(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023042708
(43)【公開日】2023-03-28
(54)【発明の名称】抽出剤選択支援装置、抽出剤選択支援方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
B01D 11/04 20060101AFI20230320BHJP
【FI】
B01D11/04 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021149977
(22)【出願日】2021-09-15
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】西原 泰孝
【テーマコード(参考)】
4D056
【Fターム(参考)】
4D056AB03
4D056AC02
4D056AC09
4D056AC11
4D056AC30
4D056CA39
4D056CA40
(57)【要約】
【課題】溶媒抽出法における抽出剤の選択を支援する。
【解決手段】抽出剤選択支援装置は、溶媒抽出法における抽出剤の選択を支援するための抽出剤選択支援装置であって、希釈剤分子および候補となる複数の抽出剤分子の分子情報を取得する分子情報取得部と、前記複数の抽出剤分子のそれぞれのHLB値を算出して、算出された前記HLB値に基づいて候補となる抽出剤分子を絞り込む抽出剤候補選択部と、絞り込まれた前記抽出剤分子のそれぞれを使用した場合における有機相と水相とを含む立体モデルにおいて分子動力学計算を行って、前記有機相と前記水相の界面における圧力テンソルを算出する分子動力学計算部と、絞り込まれた前記抽出剤分子のそれぞれについて算出された前記圧力テンソルに基づいて、前記界面における界面張力を算出する界面張力算出部と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒抽出法における抽出剤の選択を支援するための抽出剤選択支援装置であって、
希釈剤分子および候補となる複数の抽出剤分子の分子情報を取得する分子情報取得部と、
前記複数の抽出剤分子のそれぞれのHLB値を算出して、算出された前記HLB値に基づいて候補となる抽出剤分子を絞り込む抽出剤候補選択部と、
絞り込まれた前記抽出剤分子のそれぞれを使用した場合における有機相と水相とを含む立体モデルにおいて分子動力学計算を行って、前記有機相と前記水相の界面における圧力テンソルを算出する分子動力学計算部と、
絞り込まれた前記抽出剤分子のそれぞれについて算出された前記圧力テンソルに基づいて、前記界面における界面張力を算出する界面張力算出部と、を備える、
抽出剤選択支援装置。
【請求項2】
前記抽出剤候補選択部は、あらかじめ設定された基準値と算出された前記HLB値との差分が閾値以下となる抽出剤分子に絞り込む、
請求項1に記載の抽出剤選択支援装置。
【請求項3】
算出された界面張力に基づいて抽出剤を選択する抽出剤選択部をさらに備える、
請求項1または2に記載の抽出剤選択支援装置。
【請求項4】
前記抽出剤選択部は、あらかじめ設定された基準値に近い値の界面張力となる前記抽出剤を選択する、
請求項3に記載の抽出剤選択支援装置。
【請求項5】
前記分子動力学計算部は、構造最適化計算によって抽出剤分子がランダムに配置された前記立体モデルを生成する、
請求項1から4のいずれか1項に記載の抽出剤選択支援装置。
【請求項6】
前記分子動力学計算部は、昇温計算、NVT計算およびNPT計算の少なくともいずれかを行って、前記圧力テンソルを算出する、
請求項1から5のいずれか1項に記載の抽出剤選択支援装置。
【請求項7】
候補となる抽出剤分子のそれぞれについての抽出剤を示す名称と、算出された界面張力を示す情報とを関連付けて表示する表示部をさらに備える、
請求項1から6のいずれか1項に記載の抽出剤選択支援装置。
【請求項8】
溶媒抽出法における抽出剤の選択を支援するためのコンピュータが実行する方法であって、
希釈剤分子および候補となる複数の抽出剤分子の分子情報を取得するステップと、
前記複数の抽出剤分子のそれぞれのHLB値を算出して、算出された前記HLB値に基づいて候補となる抽出剤分子を絞り込むステップと、
絞り込まれた前記抽出剤分子のそれぞれを使用した場合における有機相と水相とを含む立体モデルにおいて分子動力学計算を行って、前記有機相と前記水相の界面における圧力テンソルを算出するステップと、
絞り込まれた前記抽出剤分子のそれぞれについて算出された前記圧力テンソルに基づいて、前記界面における界面張力を算出するステップと、を備える、
抽出剤選択支援方法。
【請求項9】
溶媒抽出法における抽出剤の選択を支援するためのコンピュータに、
希釈剤分子および候補となる複数の抽出剤分子の分子情報を取得するステップと、
前記複数の抽出剤分子のそれぞれのHLB値を算出して、算出された前記HLB値に基づいて候補となる抽出剤分子を絞り込むステップと、
絞り込まれた前記抽出剤分子のそれぞれを使用した場合における有機相と水相とを含む立体モデルにおいて分子動力学計算を行って、前記有機相と前記水相の界面における圧力テンソルを算出するステップと、
絞り込まれた前記抽出剤分子のそれぞれについて算出された前記圧力テンソルに基づいて、前記界面における界面張力を算出するステップと、
を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抽出剤選択支援装置、抽出剤選択支援方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
水溶液に含まれる金属イオンを選択的に抽出する方法の一つに溶媒抽出法(SX:Solvent Extraction)がある。溶媒抽出法では互いに混じり合わない2相が用いられるが、有機相(有機溶媒)と水相(水溶液)の組み合わせが広く用いられている。金属イオンは有機相に添加された抽出剤と2相界面付近で結合し、有機相中へ移動する。そのため、界面の安定性(相分離性)は金属イオンの抽出平衡や抽出速度に大きな影響を与える。
【0003】
相分離性は有機溶媒(希釈剤とも呼ばれる)や抽出剤の組み合わせで変化し、希釈剤の比重や界面張力、粘度が大きく影響する。また、系の温度とも関連する。特に、界面張力が大きいときは相分離性がよい。
【0004】
そこで、界面張力に基づいて、溶媒抽出に用いる抽出剤を選択する方法が研究されている。例えば、特許文献1には、相分離した状態の超薄膜を測定することからなる遠心液膜法によって界面張力を測定する装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述した従来の技術を用いて、実験的に界面張力を測定して抽出剤を選択することは、候補となる抽出剤が多くなると時間とコストがかかってしまうという問題がある。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、溶媒抽出法における抽出剤の選択を支援することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の一態様に係る抽出剤選択支援装置は、
溶媒抽出法における抽出剤の選択を支援するための抽出剤選択支援装置であって、
希釈剤分子および候補となる複数の抽出剤分子の分子情報を取得する分子情報取得部と、
前記複数の抽出剤分子のそれぞれのHLB(Hydrophilic-Lipophilic Balance)値を算出して、算出された前記HLB値に基づいて候補となる抽出剤分子を絞り込む抽出剤候補選択部と、
絞り込まれた前記抽出剤分子のそれぞれを使用した場合における有機相と水相とを含む立体モデルにおいて分子動力学計算を行って、前記有機相と前記水相の界面における圧力テンソルを算出する分子動力学計算部と、
絞り込まれた前記抽出剤分子のそれぞれについて算出された前記圧力テンソルに基づいて、前記界面における界面張力を算出する界面張力算出部と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
溶媒抽出法における抽出剤の選択を支援することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】抽出剤選択支援装置の機能構成の一例を示す図である。
【
図2】抽出剤選択支援処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図3】抽出剤選択支援装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
【
図6】界面張力算出結果画面の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、図面を参照して、本発明の実施の形態(本実施の形態)について説明する。
【0012】
(抽出剤選択支援装置の機能構成)
図1は、抽出剤選択支援装置の機能構成の一例を示す図である。
【0013】
本実施の形態に係る抽出剤選択支援装置1は、溶媒抽出法における抽出剤の選択を支援する装置である。具体的には、抽出剤選択支援装置1は、分子情報取得部11と、抽出剤候補選択部12と、分子動力学計算部13と、界面張力算出部14と、表示部15と、抽出剤選択部16と、を備える。
【0014】
分子情報取得部11は、希釈剤分子および候補となる複数の抽出剤分子の分子情報を取得する。分子情報は、分子の化学構造を示す情報であって、分子を構成する原子の数と種類、原子どうしの関係を示すデータ等を含む。原子どうしの関係を示すデータは、原子の大きさ、結合する原子と結合の角度等を含むデータである。
【0015】
抽出剤候補選択部12は、候補となる複数の抽出剤分子のそれぞれのHLB値を算出して、算出されたHLB値に基づいて、候補となる抽出剤分子を絞り込む。具体的には、抽出剤候補選択部12は、抽出剤分子の分子情報に基づいて立体構造を算出し、グリフィン法等によって抽出剤分子のHLB値を算出する。そして、抽出剤候補選択部12は、HLB値とあらかじめ設定された基準値との差分と閾値との比較によって、候補となる抽出剤分子を絞り込む。
【0016】
分子動力学計算部13は、絞り込まれた抽出剤分子ごとに、有機相と水相を持つ系の立体モデルを生成し、生成された立体モデルにおいて分子動力学計算を行って、圧力テンソルを算出する。立体モデルとは、各分子の配置を示すデータである。有機相には希釈剤分子と抽出剤分子が含まれ、水相には水分子(必要に応じてカウンターイオン)が含まれる。
【0017】
具体的には、分子動力学計算部13は、絞り込まれた抽出剤分子ごとに、分子情報取得部11が取得した分子情報に基づいて、有機相と水相を持つ系における各分子の配置を示すデータを、立体モデルとして生成する。ここで、分子動力学計算部13は、各分子が空間内に分散してランダムに配置される立体モデルを生成する。そして、分子動力学計算部13は、分子動力学計算を行って、絞り込まれた抽出剤分子ごとに圧力テンソルを算出する。
【0018】
界面張力算出部14は、絞り込まれた抽出剤分子ごとに算出された圧力テンソルに基づいて、2相の界面における界面張力を算出する。
【0019】
表示部15は、絞り込まれたすべての抽出剤分子について、それぞれの抽出剤を使用した場合の界面張力を示す情報をディスプレイ等の画面に表示する。なお、表示部15は、他の装置、例えばユーザの操作する端末等に表示しても良い。
【0020】
抽出剤選択部16は、界面張力の値に基づいて、最適な抽出剤を選択する。さらに、表示部15は、選択された抽出剤を示す情報を表示してもよい。
【0021】
(抽出剤選択支援装置の動作)
次に、抽出剤選択支援装置1の動作について、図面を参照して説明する。
図2は、抽出剤選択支援処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0022】
ユーザの操作を受けて、分子情報取得部11は、希釈剤分子および候補となる複数の抽出剤分子の分子情報を取得する(ステップS11)。
【0023】
次に、抽出剤候補選択部12は、候補となる抽出剤分子から1つ選択して(ステップS12)、選択された抽出剤のHLB値を算出する(ステップS13)。そして、抽出剤候補選択部12は、HLB値と基準値との差分が閾値以下であるか否かを判定する(ステップS14)。ここで、基準値は、抽出剤として適切なHLB値を示す値として、あらかじめ設定された値である。例えば、基準値は7、8等である。
【0024】
抽出剤候補選択部12は、HLB値と基準値との差分が閾値以下でないと判定すると(ステップS14:NO)、ステップS12の処理に戻って、選択されていない抽出剤分子を選択する。また、抽出剤候補選択部12が、HLB値と基準値との差分が閾値以下であると判定すると(ステップS14:YES)、分子動力学計算部13は、希釈剤分子と選択された抽出剤分子の分子情報に基づいて、有機相と水相を持つ系の立体モデルを生成する(ステップS15)。ここで、分子動力学計算部13は、分子力学(MM:Molecular Mechanics)計算や分子動力学(MD:Molecular Dynamics)計算、量子化学(QM:Quantum Mechanics)計算等による構造最適化計算を行ってもよい。
【0025】
次に、分子動力学計算部13は、分子動力学計算によって、界面における圧力テンソルを算出する(ステップS16)。圧力テンソルは、希釈剤分子が存在する空間にあらかじめ規定されたXYZ軸によってテンソル(Pxx,Pyy,Pzz)と表される。
【0026】
具体的には、分子動力学計算部13は、生成された立体モデルにおいて、室温まで徐々に温度を上昇させた状態をシミュレートする昇温計算を実行する。次に、分子動力学計算部13は、原子数、体積、温度がそれぞれ規定の値に保持されるようにシミュレートするNVT計算を行う。続いて、分子動力学計算部13は、原子数、圧力、温度がそれぞれ規定の値に保持されるようにシミュレートするNPT計算を行い、NPT計算における最後の0.1nsのデータに基づいて界面における圧力テンソルを算出する。
【0027】
次に、界面張力算出部14は、圧力テンソルに基づいて、界面張力を算出する(ステップS17)。具体的には、界面張力算出部14は、下記の式(1)によって界面張力σを算出する。
【0028】
σ=(L/2)×{Pzz-(1/2)×(Pxx+Pyy)}・・・(1)
ここで、(Pxx,Pyy,Pzz)は圧力テンソル、Lは界面の法線方向のセルサイズである。
【0029】
次に、抽出剤選択支援装置1は、すべての抽出剤を計算したか否かを判定する(ステップS18)。抽出剤選択支援装置1は、計算していない抽出剤があると判定すると(ステップS18:NO)、ステップS12に戻り、まだ計算していない抽出剤から1つを選択して、処理を実行する。
【0030】
抽出剤選択支援装置1が、すべての抽出剤を計算したと判定すると(ステップS18:YES)、表示部15は、界面張力の算出結果を表示する(ステップS19)。
【0031】
続いて、抽出剤選択部16が抽出剤を選択して、表示部15が選択された抽出剤を示す情報を表示する(ステップS20)。具体的には、抽出剤選択部16は、あらかじめ界面張力に基づいて抽出剤を選択するための基準となる情報が記憶されていて、当該情報に基づいて抽出剤を選択する。例えば、抽出剤選択部16は、界面張力が基準値(例えば20[mN/m])に近い値の抽出剤を選択してもよい。また、抽出剤選択部16は、1つの抽出剤を選択してもよいし、複数の抽出剤を選択してもよく、推奨する抽出剤の順位を基準に基づいて決定してもよい。
【0032】
なお、抽出剤選択支援装置1は、抽出剤選択部16を備えていなくてもよく、ステップS19およびステップS20の処理を実行しなくてもよい。その場合、ユーザは、表示された界面張力の算出結果に基づいて、抽出剤を選択すればよい。
【0033】
次に、抽出剤選択支援装置1のハードウェア構成について説明する。
図3は、抽出剤選択支援装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
【0034】
抽出剤選択支援装置1は、コンピュータによって構成され、例えば、CPU(Central Processing Unit)101、主記憶装置102、補助記憶装置103、入力装置104、表示装置105、通信インターフェース装置106、ドライブ装置107を備える。これらの各装置は、バスで接続されている。
【0035】
CPU101は、抽出剤選択支援装置1の動作を制御する主制御部であり、主記憶装置102に格納されたプログラムを読みだして実行することで、後述する各種の機能を実現する。
【0036】
主記憶装置102は、抽出剤選択支援装置1の起動時に補助記憶装置103からプログラムを読み出して格納する。補助記憶装置103は、インストールされたプログラムを格納すると共に、後述する各種機能に必要なファイル、データ等を格納する。
【0037】
入力装置104は、各種の情報の入力を行うための装置であり、例えばキーボードやポインティングデバイス等により実現される。表示装置105は、各種の情報の表示を行うためものであり、例えばディスプレイ等により実現される。通信インターフェース装置106は、LANカード等を含み、他の装置等との接続の為に用いられる。
【0038】
本実施形態に係るプログラムは、抽出剤選択支援装置1を制御する各種プログラムの少なくとも一部である。プログラムは、例えば記憶媒体108の配布やネットワークからのダウンロード等によって提供される。プログラムを記録した記憶媒体108は、CD-ROM、フレキシブルディスク、光磁気ディスク等の様に情報を光学的、電気的或いは磁気的に記録する記憶媒体、ROM、フラッシュメモリ等の様に情報を電気的に記録する半導体メモリ等、様々なタイプの記憶媒体を用いることができる。
【0039】
また、プログラムは、プログラムを記録した記憶媒体108がドライブ装置107にセットされると、記憶媒体108からドライブ装置107を介して補助記憶装置103にインストールされる。ネットワークからダウンロードされたプログラムは、通信インターフェース装置106を介して補助記憶装置103にインストールされる。
【0040】
(実施例)
本実施の形態に係る抽出剤選択支援装置1の実施例について、説明する。希釈剤分子をシクロヘキサン(C6H12)、候補となる抽出剤分子を(a)LIX63、(b)Versatic Acid 10(VA10)、(c)TNOA((CH3(CH2)7)3N)として、実施した結果を以下に示す。
【0041】
図4は、立体モデルの一例を示す図である。分子動力学計算部13によって生成される立体モデルは、例えば、有機相21と水相22を含むボックス20がXY方向に並ぶように配置されたものとしてもよい。また、ボックス20のX方向の長さLx、およびY方向の長さLyは、例えばそれぞれ50オングストロームであり、ボックス20のZ方向の長さLzは、例えば100オングストロームである。
【0042】
分子動力学計算部13は、例えば、希釈剤分子(シクロヘキサン)を約600分子を含むボックス中に約25分子の抽出剤分子が配置された有機相と、水約4300分子を含む水相と、の2相を、ボックス20内に生成する。
【0043】
図5は、抽出剤の分子モデルの一例を示す図である。(a)は、抽出剤分子LIX63の分子モデル、(b)は、抽出剤分子VA10の分子モデル、(c)は、抽出剤分子TNOAの分子モデルとして、分子情報取得部11が取得する分子情報(各原子の配置や結合の関係を示す情報)を図示したものである。
【0044】
図6は、界面張力算出結果画面の一例を示す図である。界面張力算出結果画面30は、抽出剤選択支援処理のステップS19において表示部15が表示する画面の一例である。界面張力算出結果画面30には、各抽出剤の名称と、各抽出剤について算出された界面張力とが関連付けられて表示されている。
【0045】
また、表示部15は、抽出剤選択支援処理のステップS20において、抽出剤選択部16によって選択された抽出剤を示す情報を表示する。例えば、抽出剤選択部16は、基準値(例えば20[mN/m])に近い値のLIX63を選択する。表示部15は、界面張力算出結果画面30において選択されたLIX63を、他と異なる文字色で表示してもよい。
【0046】
本実施の形態に係る抽出剤選択支援装置1によれば、分子動力学計算によって界面張力を算出し、相分離性の指標とすることで、抽出剤の効率的な選択を支援することができる。
【0047】
また、抽出剤選択支援装置1は、複数の抽出剤分子のそれぞれのHLB値を算出して、算出されたHLB値に基づいて候補となる抽出剤分子を絞り込むことによって、簡易な方法によって分子動力学計算の算出対象の抽出剤分子の数を減らし、計算コストを軽減できる。特に、抽出剤は界面で働くため、HLB値によって界面を活性させる働きを予測することができるため、適切に抽出剤分子を絞り込むことができる。
【0048】
抽出剤候補選択部12は、あらかじめ設定された基準値と算出されたHLB値との差分が閾値以下となる抽出剤分子に絞り込んでもよい。これによって、適切な値のHLB値の抽出剤分子に絞り込むことができる。
【0049】
抽出剤選択支援装置1は、算出された界面張力に基づいて抽出剤を選択する抽出剤選択部16をさらに備えてもよい。これによって、抽出剤の選択におけるユーザ間のばらつきを抑え、均一な基準による選択が可能となる。
【0050】
また、抽出剤選択部16は、あらかじめ設定された基準値に近い値の界面張力となる抽出剤を選択してもよい。界面張力が大きすぎる抽出剤を選択すると安定しすぎて混ざらないため、界面が活性化されず、逆に界面張力が小さすぎると安定しないので混ざってしまって2相に分離されない。したがって、このようなトレードオフを考慮した基準値に基づいて、適切な抽出剤の選択を支援することができる。
【0051】
また、分子動力学計算部13は、構造最適化計算によって抽出剤分子がランダムに配置された立体モデルを生成してもよい。これによって、立体モデルの作成において、すべての分子の配置の指定をする必要がないため、簡易な操作によって立体モデルの生成を実現することができる。
【0052】
また、分子動力学計算部13は、昇温計算、NVT計算およびNPT計算の少なくともいずれかを行って、圧力テンソルを算出してもよい。これによって、大量の候補に対する計算を試みることが可能となり、コストと手間を軽減できる。
【0053】
抽出剤選択支援装置1は、候補となる抽出剤分子のそれぞれについての抽出剤を示す名称と、算出された界面張力を示す情報とを関連付けて表示する表示部15をさらに備えてもよい。これによって、選択を支援する情報をユーザに提示することができる。
【0054】
以上、本実施の形態に基づき本発明の説明を行ってきたが、上記実施の形態に示した要件に本発明が限定されるものではない。これらの点に関しては、本発明の主旨をそこなわない範囲で変更することができ、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、溶媒抽出法によって水溶液に含まれる金属イオンを選択的に抽出する際の抽出剤の選択に適用することができる。
【符号の説明】
【0056】
1 抽出剤選択支援装置
11 分子情報取得部
12 抽出剤候補選択部
13 分子動力学計算部
14 界面張力算出部
15 表示部
16 抽出剤選択部
20 ボックス
21 有機相
22 水相
30 界面張力算出結果画面
101 CPU
102 主記憶装置
103 補助記憶装置
104 入力装置
105 表示装置
106 通信インターフェース装置
107 ドライブ装置
108 記憶媒体