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特開2023-41153キャリブレーション方法及びキャリブレーションシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023041153
(43)【公開日】2023-03-24
(54)【発明の名称】キャリブレーション方法及びキャリブレーションシステム
(51)【国際特許分類】
   H04B 7/06 20060101AFI20230316BHJP
   H04B 7/08 20060101ALI20230316BHJP
   B64F 5/60 20170101ALI20230316BHJP
【FI】
H04B7/06 982
H04B7/08 982
B64F5/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021148342
(22)【出願日】2021-09-13
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 渉
(72)【発明者】
【氏名】猪又 稔
(72)【発明者】
【氏名】久野 伸晃
(72)【発明者】
【氏名】西森 健太郎
(57)【要約】
【課題】アレーアンテナの設置環境によらず、また、アレーアンテナにキャリブレーション専用装置を付加することなく、アレーアンテナのキャリブレーションを行うこと。
【解決手段】複数のアンテナ素子部を有するアレーアンテナのキャリブレーションに、ドローン等の飛翔体が利用される。アレーアンテナと飛翔体の一方から他方へ電波が送信され、受信側における電波の受信結果に基づいてKファクタを算出される。Kファクタが閾値以上になるように、飛翔体の高度が調整される。その後、複数のアンテナ素子部の各々及び飛翔体の一方から他方へキャリブレーション信号が送信される。そして、キャリブレーション信号の受信結果に基づいて、複数のアンテナ素子部間の送信機あるいは受信機のキャリブレーション値が算出される。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のアンテナ素子部を有するアレーアンテナに適用されるキャリブレーション方法であって、
前記アレーアンテナと飛翔体の一方から他方へ電波を送信し、受信側における前記電波の受信結果に基づいてKファクタを算出するKファクタ算出処理と、
前記Kファクタが閾値以上になるように、前記飛翔体の高度を調整する高度調整処理と、
前記高度調整処理の後、前記複数のアンテナ素子部の各々及び前記飛翔体の一方から他方へキャリブレーション信号を送信し、前記キャリブレーション信号の受信結果に基づいて前記複数のアンテナ素子部間の送信機あるいは受信機のキャリブレーション値を算出するキャリブレーション値算出処理と
を含む
キャリブレーション方法。
【請求項2】
請求項1に記載のキャリブレーション方法であって、
前記複数のアンテナ素子部は、第1アンテナ素子部と第2アンテナ素子部を含み、
前記キャリブレーション値算出処理は、
前記第1アンテナ素子部から前記キャリブレーション信号を前記飛翔体に送信する処理と、
前記飛翔体において、前記第1アンテナ素子部から送信された前記キャリブレーション信号を第1受信信号として受信する処理と、
前記第2アンテナ素子部から前記キャリブレーション信号を前記飛翔体に送信する処理と、
前記飛翔体において、前記第2アンテナ素子部から送信された前記キャリブレーション信号を第2受信信号として受信する処理と、
前記第1受信信号と前記第2受信信号との比較に基づいて、前記第1アンテナ素子部と前記アンテナ素子部との間の前記送信機の前記キャリブレーション値を算出する処理と
を含む
キャリブレーション方法。
【請求項3】
請求項1に記載のキャリブレーション方法であって、
前記複数のアンテナ素子部は、第1アンテナ素子部と第2アンテナ素子部を含み、
前記キャリブレーション値算出処理は、
前記飛翔体から前記キャリブレーション信号を前記アレーアンテナに送信する処理と、
前記第1アンテナ素子部において、前記飛翔体から送信された前記キャリブレーション信号を第1受信信号として受信する処理と、
前記第2アンテナ素子部において、前記飛翔体から送信された前記キャリブレーション信号を第2受信信号として受信する処理と、
前記第1受信信号と前記第2受信信号との比較に基づいて、前記第1アンテナ素子部と前記アンテナ素子部との間の前記受信機の前記キャリブレーション値を算出する処理と
を含む
キャリブレーション方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載のキャリブレーション方法であって、
前記Kファクタ算出処理は、
前記受信側において前記電波の受信電力と前記受信電力の変動量を測定する処理と、
前記受信電力と前記変動量に基づいて前記Kファクタを算出する処理と
を含む
キャリブレーション方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載のキャリブレーション方法であって、
前記Kファクタ算出処理において、前記アレーアンテナから前記飛翔体に前記電波が送信される
キャリブレーション方法。
【請求項6】
複数のアンテナ素子部を有するアレーアンテナに適用されるキャリブレーション方法であって、
前記アレーアンテナと飛翔体の一方から他方へ電波を送信する処理と、
前記アレーアンテナと前記飛翔体の前記他方が受信する前記電波が直接波だけであるとみなすことができるまで前記飛翔体の高度を調整する高度調整処理と、
前記高度調整処理の後、前記複数のアンテナ素子部の各々及び前記飛翔体の一方から他方へキャリブレーション信号を送信し、前記キャリブレーション信号の受信結果に基づいて前記複数のアンテナ素子部間の送信機あるいは受信機のキャリブレーション値を算出するキャリブレーション値算出処理と
を含む
キャリブレーション方法。
【請求項7】
複数のアンテナ素子部を有するアレーアンテナと、
飛翔体と
を含み、
前記飛翔体と前記アレーアンテナの一方は、前記飛翔体と前記アレーアンテナの他方から送信される電波を受信し、前記電波の受信結果に基づいてKファクタを算出し、
前記飛翔体は、前記Kファクタが閾値以上になるように、前記飛翔体の高度を調整する高度調整処理を行い、
前記高度調整処理の後、前記複数のアンテナ素子部の各々及び前記飛翔体の一方である送信側は、前記複数のアンテナ素子部の各々及び前記飛翔体の他方である受信側へキャリブレーション信号を送信し、
前記受信側は、前記キャリブレーション信号の受信結果に基づいて前記複数のアンテナ素子部間の送信機あるいは受信機のキャリブレーション値を算出する
キャリブレーションシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アレーアンテナのキャリブレーションに関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォン等の普及により、小型端末を用いて高速データ通信を行うことができるようになった。限られた周波数帯域で伝送速度を向上させるキー技術として、送受信アンテナに複数のアンテナを用い高速伝送を実現するMultiple Input Multiple Output (MIMO)伝送技術が導入されている。LTE-AdvancedやIEEE802.11acでは、MIMO技術を複数のユーザに適用可能なマルチユーザMIMO(MU-MIMO)が採用されている。第5世代移動通信システム(5G)では、Massive MIMOと呼ばれるコンセプトが提案されている(非特許文献1参照)。Massive MIMOは、端末数が増大する環境で、基地局のアンテナを多素子化することにより、サービスエリアの改善と干渉問題を解決する。
【0003】
IEEE802.11acやLTE-Advancedに導入される予定であるMU-MIMOでは、サポートする基地局のアンテナ数は8までである。このような状況では、ユーザの合計アンテナ数が基地局のアンテナ数と同等となると、ユーザあたりの伝送速度が急激に低下することが知られている。一方、Massive MIMOは、基地局のアンテナ素子数がユーザの合計アンテナ数よりも十分に多いことを想定しているため、ユーザ数が増加しても伝送速度はさほど低下しない利点を有する。
【0004】
Massive MIMOを実現するためには、シングルユーザMIMO(SU-MIMO)やMU-MIMOの場合と同様に、伝搬チャネル応答、すなわちChannel State Information(CSI)の情報が必要である。従来の無線LANやセルラシステムにおける標準化では、端末側から基地局側にCSIをフィードバックする手法が採用されている。しかしながら、Massive MIMOの場合、端末側からのCSIのフィードバックを適用すると、使用する素子数が膨大になることから伝送効率の低下が大きな問題となる。
【0005】
そこで、Massive MIMOの場合、端末から基地局に信号を送信し、基地局においてCSI推定を行うことが考えられる。図1は、この手法を概略的に示している。図1において、アレーアンテナは、複数のアンテナ素子部を有している(Mは2以上の整数)。各々のアンテナ素子部は、送信機Tx、受信機Rx、及びアンテナ素子を含んでいる。
【0006】
図1で示される手法において注意しなければならないことは、複数のアンテナ素子部間の送信機Tx及び受信機Rxの“個体差”である。典型的には、複数のアンテナ素子部間には、送信機Tx及び受信機Rxの電気特性のばらつきが存在する。このような個体差により、複数のアンテナ素子部間で振幅及び位相の誤差が発生する。振幅/位相誤差が存在する場合、ヌルが上昇する。図2は、一例として、3素子アレーの送信機に振幅と位相の誤差を与えた場合の計算例を示している。誤差が大きくなるとヌルが上昇することがわかる。
【0007】
従って、複数のアンテナ素子部間の振幅/位相誤差を正しく認識し、補正する必要がある。すなわち、アレーアンテナの複数のアンテナ素子部のキャリブレーションを行う必要がある。
【0008】
キャリブレーションに関連する従来技術として、遠方界/近傍界校正法や装置内フィードバック校正法が知られている(非特許文献2、非特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】F. Rusek, D. Persson, B. K. Lau, E. G. Larsson, T. L. Marzetta, O. Edfors, and F. Tufvesson, "Scaling Up MIMO -- Opportunities and challenges with very large arrays --," IEEE Signal Processing Magazine, pp.40-60, Jan. 2013.
【非特許文献2】真野清司,片木孝至,“フェイズドアレーアンテナの素子振幅位相測定法-素子電界ベクトル回転法-,” 電子通信学会論文誌 Vol.J65-B, No. 5, pp.555-560, May 1982.
【非特許文献3】Tsoulos, J. McGeehan and M. Beach, "Space division multiple access (SDMA) field trials. Part 2: Calibration and linearity issues," IEE Proc. Radar, Sonar Navig., Vol.145, No.1, Feb. 1998.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
遠方界/近傍界校正法の問題点として、次のものが挙げられる。まず、遠方界測定では、基準基地局と基地局との間が見通し環境であることや反射波が存在しないことが必要である。よって、キャリブレーションが実現できる環境が限定される。また、電波暗室等を必要とするため、実際の電波を送信中にキャリブレーションを行うことはできない。近傍界測定の場合、大規模アレーになると後処理が煩雑となる。
【0011】
装置内フィードバック校正法は、外部装置を一切用いず、基地局内でキャリブレーションを実現する。但し、そのためには、基地局内にキャリブレーション専用装置を付加する必要がある。
【0012】
本発明の1つの目的は、アレーアンテナの設置環境によらず、また、アレーアンテナにキャリブレーション専用装置を付加することなく、アレーアンテナのキャリブレーションを行うことができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
第1の観点は、複数のアンテナ素子部を有するアレーアンテナに適用されるキャリブレーション方法に関連する。
キャリブレーション方法は、
アレーアンテナと飛翔体の一方から他方へ電波を送信し、受信側における電波の受信結果に基づいてKファクタを算出するKファクタ算出処理と、
Kファクタが閾値以上になるように、飛翔体の高度を調整する高度調整処理と、
高度調整処理の後、複数のアンテナ素子部の各々及び飛翔体の一方から他方へキャリブレーション信号を送信し、キャリブレーション信号の受信結果に基づいて複数のアンテナ素子部間の送信機あるいは受信機のキャリブレーション値を算出するキャリブレーション値算出処理と
を含む。
【0014】
第2の観点は、複数のアンテナ素子部を有するアレーアンテナに適用されるキャリブレーション方法に関連する。
キャリブレーション方法は、
アレーアンテナと飛翔体の一方から他方へ電波を送信する処理と、
アレーアンテナと飛翔体の他方が受信する電波が直接波だけであるとみなすことができるまで飛翔体の高度を調整する高度調整処理と、
高度調整処理の後、複数のアンテナ素子部の各々及び飛翔体の一方から他方へキャリブレーション信号を送信し、キャリブレーション信号の受信結果に基づいて複数のアンテナ素子部間の送信機あるいは受信機のキャリブレーション値を算出するキャリブレーション値算出処理と
を含む。
【0015】
第3の観点は、キャリブレーションシステムに関連する。
キャリブレーションシステムは、
複数のアンテナ素子部を有するアレーアンテナと、
飛翔体と
を含む。
飛翔体とアレーアンテナの一方は、飛翔体とアレーアンテナの他方から送信される電波を受信し、電波の受信結果に基づいてKファクタを算出する。
飛翔体は、Kファクタが閾値以上になるように、飛翔体の高度を調整する高度調整処理を行う。
高度調整処理の後、複数のアンテナ素子部の各々及び飛翔体の一方である送信側は、複数のアンテナ素子部の各々及び飛翔体の他方である受信側へキャリブレーション信号を送信する。
受信側は、キャリブレーション信号の受信結果に基づいて複数のアンテナ素子部間の送信機あるいは受信機のキャリブレーション値を算出する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、アレーアンテナの設置環境によらず、また、アレーアンテナにキャリブレーション専用装置を付加することなく、アレーアンテナのキャリブレーションを行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】従来技術を説明するための概念図である。
図2】従来技術を説明するためのグラフ図である。
図3】本発明の実施の形態に係るキャリブレーション処理の概要を説明するための概念図である。
図4】Kファクタを説明するためのグラフ図である。
図5】本発明の実施の形態に係るキャリブレーションシステムの構成例を示す概略図である。
図6】本発明の実施の形態に係る飛翔体の構成例を示すブロック図である。
図7】本発明の実施の形態に係るキャリブレーション処理の例を示すフローチャートである。
図8】本発明の実施の形態に係るキャリブレーション値算出処理(ステップS400)を説明するための概念図である。
図9】本発明の実施の形態に係るキャリブレーション値算出処理(ステップS400)の一例を示すフローチャートである。
図10】本発明の実施の形態に係るキャリブレーション値算出処理(ステップS400)の他の例を示すフローチャートである。
図11】本発明の実施の形態に係るキャリブレーション処理の具体例を説明するための概念図である。
図12】本発明の実施の形態に係るキャリブレーション処理の具体例を説明するためのグラフ図である。
図13】本発明の実施の形態に係るキャリブレーション処理の効果を説明するためのグラフ図である。
図14】本発明の実施の形態に係るキャリブレーション処理の効果を説明するためのグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
添付図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
【0019】
1.概要
図3は、本実施の形態に係るキャリブレーション処理の概要を説明するための概念図である。基地局BSは、複数のアンテナ素子部を有するアレーアンテナ10を備えている。このアレーアンテナ10がキャリブレーションの対象である。
【0020】
アレーアンテナ10の複数のアンテナ素子部間には、送信機及び受信機の個体差(例:電気特性のばらつき)が存在する可能性がある。そのような個体差により、複数のアンテナ素子部間で振幅及び位相の誤差が発生する。よって、複数のアンテナ素子部間の振幅/位相誤差を正しく認識し、補正する必要がある。しかしながら、複数方向から信号が到来するマルチパス環境では、複数のアンテナ素子部間の振幅/位相誤差を正しく推定することができない。
【0021】
例えば図3において、アレーアンテナ10から送信される電波は周辺の建物により反射される。その結果、位置P1には複数方向から電波が到来する。従って、位置P1に受信装置を置いても、複数のアンテナ素子部間の振幅/位相誤差を正しく推定することはできない。一方、周辺の建物よりも十分に高い位置P2にはほぼ直接波のみが到来する。言い換えれば、位置P2では、反射波と比較して直接波が十分に支配的となる。従って、位置P2に受信装置を置けば、複数のアンテナ素子部間の振幅/位相誤差を正しく推定することができると考えられる。
【0022】
そこで、本実施の形態では、「飛翔体100」がキャリブレーションに利用される。飛翔体100としては、ドローン等が例示される。この飛翔体100は、通信装置を搭載しており、アレーアンテナ10と通信可能である。飛翔体100を周辺の建物よりも十分に高い位置P2まで上昇させることにより、マルチパスを回避することができる。そして、その状態で飛翔体100とアレーアンテナ10との間で信号をやりとりすることにより、複数のアンテナ素子部間の振幅/位相誤差を正しく推定することが可能となる。推定された振幅/位相誤差に基づいて、アレーアンテナ10の複数のアンテナ素子部のキャリブレーションが行われる。
【0023】
このように、飛翔体100を利用することによって、アレーアンテナ10の設置環境によらず、また、アレーアンテナ10にキャリブレーション専用装置を付加することなく、アレーアンテナ10のキャリブレーションを行うことが可能となる。
【0024】
2.Kファクタ
本実施の形態では、アレーアンテナ10と飛翔体100との間で直接波が支配的となっているか(マルチパスを回避できているか)を判断する必要がある。そのために電波到来方向を推定する技術を利用することも考えられるが、その場合、信号処理が複雑となる可能性がある。そこで、他の例として、直接波と反射波との電力比を表す「Kファクタ」の利用が提案される。
【0025】
仲上-ライスフェージングの場合、受信信号hRiceは次の式で表される。
【0026】
【数1】
【0027】
LOSは見通し内信号であり、hNLOSは見通し外信号である。L-1は、見通し外信号の数である。r及びθは、それぞれ、振幅及び位相である。Kファクタは、次の式で表される。
【0028】
【数2】
【0029】
このように、Kファクタは、直接波と反射波との電力比を表す。Kファクタが大きいほど直接波がより支配的な環境になっていると言える。そして、Kファクタが閾値以上となれば、受信側には直接波だけが到来しているとみなすことができる。
【0030】
図4は、Kファクタに応じた相対受信電力の累積確率分布(Cumulative Distribution Function, CDF)を表すグラフ図である。横軸は相対受信電力[dB]を表し、縦軸は累積確率(横軸の値以下となる確率)を表している。図4に示されるように、Kファクタに応じて相対受信電力の累積確率分布は変動する。逆に、相対受信電力の累積確率分布を取得することができれば、それに相当するKファクタを算出することができる。つまり、受信電力とその変動値に基づいて、Kファクタを算出することができる。
【0031】
本実施の形態では、Kファクタが閾値以上となった場合、受信側には直接波だけが到来していると判断される。閾値は、例えば20dBに設定される。但し、実際には、Kファクタが10~15dB程度まで増加すればほぼ直接波とみなすことができる。
【0032】
3.構成例及び処理フロー例
以下、本実施の形態に関連するキャリブレーション処理について更に詳しく説明する。
【0033】
3-1.構成例
図5は、本実施の形態に係るキャリブレーションシステム1の構成例を示す概略図である。キャリブレーションシステム1は、基地局BSと飛翔体100を含んでいる。
【0034】
基地局BSは、アレーアンテナ10を含んでいる。アレーアンテナ10は、複数のアンテナ素子部20-1~20-Mを有している。ここで、Mは2以上の整数である。各アンテナ素子部20-i(i=1~M)は、送信機21-i、受信機22-i、及びアンテナ素子23-iを含んでいる。
【0035】
基地局BSは、更に、制御装置30を含んでいる。制御装置30は、各種信号処理、アレーアンテナ10の制御、及びアレーアンテナ10を通した信号送受信を行う。典型的には、制御装置30は、プロセッサと記憶装置を含むコンピュータにより実現される。
【0036】
図6は、本実施の形態に係る飛翔体100の構成例を示すブロック図である。飛翔体100は、アクチュエータ110、通信装置120、及び制御装置130を含んでいる。
【0037】
アクチュエータ110は、飛翔体100を飛行させるための動力源である。例えば、飛翔体100がドローンの場合、アクチュエータ110はロータを回転させるモータを含んでいる。
【0038】
通信装置120は、アレーアンテナ10(基地局BS)と通信を行う。通信装置120は、送信機121、受信機122、及びアンテナ123を含んでいる。
【0039】
制御装置130は、飛翔体100を制御する。制御装置130は、各種情報処理を行う。また、制御装置130は、アクチュエータ110を制御することにより飛翔体100の飛行制御を行う。更に、制御装置130は、通信装置120を介して信号送受信を行う。典型的には、制御装置130は、プロセッサと記憶装置を含むコンピュータにより実現される。
【0040】
3-2.処理フロー例
図7は、本実施の形態に係るキャリブレーション処理の例を示すフローチャートである。
【0041】
3-2-1.Kファクタ算出処理(ステップS100)
ステップS100において、アレーアンテナ10と飛翔体100の一方から他方へ電波を送信し、受信側における電波の受信結果に基づいてKファクタを算出する「Kファクタ算出処理」が実行される。一例として、アレーアンテナ10から飛翔体100に電波が送信される場合を考える。
【0042】
ステップS110において、基地局BSの制御装置30は、アレーアンテナ10を制御し、電波を送信する。飛翔体100の通信装置120は、アレーアンテナ10から送信された電波を受信する。
【0043】
ステップS120において、飛翔体100の通信装置120は、電波の受信電力とその変動量を測定する。このとき、電波の受信方向を測定する必要は必ずしもない。
【0044】
ステップS130において、飛翔体100の制御装置130は、電波の受信結果に基づいてKファクタを算出する。例えば、図4で示された相対受信電力の累積確率分布を示す参照情報が予め生成され、制御装置130の記憶装置に格納される。参照情報は、相対受信電力の累積確率分布を様々なKファクタ毎に示す。制御装置130は、ステップS120で測定された受信電力及び変動量と参照情報に基づいて、Kファクタを算出(推定)する。例えば、制御装置130は、ステップS120で測定された受信電力及び変動量から得られる累積確率分布と参照情報とを対比することによって、Kファクタを算出(推定)する。
【0045】
他の例として、飛翔体100からアレーアンテナ10に電波が送信されてもよい。この場合、アレーアンテナ10が電波を受信し、制御装置30が電波の受信結果(受信電力と変動量)と参照情報に基づいてKファクタを算出する。そして、制御装置30は、算出したKファクタの情報を飛翔体100に送信する。
【0046】
3-2-2.判定処理(ステップS200)
ステップS200において、飛翔体100の制御装置130は、Kファクタを閾値と比較する。例えば、閾値は20dBである。Kファクタが閾値未満である場合(ステップS200;No)、処理は、ステップS300に進む。一方、Kファクタが閾値以上である場合(ステップS200;Yes)、処理は、ステップS400に進む。
【0047】
3-2-3.高度調整処理(ステップS300)
ステップS300において、飛翔体100の制御装置130は、アクチュエータ110を制御し、飛翔体100を上昇させる。その後、処理はステップS100に戻る。
【0048】
このように、高度調整処理により、Kファクタが閾値以上になるように飛翔体100の高度が調整される。言い換えれば、ステップS100において受信側が受信する電波が直接波だけであるとみなすことができるまで、飛翔体100の高度が調整される。
【0049】
3-2-4.キャリブレーション値算出処理(ステップS400)
ステップS400において、キャリブレーション値が算出される。図8は、このキャリブレーション値算出処理を説明するための概念図である。
【0050】
ここでは、第1アンテナ素子部20-1と第2アンテナ素子部20-k(k=2~M)について考える。第1アンテナ素子部20-1の送信機21-1及び受信機22-1の伝達関数は、それぞれ、T及びRである。第2アンテナ素子部20-kの送信機21-k及び受信機22-kの伝達関数は、それぞれ、T及びRである。各伝達関数は、複素振幅であり、位相成分と振幅成分とを含む。第1アンテナ素子部20-1の送信機21-1と第2アンテナ素子部20-kの送信機21-kとの間の伝達関数の誤差を補正するためのキャリブレーション値は、T/Tである。同様に、第1アンテナ素子部20-1の受信機22-1と第2アンテナ素子部20-kの受信機22-kとの間の伝達関数の誤差を補正するためのキャリブレーション値は、R/Rである。
【0051】
図9は、送信機21に関するキャリブレーション値算出処理を示すフローチャートである。
【0052】
ステップS410において、基地局BSの制御装置30は、第1アンテナ素子部20-1を介してキャリブレーション信号sを飛翔体100に送信する。第1アンテナ素子部20-1の送信機21-1から送信されるキャリブレーション信号sは、T・sとなる。
【0053】
ステップS420において、飛翔体100の通信装置120は、第1アンテナ素子部20-1から送信されたキャリブレーション信号を第1受信信号T・sとして受信する。
【0054】
ステップS430において、基地局BSの制御装置30は、第2アンテナ素子部20-kを介してキャリブレーション信号sを飛翔体100に送信する。第2アンテナ素子部20-kの送信機21-kから送信されるキャリブレーション信号sは、T・sとなる。
【0055】
ステップS440において、飛翔体100の通信装置120は、第1アンテナ素子部20-1から送信されたキャリブレーション信号を第2受信信号T・sとして受信する。
【0056】
ステップS450において、飛翔体100の制御装置130は、第1受信信号T・sと第2受信信号T・sとの比較に基づいて、送信機21-1、21-kに関するキャリブレーション値T/Tを算出する。
【0057】
図10は、受信機22に関するキャリブレーション値算出処理を示すフローチャートである。
【0058】
ステップS460において、飛翔体100の制御装置130は、通信装置120を介してキャリブレーション信号sをアレーアンテナ10(基地局BS)に送信する。
【0059】
ステップS470において、第1アンテナ素子部20-1の受信機22-1は、飛翔体100から送信されたキャリブレーション信号sを受信する。受信機22-1によって受信されたキャリブレーション信号sは、第1受信信号R・sとなる。
【0060】
ステップS480において、第2アンテナ素子部20-kの受信機22-kは、飛翔体100から送信されたキャリブレーション信号sを受信する。受信機22-kによって受信されたキャリブレーション信号sは、第2受信信号R・sとなる。
【0061】
ステップS490において、基地局BSの制御装置30は、第1受信信号R・sと第2受信信号R・sとの比較に基づいて、受信機22-1、22-kに関するキャリブレーション値R/Rを算出する。
【0062】
このように、各アンテナ素子部20-i及び飛翔体100の一方から他方へキャリブレーション信号sが送信される。そして、キャリブレーション信号sの受信結果に基づいて、複数のアンテナ素子部20-1~20-M間の送信機21あるいは受信機22のキャリブレーション値が算出される。
【0063】
4.効果
以上に説明されたように、本実施の形態によれば、飛翔体100を利用することによってアレーアンテナ10のキャリブレーションが行われる。これにより、アレーアンテナ10の設置環境によらず、マルチパスを回避して適切にキャリブレーションを行うことが可能となる。
【0064】
また、本実施の形態によれば、アレーアンテナ10にキャリブレーション専用装置を付加する必要はない。このことは、コストの観点から好ましい。
【0065】
更に、本実施の形態によれば、基地局BSが信号を送受信している間にキャリブレーションを実現することが可能となる。
【0066】
5.具体例
以下、本実施の形態に係るキャリブレーション処理による効果の具体例を説明する。
【0067】
図11に示される環境において、キャリブレーション処理が実行された。アレーアンテナ10は16素子半波長円形アレーであり、飛翔体100はドローンである。図11において、Txはアレーアンテナの水平位置を表し、Rxはドローンの水平位置を表している。周波数は5.12GHz、送信電力は1W、熱雑音電力は-90dBm、帯域は100MHzであるとする。反射回数は5回であり、回折回数は2回であるとする。
【0068】
図12は、ドローン高度hと電波到来方向との関係を示している。縦軸は受信電力を表し、横軸は電波受信方向を表している。ドローン高度hを高くすれば主要パスは直接波の方向に収束することが分かる。
【0069】
Kファクタが20dBになるまでドローンの高度が変更された。そして、上述の手法によりキャリブレーション値が算出され、キャリブレーションが行われた。図13及び図14は、キャリブレーションの効果を説明するための図である。
【0070】
図13は、キャリブレーション前後のアンテナ素子部20間の位相誤差を示している。横軸は、16個のアンテナ素子部20-1~20-16の識別子を表している。縦軸は、アンテナ素子部20-1を基準とした位相誤差を表している。キャリブレーション前、位相誤差は-60°~150°の範囲であった。キャリブレーション後、位相誤差は-1°~1°の範囲に収束した。すなわち、位相誤差が顕著に低減された。
【0071】
図14は、アレーアンテナ10の放射パターンの例を示している。横軸は角度を表し、縦軸は相対電力を表す。位相誤差を考慮して、アレーファクタが計算された。各グラフにおいて、キャリブレーション前後の放射パターンと、位相誤差の無い場合の理想的な放射パターン(理論値)が示されている。キャリブレーション前の放射パターンでは、サイドローブが上昇しており、理想的な放射パターンから乖離している。一方、キャリブレーション後は、理想的な放射パターン、すなわち、理想的なアレー指向性が実現されていることが分かる。
【符号の説明】
【0072】
1 キャリブレーションシステム
10 アレーアンテナ
20 アンテナ素子部
21 送信機
22 受信機
23 アンテナ素子
30 制御装置
100 飛翔体
110 アクチュエータ
120 通信装置
121 送信機
122 受信機
123 アンテナ
130 制御装置
BS 基地局
図1
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図14