(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023040285
(43)【公開日】2023-03-22
(54)【発明の名称】歯間清掃具及び基部の製造方法
(51)【国際特許分類】
A61C 15/04 20060101AFI20230314BHJP
【FI】
A61C15/04 501
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023006453
(22)【出願日】2023-01-19
(62)【分割の表示】P 2017254427の分割
【原出願日】2017-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100174827
【弁理士】
【氏名又は名称】治下 正志
(72)【発明者】
【氏名】吉川 侑
(57)【要約】
【課題】軸部の座屈強度を確保しつつ、軸部に座屈が生じた場合における当該軸部の分断を抑制することが可能な歯間清掃具を提供すること。
【解決手段】歯間清掃具(1)であって、歯間に挿通されることが可能な形状を有する軸部(20)を有する基部(10)を含み、前記基部(10)は、合成樹脂と炭素繊維とを含む複合材料により形成されており、前記複合材料における前記炭素繊維の含有量は、5重量%以上10重量%以下であること。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯間清掃具であって、
歯間に挿通されることが可能な形状を有する軸部を有する基部を含み、
前記基部は、合成樹脂と繊維長が1~8mmの炭素繊維とを含む複合材料により形成されており、
前記複合材料における、前記炭素繊維の含有量は、5重量%以上10重量%以下であり、前記合成樹脂の含有量は、90重量%以上95重量%以下である、
歯間清掃具。
【請求項2】
請求項1に記載の歯間清掃具において、
前記合成樹脂は、ポリプロピレンである、歯間清掃具。
【請求項3】
歯間に挿通されることが可能な形状を有する軸部を有する基部の製造方法であって、
合成樹脂と繊維長が1~8mmの炭素繊維とを含む複合材料であって、前記炭素繊維の含有量が5重量%以上10重量%以下であり、前記合成樹脂の含有量が90重量%以上95重量%以下であるものを準備する準備工程と、
前記基部に対応する空間を有する金型内に前記複合材料を充填することによって前記基部を成形する成形工程と、を備える、基部の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の基部の製造方法において、
前記準備工程では、前記複合材料として、前記合成樹脂及び前記炭素繊維を含む固形物が準備され、
前記成形工程では、前記固形物を溶融させながら前記金型内に充填する、基部の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯間清掃具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、歯間を清掃するための歯間清掃具が知られている。例えば、特許文献1には、合成樹脂と繊維材とを含む複合材料からなる基部と、エラストマーからなる清掃部と、を備える歯間清掃具が開示されている。基部は、歯間に挿通されることが可能な形状を有する軸部と、指で把持されることが可能な形状を有する把持部と、を有している。特許文献1には、合成樹脂への繊維材の配合により、軸部の剛性(座屈強度)が高まることが記載されている。また、合成樹脂としてポリプロピレンが用いられる場合、繊維材が15重量%~35重量%配合されることが好ましく、合成樹脂としてポリブチレンテレフタレートが用いられる場合、繊維材が12重量%~35重量%配合されることが好ましいことが記載されている。具体的に、ポリプロピレンに対して、繊維材として、ガラス繊維、ガラスボール又はタルクが添加されたものや、ポリブチレンテレフタレートに対して、繊維材として、ガラス繊維が添加されたものを用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されるような歯間清掃具では、ポリプロピレン等の合成樹脂に対して繊維材が配合されることによって軸部の座屈強度が高められているものの、軸部に座屈が生じた場合、その部分で分断されやすく(ちぎれやすく)なる。歯間清掃具での歯間の清掃中に軸部が分断された場合、その破片が歯間等に残存する懸念がある。
【0005】
本発明の目的は、軸部の座屈強度を確保しつつ、軸部に座屈が生じた場合における当該軸部の分断を抑制することが可能な歯間清掃具及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明者らは、合成樹脂に対してガラス繊維の曲げ強度よりも大きな曲げ強度を有する炭素繊維を配合することにより、合成樹脂への繊維材の配合量を減らしつつ軸部の座屈強度を確保できること、換言すれば、軸部の座屈強度を確保しつつ、複合材料における合成樹脂の含有量を増やすことによって軸部の靱性(ちぎれにくさ)を向上させることが可能であることに想到した。
【0007】
本発明は、上記の観点に基づいてなされたものである。具体的に、本発明は、歯間清掃具であって、歯間に挿通されることが可能な形状を有する軸部を有する基部を含み、前記基部は、合成樹脂と炭素繊維とを含む複合材料により形成されており、前記複合材料における前記炭素繊維の含有量は、5重量%以上10重量%以下である、歯間清掃具を提供する。
【0008】
本歯間清掃具では、基部を形成する複合材料に比較的曲げ強度の大きな炭素繊維が5重量%以上10重量%以下含まれているので、軸部の座屈強度が確保され、しかも、軸部に座屈が生じた場合における当該軸部の分断が抑制される。具体的に、複合材料における炭素繊維の含有量が5重量%以上であることにより、軸部の座屈強度が有効に確保される。そして、炭素繊維の含有量が10重量%以下であること、つまり、複合材料における合成樹脂の含有量が増大することにより、軸部の靱性が高まる。
【0009】
また、前記合成樹脂は、ポリプロピレンであることが好ましい。
【0010】
このようにすれば、軸部の靱性が有効に高まるので、軸部に座屈が生じたとしても、その部分での軸部の分断がより確実に抑制される。
【0011】
また、本発明は、歯間に挿通されることが可能な形状を有する軸部を有する基部の製造方法であって、合成樹脂と炭素繊維とを含む複合材料であって前記炭素繊維の含有量が5重量%以上10重量%以下であるものを準備する準備工程と、前記基部に対応する空間を有する金型内に前記複合材料を充填することによって前記基部を成形する成形工程と、を備える、基部の製造方法を提供する。
【0012】
本製造方法では、成形工程において金型内に充填される複合材料における炭素繊維の含有量が5重量%以上10重量%以下であるので、座屈強度が確保されかつ座屈が生じた場合であっても分断されにくい軸部を有する基部が製造される。さらに、炭素繊維の含有量が10重量%よりも多い場合に比べて、金型内に充填される複合材料の流動性が高まる。よって、基部の製造効率が向上する。
【0013】
また、前記基部の製造方法において、前記準備工程では、前記複合材料として、前記合成樹脂及び前記炭素繊維を含む固形物が準備され、前記成形工程では、前記固形物を溶融させながら前記金型内に充填することが好ましい。
【0014】
このようにすれば、準備工程において、予め合成樹脂に対する炭素繊維の配合量が調整された固形物(例えばペレット状のもの)が準備されるので、成形工程において炭素繊維が飛散することや、複合材料における炭素繊維の含有量にばらつきが生じることが抑制される。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明によれば、軸部の座屈強度を確保しつつ、軸部に座屈が生じた場合における当該軸部の分断を抑制することが可能な歯間清掃具及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態の歯間清掃具の正面図である。
【
図3】合成樹脂と炭素繊維(長繊維)とを含む複合材料の固形物の概略図である。
【
図4】合成樹脂と炭素繊維(短繊維)とを含む複合材料の固形物の概略図である。
【
図5】各実施例及び各比較例の組成を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一実施形態の歯間清掃具1について、
図1~
図4を参照しながら説明する。
【0018】
図1に示されるように、歯間清掃具1は、基部10を備えており、好ましくは清掃部40をさらに備えている。基部10は、軸部20と、把持部30と、を有する。
【0019】
軸部20は、特定方向(
図1の左右方向)に沿って直線状に延びるとともに歯間に挿通されることが可能な形状を有する。軸部20の軸方向(
図1の左右方向)と直交する平面での軸部20の断面は、円形である。なお、前記断面は、楕円形や多角形等であってもよい。本実施形態では、軸部20は、当該軸部の基端部から先端に向かうにしたがって次第にその外径が小さくなる円柱状に形成されている。
【0020】
把持部30は、軸部20の軸方向に沿って軸部20の基端部から離間するように延びており、指で把持されることが可能な形状を有する。把持部30は、扁平に形成されている。
図1に示されるように、各歯間清掃具1の把持部30同士は、連結片32で連結されている。
【0021】
基部10は、合成樹脂61(
図3及び
図4を参照)と炭素繊維62,63(
図3及び
図4を参照)とを含む複合材料からなる。合成樹脂61として、ポリプロピレン、ポリエチレン、ABS、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、ポリアセタール等が好ましく用いられる。本実施形態では、合成樹脂61として、ポリプロピレンが用いられている。炭素繊維として、繊維長が1~8mm程度の長繊維62(
図3を参照)、あるいは、繊維長が0.1~1mm程度の短繊維63(
図4を参照)が用いられる。複合材料における炭素繊維62,63の含有量は、5重量%以上10重量%以下に設定されることが好ましい。また、炭素繊維62は、成形された基部10内において、通常、0.5~2mm程度となり、炭素繊維63は、成形された基部10内において、通常、0.01~4mm程度となる。また、炭素繊維62,63(
図3及び
図4を参照)の曲げ弾性率は、4~20GPa程度である。
【0022】
ここで、以上に説明した基部10の製造方法について説明する。本製造方法は、準備工程と、成形工程と、を含んでいる。
【0023】
準備工程では、前記複合材料(炭素繊維62,63の含有量が5重量%以上10重量%以下であるもの)が準備される。具体的に、この工程では、複合材料として、合成樹脂61及び炭素繊維62,63を含む固形物(ペレット状のもの)P(
図3及び
図4を参照)が準備される。固形物Pは、例えば円柱状、球状、四角柱に形成される。ただし、固形物Pを溶融させるためのタンクへの当該固形物Pの投入時に詰まりを起こしにくいという観点から、固形物Pは円柱状に形成されることが好ましい。長繊維62は、当該繊維の長手方向が前記円柱の軸方向と平行となる姿勢で合成樹脂61に保持されている。
【0024】
成形工程では、
図2に示されるように、基部10に対応する空間を有する金型50内に、固形物Pを溶融させながら充填することによって基部10が成形される。
【0025】
次に、清掃部40について説明する。清掃部40は、歯間を清掃するための部位であり、基部10の硬度よりも低い硬度を有する樹脂材料により形成されている。具体的に、前記樹脂材料として、スチレン系エラストマーが用いられている。ただし、前記樹脂材料として、シリコン、オレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー等が用いられてもよい。本実施形態では、清掃部40は、軸部20の外周面の一部(軸部20の先端部を含む部位)を被覆する清掃部本体42と、それぞれが清掃部本体42の外周面から突出する形状を有する複数のブラシ部44と、を有する。なお、この清掃部40は、省略されてもよい。
【0026】
以上に説明したように、本実施形態の歯間清掃具1では、基部10を形成する複合材料に比較的曲げ強度の大きな炭素繊維62,63が5重量%以上10重量%以下含まれているので、軸部20の座屈強度が確保され、しかも、軸部20に座屈が生じた場合における当該軸部20の分断が抑制される。具体的に、複合材料における炭素繊維62,63の含有量が5重量%以上であることにより、軸部20の座屈強度が有効に確保され、炭素繊維62,63の含有量が10重量%以下であること、つまり、複合材料における合成樹脂61の含有量が増大することにより、軸部20の靱性が高まる。
【0027】
また、合成樹脂61として、ポリプロピレンが用いられているので、軸部20の靱性が有効に高まる。よって、軸部20に座屈が生じたとしても、その部分での軸部20の分断がより確実に抑制される。
【0028】
そして、複合材料における炭素繊維62,63の含有量が5重量%以上10重量%以下であるので、炭素繊維やガラス繊維等の繊維材の含有量が10重量%よりも多い場合に比べて、前記成形工程において、金型50内に充填される複合材料の流動性が高まる。よって、基部10の製造効率が向上する。
【0029】
また、前記準備工程では、複合材料として、合成樹脂61及び炭素繊維62,63を含む固形物Pが準備されるので、成形工程において炭素繊維62,63が飛散することや、複合材料における炭素繊維62,63の含有量にばらつきが生じることが抑制される。
【0030】
なお、今回開示された上記実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0031】
例えば、複合材料は、炭素繊維として、長繊維62と短繊維63との双方を含んでいていてもよい。
【0032】
また、軸部20の軸方向は、把持部30の長手方向と交差していてもよい。また、軸部20は、湾曲していてもよい。
【実施例0033】
上記実施形態の歯間清掃具1に関して、4種類の実施例及び2種類の比較例を作成した。各実施例及び各比較例の組成は、
図5に示されるとおりである。具体的に、各実施例及び比較例において、合成樹脂(ポリプロピレン)と繊維材(炭素繊維又はガラス繊維)とを含む複合材料の固形物(実施例1:ポリプロピレンと5重量%の長繊維62とを含む固形物、実施例2:ポリプロピレンと10重量%の長繊維62とを含む固形物、実施例3:ポリプロピレンと5重量%の短繊維63とを含む固形物、実施例4:ポリプロピレンと10重量%の短繊維63とを含む固形物、比較例1:ポリプロピレンと5重量%のガラス繊維とを含む固形物、比較例2:ポリプロピレンと10重量%のガラス繊維とを含む固形物)を準備し、この固形物を、金型50内の空間(基部10に対応する空間)に溶融させながら充填することによって基部10を成形した。そして、その基部10に対してスチレン系エラストマーにより清掃部40を設けることにより歯間清掃具を作製した。
【0034】
実施例1~4のいずれについても、比較例1及び2と比較して、軸部に座屈が生じた場合にその部分で分断されにくくなっており、また、金型50内に充填される複合材料の流動性にも優れるものであった。また、前歯及び奥歯の歯間への清掃部40の挿入性にも優れていた。