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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023040881
(43)【公開日】2023-03-23
(54)【発明の名称】化学反応装置および化学反応方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 19/24 20060101AFI20230315BHJP
   F28D 20/00 20060101ALI20230315BHJP
【FI】
B01J19/24 Z
F28D20/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021148072
(22)【出願日】2021-09-10
(71)【出願人】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000004374
【氏名又は名称】日清紡ホールディングス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【弁理士】
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(74)【代理人】
【識別番号】100141678
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】浦山 健一朗
(72)【発明者】
【氏名】西岡 将輝
(72)【発明者】
【氏名】福田 貴史
【テーマコード(参考)】
4G075
【Fターム(参考)】
4G075AA02
4G075AA44
4G075AA45
4G075AA61
4G075BA10
4G075BD01
4G075CA02
4G075CA03
4G075CA54
4G075DA02
4G075EA05
4G075EB01
4G075FB04
4G075FB06
4G075FC07
(57)【要約】
【課題】簡易な構成で反応容器の温度バラツキを解消可能な化学反応装置を提供する。
【解決手段】反応容器2に収容された触媒3を加熱した状態で反応容器2内に原料を投入し、生成物を反応容器2から排出する化学反応装置1であって、原料を反応容器2の一端側から投入して生成物を反応容器2の他端側から排出する第1の流れ方向と、原料を反応容器2の他端側から投入して生成物を反応容器2の一端側から排出する第2の流れ方向とを切り替る切替手段を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応容器に収容された触媒を加熱した状態で前記反応容器内に原料を投入し、生成物を前記反応容器から排出する化学反応装置であって、
前記原料を前記反応容器の一端側から投入して前記生成物を前記反応容器の他端側から排出する第1の流れ方向と、前記原料を前記反応容器の前記他端側から投入して前記生成物を前記反応容器の前記一端側から排出する第2の流れ方向とを切り替る切替手段を備える、
ことを特徴とする化学反応装置。
【請求項2】
前記反応容器の前記一端側および前記他端側の少なくとも一方に、前記生成物が通過することで前記生成物からの熱を蓄え、前記原料が通過することで前記原料に熱を与える蓄熱部が設けられている、
ことを特徴とする請求項1に記載の化学反応装置。
【請求項3】
前記生成物から蓄える熱および前記原料に与える熱が冷熱である、
ことを特徴とする請求項2に記載の化学反応装置。
【請求項4】
反応容器に収容された触媒を加熱した状態で前記反応容器内に原料を投入し、生成物を前記反応容器から排出する化学反応方法であって、
前記原料を前記反応容器の一端側から投入して前記生成物を前記反応容器の他端側から排出する第1の流れ方向と、前記原料を前記反応容器の前記他端側から投入して前記生成物を前記反応容器の前記一端側から排出する第2の流れ方向とを切り替る、
ことを特徴とする化学反応方法。
【請求項5】
前記反応容器の前記一端側および前記他端側の少なくとも一方に蓄熱部を設け、前記生成物が前記蓄熱部を通過することで前記生成物からの熱を前記蓄熱部に蓄え、前記原料が前記蓄熱部を通過することで前記蓄熱部の熱を前記原料に与える、
ことを特徴とする請求項4に記載の化学反応方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、触媒層を加熱して化学反応を行わせる化学反応装置および化学反応方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば、反応容器内に配置された触媒層にマイクロ波を照射して加熱した状態で、反応容器内にガスを流通させることで化学反応を行わせる化学反応装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。また、被加熱物には誘電特性の温度特性を有し、温度上昇に伴って誘電損率が増加する物質の場合、被加熱物が単一物質であっても温度分布が生じた際に、高温部にマイクロ波が集中し(ホットスポットが形成され)、加熱が進むに従い温度バラツキが大きくなり、強いては熱暴走に至る、という問題が知られている(例えば、非特許文献1参照。)。
【0003】
このような問題に対して、例えば、マイクロ波の放射源・発振器を複数設け、電磁波の空間合成によって被加熱物の加熱箇所を移動させる、という技術が解決策として考えられる(例えば、非特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-188397号公報
【非特許文献1】吉川昇、「材料マイクロ波プロセッシングと付随する諸現象」、[online]、東北大学大学院環境科学研究所、[令和2年1月10日検索]、インターネット<URL: https://www.jstage.jst.go.jp/article/jpi/61/2/61_129/_pdf/-char/ja>
【非特許文献2】「GaN増幅器モジュールを加熱源とする産業用マイクロ波加熱装置を開発」、[online]、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構、三菱電機株式会社、国立大学法人 東京工業大学、龍谷大学、マイクロ波化学株式会社、[令和2年1月10日検索]、インターネット<URL:http://www.mitsubishielectric.co.jp/news/2016/0125.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献2に記載の技術では、複数の発振器を備え、しかも、それぞれの発振器の位相を制御しなければならず、装置の製作費が嵩むばかりでなく、制御が複雑化する、という問題がある。
【0006】
このような温度バラツキの問題は、ヒーター(電熱器)で加熱してある温度範囲で化学反応させたい場合でも、同様に生じ得る。例えば、図21に示すように、触媒が収容された管状の反応容器を水平に配置し、反応容器の外周側をヒーターで加熱する。そして、室温の原料(被加熱物)を反応容器の左端口から投入し、反応容器内で加熱され化学反応して生成された反応生成物を、反応容器の右端口から排出する。この場合、例えば、反応容器の長さが70mmの場合、図22に示すような温度分布となり、反応容器の左端部と中央部と右端部とで大きな温度バラツキが生じてしまう。
【0007】
このような温度バラツキに対して、転換率の向上を図って化学反応温度を上昇(ヒーター電力を増加)させても、反応容器の長さ方向の温度ムラがあるため、転換率は頭打ち(サチュレート)してしまう。また、化学反応温度を上げ過ぎると、反応容器の高温な上段部によって過反応が生じ、不要物の生成が増加してしまう。
【0008】
そこでこの発明は、簡易な構成で反応容器の温度バラツキを解消可能な化学反応装置および化学反応方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の課題を解決するために、請求項1の発明は、反応容器に収容された触媒を加熱した状態で前記反応容器内に原料を投入し、生成物を前記反応容器から排出する化学反応装置であって、前記原料を前記反応容器の一端側から投入して前記生成物を前記反応容器の他端側から排出する第1の流れ方向と、前記原料を前記反応容器の前記他端側から投入して前記生成物を前記反応容器の前記一端側から排出する第2の流れ方向とを切り替る切替手段を備える、ことを特徴とする。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1に記載の化学反応装置において、前記反応容器の前記一端側および前記他端側の少なくとも一方に、前記生成物が通過することで前記生成物からの熱を蓄え、前記原料が通過することで前記原料に熱を与える蓄熱部が設けられている、ことを特徴とする。
【0011】
請求項3の発明は、請求項2に記載の化学反応装置において、前記生成物から蓄える熱および前記原料に与える熱が冷熱である、ことを特徴とする。
【0012】
請求項4の発明は、反応容器に収容された触媒を加熱した状態で前記反応容器内に原料を投入し、生成物を前記反応容器から排出する化学反応方法であって、前記原料を前記反応容器の一端側から投入して前記生成物を前記反応容器の他端側から排出する第1の流れ方向と、前記原料を前記反応容器の前記他端側から投入して前記生成物を前記反応容器の前記一端側から排出する第2の流れ方向とを切り替る、ことを特徴とする。
【0013】
請求項5の発明は、請求項4に記載の化学反応方法において、前記反応容器の前記一端側および前記他端側の少なくとも一方に蓄熱部を設け、前記生成物が前記蓄熱部を通過することで前記生成物からの熱を前記蓄熱部に蓄え、前記原料が前記蓄熱部を通過することで前記蓄熱部の熱を前記原料に与える、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1および請求項4の発明によれば、原料が反応容器の一端側から投入されて生成物が他端側から排出されたり、原料が反応容器の他端側から投入されて生成物が一端側から排出されたりするため、反応容器の温度バラツキを解消することが可能となる。すなわち、低温・室温の原料を反応容器の一端側から投入して高温の生成物を他端側から排出すると、反応容器の一端側が低温となり他端側が高温となる。その後、低温の原料を反応容器の他端側から投入して高温の生成物を一端側から排出することで、反応容器の一端側が昇温し他端側が降温する。このようにして、反応容器の温度バラツキが解消され、この結果、マイクロ波で加熱する場合の課題であるホットスポットの形成や熱暴走を防止、抑制することが可能となる。
【0015】
また、反応容器の温度バラツキが軽減されるため、反応容器内の触媒が均等に利用され、その結果、触媒の劣化寿命を延ばすことが可能となる。しかも、第1の流れ方向と第2の流れ方向とを切り替るだけでよいため、簡易な構成で反応容器の温度バラツキを解消することが可能となる。
【0016】
請求項2および請求項5の発明によれば、反応容器の一端側および他端側の少なくとも一方に設けられた蓄熱部によって、生成物からの熱が蓄えられるとともに原料に熱が与えられる。つまり、反応後の生成物が有する不要な熱が蓄熱部で回収されるため、過熱による不要物の生成を防止、抑制することが可能になるとともに、回収された熱が原料の加熱に再利用されるため、加熱に要する消費電力を軽減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】この発明の実施の形態1に係る化学反応装置の初期状態を示す概念図である。
図2図1の化学反応装置の第1の流れ状態を示す概念図である。
図3図1の化学反応装置の第2の流れ状態を示す概念図である。
図4図1の化学反応装置の原理検証を行うための実験装置を示す概念図である。
図5図4の実験装置による実験結果を示す図である。
図6図1の化学反応装置による流れ方向切り替えの効果を検証するための装置概念図(a)と、そのシミュレーション結果を示す図(b)である。
図7図1の化学反応装置による流れ方向切り替え時の温度上昇シミュレーション結果を示す図である。
図8図1の化学反応装置において、省電力化率を最大にするための処理フロー例を示す図である。
図9】この発明の実施の形態2に係る化学反応装置における処理フロー例を示す図である。
図10】この発明の実施の形態2に係る化学反応装置の検証を行うための実験装置を示す概念図である。
図11図10の実験装置において固定周期切替のみを行った場合の温度分布を示す図である。
図12図10の実験装置において温度最大値切替のみを行った場合の温度分布を示す図である。
図13図10の実験装置において温度最大値切替と固定周期切替を併用した場合の温度分布を示す図である。
図14】この発明の実施の形態3に係る化学反応装置を示す概念図である。
図15図14の化学反応装置の原理検証を行うための実験装置を示す概念図である。
図16図15の実験装置による温度分布結果を示す図である。
図17図16の標準偏差を示す図である。
図18図15の実験装置による熱回収効果を示す図である。
図19】この発明の実施の形態4に係る化学反応装置を示す概念図である。
図20図1の化学反応装置の変形例を示す概念図である。
図21】従来の化学反応装置を示す概念図である。
図22図21の化学反応装置による温度分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
【0019】
(実施の形態1)
図1は、この実施の形態に係る化学反応装置1の初期状態を示す概念図である。この化学反応装置1は、反応容器2に収容された触媒3を加熱した状態で反応容器2内に原料を投入し、反応生成物を反応容器2から排出する装置であり、原料の流れが従来の装置とは異なるため、この点について主として説明する。また、この実施の形態では、マイクロ波MWによって触媒3を加熱する場合について説明する。
【0020】
反応容器2は、両端が塞がれた略円筒体で触媒3が収容され、マイクロ波MWの放射源・発振器を備えたマイクロ波加熱容器4内に、軸心が横に延びるように配設されている。ここで、触媒3は、マイクロ波加熱触媒で、マイクロ波MWの吸収が高い材料、例えば、アルミナ製のビーズとマイクロ波MWの吸収が高い材料である炭化シリコン(SiC)を混合して構成されている。また、反応容器2の両端側は、マイクロ波加熱容器4から突出して外に露出し、蓄熱材(蓄熱部)31、32が収容されている。この蓄熱材31、32は、生成物が通過することで生成物からの熱を蓄え、原料が通過することで原料に熱を与える部材であり、熱容量が大きい材料、例えば、多孔質なアルミナで構成されている。さらに、蓄熱材31、32と触媒3との境には、グラスウールなどで構成された仕切り33、34が配設されている。
【0021】
また、反応容器2の一端側には、第1の蓄熱材31に通じる第1の投入口21と第1の排出口23とが設けられ、他端側には、第2の蓄熱材32に通じる第2の投入口22と第2の排出口24とが設けられている。このような反応容器2に対して、原料を第1の投入口21(反応容器2の一端側)から投入して生成物を第2の排出口24(反応容器2の他端側)から排出する第1の流れ方向と、原料を第2の投入口22(反応容器2の他端側)から投入して生成物を第1の排出口23(反応容器2の一端側)から排出する第2の流れ方向とを切り替る切替手段が設けられている。
【0022】
すなわち、投入ポート40から第1の投入管41と第2の投入管43とが分岐され、第1の投入管41の投入端部42側に第1の投入弁VIN1が配設され、第2の投入管43の投入端部44側に第2の投入弁VIN2が配設されている。また、排出ポート50から第1の排出管51と第2の排出管53とが分岐され、第1の排出管51の排出端部52側に第1の排出弁VOUT1が配設され、第2の排出管53の排出端部54側に第2の排出弁VOUT2が配設されている。また、第1の投入管41の投入端部42が第1の投入口21に接続・連通され、第2の投入管43の投入端部44が第2の投入口22に接続され、第1の排出管51の排出端部52が第1の排出口23に接続され、第2の排出管53の排出端部54が第2の排出口24に接続されている。
【0023】
そして、図1図2に示すように、第1の投入弁VIN1と第2の排出弁VOUT2を開けて、第2の投入弁VIN2と第1の排出弁VOUT1を閉じ、投入ポート40から原料を投入すると、第1の流れ方向が形成される。すなわち、原料が第1の投入弁VIN1および第1の蓄熱材31を介して反応容器2の一端側から触媒3を通過し、第2の蓄熱材32および第2の排出弁VOUT2を介して排出ポート50から排出される。同様に、図3に示すように、第2の投入弁VIN2と第1の排出弁VOUT1を開けて、第1の投入弁VIN1と第2の排出弁VOUT2を閉じ、投入ポート40から原料を投入すると、第2の流れ方向が形成される。すなわち、原料が第2の投入弁VIN2および第2の蓄熱材32を介して反応容器2の他端側から触媒3を通過し、第1の蓄熱材31および第1の排出弁VOUT1を介して排出ポート50から排出される。
【0024】
このような投入弁VIN1、2および排出弁VOUT1、2の開閉は、図示しない制御部によって制御されるようになっている。この際、第1の流れ方向と第2の流れ方向とが後述する適正なタイミングで切り替ることで、反応容器2つまり触媒3の温度が全長にわたって所望の温度範囲で略均一になるように開閉制御する。また、必要に応じて、第1の流れ方向と第2の流れ方向との切り替えを複数回繰り返し行う。
【0025】
このような構成の化学反応装置1によれば、原料が反応容器2の一端側から投入されて生成物が他端側から排出されたり、原料が反応容器2の他端側から投入されて生成物が一端側から排出されたりするため、反応容器2つまり触媒3の温度バラツキを解消することが可能となる。すなわち、図1図2に示すように、低温・室温の原料を反応容器2の一端側から投入して高温の生成物を他端側から排出すると、反応容器2の一端側が低温となり他端側が高温となる。その後、図3に示すように、低温の原料を反応容器2の他端側から投入して高温の生成物を一端側から排出することで、反応容器2の一端側が昇温し他端側が降温する。このようにして、反応容器2の温度バラツキが解消され、この結果、マイクロ波MWで加熱する場合の課題であるホットスポットの形成や熱暴走を防止、抑制することが可能となる。
【0026】
また、反応容器2の温度バラツキが軽減されるため、反応容器2内の触媒3が均等に利用され、その結果、触媒3の劣化寿命を延ばすことが可能となる。しかも、第1の流れ方向と第2の流れ方向とを切り替るだけでよいため、簡易な構成で反応容器2の温度バラツキを解消することが可能となる。
【0027】
さらに、反応容器2の両端側に設けられた蓄熱材31、32によって、生成物からの熱が蓄えられるとともに原料に熱が与えられる。つまり、反応後の生成物が有する不要な熱が蓄熱材31、32で回収されるため、過熱による不要物の生成を防止、抑制することが可能になるとともに、回収された熱が原料の加熱に再利用されるため、加熱に要する消費電力を軽減することが可能となる。
【0028】
次に、化学反応装置1の原理検証について説明する。まず、化学反応装置1と同等の構成である図4の実験装置(蓄熱材は一方のみ)でマイクロ波電力を一定にして加熱し、単一方向(FORWARD方向)に空気を流した場合、図5の「単方向流」で示すように、マイクロ波加熱部つまり触媒3の温度は325K上昇する。これに対して、60秒周期で空気の流れ方向をREVERSE方向に切り替えた場合、図5の「流路切替」で示すように、触媒3の温度がさらに50K上昇した。つまり、流れ方向の切り替えおよび蓄熱材による熱回収効果が確認された。
【0029】
また、化学反応装置1と同等の構成である図6(a)の実験装置のシミュレーションモデルにおいて、単方向流で定常状態に達してから流れ方向を反転したのちの25秒ごとの反応部(触媒3)の温度分布の過渡計算結果を図6(b)に示す。この図に示すように、単方向流での定常温度分布L1から75秒経過後の温度分布L4にわたって、反応容器2の温度最高位置が移動することが確認された。つまり、局在するホットスポットの形成が防止、抑制されていることが確認された。また、図6(b)から単方向流の温度分布L1と比較し、流れ方向反転後の温度分布L2、L3、L4は、温度バラツキが軽減されていることが明らかである。
【0030】
さらに、蓄熱材31、32の長さが1mの場合において、「単方向流」の状態から流れ方向を複数回切り替えた場合の触媒3の平均温度計算結果を図7に示す。3回の切り替えによって約250Kの温度上昇が認められ、省電力化率((1-(単方向流における室温からの上昇温度)/(流路切替における室温からの上昇温度))×100%)の平均が約30%、最大が37.5%であると算出された。また、この図から、温度上昇カーブの微分値がゼロになる(温度上昇がなくなる)タイミングCPで流れ方向を切り替えると、省電力化率を最大化することが可能になると考えられる。この温度最大値切替の処理フローを図8に示す。ただし、タイミングは本方式に限定せず、第一の流れ方向は温度最大値切替とし第二の流れ方向は第一の流れ方向と同タイミングによる切替もしくはその逆の制御、固定時間切替、反応容器2の圧力変動、ヒーター加熱電力の変化、マイクロ波加熱の場合の共振周波数の変化および機械学習により算出された最適時間を用いることができる。
【0031】
(実施の形態2)
この実施の形態では、上記の温度最大値切替と切替周期が固定された固定周期切替とを併用する場合を例示する。ここで、この実施の形態では、後述する実施の形態3と同様に、加熱手段がヒーターである場合を例にして説明する。
【0032】
すなわち、図9に示すように、流路切替を開始して最初の1往復は、上記の図8と同様に、第1の極値探索プロセスP1として、第2の流れ方向(REVERSE方向)状態でヒーター温度Tiが温度最大値(極値)に至るまでの経過時間taを探索する。続いて、同様に、第2の極値探索プロセスP2として、第1の流れ方向(FORWARD方向)状態でヒーター温度Tjが温度最大値に至るまでの経過時間tbを探索する。
【0033】
次に、流路切替を開始して2往復目からは、設定最小値到達プロセスP3として、極値探索プロセスP1、P2で探索した時間ta、tbにscaling(例えば、0.7~0.9)を乗じて、流路切替の往復ごとに徐々に切替時間を短縮する、というループを切替時間が設定最小値(tminであり、反応容器の断面積、長さおよび投入する原料の流量に依存する時間、例えば、5~30秒に設定)に達するまで繰り返す。ここで、後述する蓄熱材温度対称点の温度差分が所定の範囲内に接近することを、このループを脱する条件にしてもよい。
【0034】
続いて、設定最小値到達プロセスP3後の最終プロセスP4では、第2の流れ方向(REVERSE方向)状態において、ヒーター温度Tkが温度最大値に至るまでの経過時間tcを探索し、流路が反転した第1の流れ方向(FORWARD方向)状態においては、先に探索した時間tcだけ流れを維持する、という切替ループを運転停止まで繰り返す。
【0035】
このように、温度最大値切替と固定周期切替とを併用することで、流路切替後に定常状態に達するまでの時間が短い、両蓄熱材の温度が左右対象になる(同等な温度分布になる)、省電力化率が高くなる、という利点を得ることが可能となる。例えば、図10に示す実験装置において固定周期切替のみ(周期15秒)を行う場合、図11に示すように、流路切替によって定常状態に達すると、両蓄熱材の温度が左右対象になる。一方、図10に示す実験装置において温度最大値切替のみを行う場合、図12に示すように、第1の流れ方向の維持時間と第2の流れ方向の維持時間とが異なってしまい、両蓄熱材の温度が左右対象にならない。
【0036】
これに対して、図10に示す実験装置において温度最大値切替と固定周期切替とを併用する場合、図13に示すように、流路切替によって定常状態に達すると、両蓄熱材の温度が左右対象になるとともに、定常状態に達するまでの時間が短いことが確認できる。ここで、上記の極値探索プロセスP1、P2が図13中のP1、P2に該当し、設定最小値到達プロセスP3が図13中のP3に該当し、最終プロセスP4が図13中のP4に該当する。
【0037】
(実施の形態3)
図14は、この実施の形態に係る化学反応装置10を示す概念図である。この実施の形態では、ヒーター(電熱器)6によって反応容器2つまり触媒3を加熱する点で、加熱手段が実施の形態1と構成が異なり、実施の形態1と同等の構成については、同一符号を付することでその説明を省略する。
【0038】
すなわち、この実施の形態では、触媒3が収容された反応容器2の部分(中央部)を覆うようにヒーター6が配設されている。そして、このような構成によっても、実施の形態1と同等の効果が得られる。すなわり、反応容器2の全長にわたる温度バラツキを軽減することが可能となり、触媒3の劣化寿命を延ばすことが可能となり、さらに、過熱による不要物の生成を防止、抑制することが可能になるとともに、加熱に要する消費電力を軽減することが可能となる。
【0039】
次に、化学反応装置10と同等の構成である図15の実験装置(蓄熱材は一方のみ)でヒーター電力を一定にして加熱し、流れ方向を切り替えた場合のヒーター6の各部の温度変化を図16に示し、その標準偏差SDを図17に示す。ここで、図16中、曲線L11は、ヒーター6の入口側(図15中の左側、第1の流れ方向の投入側)の温度変化を示し、曲線L12は、ヒーター6の中央部の温度変化を示し、曲線L13は、ヒーター6の出口側(図15中の右側、第2の流れ方向の投入側)の温度変化を示す。これらの図から、流れ方向を切り替えることでヒーター6の温度が全長にわたって上昇するとともに、温度の標準偏差つまりバラツキが最大で1/3程度に圧縮されることが確認された。
【0040】
また、単一方向(FORWARD方向)に空気を流した場合、図18に示すように、ヒーター6の平均温度が100K上昇するのに対して、空気の流れ方向を切り替えた場合、ヒーター6の平均温度がさらに57K上昇した。つまり、流れ方向の切り替えおよび蓄熱材による熱回収効果が確認された。この場合、省電力化率は約36.3(=1-100/157)%が期待できる。
【0041】
(実施の形態4)
図19は、この実施の形態に係る化学反応装置11を示す概念図である。この実施の形態では、触媒3に代って液体物70が反応物として反応容器2に収容されている点で、実施の形態1と構成が異なり、実施の形態1と同等の構成については、同一符号を付することでその説明を省略する。
【0042】
この実施の形態では、流れの閉塞(配管閉塞)が生じないように、必要に応じてハニカム構造の蓄熱材(蓄熱部)71、72が反応容器2の両端側に収容されている。ここで、投入ポート40から連続的に投入される液体と固体の混合物の例としては、木質バイオマスからのバイオエタノール生産用のリグニン分解前処理を行って、液体状物質(木質バイオマス、水、有機溶媒の混合物)を200℃で加熱してリグニンを分解する処理などが挙げられる。
【0043】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。例えば、上記の実施の形態では、反応容器2が横に延びるように配設されているが、上下に延びるように配設されていてもよい。また、反応容器2の両端側に蓄熱材31、32が収容されているが、反応容器2を均一に加熱したい所望の温度範囲などに応じて、反応容器2の一端側または他端側の一方のみに収容してもよい。
【0044】
また、例えば、実施の形態1において、両端を開放した反応容器2の端部に、図20に示すような三方向弁35を接続し、原料および生成物の流れを制御するようにしてもよい。また、蓄熱材31、32、71、72が生成物から蓄える熱および原料に与える熱が冷熱であってもよい。
【符号の説明】
【0045】
1、10、11 化学反応装置
2 反応容器
21、22 投入口
23、24 排出口
3 触媒
31、32 蓄熱材(蓄熱部)
4 マイクロ波加熱容器
40 投入ポート
41、43 投入管
42、44 投入端部
50 排出ポート
51、53 排出管
52、54 排出端部
6 ヒーター(加熱手段)
70 液体物
71、72 蓄熱材(蓄熱部)
VIN1、2 投入弁(切替手段)
VOUT1、2 排出弁(切替手段)
MW マイクロ波(加熱手段)
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