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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023042133
(43)【公開日】2023-03-27
(54)【発明の名称】海中音響測位システム
(51)【国際特許分類】
   G01S 5/30 20060101AFI20230317BHJP
   G01S 5/20 20060101ALI20230317BHJP
【FI】
G01S5/30
G01S5/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021149265
(22)【出願日】2021-09-14
(71)【出願人】
【識別番号】504145308
【氏名又は名称】国立大学法人 琉球大学
(71)【出願人】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(71)【出願人】
【識別番号】595048968
【氏名又は名称】株式会社OKIコムエコーズ
(71)【出願人】
【識別番号】521405414
【氏名又は名称】合同会社長右衛門
(71)【出願人】
【識別番号】501407160
【氏名又は名称】株式会社マグナデザインネット
(74)【代理人】
【識別番号】100152180
【弁理士】
【氏名又は名称】大久保 秀人
(72)【発明者】
【氏名】和田 知久
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 大作
(72)【発明者】
【氏名】河守 章好
(72)【発明者】
【氏名】中川 重夫
(72)【発明者】
【氏名】當眞 聡
【テーマコード(参考)】
5J083
【Fターム(参考)】
5J083AA03
5J083AB08
5J083AC32
5J083AD01
5J083AD04
5J083AD17
5J083AE03
5J083AF15
5J083AF17
5J083AF19
5J083BA12
5J083BA20
(57)【要約】
【課題】本発明は、海上の船とする第1基準点と、その船が牽引するブイとする第2基準点の計2点だけで、海中を潜航するAUV等の従属装置の水中座標を測定する。
【解決手段】海中音響測位システムは、測位地点の基準となる、水上に位置する第1基準点及び第2基準点の2つの基準点と、水中を航走する2以上の従属装置と、からなり、従属装置が、各基準点が音響信号を送信した送信時刻と、各従属装置が音響信号を受信した受信時刻をもとに、第1基準点と各従属装置間の距離、各従属装置間の距離、第2基準点と各従属装置間の距離、各従属装置間の距離、を計算する距離計算工程と、各基準点から受信した絶対座標と、深度センサーが測定した潜航深度と、トランスデューサーが検知した他の従属装置から送信された音響信号の到来方向と、から従属装置の水中座標を決定する水中座標決定工程と、を実行することで、各従属装置の水中座標を測定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測位地点の基準となる、水上に位置する第1基準点及び第2基準点の2つの基準点と、
水中を航走する2以上の従属装置と、
からなり、

第1基準点及び第2基準点は、
従属装置に向けて音響信号を送信する信号送信手段と、
地球上の絶対座標を測定する座標測定手段と、
従属装置に向けて送信する音響信号の送信時刻を測定する送信時刻測定手段と、
測定した絶対座標及び送信時刻を従属装置に送信する測定情報送信手段と、
を備えており、

従属装置は、
他の従属装置に向けて音響信号を送信する信号送信手段と、
各基準点から送信された絶対座標及び送信時刻を受信する測定情報受信手段と、
2以上の素子が独立して、他の従属装置が送信した音響信号を受信し、受信時刻の差から、他の従属装置から送信された音響信号の到来方向を検知できるトランスデューサーと、
水圧により従属装置の潜航深度を計測する深度センサーと、
受信した音響信号の受信時刻を測定する受信時刻測定手段と、
受信した送信時刻と、測定した受信時刻をもとに、第1基準点と各従属装置間、第2基準点と各従属装置間、各従属装置間のそれぞれの距離を計算する距離計算手段と、
を備えている構成において、

従属装置が、
各基準点が音響信号を送信した送信時刻と、
各従属装置が音響信号を受信した受信時刻をもとに、
第1基準点と各従属装置間の距離、及び、各従属装置間の距離と、
第2基準点と各従属装置間の距離、及び、各従属装置間の距離と、
を計算する距離計算工程と、
各基準点から受信した絶対座標と、
深度センサーが測定した潜航深度と、
トランスデューサーが検知した他の従属装置から送信された音響信号の到来方向と、
から従属装置の水中座標を決定する水中座標決定工程と、
を実行することで、

各従属装置の水中座標を測定できる
ことを特徴とする海中音響測位システム。

【請求項2】
測位地点の基準となる、水上に位置する第1基準点及び第2基準点の2つの基準点と、
水中を航走する2以上の従属装置と、
からなり、

第1基準点及び第2基準点は、
従属装置に向けて音響信号を送信する信号送信手段と、
地球上の絶対座標を測定する座標測定手段と、
従属装置に向けて送信する音響信号の送信時刻を測定する送信時刻測定手段と、
測定した絶対座標及び送信時刻を従属装置に送信する測定情報送信手段と、
を備えており、

従属装置は、
他の従属装置に向けて音響信号を送信する信号送信手段と、
各基準点から送信された絶対座標及び送信時刻を受信する測定情報受信手段と、
2以上の素子が独立して、他の従属装置が送信した音響信号を受信し、受信時刻の差から、他の従属装置から送信された音響信号の到来方向を検知できるトランスデューサーと、
水圧により従属装置の潜航深度を計測する深度センサーと、
受信した音響信号の受信時刻を測定する受信時刻測定手段と、
受信した送信時刻と、測定した受信時刻をもとに、第1基準点と各従属装置間、第2基準点と各従属装置間、各従属装置間のそれぞれの距離を計算する距離計算手段と、
を備えている構成において、

従属装置が、
各基準点が音響信号を送信した送信時刻と、
各従属装置が音響信号を受信した受信時刻をもとに、
第1基準点と各従属装置間の距離、及び、各従属装置間の距離と、
第2基準点と各従属装置間の距離、及び、各従属装置間の距離と、
を計算する距離計算工程と、
各基準点から受信した絶対座標と、
深度センサーが測定した潜航深度と、
トランスデューサーが検知した他の従属装置から送信された音響信号の到来方向と、
から従属装置の水中座標を決定する水中座標決定工程と、
を実行するとともに、

前記の距離計算工程が、
2以上の従属装置ごとに、
左辺に記載した、
1の従属装置が音響信号1~nを受信した各受信時刻の測定値nのn×1行列と、
右辺に記載した、
第1項の、
n×n正方行列と、
従属装置間の距離のn×1行列と、
の積に、
第2項の、
従属装置が送信する音響信号の遅延時間を並べたn×1行列
の和
を示す関係式を、
逆行列が存在する条件で、
従属装置の数だけ、
行列を用いて算出することで、

各従属装置の水中座標を測定できる
ことを特徴とする海中音響測位システム。
【請求項3】
第1基準点が従属装置に向けて送信する音響信号が、
時間とともに周波数が一定の速度で変化するチャープ信号である
ことを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の海中音響測位システム。
【請求項4】
第2基準点が従属装置に向けて送信する音響信号が、
従属装置ごとに異なる素数パラメータに対応するZadoff-Chu系列である
ことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の海中音響測位システム。
【請求項5】
水中を航走する2以上の従属装置が、
同数の従属装置の群れからなる従属装置群からなり、
1の従属装置群に対して、
水上に位置する第1基準点及び第2基準点の2つの基準点が1組ずつ
構成されている
ことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の海中音響測位システム。
【請求項6】
測位地点の基準となる、水上に位置する第1基準点及び第2基準点の2つの基準点と、
水中を航走する2以上の従属装置と、
が無線通信手段によって接続されており、

第1基準点及び第2基準点に、
従属装置に向けて音響信号を送信するステップと、
地球上の絶対座標を測定するステップと、
従属装置に向けて送信する音響信号の送信時刻を測定するステップと、
測定した絶対座標及び送信時刻を従属装置に送信するステップと、
を実行させ、

従属装置に、
他の従属装置に向けて音響信号を送信するステップと、
各基準点から送信された絶対座標及び送信時刻を受信するステップと、
トランスデューサーの2以上の素子が独立して、他の従属装置が送信した音響信号を受信し、受信時刻の差から、他の従属装置から送信された音響信号の到来方向を検知するステップと、
深度センサーが水圧により従属装置の潜航深度を計測するステップと、
受信した音響信号の受信時刻を測定するステップと、
受信した送信時刻と、測定した受信時刻をもとに、第1基準点と各従属装置間、第2基準点と各従属装置間、各従属装置間のそれぞれの距離を計算するステップと、
を実行させ、

さらに、従属装置に、
各基準点が音響信号を送信した送信時刻と、
各従属装置が音響信号を受信した受信時刻をもとに、
第1基準点と各従属装置間の距離、及び、各従属装置間の距離と、
第2基準点と各従属装置間の距離、及び、各従属装置間の距離と、
を計算するステップと、
各基準点から受信した絶対座標と、
深度センサーが測定した潜航深度と、
トランスデューサーが検知した他の従属装置から送信された音響信号の到来方向と、
から従属装置の水中座標を決定するステップと、
を実行させることで、

各従属装置の水中座標を測定できる
ことを特徴とする海中音響測位プログラム。
【請求項7】
測位地点の基準となる、水上に位置する第1基準点及び第2基準点の2つの基準点と、
水中を航走する2以上の従属装置と、
が無線通信手段によって接続されており、

第1基準点及び第2基準点に、
従属装置に向けて音響信号を送信するステップと、
地球上の絶対座標を測定するステップと、
従属装置に向けて送信する音響信号の送信時刻を測定するステップと、
測定した絶対座標及び送信時刻を従属装置に送信するステップと、
を実行させ、

従属装置に、
他の従属装置に向けて音響信号を送信するステップと、
各基準点から送信された絶対座標及び送信時刻を受信するステップと、
トランスデューサーの2以上の素子が独立して、他の従属装置が送信した音響信号を受信し、受信時刻の差から、他の従属装置から送信された音響信号の到来方向を検知するステップと、
深度センサーが水圧により従属装置の潜航深度を計測するステップと、
受信した音響信号の受信時刻を測定するステップと、
受信した送信時刻と、測定した受信時刻をもとに、第1基準点と各従属装置間、第2基準点と各従属装置間、各従属装置間のそれぞれの距離を計算するステップと、
を実行させ、

さらに、従属装置に、
各基準点が音響信号を送信した送信時刻と、
各従属装置が音響信号を受信した受信時刻をもとに、
第1基準点と各従属装置間の距離、及び、各従属装置間の距離と、
第2基準点と各従属装置間の距離、及び、各従属装置間の距離と、
を計算するステップと、
各基準点から受信した絶対座標と、
深度センサーが測定した潜航深度と、
トランスデューサーが検知した他の従属装置から送信された音響信号の到来方向と、
から従属装置の水中座標を決定するステップと、
を実行させるにあたり、

前記の
各基準点が音響信号を送信した送信時刻と、
各従属装置が音響信号を受信した受信時刻をもとに、
第1基準点と各従属装置間の距離、及び、各従属装置間の距離と、
第2基準点と各従属装置間の距離、及び、各従属装置間の距離と、
を計算するステップが、
2以上の従属装置ごとに、
左辺に記載した、
1の従属装置が音響信号1~nを受信した各受信時刻の測定値nのn×1行列と、
右辺に記載した、
第1項の、
n×n正方行列と、
従属装置間の距離のn×1行列と、
の積に、
第2項の、
従属装置が送信する音響信号の遅延時間を並べたn×1行列
の和
を示す関係式を、
逆行列が存在する条件で、
従属装置の数だけ、
行列を用いて算出することで、

各従属装置の水中座標を測定できる
ことを特徴とする海中音響測位プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海面に設置した基準点からの音響信号を用いて、海中を潜航するAUV(autonomous underwater vehicle)等の海中物体の絶対位置を計測するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、海中を潜航する海中物体の絶対位置を計測する方法は、絶対値を把握できる3点以上の基準点からの距離を測定しなければ、海中物体の絶対位置を計測することができなかった。
例えば、特許文献1には、海上船が3台、海中AUVが1台である場合に、海上を航行する水上艇が、海中を潜航する水中航走体の位置を取得し、水中航走体を見失わないように水中航走体の位置情報を取得する水中測位方法が開示されている。
【0003】
また、従来方法として、海中に設置された3つの基準点によって、LBL(ロングべ―スライン)方式による測位すなわち地球絶対座標を把握する方法(図22)が知られている。
T1、T2、T3は、海中に設けられた基準点であり、地球絶対座標は既知であるため、T1、T2、T3からの距離R1、R2、R3を測定することで、潜水艦Mの絶対座標を計算することができる。
この方法は、いわゆる三角測量法であり、基準点が3点以上あれば、潜水艦の位置を一義に決定することが可能になる。
【0004】
また、3つの基準点による測量法を用いない別の従来方法として、慣性航行装置を用いる方法が知られている。
これは、AUVの初期位置を計測後、AUVの移動速度や移動方向を計測し続けながら、時間積分することで、初期位置からの変位を計算し、AUVの現在位置をモニターする方法である。
これと同じように、海上の船から海底に向かって音響信号(ドップラーソナー)を送信し、その反射信号を計測することで、船の移動速度を計測する方法(図23)が知られているが、上記した慣性潜航装置への入力として利用できる。
【0005】
しかし、特許文献1に開示されている発明のように、3艘の船を使用するとなると、船の航行に必要な人員や燃料などの負担が増えてしまう。
例えば、海上の基準点として、1艘の船と、その船から牽引されるブイの2つを使用するとしても、3つ目の基準点が必要になれば、さらに、もう1艘の船が必要であり、船の潜航に必要な人員や燃料などの負担を減らすことはできない。
これに対し、海中の従属装置の位置を測定するのに必要な海上の基準点を2点のみにすることができれば、船は1艘で足りることになり、実質的には、ブイを牽引する1艘の船だけで計測が可能になるが、海上の基準点を2点のみにして海中の従属装置の位置を測定する方法は、これまで知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-7764公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、海上に設置する基準点を、例えば、海上の船とする第1基準点と、その船が牽引するブイとする第2基準点の計2点だけで、海中を潜航するAUV等の海中物体(以下「従属装置」という。)の絶対位置を計測することができる測位システムを提供することである。
また、同時に、この従属装置を、複数で群れ動作をするAUV等の従属装置群として、複数の従属装置に協力して海中での調査を実施させることで、海中探査や海底地図の作成の効率化を図ることができる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、人工衛星を利用して現在位置を計測する衛星測位システムGNSS(Global Navigation Satellite System)等で絶対座標を把握できる海上に設置された2つの基準点を利用し、その基準点からの距離を音響信号によって計測できる海中を潜航する複数のAUV等の従属装置が、海上の基準点からの音響信号を受信してから一定時間遅れて従属装置間で別の音響信号をやり取りし、各従属装置が深度計によって把握した深度情報によって、海中での絶対座標を計測することを特徴とする海中音響測位システムである。
具体的には、次のとおりである。
【0009】
本発明にかかる海中音響測位システムは、
測位地点の基準となる、水上に位置する第1基準点及び第2基準点の2つの基準点と、
水中を航走する2以上の従属装置と、
からなり、
第1基準点及び第2基準点は、
従属装置に向けて音響信号を送信する信号送信手段と、
地球上の絶対座標を測定する座標測定手段と、
従属装置に向けて送信する音響信号の送信時刻を測定する送信時刻測定手段と、
測定した絶対座標及び送信時刻を従属装置に送信する測定情報送信手段と、
を備えており、
従属装置は、
他の従属装置に向けて音響信号を送信する信号送信手段と、
各基準点から送信された絶対座標及び送信時刻を受信する測定情報受信手段と、
2以上の素子が独立して、他の従属装置が送信した音響信号を受信し、受信時刻の差から、他の従属装置から送信された音響信号の到来方向を検知できるトランスデューサーと、
水圧により従属装置の潜航深度を計測する深度センサーと、
受信した音響信号の受信時刻を測定する受信時刻測定手段と、
受信した送信時刻と、測定した受信時刻をもとに、第1基準点と各従属装置間、第2基準点と各従属装置間、各従属装置間のそれぞれの距離を計算する距離計算手段と、
を備えている構成において、
従属装置が、
各基準点が音響信号を送信した送信時刻と、
各従属装置が音響信号を受信した受信時刻をもとに、
第1基準点と各従属装置間の距離、及び、各従属装置間の距離と、
第2基準点と各従属装置間の距離、及び、各従属装置間の距離と、
を計算する距離計算工程と、
各基準点から受信した絶対座標と、
深度センサーが測定した潜航深度と、
トランスデューサーが検知した他の従属装置から送信された音響信号の到来方向と、
から従属装置の水中座標を決定する水中座標決定工程と、
を実行するとともに、
前記の距離計算工程が、
2以上の従属装置ごとに、
左辺に記載した、
1の従属装置が音響信号1~nを受信した各受信時刻の測定値nのn×1行列と、
右辺に記載した、
第1項の、
n×n正方行列と、
従属装置間の距離のn×1行列と、
の積に、
第2項の、
従属装置が送信する音響信号の遅延時間を並べたn×1行列
の和
を示す関係式を、
逆行列が存在する条件で、
従属装置の数だけ、
行列を用いて算出することで、
各従属装置の水中座標を測定できる
ことを特徴とする。
【0010】
また、本発明にかかる海中音響測位システムは、
測位地点の基準となる、水上に位置する第1基準点及び第2基準点の2つの基準点と、
水中を航走する2以上の従属装置と、
が無線通信手段によって接続されており、
第1基準点及び第2基準点に、
従属装置に向けて音響信号を送信するステップと、
地球上の絶対座標を測定するステップと、
従属装置に向けて送信する音響信号の送信時刻を測定するステップと、
測定した絶対座標及び送信時刻を従属装置に送信するステップと、
を実行させ、
従属装置に、
他の従属装置に向けて音響信号を送信するステップと、
各基準点から送信された絶対座標及び送信時刻を受信するステップと、
トランスデューサーの2以上の素子が独立して、他の従属装置が送信した音響信号を受信し、受信時刻の差から、他の従属装置から送信された音響信号の到来方向を検知するステップと、
深度センサーが水圧により従属装置の潜航深度を計測するステップと、
受信した音響信号の受信時刻を測定するステップと、
受信した送信時刻と、測定した受信時刻をもとに、第1基準点と各従属装置間、第2基準点と各従属装置間、各従属装置間のそれぞれの距離を計算するステップと、
を実行させ、
さらに、従属装置に、
各基準点が音響信号を送信した送信時刻と、
各従属装置が音響信号を受信した受信時刻をもとに、
第1基準点と各従属装置間の距離、及び、各従属装置間の距離と、
第2基準点と各従属装置間の距離、及び、各従属装置間の距離と、
を計算するステップと、
各基準点から受信した絶対座標と、
深度センサーが測定した潜航深度と、
トランスデューサーが検知した他の従属装置から送信された音響信号の到来方向と、
から従属装置の水中座標を決定するステップと、
を実行させるにあたり、
前記の
各基準点が音響信号を送信した送信時刻と、
各従属装置が音響信号を受信した受信時刻をもとに、
第1基準点と各従属装置間の距離、及び、各従属装置間の距離と、
第2基準点と各従属装置間の距離、及び、各従属装置間の距離と、
を計算するステップが、
2以上の従属装置ごとに、
左辺に記載した、
1の従属装置が音響信号1~nを受信した各受信時刻の測定値nのn×1行列と、
右辺に記載した、
第1項の、
n×n正方行列と、
従属装置間の距離のn×1行列と、
の積に、
第2項の、
従属装置が送信する音響信号の遅延時間を並べたn×1行列
の和
を示す関係式を、
逆行列が存在する条件で、
従属装置の数だけ、
行列を用いて算出することで、
各従属装置の水中座標を測定できる
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明にかかる海中音響測位システムによれば、海上に設置する基準点の数を2台に減らすことができ、船の航行に必要な人員や燃料などの負担を減らすことができる。
また、一連の音響信号のやり取りの結果、複数存在する従属装置のそれぞれは、すべての群れを構成するすべての従属装置の絶対位置を計測可能となり、お互いの位置を把握できることで、群れとしての動作を可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】海上の基準点2台と海中の従属装置3台を使用する場合の位置関係を示す図
図2図1の実施例における海上の基準点と海中の従属装置の各基準点間の直線距離を表す図
図3図1の実施例における海上の基準点(BS1)と海中の従属装置とが送受信する音響信号の到達時間を表す図
図4図1の実施例における海上の基準点(BS1)と海中の従属装置とが送受信する音響信号の到達時間を表す図
図5図1の実施例における海上の基準点(BS1)と海中の従属装置とが送受信する音響信号の到達時間を表す図
図6図3の音響信号の送受信から距離を求める行列式
図7図1の実施例における海上の基準点(BS1、BS2)と海中の従属装置とが送受信する音響信号の到達時間を表す図
図8】海上の基準点(BS1)から海中の従属装置に送信されるDL信号と、海中の従属装置間で送受信されるSL信号の一例を表す図
図9図8のDL信号の波形を表す図
図10図8のSL信号の波形を表す図
図11図8のSL信号の波形を表す図
図12】海中の従属装置の信号処理のシステム構成を示す概要図
図13】海中の従属装置1台が海上の基準点から一定距離離れている場合に想定される互いの位置関係を表す図
図14】海中の従属装置3台が海上の基準点から一定距離離れている場合に、海面から海中に向かって見たときに想定される互いの位置関係を表す図
図15】海上の基準点2台と、海中の従属装置3台を3群、使用する場合の位置関係を示す図
図16】海上の基準点2台と、海中の従属装置2台を使用する場合の位置関係を示す図
図17】海上の基準点2台と、海中の従属装置4台を使用する場合の位置関係を示す図
図18図16の実施例における海上の基準点(BS1)と海中の従属装置とが送受信する音響信号の到達時間を表す図
図19図18の音響信号の送受信から距離を求める行列式
図20図17の実施例における海上の基準点(BS1)と海中の従属装置とが送受信する音響信号の到達時間を表す図
図21図20の音響信号の送受信から距離を求める行列式
図22】3つの基準点により測位する従来方法の位置関係を示す図(海洋音響学会編「海洋音響の基礎と応用」第19章236頁掲載図)
図23】海上の船から海底に向かって音波(ドップラーソナー)を送受信することで船の速度を検知する従来方法の実施例を示す図
図24】海中の従属装置が水中座標を決定するまでのプログラムの実行手順を示すフロー図
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、海中音響測位システムの一実施例の構成を示す図であり、海上の基準点2台と海中の従属装置3台を使用する場合の位置関係を示している。
海上の基準点は、第1基準点である船11(BS1)と、第2基準点であるブイ12(BS2)の2つを使用する。
基準点(BS1、BS2)は、いずれも、人工衛星を利用して現在位置を計測する衛星測位システムGNSS(Global Navigation Satellite System)等によって地球上の絶対座標を測定し、測定した絶対座標を海中の従属装置に送信する。
ブイ12(BS2)は、船11(BS1)が牽引するため、船を操作するのは1艘のみで足りる。
この2つの基準点から、海中の従属装置である3台のAUV13(UE1、UE2、UE3)によって構成されるAUV郡14に対して、それぞれの音響信号が送信される。
船11(BS1)及びブイ12(BS2)から送信される、それぞれの音響信号は、どちらの信号であるかが明らかになるように周波数を変えることができるし、同一周波数である場合には、どちらの音響信号であるかが分かるように、船11、ブイ12から、交互に時間をずらして送信することができる。
【0014】
図2は、船11(BS1)、ブイ12(BS2)、AUV13(UE1、UE2、UE3)の計5台のそれぞれの位置関係をもとに、それぞれの直線距離を示した図である。
BS1からUE1、UE2、UE3までのそれぞれの距離をr11、r12、r13で示し、BS2からUE1、UE2、UE3までのそれぞれの距離をr21、r22、r23で示し、UE1、UE2、UE3のそれぞれ間の距離をa、b、cで示している。
【0015】
図3から図5は、UE1、UE2、UE3が、BS1から送信される音響信号と、UE1、UE2、UE3のそれぞれから送信される複数の音響信号とを受信するまでの所要時間を、受信する信号ごとに表した図である。
そのため、図の横軸は、時間軸を表している。
本来は、距離を伝播速度で割って得られた数字が、各音響信号が従属装置に受信されるまでに要した時間であるが、図では、簡単に表すため、距離に対応する時間という意味で、音響信号がBS1からUE1、UE2、UE3のそれぞれに届くまでの時間を、BS1からUE1、UE2、UE3までのそれぞれの距離と同じ「r11」、「r12」、「r13」で示している。
同様に、UE1、UE2、UE3のそれぞれから送信される複数の音響信号が、UE1、UE2、UE3のそれぞれに届くまでの時間を、UE1、UE2、UE3のそれぞれ間の距離と同じ「a」、「b」、「c」で示している。
また、図中の上向きの矢印は「信号を受信した時刻」を測定したタイミングであることを示している。
また、UE1、UE2、UE3は、それぞれから送信される音響信号が重ならないように、あらかじめ決められた時間分だけ遅延して送信する、という設定にしてあるが、その遅延時間は「o1」、「o2」、「o3」・・・で示している。
なお、図3~5には示されていないが、音響信号がBS2からUE1、UE2、UE3のそれぞれに届くまでの時間は、BS2からUE1、UE2、UE3までのそれぞれの距離と同じ「r21」、「r22」、「r23」で示すことができ、図7において示している。
【0016】
BS1が送信した信号Aの先頭位置(送信時)の時刻を基準にして、UE1、UE2、UE3が受信する信号Aの先頭位置(受信時)の時刻を測定することで、r11、r12、r13(いずれも時間)を算出できる。この時間に伝播速度を乗算すれば、r11、r12、r13のそれぞれの距離を算出することができる。
なお、この距離の算出にあたっては、BS1とUE1、UE2、UE3の各従属装置の時刻が完全に同期しているか、UE1、UE2、UE3がBS1による音響信号の送信時刻を知っている必要がある。
そこで、基準点(BS1、BS2)が、従属装置(UE1、UE2、UE3)に送信する音響信号の送信時刻を測定し、その送信時刻を従属装置(UE1、UE2、UE3)に送信する。
これにより、従属装置は、基準点が送信した音響信号の送信時刻を知ることができ、基準点と従属装置の時刻を完全に同期させることができる。
そこで、本実施例では、各基準点BS1(BS2)と各従属装置UE1、UE2、UE3の時刻が完全に同期している前提で説明する。
【0017】
図3をもとに、距離r11、r12、r13、a、b、cの測定方法について、説明する。
四角の枠内に横線が引かれた箇所は、BS1、UE1、UE2、UE3のそれぞれから送信された音響信号を示しており、例えば、BS1は、Aで示された時間に、タイミング検知用としての音響信号Aを送信し、その後、UE1、UE2、UE3のそれぞれは、C、D、E、F、G、H、J、K、Lで示された時間に、データ通信のための音響信号C、D、E、F、G、H、J、K、Lを送信する。
以下、それぞれの時間に送信される音響信号を、信号A、信号C、信号D・・・などと表す。
また、図中の四角の枠内に縦線が引かれた箇所は、UE1、UE2、UE3のそれぞれが音響信号を受信したことを示している。
【0018】
図3のタイミング検知用の音響信号Aは、タイミング検知用の信号であるため、他の信号に比べて長い信号になっており、直交周波数分割多重OFDM方式を用いることを前提としているので「OFDM packet」と示している。
【0019】
UE1は、信号Aを受信した後、あらかじめ決められた時間分(遅延時間o1)だけ遅れて、信号Cを送信している。
同様に、UE2、UE3も、信号Aを受信した後、あらかじめ決められた時間分(遅延時間o2、o3)だけ遅れて、信号D、信号Eをそれぞれ送信している。
図3は、AUV(UE1~UE3)間の距離が短い(互いに近距離に位置する)場合の実施例である。
そのため、UE2は、左から2つ目の上向きの矢印が示されたタイミングで「信号Cを受信した時刻」を測定しているが、信号Cは、UE1が送信した直後に、UE2、UE3によって受信されたことが分かる。
【0020】
BS1から送信された信号Aは、海中の距離r11を伝播してUE1に届く。
そのため、BS1から送信された信号Aが、UE1によって受信されるまでにかかる時間は、距離r11を伝播するのにかかった時間であり、r11(時間)である。
UE1は、UE2、UE3から送信される音響信号と重ならないように、あらかじめ決められた遅延時間o1の後に、信号Cを送信する。
UE1から送信された信号Cは、海中の距離aを伝播してUE2に届く。
そのため、UE1から送信された信号Cが、UE2によって受信されるまでにかかる時間は、距離aを伝播するのにかかった時間であり、a(時間)である。
したがって、UE2が「信号Cを受信した時刻」を測定することで、r11(時間)+遅延時間o1+a(時間)の和を求めることができる。
同様に、UE3が「信号Cを受信した時刻」を測定することで、r11(時間)+遅延時間o1+c(時間)の和を求めることができる。
そして、UE1、UE3のそれぞれが「信号Dを受信した時刻」を測定することで、UE1は、r12(時間)+遅延時間o2+a(時間)の和を求めることができ、UE3は、r12(時間)+遅延時間o2+b(時間)の和を求めることができる。
【0021】
UE2は、信号Dを送信しているが、遅延時間o2が、遅延時間o1よりも長めに設定されている。
これは、各従属装置が送受信する音響信号が衝突しないようにするためである。
その後、UE1は、信号Dおよび信号Eを受信した時刻から、それぞれあらかじめ設定された遅延時間o6、遅延時間o8の時間分だけ遅れたタイミングで信号H、信号Kを送信する。
同様に、UE2、UE3も図に示す遅延時間分だけ遅れたタイミングで各信号を送信する。
【0022】
以上のプロセスを経て、UE1~UE3は、それぞれ、図中の上向きの矢印が示された7つの「信号を受信した時刻」を測定する。
距離を測定したいのは、r11、r12、r13、a、b、cの6つであるため、図3の実施例では、7つの「信号を受信した時刻」を測定しているが、このうち、適切な6つの「信号を受信した時刻」の測定値をもとにすれば、これら6つの距離を求めることができる。
つまり、各UEが6つの信号の受信時刻を測定できると、前述したとおり、BS1が送信した信号Aの先頭位置(送信時)の時刻を基準にして、UE1、UE2、UE3が受信する信号Aの先頭位置(受信時)の時刻を測定することで、r11、r12、r13(いずれも時間)を算出でき、この時間に伝播速度を乗算すれば、距離r11、r12、r13、a、b、cを算出できるようになる。
同様に、第2基準点であるBS2からUE1、UE2、UE3までのそれぞれの距離r21、r22、r23と、UE1~UE3間の距離a、b、cも、BS2から送信された信号の受信時刻と、各UEが受信する6つの信号の受信時刻を測定することで求めることができる。
【0023】
図4は、図3の実施例と比べて、AUV(UE1~UE3)間の距離が長い(互いに少し離れている場所に位置する)場合の実施例を示している。
UE1、UE2、UE3は、遅延時間o1、o2、o3の時間分だけ遅延したタイミングで、それぞれ信号C、D、Eを送信し、UE1は信号D、Eを、UE2は信号C、Eを、UE3は信号C、Dを受信する。
このようにして、UE1からUE3は、互いに音響信号を送受信し合い、各信号の受信時刻を測定することで、図3の実施例で説明したのと同様に、距離r11、r12、r13、a、b、cを算出することができる。
【0024】
図5は、図3の実施例と比べて、AUV(UE1~UE3)が、すべて同じ遅延時間o1の時間分だけ遅延したタイミングで、信号C、D、Eと、信号H、F、Gと、信号K、L、Jを送信した場合の実施例を示している。
UE1は、UE2とUE3とのそれぞれの距離が近い場合、UE2、UE3から送信される信号D、Eを、ほぼ同じタイミングで受信することになるが、信号D、Eを同じタイミングで受信しても、その先頭位置(図中の上向きの矢印)の受信時刻を分離することで、信号の重複受信が可能になる。
特に、この実施例では、信号C、D、Eを送信する遅延時間o1が同じ場合、AUV(UE1~UE3)間で信号を送受信するのにかかる全体の所要時間を短くすることができ、従属装置の絶対位置を早期に測定できる。
【0025】
図6は、図3図5の実施例において測定した受信時刻をもとに、距離r11、r12、r13、a、b、cを求めるための関係式を、行列を用いて示したものである。
海中の従属装置である各AUV(UE1、UE2、UE3)による各信号の受信時刻の測定値を左辺とし、右辺第1項に、関係行列と従属装置間の距離に関するパラメータベクターであるr11、r12、r13、a、b、cの積を、右辺第2項に、送受信の遅延に関するベクターとの和を示す関係式を示している。
また、1段目の行列式は、UE1に関する式であり、左辺のUE1_A、UE1_D、UE1_E、UE1_F、UE1_G、UE1_Jは、図3図5において、UE1が受信した信号A、D、E、F、G、Jの基準時間に対する受信時刻の測定値を意味している。
【0026】
なお、図3図5の実施例において、受信時刻を測定する信号は、A、D、E、F、G、Jのほかに「L」を含めた計7つであるが、このうち、適切な6つの信号の受信時刻の測定値が分かれば、距離r11、r12、r13、a、b、cを求めることができるため、図6の行列式では、信号A、D、E、F、G、Jの6つの受信時刻の測定値を使用する例を示している。
この行列式の右辺に、0(ゼロ)や遅延時間o1~o7までの予め決められた遅延時間の値を入れることで、距離r11、r12、r13、a、b、cを求めることができる。
同様に、2段目の行列式は、UE2に関する式であり、3段目の行列式は、UE3に関する式である。
各行列式を解くことで、距離r11、r12、r13、a、b、cを求めることができる。
【0027】
つまり、2以上の従属装置ごとに、左辺に記載した、1の従属装置が音響信号1~nを受信した各受信時刻の測定値nのn×1行列と、右辺に記載した、第1項の、n×n正方行列と、従属装置間の距離のn×1行列と、の積に、第2項の、従属装置が送信する音響信号の遅延時間を並べたn×1行列の和、を示す関係式を、逆行列が存在する条件で、従属装置の数だけ、行列を用いて算出することで、各基準点が音響信号を送信した送信時刻と、各従属装置が音響信号を受信した受信時刻をもとに、第1基準点と各従属装置間の距離、及び、各従属装置間の距離と、第2基準点と各従属装置間の距離、及び、各従属装置間の距離を算出することができる。
【0028】
同様に、BS2からも信号を送信し、これを受信する各AUV(UE1、UE2、UE3)において、各信号の受信時刻を測定することで、距離r21、r22、r23、a、b、cを求めることができる。
図7に、海上の2つの基準点(BS1、BS2)と、海中の従属装置である各AUVとによって送受信される各信号と、音響信号の到達時間を表す。
例えば、BS1とBS2が1秒間隔で音響信号を送信することを繰り返せば、2秒ごとに、r11、r12、r13、r21、r22、r23の値を、1秒ごとにa、b、cの値を、各UEが算出できることになる。
四角の枠内に横線が引かれた箇所は、送信した信号を示しており、四角の枠内に縦線が引かれた箇所は、受信した信号を示している。
【0029】
図8は、海上の基準点であるBS1から海中の従属装置である各AUV(UE1、UE2、UE3)に送信される信号と、AUV(UE1、UE2、UE3)間で送受信されるSL信号の一例を示すものである。
海上の基準点であるBS1から海中の従属装置である各AUV(UE1、UE2、UE3)に送信される信号は、海中方向に送信される信号であるため、DL(ダウンリンク)信号と表している。
図8のDL信号は、実施例の一例であり、最も左に示された信号Agcは、オート・ゲイン・コントロールの意味であり、受信側での信号入力部のアンプの増幅ゲインを適切な値に調整するための信号を意味している。
信号Aは、図3図5に示した実施例と同じように、距離の測定に用いるタイミング検知用の信号を意味している。
信号Aの送信以後(図中の信号Aよりも右側)は、ダウンリンクで、海上の基準点であるBS1の位置を示す座標情報や、時間情報、または、AUVに対する命令などを送るための通信用の信号を示している。
各信号は、直交周波数分割多重(OFDM)方式を用いることを前提としているので、OFDMの文字で示している。
OFDM信号は、一般的に、信号間にガード・インターバルやサイクリック・プレフィックスと呼ばれる信号を挿入する場合が多いので、OFDM信号の間に、信号Gを挿入して示している。
また、AUV(UE1~UE3)間で送受信する信号として、図3図5の実施例では、C、D、E、F、G、H、J、K、Lの9つの信号を使用した。
このAUV(UE1~UE3)間で送受信される信号をSL(サイドリンク)信号と表し、図8では、SL信号のうちの信号Cを示している。
【0030】
図9は、DL信号の一実施例を示す波形であり、ベースバンド信号処理部分の複素信号として示している。
DL信号は、周波数が変化する信号で、チャープ信号と呼ばれるものである。
海上にある船は、波などによって上下の高さ変動が大きく、また、ドップラー効果の影響も受けるため、周波数変位があった場合でも検知が容易なチャープ信号を用いた実施例として示している。
図10及び図11は、SL信号で、ザドフチュー系列(Zadoff-Chu)系列と呼ばれるものを用いた波形である。
特に、図5の実施例を想定した信号の波形であり、受信時に異なるSL信号を分離検知できるように分離検知特性のよい系列を用いた。
ザドフチュー系列は、素数値に応じて異なる信号を作成できることから、図10は素数値23、図11は素数値67に対応する信号の波形の実施例を示している。
図9図11の各波形は、上段が実数部、下段が虚数部をそれぞれ意味している。
【0031】
以上の実施例から、海上の2つの基準点(BS1、BS2)と、海中の従属装置である各AUV(UE1、UE2、UE3)とによって送受信される音響信号の到達(受信)時刻をもとに、距離r11、r12、r13、r21、r22、r23、a、b、cを算出する方法を説明した。
しかし、海上の第1基準点である船11(BS1)と、海上の第2基準点であるブイ12(BS2)の地球上での絶対座標と、さらに、距離r11、r12、r13、r21、r22、r23、a、b、cを算出できても、これだけでは、各AUVの地球上の絶対座標を得ることはできない。
【0032】
図12は、海中の従属装置であるAUV(UE1、UE2、UE3)の信号処理のシステム構成を示す概要図である。
AUVは、トランスデューサー21を備え、サイドリンク受信時に到来する音響信号の到来方向を検知することができ、深度センサー22も備えている。
AUVには、DL信号の受信、SL信号の送受信、BSに対してモニター信号などを伝送するUL(アップリンク)信号の送信が必要となるが、音響信号の送信や受信を行うトランスデューサー21には、2つの素子A、Bが含まれている。
音響信号の送信時には、A、Bどちらか1つの素子を用いて送信してもよいが、受信時には、2つの素子A、Bがそれぞれ独立して信号を受信し、その受信時間の差で、受信信号の到来方向を推定する。
なお、トランスデューサー21の素子数は、2以上にすることもでき、少なくとも2以上あれば、信号の到来方向を推定できる。
深度センサー22は、水圧によりAUVの潜航深度を計測する。
この到来方向の推定と潜航深度の情報をもとに、2個の地球上の絶対座標(第1及び第2の基準点)からの距離およびAUV間の距離を計測できる。
【0033】
図13は、海上の船(BS1)とブイ(BS2)の距離をもとに想定される1つのAUV(UE1)の位置を表した図である。
海上の船(BS1)とブイ(BS2)のそれぞれからの距離r11、r21から想定される1つのAUV(UE1)の位置は、軌跡81によって表される。
そして、UE1は、深度計から深度情報を得ることで、等深度面82を特定できる。
これにより、UE1は、BS1とBS2からの距離が分かれば、自らの現在位置がUE1aとUE1bのどちらかであることまでを特定できる。
【0034】
図14は、図13と同じように、海上の船(BS1)とブイ(BS2)の距離をもとに想定される3つのAUV(UE1、UE2、UE3)の位置を、海面から海中に向かって見た状況をイメージして表した図である。
UE1、UE2、UE3のそれぞれは、図13と同じように等深度面82にある。
そのため、AUV(UE1、UE2、UE3)間の距離a、b、cと、BS1とBS2からの距離を算出できれば、3つのAUV(UE1、UE2、UE3)の位置は、図14の左右2つの三角形のどちらかの位置にあることまでを決定できる。
【0035】
ここまで特定した後に、各AUVが検知した、音響信号の到来方向の検知結果を利用することで、3つのAUV(UE1、UE2、UE3)の位置が、左右2つのうち、どちらの三角形の位置にあるかを決定することができる。
この決定によって、最終的に、海中の3つのAUV(UE1、UE2、UE3)の位置を一義的に特定することが可能になる。
例えば、図14の上方向が各AUVの進行方向である場合において、UE1がUE2から受信する音響信号が図14の右方向から送られてきたことが分かれば、UE1、UE2、UE3の現在地は、UE1a、UE2a、UE3aからなる三角形の位置にあると決定できる。
これに対し、UE1がUE2から受信する音響信号が図14の左方向から送られてきたことが分かれば、UE1、UE2、UE3の現在地は、UE1b、UE2b、UE3bからなる三角形の位置にあると決定できる。
【0036】
以上の方法によって、海上に設置する第1基準点である1艘の船と、その船から牽引されるブイを海上に設置する第2基準点とし、この2点の基準点だけで、それぞれのAUVが独立に、海中を潜航するAUV3台の絶対位置を特定することができる。
同時に、複数の海中を潜航するAUV等の従属装置群が協力して海中での調査を実施するにあたり、それら従属装置群の現在位置を特定できるため、海中探査や海底地図の作成の効率化を図ることができる。
【0037】
以上の説明と同様の方法で、図15は、海上の基準点であるBS1、BS2に対して、海中を潜航する3台のAUV群14を3群使用して、3台のAUV群14の現在位置を特定する場合の実施例を示す。
各AUV群14のSL信号が、他のAUV群14のSL信号と干渉しないように、例えば、異なるザドフチュー系列を用いる。
また、各AUV群14は、海上の基準点であるBS1、BS2の情報を共用できるので、システムのコスト削減が可能である。
この図15の実施例では、1つのAUV群14を構成するUEの台数は3つであるが、図16のように2台にすることや、図17のように4台にすることもできる。
【0038】
図18は、図3図5及び図7と同じように、図16の実施例における海上の基準装置(BS1)と海中の従属装置2台とが送受信する音響信号の到達時間を表す図である。
四角の枠内に横線が引かれた箇所は、BS1から音響信号が送信されたことを示しており、四角の枠内に縦線が引かれた箇所は、BS1からの音響信号を受信したことを示している。
そして、図19は、図18の実施例における音響信号の送受信から距離を求める行列式を表す。
【0039】
また、図20は、図3図5及び図7と同じように、図17の実施例における海上の基準装置(BS1)と海中の従属装置4台とが送受信する音響信号の到達時間を表す図である。
四角の枠内に横線が引かれた箇所は、BS1から音響信号が送信されたことを示しており、四角の枠内に縦線が引かれた箇所は、BS1からの音響信号を受信したことを示している。
図17の実施例では、UE間の距離がa、b、c、d、e、fの6つになるが、図21に表す音響信号の送受信から距離を求める行列式のように、各UE間で送受信される信号を増やすことで、AUV群14を構成する4台のUEの現在位置を算出できるようになる。
なお、図21の行列式では、図20の四角の枠内に横線が引かれた箇所の送信信号は、計算式では用いていないが、これは、図21で示した行列方程式の10x10の正方行列に逆行列が存在することが、行列方程式が解ける条件となるので、逆行列が存在するように、適切に選択しているためである。
図21の行列式は、10X10の係数行列があるが、逆行列が存在するため、r11、r12、r13、r14、a、b、c、d、e、fの距離を求めることができる。
【0040】
以上の実施例に基づく音響信号の送受信、時間及び距離の測定、水中座標の決定までを、第1基準点である船(BS1)及び第2基準点であるブイ(BS2)に搭載したコンピュータと、水中を潜航するAUVに搭載したコンピュータとによって実現することができ、図24のフロー図に示すプログラムの実行手順のとおり、それぞれのコンピュータに各手順を実行させることで、各AUVが独自に水中座標を決定できる。
また、各AUVは、水中座標以外にも、すべてのAUVが、独自に、経度、緯度、深度を、リアルタイムで得ることができ、水中座標を含む、これらのデータは、海上または地上のサーバーに送信することもできるし、各AUVの記憶装置に集積し、AUVの自動航行を制御するデータとして利用することもできる。
その結果、複数のAUVが、集積した経度、緯度、深度の各測定値をもとに、海底地形を探査し、海底地形図を作成することも可能である。
【0041】
また、複数のAUV群を構成するすべてのAUVが、独自に水中座標(緯度、経度)や深度を得ることができるため、各AUVが互いの位置情報を送受信しながら、お互いの距離を保ちつつ、AUVの自動航行が可能になる。
自動航行を制御するには、一般的に、センサー類で、その航行するAUVの位置、速度、深度、向きなどを計測する必要があるが、特に、本発明では、上記した実施例の手順で、AUVの絶対位置(水中座標)を一定時間間隔で測定できるため、各AUVの速度を、絶対位置(水中座標)の時間変化から計算することができるし、特殊な速度センサーなどを併用することもできる。
進行方向は、地磁気を用いた方位磁石のようなもので計測することが可能である。
センサーによる種々の情報は、ノイズを含むため、ノイズを減らし、真値に近い値を出力するように合成して、AUVの状態(位置、航行方向、航行速度)を把握する。
そして、実際のAUVの位置情報と、あらかじめプログラムされた航行ルートとを比較しながら、あらかじめ設定したルートに沿って航行するように、一定時間間隔で収集した各AUVの情報をもとに、AUVの舵や動力、深度調整などを繰り返し行うことで、自動航行を制御することが可能になる。
【0042】
以上の考え方をもとにすることで、より多くの海中の従属装置である複数のUEからなる複数のAUV群を使用して、海中探査や海底地図の作成の効率化を図ることができ、その場合でも、海上に設置する基準点を2つに留めることができるから、船の潜航に必要な人員や燃料などの負担を減らし、コスト削減を実現できる。
【符号の説明】
【0043】
11 船(海上の第1基準点)
12 ブイ(海上の第2基準点)
13 AUV(海中の従属装置)
14 AUV群(海中の従属装置)
21 トランスデューサー
22 深度計
81 海上の第1基準点である船と海上の第2基準点であるブイのそれぞれからの距離r11、r21から想定されるAUV(UE1)の現在位置の軌跡
82 等深度面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24