(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023004222
(43)【公開日】2023-01-17
(54)【発明の名称】補強構造
(51)【国際特許分類】
E04G 23/02 20060101AFI20230110BHJP
E01D 22/00 20060101ALI20230110BHJP
E21D 11/10 20060101ALI20230110BHJP
B32B 13/14 20060101ALI20230110BHJP
B32B 7/022 20190101ALI20230110BHJP
【FI】
E04G23/02 D
E01D22/00 B
E21D11/10
B32B13/14
B32B7/022
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021105781
(22)【出願日】2021-06-25
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 俊太
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 宣暁
(72)【発明者】
【氏名】吉澤 弘之
(72)【発明者】
【氏名】小森 篤也
【テーマコード(参考)】
2D059
2D155
2E176
4F100
【Fターム(参考)】
2D059GG02
2D059GG39
2D155LA16
2E176AA01
2E176BB27
4F100AE01A
4F100AK01D
4F100AK47C
4F100AK53B
4F100AK53C
4F100AK53D
4F100BA04
4F100BA07
4F100BA10D
4F100DG01C
4F100DG12C
4F100DG15C
4F100DH02C
4F100EC182
4F100EJ65B
4F100JB13B
4F100JB13D
4F100JK06D
4F100JK07D
4F100JK08D
4F100JL11
(57)【要約】
【課題】繊維シートの積層枚数を低減しつつ、コンクリート構造物の補強効果を向上させる。
【解決手段】補強構造10は、コンクリート構造物90の表面90Aに対しプライマー層20、及び樹脂モルタル層50がこの順に形成され、強化繊維42を含む繊維シート40が樹脂モルタル層50に接着された補強層12を有し、樹脂モルタル層50の樹脂モルタル52が、以下の(1)~(3)の条件を満たす。
(1)ヤング率が3000N/mm
2以上であること
(2)破断ひずみが0.5%以上であること
(3)せん断付着強度が0.5N/mm
2以上であること
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物の表面に対しプライマー層、及び樹脂モルタル層がこの順に形成され、強化繊維を含む繊維シートが前記樹脂モルタル層に接着された補強層を有し、
前記樹脂モルタル層の樹脂モルタルが、以下の(1)~(3)の条件を満たす
コンクリート構造物の補強構造。
(1)ヤング率が3000N/mm2以上であること
(2)破断ひずみが0.5%以上であること
(3)せん断付着強度が0.5N/mm2以上であること
【請求項2】
前記繊維シートが前記樹脂モルタル又は樹脂接着剤により前記樹脂モルタル層に接着されている
請求項1に記載のコンクリート構造物の補強構造。
【請求項3】
前記コンクリート構造物に対する前記樹脂モルタルを含む補強層の鉄筋換算補強筋比が0.1%以上である
請求項1又は2に記載のコンクリートの補強構造。
【請求項4】
前記樹脂モルタル層の厚みは、前記樹脂モルタル層で接着される前記繊維シートの積層枚数に2.0mmを乗じた値以上である
請求項1~3のいずれか1項に記載のコンクリート構造物の補強構造。
【請求項5】
前記繊維シートは、前記コンクリート構造物の前記表面からの距離よりも、前記補強層の表面からの距離が短い位置に配置されている
請求項1~4のいずれか1項に記載のコンクリートの補強構造。
【請求項6】
前記繊維シートは、前記強化繊維を含む繊維強化プラスチック線材を複数本、長手方向にスダレ状に引き揃え、該線材を互いに線材固定材にて固定した繊維シートである
請求項1~5のいずれか1項に記載のコンクリートの補強構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、コンクリート構造物、特に無筋コンクリート構造物の補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、我が国のコンクリート構造物は高齢化が進行しており、直ちに対策が必要な構造物も少なくない状況である。特に、無筋コンクリート構造物は,鉄筋コンクリート構造物に比べて耐震性に劣るため,現在は新設されることのない構造形式である。しかしながら、大正~昭和初期を中心に建設された鉄道施設などの無筋コンクリート構造物は現在も数多く供用されていることから、その補強、補修が急務となっている。
【0003】
特許文献1には、強化繊維を含む繊維シートをエポキシ樹脂等による接着剤にてコンクリート構造物へ接着するコンクリート構造物の補強構造が開示されている。
【0004】
また、非特許文献1には、炭素繊維複合材料からなる複数の筋材を格子状に配置して作製されたCFRPグリッドとポリマーセメントモルタルを用いた無筋コンクリート梁の補強とその効果が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】森充広他(2015):グリッド補強した無筋コンクリート梁の曲げ耐力,農業農村工学会大会講演要旨集,698-699.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
CFRPグリッドとポリマーセメントモルタルを用いた補強方法では、CFRPグリッド1層での補強量が限られてしまうといった問題があった。このため、補強材1層あたりにおける補強量がCFRPグリッドよりも大きい繊維シートを用いることが考えられるが、繊維シートをコンクリート構造物にエポキシ樹脂等による接着剤で接着する従来の補強構造では、以下の問題があった。すなわち、繊維シートをコンクリート構造物にエポキシ樹脂等による接着剤で接着する従来の補強構造では、必要な補強量に対して、繊維シートの積層枚数で設計しているが、繊維シートは高価であるため、積層枚数が増えるほどコストが上がるといった問題があった。
【0008】
本発明は、繊維シートの積層枚数を低減しつつ、コンクリート構造物の補強効果を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1態様の補強構造は、コンクリート構造物の表面に対しプライマー層、及び樹脂モルタル層がこの順に形成され、強化繊維を含む繊維シートが前記樹脂モルタル層に接着された補強層を有し、前記樹脂モルタル層の樹脂モルタルが、以下の(1)~(3)の条件を満たす。
(1)ヤング率が3000N/mm2以上であること
(2)破断ひずみが0.5%以上であること
(3)せん断付着強度が0.5N/mm2以上であること
【0010】
第1態様の補強構造によれば、樹脂モルタルが、上記(1)~(3)の条件を満たすため、樹脂モルタル層の断面剛性が向上し、且つ樹脂モルタル層にひび割れが生じにくい。このため、繊維シートの積層枚数だけでなく、繊維シートを接着する樹脂モルタル層の断面剛性を考慮した補強設計を行うことできる。この結果、繊維シートの積層枚数を低減しつつ、コンクリート構造物の補強効果を向上させることができる。
【0011】
第2態様の補強構造は、第1態様の補強構造において、前記繊維シートが前記樹脂モルタル又は前記樹脂接着剤により前記樹脂モルタル層に接着されている。
【0012】
第3態様の補強構造は、第1又は第2態様の補強構造において、前記コンクリート構造物に対する前記樹脂モルタルを含む補強層の鉄筋換算補強筋比が0.1%以上である。
【0013】
第4態様の補強構造では、第1~第3態様のいずれかの補強構造において、前記樹脂モルタル層の厚みは、前記樹脂モルタル層で接着される前記繊維シートの積層枚数に2.0mmを乗じた値以上である。
【0014】
第5態様の補強構造では、第1~第4態様のいずれかの補強構造において、前記繊維シートは、前記コンクリート構造物の前記表面からの距離よりも、前記補強層の表面からの距離が短い位置に配置されている。
【0015】
第6態様の補強構造では、第1~第5態様のいずれかの補強構造において、前記繊維シートは、前記強化繊維を含む繊維強化プラスチック線材を複数本、長手方向にスダレ状に引き揃え、該線材を互いに線材固定材にて固定した繊維シートである。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、上記構成としたので、繊維シートの積層枚数を低減しつつ、コンクリート構造物の補強効果を向上させることができるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本実施形態に係る補強構造を示す断面図である。
【
図2】(A)は、本実施形態に係る繊維シートを示し、(B)は、本実施形態に係る繊維シートの繊維強化プラスチック線材を示す図である。
【
図3】本実施形態に係る繊維シートの他の例を示す斜視図である。
【
図4】本実施形態に係る補強構造において、無筋コンクリート構造物の表面からの距離よりも、補強層の表面からの距離が短い位置に繊維シートを配置した例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明に係る実施形態の一例を図面に基づき説明する。
【0019】
(補強構造10)
本実施形態に係る補強構造10について説明する。
図1は、本実施形態に係る補強構造10を示す断面図である。
【0020】
図1に示される補強構造10は、無筋コンクリート構造物90を補強する構造であり、無筋コンクリート構造物90の剥落等を抑制する。無筋コンクリート構造物90としては、例えば、水路、鉄道及び道路のトンネルの覆工壁、建物、橋梁、及び橋脚などが挙げられる。なお、無筋コンクリート構造物としては、上記の構造物に限られず、補強対象となる無筋コンクリート構造物であればよい。また、内部に鉄筋などを有する有筋コンクリート構造物に対しても本発明の補強構造を適用することもできる。
【0021】
補強構造10は、具体的には、
図1に示されるように、無筋コンクリート構造物90の表面90Aに対し、プライマー層20、及び樹脂モルタル層50が、この順に形成された補強層12を有している。補強層12では、強化繊維42を含む繊維シート40が樹脂モルタル層50に接着されている。
【0022】
(プライマー層20)
プライマー層20は、無筋コンクリート構造物90の表面90Aにプライマーが塗布されることで形成される。プライマー層20は、無筋コンクリート構造物90と、無筋コンクリート構造物90上に形成される層との接合性(接着性)を高める機能を有している。プライマー層20を形成するプライマーには、一例として、エポキシ樹脂等の樹脂が用いられる。当該プライマーとしては、エポキシ樹脂に限られず、例えば、エポキシ樹脂以外の熱硬化性樹脂等の樹脂であってもよく、種々の材料を用いることができる。
【0023】
(繊維シート40)
繊維シート40は、強化繊維42を含むシート材であって、無筋コンクリート構造物90を補強する機能するシート材である。この繊維シート40は、樹脂モルタル層50の内部に配置されている。
【0024】
強化繊維42としては、例えば、アラミド、PBO(ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール)、ポリアミド、ポリアリレート、ポリエステル等の有機繊維、バサルト繊維、炭素繊維、ガラス繊維、鋼繊維等の金属繊維などを一種、又は、複数種混入して使用することができる。なお、強化繊維の一例としては、これらに限られるものではない。
【0025】
具体的には、繊維シート40として、
図2(A)(B)に示されるように、強化繊維42を含む繊維強化プラスチック線材43を複数本、長手方向にスダレ状に引き揃え、該線材43を互いに線材固定材45にて固定した繊維シート(所謂ストランドシート)を用いることができる。繊維強化プラスチック線材43は、
図2(B)に示されるように、強化繊維42にマトリクス樹脂47が含浸され、該マトリクス樹脂47が硬化されることで形成される。
【0026】
なお、繊維シートの一例としては、
図2に示される繊維シート40に限られない。繊維シートの一例としては、例えば、
図3に示される繊維シート140であってもよく、強化繊維を含む繊維シートであればよい。
【0027】
図3に示される繊維シート140は、強化繊維42が一方向(
図3におけるX方向)に配列された繊維層144と、繊維層144を支持する支持層146と、を備えている。支持層146は、繊維層144の片面に配置され、繊維層144を支持するメッシュ状の支持シートで構成されている。この支持層146によって、繊維層144の強化繊維42のばらけが抑制される。なお、支持層146は繊維層144の両面に配置してもよく、強化繊維42のばらけが何らかの方法で抑制されていれば支持層146を有さない構成であってもよい。
【0028】
また、繊維シート40は、強化繊維42が一方向に配列された繊維シートに樹脂を含浸し、前記樹脂が硬化された繊維シート(所謂、FRP板)とすることもできる。このとき、繊維シートに含浸する樹脂は、常温硬化型或いは熱硬化型のエポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂や、現場重合型フェノキシ樹脂、ナイロン、ビニロンなどの熱可塑性樹脂を使用することができ、好適には熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂が使用される。また、繊維シート40への樹脂含浸量は、30~70重量%、好ましくは、40~60重量%とされる。
【0029】
(樹脂モルタル層50)
樹脂モルタル層50は、繊維シート40が接着される層であると共に、無筋コンクリート構造物90を補強する機能を有する層である。樹脂モルタル層50は、例えば、プライマー層20が形成された無筋コンクリート構造物90に対し、硬化前の樹脂モルタル52を塗布(下塗り)し、当該樹脂モルタル52に対し繊維シート40を貼り付け、さらに、硬化前の樹脂モルタル52を繊維シート40上に塗布(上塗り)し、樹脂モルタル52を硬化させることで形成される。
【0030】
樹脂モルタル層50の樹脂モルタル52は、以下の(1)~(3)の条件を満たしている。
(1)ヤング率が3000N/mm2以上であること
(2)破断ひずみが0.5%以上であること
(3)せん断付着強度が0.5N/mm2以上であること
【0031】
樹脂モルタル52のヤング率が3000N/mm2未満であると、樹脂モルタル層50の断面剛性を稼ぐために樹脂モルタルを厚塗りしなければならない。樹脂モルタル52のヤング率は、樹脂モルタル層50の断面剛性向上の観点から、4000N/mm2以上であることが好ましく、5000N/mm2以上であることがさらに好ましい。
【0032】
また、樹脂モルタル52のヤング率は、破断ひずみやせん断付着強度が規定の数値を満たすものであれば、特にその上限については規定されないものの、継手強度確保のため、概ね15000N/mm2以下であることが好ましい。なお、当該ヤング率は、JIS-K7161に準拠した手法により測定される値である。
【0033】
樹脂モルタル52の破断ひずみが0.5%未満であると、樹脂モルタル層50にひび割れが生じやすくなる。樹脂モルタル52の破断ひずみが0.5%未満であると、特に、繊維シート40の無筋コンクリート構造物90からの剥離が生じる以前に、樹脂モルタル層50のひび割れが懸念される。なお、破断ひずみとは、樹脂モルタル52に破断が生じた際のひずみである。
【0034】
樹脂モルタル52の破断ひずみは、樹脂モルタル層50のひび割れ抑制の観点から、1.0%以上であることが好ましく、1.5%以上であることがさらに好ましい。また、樹脂モルタル52の破断ひずみは、ヤング率、せん断付着強度規定の数値を満たすものであれば、特にその上限については規定されないものの、概ね5.0%以下であることが好ましい。なお、当該破断ひずみは、JIS-K7161に準拠した手法により測定される値である。
【0035】
樹脂モルタル52のせん断付着強度が0.5N/mm2未満であると、樹脂モルタル52にひび割れが生じやすくなる。樹脂モルタル52のせん断付着強度が0.5N/mm2未満であると、特に、繊維シート40の無筋コンクリート構造物90からの剥離が生じる以前に、樹脂モルタル層50のひび割れが懸念される。
【0036】
樹脂モルタル52のせん断付着強度は、樹脂モルタル層50のひび割れの抑制の観点から、1.0N/mm2以上であることが好ましく、1.5N/mm2以上であることがさらに好ましい。なお、当該せん断付着強度は、土木学会が規定するJSCE-543-2012「連続繊維シートとコンクリートとの付着強度試験」に準拠した手法により測定される値である。
【0037】
上記の条件を満たす樹脂モルタルとしては、例えば、C1S(日鉄ケミカル&マテリアル製エポキシ樹脂モルタル)が用いられる。
【0038】
樹脂モルタルにて結合剤として使用される樹脂は、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリウレア樹脂などの常温硬化が可能で液状の熱硬化性樹脂が結合剤として好ましく使用され、エポキシ樹脂が特に好ましく使用される。エポキシ樹脂は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂やピスフェールF型エポキシ樹脂が好適に使用し得る。エポキシ樹脂硬化剤は、常温で、エポキシ樹脂と反応硬化するものであれば特に限定されるものではないが、ポリアミン系硬化剤が好ましく、脂肪族ポリアミン若しくは、その変性物が特に好適に使用され、エポキシ樹脂100重量部に対して硬化剤は20~70重量部、好ましくは30~60重量部配合される。
【0039】
骨材については、従来から使用されてきた珪砂や山砂、川砂、海砂などの細骨材や、アルミナやシリカなどの酸化物系セラミックスや、炭化ケイ素や炭化ホウ素などの炭化物系セラミックス、その他ファインセラミックス、ムライトなどの陶磁器質粉砕物や短冊状もしくは短繊維状の強化繊維なども用いることができ、これらを複数種類組み合わせて使用しても良い。骨材の粒径は、1000μm以下(粒度16メッシュ)の微細なものが好ましく、粒径が75μm以下(粒度200メッシュ)のものがより好ましい。
【0040】
結合剤に対する骨材量は、結合剤100重量部に対して50~300重量部であり、好ましくは100~200重量部である。骨材量が50重量部未満であると補強に必要な樹脂モルタルの強度を得ることが出来なくなり、300重量部を超えると過剰な骨材量による樹脂モルタルの流動性が低下して繊維シートへの含浸不足や施工性の悪化を招く。また、樹脂モルタルには、その他の添加剤として、骨材と樹脂の親和性の向上を目的としたシランカップリング材、粘度調整剤、着色剤などを、0.1~8重量部、含むことができる。
【0041】
樹脂モルタル層50の厚みは、樹脂モルタル層50で接着される繊維シート40の積層枚数に2.0mmを乗じた値以上であることが好ましい。したがって、例えば、樹脂モルタル層50にて接着される繊維シート40の積層枚数が2枚である場合には、樹脂モルタル層50の厚みは、4.0mm(2×2.0mm)以上であることが好ましい。また、例えば、樹脂モルタル層50にて接着される繊維シート40の積層枚数が3枚である場合には、樹脂モルタル層50の厚みは、6.0mm(3×2.0mm)以上であることが好ましい。
【0042】
樹脂モルタル層50の厚みは、繊維シート40の積層枚数に2.0mmを乗じた値未満であると、樹脂モルタル層50の断面剛性が低下する。上記値は、樹脂モルタル層50の断面剛性向上の観点から、2mm以上であることが好ましく、5mm以上であることがさらに好ましい。また、上記値は、経済性,積層数及び断面剛性の観点から、30mm以下であることが好ましい。
【0043】
(補強層12における他の条件)
無筋コンクリート構造物90に対する樹脂モルタル52を含む補強層12の鉄筋換算補強筋比は、0.1%以上であることが好ましい。
【0044】
当該鉄筋換算補強筋比は、0.1%未満であると、無筋コンクリート構造物90のひび割れの際に、繊維シート40に破断及び剥離が生じやすくなる。当該鉄筋換算補強筋比は、繊維シート40の破断及び剥離の抑制の観点から、0.2%以上であることが好ましく、0.5%以上であることがさらに好ましい。
【0045】
また、当該鉄筋換算補強筋比は、特にその上限は規定されないが、補強筋比を高くすると必要とされる補強シート量が多くなるため、経済的な観点から1.0%以下とされる。
【0046】
なお、当該鉄筋換算補強筋比は、下記の数式1から算出される値である。
【0047】
【0048】
上記の数式1の「補強層のヤング係数」は、下記の数式2から算出される値である。
【0049】
【0050】
繊維シート40の界面剥離破壊エネルギー(Gf)は、0.5N/mm以上であることが好ましい。当該界面剥離破壊エネルギーが、0.5N/mm未満であると、繊維シート40の剥離が生じやすくなる。当該界面剥離破壊エネルギーは、繊維シート40の剥離の抑制の観点から、0.5N/mm以上であることが好ましく、0.9N/mm以上であることがさらに好ましい。なお、当該界面剥離破壊エネルギーは、土木学会が規定するJSCE-543-2012「連続繊維シートとコンクリートとの付着強度試験」に準拠した手法により測定される値である。
【0051】
繊維シート40は、
図4に示されるように、無筋コンクリート構造物90の表面90Aからの距離L1よりも、補強層12の表面12Aからの距離L2が短い位置に配置されることが好ましい。なお、補強層12の表面12Aは、補強層12における無筋コンクリート構造物90の表面90A側とは反対側の面である。
【0052】
具体的には、繊維シート40は、無筋コンクリート構造物90の表面90Aからの距離L1と補強層12の表面12Aからの距離L2がL1≧L2である位置に配置されることが好ましい。当該距離L1が、小さくなる(無筋コンクリート構造物90の表面90Aに近い)ほど、繊維シート40による補強効果が低下する。また、当該距離L2は、0mm以上であることが好ましい。
【0053】
なお、樹脂モルタル層50における繊維シート40の配置位置は、例えば、繊維シート40を樹脂モルタル52に対して以下のように貼り付けることで、調整される。すなわち、無筋コンクリート構造物90に塗布された硬化前の樹脂モルタル52に対し、無筋コンクリート構造物90の表面90Aからの距離を規定するためのスペーサを配置した後、スペーサで繊維シート40を位置決めしつつ、繊維シート40を当該樹脂モルタル52に対して貼り付ける。
【0054】
また、補強構造10としては、距離L1よりも距離L2が長い構成(L2>L1)、及び、距離L1と距離L2とが同じである構成であってもよい。さらに、繊維シート40が樹脂モルタル層50の表面に貼り付けられている構成(L2=0mm)であってもよい。この場合では、繊維シート40上に樹脂モルタル52は塗布されない。また、繊維シート40が複数用いられている場合は、その全部が、L1≧L2である位置に配置されることが好ましいが、複数の繊維シート40の一部がL1≧L2である位置に配置されていてもよい。すなわち、複数の繊維シート40の少なくとも一部がL1≧L2である位置に配置されていればよい。
【0055】
(補強層12の変形例)
補強層12は、プライマー層20と樹脂モルタル層50を備えるものであるが、さらに、別の層を備えていてもよい。
【0056】
別の層としては、例えば、不陸修正材による層が挙げられる。不陸修正材は、例えば、プライマー層20の表面に塗布される。不陸修正材は、無筋コンクリート構造物90の表面の凹凸を平滑化する機能を有している。不陸修正材には、一例として、エポキシ樹脂等の樹脂が用いられる。なお、不陸修正材としては、エポキシ樹脂以外の熱硬化性樹脂等の樹脂であってもよく、種々の材料を用いることができる。
【0057】
また、別の層としては、保護層が挙げられる。保護層は、例えば、樹脂モルタル層50を紫外線や排ガスなどによる劣化から保護する層として、樹脂モルタル層50の表面に形成される。
【0058】
さらに、繊維シート40の貼り付けには樹脂接着剤を用いてもよい。特に繊維シート40が
図3に示される繊維シート140である場合は、樹脂モルタルを含浸接着することが難しいために好ましく使用される。なお、樹脂接着剤には、常温硬化型エポキシ樹脂、エポキシアクリレート樹脂、アクリル樹脂、MMA樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、又は、光硬化型樹脂が使用されるが、好ましく用いられるのは常温硬化型のエポキシ樹脂である。
【0059】
繊維シート40の貼り付けに樹脂接着剤を用いる場合には、例えば、プライマー層20が形成された無筋コンクリート構造物90に対し、繊維シート40を樹脂接着剤にて接着し、その繊維シート40上に、硬化前の樹脂モルタル52を塗布して、樹脂モルタル層50を形成する構成が考えられる。また、プライマー層20が形成された無筋コンクリート構造物90に形成された樹脂モルタル層50の表面に対し、繊維シート40を樹脂接着剤にて接着し、その繊維シート40上に、硬化前の樹脂モルタル52を塗布して、樹脂モルタル層50をさらに形成する構成が考えられる。さらに、プライマー層20が形成された無筋コンクリート構造物90に形成された樹脂モルタル層50の表面に対し、繊維シート40を樹脂接着剤にて接着する構成(L2=0mm)が考えられる。
【0060】
(本実施形態の作用効果)
本実施形態の作用効果を説明する。
【0061】
補強構造10では、樹脂モルタル層50の樹脂モルタル52は、以下の(1)~(3)の条件を満たしている。
(1)ヤング率が3000N/mm2以上であること
(2)破断ひずみが0.5%以上であること
(3)せん断付着強度が0.5N/mm2以上であること
【0062】
このため、樹脂モルタル層50の断面剛性が向上し、且つ樹脂モルタル層50にひび割れが生じにくい。このため、繊維シート40の積層枚数だけでなく、繊維シート40を接着する樹脂モルタル層50の断面剛性を考慮した補強設計を行うことできる。この結果、繊維シート40の積層枚数を低減しつつ、無筋コンクリート構造物90の補強効果を向上させることができる。
【0063】
補強構造10では、無筋コンクリート構造物90に対する繊維シート40の鉄筋換算補強筋比が、0.1%以上であることが好ましい。当該鉄筋換算補強筋比が0.1%以上である場合では、無筋コンクリート構造物90のひび割れの際に、繊維シート40に破断及び剥離が生じにくくなる。この結果、繊維シート40の積層枚数を低減しつつ、無筋コンクリート構造物90の補強効果をさらに向上させることができる。
【0064】
補強構造10では、樹脂モルタル層50の厚みが、繊維シート40の積層枚数に2.0mmを乗じた値以上であることが好ましい。樹脂モルタル層50の厚みが、当該値以上である場合では、樹脂モルタル層50の断面剛性が向上する。この結果、繊維シート40の積層枚数を低減しつつ、無筋コンクリート構造物90の補強効果をさらに向上させることができる。
【0065】
補強構造10では、繊維シート40が、無筋コンクリート構造物90の表面90Aからの距離L1よりも、補強層12の表面12Aからの距離L2が短い位置に配置されることが好ましい。繊維シート40が距離L1よりも距離L2が短い位置に配置される場合では、有効高が増加するため、繊維シート40による補強効果が向上する。この結果、繊維シート40の積層枚数を低減しつつ、無筋コンクリート構造物90の補強効果をさらに向上させることができる。
【0066】
補強構造10では、繊維シート40として、強化繊維42を含む繊維強化プラスチック線材を複数本、長手方向にスダレ状に引き揃え、該線材を互いに線材固定材にて固定した繊維シート(所謂ストランドシート、
図2参照)を用いている。当該ストランドシートは、高い補強効果を有するため、繊維シート40の積層枚数を低減しつつ、無筋コンクリート構造物90の補強効果をさらに向上させることができる。
【0067】
(評価試験)
本試験では、本実施形態に係る補強構造10における無筋コンクリート構造物90の補強効果について評価を行った。具体的には、本試験では、実施例1及び比較例1について、以下のとおり、評価を行った。
【0068】
[実施例1]
樹脂モルタル52
種類:エポキシ樹脂モルタル(商品名:C1S(日鉄ケミカル&マテリアル製))
ヤング率:5580N/mm2
破断歪み:1.6%
せん断付着強度:1.513N/mm2
塗布範囲:接着長さ2100mm、接着幅150mm
厚さ:2mm及び7mm
【0069】
[比較例1]
樹脂モルタルに替えて、以下の接着剤を用いた。
接着剤種類:エポキシ樹脂(商品名:E7S(日鉄ケミカル&マテリアル製))
ヤング率:2730N/mm2
破断歪み:2.1%
せん断付着強度:1.5N/mm2
塗布範囲:接着長さ2100mm、接着幅150mm
厚さ:2mm及び7mm
【0070】
[共通条件]
繊維シート40:炭素繊維ストランドシート(設計厚さ0.333mm、幅125mm、長さ2100mm、積層枚数1枚)
無筋コンクリート構造物90に対する樹脂系繊維シート40の鉄筋換算補強筋比:0.15~0.22%
試験体:幅150mm、高さ250mm、長さ2650mmの無筋コンクリート
試験:支間長2250mm、等曲げ区間450mmの2点漸増載荷による曲げ試験
【0071】
上記の試験条件による解析モデルを用いて、「荷重-支間中央たわみ(
図5参照)」を算出した。
【0072】
[補強効果の結果]
実施例1の樹脂モルタル及び比較例1の接着剤の厚さを2mmとした条件において、比較例1の接着剤(A4参照)を用いた場合に比べ、実施例1の樹脂モルタル(A3参照)を用いた場合に、ひび割れ発生荷重(耐力)(
図5のM点参照)及び終局荷重(耐力)が向上する。
【0073】
実施例1の樹脂モルタル及び比較例1の接着剤の厚さを7mmとした条件において、比較例1の接着剤(A2参照)を用いた場合に比べ、実施例1の樹脂モルタル(A1参照)を用いた場合に、ひび割れ発生荷重(耐力)(
図5のM点参照)及び終局荷重(耐力)が向上する。
【0074】
また、厚さを2mmとした条件に比べ、厚さを7mmとした条件の場合のほうが、比較例1の接着剤に対して、実施例1の樹脂モルタルの荷重の向上率が高い。
【0075】
以上のように、比較例1の接着剤を用いた場合に比べ、実施例1の樹脂モルタルを用いた場合に、無筋コンクリート構造物90のひび割れ以降の耐力及び終局耐力が向上する。すなわち、比較例1の接着剤を用いた場合に比べ、実施例1の樹脂モルタルの補強効果が高い。
【0076】
本発明は、上記の実施形態に限るものではなく、その主旨を逸脱しない範囲内において種々の変形、変更、改良が可能である。
【符号の説明】
【0077】
10 補強構造
12 補強層
12A 表面
20 プライマー層
40 繊維シート
42 強化繊維
43 繊維強化プラスチック線材
45 線材固定材
47 マトリクス樹脂
50 樹脂モルタル層
52 樹脂モルタル
90 無筋コンクリート構造物
90A 表面
140 繊維シート
144 繊維層
146 支持層
L1 距離
L2 距離