(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023004363
(43)【公開日】2023-01-17
(54)【発明の名称】耐水素脆化高硬度ステンレス鋼
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20230110BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20230110BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021105989
(22)【出願日】2021-06-25
(71)【出願人】
【識別番号】000180070
【氏名又は名称】山陽特殊製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100185258
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 宏理
(74)【代理人】
【識別番号】100101085
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 健至
(74)【代理人】
【識別番号】100134131
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 知理
(72)【発明者】
【氏名】細田 孝
(57)【要約】 (修正有)
【課題】安価で耐水素脆性、機械的性質、耐食性に優れたステンレス鋼を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.10超~0.60%、Si:0.05~0.80%、Mn:2.0~10.0%、P:0.050%以下、S:0.050%以下、Ni:8.0~20.0%未満、Cr:18.0超~25.0%、Mo:0.01~0.50%、Cu:0.05~0.75%、V:0.50超~3.00%、Al:0.001~0.100%、N:0.01~0.10%、残部Fe及び不可避的不純物からなる、耐水素脆化高硬度ステンレス鋼。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C:0.10超~0.60%、
Si:0.05~0.80%、
Mn:2.0~10.0%、
P:0.050%以下、
S:0.050%以下、
Ni:8.0~20.0%未満、
Cr:18.0超~25.0%、
Mo:0.01~0.50%、
Cu:0.05~0.75%、
V:0.50超~3.00%、
Al:0.001~0.100%、
N:0.01~0.10%、
残部Fe及び不可避的不純物からなり、
式(1)の値が0.5~1.5、
式(2)の値が-100以下、
式(3)の値が2.0以上で、
固溶化処理(ST)温度(℃)が式(4)の値以上1250以下である、
耐水素脆化高硬度ステンレス鋼。
なお、式(1)~(4)の値は以下の式で求める。
V/{4([C]+[N])}・・・式(1)
551-462([C]+[N]-0.07[V])-9.2[Si]-8.1[Mn]-13.7[Cr]-29([Ni]+[Cu])-18.5[Mo]・・・式(2)
2.6[Ni]+3.0[Mo]+5.0[Al]+5.6[Cu]-0.7[Cr]-0.8[Si]-1.2[Mn]・・・式(3)
{1.3([Cr]-54)([Cr]+1)+2040}・・・式(4)
ただし、各式中、[ ]で示す元素記号には、当該成分の質量%の数値を代入する。
【請求項2】
請求項1に記載の化学成分に加えて、
選択的付加的成分として質量%でB:0.010%以下、Ca:0.050%以下、Mg:0.050%以下のいずれか1種または2種以上が含有され、
残部Fe及び不可避的不純物からなり、
式(1)の値が0.5~1.5、
式(2)の値が-100以下、
式(3)の値が2.0以上で、
固溶化処理(ST)温度(℃)が式(4)の値以上1250以下である、
耐水素脆化高硬度ステンレス鋼。
なお、式(1)~(4)の値は以下の式で求める。
V/{4([C]+[N])}・・・式(1)
551-462([C]+[N]-0.07[V])-9.2[Si]-8.1[Mn]-13.7[Cr]-29([Ni]+[Cu])-18.5[Mo]・・・式(2)
2.6[Ni]+3.0[Mo]+5.0[Al]+5.6[Cu]-0.7[Cr]-0.8[Si]-1.2[Mn]・・・式(3)
{1.3([Cr]-54)([Cr]+1)+2040}・・・式(4)
ただし、各式中、[ ]で示す元素記号には、当該成分の質量%の数値を代入する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素製造プラント、貯蔵施設、各種水素運搬手段(船舶やトレーラー等)、水素ステーションや燃料電池自動車といった水素エネルギー利用設備の部材(バルブ、配管、継手、ノズル、圧縮機、蓄圧器、計測機器など)、水冷孔を有して高温に曝される熱間金型等の、材料中への水素侵入が促される環境下において使用可能な鋼材に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池・水素エンジン自動車、水素ステーション等の各種水素エネルギー利用媒体に使用される部材とその材料には、耐久性の確保と共に、普及・汎用性の観点から可能な限り安価であることが求められている。そこで、これらに適用される鉄鋼材料としては、耐久性の観点から優れた耐水素脆性・高強度・高耐食性を省合金設計のもとで提供する必要がある。
【0003】
これまで水素利用媒体で使用されている耐水素脆性に優れた鋼種として、SUS316、XM19系が用いられているが、いずれも強度が低い。高強度材としてSUH660があるものの、これはNiを約25質量%も含有するため高価である。
【0004】
優れた耐水素脆性と高強度を志向して、Ni含有量を抑えた省合金設計の鋼(特許文献1及び特許文献2参照。)が提案されている。もっとも時効硬化量を確保するためには、固溶化処理(ST)温度を可能な限りγ単相域とすることが望ましく、未固溶炭化物の残存を促すCrの添加量を18%以下に抑えざるを得ない。その結果、耐食性確保に有効な固溶Cr量が少なくなるので、耐久性が十分ではなくなるので、これら提案の鋼は、強度レベルが同等なステンレス鋼(SUS420等)に比して耐食性が十分ではなく、同等な強度のステンレス鋼に匹敵する耐食性を持ち合わせるまでには至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6504870号公報
【特許文献2】特開2019-49036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
各種水素利用アプリケーション向けの材料においては、十分な耐水素脆性を有しつつ、安価、高強度、優れた耐食性という要求事項に応え得ることが望まれている。しかしながら、従前の技術では、これら全ての要求を兼ね備えるには未だ十分とはいえない。
【0007】
そこで本発明は、MnおよびNの添加によってγ安定化元素のNiを代替させることによってコストダウンを図ること、V(C,N)析出物による高硬度化、各合金元素が引張特性、コスト、耐食性、そして高強度材特有の水素脆化感受性に及ぼす影響を把握し、合金成分の添加量と組成バランス、また組成に対応した固溶化処理温度を調整して施すことによって、安価で優れた耐水素脆性、引張特性、および耐食性も兼ね備えた水素侵入が促される環境下において使用可能な鋼材を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、次の手段によって、安価で優れた耐水素脆性、機械的性質、および耐食性も兼ね備えた水素侵入が促される環境下において使用可能な鋼材を提供しうることを見出した。
【0009】
その課題を解決するための第1の手段は、質量%で、C:0.10超~0.60%、Si:0.05~0.80%、Mn:2.0~10.0%、P:0.050%以下、S:0.050%以下、Ni:8.0~20.0%未満、Cr:18.0超~25.0%、Mo:0.01~0.50%、Cu:0.05~0.75%、V:0.50超~3.00%、Al:0.001~0.100%、N:0.01~0.10%、残部Fe及び不可避的不純物からなり、式(1)の値が0.5~1.5、式(2)の値が-100以下、式(3)の値が2.0以上で、固溶化処理(ST)温度(℃)が式(4)の値以上1250以下である、耐水素脆化高硬度ステンレス鋼である。
なお、式(1)~(4)の値は以下の式で求める。
V/{4([C]+[N])}・・・式(1)
551-462([C]+[N]-0.07[V])-9.2[Si]-8.1[Mn]-13.7[Cr]-29([Ni]+[Cu])-18.5[Mo]・・・式(2)
2.6[Ni]+3.0[Mo]+5.0[Al]+5.6[Cu]-0.7[Cr]-0.8[Si]-1.2[Mn]・・・式(3)
{1.3([Cr]-54)([Cr]+1)+2040}・・・式(4)
ただし、各式中、[ ]で示す元素記号には、当該成分の質量%の数値を代入する。
【0010】
その第2の手段は、第1の手段に記載の化学成分に加えて、選択的付加的成分としてB:0.010%以下、Ca:0.050%以下、Mg:0.050%以下のいずれか1種または2種以上が含有され、
残部Fe及び不可避的不純物からなり、式(1)の値が0.5~1.5、式(2)の値が-100以下、式(3)の値が2.0以上で、固溶化処理(ST)温度(℃)が式(4)の値以上1250以下である、耐水素脆化高硬度ステンレス鋼である。
なお、式(1)~(4)の値は以下の式で求める。
V/{4([C]+[N])}・・・式(1)
551-462([C]+[N]-0.07[V])-9.2[Si]-8.1[Mn]-13.7[Cr]-29([Ni]+[Cu])-18.5[Mo]・・・式(2)
2.6[Ni]+3.0[Mo]+5.0[Al]+5.6[Cu]-0.7[Cr]-0.8[Si]-1.2[Mn]・・・式(3)
{1.3([Cr]-54)([Cr]+1)+2040}・・・式(4)
ただし、各式中、[ ]で示す元素記号には、当該成分の質量%の数値を代入する。
【発明の効果】
【0011】
本発明のステンレス鋼は、安価な成分を用いており、また、耐水素脆性に優れ、熱間加工性、時効硬さ、引張強さが良好で、耐食性にも優れる耐水素脆化高硬度ステンレス鋼である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の形態の説明に先だって、まず、本発明の耐水素脆化高硬度ステンレス鋼の化学組成を規定した理由を以下に説明する。以下の%は質量%である。なお、残部はFe及び不可避的不純物である。
【0013】
C:0.10超~0.60%
Cは、V(C,N)生成による析出強化に必要な成分である。そこで、Cは、0.10%超である必要がある。他方、Cが0.60%を超えると、粗大炭窒化物生成により耐食性が劣化する。そこで、Cは0.10超~0.60%とする。
【0014】
Si:0.05~0.80%
Siは、製鋼段階での脱酸材として有用な成分である。そこで、Siは、0.05%以上含有するものとする。Siが0.80%を超えると、材料の延性が劣ることとなり、またフェライト生成によって耐水素脆性が劣ってくる。そこで、Siは0.05~0.80%とする。
【0015】
Mn:2.0~10.0%
Mnはγ組織を安定化させ、優れた耐水素脆性に有用な成分である。そこで、Mnは2.0%以上含有するものとする。他方、10.0%を超えると、積層欠陥エネルギー(以下、「SFE」という。)が低下し、耐水素脆性が低下することとなる。そこで、Mnは2.0~10.0%とする。
【0016】
P:0.050%以下
本発明において、Pは不可避的不純物として含有されることがあるが、多すぎると延性、靭性、および熱間加工性が劣ってしまうので、Pの含有は0.050%以下とする。
【0017】
S:0.050%以下
本発明において、Sは不可避的不純物として含有されることがあるが、多すぎると延性、靭性、および熱間加工性が劣ってしまうので、Sの含有は0.050%以下とする。
【0018】
Ni:8.0~20.0%未満
Niはγ組織の安定化とSFEの上昇により、優れた耐水素脆性を得ることに有用な成分である。そこで、Niは8.0%以上とする。他方、Niは20.0%以上含有させても、その効果は飽和し、高コスト化してしまう。そこで、Niは8.0~20.0%未満とする。
【0019】
Cr:18.0超~25.0%
Crは耐食性の向上に有用な成分である。そこで、Crを18.0%超含有させることとする。他方、Crが25.0%以上含有させても、その効果は飽和し、フェライト生成により耐水素脆性も劣ってくる。そこで、Crは18.0超~25.0%とする。
【0020】
Mo:0.01~0.50%
Moは耐食性向上と、SFEの上昇に有用な成分であり、優れた耐水素脆性を得ることができる。そこで、Moは0.01%以上とする。他方、0.50%を上回ると高コスト化してしまう。そこで、Moは0.01~0.50%とする。
【0021】
Cu:0.05~0.75%
Cuはγ組織の安定化とSFEの上昇により、優れた耐水素脆性を得ることに有用な成分である。そこで、Cuは0.05%以上とする。他方、Cuが0.75%を上回ると熱間加工性が劣ってくる。そこで、Cuは0.05~0.75%とする。
【0022】
V:0.50超~3.00%
Vは、V(C,N)の生成による析出強化に必要な成分である。そこでVは0.50%超とする。他方、Vが3.00%を上回と炭窒化物の生成により耐食性が劣ってきて、高コスト化する。そこで、Vは0.50超~3.00%とする。
【0023】
Al:0.001~0.100%
Alは脱酸、およびSFE上昇に有用な成分である。そこでAlは0.001%以上とする。他方、Alが0.100%を上回ると、延性が低下し、フェライト生成により耐水素脆性が劣ることとなる。そこで、Alは0.001~0.100%とする。
【0024】
N:0.01~0.10%
NはV(C,N)の生成による析出強化に必要な成分であり、固溶によるマトリクスが強化され、耐食性も向上する。そこで、Nは0.01%以上含有するものとする。他方、Nが0.10%を超えると、粗大炭窒化物の生成により耐食性が劣化し、また窒化物の生成により延性も低下する。また、製造コストが増大してしまうので、回避する必要もある。そこで、Nは0.01~0.10%とする。
【0025】
さらに、任意的付加的成分として、B、Ca、Mgから1種または2種以上を(B:≦0.010%、Ca:≦0.050%、Mg:≦0.050%)の範囲で、選択的に添加することができる。
【0026】
B:≦0.010%
Bを添加すると、熱間加工性を改善することができる。ただし、0.010%を超えると、その効果は飽和し、また、かえって熱間加工性が悪化する。そこで、Bを添加する場合は、0.010%以下とする。
【0027】
Ca:≦0.050%
Caを添加すると、熱間加工性を改善することができる。ただし、0.050%を超えると、その効果は飽和し、また、かえって熱間加工性が悪化する。そこで、Caを添加する場合は、0.050%以下とする。
【0028】
Mg:≦0.050%
Mgを添加すると、熱間加工性を改善することができる。ただし、0.050%を超えると、その効果は飽和し、また、かえって熱間加工性が悪化する。そこで、Mgを添加する場合は、0.050%以下とする。
【0029】
次に、式(1)~(4)及び固溶化処理温度(ST温度)を規定する理由について説明する。なお、以下の式中の[ ]で示す元素記号には、当該成分の質量%の数値を代入するものとする。
【0030】
V/{4([C]+[N])}:0.5~1.5
式(1)のV/{4([C]+[N])}の値を0.5~1.5の範囲にすることでV、C、およびNを効果的に析出硬化に利用することができる。式(1)の値が0.5を下回ると、C、Nの過剰によって耐食性が悪化する。他方、式(1)の値が1.5を上回ると、Vが過剰となるので、高コスト化を回避する指標となっている。
そして、本発明の合金成分範囲で、式(1)の値を規定の範囲内とすることで、安価で高硬度で、さらに優れた引張特性を得ることができる。
【0031】
551-462([C]+[N]-0.07[V])-9.2[Si]-8.1[Mn]-13.7[Cr]-29([Ni]+[Cu])-18.5[Mo]≦-100
式(2)の551-462([C]+[N]-0.07[V])-9.2[Si]-8.1[Mn]-13.7[Cr]-29([Ni]+[Cu])-18.5[Mo]の値は、耐水素脆性に優れるγ組織の安定度を表す指標である。式(2)の値は低いほどγ組織は安定であるから、値が低いことが優れた耐水素脆性を得ることにつながる。そこで、式(2)の値は-100以下とする。
【0032】
2.6[Ni]+3.0[Mo]+5.0[Al]+5.6[Cu]-0.7[Cr]-0.8[Si]-1.2[Mn]≧2.0
式(3)の2.6[Ni]+3.0[Mo]+5.0[Al]+5.6[Cu]-0.7[Cr]-0.8[Si]-1.2[Mn]の値は、2.0以上とする。この式(3)の値が2.0以上であれば、加工組織の安定性が確保され、また、高SFEが確保されることで局所すべりを起こし難くし、延性低下および耐水素脆性の低下につながるなど、粒界破壊の発生を抑制することができることとなる。すなわち、式(3)の値を2.0以上とすることで、平滑破面の発生を抑制し、常温・常圧・大気雰囲気での延性を向上させることは、高強度材でみられる水素脆化感受性の上昇を抑制することとなる。
【0033】
固溶化処理温度(ST温度):式(4)の値~1250(℃)
式4:{1.3([Cr]-54)([Cr]+1)+2040}
鋼材に施す固溶化処理の処理温度(ST温度)(℃)を、添加Cr量:[Cr]に応じて、式(4)の値~1250℃までの間の温度とする。なお、本発明における添加Cr量[Cr]は18.0超~25.0%であるから、下限となる式(4)の値は、およそ1060~1150℃となる。添加Cr量に応じて、式(4)の値以上1250℃までの温度にて固溶化処理を施すことで、マトリクス中の固溶Cr量が確保でき、高い耐食性を得ることができる。温度を上げ過ぎると著しく結晶粒が粗大化して延性、耐水素脆性が損なわれるため、1250℃を上限とした。
なお、固溶化熱処理とは、鋼中の炭化物や金属間化合物が生地内に固溶する温度以上に充分加熱してから急冷し、再析出を阻止する操作のことであり、固溶化処理された状態とは、造塊や熱間加工後の冷却中に析出する炭化物、窒化物といった化合物が、加熱によって分解され、合金元素としてマトリクス中に固溶された状態である。本発明における固溶化処理された状態の鋼とは、本発明に規定する成分であって、式(4)の値~1250(℃)の温度にて固溶化熱処理された状態の鋼をいう。
【0034】
(実施例)
表1に記載の実施例No.1~No.20、表2に記載の比較例No.21~42の成分組成と残部Feおよび不可避不純物からなる鋼を真空誘導溶解炉(VIM)にて溶製し、それぞれ100kgの鋼塊を得た。次いで、これらの鋼塊から試験片を得るために、以下の処理を行った。まず、各鋼塊について、1150℃に加熱し、直径15mmに鍛伸した(以下では「φ15鍛造」ともいう。)後、固溶化熱処理として表1もしくは表2に記載のST温度にて(実施例におけるST温度は式(4)の温度~1250℃以下の範囲の温度である。)10分以上保持した後にこれを油冷し、さらに時効処理として900℃以下で30分以上保持した後に空冷し、各試験片を得た。
【0035】
【0036】
【0037】
(熱間加工性の評価)
試験片作製における上記工程のφ15鍛造において、問題なく加工できたものは熱間加工性が良好と評価して、表3に○と記載した。他方、熱間加工性が悪く、割れの多発で加工の続行が不可となったものについては、表3において×と記載した。なお、×となった鋼では、試験片が適切に得られなかったので、以降の評価は実施していない。
【0038】
(時効硬さについて)
各試験片について、時効処理後の時効硬さ(HRC硬さ)を評価した結果を表3に示す。ロックウェル硬さ試験機を用いて、鍛伸方向に垂直な面を硬さ測定した。35HRC以上を時効硬さに優れるとして〇で評価し、32~34HRCを時効硬さが可であると評価して△と記載し、32HRC未満を硬さが劣るものと評価して×とした。
【0039】
(引張特性の評価)
各試験片を、平行部直径が6mm、長さ30mmの棒状引張試験片へと加工した後、大気中にて、ストローク速度1.0mm/minで引張試験を実施した。
引張強さが1000MPa以上を引張強さに優れるとして表3に○で記載した。また、引張強さが1000MPa未満を引張強さに劣るとして×と記載した。
また、絞りも測定し、25%以上の絞りとなったものを○として優れると、25%未満を×として劣ると評価した。
【0040】
(耐水素脆性の評価)
以下の手順で試験片を水素チャージをして耐水素脆性の評価を行った。
(1)水素チャージ:上記の引張特性の評価と同様の試験片を用い、端部にNi線を電気溶接し、平行部以外を樹脂被膜で水素浸入を遮断させた。
この試験片を0.01N硫酸+0.5g/lのチオシアン酸アンモニウム溶液内に浸漬し、陰極チャージ法にて、68A/mm2、30℃、24hrの条件で水素チャージを行った。
(2)耐水素脆性評価:水素チャージ後、直ちに上記の引張特性評価と同様の試験を実施した。絞りの変化を水素チャージ有りの場合と無しの場合の比率:相対絞り比(RRA)で評価した。すなわち、PRA=[水素チャージ有材の絞り]/[水素チャージ無材の絞り]であり、RRAの値が0.80以上を耐水素脆性に優れるとして表3に○と、0.80未満を耐水素脆性に劣るとして×として評価した。
【0041】
(耐食性の評価)
試験片を直径12mm×長さ21mmの棒状腐食試験片へ加工した後、塩水噴霧試験(50ppmの希薄塩水を35℃で16hr噴霧した。)を実施した。その後、各試験片表面を観察し、長径1mm以上の点状錆の数が12個以下のものを耐食性に優れるとして表3では○と評価し、12個超の点状錆が観察されたものを耐食性に劣るとして×とした。
【0042】