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特開2023-4314心理的ストレスの検出方法及び検出用キット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023004314
(43)【公開日】2023-01-17
(54)【発明の名称】心理的ストレスの検出方法及び検出用キット
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6851 20180101AFI20230110BHJP
   C12Q 1/6876 20180101ALI20230110BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20230110BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20230110BHJP
【FI】
C12Q1/6851 Z ZNA
C12Q1/6876 Z
C12M1/00 A
G01N33/53 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021105923
(22)【出願日】2021-06-25
(71)【出願人】
【識別番号】000155023
【氏名又は名称】株式会社堀場製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(72)【発明者】
【氏名】野村 聡
(72)【発明者】
【氏名】落谷 孝広
(72)【発明者】
【氏名】大島 朋子
(72)【発明者】
【氏名】神谷 洋子
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029AA23
4B029BB20
4B029FA12
4B063QA01
4B063QQ03
4B063QQ52
4B063QR08
4B063QR42
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS34
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】心理的ストレス、特に被虐待等による小児のストレスを高確度に検出可能な新規のバイオマーカー、特に唾液中のmiRNAマーカー、並びに当該バイオマーカーを検出するためのキットを提供すること。
【解決手段】被検対象から採取した生体試料中の特定のマイクロRNA(miRNA)のレベルを測定することを含む、該被検対象における心理的ストレスの検出方法であって、該特定のmiRNAが、miR-30b-5p、miR-223-5p、miR-181a-5p、miR-103a-3p、miR-19b-3p及びmiR-1229-3pからなる群より選択される少なくとも1つである、方法。前記特定のmiRNAの少なくとも1つを検出し得る核酸プローブ又は抗体を搭載した検出部を有する、心理的ストレスの検出用装置。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検対象における心理的ストレスの検出方法であって、該被検対象から採取した生体試料中の特定のマイクロRNA(miRNA)のレベルを測定することを含み、該特定のmiRNAが、miR-30b-5p、miR-223-5p、miR-181a-5p、miR-103a-3p、miR-19b-3p及びmiR-1229-3pからなる群より選択される少なくとも1つである、方法。
【請求項2】
miRNAが、miR-30b-5p、miR-223-5p、miR-181a-5p、miR-103a-3p及びmiR-19b-3pからなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
miRNAが、miR-30b-5p、miR-223-5p及びmiR-181a-5pからなる群から選択される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
miRNAがmiR-30b-5p及び/又はmiR-223-5pである、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
被検対象がヒトである、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
被検対象が小児である、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
生体試料が唾液である、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
心理的ストレスが虐待に起因する、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
虐待が身体的虐待を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の方法により被虐待が疑われる被検対象を、被疑虐待者から隔離することを含む、被虐待者の保護方法。
【請求項11】
被検対象における心理的ストレスを検出するためのキットであって、miR-30b-5pを特異的に検出し得る核酸プローブ及び/もしくは核酸プライマー、又は抗体、miR-223-5pを特異的に検出し得る核酸プローブ及びもしくは核酸プライマー、又は抗体、miR-181a-5pを特異的に検出し得る核酸プローブ及びもしくは核酸プライマー、又は抗体、miR-103a-3pを特異的に検出し得る核酸プローブ及び/もしくは核酸プライマー、又は抗体、miR-19b-3pを特異的に検出し得る核酸プローブ及び/もしくは核酸プライマー、又は抗体、並びにmiR-1229-3pを特異的に検出し得る核酸プローブ及び/もしくは核酸プライマー、又は抗体からなる群より選択される少なくとも1つの核酸プローブ及び/もしくは核酸プライマー、又は抗体を含む、キット。
【請求項12】
核酸プローブ及び/もしくは核酸プライマー、又は抗体が、miR-30b-5pを特異的に検出し得る核酸プローブ及び/もしくは核酸プライマー、又は抗体、miR-223-5pを特異的に検出し得る核酸プローブ及びもしくは核酸プライマー、又は抗体、miR-181a-5pを特異的に検出し得る核酸プローブ及びもしくは核酸プライマー、又は抗体、miR-103a-3pを特異的に検出し得る核酸プローブ及び/もしくは核酸プライマー、又は抗体、並びにmiR-19b-3pを特異的に検出し得る核酸プローブ及び/もしくは核酸プライマーからなる群より選択される、請求項11に記載のキット。
【請求項13】
核酸プローブ及び/もしくは核酸プライマー、又は抗体が、miR-30b-5pを特異的に検出し得る核酸プローブ及び/もしくは核酸プライマー、又は抗体、miR-223-5pを特異的に検出し得る核酸プローブ及びもしくは核酸プライマー、又は抗体、並びにmiR-181a-5pを特異的に検出し得る核酸プローブ及びもしくは核酸プライマー、又は抗体からなる群より選択される、請求項11又は12に記載のキット。
【請求項14】
核酸プローブ及び/もしくは核酸プライマー、又は抗体が、miR-30b-5pを特異的に検出し得る核酸プローブ及び/もしくは核酸プライマー、又は抗体、並びに/或いは、miR-223-5pを特異的に検出し得る核酸プローブ及びもしくは核酸プライマー、又は抗体である、請求項11~13のいずれか1項に記載のキット。
【請求項15】
miR-30b-5p、miR-223-5p、miR-181a-5p、miR-103a-3p、miR-19b-3p及びmiR-1229-3pが、ヒトmiRNAである、請求項11に記載のキット。
【請求項16】
被検対象が小児である、請求項11~15のいずれか1項に記載のキット。
【請求項17】
心理的ストレスが虐待に起因する、請求項11~16のいずれか1項に記載のキット。
【請求項18】
虐待が身体的虐待を含む、請求項17に記載のキット。
【請求項19】
被検対象における心理的ストレスを検出するための装置であって、
該被検対象から採取した生体試料を収容する試料収容部と、
該試料収容部内に設けられた、miR-30b-5pを特異的に検出し得る核酸プローブ又は抗体、miR-223-5pを特異的に検出し得る核酸プローブ又は抗体、miR-181a-5pを特異的に検出し得る核酸プローブ又は抗体、miR-103a-3pを特異的に検出し得る核酸プローブ又は抗体、miR-19b-3pを特異的に検出し得る核酸プローブ又は抗体、並びにmiR-1229-3pを特異的に検出し得る核酸プローブ又は抗体からなる群より選択される少なくとも1つの核酸プローブ又は抗体を含み、該核酸プローブ又は抗体とその標的miRNAとの結合による電荷の変化を検出する検出部と、
検出部からの電荷変化の信号を処理し、標的miRNAのレベルを算出する制御部と、
を有する、装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロRNA(miRNA)の発現レベルを指標とする心理的ストレスの検出方法及びそのためのキット等に関する。
【背景技術】
【0002】
心理的ストレスは、自律神経のバランスの乱れを引き起こし、慢性化するとストレス適応障害、うつ病、慢性疲労症候群などの疾病の引き金となる。ストレスは個々の感受性によって異なるものであるが、客観的な指標化や定量化はまだ実現していない。特に、小児は言葉によるストレスの訴えが難しい場合があり、指標化・客観化に用いられ得るバイオマーカーの探索・実用化が強く求められている。
【0003】
近年、小児虐待が深刻化し、大きな社会問題となっている。小児虐待とは、18歳未満の子どもの身体的、性的、精神的虐待およびネグレクトをいうが、国連児童基金(UNICEF)によると、毎年数百万人の子どもたちが虐待及び/又はネグレクトを受けているとされており、小児虐待は深刻な公的問題として世界的に認識されている。
【0004】
小児虐待および家庭不和は、身体的および精神的な健康、感情の制御、および小児期とその後の成人期の行動に悪影響を与える可能性があることが知られている。さらに、肥満、心臓および肺疾患など、小児虐待の被害者は、生涯にわたる疾患を発症するリスクが高いことも指摘されている。
【0005】
小児のストレスは客観的な判定が難しいため、虐待の事実の発見が難しい。発見が遅れることで犠牲者が増えることを避けるため、一刻も早い発見が望まれる。そのためには、バイオマーカーなどの小児ストレスの客観的指標の確立と実用化が強く望まれる。簡便かつ検出感度の高いストレスバイオマーカーがあれば、早期発見、早期対応が可能となり、カウンセリングや治療への改善が期待できる。例えば、唾液中の急性ストレス指標の候補として、アミラーゼ、コルチゾール、クロモグラニンAが提唱されているが、慢性ストレスとの関連性ははっきりしていない。
【0006】
近年、バイオマーカーとして、生体の変化を反映するマイクロRNA(microRNA:miRNA)が注目されている。miRNAは、生理学的および心理的ストレス反応経路において中心的な役割を果たすと考えられる。心理的ストレスは、多くの病気の発生・維持にとって重要な要因であり、いくつかのmiRNAがすでにその調節に関与していることが報告されている。例えば、健康な医学生を対象に末梢血を用いた検査を行い、試験前2ヶ月間の慢性的な心理的ストレスの状態における全血中のmiRNAの変化を調査したところ、miR-144/144*およびmiR-16がストレス応答性のmiRNAの候補として同定された(非特許文献1及び2)。また、本発明者らの一人は以前、血中のmiR-7845-5p量が心理的ストレスに伴う不安症状やうつ症状と相関することを報告している(特許文献1)。
【0007】
これまで、バイオマーカーとされるmiRNAの研究は主に末梢血におけるmiRNAを対象としているが、小児を被検対象とする場合、唾液等のより非侵襲性の検体を用いることが望ましい。しかしながら、心理的ストレスのバイオマーカーとなり得る唾液中のmiRNAはこれまで報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2018-33352号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Katsuura et al., Neurosci Lett (2012) 516(1):79-84. doi. 10.1016/j.neulet.2012.03.062
【非特許文献2】Honda et al., PLOS ONE (2013) 8(10) e75960, doi. 10.1371/journal.pone.0075960
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、心理的ストレス、特に被虐待等による小児のストレスを高確度に検出可能な新規のバイオマーカー、特に唾液中のmiRNAマーカー、並びに当該バイオマーカーを検出するためのキットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく、マイクロアレイを用いた網羅的解析により、被虐待小児の唾液で、虐待を受けていない小児の唾液と比べて、有意に2倍以上の差で高発現している38種のmiRNAを同定した。そのうちの上位6種(hsa-miR-103a-3p、hsa-miR-223-5p、hsa-miR-181a-5p、hsa-miR-19b-3p、hsa-miR-1229-3p、hsa-miR-30b-5p)について、定量的RT-PCR解析により二次スクリーニングを行った結果、5種について有意な発現増加もしくは増加傾向を確認した。さらに、それら5種のmiRNAの感度・特異度を用いてROC曲線を作成し、曲線下面積(AUC)が有意に高値を示す3種のmiRNA(miR-30b-5p、miR-223-5p及びmiR-181a-5p)を抽出することに成功し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[項1]
被検対象における心理的ストレスの検出方法であって、該被検対象から採取した生体試料中の特定のマイクロRNA(miRNA)のレベルを測定することを含み、該特定のmiRNAが、miR-30b-5p、miR-223-5p、miR-181a-5p、miR-103a-3p、miR-19b-3p及びmiR-1229-3pからなる群より選択される少なくとも1つである、方法。
[項2]
miRNAが、miR-30b-5p、miR-223-5p、miR-181a-5p、miR-103a-3p及びmiR-19b-3pからなる群より選択される、項1に記載の方法。
[項3]
miRNAが、miR-30b-5p、miR-223-5p及びmiR-181a-5pからなる群から選択される、項1又は2に記載の方法。
[項4]
miRNAがmiR-30b-5p及び/又はmiR-223-5pである、項1~3のいずれか1項に記載の方法。
[項5]
被検対象がヒトである、項1~4のいずれか1項に記載の方法。
[項6]
被検対象が小児である、項1~5のいずれか1項に記載の方法。
[項7]
生体試料が唾液である、項1~6のいずれか1項に記載の方法。
[項8]
心理的ストレスが虐待に起因する、項1~7のいずれか1項に記載の方法。
[項9]
虐待が身体的虐待を含む、項8に記載の方法。
[項10]
項8又は9に記載の方法により被虐待が疑われる被検対象を、被疑虐待者から隔離することを含む、被虐待者の保護方法。
[項11]
被検対象における心理的ストレスを検出するためのキットであって、miR-30b-5pを特異的に検出し得る核酸プローブ及び/もしくは核酸プライマー、又は抗体、miR-223-5pを特異的に検出し得る核酸プローブ及びもしくは核酸プライマー、又は抗体、miR-181a-5pを特異的に検出し得る核酸プローブ及びもしくは核酸プライマー、又は抗体、miR-103a-3pを特異的に検出し得る核酸プローブ及び/もしくは核酸プライマー、又は抗体、miR-19b-3pを特異的に検出し得る核酸プローブ及び/もしくは核酸プライマー、又は抗体、並びにmiR-1229-3pを特異的に検出し得る核酸プローブ及び/もしくは核酸プライマー、又は抗体からなる群より選択される少なくとも1つの核酸プローブ及び/もしくは核酸プライマー、又は抗体を含む、キット。
[項12]
核酸プローブ及び/もしくは核酸プライマー、又は抗体が、miR-30b-5pを特異的に検出し得る核酸プローブ及び/もしくは核酸プライマー、又は抗体、miR-223-5pを特異的に検出し得る核酸プローブ及びもしくは核酸プライマー、又は抗体、miR-181a-5pを特異的に検出し得る核酸プローブ及びもしくは核酸プライマー、又は抗体、miR-103a-3pを特異的に検出し得る核酸プローブ及び/もしくは核酸プライマー、又は抗体、並びにmiR-19b-3pを特異的に検出し得る核酸プローブ及び/もしくは核酸プライマーからなる群より選択される、項11に記載のキット。
[項13]
核酸プローブ及び/もしくは核酸プライマー、又は抗体が、miR-30b-5pを特異的に検出し得る核酸プローブ及び/もしくは核酸プライマー、又は抗体、miR-223-5pを特異的に検出し得る核酸プローブ及びもしくは核酸プライマー、又は抗体、並びにmiR-181a-5pを特異的に検出し得る核酸プローブ及びもしくは核酸プライマー、又は抗体からなる群より選択される、項11又は12に記載のキット。
[項14]
核酸プローブ及び/もしくは核酸プライマー、又は抗体が、miR-30b-5pを特異的に検出し得る核酸プローブ及び/もしくは核酸プライマー、又は抗体、並びに/或いは、miR-223-5pを特異的に検出し得る核酸プローブ及びもしくは核酸プライマー、又は抗体である、項11~13のいずれか1項に記載のキット。
[項15]
miR-30b-5p、miR-223-5p、miR-181a-5p、miR-103a-3p、miR-19b-3p及びmiR-1229-3pが、ヒトmiRNAである、項11に記載のキット。
[項16]
被検対象が小児である、項11~15のいずれか1項に記載のキット。
[項17]
心理的ストレスが虐待に起因する、項11~16のいずれか1項に記載のキット。
[項18]
虐待が身体的虐待を含む、項17に記載のキット。
[項19]
被検対象における心理的ストレスを検出するための装置であって、
該被検対象から採取した生体試料を収容する試料収容部と、
該試料収容部内に設けられた、miR-30b-5pを特異的に検出し得る核酸プローブ又は抗体、miR-223-5pを特異的に検出し得る核酸プローブ又は抗体、miR-181a-5pを特異的に検出し得る核酸プローブ又は抗体、miR-103a-3pを特異的に検出し得る核酸プローブ又は抗体、miR-19b-3pを特異的に検出し得る核酸プローブ又は抗体、並びにmiR-1229-3pを特異的に検出し得る核酸プローブ又は抗体からなる群より選択される少なくとも1つの核酸プローブ又は抗体を含み、該核酸プローブ又は抗体とその標的miRNAとの結合による電荷の変化を検出する検出部と、
検出部からの電荷変化の信号を処理し、標的miRNAのレベルを算出する制御部と、
を有する、装置。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、早期かつ正確に、かつ非侵襲的に心理的ストレスを検出することができ、小児虐待によるストレスをはじめとする心理的ストレスの早期発見・早期処置が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、唾液miRNAのマイクロアレイ解析の結果を示すヒートマップである。左の8例がコントロール群、右の8例がストレス群を示す。
図2図2は、リアルタイム定量的RT-PCRで増加を認めた5つのmiRNA発現は、どの2つの組み合わせでも中等度以上の相関が見られることを示す。
図3図3は、リアルタイム定量的RT-PCRで増加を認めた5つのmiRNAについてのROC曲線(A:各miRNA単独、B:miR-30b-5p、miR-223-5p及びmiR-181a-5pの組み合わせ)を示す。
図4図4は、短期ストレスのバイオマーカー候補とされる唾液コルチゾール濃度が、ストレス群とコントロール群とで差がないこと(A)、並びにコルチゾール濃度と5種のmiRNAの発現量との間に相関がないこと(B)を示す。
図5図5は、本発明の心理的ストレス検出用装置の好ましい構成の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.心理的ストレスの検出方法
本発明は、被検対象における心理的ストレスの検出方法(以下、「本発明の検出方法」と称する場合がある。)を提供する。当該方法は、具体的には、被検対象から採取した生体試料中の特定のマイクロRNA(miRNA)のレベルを測定することを含む。当該特定のmiRNAは、miR-30b-5p、miR-223-5p、miR-181a-5p、miR-103a-3p、miR-19b-3p及びmiR-1229-3pからなる群より選択される少なくとも1つである。これら6種のmiRNA(以下、「本発明のマーカーmiRNA」ともいう。)は、心理的ストレスを有しない正常対照由来の生体試料中と比べて、心理的ストレスを有する対象由来の生体試料中で高レベルで検出される。ここで「高レベルで検出される」とは、少なくともマイクロアレイ解析レベルでは、対照と比べて有意に2倍以上であることを意味する。好ましくは、本発明の検出方法に用いられる特定のmiRNAは、miR-30b-5p、miR-223-5p、miR-181a-5p、miR-103a-3p及びmiR-19b-3pからなる群より選択され、より好ましくは、miR-30b-5p、miR-223-5p及びmiR-181a-5pからなる群から選択され、特に好ましくは、miR-30b-5p及び/又はmiR-223-5pである。
【0016】
本明細書において、「心理的ストレス」とは、人間関係や仕事上の問題、家庭の問題などの心理・社会的ストレッサーによって引き起こされるストレス反応全般を意味し、心理面(例えば、活気の低下、イライラ、不安、抑うつ(気分の落ち込み、興味・関心の低下)など)、身体面(例えば、体のふしぶしの痛み、頭痛、肩こり、腰痛、目の疲れ、動悸や息切れ、胃痛、食欲低下、便秘や下痢、不眠など)、行動面(例えば、飲酒量や喫煙量の増加、仕事でのミスや事故、ヒヤリハットの増加など)のいずれの反応も包含される。好ましくは、ストレッサーが家庭内暴力、校内暴力(いじめ)等の暴力・虐待、より好ましくは、小児虐待(身体的虐待、言葉による虐待、ネグレクト(養育放棄)、性的虐待等を含む)であるストレス反応を挙げることができる。
【0017】
本発明の検出方法における被検対象は、ヒト又は非ヒト哺乳動物(例えば、イヌ、ネコ等のペット動物、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ等の家畜動物、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ等の実験動物など)であれば特に限定されないが、好ましくはヒト、より好ましくは小児(18歳未満の子ども)、さらに好ましくは、約3~約15歳の小児である。被検対象としては、例えば、心理的ストレスを有していることが疑われるヒト、好ましくは、虐待を受けている(受けていた)ことが疑われる小児などが挙げられる。
【0018】
本発明の検出方法において、生体試料は、被験者から得られたものであってmiRNAを含むものであれば特に限定されず、例えば、体液、細胞、組織等が挙げられるが、好ましくは体液である。体液としては、例えば、唾液、尿、血液、血漿、血清、リンパ液、脳脊髄液等が挙げられる。好ましくは、唾液、尿、血液、血漿、血清等であり、より好ましくは唾液である。
【0019】
本発明の検出方法においては、生体試料(例、唾液)からエクソソームを単離した後で内包されるmiRNAを測定してもよいし、そのまま生体試料中のエクソソームを溶解して内包されるmiRNAの測定に供することもできる。生体試料からのmiRNAの抽出は自体公知の方法により行うことができ、市販のキットを用いることもできる。市販のキットとしては、例えば、miRNAを含むRNA(例えば、total RNA)を抽出する方法である限り特に限定されず、例えば、市販の試薬(例えば、ISOGEN(Nippongene)、QIAZOL(Qiagen))やキット(例えば、NucleoSpin miRNA Plasma Kit(Macherey-Nagel)、フェノールベース試薬Tripure Isolation Reagent(Roche Applied Science)、液体試料用フェノールベース試薬ISOGEN-LS(ニッポンジーン)、miRNeasy Mini Kit(Qiagen)、RNeasy MinElute Cleanup Kit(Qiagen)等が挙げられる。
【0020】
また、miRNAを含む全RNAを抽出した後、更にmiRNAを単離してもよい。miRNAの単離は、自体公知の方法により行なうことができ、例えば、市販の試薬やキット(例えば、RNeasy Mini Column(Qiagen)、High Pure miRNA Isolation Kit(Roche Applied Science)等)を添付のプロトコールに従って用いることによって実施することができる。ここで「miRNAの単離」とは、miRNA以外の成分を除去する操作がなされていることを意味する。
【0021】
本発明の検出方法において、測定対象となるmiRNAは、miR-30b-5p、miR-223-5p、miR-181a-5p、miR-103a-3p、miR-19b-3p及びmiR-1229-3pからなる群から選択される少なくとも1つである。
当該miRNAは既に公知の分子であり、その配列情報はmiRBase(http://www.mirbase.org/)等のデータベースから入手可能である。例えば、ヒト由来のhsa-miR-30b-5pはAccession No.MIMAT0000420として、hsa-miR-223-5pはAccession No.MIMAT0004570として、hsa-miR-181a-5pはAccession No.MIMAT0000256として、hsa-miR-103a-3pはAccession No.MIMAT0000101として、hsa-miR-19b-3pはAccession No.MIMAT0000074として、hsa-miR-1229-3pはAccession No.MIMAT0005584として、それぞれmiRBaseに登録されている。本明細書中、hsa-miR-30b-5pのヌクレオチド配列は配列番号1、hsa-miR-223-5pのヌクレオチド配列は配列番号2、hsa-miR-181a-5pのヌクレオチド配列は配列番号3、hsa-miR-103a-3pのヌクレオチド配列は配列番号4、hsa-miR-19b-3pのヌクレオチド配列は配列番号5、hsa-miR-1229-3pのヌクレオチド配列は配列番号6で表される。
【0022】
miR-30b-5p、miR-223-5p、miR-181a-5p、miR-103a-3p、miR-19b-3p及びmiR-1229-3pの各miRNAは、天然で生じる多型、突然変異等による変異(ヌクレオチドの置換、欠失、挿入又は付加)を含んでもよく、従って、本発明の検出方法においては、そのような変異を含むmiRNAの発現レベルが測定されてもよい。
【0023】
miRNAの発現レベルは、各miRNA又はその相補的核酸(cRNA又はcDNA)を特異的に検出し得る核酸プローブ又は核酸プライマーを用いて、ハイブリダイゼーション、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)等の自体公知の方法により測定することが出来る。そのような測定方法としては、例えば、miRNAアレイ、ノーザンブロッティング、定量RT-PCR(リアルタイムRT-PCR等)、逆転写ループ介在等温増幅(RT-LAMP)、シグナル介在RNA増幅技術(SMART)、RNA-プライムドローリングサークル型増幅(RPRCA)、三者開始複合体によるシグナル増幅(SATIC)等を挙げることができる。
【0024】
miRNAの発現レベルの測定は、被検対象から採取した生体試料中のmiRNAを対象として行う。miRNAの発現レベルの測定においては、上記miRNAの抽出及び単離に起因する試料間のばらつきを補正するために、適切な内部標準でmiRNAの発現レベルを補正することが好ましい。内部標準は、被検対象由来の試料に天然に含まれていれば特に限定されない。例えば、U6を内部標準とすることができる。
【0025】
本明細書において、核酸プローブが「miRNA又はその相補的核酸を特異的に検出し得る」とは、核酸プローブがmiRNA又はその相補的核酸に対して、当該miRNA又はその相補的核酸以外の核酸に対するよりも高いアフィニティーを有することにより、適切なハイブリダイゼーション条件下で当該miRNA又はその相補的核酸にはハイブリダイズするが、その他の核酸へはハイブリダイズしないことを意味する。
【0026】
このようなハイブリダイゼーションの条件は、当業者であれば適宜選択することができる。ハイブリダイゼーションの条件として、例えば低ストリンジェントな条件が挙げられる。低ストリンジェントな条件とは、ハイブリダイゼーション後の洗浄において、例えば42℃、5×SSC、0.1%SDSの条件であり、好ましくは50℃、2×SSC、0.1%SDSの条件である。より好ましいハイブリダイゼーションの条件としては、高ストリンジェントな条件が挙げられる。高ストリンジェントな条件とは、例えば65℃、0.1×SSC、0.1%SDSである。但し、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響する要素としては、温度や塩濃度等の複数の要素があり、当業者はこれらの要素を適宜選択することで、同様のストリンジェンシーを実現することが可能である。
【0027】
miRNA又はその相補的核酸を特異的に検出し得る核酸プローブとしては、例えば、当該miRNAのヌクレオチド配列の一部又は全部に相補的な約10塩基以上(例えば、10~24塩基、好ましくは15~24塩基の連続したヌクレオチド配列又はその相補配列を含み、当該miRNA又はその相補的核酸にハイブリダイズすることが可能なポリヌクレオチドを挙げることができる。ここで「相補的」とは、標的ヌクレオチド配列に対して完全相補的なヌクレオチド配列と、90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、特に好ましくは98%以上の相同性を有するヌクレオチド配列を意味する。そのような核酸プローブは、本明細書に記載されたヌクレオチド配列の情報等に基づいて、自体公知の方法により適宜設計することができる。あるいは、市販の核酸プローブを用いることもできる。例えば、配列番号1~6で表される各ヌクレオチド配列からなるmiRNA又はその相補的核酸は、それぞれThermoFisher Scientific社から提供されるhsa-miR-30b-5p(Assay ID:478007_mir)、hsa-miR-223-5p(Assay ID:477984_mir)、hsa-miR-181a-5p(Assay ID:479405_mir)、hsa-miR-103a-3p(Assay ID:478253_mir)、hsa-miR-19b-3p(Assay ID:478264_mir)及びhsa-miR-1229-3p(Assay ID:478645_mir)定量キットに含まれる核酸プローブを用いて検出することができる。
【0028】
本明細書において、核酸プライマーが「miRNA又はその相補的核酸を特異的に検出し得る」とは、核酸プライマーが、適切なPCR反応条件下において、当該miRNA又はその相補的核酸を鋳型として、その全部又は一部の領域をPCR増幅するが、当該miRNA又はその相補的核酸以外の核酸を鋳型として、その全部又は一部の領域をPCR増幅しないことを意味する。
【0029】
miRNAを特異的に検出し得る核酸プライマーは、当該miRNA又はその相補的核酸のヌクレオチド配列の一部又は全部の領域を特異的に増幅し得るように設計されたものであればいかなるものであってもよい。PCRによるmiRNAの定量は、通常、ポリ(A)ポリメラーゼにより3’末端にポリ(A)配列を付加し、オリゴ(dT)プライマーを用いた逆転写反応によりcDNAを合成した後、当該cDNAを定量することにより行なう。この場合、各miRNAの相補的核酸(cDNA)のヌクレオチド配列の一部にハイブリダイズする、約10塩基以上(例えば、10~24塩基、好ましくは15~24塩基)のヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド(フォワードプライマー)と、このハイブリダイゼーション部位より3’側の当該cDNA配列の相補配列の一部にハイブリダイズする、約10塩基以上(例えば、10~24塩基、好ましくは15~24塩基)のヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド(リバースプライマー)との組み合わせにより、各miRNA又はその相補的核酸のヌクレオチド配列の一部又は全部の領域を特異的に増幅し得る。フォワードプライマー及びリバースプライマーは、各miRNA又はその相補的核酸のヌクレオチド配列、前記逆転写反応の際に使用するプライマーの配列等の情報に基づき、自体公知の方法により適宜設計することができる。あるいは、市販の核酸プライマーを用いることもできる。例えば、配列番号1~6で表される各ヌクレオチド配列からなるmiRNAの相補的核酸の特異的な増幅には、それぞれThermoFisher Scientific社から提供されるhsa-miR-30b-5p(Assay ID:478007_mir)、hsa-miR-223-5p(Assay ID:477984_mir)、hsa-miR-181a-5p(Assay ID:479405_mir)、hsa-miR-103a-3p(Assay ID:478253_mir)、hsa-miR-19b-3p(Assay ID:478264_mir)及びhsa-miR-1229-3p(Assay ID:478645_mir)定量キットに含まれるプライマーセットを用いることができる。
【0030】
核酸プローブ及び核酸プライマーは、特異的検出に支障を生じない範囲で付加的配列(検出対象のポリヌクレオチドと相補的でないヌクレオチド配列)を含んでいてもよい。
【0031】
また、核酸プローブ及び核酸プライマーは、適当な標識剤、例えば、放射性同位元素(例:125I、131I、H、14C、32P、33P、35S等)、酵素(例:β-ガラクトシダーゼ、β-グルコシダーゼ、アルカリホスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素等)、蛍光物質(例:フルオレスカミン、フルオレッセンイソチオシアネート等)、発光物質(例:ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニン等)、ビオチン等で標識されていてもよい。あるいは、蛍光物質(例:FAM、VIC等)の近傍に該蛍光物質の発する蛍光エネルギーを吸収するクエンチャー(消光物質)がさらに結合されていてもよい。かかる実施態様においては、検出反応の際に蛍光物質とクエンチャーとが分離して蛍光が検出される。
【0032】
核酸プローブ及び核酸プライマーは、DNAであってもRNAであってもよく、またDNA/RNAキメラであってもよいが、好ましくはDNAである。また核酸プローブ及び核酸プライマーは、一本鎖であっても二本鎖であってもよいが、通常一本鎖である。なお、本発明において、核酸プローブ及び核酸プライマーがRNAである場合は、核酸プローブ及び核酸プライマーの塩基配列のうち、チミン(T)はウラシル(U)と読み替えてもよい。
【0033】
核酸プローブ及び核酸プライマーは、人工的な修飾を有する核酸の誘導体であってもよい。人工的な修飾を有する核酸の誘導体としては、例えば、ホスホロチオエート型、ボラノフォスフェート型DNA/RNA等のリン酸骨格を修飾したもの;2’-OMe修飾RNA、2’-F修飾RNA等の2’修飾ヌクレオチド;LNA(Locked Nucleic Acid)やENA(2’-O,4’-C-Ethylene-bridged nucleic acids)等のヌクレオチドの糖分子を架橋した修飾ヌクレオチド;PNA(ペプチド核酸)、モルフォリノヌクレオチド等の基本骨格が異なる修飾ヌクレオチド;5-フルオロウリジン、5-プロピルウリジン等の塩基修飾型ヌクレオチド等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0034】
上記核酸プローブ及び核酸プライマーは、例えば、本明細書に記載されたヌクレオチド配列の情報に基づいて、DNA/RNA自動合成機を用いて常法に従って合成することができる。
【0035】
測定対象のmiRNA又はその相補的核酸を特異的に検出し得る核酸プローブを、適切な支持体の上に結合して、核酸アレイとして提供してもよい。支持体としては、当該分野で通常用いられている支持体であれば特に限定されず、例えば、メンブレン(例えば、ナイロン膜)、ビーズ、ガラス、プラスチック、金属等が挙げられる。
【0036】
別の実施態様において、miRNAの発現レベルは、各miRNAを特異的に認識する抗体を用いて、自体公知の各種免疫化学的手法を用いて測定することができる。該抗体はポリクローナル抗体、モノクローナル抗体のいずれであってもよいが、好ましくはモノクローナル抗体である。これらの抗体は、自体公知の抗体または抗血清の製造法に従って製造することができる。抗体のアイソタイプは特に限定されないが、好ましくはIgG、IgMまたはIgA、特に好ましくはIgGが挙げられる。また、該抗体は、目的のmiRNAを特異的に認識し結合するための相補性決定領域(CDR)を少なくとも有するものであれば特に制限はなく、完全抗体分子の他、例えばFab、Fab’、F(ab’)等のフラグメント、scFv、scFv-Fc、ミニボディー、ダイアボディー等の遺伝子工学的に作製されたコンジュゲート分子などであってもよい。
【0037】
例えば、抗miRNA抗体をアガロース、アクリルアミド、セファロース、セファデックス等の任意の適切なマトリクスを含む固相上に固定化することができる。該固相は、マイクロタイタープレート等であってもよい。生体試料中のmiRNAを標識物質で標識し、該固相と接触させることにより、目的のmiRNAを該固相上に捕捉することができ、該固相上の標識量を測定することにより、該miRNAレベルを定量することができる。あるいは、2種の抗miRNA抗体の一方を固相化し、生体試料から抽出したmiRNAと反応させ、目的のmiRNAを該固相上に捕捉した後、標識化した他方の抗miRNA抗体をさらに反応させて、該固相上の標識量を測定することにより、該miRNAレベルを定量することができる。
【0038】
標識物質としては、例えば、放射性同位元素、酵素、蛍光物質、発光物質などが用いられる。放射性同位元素としては、例えば、125I、131I、H、14Cなどが用いられる。酵素としては、安定で比活性の大きなものが好ましく、例えば、β-ガラクトシダーゼ、β-グルコシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素などが用いられる。蛍光物質としては、例えば、フルオレスカミン、フルオレッセンイソチオシアネート(FITC)、フィコエリスリン(PE)などが用いられる。発光物質としては、例えば、ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニンなどが用いられる。
【0039】
別の実施態様においては、目的のmiRNAと相補的な核酸プローブを標識物質で標識し、生体試料から得たmiRNAと反応させて、目的miRNAと該核酸プローブとのハイブリッドを形成させた後、固相化した該ハイブリッドに特異的な抗体と反応させ、目的のmiRNAを該固相上に捕捉した後、該固相上の標識量を測定することにより、該miRNAレベルを定量することができる。
【0040】
さらに別の好ましい実施態様において、miRNAの発現レベルは、前記の核酸プローブや抗miRNA抗体を認識素子として固定化した電極を用いて、電気化学的に測定することができる。電極の種類(例、カーボン電極、ITO電極、金属電極)に応じて認識素子の固定化法は適宜選択することができるが、例えば、核酸プローブを金電極に固定化する場合、核酸プローブの末端にチオール基を導入することで、チオール-金結合により容易に電極表面に固定化することができる。認識素子と目的のmiRNAとの結合を電気化学信号に変換するには、電気化学活性マーカー分子もしくはイオン(例、[Fe(CN)4-、[Ru(NH3+、フェロセン(Fc)、メチレンブルー(MB)、アントラキノン(AQ)等)を測定溶液に添加するか、あるいは認識素子を該マーカーで修飾することができる。核酸プローブを認識素子として用いる場合、リン酸基を持たない電気的に中性のペプチド核酸(PNA)を用いることでバックグラウンド応答を低減し、miRNAとのハイブリッド形成時の電気化学信号の感度を向上させ得る。
【0041】
被検対象から得られた生体試料中の本発明のマーカーmiRNAのレベルが、予め設定されたカットオフ値以上、例えば、心理的ストレスを有しない対照群から得られた対応する生体試料中の該miRNAのレベルの平均値+3SD以上、好ましくは平均値+5SD以上であった場合、該被検対象は心理的ストレスを有している可能性が高いと判断することができる。
【0042】
2.心理的ストレスの検出及び処置方法
また、本発明は、本発明の検出方法により心理的ストレスを有している可能性が高いと判断された被検対象に対して、心理的ストレスを軽減するための処置を施すことを含む、心理的ストレスの軽減方法を提供する。当該処置としては、(i)心理的ストレスの要因となる刺激(ストレッサー)を取り除く処置、(ii)ストレッサーがもたらすストレス反応を軽減させる処置、(iii)ストレス反応に伴う種々の臨床症状に対する治療的処置等が挙げられる。(i)及び(ii)の処置は、「ソーシャルサポート(個々を取り巻く集団的関係から得られる有形・無形の支援)」や「ストレスコーピング(ストレス反応を軽減させるための個々の認知的及び行動上の努力)」スキルの提供等、主として非医療行為であり得る。ソーシャルサポートとしては、共感、安心、愛着、尊敬の提供といった「情緒的サポート」、サービスの提供や仕事の援助といった「道具的サポート」、問題解決の手助けや情報の提供といった「情報的サポート」、肯定的な評価の提供といった「評価的サポート」が挙げられる。ストレスコーピングは、ストレッサーを直接解決する問題焦点型コーピングと、ストレッサーがもたらす不快な感情を軽減させる情動焦点型コーピングの2つに大きく分けられる。後者には、例えば、リラクゼーション法やストレス解消法を試したり、またはその状況をストレスと捉えるのではなく、自分の可能性を試すチャンスと捉えるといった認知的な試み(認知的再評価)で、その状況に付随する脅威を低減する等が含まれる。
【0043】
心理的ストレスが小児虐待等の暴力・虐待をストレッサーとする場合、繰り返し虐待を受けることは、被害者への医学的・メンタルヘルス的な影響がより大きくなるだけでなく、被害者が将来的に加害者となるリスクを高めることにもなるので、ストレッサーを取り除く処置が重要である。具体的には、例えば家庭内暴力の場合、被害者を家から退去させるか(例、親戚等で引き取る、養護施設に入れる等)、加害者に家を出るよう命じるかして、被害者を加害者から隔離する必要がある。また、「過去の虐待」というストレッサーを取り除くことはできないので、被害者及び/又は加害者に対して認知行動療法及び/又はストレス軽減療法による介入をさらに行うことが望ましい。
【0044】
心理的ストレスは、例えば、不安障害(例、パニック障害、全般性不安障害、心的外傷後ストレス障害、強迫性障害等)、恐怖症、感情障害、うつ(例、大うつ病、双極性障害等)、適応障害、統合失調症、物質関連障害(例、薬物乱用、アルコール依存症等)、行動障害(例、注意欠陥/多動性障害等)、摂食障害、睡眠障害、自殺傾向などの種々の医学的・メンタルヘルス的な影響を及ぼし得る。従って、本発明の検出方法により心理的ストレスを有している可能性が高いと判断された被検対象に対して、該対象が有する臨床症状に応じて、既存薬による薬物療法等の治療的介入を行うことができる。
【0045】
3.心理的ストレスの検出用キット
本発明は、miR-30b-5p、miR-223-5p、miR-181a-5p、miR-103a-3p、miR-19b-3p及びmiR-1229-3pからなる群より選択される少なくとも1つのmiRNAを特異的に検出し得る核酸プローブ及び/もしくは核酸プライマー、又は抗体を含む、心理的ストレスの検出用キット(以下、「本発明のキット」と称する場合がある。)を提供する。本発明のキットを用いれば、本発明の検出方法を容易に実施することが可能となる。
【0046】
本発明のキットにおいて、核酸プローブ、核酸プライマー及び抗体は、上記「1.心理的ストレスの検出方法」に記載のとおりである。本発明のキットに含まれる核酸プローブ、核酸プライマー、抗体は、miR-30b-5pを特異的に検出し得る核酸プローブ及び/もしくは核酸プライマー、又は抗体、miR-223-5pを特異的に検出し得る核酸プローブ及びもしくは核酸プライマー、又は抗体、miR-181a-5pを特異的に検出し得る核酸プローブ及びもしくは核酸プライマー、又は抗体、miR-103a-3pを特異的に検出し得る核酸プローブ及び/もしくは核酸プライマー、又は抗体、miR-19b-3pを特異的に検出し得る核酸プローブ及び/もしくは核酸プライマー、又は抗体、並びにmiR-1229-3pを特異的に検出し得る核酸プローブ及び/もしくは核酸プライマー、又は抗体からなる群より選択される少なくとも1つの核酸プローブ及び/もしくは核酸プライマー、又は抗体であり、好ましくは、miR-30b-5pを特異的に検出し得る核酸プローブ及び/もしくは核酸プライマー、又は抗体、miR-223-5pを特異的に検出し得る核酸プローブ及びもしくは核酸プライマー、又は抗体、miR-181a-5pを特異的に検出し得る核酸プローブ及びもしくは核酸プライマー、又は抗体、miR-103a-3pを特異的に検出し得る核酸プローブ及び/もしくは核酸プライマー、又は抗体、並びにmiR-19b-3pを特異的に検出し得る核酸プローブ及び/もしくは核酸プライマー、又は抗体からなる群より選択される少なくとも1つの核酸プローブ及び/もしくは核酸プライマー、又は抗体であり、より好ましくは、miR-30b-5pを特異的に検出し得る核酸プローブ及び/もしくは核酸プライマー、又は抗体、miR-223-5pを特異的に検出し得る核酸プローブ及びもしくは核酸プライマー、又は抗体、miR-181a-5pを特異的に検出し得る核酸プローブ及びもしくは核酸プライマー、又は抗体からなる群より選択される少なくとも1つの核酸プローブ及び/もしくは核酸プライマー、又は抗体であり、特に好ましくは、miR-30b-5pを特異的に検出し得る核酸プローブ及び/もしくは核酸プライマー、又は抗体、並びに/或いは、miR-223-5pを特異的に検出し得る核酸プローブ及びもしくは核酸プライマー、又は抗体である。
【0047】
本発明のキットは、測定対象の各miRNA又はその相補的核酸を特異的に検出し得る核酸プローブ又は抗体を、適切な支持体の上に結合して、核酸又は抗体アレイとして提供してもよい。支持体としては、当該分野で通常用いられている支持体であれば特に限定されず、例えば、メンブレン(例えば、ナイロン膜)、ビーズ、ガラス、プラスチック、金属等が挙げられる。該アレイに搭載される核酸又は抗体は、支持体上に設置された電極上に固定化され、測定対象のmiRNAとの特異的結合に伴う電荷の変化を検出することにより該miRNAを検出可能なように設計されてもよい。
【0048】
本発明のキットに含まれる各構成要素は、各々別個に(或いは可能であれば混合した状態で)水又は適当な緩衝液(例:TEバッファー、PBS等)中に適当な濃度となるように溶解されるか、或いは凍結乾燥された状態で、適切な容器中に収容される。
【0049】
本発明のキットは、miRNAの発現レベルの測定方法に応じて、当該方法の実施に必要な他の成分を構成として更に含んでもよい。本発明のキットにより、例えば、miRNAアレイ、ノーザンブロッティング、定量RT-PCR(リアルタイムRT-PCR等)等によりmiRNAの発現レベルを測定することにより、心理的ストレスを検出することができる。リアルタイムPCRを測定に用いる場合には、本発明のキットは、10×PCR反応緩衝液、10×MgCl水溶液、10×dNTPs水溶液、Taq DNAポリメラーゼ(5U/μL)、逆転写酵素等を更に含むことができる。miRNAアレイやノーザンブロッティングを測定に用いる場合には、本発明の検査試薬は、ブロッティング緩衝液、標識化試薬、ブロッティング膜等を更に含むことができる。
【0050】
4.心理的ストレスの検出用装置
本発明はまた、被検対象における心理的ストレスを検出するための装置(以下、「本発明の装置」ともいう。)を提供する。当該装置は、
該被検対象から採取した生体試料を収容する試料収容部と、
該試料収容部内に設けられた、miR-30b-5pを特異的に検出し得る核酸プローブ又は抗体、miR-223-5pを特異的に検出し得る核酸プローブ又は抗体、miR-181a-5pを特異的に検出し得る核酸プローブ又は抗体、miR-103a-3pを特異的に検出し得る核酸プローブ又は抗体、miR-19b-3pを特異的に検出し得る核酸プローブ又は抗体、並びにmiR-1229-3pを特異的に検出し得る核酸プローブ又は抗体からなる群より選択される少なくとも1つの核酸プローブ又は抗体を含み、該核酸プローブ又は抗体とその標的miRNAとの結合による電荷の変化を検出する検出部と、
検出部からの電荷変化の信号を処理し、標的miRNAのレベルを算出する制御部と、
を有することを特徴とする。一実施態様において、本発明の装置は、図5に示すような構成をとることができる。以下の説明では、図5に示した装置の構成を参照しながら、本発明の装置をより詳細に説明する。
【0051】
試料収容部100は、測定中に試料を保持できるようなものであればよい。また、測定時以外は蓋ができるような構造であってもよい。
【0052】
検出部10としては、例えば、試料収容部内に設けられたリガンドを固定した電極等が挙げられる。ここで「リガンド」とは、前記の各標的miRNAを特異的に検出し得る核酸プローブ又は抗体を意味する。かかる構成をとることにより、試料中の標的miRNAとそのリガンドとの相互作用(結合)を電荷の変化によって検出することができる。リガンドを電極に固定化する方法は適宜選択することができ、例えば、核酸プローブを金電極に固定化する場合、前記した方法を用いることができるが、それらに限定されない。
【0053】
制御部200は、例えば情報処理回路を有しており、検出部10からの電荷変化の信号を受け入れ、演算処理により試料中の標的miRNAのレベルを計算し、必要に応じて、その数値から心理的ストレスの有無やその程度を判定し、測定値及び/又は判定情報を出力する。従って、制御部200は、信号・演算処理の主要部分である分析部220を有し、該分析部220は、検出部からの信号受け入れ部400、信号処理部500、結果出力部700を含み得る。
【0054】
信号処理部500にて計算された試料中の標的miRNAの数値から心理的ストレスの有無やその程度を判定する場合、分析部220は、図5に示すように、当該判定に必要な各標的miRNAのカットオフ値や心理的ストレスの強度との関係式等の参照情報が記憶された参照情報保持部610、及び参照情報保持部610からの情報を参照して、信号処理部500での算出結果から被験者が心理的ストレスを有しているか、あるいはどの程度の心理的ストレスを有しているかといった判定情報を計算する心理的ストレス判定部600をさらに含む。
【0055】
さらに、信号処理部500は、測定条件や試料の物性等の測定に必要な入力情報の信号・演算処理、結果出力部700で出力する情報の信号処理等を行うことができる。
【0056】
結果出力部700は、信号処理部500での算出結果や、心理的ストレス判定部600で計算された判定情報を、表示装置やプリンターなどの周辺機器、通信回線、外部コンピューターなどに出力する部分である。
【0057】
また、制御部200は、検出部10を含む試料収容部100を制御し作動させるための機構制御部300を有していてもよい。
【0058】
本発明の装置はまた、制御部200で処理され出力された情報を表示する表示部800を備えていてもよい。さらに、例えば、測定条件や試料の物性等の測定に必要な情報をユーザーが入力できる入力部900を備えていてもよい。入力がタッチパネル等でできるようなものであれば、入力部900は表示部800と一体になっていてもよい。
【0059】
以下に実施例等を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例等により限定されるものではない。
【実施例0060】
[材料および方法]
本実施例は鶴見大学歯学部倫理審査委員会の承認を得て行った(承認番号:1610)。書面によるインフォームドコンセントは、各親または保護者から取得された。
【0061】
(A)被験者
対象は、肉体的虐待を受けて神奈川県児童相談所に入所した小児(6歳~15歳)52人(ストレス群:Stress)と、年齢をマッチさせた神奈川県および群馬県公立小中学校通学者(コントロール群:Control)52人の計104人であった。1次スクリーニングは16人(Stress: 8サンプル,Control: 8サンプル; 表1)とし、2次スクリーニングは88人(Stress: 44サンプル,Control: 44サンプル; 表2)とした。2次スクリーニングでは、群間で数カ月の差があるものの生年月日をなるべくマッチさせた。
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【0064】
(B)唾液miRNAの抽出
唾液は、無味のパラフィンガムを5分間咀嚼し、全ての唾液を随時コニカルチューブに吐き出して集め、使用時まで-80℃で保管した。解凍した唾液200 μlよりmiRNeasy Mini Kit(QIAGEN社 Tokyo, Japan)を用いてmiRNAを抽出・精製した。抽出過程で、外部コントロールとして、C. elegans miRNA(cel-39-3p)を100 pmol添加した。
【0065】
(C)miRNA マイクロアレイ解析
1次スクリーニングとして行った。表1に示す16サンプルのmiRNAは、2100 バイオアナライザー(Agilent, Tokyo, Japan)による品質チェック後、miRNA Labeling Reagent and Hybridization Kit(Agilent, Tokyo, Japan)を用いてCy3標識し、マイクロアレイ(AgilentマイクロアレイmirBase Ver.21, 8x60K)にハイブリダイゼーション(Agilent: Hybridization Oven G2545A)および洗浄後、マイクロアレイスキャナー(Agilent: G2505C)によるスキャンを行った。
得られたデータは、マイクロアレイデータ解析ソフト(Agilent: Gene Spring14.9)で解析し、各miRNA発現量が2群間で2倍以上、有意な差があるものを選出した。Fold change値は(ストレス群の発現量(log2)/コントロール群の発現量の平均(log2))で求め、ヒートマップを作成した。
【0066】
(D)リアルタイム定量PCR
マイクロアレイ解析で著しく発現が変動していたmiRNAについて、リアルタイム定量PCRによる検証を行った。
TaqMan Advanced miRNA cDNA Synthesis Kit(Life Technologies Japan Ltd., Tokyo, Japan)を用いて、メーカーのプロトコールに従いmiRNAを逆転写反応させて、相補的DNA(complementary DNA:cDNA)を作製した。作製したcDNAとmiRNAの特異的なプライマー/プローブであるTaqMan Advanced miRNA Assay(Life Technologies Japan) 6種と反応させ、リアルタイムPCRでサンプル内のヒト成熟miRNAの検出・定量を行った。サーマルサイクラーは、CFX Connect Real-Time System(BIO-RAD laboratories, Tokyo Japan)を使用し、Enzyme activation 95℃ 20秒 1 Cycle, Denature 95℃ 3秒, Anneal / Extend 60℃ 30秒をセットとして40 Cycles増幅させた。
【0067】
(E)統計解析
2群間の差は、Mann-Whitney U検定を用いて検定し、各miRNAの発現量の相関はSpearmanのρで検証した。また、ストレスのバイオマーカーとなる可能性を探るため、各miRNAの感度・特異度からROC分析した。統計解析はSPSS解析ソフト(IBM, SPSS ver25)を用いて、p<0.05を統計的有意差とした。
【0068】
[結果]
1.唾液miRNAのマイクロアレイ解析の結果
1次スクリーニングとして、16サンプルを用いて、Control群とStress群を比較して、miRNA発現量が2倍以上の差があり、有意差のあるものを抽出しヒートマップを作成した。Stress群で2倍以上の有意な発現増加が見られたmiRNAが38種あった(図1)。miRNAの発現がStress群で有意に高かったものトップ6種(hsa-miR-103a-3p、hsa-miR-223-5p、hsa-miR-181a-5p、hsa-miR-19b-3p、hsa-miR-1229-3p、hsa-miR-30b-5p)が同定された(表3)。この6種類をmiRbaseで照合したが、データベース上で機能のアノテーションが明示されているものはなかった。
【0069】
【表3】
【0070】
2.miRNAの定量PCRによる検証 (2次スクリーニング:88サンプル)
miRNAマイクロアレイ法で解析した16名とは異なる被験者88名のmiRNAからcDNA を作製し、分析を行った。表3に示した6種のmiRNAの特異的なプライマー/プローブであるTaqMan Advanced miRNA Assays とそれぞれ反応させ、リアルタイムqPCRでサンプル内のヒト成熟miRNAの検出・定量を行った。外部標準コントロールのcel-39-3pでノーマライズしたのち、比較定量による相対比はΔΔCt法で算出した。すべての反応・計測は3回ずつ独立に行った。
分析結果を表4に示す。2群間で有意差(p<0.05)を示したmiRNAはmiR-181a-5p, 223-5p, 19b-3pの3種類で, miR-30b-5pには差の傾向が認められた(p=0.08)。hsa-miR-1229-3pは、反応性が不安定で、多くのサンプルが増幅しなかった。
【0071】
【表4】
【0072】
3.miRNA発現の相関解析
表4の結果から、Stress群に発現量の上昇が確認されたmiRNAの各相関について検討した。発現上昇していた5つのmiRNA発現は、どの2つの組み合わせでも中等度以上の相関が見られた(図2)。
【0073】
4.miRNA値の感度・特異度とROC解析
リアルタイムqPCRで Stress群に増加を認めた5種類のmiRNA(miR-30b-5p、miR-223-5p、miR-19b-3p、miR-181a-5p、103a-3p)の感度・特異度を用いてそれぞれのROC曲線を作成した(図3A)。各ROC曲線の曲線下面積(AUC)とP値を表5に示す。
【0074】
【表5】
【0075】
単一miRNAでROC曲線が有意であった3つ(miR30b-5p、miR181a-5p、miR223-5p)の合計ROC曲線を作成した(図3B)。miRNA発現は相関する傾向にあったが、3つのコンビネーションより、miR30b-5p単独の方が、高い感度・特異度を示した(表5)。
【0076】
5.唾液コルチゾールの関与と相関
一般的に短期ストレスのバイオマーカー候補とされる唾液Cortisol濃度をELISAキットを用いて定量した。コントロール群(44サンプル)とストレス群(44サンプル)の計88サンプルの唾液Cortisol濃度を測定した結果、ストレス群0.79±0.084 pg/mL, コントロール群0.86±0.114 pg/mLで、ストレス群においてCortisol濃度の増大は見られなかった。また、5種のmiRNA発現量との相関性を見たところ、相関関係は認められなかった(図4)。
【産業上の利用可能性】
【0077】
これまで、心理的ストレスに対する客観的な指標となる有用なバイオマーカーはほとんど報告されていない。本発明で同定された特定のmiRNAは、小児虐待をはじめとする慢性の心理的ストレスに対する高感度・高確度なバイオマーカーとなり得るので、心理的ストレスの早期発見、早期対応が可能となり、カウンセリングや治療への改善が期待できる。また、唾液を検体として検出か可能であることから、より簡便かつ非侵襲的に心理的ストレスの有無を判定することができる。
【符号の説明】
【0078】
10 検出部
100 試料収容部
200 制御部
220 分析部
300 機構制御部
400 信号受入れ部
500 信号処理部
600 心理的ストレス判定部
610 参照情報保持部
700 結果出力部
800 表示部
900 入力部
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
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