(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023043536
(43)【公開日】2023-03-29
(54)【発明の名称】ベンゼンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C10G 1/10 20060101AFI20230322BHJP
C07C 1/00 20060101ALI20230322BHJP
C07C 15/04 20060101ALI20230322BHJP
C01B 39/38 20060101ALI20230322BHJP
B01J 29/40 20060101ALI20230322BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20230322BHJP
【FI】
C10G1/10
C07C1/00
C07C15/04
C01B39/38
B01J29/40 Z
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021151222
(22)【出願日】2021-09-16
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100193725
【弁理士】
【氏名又は名称】小森 幸子
(74)【代理人】
【識別番号】100163038
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 武志
(74)【代理人】
【識別番号】100207240
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 喜弘
(72)【発明者】
【氏名】松尾 康輝
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 敏明
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 将吾
【テーマコード(参考)】
4G073
4G169
4H006
4H039
4H129
【Fターム(参考)】
4G073CZ13
4G073GA01
4G073GA11
4G073UA03
4G073UA05
4G169AA02
4G169BA07A
4G169BA07B
4G169CA04
4G169CA10
4G169CB35
4G169CC02
4G169ZA11A
4G169ZA11B
4G169ZC04
4H006AA02
4H006AC91
4H006BA71
4H006BC10
4H006BD33
4H006DA12
4H039CA99
4H039CL30
4H129AA01
4H129BA04
4H129BB04
4H129BB05
4H129BC14
4H129BC16
4H129KA07
4H129KA17
4H129KC05Y
4H129KC16X
4H129KC16Y
4H129KC18X
4H129KC18Y
4H129KD06Y
4H129KD07Y
4H129NA02
4H129NA27
4H129NA37
4H129NA43
(57)【要約】
【課題】PPSから熱分解及び脱硫反応により低分子の炭化水素であるベンゼンを高収率に得るベンゼンの製造方法の提供。
【解決手段】ポリフェニレンサルファイド樹脂とゼオライト触媒とを接触させて、前記ポリフェニレンサルファイド樹脂の熱分解及び脱硫反応により、ベンゼンを含む反応生成物を得る工程を含むベンゼンの製造方法であって、 前記ゼオライト触媒は、プロトン交換型ゼオライトであり、かつSiO2とAl2O3とのモル比(SiO2/Al2O3比)が5~100である、ベンゼンの製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフェニレンサルファイド樹脂とゼオライト触媒とを接触させて、前記ポリフェニレンサルファイド樹脂の熱分解及び脱硫反応により、ベンゼンを含む反応生成物を得る工程を含むベンゼンの製造方法であって、 前記ゼオライト触媒は、プロトン交換型ゼオライトであり、かつSiO2とAl2O3とのモル比(SiO2/Al2O3比)が5~100である、ベンゼンの製造方法。
【請求項2】
前記熱分解及び脱硫反応が、500~700℃の温度条件下で行われる、請求項1に記載のベンゼンの製造方法。
【請求項3】
前記ゼオライト触媒が、ZSM-5型のゼオライト触媒である、請求項1又は2に記載のベンゼンの製造方法。
【請求項4】
ポリフェニレンサルファイド樹脂又はポリフェニレンサルファイド樹脂を含有する廃プラスチックとゼオライト触媒とを接触させて、前記ポリフェニレンサルファイド樹脂の熱分解及び脱硫反応により、ベンゼンを含む反応生成物を得る工程を含むポリフェニレンサルファイド樹脂のリサイクル方法であって、
前記ゼオライト触媒は、プロトン交換型ゼオライトであり、かつSiO2とAl2O3とのモル比(SiO2/Al2O3比)が5~100である、ポリフェニレンサルファイド樹脂のリサイクル方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリフェニレンサルファイド樹脂を熱分解することによりベンゼンを得るベンゼンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂は、スーパーエンプラとして、自動車部品の軽量化や電子化のため金属部品代替として使用されている。近年、低燃費や自動運転に向けた自動車開発が活発になっていることから、今後のPPS需要はさらに伸びるものとして期待されている。それに伴い、PPSの廃棄物量も増加していくことが予測されるが、現在、PPSの明確な処理方法は確立されていない。現在は使用済み自動車のシュレッダーダスト(Automobile Shredder Residue:ASR)に含まれる1成分として焼却処理がされているが、硫黄分を含んでいるため発生する硫黄ガスが焼却炉にダメージを与えることが懸念され、今後PPS部品割合が高くなった際に処理を敬遠されてしまう可能性もある。また、近年の世界的なプラスチック廃棄物に対する規制や取り決めから、PPS廃棄物にたいしてもリサイクル等の有用な利用方法が求められるが、PPSに対する手法は確立されていない。
プラスチックのリサイクル手段の一つとして油化ガス化によるケミカルリサイクルが挙げられる。油化ガス化プロセスでは熱分解により廃プラスチックを低分子の炭化水素に変換するが、反応性や生成物の選択性を向上させるために固体触媒を用いる手法が多く検討されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、硫黄のスルフィド結合を持つPPSに対して固体触媒を用いて熱分解を行うことについては知られていない。
一般に、PPSの熱分解反応は高い温度が必要であり、多種の化合物が生成され、また硫黄化合物が生成される等の問題があるため、PPSのリサイクルについては十分な検討がなされていない。
そこで、本発明は、PPSから熱分解及び脱硫反応により低分子の炭化水素であるベンゼンを高収率に得るベンゼンの製造方法を提供することを目的とする。また、PPSに対し熱分解及び脱硫反応によりベンゼンを高収率で得ることにより、PPS廃棄物に対して有効にリサイクルできるPPSのリサイクル方法も提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、PPSを熱分解処理する際に、特定の固体触媒を用いることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、以下の態様を包含するものである。
[1] ポリフェニレンサルファイド樹脂とゼオライト触媒とを接触させて、前記ポリフェニレンサルファイド樹脂の熱分解及び脱硫反応により、ベンゼンを含む反応生成物を得る工程を含むベンゼンの製造方法であって、
前記ゼオライト触媒は、プロトン交換型ゼオライトであり、かつSiO2とAl2O3とのモル比(SiO2/Al2O3比)が5~100である、ベンゼンの製造方法。
[2] 前記熱分解及び脱硫反応が、500~700℃の温度条件下で行われる、[1]に記載のベンゼンの製造方法。
[3] 前記ゼオライト触媒が、ZSM-5型のゼオライト触媒である、[1]又は[2]に記載のベンゼンの製造方法。
[4] ポリフェニレンサルファイド樹脂又はポリフェニレンサルファイド樹脂を含有する廃プラスチックとゼオライト触媒とを接触させて、前記ポリフェニレンサルファイド樹脂の熱分解及び脱硫反応により、ベンゼンを含む反応生成物を得る工程を含むポリフェニレンサルファイド樹脂のリサイクル方法であって、
前記ゼオライト触媒は、プロトン交換型ゼオライトであり、かつかつSiO2とAl2O3とのモル比(SiO2/Al2O3比)が5~100である、ポリフェニレンサルファイド樹脂のリサイクル方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、PPSから熱分解及び脱硫反応により低分子の炭化水素であるベンゼンを高収率に得るベンゼンの製造方法を提供することができる。また、PPSに対し熱分解及び脱硫反応によりベンゼンを高収率で得ることにより、PPS廃棄物に対して有効にリサイクルできるPPSのリサイクル方法も提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例1の熱分解反応により生じた反応生成物のうち、実施例1で選択率の測定の対象とした化合物について、該化合物の構造式を示す図である。
【
図2】本発明におけるPPSの熱分解及び脱硫反応の反応機構を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、以下に記載する構成要件の説明は、本発明を説明するための例示であり、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。
【0010】
(ベンゼンの製造方法)
本発明のベンゼンの製造方法は、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂とゼオライト触媒とを接触させて、ポリフェニレンサルファイド樹脂の熱分解及び脱硫反応により、ベンゼンを含む反応生成物を得る工程を含む。 ゼオライト触媒は、プロトン交換型ゼオライトであり、かつSiO2とAl2O3とのモル比(SiO2/Al2O3比)が5~100である、
本発明は、PPS熱分解反応に、上記特定のゼオライト触媒を用いることにより、PPSの分解反応に必要な温度を下げ、かつ脱硫効果によりベンゼンを高収率に得る(ベンゼンの選択性を良好にする)ことができる。
【0011】
<ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂>
本発明で用いるPPS樹脂は、p-フェニレンスルフィドを主要な構成単位とする重合体であり、p-フェニレン単位の他、フェニレンスルフィドスルホン単位、フェニレンスルフィドケトン単位を含んでいてもよく、これらのランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物であってもよい。
PPS樹脂の形態は特に限定されるものではなく、粉体、顆粒、ペレット、繊維、フィルム、成形品等であってもよい。
【0012】
<ゼオライト触媒>
ゼオライトは、結晶性アルミケイ素塩の総称である。
本発明で使用するゼオライトは、プロトン交換型ゼオライトである。つまりイオン交換によりプロトン(H+)を導入し、ゼオライトの骨格構造中に含まれている陽イオンとして水素イオン(H+)が含有されているゼオライトである。
ゼオライトの骨格構造としては、例えば、ZSM-5型、ベータ型、モルデナイト型、Y型、フェリエライト型等の各種ゼオライトが挙げられる。これらのゼオライトの中でも、本発明では、ZSM-5型ゼオライトを用いることがより好ましい。
これらのゼオライトは、1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0013】
本発明で使用されるゼオライトは、市販のものを用いることもでき、例えば、東ソー社製のHSZ(登録商標)において、HSZ-800シリーズの840HOAや822HOA、HSZ-900シリーズの931HOA、HSZ-600シリーズの620HOAや660HOA、HSZ-300シリーズの330HUAや331HSAや350HUA等が挙げられる。中でも、HSZ-800シリーズの840HOAがより好ましい。
【0014】
また、本発明で使用されるゼオライトは、SiO2とAl2O3とのモル比(SiO2/Al2O3比)が5~100であるが、SiO2/Al2O3比が5~50であることが好ましく、10~45であることがより好ましく、10~40であることがさらに好ましい。
【0015】
ゼオライトのSiO2/Al2O3比は、蛍光X線分析(XRF)を用いて測定することができる。
一般的にプロトン交換型ゼオライトは固体酸触媒として作用し、アンモニア昇温脱離法(NH3-TPD)等により測定できる酸点の量が多いほど触媒の効果が大きいことが知られている。ゼオライトはSiO2/Al2O3比が小さいと酸点の量が多くなるが、ある値以下のSiO2/Al2O3比では逆に酸点の量が減少することから、最適なSiO2/Al2O3比の範囲がある。
【0016】
また、一般的に固体触媒の活性はその比表面積に比例することが知られており、固体の比表面積は粒子径に反比例することから、本発明で使用されるゼオライトは、平均粒子径が100μm未満であることが好ましく、50μm未満であることがより好ましく、15μm未満であることがさらに好ましい。
【0017】
<熱分解及び脱硫反応の温度条件>
PPSの熱分解及び脱硫反応は、500~700℃の温度条件下で行うことが好ましい。
下記実施例で示すように、本発明では、PPSの熱分解の際に特定のゼオライトを用いたことにより、500℃という比較的低温でもPPSの熱分解及び脱硫反応を進行させることができ、ベンゼンを高収率で製造することができる。
【0018】
熱分解及び脱硫反応工程において、PPS樹脂に対し用いるゼオライト触媒の量としては、PPS樹脂:ゼオライト触媒が100質量部:100~1000質量部であることが好ましい。
【0019】
<熱分解及び脱硫反応による生成物>
本発明により、PPSの熱分解及び脱硫反応により得られる生成物としては、例えば、
図1で示される、1.ベンゼン、2.ベンゼンチオール、3.ベンゼンジチオール、4.ジフェニルスルフィド、5.(4-チオ)ジフェニルスルフィド等が挙げられる。
そして、これらの生成物は、例えば、
図2に記載の反応機構を経由して得られると考えられる。
図2の符号5.(4-チオ)ジフェニルスルフィドや符号2.ベンゼンチオールは、下記比較例1~3の触媒を使用しない例でも示されるように、PPSの熱分解によりある程度の量得ることができる。
しかし、下記実施例1~3では、符号5.(4-チオ)ジフェニルスルフィドや符号2.ベンゼンチオールの量が減り、符号4.ジフェニルスルフィドや符号1.ベンゼンの量が増えている。
これは、本発明で用いた特定の触媒効果により、符号5から符号4の化合物へ、及び符号2から符号1の化合物へ、末端チオール基の脱硫が促進されたためであると考えられる。
また、そもそも、PPSから、符号4.ジフェニルスルフィドや符号1.ベンゼンが生成されるのも、本発明で用いた特定の触媒効果によるものと考えられる。
PPSのスルフィド結合(-S-)に対して、ゼオライトの酸点が選択的に脱硫反応を起こし、スルフィド結合が切断されることにより、ベンゼンが高収率で生成されたものと推察される。
このように、本発明で規定する特定のゼオライト触媒を用いてPPSを熱分解すると、脱硫効果を促進することができ、また分解性が向上し、これにより低分子化がより促進され、ベンゼンを効率的に製造することが可能となったと思われる。
【0020】
(PPSのリサイクル方法)
上述したように、本発明で規定する特定のゼオライト触媒を用いてPPSを熱分解すると、低分子の炭化水素であるベンゼンを高収率に得ることができる。そのため、上記(ベンゼンの製造方法)の欄に記載のPPSの熱分解及び脱硫反応工程を用いれば、PPSの有効なリサイクル方法を提供することができる。
つまり、ポリフェニレンサルファイド樹脂又はポリフェニレンサルファイド樹脂を含有する廃プラスチックに対し、上記本発明で規定する特定のゼオライト触媒を接触させて、PPSを熱分解及び脱硫反応させることにより、ベンゼンを高収率に得ることができ、ポリフェニレンサルファイド樹脂の有効なリサイクル方法を提供することができる。
【実施例0021】
以下に、本発明の内容および効果を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるわけではない。なお下記に示す「部」とは「質量部」を表す。
【0022】
(実施例1~3)
熱分解装置(フロンティア・ラボ製)とガスクロマトグラフィー質量分析計(アジレント・テクノロジー製)を組み合わせた装置を用いて熱分解反応を実施した。
熱分解装置専用の不活性処理済みステンレス製カップに粉末状のポリフェニレンサルファイド樹脂を0.2mg仕込み、その樹脂試料を覆うように固体触媒を2.0mg仕込んだ。
試料を仕込んだカップを熱分解装置の試料導入部に設置し、熱分解装置の反応部を反応温度に昇温した後に試料カップを反応部に導入した。
樹脂試料は瞬時に昇温されて、固体触媒との接触熱分解反応が起こり、熱分解生成物がキャリアガスに同伴された。熱分解生成物はスプリットをかけた後にキャリアガスと共にガスクロマトグラフィー質量分析計に導入し、成分の同定と定量を行った。
固体触媒には、プロトン交換型ZSM-5ゼオライト(東ソー社製HSZ-840HOA、SiO
2/Al
2O
3比(モル比)=40、平均粒子径:10μm)を用い、反応温度は500℃、600℃、700℃にて実施した。
得られた熱分解生成物のうち、本実施例として確認した低分子化合物の構造式を
図1に示す。実施例の条件と確認できた化合物の選択率を表1に示す。
いずれの温度条件においてもベンゼンが高い選択性にて得られており、触媒による低分子化と脱硫の効果が確認できた。
【0023】
(比較例1~7)
実施例1と同様の方法にて、触媒条件を変更してポリフェニレンサルファイド樹脂の熱分解反応を実施した。
比較例1~3では触媒を使用しない条件で反応温度を500℃、600℃、700℃にて、実施例4~5では固体触媒に酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化チタン、プロトン交換型ZSM-5ゼオライト(東ソー製HSZ-890HOA、SiO2/Al2O3比(モル比)=1500)を用いて反応温度600℃にて検討を行った。実験条件と確認できた化合物の選択率を表1に示す。
比較例は、いずれの条件においても実施例と比較して、ベンゼン選択率が低い結果となった。また、プロトン交換型ZSM-5ゼオライトでも、SiO2/Al2O3比が本発明で規定する所望の範囲内にないと本発明の効果は得られないことがわかった。
【0024】
【表1】
表1中、Nocatとは、触媒なしを意味する。
【0025】
上記結果より、PPS熱分解反応に、特定のゼオライト触媒を用いることで、500℃と比較的低い温度でも良好に分解及び脱硫反応を生じさせることができ、かつ脱硫効果によりベンゼンを高収率に得る(ベンゼンの選択性を良好にする)ことができることが確認できた。