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特開2023-4389油脂組成物及び食品並びに焙煎ごま油の香ばしい風味を強める方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023004389
(43)【公開日】2023-01-17
(54)【発明の名称】油脂組成物及び食品並びに焙煎ごま油の香ばしい風味を強める方法
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/00 20060101AFI20230110BHJP
【FI】
A23D9/00 504
A23D9/00 506
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021106018
(22)【出願日】2021-06-25
(71)【出願人】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000210654
【氏名又は名称】竹本油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100119208
【弁理士】
【氏名又は名称】岩永 勇二
(72)【発明者】
【氏名】坂内 千佳子
(72)【発明者】
【氏名】亀谷 剛
(72)【発明者】
【氏名】平井 浩
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 しおり
(72)【発明者】
【氏名】山本 武広
【テーマコード(参考)】
4B026
【Fターム(参考)】
4B026DC01
4B026DG04
4B026DG05
4B026DG09
4B026DL02
4B026DX01
(57)【要約】
【課題】焙煎ごま油を含有する油脂組成物における焙煎ごま油の香ばしい風味が強められた油脂組成物及び当該油脂組成物を用いて製造した食品並びに焙煎ごま油を含有する油脂組成物における焙煎ごま油の香ばしい風味を強める方法を提供する。
【解決手段】焙煎ごま油29~80質量%、焙煎ごま油以外の油脂及びセサミン類濃縮物を含有する油脂組成物及び当該油脂組成物を用いて製造した食品並びにセサミン類濃縮物を添加することによる、焙煎ごま油29~80質量%及び焙煎ごま油以外の油脂を含有する油脂組成物における焙煎ごま油の香ばしい風味を強める方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
焙煎ごま油29~80質量%、前記焙煎ごま油以外の油脂及びセサミン類濃縮物を含有する油脂組成物。
【請求項2】
組成物中のセサミン類の含量が0.47~1.00質量%である請求項1記載の油脂組成物。
【請求項3】
組成物中のセサミン類の含量が0.50~0.90質量%である請求項1記載の油脂組成物。
【請求項4】
前記セサミン類濃縮物がごま由来である請求項1~3のいずれか1項に記載の油脂組成物。
【請求項5】
前記セサミン類濃縮物が未焙煎ごま油由来である請求項1~4のいずれか1項に記載の油脂組成物。
【請求項6】
前記焙煎ごま油以外の油脂が精製植物油である請求項1~5のいずれか1項に記載の油脂組成物。
【請求項7】
前記精製植物油が菜種油又は大豆油である請求項6記載の油脂組成物。
【請求項8】
前記セサミン類濃縮物を0.1~5.0質量%含有する請求項1~7のいずれか1項に記載の油脂組成物。
【請求項9】
前記焙煎ごま油以外の油脂を19.9~70.9質量%含有する請求項1~8のいずれか1項に記載の油脂組成物。
【請求項10】
前記焙煎ごま油を49~70質量%含有する請求項1~8のいずれか1項に記載の油脂組成物。
【請求項11】
前記焙煎ごま油以外の油脂を29.9~50.9質量%含有する請求項10に記載の油脂組成物。
【請求項12】
5℃で24時間保管後の目視による外観観察にて清澄である請求項1~11のいずれか1項に記載の油脂組成物。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載の油脂組成物を用いて製造した食品。
【請求項14】
セサミン類濃縮物を添加することによる、焙煎ごま油29~80質量%及び前記焙煎ごま油以外の油脂を含有する油脂組成物における焙煎ごま油の香ばしい風味を強める方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焙煎ごま油を含有する油脂組成物及び当該油脂組成物を用いて製造した食品並びに焙煎ごま油を含有する油脂組成物における焙煎ごま油の香ばしい風味を強める方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、精製油をブレンドしても焙煎ごま油の風味を維持できる焙煎ごま油配合油脂組成物及びこれを用いた食品を提供することを目的とする、焙煎ごま油が50質量%より大になるように焙煎ごま油及び精製油を配合し、トリグリセリドを構成する3つの脂肪酸が不飽和脂肪酸であるトリグリセリドを59質量%以上80質量%以下含む焙煎ごま油配合油脂組成物が開示されている。また、特許文献1には、背景技術として、焙煎油は製造コストが比較的高く商品価格が高めになってしまうことから、焙煎ごま油に大豆油を加えて調合した「調合ごま油」が市販されていることが記載されている。
【0003】
特許文献2には、天然物そのものからなる安定性が高く、副作用が少ない血清コレステロール値及び/又は血中脂質値低減剤を提供することを目的とする、純正ごま油を有効成分とする、上昇した血清コレステロール値及び/又は血中脂質値を減少させる血清コレステロール値及び/又は血中脂質値の改善剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-284803号公報
【特許文献2】特開2016-121112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の通り、特許文献1には、焙煎ごま油と菜種油等の精製油とのブレンド油である「調合ごま油」において焙煎ごま油の配合量が50質量%より大であると、所定条件下で焙煎ごま油の風味を維持できることが記載されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の発明では、焙煎ごま油の配合量が50質量%に近づくと、特に65質量%以下になると、焙煎ごま油の風味の維持が十分とは言えない場合があった(特許文献1の表6参照)。特に、食品および飲料のおいしさに寄与していると言われているレトロネーザルアロマ(飲料や食品を飲みこんだ際に喉から鼻に抜ける香り)において香ばしい風味が十分でなかった。
【0007】
一方、特許文献2(段落〔0023〕、〔0061〕表13の被験食品2)には、調合ごま油の開示はあるが、調合ごま油における焙煎ごま油の風味に関する問題点についての開示は一切無く、関与成分がセサミンやセサモリンである、血清コレステロール値及び/又は血中脂質値の改善剤が開示されているに過ぎない。
【0008】
従って、本発明の目的は、焙煎ごま油を含有する油脂組成物における焙煎ごま油の香ばしい風味が強められた油脂組成物及び当該油脂組成物を用いて製造した食品並びに焙煎ごま油を含有する油脂組成物における焙煎ごま油の香ばしい風味を強める方法を提供することである。
なお、本発明において、「焙煎ごま油の香ばしい風味が強められた」とは、レトロネーザルアロマにおいて、焙煎ごま油、焙煎ごま油以外の油脂及びセサミン類濃縮物を含む油脂組成物が、セサミン類濃縮物を含まないものに対して、焙煎ごま油の香ばしい風味が強められた、及び/又は焙煎ごま油と同等の焙煎ごま油の香ばしい風味を有することを示す。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するために、下記の油脂組成物及び食品並びに焙煎ごま油の香ばしい風味を強める方法を提供する。
なお、本発明において、セサミン類は、セサミン及びセサモリンのことを意味する。また、本発明において、セサミン類濃縮物とは、セサミン類を濃縮させた物のことであり、より具体的には、原料中のセサミン及びセサモリンの合計濃度よりもセサミン及びセサモリンの合計濃度を増加させた物をいう。
【0010】
また、本発明において、X(数値)~Y(数値)との記載は、特に明記していない限り、X以上Y以下を意味する。
【0011】
[1]焙煎ごま油29~80質量%、前記焙煎ごま油以外の油脂及びセサミン類濃縮物を含有する油脂組成物。
[2]組成物中のセサミン類の含量が0.47~1.00質量%である前記[1]記載の油脂組成物。
[3]組成物中のセサミン類の含量が0.50~0.90質量%である前記[1]記載の油脂組成物。
[4]前記セサミン類濃縮物がごま由来である前記[1]~[3]のいずれか1つに記載の油脂組成物。
[5]前記セサミン類濃縮物が未焙煎ごま油由来である前記[1]~[4]のいずれか1つに記載の油脂組成物。
[6]前記焙煎ごま油以外の油脂が精製植物油である前記[1]~[5]のいずれか1つに記載の油脂組成物。
[7]前記精製植物油が菜種油又は大豆油である前記[6]記載の油脂組成物。
[8]前記セサミン類濃縮物を0.1~5.0質量%含有する前記[1]~[7]のいずれか1つに記載の油脂組成物。
[9]前記焙煎ごま油以外の油脂を19.9~70.9質量%含有する前記[1]~[8]のいずれか1つに記載の油脂組成物。
[10]前記焙煎ごま油を49~70質量%含有する前記[1]~[8]のいずれか1つに記載の油脂組成物。
[11]前記焙煎ごま油以外の油脂を29.9~50.9質量%含有する前記[10]記載の油脂組成物。
[12]5℃で24時間保管後の目視による外観観察にて清澄である前記[1]~[11]のいずれか1つに記載の油脂組成物。
[13]前記[1]~[12]のいずれか1つに記載の油脂組成物を用いて製造した食品。
[14]セサミン類濃縮物を添加することによる、焙煎ごま油29~80質量%及び前記焙煎ごま油以外の油脂を含有する油脂組成物における焙煎ごま油の香ばしい風味を強める方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、焙煎ごま油を含有する油脂組成物における焙煎ごま油の香ばしい風味が強められた油脂組成物及び当該油脂組成物を用いて製造した食品並びに焙煎ごま油を含有する油脂組成物における焙煎ごま油の香ばしい風味を強める方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔油脂組成物〕
本発明の実施の形態に係る油脂組成物は、焙煎ごま油29~80質量%、前記焙煎ごま油以外の油脂及びセサミン類濃縮物を含有する。以下、詳細に説明する。
【0014】
(焙煎ごま油)
本発明の実施の形態に係る油脂組成物に配合される焙煎ごま油は、特に限定されるものではなく、公知の方法により製造された焙煎ごま油を用いることができる。市販の焙煎ごま油を用いても良い。焙煎ごま油は、脱臭工程を経ない未脱臭油を用いる。
【0015】
一般的な製造工程としては、例えば、原料種子を選別した後、焙煎し、その後、圧搾、ろ過、静置、(ろ過及び静置の繰り返し)、仕上げろ過の工程を経る。焙煎は、公知の種々の方法により行なうことができる。
【0016】
本発明の実施の形態に係る油脂組成物において、焙煎ごま油は、29~80質量%となるように配合される。焙煎ごま油の配合量は、39~75質量%であることが好ましく、49~70質量%であることがより好ましく、54~65質量%であることがさらに好ましい。
【0017】
(焙煎ごま油以外の油脂)
本発明の実施の形態に係る油脂組成物に配合される焙煎ごま油以外の油脂は、植物油脂が好ましい。植物油脂は、菜種油、大豆油、べに花油、ひまわり油、コーン油、綿実油、米油、落花生油、グレープシードオイル、パーム油、パーム分別油から選ばれる1種以上であることが好ましい。また、植物油脂は、未焙煎植物油であることが好ましく、少なくとも脱臭工程を経た精製植物油脂であることが好ましい。精製植物油脂は、菜種油、大豆油、べに花油、ひまわり油、コーン油、綿実油、米油、落花生油、グレープシードオイル、パーム油、パーム分別油から選ばれる1種以上であることが好ましく、中でも菜種油と大豆油が好ましい。焙煎ごま油以外の油脂は、1種の場合は、未焙煎油脂を用いることが好ましく、2種以上の場合には、少なくとも1種は未焙煎油脂を用いることが好ましい。なお、本発明の効果を妨げない範囲で、焙煎ごま油以外の焙煎油を添加しても良く、それらの焙煎油として、焙煎菜種油、焙煎落花生油、焙煎大豆油等が挙げられる。
【0018】
本発明の実施の形態に係る油脂組成物において、焙煎ごま油以外の油脂は、19.9~70.9質量%となるように配合されることが好ましい。より好ましくは、24.9~60.9質量%であり、さらに好ましくは29.9~50.9質量%であり、最も好ましくは34.9~45.9質量%である。なお、焙煎ごま油以外の油脂として焙煎ごま油以外の焙煎油は、0~10質量%となるように配合されることが好ましい。より好ましくは0~5質量%であり、さらに好ましくは0~1質量%であり、最も好ましくは含有しないことである。
【0019】
(セサミン類濃縮物)
本発明の実施の形態に係る油脂組成物に配合されるセサミン類濃縮物とは、セサミン類を濃縮させた物のことであり、より具体的には、原料中のセサミン及びセサモリンの合計濃度よりもセサミン及びセサモリンの合計濃度を増加させた物をいう。その濃縮の度合いは限定されるものではなく、例えば、セサミン及びセサモリンの合計含量が10質量%以上である濃縮物を使用できる。セサミン及びセサモリンの合計含量が10~80質量%である濃縮物が好ましく、15~50質量%である濃縮物がより好ましく、20~40質量%である濃縮物がさらに好ましい。セサミン及びセサモリンのみからなる濃縮物(セサミン類100質量%)であってもよい。濃縮物中のセサミン類以外の成分は、原料由来の成分である。また、濃縮物中のセサミンとセサモリンの含有比は、原料のセサミンとセサモリンの含有比に近いことが好ましい。特に限定されるものではないが、セサミン:セサモリンの質量は、1:1~10:1であることが好ましく、3:2~5:1であることがより好ましく、2:1~3:1であることが最も好ましい。
【0020】
セサミン類そのものは沸点が高いため、オルソネーザルアロマ(口に入れる前に鼻から嗅ぐ香り)にはあまり影響しない。しかし、口に含んだ際に感じるレトロネーザルアロマにおいては、メカニズムを限定するものではないが、セサミン類濃縮物による舌への作用がレトロネーザルアロマの効果に影響を及ぼしていると予想される。
【0021】
セサミン類濃縮物は、ごま由来であることが好ましく、特に、未焙煎ごま油由来であることが好ましい。セサミン類濃縮物の取得方法は特に限定されるものではなく、例えば、未焙煎のごま圧搾油を蒸留装置を用いて分子蒸留することにより得ることができる。
【0022】
本発明の実施の形態に係る油脂組成物において、セサミン類濃縮物は、油脂組成物中のセサミン類の含量が後述の範囲内となるような割合で配合される。すなわち、配合される焙煎ごま油中のセサミン類含量と焙煎ごま油の配合量、及びセサミン類濃縮物中のセサミン類含量に応じてセサミン類濃縮物の配合量を決定することができる。なお、焙煎ごま油中のセサミン類とセサミン類濃縮物中のセサミン類の効果に差はないため、両者の比率は限定するものではないが、例えば、焙煎ごま油中のセサミン類:セサミン類濃縮物中のセサミン類の油脂組成物中の質量比は、95:5~30:70になるように配合することが好ましく、9:1~1:1になるように配合することがより好ましい。また、例えば、セサミン類濃縮物は、油脂組成物中の含量が0.1~5.0質量%となるように配合される。
【0023】
(組成物中のセサミン類の含量)
本発明の実施の形態に係る油脂組成物は、組成物中のセサミン類の含量が0.47質量%以上であることが好ましく、1.00%以下であることが好ましい。セサミン類は、前述の通り、セサミン及びセサモリンのことであり、これらは、焙煎ごま油以外の油脂としてセサミン類を含有する油脂を配合していない限り、油脂組成物中の焙煎ごま油とセサミン類濃縮物に由来するものである。なお、セサミン、セサモリンの含有量は高速液体クロマトグラフ法にて測定することができ、両者の含有量を合計してセサミン類の含量が算出できる。
【0024】
本発明の実施の形態に係る油脂組成物におけるセサミン類の含量は、0.50~0.90質量%であることがより好ましい。
【0025】
本発明の実施の形態に係る油脂組成物におけるセサミンの含量は、0.30~0.70質量%であることが好ましい。
また、本発明の実施の形態に係る油脂組成物におけるセサモリンの含量は、0.10~0.30質量%であることが好ましい。
【0026】
(製造方法)
本発明の実施の形態に係る油脂組成物は、上述した、焙煎ごま油、焙煎ごま油以外の油脂及びセサミン類濃縮物を同時に配合、又は順不同に順番に配合することにより、製造される。
【0027】
(特徴)
本発明の実施の形態に係る油脂組成物は、5℃で24時間保管後の目視による外観観察にて曇りがなく、清澄である。
【0028】
〔食品〕
本発明の実施の形態に係る食品は、上記の本発明の実施の形態に係る油脂組成物を用いて製造した食品である。
【0029】
食品としては、例えば、チャーハン等の炒め物、ほうれん草のナムル等の和え物、スープ、ドレッシングが挙げられる。調理は、公知の一般的な方法により行なうことができる。
【0030】
〔焙煎ごま油を含有する油脂組成物における焙煎ごま油の香ばしい風味を強める方法〕
本発明の実施の形態に係る焙煎ごま油を含有する油脂組成物における焙煎ごま油の香ばしい風味を強める方法は、焙煎ごま油及び焙煎ごま油以外の油脂を含有する油脂組成物に、セサミン類濃縮物を添加することによって焙煎ごま油の香ばしい風味を強める方法である。
【0031】
セサミン類濃縮物の添加は、焙煎ごま油と焙煎ごま油以外の油脂とを混合した後に行っても良いし、焙煎ごま油と焙煎ごま油以外の油脂のいずれかに予め添加しておいても良く、特に限定されない。
【0032】
焙煎ごま油、焙煎ごま油以外の油脂、セサミン類濃縮物、組成物中のセサミン類の含量についての具体的な説明(種類や配合量など)は、前述した油脂組成物における説明と同様である。
【0033】
セサミン類濃縮物を添加することによって、焙煎ごま油の配合量を29~80質量%に減らした油脂組成物において、セサミン類濃縮物を添加しない場合に比べて、油脂組成物の焙煎ごま油の香ばしい風味を強めることができる。
【0034】
次に実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例0035】
〔セサミン類の定量方法〕
試料をクロロホルムに溶解し、5mg/mLの溶液を調製した。これをフィルターろ過して得られたろ液を高速液体クロマトグラフ(形式1260 Infinity(Agilent Technologies))に供し、セサミン類の定量を行った。なお、セサミン及びセサモリンの含有量の算定には、別途、セサミン(製品名:(+)-Sesamin,≧99%、長良サイエンス株式会社製)及びセサモリン(製品名:(+)-Sesamolin,≧99%、長良サイエンス株式会社製)の0.1mg/mLクロロホルム溶液を標準サンプルとして用いた。さらに標準サンプルを2倍、4倍、10倍、20倍、100倍、200倍希釈し、フィルターろ過して得られたろ液を高速液体クロマトグラフ(形式1260 Infinity(Agilent Technologies))に供してピーク面積を得ることで、検量線を作成した。
【0036】
<高速液体クロマトグラフの条件>
検出器:紫外可視分光検出器(形式1260 Infinity(Agilent Technologies))
カラム:Mightysil RP-18, φ4.6mm×150mm, 粒径5μm[関東化学株式会社製]
カラム温度:40℃
移動相:メタノール及び水の混液(6:4)
流量:1.0mL/min
測定波長:285nm
【0037】
〔試料〕
焙煎ごま油1(竹本油脂株式会社製。未精製品。セサミン類含有量:0.962質量%)
焙煎ごま油2(竹本油脂株式会社製。未精製品。セサミン類含有量:0.754質量%)
未焙煎のごま圧搾油(竹本油脂株式会社製。未精製品。セサミン類含有量:0.907質量%)
菜種油(精製キャノーラ油。日清オイリオグループ株式会社製)
大豆油(精製大豆油。日清オイリオグループ株式会社製)
セサミン類濃縮物1(未焙煎ごま油由来のラボ調製品(下記の方法で社内製造)。セサミン類含有量:23.677質量%)
セサミン類濃縮物2(焙煎ごま油由来のラボ調製品(下記の方法で社内製造)。セサミン類含有量:38.373質量%)
【0038】
<セサミン類濃縮物の製造方法>
未焙煎のごま圧搾油(原料種子を圧搾して濾過したもの。竹本油脂株式会社製。未精製品)をワイプトフィルム蒸留装置「ワイプレン2-03型」(株式会社神鋼環境ソリューション社製)を用いて分子蒸留を行い、得られた留分をセサミン類濃縮物1とした。蒸留条件は、0.5~0.7g/分、油の温度230℃、真空度0.01Torr以下とした。
焙煎ごま油1(原料種子を焙煎して圧搾してろ過したもの。竹本油脂株式会社製。未精製品)をワイプトフィルム蒸留装置「ワイプレン2-03型」(株式会社神鋼環境ソリューション社製)を用いて分子蒸留を行い、得られた留分をセサミン類濃縮物2とした。蒸留条件は、0.5~0.7g/分、油の温度230℃、真空度0.01Torr以下とした。なお、セサミン類濃縮物2が得られたものの、蒸留装置内の汚れ(焙煎に由来する滓や褐変物質、香気成分等による焦げ)がみられた。
【0039】
<セサミン類の定量>
焙煎ごま油1、焙煎ごま油2、セサミン類濃縮物1、セサミン類濃縮物2及び未焙煎のごま圧搾油を試料として、前述のセサミン類の定量方法にしたがい、セサミン類の定量を行った。定量結果を下記の表1に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
〔油脂組成物の製造例〕
前述した試料の一部を用いて、表2に記載の配合にて各試料を容器内で混合し、油脂組成物を調合した。表2に記載の油脂組成物中のセサミン、セサモリン及びセサミン類の含有量は、表1及び各試料の配合割合から計算により求めた。なお、菜種油及び大豆油中のセサミン類の含有量はゼロである。
【0042】
〔油脂組成物の評価〕
調合した各油脂組成物について、下記の方法により、外観評価及び焙煎風味の強度の評価を行った。各評価結果を表2に示す。
【0043】
<油脂組成物の外観評価>
5℃で24時間保管を行った後、目視にて各油脂組成物の外観を評価した。
【0044】
<焙煎風味の強度の評価>
各油脂組成物を口に含み、焙煎風味の強さを下記の1点~10点の11段階(5~6点の間のみ0.5点刻み)で評価した。参考例1を5点とし、参考例2を3点としたうえで、これらと対比しつつ、パネラー5名の合議で評価した(点数が大きいほど、焙煎風味が強いことを示している)。なお、焙煎風味が強くなるに従い、香ばしさ、焦げ風味(臭)・苦みの順に強くなる。そのため、主に香ばしさを感じる領域を2~7点とし、主に焦げ風味を感じる領域を8点以上とした。
10:(許容範囲外)焙煎による焦げ風味(臭)及び苦みが強すぎる。
9:(許容範囲外)焙煎による焦げ風味(臭)又は苦みが強すぎる。
8:(許容範囲外)焙煎による香ばしさは感じるが、焙煎による焦げ風味(臭)を強く感じる。
7:(許容範囲)焙煎による焦げ風味(臭)をやや強く感じるが、焙煎による香ばしさを強く感じる。
6(許容範囲): 焙煎による香ばしさを強く感じる。
5.5(許容範囲):焙煎による香ばしさをやや強く感じる。
5(許容範囲:参考例1):焙煎による香ばしさを感じる。
4(許容範囲):焙煎による香ばしさがやや弱い。
3(許容範囲外:参考例2):焙煎による香ばしさが弱い。
2(許容範囲外):焙煎による香ばしさがとても弱い。
1(許容範囲外):焙煎の風味を感じない。
【0045】
【表2】
【0046】
表2の焙煎風味の強度についての評価結果から、実施例2~7,10~13において、焙煎ごま油の配合量を30質量%以上減らしているにもかかわらず、焙煎ごま油100質量%の参考例1と同等以上の焙煎ごま油の香ばしい風味が得られており、セサミン類濃縮物の添加により、油脂組成物の配合から予測される焙煎ごま油の香ばしい風味(焙煎ごま油の配合量が減るほどにその風味は弱まると予測される)よりも焙煎ごま油の香ばしい風味が強められていることが分かる。
【0047】
また、実施例1,8,9においても、焙煎ごま油100質量%の参考例1と同等の焙煎ごま油の香ばしい風味は得られていないものの、参考例2や参考例3の評価結果との対比から分かるように、セサミン類濃縮物の添加により、油脂組成物の配合から予測される焙煎ごま油の風味よりも焙煎ごま油の香ばしい風味が強められていると言える。また、実施例1と実施例2~7との評価結果の比較から、実施例8,9においても、セサミン類濃縮物の添加量を増やせば、参考例1と同等以上の焙煎ごま油の香ばしい風味が得られることが推察できる。
【0048】
なお、参考例1と比較例1,2との評価結果の比較から、焙煎ごま油にセサミン類濃縮物を添加しても、焙煎ごま油の香ばしい風味は強められないことが分かる。