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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023043960
(43)【公開日】2023-03-30
(54)【発明の名称】ゴム組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 21/00 20060101AFI20230323BHJP
   C08L 7/00 20060101ALI20230323BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20230323BHJP
   C08K 5/22 20060101ALI20230323BHJP
【FI】
C08L21/00
C08L7/00
C08K3/36
C08K5/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021151733
(22)【出願日】2021-09-17
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、国立研究開発法人科学技術振興機構 研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム 試験研究タイプ「高シリカ配合天然ゴム組成物の製造を指向する新規シランカップリング剤の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100181179
【弁理士】
【氏名又は名称】町田 洋一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197295
【弁理士】
【氏名又は名称】武藤 三千代
(72)【発明者】
【氏名】進藤 涼平
(72)【発明者】
【氏名】中島 裕美子
(72)【発明者】
【氏名】永縄 友規
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AC011
4J002AC031
4J002AC061
4J002AC071
4J002AC081
4J002AC091
4J002BB181
4J002DA030
4J002DJ016
4J002EQ007
4J002EX077
4J002FD010
4J002FD016
4J002FD070
4J002FD140
4J002FD150
4J002FD340
4J002GM01
4J002GN01
(57)【要約】
【課題】ジエン系ゴムとシリカとジアゾ化合物とを混合することで得られるゴム組成物の製造方法であって、ジアゾ化合物とジエン系ゴムとの反応率の高いゴム組成物を得るための製造方法を提供する。
【解決手段】ジエン系ゴムと、シリカと、ジアゾ化合物とを混合することで、ゴム組成物を製造する、ゴム組成物の製造方法であって、上記シリカの配合量が、上記ジエン系ゴム100質量部に対して、5~200質量部であり、上記ジアゾ化合物の配合量が、上記シリカの配合量に対して、0.2~20質量%であり、上記ジアゾ化合物の大気下での分解開始温度が、170℃以下、且つ、上記混合するときの最大温度以下である、ゴム組成物の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴムと、シリカと、ジアゾ化合物とを混合することで、ゴム組成物を製造する、ゴム組成物の製造方法であって、
前記シリカの配合量が、前記ジエン系ゴム100質量部に対して、5~200質量部であり、
前記ジアゾ化合物の配合量が、前記シリカの配合量に対して、0.2~20質量%であり、
前記ジアゾ化合物の大気下での分解開始温度が、170℃以下、且つ、前記混合するときの最大温度以下である、ゴム組成物の製造方法。
【請求項2】
前記ジアゾ化合物の大気下での分解開始温度が、50℃以上である、請求項1に記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項3】
前記混合するときの開始温度が、前記ジアゾ化合物の大気下での分解開始温度以下である、請求項1又は2に記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項4】
前記ジエン系ゴム中の天然ゴムの含有量が、20質量%以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載のゴム組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ジエン系ゴムとシリカとシランカップリング剤とを含有するゴム組成物が知られている(特許文献1)。特許文献1の実施例では、上記シランカップリング剤としてSi69(ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド)が使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-57967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らが特許文献1に記載のゴム組成物について検討したところ、そのシリカの分散性は、昨今求められている要求を必ずしも満足するものではないことが明らかになった。このようななか、本発明者らは、ジアゾ基を有するシランカップリング剤(ジアゾ基含有シランカップリング剤)を用いることでシリカの分散性が向上することを知見した。
一方、本発明者の検討から、ジエン系ゴムとシリカとジアゾ化合物(ジアゾ基を有する化合物)とを混合することでゴム組成物を製造したときに、得られるゴム組成物の性能(シリカ分散性等)にバラツキが生じることが分かった。さらに、ジアゾ化合物(ジアゾ基を有する化合物)のジアゾ基(=N)がジエン系ゴムの二重結合と反応しシクロプロパン環を形成すること、反応率が高いときにゴム組成物の性能も高くなる傾向があることを知見した。
【0005】
そこで本発明は、上記実情を鑑みて、ジエン系ゴムとシリカとジアゾ化合物とを混合することで得られるゴム組成物の製造方法であって、ジアゾ化合物とジエン系ゴムとの反応率の高いゴム組成物を得るための製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、ジアゾ化合物の大気下での分解開始温度と混合時の最大温度とを特定の関係にすること等によって上記課題を解決できることを見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明者らは、以下の構成により上記課題が解決できることを見出した。
【0007】
(1) ジエン系ゴムと、シリカと、ジアゾ化合物とを混合することで、ゴム組成物を製造する、ゴム組成物の製造方法であって、
上記シリカの配合量が、上記ジエン系ゴム100質量部に対して、5~200質量部であり、
上記ジアゾ化合物の配合量が、上記シリカの配合量に対して、0.2~20質量%であり、
上記ジアゾ化合物の大気下での分解開始温度が、170℃以下、且つ、上記混合するときの最大温度以下である、ゴム組成物の製造方法。
(2) 上記ジアゾ化合物の大気下での分解開始温度が、50℃以上である、上記(1)に記載のゴム組成物の製造方法。
(3) 上記混合するときの開始温度が、上記ジアゾ化合物の大気下での分解開始温度以下である、上記(1)又は(2)に記載のゴム組成物の製造方法。
(4) 上記ジエン系ゴム中の天然ゴムの含有量が、20質量%以上である、上記(1)~(3)のいずれかに記載のゴム組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
以下に示すように、本発明によれば、ジエン系ゴムとシリカとジアゾ化合物とを混合することで得られるゴム組成物の製造方法であって、ジアゾ化合物とジエン系ゴムとの反応率の高いゴム組成物を得るための製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】NR及びジアゾ化合物の溶液H NMRスペクトルである。
図2】参考例2~4の溶液H NMRスペクトルである。
図3】参考例2~4の溶液H NMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明のゴム組成物の製造方法について説明する。
なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
また、各成分は、1種を単独でも用いても、2種以上を併用してもよい。ここで、各成分について2種以上を併用する場合、その成分について配合量又は含有量とは、特段の断りが無い限り、合計の配合量又は含有量を指す。
また、ジアゾ化合物について、大気下での分解開始温度を、単に「分解開始温度」とも言う。また、各成分を混合するときの最大温度を、「混合時最大温度」とも言う。また、各成分を混合するときの開始温度を、「混合開始温度」とも言う。
また、得られるゴム組成物について、反応率(ジアゾ化合物のうちジエン系ゴムと反応した割合)が高く、ジアゾ化合物がシランカップリング剤である場合にはシリカ分散性に優れ、低発熱性に優れることを、「本発明の効果等がより優れる」とも言う。
【0011】
本発明のゴム組成物の製造方法(以下、「本発明の製造方法」とも言う)は、
ジエン系ゴムと、シリカと、ジアゾ化合物とを混合することで、ゴム組成物を製造する、ゴム組成物の製造方法であって、
上記シリカの配合量が、上記ジエン系ゴム100質量部に対して、5~200質量部であり、
上記ジアゾ化合物の配合量が、上記シリカの配合量に対して、0.2~20質量%であり、
上記ジアゾ化合物の大気下での分解開始温度が、170℃以下、且つ、上記混合するときの最大温度以下である、ゴム組成物の製造方法である。
【0012】
上述のとおり、本発明者らの検討から、ジアゾ化合物(ジアゾ基を有する化合物)のジアゾ基(=N)はジエン系ゴムの二重結合と反応し、シクロプロパン環を形成することが分かっている。そして、加熱することで上記反応が促進されることが知見されている。
本発明者らは、ジエン系ゴムとシリカとジアゾ化合物とを混合する際の条件を変えて種々のゴム組成物を製造し、反応率(ジアゾ化合物のうちジエン系ゴムと反応した割合)との相関を調べたところ、ジアゾ化合物の分解開始温度を混合時最大温度以下にすることで反応率が急激に向上することを知見した。本発明はこのような知見に基づくものである。
【0013】
最初に、混合する各成分について説明する。
【0014】
[1]ジエン系ゴム
本発明の製造方法で混合するジエン系ゴムは特に限定されない。
1種のジエン系ゴムを混合するのでも2種以上のジエン系ゴムを混合するのでもよい。
【0015】
[具体例]
上記ジエン系ゴムの具体例としては、天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)、芳香族ビニル-共役ジエン共重合体ゴム、イソプレンゴム(IR)、アクリロニトリル-ブタジエン共重合ゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(Br-IIR、Cl-IIR)、クロロプレンゴム(CR)などが挙げられる。上記芳香族ビニル-共役ジエン共重合体ゴムとしては、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレン共重合ゴムなどが挙げられる。
【0016】
[分子量]
上記ジエン系ゴムの重量平均分子量(Mw)は特に限定されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、100,000~5,000,000であることが好ましく、200,000~3,000,000であることがより好ましく、300,000~2,000,000であることがさらに好ましい。
【0017】
なお、本明細書において重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定により得られる標準ポリスチレン換算値である。
【0018】
[好適な態様]
上記ジエン系ゴムは天然ゴムを含有するのが好ましい。
上記ジエン系ゴムが天然ゴムを含有する場合、上記ジエン系ゴム中の天然ゴムの含有量は、本発明の効果等がより優れる理由から、20質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましく、90質量%以上であることが特に好ましく、100質量%であることが最も好ましい。
【0019】
上記ジエン系ゴム中の天然ゴム以外のジエン系ゴムの含有量は特に限定されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、0~30質量%であることが好ましく、0~20質量%であることがより好ましく、0~10質量%であることがさらに好ましい。
【0020】
[2]シリカ
本発明の製造方法で混合するシリカは特に制限されず、タイヤ等のゴム組成物に配合されている従来公知の任意のシリカを用いることができる。
【0021】
[具体例]
上記シリカの具体例としては、湿式シリカ、乾式シリカ、ヒュームドシリカ、珪藻土などが挙げられる。なかでも、本発明の効果等がより優れる理由から、湿式シリカが好ましい。上記シリカは、1種のシリカを単独で用いても、2種以上のシリカを併用してもよい。
シリカのCTAB(セチルトリメチルアンモニウムブロマイド)吸着比表面積は特に制限されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、100~300m/gであることが好ましく、150~200m/gであることがより好ましい。なお、本明細書において、CTAB吸着比表面積は、シリカ表面へのCTAB吸着量をJIS K6217-3:2001「第3部:比表面積の求め方-CTAB吸着法」にしたがって測定した値である。
【0022】
[配合量]
本発明の製造方法において、上記シリカの配合量は、上述したジエン系ゴムの配合量100質量部に対して、5~200質量部である。なかでも、上記シリカの配合量は、本発明の効果等がより優れる理由から、上述したジエン系ゴム100質量部に対して、10~150質量部であることが好ましく、20~100質量部であることがより好ましく、30~70質量部であることがさらに好ましい。
【0023】
[3]ジアゾ化合物
本発明の製造方法で混合するジアゾ化合物は、ジアゾ基(=N)を有する化合物であれば特に制限されない。
【0024】
[ジアゾ基含有シランカップリング剤]
ジアゾ化合物は、本発明の効果等がより優れる理由から、ジアゾ基及び加水分解性基を有するシラン化合物(ジアゾ基含有シランカップリング剤)であることが好ましい。
上記加水分解性基は特に制限されないが、例えば、アルコキシ基、フェノキシ基、カルボキシル基、アルケニルオキシ基などが挙げられる。なかでも、本発明の効果等がより優れる理由から、アルコキシ基であることが好ましい。加水分解性基がアルコキシ基である場合、アルコキシ基の炭素数は、本発明の効果等がより優れる理由から、1~16であることが好ましく、1~4であることがより好ましい。炭素数1~4のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基などが挙げられる。
【0025】
上記ジアゾ基含有シランカップリング剤は、本発明の効果等がより優れる理由から、ジアゾ基及び加水分解性シリル基(特にアルコキシシリル基)を有する化合物であることが好ましく、後述する化合物(I)(特定シランカップリング剤)であることがより好ましい。
【0026】
[特定シランカップリング剤]
特定シランカップリング剤は下記化合物(I)である。
【0027】
化合物(I)
【化1】
【0028】
化合物(I)において、Aは、ヘテロ原子を有していてもよく、置換基を有していてもよい、炭素数3~26の、2価の、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表し、R、R及びRは、それぞれ独立に、置換基を表す。ただし、R、R及びRのうち少なくとも1つはアルコキシ基である。
【0029】
〔A〕
上述のとおり、化合物(I)において、Aは、ヘテロ原子を有していてもよく、置換基を有していてもよい、炭素数3~26の、2価の、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。
上記Aは、本発明の効果等がより優れる理由から、-CHCH-R-で表される基であることが好ましい。ここで、Rは、ヘテロ原子を有していてもよく、置換基を有していてもよい、炭素数1~24の、2価の、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。上記脂肪族炭化水素基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよい。
上記Rは、本発明の効果等がより優れる理由から、炭素数1~5の2価の脂肪族炭化水素基(特にアルキレン基)であることが好ましい。
【0030】
〔R、R及びR
上述のとおり、化合物(I)において、R、R及びRは、それぞれ独立に、置換基を表す。ただし、R、R及びRのうち少なくとも1つはアルコキシ基である。
【0031】
上記アルコキシ基の炭素数は特に制限されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、1~5であることが好ましい。
【0032】
上記置換基がアルコキシ基以外である場合の具体例としては、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、またはこれらを組み合わせた基などが挙げられる。
上記脂肪族炭化水素基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよい。上記脂肪族炭化水素基の具体例としては、直鎖状または分岐状のアルキル基(特に、炭素数1~30)、直鎖状または分岐状のアルケニル基(特に、炭素数2~30)、直鎖状または分岐状のアルキニル基(特に、炭素数2~30)などが挙げられる。
上記芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基などの炭素数6~18の芳香族炭化水素基などが挙げられる。
上記置換基がアルコキシ基以外である場合、本発明の効果等がより優れる理由から、脂肪族炭化水素基であることが好ましく、アルキル基(特に炭素数1~5)であることがより好ましい。
【0033】
化合物(I)において、R、R及びRは、本発明の効果等がより優れる理由から、全てがアルコキシ基であることが好ましい。
【0034】
[特定シランカップリング剤の製造方法]
上記特定シランカップリング剤の製造方法は特に制限されないが、得られた特定シランカップリング剤を用いることで得られるゴム組成物の低発熱性がより向上する理由から、後述する本発明の方法1及び後述する本発明の方法2であることが好ましく、後述する本発明の方法1であることがより好ましい。
【0035】
[本発明の方法1]
本発明の方法1は、
後述する化合物(III)とCH=CH-R-OHで表される化合物(ただし、Rは、ヘテロ原子を有していてもよく、置換基を有していてもよい、炭素数1~24の、2価の、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す)(以下、「特定アルコール」とも言う)とを反応させることで、後述する化合物(IV)を合成する、ビニル基導入工程と、
上記化合物(IV)と後述する化合物(VI)とを反応させることで、後述する化合物(VII)を合成する、ヒドロシリル化工程と、
後述する化合物(II)と上記化合物(VII)とを反応させることで、後述する化合物(I)であるシランカップリング剤(特定シランカップリング剤)を合成する、ジアゾ化工程とを備える、シランカップリング剤の製造方法である。
【0036】
以下、各工程について説明する。
【0037】
〔ビニル基導入工程〕
上記ビニル基導入工程は、下記化合物(III)と特定アルコールとを反応させることで、下記化合物(IV)を合成する工程である。
【0038】
<化合物(III)>
【0039】
化合物(III)
【化2】
【0040】
化合物(III)において、X及びXは、それぞれ独立に、ハロゲン原子を表す。
【0041】
上述のとおり、化合物(III)において、X及びXは、それぞれ独立に、ハロゲン原子を表す。
上記ハロゲン原子は特に制限されないが、特定シランカップリング剤の収率がより高くなり、また、得られる特定シランカップリング剤のシリカの分散性を向上させる効果がより優れる理由から、臭素原子であることが好ましい。
【0042】
<特定アルコール>
上記特定アルコールは、CH=CH-R-OHで表される化合物(ただし、Rは、ヘテロ原子を有していてもよく、置換基を有していてもよい、炭素数1~24の、2価の、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す)である。上記脂肪族炭化水素基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよい。
上記Rは、本発明の効果等がより優れる理由から、炭素数1~5の2価の脂肪族炭化水素基(特にアルキレン基)であることが好ましい。
【0043】
<化合物(IV)>
【0044】
化合物(IV)
【化3】
【0045】
化合物(IV)において、Rは、ヘテロ原子を有していてもよく、置換基を有していてもよい、炭素数1~24の、2価の、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表し、Xは、ハロゲン原子を表す。
【0046】
上記Rの具体例及び好適な態様は、上述した特定アルコールのRと同じである。
また、上記Xの具体例及び好適な態様は、上述した化合物(III)のXと同じである。
【0047】
<好適な態様>
上記ビニル基導入工程は、本発明の効果等がより優れる理由から、
上述した化合物(III)と上述した特定アルコールとを、炭酸水素ナトリウム及びアセトニトリルの存在下で反応させることで、上述した化合物(IV)を合成する工程であることが好ましい。
【0048】
〔ヒドロシリル化工程〕
上記ヒドロシリル化工程は、上述したビニル基導入工程で得られた化合物(IV)と下記化合物(VI)とを反応させることで、下記化合物(VII)を合成する工程である。
【0049】
<化合物(VI)>
【0050】
化合物(VI)
【化4】
【0051】
化合物(VI)において、R、R及びRは、それぞれ独立に、置換基を表す。ただし、R、R及びRのうち少なくとも1つはアルコキシ基である。
【0052】
上記アルコキシ基の炭素数は特に制限されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、1~5であることが好ましい。
【0053】
上記置換基がアルコキシ基以外である場合の具体例として、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、またはこれらを組み合わせた基などが挙げられる。
上記脂肪族炭化水素基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよい。上記脂肪族炭化水素基の具体例としては、直鎖状または分岐状のアルキル基(特に、炭素数1~30)、直鎖状または分岐状のアルケニル基(特に、炭素数2~30)、直鎖状または分岐状のアルキニル基(特に、炭素数2~30)などが挙げられる。
上記芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基などの炭素数6~18の芳香族炭化水素基などが挙げられる。
上記置換基がアルコキシ基以外である場合、本発明の効果等がより優れる理由から、脂肪族炭化水素基であることが好ましく、アルキル基(特に炭素数1~5)であることがより好ましい。
【0054】
化合物(VI)において、R、R及びRは、本発明の効果等がより優れる理由から、全てがアルコキシ基であることが好ましい。
【0055】
<化合物(VII)>
【0056】
化合物(VII)
【化5】
【0057】
化合物(VII)において、Aは、ヘテロ原子を有していてもよく、置換基を有していてもよい、炭素数3~26の、2価の、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表し、R、R及びRの定義は、上述した化合物(VI)のR、R及びRと同じであり、Xの定義は、上述した化合物(IV)のXと同じである。
【0058】
上述のとおり、化合物(VII)において、Aは、ヘテロ原子を有していてもよく、置換基を有していてもよい、炭素数3~26の、2価の、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。
上記Aは、本発明の効果等がより優れる理由から、-CHCH-R-で表される基であることが好ましい。ここで、Rの定義、具体的及び好適な態様は、上述した特定アルコールのRと同じである。
【0059】
上述のとおり、化合物(VII)において、R、R及びRの定義は、上述した化合物(VI)のR、R及びRと同じである。上記R、R及びRの具体例及び好適な態様も、上述した化合物(VI)のR、R及びRと同じである。
【0060】
上述のとおり、化合物(VII)において、Xの定義は、上述した化合物(IV)のXと同じである。上記Xの具体例及び好適な態様も、上述した化合物(IV)のXと同じである。
【0061】
<好適な態様>
上記ヒドロシリル化工程は、本発明の効果等がより優れる理由から、
上述したビニル基導入工程で得られた化合物(IV)と上述した化合物(VI)とを、イリジウム触媒及びジクロロメタンの存在下で室温でヒドロシリル化反応させることで、上述した化合物(VII)を合成する工程であることが好ましい。
【0062】
上記イリジウム触媒としては、例えば、イリジウム塩、イリジウム錯体等が挙げられる。上記イリジウム塩として具体的には、三塩化イリジウム、四塩化イリジウム、塩化イリジウム酸、塩化イリジウム酸ナトリウム、塩化イリジウム酸カリウム等が挙げられる。イリジウム錯体として具体的には、クロロ(1,5-シクロオクタジエン)イリジウム(I)ダイマー、ブロモ(1,5-シクロオクタジエン)イリジウム(I)ダイマー、ヨード(1,5-シクロオクタジエン)イリジウム(I)ダイマー、クロロ(2,5-ノルボルナジエン)イリジウム(I)ダイマー、ブロモ(2,5-ノルボルナジエン)イリジウム(I)ダイマー、ヨード(2,5-ノルボルナジエン)イリジウム(I)ダイマー、1,5-シクロオクタジエン(アセチルアセトナト)イリジウム(I)、クロロビス(シクロオクテン)イリジウム(I)ダイマー、クロロカルボニルビス(トリフェニルホスフィン)イリジウム(I)等が挙げられる。特に、本発明の効果等がより優れる理由から、クロロ(1,5-シクロオクタジエン)イリジウム(I)ダイマーを用いることが好ましい。
【0063】
〔ジアゾ化工程〕
上記ジアゾ化工程は、下記化合物(II)と上述したヒドロシリル化工程で得られた化合物(VII)とを反応させることで、下記化合物(I)であるシランカップリング剤(特定シランカップリング剤)を合成する工程である。
【0064】
<化合物(II)>
【0065】
化合物(II)
【化6】
【0066】
化合物(II)において、Tsはトシル基を表す。
【0067】
化合物(II)の合成方法は特に制限されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、p-トルエンスルホニルヒドラジドと塩化パラトルエンスルホニルとをピリジンとジクロロメタンの存在下で反応させる方法が好ましい。
【0068】
<化合物(I)>
【0069】
化合物(I)
【化7】
【0070】
化合物(I)において、Aの定義は、上述した化合物(VII)のAと同じであり、R、R及びRの定義は、上述した化合物(VI)のR、R及びRと同じである。
【0071】
上述のとおり、化合物(I)において、Aの定義は、上述した化合物(VII)のAと同じである。上記Aの具体例及び好適な態様も、上述した化合物(VII)のAと同じである。
【0072】
上述のとおり、化合物(I)において、R、R及びRの定義は、上述した化合物(VI)のR、R及びRと同じである。上記R、R及びRの具体例及び好適な態様も、上述した化合物(VI)のR、R及びRと同じである。
【0073】
<好適な態様>
上記ジアゾ化工程は、本発明の効果等がより優れる理由から、
上述した化合物(II)と上述したヒドロシリル化工程で得られた化合物((VII)とを、テトラメチルグアニジン及びテトラヒドロフランの存在下でジアゾ化反応させることで、上述した化合物(I)であるシランカップリング剤を合成する工程であることが好ましい。
【0074】
[本発明の方法2]
本発明の方法2は、
後述する化合物(III)とCH=CH-R-OHで表される化合物(ただし、Rは、ヘテロ原子を有していてもよく、置換基を有していてもよい、炭素数1~24の、2価の、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す)(特定アルコール)とを反応させることで、後述する化合物(IV)を合成する、ビニル基導入工程と、
後述する化合物(II)と上記化合物(IV)とを反応させることで、後述する化合物(V)を合成する、ジアゾ化工程と、
上記化合物(V)と後述する化合物(VI)とを反応させることで、後述する化合物(I)であるシランカップリング剤(特定シランカップリング剤)を合成する、ヒドロシリル化工程とを備える、シランカップリング剤の製造方法である。
【0075】
以下、各工程について説明する。
【0076】
〔ビニル基導入工程〕
上記ビニル基導入工程は、上述した本発明の方法1のビニル基導入工程と同じである。
【0077】
〔ジアゾ化工程〕
上記ジアゾ化工程は、下記化合物(II)と上述したビニル基導入工程で得られた化合物(IV)とを反応させることで、下記化合物(V)を合成する工程である。
【0078】
<化合物(II)>
上記化合物(II)は、上述した本発明の方法1のジアゾ化工程で使用される化合物(II)と同じである。
【0079】
<化合物(V)>
【0080】
化合物(V)
【化8】
【0081】
化合物(V)において、Rは、ヘテロ原子を有していてもよく、置換基を有していてもよい、炭素数1~24の、2価の、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。
【0082】
上記Rの具体例及び好適な態様は、上述した特定アルコールのRと同じである。
【0083】
<好適な態様>
上記ジアゾ化工程は、本発明の効果等がより優れる理由から、上述した化合物(II)と上述したビニル基導入工程で得られた化合物(IV)とを、ジアザビシクロウンデセン及びテトラヒドロフランの存在下でジアゾ化反応させることで、上述した化合物(V)を合成する工程であることが好ましい。
【0084】
〔ヒドロシリル化工程〕
上記ヒドロシリル化工程は、上述したジアゾ化工程で得られた化合物(V)と下記化合物(VI)とを反応させることで、下記化合物(I)であるシランカップリング剤(特定シランカップリング剤)を合成する工程である。
【0085】
<化合物(VI)>
上記化合物(VI)は、上述した本発明の方法1のヒドロシリル化工程で使用される化合物(VI)と同じである。
【0086】
<化合物(I)>
上記化合物(I)(特定シランカップリング剤)は、上述した本発明の方法1のジアゾ化工程で合成される化合物(I)(特定シランカップリング剤)と同じである。
【0087】
<好適な態様>
上記ヒドロシリル化工程は、本発明の効果等がより優れる理由から、上述したジアゾ化工程で得られた化合物(V)と上述した化合物(VI)とを、Karstedt触媒の存在下でヒドロシリル化反応させることで、上述した化合物(I)(特定シランカップリング剤)を合成する工程であることが好ましい。
【0088】
[分解開始温度]
ジアゾ化合物の分解開始温度は、170℃以下、且つ、上述したジエン系ゴムと上述したシリカと上記ジアゾ化合物とを混合するときの最大温度以下である。
ジアゾ化合物の分解開始温度は、本発明の効果等がより優れる理由から、50℃以上であることが好ましく、100℃以上であることがより好ましく、120℃以上であることがさらに好ましい。
【0089】
なお、本明細書において、大気下での分解開始温度とは、熱重量測定装置によって得られる大気雰囲気下での分解開始温度であり、ベースラインと重量減少の変曲点を通る直線との交点である。
【0090】
[具体例]
ジアゾ化合物の具体例としては、上述した特定シランカップリング剤、ジエトキシメチルジアゾシラン(分解開始温度141℃、分解温度175℃)、t-ブチルジアゾアセテート(分解開始温度60℃程度、分解温度98℃)等が挙げられる。
【0091】
[配合量]
本発明の製造方法において、上記ジアゾ基含有シランカップリング剤の配合量は、上述したシリカの配合量に対して、0.2~20質量%である。なかでも、上記ジアゾ基含有シランカップリング剤の配合量は、上述したシリカの配合量に対して、1~15質量%であることが好ましく、4~12質量%であることがより好ましい。
【0092】
また、上述したジエン系ゴムが天然ゴムを含有する場合、本発明の製造方法において、上記ジアゾ基含有シランカップリング剤の配合量は、本発明の効果等がより優れる理由から、上記天然ゴムの配合量100質量部に対して、1~20質量部であることが好ましく、2~15質量部であることがより好ましく、3~12質量部であることがさらに好ましく、4~8質量部であることが特に好ましい。
【0093】
[4]任意成分
本発明の製造方法において、必要に応じて、その効果や目的を損なわない範囲でさらに他の成分(任意成分)を混合することができる。
上記任意成分としては、例えば、カーボンブラック、上述したジアゾ基含有シランカップリング剤以外のシランカップリング剤、テルペン樹脂(例えば、芳香族変性テルペン樹脂)、熱膨張性マイクロカプセル、酸化亜鉛(亜鉛華)、ステアリン酸、老化防止剤、ワックス、加工助剤、オイル、液状ポリマー、熱硬化性樹脂、加硫剤(例えば、硫黄)、加硫促進剤、金属触媒などのゴム組成物に一般的に使用される各種添加剤などが挙げられる。
【0094】
[5]混合時最大温度
本発明の製造方法において、上述したジエン系ゴムと上述したシリカと上述したジアゾ化合物とを混合するときの最大温度(混合時最大温度)は、上述したジアゾ化合物の分解開始温度以上である。混合時最大温度は、本発明の効果等がより優れる理由から、上述したジアゾ化合物の分解温度よりも低い方が好ましい。
上記混合時最大温度は、本発明の効果等がより優れる理由から、140~200℃であることが好ましく、150~190℃であることがより好ましく、160~180℃であることがさらに好ましい。
【0095】
[6]混合開始温度
本発明の製造方法において、上述したジエン系ゴムと上述したシリカと上述したジアゾ化合物とを混合するときの開始温度(混合開始温度)は特に制限されないが、上述したジアゾ化合物の分解開始温度以下であることが好ましい。
【0096】
[7]用途
本発明の製造方法によって得られるゴム組成物はゴム材料として好適に用いられる。例えば、タイヤ(特に、空気入りタイヤ)、コンベアベルト、ホース、防振材、ゴムロール、鉄道車両の外幌等に好適に用いられる。なかでも、タイヤ(特にトレッド)に好適に用いられる。
【実施例0097】
以下、実施例により、本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0098】
〔ジアゾ化合物の合成〕
【0099】
<化合物(II)の合成>
温度計を装着した300mLの3つ口フラスコ内にp-Toluenesulfonyl Hydrazide(東京化成工業社製、18.6g)およびp-Toluenesulfonyl Chloride(東京化成工業社製、28.6g)のCHCl懸濁液を入れ、氷浴で冷却した。Pyridine/CHCl=1:1の混合溶液(25 mL)を滴下ロートを使用して、内温20℃以下を維持した状態で約10分間かけて滴下した。反応混合物を室温で3時間攪拌した。EtO(ジエチルエーテル)(60mL)を加えて1Lのビーカーにあけ、純水60mLとEtO60mLをこの順に加え、室温で10分間攪拌した。白色析出物をろ取し、500mLナスフラスコ内に移して、減圧乾燥した。
粗生成物にMeOH(メタノール)(260mL)を加えて、浴温80℃で穏やかに還流させながら、3時間攪拌した。室温まで冷却し、白色析出物をろ取して、MeOH(90mL)とEtO(90mL)で洗浄した。
得られた固体を減圧乾燥したところ白色固体が26.9g得られた。
Hおよび13C NMRスペクトルから、得られた白色固体はTs-NHNH-Ts(Ts:トシル基)(上述した化合物(II)に該当)であることが確認された。収率は79%であった。
【0100】
<ビニル基導入工程>
温度計を装着した1Lの3つ口フラスコにNaHCO(炭酸水素ナトリウム)(富士フイルム和光純薬工業社製、39.6g)、3-Butene-1-ol(上述した特定アルコールに該当。ここで、Rは-CHCH-である)(東京化成工業社製、13.5mL)とアセトニトリル(400mL)を入れ、氷浴で冷却した。この混合物に、Bromoacetyl bromide(上述した化合物(III)に該当。ここで、X及びXは臭素原子である)(東京化成工業社製、20mL)を滴下ロートを使用して、内温4~5℃を維持しつつ約1時間かけ滴下した。同温でさらに約30分攪拌したのち、TLC(薄層クロマトグラフィー)で3-Butene-1-olの消失を確認した。
3Lのビーカーに純水(500mL)を入れ、攪拌しながら得られた反応液を注いだ。反応容器を純水、次いで少量のアセトニトリルで洗い、洗浄した液は混合物に加えた。混合物を室温で5分程度攪拌したのち、CHCl(600mL)で抽出した。混合物を2L分液ロートに入れ、CHCl(600mL)で抽出し、CHCl層を食塩水で洗浄した。CHCl層を無水硫酸マグネシウムで乾燥し、濾別後、減圧下に濃縮した。残渣の油状物を減圧乾燥し、無色の油状生成物28.6gを得た。
反応生成物のHおよび13C NMRスペクトルから、得られた油状生成物は上述した化合物(IV)(ここで、Rは-CHCH-であり、Xは臭素原子である)であることが確認された。収率は94%であった。
【0101】
<ヒドロシリル化工程>
温度計を装着した500mL3つ口フラスコ内に[IrCl(C12)](富士フイルム和光純薬製、0.955g)を入れ、反応容器を減圧にして窒素置換した。無水CHCl(148mL)を加えて、反応容器を氷浴で冷却した。内温3~4℃を維持しつつtriethoxysilane(上述した化合物(VI)に該当。ここで、R、R及びRはエトキシ基である)(東京化成工業社製、32mL)を滴下ロートを使用して約30分かけて滴下した。続いて、上述のとおり合成した化合物(IV)(28.6g)のCHCl溶液(15mL)を滴下ロートを使用して約1時間かけて滴下した。同温で30分程度攪拌し、化合物(IV)の消失をTLCで確認した。
3Lビーカー内でSiO(114g)をAcOEt(酢酸エチル)/n-hexane=20/80の混合溶液500mLに懸濁し、攪拌しながら氷浴で冷却し、この中に反応溶液をゆっくり静かに注いだ。3Lの吸引ビンに15cmの桐山ロートを装着し、桐山ロートのろ紙の上にセライト(登録商標)を敷いて、吸引しながらセライトを押し固め、約1cmのcelite padとした。クエンチした反応混合物をcelite padでろ過し、SiOと不溶物を濾別した。ろ過物はAcOEt/n-hexane=20/80の混合溶液500mL、次いでAcOEt/n-hexane=30/70の混合溶液600mLで洗浄した。ろ液を減圧下に濃縮し、粗生成物約46gの薄い褐色の油状物を得た。粗生成物をカラム精製し、薄い黄色の油状物42.46gを得た。
【0102】
(カラム精製の条件)
・Yamazen Smart Flash EPLC AI 580S
・Column Size 4L(SiO 200g)、injection column 2L
・AcOEt/n-hexane=0/100 → 9/91
・UV 254nm
【0103】
H、13C及び29Si NMRスペクトルから、得られた油状物は上述した化合物(VII)(ここで、Aは-CHCHCHCH-であり、R、R及びRはエトキシ基であり、Xは臭素原子である)であることが確認された。収率は80%であった。
【0104】
<ジアゾ化工程>
温度計を装着し、減圧にして窒素置換した100mL3つ口フラスコ内に上述のとおり合成した化合物(VII)を入れ、無水THF(テトラヒドロフラン)12mLに溶解し、上述のとおり合成したTs-NHNH-Ts(1.59g)を粉末ロートで加えた。これを-10℃にて冷却し、テトラメチルグアニジン(東京化成工業社製、32mL)の無水THF溶液(1.3mL)を滴下ロートを使用して、内温-5~-3℃を維持しながら約20分かけて滴下した。滴下開始時、Ts-NHNH-Tsは完全には溶解せず、懸濁液となっていたが、滴下していくにつれて、いったんすべて溶解し均一な溶液となった後、徐々に白色の析出物が生じた。同温に冷却したままさらに20分程度攪拌し、TLCで原料がほぼ消失していることを確認した。反応混合物を冷却装置から外し、室温まで自然昇温しながら1時間程度攪拌した。反応混合物は白色析出物を含む黄色の溶液であった。TLCで化合物(VII)の生成物の消失を確認し、反応溶液にEtO(50mL)を加えた。桐山ロートにSiO(5g)を敷いて反応混合物をろ過した。ろ過物をEtO15mLで4回洗浄した。ろ液を洗浄液をすべてあわせて、減圧下に濃縮し、残渣をSiOカラムで精製した。このようにして黄色の油状物0.674gを得た。
【0105】
(カラム精製の条件)
・Yamazen Smart Flash EPLC AI 580S
・Column Size M(SiO 16g)、injection column S
・AcOEt/n-hexane =0/100 → 17/83
・UV 254nm
【0106】
H、13Cおよび29Si NMRスペクトルから、得られた油状物は上述した化合物(I)(ここで、Aは-CHCHCHCH-であり、R、R及びRはエトキシ基である)(特定シランカップリング剤)であることが確認された。収率は52%であった。特定シランカップリング剤の大気下での分解開始温度は132℃、分解温度は166℃であった。
【0107】
〔ジエン系ゴムとジアゾ化合物との混合(参考例1~4)〕
下記表1に示される成分を同表に示される割合(質量部)で配合した。
具体的には、下記表1に示される成分を1.7リットルの密閉式バンバリーミキサーに入れて5分間混合した。混合開始温度は80℃、混合時最大温度は表1に記載のとおりである。混合後、混合物を密閉式バンバリーミキサーから放出して、室温まで冷却した。
【0108】
<NMR測定>
表1のNR及びジアゾ化合物について、溶液H NMR測定(溶媒:CDCl)を行った。溶液H NMRスペクトルを図1に示す。
また、表1の参考例1~4について、溶液H NMR測定(溶媒:CDCl)を行った。参考例2~4の溶液H NMRスペクトルを図2~3に示す。
【0109】
(NMRピーク強度比)
参考例1~4の溶液H NMRスペクトルについて、gのピーク(ジアゾ化合物に由来するピーク)とhのピーク(ジアゾ化合物と天然ゴムとの反応によって形成されるシクロプロパン環に由来するピーク)との強度比(h/g)を求めた。結果を表1に示す。
【0110】
(反応率)
上述したNMRピーク強度比(h/g)から、配合したジアゾ化合物のうちジエン系ゴムと反応した割合(反応率)を求めた。具体的には、上述したgのピークがプロトン2個分のピークであり、上述したhのピークがプロトン3個分のピークであるため、h/gを3/2で除することで反応率を求めた。結果を表1に示す。
【0111】
〔ゴム組成物の製造(従来例、比較例1~2、実施例1~2)〕
下記表2に示される成分を同表に示される割合(質量部)で配合した。
具体的には、まず、下記表2に示される成分のうち硫黄及び加硫促進剤を除く成分を1.7リットルの密閉式バンバリーミキサーに入れて5分間混合した。混合開始温度は80℃、混合時最大温度は表2に記載のとおりである。混合後、混合物を密閉式バンバリーミキサーから放出して、室温まで冷却してマスターバッチを得た。さらに、上記バンバリーミキサーを用いて、得られたマスターバッチに硫黄及び加硫促進剤を混合し、各ゴム組成物を得た。
【0112】
<評価>
得られた各ゴム組成物について以下の評価を行った。
【0113】
(tanδ(60℃))
得られた各ゴム組成物(未加硫)を、金型(15cm×15cm×0.2cm)中、150℃で30分間プレス加硫して、加硫ゴムシートを作製した。次いで、得られた加硫ゴムシートについて、JIS K6394:2007に準じ、粘弾性スペクトロメーター(東洋精機製作所社製)を用いて、伸張変形歪率10%±2%、振動数20Hz、温度60℃の条件でtanδ(60℃)を測定した。
結果を表2に示す。結果は従来例を100とする指数で表した。指数が小さいほど低発熱性に優れると言える。
【0114】
(バウンドラバー量)
得られた各ゴム組成物0.3gを金網かごに入れ、室温で300mLのトルエン中に48時間浸漬した後取り出して乾燥し、サンプルの質量を測定して、バウンドラバー量を下記式から算出した。
バウンドラバー量=[(トルエン浸漬、乾燥後のサンプル質量)-(シリカの質量)]/(ゴム成分質量)
結果を表2に示す。結果は従来例を100とする指数で表した。バウンドラバー量が大きいほど、バウンドラバー(シリカと反応したゴム)が多く、ゴム組成物中のシリカの分散性が高いことを意味する。
【0115】
【表1】
【0116】
【表2】
【0117】
表1~2中の各成分の詳細は以下のとおりである。
・NR:天然ゴム
・シリカ:ZEOSIL 1165MP(CTAB吸着比表面積:159m/g、ローディア社製)
・酸化亜鉛:酸化亜鉛
・加硫促進剤:加硫促進剤
・硫黄:硫黄
・TESPT:Si69(ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、エボニックデグッサ社製)
・ジアゾ化合物:上述のとおり合成した特定シランカップリング剤
・金属触媒:ロジウム(II)アセタート (ダイマー)(東京化成工業社製)
【0118】
なお、比較例1の硫黄の量を他の例よりも少なくしている理由は、TESPT中の硫黄原子が放出されることによる加硫ゴムの硬度増加を抑制するためである。
【0119】
表1から分かるように、ジアゾ化合物の分解開始温度(132℃)が混合時最大温度以下である参考例2~3の場合、ジアゾ化合物とジエン系ゴムとの反応物が得られた。一方、ジアゾ化合物の分解開始温度が混合時最大温度を超える参考例1の場合、ジアゾ化合物とジエン系ゴムとの反応物が得られなかった。
参考例2~3の対比から、混合時最大温度とジアゾ化合物の分解開始温度との差が20℃以上である参考例2は、より高い反応率を示した。
【0120】
また、表2から、ジアゾ化合物の分解開始温度(132℃)が混合時最大温度を超える比較例2と比較して、ジアゾ化合物の分解開始温度が混合時最大温度以下である実施例1~2は、バウンドラバーが多く、優れた低発熱性を示した。このことは、比較例2と比較して、実施例1~2は、ジアゾ化合物とジエン系ゴムとの反応物がより多く得られている(より反応率が高い)ことを意味する。
実施例1~2の対比から、ジアゾ化合物の分解開始温度と混合時最大温度との差が20℃以上である実施例2は、よりバウンドラバーが多く、より優れた低発熱性を示した。このことは、実施例1と比較して、実施例2は、ジアゾ化合物とジエン系ゴムとの反応物がより多く得られている(より反応率が高い)ことを意味する。
図1
図2
図3