(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023004199
(43)【公開日】2023-01-17
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂、その製造方法、ジヒドロキシ化合物、それらを用いたエポキシ樹脂組成物及び硬化物
(51)【国際特許分類】
C07F 9/6558 20060101AFI20230110BHJP
C08G 59/06 20060101ALI20230110BHJP
C08G 59/30 20060101ALI20230110BHJP
C07F 9/655 20060101ALI20230110BHJP
【FI】
C07F9/6558 CSP
C08G59/06
C08G59/30
C07F9/655
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021105749
(22)【出願日】2021-06-25
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100088203
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100100192
【弁理士】
【氏名又は名称】原 克己
(74)【代理人】
【識別番号】100198269
【弁理士】
【氏名又は名称】久本 秀治
(72)【発明者】
【氏名】梶 正史
(72)【発明者】
【氏名】スレスタ ニランジャン
(72)【発明者】
【氏名】大神 浩一郎
【テーマコード(参考)】
4H050
4J036
【Fターム(参考)】
4H050AA01
4H050AA02
4H050AA03
4H050AB46
4H050AC40
4J036AC01
4J036AC09
4J036AC20
4J036DA01
4J036DB10
4J036DD07
4J036FB07
4J036JA06
4J036JA07
4J036JA08
(57)【要約】
【課題】良好な難燃性を有し、かつ耐熱性、耐湿性等にも優れた硬化物を得ることができ、積層、成形、注型、接着等の用途に有用なエポキシ樹脂及びジヒドロキシ化合物を提供することにある。
【解決手段】 下記一般式(1)、
【化1】
(ここで、X
1およびX
2はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1~9のアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アラルキル基又はハロゲン原子を示し、Aは独立して二価の芳香族基であり、mは0.1~20の数、nは0~50の数を示す。)
で表されることを特徴とするエポキシ樹脂。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)、
【化1】
(ここで、X
1およびX
2はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1~9のアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アラルキル基又はハロゲン原子を示し、Aは独立して二価の芳香族基であり、mは0.1~20の数、nは0~50の数を示す。)
で表されることを特徴とするエポキシ樹脂。
【請求項2】
一般式(1)において、Aが、ナフチレン基、または下記一般式(3)、
【化2】
(ここで、Bは単結合、酸素原子、硫黄原子、-SO
2-、-CO-、-CH
2-、-CH(CH
3)-、-C(CH
3)
2-、-CH(φ)-、-Cφ(CH
3)-、1,1-シクロアルカン基、9,9-フルオレニル基を示す。ここでφはフェニレン基を示す。R
1~R
4はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子または炭素数1~9の炭化水素基を示し、pは0~2の数を示す。)
で表される二価の芳香族基である請求項1に記載のエポキシ樹脂。
【請求項3】
下記一般式(2)、
【化3】
(ここで、X
1、X
2、Aおよびmは、式(1)と同義である。)
で表されることジヒドロキシ化合物とエピクロルヒドリンを反応させることを特徴とする請求項1に記載のエポキシ樹脂の製造方法。
【請求項4】
下記一般式(2)、
【化4】
(ここで、X
1およびX
2はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1~9のアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アラルキル基又はハロゲン原子を示し、Aは独立してナフチレン基または下記一般式(4)で表される二価の芳香族基であり、mは0.1~20の数、nは0~50の数を示す。)
【化5】
(ここで、Bは単結合、酸素原子、硫黄原子、-SO
2-、-CO-、-CH
2-、-CH(CH
3)-、-C(CH
3)
2-、-CH(φ)-、-Cφ(CH
3)-、1,1-シクロアルカン基、9,9-フルオレニル基を示す。ここでφはフェニレン基を示す。R
1~R
3は独立に水素原子、ハロゲン原子または炭素数1~9の炭化水素基を示し、R
5は独立にハロゲン原子または炭素数1~9の炭化水素基であり、pは0~2の数を示す。)
で表されることを特徴とするジヒドロキシ化合物。
【請求項5】
エポキシ樹脂及び硬化剤よりなるエポキシ樹脂組成物において、請求項1に記載のエポキシ樹脂を配合してなるエポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
エポキシ樹脂及び硬化剤よりなるエポキシ樹脂組成物において、請求項4に記載のジヒドロキシ化合物を配合してなるエポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
請求項4または5に記載のエポキシ樹脂組成物を硬化してなる硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性に優れるとともに、耐熱性、耐湿性等にも優れた硬化物を与えるエポキシ樹脂、その前駆体であるジヒドロキシ化合物及びそれらを用いたエポキシ樹脂組成物並びにその硬化物に関するものであり、プリント配線板、半導体封止等の電気電子分野の絶縁材料、炭素繊維複合材料等の分野で好適に使用される。
【背景技術】
【0002】
近年、特に先端材料分野の進歩にともない、より高性能なベース樹脂の開発が求められており、耐熱性、耐湿性等の機能向上に加えて、環境面および安全性向上の観点から、難燃性に優れた樹脂の開発が求められている。また、エポキシ樹脂組成物を調整する際の溶剤溶解性等の取扱性の向上も重要な課題とされている。
【0003】
しかしながら、従来より知られているエポキシ樹脂には、これらの要求を十分に満足するものは未だ知られていない。例えば、例えば、特許文献1および特許文献2には、特定のリン化合物をエポキシ樹脂と反応させて得られるリン系エポキシ樹脂が提案されているが、耐熱性、耐湿性の点で十分ではなかった。また、特許文献3には、主鎖にリン酸エステル構造を持つエポキシ樹脂およびそれを用いたエポキシ樹脂組成物が提案されているが、リン酸エステル部位の極性の高さから耐湿性の点で十分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平04-11662号公報
【特許文献2】特開平11-279258号公報
【特許文献3】特開2018-90815号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、良好な難燃性を有するとともに、耐熱性、耐湿性等にも優れた硬化物を得ることができ、積層、成形、注型、接着等の用途に有用なエポキシ樹脂およびその前駆体であるジヒドロキシ化合物、更にはその製造方法並びにそれらを用いたエポキシ樹脂組成物、更にはそれらの硬化物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は下記一般式(1)で表される新規エポキシ樹脂である。
【化1】
(ここで、X
1およびX
2はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1~9のアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アラルキル基又はハロゲン原子を示し、Aは独立して二価の芳香族基であり、mは0.1~20の数、nは0~50の数を示す。)
【0007】
また、本発明は下記一般式(2)で表されるジヒドロキシ樹脂とエピクロルヒドリンを反応させることを特徴とする上記エポキシ樹脂の製造方法である。
【化2】
(ここで、X
1、X
2、Aおよびmは、式(1)と同義である。)
【0008】
また、本発明は一般式(2)において、Aが下記一般式(4)、
【化3】
(ここで、R
1は独立にハロゲン原子または炭素数1~9の炭化水素基であり、R
1~R
3はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子または炭素数1~9の炭化水素基を示し、R
5は独立にハロゲン原子または炭素数1~9の炭化水素基であり、pは0~2の数を示す。)
で表されるジヒドロキシ化合物である。
【0009】
さらに、本発明は上記一般式(1)のエポキシ樹脂または、上記一般式(2)のジヒドロキシ化合物をエポキシ樹脂成分中のエポキシ樹脂または、硬化剤成分中の硬化剤の必須成分として配合してなるエポキシ樹脂組成物であり、また、これらのエポキシ樹脂組成物を硬化してなる硬化物である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のリン原子を含有するエポキシ樹脂またはジヒドロキシ化合物を必須成分として含むエポキシ樹脂組成物を硬化して得られる硬化物は良好な難燃性を有するとともに、耐熱性、耐湿性等にも優れた性能を有し、積層、成形、注型、接着等の用途に好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1で得られたジヒドロキシ化合物AのGPCチャートを示す。
【
図2】実施例1で得られたジヒドロキシ化合物AのIRスペクトルを示す。
【
図3】実施例2で得られたエポキシ樹脂AのGPCチャートを示す。
【
図4】実施例2で得られたエポキシ樹脂AのIRスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のエポキシ樹脂は、一般式(1)で表される。
【化4】
ここで、X
1およびX
2はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1~9のアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アラルキル基又はハロゲン原子を示し、Aは独立して二価の芳香族基であり、mは0.1~20の数、nは0~50の数を示す。好ましくは、X
1、X
2は、水素原子、炭素数1~4のアルキル基または炭素数6~9のアリール基である。
【0013】
一般式(1)において、Aは独立に二価の芳香族基を示す。二価の芳香族基としては、ナフチレン基、または下記式(3)で表される芳香族基を挙げることができる。
【化5】
ここで、Bは単結合、酸素原子、硫黄原子、-SO
2-、-CO-、-CH
2-、-CH(CH
3)-、-C(CH
3)
2-、-CH(φ)-、-Cφ(CH
3)-、1,1-シクロアルカン基、9,9-フルオレニル基を示す。ここでφはフェニレン基を示す。R
1~R
4は、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子または炭素数1~9の炭化水素基を示し、pは0~2の数を示す。好ましくは、R
1~R
4は、水素原子、炭素数1~4のアルキル基または炭素数6~9のアリール基である。
【0014】
一般式(1)において、mは平均の繰り返し数を示し、0.1~20であるが、好ましくは0.5~15であり、より好ましくは1~10である。本発明のジヒドロキシ化合物は、分子量分布を持たない単一の化合物であってもよいし、分子量分布を持った混合物であってもよい。
【0015】
nは繰り返し数であり、0から50の数を表す。繰り返し数の異なる複数の化合物の混合物である場合は、nの平均値(Σn/Σ分子数)が0から50の範囲にあるものである。好ましいnの値又はその平均値は、適用する用途に応じて異なる。例えば、フィラーの高充填率化が要求される半導体封止材の用途には、低粘度であるものが望ましく、nの値又はその平均値は0~15、好ましくは0.1~10.0、さらに好ましくは0.1~5.0のものである。通常のエポキシ樹脂は、nが0の化合物が生成し、次にそれが重合してnが1の化合物が生成するというような逐次反応によって得られることが多いが、本発明においてもこのようなエポキシ樹脂を有利に使用することができる。また、プリント配線板等の用途には、高分子量のエポキシ樹脂が好適に使用され、この場合のnの値は、2~50、好ましくは5~50、更に好ましくは、10~40である。
【0016】
本発明のエポキシ樹脂の好ましい重量平均分子量は、400~6,000の範囲であり、より好ましくは400~3,000の範囲である。また、好ましいエポキシ当量は、200~3,000の範囲であり、より好ましくは300~2,000の範囲、特に好ましくは400~1,000の範囲である。これより小さいと、リン原子の含有率が小さく、これに基づく難燃性の効果が小さくなる。これより大きいと、粘度および軟化点が高くなり、エポキシ樹脂組成物の調整が困難になるとともに、成形性が低下する。本発明のエポキシ樹脂は、常温で粘稠な液体であっても粉砕可能な固体であってもよいが、好ましい軟化点は、40~300℃、より好ましくは60~200℃の範囲である。また、加水分解性塩素は好ましくは1000ppm以下、より好ましくは500ppm以下である。
【0017】
本発明のジヒドロキシ化合物は、一般式(2)で表される。
【化6】
ここで、X
1、X
2、Aおよびmは、式(1)と同義である。
【0018】
一般式(2)において、Aはナフチレン基または一般式(4)で表される二価の芳香族基であり、
【化7】
好ましくは、一般式(5)で表されるジヒドロキシ化合物である。
【化8】
ここで、式(4)、(5)において、X
1、X
2、pおよびmは一般式(1)と同義、B、R
1~R
3およびpは一般式(3)と同義であるが、R
5は独立にハロゲン原子または炭素数1~9の炭化水素基である。なお、耐湿性向上の観点から、R
1およびR
2はメチル基であることが好ましい。
【0019】
本発明のジヒドロキシ化合物の好ましい水酸基当量は200~5,000g/eq.であるが、より好ましくは300~2,000g/eq.の範囲である。これより小さいとリン原子の含有率が小さくなり難燃性が低下する。これより大きいと、粘度および軟化点が高くなり、樹脂としての取扱性が低下する。好ましい軟化点は200℃以下、より好ましくは150℃以下である。軟化点が150℃以下の場合の好ましい150℃での溶融粘度は10Pa・s以下、より好ましくは5Pa・s以下である。
【0020】
本発明のジヒドロキシ化合物は、好ましくは、下記一般式(6)、
【化9】
ここで、R
1~R
3、R
5、B、pは、式(4)と同義である。
で表されるビスフェノール類と二塩化フェニルホスホン酸とを反応させることにより合成することができる。
【0021】
ビスフェノール化合物としては、具体的には、3,3’,5,5’-テトラメチル-4,4’-ジヒドロキシビフェニル、3,3’,5,5’-テトラメチル-4,4’-ジヒドロキシジフェニルメタン、3,3’,5,5’-テトラメチル-ビスフェノールA、3,3’,5,5’-テトラメチル-4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、3,3’,5,5’-テトラメチル-4,4’--ジヒドロキシベンゾフェノン、3,3’,5,5’-テトラメチル-4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン等が挙げられる。これらのビスフェノール類は、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0022】
ビスフェノール化合物と二塩化フェニルホスホン酸の反応においては、二塩化フェニルホスホン酸に対して過剰量のビスフェノール化合物が使用される。二塩化フェニルホスホン酸の使用量は、ビスフェノール化合物1モルに対して0.1~0.9モルの範囲であるが、好ましくは、0.1~0.6モルの範囲である。これより多いと樹脂の軟化点が高くなり成形作業性に支障をきたす。また、これより少ないと反応終了後、過剰に用いたビスフェノール化合物の量が多くなる。残った過剰量のビスフェノール化合物は、取り除くことなく、そのままエポキシ樹脂の原料または硬化剤として使用できるが、式(2)におけるmが1以上の化合物の含有量が少なくなるため、リンの含有率が低くなり、難燃性の効果が低下する。
【0023】
この反応は無触媒下で反応させることができるが、塩基性触媒の存在下で行ってもよい。この場合、塩基性触媒としては、三級アミン化合物、四級アンモニウム化合物、イミダゾール化合物、三級ホスフィン化合物、四級ホスホニウム化合物、および水酸化アルカリ金属化合物、水酸化アルカリ土類金属化合物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を使用することができる。
この反応にあたり脱水のために、乾燥剤を使用してもよく、例えば、金属ハロゲン化物などの無水無機塩を使用することができる。
【0024】
これら塩基性触媒はそれぞれ単独、あるいは水または溶媒にあらかじめ溶解させておき、しかる後に反応系内に投入してもよい。塩基性触媒の使用割合は、芳香族ジヒドロキシ化合物のフェノール性水酸基1モルに対して、通常0.001~10モル%、好ましくは0.05~5モル%である。
【0025】
通常、この反応は10~250℃で1~20時間行う。更に、反応溶媒として、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等のアルコール類や、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性溶媒等を使用することができる。
【0026】
反応終了後、場合により、中和、水洗等の方法により、副生物等を除去し、必要に応じて残存する溶媒を水洗、減圧留去等の方法により系外に除き、ジヒドロキシ化合物とする。中和剤としては、例えば、水酸化アルカリ(土類)金属化合物などが挙げられる。未反応のビスフェノール化合物は、水洗、減圧留去等の方法により系外に除いてもよいし、除かなくてもよい。
【0027】
本発明のエポキシ樹脂の製法は、特に限定されるものではないが、一般式(12)で表されるジヒドロキシ化合物とエピクロルヒドリンを反応させることにより製造することができる。この反応は、通常のエポキシ化反応と同様に行うことができる。
【0028】
例えば、一般式(2)で表されるジヒドロキシ化合物を過剰のエピクロルヒドリンに溶解した後、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物の存在下に、50~150℃、好ましくは、60~120℃の範囲で1~10時間反応させる方法が挙げられる。この際、アルカリ金属水酸化物の使用量は、ジヒドロキシ化合物中の水酸基1モルに対して0.8~2モル、好ましくは0.9~1.2モルの範囲である。また、エピクロルヒドリンはジヒドロキシ化合物中の水酸基に対して過剰に用いられるが、通常、ジヒドロキシ化合物中の水酸基1モルに対して、1.5~15モル、好ましくは2~8モルの範囲である。また、反応の際、四級アンモニウム塩等を添加することができる。四級アンモニウム塩としては、たとえばテトラメチルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロライド等があり、その添加量としては、ジヒドロキシ化合物に対して、0.1~2.0wt%の範囲が好ましい。これより少ないと四級アンモニウム塩添加の効果が小さく、これより多いと難加水分解性塩素の生成が多くなり、高純度化が困難になる。更には、ジメチルスルホキシド、ジグライム等の極性溶媒を用いても良く、その添加量は、ジヒドロキシ化合物に対して、10~200wt%の範囲が好ましい。これより少ないと添加の効果が小さく、これより多いと容積効率が低下し経済上好ましくない。反応終了後、過剰のエピクロルヒドリンを留去し、残留物をトルエン、メチルイソブチルケトン等の溶剤に溶解、濾過した後、水洗して無機塩を除去し、次いで溶剤を留去することにより目的のエポキシ樹脂を得ることができる。
【0029】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂及び硬化剤よりなり、エポキシ樹脂成分として一般式(1)で表されるエポキシ樹脂を必須成分として配合したものである。
【0030】
一般式(1)で表されるエポキシ樹脂を必須成分とする場合の硬化剤としては、一般にエポキシ樹脂の硬化剤として知られているものはすべて使用できる。例えば、ジシアンジアミド、多価フェノール類、酸無水物類、芳香族及び脂肪族アミン類等がある。具体的に例示すれば、多価フェノール類としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フルオレンビスフェノール、4,4’-ビフェノール、2,2’-ビフェノール、ハイドロキノン、レゾルシン、ナフタレンジオール等の2価のフェノール類、あるいは、トリス-(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1,2,2-テトラキス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、フェノールノボラック、o-クレゾールノボラック、ナフトールノボラック、ポリビニルフェノール等に代表される3価以上のフェノール類、更にはフェノール類、ナフトール類又は、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フルオレンビスフェノール、4,4’-ビフェノール、2,2’-ビフェノール、ハイドロキノン、レゾルシン、ナフタレンジオール等の2価のフェノール類のホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、p-ヒドロキシベンズアルデヒド、p-キシリレングリコール等の縮合剤により合成される多価フェノール性化合物、等があり、酸無水物としては、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、メチル無水ハイミック酸、無水ナジック酸、無水トリメリット酸等がある。また、アミン類としては、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、m-フェニレンジアミン、p-キシリレンジアミン等の芳香族アミン類、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等の脂肪族アミン類、あるいは一般式(2)で表されるジヒドロキシ樹脂がある。本発明の樹脂組成物には、これら硬化剤の1種又は、2種以上を混合して用いることができる。本発明のジヒドロキシ樹脂を硬化剤として使用する場合、その配合量は、硬化剤全体中、好ましくは5~100wt%の範囲、より好ましくは30~100wt%の範囲である。
【0031】
本発明のエポキシ樹脂組成物には、一般式(1)で表されるエポキシ樹脂以外に、分子中にエポキシ基を2個以上有する通常のエポキシ樹脂をすべて使用できる。例を挙げれば、ビスフェノールA、ビスフェノールS、フルオレンビスフェノール、4,4’-ビフェノール、2,2’-ビフェノール、ハイドロキノン、レゾルシン等の2価のフェノール類、あるいは、トリス-(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1,2,2-テトラキス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、フェノールノボラック、o-クレゾールノボラック等の3価以上のフェノール類、又は、テトラブロモビスフェノールA等のハロゲン化ビスフェノール類から誘導されるグルシジルエーテル化物等がある。これらのエポキシ樹脂は、1種又は、2種以上を混合して用いることができる。 この場合、本発明のエポキシ樹脂の配合量は、エポキシ樹脂全体中、好ましくは5~100wt%の範囲、より好ましくは50~100wt%の範囲である。
【0032】
エポキシ樹脂と硬化剤の配合比率は、エポキシ基と硬化剤中の官能基が当量比で0.8~1.5の範囲であることが好ましい。この範囲外では硬化後も未反応のエポキシ基、又は硬化剤中の官能基が残留する可能性がある。
【0033】
本発明のエポキシ樹脂組成物中には、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテル、ポリウレタン、石油樹脂、インデンクマロン樹脂、フェノキシ樹脂等のオリゴマー又は高分子化合物を適宜配合してもよいし、無機充填剤、顔料、難然剤、揺変性付与剤、カップリング剤、流動性向上剤、等の添加剤を配合してもよい。無機充填剤としては、例えば、球状あるいは、破砕状の溶融シリカ、結晶シリカ等のシリカ粉末、アルミナ粉末、ガラス粉末、又はマイカ、タルク、炭酸カルシウム、アルミナ、水和アルミナ、等が挙げられ、顔料としては、有機系又は、無機系の体質顔料、鱗片状顔料等がある。揺変性付与剤としては、シリコン系、ヒマシ油系、脂肪族アマイドワックス、酸化ポリエチレンワックス、有機ベントナイト系、等を挙げることができる。
更に必要に応じて、従来より公知の硬化促進剤を用いることができる。例を挙げれば、アミン類、イミダゾール類、有機ホスフィン類、ルイス酸等がある。添加量としては、通常、エポキシ樹脂100重量部に対して、0.2~5重量部の範囲である。
また更に必要に応じて、本発明の樹脂組成物には、カルナバワックス、OPワックス等の離型剤、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のカップリング剤、カーボンブラック等の着色剤、三酸化アンチモン等の難燃剤、シリコンオイル等の低応力化剤、ステアリン酸カルシウム等の滑剤等を使用できる。
【0034】
本発明の硬化物は、上記エポキシ樹脂組成物を注型、圧縮成形、トランスファー成形等の方法により、成形加工して得ることができる。成形する際の温度は、通常、120~220℃の範囲である。
【実施例0035】
以下、実施例及び比較例に基づき、本発明を具体的に説明する。
実施例1(ジヒドロキシ化合物の製造)
1Lセパラブルフラスコに3,3’,5,5’-テトラメチル-4,4’-ジヒドロキシジフェニルメタン90.6g、キシレン255g、塩化アルミニウム0.65gを入れ、100℃に昇温した。その後、二塩化フェニルホスホン酸34.8gを1時間かけて追加した。このとき発生した塩酸ガスは水酸化ナトリウム水溶液に吸収させた。その後、130℃に昇温し8時間反応させた。70℃まで冷却してキシレン125gを加えた後、10wt%塩酸水32gを添加して1時間撹拌させた。その後、蒸留水45gを加えて静置し水層を分離した。得られた反応液を45gの水で3回水洗を行った後、油相から減圧下でキシレンを除去し、固形樹脂(ジヒドロキシ化合物A)112gを得た。水酸基当量は399g/eq.、150℃での溶融粘度は0.67Pa・s、軟化点は116℃であった。GPCチャートを
図1、赤外吸収スペクトルを
図2に示す。
ここで水酸基当量は、塩化アセチル溶液中で、水酸化カリウムによる電位差滴定を行うことにより測定した。GPC測定は、装置:HLC-8320(東ソー(株)製)及びカラム:TSKgel SuperHZ2500×2本及びTSKgel SuperHZ2000×2本(何れも東ソー(株)製)を用い、溶媒:テトラヒドロフラン、流速:0.35ml/分、温度:40℃、検出器:RIの条件で行った。赤外吸収スペクトルは日本分光製、FT/IR-6100型赤外吸収分析計を用いてKBr錠剤法により測定した。溶融粘度の測定は、ICIコーンプレート粘度計により行った。
【0036】
実施例2(エポキシ樹脂の合成)
参考例1で得たジヒドロキシ化合物A45gをエピクロルヒドリン210g及びジグライム42gに溶解し、減圧下(約130mmHg)、65℃にて48.6%水酸化ナトリウム水溶液9.8gを4時間かけて滴下した。この間、生成する水はエピクロルヒドリンとの共沸により系外に除き、留出したエピクロルヒドリンは系内に戻した。滴下終了後、更に1時間反応を継続した。その後、エピクロルヒドリン及びジグライムを減圧留去し、メチルイソブチルケトン200mLに溶解した後、濾過により生成した塩を除いた。その後、48.8%水酸化カリウム水溶液0.4gを加え、80℃で2時間反応させた。反応後、濾過、水洗を行った後、溶媒であるメチルイソブチルケトンを減圧留去し、黄褐色のエポキシ樹脂49gを得た(エポキシ樹脂A)。得られたエポキシ樹脂Aの軟化点は72℃、エポキシ当量は452g/eq.、加水分解性塩素は280ppmであった。エポキシ樹脂AのGPCチャートを
図3、赤外吸収スペクトルを
図4に示す。
ここでエポキシ当量は、臭化テトラエチルアンモニウムの酢酸溶液中で、過塩素酸による電位差滴定を行うことにより測定した。加水分解性塩素は、樹脂試料0.5gを1,4-ジオキサン30mlに溶解させたものを1N-KOH/メタノール溶液5mlで30分間煮沸還流したものを、硝酸銀溶液で電位差滴定を行うことにより求めた。
【0037】
実施例3、4及び比較例3、4
実施例2で合成したエポキシ樹脂(エポキシ樹脂A)、フェノールノボラック型エポキシ樹脂(エポキシ樹脂B:日鉄ケミカル&マテリアル製、YDPN-638、エポキシ当量221)、ビフェニル系エポキシ樹脂(エポキシ樹脂C:三菱化学製、YX-4000H、エポキシ当量193)、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ樹脂D:日鉄ケミカル&マテリアル製、YD-128、エポキシ当量189)、実施例1で合成したジヒドロキシ化合物(硬化剤A)、フェノールノボラック(硬化剤B;アイカ工業製、BRG-557、水酸基当量104、軟化点83℃)を用い、硬化促進剤としてトリス(p-メトキシフェニル)ホスフィン(TMP)を用いて、表1に示す配合で樹脂組成物とした。
これを用いて成形(150℃、5分)した後、ポストキュア(175℃、4時間)を行って試験片を得て、種々の物性試験に供した。試験方法は、以下のとおり。結果を表1に示す。
【0038】
[評価]
(1)線膨張係数、ガラス転移温度
日立ハイテクサイエンス製TMA7100型熱機械測定装置を用いて、昇温速度10℃/分にて測定した。
(2)残炭率
日立ハイテクサイエンス製TG/DTA7300型熱重量測定装置により、窒素気流下、昇温速度10℃/分の条件にて700℃での残炭率を求めた。
(3)吸水率
直径50mm、厚さ3mmの円盤を成形し、ポストキュア後、85℃、相対湿度85%の条件で100時間吸湿させた後の重量変化率とした。
(4)難燃性(燃焼時間)
球状シリカ(平均粒径、18μm)を84wt%充填した組成物を用いて、厚さ1/16インチの試験片を成形し、UL94V-0規格によって評価し、n=5の試験での合計燃焼時間(秒)で表した。
【0039】