(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023042759
(43)【公開日】2023-03-28
(54)【発明の名称】炭酸ナトリウムの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01D 7/37 20060101AFI20230320BHJP
【FI】
C01D7/37
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021150068
(22)【出願日】2021-09-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】沼 寛
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 遼
(72)【発明者】
【氏名】沖田 裕士
(57)【要約】
【課題】粗粉及び微粉の含有量の少ない炭酸ナトリウムを工業的に安定的に製造することで炭酸ナトリウムの生産効率を向上させ、簡便で経済的な炭酸ナトリウムの製造方法を提供する。
【解決手段】炭酸ナトリウムを含む水溶液より、炭酸ナトリウム一水和物を析出せしめ、
次いで、固液分離により炭酸ナトリウム一水和物を得る工程を含む炭酸ナトリウムの製造方法であって、前記炭酸ナトリウムを含む水溶液が、アルミニウム、ケイ素、マンガンから選択される少なくとも1種の元素を該水溶液中の炭酸ナトリウムに対し1~50質量ppm含有することを特徴とする炭酸ナトリウムの製造方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸ナトリウムを含む水溶液より、炭酸ナトリウム一水和物を析出せしめ、
次いで、固液分離により炭酸ナトリウム一水和物を得る工程を含む炭酸ナトリウムの製造方法であって、
前記炭酸ナトリウムを含む水溶液が、アルミニウム、ケイ素、マンガンから選択される少なくとも1種の元素を該水溶液中の炭酸ナトリウムに対し1~50質量ppm含有することを特徴とする炭酸ナトリウムの製造方法。
【請求項2】
炭酸ナトリウムを含む水溶液に、アルミニウム、マンガンから選択される少なくとも1種の元素のハロゲン化物、水酸化物を、該元素が、該水溶液中の炭酸ナトリウムに対し1~50質量ppm含有するように添加し、次いで、炭酸ナトリウム一水和物を析出せしめる請求項1記載の炭酸ナトリウムの製造方法。
【請求項3】
炭酸ナトリウムを含む水溶液に、ケイ酸アルカリ金属を、ケイ素原子が、該水溶液中の炭酸ナトリウムに対し1~50質量ppm含有するように添加し、次いで、炭酸ナトリウム一水和物を析出せしめる請求項1記載の炭酸ナトリウムの製造方法。
【請求項4】
前記元素がアルミニウム、及び/又はケイ素である請求項1~3のいずれか一項に記載の炭酸ナトリウムの製造方法。
【請求項5】
前記炭酸ナトリウムを含む水溶液がさらに炭酸水素ナトリウムを含み、該炭酸水素ナトリウムの含有量が、前記炭酸ナトリウムを含む水溶液に対し、0.01~1.0質量%である請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかの製造方法により、炭酸ナトリウム一水和物を得、
次いで、得られた炭酸ナトリウム一水和物を乾燥して炭酸ナトリウムを得ることを特徴とする炭酸ナトリウムの製造方法。
【請求項7】
JIS K1201-1で測定される嵩密度が、1.1~1.3kg/Lであり、
目開き1000μmの篩いに残存する粗粉が3質量%以下であり、
目開き125μmの篩いを通過する微粉が6質量%以下である炭酸ナトリウム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は炭酸ナトリウムの製造方法に関する。詳しくは、微粉や粗粉の含有量の少ない炭酸ナトリウムを工業的に安定的に製造することが可能な炭酸ナトリウムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭酸ナトリウムは、種々の工業におけるアルカリ剤、或いは、ガラスの原料等に広く用いられている化合物である(特許文献1参照)。炭酸ナトリウムは、例えばアンモニア-ソーダ法にて製造される。即ちアンモニア-ソーダ法では、石灰石を加熱して発生する二酸化炭素ガスとアンモニア及び食塩を含む水溶液とを接触させて(炭酸化工程)、炭酸水素ナトリウムを含有するスラリーを得、次いで該炭酸水素ナトリウムを含むスラリーより、炭酸水素ナトリウムを固液分離し、得られた該炭酸水素ナトリウムを加熱することにより、炭酸ナトリウムを製造する。
【0003】
上記製造方法で得られる炭酸ナトリウムは、粒径が小さく、嵩密度が小さい、所謂ライト灰である。このライト灰は、用途によっては、扱いづらい場合がある。そこで、該ライト灰に水を散布することで、粒径や嵩密度の大きな炭酸ナトリウム一水和物を生成させて、該炭酸ナトリウム一水和物を乾燥させることで、粒径や嵩密度の大きな炭酸ナトリウム(所謂デンス灰)を製造することができる。
【0004】
あるいは、炭酸ナトリウムを一旦水に溶解させて炭酸ナトリウムを含む水溶液とし、次いで水溶液中の水を蒸発させることで、粒径や嵩密度の大きな炭酸ナトリウム一水和物を析出させて、固液分離により単離した炭酸ナトリウム一水和物を乾燥させることで、粒径や嵩密度の大きな炭酸ナトリウム(所謂デンス灰)を製造することができる。
【0005】
このように、炭酸ナトリウム一水和物の粒径や嵩密度等が最終的に得られる炭酸ナトリウムの粒径や嵩密度等に影響を与えることが知られている一方で、炭酸ナトリウム一水和物の析出時に微粉や粗粉が析出することも知られている。そこで、炭酸ナトリウム一水和物析出時の微粉の析出を低減させる製造方法が種々提案されている。具体的には、炭酸ナトリウムを含む水溶液中に微量の添加剤を存在せしめ、硬質で粉化しにくく、微粉量を低減させた炭酸ナトリウムの製造方法であり、硫酸ナトリウムを添加する方法(特許文献2参照)、カルシウムイオンと亜硫酸ナトリウムを添加する方法(特許文献3参照)、等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭46-033215号公報
【特許文献2】特公昭46-026103号公報
【特許文献3】特公昭57-030807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献2及び3に開示された方法により、炭酸ナトリウム一水和物中の微粉の析出は低減されるものの、依然として粗粉が存在しており、乾燥後に得られる炭酸ナトリウムに含有される微粉や粗粉を除去するために、篩い等の操作が必要であり、工程上の操作の点、及び回収される炭酸ナトリウムの収率の低下の点でなお改善の余地があった。
【0008】
すなわち本発明の目的は、粗粉及び微粉の含有量の少ない炭酸ナトリウムを工業的に安定的に製造することで炭酸ナトリウムの生産効率を向上させ、簡便で経済的な炭酸ナトリウムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題に鑑み、鋭意検討を行った。上記のとおり、炭酸ナトリウムを含む水溶液中に含有される微量成分が、炭酸ナトリウム一水和物の形状や粒径に影響を与えることから炭酸ナトリウムを含む水溶液中に含有せしめる微量成分について検討を進めた結果、特定の元素を該水溶液中の炭酸ナトリウムに対し特定量存在せしめて、炭酸ナトリウム一水和物の析出を行うことにより、粗粉や微粉の含有量の少ない炭酸ナトリウム一水和物が得られること、そして得られた炭酸ナトリウム一水和物を乾燥させることで、粗粉や微粉の含有量の少ない炭酸ナトリウム(デンス灰)が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
即ち、第1の本発明は、炭酸ナトリウムを含む水溶液より、炭酸ナトリウム一水和物を析出せしめ、次いで、固液分離により炭酸ナトリウム一水和物を得る工程を含む炭酸ナトリウムの製造方法であって、前記炭酸ナトリウムを含む水溶液が、アルミニウム、ケイ素、マンガンから選択される少なくとも1種の元素を該水溶液中の炭酸ナトリウムに対し1~50質量ppm含有することを特徴とする炭酸ナトリウムの製造方法である。
【0011】
上記本発明は、以下の態様を好適に採りうる。
(1)前記製造方法において、炭酸ナトリウムを含む水溶液がさらに炭酸水素ナトリウムを含み、該炭酸水素ナトリウムの含有量が、前記炭酸ナトリウムを含む水溶液に対し、0.01~1.0質量%であること。
(2)前記製造方法において、炭酸ナトリウムを含む水溶液に、アルミニウム、マンガンから選択される少なくとも1種の元素のハロゲン化物、水酸化物を、該元素が、該水溶液中の炭酸ナトリウムに対し1~50質量ppm含有するように添加し、次いで、炭酸ナトリウム一水和物を析出せしめること。
(3)前記製造方法において、炭酸ナトリウムを含む水溶液に、ケイ酸アルカリ金属を、ケイ素原子が、該水溶液中の炭酸ナトリウムに対し1~50質量ppm含有するように添加し、次いで、炭酸ナトリウム一水和物を析出せしめること。
(4)前記元素がアルミニウム、及び/又はケイ素であること。
(5)前記製造方法において、炭酸ナトリウムを含む水溶液がさらに炭酸水素ナトリウムを含み、該炭酸水素ナトリウムの含有量が、前記炭酸ナトリウムを含む水溶液に対し、0.01~1.0質量%であること。
(6)上記本発明のいずれかの製造方法により、炭酸ナトリウム一水和物を得、次いで、得られた炭酸ナトリウム一水和物を乾燥して炭酸ナトリウムを得ること。
【0012】
また、第2の本発明は、JIS K1201-1で測定される嵩密度が、1.1~1.3kg/Lであり、目開き1000μmの篩いに残存する粗粉が3質量%以下であり、目開き125μmの篩いを通過する微粉が6質量%以下である炭酸ナトリウムである。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、炭酸ナトリウムを含む水溶液より、炭酸ナトリウム一水和物を析出せしめる際にアルミニウム、ケイ素、マンガンから選択される少なくとも1種の元素を該水溶液中の炭酸ナトリウムに対し特定の割合で含有させることが特徴である。このような製造方法により、粗粉や微粉の含有量の少ない炭酸ナトリウム一水和物を得ることができる。そして得られた炭酸ナトリウム一水和物を乾燥させることで、粗粉や微粉の含有量の少ない炭酸ナトリウム(デンス灰)を得ることができる。このように、本発明の製造方法で得られる炭酸ナトリウムには、粗粉や微粉が少ないため、これらを除去するための篩い等の操作が不要であり、製造工程の短縮が図れ、かつデンス灰の炭酸ナトリウムを効率良く製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
上述のとおり、本発明は、炭酸ナトリウムを含む水溶液より、炭酸ナトリウム一水和物を析出せしめる際にアルミニウム、ケイ素、マンガンから選択される少なくとも1種の元素を該水溶液中の炭酸ナトリウムに対し特定の割合で含有させることが特徴であり、このような製造方法により、粗粉や微粉の含有量の少ない炭酸ナトリウムを得ることができる。本発明における「粗粉」とは、炭酸ナトリウムを目開き1000μmの篩いにて篩をかけた際に篩上に残存するものを言う。また、本発明における「微粉」とは、炭酸ナトリウムを目開き125μmの篩いにて篩をかけた際に篩いを通過するものを言う。
【0015】
上記本発明の製造方法により、粗粉や微粉の含有量の少ない炭酸ナトリウムを得られる理由について詳細は不明であるが本発明者らは以下のとおり推測している。すなわち、炭酸ナトリウムを含む水溶液から炭酸ナトリウム一水和物を析出させる際には、該水溶液中の水を蒸発させることにより行うが、該水溶液中に上記の元素を存在させることで、該水溶液からの炭酸ナトリウム一水和物の析出速度をある程度均一に制御しているものと推測される。
【0016】
本明細書においては特に断らない限り、数値A及びBについて「A~B」という表記は「A以上B以下」を意味するものとする。かかる表記において数値Bのみに単位を付した場合には、当該単位が数値Aにも適用されるものとする。以下、本発明の炭酸ナトリウムの製造方法について詳述する。
【0017】
(炭酸ナトリウムを含む水溶液)
本発明の製造方法における炭酸ナトリウムを含む水溶液としては、公知の方法で製造される水溶液を特に制限なく用いることができる。上述のとおり、アンモニア-ソーダ法により製造された炭酸ナトリウム(ライト灰)を再度水に溶解させて炭酸ナトリウムを含む水溶液を得ることができる。また、炭酸ナトリウムは、水酸化ナトリウム水溶液に炭酸ガスを接触せしめて製造することもでき、当該方法によって得られた炭酸ナトリウムを含む水溶液も用いることができる。あるいは、トロナ層などとして土中に存在する炭酸ナトリウムを含む鉱床を採掘等の方法で得、その後、水に溶解させることで製造する事もでき、当該方法によって得られた炭酸ナトリウムを含む水溶液も用いることができる。
【0018】
上記炭酸ナトリウムを含む水溶液中の炭酸ナトリウムの濃度は特に制限されず、製造装置の能力等を勘案して適宜決定すれば良い。上記のとおり炭酸ナトリウム一水和物を析出させる際には、該水溶液中の水を蒸発させることにより行うため、水の蒸発を効率的に行う点、水の蒸発に係るコストの点から、炭酸ナトリウムの濃度は、25~31質量%の範囲とすることが好ましく、27~30質量%の範囲とすることがより好ましく、29~30質量%の範囲とすることが特に好ましい。
【0019】
また、水酸化ナトリウム水溶液に炭酸ガスを接触せしめて製造する際には、用いる炭酸ガスとしては、二酸化炭素を含んでいれば良く、前記の石灰石を加熱して発生する二酸化炭素ガスの他に、火力発電所や燃焼ボイラー等にて石油、石炭等の化石燃料を燃焼させた際に発生する排ガス、アンモニア-ソーダ法で排出される排ガス、汚泥等を燃焼させた際に発生する排ガス等も用いることができる。前記のとおり、アンモニア-ソーダ法では、炭酸水素ナトリウムを含む水溶液より炭酸水素ナトリウムを固液分離した後の母液中には二酸化炭素、アンモニアが含まれており、該母液を蒸留することで炭酸ガスとアンモニアを分離することができる。また、炭酸水素ナトリウムを製造する工程において未反応の炭酸ガスも生じており、上記アンモニア-ソーダ法による炭酸ナトリウムの製造時においても二酸化炭素を含む排ガスが排出されるがこれらの二酸化炭素ガスを分離して得られる炭酸ガス等も用いることができる。
【0020】
(アルミニウム、ケイ素、マンガンから選択される少なくとも1種の元素)
炭酸ナトリウムを含む水溶液より、炭酸ナトリウム一水和物を析出せしめる際にアルミニウム、ケイ素、マンガンから選択される少なくとも1種の元素を該水溶液中の炭酸ナトリウムに対し1~50質量ppm含有させることが必要である。特に粗粉及び微粉の析出抑制効果が高い点でアルミニウム、ケイ素を含有させることが好ましい。これらの元素は1種類で良く、或いは複数の元素を含有させても良い。複数の元素を含有させる場合には、含有させた元素の合計量が上記範囲となるようにすれば良い。これらの元素は粗粉および微粉の析出抑制の効果が得られる量を含有させればよく、これらの元素を50ppmを超えて含有させても、粗粉および微粉の析出抑制効果は50ppmまでと変わらない。一方これらの元素を50ppmを超えて含有させるとこれらの元素が最終的に得られる炭酸ナトリウム中に含まれる結果、炭酸ナトリウムの純度を低下させる。粗粉及び微粉の析出抑制の効果が高い点、添加する元素のコストの点で、これらの元素の含有量は、該水溶液中の炭酸ナトリウムに対し、2~10質量ppmの範囲とすることが特に好ましい。
【0021】
上記炭酸ナトリウムを含む水溶液中のこれらの元素の含有量を測定し、含有量が上記範囲にある場合にはそのまま炭酸ナトリウム一水和物を析出させれば良い。通常、アンモニアソーダ法で製造した炭酸ナトリウム(ライト灰)を水に溶かして作液した炭酸ナトリウムを含む水溶液中の上記元素の含有量は該水溶液中の炭酸ナトリウムに対してそれぞれ1ppm以下であり、上記二酸化炭素を含む排ガスを利用した方法で得られた炭酸ナトリウムを含む水溶液中の上記元素の含有量は該水溶液中の炭酸ナトリウムに対してそれぞれ1ppm以下である。従って、かかる場合には、上記元素の含有量が所定の範囲となるように添加すれば良い。炭酸ナトリウムを含む水溶液に添加して上記範囲とする場合に添加される化合物としては、当該炭酸ナトリウムを含む水溶液に溶解する化合物であれば良い。かかる化合物として具体的には、含有させる元素がアルミニウム及びマンガンである場合には、塩化アルミニウム、塩化マンガン等のハロゲン化物、水酸化アルミニウム、水酸化マンガン等の水酸化物等が挙げられる。また、含有させる元素がケイ素である場合には、ケイ酸ナトリウム等のケイ酸アルカリ金属等が挙げられる。
【0022】
(炭酸ナトリウム一水和物の製造)
上記炭酸ナトリウムを含む水溶液中では炭酸ナトリウムは溶解している。炭酸ナトリウムは種々の水和物を形成し、水和物によって溶液中の安定性や水への溶解度が異なる。特に一水和物は所望の粒度に制御しやすく、一水和物として単離した後、該一水和物を乾燥させることで、炭酸ナトリウムの無水物を製造することができる。
【0023】
上記炭酸ナトリウムを含む水溶液を濃縮することで炭酸ナトリウム一水和物を得ることができる。該水溶液の濃縮方法としては、蒸発濃縮等が好適である。蒸発濃縮における温度は通常80~108℃で行えば十分である。また、水の濃縮量は、生成する炭酸ナトリウム一水和物の量を勘案して適宜決定すれば良いが、炭酸ナトリウム一水和物のスラリー濃度が20~40質量%程度となるまで濃縮すれば十分である。
【0024】
上記炭酸ナトリウムを含む水溶液を蒸発濃縮により濃縮し、炭酸ナトリウム一水和物を得る方法として特に制限されず、濃縮装置に所定量の該水溶液を仕込み、所定量の水を蒸発濃縮した後、全量を抜き出し、析出した炭酸ナトリウム一水和物を単離するバッチ式による方法、或いは濃縮装置に炭酸ナトリウムを含む水溶液の供給と、濃縮装置にて生成する炭酸ナトリウム一水和物を含むスラリーの抜き出しを連続的に行う連続式のいずれの方法も採用することができる。連続式で炭酸ナトリウム一水和物を含むスラリーを得る場合、粒径の大きな該一水和物を安定的に得られる観点から、濃縮装置に供給される炭酸ナトリウムを含む水溶液の滞在時間は、2~5時間となるように、炭酸ナトリウムを含む水溶液の供給と、濃縮装置にて生成する炭酸ナトリウム一水和物を含むスラリーの抜き出しを調製して行えば良い。
【0025】
(炭酸ナトリウムの製造)
上述のとおり、本発明は、炭酸ナトリウムを含む水溶液より、炭酸ナトリウム一水和物を析出せしめる際にアルミニウム、ケイ素、マンガンから選択される少なくとも1種の元素を該水溶液中の炭酸ナトリウムに対し特定の割合で含有させることが特徴であり、このような製造方法により、微粉や粗粉の含有量の少ない炭酸ナトリウム一水和物を得ることができる。得られた炭酸ナトリウム一水和物はフィルタープレス等、公知の方法にて単離することができる。単離した炭酸ナトリウム一水和物は約1~10質量%の水分を含んでおりこれをスチームチューブドライヤー等により乾燥させることで、含有する水分を乾燥すると共に、水和物の水が除去されて炭酸ナトリウムの無水物を得ることができる。このような製造方法により、粗粉や微粉の含有量の少ない炭酸ナトリウムを得ることができる。
【0026】
上記乾燥における乾燥温度は無水物になるに十分な温度で行えば良く、150~180℃の範囲で適宜設定すれば良い。また乾燥時間についても無水物になるに十分な程度行えば良く、上記温度範囲で乾燥した場合、通常0.5~2.0時間行えば十分である。炭酸ナトリウム一水和物の乾燥をスチームチューブドライヤー等の乾燥機で行う場合の熱源として蒸気を使用した場合、乾燥機より排出された蒸気を、前記二酸化炭素を含む排ガスと水酸化ナトリウム水溶液との接触時の熱源、或いは、炭酸ナトリウム一水和物を生成せしめる際の、熱源として用いることができる。
【0027】
(本発明の製造方法で得られる炭酸ナトリウム)
上述のとおり、本発明は、炭酸ナトリウムを含む水溶液より、炭酸ナトリウム一水和物を析出せしめる際にアルミニウム、ケイ素、マンガンから選択される少なくとも1種の元素を該水溶液中の炭酸ナトリウムに対し特定の割合で含有させることが特徴であり、このような製造方法により、粗粉や微粉の含有量の少ない炭酸ナトリウムを得ることができる。本発明における「粗粉」とは、炭酸ナトリウムを目開き1000μmの篩いにて篩をかけた際に篩上に残存するものを言う。また、本発明における「微粉」とは、炭酸ナトリウムを目開き125μmの篩いにて篩をかけた際に篩いを通過するものを言う。
【0028】
上記本発明の製造方法により、得られる炭酸ナトリウム、JIS K1201-1で測定される嵩密度が、1.1~1.3kg/Lであり、目開き1mmの篩いに残存する粗粉が3質量%以下であり、目開き125μmの篩いを通過する微粉が6質量%以下である。
【実施例0029】
以下に実施例を挙げて本発明をより詳細に述べるが、本発明はこれらの実施例に何ら制限されるものではない。以下の実施例及び比較例において得られた炭酸ナトリウムの物性は以下の方法により評価した。
【0030】
<物性評価方法>
・粒度分布
得られた炭酸ナトリウム100gをロータップ式篩振盪機(タップなし)で5分間振盪して篩分けした。篩の大きさは下記のとおりとし、当該篩上に残存する炭酸ナトリウムの質量を測定した。ロータップ式篩振盪機に投入した炭酸ナトリウム全量に対する各篩上に残存した炭酸ナトリウムの質量%を算出した。
篩振盪機で使用した篩:1000μm、500μm、250μm、180μm、150μm、125μm、及び受け器
・嵩密度
JIS K1201-1に記載の測定方法にて実施した。
・成分分析
得られた炭酸ナトリウム5gを100mLビーカーに精秤し、水50mLとメチルオレンジ数滴及び35%試薬塩酸を中和するまで加え煮沸・冷却後に100mLのメスフラスコに定容し、ICP-AES(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製:iCAP6500 Duo)を使用して測定を実施した。
【0031】
<実施例1及び比較例1>
水酸化ナトリウム溶液に炭酸水素ナトリウムを投入して炭酸ナトリウム:29.0~29.5質量%、炭酸水素ナトリウム:0.01~1.0%を含む原料液(炭酸ナトリウムを含む水溶液)を得た(アルミニウム含有量:<1質量ppm、ケイ素含有量:<1質量ppm、マンガン含有量:<1質量ppm)。
【0032】
該原料液に、AlCl3・6H2O (富士フィルム和光純薬株式会社製試薬)を炭酸ナトリウムに対するアルミニウムの含有量が50質量ppmとなるように約0.17g/L添加し炭酸ナトリウムを含む水溶液を調製した。該水溶液を撹拌機付の円筒型晶析槽に60g/minの流量で供給し、撹拌機の回転数は500rpmとした。晶析温度は106℃とし、水を蒸発させながら、炭酸ナトリウム一水和物を析出させた。得られた炭酸ナトリウム一水和物を含むスラリーを36g/minとなるように晶析槽から抜出し、遠心分離機にて炭酸ナトリウム一水和物に分離した後に流動乾燥機にて180℃で加熱乾燥させて炭酸ナトリウム(無水物)を得た(実施例1)。また、AlCl3・6H2Oを添加しない原料液(炭酸ナトリウムを含む水溶液)についても同様の方法にて炭酸ナトリウムを得た(比較例1)。得られた炭酸ナトリウムの物性の評価結果を表1に示す。実施例1及び比較例1で得られた炭酸ナトリウムの純度はいずれも99.3%であり、実施例1の炭酸ナトリウム中のアルミニウムの含有量は5ppm以下、比較例1の炭酸ナトリウム中のアルミニウムの含有量は1ppm以下であった。
【0033】
<比較例2>
比較例1では1000μm以上である粗粉の割合が3質量%以上となったため、比較例2では撹拌機の回転数を変更して粒度分布を小さくする運転を実施した。撹拌機の回転数を比較例1の500rpmに対して比較例2では600rpmで運転した以外は実施例1と同様の方法にて炭酸ナトリウムを得た。得られた炭酸ナトリウムの物性の評価結果を表1に示す。1000μm以上である粗粉の割合が3質量%未満となったが、125μm以下である微粉の割合が6質量%以上となった。
【0034】
【0035】
<実施例2>
実施例1で調製した原料液(炭酸ナトリウムを含む水溶液;アルミニウム含有量:<1質量ppm、ケイ素含有量:<1質量ppm、マンガン含有量:<1質量ppm)に、3号ケイ酸ソーダ(東曹産業株式会社製試薬)を炭酸ナトリウムに対するケイ素の含有量が50質量ppmとなるように約0.27g/L添加し炭酸ナトリウムを含む水溶液を調製した以外は実施例1と同様の方法にて炭酸ナトリウムを得た。得られた炭酸ナトリウムの物性の評価結果を表1に示す。実施例2で得られた炭酸ナトリウムの純度は99.3%であり、炭酸ナトリウム中のケイ素の含有量は5ppm以下であった。
【0036】
<実施例3~8、及び比較例3>
実施例1で調製した原料液(炭酸ナトリウムを含む水溶液;アルミニウム含有量:<1質量ppm、ケイ素含有量:<1質量ppm、マンガン含有量:<1質量ppm)に、炭酸ナトリウムに対する各元素の含有量が表1のとおりとなるように、AlCl3・6H2O、3号ケイ酸ソーダ、MnCl2・4H2O(富士フィルム和光純薬株式会社製試薬)を添加し炭酸ナトリウムを含む水溶液を調製した以外は実施例1と同様の方法にて炭酸ナトリウムを得た。得られた炭酸ナトリウムの物性の評価結果を表1に示す。実施例3~8で得られた炭酸ナトリウムの純度はいずれも99.3%以上であり、炭酸ナトリウム中に含まれる添加した元素の含有量は1~3ppm程度であった。一方、比較例3で得られた炭酸ナトリウムの純度は99.3%以上であったが、炭酸ナトリウム中に含まれるケイ素の含有量は21ppmであり不純物濃度として高濃度であった。
【0037】
比較例1では1000μm篩上の粗粉が3質量%以上存在するため、製品とするには篩分け等の分級工程により粗粉を取り除く必要があるため、分級装置が必要になるとともに歩留まりが悪くなった。比較例2では結晶の粒度分布を小さくするために晶析工程の撹拌機の回転数を600rpmとすることで1000μm篩上の粗粉が3質量%未満となったが、今度は微粉が6%以上となり、やはり製品とするには分級工程が必要となり、歩留まりが悪化する結果となった。これに対し、実施例1~8では粗粉、微粉ともに十分に基準を満たしており、加えて嵩密度も基準を満たしていることから、このまま製品とすることができ極めて歩留まりが良い。
【0038】
また、添加物を加えて製造したソーダ灰について、乾燥後の製品に含まれる添加物濃度を測定したところ、いずれもソーダ灰に対して数ppm程度であり、高純度なソーダ灰が得られていた。