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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023040313
(43)【公開日】2023-03-23
(54)【発明の名称】放射線線量測定用ゲル線量計
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/02 20060101AFI20230315BHJP
   A61B 6/03 20060101ALI20230315BHJP
   G01N 23/046 20180101ALI20230315BHJP
【FI】
G01T1/02 B
A61B6/03 375
A61B6/03 360J
G01N23/046
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020023818
(22)【出願日】2020-02-14
(71)【出願人】
【識別番号】598041566
【氏名又は名称】学校法人北里研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 祐介
(72)【発明者】
【氏名】前山 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】水上 慎也
(72)【発明者】
【氏名】工藤 佳宏
【テーマコード(参考)】
2G001
4C093
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA11
2G001CA01
2G001DA01
2G001DA09
2G001GA06
2G001GA08
2G001LA01
4C093AA22
4C093CA34
4C093EE16
4C093EE20
4C093FF21
4C093FG01
4C093GA02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】放射線線量測定用ゲル線量計の提供。
【解決手段】X線減弱係数の差による空間的なパターンを有し、かつ応力により変形可能な放射線線量測定用ゲル線量計であって、
該ゲル線量計はゲル化剤、モノマー及び水を含み、
該パターンの応力による変形はX線CT装置で読み取ることができ、かつ
該ゲル線量計の吸収線量は医用画像診断装置で測定できることを特徴とする、放射線線量測定用ゲル線量計。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線減弱係数の差による空間的なパターンを有し、かつ応力により変形可能な放射線線量測定用ゲル線量計であって、
該ゲル線量計はゲル化剤、モノマー及び水を含み、
該パターンの応力による変形はX線CT装置で読み取ることができ、かつ
該ゲル線量計の吸収線量は医用画像診断装置で測定できることを特徴とする、放射線線量測定用ゲル線量計。
【請求項2】
前記吸収線量の測定がMRI装置により前記ゲル線量計の各部位の緩和時間を測定することにより行われる、請求項1に記載の放射線線量測定用ゲル線量計。
【請求項3】
前記パターンがゲル化剤のX線減弱係数よりも高いX線減弱係数を有する添加剤を添加することにより形成されたパターンである、請求項1又は請求項2に記載の放射線線量測定用ゲル線量計。
【請求項4】
前記パターンがゲル化剤の濃度変化により形成されたパターンである、請求項1又は請求項2に記載の放射線線量測定用ゲル線量計。
【請求項5】
前記添加剤がX線CT用造影剤である、請求項3に記載の放射線線量測定用ゲル線量計。
【請求項6】
前記添加剤が原子番号20乃至82の元素又はその元素を含む化合物である、請求項3又は請求項5に記載の放射線線量測定用ゲル線量計。
【請求項7】
前記ゲル化剤がゼラチン、アガロース、カラギーナン、ジェランガム、キサンタンガム及び寒天からなる群より選ばれるゲル化剤である、請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の放射線線量測定用ゲル線量計。
【請求項8】
前記ゲル化剤が水溶性有機高分子(A)、ケイ酸塩(B)及び該ケイ酸塩の分散剤(C)を含む、請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の放射線線量測定用ゲル線量計。
【請求項9】
前記水溶性有機高分子(A)が有機酸構造、有機酸塩構造又は有機酸アニオン構造を有する水溶性有機高分子である、請求項8に記載の放射線線量測定用ゲル線量計。
【請求項10】
前記水溶性有機高分子(A)が重量平均分子量100万乃至1000万の完全中和又は部分中和ポリアクリル酸塩である、請求項8又は請求項9に記載の放射線線量測定用ゲル線量計。
【請求項11】
前記ケイ酸塩(B)がスメクタイト、ベントナイト、バーミキュライト及び雲母からなる群より選ばれる1種又は2種以上の水膨潤性ケイ酸塩粒子である、請求項8乃至請求項10のいずれか1項に記載の放射線線量測定用ゲル線量計。
【請求項12】
前記分散剤(C)がオルトリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、テトラリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、エチドロン酸ナトリウム、ポリ(メタ)アクリル酸ナトリウム、ポリ(メタ)アクリル酸アンモニウム、アクリル酸ナトリウム/マレイン酸ナトリウム共重合体、アクリル酸アンモニウム/マレイン酸アンモニウム共重合体、水酸化ナトリウム、ヒドロキシルアミン、炭酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、フミン酸ナトリウム及びリグニンスルホン酸ナトリウムからなる群から選ばれ
る1種又は2種以上である、請求項8乃至請求項11のいずれか1項に記載の放射線線量測定用ゲル線量計。
【請求項13】
架橋剤を更に含む、請求項1乃至請求項12のいずれか1項に記載の放射線線量測定用ゲル線量計。
【請求項14】
脱酸素剤を更に含む、請求項1乃至請求項13のいずれか1項に記載の放射線線量測定用ゲル線量計。
【請求項15】
請求項1乃至請求項14のいずれか1項に記載の放射線線量測定用ゲル線量計を含むファントム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は放射線線量測定用ゲル線量計に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、注目されている適応放射線治療(adaptive radiation therapy:ART)は、治療中の照射位置誤差や体内臓器変動、および治療期間中の標的体積や周辺の正常組織との幾何学的位置関係の変化を治療計画に反映し、治療日ごとに最適な照射計画を適応することで、より安全で有効な治療効果を取得できる治療法である。
【0003】
そして、ARTの実施のために、非剛体画像レジストレーション(deformable image registration:DIR)技術が利用されている。DIRは、被変形画像の各画素の位置をそれに対応する目標画像の画素位置に移動させるベクトルを生成し、被変形画像を目標画像に一致するように変形させる照合技術である。放射線治療領域におけるDIRでは、主に治療計画CT(computed tomography)画像を被変形画像とし、その画像に関連付いた情報(画素値、輪郭、治療計画パラメータ、線量分布など)を目標画像に一致させる技術として用いられる。具体的には、同一患者における臓器や標的の変形前後の輪郭セグメンテーションや線量分布の合算に利用されている。特にDIRによる線量分布の合算は、ARTにおける線量評価や呼吸、嚥下、心拍動、蠕動などの体内臓器の動きに対する4次元CT(4D-CT)などの多時相画像情報を利用した4次元治療計画の線量計算、放射線治療の既往のある患者に対する再照射における累積線量の評価での利用が可能であり、臨床における有用性は高い(図1)。よって、今後、臨床において、DIRを用いた線量分布の合算の利用が急速に広まっていくことが予想される。
【0004】
しかし、DIRを用いた線量分布の合算はコンピュータによる予測値であり、DIR精度の定量的な評価のための検証方法や評価基準は確立しておらず、非特許文献1においても具体的に言及されていない。また、ARTなどの臨床において、DIRにより変形された線量分布や合算線量を利用するためには、計算結果の確認と妥当性の判断を行い、不確かさや問題点を把握した上で使用すべきであり、それを実施するためのDIRの精度検証に使用するツールの整備が必要不可欠である。
そこで、ゲル線量計を用いた線量評価の検証手法が研究・開発されている(非特許文献5乃至非特許文献8)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】日本放射線腫瘍学会QA委員会DIRガイドラインワーキンググループ. 放射線治療における非剛体画像レジストレーション利用のためのガイドライン2018年版. 2018.
【非特許文献2】木藤哲史. 臨床利用におけるDIRの概要. Jpn. J. Med. Phys. 39(1), 7-11, 2019.
【非特許文献3】黒岡将彦. DIRの臨床における応用利用. Jpn. J. Med. Phys. 39(1), 24-28, 2019.
【非特許文献4】宮部結城. DIRを用いた線量分布の合算. Jpn. J. Med. Phys. 39(1), 20-23, 2019.
【非特許文献5】Kashani R, Hub M, Kessler ML, Balter JM. Technical note: a physical phantom for assessment of accuracy of deformable alignment algorithms. Med Phys. 2007;34:2785-2788.
【非特許文献6】Serban M, Heath E, Stroian G, Collins DL, Seuntjens J. A deformable phantom for 4D radiotherapy verification: design and image registration evaluation. Med Phys. 2008;35:1094-1102.
【非特許文献7】Maynard E, Heath E, Hilts M, Jirasek A. Introduction of a deformable x-ray CT polymer gel dosimetry system. Phys Med Biol. 2018 Mar 29;63(7):075014.
【非特許文献8】Yeo UJ, Taylor ML, Dunn L, Kron T, Smith RL, Franich RD. A novel methodology for 3D deformable dosimetry. Med Phys. 2012 Apr;39(4):2203-13.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のゲル線量計を用いた線量評価の検証手法は、ゲル内に点在させたマーカーを基準に変形情報を取得するものであり、そして該変形情報はマーカーの位置情報のみに限定されていたので、各マーカーに対応する変形後の各マーカーを追跡するのは難しかった。また、各マーカーの位置関係からゲル全体の形状を推測するものであるので、実際の臓器変形を模擬した変形になっていなかった。
そこで、本発明の目的は、マーカーを使用しなくても、実際の臓器変形を模擬した変形の情報が得られかつ該変形の情報をCT画像等により取得可能な放射線線量測定用ゲル線量計を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、マーカーを使用しなくても、実際の臓器変形を模擬した変形の情報が得られかつ該変形の情報をCT画像等により取得可能な放射線線量測定用ゲル線量計について鋭意検討をした結果、変形情報を取得するのにマーカーのような点ではなく、CT画像から変形前後のゲル全体の形状を連続的に観測するという着想の下、CT画像において示されるX線吸収差のコントラストに基づくパターンを有しかつ応力により変形可能なゲル線量計が、上記目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、第1観点として、
X線減弱係数の差による空間的なパターンを有し、かつ応力により変形可能な放射線線量測定用ゲル線量計であって、
該ゲル線量計はゲル化剤、モノマー及び水を含み、
該パターンの応力による変形はX線CT装置で読み取ることができ、かつ
該ゲル線量計の吸収線量は医用画像診断装置で測定できることを特徴とする、放射線線量測定用ゲル線量計に関する。
第2観点として、前記吸収線量の測定がMRI装置により前記ゲル線量計の各部位の緩和時間を測定することにより行われる、第1観点に記載の放射線線量測定用ゲル線量計に関する。
第3観点として、前記パターンがゲル化剤のX線減弱係数よりも高いX線減弱係数を有する添加剤を添加することにより形成されたパターンである、第1観点又は第2観点に記載の放射線線量測定用ゲル線量計に関する。
第4観点として、前記パターンがゲル化剤の濃度変化により形成されたパターンである、第1観点又は第2観点に記載の放射線線量測定用ゲル線量計に関する。
第5観点として、前記添加剤がX線CT用造影剤である、第3観点に記載の放射線線量測定用ゲル線量計に関する。
第6観点として、前記添加剤が原子番号20乃至82の元素又はその元素を含む化合物である、第3観点又は第5観点に記載の放射線線量測定用ゲル線量計に関する。
第7観点として、前記ゲル化剤がゼラチン、アガロース、カラギーナン、ジェランガム、キサンタンガム及び寒天からなる群より選ばれるゲル化剤である、第1観点乃至第6観
点のいずれか1つに記載の放射線線量測定用ゲル線量計に関する。
第8観点として、前記ゲル化剤が水溶性有機高分子(A)、ケイ酸塩(B)及び該ケイ酸塩の分散剤(C)を含む、第1観点乃至第6観点のいずれか1つに記載の放射線線量測定用ゲル線量計に関する。
第9観点として、前記水溶性有機高分子(A)が有機酸構造、有機酸塩構造又は有機酸アニオン構造を有する水溶性有機高分子である、第8観点に記載の放射線線量測定用ゲル線量計に関する。
第10観点として、前記水溶性有機高分子(A)が重量平均分子量100万乃至1000万の完全中和又は部分中和ポリアクリル酸塩である、第8観点又は第9観点に記載の放射線線量測定用ゲル線量計に関する。
第11観点として、前記ケイ酸塩(B)がスメクタイト、ベントナイト、バーミキュライト及び雲母からなる群より選ばれる1種又は2種以上の水膨潤性ケイ酸塩粒子である、第8観点乃至第10観点のいずれか1つに記載の放射線線量測定用ゲル線量計に関する。
第12観点として、前記分散剤(C)がオルトリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、テトラリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、エチドロン酸ナトリウム、ポリ(メタ)アクリル酸ナトリウム、ポリ(メタ)アクリル酸アンモニウム、アクリル酸ナトリウム/マレイン酸ナトリウム共重合体、アクリル酸アンモニウム/マレイン酸アンモニウム共重合体、水酸化ナトリウム、ヒドロキシルアミン、炭酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、フミン酸ナトリウム及びリグニンスルホン酸ナトリウムからなる群から選ばれる1種又は2種以上である、第8観点乃至第11観点のいずれか1つに記載の放射線線量測定用ゲル線量計に関する。
第13観点として、架橋剤を更に含む、第1観点乃至第12観点のいずれか1つに記載の放射線線量測定用ゲル線量計に関する。
第14観点として、脱酸素剤を更に含む、第1観点乃至第13観点のいずれか1つに記載の放射線線量測定用ゲル線量計に関する。
【0009】
第15観点として、第1観点乃至第14観点のいずれか1つに記載の放射線線量測定用ゲル線量計を含むファントムに関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の放射線線量測定用ゲル線量計は、マーカーを使用しなくても、実際の臓器変形を模擬した変形の情報が得られるという効果を有する。
【0011】
また、本発明の放射線線量測定用ゲル線量計は造影剤を不均一に含む場合であっても、ゲル線量計として機能することができるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1はDIRによる線量分布の合算を示す図である。
図2図2は変形可能な(Deformable)ゲル線量計による線量分布測定のイメージ図である。
図3図3はCT画像において示されるX線吸収差のコントラストに基づくパターンの例を示す図である[(a)縞模様パターン、(b)濃淡パターン、(c)幾何学模様パターン、及び(d)グラデーションパターン]。
図4図4は実施例1における、縞模様パターンを有するゲル線量計の作製に使用した塩化ビニル容器の写真(a)と該ゲル線量計のコンピューター断層(Computed tomography:CT)画像(b)である。
図5図5は実施例1における、人体(前立腺)を模擬し濃淡パターンを有するゲル線量計の写真(a)と該ゲル線量計のCT画像(b)である。
図6図6は実施例1における、幾何学模様パターンを有するゲル線量計の写真(a)と該ゲル線量計のCT画像(b)である。
図7図7は実施例2における、医用直線加速器(6MV X線)による幾何学模様パターンを有するゲル線量計への照射を示す模式図である。
図8図8は実施例2における、Ir-192線源による人体(前立腺)を模擬し濃淡パターンを有するゲル線量計への照射を示す模式図である。
図9図9は実施例2における、VIPETゲル線量計に対する照射試験の結果を示す図である。
図10図10は実施例2における、照射後の幾何学模様パターンを有するゲル線量計の写真(a)とRマップを示す写真(b)である。
図11図11は実施例2における、照射後の人体(前立腺)を模擬し濃淡パターンを有するゲル線量計の写真(a)とRマップを示す写真(b)である。
図12図12は実施例3における、縞模様パターンを有するゲル線量計の変形操作を示す模式図(a)と変形前の該ゲル線量計の写真(b)と変形後の該ゲル線量計の写真(c)である。
図13図13は変形前後の縞模様パターンを有するゲル線量計のRマップを示す写真(a)と線量分布を示す写真(b)である。
図14図14は変形前の縞模様パターンを有するゲル線量計のCT画像(a)と変形後の縞模様パターンを有するゲル線量計のCT画像(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[放射線線量測定用ゲル線量計]
本発明は、X線減弱係数の差による空間的なパターンを有し、かつ応力により変形可能な放射線線量測定用ゲル線量計であって、
該ゲル線量計はゲル化剤、モノマー及び水を含み、
該パターンの応力による変形はX線CT装置で読み取ることができ、かつ
該ゲル線量計の吸収線量は医用画像診断装置で測定できることを特徴とする、放射線線量測定用ゲル線量計である。
【0014】
本発明の放射線線量測定用ゲル線量計はCT画像において示されるX線吸収差のコントラストに基づくパターンを有するので、マーカーを使用しなくても、変形の情報をCT画像により取得することができる。また、本発明の放射線線量測定用ゲル線量計は応力により変形することができるので、実際の臓器変形を模擬した変形が可能である。
すなわち、本発明の放射線線量測定用ゲル線量計を用いることにより、実際の臓器変形を模擬した変形の情報がCT画像により得られ、また吸収線量は医用画像診断装置で測定できるので、本発明の放射線線量測定用ゲル線量計は実際の治療に近い条件での新規なDIRの精度検証手法を提供することができると考えられる。
具体的なイメージを図2に示す。ゲル線量計内の白黒濃淡はCT画像のX線吸収差であるコントラストを示し、種々の線で示した円形部分が照射後のゲル線量計に対して核磁気共鳴画像法(magnetic resonance imaging :MRI)測定により得られる線量分布に対応する。
【0015】
本発明の放射線線量測定用ゲル線量計は、X線減弱係数の差による空間的なパターンを有するものである。これにより、マーカーを使用しなくても、変形の情報をCT画像により取得することができる。
前記パターンとしては、CT画像において示されるX線吸収差のコントラストに基づくパターンであれば特に限定されず、例えば、図2に示したように、(a)縞模様パターン、(b)濃淡パターン、(c)色又は色の濃さが異なるビーズ等を容器に詰めて形成した幾何学模様パターン及び(d)グラデーションパターンが挙げられる。
なお、本発明において、パターンの形状や規則性は特に限定されず、またパターン数に比例して、より正確な変形の情報を取得することができる。
【0016】
本発明において、上記のX線減弱係数の差による空間的なパターンは、ゲル化剤のX線減弱係数よりも高いX線減弱係数を有する添加剤を添加することにより形成されたパターンであることが好ましい。
前記添加剤としては、X線CT用造影剤であることが好ましく、原子番号20乃至82の元素又はその元素を含む化合物であるX線CT用造影剤であることがより好ましく、ヨード造影剤又は硫酸バリウムであることがさらに好ましい。
【0017】
また、上記添加剤としては、原子番号20乃至82の元素又はその元素を含む化合物であることが好ましく、原子番号39乃至79の元素又はその元素を含む化合物であることがより好ましく、原子番号53乃至79の元素又はその元素を含む化合物であることがより一層好ましい。
前記原子番号20乃至82の元素又はその元素を含む化合物としては、アミドトリゾ酸ナトリウムメグルミン、イオキサグル酸、イオキシラン、イオヘキソール、及びイオトロラン等のトリヨードベンゼン類等が挙げられる。
前記添加剤の具体例としては、ウログラフイン(登録商標)[バイエル薬品(株)製]、ヘキサブリックス(登録商標)[ゲルべ・ジャパン(株)製]、イマジニール(登録商標)[ゲルべ・ジャパン(株)製]、オムニパーク(登録商標)[第一三共(株)製]、及びイソビスト(登録商標)[バイエル薬品(株)製]等が挙げられる。
【0018】
上記添加剤の含有量は、ゲル化剤100質量%中、例えば、1質量%乃至10質量%であり、好ましくは4質量%乃至6質量%である。CT値で50HU乃至200HUの差が生じるように濃度を微調整する。
【0019】
また、本発明において、上記のX線減弱係数の差による空間的なパターンは、ゲル化剤の濃度変化により形成されたパターンであることが好ましい。
ゲル化剤の濃度を変化(例えば、ゲル化剤の濃度を高濃度から徐々に低濃度に変化させる場合)させるとCT値も変化するので、添加剤を使用しなくてもパターンを形成することができる。
なお、より濃淡のついたCT画像を取得する観点から、造影剤を使用してもよい。
ゲル化剤の濃度を変化させてパターンを形成する方法としては、常温2液混合型のゲル化剤を用いて、事前に濃度を変えたサンプルを調製後、それらを複数合わせて、パターンを形成する方法等が挙げられる。
【0020】
本発明の放射線線量測定用ゲル線量計は、応力により変形可能なものである。これにより、本発明の放射線線量測定用ゲル線量計は実際の臓器の変形を再現することができる。
本発明において、応力により変形可能とは、放射線線量測定用ゲル線量計に外力が加わった場合、当該放射線線量測定用ゲル線量計が変形することをいう。
なお、本発明において、変形の程度は、放射線線量測定用ゲル線量計に加わる外力によって変化するため、一概には規定することはできない。
【0021】
<ゲル化剤>
本発明において、ゲル化剤としては、動植物由来の天然高分子等が挙げられ、具体的には、ゼラチン、アガロース、カラギーナン、ジェランガム、キサンタンガム及び寒天又はこれらの塩等が挙げられる。本発明では、これらのゲル化剤は2種以上を組み合わせて用いることできる。
上記天然物高分子の含有量は、ゲル化剤100質量%中、例えば、0.01質量%乃至30質量%であり、好ましくは0.05質量%乃至20質量%である。
【0022】
また、本発明では、ゲル化剤として、有機酸構造、有機酸塩構造又は有機酸アニオン構
造を有する水溶性有機高分子(A)、ケイ酸塩(B)、及び該ケイ酸塩の分散剤(C)を含むゲル化剤を用いることができる。
前記成分(A)乃至成分(C)を含むゲル化剤は、上記の動植物由来の天然高分子等によるゲル化剤と比較して、より伸縮性に優れている。よって、本発明に使用されるゲル化剤としては、成分(A)乃至成分(C)を含むゲル化剤がより好ましい。
【0023】
≪成分(A):水溶性有機高分子≫
水溶性有機高分子(A)は、有機酸構造、有機酸塩構造又は有機酸アニオン構造を有するものが好ましい。有機酸構造、有機酸塩構造又は有機酸アニオン構造を有する水溶性有機高分子とは、有機高分子の側鎖として、複数のカルボキシル基、スルホニル基、及びホスホニル基等の有機酸基、有機酸基の塩構造又はアニオン構造を有し、水に自由に溶解する高分子である。
【0024】
そのような水溶性有機高分子(A)としては、例えば、カルボキシル基を有するものとしてポリ(メタ)アクリル酸の塩、カルボキシビニルポリマーの塩、カルボキシメチルセルロースの塩;スルホニル基を有するものとして、ポリスチレンスルホン酸の塩;ホスホニル基を有するものとしてポリビニルホスホン酸塩等が挙げられる。好ましくはポリアクリル酸の塩である。
なお、本明細書では、(メタ)アクリル酸とはアクリル酸とメタクリル酸の両方をいう。
【0025】
また、有機酸基の塩構造を有するものとしては、例えば、上記有機酸基のナトリウム塩、アンモニウム塩、カリウム塩、及びリチウム塩などが挙げられる。
さらに、アニオン構造を有するものとしては、例えば、有機酸基又は有機酸の塩からカチオンが解離した構造を有するものが挙げられる。
【0026】
水溶性有機高分子(A)は分岐および化学架橋構造を有さない直鎖型構造が好ましく、有機酸構造の全てが塩構造となる完全中和物又は有機酸構造と有機酸塩構造とが混在する部分中和物のいずれも使用できる。
【0027】
水溶性有機高分子(A)の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によるポリエチレングリコール換算で、好ましくは100万乃至1000万であり、より好ましくは200万乃至750万ある。
【0028】
水溶性有機高分子(A)としては、完全中和又は部分中和ポリアクリル酸塩が好ましく、重量平均分子量100万乃至1000万の完全中和又は部分中和ポリアクリル酸塩が好ましい。また、水溶性有機高分子(A)としては、重量平均分子量100万乃至1000万の完全中和又は部分中和ポリアクリル酸塩が好ましく、重量平均分子量200万乃至750万の完全中和又は部分中和の直鎖型ポリアクリル酸塩がより好ましい。部分中和の中和度としては、10%乃至90%であり、好ましくは30%乃至80%である。
【0029】
上記水溶性有機高分子(A)の含有量は、ゲル化剤100質量%中、例えば、0.01質量%乃至20質量%であり、好ましくは0.05質量%乃至10質量%である。
【0030】
≪成分(B):ケイ酸塩≫
上記ケイ酸塩(B)としては、例えば、スメクタイト、ベントナイト、バーミキュライト及び雲母等の水膨潤性のケイ酸塩粒子が挙げられ、水又は含水液体を分散媒としたコロイドを形成するものが好ましい。なお、スメクタイトとは、モンモリロナイト、バイデライト、ヘクトライト、サポナイト及びスチブンサイト等の膨潤性を有する粘土鉱物の総称である。
【0031】
ケイ酸塩粒子の一次粒子の形状としては、円盤状、板状、球状、粒状、立方状、針状、棒状及び無定形等が挙げられ、例えば直径5nm乃至1000nmの円盤状又は板状のものが好ましい。例えば、下記に例示するラポナイトXLGは、直径20nm乃至100nmの円盤状である。
【0032】
ケイ酸塩の好ましい具体例としては層状ケイ酸塩が挙げられ、市販品として容易に入手可能な例として、BYKアディティブズ社製のラポナイトXLG(合成ヘクトライト)、XLS(合成ヘクトライト、分散剤としてピロリン酸ナトリウム含有)、XL21(ナトリウム・マグネシウム・フルオロシリケート)、RD(合成ヘクトライト)、RDS(合成ヘクトライト、分散剤として無機ポリリン酸塩含有)、及びS482(合成ヘクトライト、分散剤含有);クニミネ工業株式会社製のスメクトンSWN(合成スメクタイト)、スメクトンSWF(合成スメクタイト)、スメクトンSA(合成サポナイト)、及びクニピア(モンモリロナイト);片倉コープアグリ社製のミクロマイカ(合成雲母)、及びソマシフ(合成雲母);株式会社ホージュン製のベンゲル(天然ベントナイト精製品)等が挙げられる。
【0033】
前記ケイ酸塩(B)の含有量は、ゲル化剤100質量%中、例えば、0.01質量%乃至20質量%であり、好ましくは0.05質量%乃至10質量%である。
【0034】
≪成分(C):ケイ酸塩の分散剤≫
上記ケイ酸塩の分散剤(C)として、ケイ酸塩の分散性の向上や、層状ケイ酸塩を層剥離させる目的で使用される分散剤又は解膠剤を使用することができる。例えば、リン酸塩系分散剤、カルボン酸塩系分散剤、アルカリとして作用するもの、有機解膠剤を使用することができる。
【0035】
例えば、リン酸塩系分散剤として、オルトリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、テトラリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム及びエチドロン酸ナトリウム;カルボン酸塩系分散剤として、ポリ(メタ)アクリル酸ナトリウム、ポリ(メタ)アクリル酸アンモニウム、アクリル酸ナトリウム/マレイン酸ナトリウム共重合体及びアクリル酸アンモニウム/マレイン酸アンモニウム共重合体;アルカリとして作用するものとして、水酸化ナトリウム及びヒドロキシルアミン;多価カチオンと反応し不溶性塩又は錯塩を形成するものとして、炭酸ナトリウム及びケイ酸ナトリウム;有機解膠剤として、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、フミン酸ナトリウム及びリグニンスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。好ましくは、リン酸塩系分散剤としてピロリン酸ナトリウム、及びエチドロン酸ナトリウム、カルボン酸塩系分散剤としてポリ(メタ)アクリル酸ナトリウム、有機解膠剤としてポリエチレングリコール(PEG900等)である。
これらの中でも、カルボン酸塩系分散剤が好ましく、ポリ(メタ)アクリル酸ナトリウムがより好ましく、重量平均分子量1000乃至2万の低重合ポリアクリル酸ナトリウムが特に好ましい。
【0036】
低重合ポリアクリル酸ナトリウムはケイ酸塩粒子と相互作用して粒子表面にカルボキシアニオン由来の負電荷を生じさせ、電荷の反発によりケイ酸塩を分散させる等の機構により分散剤として作用することが知られている。
【0037】
前記分散剤(C)の含有量は、ゲル化剤100質量%中、例えば、0.01質量%乃至20質量%であり、好ましくは0.05質量%乃至10質量%である。
なお、本発明では、分散剤を含有するケイ酸塩を使用する場合は、分散剤をさらに添加しても、添加しなくてもよい。
【0038】
≪成分(D):二価以上の正電荷を有する化合物≫
成分(A)乃至成分(C)を含むゲル化剤は、必要に応じて二価以上の正電荷を有する化合物(D)を含むこともできる。
上記化合物(D)としては、例えば、第2族元素を含む化合物、遷移金属元素を含む化合物、両性元素を含む化合物及びポリアミン類を含む化合物からなる群から選ばれる1種又は2種以上の化合物が挙げられる。
【0039】
例えば、第2族元素を含む化合物としてベリリウム、マグネシウム及びカルシウムの化合物;遷移金属元素を含む化合物としてスカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、ジルコニウム、モリブデン、ルテニウム、ロジウム及びパラジウムの化合物;両性元素を含む化合物として、亜鉛、カドミウム、水銀、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウム、スズ及び鉛の化合物;ポリアミン類を含む化合物として、エチレンジアミン、フェニレンジアミン、ヒドラジン、プトレスシン、カダベリン、スペルミジン及びスペルミンの化合物等が挙げられる。
【0040】
これら化合物は、二価以上の正電荷を有する酸化物や水酸化物、又は塩であり、さらにポリアミン類では、フリー体でも良い。
塩を構成する酸としては、硫酸、塩酸、臭化水素酸、フッ化水素酸、トリフルオロ酢酸、酢酸、リン酸、二リン酸、ヘキサメタリン酸、ポリリン酸、ケイ酸、アルミン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、メタンスルホン酸及びp-トルエンスルホン酸等が挙げられる。
【0041】
二価以上の正電荷を有する化合物(D)としては、好ましくは、マグネシウム、カルシウム、アルミニウムの塩酸塩、硫酸塩、二リン酸塩、ケイ酸塩及びアルミン酸塩であり、より好ましくは、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、二リン酸カルシウム及びケイ酸アルミン酸マグネシウムである。
【0042】
上記ゲル化剤が成分(D)を含む場合、上記化合物(D)の含有量は、ゲル化剤100質量%中、例えば、0.01質量%乃至50質量%であり、好ましくは0.05質量%乃至10質量%である。
【0043】
本発明において、成分(A)乃至成分(C)を含むゲル化剤を使用する場合、上記水溶性有機高分子(A)、ケイ酸塩(B)及び該ケイ酸塩の分散剤(C)の好ましい組合せとしては、該ゲル化剤100質量%中、(A)として重量平均分子量200万乃至750万の完全中和又は部分中和された直鎖型ポリアクリル酸塩0.05質量%乃至10質量%、(B)として水膨潤性スメクタイト又はサポナイト0.05質量%乃至10質量%、及び(C)としてピロリン酸ナトリウム0.05質量%乃至10質量%、又は重量平均分子量1000乃至2万の低重合ポリアクリル酸ナトリウム0.05質量%乃至10質量%の組合せが挙げられる。
【0044】
また、本発明において、成分(A)乃至成分(D)を含むゲル化剤を使用する場合、上記水溶性有機高分子(A)、ケイ酸塩(B)、該ケイ酸塩の分散剤(C)及び上記化合物(D)の好ましい組合せとしては、該ゲル化剤100質量%中、(A)として重量平均分子量200万乃至750万の完全中和又は部分中和された直鎖型ポリアクリル酸塩0.05質量%乃至10質量%、(B)として水膨潤性スメクタイト又はサポナイト0.05質量%乃至10質量%、(C)としてピロリン酸ナトリウム0.05質量%乃至10質量%、又は重量平均分子量1000乃至2万の低重合ポリアクリル酸ナトリウム0.05質量%乃至10質量%、及び(D)として塩化マグネシウム又は塩化カルシウム又は硫酸マグネシウム0.05質量%乃至10質量%の組合せが挙げられる。
【0045】
成分(A)乃至成分(C)を含むゲル化剤の製造方法は特に限定されないが、例えば、成分(A)乃至成分(C)、及び後述するモノマーを所定の割合で混合し、所望により成分(D)、後述する架橋剤及びその他の添加剤をさらに添加して混合し、均一な溶液とする方法、又はこれら各成分のうち、例えば、(A)成分乃至(C)成分のうち、2種の成分を混合して均一な溶液とした後、残りの成分及びモノマーを加え、所望により成分(D)、架橋剤及びその他の添加剤をさらに添加して混合し、均一な溶液とする方法等が挙げられる。
【0046】
各成分を混合する方法としては、機械式又は手動による撹拌、及び超音波による撹拌等が挙げられるが、特に機械式撹拌が好ましい。
機械式撹拌には、マグネチックスターラー、プロペラ式撹拌機、自転・公転式ミキサー、ディスパー、ホモジナイザー、振とう機、ボルテックスミキサー、ボールミル、ニーダー及び超音波発振器等を使用することができる。その中でも、自転・公転式ミキサーを使用することが好ましい。
【0047】
混合する際の温度は、例えば、水溶液又は水分散液の凝固点乃至沸点であり、好ましくは-5℃乃至100℃であり、より好ましくは0℃乃至50℃である。
【0048】
混合直後は強度が弱くゾル状であるが、静置することでゲル化する。静置時間は2時間乃至100時間が好ましい。静置温度は-5℃乃至100℃であり、好ましくは0℃乃至30℃である。
【0049】
≪モノマー≫
本発明の放射線線量測定用ゲル線量計は、放射線照射により重合可能なモノマーを含み、これにより、本発明の放射線線量測定用ゲル線量計はポリマーゲル線量計として機能する。
【0050】
上記放射線照射により重合可能なモノマーとしては、放射線の作用により重合可能な炭素-炭素不飽和結合を有するものであれば特に限定されず、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸2-メトキシメチル、メタクリル酸2-エトキシエチル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、トリエチレングリコールモノエチルエーテルモノメタクリレート、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-メトキシエチル、N-ビニル-ピロリドン、アクリルアミド、アクリロイルモルホリン、N-イソプロピルアクリルアミド、メタクリロイル-L-アラニンメチルエステル及びアクリロイル-L-プロリンメチルエステル等が挙げられる。
【0051】
モノマーの含有量は、ゲル化剤100質量%中、好ましくは2質量%乃至15質量%であり、より好ましくは3質量%乃至8質量%である。
【0052】
≪架橋剤≫
本発明において、放射線照射後に生成したポリマーがゲル中を拡散・移動しないようにするために、架橋構造を有するポリマーを形成することが好ましい。よって、本発明の放射線線量測定用ゲル線量計は、架橋剤として1分子中に不飽和結合を2つ以上有するモノマー(以下、本明細書では、「多官能性モノマー」とも記載する)を少なくとも1種類含むことが好ましい。
このような多官能性モノマーとしては、例えば、N,N’-メチレンビスアクリルアミド、N,N’-ジアリルアクリルアミド、N,N’-ジアクリロイルイミド、トリアリルホルマール、1,3,5-トリアクリロイルヘキサヒドロ-1,3,5-トリアジン、ジアリルナフタリン、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリ
レート、各種ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、各種ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブチレングリコールジアクリレート、1,3-ブチレングリコールジメタクリレート、1,4-ブチレングリコールジメタクリレート、各種ポリブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセロールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、テトラメチロールメタンテトラメタクリレート及びジビニルベンゼン等のジビニル化合物などが挙げられる。
これらの中でも、N,N’-メチレンビスアクリルアミドが好ましい。上記の多官能性モノマーの中には、水に溶解し難いものもあるが、ゲル中に均一に分散していて、放射線照射前のゲル全体が透明であればよい。さらに均一分散性を高めるためには、アルコールなどの有機溶剤をゲル化剤100質量%中、5質量%以下であれば添加してもよい。
【0053】
≪その他の添加剤≫
本発明の放射線線量測定用ゲル線量計は、射線照射による重合反応を促進して放射線感受性を高めるために、アスコルビン酸やテトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウムクロリド(THPC)などの脱酸素剤や、グルコノ-δ-ラクトン、過塩素酸、硫酸や食塩等のpH調整剤を含むことが好ましい。
また、本発明の放射線線量測定用ゲル線量計は、放射線照射後の残存モノマーによる重合を抑制するために、ハイドロキノンやフェニレンジアミン等のフリーラジカル捕捉剤やグアイアズレン等の紫外線吸収剤などを含んでもよい。
さらに、本発明の放射線線量測定用ゲル線量計は、必要に応じて着色剤等を含んでもよい。
【0054】
本発明において、パターンの応力による変形はX線CT装置で読み取ることができる。
X線CT装置を利用した測定方法としては、X線CT装置を用いて、放射線線量測定用ゲル線量計のCT画像を取得し、そのCT画像を画像解析する方法等が挙げられる。
【0055】
また、本発明において、放射線線量測定用ゲル線量計の吸収線量は医用画像診断装置で測定できる。
前記医用画像診断装置は、空間的吸収線量分布を求めるために、3次元画像として読み出すことができる装置であり、例えば、MRI装置(核磁気共鳴画像診断装置:Magnetic Resonance Imaging)、X線CT装置(X ray Computed Tomography)及び光学CT装置(Optical CT)等の3次元画像化装置が挙げられ、好ましくはMRI装置である。
本発明において、放射線線量測定用ゲル線量計の吸収線量の測定方法としては、MRI装置を用いて射線線量測定用ゲル線量計の各部位の緩和時間を測定することが好ましく、具体的には、MRI装置による撮像により求めたR画像から緩和速度R-吸収線量特性を用いて吸収線量を求めて、照射後の放射線線量測定用ゲル線量計の吸収線量分布を定量化する方法等が挙げられる。
【0056】
本発明の放射線線量測定用ゲル線量計の製造方法としては、上記のゲル化剤、モノマー及び水を容器に充填する方法等が挙げられる。
前記容器としては、MRI装置に感応せず、放射線を透過し、耐溶剤性、気密性等を有していれば特に限定されず、その材質はガラス、アクリル樹脂、ポリエステル、エチレン-ビニルアルコール共重合体などが好ましい。また、容器に充填した後、窒素ガス等で置換してもよい。
【0057】
[ファントム]
本発明は上記の放射線線量測定用ゲル線量計を含むファントムに関する。
本発明の放射線線量測定用ゲル線量計を用いて作製した、臓器(例えば、前立腺)を模擬したファントを用いることにより、実際の臓器変形を模擬した変形の情報を取得することができる。
【実施例0058】
実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0059】
[合成例1:ポリマーゲル(VIPETゲル)溶液の調製]
通常の大気条件下にて、ゼラチンを蒸留水に加えて分散させた後、ウォーターバスを使用して50℃に加熱した。次に、N,N’-メチレンビスアクリルアミド(Bis)とN-ビニルピロリドン(VIP)とを連続的に撹拌しながら追加した。ゼラチン、N,N’-メチレンビスアクリルアミド及びN-ビニルピロリドンが完全に溶解し、溶液が40℃に冷却された後、テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウムクロリド(THPC)を添加した。THPCの添加後、溶液を2つに分割し、片方にX線の造影剤であるオムニパーク300(第一三共株式会社)[イオヘキソール64.71g(ヨード含有量:30g)/100mL]5%w/wを添加した。
上述した調製手順に従って、蒸留水85%w/w、モノマーとしてN-ビニルピロリドン4%w/w、架橋剤としてN,N’-メチレンビスアクリルアミド4%w/w、ゲル化剤としてゼラチン7%w/w、および脱酸素剤としてテトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウムクロリドを含む酸素正常状態のN-ビニルピロリドンベースのポリマーゲル(VIPETゲル)溶液を調製した。
【0060】
[実施例1:ゲル線量計の作製]
VIPETゲル線量計に対して造影剤の有無による感度の変化を評価するために、通常の大気条件下で、合成例1の2種類のポリマーゲル溶液(造影剤添加のポリマーゲル溶液と造影剤未添加のポリマーゲル溶液)をそれぞれガラス製バイアルに充填し、VIPETゲル線量計を作製した。
また、縞模様パターンを有するゲル線量計は、合成例1の2種類のポリマーゲル溶液(造影剤添加のポリマーゲル溶液と造影剤未添加のポリマーゲル溶液)をそれぞれ固化させながら交互にポンプにて塩化ビニルチューブに注入し、作製した(図4)。そして、酸素がゲル線量計中に混入するのを防止するために、作製した縞模様パターンを有するゲル線量計をサランラップ(登録商標)とパラフィルムとで密封し、放射線照射前に保温庫(23℃)で24時間保存した。
また、人体(前立腺)を模擬し濃淡パターンを有するゲル線量計は、ゲル内部に球状の空間が形成されるように、造影剤未添加のポリマーゲル溶液をガラス製のビーカー内で固化させ、当該球状の空間内部に造影剤添加のポリマーゲル溶液を注入し、作製した(図5)。そして、酸素がゲル線量計中に混入するのを防止するために、作製した人体(前立腺)を模擬し濃淡パターンを有するゲル線量計をサランラップ(登録商標)とパラフィルムとで密封し、放射線照射前に保温庫(23℃)で24時間保存した。
さらに、窒素環境下、ゲル化剤(ゼラチン)を用いない以外は合成例1の操作と同様の操作により、ゲル化剤(ゼラチン)を含まないVIPETゲル溶液を調製し、該VIPETゲル溶液を2つに分割し、造影剤(オムニパーク300)5%w/wを添加したものとしないものの2種類の溶液を準備した。次にそれぞれの溶液内にビーズ状の高吸水性樹脂を入れ溶液を吸収させた。そして、ガラス製バイアルに膨張したビーズを造影剤の有無ごとに交互配置し銅箔シールで密封し、ビーズを用いて形成した幾何学模様パターンを有するゲル線量計を作製した(図6)。
【0061】
[実施例2:ゲル線量計への照射]
感度評価のために実施例1で作製したVIPETゲル線量計(造影剤含有VIPETゲ
ル線量計及び造影剤非含有VIPETゲル線量計)に対して、医用直線加速器(トゥルービーム、株式会社バリアンメディカルシステムズ)の6MV X線により、5,10,20,30Gyを照射した。また、照射後のVIPETゲル線量計に対して、MRI測定を行い、横緩和速度R[横緩和時間Tの逆数(1/T)]を算出し、線量応答を比較した。
また、幾何学模様パターンを有するゲル線量計に対しては、同装置の6MV X線により半分を遮蔽し10Gyを照射した(図7)。照射時、幾何学模様パターンを有するゲル線量計は水等価ファントム内に配置した。
さらに、人体(前立腺)を模擬し濃淡パターンを有するゲル線量計に対しては、ゲル内へ線源を輸送するためにフレキシブルカテーテル(プロガイドシャープニードル、エレクタ社製)を3本刺入し、遠隔操作式後充填装置(Remote after-loading system:RALS)(マイクロセレクトン HDR V3、エレクタ社製)により、すべてのカテーテルで線源停留間隔5mmで7点に輸送し、標的(前立腺)の外側に対して20Gyを照射した(図8)。照射時、人体(前立腺)を模擬し濃淡パターンを有するゲル線量計は水等価ファントム内に配置した。
【0062】
1.造影剤添加による線量応答の変化結果
図9にVIPETゲル線量計に対する照射結果、すなわち造影剤添加による線量応答特性を示す。5%w/w造影剤を添加したVIPETゲル線量計は、5%w/w造影剤を添加しないVIPETゲル線量計と同じ感度特性であった。
この結果より、CT画像においてX線吸収差のコントラストを有する変形可能な(Deformable)ゲル線量計の作製が可能であり、造影剤の不均一部がゲル線量計内に存在していても、本発明の放射線線量測定用ゲル線量計はゲル線量計としての機能を維持することが示された。
【0063】
2.造影剤添加ゲル線量計への照射結果
図10に照射後の幾何学模様パターンを有するゲル線量計を、図11に照射後の人体(前立腺)を模擬し濃淡パターンを有するゲル線量計を示す。照射部位がラジカル重合反応により、白濁しているのが視覚的にも確認できた。また、MRI測定によって得られたRマップでは、造影剤のコントラストは確認されず、線量に応じたRの増加が認められた。
この結果より、ゲル線量計に変形操作を加えなくても、人体や病変部を模擬的に再現した条件での線量分布の測定も有効であることが示された。
【0064】
[実施例3:変形可能な(Deformable)ゲル線量計による線量分布測定]
実施例1で作製した縞模様パターンを有するゲル線量計(図4)に対して、マイクロセレクトロン HDR V3を使用して、192Ir線源(平均γ線エネルギー380keV)をゲル内にフレキシブルカテーテルを刺入して線源停留間隔10mmで5点に輸送し、線源中心から10mmに10Gyを照射した。
照射後のゲル線量計をアクリル製固定器具により両側から均等に圧迫を行い、直径を40mmから30mmに変形させた(図12)。線量分布測定は、3.0T MRI装置(MAGNETOM Skyra、シーメンスヘルスケア株式会社)を用いて、線量と相関関係にあるRを算出し、線量応答特性から線量に変換した。また、CT装置によりゲル線量計を撮影し、変形前後のパターンの変化を確認した。
【0065】
図13に変形前後の縞模様パターンを有するゲル線量計のRマップと線量分布とをそれぞれ示す。変形操作による線量に応じたRの増加が認められ、Rと線量分布の変形も確認できた。また、図14に変形前後の縞模様パターンを有するゲル線量計のCT画像を示す。変形前後で造影剤添加により形成されたパターンの変化が確認できた。
この結果より、本発明の放射線線量測定用ゲル線量計は変形操作を加えることで、DI
Rの精度検証ツールとして利用可能なことが示された。また、本発明の放射線線量測定用ゲル線量計を用いることにより、マーカーレスかつ実際の治療に近い条件での新規なDIR検証手法を提供することができると考えられる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14