(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023043080
(43)【公開日】2023-03-28
(54)【発明の名称】捺染・刺繍システム、捺染・刺繍装置、及び捺染・刺繍システムの刺繍調整方法
(51)【国際特許分類】
D05C 11/24 20060101AFI20230320BHJP
D05B 67/00 20060101ALI20230320BHJP
【FI】
D05C11/24
D05B67/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021150589
(22)【出願日】2021-09-15
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】大村 泰斗
(72)【発明者】
【氏名】田中 真也
(72)【発明者】
【氏名】後藤 勇喜
(72)【発明者】
【氏名】小峯 裕介
【テーマコード(参考)】
3B150
【Fターム(参考)】
3B150CB03
3B150CB04
3B150CE01
3B150CE24
3B150FB00
3B150FC01
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3B150FD07
3B150FD15
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3B150JA03
3B150LA51
3B150LA57
3B150LB01
3B150NA47
3B150NA53
3B150NB14
3B150NB15
3B150QA01
3B150QA06
3B150QA07
(57)【要約】 (修正有)
【課題】捺染・刺繍システムにおいて、色が変化するした糸を用いた刺繍動作中に、実際の糸消費量が想定からずれても、布上の刺繍の色の位置ズレを回避するとともに、糸消費量のズレの蓄積を防ぐ装置を提供する。
【解決手段】捺染・刺繍システムは、初期染色データで染色する色が変化する色替え点に糸上の目印となる折り返しマーカーを付した冗長データを挿入する染色データ処理部と次の色の刺繍領域の下側を縫うための下縫いデータを冗長データよりも長く挿入する刺繍データ処理部と折り返しマーカーを付した冗長データ込み染色データに基づいて、糸を捺染する染色部とステッチ数から算出される刺繍データ上の想定刺繍位置が刺繍データ上の色替え点に到達したタイミングで下縫いを開始し折り返しマーカーを目印として折り返して一往復するように長さを調整した下縫い動作を実施させて想定刺繍位置と実際の刺繍位置とのずれ分を消費させる下縫い制御部を備える。
【選択図】
図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸を捺染する捺染装置と、
前記捺染装置から送られる前記糸を用いて、刺繍データに基づいて針で布に刺繍をする刺繍装置と、を備える捺染・刺繍システムであって、
刺繍データの糸の色を実現する初期染色データを作成し、初期染色データで染色する色が変化する色替え点に、必要に応じて、糸上の目印となる折り返しマーカーを付した冗長データを挿入する染色データ処理部と、
刺繍データ上の色替え点であって、前記染色データ上の前記冗長データが挿入された位置に、予定された次の色の刺繍領域の下側を縫うための下縫いデータを、前記冗長データよりも長く挿入する刺繍データ処理部と、を有し、
前記捺染装置は、
折り返しマーカーを付した冗長データ込み染色データに基づいて、糸を捺染する染色部を備え、
前記刺繍装置は、
糸上の実際の刺繍位置に依らず、針が何回縫ったかのステッチ数から算出される刺繍データ上の想定刺繍位置が前記刺繍データ上の色替え点に到達したタイミングで、下縫いを開始して、前記折り返しマーカーを目印として折り返して一往復するように、長さを調整した下縫い動作を実施させて、想定刺繍位置と実際の刺繍位置とのずれ分を消費させる下縫い制御部を備える
捺染・刺繍システム。
【請求項2】
前記刺繍データ処理部は、
糸の実際の消費量が想定よりも少なく、前記ステッチ数から算出される想定刺繍位置が前記刺繍データ上の色替え点に到達するタイミングで、実際の刺繍位置が糸上の前記冗長データに従って染色された冗長染色領域へ到達する前である場合、
そのタイミングで下縫いを開始して、前記折り返しマーカーが前記針の位置に到達したら、下縫いの往路を中止して折り返して一往復するように下縫いを行うことで、前記冗長染色領域よりも長い距離にわたって下縫いを行う
請求項1に記載の捺染・刺繍システム。
【請求項3】
前記刺繍データ処理部は、
糸の実際の消費量が想定よりも多く、前記想定刺繍位置が前記刺繍データ上の色替え点に到達したタイミングが、実際の刺繍位置が糸上の前記冗長データに従って染色された冗長染色領域に到達した後である場合、
前記想定刺繍位置が前記刺繍データ上の色替え点に到達したタイミングで下縫いを開始して、前記折り返しマーカーが前記針の位置に到達したら、下縫いの往路を中止して折り返して一往復するように下縫いを行うことで、前記冗長染色領域よりも短い距離にわたって下縫いを行う
請求項1に記載の捺染・刺繍システム。
【請求項4】
前記刺繍装置は、
前記想定刺繍位置が前記刺繍データ上の色替え点に到達したタイミングから、糸上の前記折り返しマーカーが前記針の位置に到達するタイミングまでのステッチ数を、下縫い往路としてカウントする往路カウンタと、
糸上の前記折り返しマーカーが針の位置に到達した後のステッチ数をカウントする復路カウンタと、を備え、
下縫い復路では、下縫い往路の経路を辿るように縫い部を形成し、前記下縫い復路での縫い部の各ステッチのステッチ長さは隣接して並進する往路の縫い部のステッチ長さと同じに設定され、
前記復路カウンタは、カウント中のステッチが下縫い往路と同数のステッチ数に到達したら、下縫い動作を終了して、次の色で布上に刺繍模様を形成するための本刺繍を行う、
請求項2又は3のいずれか一項に記載の捺染・刺繍システム。
【請求項5】
前記刺繍装置は、
糸の色を検知することで、糸上の前記折り返しマーカーが前記針の位置に到達したことを検知する糸色検知手段を備える
請求項2、3又は4に記載の捺染・刺繍システム。
【請求項6】
糸上の前記折り返しマーカーが前記針の位置に到達したことを、ユーザーが検知し、その検知情報が入力される入力部を有する、
請求項2、3又は4に記載の捺染・刺繍システム。
【請求項7】
前記冗長データは、前記折り返しマーカーの前は、前記染色データ上の色替え点の前の色と同じ色の領域であり、前記折り返しマーカーの後は、前記色替え点の後の色と同じ色の領域であり、
前記折り返しマーカーは、前記染色データ上の色替え点で隣り合う2色とは異なる色に設定される
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の捺染・刺繍システム。
【請求項8】
前記染色データ処理部は、
前記染色データ上の色替え点で、隣り合う2色の色差に基づいて冗長データを挿入するどうか判断する
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の捺染・刺繍システム。
【請求項9】
前記染色データ処理部は、
前記染色データ上の色替え点で、隣り合う2色の各色の継続長さに基づいて冗長データを挿入するかどうか判断する
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の捺染・刺繍システム。
【請求項10】
前記染色データ処理部は、
前記染色データ上の色替え点で隣り合う2色の、各色の継続長さに基づいて、挿入する冗長データの長さを設定する
請求項9に記載の捺染・刺繍システム。
【請求項11】
前記染色データ処理部と、前記刺繍データ処理部は、前記捺染装置、前記刺繍装置、又は当該捺染・刺繍システムと接続可能な上位制御装置に搭載されている
請求項1乃至10のいずれか一項に記載の捺染・刺繍システム。
【請求項12】
糸を捺染する捺染ユニットと、
前記捺染ユニットから送られる前記糸を用いて、刺繍データに基づいて針で布に刺繍をする刺繍ユニットと、を備える捺染・刺繍装置であって、
刺繍データの糸の色を実現する初期染色データを作成し、初期染色データで染色する色が変化する色替え点に、必要に応じて、糸上の目印となる折り返しマーカーを付した冗長データを挿入する染色データ処理部と、
刺繍データ上の色替え点であって、前記染色データ上の前記冗長データが挿入された位置に、予定された次の色の刺繍領域の下側を縫うための下縫いデータを、前記冗長データよりも長く挿入する刺繍データ処理部と、
折り返しマーカーを付した冗長データ込み染色データに基づいて、糸を捺染する染色部と、
糸上の実際の刺繍位置に依らず、針が何回縫ったかのステッチ数から算出される刺繍データ上の想定刺繍位置が前記刺繍データ上の色替え点に到達したタイミングで、下縫いを開始して、前記折り返しマーカーを目印として折り返して一往復するように、長さを調整した下縫い動作を実施させて、想定刺繍位置と実際の刺繍位置とのずれ分を消費させる下縫い制御部を備える
捺染・刺繍装置。
【請求項13】
捺染装置と刺繍装置とを備える捺染・刺繍システムの刺繍調整方法であって、
刺繍データの糸の色を実現する初期染色データを作成し、初期染色データで染色する色が変化する色替え点に、必要に応じて、糸上の目印となる折り返しマーカーを付した冗長データを挿入する染色データ処理ステップと、
刺繍データ上の色替え点であって、前記染色データ上の前記冗長データが挿入された位置に、予定された次の色の刺繍領域の下側を縫うための下縫いデータを、前記冗長データよりも長く挿入する刺繍データ処理ステップと、
折り返しマーカーを付した冗長データ込み染色データに基づいて、糸を捺染する染色ステップと、
糸上の実際の刺繍位置に依らず、針が何回縫ったかのステッチ数から算出される刺繍データ上の想定刺繍位置が前記刺繍データ上の色替え点に到達したタイミングで、下縫いを開始して、前記折り返しマーカーを目印として折り返して一往復するように、長さを調整した下縫い動作を実施させて、想定刺繍位置と実際の刺繍位置とのずれ分を消費させる下縫い制御ステップと、を有する
刺繍調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、捺染・刺繍システム、捺染・刺繍装置、及び捺染・刺繍システムの刺繍調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェット技術を用いて、搬送方向で変化する色を付与するように上糸を染色し、刺繍機またはミシンで染色した上糸を使用して刺繍する染色機能付き刺繍システムが、知られている。
【0003】
このような刺繍システムの刺繍機では、上糸と下糸の張力バランスがくずれたり、布がたわんだり、刺繍の厚みにばらつきが発生する等により、上糸と下糸の消費量のバランスが変化することで、布上の刺繍の位置ずれが発生してしまうことがある。
【0004】
そこで、特許文献1では、上糸の色の変わり目を刺繍表面に露出させないために、色の変わり目部分を、次の色の刺繍の下側に位置させるように、下縫い用のデータを差し込んで、染色データを調整することが提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、特許文献1では、所定の長さの、色の変わり目を含む下縫い部を、刺繍予定領域に隠れるように染色データを調整するが、その後刺繍動作中に、上糸の消費量が予測から変化してしまうと、色の変わり目の位置がずれてしまう。そして、実際の消費量の想定からのズレ量が大きく、その位置ズレが蓄積すると、所定の長さの下縫いでもズレ量がカバーしきれないことが想定しうる。
【0006】
そこで、本発明は上記事情に鑑み、色が変化する連続した糸を用いた刺繍動作中に、実際の糸消費量が想定からずれても、布上の刺繍の色の位置ズレを回避するとともに、糸消費量のズレの蓄積を防ぐ、捺染・刺繍システムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の一態様では、
糸を捺染する捺染装置と、
前記捺染装置から送られる前記糸を用いて、刺繍データに基づいて針で布に刺繍をする刺繍装置と、を備える捺染・刺繍システムであって、
刺繍データの糸の色を実現する初期染色データを作成し、初期染色データで染色する色が変化する色替え点に、必要に応じて、糸上の目印となる折り返しマーカーを付した冗長データを挿入する染色データ処理部と、
刺繍データ上の色替え点であって、前記染色データ上の前記冗長データが挿入された位置に、予定された次の色の刺繍領域の下側を縫うための下縫いデータを、前記冗長データよりも長く挿入する刺繍データ処理部と、を有し、
前記捺染装置は、
折り返しマーカーを付した冗長データ込み染色データに基づいて、糸を捺染する染色部を備え、
前記刺繍装置は、
糸上の実際の刺繍位置に依らず、針が何回縫ったかのステッチ数から算出される刺繍データ上の想定刺繍位置が前記刺繍データ上の色替え点に到達したタイミングで、下縫いを開始して、前記折り返しマーカーを目印として折り返して一往復するように、長さを調整した下縫い動作を実施させて、想定刺繍位置と実際の刺繍位置とのずれ分を消費させる下縫い制御部を備える
捺染・刺繍システム、を提供する。
【発明の効果】
【0008】
一態様によれば、捺染・刺繍システムにおいて、色が変化する連続した糸を用いた刺繍動作中に、実際の糸消費量が想定からずれても、布上の刺繍の色の位置ズレを回避するとともに、糸消費量のズレの蓄積を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の第1実施形態の係る染色・刺繍システムの側面概略図。
【
図2】本発明の一実施形態の染色装置における染色部の側面概略図。
【
図4】第1実施形態の染色・刺繍システムの概略ブロック図。
【
図5】布に対する上糸と下糸の上面側と下面側の縫い目の例を示す模式図。
【
図6】布に対する上糸と下糸による縫い目の複数の状態の断面模式図。
【
図7】本発明の一実施形態における糸消費量検知手段の説明図。
【
図8】第1実施形態の刺繍データ処理部、刺繍データ処理部および演算機構の機能ブロック図。
【
図9】本発明の染色装置で染色される折り返しマーカー付き染色データの例。
【
図10】本発明の染色・刺繍フローの装置間やりとりを示すシーケンス図。
【
図11】本発明の刺繍制御動作を示す詳細フローチャート。
【
図12】本発明の刺繍制御動作における、染色された糸上の冗長染色領域と下縫い距離の具体例を示す図。
【
図13】実際の上糸消費量が想定よりも少ない場合に本発明の刺繍制御動作を実施した刺繍模様の具体例を示す図。
【
図14】実際の上糸消費量が想定よりも多い場合に本発明の刺繍制御動作を実施した刺繍模様の具体例を示す図。
【
図15】本発明の第1実施形態の刺繍装置の変形例を示す図。
【
図16】本発明の第2実施形態に係る染色・刺繍システムの側面概略図。
【
図17】第2実施形態の上位制御装置、染色装置及び刺繍装置の制御に係る機能ブロック図。
【
図18】本発明の第3実施形態に係る染色・刺繍装置の側面概略図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明を実施するための形態について説明する。下記、各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0011】
<全体構成>
まず、
図1~
図4を用いて、本発明の第1実施形態の染色・刺繍システム(捺染・刺繍システム)について説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る染色・刺繍システムの一例の側面概略図である。
図2は、本発明の一実施形態の染色装置における染色部の側面概略図である。
図3は、本発明の一実施形態の染色部の下面概略図である。
図4は、第1実施形態の染色・刺繍システムの概略ブロック図である。
【0012】
図1を参照して、本実施形態に係る染色・刺繍システム3は、染色装置1と刺繍装置2とを備えている。本システムにおいて、染色装置1は、有線又は無線通信により、刺繍装置2と情報をやり取り可能に電気的に接続されている。
【0013】
染色装置1は、上糸Nが巻回された上糸糸巻101と、染色部103と、定着部104と、後処理部105とを備えている。本実施形態における染色装置1は、液体吐出式で糸を染色する糸着色装置である。
【0014】
染色装置1において、上糸糸巻101から引き出された糸Nは、供給ローラ102と、搬送ローラ106で案内され、刺繍装置2の刺繍ヘッド20まで連続して這い回されている。
【0015】
染色部103は、上糸糸巻101から引き出されて搬送される糸Nに所要の色の液体を吐出して付与する複数の吐出ヘッド30(30K~30Y)と、各吐出ヘッド30K~30Yのメンテナンスを行う複数の個別の維持ユニット36(36K~36Y)で構成されるメンテナンスユニット35を備えている。
【0016】
以降において、染色・刺繍システム3の幅方向をX、染色・刺繍システム3の奥行き方向をY、高さ方向(上下方向)をZと呼ぶ。
【0017】
図2を参照して、複数の吐出ヘッド30K~30Yは、それぞれ染色手段(糸捺染手段)であって、互いに異なる色を吐出する吐出ヘッド(染色ヘッド)である。例えば、30Kはブラック(K)の液滴(インク)を吐出するヘッド、30Cはシアン(C)の液滴を吐出するヘッド、30Mはマゼンタ(M)の液滴を吐出するヘッド、30Yはイエロー(Y)の液滴を吐出するヘッドである。
図2に示す色の順番は一例であり、この説明とは異なる順番に配置されてもよい。なお、図示はしていないが、染色部103は、染色後の上糸をコーティングするための無色の液滴を吐出する吐出ヘッドを、最下流に含んでいてもよい。
【0018】
また、維持ユニット36K~36Yは、各色の吐出ヘッド30K~30Yの下側に設けられており、維持回復動作として、不使用時のヘッドをキャッピングしたり、吐出ヘッド30からの液滴の空吐出受けとなったり、空吐出受けをヘッドに近づけた状態でノズルの吸引循環動作を行ったり、ノズルのワイピング動作を行ったりする。
【0019】
ここで、
図3に示すように、各吐出ヘッド30K~30Yは、液滴を吐出する複数のノズル31を配列したノズル列32が形成されたノズル面33を有する。各吐出ヘッド30は、ノズル31の配列方向であるノズル列32の延伸方向が糸Nの搬送方向になるように配置される。なお、
図3ではノズル面33にノズル列32が1つだけ記載されているが、ノズル面33にノズル列32が複数配置されていてもよい。
【0020】
図1に戻って、定着部104は、染色部103から吐出された液体の、付与された糸Nに対する定着処理(乾燥処理)を行う。定着部104は、例えば赤外線照射手段、温風吹き付け手段などの加熱手段を備え、糸Nを加熱して乾燥する。
【0021】
後処理部105は、例えば、糸Nを清掃する清掃手段、糸Nの表面に潤滑剤を付与する潤滑剤付与手段などを含む。
【0022】
なお、本発明の染色装置1では、少なくとも、糸Nに色付きの液体を付与する染色部103が設けられていればよく、定着部104、後処理部105は、設けられていなくてもよい。
【0023】
なお、
図1~
図3に示す染色装置1における染色部103は、吐出ヘッド30Y~30Kからインクを吐出することで上糸Nを染色する液体吐出方式の構成例を示しているが、染色部103は、ローラ等で上糸Nを挟み込むことでインクを付与して上糸Nを捺染する塗布方式の染色部であってもよい。
【0024】
図1に示す刺繍装置2は、針21と、下糸回転体22と、ステージ23と、刺繍ヘッド20を有している。針21は、針先先端の針穴に上糸Nが通されており、布Cに対して上下方向に移動駆動可能である。
【0025】
下糸回転体22は、下糸Bが巻回された下糸ボビン221と、フック222を有しており、下糸ボビン221およびフック222は、針21の移動に連動して回転する。図示はしていないが、下糸回転体22には、下糸ボビン221を収容する円筒状の中釜や、有底円筒上の外釜、フック222と一体化した円筒体のケースなども設けられている。なお、
図1では、下糸ボビン221は、回転方向が縦方向の垂直回転方式(垂直全回転釜方式、垂直半回転釜方式)の例を示しているが、下糸ボビン221は、回転方向が横方向の水平回転方式(水平釜方式)であってもよい。
【0026】
ステージ23は、布Cを保持する台であり、針が通る穴23O(
図7参照)が形成されている。ステージ23は、布送りのためにX方向、Y方向に移動可能である。
【0027】
刺繍ヘッド20は、演算機構25(
図4参照)が設けられており、演算機構25が、上糸Nが通る針21の動き(運針)、及びステージ23の移動を制御することで、刺繍装置2において上糸Nと、上糸Nの送りに応じて送られる下糸Bを用いて、布Cに刺繍を行うことで布C上に刺繍パターン(刺繍模様)を形成する。
【0028】
また、「糸」とは、ガラス繊維糸、ウール糸、綿糸、合成糸、金属糸、ウール、綿、ポリマー、または金属の混合糸、ヤーン、フィラメント、あるいは液体を付与可能な線状部材(連続基材)であり、組紐、平紐なども含む。
【0029】
また、
図4を参照して、本実施形態に係る刺繍装置2は、駆動制御に係る部分として、刺繍データ処理部24と、演算機構25と、ステッチカウンタ26と、測色センサ27と、駆動ドライバ28と、駆動モータ29と、針上下駆動部291と、下糸回転駆動部2922と、X軸駆動部293と、Y軸駆動部294と、を有している。このうち、少なくとも、駆動ドライバ28と、駆動モータ29と、針上下駆動部291は、針21の上側の刺繍ヘッド20内に内蔵されている。また、刺繍データ処理部24と、演算機構25も刺繍ヘッド20内に内蔵されていてもよい。一方ステージ23を移動する駆動部293,294と、下糸回転駆動部292は、ステージ23の下側に設けられている。
【0030】
また、染色装置1には、染色制御に係る部分として、染色データ処理部107と、演算機構108を備えている。演算機構108は、吐出ヘッド30(30K~30Y)を駆動するヘッドドライバ39を制御して染色動作を制御するともに、入口側駆動モータ(糸供給ローラ)106の回転駆動する入口側モータ60を制御して糸搬送速度を調整する。
【0031】
刺繍データ処理部24は、刺繍データの元となる刺繍イメージ(刺繍ファイル)を取得して、刺繍イメージに基づいて、刺繍データ(初期刺繍データ)を作成する。さらに、刺繍データ処理部24は、作成した初期刺繍データの色替え位置に下縫いデータを追加して、刺繍データと下縫いデータを、駆動ドライバ28に出力する。
【0032】
ここで、刺繍イメージとは、布上の刺繍模様の原稿となる画像データ(刺繍デザイン)である。刺繍データ処理部24の初期刺繍データ作成部402(
図8参照)は、刺繍イメージを色ごと(RGB値)に分解し、刺繍模様の布上の大きさに基づいて、スムーズな順番で縫えるように、使用する糸の色と、糸上の各色の継続長さを決定し、決定された色の糸を用いて布上に縫目を形成させるように刺繍データを作成する。
【0033】
さらに詳しくは、刺繍データとは、「針を移動する座標のデータと、その座標で実施する事項を組み合わせたデータ」である。その座標で実施する事項は、具体的には、
(1)針を布に刺して下糸とからめ、再び布の表に針を戻して、その後次に針を刺すべき位置に移動すること、
(2)刺繍を終了、中断する(他の針に切り替えること・刺繍が連続しない離れた場所へ移動するために糸を切断することを含む)こと、
(3)イニシャライズ位置(位置合わせ位置)に移動すること、
等が含まれる。また、刺繍データのファイルとしては「.dst」、「.pes」等の形式が一般に知られている。初期刺繍データは、最初に設定するデータであって、糸消費量に応じた編集前の刺繍データである。
【0034】
演算機構25は、刺繍データに基づいて布上に刺繍模様を形成する本刺繍動作と、下縫いデータと、ステッチカウンタ26等で検出した何針進んだかの進行状況と、測色センサ27で検知した折り返し指示に応じて糸消費量を調整する、下縫い動作と、を実行するように、駆動ドライバ28を駆動制御する。
【0035】
ステッチカウンタ26は、針21の上下運動を検知するセンサであって、例えば針21を保持する針棒に設けられ、針21が何回昇降したか、即ち何針分進んだかに相当する、ステッチ数を検知する。
【0036】
測色センサ27は、針落ち位置における糸の色を検知するセンサであって、下縫いの折り返しマーカーや、刺繍開始の色を検知する。なお、測色センサ27は設けられていなくてもよい(
図15の変形例参照)。
【0037】
駆動ドライバ28は、下縫い込み刺繍データに基づいて駆動モータ29を駆動制御する。
【0038】
針上下駆動部291は、所謂天秤と呼ばれ、駆動モータ29に連結する上軸の回転運動を上下運動に変換することで、上糸Nが通された針21の上下の移動を駆動する。
【0039】
下糸回転駆動部292は、上記上軸と、ベルト・カム・クランクを介して連結した下軸の回転運動によって、針21の上下運動と連動して、下糸回転体22を回転させる。
【0040】
X軸駆動部293と、Y軸駆動部294は、ステージ移動駆動部(布送り部)であって、下軸の回転運動によって、針21の上下運動及び下糸回転体22の回転と連動して、布Cが載置されたステージ23のX方向、Y方向の移動を駆動する。この際、布Cを送る方法として、ステージ23の全体を移動させてもよいし、あるいは、ステージ23に形成された穴23O(
図7参照)に設けられた送り歯を移動させてもよい。
【0041】
針上下駆動部291と、下糸回転駆動部292と、X軸駆動部293と、Y軸駆動部294は、1つの駆動モータ29によって連動して駆動される駆動機構となる。そのため、駆動モータ29の回転により、針21の上下運動、下糸回転体22の回転運動、ステージ23上の布CのXY移動が発生する。例えば、針21の1回の上下運動は、下糸回転体22の、1又は整数回の回転運動と連動している。
【0042】
(上糸と下糸の張力)
図5は、布に対する上糸と下糸の上面側と下面側の縫い目の例を示す模式図である。
図5において(a)は上面図であり、(b)は下面図である。
図6は、布上の縫い目における上糸と下糸のバランスを説明する図である。
図6において(a)は上糸と下糸の張力バランスが適正の場合、(b)は上糸の張力が大きい場合、(c)は下糸の張力が大きい場合を示す。
【0043】
刺繍装置2において、針21が降下して針21が布Cを貫通するとき、上糸Nも針21と共に布Cの裏側に引き込まれる。その後、針21が上昇して布Cから抜かれて布Cの表側に戻るときには、布Cとの間の摩擦力により、上糸Nは布Cの裏側にループを作って残る。このとき、下糸回転体22の回転によってループ状の上糸Nに、フック222が引っかかり、上糸Nのループの中に下糸Bが通る。さらに、針21が布Cの上方に上昇する際に、上糸Nと下糸Bとが交わった位置を、布Cまで引き上げることで、布C上に縫い目が形成される。
【0044】
このように形成した縫い目の一例を、
図5に示す。
図5は、上から下へ面を埋めるように模様縫い(サテンステッチ)で刺繍した縫い目の拡大図である。なお、裏面の
図5(b)では糸の関係をわかりやすく説明するため、点線で囲んだ上糸Nと下糸Bとの引っ掛かり部分を緩く示しているが、実際は、引っ掛かり部分は上糸Nと下糸Bは接触して互いに引き合っている。
【0045】
図6は、
図5の一点鎖線で示す領域の断面図である。
図5の縫い目の断面において、上糸と下糸の張力バランスが適正の場合は、
図6(a)に示すような断面となる。
【0046】
このように形成した縫い目において、上糸Nの張力が大きい場合、
図6(b)に示すように上糸Nが下糸Bを引くため、
図6(a)の適正バランスの場合と比較して、上糸Nの布Cの裏側への回り込み量が少なくなる。即ち、裏面側における、下糸の長さBLが長く、上糸の長さNLが短くなる。そのため、上糸の張力が大きい状態が続くと、上糸の消費量(使用量)が予測よりも少なくなり、上糸Nの消費速度が遅くなる。
【0047】
一方、上糸の張力が小さい場合、
図6(c)に示すように上糸Nが下糸Bに引かれるため、
図6(a)の適正バランスの場合と比較して、上糸Nの布Cの裏側への回り込み量が多くなる。即ち、裏面側における、下糸の長さBLが短く、上糸の長さNLが長くなる。そのため、上糸の張力が小さい状態が続くと、上糸Nの消費量が予測よりも多くなり、上糸Nの消費速度が速くなる。
【0048】
このように、上糸Nの消費速度は布Cの裏への回り込み量に左右される。
図6(b)や
図6(c)のように回り込み量が予測から異なる状況で、刺繍を続けていくうちに上糸の消費の予測量と、実際に累積で消費される糸量に大きく差が出てくる。本発明では刺繍よりも、上流側の染色装置1における上糸の染色は糸消費量の予測位置に対して行うため、色付きの糸が正しい位置に配置されないと、刺繍後の色の位置がずれ、布上の刺繍模様の画が崩れてしまう。
【0049】
そこで本発明では、糸の色の変わり目において、想定された位置から下縫いを開始し、検知された糸上の折り返しマーカーの位置で折り返して一往復するように下縫いを行うことで、想定された刺繍位置と実際の刺繍位置とのずれ量を吸収するように、長さを調整した下縫い動作を実施することによって、糸消費量の調整を行う。上糸Nの色の折り返しマーカー(実際の糸の消費量)の検知方法については、下記
図7で説明する。
【0050】
(検知手段)
図7は、本発明の検知手段の説明図である。なお、
図7では、刺繍ヘッド20、下糸回転体22は、省略している。
図7において、(a)は測色センサとステッチカウンタが別体である例を示し、(b)は一体型の検知手段の例を示す。
【0051】
図7(a)に示す別体型の検知手段は、ステッチ数を数えるステッチカウンタ26と、糸の色を検知する測色センサ27の2つによって、刺繍データ内の現在位置検知と消費量検知が実現される。
【0052】
測色センサ27は、例えば、カラーレーザーセンサ等の光学式センサであって、少なくとも糸の色が検知可能なセンサである。カラーレーザーセンサは、光を投光部から発射し、検出物体によって反射する光を受光部で検出する光電センサの一種である。カラーレーザーセンサは、赤色、青色、緑色のそれぞれの受光量を検知することができるため、対象物の色(針と糸の色)を判別することが可能なので、下縫い中に、目印となる折り返しマーカーを検知できる。
【0053】
本構成では、刺繍動作中の現在位置を把握して、色替え点の想定位置を検出するために、ステッチ数を数える独立型のステッチカウンタ26が設けられている。ステッチカウンタ26は、針21の上下運動を検知するセンサであって、例えば針21を保持する針棒に設けられ、針21が何回昇降したか、即ち何針分進んだかに相当する、ステッチ数を検知する。
【0054】
本構成では、ステッチカウンタ26が検知した布Cに対して針21が刺さる針落ちタイミングで、カラーレーザーセンサである測色センサ27が色を検知することで、ステッチ数と、針の針穴の位置にある糸の色を同時に検知することができる。
【0055】
図7(b)に示す一体型の検知手段270は、例えば、記憶機能付きのカラーレーザーセンサである。検知手段270は、
図7(b)に示すように、布Cに対して針Nが刺さる針落ち位置を対象物の照射範囲としており、針21が布Cに刺さる瞬間に、その時間と色とを検出する。これにより、一体型検知手段270は、針落ち回数をカウントすることでステッチ数を検知できるとともに、布に対して縫い目(ステッチ)の形成に使用されるタイミングでの、糸の色を同時に検知することができる。
【0056】
上記
図7では、別体型でも、一体型でもステッチ数の検知手段を有している例を示しているが、1つのカラーレーザーセンサで構成される測色センサ27を色の検知のみに使用し、ステッチカウンタの機能を設けずに、刺繍データを基に駆動する駆動ドライバ28から、現在位置に対応するステッチ数を呼び出してもよい。布Cに対して針21が刺さる針落ちタイミングで、後段の演算機構25の内部で、駆動ドライバ28の動作と連動して、想定される色替え点に相当するステッチ数をカウントしてもよい。
【0057】
これらにより、いずれの検知方法を用いても、刺繍動作中において、刺繍に使用される針21における糸の色の変わり目である糸上の折り返しマーカーと、色替え点をカウントするための刺繍動作中の現在位置を、時間的に誤差なくリアルタイムに把握することができる。
【0058】
(機能ブロック)
図8は、第1実施形態の染色、刺繍動作に係る染色データ処理部、刺繍データ処理部および演算機構の機能ブロック図である。
【0059】
本実施形態では、刺繍データ処理部は、刺繍装置に設けられ、染色データ処理部は、刺繍装置に設けられている例を説明する。
【0060】
染色装置1の染色データ処理部107は刺繍イメージ・刺繍データ取得部701と、初期染色データ作成部702と、冗長データ有無判定部703と、色差閾値記憶部704と、継続長さ閾値記憶部705と、冗長データ・折り返しマーカー設定部706と、冗長データ・折り返しマーカー込み染色データ作成部707とを実行可能に有している。
【0061】
刺繍装置2の刺繍データ処理部24は、刺繍イメージ取得部401と、初期刺繍データ作成部402と、下縫いデータ作成部403と、下縫い込み刺繍データ作成部404とを有する。
【0062】
刺繍装置2の演算機構25は、ステッチ位置算出部501と、現在位置把握部502と、下縫い開始位置記憶部503と、下縫い開始指示部504と、下縫い往路カウント部505と、往路ステッチ数記憶部506と、下縫い復路カウント部507と、下縫い折り返し指示部508と、折り返しマーカー色記憶部509と、刺繍開始指示部510と、刺繍開始色記憶部511と、を有する。
【0063】
演算機構25は、下縫い制御部として機能する。
【0064】
刺繍装置2の刺繍データ処理部24の刺繍イメージ取得部401は、画像データである刺繍イメージ(刺繍ファイル)を取得する。
【0065】
初期刺繍データ作成部402は、取得した刺繍イメージに基づいて、刺繍データ(初期刺繍データ)を作成する。刺繍データとは、上述のように針21を移動する座標のデータとその位置で何をするかがペアになったデータである。なお、
図8では、刺繍データ処理部24において、刺繍イメージに基づいて、刺繍データを作成する例を示しているが、刺繍データ(初期刺繍データ)が直接外部から入力されてもよい。
【0066】
染色装置1の刺繍イメージ・刺繍データ取得部701は、刺繍装置2から、刺繍イメージと刺繍データを取得する。
【0067】
初期染色データ作成部702は、刺繍イメージおよび刺繍データを基にして、染色データ(初期染色データ)を作成する。詳しくは、初期染色データ作成部702は、刺繍データに含まれる、糸の色を実現するために染色に使用するKCMY各色の配合量と、KCMYの吐出ヘッド30K~30Yにおける各色の染色継続長さの情報を含む染色データを作成する。
【0068】
冗長データ有無判定部703は、作成された染色データの色替え位置に、冗長データを挿入するか否か判定する。
【0069】
色差閾値記憶部704は、冗長データが必要となる隣り合う2色の色差の閾値が記憶されている。継続長さ閾値記憶部705は、冗長データが必要となる隣り合う2色のその色の継続長さの閾値が記憶されている。
【0070】
冗長データ有無判定部703は、染色データにおいて、色の変わり目(色替え点)における隣り合う2色の色差に基づいて、複数の色の変わり目の中から、冗長データを挿入する(差し込む)、色の変わり目を選択する。例えば、色差が非常に小さい時やグラデーションの場合、布上の刺繍における糸色の位置ずれは気にならない。そこで、冗長データ有無判定部703は、色替え点における隣り合う2色の色差が、色差閾値記憶部704に記憶されたある閾値を超えた場合に冗長データを挿入し、ある閾値以下では冗長データを挿入しない、という判断をする。
【0071】
冗長データ有無判定部703は、染色データにおいて、色の変わり目における隣り合う2色のその色の染色の継続長さに基づいて冗長データを挿入するか否かを選択する。本発明では、予定された次の色の刺繍領域の下側を縫う下縫いによって糸消費量を調整するため、次の糸色がある程度長さ続かないと本刺繍で下縫いを隠蔽することができない。また、計算上の糸消費量と実際の糸消費量の差は、刺繍するほど大きくなるため、極短距離の刺繍では刺繍と糸色の位置ずれが小さく、気にならない。そこで、冗長データ有無判定部703は、色替え点における隣り合う2色の長さがともに、継続長さ閾値記憶部705に記憶されたある閾値を超えた場合に冗長データを挿入し、ある閾値以下では冗長データを挿入しない、という判断をする。
【0072】
冗長データ・折り返しマーカー設定部706は、冗長データにおける、折り返しマーカー位置を設定する。糸上の折り返し目印となる折り返しマーカーの位置は、冗長マーカーの中点に設定される。また、折り返しマーカーは、下縫いにおける方向調整ステッチとなるため、位置ずれと、折り返しを考慮して、方向調整ステッチの1ステッチ程度であって、2ステッチ未満の長さに設定されると好適である。
【0073】
冗長データ・折り返しマーカー込み染色データ作成部707は、初期染色データの色替え点に、必要に応じて、折り返しマーカー込みの冗長データを加えた染色データを作成する。
【0074】
ここで、
図9の模式図を用いて、本発明の染色装置1における染色データの加工について説明する。
図9において(a)は初期染色データを示し、(b)は冗長データ・折り返しマーカー込み染色データを示す。
【0075】
詳しくは、
図9(a)は、冗長データ挿入前の初期染色データを示し、初期染色データは、理想的に糸が消費されるとして計算上で求めた場合の染色データに相当する。この場合、刺繍始点をA、刺繍デザイン上の色替え点をB、刺繍終点をCとして、
図9(a)に示すようにABとBCをそれぞれ目的の色に染色すればよい。しかし、実際の刺繍においては、刺繍する布のたわみ、厚みのばらつきや、
図6に示すような下糸・上糸の張力のばらつき、外的環境等により、糸消費量が刻々と変化する。
【0076】
そこで、本発明では、糸消費が想定より多かった場合を考慮して、染色データに糸消費ばらつきの次回の不足分を吸収できる分だけ冗長データを挿入するように染色する。
【0077】
図9(b)は、冗長データ挿入後の編集染色データを示し、
図9(a)の挿入前のB点に対応する位置に、BB´分の冗長データを挿入した図になる。後述するように、本発明では、冗長データに沿って染色された冗長染色領域の分および糸消費ばらつき分について、往復するように下縫いすることで消費して、糸の消費量を調整する。この下縫い折り返しの目印としてBB´の中点に折り返しマーカーDを挿入しておく。
【0078】
また、
図9(b)に示すように、染色データに挿入される冗長データは、折り返しマーカーを境界として、前半は色替え前の色と同じ色の領域であり、後半は色替え後の色と同じ色の領域である。そして、前半と後半の長さは略等しい。
【0079】
また、染色データにおいて、色の境界に差し込まれる折り返しマーカーは、色の変わり目で隣り合う2色とは異なる色である。目印となる折り返しマーカーが、色の変わり目で隣り合う2色とは異なる色であることで、隣り合う色によっては境目がわかりづらい場合でも、境界がはっきり認知できるようになる。
【0080】
本発明では、糸上の折り返しマーカーが、測色センサ27や、ユーザーの目視によって検知する目印となり、折り返しマーカーが下縫いの折り返しタイミングの起点となる。糸上の折り返しマーカーが針落ち点で検知されることで、刺繍データの進行に左右されない、糸上の折り返しマーカーまでの実際の糸消費量が検知される。
【0081】
冗長データ・折り返しマーカー込み染色データ作成部707は、このように作成した、冗長データ・折り返しマーカー込みの染色データである編集染色データを演算機構108、および刺繍装置の下縫いデータ作成部403に出力する。
【0082】
図8に戻って、染色装置1の演算機構108は、ヘッドドライバ39を駆動制御して、染色データに従って、所定の搬送速度で、上糸を染色させるように、染色部103の各吐出ヘッド30Kから30Yに染色用の液体を吐出させる。
【0083】
刺繍装置2の刺繍データ処理部24における下縫いデータ作成部403は、冗長データ・折り返しマーカー込み染色データ作成部707で作成された折り返しマーカー入り冗長マーカー込みの染色データに基づいて、下縫いデータを作成する。下縫いデータは、冗長データに沿って染色される冗長染色領域の長さよりも十分に長い距離分、次の色の糸の刺繍予定領域の下に隠れるように、下縫いする用に設定される。なお、本発明では、下縫いの長さが上糸の消費量調整のために増減するため、下縫いデータは、上糸の消費量調整のために、糸上の冗長染色領域よりも長く下縫いしても、次の色の刺繍模様の下に隠れるように設定されると好適である。
【0084】
なお、下縫いデータでは、往路と復路で経路が同じになるように設定されており、復路の各ステッチのステッチ長さが往路とは逆順になるように設定されている。また、下縫い往路を実行中に、下縫い往路データの途中で中断して折り返して、下縫い復路を開始する際の下縫い復路データの開始位置は、下縫い往路データの中断点に対応する位置となる。即ち、下縫い復路データ中の本来の折り返し点から中断点に対応する位置まではカットして、既に塗った下縫い往路の縫い部に沿うような下縫い復路データに基づいて、下縫い復路の刺繍を行う。
【0085】
下縫い込み刺繍データ作成部404は、作成した下縫いデータを、刺繍データに挿入する(差し込む)。
【0086】
刺繍装置2の演算機構25において、ステッチ位置算出部501は、ステッチカウンタ26から出力される何針分すすんだか、即ち、現在どのステッチを縫っているのかのデータであるステッチデータ(累積ステッチ数)をリアルタイムに取得する。なお、ステッチ位置算出部501は、ステッチカウンタではなく、駆動ドライバ28からの情報を基に、刺繍データにおける刺繍の現在位置を算出してもよい。
【0087】
現在位置把握部502は、刺繍データと、ステッチデータから、刺繍データのうちどこまで刺繍をすすめたかという、現在の刺繍位置を算出し、刺繍の進行度を把握する。
【0088】
下縫い開始位置記憶部503には、刺繍データの色替え点に挿入された下縫いデータの開始位置を予め記憶しておく。
【0089】
下縫い開始指示部504は、ステッチ数から算出される現在の刺繍位置データが、色替え位置に到達し、かつその色替え位置に下縫いデータが存在したら、駆動ドライバ28に通知して、本縫い動作を停止して下縫い動作を開始させる。
【0090】
下縫い往路カウント部505は、下縫い開始と同時に下縫い往路のステッチ数をカウントする。
【0091】
上糸表面の色の変化を検知する測色センサ27は、下縫い折り返し指示部508、刺繍開始指示部510に接続されている。
【0092】
刺繍開始色記憶部511は、刺繍(本縫い動作)を開始させる刺繍の色を記憶しておく。
【0093】
測色センサ27は刺繍を開始する色を検知したら、刺繍開始指示部510は、駆動ドライバ28に通知して、本縫い動作を開始させる。
【0094】
折り返しマーカー色記憶部509は、冗長データ内に設けられる折り返しマーカーの色を記憶しておく。
【0095】
測色センサ27が、折り返しマーカー色記憶部509に記憶された折り返しマーカーの色を検知したら、下縫い折り返し指示部508は、駆動ドライバ28に通知して、下縫い動作を折り返させるとともに、折り返し指示を、往路ステッチ数記憶部506と、下縫い復路カウント部507へ通知する。
【0096】
駆動ドライバ28は、折り返し指示が届くと、下縫い往路を中断して下縫い復路を開始する。下縫い復路では、往路と経路が同じになるよう(往路を辿るよう)、往路の縫い部に沿って、各ステッチのステッチ長さが往路とは逆順になるように、下縫い開始地点に戻るまで運針される。
【0097】
往路ステッチ数記憶部506は、折り返しマーカーによる下縫い折り返し指示が届いたら、下縫い開始時から折り返しマーカーまでカウントされた、下縫い往路のステッチ数を記憶する。
【0098】
下縫い復路カウント部507は、下縫い折り返し指示の次のステップから下縫い復路のステッチ数をカウントして、ステッチ数が下縫い往路と同数に到達したら、駆動ドライバ28に通知して下縫いを終了させ、次の色の本刺繍を開始させる。下縫いデータにより、復路での縫い部の各ステッチのステッチ長さは、隣接して並進する往路の縫い部のステッチ長さと同じであるため、復路のステッチ数を往路と同じにすることにより、往路と復路の下縫いの長さが等しくなる。
【0099】
なお、本例では、ステッチ数をカウントすることで、下縫い中の現在位置を把握して、往路と復路の長さをそろえたが、駆動ドライバ28の進行情報により現在位置を把握して、往路と復路の長さをそろえてもよい。
【0100】
本発明では、変化する色で染色しながら刺繍する染色・刺繍システムにおいて、色替え点において、必要に応じて折り返しマーカー付きの冗長データを、必要な長さ分挿入するように染色データを作成し、刺繍中、下縫いが、冗長データに従って染色された冗長染色領域の中点の折り返しマーカーに到達したら、下縫いの往路の長さに寄らずに折り返すことで、長さが調整された下縫いで、上糸の消費量を調整することができる。
【0101】
また、本実施形態では、刺繍位置が糸上の折り返しマーカーに到達したことが、
図7に示すように刺繍ヘッド20の針21近傍に配備した、糸色を検知する糸色検知装置である測色センサ27によって検出される。このように本実施形態では、下縫いの折り返し信号を測色センサ27に基づいて発出するため、刺繍動作の流れの中で、ユーザーが確認することなく、精度よく、装置内で下縫いを完結させることができる。
【0102】
(刺繍位置調整動作)
図10は、本発明の染色・刺繍フローの装置間やりとりを示すシーケンス図である。
【0103】
ステップS101で、刺繍イメージが入力されると、ステップS102で、刺繍装置において、刺繍データ(初期刺繍データ)を作成する。
【0104】
ステップS103で、刺繍イメージ及び刺繍データを染色装置1に送信する。
【0105】
ステップS104で、染色装置1において、初期刺繍データに沿って、それぞれの継続長さで変化する色で、染色させる染色データ(初期染色データ)を作成する。
【0106】
ステップS105で、染色データの色替え点の前後の色差、および前後の色の継続長さに基づいて、染色データの色替え点における冗長データの挿入の要否を判定する。
【0107】
ステップS106で、冗長データが必要な場合は、色替え点の前後の色の継続長さに基づいて、色替え点に挿入される、冗長データの長さと、折り返しマーカーの色を設定する。
【0108】
ステップS107で、設定された折り返しマーカー付き冗長データを挿入した染色データ(編集染色データ)を作成する。
【0109】
ステップS108で、冗長データ・折り返しマーカー込みの染色データを、刺繍装置2へ送信する。
【0110】
ステップS109で、下縫いデータ込みの刺繍データ(編集刺繍データ)を作成する。
【0111】
ステップS110で、刺繍開始色、折り返しマーカーの色を記憶するとともに、編集刺繍データ内の下縫い開始位置を記憶する。
【0112】
ステップS111で、刺繍装置2の針21とステージ23等を、刺繍開始位置にセットする。
【0113】
ステップS112で、刺繍装置2が、刺繍準備が完了したことを通知すると、ステップS113で、染色装置1において、染色、糸搬送動作を開始する。
【0114】
そして、刺繍装置2において、染色し、供給された糸の刺繍開始色を検知したら、ステップS114で、刺繍動作を開始する。
【0115】
その後、ステップS115で、刺繍制御動作を実施する。この刺繍制御動作の詳細は、
図11とともに後述する。
【0116】
ステップS116で、編集染色データが終了したら、染色装置、上糸搬送動作を終了する。
【0117】
また、ステップS117で、編集刺繍データが終了したら、刺繍動作を終了する。
【0118】
図10からわかるように、染色・刺繍動作開始前は、染色装置1、刺繍装置2間で情報のやりとりを行うが、刺繍開始後は、下縫いに関しては、刺繍装置2のみで制御が完結するため、染色・刺繍システム3の動作中の制御を複雑化せずに、本発明の下縫いによる刺繍調整動作を実施できる。
【0119】
図11は、本発明における刺繍動作中の制御に係る詳細フローチャートである。このフローチャートは、
図10のステップS115の詳細フローチャートである。
【0120】
刺繍装置2において、供給された上糸の刺繍開始色が到達したことを検知したら、刺繍動作を開始し、このフローを開始する(
図10のステップS114)。
【0121】
刺繍動作が開始されると、刺繍装置2は、ステップS501で、刺繍データに沿って、布の最表面に見える本刺繍動作を開始する。
【0122】
この刺繍動作において、ステップS502で、刺繍データ上で色の変化がない場合(NO)、即ち1つの色で最後まで刺繍を行う場合は、以降の制御を実施せずに、S512へ進み、刺繍データが終了するまで本刺繍動作を続ける。
【0123】
ステップS502で、刺繍データ上で色の変化がある場合(YES)、S503へ進み、以降の刺繍動作を実施する。
【0124】
ステップS503で、刺繍装置2の演算機構25において、ステッチ数から算出される刺繍データ上の現在の刺繍位置(想定刺繍位置)が、刺繍データ上の色替え点に到達したことを検知したら、ステップS504へ進み、その色替え位置に下縫いデータが挿入されているかどうか確認する。
【0125】
ステップS504で下縫いデータが挿入されていない場合(NO)、以降の下縫い動作はせずに、ステップS511へ進み、現在の色の本刺繍終了後、下縫いをせずに、次の色の本刺繍を開始する。
【0126】
ステップS504で下縫いデータが挿入されている場合(YES)、ステップS505へ進み、本発明の下縫い動作を進める。
【0127】
ステップS505では、現在の色の刺繍データに基づいた本刺繍終了後、下縫い往路を開始するとともに、下縫い往路のステッチ数のカウントを開始する。下縫いデータが挿入されている場合、S503のステッチ数に基づいて、ステッチ数から算出され、刺繍データ上で想定される刺繍位置が刺繍データの色替え点に到達するタイミングで、ステップS505で下縫い動作を開始させるため、糸の消費量にズレがない場合は、刺繍が冗長染色領域に到達したタイミングで下縫い往路を開始する。また、糸の消費量が遅い場合は、刺繍が冗長染色領域に到達していなくても下縫い往路を開始し、糸の消費量が速い場合は、刺繍が冗長染色領域に到達した後に下縫い往路を開始する。
【0128】
ステップS506で、測色センサ27が、折り返しマーカーを検知したら、ステップS507で下縫い往路を終了して、折り返し点である進路調整ステッチを縫うとともに、下縫い往路のステッチ数のカウントを終了してカウントした往路ステッチ数を記憶する。
【0129】
糸の消費量にズレがない場合は、下縫い往路の刺繍距離は
図9(b)の往路冗長染色領域と同じ長さとなり、下縫い往路のステッチ数は作成した下縫いデータで想定した通りのステッチ数となる。
【0130】
また、糸の消費量が遅い場合は、下縫い往路の刺繍距離が往路冗長染色領域よりも長くなり、往路ステッチ数は、下縫いデータで想定した数よりも多いステッチ数となる。
【0131】
一方、糸の消費量が早い場合は、下縫い往路の刺繍距離が、往路冗長染色領域よりも短くなり、往路ステッチ数は下縫いデータで想定した数よりも少ないステッチ数となる。
【0132】
進路調整ステッチを1針縫ったら、ステップS508で、下縫い往路から折り返して、下縫い往路と同じ経路を辿るように、下縫い復路を開始して、下縫い復路のステッチ数のカウントを開始する。下縫い復路で下縫い往路の経路を辿るように縫い部を形成する際、下縫い復路での縫い部の各ステッチのステッチ長さが、隣接して並進する往路の縫い部のステッチ長さと同じになるように、下縫い復路では、各ステッチのステッチ長さが往路とは逆の順番となり、往路と同じ距離だけ、下縫い開始地点に戻るように縫う。
【0133】
ステップS509で、カウントしている下縫い復路のステッチ数が、記憶した往路ステッチ数に到達したら、下縫いが開始位置に戻ったとして、ステップS510で下縫いを終了して、次の色の本刺繍を開始する。
【0134】
このようにすることで、ステッチ往路のステッチ数と同じ数のステッチ数の復路を縫うことができるため、下縫いにおいて一度往復するように刺繍されるので、下縫い開始時点である色替え点に針が戻ってくる。
【0135】
糸の消費量にズレがない場合は、下縫い刺繍の合計の刺繍距離は
図9(b)の冗長染色領域と同じ長さとなり、下縫いに要するステッチ数は作成した下縫いデータで想定した通りのステッチ数となり、次の色の本刺繍は復路冗長領域の終了位置であって、初期染色データに沿って染色された次の色の始まりの位置から開始される。
【0136】
また、糸の消費量が少なく、予定よりも遅い場合は、下縫い刺繍の合計の刺繍距離は、冗長染色領域よりも長くなり、次の色の本刺繍は、復路冗長領域が終了した後に、初期染色データに沿って染色された次の色の始まりの位置から少し遅れて開始される。これにより、遅れ傾向であった上糸の消費が、次の色の開始時点で予め多めに消費することで、次の色替え点での調整距離を短くすることができる。
【0137】
また、糸の消費量が多く、予定よりも早い場合は、下縫い刺繍の合計の刺繍距離は、冗長染色領域よりも短くなり、次の色の本刺繍は、復路冗長領域が終了する前に、初期染色データに沿って染色された次の色の始まりの位置よりも早く開始される。
【0138】
ステップS511で、以降の刺繍データ上で、色の変化(下縫いデータ)があるかどうかを判断する。ある場合は、S503の前に戻り、今回の下縫い期間と同様に、S503~S511を実施して、折り返し点を使用した下縫い動作を行って、それを反映する、このループを繰り返す。そして、色替え点が到達しない場合、ステップS513で刺繍データが終了するまで最後まで本刺繍動作を継続する。
【0139】
(下縫いによる消費量調整の具体例)
次に、
図12~
図14の模式図を用いて冗長データに従った染色領域(冗長染色領域)と折り返しマーカーを用いた下縫いの効果について説明する。
【0140】
図12は、本発明の刺繍制御動作における、下縫い長さの具体例を示す図である。
図12において(a)は刺繍位置にズレがない場合の図を示し、(b)は想定糸消費量<実際の糸消費量の場合を示し、(c)は想定糸消費量>実際の糸消費量の場合を示す。
【0141】
まず、
図12(a)で示すように刺繍位置にズレがない場合、即ち、想定糸消費量=実際の糸消費量の場合、下縫いを開始するタイミングである、ステッチ数から算出される刺繍位置が刺繍データ上の色替え点Eに到達するタイミングは、刺繍位置が、上糸の染色データに従った染色領域から冗長染色領域に到達したタイミングtsと同じタイミングになる。
【0142】
測色センサ27が、折り返しマーカーを検知したら、下縫い往路を終了して、折り返し点である進路調整ステッチを縫うとともに、下縫い往路ステッチのカウントを終了してカウントした往路ステッチ数を記憶する。
図12(a)における、下縫い往路の刺繍距離EDは往路冗長染色領域BDと同じ長さ(ED=BD)となり、往路ステッチの数は下縫いデータから想定された通りのステッチ数となる。
【0143】
そして、針落ち位置で折り返しマーカーが検出された点Dにおけるそのステッチは、進路調整ステッチとして、下縫い往路から折り返すために、方向を曲げた位置に1針分だけ縫う。
【0144】
進路調整ステッチの後、下縫い復路を開始して、下縫い復路ステッチのカウントを開始する。そして、カウントしている下縫い復路のステッチ数が、記憶した往路ステッチ数に到達したら、下縫いを終了して、次の色の本刺繍を開始する。このようにすることで、ステッチ往路のステッチ数と同じ数のステッチ数の復路を縫い、折り返しマーカーを境界として、現在の色の糸の下縫い往路と、同じ距離だけ次の色の糸で復路の下縫いを行う(BD=DB´)。
【0145】
また、本例では、刺繍位置が刺繍データ上の下縫い終了点E´に到達するタイミングは、刺繍位置が上糸の冗長染色領域に到達したタイミングteと同じタイミングになる。そのため、下縫い往路の刺繍距離DE´は往路冗長染色領域DB´と同じ長さ(DE´=DB´)となることにより、
図12(a)における、下縫いの距離、即ち下縫いによる上糸消費量は、冗長染色領域の長さと等しくなる(EE´=BB´)。
【0146】
また、
図12(b)で示すように想定糸消費量<実際の糸消費量の場合、実際の刺繍位置が、上糸の冗長染色領域の先端Bに到達するタイミングtsよりも前に、ステッチ数から算出される刺繍位置が刺繍データ上の色替え点(想定上の色替え点)Eに到達する。即ち、実際の糸上の冗長染色領域は、予測より遅く到達する。
【0147】
実際の冗長染色領域の先端Bよりも前の、想定された色替え点Eから色替えを開始して、測色センサ27が、折り返しマーカーを検知するまで、下縫いの往路を行うため、本例の下縫い往路の刺繍距離EDは往路冗長染色領域BDよりも、位置E~位置Bに対応する刺繍長さ分だけ、上糸消費量が多い。
【0148】
そして、折り返しマーカー検出点Dにおける進路調整ステッチの後、往路と同じ距離だけ、復路の下縫いを行う。そのため、本例では、ステッチ数から算出される刺繍位置が刺繍データ上の下縫い終了点E´に到達するタイミングは、実際の刺繍位置が、上糸の冗長染色領域が終了し次の色の染色データに沿った染色領域に到達したタイミングteよりも遅く到達する。よって、
図12(b)における、下縫いによる上糸消費量は、冗長染色領域の長さBB´よりも、位置E~位置Bに対応する刺繍長さと、位置B´~位置E´に対応する刺繍長さ分だけ、長くなる。
【0149】
したがって、下縫いが終了する時点で、次の本刺繍の、位置E´~位置B´に対応する長さが既に消費されているため、その分の糸消費量が、次の色の継続長さで消費される糸消費量から差し引かれ、次の色替えにおける遅れをなくしたり、少なくしたりするように、上糸の消費を調整することができる。
【0150】
また、
図12(c)で示すように想定糸消費量>実際の糸消費量の場合、実際の刺繍位置が、上糸の冗長染色領域の先端Bに到達するタイミングtsよりも後に、ステッチ数から算出される刺繍位置が刺繍データ上の色替え点(想定上の色替え点)Eに到達する。即ち、実際の糸上の冗長染色領域は、予測より早く到達する。
【0151】
実際の冗長染色領域の先端Bよりも後の、想定された色替え時点Eから色替えを開始して、測色センサ27が、折り返しマーカーを検知するまで、下縫いの往路を行うため、本例の下縫い往路の刺繍距離EDは往路冗長染色領域BDよりも、位置B~位置Eに対応する刺繍長さ分だけ、上糸消費量が少ない。
【0152】
そして、折り返しマーカー検出点Dにおける進路調整ステッチの後、往路と同じ距離だけ、復路の下縫いを行う。そのため、本例では、ステッチ数から算出される刺繍位置が刺繍データ上の下縫い終了点E´に到達するタイミングは、実際の刺繍位置が、上糸の冗長染色領域が終了し次の色の染色データに沿った染色領域に到達したタイミングteよりも早く到達する。よって、
図12(c)における、下縫いによる上糸消費量は、冗長染色領域の長さBB´よりも、位置B~位置Eに対応する刺繍長さと、位置E´~位置B´に対応する刺繍長さ分だけ、短くなる。
【0153】
したがって、下縫いが終了する時点で、位置E´~位置B´に対応する長さの冗長染色領域がまだ消費されていないため、その分の糸消費量が、次の色の継続長さで消費される糸消費量に追加されるため、次の色における色替えにおける進み分をなくしたり、少なくしたりするように、上糸の消費を調整することができる。
【0154】
このような下縫い制御により、上糸における、現在の色の染色領域の終了端近傍を、次の色の染色領域が始まる前に確実に消費させるとともに、次の色の染色領域の近傍の糸長さを調整することで、次回の色替え点における位置ずれを回避させるように消費量を調整することができる。これにより、布上の刺繍の色の位置ズレを回避するとともに、糸消費量のズレの蓄積を防ぐことができるため、上糸の色の変わり目の刺繍表面への露出や、布上の刺繍模様の画が崩れることを予防することができる。
【0155】
ここで、折り返しをさせる下縫いに対応する、冗長染色領域における前半と後半の長さは等しいため、本発明の上糸の消費量の調整は、現在の色の染色領域の長さABと、次の色の染色領域の長さB´Cが等しいほど有効となる。
【0156】
図13は、実際の上糸消費量が想定よりも少ない場合の本発明の刺繍制御動作を実施した刺繍模様の具体例を示す図である。ここで、一例として、現在刺繍中の糸の色を青糸とし、色替え後の次の刺繍予定の糸の色を赤糸として説明する。
【0157】
図13において、(a)は目的の刺繍イメージを示す図、(b)は現在の青糸の実際の本刺繍終了時の状態を示す図、(c)は下縫いの折り返し点の状態を示す図、(d)は下縫い終了時の状態を示す図、(d)は次の赤色の本刺繍開始後の状態を示す図である。
【0158】
図13における時点t1~t4は、
図12(b)における時点t1~t4と対応している。
【0159】
図13(b)のt1の現在の青糸の本刺繍終了時では、染色データに従って染色した上糸の青糸の消費量が少なく、上糸が余っているため、このまま本刺繍を続けると、次の赤の刺繍領域の先端を青糸で縫ってしまう。
【0160】
そこで、赤糸の刺繍領域(刺繍予定領域)の下側で、下縫いを開始し、折り返しマーカーまで青糸で往路の下縫いを行う。この際、染色データに従って染色した青糸と、冗長データに従って染色した青糸を用いて、現在の糸色である青糸の往路の下縫いを行う。
【0161】
図13(c)に示すように、t2で、下縫いが折り返しマーカーまで到達したら、進路調整ステッチを一針縫って、下縫いを折り返して、下縫いの復路を開始させる。
【0162】
そして、折り返しマーカーから、青糸と同じ距離だけ赤糸で復路の下縫いを行う。この際、冗長データに従って染色した赤糸と、染色データに従って染色した赤糸とを用いて、次の糸色となる赤糸で復路の下縫いを行う。
【0163】
図13(d)に示すように、t3で、下縫いが元の位置まで到達したら、即ち、復路ステッチ数が往路ステッチ数と同じになったら、次の糸色である赤色で本刺繍を行う。下縫い復路では、
図13(d)に示すように、往路と経路が同じになるよう、往路の縫い部に沿って、各ステッチのステッチ長さが往路とは逆順になるように、下縫い開始位置に戻るまで運針される。そのため、往路と復路の下縫いの長さが等しくなり、下縫いにおける青糸と赤糸の消費量が等しいため、本例では、冗長データに従った染色領域と染色データに従った染色領域を用いて、下縫いを実施する。よって、本例のt3では、
図13(d)に示すように、本刺繍のための赤糸を、下縫いである程度消費した状態で本刺繍を開始している。
【0164】
そして、
図13(e)で示すように、下縫いで消費され短くなった染色データに従った染色領域を、本刺繍に使用しながら、次の色の本刺繍を続ける。
【0165】
本例では、下縫いで上糸を余計に消費して、ズレ量を吸収した分、終点での糸消費量ズレも少なくなる。これ以降に本刺繍と、色替え点での下縫いとを繰り返す場合でも、同様の下縫いを繰り返すことで、消費量を最後まで調整することができる。
【0166】
図14は、実際の上糸消費量が想定よりも多い場合の本発明の刺繍制御動作を実施した刺繍模様の具体例を示す図である。
【0167】
図14において、(a)は目的の刺繍イメージを示す図、(b)はステッチ数から予測された青糸の本刺繍終了時の状態を示す図、(c)は下縫いの折り返し点の状態を示す図、(d)は下縫い終了時の状態を示す図、(d)は次の赤色の本刺繍開始後の状態を示す図である。
【0168】
図14におけるBに対応する時点は
図12(c)の時点t1よりも少し前の状態を示し、時点t2~t4は、
図12(c)における時点t2~t4と対応している。
【0169】
図14(b)の冗長染色領域の開始位置Bの時点では、染色データに従って染色した上糸の青糸の消費量が多く、下縫いがないと、青の刺繍領域の終端を、次の赤糸で縫ってしまう。
【0170】
そこで、下縫いを開始し、折り返しマーカーまで青糸で往路の下縫いを行う。この際、冗長データに従って染色した青糸を用いて、現在の糸色である青糸の往路の下縫いを行う。
【0171】
図14(c)に示すように、t2で、下縫いが折り返しマーカーまで到達したら、進路調整ステッチを一針縫って、下縫いを折り返して、下縫いの復路を開始させる。
【0172】
そして、折り返しマーカーから、青糸と同じ距離だけ赤糸で復路の下縫いを行う。この際、冗長データに従って染色した赤糸を用いて、次の糸色となる赤糸で復路の下縫いを行う。
【0173】
図14(d)に示すように、t3で、下縫いが元の位置まで到達したら、即ち、復路ステッチ数が往路ステッチ数と同じになったら、次の糸色である赤色で本刺繍を行う。下縫い復路では、
図14(d)に示すように、往路と経路が同じになるよう、往路の縫い部に沿って、各ステッチのステッチ長さが往路とは逆順になるように、下縫い開始地点に戻るまで運針される。そのため、往路と復路の下縫いの長さが等しくなり、下縫いにおける青糸と赤糸の消費量が等しいため、本例では、冗長データに従った染色領域だけで下縫いを実施する。
【0174】
そして、
図14(e)で示すように、冗長データに従った染色領域も本刺繍に使用しながら、次の色の本刺繍を続ける。本例では、下縫い用の冗長データに従って染色した赤糸を用いて、染色データに従って染色した赤糸に到達する前から、赤色の刺繍領域の本刺繍を開始する。
【0175】
本例では、下縫いで上糸を少なく消費して、ズレ量を吸収した分、終点での糸消費量ズレも少なくなる。これ以降に本刺繍と色替え点における下縫いとを繰り返す場合でも、同様の下縫いを繰り返すことで消費量を最後まで調整することができる。
【0176】
このように、本発明では、刺繍デザインに表れない、次の縫い部(刺繍領域)の下部において、差し込んだ折り返し点に基づいて一度往復するように下縫いすることで、計算上の糸消費量と実際の糸消費量のズレとを調整し、刺繍色ずれを調整することができる。これにより、色が変化するように染色しながら刺繍を行う捺染・刺繍システムにおいて、現在の色替えにおける刺繍位置の調整に加えて、次回以降の色替え点における刺繍位置ずれを未然に防ぐように調整することができる。
【0177】
(変形例)
図15は、本発明の第1実施形態の刺繍装置の変形例を示す図である。
【0178】
上記では、下縫いの折り返しマーカーを測色センサによって検出する例を説明したが、下縫いの折り返しマーカーは、ユーザーによって任意に選択されてもよい。
【0179】
本変形例では、ユーザーが、折り返しマーカーが針落ち位置に到達したことを目視により検出したら、例えば、
図15に示すボタン201を操作することにより、下縫いの折り返し信号を発出する。
【0180】
本変形例では、刺繍位置が折り返しマーカーに到達したことを、操作者の目視によって検出される。そのため、既存の刺繍装置2Aにおいて、測色センサを追加することなく、本発明の下縫い調整による上糸消費量調整を実現することができる。
【0181】
<第2実施形態>
図16は、本発明の第2実施形態に係る染色・刺繍システム(捺染・刺繍システム)の側面概略図である。本実施形態では、染色・刺繍システム3Bに対して上位装置である上位制御装置4が接続されている。上位制御装置4は、コンピュータ等の情報処理装置である。
【0182】
図17は、第3実施形態の、上位制御装置4、染色装置1B及び刺繍装置2Bの制御に係る部分の機能ブロック図である。
図8と同様の部分は説明を割愛する。
【0183】
本実施形態では、
図8の染色装置1の染色データ処理部および刺繍装置2の刺繍データ処理部の機能を、上位制御装置4で実現している。
【0184】
上位制御装置4は入力部410、染色データ処理部420、及び刺繍データ処理部430を実行可能に有している。
【0185】
入力部410は、刺繍イメージ入力部411と、必要に応じて下縫い量選択部412を有している。上記例では、染色データ処理部によって、冗長データの挿入の有無および冗長データの長さを判断したが、ユーザーからの指示により、下縫い量の有無や長さ等を外部から選択してもよい。
【0186】
染色データ処理部420は初期染色データ作成部421と、冗長データ有無判定部422と、色差閾値記憶部423と、継続長さ閾値記憶部424と、冗長データ・折り返しマーカー設定部425と、冗長データ・折り返しマーカー込み染色データ作成部426とを実行可能に有している。
【0187】
刺繍データ処理部430は、初期刺繍データ作成部431と、下縫いデータ作成部432と、下縫いデータ挿入部433とを有している。
【0188】
上位制御装置4では、同一の装置内に、染色に係る染色データ処理部と、刺繍に係る刺繍データ処理部とを有しているため、データのやりとりのための通信部や取得部は不要となる。
【0189】
このような構成の染色・刺繍システムでは、刺繍動作開始前に、上位制御装置4は染色データおよび刺繍データを作成し、染色データを染色装置1Bへ伝達し、刺繍データを刺繍装置2Bへ伝達する。そして、刺繍動作開始後は、染色装置1B、刺繍装置2Bは独立して動作を実行する。
【0190】
本システムにおいても、刺繍データに基づいた染色データにおいて、必要に応じて折り返しマーカー付きの冗長マーカーを挿入し、刺繍データ上の色替え点で下縫いデータが存在したら、想定された刺繍位置から下縫いを開始して、糸上の折り返しマーカーで折り返して一往復するように下縫いを行うことで、想定された刺繍位置と実際の刺繍位置とのずれ量を吸収するように長さを調整した下縫い動作を実施する。これにより、色が変化する連続した糸を用いた刺繍動作中に、実際の糸消費量が想定からずれても、今回の色替え点における布上の刺繍の色の位置ズレを回避するとともに、次回以降の色替え点における、糸消費量のズレの蓄積を防ぐことができる。これにより、上糸の色の変わり目の刺繍表面への露出や、布上の刺繍模様の画の崩れを予防することができる。
【0191】
<第3実施形態>
図18は、本発明の第3実施形態に係る染色・刺繍装置の側面概略図である。
【0192】
本実施形態の染色・刺繍装置(捺染・刺繍装置)5では、1つの筐体内に、染色ユニット51と、刺繍ユニット52と、演算機構53を有する、インライン一体型の装置である。
【0193】
本実施形態では、同一の装置内において、染色ユニット51と、刺繍ユニット52が設けられているため、
図4、
図8に示した演算機構108、25の機能を、1つの演算機構53にまとめることができる。
【0194】
本装置においても、想定された刺繍位置から下縫いを開始して、糸上の折り返しマーカーで折り返して一往復するように下縫いを行うことで、想定された刺繍位置と実際の刺繍位置とのずれ量を吸収するように長さを調整した下縫い動作を実施する。これにより、色が変化する連続した糸を用いた刺繍動作中に、実際の糸消費量が想定からずれても、今回の色替え点における布上の刺繍の色の位置ズレを回避するとともに、次回以降の色替え点における、糸消費量のズレの蓄積を防ぐことができる。これにより、上糸の色の変わり目の刺繍表面への露出や、布上の刺繍模様の画の崩れを予防することができる。
【0195】
以上により、本発明の好ましい実施形態及び実施例について説明したが、本発明は、上述した実施形態及び実施例に制限されるものではない。また、本発明は、添付の特許請求の範囲に照らし、種々に変形又は変更することが可能である。
【符号の説明】
【0196】
1,1B 染色装置(捺染装置)
2,2A,2B 刺繍装置
3,3B 染色・刺繍システム(捺染・刺繍システム)
4 上位制御装置
5 染色・刺繍装置(捺染・刺繍装置)
21 針
22 下糸回転体
23 ステージ
24 刺繍データ処理部
25,25B 演算機構(下縫い制御部)
26 ステッチカウンタ
27 測色センサ
28 駆動ドライバ
30 吐出ヘッド(染色ヘッド)
51 染色ユニット(捺染ユニット)
52 刺繍ユニット
B 下糸
C 布
N 上糸
【先行技術文献】
【特許文献】
【0197】