(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023041358
(43)【公開日】2023-03-24
(54)【発明の名称】成形品、成形品の製造方法および耐加水分解性向上方法
(51)【国際特許分類】
C08L 67/00 20060101AFI20230316BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20230316BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20230316BHJP
C08K 9/04 20060101ALI20230316BHJP
C08J 3/215 20060101ALI20230316BHJP
【FI】
C08L67/00
C08K3/013
C08L101/00
C08K9/04
C08J3/215 CFD
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021148696
(22)【出願日】2021-09-13
(71)【出願人】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】寺岡 尚信
(72)【発明者】
【氏名】高橋 亮太
(72)【発明者】
【氏名】松永 伸之
【テーマコード(参考)】
4F070
4J002
【Fターム(参考)】
4F070AA13
4F070AA47
4F070AB11
4F070AC22
4F070AC28
4F070AD02
4F070AE01
4F070AE03
4F070AE09
4F070FA03
4F070FA17
4F070FB03
4F070FB07
4F070FC05
4J002BB062
4J002BB072
4J002BB212
4J002BP012
4J002CD003
4J002CD192
4J002CF061
4J002CF071
4J002CF081
4J002CM053
4J002CP032
4J002DA016
4J002DJ006
4J002DJ046
4J002DJ056
4J002DL006
4J002ER007
4J002EU227
4J002FA046
4J002FB266
4J002FD016
4J002FD070
4J002FD170
4J002FD203
4J002FD207
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、これまで以上の耐加水分解性を発揮する成形品を提供することにある。
【解決手段】本発明の目的は、少なくとも、固有粘度が1.2dL/g以下であるポリエステル系熱可塑性樹脂A、無機フィラーB、および該ポリエステル系熱可塑性樹脂A以外である熱可塑性樹脂Cを含むポリエステル系樹脂組成物からなる成形品であって、該無機フィラーBが該熱可塑性樹脂Cにより被覆されている成形品、によって達成された。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、固有粘度が1.2dL/g以下であるポリエステル系熱可塑性樹脂A、無機フィラーB、および該ポリエステル系熱可塑性樹脂A以外である熱可塑性樹脂Cを含むポリエステル系樹脂組成物からなる成形品であって、該無機フィラーBが該熱可塑性樹脂Cにより被覆されている成形品。
【請求項2】
前記ポリエステル系熱可塑性樹脂Aの固有粘度が、0.6dL/g以上である、請求項1記載の成形品。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂Cと前記無機フィラーBとが親和性を有するものである、請求項1または2記載の成形品。
【請求項4】
前記ポリエステル系熱可塑性樹脂Aのカルボン酸末端濃度が、0.5~30meq/kgである、請求項1から3いずれかに記載の成形品。
【請求項5】
前記ポリエステル系樹脂組成物が、さらに、ポリエステル系熱可塑性樹脂Aのカルボン酸末端基との反応性を有する耐加水性向上用化合物Dを含むものである、請求項1から4いずれかに記載の成形品。
【請求項6】
少なくとも、固有粘度が1.2dL/g以下であるポリエステル系熱可塑性樹脂A、無機フィラーB、および該ポリエステル系熱可塑性樹脂以外である熱可塑性樹脂Cを含むポリエステル系樹脂組成物の耐加水分解性を向上した成形品の製造方法であって、該無機フィラーBと該熱可塑性樹脂Cをあらかじめ溶融混練することで、該無機フィラーBを該熱可塑性樹脂Cで被覆してから、該ポリエステル系熱可塑性樹脂Aと溶融混練する、耐加水分解性を向上した成形品の製造方法。
【請求項7】
少なくとも、固有粘度が1.2dL/g以下であるポリエステル系熱可塑性樹脂A、無機フィラーBおよび該ポリエステル系熱可塑性樹脂A以外である熱可塑性樹脂Cを含むポリエステル系樹脂組成物の耐加水分解性向上方法であって、前記無機フィラーBと熱可塑性樹脂Cをあらかじめ溶融混練することで、前記無機フィラーBを前記熱可塑性樹脂Cで被覆してから、前記ポリエステル系熱可塑性樹脂Aと溶融混練する、耐加水分解性向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家電、自動車等に使用される耐加水分解性を有する成形品に関し、既存の材料よりもさらに優れた耐加水分解性を有するポリエステル系熱可塑性樹脂を含有する成形品、成形品の製造方法および耐加水分解性向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル系熱可塑性樹脂からなる成形品は、優れた機械的特性、電気的特性、耐熱性、耐候性、耐水性、耐薬品性及び耐溶剤性を有するため、エンジニアリングプラスチックとして、自動車部品、電気・電子部品等の種々の用途に広く利用されている。
【0003】
しかし、ポリエステル系熱可塑性樹脂は、分子内にエステル基を有しているため、高温高湿環境下では加水分解により物性が低下しやすいという欠点を有しており、高温高湿環境での使用において必ずしも十分な耐久性を持つものではない。
【0004】
耐加水分解性を、材料面から改善するための検討が行われている。例えば、特許文献1には、ポリブチレンテレフタレートとα-オレフィンとα,β-不飽和グリシジルエステルを共重合成分とするグリシジル基含有共重合体とエチレン・α-オレフィン共重合体と強化繊維を含むインサート成形用の樹脂組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の技術では加水分解性向上効果は見られるものの、耐加水分解性の要求レベルは近年上がっており、さらなる改善が求められている。
【0007】
本発明の目的は、これまで以上の耐加水分解性を発揮するポリエステル系熱可塑性樹脂を含有する成形品、その成形品の製造方法および耐加水分解性向上方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の目的は、下記によって達成された。
1. 少なくとも、固有粘度が1.2dL/g以下であるポリエステル系熱可塑性樹脂A、無機フィラーB、および該ポリエステル系熱可塑性樹脂A以外である熱可塑性樹脂Cを含むポリエステル系樹脂組成物からなる成形品であって、該無機フィラーBが該熱可塑性樹脂Cにより被覆されている成形品。
2. 前記ポリエステル系熱可塑性樹脂Aの固有粘度が、0.6dL/g以上である、戦記1記載の成形品。
3. 前記熱可塑性樹脂Cと前記無機フィラーBとが親和性を有するものである、前記1または2記載の成形品。
4. 前記ポリエステル系熱可塑性樹脂Aのカルボン酸末端濃度が、0.5~30meq/kgである、前記1から3いずれかに記載の成形品。
5. 前記ポリエステル系樹脂組成物が、さらに、ポリエステル系熱可塑性樹脂Aのカルボン酸末端基との反応性を有する耐加水性向上用化合物Dを含むものである、請求項1から4いずれかに記載の成形品。
6. 少なくとも、固有粘度が1.2dL/g以下であるポリエステル系熱可塑性樹脂A、無機フィラーB、および該ポリエステル系熱可塑性樹脂以外である熱可塑性樹脂Cを含むポリエステル系樹脂組成物の耐加水分解性を向上した成形品の製造方法であって、該無機フィラーBと該熱可塑性樹脂Cをあらかじめ溶融混練することで、該無機フィラーBを該熱可塑性樹脂Cで被覆してから、該ポリエステル系熱可塑性樹脂Aと溶融混練する、耐加水分解性を向上した成形品の製造方法。
7. 少なくとも、固有粘度が1.2dL/g以下であるポリエステル系熱可塑性樹脂A、無機フィラーBおよびポリエステル系熱可塑性樹脂A以外である熱可塑性樹脂Cを含むポリエステル系樹脂組成物の耐加水分解性向上方法であって、前記無機フィラーBと熱可塑性樹脂Cをあらかじめ溶融混練することで、前記無機フィラーBを前記熱可塑性樹脂Cで被覆してから、前記ポリエステル系熱可塑性樹脂Aと溶融混練する、耐加水分解性向上方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、これまで以上に耐加水分解性に優れた成形品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施例2の成形品断面の電子顕微鏡(×20000倍)写真である。
【
図2】本発明の実施態様の一つである表面被覆しない無機フィラーを含む成形品断面の電子顕微鏡(×20000倍)写真である。
【
図3】比較例2の成形品断面の電子顕微鏡(×20000倍)写真である。
【
図4】本実施態様の一つである押出機の概観である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の耐加水分解性用成形品は、少なくとも、ポリエステル系熱可塑性樹脂A、無機フィラーBおよび該ポリエステル系熱可塑性樹脂A以外である熱可塑性樹脂Cを含む樹脂組成物からなる耐加水分解性用成形品であって、該無機フィラーBが該オレフィン系エラストマーBにより被覆されていることを特徴とする。
【0012】
<ポリエステル系熱可塑性樹脂A>
ポリエステル樹脂系熱可塑性Aは、ジカルボン酸化合物及び/又はそのエステル形成性誘導体を主成分とするジカルボン酸成分と、ジオール化合物及び/又はそのエステル形成性誘導体を主成分とするジオール成分との反応により得られる熱可塑性ポリエステル樹脂であり、ジカルボン酸成分かジオール成分の少なくとも1種に芳香族化合物を含むものである。
【0013】
ジカルボン酸成分としては、例えば、脂肪族ジカルボン酸(例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドテカンジカルボン酸、ヘキサデカンジカルボン酸、ダイマー酸等のC4-40程度のジカルボン酸、好ましくはC4-14程度のジカルボン酸)、脂環式ジカルボン酸(例えば、ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ハイミック酸等のC4-40程度のジカルボン酸、好ましくはC8-12程度のジカルボン酸)、芳香族ジカルボン酸(例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、メチルイソフタル酸、メチルテレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸等のナフタレンジカルボン酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェノキシエーテルジカルボン酸、4,4’-ジオキシ安息香酸、4,4’-ジフェニルメタンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルケトンジカルボン酸等のC8-16程度のジカルボン酸)、又はこれらの誘導体(例えば、低級アルキルエステル、アリールエステル、酸無水物等のエステル形成可能な誘導体)等が挙げられる。
【0014】
これらのジカルボン酸成分は、単独又は二種以上組み合わせて使用できる。好ましいジカルボン酸成分には、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸(特にテレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸)が含まれる。ジカルボン酸成分中には、例えば、50モル%以上、好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上の芳香族ジカルボン酸が含まれているのが好ましい。
【0015】
さらに、必要に応じて、トリメリット酸、ピロメリット酸等の多価カルボン酸又はそのエステル形成誘導体(アルコールエステル等)等を併用してもよい。このような多官能性化合物を併用すると、分岐状の熱可塑性ポリエステル樹脂を得ることもできる。
【0016】
ジオール成分としては、例えば、脂肪族アルカンジオール(例えば、エチレングリコール、トリメチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、デカンジオール等のC2-12程度の脂肪族ジオール、好ましくはC2-10程度の脂肪族ジオール)、ポリオキシアルキレングリコール(C2-4程度のアルキレン基であり、複数のオキシアルキレン単位を有するグリコール、例えば、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ジテトラメチレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等)、脂環族ジオール(例えば、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、水素化ビスフェノールA等)等が挙げられる。
【0017】
また、ハイドロキノン、レゾルシノール、ビスフェノール、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス-(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)プロパン、キシリレングリコール等の芳香族ジオールを併用してもよい。これらのジオール成分は、単独又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0018】
好ましいジオール成分には、C2-10アルキレングリコール(エチレングリコール、トリメチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール等の直鎖状アルキレングリコール)等が含まれる。
【0019】
ジオール成分中には、例えば、50モル%以上、好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上のC2-10アルキレングリコールが含まれているのが好ましい。さらに、必要に応じて、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール等のポリオール又はそのエステル形成性誘導体を併用してもよい。このような多官能性化合物を併用すると、分岐状のポリエステル樹脂を得ることもできる。
【0020】
ポリエステル系熱可塑性樹脂Aとしては、上述のジカルボン酸成分とジオール成分を2種以上組み合せたコポリエステルや、さらに他の共重合可能なモノマー(以下、共重合性モノマーという場合がある)として、オキシカルボン酸成分、ラクトン成分等を組み合わせたコポリエステルも使用できる。
【0021】
オキシカルボン酸(又はオキシカルボン酸成分又はオキシカルボン酸類)には、例えば、オキシ安息香酸、オキシナフトエ酸、ヒドロキシフェニル酢酸、グリコール酸、オキシカプロン酸等のオキシカルボン酸又はこれらの誘導体等が含まれる。ラクトンには、プロピオラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン、カプロラクトン(例えば、ε-カプロラクトン等)等のC3-12ラクトン等が含まれる。
【0022】
なお、コポリエステルにおいて、共重合性モノマーの割合は、例えば、0.01モル%以上30モル%以下程度の範囲から選択でき、通常、1モル%以上30モル%以下程度、好ましくは3モル%以上25モル%以下程度、更に好ましくは5モル%以上20モル%以下程度である。
【0023】
また、ホモポリエステルとコポリエステルとを組み合わせて使用する場合、ホモポリエステルとコポリエステルとの割合は、共重合性モノマーの割合が、全単量体に対して0.1モル%以上30モル%以下(好ましくは1モル%以上25モル%以下程度、更に好ましくは5モル%以上25モル%以下程度)となる範囲であり、通常、ホモポリエステル/コポリエステル=99/1~1/99(質量比)、好ましくは95/5~5/95(質量比)、更に好ましくは90/10~10/90(質量比)程度の範囲から選択できる。
【0024】
好ましいポリエステル系熱可塑性樹脂Aには、アルキレンテレフタレート、アルキレンナフタレート等のアルキレンアリレート単位を主成分(例えば、50~100モル%、好ましくは75~100モル%程度)とするホモポリエステル又はコポリエステル[例えば、ポリアルキレンテレフタレート(例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリC2-4アルキレンテレフタレート)、1,4-シクロヘキサンジメチレンテレフタレート(PCT)、ポリアルキレンナフタレート(例えば、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等のポリC2-4アルキレンナフタレート)等のホモポリエステル;アルキレンテレフタレート及び/又はアルキレンナフタレート単位を主成分(例えば、50モル%以上)として含有するコポリエステル]が含まれ、これらを1種単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0025】
特に好ましいポリエステル系熱可塑性樹脂Aは、エチレンテレフタレート、トリメチレンテレフタレート、テトラメチレンテレフタレート、テトラメチレン-2,6-ナフタレート等のC2-4アルキレンアリレート単位を80モル%以上(特に90モル%以上)含むホモポリエステル樹脂又はコポリエステル樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリテトラメチレン-2,6-ナフタレンジカルボキシレート樹脂等)である。
【0026】
これらのうち、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂が好ましく、特にポリブチレンテレフタレート樹脂が好ましい。
【0027】
本発明のポリエステル系熱可塑性樹脂Aの固有粘度IVは、1.2dL/g以下であり、さらに0.6dL/g以上であることが好ましく、0.7~1.0dL/gであることが好ましく、0.7~0.9dL/gであることが更に好ましい。
【0028】
固有粘度が0.6よりも低いと加水分解による強度や靭性の低下が大きく、また1.2dL/gを超えると混練時に、熱可塑性樹脂Cで被覆した無機フィラーBの熱可塑性樹脂Cを剥がしてしまい、効果を損なう場合がある。異なる固有粘度を有するポリエステル系熱可塑性樹脂をブレンドして、固有粘度を調整することもできる。
【0029】
例えば、固有粘度1.0dL/gのポリエステル系熱可塑性樹脂と固有粘度0.7dL/gのポリエステル系熱可塑性樹脂とをブレンドすることにより、固有粘度0.9dL/gのポリエステル系熱可塑性樹脂を調製することができる。なお、ポリエステル系熱可塑性樹脂の固有粘度(IV)は、o-クロロフェノール中で温度35℃の条件で測定することができる。
【0030】
ポリエステル系熱可塑性樹脂Aのカルボン酸末端濃度は、0.5~30meq/kgであることが好ましく、さらに0.5~25meq/kgであることが好ましく、0.5~12meq/kgであることが更に好ましい。カルボン酸末端濃度をこの範囲とするためには、ポリエステル系熱可塑性樹脂の末端基が少ない高分子量のポリマーを使用しても良いし、固有粘度IV=0.1~0.8dL/g程度の溶融重合品を固相重合により高分子化して使用しても良い。
【0031】
固相重合を用いる場合、処理温度が高いと末端カルボキシル基が増加するため低温で長時間処理することが望ましく、通常減圧下もしくは不活性ガス雰囲気で例えば120~220℃、好ましくは140~200℃、更に好ましくは150~190℃程度で調整できる。
【0032】
なお、カルボン酸末端濃度は、重合により得られたポリエステル系熱可塑性樹脂ペレットの粉砕試料を、ベンジルアルコール中215℃で10分間溶解後、0.01Nの水酸化ナトリウム水溶液にて滴定することにより求めた。
【0033】
<無機フィラーB>
本発明の成形品に含有させる無機フィラーBとしては、繊維状充填剤、板状充填剤、又は粉粒状充填剤を挙げることができる。
【0034】
繊維状充填剤としては、例えば、ガラス繊維、アスベスト繊維、カーボン繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、シリカ-アルミナ繊維、アルミニウムシリケート繊維、ジルコニア繊維、チタン酸カリウム繊維、炭化ケイ素繊維、ウィスカー(炭化ケイ素、アルミナ、窒化珪素等のウィスカー)等の無機質繊維を挙げることができる。
【0035】
板状充填剤としては、例えば、タルク、マイカ、ガラスフレーク、グラファイト等を挙げることができる。粉粒状充填剤としては、例えば、ガラスビーズ、ガラス粉、ミルドファイバー(例えば、ミルドガラスファイバー等)、ウォラストナイト(珪灰石)等を挙げることができる。
【0036】
繊維状充填剤の平均径は、例えば、1μm~30μm(好ましくは5μm~20μm、さらに好ましくは10~15μm)程度、平均長は、例えば、100μm~5mm(好ましくは300μm~4mm、さらに好ましくは500μm~3.5mm)程度であってもよい。
【0037】
また、板状又は粉粒状充填剤の平均一次粒子径は、例えば、0.1μm~500μm、好ましくは1μm~100μm程度とすることができる。これらの無機充填剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。
【0038】
なお、繊維状充填剤の平均径及び平均長、並びに板状又は粉粒状充填剤の平均一次粒子径は、樹脂組成物中に配合される前の繊維状充填材、板状又は粉粒状充填剤について、CCDカメラで撮影した画像を解析し、加重平均により算出した値である。これらは例えば、株式会社セイシン企業製、動的画像解析法/粒子(状態)分析計PITA-3等を用いて算出することができる。なお、板状又は粉状充填材のアスペクト比は、特に限定されず、例えば、1以上10以下とすることができる。
【0039】
無機フィラーBとして、ポリエステル系熱可塑性樹脂Aを熱劣化や加水分解を促進する難燃剤や触媒、着色剤なども含む。
【0040】
難燃剤としては、有機ハロゲン系難燃剤、例えばヘキサブロモベンゼン、デカブロモジフェニルエーテル、テトラブロモビスフェノールA、ハロゲン化ビスイミド化合物、ハロゲン化ビスフェノールAに由来する単位を含むポリカーボネートオリゴマー、ハロゲン化ビスフェノールAとエピクロルヒドリンの反応生成物であるジエポキシ化合物、ハロゲン化ポリスチレン、ハロゲン化アクリルポリマー、ペンタブロモポリベンジルアクリレート等が例示できる。
【0041】
無機着色剤としては、チタン系顔料、亜鉛系顔料、カーボンブラック(ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなど)、鉄系顔料、モリブデン系顔料、カドミウム系顔料、鉛系顔料、コバルト系顔料、及びアルミニウム系顔料などが例示でき、有機着色剤としては、アゾ系顔料、アントラキノン系顔料、フタロシアニン系顔料、キナクリドン系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、イソインドリン系顔料、ジオキサジン系顔料、又はスレン系顔料などが例示できる。
【0042】
<熱可塑性樹脂C>
本発明の熱可塑性樹脂Cは、無機フィラーBを被覆することができ、かつポリエステル系熱可塑性樹脂Aに比べ耐加水分解に優れた樹脂が好ましい。
【0043】
耐加水分解性に優れた樹脂としては、例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリ(1-)ブテン樹脂、及びポリペンテン樹脂等のポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂(PVC)、エラストマー等が挙げられる。特に靭性に優れているエラストマーであることが好ましい。
【0044】
エラストマーとしては、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、シリコーン系エラストマー、が挙げられる。具体的には、エチレンエチルアクリレート(EEA)系共重合体、メタクリル酸エステル-ブチレン-スチレン(MBS)系共重合体、エチレングリシジルメタアクリレート(EGMA)系共重合体等を使用することができる。ポリエステル系エラストマーなどは耐加水分解性に劣るため不適である。
【0045】
オレフィン系エラストマーは、エチレン及び/又はプロピレンを成分として含む共重合体であり、具体的にはエチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-オクテン共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体等が挙げられ、これらに限定されるものではないが、特に無機フィラーとの反応性基を有する、エポキシ基含有オレフィン系共重合体であることが最も好ましい。
【0046】
更に、オレフィン系エラストマーの中でも、エチレン-不飽和カルボン酸アルキルエステル共重合体又はα-オレフィンとα,β-不飽和酸のグリシジルエステルから成るオレフィン系共重合体に、下記一般式(1)で示される繰返し単位で構成された重合体又は共重合体の一種又は二種以上が分岐又は架橋構造的に化学結合したグラフト共重合体も利用することができる。
【0047】
【化1】
(但し、Rは水素又は低級アルキル基、Xは-COOCH
3、-COOC
2H
5、-COOC
4H
9、-COOCH
2CH(C
2H
5)C
4H
9、-C
6H
5、-CNから選ばれた一種又は二種以上の基を示す)
【0048】
α-オレフィンとしては、エチレン、プロピレン等のC2~4のオレフィンを使用することができ、エチレン、プロピレンであることが好ましい。α,β-不飽和酸グリシジルエステルとしては、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレートを使用することが好ましい。その他、C1~12の(メタ)アクリル酸エステル、酢酸ビニル等の第3成分を共重合させてもよい。
【0049】
オレフィン及びグリシジルエステルは、共重合体中それぞれ30~90モル%。70~10モル%の範囲で調整することができ、第3成分は0~30モル%の範囲を含有させることができる。
【0050】
本発明では特に、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体(以下EGMAともいう)であることが好ましい。エチレンに対するグリシジルメタクリレートの割合は特に制限されるものではないが、共重合体の変性部位を各単量体質量に換算し、共重合体100質量部に対する割合として1~30質量部、好ましくは3~20質量部、更に好ましくは8~15質量部の範囲が好ましい。
【0051】
スチレン系エラストマーとしては、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエンなどの芳香族ビニル単量体の単独又は共重合体で構成されたハードセグメントと、α-オレフィン(エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテンなどのα-C2-12オレフィンなど)、ジエン系単量体(ブタジエン、イソプレンなど)などから選択された少なくとも一種の単量体の単独又は共重合体で構成されたソフトセグメントとのブロック又はグラフト共重合体(又はその水素添加物)などが例示できる。
【0052】
また、前記スチレン系エラストマーは、(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸などの酸又は酸無水物で変性された酸変性エラストマー、グリシジル基やエポキシ基を有する共重合性モノマー(グリシジル(メタ)アクリレートなど)を用いたり、エラストマーの不飽和結合をエポキシ化して得られたエポキシ変性エラストマーなどの反応性官能基を有するエラストマーであってもよい。
【0053】
代表的なスチレン系エラストマーとしては、スチレン-ジエン-スチレンブロック共重合体[スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)など]、水素添加ブロック共重合体[スチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体(又は水添(スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体))(SEBS)、スチレン-エチレン・プロピレン-スチレンブロック共重合体(又は水添(スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体))(SEPS)、スチレン-エチレン・エチレン・プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)、ランダムスチレン-ブタジエン共重合体の水素添加重合体など]、これらの共重合体に官能基(エポキシ基、カルボキシル基、酸無水物基など)が導入された変性共重合体[ジエンの不飽和結合がエポキシ化されたエポキシ化スチレン-ジエン共重合体(エポキシ化スチレン-ジエン-スチレンブロック共重合体又はその水素添加重合体など)など]が例示できる。
【0054】
シリコーン系エラストマーとしては、オルガノポリシロキサンを主成分として含むエラストマーであり、ポリジメチルシロキサン系、ポリメチルフェニルシロキサン系、およびポリジフェニルシロキサン系に分けられる。オルガノポリシロキサンの一部がビニル基、アルコキシ基等で変性されていてもよい。シリコーンエラストマーの具体例としては、シリコーンゴム(ポリ(ジメチルシロキサン)およびポリ(ジメチルシロキサン-co-メチルビニルシロキサン))が挙げられる。
【0055】
商業的に入手可能なシリコーンエラストマーとしては、KEシリーズ(信越化学社製)、SEシリーズ、CYシリーズおよびSHシリーズ(以上、東レダウコーニングシリコーン社製)がある。
【0056】
本発明の無機フィラーBは、その表面が熱可塑性樹脂Cによって被覆されていることを特徴とする。被覆されているか否かは、成形品の断面をSEMで観察する、もしくは以下の方法(以下、被覆確認法ともいう)によって知ることができる。
【0057】
熱可塑性樹脂Cによって被覆されている無機フィラーBは、熱可塑性樹脂Cと無機フィラーBを溶融混錬する被覆処理工程によって製造することができる。この熱可塑性樹脂Cを表面に被覆処理した無機フィラーBを、熱可塑性樹脂Aに溶融混練する。熱可塑性樹脂Aと熱可塑性樹脂Cの両方を溶解できる溶剤にて、被覆に関与していない熱可塑性樹脂Aと過剰の熱可塑性樹脂Cを取り除く。その後、被覆処理した無機フィラーBをFT-IRで測定する。
【0058】
被覆処理していない無機フィラーと比較し、FT-IRの熱可塑性樹脂C由来の吸収が観測された場合、無機フィラーBが熱可塑性樹脂Cによって被覆されているということが分かる。
【0059】
成形品用の樹脂組成物は、無機フィラーの表面に熱可塑性樹脂Cを被覆させる製造工程を経たのち、熱可塑性樹脂Aを添加し、さらに溶融混錬することによって製造することができる。
【0060】
例えば、まず押出機にて無機フィラーBと熱可塑性樹脂Cを溶融混練し、ペレット化してマスターバッチ化した後、ポリエステル熱可塑性樹脂Aと前記マスターバッチを再び溶融混練してペレット化したものを、射出成形機により作成しても良いし、前記マスターバッチとポリエステル系熱可塑性樹脂Aを任意の比率でブレンド後、直接射出成形機に投入し作成しても良い。
【0061】
また、マスターバッチ化しない方法、例えば無機フィラーBと熱可塑性樹脂Cを押出機に投入し溶融混練した後、ポリエステル系熱可塑性樹脂Aを投入して溶融混練し、ペレット化後、射出成型を行っても良い。この場合、いわゆるタンデム型押出機を用いて混練しても良い。タンデム型押出機は各バレルでの使用スクリュー数、混練パターン、混練温度などを細かく設定することが可能である。
【0062】
このような方法を用いて、熱可塑性樹脂Cにより被覆されている無機フィラーBが、熱可塑性樹脂A中に分散された状態の成形品を得ることができる。熱可塑性樹脂Cは、被覆させた熱可塑性樹脂Cに追加して熱可塑性樹脂Aとの溶融混錬時に添加してもよい。
【0063】
本発明において、無機フィラーBは、熱可塑性樹脂A100質量部に対して20~200質量部含むことが好ましく、30~160質量部含むことがより好ましい。
【0064】
本発明においては、熱可塑性樹脂Cで表面を被覆された無機フィラーB以外に、表面を被覆しない無機フィラーBNを配合することもできる。配合量は、所望の機械的物性により適宜選択されるが、熱可塑性樹脂A100質量部に対して0~200質量部含ませることができる。
【0065】
本発明について熱可塑性樹脂Cは無機フィラーBと親和性を有することが好ましい。ここで親和性とは、樹脂組成物の成形時等の溶融混練時に熱可塑性樹脂Cが無機フィラーBの表面から剥離しない程度を言う。
【0066】
例えば熱可塑性樹脂Cが無機フィラーBと反応性を有する官能基を含むものであったり、無機フィラーBを表面処理剤で処理し、無機フィラーBの疎水性を減少させたり、熱可塑性樹脂Cの官能基との反応や水素結合を促進させるものであってもよい。また、ポリエステル熱可塑性樹脂Aよりも高粘度の熱可塑性樹脂Cを選択し、ポリエステル熱可塑性樹脂Aとの溶融混練時に、熱可塑性樹脂Cのせん断組成変形を減じるものであっても良い。
【0067】
<耐加水性向上用化合物D>
本発明の樹脂組成物には、耐加水性向上用化合物Dを添加してもよい。耐加水性向上用化合物Dは、ポリエステル系熱可塑性樹脂Aと反応性を有する基を有している化合物であり、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物などが好ましい。
【0068】
カルボジイミド化合物とは、分子中にカルボジイミド基(-N=C=N-)を有する化合物である。カルボジイミド化合物としては、主鎖が脂肪族の脂肪族カルボジイミド化合物、主鎖が脂環族の脂環族カルボジイミド化合物、主鎖が芳香族の芳香族カルボジイミド化合物のいずれも使用できるが、耐加水分解性の点で芳香族カルボジイミド化合物の使用が好ましい。
【0069】
脂肪族カルボジイミド化合物としては、ジイソプロピルカルボジイミド、ジオクチルデシルカルボジイミド、ジ-tert-ブチルカルボジイミド、1-エチル-3-tert-ブチルカルボジイミド、1-(2-ブチル)-3-エチルカルボジイミド、1,3-ジ-(2-ブチル)カルボジイミド、ポリ(ジイソプロピルカルボジイミド)等が挙げられる。脂環族カルボジイミド化合物としてはジシクロヘキシルカルボジイミド、ポリ(ジイソプロピルカルボジイミド)等が挙げられる。
【0070】
芳香族カルボジイミド化合物としては、ジフェニルカルボジイミド、ジ-2,6-ジメチルフェニルカルボジイミド、ジ-2,6-ジエチルフェニルカルボジイミド、ジ-2,6-ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、ジ-2,6-ジtert-ブチルフェニルカルボジイミド、N-トリイル-N’-フェニルカルボジイミド、N-(2,6-ジイソプロピル-4-フェノキシフェニル)-N-tert-ブチルカルボジイミド、N,N-ビス[3-イソシアナト-2,4,6-トリス(1-メチルエチル)フェニルアミノ]カルボジイミド、N-シクロヘキシル-N-(4-(ジメチルアミノ)ナフチル)カルボジイミド、ジ-o-トリルカルボジイミド、ジ-p-トリルカルボジイミド、ジ-p-ニトロフェニルカルボジイミド、ジ-p-アミノフェニルカルボジイミド、ジ-p-ヒドロキシフェニルカルボジイミド、ジ-p-クロルフェニルカルボジイミド、ジ-p-メトキシフェニルカルボジイミド、ジ-3,4-ジクロルフェニルカルボジイミド、ジ-2,5-ジクロルフェニルカルボジイミド、ジ-o-クロルフェニルカルボジイミド、ジ-2,4,6-トリメチルフェニルカルボジイミド、ジ-2,4,6-トリイソプロピルフェニルカルボジイミド、ジ-2,4,6-トリイソブチルフェニルカルボジイミド、p-フェニレン-ビス-ジ-o-トリイルカルボジイミド、p-フェニレン-ビス-ジシクロヘキシルカルボジイミド、p-フェニレン-ビス-ジ-p-クロルフェニルカルボジイミド、エチレン-ビス-ジフェニルカルボジイミドのモノ又はジカルボジイミド化合物及びポリ(4,4’-ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(p-フェニレンカルボジイミド)、ポリ(m-フェニレンカルボジイミド)、ポリ(3,3’-ジメチル-4,4’-ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(ナフチレンカルボジイミド)、ポリ(1,3-ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(1-メチル-3,5-ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(1,3,5-トリエチルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)及びポリ(トリイソプロピルフェニレンカルボジイミド)等が挙げられる。上記のカルボジイミド化合物は、2種以上併用することもできる。
【0071】
これらの中でも特にジ-2,6-ジメチルフェニルカルボジイミド、ポリ(4,4’-ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(フェニレンカルボジイミド)及びポリ(トリイソプロピルフェニレンカルボジイミド)が好適に使用される。
【0072】
また、カルボジイミド化合物としては、数平均分子量が2000以上のものを使用することが好ましい。
組成物中のカルボジイミド化合物の配合量は、ポリエステル系熱可塑性樹脂Aの末端カルボキシル基量を1当量とした場合、カルボジイミド官能基量が5~40当量が好ましい。
【0073】
さらに好ましい配合量は、ポリエステル系熱可塑性樹脂Aの末端カルボキシル基量を1当量とした場合、カルボジイミド官能基量が6~35当量であり、最も好ましくは10~30当量である。
【0074】
そしてカルボジイミド化合物の官能基量からポリエステル系熱可塑性樹脂Aの末端カルボキシル基量を減じた量は、30meq/PBT・kg以上であり、50meq/PBT・kg以上であることがより好ましく、70meq/ポリエステル系熱可塑性樹脂A・kg以上であることがさらに好ましい。なお、この値はポリエステル系熱可塑性樹脂A1kgを基準とした各官能基量から算出したものである。
【0075】
なお、カルボジイミド官能基量とは、樹脂組成中のカルボジイミド化合物のカルボジイミド官能基量を意味し、カルボジイミド当量とは、カルボジイミド化合物が有するカルボジイミド官能基の量を意味する。
【0076】
エポキシ化合物としては、例えば、ビニルシクロヘキセンジオキシド等の脂環式化合物、パーサティック酸グリシジルエステル等のグリシジルエステル化合物、グリシジルエーテル化合物(ハイドロキノンジグリシジルエーテル、ビフェノールジグリシジルエーテル、ビスフェノール-Aジグリシジルエーテル等)、グリシジルアミン化合物、エポキシ基含有ビニル共重合体(例えば、エポキシ化ポリブタジエン、エポキシ化ジエン系モノマースチレン共重合体等)、トリグリシジルイソシアヌレート、エポキシ変性(ポリ)オルガノシロキサン等が挙げられる。
【0077】
オキサゾリン化合物としては、2,2’-ビス(2-オキサゾリン)、1,3-フェニレン-ビス(2-オキサゾリン)、2,2’-m-フェニレンビス(2-オキサゾリン)、2,2’-p-フェニレンビス(2-オキサゾリン)等のビスオキサゾリンが例示される。また、オキサゾリン基含有ポリスチレン、オキサゾリン基含有アクリル系ポリマー、オキサゾリン基含有スチレン-アクリル系ポリマー等のオキサゾリン基含有ポリマーが例示される。
【0078】
エポキシ化合物やカルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物は、単独でまたは二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0079】
<他の成分>
本発明においては、本発明の効果を害さない範囲で、上記各成分の他、一般に熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂に添加される公知の添加剤、即ち、バリ抑制剤、離型剤、潤滑剤、可塑剤、難燃剤、染料や顔料等の着色剤、結晶化促進剤、結晶核剤、各種酸化防止剤、熱安定剤、耐候性安定剤、腐食防止剤等を配合してもよい。
【0080】
<成形品>
本発明の成形品は、以上説明した成形品用の樹脂組成物を成形してなる。本発明の成形品を作製する方法としては特に限定はなく、公知の方法を採用することができる。例えば、上記のような樹脂組成物を押出機に投入して溶融混練してペレット化し、このペレットを所定の金型を装備した射出成形機に投入し、射出成形することで製造することができる。
本発明では、成形品の耐加水分解性を向上させることができる。
【実施例0081】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0082】
<材料>
以下の材料を使用し、評価用試料を作製した。使用量は、表1および表2に示す。
A1 ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT、固有粘度0.69dL/g、カルボン酸末端濃度23meq/k):ポリプラスチックス社製
B1 マイカ:山口雲母工業所製ミカレット21PU
C1 エチレンーグリシジルメタクリレート共重合体:住友化学社製ボンドファースト7L
B1MC11 B1:C1=10:10(質量部)でブレンド後、溶融混練しマスターバッチ化したもの
BN1 ガラス繊維:日本電気硝子社製T187(直径13μm、長径3.0mm)
P 酸化防止剤:BASFジャパン社製 イルガノックス1010
Q 滑剤:三洋化成工業社製 サンワックス161-P
【0083】
<樹脂組成物の製造>
マスターバッチは、BとCを表1に記載の量をシリンダー温度190℃で溶融混練後、ペレタイズして作製した。
実施例1は、樹脂A1とペレタイズしたマスターバッチおよびその他の成分である酸化防止剤P、滑剤Qとをホッパーから投入し、ガラス繊維BN1をサイドフィードから投入し、シリンダー温度260℃で混練後、射出成形し、ISO3167のISO多目的試験片 Type-1Aを作製した。
上記被覆確認法によって、無機フィラーB1がオレフィン系エラストマーC1により被覆されていることを確認した。
【0084】
比較例1は、樹脂A1、オレフィン系エラストマーC1、無機フィラーB1およびその他の成分である酸化防止剤P、滑剤Qとをホッパーから投入し、ガラス繊維BN1をサイドフィードから投入し、シリンダー温度260℃で混練後、射出成形し、ISO3167のISO多目的試験片 Type-1Aを作製した。
【0085】
比較例2は、樹脂A1、無機フィラーB1およびその他の成分である酸化防止剤P、滑剤Qとをホッパーから投入し、オレフィン系エラストマーC1とガラス繊維BN1をサイドフィードから投入しシリンダー温度260℃で混練後、射出成形し、ISO3167のISO多目的試験片 Type-1Aを作製した。
【0086】
<評価>
<耐加水分解性評価>
ISO3167に準拠したISO多目的試験片 Type-1Aをプレッシャークッカー試験機にて121℃、100%RHの条件で25時間、50時間時間保持する前後で、ISO527-1,2に準拠し引張強さおよび引張破壊ひずみの値をオリエンテック社製万能試験機テンシロンRTC-1325Aを用いて測定した。なお、各保持率は、下式に基づいて算出した。
保持率(単位:%)=(保持後の値/保持前の値)×100
なお特に断りの無い限り測定は、23℃50%RH雰囲気下で行った。
【0087】
<評価結果>
【0088】
【0089】
【0090】
表2及び3に示すように、本発明は、機械的特性を維持しながら耐加水分解性に優れた成形品であることが判る。そして、当該成形品の製造方法を提供することができ、成形品の耐加水分解性を向上する方法を提供することができた。