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特開2023-414液化炭酸ガス昇温設備および液化炭酸ガス昇温方法
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  • 特開-液化炭酸ガス昇温設備および液化炭酸ガス昇温方法 図1
  • 特開-液化炭酸ガス昇温設備および液化炭酸ガス昇温方法 図2
  • 特開-液化炭酸ガス昇温設備および液化炭酸ガス昇温方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023000414
(43)【公開日】2023-01-04
(54)【発明の名称】液化炭酸ガス昇温設備および液化炭酸ガス昇温方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 19/00 20060101AFI20221222BHJP
   B63B 25/16 20060101ALI20221222BHJP
   F17C 9/02 20060101ALI20221222BHJP
【FI】
B01J19/00 301A
B63B25/16 Z
F17C9/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021101217
(22)【出願日】2021-06-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003285
【氏名又は名称】千代田化工建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109081
【弁理士】
【氏名又は名称】三木 友由
(72)【発明者】
【氏名】国分 紀之
【テーマコード(参考)】
3E172
4G075
【Fターム(参考)】
3E172AA03
3E172AA06
3E172AB13
3E172BA06
3E172BB12
3E172BB17
3E172BD01
3E172GA17
3E172GA23
4G075AA04
4G075AA13
4G075AA63
4G075BB10
4G075CA02
4G075CA74
4G075DA02
4G075EA02
4G075EB21
4G075EC07
4G075FB02
4G075FB11
(57)【要約】
【課題】CCSにおいて液化炭酸ガスを好適に昇温する。
【解決手段】液化炭酸ガス昇温設備10は、海水と熱媒体の供給を受け、海水との熱交換により熱媒体を昇温する熱媒体昇温器18と、熱媒体昇温器18で昇温された熱媒体との熱交換により、液化炭酸ガスを所定の温度に昇温する昇温用熱交換器16と、熱媒体昇温器18に供給される熱媒体の温度が海水の凍結温度以上となるように制御する熱媒体温度制御部30と、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
海水と熱媒体の供給を受け、前記海水との熱交換により前記熱媒体を昇温する熱媒体昇温器と、
前記熱媒体昇温器で昇温された前記熱媒体との熱交換により、液化炭酸ガスを所定の温度に昇温する昇温用熱交換器と、
前記熱媒体昇温器に供給される前記熱媒体の温度が前記海水の凍結温度以上となるように制御する熱媒体温度制御部と、
を備えることを特徴とする液化炭酸ガス昇温設備。
【請求項2】
前記昇温用熱交換器は、円筒胴内に複数の伝熱管を収めた円筒胴多管式熱交換器であり、
前記液化炭酸ガスは、前記昇温用熱交換器の前記伝熱管側に供給され、
前記熱媒体昇温器からの前記熱媒体は、前記昇温用熱交換器の前記円筒胴側に供給される、ことを特徴とする請求項1に記載の液化炭酸ガス昇温設備。
【請求項3】
前記昇温用熱交換器の前記円筒胴および前記伝熱管はいずれも鋼鉄製であることを特徴とする請求項2に記載の液化炭酸ガス昇温設備。
【請求項4】
前記熱媒体は、エチレングリコール水溶液、プロピレングリコール水溶液、エチレングリコール水溶液とプロピレングリコール水溶液の混合溶液、または炭化水素化合物の溶液であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の液化炭酸ガス昇温設備。
【請求項5】
前記熱媒体昇温器は、チタン製プレートを備えるプレート式熱交換器であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の液化炭酸ガス昇温設備。
【請求項6】
前記昇温用熱交換器に供給するための前記液化炭酸ガスを貯蔵する貯蔵タンクと、
前記貯蔵タンクからの前記液化炭酸ガスの一部と、前記熱媒体昇温器からの前記熱媒体の一部の供給を受け、前記熱媒体との熱交換により前記液化炭酸ガスを気化する液化炭酸ガス気化用熱交換器と、をさらに備え、
前記液化炭酸ガス気化用熱交換器で気化された炭酸ガスは、前記貯蔵タンクに供給されることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の液化炭酸ガス昇温設備。
【請求項7】
熱媒体昇温器に海水と熱媒体を供給するステップと、
前記熱媒体昇温器を用いて、前記海水との熱交換により前記熱媒体を昇温するステップと、
前記熱媒体との熱交換により液化炭酸ガスを所定の温度に昇温するステップと、
前記熱媒体昇温器に供給される前記熱媒体の温度が前記海水の凍結温度以上となるように制御するステップと、
を備えることを特徴とする液化炭酸ガス昇温方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CCS(Carbon Capture and Strage)における液化炭酸ガス(液化CO)の昇温設備および昇温方法に関する。
【背景技術】
【0002】
CCS(二酸化炭素回収・貯留)は、COの発生源(例えば石炭火力発電所の燃焼排ガス)からCOを化学吸収法などで回収し、圧縮して超臨界状態で岩盤などで遮蔽された地下の滞水層(貯留層)に圧入し、貯留するものであり、地球温暖化対策の一つである。(CCSについては例えば特許文献1、2参照)。
【0003】
CCSには様々な方式があるが、その一つに液化炭酸ガス輸送・圧入方式がある。この方式では、分雛・回収されたCOは圧縮・液化され、一旦、液化炭酸ガスの形で陸上のタンクに貯蔵し、タンクから液化炭酸ガス輸送船に積載し、貯留地点まで船舶輸送される。貯留地点で液化炭酸ガスは、液化炭酸ガス輸送船から海底下の滞水層に圧入される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-31154号公報
【特許文献2】特開2012-72012号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
液化炭酸ガスを貯留層(滞水層)に圧入する際には、周囲の水の凍結防止とCOハイドレート形成による閉塞を防止するために、液化炭酸ガス(例えば-10℃/2.289MPa~-50℃/0.684MPa)を所定圧力(10MPa以上)に昇圧後、0℃以上に昇温して圧入が行われる。
【0006】
液化炭酸ガスを昇温するためには何らかの熱源が必要となるが、液化炭酸ガス輸送船上という条件を考慮すると、利用可能な熱源は限られる。一つの方法としては、温水ボイラーにより温水を生じさせ、温水と液化炭酸ガスとを熱交換することにより液化炭酸ガスを昇温させる方法が考えられる。しかしながら、この方法の場合、温水ボイラーに大量の燃料を消費するためコストが増大し、また燃料消費に伴ってCOが排出されるという課題がある。
【0007】
本発明は、こうした状況を鑑みてなされたものであり、その目的は、CCSにおいて液化炭酸ガスを好適に昇温することのできる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の液化炭酸ガス昇温設備は、海水と熱媒体の供給を受け、海水との熱交換により熱媒体を昇温する熱媒体昇温器と、熱媒体昇温器で昇温された熱媒体との熱交換により、液化炭酸ガスを所定の温度に昇温する昇温用熱交換器と、熱媒体昇温器に供給される熱媒体の温度が海水の凍結温度以上となるように制御する熱媒体温度制御部と、を備える。
【0009】
本発明の別の態様は、液化炭酸ガス昇温方法である。この方法は、熱媒体昇温器に海水と熱媒体を供給するステップと、熱媒体昇温器を用いて、海水との熱交換により熱媒体を昇温するステップと、熱媒体との熱交換により液化炭酸ガスを所定の温度に昇温するステップと、熱媒体昇温器に供給される熱媒体の温度が海水の凍結温度以上となるように制御するステップと、を備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、CCSにおいて液化炭酸ガスを好適に昇温することのできる技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係る液化炭酸ガス昇温設備が用いられるCCSの概略フローを示す図である。
図2】本発明の実施形態に係る液化炭酸ガス昇温設備を説明するための図である。
図3】本発明の別の実施形態に係る液化炭酸ガス昇温設備を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。以下の構成は本開示を理解するための例示を目的とするものであり、本開示の範囲は、添付の請求の範囲によってのみ定まる。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において実施の形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0013】
図1は、本発明の実施形態に係る液化炭酸ガス昇温設備が用いられるCCSの概略フローを示す図である。図1は、液化炭酸ガス輸送・圧入方式のCCSを示す。CCSには他に、海底パイプライン方式やERD(Extended Reach Drilling)方式などがある。
【0014】
CCSにおいては、例えば石炭火力発電所の燃焼排ガスなどのCO発生源から、例えば化学吸収法などを用いてCOを分離・回収する。その後、回収したCOを圧縮して液化し、液化炭酸ガスの形で陸上のタンクに貯蔵する。液化炭酸ガスは、タンクから液化炭酸ガス輸送船100に積載され、海洋110上の貯留地点102まで船舶輸送される。
【0015】
液化炭酸ガス輸送船100に積載された液化炭酸ガスは、液化炭酸ガス輸送船100に設置された液化炭酸ガス昇温設備10により昇圧および昇温された後、貯留地点102で液化炭酸ガス輸送船100から滞水層114に圧入される。滞水層114は、海底の下に位置する遮断層112よりもさらに下の層である。
【0016】
図1に示すCCSでは、液化炭酸ガスは、海底設備接続用FRP(Flexible Riser Pipe)を介して海底に設置されたウェルヘッド(Well Head)106に送られる。その後、液化炭酸ガスは、海底に敷設されたフローライン107を介してクリスマスツリー(Xmas Tree)108に送られる。クリスマスツリーとは、坑井から生産される流体の圧力を制御するバルブの集合体である。クリスマスツリー108において、液化炭酸ガスは滞水層114に圧入される。
【0017】
上記では、液化炭酸ガス昇温設備10を液化炭酸ガス輸送船100に設置したが、液化炭酸ガス昇温設備10は、洋上に設置した着底式プラットフォームや、洋上に係留した浮体(FSO:Floating Storage and Offloading またはBuoy)に設置されてもよい。
【0018】
図2は、本発明の実施形態に係る液化炭酸ガス昇温設備10を説明するための図である。液化炭酸ガス昇温設備10は、船舶輸送された液化炭酸ガス(例えば-10℃/2.289MPa~-50℃/0.684MPa)を海底の貯留層(滞水層)に圧入するための昇圧、および貯留層に液化炭酸ガスが圧入されたとき、周囲の水の凍結とCOハイドレート形成による閉塞を防止するための昇温を行う設備である。
【0019】
ここで、CCSにおける圧入条件について説明する。
(1)圧入圧力
圧入圧力は、貯留層の深さ、浸透率、遮蔽層の強さで異なるが、一般的には圧入地点の「Static Head+3MPa~遮蔽層の破壊圧力」で示される。海底の地下貯留層でのCCSの場合、圧入深度を2000m~3000m、液化炭酸ガスの密度、坑井での圧力損失を考慮すると、海底のクリスマスツリー108(図1参照)で10MPa~13MPa程度が好適な圧入圧力となる。
(2)圧入温度
液化炭酸ガスが貯留層(滞水層114)に圧入されたとき、周囲の水の凍結防止(0℃以上)とCOハイドレート形成(5℃以下)による閉塞を防止するために昇温して圧入をする必要がある。過去のCCSの実例において0℃で圧入時にCOハイドレート形成による閉塞が起きていないことを考慮すると、液化炭酸ガスの圧入温度は0℃以上が好適である。
【0020】
図2に示すように、液化炭酸ガス昇温設備10は、貯蔵タンク12と、昇圧ポンプ14と、昇温用熱交換器16と、熱媒体昇温器18と、海水ポンプ20と、熱媒体ドラム22と、熱媒体ポンプ24と、熱媒体温度制御部30と、を備える。
【0021】
貯蔵タンク12は、液化炭酸ガス(液化CO)を貯蔵する。液化炭酸ガスの温度は-10℃~-50℃であってよく、液化炭酸ガスの圧力は2.289MPa~0.684MPaであってよい。貯蔵タンク12に貯蔵された液化炭酸ガスは、昇圧ポンプ14に供給される。
【0022】
昇圧ポンプ14は、貯蔵タンク12から供給された液化炭酸ガスを所定の圧力(例えば10MPa以上)に昇圧する。昇圧ポンプ14により昇圧された液化炭酸ガスは、昇温用熱交換器16に供給される。
【0023】
昇温用熱交換器16は、円筒胴内に複数の伝熱管を収めた円筒胴多管式熱交換器である。本実施形態において、昇温用熱交換器の円筒胴および伝熱管はいずれも一般的な鋼鉄製である。昇圧ポンプ14からの液化炭酸ガスは、昇温用熱交換器16の管側に供給される。液化炭酸ガスは、昇温用熱交換器16の管側入口16aに入力され、管側出口16bから出力される。一方、昇温用熱交換器16の胴側には熱媒体が供給される。熱媒体は、ライン33を介して昇温用熱交換器16の胴側入口16cに入力され、胴側出口16dから出力される。昇温用熱交換器16は、管側に供給される液化炭酸ガスと胴側に供給される熱媒体との間で熱交換を行い、液化炭酸ガスを所定の温度(0℃以上)に昇温する。
【0024】
熱媒体としては、昇温用熱交換器16に供給される液化炭酸ガスの温度(-10℃~-50℃)でも凍結しないもの(不凍液)が用いられる。このような熱媒体としては、例えば、エチレングリコール水溶液、プロピレングリコール水溶液、エチレングリコール水溶液とプロピレングリコール水溶液の混合溶液、または炭化水素化合物の溶液を用いることができる。各溶液におけるエチレングリコール、プロピレングリコール、炭化水素化合物などの含有量は、供給される液化炭酸ガスの温度で凍結しないことを条件に設定され、例えばエチレングリコール10wt%以上や、プロピレングリコールの10wt%以上に設定される。これらの溶液は、防錆剤を含むことが好ましい。
【0025】
昇温用熱交換器16の胴側出口16dから出力された熱媒体は、ライン34を介して熱媒体ドラム22に供給される。熱媒体は、その後、熱媒体ポンプ24によって熱媒体昇温器18に供給される。
【0026】
熱媒体温度制御部30は、熱媒体昇温器18に供給される熱媒体の温度が海水の凍結温度(-2℃)以上となるように制御する。熱媒体温度制御部30は、制御弁26と、温度センサ28とを備える。
【0027】
制御弁26は、図2に示すように、昇温用熱交換器16の胴側入口16cと胴側出口16dとをバイパスするバイパスライン32に設置されている。すなわち、バイパスライン32は、熱媒体昇温器18の熱媒体出口18bと昇温用熱交換器16の胴側入口16cとを接続するライン33と、昇温用熱交換器16の胴側出口16dと熱媒体ドラム22の入口22aとを接続するライン34とをバイパスしている。
【0028】
温度センサ28は、昇温用熱交換器16の胴側出口16dから出力される熱媒体と、バイパスライン32からの熱媒体とが合流した後の熱媒体の温度を検出するように配置される。制御弁26は、温度センサ28での検出値に基づいて、合流後の熱媒体の温度、すなわち熱媒体ドラム22に供給される熱媒体の温度が、海水の凍結温度(-2℃)以上となるように、バイパスライン32を流れる熱媒体の流量を制御する。
【0029】
熱媒体昇温器18は、海水(例えば5℃以上)と熱媒体(-2℃以上)の供給を受け、海水との熱交換により熱媒体を昇温する。本実施形態において、熱媒体昇温器18は、耐海水腐食性および摩耗性に優れたチタン製プレートを備えるプレート式熱交換器である。プレート式熱交換器は、伝熱特性が高いことが特徴である。プレート式熱交換器においては、流体はほぼ平行量で伝熱係数が高く、場所による偏差が小さく、流体間の温度差2℃で十分熱交換が可能である。海水は、海水ポンプ20によって熱媒体昇温器18の海水入口18cに入力され、熱媒体昇温器18の海水出口18dから出力される。一方、熱媒体は、熱媒体昇温器18の熱媒体入口18aに入力され、熱媒体昇温器18の熱媒体出口18bから出力される。
【0030】
具体的な温度を例示して液化炭酸ガス昇温設備10の動作を説明する。ここでは、-20℃、1.97MPaの液化炭酸ガスを0℃、10MPaに昇圧・昇温する場合を考える。熱媒体昇温器18は、例えば7℃の海水と-1℃の熱媒体(エチレングリコール水溶液:凍結温度-23℃)の供給を受け、熱媒体を5℃に昇温する。熱媒体昇温器18により昇温された熱媒体は、ライン33を介して昇温用熱交換器16の胴側入口16cに供給される。昇圧ポンプ14は、-20℃、1.97MPaの液化炭酸ガスを-20℃、10.5MPaに昇圧する。昇温用熱交換器16は、管側入口16aに供給された-20℃、10.5MPaの液化炭酸ガスを、5℃の熱媒体との熱交換により0℃(10.2MPa)に昇温する。-46℃、0.80MPaの液化炭酸ガスを0℃、10MPaに昇圧・昇温する場合は、昇圧ポンプ14の出口が-46℃、10.5MPaとなり、それ以外の箇所の温度、圧力は同じである。
【0031】
以上、本実施形態に係る液化炭酸ガス昇温設備10の構成について説明した。本実施形態に係る液化炭酸ガス昇温設備10によれば、海水を利用して液化炭酸ガスの昇温を行っているので、燃料を必要とする温水ボイラーを使用する場合と比較してコストを低減することができ、また排出されるCOも非常に少ない。
【0032】
海水の最低温度は、日本海側では冬期に6℃~8℃(北海では4℃~6℃)となる。このような低温の海水で直接-10℃~-50℃の液化炭酸ガスを熱交換すると、熱交換機内で海水が凍結し、熱交換器が閉塞する虞がある。そこで、本実施形態に係る液化炭酸ガス昇温設備10のように、凍結温度の低い熱媒体と液化炭酸ガスの熱交換とすることにより、熱交換器の閉塞を防ぐことができる。
【0033】
熱媒体昇温器18では、海水と熱媒体の熱交換を行っている。しかしながら、本実施形態に係る液化炭酸ガス昇温設備10では、熱媒体温度制御部30によって、熱媒体昇温器18の熱媒体入口18aに入力される熱媒体の温度が海水の凍結温度(約-2℃)以上となるように制御しているので、熱媒体昇温器18内で海水の凍結は発生しない。
【0034】
本実施形態に係る液化炭酸ガス昇温設備10では、昇温用熱交換器16に供給される流体は腐食性が低いため、高価なチタンではなく、一般的な鋼鉄を材料として用いることができる。その結果、円筒胴多管式の昇温用熱交換器16のコストを大幅に低減できる。
【0035】
本実施形態に係る液化炭酸ガス昇温設備10において、熱媒体昇温器18は、耐海水腐食性および摩耗性に優れたチタン製プレートを備えるプレート式熱交換器である。チタンを用いるのは耐海水腐食性のためであるが、プレートの厚みは0.4mm~0.7mmと薄いため、チタン製の伝熱管を用いた円筒胴多管式熱交換器と比較して、熱媒体昇温器18は安価である。
【0036】
図3は、本発明の別の実施形態に係る液化炭酸ガス昇温設備40を説明するための図である。図3に示す液化炭酸ガス昇温設備40は、液化炭酸ガス気化用熱交換器42をさらに備える点が図2に示す液化炭酸ガス昇温設備10と異なる。
【0037】
液化炭酸ガス気化用熱交換器42は、円筒胴多管式熱交換器であり、円筒胴および伝熱管はいずれも一般的な鋼鉄製である。熱媒体昇温器18の熱媒体出口18bからの熱媒体の一部は、液化炭酸ガス気化用熱交換器42の管側に供給される。熱媒体は、液化炭酸ガス気化用熱交換器42の管側入口42aに入力され、管側出口42bから出力されてライン34で昇温用熱交換器16からの熱媒体と合流する。一方、液化炭酸ガス気化用熱交換器42の胴側には貯蔵タンク12からの液化炭酸ガスの一部が供給される。液化炭酸ガスは、液化炭酸ガス気化用熱交換器42の胴側入口42cに入力され、熱媒体と熱交換されて気化され、胴側出口42dから出力される。液化炭酸ガス気化用熱交換器42の胴側出口42dから出力された炭酸ガスは、リターンガスとして貯蔵タンク12に供給される。
【0038】
本実施形態に係る液化炭酸ガス昇温設備40においては、液化炭酸ガスの一部を気化させ、リターンがとして貯蔵タンク12に供給することにより、液化炭酸ガスの払い出しによる貯蔵タンク12の圧力低下を防止することができる。
【0039】
具体的な温度を例示して液化炭酸ガス昇温設備40の動作を説明する。ここでは、-20℃、1.97MPaの液化炭酸ガスを0℃、10MPaに昇圧・昇温する場合を考える。熱媒体昇温器18は、例えば7℃の海水と-1℃の熱媒体(エチレングリコール水溶液:凍結温度-23℃)の供給を受け、熱媒体を5℃に昇温する。熱媒体昇温器18により昇温された熱媒体は、ライン33を介して昇温用熱交換器16の胴側入口16cに供給される。昇圧ポンプ14は、-20℃、1.97MPaの液化炭酸ガスを-20℃、10.5MPaに昇圧する。昇温用熱交換器16は、管側入口16aに供給された-20℃、10.5MPaの液化炭酸ガスを、5℃の熱媒体との熱交換により0℃(10.2MPa)に昇温する。-20℃、1.97MPaの液化炭酸ガスの一部は、液化炭酸ガス気化用熱交換器42の胴側入口42cに供給される。液化炭酸ガス気化用熱交換器42は、胴側入口42cに供給された液化炭酸ガスを、管側入口42aに供給された5℃の熱媒体との熱交換により気化し、胴側出口42dから出力する(-20℃、1.97MPa)。-46℃、0.80MPaの液化炭酸ガスを0℃、10MPaに昇圧・昇温する場合は、昇圧ポンプ14の出口が-46℃、10.5MPa、液化炭酸ガス気化用熱交換器42の胴側出口42dが-46℃、0.80MPaとなり、それ以外の箇所の温度、圧力は同じである。
【0040】
以上、本発明を実施例をもとに説明した。この実施例は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【符号の説明】
【0041】
10,40 液化炭酸ガス昇温設備、 12 貯蔵タンク、 14 昇圧ポンプ、 16 昇温用熱交換器、 18 熱媒体昇温器、 20 海水ポンプ、 22 熱媒体ドラム、 26 制御弁、 28 温度センサ、 30 熱媒体温度制御部、 32 バイパスライン、 42 液化炭酸ガス気化用熱交換器、 100 液化CO2輸送船。
図1
図2
図3