪郭データを作成する(ステップS101)。
【0036】
次いで、計画用画像作成モジュール122により、治療計画画像と治療日画像に基づき、再計画に用いる合成CT画像を生成する(ステップS102)。このステップS102の処理が、治療計画画像と、治療日画像と、に基づき新たな画像を作成する第一の計算に相当する。
【0037】
ステップS102では、具体的には、非剛体レジストレーション(Deformable Image Registration;以下、DIRと示す)によって、治療日画像に基づき、治療計画画像を変形することで合成CT画像を生成する。その際、ステップS101で作成した輪郭データを用いても良い。ここで、非剛体レジストレーションとは、被変形画像の各画素の位置をそれに対応する目標画像の画素位置に移動させるベクトルを生成し、被変形画像を目標画像に一致するように変形させることを示す。
【0038】
次いで、目標線量分布作成モジュール123により、標的および目標線量分布作成用の輪郭データと治療計画の線量分布データとに基づき、治療日の目標線量分布を作成する(ステップS103)。このステップS103の処理が、治療計画時の画像と、線量分布と、治療計画画像より新しい別画像と、に基づき目標とする目標線量分布を作成する第二の計算に相当する。
【0039】
ステップS103では、具体的には、目標線量分布作成用の輪郭データに基づき、DIRによって、治療計画画像を治療日画像に対して変形し、変形量であるDVF(Deformation Vector Field)を計算する。更に、このDVFに基づき治療計画の線量分布を変形することで目標線量分布を算出する。ここで、このステップS103における目標線量分布を算出するための変形計算は、ステップS102の変形計算とは異なる計算条件やアルゴリズムを用いる。
【0040】
次いで、照射パラメータ最適化モジュール124により、ステップS102において生成した合成CT画像、およびステップS103において生成した輪郭データに基づき、目標線量分布を実現する照射パラメータを最適化計算により求める(ステップS104)。更に、最適化計算によって得られた照射パラメータによって照射した場合の目標線量分布を計算して、ワークフローマネージャ10の表示装置102に画面として表示する(ステップS104)。
【0041】
その後、オペレータ70は、ワークフローマネージャ10の表示装置102に表示された目標線量分布を確認して、その日の治療に適用可能かどうかを判断する(ステップS105)。ステップS105において適用不可と判断された場合は最適化の条件を変更したのち、再度ステップS104が実行される。適用可と判断された場合は再計画は完了し、当日プランは患者QAにより検証される。
【0042】
図4はステップS101からステップS104までのデータフローを示す図である。目標線量分布の作成と合成CT画像の作成を異なる変形計算で実施する(第一の計算および第二の計算)点が本実施例の特徴である。比較のために、一般的な放射線治療システムによる再計画時のデータフローを
図5に示す。
【0043】
次に、
図6から
図10を用いて、目標線量分布作成用の輪郭データの作成方法と目標線量分布の作成方法を説明する。
【0044】
図6は治療計画画像の体軸方向の断面画像の例を示す。体輪郭62の中に標的61Aが表示されている。
【0045】
図7は、治療計画の線量分布の例を示す。標的61Aの外側にある幅を持って高線量領域63が形成され、その周りに低線量領域64が形成される。標的61Aの外側まで高線量領域63が広がることで、治療中の標的61Aの位置変化が起きた場合であっても標的61Aに付与される線量の低下を防ぐことが可能になる。
【0046】
図8は治療計画画像の体軸方向の断面画像の例を示す。目標線量分布作成用の輪郭データとして標的61Aを拡大した拡大輪郭65Aが表示されている。あらかじめ設定された拡大量に従って標的61Aを三次元的かつ等方的に拡大することで拡大輪郭65Aは作成される。また、
図8に示す通り、拡大輪郭65Aは拡大量を変化させて複数作成することもできる。
【0047】
図9は治療日画像の体軸方向の断面画像の例を示す。体輪郭62の中に標的61Bが表示されている。
図9は、治療計画時の標的61Aと比較して治療日の標的61Bは縮小して、かつ一部に凹みが生じた状況を模している。
【0048】
図10は治療日画像の体軸方向の断面画像の例を示す。目標線量分布作成用の輪郭データとして標的61Bを拡大した輪郭65Bが表示されている。あらかじめ設定された拡大量に従って標的61Bを三次元的かつ等方的に拡大することで輪郭65Bは作成される。また、
図10に示す通り、輪郭65Bは拡大量を変化させて複数作成することもできる。作成する輪郭65Bの数およびその拡大量は拡大輪郭65Aの作成と同等とする。
【0049】
ステップS103での目標線量分布作成の際は、標的および目標線量分布作成用の輪郭データに基づき、DIRによって、治療計画画像を治療日画像に対して変形し、変形量であるDVFを計算する。具体的には、標的61Aが標的61Bに、拡大輪郭65A1が拡大輪郭65B1に、拡大輪郭65A2が拡大輪郭65B2にそれぞれ一致するように拡大変形することでDVFを計算する。このDVFに基づき治療計画の線量分布を変形することで治療日の目標線量分布を算出する。
【0050】
図11はワークフローマネージャ10の設定画面の一例を示す。オペレータ70はワークフローマネージャ10を操作し、作成する拡大輪郭の数および拡大する間隔を指定する。
【0051】
次に、本実施例の効果について説明する。
【0052】
比較のために、まず、従来の目標線量分布作成方法を説明する。従来の方法では、治療計画画像および治療日画像、標的及び正常組織の輪郭データに基づき変形することでDVFを計算し、そのDVFにより治療計画の線量分布を変形していた(
図5参照)。
【0053】
図12は従来の方法で目標線量分布を作成した結果の一例を示す。治療計画時の標的61Aと比較して治療日の標的61Bは縮小して、かつ一部に凹みが生じた場合、それに応じて目標線量分布の高線量領域63が標的61Bに近接する可能性がある。この場合、標的61Bの外側の高線量領域63が狭くなり、位置ずれや合成CT画像の誤差に対するロバスト性が低下する可能性がある。更に、凹みのある高線量領域63や、急峻な線量勾配を持つ線量分布といった照射パラメータの最適化では実現が困難な目標線量分布が得られる可能性がある。この場合、最適化の際に、実現困難な線量分布の影響により、最適化の繰り返し回数が増え、再計画に要する時間が増大する可能性がある。
【0054】
図13は本実施例の方法で目標線量分布を作成した結果の一例を示す。本実施例による目標線量分布の作成では、拡大輪郭65に基づき変形することでDVFを計算し、そのDVFにより治療計画の線量分布を変形して治療日の目標線量分布を求める。そのため、標的61の外側の高線量領域63の広がり方を維持した線量分布に変形されることにより、標的61Bに対する高線量領域63の近接、線量分布の凹み、急峻な線量勾配は軽減される。結果として、実現容易な目標線量分布が得られることで、最適化時間が増大する可能性が低下し、アダプティブ治療の際の再計画に必要な時間を従来に比べて短時間にすることができる。
【0055】
<実施例2>
本発明の実施例2の放射線治療システムについて説明する。
【0056】
本実施例の放射線治療システムと実施例1の放射線治療システム1との違いは、拡大輪郭65の作成方法である。本実施例では以下に示す(1)、および(2)の2手順によって拡大輪郭65を作成する。
【0057】
(1)放射線の各照射方向から見た深さ方向については水等価通過長で輪郭を拡大する。これに対し、放射線の各照射方向に対して横方向から見た方向については、実距離で拡大する。これにより、照射方向毎の部分拡大輪郭を作成する。
【0058】
(2)照射方向毎の部分拡大輪郭の論理和により拡大輪郭を作成する。
【0059】
その他の構成・動作は前述した実施例1の放射線治療システムと略同じ構成・動作であり、詳細は省略する。
【0060】
次に、本実施例の効果について説明する。
【0061】
肺などの粒子線治療において、標的61の外側に密度が小さい部分がある場合、治療計画による標的外近傍の高線量領域63は標的61に対して等間隔とはならないことが知られている。具体的には、照射方向から見た水等価通過長に応じて高線量領域63の範囲は変化する。
【0062】
本実施例では、照射方向から見た水等価通過長に基づき拡大輪郭65を作成する。そのため、拡大輪郭65Aの形状を治療計画の高線量領域63の形状に近づけることが容易となる。これにより、標的61の外側の高線量領域63の広がり方を維持した目標線量分布の作成が容易になり、結果として、実現容易な目標線量分布が得られ、最適化時間が増大する可能性をより低下させることができる。
【0063】
<実施例3>
本発明の実施例3の放射線治療システムについて説明する。
【0064】
本実施例の放射線治療システムと他の実施例の放射線治療システムとの違いは、拡大輪郭65の作成方法である。本実施例の放射線治療システムでは、実施例1または実施例2の放射線治療システムにおいて、作成された拡大輪郭65に対してフィルタ処理を実施して拡大輪郭65を修正する。
【0065】
具体的には、拡大輪郭65の内と外を二値で置き換えた三次元画像に対して、ガウスフィルタなどの画像フィルタを適用する。得られた三次元画像に対して、あらかじめ設定した画素値以上のボクセルを拡大輪郭65の内部領域と考えて拡大輪郭65を作成する。
【0066】
次に、本実施例の効果について説明する。本実施例では、画像フィルタを適用して拡大輪郭65を作成する。そのため、拡大輪郭65の凹みが軽減される。結果として、実現容易な目標線量分布が得られることで、最適化時間が増大する可能性をより低下させることができる。
【0067】
<実施例4>
本発明の実施例4の放射線治療システムについて説明する。
【0068】
本実施例の放射線治療システムと他の実施例の放射線治療システムとの違いは、目標線量分布の作成方法である。本実施例の放射線治療システムでは、本実施例では実施例1乃至3の放射線治療システムにおいて、作成された目標線量分布に対してガウスフィルタなどの画像フィルタを適用して目標線量分布を修正して、修正された目標線量分布を用いる。
【0069】
次に、本実施例の効果について説明する。本実施例では、画像フィルタを適用して目標線量分布を作成する。そのため、目標線量分布の凹みや急峻な線量勾配が軽減される。結果として、実現容易な目標線量分布が得られることで、最適化時間が増大する可能性がより低下する。
【0070】
<実施例5>
本発明の実施例5の放射線治療システムについて説明する。
【0071】
本実施例の放射線治療システムと他の実施例の放射線治療システムとの違いは、目標線量分布の作成方法である。本実施例の放射線治療システムでは、目標線量分布を作成する変形の際に、拡大輪郭65を用いず、変形計算の目的関数に目標線量分布の凹みや急峻な線量勾配を軽減するペナルティ項を追加する。具体的には、変形後の線量勾配に対するペナルティ項および、照射方向から見た深さ方向の線量分布の凹みに対するペナルティ項を追加する。
【0072】
次に、本実施例の効果について説明する。本実施例では、目的関数に目標線量分布の凹みや急峻な線量勾配を軽減するペナルティ項を追加した変形計算により目標線量分布を作成する。そのため、目標線量分布の凹みや急峻な線量勾配が軽減される。結果として、実現容易な目標線量分布が得られることで、最適化時間が増大する可能性がより低下する。
【0073】
<その他>
なお、本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記の実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【0074】
上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部または全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD等の記録装置、または、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。
【0075】
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
【符号の説明】
【0076】
1:放射線治療システム
10:ワークフローマネージャ
11:患者位置決めシステム
12:再計画システム
13:患者QAシステム
20:撮像装置
21:撮像制御装置
30:照射装置
31:照射制御装置
40:回転ガントリー
41:ガントリー制御装置
50:カウチ
51:カウチ制御装置
60:患者
61:標的
61A:治療計画画像上の標的
61B:治療日画像上の標的
62:体輪郭
63:高線量領域
64:低線量領域
65A,65A1,65A2:治療計画画像上の標的を拡大した輪郭
65B,65B1,65B2:治療日画像上の標的を拡大した輪郭
70:オペレータ
101:入力装置
102:表示装置
103:メモリ(記憶媒体)
104:データベース(記憶媒体)
105:演算処理装置
106:通信装置
121:輪郭作成モジュール
122:計画用画像作成モジュール
123:目標線量分布作成モジュール
124:照射パラメータ最適化モジュール