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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023004473
(43)【公開日】2023-01-17
(54)【発明の名称】計測装置、計測システム、計測方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/244 20060101AFI20230110BHJP
   G02F 1/01 20060101ALI20230110BHJP
   G01R 33/032 20060101ALI20230110BHJP
   G01R 29/08 20060101ALI20230110BHJP
   G01R 29/12 20060101ALI20230110BHJP
   G01R 29/14 20060101ALI20230110BHJP
   H01J 37/305 20060101ALI20230110BHJP
   H01L 21/027 20060101ALI20230110BHJP
【FI】
H01J37/244
G02F1/01 F
G01R33/032
G01R29/08 F
G01R29/12 F
G01R29/14
H01J37/305 B
H01L21/30 541Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021106147
(22)【出願日】2021-06-25
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 誠
(72)【発明者】
【氏名】菅 晃一
(72)【発明者】
【氏名】太田 雅人
(72)【発明者】
【氏名】坂和 洋一
【テーマコード(参考)】
2G017
2K102
5C101
5F056
【Fターム(参考)】
2G017AA02
2G017AD12
2K102AA21
2K102AA27
2K102BA01
2K102BB05
2K102BC04
2K102BD09
2K102CA18
2K102DD03
2K102EB02
2K102EB10
2K102EB22
5C101AA27
5C101GG18
5C101GG21
5C101HH49
5C101HH61
5F056BB10
(57)【要約】
【課題】シングルショットにて荷電粒子による電場又は磁場の時空間分布を得ることができる計測装置を実現する。
【解決手段】計測装置(1)は、直線偏光のレーザ光であるプローブレーザ(L)を出射するレーザ出射装置(2)と、プローブレーザ(L)に空間的な時間遅延を付与するエシェロンミラー(10)と、エシェロンミラー(10)を介してプローブレーザ(L)が入射する電気光学素子であるEO結晶(15)と、EO結晶(15)から出射したプローブレーザ(L)を撮像する撮像素子(14)と、を備え、荷電粒子である電子ビーム(B)を、EO結晶(15)の外側又は内部を通過させて荷電粒子による電場の時空間分布を計測する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直線偏光のレーザ光を出射するレーザ出射装置と、
前記レーザ光に空間的な時間遅延を付与するエシェロンミラーと、
前記エシェロンミラーを介して前記レーザ光が入射する電気光学素子又は磁気光学素子と、
前記電気光学素子又は前記磁気光学素子から出射した前記レーザ光を撮像する撮像素子と、を備え、
荷電粒子を、前記電気光学素子又は前記磁気光学素子の外側を通過させる、あるいは前記電気光学素子又は前記磁気光学素子の内部を通過させて、前記荷電粒子による電場の時間分布あるいは磁場の時間分布を計測することを特徴とする計測装置。
【請求項2】
前記エシェロンミラーと前記電気光学素子又は前記磁気光学素子との間に配置され、前記レーザ光を前記荷電粒子の進行方向と直交する二方向のうちの一方向に集光して前記電気光学素子又は前記磁気光学素子に入射させる第1シリンドリカルレンズと、
前記電気光学素子又は前記磁気光学素子と前記撮像素子との間に配置され、前記電気光学素子又は前記磁気光学素子から出射した前記レーザ光を平行光とする第2シリンドリカルレンズと、
をさらに備え、
前記撮像素子が二次元撮像素子であり、
前記荷電粒子による電場の時空間分布あるいは磁場による時空間分布を計測することを特徴とする請求項1に記載の計測装置。
【請求項3】
前記荷電粒子を、前記電気光学素子又は前記磁気光学素子の外側を通過させることを特徴とする請求項1又は2に記載の計測装置。
【請求項4】
前記電気光学素子を備え、
前記電気光学素子は、ポッケルス効果、カー効果、又はシュタルク効果を有する素子であることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の計測装置。
【請求項5】
前記磁気光学素子を備え、
前記磁気光学素子は、ファラデー効果又はフォークト効果を有する素子であることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の計測装置。
【請求項6】
前記荷電粒子は、電子、陽電子、陽子、又は重粒子の何れかであることを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載の計測装置。
【請求項7】
請求項2に記載の計測装置と、
前記計測装置にて計測された荷電粒子による電場の時空間分布あるいは荷電粒子による磁場の時空間分布に基づいて当該荷電粒子の密度分布を導出するコンピュータと、を含む、計測システム。
【請求項8】
被測定試料に荷電粒子を照射して過渡反応の反応ダイナミクスを測定する反応ダイナミクス測定装置であって、
請求項2に記載の計測装置であり、前記荷電粒子を前記電気光学素子又は前記磁気光学素子の外側を通過させる計測装置と、
前記荷電粒子を被測定試料に向けて出射する荷電粒子発生装置と、
前記計測装置にて計測された荷電粒子による電場の時空間分布あるいは荷電粒子による磁場の時空間分布に基づいて当該荷電粒子の密度分布を導出する第1演算部と、
前記計測装置における前記レーザ出射装置から出射されたレーザ光を分岐した測定光を前記被測定試料に導くダイナミクス測定用光学系と、
前記被測定試料を通過した測定光に基づいて、前記被測定試料における過渡反応の反応ダイナミクスを測定する過渡反応測定部と、を備える反応ダイナミクス測定装置。
【請求項9】
荷電粒子発生装置をフィードバック制御する荷電粒子モニター装置であって、
請求項2に記載の計測装置であり、前記荷電粒子を前記電気光学素子又は前記磁気光学素子の外側を通過させる計測装置と、
前記計測装置にて計測された荷電粒子による電場の時空間分布あるいは荷電粒子による磁場の時空間分布に基づいて当該荷電粒子の密度分布を導出する第1演算部と、
導出された荷電粒子の密度分布に基づいて前記荷電粒子発生装置をフィードバック制御する第1フィードバック部と、
を備える荷電粒子モニター装置。
【請求項10】
荷電粒子が照射される測定対象の帯電を測定する帯電測定装置であって、
請求項2に記載の計測装置であり、前記荷電粒子を前記電気光学素子又は前記磁気光学素子の外側を通過させる計測装置と、
前記計測装置にて計測された、前記測定対象における荷電粒子による電場の時空間分布あるいは荷電粒子による磁場の時空間分布に基づいて、前記測定対象の帯電を測定する第1測定部と、
を備える帯電測定装置。
【請求項11】
荷電粒子が照射される加工対象の電場を測定する電場測定装置であって、
請求項2に記載の計測装置であり、前記荷電粒子を前記電気光学素子又は前記磁気光学素子の外側を通過させる計測装置と、
前記計測装置にて計測された、前記加工対象における荷電粒子による電場の時空間分布あるいは荷電粒子による磁場の時空間分布に基づいて、前記加工対象の電場を測定する第2測定部と、
を備える電場測定装置。
【請求項12】
荷電粒子リソグラフィー装置であって、
請求項11に記載の電場測定装置と、
前記荷電粒子を加工対象に向けて出射する荷電粒子発生装置と、
前記電場測定装置にて測定された電場分布に基づいて前記荷電粒子発生装置をフィードバック制御する第2フィードバック部と、
を備える荷電粒子リソグラフィー装置。
【請求項13】
直線偏光のレーザ光をエシェロンミラーにて反射させて前記レーザ光に空間的な時間遅延を付与し、荷電粒子の電場が印加されている電気光学素子又は荷電粒子の磁場が印加されている磁気光学素子に、空間的な時間遅延が付与された前記レーザ光を入射させ、前記電気光学素子又は前記磁気光学素子から出射した前記レーザ光を撮像することで、前記荷電粒子による電場の時間分布あるいは磁場の時間分布を計測する計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計測装置であって、より詳細には荷電粒子から発せられる電場又は磁場を計測する計測装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
ポッケルス効果、カー効果、又はシュタルク効果などを有する電気光学素子を用いたEO(Electro-Optic)サンプリング法では、サブピコ秒の高時間分解能で電場の時間発展を計測することが可能である。その原理は以下の通りである。
【0003】
計測する電場がEO結晶に印加されると、EO結晶に複屈折性が生じる。生じる複屈折性は、印加された電場の強度に依存する。EO結晶に生じたこの複屈折性を、EO結晶に入射させたプローブレーザの偏光状態の変化として検出する。複屈折性を生じているEO結晶を通過することで、プローブレーザは直線偏光から楕円偏光に変更され、楕円偏光度を計測することで、電場の時空間分布を得ることができる。
【0004】
このようなEOサンプリング法は、近年、加速器中を伝播する電子ビーム周りに生成される電場の時空間分布の取得にも応用され始めている。例えば、非特許文献1には、EOサンプリング法を用いた電子ビームの電子密度分布の非破壊評価が示されている。また、本願発明者らも、非特許文献2において、EOサンプリング法を用いて電子ビームの電場プロファイルを画像化し、その結果から電子ビームの電子密度プロファイルを取得することを発表している。
【0005】
また、ファラデー効果、フォークト効果などを有する磁気光学素子を用いて、計測対象の磁場を計測することも行われている。本願発明者らも、非特許文献3において、磁気光学素子を用いて計測対象の磁気ニアフィールドを検出することを発表している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】G. Berden, S. P. Jamison, A. M. MacLeod, W. A. Gillespie, B. Redlich, and A. F. G. Van der Meer, Phys. Rev. Lett. 93, 114802 (2004).
【非特許文献2】M. Ota et al., Applied Physics Express 14, 026503 (2021).
【非特許文献3】T. Kurihara et al.,Appl. Phys. Lett. 113, 111103 (2018)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した技術は、シングルショットにて電子ビーム等の荷電粒子の電場の時間分布を得るものではなく、複数ショットにて取得している。そのため、時間分解能を高めるには、ショット毎の遅延時間を細かく設定する必要があり、計測に要する時間が長くなるため応用に向けての大きな障壁となっている。シングルショット計測であれば瞬時にデータを取得可能であり、ショット間のジッターの影響は無視することができ、さらに単発現象を取り扱うことが可能である。また、荷電粒子の磁場の時間分布を磁気光学素子を用いて計測する場合にも同様の問題がある。
【0008】
本発明の一態様は、シングルショットにて荷電粒子による電場又は磁場の時間分布を得ることができる計測装置等を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る計測装置は、直線偏光のレーザ光を出射するレーザ出射装置と、前記レーザ光に空間的な時間遅延を付与するエシェロンミラーと、前記エシェロンミラーを介して前記レーザ光が入射する電気光学素子又は磁気光学素子と、前記電気光学素子又は前記磁気光学素子から出射した前記レーザ光を撮像する撮像素子と、を備え、荷電粒子を、前記電気光学素子又は前記磁気光学素子の外側を通過させる、あるいは前記電気光学素子又は前記磁気光学素子の内部を通過させて、前記荷電粒子による電場の時間分布あるいは磁場の時間分布を計測する。
【0010】
本発明の一態様に係る計測装置においては、前記エシェロンミラーと前記電気光学素子又は前記磁気光学素子との間に配置され、前記レーザ光を前記荷電粒子の進行方向と直交する二方向のうちの一方向に集光して前記電気光学素子又は前記磁気光学素子に入射させる第1シリンドリカルレンズと、前記電気光学素子又は前記磁気光学素子と前記撮像素子との間に配置され、前記電気光学素子又は前記磁気光学素子から出射した前記レーザ光を平行光とする第2シリンドリカルレンズと、をさらに備え、前記撮像素子が二次元撮像素子であり、前記荷電粒子による電場の時空間分布あるいは磁場による時空間分布を計測する構成としてもよい。
【0011】
本発明の一態様に係る計測装置においては、前記荷電粒子を、前記電気光学素子又は前記磁気光学素子の外側を通過させる構成としてもよい。
【0012】
本発明の一態様に係る計測装置においては、前記電気光学素子を備え、前記電気光学素子は、ポッケルス効果、カー効果、又はシュタルク効果を有する素子である構成としてもよい。
【0013】
本発明の一態様に係る計測装置においては、前記磁気光学素子を備え、前記磁気光学素子は、ファラデー効果又はフォークト効果を有する素子である構成としてもよい。
【0014】
本発明の一態様に係る計測装置においては、前記荷電粒子は、電子、陽電子、陽子、又は重粒子の何れかである構成としてもよい。
【0015】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る計測システムは、本発明の一態様に係る計測装置と、前記計測装置にて計測された荷電粒子による電場の時空間分布あるいは荷電粒子による磁場の時空間分布に基づいて当該荷電粒子の密度分布を導出するコンピュータと、を含む、を含む。
【0016】
本発明の一態様に係る反応ダイナミクス測定装置は、被測定試料に荷電粒子を照射して過渡反応の反応ダイナミクスを測定する反応ダイナミクス測定装置であって、本発明の一態様に係る計測装置であり、前記荷電粒子を前記電気光学素子又は前記磁気光学素子の外側を通過させる計測装置と、前記荷電粒子を被測定試料に向けて出射する荷電粒子発生装置と、前記計測装置にて計測された荷電粒子による電場の時空間分布あるいは荷電粒子による磁場の時空間分布に基づいて当該荷電粒子の密度分布を導出する第1演算部と、前記計測装置における前記レーザ出射装置から出射されたレーザ光を分岐した測定光を前記被測定試料に導くダイナミクス測定用光学系と、前記被測定試料を通過した測定光に基づいて、前記被測定試料における過渡反応の反応ダイナミクスを測定する過渡反応測定部と、を備える。
【0017】
本発明の一態様に係る荷電粒子モニター装置は、荷電粒子発生装置をフィードバック制御する荷電粒子モニター装置であって、本発明の一態様に係る計測装置であり、前記荷電粒子を前記電気光学素子又は前記磁気光学素子の外側を通過させる計測装置と、前記計測装置にて計測された荷電粒子による電場の時空間分布あるいは荷電粒子による磁場の時空間分布に基づいて当該荷電粒子の密度分布を導出する第1演算部と、導出された荷電粒子の密度分布に基づいて前記荷電粒子発生装置をフィードバック制御する第1フィードバック部と、を備える。
【0018】
本発明の一態様に係る帯電測定装置は、荷電粒子が照射される測定対象の帯電を測定する帯電測定装置であって、本発明の一態様に係る計測装置であり、前記荷電粒子を前記電気光学素子又は前記磁気光学素子の外側を通過させる計測装置と、前記計測装置にて計測された、前記測定対象における荷電粒子による電場の時空間分布あるいは荷電粒子による磁場の時空間分布に基づいて、前記測定対象の帯電を測定する第1測定部と、を備える。
【0019】
本発明の一態様に係る電場測定装置は、荷電粒子が照射される加工対象の電場を測定する電場測定装置であって、本発明の一態様に係る計測装置であり、前記荷電粒子を前記電気光学素子又は前記磁気光学素子の外側を通過させる計測装置と、前記計測装置にて計測された、前記加工対象における荷電粒子による電場の時空間分布あるいは荷電粒子による磁場の時空間分布に基づいて、前記加工対象の電場を測定する第2測定部と、を備える。
【0020】
本発明の一態様に係る荷電粒子リソグラフィー装置は、荷電粒子リソグラフィー装置であって、本発明の一態様に係る電場測定装置と、前記荷電粒子を加工対象に向けて出射する荷電粒子発生装置と、前記電場測定装置にて測定された電場分布に基づいて前記荷電粒子発生装置をフィードバック制御する第2フィードバック部と、を備える。
【0021】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る計測方法は、直線偏光のレーザ光をエシェロンミラーにて反射させて前記レーザ光に空間的な時間遅延を付与し、荷電粒子の電場が印加されている電気光学素子又は荷電粒子の磁場が印加されている磁気光学素子に、空間的な時間遅延が付与された前記レーザ光を入射させ、前記電気光学素子又は前記磁気光学素子から出射した前記レーザ光を撮像することで、前記荷電粒子による電場の時間分布あるいは磁場の時間分布を計測する。
【発明の効果】
【0022】
本発明の一態様によれば、シングルショットにて荷電粒子による電場又は磁場の時間分布を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本実施形態の計測装置の具体的な装置構成を示す概略図である。
図2図1に示す計測装置における、EO結晶と、プローブレーザおよび電子ビームとの位置関係を示す模式図である。
図3図1に示す計測装置における、エシェロンミラーの拡大図である。
図4】エシェロンミラーがプローブレーザに付与する空間的な時間遅延を示す説明図である。
図5図1に示す計測装置を用いて電子ビームの周囲に生成されている電場をシングルショットにて撮影した画像例である。
図6】EOサンプリング法を用いて電子ビームの電界プロファイルを画像化する従来の計測装置の構成を示す概略図である。
図7図6に示す従来の計測装置を用いて電子ビームの周囲に生成されている電場を撮影した画像例である。
図8】本実施形態の計測装置の変形例の装置構成を示す概略図である。
図9図1に示す計測装置を応用した荷電粒子の反応ダイナミクス測定装置の構成を示すブロック図である。
図10図9に示す反応ダイナミクス測定装置による反応ダイナミクスの測定例を示す図である。
図11図1に示す計測装置を応用した、顕微鏡装置において被測定試料の帯電を計測する帯電計測装置の構成を示すブロック図である。
図12図11に示す帯電計測装置による時空間計測部の測定例を示す図である。
図13図1に示す計測装置を応用した荷電粒子リソグラフィー装置の構成を示すブロック図である。
図14図1に示す計測装置を応用した荷電粒子モニター装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。なお、ここでは、電気光学素子を用いて、荷電粒子による電場の時空間分布を計測する場合を説明する。しかしながら、電気光学素子に代えて磁気光学素子を用いて、荷電粒子の磁場の時空間分布を計測することも可能である。磁気光学素子は、ファラデー効果、フォークト効果などを有し、入射光の偏光状態を印加磁場に応じて変化させる素子である。
【0025】
(1.計測装置1の構成)
まず、図1図2を用いて、本実施形態の計測装置1の構成について説明する。図1は、本実施形態の計測装置1の具体的な装置構成を示す概略図である。図1は、計測装置1を上方より見ており、Y軸が上下方向を示す。荷電粒子である電子ビーム(荷電粒子ビーム)Bの進行方向は、Z軸に沿った方向である。図2は、計測装置1における、EO結晶15と、プローブレーザLおよび電子ビームBとの位置関係を示す模式図である。
【0026】
本実施形態では、荷電粒子として電子を例示するが、荷電粒子としては、電子の他、陽電子、陽子、重粒子等のイオンであってもよい。また、電気光学素子として複屈折性を生じるポッケルス素子を例示するが、電場によって光の応答を変える電気光学効果があればよく、カー効果、またはシュタルク効果等を有する素子であってもよい。
【0027】
図1に示すように、計測装置1は、レーザ出射装置2、第1および第2の偏光子3,4、複数のミラー5~9、エシェロン(Echelon)ミラー10、第1および第2のシリンドリカルレンズ11,12、結像レンズ13、撮像素子14、および電気光学素子であるEO結晶15を備えている。
【0028】
レーザ出射装置2は、計測のためのプローブレーザ(レーザ光)Lを出射する。プローブレーザLは直線偏光のパルスレーザである。
【0029】
第1および第2の偏光子3,4はそれぞれ、特定の方向の直線偏光のみを通過させる。プローブレーザLの進む方向において上流側に位置する第1偏光子3と下流側に位置する第2偏光子4とは、それぞれが通過させる直線偏光の方向が90度異なるように配置されている。なお、EO結晶15に入射するプローブレーザLの直線偏光の角度は、EO結晶15の結晶配位によって複屈折変化の最適角が異なるため、適宜調整する。
【0030】
複数のミラー5~9は、レーザ出射装置2から出射されたプローブレーザLを、エシェロンミラー10を介してEO結晶15を通過させた後、撮像素子14へ導く。このうち、エシェロンミラー10の上流側(かつ下流側)に位置するミラー7は、例えば、ハーフミラーである。ミラー7は、ミラー6を介して入射したプローブレーザLを透過させてエシェロンミラー10に入射させる。また、ミラー7は、エシェロンミラー10を介して入射したプローブレーザLを反射して、第1シリンドリカルレンズ11に入射させる。
【0031】
なお、ミラー5、6は光学遅延調整用のミラーであるが、複数のミラー5~9は必ずしも全てが必要というわけではない。レーザ出射装置2、エシェロンミラー10、EO結晶15、および撮像素子14等の配置に応じて、光路設計上必要なものを必要な箇所に配置すればよい。
【0032】
エシェロンミラー10は、階段状に形成された反射面を有する階段状のミラーである。エシェロンミラー10は、入射したプローブレーザLを反射することで、プローブレーザLに空間的な時間遅延を付与する。エシェロンミラー10については、図3図4を用いて後述する。
【0033】
上流側に位置する第1シリンドリカルレンズ11は、エシェロンミラー10とEO結晶15との間に配置されている。第1シリンドリカルレンズ11は、エシェロンミラー10で反射されたプローブレーザLを電子ビームBの進行方向と直交する二方向のうちの一方向に集光してEO結晶15に入射させる。図1の例では、第1シリンドリカルレンズ11は、入射したプローブレーザLをX軸の方向において集光してシート状にする。ここで、第1シリンドリカルレンズ11の集光距離は、プローブレーザLがY軸に沿った方向に平行な直線状態(スポット形状)でEO結晶15に入射するように設定されている。
【0034】
EO結晶15は、電場によって光の応答を変える電気光学効果を有する。本実施形態では、EO結晶15は、電界によりポッケルス効果が生じるポッケルス素子である。ポッケルス効果とは、電界の印加により複屈折性が生じる現象であり、ポッケルス効果が生じたポッケルス素子中を直線偏光を有する光が通過(透過)すると、印加電圧に対応した楕円偏光度を持つようになる。ポッケルス素子としては、電界の印加により複屈折性が生じる各種結晶を用いることができる。
【0035】
本実施形態では、EO結晶15としてポッケルス素子であるZnTe結晶を用いている。EO結晶15は矩形の板状をなし、プローブレーザLは、EO結晶15をその厚み方向に通過する(図2参照)。
【0036】
下流側の第2シリンドリカルレンズ12は、EO結晶15と撮像素子14との間に配置されている。第2シリンドリカルレンズ12は、EO結晶15から出射したプローブレーザLを平行光とする。第2シリンドリカルレンズ12は、EO結晶15上でイメージングをとるためのレンズである。第2シリンドリカルレンズ12の集光距離は、第2シリンドリカルレンズ12とEO結晶15までの距離と同じに設定されている。図1の例では、第2シリンドリカルレンズ12は、入射したプローブレーザLをX軸に沿った方向において平行光とし、撮像素子14の撮像面に結像させる。
【0037】
結像レンズ13は、第2シリンドリカルレンズ12の結像に寄与していない、プローブレーザLをY軸に沿った方向において集光して撮像素子14の撮像面に結像させる。第2偏光子4は、プローブレーザLの上述した楕円偏光化した成分のみを通過させる。
【0038】
撮像素子14は、EO結晶15から出射したプローブレーザ光Lを撮像する。本実施形態では、撮像素子14として二次元のCCD(Charge-Coupled Device)カメラ(二次元撮像素子)を用いている。
【0039】
計測装置1において、電子ビームBを非破壊測定する場合には、矩形の板状をなすEO結晶15の外側を通過する。より具体的には、図1図2に示すように、電子ビームBは、EO結晶15の厚み方向に沿った端面15aの側方を通過する。
【0040】
(2.エシェロンミラー10)
次に、図3図4を用いて、エシェロンミラー10について説明する。図3は、エシェロンミラー10の一部を拡大して示す拡大図である。図4は、エシェロンミラー10がプローブレーザLに付与する空間的な時間遅延を示す説明図である。
【0041】
図3に示すように、エシェロンミラー10は、反射面が階段状に形成されている。プローブレーザLの進行方向における各段の反射面の位置の違いをステップ高さh、プローブレーザLの進行方向と直交する方向における各段の反射面の寸法をステップ幅wとする。各段におけるステップ高hは同じであり、ステップ幅wも同じである。一番下の段を0段目として説明する。
【0042】
図4に示すように、プローブレーザLにおける、1段目で反射された部分は、0段目で反射された部分に対して、高さhの距離差の分遅れて反射される。そのため、プローブレーザLにおける、1段目で反射された部分は、高さhの2倍(往復)の距離を進む時間に相当する時間Δt、0段目で反射された部分に対して時間遅延することとなる。また、プローブレーザLにおける、2段目で反射された部分は、1段目で反射された部分に対して同じく高さhの2倍分遅れて反射される。そのため、2段目で反射された部分は、1段目で反射された部分に対してさらに時間Δt、時間遅延することとなる。0段目がプローブレーザLを反射した時間をT=Tとすると、N段目がプローブレーザLを反射した時間T=T+NΔtとなる。このように、エシェロンミラー10は、1パルスのプローブレーザLを、段差の高さhを反映した空間的な時間遅延をもった段数分のパルスに分割する。
【0043】
本実施形態において、エシェロンミラー10は、全段差が1000段であり、各段の高さhは3μm、ステップ幅wは15μmである。このように設計されたエシェロンミラー10による時間遅延は、1段当たり20fs、全体として20psの時間遅延に相当する。
【0044】
(3.計測装置1における計測方法)
次に、図1図2を用いて、計測装置1を用いて電子ビームBの周囲に生成されている電場の時空間分布の計測方法について説明する。計測装置1は、EO結晶15の側方を通過する電子ビームBの周囲に生成されている電場をシングルショットにて計測する。より詳細には、電子ビームBの周囲に生成されている電場の時空間分布をシングルショットにて計測する。時空間分布とは、電子ビームBの時間分布(ビーム進行方向の分布)と、電子ビームBの空間分布(ビーム進行軸に垂直方向)とを含む。
【0045】
電子ビーム出射装置(荷電粒子発生装置)30より出射された電子ビームBが、EO結晶15の側方を通過すると、電子ビームBの周囲に生成されている電場にてEO結晶15に複屈折性が生じる。生じる複屈折性は、電場の強度と時間分布とに依存する。この生じた複屈折性を、レーザ出射装置2から出射され、EO結晶に入射させたプローブレーザLの偏光状態の変化として検出する。プローブレーザLは、複屈折性を生じているEO結晶を通過することで直線偏光から楕円偏光に変更され、楕円偏光度を計測することで、電場の時空間分布を得ることができる。
【0046】
レーザ出射装置2から出射されたプローブレーザLは、特定の方向の直線偏光のみが第1偏光子3を通過し、ミラー5,6を介してミラー7に入射する。ミラー7は、入射したプローブレーザLを透過させてエシェロンミラー10に入射させる。エシェロンミラー10に入射したプローブレーザLは、その階段状の反射面で反射されることで、前述したように、空間的な時間遅延が付与される。
【0047】
空間的な時間遅延が付与されたプローブレーザLは、ミラー7にて反射されて第1シリンドリカルレンズ11に入射する。第1シリンドリカルレンズ11は、プローブレーザLを結晶上においてX軸方向に集光させてシート状とする。図2に示すように、シート状のプローブレーザLは、Y軸に沿った方向に平行な直線状態でEO結晶15に入射し、EO結晶15を透過する。
【0048】
EO結晶15は、電子ビームBの周囲に生成されている電場にて複屈折性を生じているため、プローブレーザLは、EO結晶15を透過することで直線偏光から楕円偏光へと変化する。
【0049】
楕円偏光に変化したプローブレーザLは、ミラー9にて反射されて第2シリンドリカルレンズ12に入射する。第2シリンドリカルレンズ12は、EO結晶15を透過してX軸に沿った方向に発散するプローブレーザLを平行光として、撮像素子14の撮像面に結像可能に調整する。また、結像レンズ13は、プローブレーザLのY軸に沿った方向を撮像素子14の撮像面に結像可能に調整する。
【0050】
第2シリンドリカルレンズ12および結像レンズ13を通過したプローブレーザLは、そのうちの特定の方向の直線偏光のみが第2偏光子4を通過し、撮像素子14の撮像面に結像する。
【0051】
これにより、シングルショットにて、電子ビームBの周囲に生成されている電場の時空間分布を、撮像素子14にて撮像される画像(二次元図)として取得することができる。
【0052】
(4.撮像された画像例)
図5は、計測装置1を用いて電子ビームの周囲に生成されている電場をシングルショットにて撮影した画像例である。荷電粒子である電子が束状になった電子ビームBの周囲に生成されている電場を計測した。電子ビームBは、エネルギー35MeV、パルス幅1ps、ビーム直径4.5mmである。プローブレーザLは、波長800nm、パルス幅130fs、EO結晶15上で10mm×0.5mmの楕円形状である。EO結晶15はZnTe結晶である。
【0053】
図5において、横軸は時間であり、縦軸はY軸方向の距離である。電場をモノトーンの濃淡にて示す。電子ビームBの電場は、矢印32で示す電子ビームBの中心から放射線状に出ている。図5においては、このような電場が、矢印32で示す電子ビームBの伝播方向(進行方向)の垂直面に、電場が相対論的効果で収縮している様子が示されている。矢印32で示す電子ビームBの中心より上の濃淡がマイナスの電場を示し、中心より上の画像がプラスの電場を示している。なお、矢印32で示す電子ビームの中心の白抜き部分は、電場がキャンセルされている部分である。
【0054】
(5.従来手法との比較)
図6は、EOサンプリング法を用いて電子ビームの電界プロファイルを画像化する従来の計測装置100の構成を示す概略図である。図7は、図6に示す従来の計測装置100を用いて電子ビームの周囲に生成されている電場を撮影した画像例である。
【0055】
図6に示すように、従来の計測装置100は、レーザ出射装置2、EO結晶15、偏光ビームスプリッタ101、および一対のフォトダイオード102,103を備えている。ここで、レーザ出射装置2およびEO結晶15は、本実施形態の計測装置1と同じである。
【0056】
従来の計測装置100においても計測装置1と同様に、電子ビームBはEO結晶15の側方を通過し、電子ビーム周りに生成される電場(電子ビームによる電場)にてEO結晶15が複屈折性を生じる。レーザ出射装置2から直線偏光のプローブレーザLは、複屈折性を生じたEO結晶15を通過して楕円偏光に変更され、偏光ビームスプリッタ101に入射する。偏光ビームスプリッタ101は、楕円偏光のプローブレーザLを、長軸側の縦方向の偏光成分と短軸側の横方向の偏光成分とに分離する。分離された偏光成分はそれぞれフォトダイオード102,103に入射し、フォトダイオード102,103にて偏光成分それぞれの強度を検出する。
【0057】
図7に示すように、従来の計測装置100を用いても、電子ビームの周囲に生成されている電場の時空間分布を取得することができる。矢印33は、電子ビームBの中心を示している。しかしながら、図7の画像を得るには、プローブレーザLがEO結晶15に到達する時間の遅延を作ることによって時間発展を得ている。また、プローブレーザLがEO結晶15を通過する位置を中心として、電子ビームの通過位置をY軸方向にずらしていくことによって空間分布を得ている。
【0058】
そのため、従来の計測装置100では、図7の画像を得るために、1時間程要する。これに対し、シングルショットで得られる計測装置1では、1m秒まで取得できる。したがって、低い繰り返しで、単発の現象を計測できる。また、時間分解能は、エシェロンミラー10の段の高さhで決まるため、従来の計測装置100に比べて、高い分解能を得ることができる。さらに、シングルショットであるため、ジッターおよびプローブレーザLの揺らぎの影響を受けることもない。シングルショット計測であるので、瞬時にデータを取得可能であり、ショット間のジッターの影響は無視することができ、さらに単発現象を取り扱うことが可能である。
【0059】
(6.変形例)
本実施形態の計測装置1では、プローブレーザLの光学系に第1および第2のシリンドリカルレンズ11,12を用いている。これにより、電子ビームBの進行方向に垂直な方向であるY軸に沿った方向の空間分布も取得可能となっている。つまり、電場の時空間分布を取得できる。
【0060】
しかしながら、プローブレーザLの光学系に第1および第2のシリンドリカルレンズ11,12を用いることは必須ではなく、集光レンズを用いてEO結晶15上の1点にプローブレーザLを集光させてもよい。その場合は、撮像素子14は、1ライン構成のCCDカメラ等であればよい。このような構成では、シングルショットで、荷電粒子の電場の時間分布を得ることができる。
【0061】
また、本実施形態の計測装置1では、電子ビームBはEO結晶15の側方、つまり外部を通過する。このような構成では、電子ビームBに非接触にてその電場を計測できるといった利点がある。しかしながら、このようなEO結晶15の外部を電子ビームBが通過する構成に限定されるものではなく、電子ビームBがEO結晶15の内部を通過する構成であってもよい。この場合、EO結晶15における電子ビームBが通過するのと同じ位置にプローブレーザLを照射する。このような構成では、電子ビームBの中心の電場についても画像化できる。
【0062】
また、本実施形態の計測装置1では、EO結晶15の入射面に直交するようにプローブレーザLを入射させているが、図8に示すように、EO結晶15の入射面に対して斜めに入射させてもよい。図8は、本実施形態の計測装置1の変形例の装置構成を示す概略図である。また、用いる電気光学素子によっては、光路に1/4λ板を挿入するなどして調整する必要もある。
【0063】
(7.荷電粒子の密度分布の導出)
計測装置1にて取得された荷電粒子から出る電場の時空間分布より、下記のガウスの法則の式(1)を用いて、荷電粒子の密度分布を導出することができる。
【0064】
∇・E(r)=ρ(r)/ε …(1)
荷電粒子から出る電場の時空間分布より、上記式(1)のE(r)を得ることができる。得たE(r)と式(1)とを用いることで、ρ(r)つまり、電荷密度を得ることができる。εは真空の誘電率である。
【0065】
例えば、式(2)のようなガウス分布の電荷密度の仮定の基では、電場の時空間分布は式(3)となる。
【0066】
ρ(x,y,z)=ρexp(-((x+y)/σ +z/σ )/2) …(2)
E(x)=(AQ)/(2πεxP(x))(exp(-x/σ )-1) …(3)
ここでσtは荷電粒子ビーム径、σはパルス幅である。また、ρは荷電粒子ビーム中心の電荷密度、Aは定数、Qは電荷量、P(x)はあるxにおいて測定されるパルス幅である。
【0067】
磁気光学素子を用いる場合は、式(4)により、得られた磁場の時空間分布から電場を算出し、さらに式(1)を満たすρ(r)を見積もることにより、荷電粒子の密度分布を得ることができる。
【0068】
E(x)=μH(x)/(εμv)=B(x)/(εμv) …(4)
ここでH(x)とB(x)は、それぞれ、あるxにおける磁界と磁束密度である。μは真空の透磁率、vは荷電粒子の速度である。
【0069】
計測装置1と、コンピュータ20(図1参照)とで、計測システムが構成される。コンピュータ20は、計測装置1にて取得された荷電粒子から出る電場の時空間分布に基づいて荷電粒子の密度分布を導出する。
【0070】
(8.応用例)
以上のように、計測装置1を用いることで、荷電粒子から生成される電場の時空間分布をシングルショットで精密に取得することができる。これにより、多種多様な応用が可能になる。現時点で利用可能と考え得る応用例を以下に記載する。
【0071】
1)重粒子線を用いた治療はメスを使わない癌治療として、通常治療が困難であった複雑な部位の治療を可能にし、さらに副作用の少ない安全な施術を可能にした。計測装置1を用いて重粒子線の軌道をリアルタイムで追うことで、より正確に重粒子線の照射位置を調整することが可能である。
【0072】
また、重粒子線を用いた治療においては、実施前に照射する粒子線量や照射位置を検討するためのシミュレーションが行われる。その際に照射するビームの電荷分布が、照射後の体内での散乱・反射などに影響すると考えられ、そのために装置ごとに電荷分布を校正する必要があると思われる。計測装置1を用いることで、装置ごとに電荷分布を校正することができる。
【0073】
そして、このような構成によれば、重粒子線を用いた癌治療をより発展させることができる。これにより、持続可能な開発目標(SDGs)の目標3「すべての人に健康と福祉を」の達成に貢献できる。
【0074】
2)ポジトロン消滅法において試料の欠陥部分のサイズを評価する際に、陽電子寿命測定法は重要である。計測装置1を用いて試料に入射する陽電子自体の性能評価を適用することで、より正確な欠陥評価を可能にする。
【0075】
3)半導体産業においては荷電粒子リソグラフィーによる微細加工は必要不可欠である。荷電粒子を照射することで生じる半導体のイオン化(衝突電離)によって生成される電場分布が、照射粒子と相互作用することによって加工精度の劣化を引き起こすという問題が報告されている。計測装置1を用いて半導体中の電場分布をリソグフィー中にリアルタイムで計測し、照射粒子にフィードバックをかけることで上述の問題を解決できると考えられる。半導体の衝突電離を調べるための電場モニターになり得る。
【0076】
電子ビームによる溶接・素材加工装置、集束イオンビーム(FIB)によるエッチング装置、イオンビームによる半導体への不純物注入装置などに用いられる荷電粒子ビームの校正に利用できる。
【0077】
4)宇宙線(宇宙から飛来する高エネルギー荷電粒子)の電子機器との衝突によって生じるエラーは、飛行機や全自動運転車の実用において注意するべき課題である。このような宇宙線の測定にも応用可能と考える。
【0078】
5)集束イオンビーム装置や電子顕微鏡装置等の顕微鏡装置においては、被測定試料の帯電(チャージアップ)が生じると半導体回路の短絡による破壊や顕微鏡像のブレ・ズレが発生するため、帯電対策が講じられている。計測装置1を用いて被測定試料の帯電を測定することが可能となり対策技術の開発に活用できると考えられる。
【0079】
<電子線の応用分野>
電子線応用を行っている業種としては、樹脂関係(電気コード、タイヤ、燃料電池、ボタン電池、消臭繊維)、半導体関係(サイリスタ、リソグラフィ)、医療・食品関係(滅菌、注射器、ペットボトル、食品)、フッ素樹脂の高性能化関係等がある。
【0080】
また、電子線の競合分野としてはγ線がある。γ線は、高い貫通力であるが低線量率で、近年のコスト上昇といった問題もある。これに対し、電子線は、貫通力は低いが、高線量率である。
【0081】
(9.応用具体例1)
図9は、計測装置1を応用した荷電粒子の反応ダイナミクス測定装置200の構成を示すブロック図である。図9に示すように、反応ダイナミクス測定装置200は、レーザ出射装置201、エシェロン光学系202、EO結晶203、時空間計測部204、ダイナミクス測定用光学系205、および過渡反応測定部206等を備えている。反応ダイナミクス測定装置200は、被測定試料に荷電粒子を照射して過渡反応の反応ダイナミクスを測定する。
【0082】
レーザ出射装置201は、計測装置1におけるレーザ出射装置2に対応する。レーザ出射装置201から出射されたパルスレーザは、荷電粒子の電場を計測するためのプローブレーザLと、ダイナミクス測定するための測定光とに分岐される。
【0083】
エシェロン光学系202は、プローブレーザLをEO結晶203に導き、その透過光を時空間計測部204へと入射させる。エシェロン光学系202は、計測装置1における第1偏光子3、エシェロンミラー10、第1シリンドリカルレンズ11の他、光学遅延装置等を含む。光学遅延装置は、プローブレーザLの照射のタイミングをとるための装置である。
【0084】
時空間計測部204は、計測装置1における第2偏光子4、第2シリンドリカルレンズ12、結像レンズ13、撮像素子14、およびコンピュータ(第1演算部)20を含む。時空間計測部204は、撮像素子14にて撮像された画像に基づいて、荷電粒子による電場を計測し、電場に基づいて荷電粒子の密度分布を導出する。
【0085】
ダイナミクス測定用光学系205は、測定光を被測定試料207に導き、その透過光を過渡反応測定部206へと入射させる。ダイナミクス測定用光学系205は、光学遅延装置、波長変換素子、偏光子等を含む。波長変換素子は、測定光の波長を被測定試料207に適した波長に変換する素子である。荷電粒子発生装置208から出射された荷電粒子(例えば電子ビーム)Bは、EO結晶203の側方を通過し、被測定試料207に入射する。被測定試料207は、照射試料、測定用試料である。
【0086】
過渡反応測定部206は、荷電粒子照射後の被測定試料207のフェムト秒(fs)~ピコ秒(ps)の反応ダイナミクス(過渡反応の反応ダイナミクス)を測定する。反応ダイナミクスは、例えば、反射率、吸光度、電気伝導度等である。反応ダイナミクスを測定することで、照射の良条件の探索に役立てることができる。反応ダイナミクスを測定することで、照射試料の調整、試料の材料・組成条件を最適化することができる。
【0087】
図10は、図9に示す反応ダイナミクス測定装置200による反応ダイナミクスの測定例を示す図である。横軸が時間、縦軸が反応ダイナミクスとしての反射率を示す。荷電粒子照射後の試料のフェムト秒(fs)~ピコ秒(ps)の反応ダイナミクスを測定することで、反射率が高くなる照射条件等を探索できる。なお、EO結晶303である電気光学素子に代えて磁気光学素子を用いてもよい。
【0088】
(10.応用具体例2)
図11は、計測装置1を応用した、顕微鏡装置において測定対象である被測定試料307の帯電を測定する帯電測定装置300の構成を示すブロック図である。図11に示すように、帯電測定装置300は、レーザ出射装置301、エシェロン光学系302、ハーフミラー305、EO結晶303、時空間計測部(測定部)304等を備えている。帯電測定装置300は、荷電粒子が照射される被測定試料307の帯電を測定する。
【0089】
レーザ出射装置301は、計測装置1におけるレーザ出射装置2に対応し、プローブレーザLを出射する。エシェロン光学系302は、プローブレーザLをEO結晶303に導く。エシェロン光学系302は、計測装置1における第1偏光子3、エシェロンミラー10、第1シリンドリカルレンズ11の他、光学遅延装置等を含む。ここではエシェロン光学系302は、プローブレーザLをEO結晶303上においてX軸方向に収束し、Y軸方向に長く、Z軸方向に時間遅延させる。
【0090】
EO結晶303は、被測定試料307の近辺もしくは被測定試料30に接して配置される。EO結晶303における被測定試料307と対向する面には誘電体反射膜306が施されている。これにより、EO結晶303に入射したプローブレーザLは誘電体反射膜306にて反射される。エシェロン光学系302とEO結晶303との間にはハーフミラー305が配設されており、プローブレーザLは、ハーフミラー305に反射されて時空間計測部304へ入射する。ハーフミラー305で反射させることで、正反射に近い条件で電場情報が転写されたプローブレーザLを時空間計測部304へ導くことができる。
【0091】
時空間計測部304は、計測装置1における第2偏光子4、第2シリンドリカルレンズ12、結像レンズ13、撮像素子14を含む。時空間計測部304は、撮像素子14にて撮像された画像に基づいて、荷電粒子による電場を計測する。
【0092】
荷電粒子発生装置308から出射された荷電粒子(例えば、集束イオンビーム装置のFIB、電子顕微鏡の電子ビーム)Bは、EO結晶303の側方を通過し、被測定試料307に入射する。
【0093】
図12は、図11に示す帯電測定装置300による時空間計測部304の測定例を示す図である。横軸が時間、縦軸が電場を示す。荷電粒子照射後の被測定試料307のフェムト秒(fs)~ピコ秒(ps)の電場を測定する。図12では、荷電粒子到達時刻の信号と、荷電粒子到達後の帯電由来の電場を測定している。測定位置により、荷電粒子由来と帯電由来の電場結果が異なることが予想される。
【0094】
なお、被測定試料307によっては、EO結晶303である電気光学素子に代えて磁気光学素子を用いてもよい。また、被測定試料307自体が電気光学応答性あるいは磁気光学応答性を有している場合は、被測定試料307にプローブレーザLを照射して直接計測することでも可能である。
【0095】
(11.応用具体例3)
図13は、計測装置1を応用した荷電粒子リソグラフィー装置400の構成を示すブロック図である。図13に示すように、荷電粒子リソグラフィー装置400は、レーザ出射装置401、エシェロン光学系402、ハーフミラー405、EO結晶403、時空間計測部404、荷電粒子発生装置408、フィードバック部(第2フィードバック部)409等を備えている。
【0096】
荷電粒子リソグラフィー装置400は、加工対象である半導体410中の電場分布をリソグフィー中にリアルタイムで計測し、荷電粒子発生装置408から出射される荷電粒子ビーム(照射粒子)Bにフィードバックをかける。荷電粒子発生装置408から出射された荷電粒子ビームBは、EO結晶403の側方を通過し、半導体410に入射する。半導体410の表面にはレジスト411が塗布されている。
【0097】
レーザ出射装置401は、計測装置1におけるレーザ出射装置2に対応し、プローブレーザLを出射する。エシェロン光学系402は、プローブレーザLをEO結晶403に導く。エシェロン光学系402は、計測装置1における第1偏光子3、エシェロンミラー10、第1シリンドリカルレンズ11の他、光学遅延装置等を含む。ここでは、エシェロン光学系402は、プローブレーザLをEO結晶403上においてX軸方向に収束し、Y軸方向に長く、Z軸方向に時間遅延させる。
【0098】
EO結晶403は、半導体410の近辺に設置される。EO結晶403における半導体410側を向く面には誘電体反射膜406が施されている。これにより、EO結晶403に入射したプローブレーザLは誘電体反射膜406にて反射される。エシェロン光学系402とEO結晶403との間にはハーフミラー405が配設されており、プローブレーザLは、ハーフミラー405に反射されて時空間計測部404へ入射する。ハーフミラー405で反射させることで、正反射に近い条件で電場情報が転写されたプローブレーザLを時空間計測部404へ導くことができる。
【0099】
時空間計測部404は、計測装置1における第2偏光子4、第2シリンドリカルレンズ12、結像レンズ13、撮像素子14を含む。時空間計測部404は、撮像素子14にて撮像された画像に基づいて、荷電粒子による電場を計測する。
【0100】
レーザ出射装置401、エシェロン光学系402、ハーフミラー405、EO結晶403、時空間計測部404にて、荷電粒子が照射される加工対象の電場を測定する電場測定装置が構成されている。
【0101】
荷電粒子による電場の情報はフィードバック部409に送られる。フィードバック部409は、荷電粒子による電場に基づいて、荷電粒子発生装置408をフィードバック制御する。なお、EO結晶403である電気光学素子に代えて磁気光学素子を用いてもよい。
【0102】
(12.応用具体例4)
図14は、計測装置1を応用した荷電粒子モニター装置500の構成を示すブロック図である。図14に示すように、荷電粒子モニター装置500は、レーザ出射装置501、エシェロン光学系502、EO結晶503、時空間計測部504、フィードバック部(第1フィードバック部)509等を備えている。荷電粒子モニター装置500は、荷電粒子発生装置508から出射される荷電粒子ビームBをモニタリングして荷電粒子発生装置508をフィードバック制御する。
【0103】
レーザ出射装置501は、計測装置1におけるレーザ出射装置2に対応し、プローブレーザLを出射する。エシェロン光学系502は、プローブレーザLをEO結晶503に導き、その透過光を時空間計測部504へと入射させる。エシェロン光学系502は、計測装置1における第1偏光子3、エシェロンミラー10、第1シリンドリカルレンズ11の他、光学遅延装置等を含む。EO結晶503は、荷電粒子発生装置508から出射される荷電粒子ビームBが側方を通過するように配置される。
【0104】
時空間計測部504は、計測装置1における第2偏光子4、第2シリンドリカルレンズ12、結像レンズ13、撮像素子14、およびコンピュータ(第1演算部)20を含む。時空間計測部504は、撮像素子14にて撮像された画像に基づいて、荷電粒子による電場を計測し、電場に基づいて荷電粒子の密度分布を導出する。導出された荷電粒子の密度分布は、フィードバック部に509に送られる。フィードバック部509は、荷電粒子の密度分布に基づいて、荷電粒子発生装置508をフィードバック制御する。なお、EO結晶503である電気光学素子に代えて磁気光学素子を用いてもよい。
【0105】
〔ソフトウェアによる実現例〕
荷電粒子リソグラフィー装置400および荷電粒子モニター装置500(以下、「装置」と呼ぶ)の機能は、当該装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、当該装置の各制御ブロック(特にフィードバック部409,509)としてコンピュータを機能させるためのプログラムにより実現することができる。
【0106】
この場合、上記装置は、上記プログラムを実行するためのハードウェアとして、少なくとも1つの制御装置(例えばプロセッサ)と少なくとも1つの記憶装置(例えばメモリ)を有するコンピュータを備えている。この制御装置と記憶装置により上記プログラムを実行することにより、上記各実施形態で説明した各機能が実現される。
【0107】
上記プログラムは、一時的ではなく、コンピュータ読み取り可能な、1または複数の記録媒体に記録されていてもよい。この記録媒体は、上記装置が備えていてもよいし、備えていなくてもよい。後者の場合、上記プログラムは、有線または無線の任意の伝送媒体を介して上記装置に供給されてもよい。
【0108】
また、上記各制御ブロックの機能の一部または全部は、論理回路により実現することも可能である。例えば、上記各制御ブロックとして機能する論理回路が形成された集積回路も本発明の範疇に含まれる。この他にも、例えば量子コンピュータにより上記各制御ブロックの機能を実現することも可能である。
【0109】
また、上記各実施形態で説明した各処理は、AI(Artificial Intelligence:人工知能)に実行させてもよい。この場合、AIは上記制御装置で動作するものであってもよいし、他の装置(例えばエッジコンピュータまたはクラウドサーバ等)で動作するものであってもよい。
【0110】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0111】
1、100 計測装置
2、201、301、401、501 レーザ出射装置
3 第1偏光子
4 第2偏光子
5~9 ミラー
10 エシェロンミラー
11 第1シリンドリカルレンズ
12 第2シリンドリカルレンズ
14 撮像素子
15、203、303、403、503 EO結晶(電気光学素子)
20 コンピュータ(第1演算部)
30 電子ビーム出射装置(荷電粒子発生装置)
200 反応ダイナミクス測定装置
202、302、402、502 エシェロン光学系
204、304、404、504 時空間計測部
205 ダイナミクス測定用光学系
206 過渡反応測定部
207 被測定試料
208、308、408、508 荷電粒子発生装置
300 帯電測定装置
305、405 ハーフミラー
306、406 誘電体反射膜
307 被測定試料(測定対象)
400 荷電粒子リソグラフィー装置
409 フィードバック部
509 フィードバック部
410 半導体(加工対象)

図1
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