(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023039139
(43)【公開日】2023-03-20
(54)【発明の名称】炭素電極及びその製造方法並びに微生物燃料電池及びそれを用いた廃水処理方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/96 20060101AFI20230313BHJP
H01M 8/16 20060101ALI20230313BHJP
H01M 4/88 20060101ALI20230313BHJP
C02F 3/34 20230101ALI20230313BHJP
C02F 3/10 20230101ALI20230313BHJP
【FI】
H01M4/96 M
H01M8/16
H01M4/96 B
H01M4/88 C
C02F3/34 Z
C02F3/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021146156
(22)【出願日】2021-09-08
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100088203
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100100192
【弁理士】
【氏名又は名称】原 克己
(74)【代理人】
【識別番号】100198269
【弁理士】
【氏名又は名称】久本 秀治
(72)【発明者】
【氏名】大窪 修一
(72)【発明者】
【氏名】山田 勝弘
(72)【発明者】
【氏名】芳野 英明
(72)【発明者】
【氏名】藤野 健一
(72)【発明者】
【氏名】山田 果歩
(72)【発明者】
【氏名】福島 寿和
【テーマコード(参考)】
4D003
4D040
5H018
【Fターム(参考)】
4D003AB01
4D003EA14
4D003EA25
4D003FA02
4D040DD31
5H018AA01
5H018BB01
5H018BB11
5H018BB12
5H018CC01
5H018EE05
5H018EE11
5H018HH01
5H018HH02
5H018HH04
5H018HH05
5H018HH08
5H018HH09
(57)【要約】
【課題】微生物燃料電池の用途分野で大量の廃水を効率的かつ経済的に処理することができ、しかも、微生物が高濃度で付着できる気孔径を有しながら、使用中にコークス粒子の脱落のない機械的強度に優れた炭素電極、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】コークス粒子とバインダーの炭化物とを有して、X線CT画像解析で測定される開気孔における気孔径100~600μm範囲の気孔含有率が80%以上であると共に、前記開気孔の比表面積が3mm
2/mm
3以上の炭素電極であり、また、カ焼温度が異なる低温カ焼コークスと高温カ焼コークスの2種類のピッチコークスを粉砕し、粒径75μm未満が30~50重量%となるように混合した混合コークス粉に、バインダーを配合して混錬、成形した後、非酸化性雰囲気中800~1600℃で焼成して機械加工するか、又は破砕する炭素電極の製造方法である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物燃料電池のアノード電極に用いられる炭素電極であって、前記炭素電極はコークス粒子とバインダーの炭化物とを有して、X線CT画像解析で測定される前記炭素電極の開気孔に含まれる気孔径100~600μm範囲の気孔含有率が80%以上であると共に、前記開気孔の比表面積が3mm2/mm3以上であることを特徴とする炭素電極。
【請求項2】
前記炭素電極の粒径4mm粒での圧壊荷重が30N以上である請求項1に記載の炭素電極。
【請求項3】
前記炭素電極が非黒鉛質の炭素材料からなる請求項1又は2に記載の炭素電極。
【請求項4】
石炭系又は石油系重質油から製造されるピッチコークスであって、カ焼温度が異なる低温カ焼コークスと高温カ焼コークスの2種類のピッチコークスを粉砕して、粒径75μm未満が30~50重量%となるように混合した混合コークス粉に、前記混合コークス粉100重量部に対してバインダーを40~60重量部の割合で配合して混錬、成形した後、非酸化性雰囲気中800~1600℃で焼成した成形体を所定の形状に機械加工するか、或いは破砕することを特徴とする微生物燃料電池のアノード電極として用いられる炭素電極の製造方法。
【請求項5】
前記カ焼温度は、低温カ焼コークスが700~1100℃で、高温カ焼コークスが1200~1600℃である、請求項4に記載の炭素電極の製造方法。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1項に記載の炭素電極をアノードに用いた微生物燃料電池。
【請求項7】
請求項6に記載の微生物燃料電池による廃水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物燃料電池のアノード電極として用いられる炭素電極及びその製造方法並びに微生物燃料電池及びそれを用いた廃水処理方法に関し、好適には、微生物を利用した廃水処理分野において、従来の活性汚泥法と比べて低コストで処理することができ、廃水中に含まれる有機物等の汚濁物質を効率よく分解できる微生物燃料電池のアノード電極として用いられる炭素電極及びその製造方法、並びにその炭素電極を用いた微生物燃料電池及びこの微生物燃料電池を用いた廃水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、生活廃水や工場廃水を処理する方法として、活性汚泥法や嫌気的廃水処理法など微生物を利用した生物処理法が利用されている。なかでも好気性微生物を利用した活性汚泥法は、大量の廃水を安定して連続処理することが可能であり、処理された水質も良好である利点を有するが、好気性微生物が必要とする酸素を大量に供給(曝気)するための電気エネルギーや、廃水処理に伴い大量に発生する余剰汚泥を処理するためのコストが問題となっている。
【0003】
これらの問題を解決するために微生物燃料電池(Microbial Fuel Cell:MFC)が注目されている。微生物燃料電池の発電の仕組みは、嫌気性条件下で微生物が有機物を分解(酸化)することによって生じる電子をアノード(負極)で受取り、外部回路を経由してカソード(正極)に移動した電子は、有機物の分解で生成した水素イオン及び酸素とカソード(正極)で反応して水が生成される。
【0004】
通常、MFCのアノード電極は導電性の炭素材料や金属材料が使用されている。これらの材料を用いたアノード電極の表面に発電菌を含む微生物が増殖して定着することで、廃水中の有機物を分解して、生成した電子をアノード電極に受け渡し、微生物は有機物の分解を促進することができる。このように、微生物燃料電池は、廃水中の有機物を微生物によって分解する廃水処理装置としての機能を併せ持ち、運転時に大量の電力を要する曝気の必要がなく、産業廃棄物となる余剰汚泥の発生が抑制される点でメリットがある。
一方で、活性汚泥法と比べて廃水に含まれる有機物の処理速度が遅いために、微生物を電極の表面に高濃度に定着させる必要があり、且つ電極自身が安価で大量に供給できるアノード電極であることが望まれる。
【0005】
かかる問題を解決するために、特許文献1では、X線回折法で測定される格子面間隔(d002)が0.340nm以上で結晶子サイズ(Lc)が10nm未満の低結晶性炭素を用いた電極が開示されている。低結晶性炭素は親水性であることから、電極に対する微生物の親和性が高まり付着しやすくなるとしているが、やはり、電極表面の気孔内部に微生物が高濃度に付着するには不十分であった。
【0006】
特許文献2、3では、セルロース由来の材料を焼成した電極の孔径を大きくすることで、微生物が電極内部にまで到達して微生物の付着面積を増やすことができ、微生物燃料電池としての効率を高めることが開示されている。しかしながら、電極の気孔径を大きくすると、水環境中で機械的な強度が低下して電極としての耐久性が悪化し、長期間の使用に耐えることができない。
【0007】
特許文献4では、電極に対して水や微生物との濡れ性を高めるために、親水性で多孔質な樹脂と導電性材料とが共に分散された多孔質電極用組成物が開示されている。しかしながら、この多孔質電極用組成物は非導電性の樹脂を含有しており、この樹脂成分の箇所に付着した微生物は、廃水中の有機物を分解したときに発生する電子の受け渡しをすることができない。従って、微生物は廃水中の有機物の分解を促進することができず、廃水を効率的に処理できない問題がある。
【0008】
一方、廃水処理を経済的な観点で実用化するには、電極の材料材質や形状的な構造においてコスト的なメリットを考慮する必要がある。特許文献5ではカーボンフェルト等の炭素繊維やステンレス等の金属を使用した電極が開示されているが、水処理用途として大量に使用される電極材料としては高価である。また、特許文献6では粉末床溶融焼結法により、例えばステンレス粉末を原料として一体的に成形された立体格子構造の電極が開示されているが、水処理用途として大量に使用される電極としては高価なものでありコスト的に不利である。
【0009】
大量かつ安価に供給可能な電極材料としては、コークス粉(ピッチコークス等の粉砕粉)にバインダーの重質油ピッチを添加して混錬、成形、焼成した炭素材料が知られている。例えば、特許文献7ではコークス粉の粒子の大きさを揃えることによって、気孔径を調節して気孔率が大きい多孔質炭素材料の製造方法が開示されている。しかしながら、微生物が多く付着するための大きな気孔径を有する炭素材料を製造する場合には、粒子径が揃った大粒径のコークス粉を使用するので、単位体積当たりの粒子結合箇所が少なく機械的な強度が弱くなり、使用中に電極の表面からコークス粒子が脱落するなどして長期間の使用に耐えることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2019-164978号公報
【特許文献2】特開2014-93185号公報
【特許文献3】特開2015-82396号公報
【特許文献4】特開2019-216047号公報
【特許文献5】特開2016-154106号公報
【特許文献6】特開2019-160454号公報
【特許文献7】特開平1-270576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
微生物燃料電池用のアノード電極として、コークス原料を用いて製造される炭素電極は大量かつ安価に供給可能な電極として好適であるが、コークス粒子を大粒径の粒度に揃えて気孔径を大きくする従来の技術では、機械的な強度が弱いため電極として長期間の使用に耐えられない。従って、コークス粒子をバインダーで焼結した炭素電極は、微生物が多く付着する大きさの気孔を備えつつ、耐久性に優れた強度を保有することとの両立が困難であった。
【0012】
本発明者らは、上記の問題を解消するために鋭意研究を進めた結果、一般的に使用される高温でカ焼したコークス粒子に低温でカ焼したコークス粒子を混合した混合コークス粉を使用すると、焼成時にバインダーの熱分解ガスによる発泡作用が促進されて気孔径が大きくなることを見出し、大粒径のコークス粉を使用しなくても、微生物の活動に適した大きさの気孔径を備えた炭素電極を得ることに成功した。
これにより、多孔質化を阻害していたミクロ粒径のコークス微粉を配合しても気孔径を大きくすることが可能となり、コークス微粉により焼結後の単位体積当たりの粒子結合箇所が多くなって機械的な強度に優れた炭素電極を得ることができるようになる。
【0013】
ここで、微生物の大きさは1~2μm以上であるが、これらは増殖することによってコロニーを形成して数十μm~ミリオーダーの気孔の内部で活動する。多孔質材料の気孔径の測定手法は水銀圧入法が一般的に適用されるが、水銀圧入法は最大数百μm位までの気孔径しか精度よく測定することができず、微生物が活動している数百μmより大きい気孔径を正確に測定できない。そこで、およそ1μmからミリオーダーの大きさの気孔径を解析できるX線CT画像解析により、炭素電極の気孔性状について研究を重ねた結果、微生物が多く付着して活動する気孔径の範囲を特定して、先に述べた混合コークス粉を用いながら、微生物が最も効率的に活動し得る炭素電極を得るに至った。
【0014】
本発明は、上記知見に基づいて開発されたものであり、その目的とする解決課題は、微生物燃料電池の用途分野で、大量の廃水を効率的かつ経済的に処理することができ、しかも、安価で大量供給可能な炭素原料で電極が製造できて、微生物が高濃度で付着できる気孔径を有しながら、使用中にコークス粒子の脱落のない機械的な強度に優れた炭素電極とその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決するために見出された本発明の炭素電極は、コークス粒子とバインダーの炭化物とを有して、X線CT画像解析で測定される前記炭素電極の開気孔に含まれる気孔径100~600μm範囲の気孔含有率が80%以上であると共に、開気孔の比表面積が3mm2/mm3以上である。
また、本発明の炭素電極は、粒径4mm粒での圧壊荷重が30N以上であるのが好ましい。
更に、本発明の炭素電極は、非黒鉛質の炭素材料からなるのが好ましい。
一方で、上記の課題を解決するために見出された本発明の炭素電極の製造方法は、石炭系又は石油系重質油から製造されるピッチコークスであって、カ焼温度が異なる低温カ焼コークスと高温カ焼コークスの2種類のピッチコークスを粉砕して、粒径75μm未満が30~50重量%となるように混合した混合コークス粉に、前記混合コークス粉100重量部に対してバインダーを40~60重量部の割合で配合して混錬、成形した後、非酸化性雰囲気中800~1600℃で焼成した成形体を所定の形状に機械加工するか、或いは破砕する。このとき、低温カ焼コークスのカ焼温度が700~1100℃であり、高温カ焼コークスのカ焼温度が1200~1600℃であることが好ましい。
加えて本発明は、上記課題を解決した炭素電極をアノード電極に用いた微生物燃料電池であり、また、前記燃料電池を用いた廃水処理方法を含む。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、カ焼温度が異なる2種類のコークス粉を原料としてミクロ粒径のコークス微粉を配合することで、焼成時に適度な発泡性と強固な焼結性が発現し、微生物の活動に適した大きさの気孔径を備えると共に、機械的な強度に優れた炭素電極を得ることができる。したがって、本発明の炭素電極は、廃水処理向け微生物燃料電池のアノード電極として用いられる炭素電極として好適に使用することができて、廃水処理を経済的な観点で実用化する上で極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】本発明の他形態の微生物燃料電池の模式図である。
【
図3】半円柱の炭素電極の累積の気孔含有率を示す分布図である。
【
図4】直方体の炭素電極の累積の気孔含有率を示す分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の炭素電極は、コークス粒子とバインダーの炭化物とを有しており、微生物燃料電池のアノード電極として炭素電極の表面には微生物が多く生存できる多数の開気孔を有している。これらの開気孔については、X線CT装置で得られる炭素電極の三次元画像データを解析することによって、炭素電極の気孔径、気孔体積、気孔表面積を算出することが可能であり、炭素電極の気孔性状を特定することができる。
【0019】
X線CT画像解析で測定される炭素電極の気孔径100~600μm範囲は、微生物が多く付着して増殖するのに適した気孔径を示すものであり、この気孔径範囲の開気孔の気孔含有率が80%以上の割合で存在する必要があり、好ましくは90%以上である。80%未満では微生物が付着して活動するには表面積が十分でない。
すなわち、微生物は一般的に電極の表面を膜状に覆うような形で付着して廃水から栄養分を取り込むと共に生成した電子を電極に伝達するため、炭素電極および廃水とある程度の表面積をもって接している必要がある。このため、気孔径が100μmを下回ると微生物が気孔内で生存・増殖するための表面積を確保することができず、気孔径が600μmを超えると気孔内に微生物が存在しない無効な空間が発生して、微生物が付着する表面積を十分に確保することができない。なお、気孔径100~600μm範囲の気孔含有率の測定は後述の実施例に示したとおりであるが、開気孔の内側に内接した複数の球の直径を気孔径として算出し、その気孔径の体積(球体積)を全気孔体積(全球体積)で割り算した比率を気孔含有率とした。従って、気孔径100~600μm範囲の気孔含有率とは、全気孔体積の中で100~600μmの気孔体積が占める比率を表す。
【0020】
さらに、X線CT画像解析で測定される開気孔の比表面積は3mm2/mm3以上である必要があり、好ましくは4mm2/mm3以上である。比表面積が3mm2/mm3を下回ると微生物が付着する表面積を十分に確保することができず、大量の廃水を効率的に処理することができない。なお、開気孔の比表面積の求め方についても後述の実施例に示したとおりであるが、画像処理した炭素電極の開気孔を抽出して開気孔の内面に存在する画素の面積を積算することで表面積を算出し、これを炭素電極の体積で割り算することで比表面積を求めることができる。なお、比表面積は大きい方が微生物の付着の観点では有利であるが、炭素電極としての強度等を考慮すると比表面積は7mm2/mm3以下であるのが望ましいと言える。
【0021】
本発明の炭素電極は、炭素電極を粒径4mm粒にしたときの圧壊荷重が30N以上であることが必要である。圧壊荷重は50N以上であることが好ましいが、上限については特に制限はない。なお、圧壊荷重が30Nを下回ると炭素電極の強度が十分でないために耐久性に劣り、使用中に粒子の脱落や電極の崩壊が発生して廃水処理効率の低下を招く。なお、この圧壊荷重の求め方についても後述の実施例に示したとおりであるが、炭素電極を粗粉砕機や金属製ハンマーなどで砕くことによって破砕して3.35~4.75mmの範囲で篩分けして粒径4mm粒の試験片を得て、その圧壊荷重を求めたものである。
【0022】
次に、本発明の炭素電極の製造方法を、原料調製、混練、成形、焼成、加工の各工程について順を追って説明する。
【0023】
(原料調製)
炭素電極に使用する原料は、石炭系又は石油系重質油から製造されるピッチコークスであり、カ焼温度が異なる低温カ焼コークスと高温カ焼コークスの2種類のコークスを使用する。バインダーは石炭系又は石油系ピッチを主に使用することができる。
本発明で使用されるピッチコークスは、重質油をディレードコーカーで熱処理した揮発分をおよそ4~8%含む生コークスを、更に700~1600℃のカ焼温度で熱処理して揮発分を1.5%以下、好ましくは1%以下に低減して得られるものであるが、低温カ焼コークスはピッチコークスをカ焼温度700~1100℃で熱処理されたものが望ましく、より好ましくは700~1000℃で熱処理されたものが良く、高温カ焼コークスはピッチコークスをカ焼温度1200~1600℃で熱処理されたものが望ましく、より望ましくは1200~1500℃で熱処理されたものがよい。
カ焼温度が異なるピッチコークスはそれぞれ個別にアトマイザーやボールミル等の粉砕機により粉砕される。これら2種類の粉砕粒径は同程度でよく、いずれも最大粒径は3mmまでとし、好ましくは最大粒径が1mmである。粉砕された粉末はそれぞれを篩分けしたのちに混合する。
【0024】
粉砕し篩分けされた2種類のピッチコークス粉を混合する場合、低温カ焼コークス粉の配合比率が多いほど、焼成後の成形体の重量減少率が大きく、成形体の内部に大きい気孔が形成されて多孔質化しやすい。
この理由は明らかではないが、高温カ焼コークス粉と比べて低温カ焼コークス粉は細孔量が少なく、混錬したときにバインダーのピッチ成分を細孔に吸収しきれないため、ガス化しやすいピッチ成分の一部が炭化せずに揮発して成形体の内部で発泡して大きい気孔を形成することを推定した。一般的に成形体のバインダー比率を上げて焼成時にピッチの熱分解ガスの発生を促進すれば成形体を発泡させることができるが、バインダー比率を上げるだけでは成形体の軟化とガス化量の増加で成形体が形状崩壊する。
【0025】
本発明の優れた点は、カ焼温度の異なるピッチコークス粉を混合して使用することで、焼成時の熱分解ガスによる発泡性が調整されて、成形体が形状崩壊することなく数十μm~数mm範囲の大きさの気孔径を有する炭素電極を容易に得ることができることである。
低温カ焼コークス粉と高温カ焼コークス粉を混合した混合コークス粉は、粒径75μm未満が混合コークス粉全体の30~50重量%となるように粒度配合する。75μm未満のコークス粉が30重量%より少ないと、成形体の焼結性が弱くなり機械的な強度が十分に得られない。一方、75μm未満のコークス粉が50重量%より多いと、成形体が過剰に緻密化して開気孔率、気孔径が低下して本発明の気孔性状のものを得ることが困難となる。
【0026】
(混錬)
低温カ焼コークス粉と高温カ焼コークス粉を混合した混合コークス粉100重量部に対して、好ましくはバインダーとして石炭系又は石油系ピッチを40~60重量部の割合で配合し、ニーダーなどの混錬機でピッチの軟化点以上の温度で十分に熱混錬する。このとき、ピッチの配合割合が40重量部より少ないと、成形体の焼結性が弱く機械的な強度が十分に得られないおそれがある。一方、ピッチの配合割合が60重量部より多いと、焼成時に成形体が軟化しやすくピッチの熱分解による揮発性ガスが過剰に発生し、成形体が変形するほど激しく発泡して本発明の気孔性状のものを得ることが困難となる。
バインダーはピッチの代わりにフェノール樹脂などの残炭率の高い(20%以上)合成高分子材料を使用することもできる。合成高分子材料は金属元素などの不純物を殆ど含まないことから高度な清浄性が求められる場合においては好ましく使用される。
【0027】
炭素材料への添加材として、鉄は生体活性物質であるほか、電子伝達物質としての働きを有することから、炭素電極に鉄分を含有させてもよい。したがって、混錬時には四酸化三鉄、酸化第二鉄、単体鉄などから選ばれる鉄化合物の粉末を、全ての原材料に占める割合として20重量部までを上限にして配合してもよい。これらの鉄化合物の粒径は、最大粒径は3mmまでがよく、好ましくは最大粒径が1mmである。
【0028】
(成形)
混合コークス粉とバインダーの混錬物は、押出成形法、金型成形法、冷間静水圧プレス(CIP)成形法等によって成形体にすることができる。なかでも押出成形法と金型成形法が好ましく、押出成形法は、熱混錬後に連続して混錬物をノズル口から押し出して成形するため生産効率が比較的良好であり、金型成形法はブリケット成形機による球状や楕円球状などの形状を予め付与した粒状の成形体を得られることから望ましい。
【0029】
(焼成)
得られた成形体は、焼成炉等を用いて非酸化性雰囲気中800~1600℃で焼成炭化することによって非黒鉛質の炭素材料が得られる。このとき、焼成温度が800℃未満ではピッチの炭素化が十分に進行せず、1600℃を超える温度では炭素結晶が黒鉛質に近づき、親水性や機械的強度の特性が低下する。焼成温度は900~1200℃が好ましい。
なお、非黒鉛質の炭素材料とは、X線回折法により測定される黒鉛六角網面層の平均格子面間隔d002が0.340nmを超える炭素材料であり、好ましくはd002が0.340nmを超え、0.380nm未満である低結晶性炭素である。
【0030】
(2次加工)
成形体は焼成時の発生ガスによる発泡作用によって、最表面に比べて内部の方が良好に多孔質化しやすい傾向にあるため2次加工を行うことが好ましい。焼成して得られた炭素材料は、必要とされる電極サイズに応じて機械的に切断あるいは外表面を切削するか、炭素材料を二軸破砕機やハンマークラッシャー等の粗粉砕機を用いて破砕して必要に応じて篩分けすることで炭素電極を製造することができる。また、本発明の気孔特性の範囲内でガス賦活や薬品賦活処理を行ってもよい。
【0031】
本発明の微生物燃料電池と、これを用いた廃水の処理方法を、以下に説明する。
【0032】
本発明の微生物燃料電池は、廃水を処理するための微生物燃料電池であって、カソード電極と一対で使用されるアノード電極として、本発明のアノード用炭素電極を用いる。微生物燃料電池の構造は公知の構造でよく、好ましくはアノードおよびカソード、両極間を隔離するイオン伝導性を有する隔膜で主に構成される。なお、これらを容器内に収納することがよく、隔膜は設けなくともよいが設けることが望ましい。
【0033】
微生物燃料電池におけるアノード電極は、微生物の呼吸によって生じた電子を微生物から直接、または間接に受け取る。アノード電極は導電性であり、処理対象である廃水に対して安定な材質であれば特に限定されるものではなく、ステンレスなどの金属や炭素繊維フェルトといった黒鉛材料の使用が一般的である。しかし、金属電極は処理廃水の液性により電極材質を選択する必要や、化学的に安定な金属は高価であるという問題があり、黒鉛材料は化学的な安定性は高いものの高結晶性であるがゆえに表面状態が疎水性なため、電子供与微生物の付着や増殖はあまり速くないのが実情である。これらに対して、本発明の多孔質であり非黒鉛質の炭素材料からなるアノード電極は、好ましくは低結晶性炭素であり、低結晶炭素に由来する高い親水性および微生物の活動に適した大きさの気孔径を備えているため、微生物が電極表面に広く、かつ、速やかに付着し、増殖するため、電池として出力する電力を向上でき、微生物燃料電池のアノードとして特に好ましく使用できる。
【0034】
アノード電極の形状は、円柱や板状、その他形状であっても構わない。また、処理効率を向上させるためには電極の表面積が大きいことが好ましいため、粒状電極にしてそれらを並べたり、メッシュ状の袋や容器等に充填してもよい。本発明のアノード電極は、材料強度が高いため、電極形状に対する自由度が高く、水流などの外力に対して強いこともまた好ましい一面である。
【0035】
アノード電極が受け取った電子は、外部回路を経由してカソード電極に送られる。また、微生物の呼吸によって水素イオンが生じた場合は、水素イオンがカソード電極の表面に到達する場合がある。カソード電極では、電子によって酸素を還元させる。従ってカソード電極は、上記還元反応を阻害しないものであればその構成に特に制限はなく、アノード電極と同様に処理槽中の廃水に浸漬させてもよいし、廃水と液絡する別の電解液に浸漬させてもよい。このように、実施形態によっては、本発明の微生物燃料電池は、それが廃水の処理装置となることがある。また、本発明の微生物燃料電池が、廃水の処理装置の一部に組み込まれた実施形態でもよい。
【0036】
廃水を処理するための微生物燃料電池の実施形態の例を、以下の第1、第2の実施形態によって説明する。第1の実施形態は、カソード電極を別の電解液に浸漬させた例であり、第2の実施形態は、カソード電極を廃水と大気に接触させた例である。以下、各実施形態について図面を参照して説明する。
【0037】
図1に、本発明の第1の実施形態である廃水を処理するための微生物燃料電池の模式図を示す。
図1に示す廃水の処理装置1は、廃水Aを収容する処理槽2と、廃水Aとは別の電解液Bを収容する処理槽4とを有し、処理槽2中の廃水Aに浸漬されたアノード電極3と、処理槽4の電解液Bに浸漬されたカソード電極5と、処理槽2と処理槽4とを液絡させる液絡部6が備えられている。更に、処理槽4には、電解液Bに酸素含有ガスを吹き込む曝気装置17を構成する曝気管7が挿入されている。曝気管7には送風機(図示略)が接続されている。
【0038】
処理槽2には、廃水Aの導入部2aと排出部2bとが設けられており、廃水Aを処理槽2に循環供給又は流通供給できるように構成されている。処理槽2には、廃水Aと微生物が収容され、微生物は廃水Aに添加されている。
図1には、導入部2aと排出部2bとが設けられた処理槽2を示しているが、導入部2aと排出部2bを有しないバッチ型の処理槽であってもよい。
アノード電極3は、処理槽2の内部に配置され、導線3aによって外部回路9に接続されている。アノード電極3として、本発明の多孔質な炭素成形体からなる炭素電極を適用する。
【0039】
処理槽4には、電解液Bの導入部4aと排出部4bとが設けられており、電解液Bを循環供給又は流通供給できるように構成されている。処理槽4も、導入部4aと排出部4bを有しないバッチ型の処理槽であってもよい。
カソード電極5は、処理槽4の内部に配置され、導線5aによって外部回路9に接続されている。カソード電極5は、導電性であれば特にその材質は限定されず、例えば、材質として金属や炭素からなる電極を用いることができ、より詳細には多孔質カーボン成形体やステンレスメッシュ、白金板または白金線を例示できる。
【0040】
処理槽2と4は、蓋体2cと4cによって密閉可能とされ、液絡部6を構成する液絡管2dと4dが設けられている。液絡部6は、上記液絡管2dと、液絡管4dと、それらに挟まれたプロトン伝導性膜6aとから構成されている。各液絡管2d、4dは、固定用の金具6bによって相互に固定されている。この構成により、プロトン伝導膜6aを介して廃水Aと電解液Bとの間で水素イオンが移動できるようになっている。また、処理槽2には微生物が含まれるが、プロトン伝導膜6aが物理的な障壁になって、微生物が電解液B側に拡散しないようになっている。
【0041】
なお、本実施形態の液絡部6は
図1に示す構成に限定されるものではなく、廃水Aと電解液Bとの間で水素イオンの移動を可能とし、かつ、微生物を電解液B側に拡散させないものであれば特に制限はない。
【0042】
次に、上記廃水処理装置1を用いた廃水の処理方法を説明する。
【0043】
まず、処理槽2、4にそれぞれ、廃水A、電解液Bを収容する。
廃水Aは、生分解性の汚濁物質を含む一般家庭や畜産業、鉱工業などの各種産業より排出される廃水であり、生分解性の汚濁物質の一例としてフェノール類や酢酸やプロピオン酸などの低級脂肪族カルボン酸などの有機化合物などが挙げられる。
【0044】
微生物の呼吸により生成した水素イオン及び二酸化炭素は廃水A中に拡散し、電子はアノード電極3に供与されるために、微生物はアノード電極3に付着していることが好ましく、コロニーを形成するとともにバイオフィルムを形成させてアノード電極3に付着していてもよい。
【0045】
微生物は、良好な生育条件下で次第に増殖するので、その量を適当な範囲に調整する必要があるが、通常の活性汚泥法の場合に比べて増殖量が少ないため、処理槽2からの抜き取り量が少なくて済み、処分の手間も軽減される。
【0046】
このような微生物は、例えば、廃水を活性汚泥法によって処理する際に用いられる活性汚泥中に存在している場合があるので、この活性汚泥とともに廃水A中に添加すると良い。
【0047】
処理槽4に収容する電解液Bとしては、電解質成分を含み、カソード電極5による酸素の還元を阻害しないものであれば、如何なる電解液でも使用できる。具体的には、りん酸二水素ナトリウム及びりん酸水素二ナトリウムで調製されたりん酸緩衝液を用いることが好ましい。りん酸緩衝液のpHは5.0~9.0の範囲であれば好適に用いることができる。
【0048】
廃水A、電解液B及び微生物を、廃水の処理装置1にセットして、廃水の処理を開始する。微生物が廃水A中の有機酸やその塩(有機酸等ともいう)の分解を開始すると、二酸化炭素と水素イオンと電子とが少なくとも生成される。生成した水素イオンは、廃水A中に拡散する。また、水素イオンは、液絡部のプロトン伝導膜を介して、電解液Bに拡散する場合もある。一方、電子は、微生物から直接または間接に、本発明の炭素電極を使用したアノード電極3に供与される。アノード電極3に供与された電子は、外部回路9を介してカソード電極5に移動する。
【0049】
カソード電極5では、外部回路9を経てきた電子によって、電解液B中に溶存している酸素が還元される。カソード電極5は還元反応の場として機能する。アノード電極3側で生成した水素イオンは、液絡部のプロトン伝導膜を通じて、電解液B中において、酸素の還元に係わる場合もある。
【0050】
曝気装置17によって酸素含有ガスを電解液B中に曝気することで、電解液B中の溶存酸素濃度が高く維持される。これにより、酸素供給の律速がなく、カソード電極5における酸素の還元反応の速度低下が抑制され、微生物の呼吸が阻害されず、有機酸等の分解が円滑に進む。この場合の曝気量は、同じ量の汚濁物質を活性汚泥法により処理する際に必要な曝気量に比べて大幅に低いため、コストの増大が抑制される。
【0051】
上記廃水の処理装置1を使用する廃水の処理方法によれば、微生物の代謝により有機酸等が分解されるとともに、微生物からアノード電極3に電子が供与され、この電子は、外部回路9を介してカソード電極5に到達し、カソード電極5において酸素を還元する。このように、微生物の呼吸が進行することにより、廃水中の汚濁物質が分解されるとともに、カソード電極5からアノード電極3に電流が流れる。
【0052】
廃水Aと電解液Bとをプロトン伝導性膜を介して液絡させることによって、廃水A中に含まれる微生物が電解液B側に移動しにくくなることから、カソード電極5の表面にバイオフィルムが形成されにくくなり、カソード電極5の酸素還元反応が阻害されることがなく、廃水の処理を円滑に行うことができる。
更に、電解液Bに対して酸素を含む気体を曝気することで、カソード電極5における酸素の還元反応が円滑に進行し、微生物の呼吸が進み、廃水の処理を円滑に行うことができる。
【0053】
次に、
図2は、本発明の第2の実施形態である微生物燃料電池による廃水の処理装置の模式図である。
廃水の処理装置21は、廃水Aを収容する処理槽22と、処理槽22中の廃水Aに浸漬されたアノード電極23と、カソード電極25とが備えられている。
【0054】
処理槽22には、廃水Aの導入部22aと排出部22bとが設けられており、廃水Aを処理槽22に循環供給又は流通供給できるように構成されている。処理槽22は蓋体22cによって密閉可能とされている。更に、処理槽22には、枝管22dが設けられている。処理槽22には、廃水Aと微生物が収容され、微生物は廃水Aに添加されている。廃水A及び微生物は、第1の実施形態と同様のものである。
【0055】
アノード電極23は処理槽22の内部に配置されている。アノード電極23は導線23aによって外部回路29に接続されている。アノード電極23として、本発明の多孔質な炭素成形体からなる炭素電極を適用する。
【0056】
カソード電極25は、処理槽22の枝管22dの途中に配置されている。カソード電極25は導線25aによって外部回路29に接続されている。カソード電極25は、電子伝導性の電極部と、電極部に保持されて酸素還元能を有する触媒とから構成されている。電極部の材質として例えば、カーボンフェルトや多孔質の炭素材料を例示できる。触媒としては、白金の微粒子を例示できる。より具体的には、例えば、フッ素樹脂と炭素粉末を混合、成形することによりシート状の電極部とし、電極部の表面及び内部に白金の微粒子を担持させる。
【0057】
枝管22dは、基端部22eと先端部22fに分割されており、カソード電極25は基端部22eと先端部22fの間に挟まれている。基端部22eと先端部22fは、カソード電極25を挟んだ状態で固定用の金具22gによって相互に固定されている。枝管22dの基端部22eには処理槽22の廃水Aが流入している。廃水Aは、カソード電極25に塞がれて枝管22dから漏出しないようになっている。一方、枝管22dの先端部22fは大気に通じている。カソード電極25の多孔質な電極部の一部には廃水が浸潤している。これにより、カソード電極25の内部には、カソード電極(固体)と廃水(液体)と大気(気体)との三元界面が形成されている。なお、廃水の漏出防止のため、カソード電極25の先端部22f側の面にフッ素樹脂などの撥水性の膜を積層してもよい。
【0058】
次に、上記廃水処理装置21による廃水の処理方法について説明する。
廃水A及び微生物を、処理槽22にセットして、廃水の処理を開始する。微生物が廃水A中の有機酸等の分解を開始すると、二酸化炭素と水素イオンと電子とが少なくとも生成される。生成した水素イオンは、廃水A中に拡散する。一方、電子は、微生物から直接または間接に、本発明の炭素電極を使用したアノード電極23に供与され、この電子は、外部回路29を介してカソード電極25に移動する。
【0059】
カソード電極25では、外部回路29を経て移動した電子によって、大気中の酸素を還元させる。アノード電極23側で生成した水素イオンが、酸素の還元に係わる場合もある。酸素は大気中に多量にあるため、第1の実施形態のように曝気等の手段で強制的に供給する必要はない。本実施形態の場合は、カソード電極25における酸素の還元速度は、カソード電極25の面積に依存するので、カソード電極の面積は可能な限り大きいほうが好ましい。
【0060】
微生物の呼吸によって生成した電子は、アノード電極23から外部回路29を経てカソード電極25に至る。ここで、カソード電極25はこの還元反応の場として機能する。例えば、本実施形態の一つとして、酸素の還元が例示される。このように本発明によれば、廃水中の有機酸等の分解が行われる。
【0061】
上記廃水処理方法によれば、第1の実施形態とほぼ同様にして、廃水中の有機酸等が分解されるとともに、カソード電極25からアノード電極23に電流が流れる。
【0062】
カソード電極25を廃水と大気とに接触させた状態とすることで、カソード電極と廃水と大気との三元界面を形成させる。これにより、大気から取り込まれた酸素がカソード電極25表面で還元されるようになり、外部から強制的に酸素を供給することなくカソード電極25における酸素の還元反応を進行させ、微生物の呼吸が進み、廃水の処理を円滑に行うことができる。
【実施例0063】
以下、実施例に基づいて本発明の内容を具体的に説明するが、実施形態に記した内容により本発明が限定されるものではない。
【0064】
実施例1~2、比較例1~4
(炭素電極の製造)
1350℃で高温カ焼した石炭系ピッチコークス(揮発分1%未満)と800℃で低温カ焼した石炭系ピッチコークス(揮発分1%)をそれぞれ粉砕、篩分けして、粒径250~1000μmを20wt%、粒径75~250μmを45wt%、粒径75μm未満を35wt%となるように粒度配合して混合コークス粉を得た。
表1に示した配合量により、2種類のピッチコークス粉にバインダーとして石炭系ピッチ(軟化点97℃)44重量部を配合して200℃で20分間混錬した。この混錬物を押出成形機によってΦ20mmの円柱形に成形した後、成形体をマッフル炉に入れて非酸化性雰囲気900℃で焼成することによって円柱形の炭素材料を得た。
【0065】
表1には成形体の原料配合と焼成後の重量減少率を示した。800℃で低温カ焼したピッチコークス粉の配合量が多いほど焼成後の成形体の重量減少率が大きく、低温カ焼したピッチコークス粉を配合するとバインダーのピッチ成分の一部が炭化せずに発泡成分として多く揮発しやすかった。
【0066】
【0067】
実施例1、比較例1、3は、円柱形の炭素材料(外形Φ20mm)の両端を切断して長さを50mmに調整した後、機械加工により円柱の中央を縦に切断して半円柱の炭素電極を作製した。半円柱の炭素電極の縦に切断された面のサイズはおよそ20×50mmであった。
実施例2、比較例2、4は、円柱形の炭素材料(外形Φ20mm)の両端を切断して長さを50mmに調整した後、機械加工により円柱の外周を縦に切断して直方体の炭素電極を作製した。直方体の炭素電極のサイズはおよそ10×10×50mmであった。
【0068】
炭素電極の特性は、以下の方法によって測定を行った。
【0069】
(X線CT画像撮影)
X線CT装置はヤマト科学株式会社製TDM3000H-FPを使用した。X線CT画像の撮影条件は、管電圧120kV、管電流130μA、プロジェクション数1200(撮影対象物を1周撮影するときの画像数)、露光時間1.5秒(画像1枚あたりの撮影時間)、解像度54.9μmであった。
撮影対象物である円柱形の炭素材料(Φ20×50mm位)は、X線CT装置によってX線CT画像が撮影され、そのデジタルデータを再構成処理して円柱形の三次元立体画像を取得した。X線CT画像の撮影は、炭素材料を2次加工した炭素電極を撮影対象物とすることもでき、そのX線CT画像を炭素電極の三次元立体画像として取得することもできる。
【0070】
ここで、実施例1、比較例1、3の半円柱の炭素電極の場合、円柱形の立体画像(Φ20×50mm位)の中央面を切出して、その切断面(約20×50mm)に接している開気孔の三次元画像データを解析に用いた。このとき、円柱形の炭素材料は最表面に比べて内部の方が良好に多孔質化しやすいため、円周側面は比表面積への寄与は小さく中央の切断面が気孔特性(比表面積,気孔含有率)を支配する。また、半円柱上下の半円面は、中央面(約20×50mm)と同じく切断面であり内部の開気孔は繋がっているので、画像解析される気孔特性(比表面積,気孔含有率)は中央面(約20×50mm)によって代表することができる。
実施例2、比較例2、4の直方体の炭素電極の場合、円柱形の立体画像(Φ20×50mm位)の中央部から直方体(約10×10×50mm)を切出して、その直方体の全側面(約10×50mm×4側面)に接している開気孔の三次元画像データを解析に用いた。
【0071】
(X線CT画像解析)
得られた三次元画像データは、画像解析ソフト(Volume Graphics社 VG Studio Max3.4 欠陥/介在物解析モジュール/フォームパウダー解析モジュール)を用いて解析することによって、気孔径、気孔含有率、開気孔の表面積を求めた。
【0072】
(気孔径)
半円柱或いは直方体の炭素電極の気孔径は、円柱形の炭素材料の三次元画像を切断したときの切断面に接した開気孔を、フォームパウダー解析モジュールにおけるストラット厚解析による手法を適用することによって算出した。実際の気孔形状は球形以外の歪な形状であるため、ストラット厚解析を用いることによって、画像処理した実形状の開気孔の内部に、複数の球を内接させて充填した球の直径を開気孔の気孔径とした。
半円柱或いは直方体の炭素電極の平均気孔径(メジアン径)は、以下に示したところの累積の気孔含有率が50%のときの気孔径を、
図3、
図4に示した分布曲線から読み取ることによって得た。
【0073】
(気孔含有率)
前記ストラット厚解析によって算出した球の直径を用いて気孔(球)の体積を計算して、各気孔径の体積を全気孔体積で割り算することによって気孔含有率を算出した。
気孔含有率(%)=(各気孔径の体積)÷(全気孔体積)×100
図3、
図4は、各気孔径で得られた気孔含有率を用いて、気孔径に対する累積の気孔含有率を示した。
本発明の開気孔に含まれる気孔径100~600μm範囲の気孔含有率は、
図3、
図4に示された気孔径0~600μmまでの累積の気孔含有率から気孔径0~100μmまでの累積の気孔含有率を差し引くことによって算出することができる。
100~600μmの気孔含有率(%)=(0~600μmの累積気孔含有率)-(0~100μmの累積気孔含有率)
【0074】
(比表面積)
半円柱或いは直方体の炭素電極の表面積は、円柱形の炭素材料の三次元画像を切断したときの切断面に接した開気孔について、欠陥/介在物解析モジュールを利用して、各気孔に繋がっている炭素電極の内部の開気孔を抽出し、孔を構成する画素の内、開気孔の内面に露出している画素の数の合計に画素サイズを乗じて算出することによって開気孔の表面積を算出した。
得られた炭素電極の開気孔の表面積を、炭素電極を構成する画素から算出された炭素電極の体積で割り算することで比表面積を得ることができる。
比表面積(mm2/mm3)=〔開気孔の表面積(mm2)〕/〔炭素電極の体積(mm3)〕
【0075】
(かさ密度)
円柱形の炭素材料(外形Φ20mm)を上記のようにして機械加工して得た各炭素電極の乾燥重量を測定した後、炭素電極を水に沈めてデシケーター中で真空に減圧して30分間保持して飽水させた。水中から取り出した炭素電極の表面を湿らせたペーパータオルで軽く拭いて、水中に沈めたときの質量増加分(水中体積)を測定して、炭素電極の体積を求めた(アルキメデス法)。かさ密度は以下の式によって計算した。
かさ密度(g/cm3)=(乾燥重量)/(水中体積)
【0076】
(抵抗率)
四探針法による抵抗率計(三菱化学社製ロレスタGP MCP-T610)を用いて、炭素電極の表面に四探針プローブを押し当てることによって複数個所(n=10)を測定した平均値を抵抗率とした。
【0077】
(圧壊荷重)
炭素電極を金槌で砕くことによって破砕して3.35~4.75mmの範囲で篩分けすることによって粒径4mm粒の試験片を得た。木屋式硬度計を用いて、粒径4mm粒の試験片に荷重を加えて圧壊したときの加圧重(n=10)の平均値を圧壊荷重とした。
【0078】
実施例1~2、比較例1~4の炭素電極について、X線CT画像解析による気孔特性の結果を表2に示した。それ以外の炭素電極の材料特性の結果は表3に示した。
【0079】
【0080】
【0081】
表2の結果から、実施例1、2の炭素電極は、気孔径100~600μm範囲の気孔含有率が80%以上であり、比表面積は3mm2/mm3以上であり、比較例1~4と比べて開気孔の気孔含有率と比表面積が大きいことが判った。
実施例1、2の結果より、炭素材料のX線CT画像の切断面を変えて画像解析しても、本発明の請求要件を満足していることは明らかである。したがって、炭素材料を2次加工した炭素電極のX線CT画像であっても、材料特性を代表することができると考えられる箇所の画像切断面を画像解析すれば、本発明による気孔性状を特定することができる。
【0082】
表3の結果から、炭素電極の耐久性の指標である圧壊荷重は30N以上であり、ハンドリング中に炭素電極の表面から粒子の脱落を生じることはなかった。炭素電極は、コークス粒子とバインダーの炭化物で構成された導電性の成分であることから、抵抗率は十分に低く良好であった。
【0083】
(微生物燃料電池による廃水処理評価)
微生物燃料電池は
図2の模式図の通り、密閉可能な処理槽の中に炭素電極(アノード)を設置し、処理槽の貫通孔にはシート状のカソード電極を取付けて、外部抵抗(1000Ω)、電圧測定用のデータロガーを介して、それぞれを導線で炭素電極と接続した。
【0084】
土壌から採取した微生物を植種源として培養した培養液50mlと精製水で調整した酢酸ナトリウムを主成分とした模擬廃水50mlを処理槽に入れ、1週間静置して炭素電極に微生物を定着させた。模擬廃水の成分は表4に示した。
【0085】
【0086】
炭素電極に微生物を定着させた後、リアクターの廃水を新しい模擬廃水に全量交換して、1週間毎に合計12回交換採取した廃水と新しい模擬廃水の酢酸濃度と溶存有機性炭素(DOC)濃度を測定した。このとき、酢酸濃度はイオンクロマトグラフィーを用いて測定し、溶存有機性炭素(DOC)濃度は燃焼式分析装置を用いて測定を行った。模擬廃水の処理前後の有機物濃度の差分から、微生物による有機物の分解速度を算出した。ここでは分解速度を示す濃度は炭素分の濃度とした。
【0087】
炭素電極の性能評価は、有機物を分解する微生物の活動条件を揃えるために、同じ形状同士の炭素電極で比較すると共に、同一時期に同時並行で試験した結果をもとに、比較例の分解速度を基準(1.0)として実施例の分解速度を相対化した。
【0088】
(試験例1)
実施例1の半円柱に加工した炭素電極を用いて模擬廃水を処理したときの12回分の測定結果について、分解速度の相対値の平均値と分解速度の平均値を表5に示した。同様にして同時並行で模擬廃水を処理した比較例1、3の半円柱の炭素電極の結果を併記した。表5の結果から、実施例1の炭素電極は、比較例3と比べて酢酸で2.0倍、DOCで1.5倍分解速度が速く、比較例1と比べても有機物の分解速度が速いことが判る。
【0089】
【0090】
(試験例2)
実施例2の直方体に加工した炭素電極を用いて模擬廃水を処理したときの12回分の測定結果について、分解速度の相対値の平均値と分解速度の平均値を表6に示した。同様にして同時並行で模擬廃水を処理した比較例2、4の直方体の炭素電極の結果を併記した。表6の結果から、実施例2の炭素電極は比較例4と比べて酢酸で2.1倍、DOCで1.4倍分解速度が速く、比較例2と比べても有機物の分解速度が速いことが判る。
【0091】
【0092】
以上の通り、本発明の炭素電極は、廃水中の有機物を分解処理することができる微生物が最も多く定着できる気孔性状を備えており、微生物が好適に増殖する気孔径は、実施例1、2で示された通りX線CT画像解析で測定されるところの100~600μmであった。
本発明の炭素電極は、微生物が効果的に活動できる気孔性状を有しており、安価で大量に供給可能な炭素原料で製造することができ、廃水を効率的かつ経済的に処理するための微生物燃料電池のアノード電極として好適に利用可能である。
1、21 … 廃水の処理装置、 2、4、22 … 処理槽、 3、23 … アノード電極、 5、25… カソード電極、6 … 液絡部、 17 … 曝気装置、 A … 廃水、 B … 電解液。