(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023044092
(43)【公開日】2023-03-30
(54)【発明の名称】研磨用組成物、研磨方法、および半導体基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09K 3/14 20060101AFI20230323BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20230323BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20230323BHJP
【FI】
C09K3/14 550D
C09K3/14 550Z
B24B37/00 H
H01L21/304 622D
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021151945
(22)【出願日】2021-09-17
(71)【出願人】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】前 僚太
【テーマコード(参考)】
3C158
5F057
【Fターム(参考)】
3C158AA07
3C158CA05
3C158CA07
3C158CB03
3C158CB10
3C158DA02
3C158DA12
3C158DA17
3C158EA11
3C158EB01
3C158EB29
3C158ED03
3C158ED08
3C158ED13
3C158ED23
3C158ED26
3C158ED28
5F057AA17
5F057AA28
5F057BB19
5F057BB32
5F057BB33
5F057BB36
5F057DA03
5F057EA06
5F057EA25
5F057EA27
(57)【要約】
【課題】有機材料を高い研磨速度で研磨することができ、かつ金属-窒素結合を有する材料の研磨速度に対する、有機材料の研磨速度の比を向上させる手段を提供する。
【解決手段】ジルコニア粒子と、金属-窒素結合を有する材料(a)の研磨速度に対する、有機材料(b)の研磨速度の比を向上させる選択比向上剤と、分散媒と、を含み、前記ジルコニア粒子のレーザー回折散乱法により求められる粒度分布において、微粒子側から積算粒子体積が全粒子体積の50%に達するときの粒子の直径(D50)が5nm以上150nm以下であり、pHが7未満である、研磨用組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジルコニア粒子と、
金属-窒素結合を有する材料(a)の研磨速度に対する、有機材料(b)の研磨速度の比を向上させる選択比向上剤と、
分散媒と、
を含み、
前記ジルコニア粒子のレーザー回折散乱法により求められる粒度分布において、微粒子側から積算粒子体積が全粒子体積の50%に達するときの粒子の直径(D50)が5nm以上150nm以下であり、
pHが7未満である、研磨用組成物。
【請求項2】
前記選択比向上剤は、極性基を有する水溶性高分子を含む、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項3】
前記極性基を有する水溶性高分子は、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、およびポリアクリルアミドからなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項2に記載の研磨用組成物。
【請求項4】
前記選択比向上剤は、有機酸基またはその塩の基を有する非芳香族架橋環状化合物を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項5】
前記有機酸基またはその塩の基を有する非芳香族架橋環状化合物は、下記一般式1で表される化合物である、請求項4に記載の研磨用組成物:
【化1】
前記一般式1中、
Z
1は、CR
1R
1’、C=O、またはOであり、
Z
2は、CR
2R
2’、C=O、またはOであり、
Z
3は、CR
3R
3’、C=O、またはOであり、
Z
4は、CR
4R
4’、C=O、またはOであり、
R
1、R
1’、R
2、R
2’、R
3、R
3’、R
4、R
4’、R
5、R
6、R
7、およびR
8は、それぞれ独立して、水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、置換されたもしくは非置換のアルキル基、置換されたもしくは非置換のアルケニル基、置換されたもしくは非置換のアルキニル基、置換されたもしくは非置換のアルコキシ基、置換されたもしくは非置換のポリオキシアルキレン基、または有機酸基もしくはその塩の基であり、
前記R
1、前記R
1’、前記R
2、前記R
2’、前記R
3、前記R
3’、前記R
4、前記R
4’、前記R
5、前記R
6、前記R
7、および前記R
8のうちの少なくとも1つが置換された基である場合、置換基は、それぞれ独立して、重水素原子、ハロゲン原子、非置換のアルキル基、非置換のアルケニル基、非置換のアルキニル基、非置換のアルコキシ基、非置換のポリオキシアルキレン基、または有機酸基もしくはその塩の基であり、
前記R
1、前記R
1’、前記R
2、前記R
2’、前記R
3、前記R
3’、前記R
4、前記R
4’、前記R
5、前記R
6、前記R
7、および前記R
8のうちの少なくとも1つは、有機酸基またはその塩の基を含む。
【請求項6】
前記一般式1で表される化合物は、10-カンファースルホン酸である、請求項5に記載の研磨用組成物。
【請求項7】
前記選択比向上剤が、アニオン性界面活性剤をさらに含む、請求項2~6のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項8】
金属-窒素結合を有する材料(a)および有機材料(b)を含む研磨対象物を研磨する用途で使用される、請求項1~7のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の研磨用組成物を用いて、金属-窒素結合を有する材料(a)および有機材料(b)を含む研磨対象物を研磨する工程を含む、研磨方法。
【請求項10】
金属-窒素結合を有する材料(a)および有機材料(b)を含む半導体基板を、請求項9に記載の研磨方法により研磨する工程を有する、半導体基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨用組成物、研磨方法、および半導体基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置が高集積化されるにしたがって、より微細なパターンの形成と多層構造の回路とが要求されている。このために、エッチング選択比特性が互いに異なる様々な物質の膜が必要とされている。このような様々な物質の膜の中でも、有機膜は、他のシリコン含有膜と比べてエッチング選択比特性がよいため、マスク膜や犠牲膜として使用され得る。特に、半導体製造工程では平坦化のため、化学的機械的研磨(Chemical mechanical polishing、CMP)工程を行って、当該有機膜を除去することが要求されている。
【0003】
このような有機膜を研磨する技術として、例えば、特許文献1には、シリカを含む砥粒と、アリルアミン系重合体と、水と、を含有し、砥粒の含有量に対するアリルアミン系重合体の含有量の質量比が0.002~0.400であり、砥粒が研磨剤中で正の電荷を有する、研磨剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術では、有機膜(有機材料)の研磨速度が未だ低いという問題があった。また、最近では、金属-窒素結合を有する材料の研磨速度に対して、有機材料の研磨速度を高くしたいという要求が高まっており、こうした要求に対して、従来ほとんど検討がされていなかった。
【0006】
そこで、本発明は、有機材料を高い研磨速度で研磨することができ、かつ金属-窒素結合を有する材料の研磨速度に対する、有機材料の研磨速度の比を向上させる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく、本発明者は鋭意研究を積み重ねた。その結果、ジルコニア粒子と、金属-窒素結合を有する材料(a)の研磨速度に対する、有機材料(b)の研磨速度の比を向上させる選択比向上剤と、分散媒と、を含み、前記ジルコニア粒子のレーザー回折散乱法により求められる粒度分布において、微粒子側から積算粒子体積が全粒子体積の50%に達するときの粒子の直径(D50)が5nm以上150nm以下であり、pHが7未満である、研磨用組成物により上記課題が解決することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、有機材料を高い研磨速度で研磨することができ、かつ金属-窒素結合を有する材料の研磨速度に対する、有機材料の研磨速度の比を向上させる手段が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、ジルコニア粒子と、金属-窒素結合を有する材料(a)の研磨速度に対する、有機材料(b)の研磨速度の比を向上させる選択比向上剤と、分散媒と、を含み、前記ジルコニア粒子のレーザー回折散乱法により求められる粒度分布において、微粒子側から積算粒子体積が全粒子体積の50%に達するときの粒子の直径(D50)が5nm以上150nm以下であり、pHが7未満である、研磨用組成物である。かような構成を有する本発明の一実施形態に係る研磨用組成物は、有機材料(b)を高い研磨速度で研磨することができ、かつ金属-窒素結合を有する材料(a)の研磨速度に対する、有機材料(b)の研磨速度の比を向上させることができる。
【0010】
以下、本発明の実施形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施形態のみには限定されない。
【0011】
本明細書において、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20℃以上25℃以下)/相対湿度40%RH以上50%RH以下の条件で行う。また、本明細書において、金属-窒素結合を有する材料(a)の研磨速度に対する、有機材料(b)の研磨速度の比を、単に「選択比」とも称する。
【0012】
[研磨対象物]
本発明に係る研磨対象物は、金属-窒素結合を有する材料(a)および有機材料(b)を含むことが好ましい。
【0013】
金属-窒素結合を有する材料(a)(以下、単に「材料(a)」とも称する)の例としては、窒化ケイ素(SiN)、窒化タンタル(TaN)、窒化チタン(TiN)等が挙げられる。
【0014】
有機材料(b)(以下、単に「材料(b)とも称する」)としては、特に制限されないが、アモルファス炭素(アモルファスカーボン)、スピンオンカーボン(SOC)、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)、ナノ結晶ダイヤモンド、グラフェン等が挙げられる。これらの中でも、アモルファス炭素、スピンオンカーボン、またはダイヤモンドライクカーボンが好ましい。
【0015】
材料(a)を含む膜、および材料(b)を含む膜は、CVD、PVD、スピンコート法等によって形成することができる。
【0016】
本発明に係る研磨対象物は、材料(a)および材料(b)以外に、他の材料をさらに含んでもよい。他の材料の例としては、酸化ケイ素、単結晶シリコン、多結晶シリコン(ポリシリコン)、非晶質シリコン(アモルファスシリコン)、n型またはp型不純物がドープされた多結晶シリコン、n型またはp型不純物がドープされた非晶質シリコン、金属単体、SiGe等が挙げられる。
【0017】
酸化ケイ素を含む研磨対象物の例としては、例えばオルトケイ酸テトラエチルを前駆体として使用して生成されるTEOS(Tetraethyl Orthosilicate)タイプ酸化ケイ素面(以下、「TEOS」、「TEOS膜」とも称する)、HDP(High Density Plasma)膜、USG(Undoped Silicate Glass)膜、PSG(Phosphorus Silicate Glass)膜、BPSG(Boron-Phospho Silicate Glass)膜、RTO(Rapid Thermal Oxidation)膜等が挙げられる。
【0018】
金属単体の例としては、例えば、タングステン、銅、コバルト、ハフニウム、ニッケル、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、オスミウム等が挙げられる。
【0019】
[ジルコニア粒子]
本発明に係る研磨用組成物は、砥粒としてジルコニア粒子を含む。ジルコニア粒子は、研磨対象物を機械的に研磨する作用を有する。ジルコニア粒子は、1種単独でもまたは2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、ジルコニア粒子は、市販品を用いてもよいし、合成品を用いてもよい。
【0020】
ジルコニア粒子は、コロイダルジルコニア粒子、または粉砕/焼成ジルコニア粒子であることが好ましく、コロイダルジルコニア粒子であることがより好ましい。また、ジルコニア粒子は、ドープされていないか、または、例えば、イットリウム(Y)もしくはその酸化物でドープされていてもよい。粉砕/焼成ジルコニア粒子は、焼成炉でのか焼後に粉砕工程を経て作製される。より具体的には、焼成対象物を例えば、1~10時間、1.2~5時間、典型的には約2時間かけて室温(例えば、20~25℃)から昇温を行う。その際の昇温速度は、例えば、100~1000℃/時間、または200~800℃/時間である。その後、約1300~1500℃となるような焼成温度に設定し、例えば、1~3時間、典型的には約2時間、その温度範囲内となるように保持する。その後、室温で自然冷却を行う。焼成対象物に対して昇温を開始し自然冷却で室温に戻すまでの時間は、例えば3~20時間、典型的には7~8時間である。
【0021】
イットリウムまたはその酸化物でドープされたジルコニア粒子(以下、単に「Y安定化ジルコニア粒子」とも称する)は、焼成/粉砕ジルコニアを原料とする場合、ジルコニア粉末とイットリウム粉末とを、イットリウムが所定ドープ量となるような割合で上記か焼前に混合し、上記のように焼成して作製することによって準備することが好適である。ドープされたジルコニア粒子は、コロイダルジルコニアを原料とする場合、イットリウムとジルコニウムのそれぞれの前駆体を必要モル数、事前に反応させた後に粒子化して準備することが一般的である。なお、ドープの方法については、例えば、特開2010-523451号公報、米国特許第3110681号明細書等の内容を適宜参照することができる。
【0022】
Y安定化ジルコニア粒子中のイットリウムの濃度(モル%)は、次のように定義される。
【0023】
【0024】
イットリウムのモル%は、X線蛍光(XRF)法、または当技術分野で知られている他の任意の方法によって決定することができる。Y安定化ジルコニア粒子中のイットリウムの濃度は、少なくとも、3モル%、4モル%、5モル%、6モル%、7モル%、8モル%、9モル%、10モル%、11モル%、12モル%、13モル%、14モル%、または15モル%である。また、Y安定化ジルコニア粒子中のイットリウムの濃度は、45モル%、40モル%、35モル%、30モル%、25モル%、または20モル%未満である。Y安定化ジルコニア粒子中のイットリウムの濃度は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、または25モル%、あるいはその間の範囲である。
【0025】
Y安定化ジルコニア粒子中のイットリウムの濃度は、1モル%以上または以下、2モル%以上または以下、3モル%以上または以下、4モル%以上または以下、5モル%以上または以下、6モル%以上または以下、7モル%以上または以下、8モル%以上または以下、9モル%以上または以下、10モル%以上または以下、11モル%以上または以下、12モル%以上または以下、13モル%以上または以下、14モル%以上または以下、15モル%以上または以下、16モル%以上または以下、17モル%以上または以下、18モル%以上または以下、19モル%以上または以下、20モル%以上または以下、21モル%以上または以下、22モル%以上または以下、23モル%以上または以下、24モル%以上または以下、あるいは25モル%以上または以下である。いくつかの実施形態において、Y安定化ジルコニア粒子は、正方晶相を含む(例えば、Y安定化ジルコニア粒子中のイットリウムは、正方晶相をもたらすのに十分な濃度である)。いくつかの実施形態において、Y安定化ジルコニア粒子は、立方晶相を含む(例えば、Y安定化ジルコニア粒子中のイットリウムは、立方晶相をもたらすのに十分な濃度である)。いくつかの実施形態において、Y安定化ジルコニア粒子中のイットリウムの濃度は、2.6モル%超、3.3モル%超、9.3モル%超、あるいは、10.6モル%超である。なお、本明細書において記載される「X(Xは数値)以上または以下」との表現は、本明細書において、X以上であってもよいし、X以下であってもよいことを意味する。つまり、補正を行う際に、Xという数値が下限値の根拠にもなりうるし、上限値の根拠にもなりうることを意味する。
【0026】
ジルコニア粒子(例えば、コロイダルジルコニアまたは粉砕/焼成ジルコニアまたはドープされたジルコニア)は、一次粒子および/または二次粒子を含む凝集体である。凝集体は個々の粒子の組み合わせから形成され得、これらの個々の粒子は、当技術分野では一次粒子として知られているが、粒子の凝集した組み合わせは、当技術分野では二次粒子として知られている。研磨用組成物中のジルコニア粒子は、一次粒子の形態、または一次粒子の凝集体である二次粒子の形態であり得る。あるいは、ジルコニア粒子は、一次粒子の形態および二次粒子の形態の両方で存在し得る。好ましい実施形態では、ジルコニア粒子は、研磨用組成物中に少なくとも部分的に二次粒子の形態で存在する。
【0027】
本発明に係るジルコニア粒子は、レーザー回折散乱法により求められる粒度分布において、微粒子側から積算粒子体積が全粒子体積の50%に達するときの粒子の直径(D50、以下、単に「D50」とも称する)が5nm以上150nm以下である。ジルコニア粒子のD50が5nm未満の場合、研磨速度が極端に減少する。一方、ジルコニア粒子のD50が150nmを超える場合、研磨後表面にスクラッチ(引っ掻き傷)が発生する虞がある。ジルコニア粒子のD50は、好ましくは10nm以上であり、より好ましくは30nm以上であり、さらに好ましくは50nm以上である。また、ジルコニア粒子のD50は、好ましくは300nm以下であり、より好ましくは150nm以下であり、さらに好ましくは90nm以下である。すなわち、ジルコニア粒子のD50は、10nm以上300nm以下であることが好ましく、30nm以上150nm以下であることがより好ましく、50nm以上90nm以下であることがさらに好ましい。ジルコニア粒子のD50は、より具体的には、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0028】
ジルコニア粒子の形状は、特に制限されず、球形状であってもよいし、非球形状であってもよい。非球形状の具体例としては、三角柱や四角柱などの多角柱状、円柱状、円柱の中央部が端部よりも膨らんだ俵状、円盤の中央部が貫通しているドーナツ状、板状、中央部にくびれを有するいわゆる繭型形状、複数の粒子が一体化しているいわゆる会合型球形状、表面に複数の突起を有するいわゆる金平糖形状、棒状、菱形形状、角状、ラグビーボール形状等、種々の形状が挙げられ、特に制限されない。
【0029】
研磨用組成物中のジルコニア粒子のゼータ電位の下限は、特に制限されないが、10mV以上が好ましく、20mV以上がより好ましく、25mV以上がさらに好ましく、30mV以上が特に好ましい。また、研磨用組成物中のジルコニア粒子のゼータ電位の上限は、特に制限されないが、70mV以下が好ましく、65mV以下がより好ましく、55mV以下がさらに好ましく、50mV以下が特に好ましい。すなわち、研磨用組成物中の砥粒のゼータ電位は、10mV以上70mV以下が好ましく、20mV以上65mV以下がより好ましく、25mV以上55mV以下がさらに好ましく、30mV以上50mV以下が特に好ましい。
【0030】
上記のようなゼータ電位を有するジルコニア粒子であれば、有機材料(b)をより高い研磨速度で研磨することができる。
【0031】
本明細書において、ジルコニア粒子のゼータ電位は、実施例に記載の方法によって測定される値を採用する。ジルコニア粒子のゼータ電位は、研磨用組成物のpH等により調整することができる。
【0032】
研磨用組成物中のジルコニア粒子の含有量(濃度)は、特に制限されないが、研磨用組成物の総質量に対して、0.01質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましく、0.08質量%以上であることがよりさらに好ましく、0.1質量%超であることが特に好ましい。また、研磨用組成物中のジルコニア粒子の含有量の上限は、研磨用組成物の総質量に対して、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、4質量%以下であることがさらに好ましく、1質量%以下であることがさらにより好ましく、1質量%未満であることが特に好ましい。すなわち、ジルコニア粒子の含有量は、研磨用組成物の総質量に対して、0.01質量%以上10質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以上5質量%以下であることがより好ましく、0.08質量%以上4質量%以下であることがさらに好ましく、0.08質量%以上1質量%以下であることがさらにより好ましく、0.1質量%超1質量%未満が特に好ましい。
【0033】
ジルコニア粒子の含有量がこのような範囲であれば、有機材料(b)をより高い研磨速度で研磨することができる。なお、研磨用組成物が2種以上のジルコニア粒子を含む場合、ジルコニア粒子の含有量は、これらの合計量を意図する。
【0034】
本発明に係る研磨用組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲内において、ジルコニア粒子以外の他の砥粒をさらに含んでもよい。かような他の砥粒は、無機粒子、有機粒子、および有機無機複合粒子のいずれであってもよい。無機粒子の具体例としては、例えば、未変性のシリカ、カチオン変性シリカ、アルミナ、セリア、チタニア等の金属酸化物からなる粒子、窒化ケイ素粒子、炭化ケイ素粒子、窒化ホウ素粒子等が挙げられる。有機粒子の具体例としては、例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)粒子が挙げられる。当該他の砥粒は、1種単独でもまたは2種以上組み合わせて使用してもよい。また、当該他の砥粒は、市販品を用いてもよいし、合成品を用いてもよい。
【0035】
ただし、当該他の砥粒の含有量は、砥粒の全質量に対して、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましく、1質量%以下であることが特に好ましい。最も好ましくは、他の砥粒の含有量が0質量%であること、すなわち砥粒がジルコニア粒子のみからなる形態である。
【0036】
[選択比向上剤]
本発明の研磨用組成物は、選択比向上剤を含む。選択比向上剤は、材料(a)の研磨速度に対する材料(b)の研磨速度の比(選択比)を向上させることができる。
【0037】
本発明に係る選択比向上剤は、特に制限されないが、(1)極性基を有する水溶性高分子、(2)有機酸基またはその塩の基を有する非芳香族架橋環状化合物、(3)アニオン性界面活性剤が挙げられる。これらの(1)~(3)の化合物は、主に静電的引力によって材料(a)に吸着すると考えられる。選択比向上剤は、嵩高い構造を有するため、ジルコニア粒子と材料(a)との衝突を抑制し、材料(a)をジルコニア粒子から強力に保護する。これにより、ジルコニア粒子の材料(a)のかきとり作用が弱まる。また、ジルコニア粒子は正の電荷を有し、材料(a)も正の電荷を有するため、これらの間で静電的な反発が働き、ジルコニア粒子の材料(a)のかきとり作用およびかきとり頻度が弱まる。そして、ジルコニア粒子と、選択比向上剤とが組み合わされることで、両者の機能が相乗的に向上して、ジルコニア粒子の材料(a)の研磨抑制効果が飛躍的に向上し、選択比が向上するものと考えられる。
【0038】
なお、上記メカニズムは推定によるものであり、本発明は上記メカニズムに何ら制限されない。
【0039】
以下、本発明に係る選択比向上剤について、詳細に説明する。なお、選択比向上剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。また、選択比向上剤は、市販品を用いてもよいし、合成品を用いてもよい。
【0040】
〔(1)極性基を有する水溶性高分子〕
本発明において、選択比向上剤は、極性基を有する水溶性高分子を含むことが好ましい。極性基の例としては、例えば、ヒドロキシ基、カルボキシ基、酸無水物基、スルホン酸基、リン酸基、アミド基、シアノ基、モルホリノ基、第4級アンモニウム基等が挙げられる。水溶性高分子が有する極性基は、1種単独であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。なお、本明細書中、「水溶性」とは、水(25℃)に対する溶解度が1g/100mL以上であることを意味し、「高分子」とは、重量平均分子量が1,000以上である(共)重合体をいう。
【0041】
さらに、極性基を有する水溶性高分子の具体的な例としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリビニルアセトアミド、ポリ(メタ)アクリロイルモルホリン等の単独重合体;ビニルピロリドン-ビニルアルコール共重合体、ビニルピロリドン-(メタ)アクリルアミド共重合体、ビニルピロリドン-ビニルアセトアミド共重合体、ビニルピロリドン-(メタ)アクリロイルモルホリン共重合体等の共重合体;等が挙げられる。共重合体の形態は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体、またはグラフト共重合体のいずれの形態であってもよい。
【0042】
また、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、またはポリ(メタ)アクリルアミドに対して、スルホン酸基、カルボン酸基、第4級アンモニウム基等の官能基をさらに導入した官能基変性水溶性高分子も用いることができる。このような官能基変性水溶性高分子は、従来公知の方法により合成することができる。
【0043】
極性基を有する水溶性高分子は、1種単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0044】
これらの中でも、本発明の効果をより向上させるという観点から、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、およびポリアクリルアミドからなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0045】
極性基を有する水溶性高分子の重量平均分子量(Mw)の下限は、特に制限されないが、1,000以上であることが好ましく、2,000以上であることがより好ましく、4,000以上であることがさらに好ましい。また、極性基を有する水溶性高分子の重量平均分子量(Mw)の上限は、特に制限されないが、1,000,000以下であることが好ましく、800,000以下であることがより好ましく、600,000以下であることがより好ましい。すなわち、極性基を有する水溶性高分子の重量平均分子量(Mw)は、1,000以上1,000,000以下であることが好ましく、2,000以上800,000以下であることがより好ましく、4,000以上600,000以下であることがさらに好ましい。
【0046】
なお、本明細書において、極性基を有する水溶性高分子の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミーエーションクロマトグラフィー(GPC)によって求められるポリエチレングリコール換算の値を採用する。より具体的には、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0047】
〔(2)有機酸基またはその塩の基を有する非芳香族架橋環状化合物〕
本発明において、選択比向上剤として(2)有機酸基またはその塩の基を有する非芳香族架橋環状化合物を用いることが好ましい。
【0048】
本明細書において、非芳香族架橋環状化合物とは、分子内に芳香環を有さず、かつ、1つの単環構造が有する2つ以上の置換基の直鎖構造部分の両端が結合した構造を有する化合物のうち、1辺を共有する構造(すなわち縮合環化合物)を除外した、架橋化合物を表す。非芳香族架橋環状化合物としては、特に制限されないが、例えば、カンファー、アダマンタン、およびこれらの分子構造中の環を形成する炭化水素基が他の原子または官能基に置換されてなる誘導体等が挙げられる。
【0049】
有機酸基またはその塩の基は、特に制限されないが、好ましい例として、カルボキシ基、カルボキシ基の塩の基、スルホ基、スルホ基の塩の基、ホスホン酸基、ホスホン酸基の塩の基、リン酸基、およびリン酸基の塩の基等が挙げられる。すなわち、有機酸基またはその塩の基を有する非芳香族架橋環状化合物は、カルボキシ基、カルボキシ基の塩の基スルホ基、スルホ基の塩の基、ホスホン酸基、ホスホン酸基の塩の基、リン酸基、およびリン酸基の塩の基からなる群より選択される少なくとも1つを有することが好ましい。また、有機酸基またはその塩の基を有する非芳香族架橋環状化合物は、これらの中でも、カルボキシ基、カルボキシ基の塩の基、スルホ基、またはスルホ基の塩の基を有することがより好ましく、カルボキシ基またはスルホ基を有することがさらに好ましく、スルホ基を有することが特に好ましい。これらの基によれば、材料(a)の研磨抑制効果がより向上する。また、材料(a)に加えて、材料(b)をさらに含む研磨対象物を研磨する場合、選択比がより向上する。
【0050】
有機酸基またはその塩の基を有する非芳香族架橋環状化合物としては、特に制限されないが、材料(a)の研磨抑制効果をより向上させるとの観点、および材料(b)の研磨速度が高いとの観点から、下記一般式1で表される化合物であることが好ましい。
【0051】
【0052】
上記一般式1において、
Z1は、CR1R1’、C=OまたはOであり、
Z2は、CR2R2’、C=OまたはOであり、
Z3は、CR3R3’、C=OまたはOであり、
Z4は、CR4R4’、C=OまたはOであり、
R1、R1’、R2、R2’、R3、R3’、R4、R4’、R5、R6、R7、およびR8は、それぞれ独立して、水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、置換されたもしくは非置換の炭化水素基(例えば、置換されたもしくは非置換のアルキル基、置換されたもしくは非置換のアルケニル基または置換されたもしくは非置換のアルキニル基)、置換されたもしくは非置換のアルコキシ基、置換されたもしくは非置換のポリオキシアルキレン基、または有機酸基もしくはその塩の基であり、
R1、R1’、R2、R2’、R3、R3’、R4、R4’、R5、R6、R7、およびR8の少なくとも1つが置換された基である場合、置換基は、それぞれ独立して、重水素原子、ハロゲン原子、非置換の炭化水素基(例えば、非置換のアルキル基、非置換のアルケニル基または非置換のアルキニル基)、非置換のアルコキシ基、非置換のポリオキシアルキレン基、または有機酸基もしくはその塩の基であり、
R1、R1’、R2、R2’、R3、R3’、R4、R4’、R5、R6、R7、およびR8の少なくとも1つは、有機酸基またはその塩の基を含む。
【0053】
上記一般式1において、Z1、Z2、Z3、およびZ4の少なくとも1つがC=Oであることが好ましく、Z1およびZ3の少なくとも1つがC=Oであることがより好ましく、Z1およびZ3のいずれか一方がC=Oであることがさらに好ましく、Z3がC=Oであることが特に好ましい。この際、Z1、Z2、Z3およびZ4のC=Oではない基は、CRR’(以下、Rは、Z1~Z4に対応してそれぞれR1~R4を表し、R’はZ1~Z4に対応してそれぞれR1’~R4’を表すものとする)またはOであることが好ましく、CRR’であることがより好ましい。
【0054】
上記一般式1のR1、R1’、R2、R2’、R3、R3’、R4、R4’、R5、R6、R7、およびR8において、ハロゲン原子は、特に制限されないが、例えば、F、Cl、BrおよびI等が挙げられる。
【0055】
上記一般式1のR1、R1’、R2、R2’、R3、R3’、R4、R4’、R5、R6、R7、およびR8において、炭化水素基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、またはアルキニル基が挙げられる。これらの中でも、アルキル基が好ましい。
【0056】
アルキル基は、直鎖状、分枝鎖状または環状のいずれであってもよい。アルキル基としては、特に制限されないが、例えば、炭素数1~12のアルキル基が挙げられる。これらの中でも、炭素数1~5の直鎖状または分枝鎖状のアルキル基が好ましく、その具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、2-メチルブチル基等が挙げられる。これらの中でも、炭素数1~5の直鎖状のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基がより好ましく、メチル基またはエチル基がさらに好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0057】
アルケニル基は、直鎖状、分枝鎖状、または環状のいずれであってもよい。アルケニル基としては、特に制限されないが、例えば、ビニル基、2-プロペニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、1-メチル-2-プロペニル基、2-メチル-2-プロペニル基、2-ペンテニル基、3-ペンテニル基、4-ペンテニル基、1-メチル-2-ブテニル基、2-メチル-2-ブテニル基、3-メチル-2-ブテニル基、1-メチル-3-ブテニル基、2-メチル-3-ブテニル基、3-メチル-3-ブテニル基、1,1-ジメチル-2-プロペニル基、1,2-ジメチル-2-プロペニル基、1-エチル-2-プロペニル基等が挙げられる。
【0058】
アルキニル基は、直鎖状、分枝鎖状または環状のいずれであってもよい。アルキニル基としては、特に制限されないが、例えば、2-ブチニル基、3-ペンチニル基、ヘキシニル基、ヘプチニル基、オクチニル基、デシニル基等が挙げられる。
【0059】
上記一般式1のR1、R1’、R2、R2’、R3、R3’、R4、R4’、R5、R6、R7、およびR8において、アルコキシ基は、特に制限されないが、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、n-ペントキシ基、イソペントキシ基、ネオペントキシ基、t-ペントキシ基、2-メチルブトキシ基等が挙げられる。
【0060】
上記一般式1のR1、R1’、R2、R2’、R3、R3’、R4、R4’、R5、R6、R7、およびR8において、ポリオキシアルキレン基は、特に制限されないが、例えば、ポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基、ポリオキシブチレン基、ポリオキシエチレン基とポリオキシプロピレン基とのブロック状ポリオキシアルキレン基、ポリオキシエチレン基とポリオキシプロピレン基とのランダム状ポリオキシアルキレン基、ポリオキシエチレン基とポリオキシブチレン基とのブロック状ポリオキシアルキレン基、ポリオキシエチレン基とポリオキシブチレン基とのランダム状ポリオキシアルキレン基等が挙げられる。
【0061】
上記一般式1のR1、R1’、R2、R2’、R3、R3’、R4、R4’、R5、R6、R7、およびR8において、有機酸基またはその塩の基は、特に制限されないが、前述のように、カルボキシ基、カルボキシ基の塩の基、またはスルホ基、スルホ基の塩の基、ホスホン酸基、ホスホン酸基の塩の基、リン酸基、およびリン酸基の塩の基からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。これらの中でも、カルボキシ基、カルボキシ基の塩の基、スルホ基、またはスルホ基の塩の基であることがより好ましく、カルボキシ基またはスルホ基であることがさらに好ましく、スルホ基であることが特に好ましい。
【0062】
上記一般式1において、R1、R1’、R2、R2’、R3、R3’、R4、R4’、R5、R6、R7、およびR8の少なくとも1つが置換された基である場合、置換基としてのハロゲン原子、炭化水素基(例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基)、アルコキシ基、ポリオキシアルキレン基、有機酸基またはその塩の基は、それぞれ、上記一般式1のR1、R1’、R2、R2’、R3、R3’、R4、R4’、R5、R6、R7、およびR8におけるこれらの基について説明したものと同様である。
【0063】
上記一般式1において、R1、R1’、R2、R2’、R3、R3’、R4、R4’、R5、R6、R7、およびR8の少なくとも1つが置換された炭化水素基(例えば、置換されたアルキル基、置換されたアルケニル基、置換されたアルキニル基)である場合、置換基は、それぞれ独立して、重水素原子、ハロゲン原子、非置換のアルコキシ基、非置換のポリオキシアルキレン基、または有機酸基もしくはその塩の基であることが好ましい。また、上記一般式1において、R1、R1’、R2、R2’、R3、R3’、R4、R4’、R5、R6、R7、およびR8の少なくとも1つが置換されたアルコキシ基、または置換されたポリオキシアルキレン基である場合、置換基は、それぞれ独立して、重水素原子、ハロゲン原子、非置換のアルケニル基、非置換のアルキニル基、非置換のアルコキシ基、非置換のポリオキシアルキレン基、または有機酸基もしくはその塩の基であることが好ましい。
【0064】
上記一般式1において、R1、R1’、R2、R2’、R3、R3’、R4、R4’、R5、R6、R7およびR8の少なくとも1つが有機酸基もしくはその塩の基、または有機酸基もしくはその塩の基で置換されたアルキル基であることが好ましい。これらの中でも、R1、R1’、R2、R2’、R3、R3’、R4、R4’、R5、R6、R7、およびR8の1つのみが有機酸基もしくはその塩の基、または有機酸基もしくはその塩の基で置換されたアルキル基であることがより好ましい。この際、有機酸基もしくはその塩の基、または有機酸基もしくはその塩の基で置換されたアルキル基としては、カルボキシ基もしくはその塩の基、スルホ基もしくはその塩の基、カルボキシ基もしくはその塩の基で置換されたメチル基、またはスルホ基もしくはその塩の基で置換されたメチル基であることがさらに好ましく、カルボキシ基であるか、またはスルホ基で置換されたメチル基であることが特に好ましく、スルホ基で置換されたメチル基であることが最も好ましい。これらの基によれば、材料(a)の研磨抑制効果がより向上する。また、材料(a)に加えて、他の材料(特に材料(b))をさらに含む研磨対象物を研磨する場合、材料(a)に対する材料(b)の選択比がより向上する。
【0065】
上記一般式1において、R1、R1’R2、R2’、R3、R3’、R4、およびR4’は、それぞれ独立して、水素原子であることが特に好ましい。
【0066】
上記一般式1において、R5は、水素原子、または置換されたもしくは非置換のアルキル基であることが好ましく、置換されたまたは非置換のアルキル基であることがより好ましく、置換されたアルキル基であることがさらに好ましく、有機酸基またはその塩の基で置換されたアルキル基であることが特に好ましい。この際、有機酸基またはその塩の基で置換されたアルキル基としては、スルホ基またはその塩の基で置換されたメチル基であることが好ましく、スルホ基で置換されたメチル基であることが特に好ましい。
【0067】
上記一般式1において、R6は、水素原子、または有機酸基もしくはその塩の基であることが好ましく、水素原子、またはカルボキシ基もしくはその塩の基であることがより好ましく、水素原子、またはカルボキシ基であることがさらに好ましく、水素原子であることが特に好ましい。
【0068】
上記一般式1において、R7およびR8は、それぞれ独立して、置換されたまたは非置換のアルキル基であることが好ましく、非置換のアルキル基であることがより好ましく、メチル基であることが特に好ましい。
【0069】
有機酸基またはその塩の基を有する非芳香族架橋環状化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0070】
有機酸基またはその塩の基を有する非芳香族架橋環状化合物の好ましい具体例としては、10-カンファースルホン酸、カンファン酸およびケトピニン酸等が挙げられる。これらの中でも、10-カンファースルホン酸、またはカンファン酸が好ましく、10-カンファースルホン酸がより好ましい。なお、10-カンファースルホン酸は、任意の一種の立体異性体であってもよく、立体異性体の任意の混合物であってもよく、ラセミ体であってもよい。
【0071】
本発明の効果をより向上させるという観点から、選択比向上剤は、(1)極性基を有する水溶性高分子と、(2)有機酸基またはその塩の基を有する非芳香族架橋環状化合物とを、共に含むことがより好ましい。
【0072】
〔(3)アニオン性界面活性剤〕
本発明において、選択比向上剤として(3)アニオン性界面活性剤が用いられうる。選択比向上剤として、(3)アニオン性界面活性剤のみを用いることもできるが、上記(1)および/または(2)の化合物と組み合わせて使用することが好ましい。このような組み合わせにより、本発明の効果がより一層向上する。アニオン性界面活性剤は、陰イオン性の親水基を有する界面活性剤であり、カルボン酸型、スルホン酸型、硫酸エステル型、リン酸エステル型等を、特に制限なく使用することができる。
【0073】
カルボン酸型のアニオン性界面活性剤としては、炭素数1~22の直鎖または分枝鎖を有する炭化水素基およびアシル基、ポリオキシアルキレン基、芳香族基、ならびにそれらの組み合わせの主鎖を有するカルボキシ基と、アルカリ金属、第2族金属などの金属との塩であることが好ましい。また、炭化水素基は、炭素数1~18の直鎖状または分枝鎖状であってもよく、飽和であってもよいし不飽和であってもよい。より具体的には、例えば、ラウリン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ラウレス-6カルボン酸ナトリウム(ポリオキシエチレン(4.5)ラウリルエーテル酢酸ナトリウム)、ラウロイルサルコシンナトリウム、オクタン酸ナトリウム、デカン酸ナトリウム、ミリスチリン酸ナトリウム、パルミチン酸ナトリウム、ヤシ油脂肪酸(C8~18)サルコシンナトリウム、ヤシ油脂肪酸カリウムなどを使用することができる。
【0074】
スルホン酸型のアニオン性界面活性剤としては、炭素数1~22の直鎖または分枝鎖を有する炭化水素基およびアシル基、ポリオキシアルキレン基、芳香族基、ならびにそれらの組み合わせの主鎖を有するスルホニル基と、アルカリ金属、第2族金属などの金属との塩であることが好ましい。また、炭化水素基は、炭素数1~18の直鎖状または分枝鎖状であってもよく、飽和であってもよいし不飽和であってもよい。具体的には、ラウリルスルホ酢酸ナトリウム、1-プロパンスルホン酸ナトリウム、1-ブタンスルホン酸ナトリウム、1-ペンタンスルホン酸ナトリウム、1-ヘキサンスルホン酸ナトリウム、1-ヘプタンスルホン酸ナトリウム、1-オクタンスルホン酸ナトリウム、1-デカンスルホン酸ナトリウム、1-ドデカンスルホン酸ナトリウム、トルエンスルホン酸ナトリウム、クメンスルホン酸ナトリウム、ナフタレンスルホン酸ナトリウム、ナフタレンジスルホン酸二ナトリウム、ナフタレントリスルホン酸三ナトリウム、アルファオレフィンスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどを使用することができる。
【0075】
硫酸エステル型のアニオン性界面活性剤としては、炭素数1~22の直鎖または分枝鎖を有する炭化水素基およびアシル基、ポリオキシアルキレン基、芳香族基、ならびにそれらの組み合わせの主鎖を有する硫酸基と、アルカリ金属、第2族金属などの金属との塩であることが好ましい。また、炭化水素基は、炭素数1~18の直鎖状または分枝鎖状であってもよく、飽和であってもよいし不飽和であってもよい。具体的には、ラウリル硫酸ナトリウム、ミリスチル硫酸ナトリウム、ラウレス硫酸ナトリウム(ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム)、セチル硫酸ナトリウム、ココグリセリル硫酸ナトリウム(硬化ヤシ油脂肪酸グリセリル硫酸ナトリウム)、ラウリル硫酸トリエタノールアミン、ラウリル硫酸アンモニウム、ラウレス硫酸トリエタノールアミン等を使用することができる。
【0076】
リン酸エステル型のアニオン性界面活性剤としては、炭素数1~22の直鎖または分枝鎖を有する炭化水素基およびアシル基、ポリオキシアルキレン基、芳香族基、ならびにそれらの組み合わせの主鎖を有するリン酸基と、アルカリ金属、第2族金属などの金属との塩であることが好ましい。また、炭化水素基は、炭素数1~18の直鎖状または分枝鎖状であってもよく、飽和であってもよいし不飽和であってもよい。具体的には、ラウリルリン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンセチルエーテルリン酸ナトリウム(ポリオキシエチレン(5)セチルエーテルリン酸ナトリウム)、ラウリルリン酸、ラウリルリン酸カリウムなどを使用することができる。
【0077】
アニオン性界面活性剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0078】
これらアニオン性界面活性剤の中でも、1-プロパンスルホン酸ナトリウム、1-ブタンスルホン酸ナトリウム、1-ペンタンスルホン酸ナトリウム、1-ヘキサンスルホン酸ナトリウム、1-ヘプタンスルホン酸ナトリウム、1-オクタンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウムからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、1-ペンタンスルホン酸ナトリウム、1-ヘキサンスルホン酸ナトリウム、1-ヘプタンスルホン酸ナトリウム、1-オクタンスルホン酸ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1種がさらに好ましい。
【0079】
これらアニオン性界面活性剤の重量平均分子量は1000未満であり、500以下が好ましく、250以下がさらに好ましく、200以下がより好ましい。
【0080】
上記の選択比向上剤の含有量(濃度)は、特に制限されず、選択比向上剤の種類によって適宜選択することができる。例えば、選択比向上剤として(1)極性基を有する水溶性高分子を用いる場合、その含有量は、研磨用組成物の総質量に対して、0.00001質量%以上であることが好ましく、0.00005質量%以上であることがより好ましく、0.0001質量%以上であることがさらに好ましい。この範囲であると、材料(a)の研磨抑制効果がより向上する。また、材料(a)に加えて、材料(b)をさらに含む研磨対象物を研磨する場合、材料(a)に対する材料(b)の選択比がより向上する。また、(1)極性基を有する水溶性高分子の含有量(濃度)は、研磨用組成物の総質量に対して、1質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以下であることがさらに好ましい。この範囲であると、選択比向上剤としての効果がより高くなる。すなわち、(1)極性基を有する水溶性高分子の含有量は、研磨用組成物の総質量に対して、0.00001質量%以上1質量%以下であることが好ましく、0.00005質量%以上0.5質量%以下であることがより好ましく、0.0001質量%以上0.1質量%以下であることがさらに好ましい。なお、研磨用組成物が2種以上の極性基を有する水溶性高分子を含む場合、上記の含有量は、これらの合計量を意図する。
【0081】
選択比向上剤として(2)有機酸基またはその塩の基を有する非芳香族架橋環状化合物を使用する場合、その含有量は、研磨用組成物の総質量に対して、0.001質量%以上であることが好ましく、0.005質量%以上であることがより好ましく、0.01質量%以上であることがさらに好ましい。この範囲であると、材料(a)の研磨抑制効果がより向上する。また、材料(a)に加えて、材料(b)をさらに含む研磨対象物を研磨する場合、材料(a)に対する材料(b)の選択比がより向上する。また、(2)有機酸基またはその塩の基を有する非芳香族架橋環状化合物の含有量(濃度)は、研磨用組成物の総質量に対して、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましく、0.5質量%以下であることがさらにより好ましく、0.3質量%以下であることが特に好ましい。この範囲であると、選択比向上剤としての効果がより高くなる。この理由は、電気伝導度が過剰に高くなることがなく、ジルコニア粒子および材料(a)の電気二重層が過度に圧縮されることもないため、ジルコニア粒子と、材料(a)との間の静電反発がより良好に維持されるからであると推定される。また、この範囲であると、スラリーのより良好な分散安定性も担保される。すなわち、(2)有機酸基またはその塩の基を有する非芳香族架橋環状化合物の含有量は、研磨用組成物の総質量に対して、0.001質量%以上10質量%以下であることが好ましく、0.005質量%以上5質量%以下であることがより好ましく、0.01質量%以上1質量%以下であることがさらに好ましく、0.01質量%以上0.5質量%以下であることがさらにより好ましく、0.01質量%以上0.3質量%以下であることが特に好ましい。なお、研磨用組成物が2種以上の有機酸基またはその塩の基を有する非芳香族架橋環状化合物を含む場合、上記の含有量は、これらの合計量を意図する。
【0082】
選択比向上剤として(3)アニオン性界面活性剤を用いる場合、その含有量は、研磨用組成物の総質量に対して、0.0001質量%以上であることが好ましく、0.0005質量%以上であることがより好ましく、0.001質量%以上であることがさらに好ましい。この範囲であると、材料(a)の研磨抑制効果がより向上する。また、材料(a)に加えて、材料(b)をさらに含む研磨対象物を研磨する場合、材料(a)に対する材料(b)の選択比がより向上する。また、(3)アニオン性界面活性剤の含有量(濃度)は、研磨用組成物の総質量に対して、1質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以下であることがさらに好ましく、0.05質量%以下であることが特に好ましい。この範囲であると、選択比向上剤としての効果がより高くなる。すなわち、(3)アニオン性界面活性剤の含有量は、研磨用組成物の総質量に対して、0.0001質量%以上1質量%以下であることが好ましく、0.0005質量%以上0.5質量%以下であることがより好ましく、0.001質量%以上0.1質量%以下であることがさらに好ましく、0.001質量%以上0.05質量%以下であることが特に好ましい。なお、研磨用組成物が2種以上のアニオン性界面活性剤を含む場合、上記の含有量は、これらの合計量を意図する。
【0083】
さらに、選択比向上剤の含有量(濃度)は、所望の研磨用組成物のpHの値となるような量を適宜選択してもよい。この際、後述する研磨用組成物のpHの値となるような量を添加することが好ましい。かような含有量(濃度)を採用する場合は、後述するpH調整剤を使用してもよいし、使用しなくてもよい。
【0084】
[分散媒]
本発明の研磨用組成物は、各成分を分散するための分散媒を含む。分散媒としては、水;メタノール、エタノール、エチレングリコール等のアルコール類;アセトン等のケトン類等や、これらの混合物などが例示できる。これらのうち、分散媒としては水が好ましい。すなわち、本発明の好ましい形態によると、分散媒は水を含む。本発明のより好ましい形態によると、分散媒は実質的に水からなる。なお、上記の「実質的に」とは、本発明の目的効果が達成され得る限りにおいて、水以外の分散媒が含まれ得ることを意図し、より具体的には、好ましくは90質量%以上100質量%以下の水と0質量%以上10質量%以下の水以外の分散媒とからなり、より好ましくは99質量%以上100質量%以下の水と0質量%以上1質量%以下の水以外の分散媒とからなる。最も好ましくは、分散媒は水である。
【0085】
研磨用組成物に含まれる成分の作用を阻害しないようにするという観点から、分散媒としては、不純物をできる限り含有しない水が好ましく、具体的には、イオン交換樹脂にて不純物イオンを除去した後、フィルタを通して異物を除去した純水や超純水、または蒸留水がより好ましい。
【0086】
[pHおよびpH調整剤]
本発明に係る研磨用組成物のpHは、7未満である。pHが7以上の場合、有機材料(b)の研磨速度および選択比が低下する。
【0087】
当該pHは、6.5以下であることが好ましく、6以下であることがより好ましい。また、当該pHの下限は、1以上であることが好ましく、2以上であることがより好ましく、2.5以上であることがさらに好ましい。すなわち、本発明に係る研磨用組成物のpHは、1以上6.5以下であることが好ましく、2以上6以下であることがより好ましく、2.5以上6以下であることがさらに好ましい。
【0088】
上記したように、本発明に係る選択比向上剤は、pH調整剤としての役割を有し得る。よって、本発明に係る研磨用組成物は、pHを調整するためのpH調整剤を含有しなくてもよい。ただし、選択比向上剤の添加のみによって上記の所望のpHが得られない場合、本発明の研磨用組成物は、上記の選択比向上剤以外のpH調整剤を含んでもよい。pH調整剤は、無機酸、有機酸、および塩基のいずれであってもよい。pH調整剤は、1種単独でも、または2種以上組み合わせても用いることができる。
【0089】
pH調整剤として使用できる無機酸の具体例としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、フッ酸、ホウ酸、炭酸、次亜リン酸、亜リン酸、およびリン酸が挙げられる。なかでも好ましいのは、塩酸、硫酸、硝酸またはリン酸である。
【0090】
pH調整剤として使用できる有機酸の具体例としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、2-メチル酪酸、n-ヘキサン酸、3,3-ジメチル酪酸、2-エチル酪酸、4-メチルペンタン酸、n-ヘプタン酸、2-メチルヘキサン酸、n-オクタン酸、2-エチルヘキサン酸、安息香酸、グリコール酸、サリチル酸、グリセリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フタル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、乳酸、ジグリコール酸、2-フランカルボン酸、2,5-フランジカルボン酸、3-フランカルボン酸、2-テトラヒドロフランカルボン酸、メトキシ酢酸、メトキシフェニル酢酸、フェノキシ酢酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、およびイセチオン酸等が挙げられる。
【0091】
無機酸または有機酸の代わりにあるいは無機酸または有機酸と組み合わせて、無機酸または有機酸のアルカリ金属塩等の塩をpH調整剤として用いてもよい。弱酸と強塩基、強酸と弱塩基、または弱酸と弱塩基の組み合わせの場合、pHの緩衝作用が期待できる。
【0092】
pH調整剤として使用できる塩基の具体例としては、例えば、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド等を挙げることができる。pH調整剤の添加量は、特に制限されず、研磨用組成物が所望のpHとなるように適宜調整すればよい。
【0093】
研磨用組成物のpHは、例えばpHメーターにより測定することができ、具体的には実施例に記載の方法により測定することができる。
【0094】
[その他の成分]
本発明に係る研磨用組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲内において、酸化剤、錯化剤、防腐剤、防カビ剤等の、研磨用組成物に用いられ得る公知の添加剤をさらに含有してもよい。これらの中でも、酸化剤を含むことが好ましい。
【0095】
酸化剤は、研磨対象物の表面を酸化する作用を有し、研磨用組成物による研磨対象物の研磨速度をより向上させうる。
【0096】
酸化剤の例としては、過酸化水素、過酸化ナトリウム、過酸化バリウム、オゾン水、銀(II)塩、鉄(III)塩、過マンガン酸、クロム酸、重クロム酸、ペルオキソ二硫酸、ペルオキソリン酸、ペルオキソ硫酸、ペルオキソホウ酸、過ギ酸、過酢酸、過安息香酸、過フタル酸、次亜塩素酸、次亜臭素酸、次亜ヨウ素酸、塩素酸、亜塩素酸、過塩素酸、臭素酸、ヨウ素酸、過ヨウ素酸、過硫酸、ジクロロイソシアヌル酸およびそれらの塩等が挙げられる。これら酸化剤は、1種単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。これらの中でも、過酸化水素、過マンガン酸カリウム、過マンガン酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過ヨウ素酸、次亜塩素酸、およびジクロロイソシアヌル酸ナトリウムが好ましく、過酸化水素、過マンガン酸カリウム、過マンガン酸ナトリウムがより好ましく、過マンガン酸カリウムがさらに好ましい。
【0097】
研磨用組成物中の酸化剤の含有量の下限は、0.001質量%以上であることが好ましく、0.01質量%以上であることが好ましい。下限をこのようにすることで、研磨速度をより向上させることができる。また、研磨用組成物中の酸化剤の含有量の上限は、30質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下がさらにより好ましい。上限をこのようにすることで、研磨用組成物の材料コストを抑えることができるのに加え、研磨使用後の研磨用組成物の処理、すなわち廃液処理の負荷を軽減することができる。また、酸化剤による研磨対象物表面の過剰な酸化が起こる虞を少なくすることもできる。
【0098】
[研磨用組成物の製造方法]
本発明に係る研磨用組成物の製造方法は、特に制限されず、例えば、ジルコニア粒子、選択比向上剤、および必要に応じて他の添加剤を、分散媒中(好ましくは水中)で攪拌混合することにより得ることができる。各成分の詳細は上記の通りである。
【0099】
各成分を混合する際の温度は特に制限されないが、10℃以上40℃以下が好ましく、溶解速度を上げるために加熱してもよい。また、混合時間も、均一混合できれば特に制限されない。
【0100】
[研磨方法および半導体基板の製造方法]
上記のように、本発明に係る研磨用組成物は、金属-窒素結合を有する材料(a)および有機材料(b)を有する研磨対象物の研磨に好適に用いられる。よって、本発明は、金属-窒素結合を有する材料(a)および有機材料(b)を含む研磨対象物を、本発明に係る研磨用組成物で研磨する研磨方法を提供する。また、本発明は、金属-窒素結合を有する材料(a)および有機材料(b)を含む半導体基板を上記研磨方法により研磨することを有する、半導体基板の製造方法を提供する。
【0101】
研磨装置としては、研磨対象物を有する基板等を保持するホルダーと回転数を変更可能なモーター等とが取り付けてあり、研磨パッド(研磨布)を貼り付け可能な研磨定盤を有する一般的な研磨装置を使用することができる。
【0102】
研磨パッドとしては、一般的な不織布、ポリウレタン、および多孔質フッ素樹脂等を特に制限なく使用することができる。研磨パッドには、研磨液が溜まるような溝加工が施されていることが好ましい。
【0103】
研磨条件については、例えば、研磨定盤およびキャリアの回転速度は、10rpm(0.17s-1)以上500rpm(8.33s-1)が好ましい。研磨対象物を有する基板にかける圧力(研磨圧力)は、0.5psi(3.4kPa)以上10psi(68.9kPa)が好ましい。
【0104】
研磨パッドに研磨用組成物を供給する方法も特に制限されず、例えば、ポンプ等で連続的に供給する方法が採用される。この供給量に制限はないが、研磨パッドの表面が常に本発明に係る研磨用組成物で覆われていることが好ましい。
【0105】
研磨終了後、基板を流水中で洗浄し、スピンドライヤ等により基板上に付着した水滴を払い落として乾燥させることにより、金属を含む層を有する基板が得られる。
【0106】
本発明に係る研磨用組成物は、一液型であってもよいし、二液型をはじめとする多液型であってもよい。また、本発明に係る研磨用組成物は、研磨用組成物の原液を水などの希釈液を使って、例えば10倍以上に希釈することによって調製されてもよい。
【実施例0107】
本発明を、以下の実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「質量%」および「質量部」を意味する。
【0108】
[各種物性の測定方法]
本実施例において、各種物性は、以下の方法により測定した。
【0109】
<粒子径の測定>
ジルコニア粒子のD50の値は、粒子径分布測定装置(UPA-UT151、日機装株式会社製)を用いた動的光散乱法により、体積平均粒子径として測定された値を採用した。
【0110】
ジルコニア粒子を水に分散させた分散液を用い、ジルコニア粒子の粒子径の測定を行った。測定機器による解析により、ジルコニア粒子の粒子径の粒度分布において、微粒子側から積算粒子体積が全粒子体積の50%に達するときの粒子の直径D50を算出した。
【0111】
<ゼータ電位の測定>
ジルコニア粒子のゼータ電位の測定は、大塚電子株式会社製のゼータ電位測定装置(商品名「ELS-Z」)を用いて行った。
【0112】
<pHの測定>
研磨用組成物のpHは、pHメーター(株式会社堀場製作所製、型番:F-71)により測定した。
【0113】
<重量平均分子量(Mw)>
極性基を有する水溶性高分子の分子量は、ゲルパーミーエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定した重量平均分子量(ポリエチレングリコール換算)の値を用い、より具体的には、下記の装置および条件によって測定した:
GPC装置:株式会社島津製作所製
型式:Prominence + ELSD検出器(ELSD-LTII)
カラム:VP-ODS(株式会社島津製作所製)
移動相 A:MeOH
B:酢酸1%水溶液
流量:1mL/分
検出器:ELSD temp.40℃、Gain 8、N2GAS 350kPa
オーブン温度:40℃
注入量:40μL。
【0114】
[研磨用組成物の調製]
(実施例1)
砥粒としてコロイダルジルコニア(第一稀元素化学工業株式会社製、NYACOL(登録商標)ZR70/20、ジルコニア粒子の濃度:20質量%、ジルコニア粒子のD50:70nm)を準備した。また、選択比向上剤として、10-カンファースルホン酸(富士フイルム和光純薬株式会社製)を準備した。
【0115】
コロイダルジルコニアを0.1質量%の最終濃度となるように、また10-カンファースルホン酸を0.05質量%の最終濃度となるように、分散媒である純水に室温(25℃)でそれぞれ加え、混合液を得た。得られた混合液を、室温(25℃)で30分攪拌混合し、研磨用組成物を調製した。得られた研磨用組成物のpHは3.7であり、得られた研磨用組成物中のコロイダルジルコニアのゼータ電位は、40mVであった。また、研磨用組成物中のコロイダルジルコニアの粒子径は、上記のコロイダルジルコニアの粒子径と同様であった。
【0116】
(実施例2)
コロイダルジルコニアを、0.5質量%の最終濃度となるように純水に加えたことを除いては、実施例1と同様にして、研磨用組成物を調製した。
【0117】
(実施例3)
コロイダルジルコニアを、2.0質量%の最終濃度となるように純水に加えたことを除いては、実施例1と同様にして、研磨用組成物を調製した。
【0118】
(実施例4)
ポリビニルピロリドン(PVP、関東化学株式会社製、重量平均分子量8,000)を0.0001質量%の最終濃度となるようにさらに加えたこと以外は、実施例2と同様にして、研磨用組成物を調製した。
【0119】
(実施例5)
ポリビニルピロリドンの濃度を0.0003質量%に変更したこと以外は、実施例4と同様にして、研磨用組成物を調製した。
【0120】
(実施例6)
重量平均分子量が8,000であるポリビニルピロリドンに代えて、重量平均分子量が40,000であるポリビニルピロリドン(第一工業製薬株式会社製)を用いたこと以外は、実施例4と同様にして、研磨用組成物を調製した。
【0121】
(実施例7)
重量平均分子量が8,000であるポリビニルピロリドンに代えて、重量平均分子量が10,000であるポリビニルアルコール(PVA、日本酢ビ・ポバール株式会社製)を用いたこと以外は、実施例4と同様にして、研磨用組成物を調製した。
【0122】
(実施例8)
ポリビニルアルコールの濃度を0.0003質量%に変更したこと以外は、実施例7と同様にして、研磨用組成物を調製した。
【0123】
(実施例9)
重量平均分子量が8,000であるポリビニルピロリドンに代えて、重量平均分子量が40,000であるポリビニルアルコール(日本酢ビ・ポバール株式会社製)を用いたこと以外は、実施例4と同様にして、研磨用組成物を調製した。
【0124】
(実施例10)
10-カンファースルホン酸の濃度を0.1質量%に変更したこと以外は、実施例4と同様にして、研磨用組成物を調製した。得られた研磨用組成物のpHは3.0であった。また、得られた研磨用組成物中のコロイダルジルコニアのゼータ電位は、45mVであった。
【0125】
(実施例11)
10-カンファースルホン酸の濃度を0.01質量%に変更したこと以外は、実施例4と同様にして、研磨用組成物を調製した。得られた研磨用組成物のpHは5.5であった。また、得られた研磨用組成物中のコロイダルジルコニアのゼータ電位は、38mVであった。
【0126】
(実施例12)
D50が100nmであるコロイダルジルコニアを用いたこと以外は、実施例2と同様にして、研磨用組成物を調製した。得られた研磨用組成物中のコロイダルジルコニアのゼータ電位は、35mVであった。
【0127】
(実施例13)
10-カンファースルホン酸に代えて、pH調整剤である硝酸を0.05質量%の濃度で用いたこと以外は、実施例5と同様にして、研磨用組成物を調製した。
【0128】
(実施例14)
1-ヘキサンスルホン酸ナトリウム(東京化成工業株式会社製)を0.01質量%の最終濃度となるようにさらに加えたこと以外は、実施例13と同様にして、研磨用組成物を調製した。
【0129】
(実施例15)
重量平均分子量が8,000であるポリビニルピロリドンに代えて、重量平均分子量が10,000であるポリビニルアルコール(日本酢ビ・ポバール株式会社製)を用いたこと以外は、実施例13と同様にして、研磨用組成物を調製した。
【0130】
(実施例16)
重量平均分子量が8,000であるポリビニルピロリドンに代えて、重量平均分子量が10,000であるポリアクリルアミド(メルク株式会社製)を0.05質量%の濃度で用いたこと以外は、実施例13と同様にして、研磨用組成物を調製した。
【0131】
(実施例17)
硝酸に代えて10-カンファースルホン酸を用い、さらにポリアクリルアミドの濃度を0.01質量%としたこと以外は、実施例16と同様にして、研磨用組成物を調製した。
【0132】
(実施例18)
ポリアクリルアミドの濃度を0.05質量%としたこと以外は、実施例17と同様にして、研磨用組成物を調製した。
【0133】
(実施例19)
重量平均分子量が10,000であるポリアクリルアミドに代えて、重量平均分子量が400,000であるポリアクリルアミド(富士フイルム和光純薬株式会社製)を用いたこと以外は、実施例17と同様にして、研磨用組成物を調製した。
【0134】
(実施例20)
重量平均分子量が8,000であるポリビニルピロリドンに代えて、ラウリル硫酸アンモニウム(花王株式会社製)を0.005質量%の濃度で用いたこと以外は、実施例4と同様にして、研磨用組成物を調製した。
【0135】
(実施例21)
重量平均分子量が8,000であるポリビニルピロリドンに代えて、1-ヘキサンスルホン酸ナトリウム(東京化成工業株式会社製)を0.01質量%の濃度で用いたこと以外は、実施例4と同様にして、研磨用組成物を調製した。
【0136】
(実施例22)
1-ヘキサンスルホン酸ナトリウムの濃度を0.005質量%に変更したこと以外は、実施例21と同様にして、研磨用組成物を調製した。
【0137】
(比較例1)
10-カンファースルホン酸の濃度を0.0001質量%に変更したこと以外は、実施例2と同様にして、研磨用組成物を調製した。得られた研磨用組成物のpHは7.0であった。また、得られた研磨用組成物中のコロイダルジルコニアのゼータ電位は、40mVであった。
【0138】
(比較例2)
重量平均分子量が8,000であるポリビニルピロリドンを用いなかったこと以外は、実施例13と同様にして、研磨用組成物を調製した。
【0139】
(比較例3)
D50が250nmであるコロイダルジルコニアを用いたこと以外は、比較例2と同様にして、研磨用組成物を調製した。得られた研磨用組成物中のコロイダルジルコニアのゼータ電位は、35mVであった。
【0140】
(比較例4)
<砥粒の準備>
特開2005-162533号公報の実施例1に記載の方法と同様にして、シリカゾルのメタノール溶液(シリカ濃度:20質量%)1Lに対してシランカップリング剤としてγ-アミノプロピルトリエトキシシランを2mmolの濃度で使用して、D50が70nmである繭型形状のカチオン変性コロイダルシリカを作製した。
【0141】
コロイダルジルコニアに代えて、上記で得られたカチオン変性コロイダルシリカを2.0質量%の濃度で用い、pH調整剤として硝酸を用いたこと以外は、実施例3と同様にして、研磨用組成物を調製した。得られた研磨用組成物のpHは3.7であった。また、得られた研磨用組成物中のカチオン変性コロイダルシリカのゼータ電位は、40mVであった。
【0142】
(比較例5)
10-カンファースルホン酸を用いなかったこと以外は、比較例4と同様にして、研磨用組成物を調製した。
【0143】
各実施例および各比較例の研磨用組成物の構成を下記表1に示す。なお、下記表1中の「-」は、その剤を使用していないことを表す。
【0144】
【0145】
[研磨速度]
研磨対象物(基板)として、表面にアモルファスカーボンが厚さ5000Åで成膜されたシリコンウェーハ(株式会社アドバンテック製、200mmウェーハ、SKA、P型、材料(b)の基板)と200mmウェーハ(SiN(窒化ケイ素膜)、アドバンスマテリアルズテクノロジー株式会社製、製品名:LP-SiN 3.5KA Blanket、材料(a)の基板)を準備した。
【0146】
上記で得られた研磨用組成物を用いて、この準備した基板を以下の研磨条件でそれぞれ研磨し、研磨速度を測定した:
(研磨条件)
研磨機:EJ-380IN-CH(日本エンギス株式会社製)
研磨パッド:硬質ポリウレタンパッド(ロームアンドハース社製、IC1010)
研磨圧力:1.0psi(1psi=6894.76Pa)
プラテン(定盤)回転数:80rpm
ヘッド(キャリア)回転数:60rpm
研磨用組成物の流量:100ml/min
研磨時間:60秒。
【0147】
(研磨速度)
膜厚は、光干渉式膜厚測定装置(株式会社SCREENホールディングス製、型番:ラムダエースVM-2030)によって求めて、研磨前後の膜厚の差を研磨時間で除することにより研磨速度を評価した(下記式参照)。有機材料(b)の研磨速度は、90Å/min以上が好ましい。
【0148】
【0149】
(選択比)
選択比は、上記で得られた有機材料基板の研磨速度をSiN基板の研磨速度で除することにより求めた。当該選択比は30以上であることが好ましい。
【0150】
各実施例および各比較例の研磨用組成物の評価結果を下記表2に示す。
【0151】
【0152】
上記表2から明らかなように、実施例の研磨用組成物は、有機材料(b)を高い研磨速度で研磨することができ、かつ金属-窒素結合を有する材料(a)の研磨速度に対する、有機材料(b)の研磨速度の比を向上させ得ることが分かった。