(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023039287
(43)【公開日】2023-03-20
(54)【発明の名称】化合物、組成物、蛍光色素剤、キット、及び細胞、組織、又は器官の検出方法
(51)【国際特許分類】
C07D 213/20 20060101AFI20230313BHJP
C07D 213/38 20060101ALI20230313BHJP
C09B 23/14 20060101ALI20230313BHJP
G01N 1/30 20060101ALI20230313BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20230313BHJP
【FI】
C07D213/20 CSP
C07D213/38
C09B23/14
G01N1/30
G01N21/64 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021146386
(22)【出願日】2021-09-08
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】504174180
【氏名又は名称】国立大学法人高知大学
(71)【出願人】
【識別番号】504147254
【氏名又は名称】国立大学法人愛媛大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】仁子 陽輔
(72)【発明者】
【氏名】松浦 瞳
(72)【発明者】
【氏名】波多野 慎悟
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 茂
(72)【発明者】
【氏名】川上 良介
(72)【発明者】
【氏名】村上 正基
(72)【発明者】
【氏名】津田 照子
(72)【発明者】
【氏名】佐山 浩二
(72)【発明者】
【氏名】今村 健志
【テーマコード(参考)】
2G043
2G052
4C055
【Fターム(参考)】
2G043AA01
2G043DA02
2G043EA01
2G052AA33
2G052AD32
2G052AD52
2G052FA09
2G052GA32
4C055AA04
4C055BA01
4C055CA01
4C055DA06
4C055DA25
4C055EA01
4C055FA03
4C055GA02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】蛍光色素剤等に好適に用いることができる化合物及び組成物や細胞を簡便に検出するための新たな蛍光色素剤及びキット、並びに、細胞等を簡便に検出するための新たな方法等を提供することを目的とする。
【解決手段】特定のピレン構造を基盤とした赤色蛍光色素等に使用可能な化合物及び組成物等を含有する蛍光色素剤を、細胞、組織、又は器官等の染色に適用することにより、細胞、組織、又は器官等が簡便に検出できる、検出方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物。
【化1】
(式(1)中、
R
a及びR
bは、それぞれ独立して、N原子上がR
1及びR
2ででそれぞれ置換された、ピリジニウム環、インドレニウム環、又は、ベンゾインドレニウム環である。
R
1及びR
2は、それぞれ独立して、置換又は非置換の、炭素数1~12のアルキル基、炭素数2~12のアルケニル基、炭素数2~12のアルキニル基、又は、ホウ素、窒素、酸素、リン、硫黄若しくはハロゲンからなる群より選ばれる原子を1種以上含む親水性置換基である。
R
m1及びR
m2は、それぞれ独立して、水素原子、メチル基、又はエチル基である。
R
n1及びR
n2は、それぞれ独立して、水素原子、メチル基、又はエチル基である。
m及びnは、それぞれ独立して、2~4の整数である。
R
5及びR
6は、それぞれ独立して、置換又は非置換の、炭素数1~12のアルキル基、炭素数2~12のアルケニル基、炭素数2~12のアルキニル基、炭素数5~12のアリール基、炭素数5~12のヘテロアリール基、ハロゲン原子、又は、ホウ素、窒素、酸素、リン、硫黄若しくはハロゲンからなる群より選ばれる原子を1種以上含む親水性置換基である。
p及びqは、それぞれ独立して、0~4の整数である。
X
S―は、s価のアニオンである。
sは、1又は2である。
tは、1又は2である。
ただし、sが1のとき、tは2であり、sが2のとき、tは1である。)
【請求項2】
下記式(2)で表される、請求項1に記載の化合物。
【化2】
(式(2)中、
R
1及びR
2は、それぞれ独立して、置換又は非置換の、炭素数1~12のアルキル基、炭素数2~12のアルケニル基、炭素数2~12のアルキニル基、又は、ホウ素、窒素、酸素、リン、硫黄若しくはハロゲンからなる群より選ばれる原子を1種以上含む親水性置換基である。
R
3及びR
4は、それぞれ独立して、置換又は非置換の、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、炭素数2~6のアルキニル基、又は、ホウ素、窒素、酸素、リン、硫黄若しくはハロゲンからなる群より選ばれる原子を1種以上含む親水性置換基である。
a及びbは、それぞれ独立して、0~4の整数である。
R
m1及びR
m2は、それぞれ独立して、水素原子、メチル基、又はエチル基である。
R
n1及びR
n2は、それぞれ独立して、水素原子、メチル基、又はエチル基である。
m及びnは、それぞれ独立して、2~4の整数である。
R
5及びR
6は、それぞれ独立して、置換又は非置換の、炭素数1~12のアルキル基、炭素数2~12のアルケニル基、炭素数2~12のアルキニル基、炭素数5~12のアリール基、炭素数5~12のヘテロアリール基、ハロゲン原子、又は、ホウ素、窒素、酸素、リン、硫黄若しくはハロゲンからなる群より選ばれる原子を1種以上含む親水性置換基である。
p及びqは、それぞれ独立して、0~4の整数である。
X
S―は、s価のアニオンである。
sは、1又は2である。
tは、1又は2である。
ただし、sが1のとき、tは2であり、sが2のとき、tは1である。)
【請求項3】
前記m及びnは、それぞれ独立して、2~3の整数である、請求項1又は2に記載の化合物。
【請求項4】
前記R1及びR2は、それぞれ独立して、メチル基、エチル基、n-ピロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル、n-デシル基、n-ドデシル基、又は2-エチルヘキシル基である、請求項1~3のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項5】
前記R3及びR4は、それぞれ独立して、メチル基、エチル基、n-ピロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル、n-デシル基、n-ドデシル基、又は2-エチルヘキシル基、水酸基、又は、アミノ基である、請求項1~4のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項6】
前記XS―は、それぞれ独立して、Cl-、I-、Br-、OH-、1価の有機ホウ素アニオン、p-トルエンスルホナートアニオン、メタンスルホナートアニオン、トリフルオロメタンスルホナートアニオン、又は(COO-)2である、請求項1~5のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項7】
前記R5及びR6は、それぞれ独立して、メチル基、エチル基、n-ピロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル、n-デシル基、n-ドデシル基、又は2-エチルヘキシル基、水酸基、又は、アミノ基である、請求項1~6のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項8】
吸収極大波長は、25℃の20mMリン酸緩衝液(pH7.4)中において、400~700nmである、請求項1~7のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項9】
分子量は、500~3000である、請求項1~8のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の化合物と界面活性剤とを含む、組成物。
【請求項11】
エマルジョン又はミセルである、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
請求項1~9のいずれか1項に記載の化合物、又は、請求項10若しくは11に記載の組成物を含む、蛍光色素剤。
【請求項13】
細胞、組織、又は器官の形態学検出用である、請求項12に記載の蛍光色素剤。
【請求項14】
生物試料の染色又は可視化用である、請求項12に記載の蛍光色素剤。
【請求項15】
蛍光イメージング用である、請求項12~14のいずれか1項に記載の蛍光色素剤。
【請求項16】
請求項12~15のいずれか1項に記載の蛍光色素剤を含む、キット。
【請求項17】
請求項12~15のいずれか1項に記載の蛍光色素剤で、細胞、組織、又は器官を染色する工程(1)を含む、細胞、組織、又は器官の検出方法。
【請求項18】
前記工程(1)の後に、対象を測定した蛍光スペクトルを用いて評価する工程(2)を含む、請求項17に記載の検出方法。
【請求項19】
前記工程(1)の後に、対象を蛍光イメージングを用いて評価する工程(3)を含む、請求項17に記載の検出方法。
【請求項20】
前記蛍光イメージングは、多光子励起蛍光イメージングである、請求項19に記載の検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞の検出に用いられる蛍光色素剤、それに用いることが可能な化合物及び組成物、キット、並びに細胞、組織、又は器官の検出方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
多光子蛍光イメージングは、先端蛍光イメージング技術の一つであり、生体内に導入した蛍光色素をレーザー光照射によって(多光子)励起・発光させ、その発光点を捉えて画像化する手法である。核磁気共鳴画像法(MRI)などと比較して、生体内の組織・臓器を高い時空間分解能で観察することができ、基礎生命科学を中心に広く利用されつつある(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、この多光子蛍光イメージングは、生体内における観察可能な深度が浅い等の課題がありより優れた技術開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開2019/093400号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、蛍光色素剤等に好適に用いることできる化合物及び組成物を提供することを目的とする。
【0006】
また、本発明は、細胞、組織、又は器官等を簡便に検出するための新たな蛍光色素剤及びキットを提供することを目的とする。
【0007】
また、本発明は、細胞、組織、又は器官等を簡便に検出するための新たな方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、特定のピレン構造を基盤とした赤色蛍光色素等に使用可能な化合物及び組成物等を含有する蛍光色素剤を、細胞、組織、又は器官(以下、「細胞等」ともいう。)等の染色に適用することにより、細胞等が簡便に検出できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は以下の化合物を提供する。
【0010】
[1]
下記式(1)で表される化合物。
【化1】
(式(1)中、
R
a及びR
bは、それぞれ独立して、N原子上がR
1及びR
2ででそれぞれ置換された、ピリジニウム環、インドレニウム環、又は、ベンゾインドレニウム環である。
R
1及びR
2は、それぞれ独立して、置換又は非置換の、炭素数1~12のアルキル基、炭素数2~12のアルケニル基、炭素数2~12のアルキニル基、又は、ホウ素、窒素、酸素、リン、硫黄若しくはハロゲンからなる群より選ばれる原子を1種以上含む親水性置換基である。
R
m1及びR
m2は、それぞれ独立して、水素原子、メチル基、又はエチル基である。
R
n1及びR
n2は、それぞれ独立して、水素原子、メチル基、又はエチル基である。
m及びnは、それぞれ独立して、2~4の整数である。
R
5及びR
6は、それぞれ独立して、置換又は非置換の、炭素数1~12のアルキル基、炭素数2~12のアルケニル基、炭素数2~12のアルキニル基、炭素数5~12のアリール基、炭素数5~12のヘテロアリール基、ハロゲン原子、又は、ホウ素、窒素、酸素、リン、硫黄若しくはハロゲンからなる群より選ばれる原子を1種以上含む親水性置換基である。
p及びqは、それぞれ独立して、0~4の整数である。
X
S―は、s価のアニオンである。
sは、1又は2である。
tは、1又は2である。
ただし、sが1のとき、tは2であり、sが2のとき、tは1である。)
【0011】
[2]
下記式(2)で表される、[1]に記載の化合物。
【化2】
(式(2)中、
R
1及びR
2は、それぞれ独立して、置換又は非置換の、炭素数1~12のアルキル基、炭素数2~12のアルケニル基、炭素数2~12のアルキニル基、又は、ホウ素、窒素、酸素、リン、硫黄若しくはハロゲンからなる群より選ばれる原子を1種以上含む親水性置換基である。
R
3及びR
4は、それぞれ独立して、置換又は非置換の、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、炭素数2~6のアルキニル基、又は、ホウ素、窒素、酸素、リン、硫黄若しくはハロゲンからなる群より選ばれる原子を1種以上含む親水性置換基である。
a及びbは、それぞれ独立して、0~4の整数である。
R
m1及びR
m2は、それぞれ独立して、水素原子、メチル基、又はエチル基である。
R
n1及びR
n2は、それぞれ独立して、水素原子、メチル基、又はエチル基である。
m及びnは、それぞれ独立して、2~4の整数である。
R
5及びR
6は、それぞれ独立して、置換又は非置換の、炭素数1~12のアルキル基、炭素数2~12のアルケニル基、炭素数2~12のアルキニル基、炭素数5~12のアリール基、炭素数5~12のヘテロアリール基、ハロゲン原子、又は、ホウ素、窒素、酸素、リン、硫黄若しくはハロゲンからなる群より選ばれる原子を1種以上含む親水性置換基である。
p及びqは、それぞれ独立して、0~4の整数である。
X
S―は、s価のアニオンである。
sは、1又は2である。
tは、1又は2である。
ただし、sが1のとき、tは2であり、sが2のとき、tは1である。)
【0012】
[3]
上記m及びnは、それぞれ独立して、2~3の整数である、[1]又は[2]に記載の化合物。
【0013】
[4]
上記R1及びR2は、それぞれ独立して、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル、n-デシル基、n-ドデシル基、又は2-エチルヘキシル基である、[1]~[3]のいずれか1に記載の化合物。
【0014】
[5]
上記R3及びR4は、それぞれ独立して、メチル基、エチル基、n-ピロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル、n-デシル基、n-ドデシル基、又は2-エチルヘキシル基、水酸基、又は、アミノ基である、[1]~[4]のいずれか1に記載の化合物。
【0015】
[6]
上記XS―は、それぞれ独立して、Cl-、I-、Br-、OH-、1価の有機ホウ素アニオン、p-トルエンスルホナートアニオン、メタンスルホナートアニオン、トリフルオロメタンスルホナートアニオン、又は(COO-)2である、[1]~[5]のいずれか1に記載の化合物。
【0016】
[7]
上記R5及びR6は、それぞれ独立して、メチル基、エチル基、n-ピロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル、n-デシル基、n-ドデシル基、又は2-エチルヘキシル基、水酸基、又は、アミノ基である、[1]~[6]のいずれか1に記載の化合物。
【0017】
[8]
吸収極大波長は、25℃の20mMリン酸緩衝液(pH7.4)中において、400~700nmである、[1]~[7]のいずれか1に記載の化合物。
【0018】
[9]
分子量は、500~3000である、[1]~[8]のいずれか1に記載の化合物。
【0019】
また、本発明は以下の組成物を提供する。
【0020】
[10]
[1]~[9]のいずれか1に記載の化合物と界面活性剤とを含む、組成物。
【0021】
[11]
エマルジョン又はミセルである、[10]に記載の組成物。
【0022】
また、本発明は以下の蛍光色素剤を提供する。
【0023】
[12]
[1]~[9]のいずれか1に記載の化合物、又は、[10]若しくは[11]に記載の組成物を含む、蛍光色素剤。
【0024】
[13]
細胞、組織、又は器官の形態学検出用である、[12]に記載の蛍光色素剤。
【0025】
[14]
生物試料の染色又は可視化用である、[12]に記載の蛍光色素剤。
【0026】
[15]
蛍光イメージング用である、[12]~[14]のいずれか1に記載の蛍光色素剤。
【0027】
また、本発明は以下のキットを提供する。
【0028】
[16]
[12]~[15]のいずれか1に記載の蛍光色素剤を含む、キット。
【0029】
また、本発明は以下の細胞、組織、又は器官の検出方法を提供する。
【0030】
[17]
[12]~[15]のいずれか1に記載の蛍光色素剤で、細胞、組織、又は器官を染色する工程(1)を含む、細胞、組織、又は器官の検出方法。
【0031】
[18]
上記工程(1)の後に、対象を測定した蛍光スペクトルを用いて評価する工程(2)を含む、[17]に記載の検出方法。
【0032】
[19]
上記工程(1)の後に、対象を蛍光イメージングを用いて評価する工程(3)を含む、[17]に記載の検出方法。
【0033】
[20]
上記蛍光イメージングは、多光子励起蛍光イメージングである、[19]に記載の検出方法。
【発明の効果】
【0034】
本発明の化合物及び組成物は、蛍光色素剤等に好適に用いることができる。
【0035】
また、本発明の蛍光色素剤及びキットを用いることにより、細胞等を簡便かつ迅速に染色することができる。
【0036】
また、本発明の細胞等の検出方を用いることにより、細胞等を簡便に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】実施例における化合物aの
1H NMRスペクトル測定のチャートである。
【
図2】実施例における化合物bの
1H NMRスペクトル測定のチャートである。
【
図3】実施例における化合物cの
1H NMRスペクトル測定のチャートである。
【
図4】実施例における化合物Aの
1H NMRスペクトル測定のチャートである。
【
図5】実施例における化合物Aの有機溶媒(エタノール、ジメチルスルホキシド)中における一光子吸収スペクトル測定(点線)及び蛍光スペクトル測定(実線)のチャートである。
【
図6】実施例における組成物Aの有機溶媒(エタノール、ジメチルスルホキシド)中における一光子吸収スペクトル測定(点線)及び蛍光スペクトル測定(実線)のチャートである。
【
図7】実施例における組成物Aを活用した生体マウス脳血管の二光子励起蛍光イメージングによる3Dスタック画像。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明するが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。
【0039】
〔化合物〕
本発明の化合物は、下記式(1)(以下、「化合物(1)」ともいう。)で表される化合物である。
【化3】
(式(1)中、
R
a及びR
bは、それぞれ独立して、N原子上がR
1及びR
2ででそれぞれ置換された、ピリジニウム環、インドレニウム環、又は、ベンゾインドレニウム環である。
R
1及びR
2は、それぞれ独立して、置換又は非置換の、炭素数1~12のアルキル基、炭素数2~12のアルケニル基、炭素数2~12のアルキニル基、又は、ホウ素、窒素、酸素、リン、硫黄若しくはハロゲンからなる群より選ばれる原子を1種以上含む親水性置換基である。
R
m1及びR
m2は、それぞれ独立して、水素原子、メチル基、又はエチル基である。
R
n1及びR
n2は、それぞれ独立して、水素原子、メチル基、又はエチル基である。
m及びnは、それぞれ独立して、2~4の整数である。
R
5及びR
6は、それぞれ独立して、置換又は非置換の、炭素数1~12のアルキル基、炭素数2~12のアルケニル基、炭素数2~12のアルキニル基、炭素数5~12のアリール基、炭素数5~12のヘテロアリール基、ハロゲン原子、又は、ホウ素、窒素、酸素、リン、硫黄若しくはハロゲンからなる群より選ばれる原子を1種以上含む親水性置換基である。
p及びqは、それぞれ独立して、0~4の整数である。
X
S―は、s価のアニオンである。
sは、1又は2である。
tは、1又は2である。
ただし、sが1のとき、tは2であり、sが2のとき、tは1である。)
【0040】
上記化合物は、1光子励起発光性又は多光子励起発光性を有する化合物であり得、例えば、蛍光色素剤等に好適に用いることができる。
【0041】
上記化合物は、適宜、当該構造の一部又は全部が置換された置換体、水和物等の溶媒和物等の誘導体も含む。
【0042】
上記式(1)において、Ra及びRbは、それぞれ独立して、N原子上がR1及びR2ででそれぞれ置換された、ピリジニウム環、インドレニウム環、又は、ベンゾインドレニウム環である。
【0043】
上記式(1)において、Ra及びRbとしてのピリジニウム環、インドレニウム環、又は、ベンゾインドレニウム環は、N原子上以外であれば、任意の位置で炭素炭素二重結合部位と結合でき得る。
【0044】
上記式(1)において、Ra及びRbとしてのピリジニウム環、インドレニウム環、又は、ベンゾインドレニウム環は、それぞれ独立して、当該環が置換されていてもよい。
【0045】
Ra及びRbの上記環上の置換基として、例えば、非置換の、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、炭素数2~6のアルキニル基、又は、ホウ素、窒素、酸素、リン、硫黄若しくはハロゲンからなる群より選ばれる原子を1種以上含む親水性置換基等をあげることができる。上記環上の置換基の数は限定されない。
【0046】
上記式(1)において、Rm1及びRm2は、それぞれ独立して、水素原子、メチル基、又はエチル基である。
【0047】
なお、上記式(1)において、Rm1及びRm2の波線は、直接結合している二重結合に対して、任意の結合形態を表している。Rm1及びRm2は、それぞれ独立して、シス位、又はトランス位等、いずれの結合形態でもよい。
【0048】
また、上記式(1)において、Rn1及びRn2は、それぞれ独立して、水素原子、メチル基、又はエチル基である。
【0049】
なお、上記式(1)において、Rn1及びRn2の波線は、直接結合している二重結合に対して、任意の結合形態を表している。Rn1及びRn2は、それぞれ独立して、シス位、又はトランス位等、いずれの結合形態でもよい。
【0050】
上記式(1)において、R1及びR2は、それぞれ独立して、置換又は非置換の、炭素数1~12のアルキル基、炭素数2~12のアルケニル基、炭素数2~12のアルキニル基、又は、ホウ素、窒素、酸素、リン、硫黄若しくはハロゲンからなる群より選ばれる原子を1種以上含む親水性置換基である。
【0051】
上記R1及びR2で表される炭素数1~12のアルキル基としては、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基があげられ、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デカニル基、n-ウンデカニル基、n-ドデカニル基等をあげることができる。
【0052】
上記R1及びR2で表される炭素数2~12のアルケニル基としては直鎖状又は分岐鎖状のアルケニル基があげられ、例えば、ビニル基、アリル基等をあげることができる。
【0053】
上記R1及びR2で表される炭素数2~12のアルキニル基としては直鎖状又は分岐鎖状のアルケニル基があげられ、例えば、エチニル基、プロパルギル基等をあげることができる。
【0054】
また、上記R1及びR2で表されるアルキル基等の置換基として、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、カルボキシル基、水酸基、スルホ基、アミド基、ハロゲン原子、若しくはこれらの塩である基等をあげることができる。置換基が複数存在する場合、これらは単独で置換されていてもよく、また2種以上を組み合わせて置換されていてもよい。
【0055】
上記R1及びR2で表される親水性置換基は、水溶性を向上させ、細胞膜及び細胞内への分散を促進する観点から、例えば、ホウ素、窒素、酸素、リン、硫黄若しくはハロゲンからなる群より選ばれる原子を1種以上含む基であることが好ましい。中でも、生体分子との反応を抑える観点から、上記親水性置換基は、三級アミノ基、四級アンモニウム基及びカルボニル基(アルデヒド基を除く)からなる群より選ばれる1種単独又は2種以上を含むことが好ましい。
【0056】
上記式(1)において、R1及びR2は、それぞれ独立して、例えば、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル、n-デシル基、n-ドデシル基、又は2-エチルヘキシル基である場合を好適な例としてあげることができる。
【0057】
上記式(1)において、m及びnは、それぞれ独立して、2~4の整数である。上記m及びnは、それぞれ独立して、2~3の整数であることが好ましい。
【0058】
上記式(1)において、R5及びR6は、それぞれ独立して、置換又は非置換の、炭素数1~12のアルキル基、炭素数2~12のアルケニル基、炭素数2~12のアルキニル基、炭素数5~12のアリール基、炭素数5~12のヘテロアリール基、ハロゲン原子、又は、ホウ素、窒素、酸素、リン、硫黄若しくはハロゲンからなる群より選ばれる原子を1種以上含む親水性置換基である。
【0059】
上記R5及びR6で表される炭素数1~12のアルキル基としては、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基があげられ、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デカニル基、n-ウンデカニル基、n-ドデカニル基等をあげることができる。
【0060】
上記R5及びR6で表される炭素数2~12のアルケニル基としては直鎖状又は分岐鎖状のアルケニル基があげられ、例えば、ビニル基、アリル基等をあげることができる。
【0061】
上記R5及びR6で表される炭素数2~12のアルキニル基としては直鎖状又は分岐鎖状のアルケニル基があげられ、例えば、エチニル基、プロパルギル基等をあげることができる。
【0062】
上記R5及びR6で表される炭素数5~12のアリール基としては、炭素数5~12の芳香族炭化水素基等があげられ、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、メチルナフチル、アントラシル、又はインデニル等をあげることができる。
【0063】
上記R5及びR6で表される炭素数5~12のヘテロアリール基としては、炭素数5~12の芳香族炭化水素基等があげられ、芳香環中の1つ以上の炭素原子が窒素原子、酸素原子、硫黄原子等の原資に置換されたもの等あげることができる。例えば、ピロリル基、ピリジニル基、イミダゾリル基、チエニル基、フラニル基、ピラゾリル基、オキサゾリル基、チアゾリル基等をあげることができる。
【0064】
上記R5及びR6で表されるハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子をあげることができる。
【0065】
また、上記R5及びR6で表されるアルキル基等の置換基として、それぞれ独立して、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、カルボキシル基、水酸基、スルホ基、アミド基、ハロゲン原子、若しくはこれらの塩である基等をあげることができる。置換基が複数存在する場合、これらは単独で置換されていてもよく、また2種以上を組み合わせて置換されていてもよい。
【0066】
上記R5及びR6で表される親水性置換基は、例えば、上記R1及びR2で表される親水性置換基の欄で記載したものを、適宜同様に用いることができる。
【0067】
上記式(1)において、R5及びR6は、それぞれ独立して、例えば、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル、n-デシル基、n-ドデシル基、又は2-エチルヘキシル基、水酸基、又は、アミノ基である場合を好適な例としてあげることができる。
【0068】
上記式(1)において、p及びqは、それぞれ独立して、0~4の整数である。p及びqの合計が2以上の場合、存在するR5及びR6は、これらは同一のものであってもよく、また2種以上を組み合わせられていてもよい。
【0069】
上記式(1)において、XS―は、s価のアニオンである。
【0070】
また、上記式(1)において、sは、1又は2である。また、上記式(1)等において、tは、1又は2である。ただし、sが1のとき、tは2であり、sが2のとき、tは1である。
【0071】
上記XS―は、sが1のとき、tは2である。この場合、上記XS―は、それぞれ独立して、例えば、Cl-、I-、Br-、OH-、1価の有機ホウ素アニオン、p-トルエンスルホナートアニオン(トシラートアニオン)、メタンスルホナートアニオン(メシラートアニオン)、トリフルオロメタンスルホナートアニオン(トリフラートアニオン)、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラートアニオン等をあげることができる。なかでも、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラートアニオン等のかさ高いアニオンを用いることにより、物質間相互作用を抑制し、結晶性を低下させ、脂溶性を向上させることができるため、より好ましい。
【0072】
上記XS―は、sが2のとき、tは1である。この場合、上記XS―は、それぞれ独立して、例えば、(COO-)2等をあげることができる。
【0073】
上記化合物(1)は、例えば、下記式(2)(以下、「化合物(2)」ともいう。)で表される化合物等であることが好ましい。
【化4】
(式(2)中、
R
1及びR
2は、それぞれ独立して、置換又は非置換の、炭素数1~12のアルキル基、炭素数2~12のアルケニル基、炭素数2~12のアルキニル基、又は、ホウ素、窒素、酸素、リン、硫黄若しくはハロゲンからなる群より選ばれる原子を1種以上含む親水性置換基である。
R
3及びR
4は、それぞれ独立して、置換又は非置換の、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、炭素数2~6のアルキニル基、又は、ホウ素、窒素、酸素、リン、硫黄若しくはハロゲンからなる群より選ばれる原子を1種以上含む親水性置換基である。
a及びbは、それぞれ独立して、0~4の整数である。
m及びnは、それぞれ独立して、2~4の整数である。
R
5及びR
6は、それぞれ独立して、置換又は非置換の、炭素数1~12のアルキル基、炭素数2~12のアルケニル基、炭素数2~12のアルキニル基、炭素数5~12のアリール基、炭素数5~12のヘテロアリール基、ハロゲン原子、又は、ホウ素、窒素、酸素、リン、硫黄若しくはハロゲンからなる群より選ばれる原子を1種以上含む親水性置換基である。
p及びqは、それぞれ独立して、0~4の整数である。
X
S―は、s価のアニオンである。
sは、1又は2である。
tは、1又は2である。
ただし、sが1のとき、tは2であり、sが2のとき、tは1である。)
【0074】
上記化合物は、適宜、当該構造の一部又は全部が置換された置換体、水和物等の溶媒和物等の誘導体も含む。
【0075】
上記式(2)において、1及びR2は、上記式(1)の場合と同様である。
【0076】
上記式(2)において、R3及びR4は、それぞれ独立して、置換又は非置換の、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、炭素数2~6のアルキニル基、又は、ホウ素、窒素、酸素、リン、硫黄若しくはハロゲンからなる群より選ばれる原子を1種以上含む親水性置換基である。
【0077】
上記R3及びR4で表される炭素数1~6のアルキル基としては、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基があげられ、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基等をあげることができる。
【0078】
上記R3及びR4で表される炭素数2~12のアルケニル基としては直鎖状又は分岐鎖状のアルケニル基があげられ、例えば、ビニル基、アリル基等をあげることができる。
【0079】
上記R3及びR4で表される炭素数2~12のアルキニル基としては直鎖状又は分岐鎖状のアルケニル基があげられ、例えば、エチニル基、プロパルギル基等をあげることができる。
【0080】
また、上記R3及びR4で表されるアルキル基等の置換基として、それぞれ独立して、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、カルボキシル基、水酸基、スルホ基、アミド基、ハロゲン原子、若しくはこれらの塩である基等をあげることができる。置換基が複数存在する場合、これらは単独で置換されていてもよく、また2種以上を組み合わせて置換されていてもよい。
【0081】
上記R3及びR4で表される親水性置換基は、例えば、上記R1及びR2で表される親水性置換基の欄で記載したものを、適宜同様に用いることができる。
【0082】
上記式(2)において、R3及びR4は、それぞれ独立して、例えば、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル、n-デシル基、n-ドデシル基、又は2-エチルヘキシル基、水酸基、又は、アミノ基である場合を好適な例としてあげることができる。
【0083】
上記式(2)において、a及びbは、それぞれ独立して、0~4の整数である。a及びbの合計が2以上の場合、存在するR3及びR4は、これらは同一のものであってもよく、また2種以上を組み合わせられていてもよい。
【0084】
上記式(2)において、Rm1及びRm2は、上記式(1)の場合と同様である。
【0085】
上記式(2)において、Rn1及びRn2は、上記式(1)の場合と同様である。
【0086】
上記式(2)において、m及びnは、上記式(1)の場合と同様である。
【0087】
上記式(2)において、R5及びR6は、上記式(1)の場合と同様である。
【0088】
上記式(2)において、p及びqは、上記式(1)の場合と同様である。
【0089】
上記式(2)において、XS―、s、及びtは、上記式(1)の場合と同様である。
【0090】
上記化合物(2)として、例えば、下記式(3)で表される化合物等をあげることができる。
【化5】
【0091】
上記式(3)において、R1、R2、R3、R4、a、b、Rm1、Rm2、Rn1、Rn2、m、n、R5、R6、p、q、XS―、s、及びtは、上記式(2)の場合と同様である。
【0092】
また、上記化合物(3)において、ビニル基の結合様式は、それぞれ独立して、シス位、又はトランス位等、いずれの結合形態でもよい。
【0093】
また、上記化合物の吸収極大波長は、例えば、25℃の20mMリン酸緩衝液(pH7.4)中において、例えば、400~700nmの間にある。上記化合物の吸収極大波長は、例えば、410nm、420nm、430nm、440nm、450nm、460nm、470nm、480nm、490nm、500nm、510nm、520nm、530nm、540nm、550nm、560nm、570nm、580nm、590nm、600nm、610nm、620nm、630nm、640nm、660nm、660nm、670nm、680nm、及び690nmからなる群より選ばれるいずれか2つの数値の間の範囲内であり得る。
【0094】
また、上記化合物の二光子吸収極大波長は、25℃の20mMリン酸緩衝液(pH7.4)中において、例えば、600~1200nmの間にあることが好ましい。なかでも、900nmより長波長であるとより好ましい。このような化合物は、組織中の生体物質によって吸収されにくい波長の光で励起することができるため、二光子顕微鏡観察での使用に適する。
【0095】
また、上記化合物の発光極大波長は、例えば、25℃の20mMリン酸緩衝液(pH7.4)中において、例えば、650~800nmの間にある。上記化合物の発光極大波長は、例えば、660nm、670nm、680nm、690nm、700nm、710nm、720nm、730nm、740nm、750nm、760nm、770nm、780nm、及び790nmからなる群より選ばれるいずれか2つの数値の間の範囲内であり得る。
【0096】
また、上記化合物の蛍光量子収率は、例えば、0.1~1.0の間にある。上記化合物の蛍光量子収率発光極大波長は、例えば、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、及び0.9からなる群より選ばれるいずれか2つの数値の間の範囲内であり得る。なお、蛍光量子収率は絶対PL量子収率測定装置を用いて測定したものとする。
【0097】
また、上記化合物の分子量は、例えば、500~3000の間にある。上記化合物の分子量は、例えば、100、150、300、500、600、700、800、900、1000、1100、1200、1300、1400、1500、1600、1700、1800、1900、2000、2100、2200、2300、2400、2500、2600、2700、2800、及び2900からなる群より選ばれるいずれか2つの数値の間の範囲内とすることができ得る。
【0098】
また、本発明において、上記化合物には、分子内の小部分の化学変化によって生成する誘導体も含み、簡易な構造置換体、付加体、水和物等を含み、また類縁体とよばれるものも含む。
【0099】
〔化合物の製造方法〕
本発明の化合物は、公知の手法を適宜用いて製造することができる。
【0100】
例えば、下記化合物Aの場合、下記のスキームのように合成することができる。
【化6】
【0101】
化合物Aの合成は、例えば、上記反応スキームで行うことができる。まず、1,6-ジブロモピレンの両方のブロモ基を2-エチルヘキシル基に置換し(上記化合物a)、次いでピレン環上のジブロモ化を行った(化合物b)。次いで、この化合物bのブロモ基をエタンアルデヒド基に変換し(化合物c)、さらに1-(2-エチルへキシル)-4-メチルピリジニウムヨージドと反応させて化合物Aに変換する。
【0102】
また、上記化合物の製造において、上記化合物のアニオンを交換処理を行ってもよい。
【0103】
〔組成物〕
本発明の組成物は、上記化合物と界面活性剤とを含む。
【0104】
また、上記組成物は、例えば、液状、ペースト状、半固体状、固体状等であってもよいが、例えば、エマルジョン、又はミセル(以下、「エマルジョン等」ともいう。)であることが好ましい。
【0105】
上記エマルジョンは、例えば、内殻が油、外殻が界面活性剤からなるナノサイズの粒子であり、脂溶性物質の包摂能に優れるとともに、高い生体適合性を有し得る。
【0106】
上記ミセルは、例えば、低分子もしくは高分子の界面活性剤からなるナノサイズの粒子であり、内核が界面活性剤の疎水部からなる場合、脂溶性物質の包摂能に優れるとともに、高い生体適合性を有し得る。
【0107】
上記エマルジョンは、例えば、ナノエマルジョン、ミニエマルジョン、超微細エマルジョン、又はサブミクロンエマルジョンと呼ばれるものも含む。
【0108】
上記エマルジョン等は、例えば、直径が1~500nmの間であるエマルジョン等であるものが好ましい。上記直径は、例えば、10nm、20nm、30nm、40nm、50nm、60nm、70nm、80nm、90nm、100nm、120nm、150nm、175nm、200nm、225nm、250nm、275nm、300nm、325nm、350nm、375nm、400nm、425nm、450nm、475nmからなる群より選ばれるいずれか2つの数値の間の範囲内であり得る。例えば、上記直径が10~75nmであることが好ましい。なお、上記直径は、流体力学直径(体積換算、CONTIN法)で測定したものをいう。また、冷蔵温度から体温までの範囲の温度で所望の直径を保持するものが好ましい。
【0109】
上記エマルジョン等は、例えば、多分散度指数が0.005~0.5の間であるエマルジョン等であり、十分な細胞取り込みを可能にする粒度分布であるものが好ましい。上記多分散度指数は、例えば、0.01、0.015、0.02、0.03、0.05、0.1、0.15、0.2、0.25、0.3、0.35、0.4、及び0.5からなる群より選ばれるいずれか2つの数値の間の範囲内であり得る。例えば、上記多分散度指数が0.01~0.3であることが好ましい。なお、上記多分散度指数は、流体力学直径(体積換算、CONTIN法)で測定したものをいう。
【0110】
上記界面活性剤は、公知の界面活性剤を適宜用いることができ、例えば、生体細胞等の検査、分析に用いることが可能なものであることが特に好ましい。
【0111】
上記界面活性剤として、例えば、陽イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、及び、非イオン性界面活性剤等をあげることができる。上記界面活性剤として、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、スルホスクシネート(スルホ琥珀酸ヘミエステル)、ココアンホカルボキシグリシネート、セチル燐酸カリウム、ナトリウムアルキルポリオキシエチレンエーテルカルボキシレート、塩化カリウムベンザルコニウム、アルキルアミドプロピルベタイン、セチルステアリンエトキシル化アルコール、及び、ソルビタンエトキシレート(20)モノオレエートTween20等をあげることができる。例えば、Koliphor ELP、Solutol HS15等の市販の非イオン性界面活性剤等をあげることができる。これらは単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。
【0112】
また、上記エマルジョン等の形成において、例えば、ポリアルコール及び多糖類のようなポリヒドロキシル化化合物の濃縮水溶液連続相が効果的であり得る。
【0113】
上記ポリアルコール及び多糖類として、例えば、グリセリン、キシリトール、マンニトール、ソルビトール、グルコース、フルクトース、サッカロース、マルチトール、グリセリン(ジグリセリン、ビス(2,3-ジヒドロキシプロピル)エーテルの2量体化合物、砂糖のような固形水溶性ポリヒドロキシル化化合物、並びに、トリグリセリン及びテトラグリセリンのようなグリセリン縮合物等をあげることができる。これらの化合物は単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。
【0114】
また、上記組成物は、必要に応じて、公知の他の成分を含んでいてもよい。上記他の成分として、例えば、オイル成分、pH緩衝剤等をあげることができる。
【0115】
上記オイル成分として、例えば、炭化水素化合物、グリセリド(グリセリン脂肪酸エステル)等をあげることができる。
【0116】
上記pH緩衝剤として、例えば、リン酸緩衝液、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン;グッド緩衝剤(HEPES、MOPS等);及び、クエン酸、酢酸、乳酸、シュウ酸、フタル酸、イミダゾール、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、グリシン、ホウ酸、リン酸、又は炭酸を含むpH緩衝等をあげることができる。これらは単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。
【0117】
また、上記組成物中、上記化合物は、例えば、0.01~20質量%とすることができ、0.015~19質量%、0.02~18質量%であってもよい。
【0118】
また、上記組成物中、上記界面活性剤は、例えば、20~90質量%とすることができ、30~85質量%、40~80質量%であってもよい。
【0119】
また、上記組成物中、上記オイル成分は、例えば、10~80質量%とすることができ、15~70質量%、20~60質量%であってもよい。
【0120】
一般に、低分子蛍光物質を多量にマウス等の生体の血中に投与しようとすると、血管壁への吸着、血中での析出の他、過剰投与による毒性の問題が生じ、さらには低分子蛍光物質はすぐに腎排出されるため血中に残りにくいという問題がある。これに対して、上記組成物においては、マウス等の生体投与等においても、上記化合物を多量に包摂したナノエマルジョン等として、腎排出されにくく、血中滞留時間も長くすることが可能である。
【0121】
〔組成物の製造方法〕
本発明の組成物は、公知の手法を適宜用いて製造することができる。
【0122】
例えば、上記化合物(1)を含む組成物を、必要に応じてオイル成分を加え、撹拌する方法で上記組成物(例えば、エマルジョン、又はミセル)を得ることができる。
【0123】
また、上記組成物の製造において、撹拌に先立ち、上記化合物のアニオンを交換処理を行ってもよい。
【0124】
〔蛍光色素剤〕
本発明の蛍光色素剤は、上記化合物(1)又は上記組成物(1)を含む。なお、上記化合物と上記組成物の両者を含んでいてもよい。
【0125】
本発明の蛍光色素剤を用いることにより、細胞等を簡便かつ迅速に染色することができる。
【0126】
本発明の蛍光色素剤は、例えば、インビボ(生体内等)やインビトロ(試験管内等)での染色などに適宜用いることが可能である。
【0127】
上記蛍光色素剤は、例えば、生体に由来する組織中の細胞、組織、又は器官(例えば、腫瘍細胞や脳血管組織等)等の検出に用いられる。
【0128】
上記蛍光色素剤は、例えば、細胞、組織、又は器官の形態学検出用に用いられる。
【0129】
上記蛍光色素剤は、例えば、生物試料の染色又は可視化用に用いられる。
【0130】
上記蛍光色素剤は、例えば、蛍光イメージング用に用いられる。
【0131】
上記蛍光色素剤は、単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。
【0132】
また、上記蛍光色素剤は、上記化合物の他、公知の蛍光色素剤に使用される他の成分等を適宜組み合わせて用いることができる。
【0133】
本発明の蛍光色素剤が適用される組織や細胞は、動物・植物、生細胞・死細胞等を問わず、例えば、生体由来又は人工合成や培養したもの等、特に限定されない。
【0134】
上記生体は、多細胞動物であれば特に限定されず、好ましくは哺乳動物であり、より好ましくはヒトである。
【0135】
上記細胞等は、例えば、皮膚(例えば、表皮や真皮等)、脳、脊髄、食道、胃、小腸、大腸、十二指腸、直腸、肝臓、膵臓、胆嚢、膀胱、腎臓、心臓、脾臓、胸腺、前立腺、子宮、卵巣、精巣、乳房、肺、気管支、眼球、鼻、副鼻腔、口腔、咽頭、唾液腺、甲状腺、副甲状腺、副腎、筋肉、骨髄、血管、神経、リンパ節、腹膜、横隔膜、血液、及びこれらの細胞や組織等をあげることができる。
【0136】
本明細書において、生体に由来する組織には、生体から分離された組織の他に、生体そのもの、又は、生体の一部であって、生体から分離されていない組織等が包含される。
【0137】
一実施形態では、組織の形態は、検出方法によって適宜選択され得るが、例えば、臓器若しくは器官そのもの、又はそれらの薄切切片若しくは三次元断片等であってもよい。
【0138】
上記他の成分として、例えば、pH緩衝剤、界面活性剤、塩、溶媒、並びに、化合物及び組成物とは別の色素組成物等のいずれか1種単独又は2種以上の組み合わせを含んでいてもよい。
【0139】
溶媒としては、例えば、水、エタノール、メタノール、2-プロパノール、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、アセトン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、1,2-ジクロロエタンからなる群より選ばれる1種単独又は2種以上の組み合わせ等をあげることができる。
【0140】
また、本発明の蛍光色素剤は、粉末等の固体であっても、ペースト状や液体であってもよい。
【0141】
〔キット〕
本発明のキットは、上記化合物(1)又は上記組成物(1)を含む。なお、上記化合物と上記組成物の両者を含んでいてもよい。
【0142】
本発明のキットを用いることにより、細胞等を簡便かつ迅速に染色することができる。
【0143】
上記キットに含まれる構成は、例えば、上記蛍光色素剤の項の記載を適宜同様に採用することができ得る。
【0144】
上記キットは、例えば、上記化合物に、染色又は組織標本作製のための試薬や器具等と組み合わせたものにすることもできる。
【0145】
また、一実施形態では、キットは、染色液調製用の試薬を含む。さらに特定の実施形態では、染色液調製用試薬は、例えば、上記のpH緩衝剤、界面活性剤、塩、溶媒及び別の色素組成物からなる群より選ばれる1種単独又は2種以上の混合物を含み得る。
【0146】
〔細胞の検出方法〕
本発明の細胞、組織、又は器官の検出方法は、上記化合物(1)又は上記組成物(1)を含む上記蛍光色素剤で、細胞、組織、又は器官を染色する工程(1)を含む。なお、上記化合物と上記組成物の両者を含んでいてもよい。
【0147】
また、本発明の検出方法を用いることにより、細胞等を簡便に検出することができる。
【0148】
本発明の検出方法は、例えば、インビボ(生体内等)やインビトロ(試験管内等)で適宜用いることが可能である。
【0149】
なお、上記工程(1)において、蛍光色素剤とは、上記化合物及び上記組成物を含む蛍光色素剤の場合も含む。
【0150】
上記工程(1)における蛍光色素剤としては、上述の蛍光色素剤を適宜同様に採用することができ得る。
【0151】
また、上述の蛍光色素剤の項等における各構成の記載を適宜同様に採用することができ得る。
【0152】
上記工程(1)における細胞を染色する工程は、公知の細胞染色工程、組織染色工程に用いられる材料や手法等を適宜用いることができる。
【0153】
また、本発明の細胞の検出方法は、上記工程(1)の後に、対象を測定した蛍光スペクトルを用いて評価する工程(2)を含むことができる。
【0154】
上記工程(2)における蛍光スペクトルを用いて評価する工程は、公知の化合物や組織等の物質の蛍光スペクトルを測定する手法を適宜用いることができる。
【0155】
また、上記工程(2)において用いられ得る溶媒としては、例えば、水、エタノール、メタノール、2-プロパノール、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、アセトン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、1,2-ジクロロエタンからなる群より選ばれる1種単独又は2種以上の組み合わせ等をあげることができる。
【0156】
また、本発明の細胞の検出方法は、上記工程(1)の後に、対象を蛍光イメージングを用いて評価する工程(3)を含むことができる。
【0157】
上記工程(3)における蛍光スペクトルを用いて評価する工程は、公知の化合物や組織等の物質の蛍光スペクトルを測定する手法を適宜用いることができる。
【0158】
また、上記工程(3)において用いられ得る溶媒としては、例えば、水、エタノール、メタノール、2-プロパノール、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、アセトン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、1,2-ジクロロエタンからなる群より選ばれる1種単独又は2種以上の組み合わせ等をあげることができる。
【0159】
また、上記蛍光イメージングは、例えば、2光子蛍光イメージング等の多光子励起蛍光イメージングにおいて好適に用いることができ得る。
【0160】
また、上記工程(2)と上記工程(3)は併用してもよく、その順序も目的に応じて適宜組み合わせることができる。
【0161】
一実施形態では、上記方法は、生体そのもの、又は、生体の一部であって生体から分離されていない組織等に適用される。
【0162】
上記染色は、通常は組織等に上記化合物又は上記組成物を含有する染色液を接触させることによって行う。染色液中の上記化合物又は上記組成物の濃度は、染色液の全量に対して、例えば、0.001mg/mL以上、0.01mg/mL以上、0.1mg/mL以上、0.2mg/mL以上、0.3mg/mL以上、0.4mg/mL以上、0.5mg/mL以上、0.6mg/mL以上、0.7mg/mL以上、0.8mg/mL以上、0.9mg/mL以上又は1mg/mL以上に調整される。
【0163】
また、染色液中の上記化合物又は上記組成物の濃度は、染色液の全量に対して、例えば、500mg/mL以下、200mg/mL以下、100mg/mL以下、50mg/mL以下、20mg/mL以下、10mg/mL以下、5mg/mL以下又は2mg/mL以下に調整される。
【0164】
染色時の温度としては、特に限定されないが、例えば、0~80℃、4~50℃、20~45℃、又は25~40℃であり、好ましくは35℃~42℃である。
【0165】
組織等に染色液を接触させる時間は、例えば、1分以上、10分以上、20分以上、1時間以上、2時間以上、1日以上又は2日以上であり、例えば、14日以下又は7日以下である。
【0166】
一実施形態では、組織等に染色液を接触させる時間は、0~40℃で、例えば、12時間以下、6時間以下であり、好ましくは2時間以下、より好ましくは1時間以下、さらに好ましくは30分以下、さらにより好ましくは10分以下であり、また、例えば、1分以上、2分以上、5分以上又10分以上であり得る。
【0167】
上記化合物を含有する染色液で染色された組織等は、そのまま細胞の形態学検出や細胞の検出等に用いることができるが、任意選択で、検出の前に他の色素組成物による染色等の処理を経てもよい。
【0168】
本発明の方法は、さらに目的となる特定の細胞等を検出する工程を含み得る。
【0169】
別の実施形態では、細胞等の検出は、多波長測定によって行われる。
【0170】
一実施形態として、上記化合物として実施例における化合物Aを用いた場合、検出される蛍光は、例えば、650~800nm、660nm~790nm、670nm~780nm、660nm~770nm、670~760nm、680~750nmの範囲から選択される1又は2以上の波長を含む。
【0171】
また、本発明の蛍光色素剤画像を用いた解析として、マージに加え、レシオメトリック解析(異なる2つの波長の蛍光を検出し、それらの蛍光強度の比をとる方法)も有効である。
【0172】
また、上記蛍光イメージングのほか、蛍光寿命イメージング等も適宜使用可能である。
【実施例0173】
次に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0174】
〔実施例1〕
(化合物Aの合成)
化合物Aの合成は、下記のスキームのように行った。
【化7】
【0175】
〔実施例1-1〕
(1,6-ジエチルヘキシルピレン(a)の合成)
化合物aの合成は、下記のスキームのように行った。
【化8】
【0176】
50mL二口ナスフラスコに塩化亜鉛(2.8g,21mmol)、(2-エチルへキシル)マグネシウムブロミド溶液(22mL,22mmol)、超脱水テトラヒドロフラン(42mL)を加え、アルゴン雰囲気のもと0℃で30分間攪拌した。
【0177】
次いで、上記反応溶液に1,6-ジブロモピレン(3.0g,8.3mmol)と[1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]パラジウム(II)ジクロリド・ジクロロメタン付加物(680mg,0.83mmol)を加え、室温で3時間攪拌した。
【0178】
得られた反応溶液にジクロロメタンを加え、水で二回、飽和食塩水で一回洗浄した後、さらに硫酸ナトリウムを用いて脱水し、減圧濃縮した。得られた粗製物をシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン)で精製し、淡黄色固体の目的物a(化合物a)(3.4g,95%)を得た。
【0179】
(
1H-NMR分析及び
13C-NMR分析)
以下、
1H-NMR分析及び
13C-NMR分析は、核磁気共鳴装置(日本電子株式会社製:JMN-LA500)を用いて測定した。上記化合物aにおいて得られた結果を下記及び
図1に示す。
・
1H-NMR(500MHz,CDCl
3,TMS)δ 8.20(d,J=9.2Hz,2H),8.06(d,J=7.6Hz,2H),8.04(d,J=9.2Hz,2H),7.80(d,J=7.6Hz,2H),3.28-3.19(m,4H),1.88-1.86(m,2H),1.41-1.25(m,16H),0.93(t,J=7.4Hz,6H),0.87(t,J=7.2Hz,6H).
・
13C-NMR(125MHz,CDCl
3,TMS)δ 136.2,129.6,129.4128.5,127.2,125.6,124.2,122.9,41.6,38.3,32.9,29.0,26.0,23.3,14.3,11.0.
【0180】
〔実施例1-2〕
(1,6-ジエチルヘキシル-3,8-ジブロモピレン(b)の合成)
化合物bの合成は、下記のスキームのように行った。
【化9】
【0181】
50mLナスフラスコに化合物a(3.4g,7.9mmol)、N-ブロモスクシンイミド(5.7g,32mmol)、N,N-ジメチルホルムアミド(40mL)を加え、140℃で16時間加熱還流した。
【0182】
得られた反応溶液に水を加え、ジクロロメタンで三回抽出して得た有機層を水で二回、飽和食塩水で一回洗浄し、さらに硫酸ナトリウムを用いて脱水し、減圧濃縮した。得られた粗製物をシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン)で精製し、淡黄色固体の目的物b(化合物b)(2.7g,57%)を得た。
【0183】
(
1H-NMR分析及び
13C-NMR分析)
上記化合物bにおいて得られた結果を下記及び
図2に示す。
・
1H-NMR(500MHz,CDCl
3,TMS)δ 8.44(d,J=9.4Hz,2H),8.25(d,J=9.4Hz,2H),8.09(s,2H),3.25-3.15(m,4H),1.87-1.81(m,2H),1.42-1.26(m,16H),0.93(t,J=7.4Hz,6H),0.88(t,J=7.1Hz,6H).
・
13C-NMR(125MHz,CDCl
3,TMS)δ 137.7,132.8,128.8,128.0,126.2,126.0,124.2,120.1,41.6,38.0,32.8,29.0,25.9,23.2,14.3,11.0.
【0184】
〔実施例1-3〕
(1,6-ジエチルヘキシル-3,8-ジエタンアルデヒドロピレン(c)の合成)
化合物cの合成は、下記のスキームのように行った。
【化10】
【0185】
50ml二口ナスフラスコに化合物b(2.7g,4.5mmol)、酢酸パラジウム(II)(310mg,1.4mmol)、テトラブチルアンモニウムジアセテート(2.7g,9.1mmol)、炭酸カリウム(940mg,6.8mmol)、塩化カリウム(340mg,4.5mmol)を加え、さらにアクロレインジエチルアセタール(4.2mL,27mmol)、超脱水N,N-ジメチルホルムアミド(23mL)を加えてアルゴン雰囲気のもと90℃で3時間加熱攪拌した。
【0186】
得られた反応溶液に塩酸を加え、ジクロロメタンで三回抽出して得た有機層を水で二回、飽和食塩水で一回洗浄し、さらに硫酸ナトリウムを用いて脱水し、減圧濃縮した。得られた粗製物をシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒:ジクロロメタン:ヘキサン=9:1)で精製し、橙色固体の目的物c(化合物c)(630mg,26%)を得た。
【0187】
(
1H-NMR分析及び
13C-NMR分析)
上記化合物cにおいて得られた結果を下記及び
図3に示す。
・
1H-NMR(500MHz,CDCl
3,TMS)δ 9.94(d,J=7.7Hz,2H),8.64(d,J=15.6Hz,2H),8.55(d,J=9.6Hz,2H),8.38(d,J=9.6Hz,2H),8.14(s,2H),7.02(dd,J=7.7Hz,15.6Hz,2H),3.21-3.31(m,4H),1.85-1.86(m,2H),1.25-1.43(m,16H),0.95(t,J=7.4Hz,6H),0.88(t,J=7.1Hz,6H).
・
13C-NMR(125MHz,CDCl
3,TMS)δ 193.6,149.0,137.6,131.4,130.9,128.5,127.9,127.3,126.0,124.4,123.3,41.6,38.4,32.9,29.0,25.9,23.2,14.3,11.0.
【0188】
〔実施例1-4〕
(化合物Aの合成)
化合物Aの合成は、下記のスキームのように行った。
【化11】
【0189】
10mLのナスフラスコに化合物c(186mg,0.35mmol)、1-(2-エチルへキシル)-4-メチルピリジニウムヨージド(333mg,1.0mmol)、ピペリジン(0.2mL)、クロロホルム(2mL)を加えて60℃で6時間加熱還流した。溶媒を減圧濃縮した後、熱エタノールを加え、析出物を吸引ろ過によって回収した。ろ物として、濃紫色固体の目的物A(化合物A)(58mg,14%)を得た。
【0190】
(
1H-NMR分析)
上記化合物Aにおいて得られた結果を下記及び
図4に示す。
・
1H-NMR(500MHz,DMSO-d6,TMS)δ 8.89(d,J=6.7Hz,4H),8.60(d,J=9.8Hz,2H),8.36(s,2H),8.34(d,J=9.8Hz,2H),8.31(d,J=15.4Hz),8.16(d,J=6.7,4H),8.09(dd,J=15.4Hz,10.8Hz,2H),7.60(dd,J=15.4Hz,10.8Hz,2H),7.05(d,J=15.4Hz,2H),4.40(d,J=7.4Hz,4H),1.95-1.97(m,2H),1.82-1.84(m,2H),1.18-1.38(m,32H),0.90(t,J=7.3Hz,6H),0.85(t,J=7.4Hz,6H),0.83(t,J=7.4Hz,6H),0.80(t,J=7.3Hz,6H).
【0191】
(高分解能質量分析)
高分解能質量分析は、高分解能質量分析装置(日本電子株式会社製:JMS-700)を用いて測定した。上記化合物Aにおいて得られた結果を下記に示す。
・HRMS(ESI)Calcd for C66H90N2
2+:455.35,Found:455.35([M]2+).
【0192】
〔実施例2〕
(化合物Aの有機溶媒中での光物性測定)
実施例1で得られた化合物Aの各有機溶媒中での吸収スペクトル及び蛍光スペクトル測定を行った。
【0193】
以下、吸収スペクトル及び蛍光スペクトル測定は、それぞれ紫外可視近赤外分光光度計装置(日本分光株式会社製:V-670)及び分光蛍光光度計装置(日本分光株式会社製:FP6600)を用いて測定した。また、蛍光量子収率は絶対PL量子収率測定装置(浜松ホトニクス株式会社:C9920-02V)を用いて測定した。また、化合物Aの濃度は、各溶媒それぞれ5μMであった。溶媒種は、エタノール、ジメチルスルホキシドを用いた。得られた結果を
図5及び表1に示す。
【0194】
【0195】
〔実施例3〕
(組成物Aの調製と光物性測定)
組成物A(化合物A集積型ナノエマルジョン)の調製は、下記のスキームのように行った。
【化12】
【0196】
マイクロチューブに化合物A(2.0mg,1.7mmol)、リチウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラート-エチルエーテルコンプレックス(3.3mg,3.8mmol)を量りとり、ジクロロメタンを300μL入れて10分間攪拌した(アニオン交換)。
【0197】
得られた反応溶液を177μLとり、Labrafac CC 23mg、Cremophor ELP 27mgを量りとったマイクロチューブに対し、上記の反応溶液177μL加え、90℃の湯浴で15分攪拌した。界面活性剤であるLabrafac CCとオイルであるCremophor ELPを用いることで、自発的ナノ乳化させた。ジクロロメタンが揮発したことを確認した後、リン酸緩衝液(20mM、pH=7.2)を230μL加えてさらに15分90℃で攪拌することで目的とする組成物A(化合物A含有ナノエマルジョン)を得た。
・流体力学直径:54nm(20℃、体積換算、CONTIN法)
・多分散度指数:0.09
【0198】
〔実施例4〕
(化合物A集積型ナノエマルジョンの光物性測定)
実施例3で得られた組成物Aの吸収スペクトル及び蛍光スペクトル測定を行った。
【0199】
組成物Aにおける粒子中の化合物Aの濃度は、20μMであった。測定はナノエマルジョン溶液のまま行った。得られた結果を
図6に示す。なお、一光子極大吸収波長は553nm、極大蛍光波長は711nm、蛍光量子収率は0.33であった。
【0200】
図6に示されるように、ナノエマルジョンである組成物Aにおいても、高密度状態で物質間相互作用等により蛍光性を消失することなく、化合物A同様に優れた蛍光特性が認められた。
【0201】
〔実施例5〕
(組成物Aを用いた生体マウス脳血管の二光子励起蛍光イメージング)
以下の手順により、実施例3で得られた組成物Aを用いて生体マウス脳血管の二光子励起蛍光イメージングを行った。
【0202】
ワイルドタイプのマウス(四週齢・♂)の頭蓋骨除去手術を行い、観察窓を形成した。
【0203】
次いで、実施例3で調製した組成物A(溶液中色素濃度:0.88mM)100μLを上記マウスに静脈注射した。
【0204】
1100nmの励起光(対物下210mW)をレゾナントキャン(フレームレート:30fps、アベレージ:8)によって照射し、画像を取得した。
【0205】
【0206】
図7に示されるように、組成物Aは、生体マウスの脳血管組織構造等を明瞭に描出できるとともに、表面より深い組織まで描出できることが認められた。