(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023043295
(43)【公開日】2023-03-29
(54)【発明の名称】成膜方法及び成膜装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/318 20060101AFI20230322BHJP
C23C 16/04 20060101ALI20230322BHJP
C23C 16/34 20060101ALI20230322BHJP
【FI】
H01L21/318 B
C23C16/04
C23C16/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021150819
(22)【出願日】2021-09-16
(71)【出願人】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】大槻 友志
(72)【発明者】
【氏名】加賀谷 宗仁
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 悠介
【テーマコード(参考)】
4K030
5F058
【Fターム(参考)】
4K030AA03
4K030AA04
4K030AA13
4K030AA16
4K030AA17
4K030AA18
4K030BA40
4K030BB14
4K030CA04
4K030CA12
4K030DA05
4K030EA04
4K030FA01
4K030GA02
4K030HA01
4K030KA41
4K030LA02
4K030LA15
5F058BA09
5F058BC08
5F058BD10
5F058BF07
5F058BF21
5F058BF24
5F058BF30
5F058BF37
5F058BJ06
(57)【要約】
【課題】吸着阻害を用いた凹部への埋め込みにおいて、埋込性能の向上と生産性の向上の両立を図る。
【解決手段】基板の表面に形成された凹部に膜を形成する成膜方法であって、前記基板に対して吸着阻害ガスを供給して吸着阻害領域を形成する工程と、前記基板に対してシリコン含有ガスを供給して前記吸着阻害領域以外の領域にシリコン含有ガスを吸着させる工程と、前記基板を窒素含有ガスに晒して前記吸着したシリコン含有ガスと反応させてシリコン窒化膜を形成する工程と、を有し、前記シリコン含有ガスを吸着させる工程は、供給する前記シリコン含有ガスのドーズ量を、前記吸着阻害領域を形成していない前記基板に対して吸着するシリコン含有ガスの吸着飽和量以上に制御することを含む、成膜方法が提供される。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面に形成された凹部に膜を形成する成膜方法であって、
前記基板に対して吸着阻害ガスを供給して吸着阻害領域を形成する工程と、
前記基板に対してシリコン含有ガスを供給して前記吸着阻害領域以外の領域にシリコン含有ガスを吸着させる工程と、
前記基板を窒素含有ガスに晒して前記吸着したシリコン含有ガスと反応させてシリコン窒化膜を形成する工程と、を有し、
前記シリコン含有ガスを吸着させる工程は、供給する前記シリコン含有ガスのドーズ量を、前記吸着阻害領域を形成していない前記基板に対して吸着するシリコン含有ガスの吸着飽和量以上に制御することを含む、成膜方法。
【請求項2】
前記シリコン含有ガスのドーズ量は、
前記吸着阻害領域を形成していない前記基板に対して吸着させたシリコン含有ガスのガス種毎に予め記憶部に記憶された吸着飽和曲線に基づき、吸着させる前記シリコン含有ガス毎に制御される、
請求項1に記載の成膜方法。
【請求項3】
前記吸着阻害領域を形成する工程と、前記シリコン含有ガスを吸着させる工程と、前記シリコン窒化膜を形成する工程と、を含むサイクルを繰り返すことを含む、
請求項1又は2に記載の成膜方法。
【請求項4】
前記シリコン含有ガスを吸着させる工程は、前記シリコン含有ガスのドーズ量を前記サイクルの回数に応じて変化させることを含む、
請求項3に記載の成膜方法。
【請求項5】
前記シリコン含有ガスを吸着させる工程は、前記シリコン含有ガスのドーズ量を前記サイクルの回数に応じて減少させることを含む、
請求項4に記載の成膜方法。
【請求項6】
前記シリコン窒化膜を形成する工程は、前記基板を窒素含有ガスから生成したプラズマに晒して前記吸着したシリコン含有ガスと反応させることを含む、
請求項1~5のいずれか一項に記載の成膜方法。
【請求項7】
前記吸着阻害領域を形成する工程は、前記基板を前記吸着阻害ガスから生成したプラズマに晒すことを含む、
請求項1~6のいずれか一項に記載の成膜方法。
【請求項8】
表面に凹部が形成された基板を収容する処理容器と、
前記処理容器内に吸着阻害ガス、シリコン含有ガス及び窒素含有ガスを供給するガス供給部と、
制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記基板に対して吸着阻害ガスを供給して吸着阻害領域を形成する工程と、
前記基板に対してシリコン含有ガスを供給して前記吸着阻害領域以外の領域にシリコン含有ガスを吸着させる工程と、
前記基板を窒素含有ガスに晒して前記吸着したシリコン含有ガスと反応させてシリコン窒化膜を形成する工程と、を含む工程を制御し、
前記シリコン含有ガスを吸着させる工程において、供給する前記シリコン含有ガスのドーズ量を、前記吸着阻害領域を形成していない前記基板に対して吸着するシリコン含有ガスの吸着飽和量以上に制御する、成膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、成膜方法及び成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
基板上に形成された凹部に対してボイド(空孔)を生じさせずに膜を埋め込むことが求められている。一方、デバイス構造の微細化及び複雑化によってボイドを生じさせずに膜を埋め込むことが難しくなっている。例えば凹部の側壁にボーイング(Bowing)形状を有する場合、凹部に対してコンフォーマルに成膜するだけでは膜中にボイドが発生することを回避することは難しい。
【0003】
そこで、吸着阻害ガスを用いて成膜形状を制御する方法が提案されている(例えば、特許文献1)。特許文献1では、凹部のトップ部の開口近傍に吸着阻害ガスを吸着させる。これにより、凹部のトップ部のGPC(Growth Per Cycle)を凹部の底部のGPCに比べて小さくすることで、トップ部の開口近傍への膜の堆積を抑制することで開口の閉塞を防いで、凹部の底部からボトムアップで膜を埋め込むことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、吸着阻害を用いた凹部への埋め込みにおいて、埋込性能の向上と生産性の向上の両立を図ることができる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一の態様によれば、基板の表面に形成された凹部に膜を形成する成膜方法であって、前記基板に対して吸着阻害ガスを供給して吸着阻害領域を形成する工程と、前記基板に対してシリコン含有ガスを供給して前記吸着阻害領域以外の領域にシリコン含有ガスを吸着させる工程と、前記基板を窒素含有ガスに晒して前記吸着したシリコン含有ガスと反応させてシリコン窒化膜を形成する工程と、を有し、前記シリコン含有ガスを吸着させる工程は、供給する前記シリコン含有ガスのドーズ量を、前記吸着阻害領域を形成していない前記基板に対して吸着するシリコン含有ガスの吸着飽和量以上に制御することを含む、成膜方法が提供される。
【発明の効果】
【0007】
一の側面によれば、吸着阻害を用いた凹部への埋め込みにおいて、埋込性能の向上と生産性の向上の両立を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】参考例に係るシリコン窒化膜の埋込特性の評価結果を示す図。
【
図2】実施形態の成膜装置の一例を示す概略断面図。
【
図3】実施形態の成膜方法の一例を示すフローチャート。
【
図4】
図2の吸着阻害領域を形成する工程の一例を示すフローチャート。
【
図5】シリコン含有ガスの吸着飽和曲線の一例を説明するための図。
【
図6】パターン形状の違いによるシリコン含有ガスのドーズ量とGPCの関係を示す図。
【
図7】サイクル数とドーズ量との関係の一例を示す図。
【
図8】吸着阻害がない場合のシリコン窒化膜のGPCの実験結果を示す図。
【
図9】吸着阻害がある場合のシリコン窒化膜のGPCの実験結果を示す図。
【
図10】
図9の評価結果を位置Z6において正規化したGPCを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本開示を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0010】
[吸着阻害ガスを用いた成膜形状の制御]
基板上に形成された凹部に対してボイド(空孔)を生じさせずに膜を埋め込むために、吸着阻害ガスを用いて成膜形状を制御する成膜方法がある。例えば、ALD(Atomic Layer Deposition)法によるシリコン窒化膜(SiN膜)の成膜では、原料ガスにジクロロシランガス(DCS)等のシリコン含有ガスを使用し、シリコン含有ガスを窒化させるためにアンモニアガス(NH3)等の窒素含有ガスを使用する。この場合、吸着阻害ガスに塩素ガス(Cl2)を使用することで、ボイドの発生なくボトムアップの成膜が可能になる。
【0011】
ALD法による成膜方法の一例を参考例として説明する。ウエハWの一例としてシリコンウエハを使用し、該シリコンウエハには凹部としてトレンチが形成されている。また、トレンチ内部及びウエハWの表面は、例えばシリコンや絶縁膜で構成され、部分的に金属や金属化合物が存在していてもよい。
【0012】
参考例では、塩素ガスを、ウエハWに供給する。塩素ガスは、吸着阻害ガスの一例である。塩素ガスはウエハWに形成されたトレンチの上部及び上部付近に吸着し、底部及び底部付近への吸着量よりも多い。このため、阻害効果は塩素ガスの吸着量が多いトレンチの上部で高く、塩素ガスの吸着量が少ない底部で低くなる。つまり、トレンチの上部は吸着阻害領域となり、底部は吸着阻害領域以外の領域となる。なお、吸着阻害領域は、トレンチの凹部において相対的に吸着阻害効果の高い領域を含み、吸着阻害領域以外の領域は、前記凹部において相対的に吸着阻害効果の低い領域を含む。
【0013】
塩素ガスで吸着阻害領域を形成した後、塩素ガスをパージする。次に、シリコンプリカーサとしてシリコン含有ガス(例えばDCS)を供給してトレンチにシリコン含有ガスを吸着させ、シリコン(Si)含有層を形成する。吸着阻害領域にはシリコン含有ガスが吸着され難く、吸着阻害領域以外の領域にはシリコン含有ガスが吸着され易い。よって、トレンチの底部は上部よりもシリコン含有ガスの吸着量が多くなる。
【0014】
次に、シリコン含有ガスをパージした後、窒素含有ガス(例えばアンモニアガス)を供給してシリコン含有層を窒素含有ガスで窒化し、シリコン窒化膜を形成する。これにより、トレンチの底部に上部よりも厚いシリコン窒化膜を形成できる。次に、窒素含有ガスをパージした後、塩素ガスを、トレンチが形成された基板に供給する工程に戻る。塩素ガスの供給、塩素ガスのパージ、シリコン含有ガスの供給、シリコン含有ガスのパージ、窒素含有ガスの供給、窒素含有ガスのパージの工程をこの順に繰り返すことで、原子層レベルのシリコン窒化膜の成膜が行われる。この結果、ボイドが発生しないボトムアップの成膜が可能となり、埋込性能が向上する。
【0015】
吸着阻害ガスによるトレンチの上部と底部の阻害効果の差は、上部と底部のGPC(Growth Per Cycle)の差により示すことができる。GPCは、ALD法の1サイクル当たりの成膜量である。GPCの差が大きいほど微細トレンチやボーイング形状などの高難易度のトレンチ構造への埋め込みが可能になる。
【0016】
図1は、以上に示した参考例に係るトレンチに対するシリコン窒化膜の埋込特性の評価結果を示す図である。参考例1~3は、吸着阻害ガスの供給工程において、吸着阻害ガスの供給時間(s)を異なる値で制御したときのトレンチの深さに応じたGPCの変化を示す。ガスのドーズ量(Langmuir)は、当該ガスの分圧×供給時間で示される値である。例えば、ガスの供給時間が一定の場合、ガスの分圧を大きくするとドーズ量が増加する。また、例えば、ガスの分圧が一定の場合、ガスの供給時間を長くするとドーズ量が増加する。本評価の条件としては、参考例1~3のいずれも吸着阻害ガスの分圧を同一圧力に制御した。その上で参考例1~3のうち、参考例2のドーズ量に対して、参考例1は吸着阻害ガスのドーズ量を増やし、参考例3はドーズ量を最も減らした。
【0017】
図1(a)において、位置Z1~Z7のうち、位置Z1が最も浅い位置、すなわちトレンチ内の上部の位置であり、位置Z7が最も深い位置、すなわちトレンチ内の底部の位置である。また、
図1(b)は、
図1(a)に示す参考例1~3のすべてにおいて位置Z7において正規化したGPCを示す。
【0018】
図1(a)に示すように、参考例1~3のいずれも、トレンチ内の上部(トレンチの深さが浅い位置)におけるGPCがトレンチ内の底部(トレンチの深さが深い位置)におけるGPCよりも小さくなっていることが分かる。この結果から、参考例1~3はいずれも、トレンチ内に埋め込まれるシリコン窒化膜の断面をV字に制御できた。すなわち、ボトムアップ性の高い成膜が可能となり、埋込性能が向上できることが示された。また、
図1(b)に示すように吸着阻害ガスのドーズ量を増やすほど、塩素ガスの吸着阻害によりトレンチ内の上部におけるGPCとトレンチ内の底部におけるGPCとの差が大きくなり、埋込性能が向上した。
【0019】
以上から、吸着阻害ガスのドーズ量を増やすほど、
図1(b)に示すよう吸着阻害効果によりトレンチ内の上部の膜厚が底部の膜厚と比較して相対的に低下してボトムアップ性の高い成膜が実現し、ボイドの発生をなくし、埋込性能を向上させることができる。一方、吸着阻害ガスのドーズ量を増やすほど、
図1(a)に示すように全体的にGPCが下がり生産性が低下する。このように参考例の成膜方法では、膜形状とGPCとのトレードオフ、つまり、埋込性能と生産性との両立が課題になる。
【0020】
そこで、本実施形態では、吸着阻害ガスを用いたトレンチへの埋め込みにおいて、埋込性能の向上と生産性の向上の両立を図ることが可能な成膜方法を提供する。以下では、実施形態に係る成膜装置の構成の一例を説明した後、成膜装置を用いて実行可能な本実施形態に係る成膜方法について説明する。
【0021】
[成膜装置]
図2を参照し、実施形態の成膜装置10の一例について説明する。成膜装置10は、処理容器1、載置台2、シャワーヘッド3、排気部4、ガス供給部5、RF電力供給部8、制御部9等を有する。
【0022】
処理容器1は、アルミニウム等の金属により構成され、略円筒状を有している。処理容器1は、基板の一例であるウエハWを収容する。処理容器1の側壁には、ウエハWを搬入又は搬出するための搬入出口11が形成されている。搬入出口11は、ゲートバルブ12により開閉される。処理容器1の本体の上には、断面が矩形状をなす円環状の排気ダクト13が設けられている。排気ダクト13には、内周面に沿ってスリット13aが形成されている。排気ダクト13の外壁には、排気口13bが形成されている。排気ダクト13の上面には、絶縁体部材16を介して処理容器1の上部開口を塞ぐように天壁14が設けられている。排気ダクト13と絶縁体部材16との間はシールリング15で気密に封止されている。区画部材17は、載置台2(及びカバー部材22)が後述する処理位置へと上昇した際、処理容器1の内部を上下に区画する。
【0023】
載置台2は、処理容器1内でウエハWを水平に支持する。載置台2の底面には、載置台2を支持する支持部材23が設けられている。載置台2は、ウエハWに対応した大きさの円板状に形成されており、支持部材23に支持されている。載置台2は、AlN等のセラミックス材料や、アルミニウムやニッケル合金等の金属材料で形成されており、内部にウエハWを加熱するためのヒータ21が埋め込まれている。ヒータ21は、ヒータ電源(図示せず)から給電されて発熱する。そして、載置台2の上面の近傍に設けられた熱電対(図示せず)の温度信号によりヒータ21の出力を制御することで、ウエハWが所定の温度に制御される。載置台2には、上面の外周領域及び側面を覆うようにアルミナ等のセラミックスにより形成されたカバー部材22が設けられている。
【0024】
支持部材23は、載置台2の底面の中央から処理容器1の底壁に形成された孔部を貫通して処理容器1の下方に延び、その下端が昇降機構24に接続されている。昇降機構24により載置台2が支持部材23を介して、
図1で示す処理位置と、その下方の二点鎖線で示すウエハWの搬送が可能な搬送位置との間で昇降する。支持部材23の処理容器1の下方には、鍔部25が取り付けられている。処理容器1の底面と鍔部25との間には、ベローズ26が設けられている。ベローズ26は、処理容器1内の雰囲気を外気と区画し、載置台2の昇降動作にともなって伸縮する。
【0025】
処理容器1の底面の近傍には、昇降板27aから上方に突出するように3本(2本のみ図示)のウエハ支持ピン27が設けられている。ウエハ支持ピン27は、処理容器1の下方に設けられた昇降機構28により昇降板27aを介して昇降する。ウエハ支持ピン27は、搬送位置にある載置台2に設けられた貫通孔2aに挿通されて載置台2の上面に対して突没可能となっている。ウエハ支持ピン27を昇降させることにより、搬送機構(図示せず)と載置台2との間でウエハWの受け渡しが行われる。
【0026】
シャワーヘッド3は、処理容器1内に処理ガスをシャワー状に供給する。シャワーヘッド3は、金属製であり、載置台2に対向するように設けられており、載置台2とほぼ同じ直径を有している。シャワーヘッド3は、本体部31、シャワープレート32等を含む。本体部31は、処理容器1の天壁14に固定されている。シャワープレート32は、本体部31の下に接続されている。本体部31とシャワープレート32との間には、ガス拡散空間33が形成されている。ガス拡散空間33には、処理容器1の天壁14及び本体部31の中央を貫通するようにガス導入孔36が設けられている。シャワープレート32の周縁部には下方に突出する環状突起部34が形成されている。環状突起部34の内側の平坦部には、ガス吐出孔35が形成されている。載置台2が処理位置に存在した状態では、載置台2とシャワープレート32との間に処理空間38が形成され、カバー部材22の上面と環状突起部34とが近接して環状隙間39が形成される。
【0027】
排気部4は、処理容器1の内部を排気する。排気部4は、排気配管41、排気機構42等を含む。排気配管41は、排気口13bに接続されている。排気機構42は、排気配管41に接続された真空ポンプ、圧力制御バルブ等を有する。処理に際しては、処理容器1内のガスがスリット13aを介して排気ダクト13に至り、排気口13b、から排気配管41を通って排気機構42により排気される。
【0028】
ガス供給部5は、シャワーヘッド3に各種の処理ガスを供給する。ガス供給部5は、ガス源51、ガスライン52等を含む。ガス源51は、各種の処理ガスの供給源、マスフローコントローラ、バルブ(いずれも図示せず)等を含む。各種の処理ガスは、後述の実施形態の成膜方法において用いられるガスを含む。各種の処理ガスは、吸着阻害ガス、シリコン含有ガス、窒素含有ガス、パージガス等を含む。各種の処理ガスは、ガス源51からガスライン52及びガス導入孔36を介してガス拡散空間33に導入される。
【0029】
吸着阻害ガスは、例えば塩素ガス(Cl2)、窒素ガス(N2)及び塩素ガスと窒素ガスの混合ガス(Cl2/N2)の少なくともいずれかを含む。シリコン含有ガスは、例えばジクロロシランガス(DCS)を含む。窒素含有ガスは、例えばアンモニアガス(NH3)、アンモニアガス及びアルゴンガス(Ar)の混合ガス(NH3/Ar)の少なくともいずれかを含む。パージガスは、例えばアルゴンガスを含む。
【0030】
成膜装置10は、容量結合プラズマ装置であって、載置台2が下部電極として機能し、シャワーヘッド3が上部電極として機能する。載置台2は、コンデンサ(図示せず)を介して接地されている。ただし、載置台2は、例えばコンデンサを介さずに接地されていてもよく、コンデンサとコイルを組み合わせた回路を介して接地されていてもよい。シャワーヘッド3は、RF電力供給部8に接続されている。
【0031】
RF電力供給部8は、高周波電力(以下「RF電力」ともいう。)をシャワーヘッド3に供給する。RF電力供給部8は、RF電源81、整合器82、給電ライン83等を含む。RF電源81は、RF電力を発生する電源である。RF電力は、プラズマの生成に適した周波数を有する。RF電力の周波数は、例えば低周波数帯の450KHzからマイクロ波帯の2.45GHzの範囲内の周波数である。RF電源81は、整合器82及び給電ライン83を介してシャワーヘッド3の本体部31に接続されている。整合器82は、RF電源81の内部インピーダンスに負荷インピーダンスを整合させるための回路を有する。なお、RF電力供給部8は、上部電極となるシャワーヘッド3にRF電力を供給するものとして説明したが、これに限られるものではない。下部電極となる載置台2にRF電力を供給する構成であってもよい。
【0032】
制御部9は、例えばコンピュータであり、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、補助記憶装置等を備える。CPUは、ROM又は補助記憶装置に格納されたプログラムに基づいて動作し、成膜装置10の動作を制御する。制御部9は、成膜装置10の内部に設けられていてもよく、外部に設けられていてもよい。制御部9が成膜装置10の外部に設けられている場合、制御部9は有線、無線等の通信手段を介して成膜装置10の動作を制御する。
【0033】
[成膜方法]
次に、
図3及び
図4を参照し、実施形態の成膜方法の一例について、前述の成膜装置10を用いて行う場合を説明する。まず、制御部9は、処理容器1内に、表面にトレンチが形成されたウエハWを搬入し、載置台2上に載置することでウエハWを準備する(工程S0)。制御部9は、昇降機構24を制御して載置台2を搬送位置に下降させた状態で、ゲートバルブ12を開く。続いて、搬送アーム(図示せず)により、搬入出口11を介して処理容器1内にウエハWを搬入し、ヒータ21により所定の温度(例えば600℃以下)に加熱された載置台2上に載置する。続いて、制御部9は、昇降機構24を制御して載置台2を処理位置まで上昇させ、排気機構42により処理容器1内を所定の真空度まで減圧する。
【0034】
(吸着阻害領域を形成する工程S1)
続いて、吸着阻害領域を形成する工程S1を行う。吸着阻害領域を形成する工程S1では、ウエハWを吸着阻害ガスから生成したプラズマに晒して、トレンチ内の上部及びウエハWの表面に吸着阻害領域を形成する。吸着阻害領域は、シリコン含有ガスの吸着を阻害する領域である。吸着阻害領域を形成する工程S1は、例えば
図4に示すように、ステップS11及びステップS12を含む。
【0035】
ステップS11では、ウエハWを吸着阻害ガスから生成したプラズマに晒してトレンチ内の上部及びウエハWの表面を主として吸着阻害領域を形成する。本実施形態において、制御部9は、ガス供給部5からシャワーヘッド3を介して処理容器1内にCl2、N2又はCl2/N2を供給した後、RF電力供給部8によりシャワーヘッド3にRF電力を供給する。これにより、処理容器1内においてCl2、N2又はCl2/N2からプラズマが生成され、ウエハWの表面に形成されたトレンチ内に塩素ラジカル、塩素イオン、窒素ラジカル、窒素イオン等の活性種(反応種)が供給される。活性種は、表面上に物理吸着又は化学吸着する。吸着した活性種は、後述するシリコン含有ガスを吸着させる工程S3において、シリコン含有ガス(例えば、DCS)の吸着を阻害する機能を有するため、活性種が吸着した領域はシリコン含有ガスに対して吸着阻害領域となる。ここで、活性種は、ウエハWの表面やトレンチ内の上部には容易に到達するが、トレンチ内の奥、つまり底部付近の下部にはあまり多くは到達しない。トレンチのアスペクト比は高いので、多くの活性種は、トレンチ内の奥に到達する前に吸着もしくは失活する。よって、ウエハWの表面及びトレンチ内の上部には高密度で活性種が吸着するが、トレンチ内の下部には未吸着部分が多く残存し、吸着活性種の密度は低くなる。
【0036】
ステップS12では、制御部9は、ステップS11を行った回数が設定回数に到達したか否かを判定する。設定回数は、1回以上であってよい。ステップS12において、ステップS11を行った回数が設定回数に到達したと判定された場合、吸着阻害領域を形成する工程S1を終了する。一方、ステップS12において、ステップS11を行った回数が設定回数に到達していないと判定された場合、ステップS11に戻る。なお、ステップS11とステップS12との間に、ステップS11後に処理容器1内に残存するガスを除去するパージステップを行ってもよい。
【0037】
係る吸着阻害領域を形成する工程S1では、ウエハWをCl2、N2又はCl2/N2から生成したプラズマに晒すこと(ステップS11)を設定回数だけ繰り返すことで、トレンチ内の上部及びウエハWの表面に吸着阻害領域を形成する。このとき、繰り返されるステップS11の各々において、吸着阻害ガスの種類は同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0038】
例えば、設定回数が2回の場合、1回目にCl2を選択し、2回目にCl2、N2又はCl2/N2を選択してもよい。この場合、吸着阻害領域を形成する工程S1は、ウエハWをCl2から生成したプラズマに晒し、次いで、ウエハWをCl2、N2又はCl2/N2から生成したプラズマに晒すことを含む。また、例えば、1回目にN2を選択し、2回目にCl2、N2又はCl2/N2を選択してもよい。この場合、吸着阻害領域を形成する工程S1は、ウエハWをN2から生成したプラズマに晒し、次いで、ウエハWをCl2、N2又はCl2/N2から生成したプラズマに晒すことを含む。また、例えば、1回目にCl2/N2を選択し、2回目にCl2、N2又はCl2/N2を選択してもよい。この場合、吸着阻害領域を形成する工程S1は、ウエハWをCl2/N2から生成したプラズマに晒し、次いで、ウエハWをCl2、N2又はCl2/N2から生成したプラズマに晒すことを含む。また、例えば、1回目と2回目でCl2、N2又はCl2/N2の流量、流量比、プラズマ照射時間、圧力及びRF電力の1つ以上を変更してもよい。
【0039】
なお、吸着阻害領域を形成する工程S1では、プラズマを用いると反応性が高くなり、Cl2等のガスが吸着しやすくなるため、ウエハWをCl2、N2又はCl2/N2から生成したプラズマに晒した。ただし、プラズマを用いなくても吸着阻害ガスの吸着は起こる。よって、吸着阻害領域を形成する工程S1では、プラズマを用いずにウエハWをCl2、N2又はCl2/N2の吸着阻害ガスに晒して吸着阻害領域を形成してもよい。この場合、RF電力供給部8からシャワーヘッド3にRF電力は供給しない。
【0040】
(パージ工程S2)
続いて、パージ工程S2を行う。パージ工程S2では、吸着阻害領域を形成する工程S1後に処理容器1内に残存するガスを除去する。本実施形態において、制御部9は、ガス供給部5からシャワーヘッド3を介して処理容器1内に不活性ガス(例えば、アルゴンガス)を供給すると共に、排気部4により処理容器1内を排気する。これにより、処理容器1内に残存する吸着阻害ガスが不活性ガスと共に排出される。なお、パージ工程S2は省略してもよい。
【0041】
(シリコン含有ガスを吸着させる工程S3)
続いて、シリコン含有ガスを吸着させる工程S3を行う。シリコン含有ガスを吸着させる工程S3では、ウエハWに、シリコン含有ガスを供給することにより、吸着阻害領域を除く領域にシリコン含有ガスを吸着させてシリコン(Si)含有層を形成する。本実施形態において、制御部9は、ガス供給部5からシャワーヘッド3を介して処理容器1内にシリコン含有ガス(例えばDCS)を供給する。シリコン含有ガスは、吸着阻害機能を有する塩素及び/又は窒素が存在する領域にはあまり吸着せず、塩素及び/又は窒素の存在しない領域に多く吸着する。よって、トレンチ内の底部付近にシリコン含有ガスが多く吸着し、ウエハWの表面及びトレンチ内の上部に吸着するシリコン含有ガスの吸着量は、底部付近に吸着するシリコン含有ガスの吸着量と比較して相対的に少ない。つまり、トレンチ内の底部付近にシリコン含有ガスが高密度で吸着し、トレンチ内の上部及びウエハWの表面上にはシリコン含有ガスが低密度で吸着する。
【0042】
本開示では、シリコン含有ガスを吸着させる工程S3において、供給するシリコン含有ガスのドーズ量を、吸着阻害領域を形成していないウエハWに対して吸着するシリコン含有ガスの吸着飽和量以上に制御する。ウエハWへのシリコン含有ガスの吸着量が飽和する吸着飽和量とは、シリコン含有ガスのプリカーサが凹部を含むウエハWの表面の吸着サイトに吸着可能なシリコン含有ガスの最大値をいう。
【0043】
図5は、シリコン含有ガスの吸着飽和曲線Cの一例を説明するための図である。
図5の横軸は、シリコン含有ガスのドーズ量を示し、縦軸はGPC、すなわち、1サイクル当たりの成膜量(Å/cycle)を示す。GPCはC、膜の成膜速度の指標となる。
【0044】
図5の例では、A期間ではドーズ量が増加するにつれてGPCが上昇し、成膜速度が上がる。ドーズ量がある量DAを超えると、GPCはほぼ一定になる。このとき、ウエハWの表面には、飽和量(吸着飽和量)のプリカーサが吸着した状態になっていると考えられる。よって、ドーズ量がある量DAを超えたB期間では、ドーズ量を増加させてもGPCは増加しない。このため、ドーズ量がDA以上の領域では、ドーズ量をDB、DCと増加させてもGPCはほとんど変化しない。このとき、シリコン含有ガスのドーズ量は、DA<DB<DCの関係が成り立つ。
【0045】
つまり、吸着阻害領域を形成していないウエハWにシリコン含有ガスを供給した場合、吸着飽和曲線Cは、ウエハWに吸着飽和量のシリコン含有ガス(吸着飽和量のプリカーサ)が吸着してしまうと、それ以上、シリコン含有ガスを供給しても、膜厚分布を大きく変化させることはできないことを示す。なお、吸着飽和曲線はシリコン含有ガスの種類によって異なる曲線を描くが、いずれもドーズ量が増加する期間の後、ドーズ量がある量を超えた期間ではドーズ量を増加させてもGPCがほとんど増加しない曲線となる。わずかに上昇を続けるものもあるが、その場合は膜全体の平均GPCのドーズ量(Langmuir)依存性の曲線において、変曲点(GPCをLangmuirで2階微分した関数の値が0になるドーズ量)の2倍のドーズ量を飽和吸着量と決める。シリコン含有ガスの種類に応じた吸着飽和曲線が、シリコン含有ガスの種類毎に設定され、制御部9のRAM等の記憶部に予め記憶されている。
【0046】
シリコン含有ガスを吸着させる工程S3では、供給するシリコン含有ガスのドーズ量を、吸着阻害領域を形成していないウエハWに対して吸着するシリコン含有ガスの吸着飽和量以上に制御する。
【0047】
例えば、供給するシリコン含有ガスの種類に応じた吸着飽和曲線を記憶部に記憶された吸着飽和曲線から選択する。そして、シリコン含有ガスのドーズ量を、吸着阻害領域を形成していないウエハWに対して吸着させたシリコン含有ガスのガス種毎に予め記憶部に記憶された吸着飽和曲線のうち、選択した吸着飽和曲線に基づき、吸着させるシリコン含有ガス毎に制御してもよい。
【0048】
(パージ工程S4)
図3のステップS4に戻り、続いて、パージ工程S4を行う。パージ工程S4では、シリコン含有ガスを吸着させる工程S3後に処理容器1内に残存するシリコン含有ガスを除去する。本実施形態において、制御部9は、ガス供給部5からシャワーヘッド3を介して処理容器1内に不活性ガス(例えば、アルゴンガス)を供給すると共に、排気部4により処理容器1内を排気する。これにより、処理容器1内に残存するシリコン含有ガスが不活性ガスと共に排出される。なお、パージ工程S4は省略してもよい。
【0049】
(窒化工程S5)
続いて、窒化工程S5を行う。窒化工程S5では、ウエハWを、窒素含有ガスから生成したプラズマに晒してウエハWの表面及びトレンチ内に形成されたシリコン含有層と反応させてシリコン窒化膜を形成する。制御部9は、ガス供給部5からシャワーヘッド3を介して処理容器1内に窒素含有ガスとして例えばアンモニアガスを供給した後、RF電力供給部8によりシャワーヘッド3にRF電力を供給する。処理容器1内では、アンモニアガスからプラズマが生成され、ウエハWの表面及びトレンチ内に窒化のための活性種が供給される。活性種は、トレンチ内に形成されたシリコン含有層と反応し、シリコン窒化膜の分子層が反応生成物として形成される。ここで、シリコン含有層は、トレンチ内の底部付近に多く形成されているので、トレンチ内の底部付近に多くのシリコン窒化膜が形成される。
【0050】
なお、窒化工程S5では、プラズマを用いると反応性が高くなり、窒素含有ガスが吸着しやすくなるため、ウエハWを窒素含有ガスから生成したプラズマに晒して吸着したシリコン含有ガスと反応させてシリコン窒化膜を形成した。ただし、プラズマを用いなくてもガスの吸着は起こる。よって、窒化工程S5では、プラズマを用いずにウエハWを窒素含有ガスに晒してシリコン含有層を窒化してもよい。この場合、RF電力供給部8からシャワーヘッド3にRF電力は供給しない。
【0051】
(パージ工程S6)
続いて、パージ工程S6を行う。パージ工程S6では、窒化工程S5後に処理容器1内に残存する窒素含有ガスを除去する。本実施形態において、制御部9は、ガス供給部5からシャワーヘッド3を介して処理容器1内に不活性ガス(例えば、アルゴンガス)を供給すると共に、排気部4により処理容器1内を排気する。これにより、処理容器1内に残存する窒素含有ガスが不活性ガスと共に排出される。なお、パージ工程S6は省略してもよい。
【0052】
(判定工程S7)
続いて、判定工程S7では、制御部9は、吸着阻害領域を形成する工程S1からパージ工程S6までの繰り返し回数が設定回数に到達したか否かを判定する。設定回数は、例えば形成したいシリコン窒化膜の形状に応じて定められる。判定工程S7において、繰り返し回数が設定回数に到達したと判定された場合、処理を終了する。一方、判定工程S7において、該繰り返し回数が設定回数に到達していないと判定された場合、吸着阻害領域を形成する工程S1に戻る。
【0053】
以上に説明したように、実施形態の成膜方法によれば、吸着阻害領域を形成する工程S1からパージ工程S6までが繰り返され、トレンチの開口部が塞がれない状態で、底面側からシリコン窒化膜が堆積する。そして、V字の断面を形成しつつ、開口部を塞がないボトムアップ性が高いシリコン窒化膜の成膜を行うことができる。その結果、ボイドを発生させることなく、トレンチ内に高品質なシリコン窒化膜を埋め込むことができる。
【0054】
また、実施形態の成膜方法によれば、シリコン含有ガスを吸着させる工程S3においてシリコン含有ガスのドーズ量を、吸着阻害領域を形成していないウエハWに対して吸着するシリコン含有ガスの吸着飽和量以上に制御する。これにより、後述するようにGPCを増加させることができ、生産性の向上を図ることができる。この結果、埋込性能の向上と生産性の向上の両立を図ることができる。
【0055】
なお、パージ工程S2、S4、S6を省略し、吸着阻害領域を形成する工程と、シリコン含有ガスを吸着させる工程と、シリコン窒化膜を形成する工程と、を含むサイクルを設定回数だけ繰り返すようにしてもよい。
【0056】
また、シリコン含有ガスを吸着させる工程は、シリコン含有ガスのドーズ量を前記サイクルの回数に応じて変化させてもよい。例えば、サイクルの回数が多くなるほどシリコン含有ガスのドーズ量を増加させてもよい。また、例えば、サイクルの回数が多くなるほどシリコン含有ガスのドーズ量を減少させてもよい。
図6は、ウエハのパターン形状の違いによるシリコン含有ガスのドーズ量とGPCの関係を示す図である。Waはパターンが形成されていないフラットなウエハであり、Wbはアスペクト比が小さいパターンを有するウエハであり、Wcはアスペクト比が大きいパターンを有するウエハである。
図6において、ウエハのパターン形状に応じてGPCとシリコン含有ガスのドーズ量が変化している。したがって、サイクル数に応じてシリコン含有ガスのドーズ量を変化させる。例えば、
図7の3つのグラフの(a)のようにサイクル中に一定のドーズ量を供給するのではなく、(b)のように成膜初期iniから成膜終了finまでのシリコン含有ガスのドーズ量を、サイクルの回数に応じて徐々に減少させていく。これにより、成膜が進むにつれてウエハWの表面積が減少し、マイクロローディング効果により飽和吸着に必要なドーズ量が変化してもGPCを向上することができる。また、これにより、生産性を向上させ、シリコン含有ガスの消費量を抑制するといった効果も期待できる。
【0057】
以上に説明したように、本実施形態の成膜方法及び成膜装置によれば、吸着阻害を用いた凹部への埋め込みにおいて、埋込性能の向上と生産性の向上の両立を図ることができる。
【0058】
[実験結果例]
図8は、吸着阻害領域を形成していないウエハWにシリコン含有ガスを供給した場合のトレンチの各深さに対するGPCの実験結果を示す。
図8のD1、D2は、シリコン含有ガスのドーズ量(Langmuir)をD1及びD2(D1<D2)に制御したときのトレンチの深さに応じたGPCの変化を示す。
【0059】
図8において、位置Z1~Z6のうち、位置Z1が最も浅い位置、すなわちトレンチ内の上部の位置であり、位置Z6が最も深い位置、すなわちトレンチ内の下部の位置である。
図8に示すように、GPCは、ドーズ量D1、D2の差異に寄らず、位置Z1~Z6のそれぞれの深さにおいていずれの位置でもほぼ同一であった。つまり、
図8に示すように、ドーズ量をD1からD2に増加させてもGPCは増えていない。このことから、少なくともドーズ量がD1又はそれ以下の値で飽和吸着していることが分かった。以下では、吸着阻害領域を形成していないウエハWにシリコン含有ガスを供給した場合、飽和吸着に必要なドーズ量の最小値をD1とする。
【0060】
次に、吸着阻害領域を形成しているウエハWにシリコン含有ガスを供給した場合のトレンチの各深さに対するGPCの実験結果を示す。
図9は、吸着阻害領域を形成しているウエハWにシリコン含有ガスを供給した場合のトレンチの各深さに対するGPCの実験結果を示す。シリコン含有ガスのドーズ量(Langmuir)をD1、D2及びD3(D1<D3<D2)に制御したときのトレンチの深さに応じたGPCの変化を示す。
【0061】
図9において、吸着阻害領域を形成しているウエハWにシリコン含有ガスを供給した場合、プリカーサのドーズ量が吸着阻害領域を形成していない場合の飽和吸着に必要なプリカーサのドーズ量D1以上のドーズ量D3にシリコン含有ガスのドーズ量を制御したことで、トレンチの各深さに対するGPCが増大した。また、ドーズ量D3よりも多いドーズ量D2にシリコン含有ガスのドーズ量を制御したとき更にトレンチの各深さに対するGPCが増大した。これは、トレンチ内表面に存在するNH基などの吸着領域(Siが吸着できる領域)が、吸着阻害領域を形成するときに供給される吸着阻害ガスの影響で吸着しづらくなり、Si含有ガスが供給されたときに、元々の供給量では飽和せず、より多くの供給量が必要となったためと考えられる。
【0062】
以上のことから、発明者は、吸着阻害領域を形成していない場合と形成している場合とでは、ドーズ量に対するGPCの依存性が変化すること見出した。このため、本実施形態に係る成膜方法では、吸着阻害工程の後にウエハWにシリコン含有ガスを供給する工程において、シリコン含有ガスのドーズ量を、吸着阻害領域を形成していないウエハWにシリコン含有ガスを供給してウエハWにシリコン含有ガスを吸着させるときのシリコン含有ガスの吸着飽和量以上にする。これにより、GPCを増大させ、生産性を向上させることができる。
【0063】
図10は、
図9に示すドーズ量D1、D2、D3のすべてにおいて位置Z6において正規化したGPCを示す図である。これによれば、吸着阻害工程後のシリコン含有ガスの供給工程にて、吸着阻害領域を形成していないウエハWに対してシリコン含有ガスを供給してウエハWにシリコン含有ガスを吸着させるときのシリコン含有ガスの吸着飽和量の最小値のドーズ量D1以上のドーズ量に設定する。
【0064】
これにより、GPCが増加し、生産性の向上を図ることができる。また、埋込形状も改善する効果が得られる。つまり、
図10によれば、トレンチ内の上部(トレンチの深さが浅い位置)におけるGPCがトレンチ内の底部(トレンチの深さが深い位置)におけるGPCよりも小さくなる。この結果から、ドーズ量をD1、D2、D3のいずれに制御した場合にも、トレンチ内に埋め込まれるシリコン窒化膜の断面をV字に制御でき、埋込性能を高め、ボイドをなくすことができた。すなわち、ボトムアップ性が高いシリコン窒化膜を成膜できる。ただし、トレンチ内の上部と底部のGPCの差は、D1、D2、D3のうち、ドーズ量をD2と最も多くした場合に最も多くなり、最も埋込形状が改善された。
【0065】
今回開示された実施形態に係る成膜方法及び成膜装置は、すべての点において例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。実施形態は、添付の請求の範囲及びその主旨を逸脱することなく、様々な形態で変形及び改良が可能である。上記複数の実施形態に記載された事項は、矛盾しない範囲で他の構成も取り得ることができ、また、矛盾しない範囲で組み合わせることができる。
【0066】
上記の実施形態では、吸着阻害ガスが塩素ガス(Cl2)、窒素ガス(N2)又は塩素ガスと窒素ガスの混合ガス(Cl2/N2)である場合を説明したが、本開示はこれに限定されない。
【0067】
吸着阻害ガスは、ハロゲンガス及び非ハロゲンガスを含む。ハロゲンガスとしては、例えばフッ素ガス(F2)、塩素ガス(Cl2)、フッ化水素ガス(HF)が挙げられる。非ハロゲンガスとしては、例えば窒素ガス(N2)、シランカップリング剤が挙げられる。シリコン含有ガスとしては、例えば塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)等のハロゲン及び珪素(Si)を含むガスが挙げられる。
【0068】
例えば、吸着阻害領域を形成する工程はハロゲンガスから生成したプラズマに晒すこと、非ハロゲンガスから生成したプラズマに晒すこと、ハロゲンガスに晒すこと、非ハロゲンガスに晒すことの少なくともいずれかを含む。吸着阻害ガスとしては、ハロゲンガスとしては、フッ素ガス(F2)、塩素ガス(Cl2)、フッ化水素ガス(HF)等が挙げられる。非ハロゲンガスとしては、窒素ガス(N2)、シランカップリング剤等が挙げられる。
【0069】
吸着阻害領域を形成する工程は、ハロゲンガス又はハロゲンガスから生成したプラズマに晒し、次いで、非ハロゲンガス又は非ハロゲンガスから生成したプラズマに晒すことを含む。
【0070】
吸着阻害領域を形成する工程は、非ハロゲンガス又は非ハロゲンガスから生成したプラズマに晒し、次いで、ハロゲンガス又はハロゲンガスから生成したプラズマに晒すことを含む。
【0071】
吸着阻害領域を形成する工程は、ハロゲンガス又はハロゲンガスから生成したプラズマに晒すこと、非ハロゲンガス又は非ハロゲンガスから生成したプラズマに晒すことを少なくとも1回以上繰り返すことを含む。
【0072】
吸着阻害領域を形成する工程は、ハロゲンガスと非ハロゲンガスの混合ガスに晒すこと、ハロゲンガスと非ハロゲンガスの混合ガスから生成したプラズマに晒すこと、ハロゲンガス又は非ハロゲンガスに晒すこと、ハロゲンガス又は非ハロゲンガスから生成したプラズマに晒すことを含む。ハロゲンガスは塩素ガスであり、非ハロゲンガスは窒素ガスであることを含む。
【0073】
シリコン含有ガスは、ジクロロシランガス(DCS)に限定されない。例えば、シリコン含有ガスとしては、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)等のハロゲン及び珪素(Si)を含むガスが挙げられる。
【0074】
窒素含有ガスは、アンモニアガス(NH3)に限定されない。例えば、窒素含有ガスとしては、アンモニアガス(NH3)、ヒドラジンガス(N2H2)、窒素ガス(N2)等が挙げられ、これらを組み合わせてもよい。また、例えば、窒素含有ガスには、水素ガス(H2)が含まれていてもよい。
【0075】
上記の実施形態では、パージ工程S2,S4,S6で用いられるパージガスがアルゴンガス(Ar)である場合を説明したが、本開示はこれに限定されない。例えば、パージガスとしては、アルゴンガス(Ar)、窒素ガス(N2)等が挙げられ、これらを組み合わせてもよい。また、パージガスを使用せず、真空状態で排気を行ってもよい。
【0076】
上記の実施形態では、成膜装置が容量結合プラズマ装置である場合を説明してきたが、本開示はこれに限定されない。例えば、誘導結合型プラズマ、表面波プラズマ(マイクロ波プラズマ)、マグネトロンプラズマ、リモートプラズマ等をプラズマ源とするプラズマ装置であってもよい。
【0077】
上記の実施形態では、成膜装置がウエハを1枚ずつ処理する枚葉式の装置である場合を説明したが、本開示はこれに限定されない。例えば、成膜装置は複数のウエハに対して一度に処理を行うバッチ式の装置であってもよい。また、例えば成膜装置は処理容器内の回転テーブルの上に配置した複数のウエハを回転テーブルにより公転させ、第1のガスが供給される領域と第2のガスが供給される領域とを順番に通過させてウエハに対して処理を行うセミバッチ式の装置であってもよい。また、例えば成膜装置は1つの処理容器内に複数の載置台を備えた複数枚葉成膜装置であってもよい。
【符号の説明】
【0078】
1 処理容器
2 載置台
3 シャワーヘッド
4 排気部
5 ガス供給部
8 RF電力供給部
9 制御部
10 成膜装置