(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023042758
(43)【公開日】2023-03-28
(54)【発明の名称】炭酸ナトリウムの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01D 7/07 20060101AFI20230320BHJP
B01D 53/14 20060101ALI20230320BHJP
B01D 53/62 20060101ALI20230320BHJP
B01D 53/78 20060101ALI20230320BHJP
【FI】
C01D7/07 ZAB
B01D53/14 210
B01D53/62
B01D53/78
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021150067
(22)【出願日】2021-09-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】沼 寛
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 遼
(72)【発明者】
【氏名】沖田 裕士
【テーマコード(参考)】
4D002
4D020
【Fターム(参考)】
4D002AA09
4D002AC01
4D002AC07
4D002BA02
4D002CA07
4D002DA02
4D002DA12
4D002DA16
4D002EA13
4D002FA04
4D002GA01
4D002GA03
4D002GB01
4D002GB08
4D002GB09
4D020AA03
4D020BA01
4D020BA08
4D020BA09
4D020BB03
4D020CB08
4D020DA01
4D020DA03
4D020DB01
4D020DB07
4D020DB08
(57)【要約】
【課題】 二酸化炭素を含有する排ガスを用いて、工業的に安定的に製造することが可能な炭酸ナトリウムの製造方法を提供する。
【解決手段】 二酸化炭素を含む排ガスと水酸化ナトリウム水溶液とを接触させて、炭酸ナトリウムを得る製造方法であって、前記二酸化炭素を含む排ガスと水酸化ナトリウム水溶液とを接触させた後の炭酸ナトリウムを含む水溶液のpHを11.4~12.4とすることを特徴とする製造方法を提供する。本発明の製造方法は、前記二酸化炭素を含む排ガスが、アンモニア-ソーダ工程で発生する排ガスを用いることが好ましい。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素を含む排ガスと水酸化ナトリウム水溶液とを接触させて、炭酸ナトリウムを得る製造方法であって、
前記二酸化炭素を含む排ガスと水酸化ナトリウム水溶液とを接触させた後の炭酸ナトリウムを含む水溶液のpHを11.4~12.4とすることを特徴とする製造方法。
【請求項2】
前記炭酸ナトリウムを含む水溶液がさらに炭酸水素ナトリウムを含み、該炭酸水素ナトリウムの含有量が、前記炭酸ナトリウムを含む水溶液に対し、0.01~1.0質量%である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記二酸化炭素を含む排ガスが、アンモニア-ソーダ工程で発生する排ガスである請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
前記二酸化炭素を含む排ガスと水酸化ナトリウム水溶液との接触を、気液接触装置により行うことを特徴とする請求項1~3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記気液接触装置に供給される、前記二酸化炭素を含む排ガス中の二酸化炭素濃度を測定し、前記気液接触装置より排出される炭酸ナトリウムを含む水溶液のpHが11.4~12.4となるように、該排ガスの供給量を調整することを特徴とする請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
前記気液接触装置に供給される、前記二酸化炭素を含む排ガス中の二酸化炭素濃度を測定し、前記気液接触装置より排出される炭酸ナトリウムを含む水溶液のpHが11.4~12.4となるように、前記水酸化ナトリウム水溶液の供給量を調整することを特徴とする請求項4記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかの製造方法により、炭酸ナトリウムを含む水溶液を得、
次いで、得られた炭酸ナトリウムを含む水溶液より、炭酸ナトリウム一水和物を析出せしめ、
次いで、固液分離により炭酸ナトリウム一水和物を得、
次いで、得られた炭酸ナトリウム一水和物を乾燥して炭酸ナトリウムを得ることを特徴とする炭酸ナトリウムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は炭酸ナトリウムの製造方法に関する。詳しくは、二酸化炭素を含む排ガスを用いて安定的に製造することが可能な炭酸ナトリウムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大気中に放出される二酸化炭素ガスの排出が問題となっており、二酸化炭素ガスの排出量削減について様々な検討が行われている。例えば、食塩等の電気分解で生成する水酸化ナトリウムと、ボイラー等の排ガス中の二酸化炭素とを反応させて炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムとし、排ガス中の二酸化炭素ガスを回収する方法が提案されている(特許文献1又は2参照)。
【0003】
一方、炭酸ナトリウムは、種々の工業におけるアルカリ剤、或いは、ガラスの原料等に用いられている化合物である。炭酸ナトリウムは、アンモニア-ソーダ法にて製造される(特許文献3参照)。即ちアンモニア-ソーダ法では、石灰石を加熱して発生する二酸化炭素ガスとアンモニア及び食塩を含む水溶液とを接触させて(炭酸化工程)、炭酸水素ナトリウムを含有するスラリーを得、次いで該炭酸水素ナトリウムを含むスラリーより、炭酸水素ナトリウムを固液分離し、得られた該炭酸水素ナトリウムを加熱することにより、炭酸ナトリウムを製造する。上記炭酸水素ナトリウムを含む水溶液より炭酸水素ナトリウムを固液分離した後の母液中には二酸化炭素、アンモニアが含まれており、該母液を蒸留することで二酸化炭素ガスとアンモニアを回収することができる。また、上記炭酸化工程において未反応の二酸化炭素ガスも生じており、上記アンモニア-ソーダ法による炭酸ナトリウムの製造時においても二酸化炭素を含む排ガスが排出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2008-538738号公報
【特許文献2】特許第6110103号
【特許文献3】特公昭46-033215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のとおり、アンモニア-ソーダ法における製造時には、二酸化炭素を含有する排ガスが排出される。そこで、本願発明者らが、アンモニア-ソーダ法で排出される排ガス中の二酸化炭素を有効活用すべく、該排ガスと水酸化ナトリウムとを反応させて炭酸ナトリウムを含有する水溶液を得、次いで該炭酸ナトリウムを含む水溶液より、該炭酸ナトリウムの単離を試みたところ、該排ガスと水酸化ナトリウムとを反応させて炭酸ナトリウムを含有する水溶液を得る装置内で固形物が発生して詰まりが生じることで運転が困難になる現象、および、単離した炭酸ナトリウムを乾燥させる際の乾燥機の内部表面に腐食が発生することがあることを見出した。
【0006】
すなわち本発明の目的は、二酸化炭素を含有する排ガスを用いて、工業的に安定的に製造することが可能な炭酸ナトリウムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題に鑑み、鋭意検討を行った。上記二酸化炭素を含む排ガスと水酸化ナトリウムとを反応させて得られる水溶液から炭酸ナトリウムを回収する方法について詳細に検討を行った。
【0008】
該排ガスと水酸化ナトリウムとを反応させて炭酸ナトリウムを含有する水溶液を得る装置内で固形物が発生して詰まりが生じることで運転が困難になる現象を見出した。
【0009】
また、炭酸ナトリウムは、種々の水和物が知られており、常圧の沸点(約105℃)で得られるものは一水和物である。そこで上記水溶液の一部の水を蒸発させながら炭酸ナトリウム一水和物を析出させた後、該一水和物を回収、乾燥して炭酸ナトリウムの無水物の製造を試みた結果、水酸化ナトリウムを含有する炭酸ナトリウム一水和物を乾燥し、炭酸ナトリウムの無水物を製造する際に乾燥機の腐食が発生することを見出した。また、アンモニア-ソーダ法で排出される排ガス中の二酸化炭素の量が経時的に変化すること、排ガス中の二酸化炭素の量が少ない場合に水酸化ナトリウムが過剰となるため水酸化ナトリウムが残存するという知見を得た。
【0010】
上記知見を元に、二酸化炭素を含む排ガスと水酸化ナトリウム水溶液との接触条件を検討した結果、該排ガスと水酸化ナトリウムを接触させた後の炭酸ナトリウムを含む水溶液中のpHを調整することにより、該水溶液中に溶解度の低い炭酸水素ナトリウムが溶解度以上に生成する事で固形分として析出する事を抑制することで、該排ガスと水酸化ナトリウムとを反応させて炭酸ナトリウムを含有する水溶液を得る装置内で固形物が発生して詰まりが生じる現象を抑制し、該水溶液中の水酸化ナトリウムの残存を抑制し、該水溶液より炭酸ナトリウム一水和物を析出させて、単離した炭酸ナトリウム一水和物を乾燥して、炭酸ナトリウムの無水物を製造する際の乾燥機の腐食が抑制できることを見出し本発明を完成させるに至った。
【0011】
即ち、本発明は、二酸化炭素を含む排ガスと水酸化ナトリウム水溶液とを接触させて、炭酸ナトリウムを得る製造方法であって、前記二酸化炭素を含む排ガスと水酸化ナトリウム水溶液とを接触させた後の炭酸ナトリウムを含む水溶液のpHを11.4~12.4とすることを特徴とする製造方法である。
【0012】
上記本発明は、以下の態様を好適に採りうる。
【0013】
(1)前記炭酸ナトリウムを含む水溶液がさらに炭酸水素ナトリウムを含み、該炭酸水素ナトリウムの含有量が、前記炭酸ナトリウムを含む水溶液に対し、0.01~1.0質量%であること。
(2)前記二酸化炭素を含む排ガスが、アンモニア-ソーダ工程で発生する排ガスであること。
(3)前記二酸化炭素を含む排ガスと水酸化ナトリウム水溶液との接触を気液接触装置により行うこと。
(4)前記(3)において、気液接触装置に供給される、前記二酸化炭素を含む排ガス中の二酸化炭素濃度を測定し、前記気液接触装置より排出される炭酸ナトリウムを含む水溶液のpHが11.4~12.4となるように、該排ガスの供給量を調整すること。
(5)前記(3)において、前記気液接触装置に供給される、前記二酸化炭素を含む排ガス中の二酸化炭素濃度を測定し、前記気液接触装置より排出される炭酸ナトリウムを含む水溶液のpHが11.4~12.4となるように、前記水酸化ナトリウム水溶液の供給量を調整すること。
(6)上記本発明のいずれかの製造方法により、炭酸ナトリウムを含む水溶液を得、次いで、得られた炭酸ナトリウムを含む水溶液より、炭酸ナトリウム一水和物を析出せしめ、次いで、固液分離により炭酸ナトリウム一水和物を得、次いで、得られた炭酸ナトリウム一水和物を乾燥して炭酸ナトリウムを得ること。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、二酸化炭素を含む排ガスと水酸化ナトリウム水溶液とを接触させた後の炭酸ナトリウムを含む水溶液のpHを11.4~12.4の範囲で調製することが特徴である。このように調製することで、得られる炭酸ナトリウムを含む水溶液中に炭酸水素ナトリウムが溶解度以上に生成する事を抑制し、かつ、水酸化ナトリウムが残存することを抑制することが可能であるため、該排ガスと水酸化ナトリウムとを反応させて炭酸ナトリウムを含有する水溶液を得る装置内で固形物が発生して詰まりが生じる現象を抑制し、該水溶液より炭酸ナトリウム一水和物を析出させて、単離した炭酸ナトリウム一水和物を乾燥して、炭酸ナトリウムの無水物を製造する際の乾燥機の腐食を防止することができる。この結果、二酸化炭素を含む排ガスを用いて、工業的に安定的に炭酸ナトリウムを製造することができる。本発明の製造方法は、二酸化炭素を含む排ガスであれば適用可能であり、前記ボイラー等の排ガスや、アンモニア-ソーダ法にて排出される排ガス等に用いることができる。本発明の製造方法は特に、アンモニア-ソーダ法にて排出される排ガス等の排ガス中の二酸化炭素の量が経時的に増減しうる場合により効果が発現する。上記のとおり本発明の製造方法は、排ガス中に含有される二酸化炭素を有効活用して、工業的に安定的に炭酸ナトリウムを製造することができ、産業上の利用可能性は極めて高い。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、二酸化炭素を含む排ガスと水酸化ナトリウム水溶液とを接触させた後の炭酸ナトリウムを含む水溶液のpHを11.4~12.4の範囲で調製することが特徴である。このように調製することで、炭酸水素ナトリウムが溶解度以上に生成する事を抑制し、かつ、得られる炭酸ナトリウムを含む水溶液中に水酸化ナトリウムが残存することを抑制することが可能であるため、該排ガスと水酸化ナトリウムとを反応させて炭酸ナトリウムを含有する水溶液を得る装置内で固形物が発生して詰まりが生じる現象を抑制し、該水溶液より炭酸ナトリウム一水和物を析出させて、単離した炭酸ナトリウム一水和物を乾燥して、炭酸ナトリウムの無水物を製造する際の乾燥機の腐食を防止することができる。
【0016】
上記本発明の製造方法により、乾燥機の腐食を防止できる理由について詳細は不明であるが本発明者らは以下のとおり推測している。すなわち、炭酸ナトリウムを含む水溶液中に水酸化ナトリウムが含有する場合、炭酸ナトリウム一水和物を析出させた際には、水酸化ナトリウムは水に溶解しているため、該一水和物を固液分離により単離した際には、大部分の水酸化ナトリウムは水溶液中に残存するため殆ど除去されるが、一部の水溶液は結晶に付着して乾燥工程へと送られる。得られた炭酸ナトリウム一水和物は150℃以上の高温下で乾燥することにより水和水が分離され炭酸ナトリウムの無水物が得られるが、乾燥に伴い水分が除去される結果、結晶に付着した水溶液中の水酸化ナトリウムの濃度は急激に上昇する。乾燥機の内部材質としては一般的にはステンレス鋼が使用されているため、高温下で高濃度の水酸化ナトリウム水溶液と接触することで乾燥機内部の腐食が発生するものと推測される。
【0017】
一方本発明では、二酸化炭素を含む排ガスと水酸化ナトリウム水溶液とを接触させた際の水溶液のpHを11.4~12.4の範囲とする。当該pHの範囲とすることで、該水溶液中に水酸化ナトリウムは残存せず、従って後の乾燥時における腐食を防止できるものと推測される。以下本発明の炭酸ナトリウムの製造方法について詳述する。
【0018】
(二酸化炭素を含む排ガス)
本発明の製造方法における二酸化炭素を含む排ガスとしては、種々の工程で排出される排ガスを用いることができる。具体的には、火力発電所や燃焼ボイラー等にて石油、石炭等の化石燃料を燃焼させた際に発生する排ガス、アンモニア-ソーダ法で排出される排ガス、汚泥等を燃焼させた際に発生する排ガス等が挙げられる。一般に火力発電所や燃焼ボイラー等にて石油、石炭等の化石燃料を燃焼させた際に発生する排ガスは、当該火力発電所や燃焼ボイラー等における燃焼条件が一定の範囲で制御されており、排出される排ガス中の二酸化炭素の量も一定の範囲内であることが多い。一方、汚泥等を燃焼させた際に発生する排ガスは汚泥の種類によって発生する二酸化炭素の量が異なり、燃焼運転に応じて二酸化炭素の量が変動する場合がある。また、アンモニア-ソーダ法では、炭酸ナトリウムの他、塩化カルシウムや、塩化アンモニウム等が製造されており、これらの生産量のバランスに応じて、排出される二酸化炭素の量が変動する。本発明の製造法では、上記いずれの二酸化炭素を含む排ガスも好適に用いることが可能である。特に本発明の製造方法では、排出される二酸化炭素の量が変動する場合においても、水酸化ナトリウムの残存を抑制しながら製造することが可能であり、係る排ガスに適用することが好適である。
【0019】
なお、上記排ガス中には、窒素酸化物(NOx)、硫黄酸化物(SOx)、重金属分が含有される場合があるが、これらの不純物を公知の方法により予め除去した後、本発明の製造方法に供しても良い。
【0020】
(アンモニア-ソーダ法で排出される排ガス)
前記のとおり、アンモニア-ソーダ法では、石灰石を加熱して発生する二酸化炭素ガスとアンモニア及び食塩を含む水溶液とを接触させて(炭酸化工程)、炭酸水素ナトリウムを含有する水溶液を得、次いで該炭酸水素ナトリウムを含む水溶液より、炭酸水素ナトリウを固液分離し、得られた該炭酸水素ナトリウムを加熱することにより、炭酸ナトリウムを製造する。上記炭酸水素ナトリウムを含む水溶液より炭酸水素ナトリウムを固液分離した後の母液中には二酸化炭素、アンモニアが含まれており、該母液を蒸留することで二酸化炭素ガスとアンモニアを分離することができる。また、上記炭酸化工程において未反応の二酸化炭素ガスも生じており、上記アンモニア-ソーダ法による炭酸ナトリウムの製造時においても二酸化炭素を含む排ガスが排出される。また、上記炭酸水素ナトリウムを固液分離した後に洗浄する液等にも溶存しており、これらの液のついても蒸留することで二酸化炭素ガスを分離することができる。
【0021】
また、アンモニア-ソーダ法では、炭酸ナトリウムの他、塩化カルシウムや、塩化アンモニウム等が製造されており、これらの生産量のバランスに応じて、排出される二酸化炭素の量が変動する。さらに上記種々の工程により排出される排ガス中の二酸化炭素の量も異なる。従ってこれらの要因により、アンモニア-ソーダ法にて排出される二酸化炭素を含む排ガス中の二酸化炭素の量は大きく変動する場合があり、具体的には、数時間から半日程度で二酸化炭素濃度が10から15容量%の範囲で変動する。本発明の製造方法では、上記アンモニア-ソーダ法の種々の工程で排出される二酸化炭素を含む排ガスを好適に用いることができる。
【0022】
(水酸化ナトリウム水溶液)
本発明の製造方法における水酸化ナトリウム水溶液としては特に制限されず、種々の濃度の水溶液を用いることができる。後述する様に、得られた炭酸ナトリウムを含む水溶液より、炭酸ナトリウム一水和物を得る際には該水溶液中の水を留去することにより行うため、工業的な観点から水酸化ナトリウム水溶液中の水酸化ナトリウムの濃度は可能な限り濃い方が好ましい。一方あまり濃すぎると二酸化炭素を含む排ガスと接触させる際に固形分を生じて気液接触装置内で詰まりを生じることで運転制御等が困難になる場合がある。従って水酸化ナトリウム水溶液中の水酸化ナトリウムの濃度としては、20~24質量%の範囲とすることが好ましく、22~24質量%の範囲とすることがより好ましく、23~24質量%の範囲とすることが特に好ましい。
【0023】
(二酸化炭素を含む排ガスと水酸化ナトリウム水溶液との接触)
本発明の製造方法では、二酸化炭素を含む排ガスと水酸化ナトリウム水溶液とを接触させる。当該接触によって二酸化炭素と水酸化ナトリウムが反応し、炭酸ナトリウムを含む水溶液を得る。本発明の製造方法における上記二酸化炭素を含む排ガスと水酸化ナトリウム水溶液との接触方法としては、公知の方法を採用することが可能である。具体的には、水酸化ナトリウム水溶液を充填した容器中に二酸化炭素を含む排ガスを吹き込み、該排ガスと水酸化ナトリウム水溶液とを接触させる方法、気液接触装置に、二酸化炭素を含む排ガスと水酸化ナトリウム水溶液を各々供給し接触させる方法等が挙げられる。気液接触装置としては、スクラバー、濡れ壁塔、棚段塔、充填塔等が挙げられる。これらの方法の中でも装置の簡便さ等の観点から、充填塔による方法が好適である。また充填塔における該排ガスと水酸化ナトリウム水溶液との接触方法についても特に制限されず、充填塔の上部或いは下部より、二酸化炭素を含む排ガスと水酸化ナトリウム水溶液の両方を供給する方法、又は、充填塔の上部及び下部より該排ガスと水酸化ナトリウム水溶液を各々供給する方法等が挙げられる。これらの方法の中でも、気液接触反応の効率の点で、充填塔の上部より水酸化ナトリウム水溶液を供給し、充填塔の下部より二酸化炭素を含む排ガスを供給し、得られた炭酸ナトリウムを含む水溶液を充填塔の下部より排出することが特に好ましい。
【0024】
(炭酸ナトリウムを含む水溶液のpH制御)
本発明の製造方法では、二酸化炭素を含む排ガスと水酸化ナトリウム水溶液とを接触して得られる炭酸ナトリウムを含む水溶液のpHを11.4~12.4とすることが必要である。上述のとおり、当該pHの範囲とすることで、該水溶液中に水酸化ナトリウムは残存せず、従って後の乾燥時における腐食を防止できる。上記炭酸ナトリウムを含む水溶液のpHとしては、排ガスに含まれる二酸化炭素濃度変動に対応する観点から11.6~12.2とすることが好ましく、11.8~12.0とすることが特に好ましい。
【0025】
上記炭酸ナトリウムを含む水溶液のpHを11.4~12.4とするための方法としては、特に制限されず、接触させる二酸化炭素と水酸化ナトリウムの量を調整して行う方法、或いは二酸化炭素を含む排ガスと水酸化ナトリウム水溶液とを接触させて、炭酸ナトリウムを含む水溶液を得た後に該水溶液のpHを確認し、上記範囲に調製する方法のいずれの方法によっても行うことができる。これらの方法の中でも工業的に連続的に炭酸ナトリウムを含む水溶液を得ることが可能であるという点で、接触させる二酸化炭素と水酸化ナトリウムの量を調整して行う方法が好適である。二酸化炭素と水酸化ナトリウムは理論上、1モルの二酸化炭素に対して2モルの水酸化ナトリウムが反応して炭酸ナトリウムが生成する。従って、接触させる二酸化炭素のモル量を水酸化ナトリウムのモル量と比較して2倍よりも多くすることで上記pHの範囲とすることが可能である。二酸化炭素の量を水酸化ナトリウムの量よりも多くした場合には、過剰の二酸化炭素により炭酸水素ナトリウムも生成する。後述する炭酸ナトリウムを含む水溶液から炭酸ナトリウム一水和物を析出させる際に、微量の炭酸水素ナトリウムが存在しても析出する炭酸ナトリウム一水和物の粒径に大きな変化は無い。炭酸ナトリウムを含む水溶液中に含有する炭酸水素ナトリウムの量は、前記炭酸ナトリウムを含む水溶液に対し、0.01~1.0質量%であることが好ましい。
【0026】
なお、気液接触装置にて二酸化炭素を含む排ガスと水酸化ナトリウム水溶液とを接触させる場合には、気液接触による接触効率、反応率を勘案して二酸化炭素を含む排ガスと水酸化ナトリウム水溶液の供給量を適宜決定すれば良い。
【0027】
上述のとおり、アンモニア-ソーダ法にて排出される二酸化炭素を含む排ガス等の排ガス中の二酸化炭素の量は大きく変動する場合があるが、かかる場合においては、二酸化炭素を含む排ガス中の二酸化炭素濃度を測定し、該排ガスの二酸化炭素濃度に合わせて、二酸化炭素を含む排ガス、ないし水酸化ナトリウム水溶液の供給量を適宜決定すれば良い。
【0028】
また、二酸化炭素を含む排ガスと水酸化ナトリウム水溶液とを所定量接触させて、炭酸ナトリウムを含む水溶液を得た後に該水溶液のpHを確認し、上記範囲に調製してもよい、該水溶液のpHが低すぎる場合には、水酸化ナトリウム等を添加することで、pHが高すぎる場合には、炭酸水素ナトリウム等を添加することで、pHを上記範囲に制御することができる。
【0029】
(その他の条件)
二酸化炭素を含む排ガスと水酸化ナトリウム水溶液とを接触させる際の温度は二酸化炭素と水酸化ナトリウムが効率良く反応できれば良く、通常30~70℃の範囲で適宜設定すれば良い。
【0030】
(炭酸ナトリウム一水和物の製造)
上記本発明の製造方法により得られた炭酸ナトリウムを含む水溶液中では炭酸ナトリウムは溶解している。前記のとおり炭酸ナトリウムは種々の水和物を形成し、水和物によって溶液中の安定性や水への溶解度が異なる。特に一水和物は所望の粒度に制御しやすく、一水和物として単離した後、該一水和物を乾燥させることで、炭酸ナトリウムの無水物を製造することができる。
【0031】
上記炭酸ナトリウムを含む水溶液中の炭酸ナトリウムの濃度は27~29質量%程度あり、該水溶液を濃縮することで炭酸ナトリウム一水和物を得ることができる。該水溶液の濃縮方法としては、蒸発濃縮等が好適ある。蒸発濃縮における温度は通常80~108℃で行えば十分である。また、水の濃縮量は、生成する炭酸ナトリウム一水和物の量を勘案して適宜決定すれば良いが、炭酸ナトリウム一水塩のスラリー濃度が20~40質量%程度となるまで濃縮すれば十分である。
【0032】
上記炭酸ナトリウムを含む水溶液を蒸発濃縮により濃縮し、炭酸ナトリウム一水和物を得る方法として特に制限されず、濃縮装置に所定量の該水溶液を仕込み、所定量の水を蒸発濃縮した後、全量を抜き出し、析出した炭酸ナトリウム一水和物を単離するバッチ式による方法、或いは濃縮装置に炭酸ナトリウムを含む水溶液の供給と、濃縮装置にて生成する炭酸ナトリウム一水和物を含むスラリーの抜き出しを連続的に行う連続式のいずれの方法も採用することができる。連続式で炭酸ナトリウム一水和物を含むスラリーを得る場合、粒径の大きな該一水和物を安定的に得られる観点から、濃縮装置に供給される炭酸ナトリウムを含む水溶液の滞在時間は、2~5時間となるように、炭酸ナトリウムを含む水溶液の供給と、濃縮装置にて生成する炭酸ナトリウム一水和物を含むスラリーの抜き出しを調製して行えば良い。
【0033】
上記方法にて炭酸ナトリウム一水和物を析出させることが可能である。得られた炭酸ナトリウム一水和物はフィルタープレス等、公知の方法にて単離することができる。単離した炭酸ナトリウム一水和物は約1~10質量%の水分を含んでおりこれをスチームチューブドライヤー等により乾燥させることで、含有する水分を乾燥すると共に、水和物の水が除去されて炭酸ナトリウムの無水物を得ることができる。上記乾燥における乾燥温度は無水物になるに十分な温度で行えば良く、150~180℃の範囲で適宜設定すれば良い。また乾燥時間についても無水物になるに十分な程度行えば良く、上記温度範囲で乾燥した場合、通常0.5~2.0時間行えば十分である。炭酸ナトリウム一水和物の乾燥をスチームチューブドライヤー等の乾燥機で行う場合の熱源として蒸気を使用した場合、乾燥機より排出された蒸気を、前記二酸化炭素を含む排ガスと水酸化ナトリウム水溶液との接触時の熱源、或いは、炭酸ナトリウム一水和物を生成せしめる際の、熱源として用いることができる。
【実施例0034】
以下に実施例を挙げて本発明をより詳細に述べるが、本発明はこれらの実施例に何ら制限されるものではない。以下の実施例及び比較例において、炭酸ナトリウムを含む水溶液及び炭酸ナトリウムの物性、並びに乾燥機の腐食は以下の方法により評価した。
【0035】
<炭酸ナトリウムを含む水溶液の分析方法>
・pH
pH計(メトラートレド社製 SevenCompact S220)を用いて測定した。
・水溶液の分析(炭酸ナトリウム濃度、炭酸水素ナトリウム濃度、水酸化ナトリウム濃度)
炭酸ナトリウムを含む水溶液5gを100mLコニカルビーカーに精秤しフェノールフタレイン数滴を加え、よく撹拌しながらピンク色が消えるまで1mol/L塩酸で滴定した。その液にメチルオレンジ数滴を加えて、よく撹拌しながら黄色がオレンジ色になるまで1mol/L塩酸で滴定した。滴定量から炭酸ナトリウム濃度、炭酸水素ナトリウム濃度、水酸化ナトリウム濃度を算出した。
【0036】
<物性評価方法>
・粒度分布
得られた炭酸ナトリウム100gをロータップ式篩振盪機(タップなし)で5分間振盪して篩分けした。篩の大きさは下記のとおりとし、当該篩上に残存する炭酸ナトリウムの質量を測定した。各篩上に残存した炭酸ナトリウムの質量を加重平均する事で平均粒径を算出した。
篩振盪機で使用した篩:1000μm、500μm、250μm、180μm、150μm、125μm、及び受け器
・嵩密度
JIS K1201-1に記載の測定方法にて実施した。
【0037】
<乾燥機腐食評価方法>
材質がSUS304である回転式の乾燥機を用い、各実施例及び比較例で得られた遠心分離後の炭酸ナトリウム一水塩を滞在時間1.0時間、180℃で乾燥させた。乾燥機の運転は連続投入、連続抜出方式とし、連続で8時間運転し、使用前後の腐食状況を目視および浸透探傷検査により確認した。
【0038】
実施例1
充填塔(0.5m3)の塔頂から24質量%に調整した水酸化ナトリウム水溶液を23.6kg/hで投入し、ソーダ工程から排出される二酸化炭素を含んだ排ガス(ソーダ工程排ガス、二酸化炭素濃度12.0容量%)を塔底から14.7Nm3/hで投入した。投入された水酸化ナトリウム水溶液とソーダ工程排ガスは充填塔内で交流接触し、吸収されなかったソーダ工程排ガスは充填塔の塔頂から放出し、炭酸ナトリウムを含む水溶液を充填塔の塔底から抜き出した。交流接触時におけるソーダ工程排ガスに含まれる二酸化炭素濃度はほぼ一定であった。
【0039】
塔頂から水酸化ナトリウム水溶液を投入し、塔底からの排ガスの投入、及び塔底からの炭酸ナトリウムを含む水溶液の排出が安定した時点で、塔底から抜き出された炭酸ナトリウムを含む水溶液を分析した結果、pH11.9、炭酸ナトリウム濃度27.9質量%、炭酸水素ナトリウム濃度0.3質量%であった。また該水溶液中に水酸化ナトリウムは検出されなかった。
【0040】
塔底から抜き出された炭酸ナトリウムを含む水溶液を、晶析槽を用い約106℃で加熱濃縮する事で炭酸ナトリウム一水塩の結晶を含むスラリーを得、該スラリーを遠心分離器にかけることで炭酸ナトリウム一水塩の結晶を得た。その後、炭酸ナトリウム一水塩の結晶を回転式の乾燥機に投入し、乾燥機内での結晶の滞在時間が1.0時間となるように調整して180℃で乾燥させることで炭酸ナトリウム無水塩の結晶を得た。得られた結晶について物性評価を行った結果、平均粒径390μm、嵩密度1.25kg/Lであった。結晶を取り出した後の乾燥機の内部に腐食は見られなかった。
【0041】
比較例1
表1に示す条件とした以外は実施例1と同様に水酸化ナトリウム水溶液とソーダ工程排ガスの接触を行った。塔底から抜き出された炭酸ナトリウムを含む水溶液を分析した結果、pH12.7、炭酸ナトリウム濃度27.7質量%であった。また該水溶液中に水酸化ナトリウムが0.3質量%含有していた。この炭酸ナトリウムを含む水溶液を用いて、実施例1と同様にして炭酸ナトリウムの結晶を得た。得られた炭酸ナトリウムの結晶の物性評価結果を表1に示す。結晶を取り出した後の乾燥機の内部に腐食が確認された。
【0042】
【0043】
実施例2
比較例1で得られた炭酸ナトリウムを含む水溶液100kgをタンクに移し、炭酸水素ナトリウム1.5kgを撹拌しながら投入して溶解させてpHを12.1に調製した。調製後の炭酸ナトリウムを含む水溶液を分析した結果、炭酸ナトリウム濃度28.1質量%、炭酸水素ナトリウム濃度0.1質量%であった。また該水溶液中に水酸化ナトリウムは検出されなかった。
【0044】
該水溶液を用いて実施例1と同様にして炭酸ナトリウムの結晶を得た。得られた結晶について物性評価を行った結果、平均粒径390μm、嵩密度1.20kg/Lであった。結晶を取り出した後の乾燥機の内部に腐食は見られなかった。
【0045】
実施例3~5
表1に示す条件とした以外は実施例1と同様に水酸化ナトリウム水溶液とソーダ工程排ガスの接触を行った。塔底から抜き出された炭酸ナトリウムを含む水溶液の分析結果を表1に示す。この炭酸ナトリウムを含む水溶液を用いて、実施例1と同様にして炭酸ナトリウムの結晶を得た。得られた炭酸ナトリウムの結晶の物性評価結果、及び乾燥機腐食評価結果を表1に示す。
【0046】
実施例6
ソーダ工程排ガスに含まれる二酸化炭素濃度が徐々に変化する状況下で運転を行った以外は実施例1に記載の方法で実施した。ソーダ工程排ガスに含まれる二酸化炭素濃度は、運転開始時点では12.0体積%で安定していたが、ソーダ工程の負荷変動に伴い徐々に上昇し6時間後には14.8体積%となって安定した。充填塔の運転において二酸化炭素濃度の上昇に合わせて徐々にソーダ工程排ガスの流量を低下させる調整をしたことで、塔底から排出される水溶液のpHは目的範囲から外れることは無かった。塔底から抜き出された炭酸ナトリウムを含む水溶液の分析結果を表2に示す。得られた炭酸ナトリウムを含む水溶液を用いて実施例1と同様にして炭酸ナトリウムの結晶を得た。得られた炭酸ナトリウムの結晶の物性評価結果、及び乾燥機腐食評価結果を表2に示す。
【0047】
【0048】
実施例7、比較例2
表2に示す条件とした以外は実施例6と同様に水酸化ナトリウム水溶液とソーダ工程排ガスの接触を行った。塔底から抜き出された炭酸ナトリウムを含む水溶液の分析結果を表2に示す。この炭酸ナトリウムを含む水溶液を用いて、実施例2と同様にして炭酸ナトリウムの結晶を得た。得られた炭酸ナトリウムの結晶の物性評価結果、及び乾燥機腐食評価結果を表2に示す。なお、比較例2においては、運転中、徐々に充填塔の内部に固形物が生じたことで、充填塔が閉塞したため運転を停止し、以後の操作は実施しなかった。運転の最後に塔底から排出された炭酸ナトリウムを含む水溶液の分析結果を表2に記載した。